説明

樹脂成形金型

【課題】ベントチューブを利用して樹脂注入成形時の置き子の浮き上がりを防止する。置き子の清掃作業を省略して成形サイクル時間を短縮すると共にコスト削減を図る。成形品の肉厚調整の範囲を大きく広げることを可能にする。
【解決手段】上型31内部に金型キャビティ36内のエアーを抜くためのベントチューブ40が抜き差し自在に取り付けられ、ベントチューブ40の下端部に上型31の下面31aよりも下方に突出する突起部43が突設され、型締め状態ではベントチューブ40の突起部43により置き子20の上端面20aの一部が下型32に向かって押さえ付けられると共に、上型31の下面31aと置き子20の上端面20aとの間の突起部43以外の部位に、金型キャビティ36内部とベントチューブ40内部とを連通させるエアー抜き隙間Sが形成される樹脂成形金型30である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形金型に関し、詳しくは段部形状の排水口部付き成形品の成形に使用する金型構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の洗面ボウルの排水構造は、洗面ボウルの底部に設けた排水口部に上方から排水筒を落としこみ、下からナットを締め付けることで排水筒を排水口部に取り付けていた。しかし、この排水構造は、排水筒の上端のフランジ部と洗面ボウルとの境界が洗面ボウルの内面側に露出してゴミがたまりやすく、またこの部分は外観上目立つ箇所でもあるので、頻繁に掃除を行う必要がある。
【0003】
そこで、洗面ボウルの下方から排水筒を取り付ける構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来例では、排水筒が洗面ボウルの内面側に露出せず、上記の問題は改善される。
【0004】
しかしながら、この特許文献1にあっては、洗面ボ−ルの下面側において取付ねじにより排水筒を固着するため、排水筒を洗面ボウルの下面にぴったりと密着した状態で固定することが難しく、水漏れが起こりやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−266403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、前記従来の問題を解決すべく、既に出願した特願2008−217403号において、図5に示すように、洗面ボウル1の底部から下方に向けて突出する排水口部2を形成し、該排水口部2の内周面の下端部を外側に凹ませて排水筒5が下方から嵌めこまれる嵌込凹所4を形成すると共に、排水口部2の内周面の上端部を排水筒5の上方を覆う覆部3とした段部形状の排水口部2を備えた洗面ボウル1、及びこれを成形する図6に示す樹脂成形金型を既に開示している。
【0007】
図6に示す樹脂成形金型は、上型31と下型32との間に置き子20を挿入して構成される。図中の21は位置決め用凸部、33は離型用エアー吐出孔、34は取付けナット、35はベントパイプ、矢印bは樹脂材料の注入方向、矢印cはエアー抜き方向、矢印dは離型のためのエアーの供給方向をそれぞれ示す。
【0008】
置き子20の上端面20aには、リング状の弾性体を構成するOリング51を挿入するための凹溝52が凹設されている。凹溝52は、例えば図7に示すように4箇所に設けられている。各凹溝52の深さはOリング51の厚みよりもそれぞれ浅く形成されており、これによりOリング51は置き子20の上端面20aから上方に突出しており、型締め時にOリング51の突出部を上型31の下面31aで押さえることにより弾性変形させて、置き子20の浮き上がりを防いだ状態で、エアー抜き隙間Sが形成される。注入される樹脂材料は、金型キャビティ36内に充満し、さらにエアー抜き隙間Sを通過して、ベントチューブ40内部を満たして注入が完了する。材料硬化後に、離型用エアー吐出孔33からエアー圧を加えて成形品を金型から分離させる。取り出し後の状態を図8(a)に示す。このとき置き子20は、上型31と置き子20との間のエアー抜き隙間Sに充填された薄バリ53内部に埋まり込んでおり、図8(b)の矢印方向eからハンマーで置き子20を叩いて出すことで、置き子20と薄バリ53とを矢印方向fに抜き出して成形作業が完了する。
【0009】
