説明

樹脂組成物、フィルム、積層体、硬化物、及び複合体

【課題】、表面粗度が低く、かつ、導体層に対する密着性に優れた硬化物を与える樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】分子内にエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)、分子内にオキサゾリン基を有する化合物(B)、ゴム状重合体(C)、及びエポキシ硬化剤(D)を含有してなる樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、フィルム、積層体、硬化物、及び複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、多機能化、通信高速化などの追求に伴い、電子機器に用いられる回路基板のさらなる高密度化が要求されており、このような高密度化の要求に応えるために、回路基板の多層化が図られている。このような多層回路基板は、例えば、電気絶縁層とその表面に形成された導体層とからなる内層基板の上に、電気絶縁層を積層し、この電気絶縁層の上に導体層を形成させ、さらに、これら電気絶縁層の積層と、導体層の形成と、を繰り返し行なうことにより形成される。
【0003】
このような多層回路基板の電気絶縁層を構成するための材料としては、一般的にセラミックや熱硬化性樹脂が用いられている。なかでも、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂は、経済性と性能のバランスの点で優れるため、広く使用されている。
【0004】
このような電気絶縁層を構成するためのエポキシ樹脂材料として、たとえば、特許文献1には、カルボキシル基及び/又は水酸基を有する熱可塑性樹脂と、分子内にオキサゾリン基を有する化合物と、エポキシ樹脂とを含有する樹脂組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤と、粗化剤により分解もしくは溶解するフィラーと、有機溶剤とを含有してなる樹脂組成物であって、エポキシ樹脂全体を100重量部とした場合に、一方のエポキシ樹脂よりも反応性の遅いゴム変性エポキシ樹脂を30〜80重量部含有する樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−260907号公報
【特許文献2】特開2002−280683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上述した特許文献1及び特許文献2に記載の技術では、得られる樹脂層について、無電解めっきなどにより導体層を形成する場合には、樹脂層の表面を粗面化し表面粗度を高くすることにより、樹脂層と導体層との密着性を向上させている。しかしながら、樹脂層の表面粗度を高くしてしまうと、樹脂層表面に形成した導体層をエッチングすることにより微細配線を形成した際に、エッチング不良によりパターン間に導体が残ったり、エッチング過剰により導体に浮きや剥れが発生してしまい、多層回路基板とした場合における信頼性が不十分であるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、表面粗度が低く、かつ、導体層に対する密着性に優れた硬化物を与える樹脂組成物、ならびに、これを用いて得られるフィルム、積層体、硬化物、及び複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、分子内にエポキシ基を有する化合物、分子内にオキサゾリン基を有する化合物、ゴム状重合体、及びエポキシ硬化剤を用いて得られる硬化物が、表面粗度が低く、かつ、導体層に対する密着性に優れているものであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕分子内にエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)、分子内にオキサゾリン基を有する化合物(B)、ゴム状重合体(C)、及びエポキシ硬化剤(D)を含有してなる樹脂組成物、
〔2〕前記分子内にオキサゾリン基を有する化合物(B)が、側鎖及び/又は末端にオキサゾリン基を有する高分子化合物である前記〔1〕に記載の樹脂組成物、
〔3〕極性基を有する脂環式オレフィン重合体(E)をさらに含有する前記〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂組成物、
〔4〕無機充填剤(F)をさらに含有する前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の樹脂組成物、
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の樹脂組成物からなるフィルム、
〔6〕前記〔5〕に記載のフィルムを基材に積層してなる積層体、
〔7〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の樹脂組成物、前記〔5〕に記載のフィルム、又は前記〔6〕に記載の積層体を硬化してなる硬化物
〔8〕前記〔7〕に記載の硬化物の表面に、無電解めっきにより、導体層を形成してなる複合体、ならびに、
〔9〕前記〔7〕に記載の硬化物、又は前記〔8〕に記載の複合体を構成材料として含む電子材料用基板、
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面粗度が低く、かつ、導体層に対する密着性に優れた硬化物を与える樹脂組成物、ならびに、これを用いて得られるフィルム、積層体、硬化物、及び複合体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、分子内にエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)、分子内にオキサゾリン基を有する化合物(B)、ゴム状重合体(C)、及びエポキシ硬化剤(D)を含有してなる。
【0013】
(分子内にエポキシ基を有するエポキシ化合物(A))
本発明で用いる分子内にエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)(以下、適宜、「エポキシ化合物(A)」と略記する。)としては、エポキシ基を1つ以上有するものであればよいが、本発明においては、分子内に少なくとも2つのエポキシ構造を有する多価エポキシ化合物が好ましい。
【0014】
