説明

樹脂塗装金属板

【課題】 優れた耐食性を有し、さらなる他の優れた特性、具体的には優れた耐アブレージョン性、塗膜との密着性、導電性および耐アルカリ脱脂性を有する樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板を提供すること。
【解決手段】 カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とを含有する樹脂組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板であって、前記樹脂組成物は、EDTA、DTPA、HEDP、EDTMP、NTAおよびHEDTA、並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を、樹脂組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.1〜5質量部含有する樹脂塗装金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂塗装金属板、より詳細には耐食性、並びに耐アブレージョン性、他の塗膜との密着性、導電性および耐アルカリ脱脂性に優れたクロムフリーの樹脂塗装金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品、建材に用いられる材料として、電気亜鉛めっき鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板、またはより一層の耐食性の向上を目的として該亜鉛めっき鋼板上にクロメート処理を施した無機系表面処理鋼板が多く用いられている。しかしながら近年の環境意識への高まりから、クロメート処理を施さない鋼板の需要が増大している。
【0003】
このようなクロメート処理に代わる耐食性向上の手段として、例えばタンニン酸を用いる方法が提案されている(例えば特許文献1および2)。しかしながらこれらの方法では、充分な耐食性を得ることができなかった。
【0004】
そこで高分子量キレート剤を主成分とする皮膜を備えた表面処理鋼板が提案されている(特許文献3および4)。これらの文献では、皮膜の主成分として高分子量キレート剤を用いることが提案されており、これらと比較するために、低分子量キレート剤、例えばタンニン酸やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が、不充分な耐食性しか示さない比較例として挙げられている。
【0005】
しかしながら特許文献3および4に記載されている皮膜の特性は、主成分である高分子量キレート剤の種類に依存するため、該皮膜に耐食性以外のさらなる特性を付与することが難しい。さらに特許文献4では、高分子量キレート剤を製造するために有機高分子マトリックスにキレート形成基を付与することが提案されているが、このようなキレート形成基を付与するための高分子反応は一般に手間がかかり、その結果として表面処理鋼板の製造コストが高くなる。
【特許文献1】特開昭51−71233号公報
【特許文献2】特開2001−89868号公報
【特許文献3】特開平11−158649号公報
【特許文献4】特開平11−166151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の課題は、優れた耐食性を有し、さらなる他の優れた特性、具体的には優れた耐アブレージョン性、塗膜との密着性、導電性および耐アルカリ脱脂性を有する樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決することができた本発明の樹脂塗装金属板とは、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とを含有する樹脂組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板であって、前記樹脂組成物は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、N,N,N’,N’−テトラキス(ホスホノメチル)エチレンジアミン(EDTMP)、ニトリロ三酢酸(NTA)およびヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(HEDTA)、並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を、樹脂組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.1〜5質量部含有することを特徴とする。
【0008】
前記キレート剤の中で好ましいものは、(1)Naイオンを含む塩形態、(2)Naイオンを含み、かつMg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む塩形態、(3)アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含む塩形態、あるいは(4)アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含み、かつNa、Mg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む塩形態のEDTA、DTPA、HEDP、EDTMP、NTAまたはHEDTAである。
【0009】
本発明の好ましい実施態様において、前記樹脂組成物は、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とを不揮発性樹脂成分として5〜45質量部、及び、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子55〜95質量部を合計で100質量部になるように含有し、前記合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有するとともに、前記ポリウレタン樹脂水性液の不揮発性樹脂成分(PU)と前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)との配合比率が質量比でPU:EC=9:1〜2:1であるものである。
【0010】
前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂としては、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長反応して得られるものであって、前記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分として、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびジシクロヘキシルメタンジイソシアネートよりなる群から選択される少なくとも1種を使用し、前記ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分として、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルポリオール、およびカルボキシル基を有するポリオールの全てを使用するものが好ましい。また、前記鎖延長剤は、例えばエチレンジアミンまたはヒドラジンが好適である。前記1,4−シクロヘキサンジメタノールと前記ポリエーテルポリオールの質量比は、1,4−シクロヘキサンジメタノール:ポリエーテルポリオール=1:1〜1:19であることが好ましい。前記ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリオキシプロピレングリコールまたはポリテトラメチレンエーテルグリコールが好適である。前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の酸価は、好ましくは10〜60mgKOH/gである。
【0011】
本発明で使用するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液としては、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の他に、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が有するカルボキシル基1モルに対して0.2〜0.8モルに相当する沸点100℃以下のアミンと、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が有するカルボキシル基1モルに対して0.02〜0.4モルに相当する第1族元素の塩基性化合物とを含むものが好適である。前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、該共重合体のモノマー全量を100質量%とした時に、不飽和カルボン酸成分が10〜40質量%共重合されているものが好ましい。前記沸点が100℃以下のアミンとしては、例えばトリエチルアミンが好適である。
【0012】
前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、さらに、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)を100質量部としたときに、カルボキシル基と反応し得る官能基を2個以上有する架橋剤を1〜20質量部の比率で含有することも本発明の好ましい態様である。さらに、前記エチレン−不飽和カルボン酸共
重合体水性分散液は、沸点100℃超のアミンおよびアンモニアを実質的に含まないものであることが好ましい。
