説明

樹脂注型品およびその製造方法

【課題】中心導体と絶縁層間で発生する部分放電を抑制し、絶縁特性を向上させる。
【解決手段】主回路電流が通電される中心導体1と、中心導体1の周りに導電性塗料を塗布して設けられた第1の導電層10aと、第1の導電層10aの周りに導電性塗料を塗布して設けられた第2の導電層10bと、第1の導電層10aと第2の導電層10bとを設けた中心導体1の周りにエポキシ樹脂をモールドして設けられた絶縁層2とを具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器に使用されるブッシングなどエポキシ樹脂でモールドした樹脂注型品に係り、特に絶縁特性を向上し得る樹脂注型品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂注型品に代表されるブッシングは、主回路電流が通電される銅製の中心導体の周りに、エポキシ樹脂をモールドして形成した絶縁層が設けられている。これにより、中心導体が絶縁されるとともに、機械的な支持固定が行われる。中心導体と絶縁層とは、熱膨張係数が異なることから、モールド時や通電時などの温度変化により、絶縁層が中心導体から剥離することがある。この対策として、中心導体の外周には導電性塗料を塗布した導電層が設けられ、剥離しても部分放電が発生して絶縁特性が低下しないようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、図4に示すように、中心導体1と絶縁層2との熱膨張係数が大きく相違すると、導電層3が中心導体1側に接着したり、絶縁層2側に接着したりすることがある。このような状態になると、中心導体1と絶縁層2間には隙間Gが形成され、部分放電が発生することになる。
【特許文献1】特開2005−41063号公報 (第5ページ、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来の樹脂注型品においては、モールド時などの温度変化によって部分放電が発生する可能性があった。部分放電が発生すると、絶縁劣化が始まり、それが進行すると最終的には絶縁破壊に到る。このため、中心導体1と絶縁層2との熱膨張係数が大きく相違しても、部分放電の発生を確実に抑制でき、優れた絶縁特性を有する樹脂注型品が望まれていた。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、中心導体と絶縁層間で発生する部分放電を抑制し、絶縁特性を向上し得る樹脂注型品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の樹脂注型品は、通電される中心導体と、前記中心導体の周りに設けられた第1の導電層と、前記第1の導電層の周りに設けられた第2の導電層と、前記第2の導電層の周りにエポキシ樹脂をモールドして設けられた絶縁層とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、中心導体に2層からなる同電位の第1および第2の導電層を設けて絶縁層をモールドしているので、大きな温度変化が生じた場合、第1の導電層が中心導体側に接着し、第2の導電層が絶縁層側に接着して絶縁特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0009】
先ず、本発明の実施例1に係る樹脂注型品を図1、図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る樹脂注型品の構成を示す断面図、図2は、本発明の実施例1に係る樹脂注型品の構成を示す要部拡大断面図である。なお、各図において、従来と同様の構成部分については、同一符号を付した。また、樹脂注型品を中心導体がT字状のT形ブッシングを用いて説明する。
【0010】
図1に示すように、T形ブッシングは、無酸素銅などの銅製からなる筒状の第1の中心導体1aとこの第1の中心導体1aの略中央部から垂直に伸びた同種銅からなる棒状の第2の中心導体1bとからなる中心導体1と、中心導体1の周りに熱硬化性のエポキシ樹脂をモールドして形成したT字状の絶縁層2とから構成されている。また、中心導体1の外周には、図2に示すように、銀塗料やカーボン塗料などの導電性塗料を塗布した第1、第2の導電層10a、10bが設けられている。
【0011】
絶縁層2には、第1の中心導体1aの内周面を露出させた凹状で円錐状の界面接続部11が両端に設けられている。また、界面接続部11と第2の中心導体1bの沿面絶縁部を除く絶縁層2の外周表面には、銀塗料やカーボン塗料などの導電性塗料を塗布した接地層12が設けられている。
【0012】
界面接続部11には、これに密着するように凸状で円錐状に端末処理されたEPゴムなどからなる弾性絶縁体13と、第1の中心導体1aの内周面に接触する接触導体14とを有する絶縁母線15が接続される。なお、絶縁母線15が接続されない場合には、凸状で円錐状に端末処理された図示しない絶縁栓が設けられる。また、図示下部側の第2の中心導体1b端には、他の電気機器が接続される。
【0013】
このようなT形ブッシングにおいて、中心導体1と絶縁層2間に設けられている第1、第2の導電層10a、10bの形成方法を説明する。導電性塗料は、エポキシ樹脂をバインダーとし、銀粉またはカーボン粉などの金属粉を混合させたものである。
【0014】
先ず、中心導体1を清掃、脱脂後、導電性塗料をハケ、スプレーなどで塗布し、例えば120℃に加熱した乾燥炉に入炉して硬化させ、第1の導電層10aを形成する。次に、第1の導電層10aと同種の導電性塗料を塗布し、硬化させて第2の導電層10bを形成する。この場合、第1の導電層10a表面をサンドペーパで研磨し、第2の導電層10bとの接着性を向上させてもよい。第1の導電層10aと第2の導電層10bとは、同程度の厚さであり、それぞれ数100μmである。
【0015】
