説明

樹脂組成物、コート層、およびインクジェット記録用媒体

【課題】 経時による着色が少ないポリビニルアルコール系樹脂の架橋構造体を含有する樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)をヒドラジン化合物(B)で架橋して得られた架橋構造体(C)と還元剤(D)とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂を架橋してなる架橋構造体を含有する樹脂組成物に関するものであって、さらに詳しくは、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂をヒドラジン化合物によって架橋してなる架橋構造体を含有する樹脂組成物にに関するものである。また、かかる樹脂組成物を含有するコート層、およびかかる樹脂組成物を含有する層を支持基材上に少なくとも一層有するインクジェット記録用媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂と略記する。)は、優れた水溶性、界面特性、皮膜特性(造膜性、強度、耐油性等)、等を利用して、分散剤、乳化剤、懸濁剤、繊維加工剤、紙加工剤、バインダー、接着剤、フィルム等に広く用いられている。しかしながら、PVA系樹脂は水溶性であるため耐水性に乏しく、その改善を目的とした検討、特に架橋による耐水化検討が広く行われてきた。
【0003】
しかしながら、一般のPVA系樹脂の場合、架橋反応に利用することができる官能基は二級水酸基のみであり、利用できる架橋方法、および架橋剤は限られたものであった。そこで、架橋反応の選択肢を増やし、架橋効率を向上させるため、反応性に富む官能基を導入した変性PVA系樹脂が各種提案されている。中でも、種々の架橋剤が適用でき、かつ反応性に優れるアセト酢酸エステル基を有する変性PVA系樹脂を架橋して得られた架橋構造体は、耐水性に優れることが知られており、かかる架橋構造体を含有する樹脂組成物が感熱紙の保護層などに広く使用されている。
【0004】
かかるアセト酢酸エステル基含有PVA系樹脂(以下、AA化PVA系樹脂と略記する。)の架橋剤として好適に用いられる化合物としては、アルデヒド化合物、アミン化合物、ヒドラジン化合物、メチロール化合物、金属化合物などが知られており、それぞれの特性に応じて、各種用途において使用されている。
中でも、ヒドラジン化合物は、比較的速い架橋速度が求められる用途に好適であり、例えば、AA化PVA系樹脂、ヒドラジン化合物、および無機微粒子を含有する水性塗工液を支持基材上に塗工し、加熱して架橋ゲル化させた後、穏やかな条件で乾燥させることによって光沢層が形成されたインクジェット記録用媒体が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【0005】
【特許文献1】特開2005−145043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、AA化PVA系樹脂をヒドラジン化合物で架橋して得られた架橋構造体は、その保存環境および使用条件等によっては経時で着色する傾向があり、上述のインクジェット記録用媒体のように、経時着色が嫌われる用途において、その改善は大きな課題である。
すなわち、本発明は、AA化PVA系樹脂とヒドラジン化合物によって得られる架橋構造体における経時着色の抑制を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記事情に鑑み鋭意検討した結果、AA化PVA系樹脂(A)をヒドラジン化合物(B)で架橋して得られた架橋構造体(C)と還元剤(D)とを含有することを特徴とする樹脂組成物によって上述の課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、経時による着色が少ないことから、各種基材に対するコート層あるいはインクジェット記録用媒体の光沢層として極めて好適である。
【0009】
なお、AA化PVA系樹脂とヒドラジン化合物は、下記式で表わされるアセト酢酸エステル基とヒドラジノ基との反応によって架橋構造が形成されるものと考えられる。
【化1】

しかしながら、かかる架橋構造の一部では、その後、ヒドラジン化合物に由来するNH基窒素がアセト酢酸エステル基に由来するカルボニル基炭素を求核攻撃し、続いてエステル基が切断し、下記式に示すように、PVA系樹脂側がビニルアルコール構造となるとともに、ピラゾロン環を有する化合物が生成する。
【化2】

【0010】
本発明では、AA化PVA系樹脂とヒドラジン化合物による架橋構造体において、かかるピラゾロン環含有化合物の酸化物が着色の原因物質であり、還元剤を併用することによって、かかる酸化物の生成が抑制され、着色が低減されたものと推測している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
〔AA化PVA系樹脂(A)〕