【0013】
本発明で使用するシランカップリング剤としては、例えば下記化学式(1)で表わされるシランカップリング剤が好適である。
【0014】
【化1】

(化学式(1)中、R1:グリシドキシ基、R2、R3:低級アルコキシ基、R4:低級アルコキシ基または低級アルキル基、X:低級アルキレン基)
【0015】
本発明の樹脂塗装金属板の樹脂皮膜の付着量は、0.05〜1g/m2であることが好
ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐食性に優れた樹脂塗装金属板が得られる。殊に、EDTAやその塩のような低分子量キレート剤を少量(組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.1〜5質量部)含有する樹脂組成物から形成される皮膜を備えた樹脂塗装金属板が、優れた耐食性を示すことは驚くべきことである。なぜなら、従来このような低分子量キレート剤は、耐食性を向上させる効果が不充分であると考えられていたからである。
【0017】
また耐食性付与のために好ましいと考えられていた高分子量キレート剤を、有機樹脂などを含む樹脂組成物と混合すると、ゲル化などの不具合を生じ得るが、本発明で用いられるEDTAやその塩などの低分子量キレート剤は、その他の樹脂組成物成分との相溶性が良好でゲル化を生ずることがなく、樹脂塗装金属板に良好な耐食性を付与することができる。
【0018】
さらに本発明によれば、樹脂組成物中において、EDTAやその塩のようなキレート剤以外の成分およびその組成を、前記の好ましい実施態様のものに調整することにより、樹脂塗装金属板の皮膜にさらなる好ましい特性、即ち他の塗膜との密着性、耐アブレージョン性、導電性および耐アルカリ脱脂性を与えることができる。また好ましい態様の樹脂組成物を用いることで、キレート剤によって実現された耐食性を、さらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の樹脂塗装金属板は、金属板の少なくとも片面に、EDTA、DTPA、HEDP、EDTMP、NTAおよびHEDTA、並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を、樹脂組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.1〜5質量部含有する樹脂組成物から形成された皮膜を備えたものである。本発明において固形分とは、樹脂組成物を加熱乾燥することにより揮発成分(例えば水または有機溶剤など)が蒸発した後に皮膜として金属板上にとどまる固形残分をいう。よって固形分の中には、樹脂(室温で固形状または液状のものを含む。)や無機固形物(例えばシリカ)などが含まれる。
【0020】
本発明において用いられる低分子量キレート剤は、EDTA、DTPA、HEDP、EDTMP、NTAおよびHEDTA、並びにそれらの塩であり、これらの中でも塩形態のキレート剤を用いることが、水性液を含有する樹脂組成物への溶解性の観点から好ましい。本発明における塩形態のキレート剤とは、キレート剤中に含まれる複数の酸官能基の一部または全部が中和されたものをいう。従って、例えばEDTA塩は、4つのカルボキシル基中の1つだけがNaOHなどの塩基により中和されたもの(例えば一ナトリウム塩:EDTA・Na)から、全てのカルボキシル基がNaOHなどの塩基により中和されたもの(例えば四ナトリウム塩:EDTA・4Na)を包含する。さらに塩形態のキレート剤には、その複数の酸官能基の一部がNaOHなどにより中和され、他の酸官能基がアミンにより中和されたNa・アミン塩(例えばキレスト(株)製のキレストM−50:EDTA・2Na・アミン塩)などが含まれる。
【0021】
塩形態のキレート剤の中で好ましいものとしては、(1)Naイオンを含むもの(Na塩)、(2)Naイオンを含み、かつMg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含むもの(Na・他の金属の複合塩)、(3)アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含むもの(アミンまたはアンモニウム塩)、あるいは(4)アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含み、かつNa、Mg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含むもの(アミンまたはアンモニウム・金属の複合塩)が挙げられる。
【0022】
キレート剤は、例えばキレスト株式会社から市販されており、そのキレスト株式会社製のEDTA系のキレート剤として、キレストMg−40、キレストM−50、キレストODなど;DTPA系としてキレストP、キレストPS、キレストPC−45など;HEDP系としてキレストPH−212、キレストPH−214など;EDTMP系としてキレストHP−540など;NTAとしてキレスト70、キレストNTAなど;HEDTAとしてキレストHなどを例示することができる。
【0023】
ここで、EDTAやその塩のような低分子量キレート剤が耐食性の向上に寄与するメカニズムは必ずしも明確ではないが、例えば亜鉛系めっき鋼板の場合、これら低分子量キレート剤と、腐食環境下で溶出するZnイオンなどの金属イオンとが安定なキレート化合物を形成し、この安定なキレート化合物が腐食部分を覆うことなどにより、さらなる腐食を防ぐのではないかと考えられる。
【0024】
本発明の樹脂組成物中のEDTAやその塩等の低分子量キレート剤の含有量は、樹脂組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.1〜5質量部である。低分子量キレート剤の含有量が0.1質量部未満であると、安定なキレート化合物の生成が不充分であり、耐食性も不充分となる。一方、低分子量のキレート剤が5質量部を超えても耐食性は低下傾向となる。多量の低分子量キレート剤を配合することで耐食性が低下し得る理由は明らかではないが、キレート剤と、樹脂組成物中に含まれ得る有機樹脂、架橋剤またはシランカップリング剤などが反応することにより、皮膜の造膜性に影響を及ぼすことなどが考えられる。該皮膜の造膜性や他の塗膜との密着性の観点から、より好ましいキレート剤含有量の上限は、樹脂組成物の固形分100質量部中に占める比率で3質量部であり、さらに好ましい上限は1質量部であり、より好ましいキレート剤含有量の下限は0.3質量部である。
【0025】
本発明で使用することができるカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液として、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が水性媒体中に分散した水性分散液、または前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が水性媒体に溶解した水溶液のいずれも使用することができる。前記水性媒体には、水の他、アルコール、N−メチルピロリドン、アセトンなどの親水性の溶媒が微量含まれていても良い。
【0026】
前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長反応して得られるものであることが好ましく、前記ウレタンプレポリマーは、例えば後述するポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応させて得られる。前記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分として、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)よりなる群から選択される少なくとも1種のポリイソシアネートを使用することが好ましい。かかるポリイソシアネートを使用することにより、耐食性、反応制御の安定性に優れる樹脂皮膜が得られるからである。前記ポリイソシアネートの他にも、耐食性や反応制御の安定性を低下させない範囲で他のポリイソシアネートを使用することができるが、前記ポリイソシアネート成分の含有量は、全ポリイソシアネート成分の70質量%以上としておくことが望ましい。前記ポリイソシアネート成分の含有量が70質量%未満であると、耐食性や反応制御の安定性が低下する傾向があるからである。前記ポリイソシアネート成分以外のポリイソシアネートとして、例えばテトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカンメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネートなどを挙げることができる。前記ポリイソシアネートは、単独または少なくとも2種以上を混合して使用することができる。
【0027】
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分として、好ましくは1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルポリオール、およびカルボキシル基を有するポリオールの3種類全てのポリオールを使用する。より好ましい実施態様では、ポリオールの3種類全てがジオールである。かかるポリオール成分を使用することにより、耐食性や摺動性に優れる樹脂皮膜が得られるからである。またポリオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノールを使用することにより、得られるポリウレタン樹脂の防錆効果を高めることができる。
【0028】