エポキシ化合物(A)の例としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、クレゾール型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ポリフェノール型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールF型エポキシ化合物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物等のグリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、イソシアヌレート型エポキシ化合物や、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、得られるフィルム、積層体及び硬化物の機械物性を良好なものとすることができるという点より、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ポリフェノール型エポキシ化合物や、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。なお、これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0015】
ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、たとえば、商品名「jER827、jER828、jER828EL、jER828XA、jER834」(以上、三菱化学社製)、商品名「エピクロン840、エピクロン840−S、エピクロン850、エピクロン850−S、エピクロン850−LC」(以上、大日本インキ化学工業社製、「エピクロン」は登録商標)などが挙げられる。ポリフェノール型エポキシ化合物としては、たとえば、商品名「1032H60、XY−4000」(以上、三菱化学社製)などが挙げられる。脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造を有するエポキシ樹脂としては、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂〔たとえば、商品名「エピクロンHP7200L、エピクロンHP7200、エピクロンHP7200H、エピクロンHP7200HH」(以上、大日本インキ化学工業社製);商品名「Tactix558」(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製);商品名「XD−1000−1L、XD−1000−2L」(以上、日本化薬社製)〕や、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂〔たとえば、商品名「オンコートEX−1010、オンコートEX−1011、オンコートEX−1012、オンコートEX−1020、オンコートEX−1030、オンコートEX−1040、オンコートEX−1050、オンコートEX−1051」(以上、長瀬産業社製、「オンコート」は登録商標);商品名「オグソールPG−100、オグソールEG−200、オグソールEG−250)」(以上、大阪ガスケミカル社製、「オグソール」は登録商標)〕などが挙げられる。
【0016】
(分子内にオキサゾリン基を有する化合物(B))
本発明で用いる分子内にオキサゾリン基を有する化合物(B)(以下、適宜、「オキサゾリン基含有化合物(B)」と略記する。)は、オキサゾリン基を分子内に少なくとも1つ有する化合物であればよい。本発明においてオキサゾリン基には、当該オキサゾリン基に存在する水素原子の1以上が置換された誘導体も含まれる。オキサゾリン基含有化合物(B)としては、たとえば、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物が好ましく挙げられる。
【化1】

(上記一般式(1)中、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、又は、置換基を有していてもよいフェニル基を示し、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基、又は、置換基を有していてもよいフェニル基を示す。)
【化2】

(上記一般式(2)中、R、R、R、R、R10、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基、又は、置換基を有していてもよいフェニル基を示す。)
【化3】

(上記一般式(3)中、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20及びR21は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基、又は、置換基を有していてもよいフェニル基を示し、R22は、アルキレン基、アルケニレン基、又は、置換基を有していてもよいフェニレン基を示す。)
【0017】
上記一般式(1)〜(3)において、通常、アルキル基の炭素数は1〜10、アルケニル基の炭素数は2〜10、アラルキル基の炭素数は7〜20、アルキレン基の炭素数は1〜10、アルケニレン基の炭素数は1〜10であり、これらの基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。また、フェニル基及びフェニレン基の置換基としては、例えば、ヘテロ原子を含んでいてもよい、炭素数1〜10のアルキル基や炭素数2〜10のアルケニル基などが挙げられる。
【0018】
上記一般式(1)〜(3)で表される分子内にオキサゾリン基を含有する化合物としては、たとえば、2−フェニルオキサゾリン、4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリン、2−イソプロピル−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2,4,4−トリメチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、1,3−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、1,4−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−ビス(2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−エチレンビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2−シクロヘキシルビス(4−エチル−2−オキサゾリン)等が挙げられる。
【0019】
また、本発明において、オキサゾリン基含有化合物(B)としては、硬化物とした場合における、導体層に対する密着性をより向上させることができるという観点より、側鎖及び/又は末端にオキサゾリン基を有する高分子化合物であることが好ましい。側鎖及び/又は末端にオキサゾリン基を有する高分子化合物の重量平均分子量は、好ましくは10,000〜300,000であり、より好ましくは20,000〜200,000である。オキサゾリン基を有する高分子化合物の重量平均分子量は、例えば、テトラヒドロフランを溶媒として、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として求めることが可能である。