まず、本発明で用いられるAA化PVA系樹脂(A)について説明する。
本発明に用いるAA化PVA系樹脂(A)とは、側鎖にアセトアセチル基を有するPVA系樹脂である。
かかるAA化PVA系樹脂(A)の製造法としては、特に限定されるものではないが、例えば、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法、PVA系樹脂とアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換する方法、酢酸ビニルとアセト酢酸ビニルの共重合体をケン化する方法等を挙げることができるが、製造工程が簡略で、品質の良いAA化PVA系樹脂が得られることから、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法で製造するのが好ましい。以下、かかる方法について説明する。
【0013】
原料となるPVA系樹脂としては、一般的にはビニルエステル系モノマーの重合体のケン化物又はその誘導体が用いられ、かかるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済性の点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0014】
また、ビニルエステル系モノマーと該ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーとの共重合体のケン化物等を用いることもでき、かかる共重合モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート、等が挙げられる。
【0015】
なお、かかる共重合モノマーの導入量はモノマーの種類によって異なるため一概にはいえないが、通常は10モル%以下、特には5モル%以下であり、多すぎると水溶性が損なわれたり、架橋反応の阻害要因となる場合があるため好ましくない。
【0016】
また、通常のPVA系樹脂の場合、主鎖の結合様式は1,3−ジオール結合が主であり、1,2−ジオール結合の含有量は1.5〜1.7モル%程度であるが、ビニルエステル系モノマーを重合する際の重合温度を高温にすることによって、その含有量を1.7〜3.5モル%としたものを使用することも可能である。
【0017】
上記ビニルエステル系モノマーの重合体および共重合体をケン化して得られたPVA系樹脂とジケテンとの反応によるアセトアセチル基の導入には、PVA系樹脂とガス状或いは液状のジケテンを直接反応させても良いし、酢酸などの有機酸をPVA系樹脂に予め吸着吸蔵せしめた後、不活性ガス雰囲気下でガス状または液状のジケテンを噴霧、反応するか、またはPVA系樹脂に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応する等の方法が用いられる。
【0018】
上記の反応を実施する際の反応装置としては、加温可能で撹拌機の付いた装置であれば充分である。例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、その他各種ブレンダーを用いることができる。
【0019】
かくして得られるAA化PVA系樹脂(A)の平均重合度(JIS K6726に準拠)は、その用途によって適宜選択すればよいが、通常、300〜4000であり、特に400〜3500、さらに500〜3000のものが好適に用いられる。かかる平均重合度が小さすぎると、十分な耐水性が得られなかったり、十分な架橋速度が得られなくなる傾向があり、逆に大きすぎると、水溶液として使用した場合に、その粘度が高くなりすぎ、基材への塗工が困難になるなど、各種工程への適用が難しくなる傾向がある。
【0020】
また、本発明に用いられるAA化PVA系樹脂(A)のケン化度は、通常、80モル%以上であり、さらには85モル%以上、特には90モル%以上ものが好適に用いられる。かかるケン化度が低い場合には、水溶液とすることが困難になったり、水溶液の安定性が低下したり、得られた架橋高分子の耐水性が不充分となる傾向がある。
【0021】
また、AA化PVA系樹脂(A)中のアセトアセチル基含有量(以下AA化度と略記する。)は、通常、0.1〜20モル%であり、さらには0.2〜15モル%、特には0.3〜10モル%であるものが一般的に広く用いられる。かかる含有量が少なすぎると、十分な耐水性が不充分となったり、十分な架橋速度が得られなくなる傾向があり、逆に多すぎると、水溶性が低下したり、水溶液の安定性が低下する傾向がある。
【0022】
本発明においては、PVA系樹脂のすべてがAA化PVA系樹脂であるいことが好ましいが、AA化PVA系樹脂以外のPVA系樹脂が併用されていてもよく、その含有量は通常60重量%以下であり、特に50重量%以下、さらに30重量%以下であることが好ましい。
かかるAA化PVA系樹脂以外のPVA系樹脂としては、未変性のPVA系樹脂や、前述のビニルエステル系モノマーと共重合性を有する各種モノマーを共重合して得られた各種変性PVA系樹脂を挙げることができる。