前記ポリエーテルポリオールは、分子鎖にヒドロキシル基を少なくとも2以上有し、主骨格がアルキレンオキサイド単位によって構成されているものであれば特に限定されるものではなく、例えばポリオキシエチレングリコール(単に「ポリエチレングリコール」と呼ばれることがある)、ポリオキシプロピレングリコール(単に「ポリプロピレングリコール」と呼ばれることがある)、ポリオキシテトラメチレングリコール(単に「ポリテトラメチレングリコール」または「ポリテトラメチレンエーテルグリコール」と呼ばれることがある)などを挙げることができ、市販されているものを使用することができる。前記ポリエーテルポリオールの中でも、ポリオキシプロピレングリコールまたはポリテトラメチレンエーテルグリコールを使用することが好ましい。前記ポリエーテルポリオールの官能基数は、少なくとも2以上であれば特に限定されず、例えば3官能、4官能またはそれ以上の多官能であってもよい。
【0029】
前記ポリエーテルポリオールは、例えば活性水素を有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加させることにより得られる。前記活性水素を有する化合物として、例えばプロピレングリコール、エチレングリコールなどのジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、トリエタノールアミンなどのトリオール、ジグリセリン、ペンタエリスリトールなどのテトラオール、その他、ソルビトール、ショ糖、リン酸などを挙げることができる。この際、使用する開始剤としてジオールを使用すれば、2官能のポリエーテルポリオールが得られ、トリオールを使用すれば3官能のポリエーテルポリオールが得られる。またポリオキシテトラメチレングリコールは、例えばテトラヒドロフランの開環重合により得られる。
【0030】
前記ポリエーテルポリオールは、例えば平均分子量が約400〜4000程度までの市販のものを使用することが好ましい。平均分子量が約400未満だと樹脂皮膜が硬く、4000を超えると柔らかくなりすぎるからである。なお平均分子量は、OH価(水酸基価)を測定することにより求めることができる。
【0031】
本発明において、前記1,4−シクロヘキサンジメタノールとポリエーテルポリオールとの質量比を、1,4−シクロヘキサンジメタノール:ポリエーテルポリオール=1:1〜1:19とすることも好ましい態様である。防錆効果を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを一定比率使用することによって、得られるポリウレタン樹脂皮膜の防錆効果を一層高めることができるからである。
【0032】
本発明で使用することができるカルボキシル基を有するポリオールは、少なくとも1以上のカルボキシル基と少なくとも2以上のヒドロキシル基を有するものであれば、特に限定されず、例えばジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジヒドロキシプロピオン酸、ジヒドロキシコハク酸などが挙げられる。
【0033】
前記3種類のポリオール成分の他にも、耐食性を低下させない範囲で他のポリオールを使用することができる。この点、前記3種類のポリオール成分の含有量は、全ポリオール成分の70質量%以上であることが望ましい。前記3種類のポリオール成分の含有量が70質量%未満であると、耐食性が低下する傾向があるからである。上述した3種類のポリオール成分以外のポリオールは、水酸基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば低分子量のポリオールや高分子量のポリオールなどを挙げることができる。ここで低分子量のポリオールとは、平均分子量が500程度以下のポリオールであり、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールなどのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。
【0034】
高分子量のポリオールは、平均分子量が500程度を超えるポリオールであり、例えばポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などの縮合系ポリエステルポリオール;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール;およびアクリルポリオールなどが挙げられる。
【0035】
また、上述したウレタンプレポリマーを鎖延長反応する鎖延長剤は、特に限定されないが、例えばポリアミン、低分子量のポリオール、アルカノールアミンなどを挙げることができる。前記低分子量のポリオールとして、上述したものと同じものを使用することができ、前記ポリアミンとして、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン;トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミン;ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどの脂環式ポリアミン;ヒドラジン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジドなどのヒドラジン類などを挙げることができる。これらの中でも、エチレンジアミンおよび/またはヒドラジンを鎖延長剤成分として使用することが好ましい。また、前記アルカノールアミンとして、例えばジエタノールアミン、モノエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0036】
本発明で使用することができるカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液の調製について、既知の方法を採用することができ、例えばカルボキシル基含有ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を塩基で中和して、水性媒体中に乳化分散して鎖延長反応させる方法、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を乳化剤の存在下で、高剪断力で乳化分散して鎖延長反応させる方法などがある。以下、カルボキシル基含有ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を塩基で中和して水中に乳化分散させる方法に基づいて、ポリウレタン樹脂水性液の調製方法を説明するが、本発明は、かかる方法に限定されるものではない。
【0037】
まず、上述したポリイソシアネートと上述したポリオールとを使用して、NCO/OH比でイソシアネート基が過剰になるようにして比較的低分子量のカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを調製する。ウレタンプレポリマーを合成する温度は、特に限定されないが、50〜200℃の温度で合成することができる。またウレタンプレポリマーの合成には、既知の触媒を使用することができる。前記触媒としては、例えばトリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンなどのモノアミン類;N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミンなどのポリアミン類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミンなどの環状ジアミン類;ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒などが挙げられる。
【0038】
ウレタンプレポリマーの合成に際して、ワンショット法を採用してもよく、またプレポリマー法を採用してもよい。ワンショト法とは、ポリイソシアネートとポリオールとを一括に反応させる方法であり、プレポリマー法とは、多段階でポリイソシアネートとポリオールとを反応させる方法であり、例えば、まず低分子量から中分子量のウレタンプレポリマーを合成した後、さらにこれを高分子量化する方法である。
【0039】
本発明では、例えばポリイソシアネートと前記3種類のポリオールの全てとを一括に反応させる態様;ポリイソシアネートと、前記3種類のポリオール成分の中でまずポリエーテルポリオールとを反応させた後、次いで1,4−シクロヘキサンジメタノール、およびカルボキシル基を有するポリオールとさらに反応させる態様;または必須成分のポリオール成分の中でまずポリエーテルポリオールと1,4−シクロヘキサンジメタノールとを反応させた後、次いでカルボキシル基を有するポリオールと反応させる態様;などを適宜選択して、ウレタンプレポリマーを合成することができる。
【0040】
カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの調製に際して、粘度の調整および、該プレポリマーの乳化分散性を向上させる観点から溶剤を使用することも好ましい態様である。前記溶剤として、イソシアネート基に対して不活性な溶剤で、比較的親水性の高い溶剤を使用することが好ましく、例えばN−メチルピロリドン、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミドなどを使用することができ、好ましくはN−メチルピロリドンを使用する。N−メチルピロリドンは、カルボキシル基を有するポリオールに対する溶解性が高く、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを調製する反応を均一にできるからである。なおウレタンプレポリマーの反応は、例えばジブチルアミン滴定法によりイソシアネート基濃度を求めて、反応率を求めることができる。