第1、第2の導電層10a、10bを形成した中心導体1を注型金型内にセットし、真空引き後、熱硬化性のエポキシ樹脂を樹脂金型内に充填する。充填後、真空を解除して注型金型を例えば150℃に加熱し、エポキシ樹脂を加熱硬化させる。硬化後、離型し、絶縁層2の表面に接地層12を設ければ、中心導体1の周りに絶縁層2を設けたT形ブッシングを得ることができる。
【0016】
このように第1、第2の導電層10a、10bを形成したT形ブッシングは、第1の導電層10aと第2の導電層10bとがそれなりに接着するものの、第1の導電層10aは中心導体1側に強固に接着し、第2の導電層10bは絶縁層2側に強固に接着する。互いの導電層10a、10bは、形成方法を2段階に分けているので、一体化せず、分離が可能となる。
【0017】
このため、中心導体1と絶縁層2との熱膨張係数が大きく相違し、大きな温度変化があっても、第1の導電層10aは中心導体1側に接着し、第2の導電層10bは絶縁層2側に接着して互いの導電層10a、10b間が剥離する。しかしながら、互いの導電層10a、10bは同電位のため、部分放電を起こすことがない。これは、剥離の程度が中心導体1の形状および絶縁層2の絶縁厚さによって各部で異なり、第1の導電層10aと第2の導電層10b間の全周に亙って起きることはないためである。絶縁厚さの薄い部分やストレート部分では、剥離を起こし難い。
【0018】
なお、導電性塗料は、第1の導電層10aと第2の導電層10bとも同種材料を用いた方が互いの接着力が増すので好ましい。例えば、第1、第2の導電層10a、10bとも同種材料の銀塗料を用いるものとする。
【0019】
また、第1の導電層10aを形成する導電性塗料よりも第2の導電層10bを形成する導電性塗料の熱変形温度を高くすると好ましい。熱変形温度は、シリカなどの充填剤の混合比を調整することで変えることができ、モールド時の温度(例えば150℃)と同等以上にすると好ましい。これにより、第2の導電層10bがモールド時の温度に対し、安定した特性を示すので、絶縁層2との接着をより強固とすることができる。
【0020】
上記実施例1の樹脂注型品によれば、中心導体1に2層からなる同電位の第1、第2の導電層10a、10bを設けて絶縁層2をモールドしているので、大きな温度変化があっても第1の導電層10aが中心導体1側に接着し、第2の導電層10bが絶縁層2側に接着して絶縁特性を向上させることができる。
【0021】
なお、上記実施例1では、樹脂注型品をT形ブッシングを用いて説明したが、棒状の中心導体の周りに同軸状の絶縁層をモールドした単一形またはコンデンサ形のブッシングにおいても、中心導体に2層の導電層を設けることにより、絶縁特性を向上させることができる。
【実施例2】
【0022】
次に、本発明の実施例2に係る樹脂注型品を図3を参照して説明する。図3は、本発明の実施例2に係る樹脂注型品の構成を示す要部拡大断面図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、導電層の厚さである。図3において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0023】
図3に示すように、中心導体1側の第1の導電層10aの厚さを絶縁層2側の第2の導電層10bよりも厚くしている。
【0024】
第1、第2の導電層10a、10bは、エポキシ樹脂をバインダーとしているので、中心導体1側よりも同様のエポキシ樹脂からなる絶縁層2側への接着力が大きくなる。即ち、第2の導電層10bと絶縁層2との接着力が大きいので、薄い厚さでも確実に接着させることができる。中心導体1側では、第1の導電層10aが充分な厚さを持ったものとなるので、中心導体1の一部が露出するような導電性塗料の塗布斑を防ぐことができ、第1の導電層10aを確実に設けることができる。
【0025】
上記実施例2の樹脂注型品によれば、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1に係る樹脂注型品の構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例1に係る樹脂注型品の構成を示す要部拡大断面図。
【図3】本発明の実施例2に係る樹脂注型品の構成を示す要部拡大断面図。
【図4】従来の樹脂注型品の構成を示す要部拡大断面図。
【符号の説明】
【0027】
1 中心導体
2 絶縁層
3、10a、10b 導電層
11 界面接続部
12 接地層
13 弾性絶縁体
14 接触導体
15 絶縁母線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電される中心導体と、
前記中心導体の周りに設けられた第1の導電層と、
前記第1の導電層の周りに設けられた第2の導電層と、
前記第2の導電層の周りにエポキシ樹脂をモールドして設けられた絶縁層と
を具備したことを特徴とする樹脂注型品。
【請求項2】
前記第1の導電層と前記第2の導電層とを同種材料の導電性塗料で設けたことを特徴とする請求項1に記載の樹脂注型品。
【請求項3】
前記第1の導電層よりも前記第2の導電層の厚さを薄くしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂注型品。
【請求項4】
先ず、中心導体の周りに導電性塗料を塗布し、加熱硬化させて第1の導電層を設け、
次に、前記第1の導電層の周りに導電性塗料を塗布し、加熱硬化させて第2の導電層を設け、
前記第1の導電層および前記第2の導電層を設けた前記中心導体を注型金型にセットし、
前記注型金型内にエポキシ樹脂を充填し、加熱硬化させることを特徴とする樹脂注型品の製造方法。
【請求項5】
前記第1の導電層よりも前記第2の導電層の熱変形温度を高くしたことを特徴とする請求項4に記載の樹脂注型品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−220305(P2009−220305A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64772(P2008−64772)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】