【0023】
また、本発明のAA化PVA系樹脂(A)には、製造工程で使用あるいは副生した酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩(主として、ケン化触媒として用いたアルカリ金属水酸化物とポリ酢酸ビニルのケン化によって生成した酢酸との反応物等に由来)、酢酸などの有機酸(PVA系樹脂にアセト酢酸エステル基を導入する際の、ジケテンとの反応時にPVAに吸蔵させた有機酸等に由来)、メタノール、酢酸メチルなどの有機溶剤(PVA系樹脂の反応溶剤、AA化PVA製造時の洗浄溶剤等に由来)が一部残存していても差し支えない。
【0024】
〔ヒドラジン化合物(B)〕
次に、本発明で用いられるヒドラジン化合物(B)について説明する。
かかるヒドラジン化合物(B)は分子中にヒドラジノ基(H2N−NH−)を有する化合物であり、具体的には、ヒドラジン、ヒドラジンの塩酸,硫酸,硝酸,亜硫酸,リン酸,チオシアン酸,炭酸等の無機酸塩、ギ酸,酢酸、シュウ酸等の有機酸塩類、ヒドラジンのメチル,エチル,プロピル,ブチル,アリル等の一置換体、1,1−ジメチル,1,1−ジエチル等の対称二置換体などのヒドラジン誘導体、カルボヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン(味の素ファインテクノ社製「アミキュアVDH」等)、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド(味の素ファインテクノ社製「アミキュアUDH」等)などのジヒドラジド化合物、ポリアクリル酸ヒドラジド、N−アミノポリアクリルアミド、N−アミノアクリルアミド/アクリルアミド共重合体、などの多価ヒドラジド化合物等を挙げることができ、特に水溶性であるものが好ましく、中でもアジピン酸ジヒドラジドが本願発明の目的を顕著に発揮できる点で好適に用いられる。
【0025】
かかるヒドラジン化合物(B)の使用量は、得られる架橋構造体に求められる耐水性、架橋速度、などによって適宜選択することが可能であるが、通常は、AA化PVA系樹脂(A)100重量部に対して1〜20重量部、特に2〜10重量部、さらに3〜7重量部に範囲が好ましく用いられる。かかるヒドラジン化合物(B)の配合量が少なすぎると、架橋構造体の耐水性が低下したり、所望の架橋速度が得られなく傾向があり、また、その配合量が多すぎると、架橋速度が速くなりすぎ、AA化PVA系樹脂(A)とヒドラジン化合物(B)を混合した水溶液のポットライフが極めて短くなったり、これを塗工中に増粘、ゲル化してしまう場合がある。
【0026】
なお、本発明においては、上記ヒドラジン化合物(B)以外のAA化PVA系樹脂に用いられる公知の架橋剤を併用することも可能であり、かかる架橋剤としては、グリオキザールなどのアルデヒド化合物、メチロール化メラミンなどのメチロール化合物、塩基性塩化ジルコニルなどの金属化合物などを挙げることができる。
【0027】
〔還元剤(D)〕
次に、本発明で用いられる還元剤(D)について説明する。
本発明においては、還元剤(D)としては公知の還元剤を使用することができるが、AA化PVA系樹脂(A)、ヒドラジン化合物(B)のいずれも水溶性であり、これらの水溶液に配合して使用する場合が多いことから、特に水溶性の還元剤が好適に使用できる。 かかる水溶性の還元剤(D)として代表的なものを例示すると、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸亜鉛などの亜硫酸塩、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素カルシウム、亜硫酸水素アンモニウムなどの亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カルシウム、ピロ亜硫酸アンモニウムなどのピロ亜硫酸塩、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸アンモニウム、亜二チオン酸カリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート二水塩(ロンガリット)などの亜二チオン酸塩、三チオン酸ナトリウム、三チオン酸カリウムなどの三チオン酸塩、四チオン酸ナトリウム、四チオン酸カリウムなどの四チオン酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウムなどのチオ硫酸塩、亜リン酸アンモニウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸第一鉄、亜リン酸第二鉄、亜リン酸銅、亜リン酸バリウム、亜リン酸ヒドラジニウムなどの亜リン酸塩、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸水素カルシウム、亜リン酸水素第一鉄、亜リン酸水素第二鉄、亜リン酸水素マグネシウム、亜リン酸水素ヒドラジニウムなどの亜リン酸水素塩、亜硝酸アンモニウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸亜鉛、亜硝酸銀、亜硝酸ニッケル、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸リチウムなどの亜硝酸塩、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、ヒドラジンなどのアミン化合物、ギ酸、シュウ酸、クエン酸、L−アスコルビン酸などの有機酸およびその塩、を挙げることができる。
