説明

樹脂成型体およびこれを用いた電子機器、樹脂成型体の処理方法

【課題】生分解速度を向上可能な樹脂成型体およびこれを用いた電子機器、並びに生分解速度を向上可能な樹脂成型体の処理方法を提供する。
【解決手段】樹脂成型体10は、生分解性樹脂からなる成型基体11と、成型基体11の表面に形成された塗装被膜12とからなり、塗装被膜12は、石油系塗料材料、天然素材、および炭水化物およびアミノ酸のような、微生物の増殖を促進させる増殖促進剤を含む。樹脂成型体は増殖促進剤により土壌中の微生物を増殖させ、樹脂成型体の生分解速度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に塗装被膜を有する生分解性樹脂を含む樹脂成型体およびこれを用いた電子機器、並びに樹脂成型体の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
資源保護および環境保護の高まりの下、寿命の尽きた後や不要となった電子製品等では、焼却やリサイクル(再利用)や、リユース(再使用)、廃棄等の処理を考慮した製品の開発が行われるようになってきた。
【0003】
一方、従来の石油を原料とした、ポリエチレン、ポリスチレン等のプラスチックは、軽量、高強度、長寿命という優れた特長を有している。このようなプラスチックは、焼却処理の際に高熱を発し焼却炉にダメージを与え、ダイオキシン等の有害物を発生するため、これまでは主として埋め立てによる処理が行われてきた。しかし、プラスチック容器は重量に対して嵩が多いため、処理のための多大なる空間を必要とする。さらに、従来のプラスチックは土中ではほとんど分解しないため、露出したプラスチックが美観を損ね、また、野生生物に悪影響を与える等の環境破壊の問題が生じている。このように従来のプラスチックについては、使用後の処理についてまではほとんど考慮されていなかった。
【0004】
近年、従来のプラスチックよりも土中や水中で極めて分解速度の速い生分解性樹脂の開発が行われている。生分解性樹脂は、土中や水中の微生物の分解能力により分解されるプラスチックをいい、例えば、微生物に完全に分解された場合には水と二酸化炭素に変換されるものをいう。生分解性樹脂として、例えば、デンプンから合成されるポリラクチド、すなわちポリ乳酸や、ポリ(ε−カプロラクトン)等が挙げられる。生分解性樹脂は、その樹脂材料と応用製品の開発、例えば、電子製品の筐体や、ポリ袋、シート、植木鉢、繊維等の日用品や、自動車の部品、食品用のプラスチックケースの代替容器等の開発が現在盛んに行われている。生分解性樹脂は、土壌中の分解性が良好である点に加え、焼却しても石油系樹脂よりも二酸化炭素等の温暖化ガスの発生が少なく、焼却時に発生するカロリーも少ないので、地球環境に優しい材料である。
【0005】
このような生分解性樹脂の成型品の表面に生分解性樹脂からなる塗装被膜を形成した容器やシートが提案されている(例えば、特許文献1または2参照。)。
【特許文献1】特開平5−278738号公報
【特許文献2】特開2003−165570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1あるいは2のような容器やシートを地中に埋めても、土壌中の微生物により分解するには、約1年から2年を要し、分解速度が遅いという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、生分解速度を向上可能な樹脂成型体およびこれを用いた電子機器、並びに生分解速度を向上可能な樹脂成型体の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、生分解性樹脂を含む成型基体と、前記成型基体の表面に形成された塗装被膜とからなり、前記塗装被膜は、微生物の増殖を促進させる増殖促進剤を含む樹脂成型体が提供される。
【0009】
本発明によれば、生分解性樹脂を含む成型基体の表面を覆う塗装被膜に微生物の増殖を促進する増殖促進剤が含まれているので、増殖促進剤が土壌中や水中に溶解し、そこに生息する微生物の餌(基質)となり、微生物の増殖を促進する。その結果、微生物の数を増加させて、生分解速度を増加させ、生分解性樹脂を含む成型基体を短時間で生分解することができる。
【0010】