ところが、従来のOリング51による置き子20の浮き上がり防止構造では、Oリング51を嵌め込む凹溝52内に樹脂材料が侵入して付着してしまい、その除去が必要となり、置き子20の清掃作業に手間と時間がかかるものである。しかも、Oリング51自体にも樹脂材料が付着するためOリング51の清掃作業も必要となり、このため、成形サイクル時間が長くなるという課題がある。また、Oリング51の出代によってエアー抜き隙間S(図6)の幅が決まるため、エアー抜き隙間Sの調整範囲が例えば0.1〜0.5mm程度と小さく、それ以上大きくすることができないため、成形品の肉厚の調整範囲を大きくできないという課題もある。
【0010】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、その目的とするところは、ベントチューブを利用して樹脂注入成形時の置き子の浮き上がりを防止でき、しかも置き子の清掃作業を省略して成形サイクル時間を短縮できると共にコスト削減を図ることができ、さらに成形品の肉厚調整の範囲を大きく広げることが可能な樹脂成形金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、本発明は、上型31と下型32の間に置き子20が配置され、上型31内部に金型キャビティ36内のエアーを抜くためのベントチューブ40が抜き差し自在に取り付けられている。該ベントチューブ40の下端部に上型31の下面31aよりも下方に突出する突起部43が突設されている。型締め状態では上記ベントチューブ40の突起部43により置き子20の上端面20aの一部が下型32に向かって押さえ付けられると共に、上型31の下面31aと置き子20の上端面20aとの間の突起部43以外の部位に、金型キャビティ36内部とベントチューブ40内部とを連通させるエアー抜き隙間Sが形成されることを特徴としている。
【0012】
このような構成とすることで、ベントチューブ40の突起部43により置き子20の浮き上がりを防止できるので、従来のOリングなどの弾性部材を別途用いる必要がなく、これに伴い置き子20の上端面20aに従来のOリング用凹溝を形成する必要もなくなり、これにより、置き子20の上端面20aを平坦にしてそこに付着する薄バリ53(エアー抜き隙間Sに充填された薄肉のバリ)を置き子20から簡単に除去できるので、置き子20を清掃することなく次の成形に使用できるようになる。さらに、ベントチューブ40の突起部43の突出高さHを大きくすることで、例えば突起部43が樹脂製の場合は、型締め時における突起部43の潰れ量を大きく変化させることが可能となり、これによりエアー抜き隙間Sの調整量を従来よりも大きくでき、成形品の厚み調整範囲を広げることが可能となる。
【0013】
また、上記下型32に、型開き時にエアー圧により置き子20を離型させる離型用エアー吐出孔33を設け、上記置き子20の下端面20bに該離型用エアー吐出孔33に挿入されて位置決めされる位置決め用凸部21を突設するのが好ましく、この場合、位置決め用凸部21によって置き子20を下型32に対して精度よく且つ簡単にセットできるので、成形サイクル時間を一層短縮できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ベントチューブの下端部に設けた突起部により置き子の浮き上がりを防止できるので、置き子の上端面に従来のOリング用凹溝等を形成しなくても済み、樹脂材料を除去するための置き子の清掃作業を省略でき、成形サイクル時間を短縮できると共にコスト削減にもつながる。さらに、ベントチューブの突起部の高さを大きくすることによりエアー抜き隙間の調整量を従来よりも大きくでき、成形品の厚み調整範囲が広がり、結果、成形品の肉厚化による製品強度アップを図ったり、或いは成形品の薄肉化による材料低減の調整を図ることが可能となる
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態の上型と下型と置き子とを備えた樹脂成形金型を説明する断面図である。
【図2】(a)は同上の上型に抜き差し自在に挿入される突起部付き駒部を備えたベントチューブの断面図であり、(b)は下面図である。
【図3】同上の成形後に成形品から置き子と薄バリとを除去する場合の説明図である。
【図4】(a)は同上の成形品である洗面ボウルの斜視図、(b)は(a)のE−E線断面図である。
【図5】同上の洗面ボウルの排水口部に排水筒を取り付けた使用状態を説明する断面図である。
【図6】本発明の基本構成を説明する樹脂成形金型の断面図である。
【図7】図6のOリングを取り付けた置き子の平面図である。