中でも、本発明の効果が顕著に得られるものとして、亜硫酸塩類、および亜二チオン酸塩から選ばれる水溶性無機還元剤が好ましく用いられる。
【0028】
かかる還元剤(D)の使用量は、AA化PVA系樹脂(A)100重量部に対して通常は0.1〜20重量部であり、特に0.5〜10重量部、さらに1〜5重量部の範囲が好ましく用いられる。かかる還元剤(D)の配合量が少なすぎると、本発明の効果である経時着色の抑制効果が十分に得られなくなる場合があり、逆に多すぎると、得られた樹脂組成物から過剰な還元剤が析出し、外観を阻害したり、周囲を汚染する場合がある。
【0029】
〔架橋構造体(C)および樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、AA化PVA系樹脂(A)をヒドラジン化合物(B)にて架橋して得られる架橋構造体(C)と還元剤(D)を含有するものであるが、架橋構造体(C)とした後、これに還元剤(D)を均一に混合することは困難であることから、通常は、架橋前のAA化PVA系樹脂(A)あるいはヒドラジン化合物(B)の少なくとも一方に還元剤(D)を配合し、その後、AA化PVA系樹脂(A)とヒドラジン化合物(B)を混合して架橋反応させることによって架橋構造体(C)と還元剤(D)とを含有する樹脂組成物が得る方法が採用される。かかる方法によって得られる本発明の樹脂組成物は、架橋構造体(C)中に還元剤(D)が分子レベルで均一に分散された状態で存在する。
【0030】
また、AA化PVA系樹脂(A)は水溶性樹脂であり、ヒドラジン化合物(B)として水溶性のものを使用することにより、水系媒体中でこれらを混合する方法が好ましく用いられる。
かかる混合方法としては、(i)AA化PVA系樹脂(A)とヒドラジン化合物(B)をともに水に投入して溶解する方法、(ii)AA化PVA系樹脂(A)の水溶液に架橋剤を添加して混合する方法、(iii)予めAA化PVA系樹脂(A)とヒドラジン架橋剤を別々に溶解したものを混合する方法、などが挙げられる。しかしながら、AA化PVA系樹脂(A)とヒドラジン化合物(B)との架橋反応は、低温で速やかに進行するため、(i)の方法は、AA化PVA系樹脂が完全に溶解しないうちに架橋ゲル化する可能性があり、(ii)の方法の場合でも、ヒドラジン化合物(B)が十分に溶液中に溶解、分散されない可能性があるため、(iii)の方法が好ましく、その場合においても、両水溶液を混合した後、速やかにこれを使用することが望ましい。
この場合、還元剤(D)はAA化PVA系樹脂(A)の水溶液、およびヒドラジン化合物(B)の水溶液のいずれか、あるいは両方に予め混合しておけばよい。
【0031】
ここで用いられるAA化PVA系樹脂(A)水溶液の濃度は、通常0.05〜40重量%であり、さらには1〜30重量%、特には1〜20重量%の範囲が好ましく用いられる。かかる濃度が大きすぎると粘度が高くなりすぎ、基材への塗工や、各種工程への適用が困難になる場合があるため好ましくない。また、濃度が小さすぎると樹脂量が不足したり、乾燥に長時間を要したりするため好ましくない。
また、ヒドラジン化合物(B)水溶液の濃度は、使用するヒドラジン化合物の溶解度によっても異なるため、一概には言えないが、通常は1〜50重量%、特に5〜30重量%の範囲が好ましく用いられる。かかる濃度が小さすぎると、得られた混合水溶液中の水分量が多くなり、乾燥に長時間を要する傾向があり、逆に大きすぎるとAA化PVA系樹脂(A)との反応が速くおこり、十分に混合できなくなる場合がある。
【0032】
かくして得られたAA化PVA系樹脂(A)とヒドラジン化合物(B)、および還元剤(D)を含有する混合水溶液は、塗工、注型、浸漬、等の公知の方法によって各種用途に適用され、その後、AA化PVA系樹脂(A)とヒドラジン化合物(B)の架橋反応が進行して、架橋構造体(C)が得られ、同時に、あるいはその後、乾燥することによって水分を除去される。
AA化PVA系樹脂とヒドラジン化合物による本発明の架橋構造体を含有する樹脂組成物は、耐水性が要求される各種用途に対して有用であり、特に、各種接着剤用途、バインダー用途、被覆剤用途等に好適である。特に、本発明の樹脂組成物は、耐水性に優れるとともに経時着色が少ないという特徴を有していることから、表面層に用いられることが好ましく、各種基材に対するコート層や、表面層を形成するバインダーとして用いることが好ましい。
【0033】
〔コート層〕