【0020】
側鎖及び/又は末端にオキサゾリン基を有する高分子化合物としては、オキサゾリン基を有する1種類以上のモノマーと、オキサゾリン基を有しない1種類以上のモノマーとを共重合させて得られる高分子化合物であることが好ましい。
【0021】
オキサゾリン基を有するモノマーとしては、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、及び2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリンなどを用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
また、オキサゾリン基を有しないモノマーとしては、オキサゾリン基を有するモノマーと共重合可能なものであれば特に限定されないが、たとえば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどの不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;スチレン、α−メチルスチレンなどのα,β−不飽和芳香族モノマー類;又はテレフタル酸、トリメリット酸などの芳香族カルボン酸類;などを用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
なかでも、側鎖及び/又は末端にオキサゾリン基を有する高分子化合物としては、フィルムや硬化物とした場合における、導体層に対する密着性の向上効果が高いという観点より、下記一般式(4)で表される高分子化合物が特に好ましい。
【化4】

(上記一般式(4)中、u、vは、それぞれ独立に1以上の整数である。)
【0024】
本発明の樹脂組成物中における、オキサゾリン基含有化合物(B)の配合量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して、好ましくは、15〜60重量部、より好ましくは15〜40重量部、さらに好ましくは20〜30重量部の範囲である。オキサゾリン基含有化合物(B)の配合量を上記範囲とすることにより、樹脂組成物の流動性を低下させることなく、硬化した場合における、導体層に対する密着性をより向上させることができる。
【0025】
(ゴム状重合体(C))
本発明で用いるゴム状重合体(C)は、常温(25℃)以下のガラス転移温度を持つゴム状の重合体であればよく特に限定されない。本発明においては、オキサゾリン基含有化合物(B)と、ゴム状重合体(C)とを併用することにより、得られる硬化物を、当該硬化物の表面粗度を低いものとしながら、導体層に対する密着性に優れたものとすることができる。
【0026】
ゴム状重合体(C)の具体例としては、エチレン−α−オレフィン系ゴム状重合体;エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体ゴム;エチレン−メチルメタクリレート、エテレン−ブチルアクリレートなどのエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体;エチレン−酢酸ビニルなどのエチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリルなどのアクリル酸アルキルエステルの重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン又はスチレン−イソプレンのランダム共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−アクリロニトリル−スチレン共重合体などのジエン系ゴム;エポキシ化ポリブタジエンなどの変性ジエン系ゴム;ブチレン−イソプレン共重合体;などが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらのなかでも、変性ジエン系ゴムが好ましく、エポキシ化ポリブタジエンがより好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物中における、ゴム状重合体(C)の配合量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して、好ましくは10〜40重量部、より好ましくは10〜30重量部、さらに好ましくは20〜30重量部の範囲である。ゴム状重合体(C)の配合量を上記範囲とすることにより、硬化物とした場合における、フィルムの耐熱性を低下させることなく、導体層に対する密着性とをより向上させることができる。また、ゴム状重合体(C)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜10,000であり、より好ましくは1,000〜5,000である。ゴム状重合体(C)の重量平均分子量は、例えば、テトラヒドロフランを溶媒として、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として求めることが可能である。
【0028】
(エポキシ硬化剤(D))
エポキシ硬化剤とは、エポキシ化合物(A)と反応し硬化する機能を有する化合物であればよく、たとえば、フェノール性水酸基を有する化合物、芳香族アミン化合物及び酸無水物等が挙げられる。これらの中でも、耐湿性、成形性、保存安定性等を考慮すると、フェノール性水酸基を有する化合物(以下、フェノール化合物と略記する)が好ましい。
【0029】
フェノール化合物としては、分子中にフェノール性水酸基を有するものであれば特に限定するものではなく、たとえば、フェノールノボラック樹脂、キシリレン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン樹脂、又はこれらの変性樹脂が挙げられる。また、フェノール化合物としては、本発明の樹脂組成物の硬化性の観点から、フェノール化合物の水酸基当量が50〜300のものを用いることが好ましい。
【0030】
フェノール化合物を配合する場合における配合量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して、好ましくは20〜100重量部、より好ましくは30〜80重量部、さらに好ましくは50〜70重量部の範囲である。
【0031】
(極性基を有する脂環式オレフィン重合体(E))