【図8】(a)は図6の樹脂成形金型を用いて成形した後の成形品と置き子と薄バリとを説明する分解断面図であり、(b)は成形品から置き子と薄バリを除去する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0017】
図4は、樹脂製の洗面ボウル1の底部に設けられる排水口部2を示している。排水口部2は上下方向に開口する排水口部2の内周面の下端部を外側に凹ませて排水筒5(図5)が下方から嵌めこまれる嵌込凹所4を備えると共に、排水口部2の内周面の上端部が排水筒5の上方を覆う覆部3となった段部形状をしている。洗面ボウル1の材質として例えばアクリル系樹脂が選ばれる。
【0018】
上記段部形状の排水口部2付き洗面ボウル1を成形するための樹脂成形金型30は、図1に示すように、可動型である上型31と、上型31に抜き差し自在に挿入されるベントチューブ40と、固定型である下型32と、上下型31,32間に配置される置き子20とで構成されており、置き子20及びベントチューブ40を除く他の構成は図6で示した樹脂成形金型と基本的に共通している。
【0019】
上型31の内部には、上下両端がそれぞれ開放されたベントパイプ35が固定されており、このベントパイプ35に対してベントチューブ40が抜き差し自在に挿入されている。上型31の下面31a中央側は、置き子20の上端面20aよりも幅広で且つその一部が置き子20の上端面20aと重なり合う平面形状となっている。
【0020】
本例のベントチューブ40は、チューブ本体41と突起部43付き駒部42とを一体に結合して構成されている。駒部42の孔42aは型締め時に上型31と置き子20との間に形成されるエアー抜き隙間Sに開放されるものであり、駒部42の孔42aの下端外周から突出する複数の突起部43は、上型31の下面31aよりも下方に突出しており、型締め時に置き子20の上端面20aの一部を下型32に向けて押さえ付けるものである。突起部43付き駒部42は例えば樹脂製であり、本例ではPEを使用している。突起部43の数は図2に示すように例えば4個、突起部43の外観形状は例えば円錐形、又は円柱形とされ、高さHは例えば0.5〜1.5mmとされ、径寸法dは例えば0.5〜2mmとされる。勿論これらの数値に限らず、突起部43の数、材質、形状、高さ、寸法等は適宜設計変更自在である。
【0021】
一方、下型32の最も高い中央側の上面32aは、排水口部2の覆部3を形成する形状を有しており、その中心には離型用エアー吐出孔33の一端が開口している。離型用エアー吐出孔33の他端はエアー供給源(図示せず)に接続されている。
【0022】
置き子20は、下型32の上面32aに載置される。置き子20の下端面20bの中央側には位置決め用凸部21が突設され、この位置決め用凸部21を下型32の離型用エアー吐出孔33に挿入することで、置き子20を下型32に対して精度よくセットできるようになっている。置き子20は、排水口部2の嵌込凹所4を形成するリング形状を有しており、置き子20の厚みがそのまま嵌込凹所4の上下長さとなり、置き子20の外径寸法がそのまま嵌込凹所4の内径寸法となる。本例の置き子20の上端面20aは平坦面で形成されている。
【0023】
次に、成形動作手順を説明する。
【0024】
先ず図1に示すように、置き子20の下端面20bの位置決め用凸部21を下型32の離型用エアー吐出孔33内に挿入した状態で置き子20を下型32の上面32aにセットしてから、上型31を下降させて型締めする。このとき、ベントチューブ40の駒部42に設けた樹脂製の突起部43がその弾性力で置き子20の上端面20aの一部を弾圧して、置き子20を押さえ付けると共に、上型31と置き子20との間の突起部43以外の部位にエアー抜き隙間Sが形成される。この状態で、樹脂材料を金型キャビティ36に注入すると、金型キャビティ36内のエアーがエアー抜き隙間Sからベントチューブ40内に排気される。金型キャビティ36内を満たした樹脂材料はさらにエアー抜き隙間Sを介してベントチューブ40内に流れ込む。この時点で注入を停止する。その後、金型の昇温により樹脂材料を硬化させ、硬化後に、型開きして成形品と置き子20とを取り出す。このとき図3に示すように、下型32の離型用エアー吐出孔33からエアーを吹き込みながら、薄バリ53と一緒に置き子20を矢印方向aに押し出す。得られた成形品を上下反転させることで、図5に示すように、上側に覆部3、下側に嵌込凹所4が形成された段部形状の排水口部2を備えた洗面ボウル1が得られる。
【0025】