【0041】
ウレタンプレポリマー反応終了後、得られたカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、塩基で中和することによって、水中に乳化分散できる。前記中和剤は、特に限定されるものではないが、アンモニア;トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどの3級アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物を使用することができ、好ましくはトリエチルアミンを使用する。
【0042】
カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを乳化分散した後、水中でポリミアンなどの鎖延長剤を使用して鎖延長反応を行うことができる。なお鎖延長反応は、使用する鎖長延長剤の反応性に応じて、乳化分散前、乳化分散と同時、または乳化分散後に適宜行うことができる。
【0043】
本発明で使用することができるカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上、60mgKOH/g以下であることが望ましい。酸価が10mgKOH/g未満であると、ポリウレタン樹脂水性分散液の安定性が低下するからである。また酸価が60mgKOH/gを超えると、得られる樹脂皮膜の耐食性が低下する傾向がある。前記酸価の測定は、JIS−K0070に準ずる。
【0044】
本発明において使用するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が水性媒体中に分散されている液であれば、特に限定されない。前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体である。不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられ、これらのうちの1種以上とエチレンとを既知の高温高圧重合法などで重合することにより、共重合体を得ることができる。共重合体としてはランダム共重合体が最も好ましいが、ブロック共重合体や、不飽和カルボン酸部分がグラフトしたような共重合体でも良い。なお不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸が好適である。またエチレンの一部に変えてプロピレンまたは1−ブテンなどのオレフィン系モノマーを用いてもよく、さらに本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他の既知のビニル系モノマーを一部共重合(10質量%程度以下)することができる。
【0045】
前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、該共重合体のモノマー全量を100質量%としたときに、不飽和カルボン酸成分が10〜40質量%共重合されているものであることが好ましい。不飽和カルボン酸が10質量%よりも少ないと、イオンクラスターによる分子間会合の基点、あるいは架橋剤との架橋点となるカルボキシル基が少ないため、皮膜強化効果が発揮されず、脱脂工程後の耐食性が向上しないことがあるうえに、水性分散液の乳化安定性が低下するため好ましくない。より好ましい不飽和カルボン酸の下限は15質量%である。一方、不飽和カルボン酸が40質量%を超えると、樹脂皮膜の耐食性や耐水性が低下し、またアルカリ脱脂工程後の耐食性が低下するため好ましくない。より好ましい上限は25質量%である。
【0046】
本発明で使用することができるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体はカルボキシル基を有しており、かかるカルボキシル基を有機塩基や金属イオンで中和することにより、水性分散液とすることができる。
【0047】
前記有機塩基として沸点100℃以下のアミンを用いることが好ましい。沸点が100℃を超えるアミン類は、樹脂組成物を乾燥させたときに金属板上の樹脂皮膜に残存しやすく、樹脂皮膜の吸水性が増すため、耐食性の低下をまねく。よって本発明で使用することができるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液には、沸点が100℃を超えるアミン類は含まれないことが好ましい。またアンモニアの添加効果も認められなかったため、アンモニアも含まれないことが好ましい。前記沸点は、大気圧下での沸点を採用する。
【0048】
前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が有するカルボキシル基1モルに対して0.2〜0.8モル(20〜80モル%)に相当する沸点100℃以下のアミンと、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が有するカルボキシル基1モルに対して0.02〜0.4モル(2〜40モル%)に相当する第1族元素の塩基性化合物とを含むことが好ましい。
【0049】
前記沸点100℃以下のアミンの具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチルアリルアミン、N−メチルピロリジン、テトラメチルジアミノメタン、トリメチルアミンなどの3級アミン;N−メチルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエチルアミンなどの2級アミン;プロピルアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、イソブチルアミン、1,2−ジブチルプロピルアミン、3−ペンチルアミンなどの1級アミンなどが挙げられ、1種または2種以上を混合して使用することができる。これらの中でも3級アミンが好ましく、最も好ましいものはトリエチルアミンである。
【0050】
前記沸点100℃以下のアミンの量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し、0.2〜0.8モル(20〜80モル%)の範囲とすることが好ましい。この範囲では、耐食性がより良好だからである。沸点100℃以下のアミンが0.2モルより少ないと、水性分散液の樹脂粒子の粒径が大きくなり、耐食性などを向上させる効果が低下するものと考えられる。また、0.8モルを超えて沸点100℃以下のアミンを用いると、水性分散液が増粘してゲル化することがあるため、好ましくない。より好ましい前記アミンの量の上限は0.6モル、さらに好ましくは0.5モルであり、より好ましい前記アミン量の下限は0.3モルである。
【0051】
本発明では、前記沸点が100℃以下のアミンに加えて、第1族元素の塩基性化合物を中和のために用いることが好ましい。耐溶剤性や皮膜硬度の向上に効果的である。第1族元素の塩基性化合物として、ナトリウム、カリウム、リチウムから選ばれる1種または2種以上の金属を含むことが好ましく、これらの金属の水酸化物、炭酸塩または酸化物が好ましい。これらの中でもNaOH、KOH、LiOHなどが好ましく、NaOHが最も性能が良く好ましい。
【0052】
この第1族元素の塩基性化合物量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対して、0.02〜0.4モル(2〜40モル%)の範囲とすることが好ましい。前記第1族元素の塩基性化合物量が0.02モルより少ないと乳化安定性が不充分となるが、0.4モルを超えると、得られる樹脂皮膜の吸湿性(特にアルカリ性溶液に対する吸湿性)が増大し、脱脂工程後の耐食性が低下する傾向があるため好ましくない。より好ましい第1族元素の塩基性化合物量の下限は0.03モル、さらに好ましい下限は0.1モルであり、より好ましい第1族元素の塩基性化合物量の上限は0.3モル、さらに好ましい上限は0.2モルである。
【0053】
前記沸点100℃以下のアミンや前記第1族元素の塩基性化合物のそれぞれの使用量の好ましい範囲は前記したとおりであるが、これらはいずれもエチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基を中和して水性化するために用いられる。これらの合計量(中和量)が多すぎると、水性分散液の粘度が急激に上昇して固化することがあり、また耐食性低下の原因となり得る過剰なアルカリ分を揮発させるために多大なエネルギーが必要となるので、好ましくない。しかし中和量が少なすぎると乳化性に劣るため、やはり好ましくない。従って、沸点100℃以下のアミンおよび前記第1族元素の塩基性化合物の合計使用量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し、0.3〜1.0モルの範囲とすることが好ましい。
【0054】
本発明で使用することができるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、沸点100℃以下のアミンと第1族元素の塩基性化合物とを併用して乳化することにより、平均粒子径が5〜50nmという極めて小さな微粒子(油滴)状態で水性媒体中に分散したものが得られる。このため、得られる樹脂皮膜の造膜性、金属板への密着性、皮膜の緻密化が達成され、耐食性もさらに向上するものと推定される。前記水性媒体には、水の他に、アルコールやエーテルなどの親水性溶媒が含まれていても良い。なお、前記水性分散液の樹脂粒子の粒子径は、例えば光散乱光度計(大塚電子社製等)を用いたレーザー回折法によって測定することができる。
【0055】