本発明の樹脂組成物は、エポキシ化合物(A)、オキサゾリン基含有化合物(B)、ゴム状重合体(C)、及びエポキシ硬化剤(D)に加えて、極性基を有する脂環式オレフィン重合体(E)をさらに含有していてもよい。本発明で用いる極性基を有する脂環式オレフィン重合体(E)(以下、適宜、「脂環式オレフィン重合体(E)」と略記する。)を構成する脂環式構造としては、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造などが挙げられるが、機械的強度や耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造が好ましい。また、脂環式構造としては、単環、多環、縮合多環、橋架け環や、これらを組み合わせてなる多環などが挙げられる。脂環式構造を構成する炭素原子数は、特に限定されないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であり、環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲にある場合に、機械的強度、耐熱性、及び成形性の諸特性が高度にバランスされ好適である。また、脂環式オレフィン重合体(E)は、通常、熱可塑性のものである。
【0032】
脂環式オレフィン重合体(E)中の脂環式オレフィン由来の繰り返し単位の割合は、特に限定されないが、通常30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%である。脂環式オレフィン由来の繰り返し単位の割合が少なすぎると、耐熱性に劣り好ましくない。脂環式オレフィン由来の繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、格別な限定はなく、目的に応じて適宜選択される。
【0033】
脂環式オレフィン重合体(E)が有する極性基としては、特に限定されないが、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、カルボキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、エステル基、カルボン酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられるが、これらのなかでも、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、及びフェノール性水酸基が好ましく、カルボン酸無水物基がより好ましい。なお、脂環式オレフィン重合体(E)は、2種以上の極性基を有するものであってもよい。また、脂環式オレフィン重合体(E)の極性基は、重合体の主鎖を構成する原子に直接結合していても、メチレン基、オキシ基、オキシカルボニルオキシアルキレン基、フェニレン基などの他の二価の基を介して結合していてもよい。脂環式オレフィン重合体(E)中の極性基の含有率は、特に制限されないが、脂環式オレフィン重合体(E)を構成する全繰り返し単100モル%中、通常5〜60モル%、好ましくは10〜50モル%である。
【0034】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(E)は、たとえば、以下の方法により得ることができる。すなわち、(1)極性基を有する脂環式オレフィンを、必要に応じて他の単量体を加えて、重合する方法、(2)極性基を有しない脂環式オレフィンを、極性基を有する単量体と共重合する方法、(3)極性基を有する芳香族オレフィンを、必要に応じて他の単量体を加えて、重合し、これにより得られる重合体の芳香環部分を水素化する方法、(4)極性基を有しない芳香族オレフィンを、極性基を有する単量体と共重合し、これにより得られる重合体の芳香環部分を水素化する方法、又は、(5)極性基を有しない脂環式オレフィン重合体に極性基を有する化合物を変性反応により導入する方法、もしくは(6)前述の(1)〜(5)のようにして得られる極性基(例えばカルボン酸エステル基など)を有する脂環式オレフィン重合体の極性基を、例えば加水分解することなどにより他の極性基(例えばカルボキシル基)に変換する方法などにより得ることができる。これらのなかでも、前述の(1)の方法によって得られる重合体が好適である。
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(E)を得る重合法は開環重合や付加重合が用いられるが、開環重合の場合には得られた開環重合体を水素添加することが好ましい。
【0035】
極性基を有する単量体として用いられ得る、極性基を有する脂環式オレフィンの具体例としては、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチル−9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−カルボキシメチル−9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−エキソ−6−エンド−ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−エキソ−10−エンド−ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、などのカルボキシル基を有する脂環式オレフィン;ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン−9,10−ジカルボン酸無水物、ヘキサシクロ[10.2.1.13,10.15,8.02,11.04,9]ヘプタデカ−6−エン−13,14−ジカルボン酸無水物などのカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン;9−メチル−9−メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどのカルボン酸エステル基を有する脂環式オレフィン;(5−(4−ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−(4−ヒドロキシフェニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、N−(4−ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドなどのフェノール性水酸基を有する脂環式オレフィン;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
極性基を有しない脂環式オレフィンの具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、9−メチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−ビニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−プロペニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−フェニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン、シクロペンテン、シクロペンタジエンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0037】