型開き後は、内部に樹脂材料が充填して硬化しているベントチューブ40を上型31のベントパイプ35内から抜き出して廃棄し、新たなベントチューブ40と交換する。このベントチューブ40の交換は成形ショット毎に行う。一方、置き子20はそのまま再使用する。
【0026】
しかして、上記構成の突起部43付きベントチューブ40を利用して置き子20の浮き上がりを防止できるので、従来のOリングによる浮き上がり防止構造と異なり、置き子20の上端面20aにOリング用凹溝を形成する必要もなくなり、置き子20の上端面20aを平坦に形成できる。従って、置き子20の上端面20aに付着する薄バリ53を手で簡単に除去できるようになるので、置き子20を清掃せずにそのまま次の成形に使用できる。結果、置き子20の清掃作業を省略でき、しかも従来のOリングの取り付け作業も不要となり、成形サイクル時間を短縮できると共に、既存のベントチューブ40に突起部43を突設させる簡易な構造で済み、Oリングも不要となるので、金型構造がシンプルになり、コスト削減にもつながる。
【0027】
また、下型32の離型用エアー吐出孔33を利用して、置き子20を下型32に対して簡単に位置決めすることができるので、成形サイクル時間を一層短縮できるようになる。しかも、置き子20を離型用エアー吐出孔33の同芯上に精度よくセットできるので、置き子20により形成される嵌込凹所4と下型32で形成される覆部3とが芯ずれを起こすことがなく、嵌込凹所4と覆部3とを備える段部形状の排水口部2を常に高精度で成形できるものであり、結果、排水口部2の嵌込凹所4と覆部3との同心円精度が向上し、成形毎のバラツキの発生防止や不良削減ができ、成形品の品質向上を一層図ることができる。
【0028】
さらに、ベントチューブ40の突起部43の突出高さHを、従来のOリングの出代よりも充分に大きくしているので、型締め時における樹脂製の突起部43の潰れ量を大きく変化させることができ、これによりエアー抜き隙間Sの調整量を従来のOリング構造と比較して、大きくすることができる。つまり、成形品を厚肉にする場合は突起部43の先端の潰れ量が少なくなり、成形品を薄肉にする場合は突起部43の先端の潰れ量が大きくなるだけであり、これにより、成形品の厚み調整範囲が広がり、結果、成形品の肉厚化による製品強度アップを図ったり、或いは成形品の薄肉化による材料低減の調整を図ることが可能となる。
【0029】
なお前記実施形態では、チューブ本体41と突起部43付き駒部42とを結合してベントチューブ40を構成した場合を例示したが、チューブ本体41の下端部に突起部43を一体形成する構成でもあってもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 洗面ボウル
2 排水口部
3 覆部
4 嵌込凹所
5 排水筒
20 置き子
20a 置き子の上端面
20b 置き子の下端面
21 位置決め用凸部
30 樹脂成形金型
31 上型
31a 上型の下面
32 下型
32a 下型の上面
33 離型用エアー吐出孔
36 金型キャビティ
40 ベントチューブ
43 突起部
53 薄バリ
S エアー抜き隙間
H 突起部の突出高さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型の間に置き子が配置され、上型内部に金型キャビティ内のエアーを抜くためのベントチューブが抜き差し自在に取り付けられていると共に、該ベントチューブの下端部に上型の下面よりも下方に突出する突起部が突設されており、型締め状態では上記ベントチューブの突起部により置き子の上端面の一部が下型に向かって押さえ付けられると共に、上型の下面と置き子の上端面との間の突起部以外の部位に、金型キャビティ内部とベントチューブ内部とを連通させるエアー抜き隙間が形成されることを特徴とする樹脂成形金型。
【請求項2】
上記下型に、型開き時にエアー圧により置き子を離型させる離型用エアー吐出孔を設けると共に、上記置き子の下端面に該離型用エアー吐出孔に挿入されて位置決めされる凸部を突設させたことを特徴とする請求項1記載の樹脂成形金型。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−228256(P2010−228256A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77667(P2009−77667)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】