前記塗装被膜は、前記増殖促進剤に加えて天然素材からなる塗料のみを含む構成としてもよい。天然素材は石油系樹脂よりも生分解性があるので、塗装被膜が生分解されることで、成型基体が土壌中の微生物と接触し易くなる。その結果、成型基体の生分解速度がいっそう向上する。
【0011】
本発明の他の観点によれば、上記いずれかの樹脂成型体からなる筐体を備える電子機器が提供される。
【0012】
本発明によれば、電子機器の筐体が土壌中に埋められた際の生分解速度が向上されるので、土壌中で短時間で生分解し、環境に与える負荷を低減できる。また、この良好な生分解性は、微生物が筐体に接触する環境下で起こるので、電子機器の通常使用時に生分解する等の問題が生じることがない。
【0013】
本発明のその他の観点によれば、生分解性樹脂を含む成型基体からなる樹脂成型体を廃棄する処理方法であって、微生物の増殖を促進させる増殖促進剤を含む塗料を樹脂成型体に塗布するステップを有することを特徴とする樹脂成型体の処理方法が提供される。
【0014】
本発明によれば、生分解性樹脂を含む成型基体の表面に微生物の増殖を促進する増殖促進剤が含む塗料を塗布することで、増殖促進剤により土壌中や水中の微生物を増殖させることで生分解速度を増加して、生分解性樹脂を含む成型基体を短時間で生分解することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生分解速度を向上可能な樹脂成型体およびこれを用いた電子機器、並びに生分解速度を向上可能な樹脂成型体の処理方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
始めに本発明の原理を説明する。生分解性樹脂は土壌中や水中(以下、説明の便宜のため「土壌中」とする。)で、そこに生息する微生物により分解され、完全に分解された場合には、酸素、窒素、水素、炭素等の無機物あるいはそれらのガスに変換される。より具体的には、土壌中には様々な微生物(細菌や真菌)が生息している。
【0017】
微生物は、微生物が分泌あるいは細胞融解により細胞外酵素を土壌中に放出する。細胞外酵素の働きにより有機物(例えば生分解性樹脂)を分解し、低分子化している。一方、微生物は有機物が低分子化された、例えばフラクトースやグルコース等の糖類やアミノ酸を餌(基質)としており、餌を得ることで微生物は成長し、さらに増殖する。微生物が増殖し数が増えると、分泌等される細胞外酵素が増加し、有機物の分解、すなわち、有機物の生分解が盛んになる。一方、土壌中では餌(基質)量は一般に少なく、また、その量が多い土壌と少ない土壌があって局在しているため、樹脂成型体を廃棄した土壌中に多数の微生物が生息するかどうかは定かではない。
【0018】
そこで、本発明は、樹脂成型体の表面の塗装被膜に炭水化物やアミノ酸の増殖促進剤を含有させることで、樹脂成型体が廃棄のため地中に埋められた際に、増殖促進剤によりその土壌中の微生物を増殖させて、樹脂成型体の生分解速度を向上させるものである。
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る実施の形態を説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る樹脂成型体の要部を示す断面図である。図1を参照するに、樹脂成型体10は、成型基体11と、成型基体11の表面の少なくとも一部を覆う塗装被膜12からなる。
【0021】
樹脂成型体10は、特にその形状や用途は限定されないが、例えば、パーソナルコンピュータや携帯電話機等の電子装置の筐体や、容器、フィルム、シート、袋等である。
【0022】
成型基体11は、生分解性樹脂と石油系樹脂との混合物からなる。これにより、生分解性樹脂による良好な生分解性を有し、かつ石油系樹脂により成型基体の機械的強度を高めることができる。
【0023】
生分解性樹脂としては、生分解性ポリエステル樹脂が挙げられる。生分解性ポリエステル樹脂の代表的な樹脂はポリ乳酸である。ポリ乳酸は、乳酸のホモポリマーである。その他、生分解性ポリエステル樹脂として、グリコール酸、グリセリン酸、3−ヒドロキシ酪酸、酒石酸、およびクエン酸等のヒドロキシカルボン酸、コハク酸、およびアジピン酸等の多価カルボン酸、ラクトン、およびこれらのモノマーの共重合体からなるポリエステルが挙げられる。
【0024】
また、他の生分解性ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリアジペートテレフタレート、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレートが挙げられる。