次に、本発明のコート層について説明する。
本発明のコート層は、上述のAA化PVA系樹脂(A)とヒドラジン化合物(B)による架橋構造体(C)と還元剤(D)を含有する樹脂組成物を含有するものである。
その製造法は、上述の樹脂組成物の製造法において得られた、AA化PVA系樹脂(A)、ヒドラジン化合物(B)および還元剤(D)を含有する水溶液を各種基材に塗工し、これを乾燥することによって得る方法が通常用いられる。
かかるコート層中の樹脂組成物は、架橋構造体(C)中に還元剤(D)が分子レベルで均一に分散された状態で存在している。
【0034】
基材としては、紙、木質素材、プラスチック材料、金属材料などあらゆる素材を用いることが可能であるが、本発明の特徴を活かす素材として、特にガラスや透明プラスチックなどの透明素材、あるいは白色や淡色の素材が好ましく用いられる。
【0035】
コート層の厚さは、その使用目的によって異なり、所望の厚さを選定できるが、通常は1〜1000μm、特に5〜500μm、さらに10〜300μmの範囲で用いることが多い。
【0036】
なお、上述の水溶液を塗工した後の乾燥条件としては、使用形態によって適宜選択されるものではあるが、通常は5〜150℃、さらには30〜150℃、特には50〜150℃の温度条件で、0.1〜60分、さらには0.1〜30分、特には0.2〜20分の乾燥時間が好ましく用いられる。
【0037】
〔インクジェット記録用媒体〕
次に、本発明のインクジェット記録用媒体について説明する。
本発明のインクジェット記録用媒体は、本発明の樹脂組成物、すなわち、AA化PVA系樹脂(A)とヒドラジン化合物(B)による架橋構造体(C)と還元剤(D)を含有する樹脂組成物を含有する層を支持基材上に少なくとも一層有するものであり、特に記録用媒体の再表面層を形成する層に用いることが好適である。なお、本発明の樹脂組成物をかかる用途に適用する場合には、インク受容のための空隙形成、光沢性の向上、表面硬度の向上などの目的から、かかる樹脂組成物にさらに無機微粒子(E)が含有される。
【0038】
支持基材としては 特に限定せず、紙(マニラボール、白ボール、ライナー等の板紙、一般上質紙、中質紙、グラビア用紙等の印刷用紙、上・中・下級紙、新聞用紙、剥離紙、カーボン紙、ノンカーボン紙、グラシン紙など)、樹脂コート紙、合成紙、不織布、布、金属箔、ポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレン、PET、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体)等の熱可塑性樹脂からなるフィルムやシートが使用できる。特に、フォトライク紙としては、RC(レジンコート)紙やプラスチックフィルムといった平滑度が高い支持基材が好ましく用いられる。
さらに、必要に応じて、支持基材と本発明の樹脂組成物を含有する層との間にプライマー層を介在させてもよい。
【0039】
無機微粒子(E)としては、気相法シリカ、湿式法シリカ、コロイダルシリカなどの非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナゾル、アルミナ水和物、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、ゼオライト、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、などが挙げられ、これらを単独で、あるいは複合して使用される。中でもインク吸収性と生産性、経済性などの点から非晶質合成シリカやアルミナが好ましく用いられる。
【0040】
かかる無機微粒子(E)としては、光沢性の点から、通常、平均二次粒子径が3〜500nmのものが用いられ、特に3〜200nm、さらに10〜50nmのものが好ましく用いられる。かかる平均粒子径が小さすぎると、無機微粒子による空隙量が少なくなったり、空隙のサイズが小さくなりすぎて、インクの吸収性を阻害し、フェザリングや画像部の斑などの原因となる場合があり、逆に大きすぎると光沢性が損なわれる傾向がある。
【0041】
かかる無機微粒子(E)の含有量は、通常、AA化PVA系樹脂(A)100重量部に対して、200〜2000重量部であり、特に300〜1000重量部の範囲が好ましく用いられる。かかる無機微粒子(E)の含有量が多すぎると、光沢性が低下したり、樹脂によるバインダー力が不足して、保存時、および使用時に無機微粒子の粉末が遊離する場合があり、逆に少なすぎると、層中の空隙量が少なくなって、十分にインクを吸収しなくなる傾向がある。
【0042】
本発明のインクジェット記録用媒体は、上述の支持基材上に、AA化PVA系樹脂(A)、ヒドラジン化合物(B)、および無機微粒子(E)、さらに所望により添加される添加剤を水に分散させて得られた水性塗工液を塗工し、これを乾燥することによって形成される。
【0043】