極性基を有しない芳香族オレフィンの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0038】
脂環式オレフィンや芳香族オレフィンと共重合することができる、極性基を有する脂環式オレフィン以外の、極性基を有する単量体としては、極性基を有するエチレン性不飽和化合物が挙げられ、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0039】
脂環式オレフィンや芳香族オレフィンと共重合することができる、脂環式オレフィン以外の、極性基を有しない単量体としては、極性基を有しないエチレン性不飽和化合物が挙げられ、その具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のエチレン又はα−オレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(E)の分子量は、特に限定されないが、テトロヒドロフランを溶媒として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量が、500〜1,000,000の範囲であることが好ましく、1,000〜500,000の範囲であることがより好ましく、特に好ましくは、5,000〜300,000の範囲である。重量平均分子量が小さすぎると樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の機械的強度が低下し、大きすぎるとシート状又はフィルム状に成形して成形体とする際に作業性が悪化する傾向がある。
【0041】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(E)を、開環重合法により得る場合の重合触媒としては、従来公知のメタセシス重合触媒を用いることができる。メタセシス重合触媒としては、Mo,W,Nb,Ta,Ruなどの原子を含有してなる遷移金属化合物が例示され、なかでも、Mo,W又はRuを含有する化合物は重合活性が高くて好ましい。特に好ましいメタセシス重合触媒の具体的な例としては、(1)ハロゲン基、イミド基、アルコキシ基、アリロキシ基又はカルボニル基を配位子として有する、モリブデンあるいはタングステン化合物を主触媒とし、有機金属化合物を第二成分とする触媒や、(2)Ruを中心金属とする金属カルベン錯体触媒を挙げることができる。
【0042】
上記(1)の触媒で主触媒として用いられる化合物の例としては、MoCl、MoBrなどのハロゲン化モリブデン化合物やWCl、WOCl、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテルなどのハロゲン化タングステン化合物が挙げられる。また、上記(1)の触媒で、第二成分として用いられる有機金属化合物としては、周期表第1族、2族、12族、13族又は14族の有機金属化合物を挙げることができる。なかでも、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が好ましく、有機リチウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が特に好ましい。有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、ネオペンチルリチウム、ネオフィルリチウムなどを挙げることができる。有機マグネシウムとしては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド、ネオペンチルマグネシウムクロリド、ネオフィルマグネシウムクロリドなどを挙げることができる。有機亜鉛化合物としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛などを挙げることができる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、エチルアルミニウムジエトキシドなどを挙げることができ、さらに、これらの有機アルミニウム化合物と水との反応によって得られるアルミノキサン化合物も用いることができる。有機スズ化合物としては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズなどを挙げることができる。これらの有機金属化合物の量は、用いる有機金属化合物によって異なるが、主触媒の中心金属に対して、モル比で、0.1〜10,000倍が好ましく、0.2〜5,000倍がより好ましく、0.5〜2,000倍が特に好ましい。
【0043】
また、上記(2)のRuを中心金属とする金属カルベン錯体触媒としては、(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン−〔1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジブロモイミダゾール−2−イリデン〕−〔ベンジリデン〕ルテニウムジクロリド、4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムなどが挙げられる。
【0044】
メタセシス重合触媒の使用割合は、重合に用いる単量体に対して、(メタセシス重合触媒中の遷移金属:単量体)のモル比で、通常1:100〜1:2,000,000の範囲であり、好ましくは1:200〜1:1,000,000の範囲である。触媒量が多すぎると触媒除去が困難となり、少なすぎると十分な重合活性が得られないおそれがある。
【0045】
重合反応は、通常、有機溶媒中で行なう。用いられる有機溶媒は、重合体が所定の条件で溶解又は分散し、重合に影響しないものであれば、特に限定されないが、工業的に汎用されているものが好ましい。有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒;アニソール、フェネトールなどの芳香族エーテル系溶媒;などを挙げることができる。これらの中でも、工業的に汎用されている芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶剤、芳香族エーテル系溶媒が好ましい。
【0046】
有機溶媒の使用量は、重合溶液中の単量体の濃度が、1〜50重量%となる量であることが好ましく、2〜45重量%となる量であることがより好ましく、3〜40重量%となる量であることが特に好ましい。単量体の濃度が1重量%未満の場合は生産性が悪くなり、50重量%を超えると、重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素添加反応が困難となる場合がある。
【0047】