【0025】
また、生分解性樹脂としては、デンプン、セルロース、キトサン、プルラン等の多糖類系高分子材料、ポリビニルアルコールが挙げられる。セルロースでは、例えば、セルロールアセテート(酢酸セルロース)、セルローストリアセテート等が挙げられる。
【0026】
上述した生分解性樹脂のうち、高強度で電子装置の筐体や樹脂部材に好適な樹脂として、ポリ乳酸、ポリ乳酸アロイ、ポリ乳酸セルロース、ポリビニルアルコール、セルロールアセテートが挙げられる。
【0027】
また、石油系樹脂は、石油由来の合成樹脂であり特に限定されない。合成樹脂としては、例えば、ニトロセルロース、フェノール樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル樹脂、尿素樹脂およびメラミン樹脂等のアミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0028】
成型基体11は、生分解性樹脂と石油系樹脂との混合比(重量比)は、適宜設定されるが、生分解性が良好で生分解後の残渣が少ない点で生分解性樹脂が100%であることが好ましい。
【0029】
塗装被膜12は、例えば厚さが0.1μm〜150μm(好ましくは10μm〜20μm)で、天然素材、石油系塗料、および、微生物の増殖を促進させる増殖促進剤を含んでいる。天然素材は石油系塗料よりも微生物により生分解速度が極めて速い。塗装被膜12が天然素材を含むことにより生分解性を高め、かつ、生分解しきれずに残存する残渣量を低減することができる。また、塗装被膜12に含まれる天然素材が生分解することで、塗装被膜12に細孔が形成され、土壌中や水中等の自然界の微生物が成型基体11に達し易くなる。そのため、塗装被膜12は成型基体11の生分解性を阻害せず、あるいは阻害を抑制できる。
【0030】
天然素材は、植物由来の天然素材でもよく動物由来の天然素材でもよい。植物由来の天然素材としては、特に限定されないが、例えば、植物単体や、植物からの抽出物、例えば汁、ヤニが挙げられる。このようなものとしては、例えば、漆、松ヤニ、アラビヤゴム、天然ゴム等が挙げられる。また、動物由来の天然素材としては、獣脂、蜜ろう、にかわ、卵白等が挙げられる。
【0031】
また、石油系塗料は、石油由来の合成樹脂が含まれている。このような合成樹脂は生分解速度が天然素材の生分解性速度よりも極めて遅い。合成樹脂としては、例えば、ニトロセルロース、フェノール樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル樹脂、尿素樹脂およびメラミン樹脂等のアミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。さらに、合成樹脂として、紫外線を照射することにより重合するラジカル重合系のアクリレートや、カチオン重合系のエポキシ樹脂等の感光性樹脂が挙げられる。さらに、石油系塗料として、例えば、乳化重合によって形成したポリマーをビヒクルとした、酢酸ビニル系やアクリル系のエマルション塗料が挙げられる。
【0032】
増殖促進剤は、炭水化物およびアミノ酸から選択され、これらの両方を含んでいてもよい。炭水化物およびアミノ酸は土壌中の微生物に利用され微生物を増殖させる。すなわち、樹脂成型体10が土壌中に埋められると、増殖促進剤が土壌中に溶解し、あるいは、微生物により塗装被膜12が生分解されることで増殖促進剤が微生物に接触するようになる。そして、微生物が増殖促進剤を利用することで増殖が促進され樹脂成型体10を生分解する土壌中の微生物の数が増加するので、樹脂成型体10の分解速度が向上される。
【0033】
増殖促進剤に好適な炭水化物として、単糖類および多糖類である。単糖類としては、ジオース,トリオース,テトロース,ペントース,ヘキソース等が挙げられる。
【0034】
また、多糖類は複数の単糖分子の縮合体からなり、例えば、トレハロース,スクロース,マルトース,セロビオース,ゲンチオビオース,ラクトース等の二糖、ラフィノース,ウンベリフェロース等の三糖、スタキオース,ガングリオテトラオース,グロボテトラオース等の四糖、デンプン、グリコーゲン、グリセリン等が挙げられる。
【0035】