沸点100℃以下のアミンおよび第1族元素の塩基性化合物によるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体の中和工程(水性化工程)では、沸点100℃以下のアミンと第1族元素の塩基性化合物とを略同時に共重合体へと添加するか、沸点100℃以下のアミンを先に添加することが望ましい。理由は定かではないが、沸点100℃以下のアミンを後添加すると、耐食性の向上効果が不充分となることがあるためである。
【0056】
本発明で使用することができるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の調製方法としては、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体を水性媒体と共に、例えばホモジナイザー装置等に投入し、必要により70〜250℃に加熱し、沸点100℃以下のアミンと第1族元素の塩基性化合物とを適宜水溶液等の形態で添加して(沸点100℃以下のアミンを先に添加するか、沸点100℃以下のアミンと第1族元素の塩基性化合物とを略同時に添加する)、高剪断力で撹拌することなどが挙げられる。
【0057】
本発明で使用することができる樹脂組成物は、上述したカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とを不揮発性樹脂成分として5〜45質量部、及び、シリカ粒子55〜95質量部を合計100質量部含有し、前記合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有する。本発明では、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体とを併用することによって、耐食性に加えて、塗膜密着性、耐アブレージョン性および耐アルカリ脱脂性に優れる樹脂塗装金属板が得られる。また、前記不揮発性樹脂成分量が少なくなりすぎると、耐食性、耐アルカリ脱脂性、および塗膜密着性が低下する傾向がある。一方、前記不揮発性樹脂成分の量が多くなりすぎると、耐アブレージョン性、導電性が低下する傾向がある。このような観点から前記樹脂組成物は、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とを不揮発性樹脂成分として、20質量部以上、より好ましくは25質量部以上であって、40質量部以下、より好ましくは35質量部以下含有することが望ましい。ここで前記ポリウレタン水性液の不揮発性樹脂成分は、上述したカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂であり、前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分は、上述したエチレン−不飽和カルボン酸共重合体である。前記不揮発性樹脂成分は、水溶液または水性分散液の技術分野において既知の方法により測定することができ、例えば水溶液または水性分散液を100℃〜130℃で1〜3時間加熱乾燥したときの蒸発残分である。
【0058】
また前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PU)とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)との配合比率は、質量比でPU:EC=9:1〜2:1であり、好ましくは6.5:1〜3.3:1、さらに好ましくは5:1である。ポリウレタン樹脂水性液の不揮発性成分(PU)とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性成分(EC)との配合比率として、PUの割合が9:1より大きくなると、耐食性、耐アルカリ性が低下する傾向がある。一方、PUの割合が2:1よりも小さくなると、耐アブレージョン性が低下する。
【0059】
本発明で使用することができる樹脂組成物には、上述したカルボキシル基含有ポリウレタン水性液とエチレン性−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液との不揮発性樹脂成分5〜45質量部に対して、55質量部以上、好ましくは60質量部以上であって、95質量部以下、好ましくは80質量部以下、より好ましくは75質量部以下のシリカ粒子を含有する(ただし、不揮発性樹脂成分との合計量を100質量部とする)。
【0060】
前記シリカ粒子は、得られる樹脂皮膜に導電性、塗膜密着性を付与するとともに、皮膜の硬度を高くして耐アブレージョン性を向上させ、加えて耐食性も向上させる。シリカ粒子の含有量が55質量部より少なくなると導電性や耐アブレージョン性が低下する傾向がある。またシリカの含有量が95質量部を超えると、樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性が低下する傾向がある。また、前記シリカ粒子の効果を最大限に発揮させるためには、シリカ粒子の平均粒子径が4〜20nmの範囲にあることが好ましい。シリカ粒子の平均粒子径が小さくなるほど、樹脂皮膜の耐食性が向上するが、平均粒子径が4nm程度未満になると耐食性の向上効果が飽和する傾向があり、また樹脂組成物の安定性が低下してゲル化しやすくなることがある。一方、シリカ粒子の平均粒子径が20nmを超えると、樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性、塗膜密着性、耐アルカリ脱脂性が低下するおそれがある。
【0061】
前記シリカ粒子の平均粒子径の測定方法として、シアーズ法(4〜6nm)またはBET法(4〜20nm)を採用することが好ましい。また、鎖状シリカの場合は動的光散乱法を採用することが好ましい。このようなシリカ粒子は、通常、コロイダルシリカとして知られており、本発明において、例えば「スノーテックス」シリーズ(日産化学工業社製のコロイダルシリカ)の「XS」、「SS」、「40」、「N」、「UP」などを好適に用いることができる。
【0062】
本発明の好ましい実施態様において使用することができる樹脂組成物は、シランカップリング剤を含有する。シランカップリング剤は、耐アブレージョン性、塗膜密着性、耐食性などを向上するとともに、金属板と金属板上に形成される樹脂皮膜との密着性を向上するために使用されるものである。
【0063】
樹脂組成物中におけるシランカップリング剤の含有量は、上述したカルボキシル基含有ポリウレタン水性液とエチレン性−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液との不揮発性樹脂成分とシリカ粒子との合計質量部を100質量部としたときに、5質量部以上、好ましくは7質量部以上であって、25質量部以下、好ましくは15質量部以下である。シランカップリング剤の含有量が少なすぎると、シリカ粒子と上述したカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂とエチレン性−不飽和カルボン酸共重合体などとの反応性が低下して、耐アブレージョン、塗膜密着性、耐食性などが低下する。一方、シランカップリング剤の含有量が多くなりすぎると、樹脂組成物の安定性が低下してゲル化が発生する虞があるとともに、反応に寄与しないシランカップリング剤の量が多くなり、金属板と金属板上に形成される樹脂皮膜との密着性が低下する場合がある。
【0064】
前記シランカップリング剤として、下記化学式(1)のシランカップリング剤を使用することが好ましい。
【0065】
【化2】

(化学式(1)中、R1:グリシドキシ基、R2、R3:低級アルコキシ基、R4:低級アルコキシ基または低級アルキル基、X:低級アルキレン基)
ここで低級とは、炭素数が1〜5、より好ましくは炭素数が1〜3であることを意味する。
【0066】
前記シランカップリング剤を含有することによって、形成される樹脂皮膜の塗膜密着性、耐食性を高めることができる。前記化学式(1)で表される末端にグリシドキシ基を有するシランカップリング剤として、例えばγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シランなどを挙げることができる。グリシドキシ基を有するシランカップリング剤は、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、およびエチレン−不飽和カルボン酸共重合体に対する架橋反応性に富むので、該シランカップリング剤を使用すると、得られる樹脂皮膜の硬度が高くなって、潤滑性が向上する。
【0067】
上述した沸点100℃以下のアミンおよび第1族元素の塩基性化合物によって中和されたカルボキシル基を有するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、イオンクラスターによる分子間会合を形成し(アイオノマー化)、耐食性に優れた樹脂皮膜を形成する。しかし、より強靱な皮膜を形成するためには、官能基間反応を利用した化学結合によってポリマー鎖同士を架橋させることが望ましい。
【0068】
そこで、本発明で使用することができるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、カルボキシル基と反応し得る官能基を2個以上有する架橋剤を含有することが好ましい態様であり、前記架橋剤の含有比率は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液中の不揮発性樹脂成分(EC)を100質量部としたときに、1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であって、20質量部以下、より好ましくは10質量部以下の比率で含有することが望ましい。
【0069】