かかる水性組成物中の総固形分は、通常、組成物全体の5〜60重量%の範囲が用いられ、特に10〜50重量%、さらには10〜30重量%の範囲が好適に用いられる。かかる総固形分が少なすぎると乾燥負荷が大きくなると共に、塗工により形成される記録層の厚みの均一性が低下する場合があり、逆に多すぎると、高速での塗工が困難となり、作業性が低下することがあるため好ましくない。
【0044】
本発明の樹脂組成物を含有する層の厚さとしては、インク吸収性、光沢層の強度などの点から、適宜選択することが可能であるが、通常は無機微粒子の固形分として5〜50g/m2、特に10〜40g/m2、さらに20〜30g/m2の範囲が好ましく用いられる。
【0045】
支持体上にかかる水性塗工液を塗工する方法としては、バーコーター法、エアナイフコーター法、ブレードコーター法、カーテンコーター法などの公知の塗工方法が用いられる。
また。水性組成物の塗布量は、得られた光沢層のインク吸収性、層の強度などから、適宜選択することが可能であるが、通常、乾燥後の厚みが3〜100μmであり、さらには5〜80μm、特には10〜50μmの範囲が好ましく用いられる。
【0046】
塗工後は塗工液を乾燥すればよいが、特に光沢性に優れた層をえるためには、塗工後、湿潤状態で加熱することによって塗工液をゲル化させ、流動性がない状態にした後、乾燥によって水分を除去する方法が好ましく用いられる。かかるゲル化に際しての加熱条件としては、30〜100℃、特に40〜90℃の温度範囲で、1秒〜5分、特に5秒〜5分の範囲が好ましく用いられる。また、その後の乾燥条件としては、通常50〜120℃で1〜30分程度乾燥させればよい。また、乾燥前の湿潤状態で、キャストドラムに圧接し、さらにその状態で乾燥させることで、高度な表面光沢性・平滑性を付与する方法も好ましく用いられる。
【0047】
なお、本発明のインクジェット記録用媒体を製造するための樹脂組成物水性塗工液には、必要に応じて、下記に示す(1)アニオン性インクの定着剤としてカチオン性基を有する樹脂、(2)PVA系樹脂以外の水溶性樹脂や水分散性樹脂、(3)その他の成分、などを含有してもよい。
(1)カチオン性基含有樹脂
ポリエチレンポリアミン、ポリプロピレンポリアミン、などのポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、第2級アミノ基、第3級アミノ基や第4級アンモニウム塩を有するアクリル重合体、ポリビニルアミン共重合体、ポリビニルアミジン共重合体、ジシアンジアミド・ホルマリン共重合体、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重合体、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体など。
【0048】
(2)水溶性樹脂、水分散性樹脂
デンプン、酸化デンプン、カチオン変性デンプン等のデンプン誘導体;ゼラチン、カゼイン、等の天然系たんぱく質類、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、CMC等のセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、ペクチン酸等の天然高分子多糖類、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸塩などの水溶性樹脂、SBRラテックス、NBRラテックス、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、(メタ)アクリルエステル樹脂系エマルジョン、塩化ビニル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョンなど。
【0049】
(3)その他
顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、浸透剤、染料、顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、紙力増強剤など。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0051】
実施例1
〔AA化PVA系樹脂(A)の製造〕
還流冷却機、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000部、メタノール300部、およびアゾビスイソブチロニトリル0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら温度を上昇させ、沸点下で5時間重合を行った。酢酸ビニルの重合度が70%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し、重合体のメタノール溶液(樹脂分41%)を得た。続いて、該溶液を酢酸メチル(誘電率7.03)で希釈して、濃度29.5%(ケン化溶媒の誘電率23.7)に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら水酸化ナトリウムを加えて中和した。これに更に水酸化ナトリウムをポリマー中の酢酸ビニル単位1モルに対して11ミリモル加えてケン化し、析出物をろ別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、さらに80℃で60分間熱処理してPVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、92.5モル%であり、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ1700であり、酢酸ナトリウム含有量は0.5%であった。