重合反応は、重合に用いる単量体とメタセシス重合触媒とを混合することにより開始される。これらを混合する方法としては、単量体溶液にメタセシス重合触媒溶液を加えてもよいし、その逆でもよい。用いるメタセシス重合触媒が、主触媒である遷移金属化合物と第二成分である有機金属化合物とからなる混合触媒である場合には、単量体溶液に混合触媒の反応液を加えてもよいし、その逆でもよい。また、単量体と有機金属化合物との混合溶液に遷移金属化合物溶液を加えてもよいし、その逆でもよい。さらに、単量体と遷移金属化合物の混合溶液に有機金属化合物を加えてもよいし、その逆でもよい。
【0048】
重合温度は特に制限はないが、通常、−30℃〜200℃、好ましくは0℃〜180℃である。重合時間は、特に制限はないが、通常、1分間〜100時間である。
【0049】
得られる脂環式オレフィン重合体の分子量を調整する方法としては、ビニル化合物又はジエン化合物を適当量添加する方法を挙げることができる。分子量調整に用いるビニル化合物は、ビニル基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレートなど酸素含有ビニル化合物、アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物などを挙げることができる。分子量調整に用いるジエン化合物としては、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン、又は、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエンを挙げることができる。ビニル化合物又はジエン化合物の添加量は、目的とする分子量に応じて、重合に用いる単量体に対して、0.1〜10モル%の間で任意に選択することができる。
【0050】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(E)を、付加重合法により得る場合の重合触媒としては、たとえば、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒が好適に用いられる。これらの重合触媒は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合触媒の量は、重合触媒中の金属化合物:重合に用いる単量体のモル比で、通常、1:100〜1:2,000,000の範囲である。
【0051】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(E)として、開環重合体の水素添加物を用いる場合の、開環重合体に対する水素添加は、通常、水素添加触媒を用いて行われる。水素添加触媒は特に限定されず、オレフィン化合物の水素添加に際して一般的に使用されているものを適宜採用すればよい。水素添加触媒の具体例としては、たとえば、酢酸コバルトとトリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナートとトリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリドとn−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリドとsec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネートとジメチルマグネシウムのような遷移金属化合物とアルカリ金属化合物との組み合わせからなるチーグラー系触媒;ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、特開平7−2929号公報、特開平7−149823号公報、特開平11−209460号公報、特開平11−158256号公報、特開平11−193323号公報、特開平11−209460号公報などに記載されている、たとえば、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリドなどのルテニウム化合物からなる貴金属錯体触媒;などの均一系触媒が挙げられる。また、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムなどの金属を、カーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタンなどの担体に担持させた不均一触媒、たとえば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナなどを用いることもできる。また、上述したメタセシス重合触媒をそのまま、水素添加触媒として用いることも可能である。
【0052】
水素添加反応は、通常、有機溶媒中で行う。有機溶媒は生成する水素添加物の溶解性により適宜選択することができ、上述した重合反応に用いる有機溶媒と同様の有機溶媒を使用することができる。したがって、重合反応後、有機溶媒を入れ替えることなく、そのまま水素添加触媒を添加して反応させることもできる。さらに、上述した重合反応に用いる有機溶媒の中でも、水素添加反応に際して反応しないという観点から、芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族エーテル系溶媒が好ましく、芳香族エーテル系溶媒がより好ましい。
【0053】
水素添加反応条件は、使用する水素添加触媒の種類に応じて適宜選択すればよい。反応温度は、通常、−20〜250℃、好ましくは−10〜220℃、より好ましくは0〜200℃である。−20℃未満では反応速度が遅くなり、逆に250℃を超えると副反応が起こりやすくなる。水素の圧力は、通常、0.01〜10.0MPa、好ましくは0.05〜8.0MPaである。水素圧力が0.01MPa未満では水素添加速度が遅くなり、10.0MPaを超えると高耐圧反応装置が必要となる。
【0054】
水素添加反応の時間は、水素添加率をコントロールするために適宜選択される。反応時間は、通常、0.1〜50時間の範囲であり、重合体中の主鎖の炭素−炭素二重結合のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上を水素添加することができる。
【0055】
水素添加反応を行った後、水素添加反応に用いた触媒を除去する処理を行ってもよい。触媒の除去方法は特に制限されず、遠心分離、濾過などの方法が挙げられる。さらに、水やアルコールなどの触媒不活性化剤を添加したり、また活性白土、アルミナ、珪素土などの吸着剤を添加したりして、触媒の除去を促進させることができる。
本発明で用いられる脂環式オレフィン重合体(E)は、重合や水素添加反応後の重合体溶液として使用しても、溶媒を除去した後に使用してもどちらでもよいが、樹脂組成物を調製する際に添加剤の溶解や分散が良好になるとともに、工程が簡素化できるため、重合体溶液として使用するのが好ましい。
【0056】