アミノ酸としては、特に限定されないが、例えばα−アミノ酸が挙げられる。α−アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン等が挙げあれる。
【0036】
増殖促進剤は、塗装被膜12中に重量基準で0.1%〜50%の範囲で含まれる。増殖促進剤の含有量が0.1%を切ると微生物を増殖する効果が低下し、50%を超えると塗装被膜の機械的強度が低下する。
【0037】
塗装被膜12は、さらに、石油系塗料を含まず、増殖促進剤と天然素材を含む塗料だけからなることが好ましい。生分解後の塗装被膜の残渣量を低減あるいは完全になくすことができる。
【0038】
一方、塗装被膜12が成型基体11の表面の一部に形成される場合には、天然素材を含む塗料を含まず、増殖促進剤と石油系塗料から構成されてもよい。この場合、石油系塗料が形成された成型基体11の表面は生分解が抑制されるが、それ以外の表面から生分解が進むので支障はない。
【0039】
なお、塗装被膜12には、本発明の目的を損なわない程度に、顔料や硬化剤を含んでもよい。
【0040】
次に、本実施の形態に係る樹脂成型体の製造方法を説明する。
【0041】
最初に、生分解性樹脂を含む樹脂組成物を調製する。樹脂組成物は、上述した生分解性樹脂と石油系樹脂に、本発明の目的を損なわない程度に、可塑剤、耐電防止剤、酸化防止剤、顔料、紫外線吸収剤等の各種添加剤、改質剤、充填剤を添加することができる。樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、例えば溶融混練機を用いて製造できる。溶融混練機としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機等の押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー等が挙げられる。樹脂組成物の材料の総てを一括して溶融混練してもよく、また、顔料等の無機粉末を添加する場合は、生分解性樹脂の配合量の一部と無機粉末を予め予備混練し、さらに、予備混練物と残りの生分解性樹脂と他の材料を溶融混練してもよい。
【0042】
次いで、樹脂組成物を使用して、所望の形状の成型基体11に成型する。成型基体11の形状は特に制限はなく、例えば、上述した筐体、容器、フィルム、シート等が挙げられる。筐体や容器は、例えば射出成型法、圧縮成型法、押出成型法等を用いることができる。フィルムやシートは、例えば真空成型法、圧縮成型法、溶融延伸法等を用いることができる。
【0043】
また、成型基体11とは別に塗料を調製する。塗料材料は、石油由来の合成樹脂、天然素材、増殖促進剤、顔料、硬化剤および有機溶剤等であり、合成樹脂と顔料と少量の有機溶媒とを混練・分散し、さらに有機溶媒を添加して最終的な固形分に調合して塗料を形成する。また、粘度が低い場合は、単に混合・撹拌すればよい。
【0044】
合成樹脂としては、例えば、ニトロセルロース、フェノール樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル樹脂、尿素樹脂およびメラミン樹脂等のアミノ樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。また、天然素材としては、上述した材料が用いられる。
【0045】
顔料のうち、着色顔料としては、アゾ、キナクリドン、フタロシアニン等の有機顔料や、酸化チタン、ベンガラ、カーボンブラック等の無機顔料が挙げられる。また、他の顔料としては、塗料の増量剤として使用される、炭酸カルシウム、シリカ、タルク等の体質顔料が挙げられる。なお、顔料は樹脂組成物の必須の材料ではない。
【0046】
次いで、成型基体の表面に塗料を塗布する。この塗布法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、例えば、刷毛塗り法、ロールコーター法、エアスプレー法、エアレススプレー法等が挙げられる。さらに、塗装被膜を室温あるいは加熱して乾燥させる。この工程(塗装および乾燥)は繰り返し行ってもよい。これにより、より機械強度の優れる塗装被膜を形成できる。また、乾燥後に塗装被膜の表面をサンドペーパにより平滑化した後でさらに塗装を行ってもよい。以上により塗装被膜12が形成された成型基体11からなる樹脂成型体10が完成する。
【0047】