1質量部より少ないと、化学結合による架橋の効果が不充分となり、耐食性の向上効果が発揮されにくい。一方20質量部を超えて配合すると、樹脂皮膜の架橋密度が過度に高くなりすぎて硬度が上昇し、プレス加工時の変形に追従できなくなることからクラックが発生し、その結果耐食性や塗膜密着性を低下させるため好ましくない。
【0070】
カルボキシル基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する架橋剤は特に限定されないが、ソルビトールポリグリシジルエーテル、(ポリ)グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテルなどのポリグリシジルエーテル類や、ポリグリシジルアミン類などのグリシジル基含有架橋剤;4,4’−ビス(エチレンイミンカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、N,N’−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トルエンビスアジリジンカルボキシアミドなどの2官能アジリジン化合物;トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド、トリス〔1−(2−メチル)アジリジニル〕ホスフィンオキサイド、トリメチロールプロパントリス(β−アジリジニルプロピオネート)、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、テトラメチルプロパンテトラアジリジニルプロピオネートなどの3官能以上のアジリジン化合物、あるいはこれらの誘導体などのアジリジニル基含有架橋剤が好適な例として挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。中でも、アジリジニル基含有架橋剤が好ましい。なお多官能アジリジンと1官能アジリジン(エチレンイミンなど)とを併用してもよい。
【0071】
本発明で使用することができる樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、架橋剤、希釈剤、皮張り防止剤、レベリング剤、消泡剤、浸透剤、乳化剤、分散剤、造膜助剤、染料、顔料、増粘剤、および潤滑剤などを含有することができる。また樹脂皮膜に加工性や潤滑性をさらに付与するため、樹脂組成物中に、平均粒子系0.1〜3μmの球形ポリエチレンワックスを、樹脂組成物の固形分100質量部中に0.5〜20質量部含有させることも有効である。
【0072】
前記樹脂組成物の調製方法は、特に限定されるものではないが、例えば前記キレート剤を、必要に応じてカルボキシル基含有ポリウレタン水性液、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液、シリカ粒子、シランカップリング剤、および必要に応じてワックス、架橋剤などと所定量配合することにより得られる。シリカ粒子、シランカップリング剤、ワックス、および架橋剤などはいずれの段階で添加してもよいが、架橋剤およびシランカップリング剤添加後は、架橋反応の進行によりゲル化することがない様、熱を極力かけないようにすることが望ましい。
【0073】
金属板上に樹脂皮膜を形成するには、前記樹脂組成物を、既知の塗布方法、すなわち、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法などを用いて、金属板表面の片面または両面に塗布して加熱乾燥すればよい。加熱乾燥温度は、架橋剤を用いる場合、架橋剤とカルボキシル基含有樹脂との架橋反応が進行する温度で行うことが好ましい。また球形のポリエチレンワックスを用いる場合、該ワックスの球形を維持して後の加工工程における加工性を良好にするために、該ワックスの軟化点未満の温度、例えば70〜130℃の範囲で加熱乾燥を行うことが望ましい。
【0074】
本発明で使用することができる金属板は特に限定されないが、亜鉛系めっき鋼板であることが好ましく、例えば溶融純亜鉛めっき鋼板(GI)、または合金化溶融Zn−Feめっき鋼板(GA)、合金化溶融Zn−5%Alめっき鋼板(GF)、電気純亜鉛めっき鋼板(EG)、電気Zn−Niめっき鋼板、アルミ板、Ti板などを好適に使用することができる。樹脂皮膜を形成する前に、金属板表面にCoまたはNiなどの処理、インヒビター処理、あるいは各種ノンクロメートの下地処理を行ってもよい。
【0075】
樹脂皮膜の金属板への付着量(厚み)は、乾燥後において、0.05g/m2以上、よ
り好ましくは0.2g/m2以上であって、1g/m2以下、より好ましくは0.5g/m2以下であることが望ましい。付着量が少なすぎると、耐アブレージョン、耐食性、および耐アルカリ脱脂性が低下する。一方、付着量が多くなりすぎると、導電性や溶接性が低下する傾向がある。この樹脂塗装金属板は、用途に応じて加工工程を経た後このまま用いたり、あるいは従来条件による電着塗装・粉体塗装・シルク印刷(130〜160℃、20〜30分程度)を施して用いてもよい。
【実施例】
【0076】
[評価方法]
(1)耐食性
得られた樹脂塗装金属板(鋼板)について、エッジシールした平板材の塩水噴霧試験をJIS−Z2371に従って実施して、白錆が1%発生するまでの時間で評価した。
(表1の評価基準)
◎:白錆発生 264時間以上
○:白錆発生 240時間以上〜264時間未満
△:白錆発生 120時間以上〜240時間未満
×:白錆発生 120時間未満
【0077】
(2)耐アブレージョン性
得られた樹脂塗装金属板(鋼板)について、梱包貨物−振動試験(JIS−Z0232)に準じて振動試験を実施し、所定時間後の供試鋼板の外観を下記の基準で評価した。振動試験装置は、アイデック社製の商品名「BF−500UC」を用いた。
(評価基準)
◎:皮膜への損傷なし
○:皮膜への損傷があるが、亜鉛めっき表面への損傷無し
△:亜鉛めっき表面への目視で確認できる程度の損傷がある
×:亜鉛めっき表面への損傷が著しい
【0078】
(3)塗装性(塗膜密着性)
得られた樹脂塗装金属板(鋼板)にメラミンアルキッド系塗料(関西ペイント社製:アミラック#1000)を乾燥後の塗膜厚が約20μmになるようにスプレー塗装し、130℃で20分間焼き付けて後塗装を行った。続いて、この供試鋼板を沸騰水に1時間浸漬した後、取り出し、1時間放置した後にカッターナイフで1mm角の碁盤目を100升刻み、これにテープ剥離試験を実施して、塗膜の残存升目数により塗膜密着性を4段階で評価した。
(評価基準)
◎:残存率:100%
○:残存率: 90%以上〜100%未満
△:残存率: 80%以上〜90%未満
×:残存率: 70%以上〜80%未満
【0079】
(4)導電性
得られた樹脂塗装金属板(鋼板)の表面抵抗を、表面抵抗計(ダイヤイスツルメンツ(株)製:Loresta−EP)/4探針式で10箇所測定した。
(評価基準)
◎:1mΩ以下でオーバーロード0回/10箇所
○:1mΩ以下でオーバーロード1回/10箇所
△:1mΩ以下でオーバーロード2回/10箇所
×:1mΩ以上でオーバーロード5回/10箇所
【0080】
(5)耐アルカリ脱脂性
液温60℃に調整したアルカリ脱脂剤(日本パーカーライジング社製:CL−N364S)20g/lに、供試鋼板を2分間浸漬し引き上げ、水洗、乾燥した後、該供試鋼板をJISZ2371に準じて塩水噴霧試験を実施し、白錆が1%発生するまでの時間で評価した。
(評価基準)
◎:192時間以上
○:168時間以上〜192時間未満
△: 96時間以上〜168時間未満
×: 96時間未満
【0081】
[カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液の調製]
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として保土ヶ谷化学工業(株)製ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1000)60g、1,4−シクロヘキサンジメタノール14g、ジメチロールプロピオン酸20gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン30.0gを加えた。イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート(以下、単に「TDI」ということがある)を104g仕込み、80℃から85℃に昇温し5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、8.9%であった。さらにトリエチルアミン16gを加えて中和を行い、エチレンジアミン16gと水480gの混合水溶液を加えて、50℃で4時間乳化し、鎖延長反応させてポリウレタン樹脂水性分散液を得た(不揮発性樹脂成分29.1質量%、酸価41.4)。
【0082】
[エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の調製]
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの乳化設備のオートクレイブに、水626質量部、エチレン−アクリル酸共重合体(アクリル酸20質量%、メルトインデックス(MI)300)160質量部を加え、エチレン−アクリル酸共重合体のカルボキシル基1モルに対して、トリエチルアミンを40モル%、水酸化ナトリウムを15モル%加えて、150℃、5Paの雰囲気下で高速撹拌を行い、40℃に冷却してエチレン−アクリル酸共重合体の水性分散液を得た。続いて、前記水性分散液に架橋剤として4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(日本触媒製:ケ