該PVA系樹脂を、ニーダーに3600部仕込み、これに酢酸540部を入れ、膨潤させ、回転数20rpmで攪拌しながら、60℃に昇温後、ジケテン420部を3時間かけて滴下し、更に1時間反応させた。反応終了後、メタノールで洗浄した後、70℃で6時間乾燥してAA化PVA系樹脂(A1)を得た。かかるAA化PVA系樹脂(A1)のAA化度4.4モル%であり、ケン化度および平均重合度は用いたPVA系樹脂の通りである。
【0052】
〔樹脂組成物の製造とその評価〕
得られたAA化PVA系樹脂(A1)の10%水溶液1000部にヒドラジン化合物(B)としてアジピン酸ジヒドラジド5部、還元剤(D)として亜硫酸水素ナトリウム10部を加え、攪拌した。数分以内で架橋反応が進行し、AA化PVA系樹脂(A)とヒドラジン化合物(B)による架橋構造体(C)および還元剤(D)を含有する樹脂組成物を含有する水性ゲルが生成した。
かかる水性ゲルを二週間常温で放置した後、80℃で4時間熱処理し、その着色状態を目視観察した。結果を表1に示す。
【0053】
実施例2
実施例1において、還元剤(D)として亜硫酸水素ナトリウムに代えて亜二チオン酸ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして水性ゲルを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0054】
比較例1
実施例1において、亜硫酸水素ナトリウムを配合しなかった以外は実施例1と同様にして水性ゲルを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0055】
〔表1〕
──────────────────────────────────────
還元剤 着色状態
──────────────────────────────────────
実施例1 亜硫酸水素ナトリウム 白色
〃 2 亜二チオン酸ナトリウム 白色
──────────────────────────────────────
比較例1 なし 黄色
──────────────────────────────────────
【0056】
これらの結果から明らかなように、還元剤を配合しない比較例1のAA化PVA系樹脂とヒドラジン化合物による架橋構造体は、経時およびそれを促進する熱処理によって着色するが、実施例の還元剤を配合した樹脂組成物は、全く着色が認められず、長期間安定で、優れた品質を維持できることが判る。
なお、本実施例では着色状態の評価を架橋構造体樹脂組成物のみに対して行っているが、これらの結果は、かかる樹脂組成物を含有するコート層、およびインクジェット記録用媒体として評価した場合にも同様の結果が得られるものである。

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の樹脂組成物は、経時による着色が少ないことから、各種基材に対するコート層、特にインクジェット記録用媒体における光沢層として極めて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)をヒドラジン化合物(B)で架橋して得られた架橋構造体(C)と還元剤(D)とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
還元剤(D)が水溶性無機還元剤であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
還元剤(D)の含有量が、架橋構造体(C)100重量部に対して0.1〜20重量部であることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の樹脂組成物を含有することを特徴とするコート層。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか記載の樹脂組成物を含有する層を少なくとも一層有することを特徴とするインクジェット記録用媒体。

【公開番号】特開2009−280754(P2009−280754A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136441(P2008−136441)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】