脂環式オレフィン重合体(E)を配合する場合における配合量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して、好ましくは、5〜30重量部、より好ましくは5〜20重量部、さらに好ましくは5〜10重量部の範囲である。脂環式オレフィン重合体(E)の配合量を上記範囲とすることにより、得られる硬化物の耐熱性を向上させることができる。
【0057】
(無機充填剤(F))
また、本発明の樹脂組成物は、上記各成分に加えて、硬化した場合における、硬化物のより低い線膨張性を得るため、無機充填剤(F)を含有していてもよい。無機充填剤(F)としては特に限定されないが、たとえば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、水和アルミナ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、クレーなどを挙げることができる。これらの中でも、硬化物の表面粗化処理に使用される過マンガン酸塩の水溶液などの酸化性化合物により、分解もしくは溶解しないものが好ましく、その中でも特にシリカが、微細な粒子が得やすいため好ましい。これらの無機充填剤(F)は、シランカップリング剤処理やステアリン酸などの有機酸処理をしたものであってもよい。
【0058】
また、無機充填剤(F)としては、得られる電気絶縁層の誘電特性を低下させない非導電性のものであることが好ましい。また、無機充填剤(F)の形状は、特に限定されず、球状、繊維状、板状などであってもよいが、微細な粗面形状を得るために、微細な球状であることが好ましい。
【0059】
無機充填剤(F)の平均粒子径は、好ましくは0.05〜1.5μmであり、より好ましくは0.1〜1μmである。無機充填材の平均粒子径が小さすぎると、樹脂組成物の流動性が悪くなり埋め込み平坦性が不十分となる場合があり、一方、大きすぎると、微細な配線パターンを埋め込んだときに配線間の絶縁不良を引き起こす場合がある。なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置により測定することができる。
【0060】
無機充填剤(F)を配合する場合における配合量は、樹脂組成物全体に対して、30〜90重量%であり、好ましくは40〜80重量%、より好ましくは50〜70重量%である。
【0061】
(その他の成分)
また、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、硬化促進剤を含有していてもよい。硬化促進剤としては特に限定されないが、たとえば、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、第2級アミン、第3級アミン、酸無水物、イミダゾール誘導体、有機酸ヒドラジド、ジシアンジアミド及びその誘導体、尿素誘導体などが挙げられるが、これらのなかでも、イミダゾール誘導体が特に好ましい。
【0062】
イミダゾール誘導体としては、イミダゾール骨格を有する化合物であればよく、特に限定されないが、たとえば、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、ビス−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのアルキル置換イミダゾール化合物;2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾール、2−エチル−4−メチル−1−(2’−シアノエチル)イミダゾールなどのアリール基やアラルキル基などの環構造を含有する炭化水素基で置換されたイミダゾール化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
硬化促進剤を配合する場合における配合量は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、エポキシ化合物(A)100重量部に対して、好ましくは、0.1〜5重量部、より好ましくは0.5〜3重量部、さらに好ましくは0.5〜2重量部である。
【0064】
さらに、本発明の樹脂組成物には、硬化物とした際における難燃性を向上させる目的で、例えば、ハロゲン系難燃剤やリン酸エステル系難燃剤などの一般の電気絶縁膜形成用の樹脂組成物に配合される難燃剤を配合してもよい。本発明の樹脂組成物に難燃剤を配合する場合の配合量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して、好ましくは100重量部以下であり、より好ましくは60重量部以下である。
【0065】
また、本発明の樹脂組成物には、さらに必要に応じて、難燃助剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、紫外線吸収剤(レーザー加工性向上剤)、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、磁性体、誘電特性調整剤、靭性剤などの任意成分を配合してもよい。これらの任意成分の配合割合は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択すればよい。
【0066】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、上記各成分を、そのまま混合してもよいし、有機溶剤に溶解もしくは分散させた状態で混合してもよいし、上記各成分の一部を有機溶剤に溶解もしくは分散させた状態の組成物を調製し、当該組成物に残りの成分を混合してもよい。
【0067】
(フィルム)
本発明のフィルムは、上述した本発明の樹脂組成物をシート状又はフィルム状に成形してなる成形体である。
【0068】
本発明の樹脂組成物を、シート状又はフィルム状に成形して成形体とする際には、本発明の樹脂組成物を、必要に応じて有機溶剤を添加して、支持体に塗布、散布又は流延し、次いで乾燥することより得ることが好ましい。
【0069】
この際に用いる支持体としては、樹脂フィルムや金属箔などが挙げられる。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ナイロンフィルムなどが挙げられる。これらのフィルムのうち、耐熱性、耐薬品性、剥離性などの観点からポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリエチレンナフタレートフィルムが好ましい。金属箔としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔などが挙げられる。
【0070】
シート状又はフィルム状の成形体の厚さは、特に限定されないが、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは5〜80μmである。