ミタイト(登録商標)DZ−22E)を、エチレン−アクリル酸共重合体の不揮発性樹脂成分100質量部に対して5質量部の比率になるように添加した。
【0083】
(実施例1)
前記のようにして得たカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液と、エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、シリカ粒子(日産化学製:スノーテックスXS、平均粒子径4〜6nm)とを、表1に示した配合比率となるように不揮発性成分換算で合計100質量部となるように配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製:KBM403)を15質量部添加した。さらにこの混合物に、キレート剤含有量が樹脂組成物の固形分100質量部中に0.5質量部となるようにキレート剤(キレストPH−214(HEDP・4Na))を添加して、樹脂組成物を調製した。
【0084】
この樹脂組成物を電気純亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)の表面に絞りロールで塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.4g/m2の樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板の耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性および塗装性についての評価結果を、表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
(実施例2)
前記のようにして得たカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液と、エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、シリカ粒子(日産化学製:スノーテックスXS、平均粒子径4〜6nm)とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部となるように配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製:KBM403)を15質量部添加した。なお不揮発性樹脂成分中のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PC)とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)の配合比率を、質量比でPC:EC=5:1とした。さらにこの混合物に、表2に示す各種キレート剤を添加して、樹脂組成物を調製した。
【0087】
この樹脂組成物を電気純亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)の表面に絞りロールで塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.4g/m2の樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板の耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性および塗装性についての評価結果を、表2に示した。
【0088】
【表2−1】

【0089】
【表2−2】

【0090】
(実施例3)
前記のようにして得たカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液と、エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、シリカ粒子(日産化学製:スノーテックスXS、平均粒子径4〜6nm)とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部となるように配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製KBM403)を0〜30質量部添加した。なお不揮発性樹脂成分中のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PC)とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)の配合比率を、質量比で、PC:EC=5:1とした。さらにこの混合物に、キレート剤含有量が樹脂組成物の固形分100質量部中に0.5質量部となるようにキレート剤(キレストPH−214(HEDP・4Na))を添加して、樹脂組成物を調製した。
【0091】
この樹脂組成物を電気純亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)の表面に絞りロールで塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.4g/m2の樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。樹脂組成物の安定性、並びに樹脂塗装鋼板の耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性および塗装性についての評価結果を、表3に示した。
【0092】
【表3】

【0093】
(実施例4)
前記のようにして得たポリウレタン樹脂水性液と、エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、平均粒子径が4〜100nmのシリカ粒子(日産化学製:スノーテックスシリーズ)とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部となるように配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製:KBM403)を15質量部添加した。なお不揮発性樹脂成分中のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PC)とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)の配合比率を、質量比でPC:EC=5:1とした。さらにこの混合物に、キレート剤含有量が樹脂組成物の固形分100質量部中に0.5質量部となるようにキレート剤(キレストPH−214(HEDP・4Na))を添加して、樹脂組成物を調製した。
【0094】
この樹脂組成物を電気純亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)の表面に絞りロールで塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.4g/m2の樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板の耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性および塗装性についての評価結果を、表4に示した。
【0095】
【表4】

【0096】
(実施例5)
前記のようにして得たポリウレタン樹脂水性液と、エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、シリカ粒子(日産化学製:スノーテックスXS、平均粒子径4〜6nm)とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部となるように配合し、この合計100質量部に対して、さらに表4に示すシランカップリング剤を15質量部添加した。なお不揮発性樹脂成分中のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PC)とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)の配合比率を、質量比でPC:EC=5:1とした。さらにこの混合物に、キレート剤含有量が樹脂組成物の固形分100質量部中に0.5質量部となるようにキレート剤(キレストPH−214(HEDP・4Na))を添加して、樹脂組成物を調製した。
【0097】
この樹脂組成物を電気純亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)の表面に絞りロールで塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量0.4g/m2の樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。樹脂組成物の安定性、並びに樹脂塗装鋼板の耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性および塗装性についての評価結果を、表5に示した。
【0098】
【表5】

【0099】
(実施例6)
前記のようにして得たポリウレタン樹脂水性液とエチレン−アクリル酸共重合体水性分散液と、シリカ粒子(日産化学製:スノーテックスXS)とを、不揮発性樹脂成分が30質量部、シリカ粒子が70質量部の合計100質量部となるように配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製:KBM403)を15質量部添加した。なお不揮発性樹脂成分中のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(PC)とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体(EC)の配合比率を、質量比でPC:EC=5:1とした。さらにこの混合物に、キレート剤含有量が樹脂組成物の固形分100質量部中に0.5質量部となるようにキレート剤(キレストPH−214(HEDP・4Na))を添加して、樹脂組成物を調製した。