本実施の形態によれば、樹脂成型体10の表面の塗装被膜12に増殖促進剤が含まれているので、増殖促進剤が土壌中の微生物の餌(基質)となり、微生物の増殖を促進させる。その結果、樹脂成型体10の生分解速度を向上させることができる。
【0048】
さらに、実施の形態に係る樹脂成型体10を電子機器の筐体(不図示)に採用することができる。採用可能な電子機器の制限は特にないが、例えば、パーソナルコンピュータ、ディスプレイ装置、キーボード、ハードディスク装置、プリンタ、携帯電話機等が挙げられる。これにより、電子機器の筐体が土壌中に埋められた際の生分解速度が向上されるので、土壌中で短時間で生分解し、環境に与える負荷を低減できる。また、この良好な生分解性は、微生物が筐体に接触する環境下で起こるので、電子機器の通常使用時に生分解する等の問題が生じることがない。
【0049】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、生分解性樹脂を含む成型基体を有する樹脂成型体を廃棄処理する方法に関するものである。次に示す図2を参照しつつ廃棄処理方法を説明する。
【0050】
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る樹脂成型体の処理フローを示す図である。
【0051】
本実施の形態の廃棄処理を行う樹脂成型体は、成型基体とその表面に形成された塗装被膜を有するものである。第2の実施の形態に係る成型基体は、図1に示す第1の実施の形態に係る樹脂成型体10の成型基体11と同様の構成からなる。すなわち、成型基体11は、生分解性樹脂を含み、石油系樹脂を含んでいていてもよい。さらに塗装被膜は、図1に示す第1の実施の形態に係る樹脂成型体10の塗装被膜12と同様の塗装被膜を有する。あるいは、第2の実施の形態に係る成型基体は、塗装被膜が成型基体の表面全体を覆っておらず、成型基体の一部が露出している場合である。なお、この場合は、塗装被膜を構成する材料の限定はなく、増殖促進剤を含まなくともよい。
【0052】
最初に、廃棄前の樹脂成型体に塗布する塗料の調製を行う(S102)。塗料材料は、増殖促進剤と、天然素材からなる塗料、有機溶媒あるいは水である。これらの塗料に石油系塗料をさらに添加してもよい。これらの材料を混合・撹拌し、塗料を得る。これらの塗料材料は第1の実施の形態で説明したものと同様の材料から選択される。なお、必要に応じて顔料や硬化剤を添加してもよい。塗料は環境負荷を低減する観点からは水性塗料が好ましい。
【0053】
次いで、S102で得られた塗料を樹脂成型体に塗布する(S106)。塗布方法は特に限定されず、例えば、刷毛塗り法、ロールコーター法、エアスプレー法、エアレススプレー法等が挙げられる。さらに、塗装被膜を室温あるいは加熱して乾燥させる。なお、乾燥は必ずしも行わなくともよく、塗料が樹脂成型体の表面に付着していればよい。
【0054】
次いで、塗装被膜が形成された樹脂成型体を地中に埋める(S108)。これにより、塗装被膜に含まれる増殖促進剤により、土壌中の微生物の増殖が促進され、生分解速度が向上する。なお、樹脂成型体を地中に埋める前に破砕してもよい。これにより、破砕された樹脂成型体の表面積が増加し、微生物との接触面積が増加し、生分解速度をさらに向上できる。
【0055】
本実施の形態によれば、生分解性樹脂を含む成型基体の表面に微生物の増殖を促進する増殖促進剤が含む塗料を塗布することで、増殖促進剤により土壌中や水中の微生物の増殖を促進させることで生分解速度を増加して、生分解性樹脂を含む成型基体を短時間で生分解することができる。
【0056】
また、樹脂成型体が、成型基体の表面を石油系塗料が覆っている場合は、図2に示すように、塗装(S106)する前に、樹脂成型体を破砕する(S104)。これにより、成型基体の一部を露出して、S106の塗装により、成型基体の表面に増殖促進剤を含む塗装被膜を形成する。これにより、石油系塗料が覆っている樹脂成型体であっても、生分解速度を向上することができる。
【0057】
以上本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0058】
なお、以上の説明に関してさらに以下の付記を開示する。
(付記1) 生分解性樹脂を含む成型基体と、
前記成型基体の表面に形成された塗装被膜とからなり、
前記塗装被膜は、微生物の増殖を促進させる増殖促進剤を含む樹脂成型体。
(付記2) 前記成型基体は、石油系樹脂を含むことを特徴とする付記1記載の樹脂成型体。