【0100】
この樹脂組成物を電気純亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)の表面に絞りロールで塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、ロールの絞り圧を変更することにより付着量0.05〜2.0g/m2の樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板の耐食性、導電性、耐アブレージョン性、耐アルカリ脱脂性および塗装性についての評価結果を、表6に示した。
【0101】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とを含有する樹脂組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板であって、前記樹脂組成物は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、N,N,N’,N’−テトラキス(ホスホノメチル)エチレンジアミン(EDTMP)、ニトリロ三酢酸(NTA)およびヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(HEDTA)、並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を、樹脂組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.1〜5質量部含有することを特徴とする樹脂塗装金属板。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、Naイオンを含むEDTA塩、DTPA塩、HEDP塩、EDTMP塩、NTA塩およびHEDTA塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を含有するものである請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、Naイオンを含み、かつMg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含むEDTA塩、DTPA塩、HEDP塩、EDTMP塩、NTA塩およびHEDTA塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を含有するものである請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含むEDTA塩、DTPA塩、HEDP塩、EDTMP塩、NTA塩およびHEDTA塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を含有するものである請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含み、かつNa、Mg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含むEDTA塩、DTPA塩、HEDP塩、EDTMP塩、NTA塩およびHEDTA塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を含有するものである請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とを不揮発性樹脂成分として5〜45質量部、及び、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子55〜95質量部を合計で100質量部になるように含有し、前記合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有するとともに、前記ポリウレタン樹脂水性液の不揮発性樹脂成分(PU)と前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)との配合比率が質量比でPU:EC=9:1〜2:1であるものである請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項7】
前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長反応して得られるものであって、
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分として、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびジシクロヘキシルメタンジイソシアネートよりなる群から選択される少なくとも1種を使用し、
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分として、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルポリオール、及び、カルボキシル基を有するポリオールの全てを使用するものである請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項8】
前記鎖延長剤は、エチレンジアミンまたはヒドラジンである請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項9】
前記1,4−シクロヘキサンジメタノールと前記ポリエーテルポリオールの質量比が1,4−シクロヘキサンジメタノール:ポリエーテルポリオール=1:1〜1:19である請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項10】
前記ポリエーテルポリオールは、ポリオキシプロピレングリコールまたはポリテトラメチレンエーテルグリコールである請求項1〜9のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項11】
前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の酸価が10〜60mgKOH/gである請求項1〜10のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項12】
前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の他に、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が有するカルボキシル基1モルに対して0.2〜0.8モルに相当する沸点100℃以下のアミンと、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が有するカルボキシル基1モルに対して0.02〜0.4モルに相当する第1族元素の塩基性化合物とを含むものである請求項1〜11のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項13】
前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、該共重合体のモノマー全量を100質量%とした時に、不飽和カルボン酸成分が10〜40質量%共重合されているものである請求項1〜12のいずれかに樹脂塗装金属板。
【請求項14】
前記沸点が100℃以下のアミンは、トリエチルアミンである請求項1〜13のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項15】
前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、さらに、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)を100質量部としたときに、カルボキシル基と反応し得る官能基を2個以上有する架橋剤を1〜20質量部の比率で含有するものである請求項1〜14のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項16】
前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、沸点100℃超のアミンおよびアンモニアを実質的に含まないものである請求項1〜15のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項17】
前記シランカップリング剤は、下記化学式(1)で表わされるシランカップリング剤である請求項1〜16のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【化1】

(化学式(1)中、R1:グリシドキシ基、R2、R3:低級アルコキシ基、R4:低級アルコキシ基または低級アルキル基、X:低級アルキレン基)
【請求項18】
前記樹脂皮膜の付着量は、0.05〜1g/m2である請求項1〜17のいずれかに記
載の樹脂塗装金属板。

【公開番号】特開2006−272765(P2006−272765A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95641(P2005−95641)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】