(付記3) 前記塗装被膜は、前記増殖促進剤に加えて石油系塗料と天然素材からなる塗料を含むことを特徴とする付記1または2記載の樹脂成型体。
(付記4) 前記塗装被膜は、前記増殖促進剤に加えて天然素材からなる塗料を含むことを特徴とする付記1または2記載の樹脂成型体。
(付記5) 前記塗装被膜は、前記成型基体の表面の一部に形成され、前記増殖促進剤に加えて石油系塗料を含むことを特徴とする付記1または2記載の樹脂成型体。
(付記6) 前記天然素材は前記石油系塗料に含まれる合成樹脂よりも生分解速度が大きいことを特徴とする付記3または4記載の樹脂成型体。
(付記7) 前記天然素材は、植物から得られる汁およびヤニ、獣脂、蜜ろう、にかわ、および卵白からなる群のうち、少なくとも一種を含むことを特徴とする付記3〜6のうち、いずれか一項記載の樹脂成型体。
(付記8) 前記増殖促進剤は、炭水化物およびアミノ酸のうち、少なくとも一種であることを特徴とする付記1〜7のうち、いずれか一項記載の樹脂成型体。
(付記9) 前記炭水化物は、単糖類あるいは多糖類であることを特徴とする付記8記載の樹脂成型体。
(付記10) 付記1〜9のうちいずれか一項記載の樹脂成型体からなる筐体を備える電子機器。
(付記11) 生分解性樹脂を含む成型基体からなる樹脂成型体を廃棄する処理方法であって、
微生物の増殖を促進させる増殖促進剤を含む塗料を樹脂成型体に塗布するステップを有することを特徴とする樹脂成型体の処理方法。
(付記12) 前記塗布するステップの前に、
前記樹脂成型体を破砕するステップを有することを特徴とする付記11記載の樹脂成型体の処理方法。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る樹脂成型体の要部を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る樹脂成型体の処理フローを示す図である。
【符号の説明】
【0060】
10,20 樹脂成型体
11 成型基体
12 塗装被膜
21 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂を含む成型基体と、
前記成型基体の表面に形成された塗装被膜とからなり、
前記塗装被膜は、微生物の増殖を促進させる増殖促進剤を含む樹脂成型体。
【請求項2】
前記成型基体は、石油系樹脂を含むことを特徴とする請求項1記載の樹脂成型体。
【請求項3】
前記塗装被膜は、前記増殖促進剤に加えて石油系塗料と天然素材からなる塗料を含むことを特徴とする請求項1または2記載の樹脂成型体。
【請求項4】
前記塗装被膜は、前記増殖促進剤に加えて天然素材からなる塗料のみを含むことを特徴とする請求項1または2記載の樹脂成型体。
【請求項5】
前記天然素材は前記石油系塗料に含まれる合成樹脂よりも生分解速度が大きいことを特徴とする請求項3または4記載の樹脂成型体。
【請求項6】
前記天然素材は、植物から得られる汁およびヤニ、獣脂、蜜ろう、にかわ、および卵白からなる群のうち、少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項3〜5のうち、いずれか一項記載の樹脂成型体。
【請求項7】
前記増殖促進剤は、炭水化物およびアミノ酸のうち、少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜6のうち、いずれか一項記載の樹脂成型体。
【請求項8】
前記炭水化物は、単糖類あるいは多糖類であることを特徴とする請求項7記載の樹脂成型体。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか一項記載の樹脂成型体からなる筐体を備える電子機器。
【請求項10】
生分解性樹脂を含む成型基体からなる樹脂成型体を廃棄する処理方法であって、
微生物の増殖を促進させる増殖促進剤を含む塗料を樹脂成型体に塗布するステップを有することを特徴とする樹脂成型体の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−106783(P2007−106783A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296071(P2005−296071)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】