【0071】
本発明の樹脂組成物を塗布する方法としては、ディップコート、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、スリットコート、グラビアコートなどが挙げられる。
【0072】
なお、本発明においては、シート状又はフィルム状の成形体としては、本発明の樹脂組成物が未硬化又は半硬化の状態であることが好ましい。ここで未硬化とは、成形体を、エポキシ化合物(A)を溶解可能な溶剤に漬けたときに、実質的にエポキシ化合物(A)の全部が溶解する状態をいう。また、半硬化とは、加熱すれば更に硬化しうる程度に途中まで硬化された状態であり、好ましくは、エポキシ化合物(A)を溶解可能な溶剤にエポキシ化合物(A)の一部(具体的には7重量%以上)が溶解する状態であるか、あるいは、溶剤中に成形体を24時間浸漬した後の体積が、浸漬前の体積の200%以上(膨潤率)である状態をいう。
【0073】
また、本発明の樹脂組成物を、支持体上に塗布した後、必要に応じて、乾燥を行ってもよい。乾燥温度は、本発明の樹脂組成物が硬化しない程度の温度とすることが好ましく、通常、20〜300℃、好ましくは30〜200℃である。乾燥温度が高すぎると、硬化反応が進行しすぎて、得られる成形体が未硬化又は半硬化の状態とならなくなるおそれがある。また、乾燥時間は、通常、30秒間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間である。
【0074】
そして、このようにして得られる本発明のフィルムは、支持体上に付着させた状態で、又は支持体からはがして、使用される。
【0075】
あるいは、本発明のフィルムとしては、本発明の樹脂組成物を、繊維基材に含浸させることにより、シート状又はフィルム状の複合成形体の形態として得られるものであってもよい。
【0076】
この場合に用いる繊維基材としては、たとえば、ロービングクロス、チョップドマット、サーフェシングマットなどの織布、不織布;繊維の束や塊などが挙げられる。これら繊維基材の中で、寸法安定性の観点からは織布が好ましく、加工性の観点からは不織布が好ましい。
【0077】
シート状又はフィルム状の複合成形体の厚さは、特に限定されないが、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは5〜80μmである。また、複合成形体中の繊維基材の量は、通常、20〜90重量%、好ましくは30〜85重量%である。
【0078】
本発明の樹脂組成物を、繊維基材に含浸させる方法としては、特に限定されないが、粘度などを調整するために本発明の樹脂組成物に有機溶剤を添加し、有機溶剤を添加した樹脂組成物に繊維基材を浸漬する方法、有機溶剤を添加した樹脂組成物を繊維基材に塗布や散布する方法などが挙げられる。塗布又は散布する方法においては、支持体の上に繊維基材を置いて、これに、有機溶剤を添加した樹脂組成物を塗布又は散布することができる。なお、本発明においては、シート状又はフィルム状の複合成形体としては、上述したシート状又はフィルム状の成形体と同様に、本発明の樹脂組成物が未硬化又は半硬化の状態で含有されていることが好ましい。
【0079】
また、本発明の樹脂組成物を、繊維基材に含浸させた後、必要に応じて、乾燥を行ってもよい。乾燥温度は、本発明の樹脂組成物が硬化しない程度の温度とすることが好ましく、通常、20〜300℃、好ましくは30〜200℃である。乾燥温度が高すぎると、硬化反応が進行しすぎて、得られる複合成形体が未硬化又は半硬化の状態とならなくなるおそれがある。また、乾燥時間は、通常、30秒間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間である。
【0080】
そして、このようにして得られる本発明のフィルムは、これを加熱し、硬化させることにより硬化物とすることができる。
【0081】
硬化温度は、通常、30〜400℃、好ましくは70〜300℃、より好ましくは100〜200℃である。また、硬化時間は、0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間である。加熱の方法は特に制限されず、例えば電気オーブンなどを用いて行えばよい。
【0082】
(積層体)
本発明の積層体は、上述した本発明のフィルムを基材に積層してなるものである。本発明の積層体としては、少なくとも、上述した本発明のフィルムを積層してなるものであればよいが、表面に導体層を有する基板と、上述した本発明のフィルムからなる電気絶縁層とを積層してなるものが好ましい。
【0083】
表面に導体層を有する基板は、電気絶縁性基板の表面に導体層を有するものである。電気絶縁性基板は、公知の電気絶縁材料(たとえば、脂環式オレフィン重合体、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、トリアジン樹脂、ポリフェニルエーテル、ガラス等)を含有する樹脂組成物を硬化して形成されたものである。導体層は、特に限定されないが、通常、導電性金属等の導電体により形成された配線を含む層であって、更に各種の回路を含んでいてもよい。配線や回路の構成、厚み等は、特に限定されない。表面に導体層を有する基板の具体例としては、プリント配線基板、シリコンウェーハ基板等を挙げることができる。表面に導体層を有する基板の厚みは、通常、10μm〜10mm、好ましくは20μm〜5mm、より好ましくは30μm〜2mmである。
【0084】
本発明で用いる表面に導体層を有する基板は、電気絶縁層との密着性を向上させるために、導体層表面に前処理が施されていることが好ましい。前処理の方法としては、公知の技術を、特に限定されず使用することができる。例えば、導体層が銅からなるものであれば、強アルカリ酸化性溶液を導体層表面に接触させて、導体表面に酸化銅の層を形成して粗化する酸化処理方法、導体層表面を先の方法で酸化した後に水素化ホウ素ナトリウム、ホルマリンなどで還元する方法、導体層にめっきを析出させて粗化する方法、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、及び導体層にチオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法等が挙げられる。これらの内、微細な配線パターンの形状維持の容易性の観点から、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、及び、チオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法が好ましい。
【0085】
本発明の積層体は、通常、表面に導体層を有する基板上に、上述した本発明のフィルム(すなわち、本発明の樹脂組成物を、シート状又はフィルム状に成形してなる成形体、又は本発明の樹脂組成物を、繊維基材に含浸させてなる複合成形体)を加熱圧着することにより、製造することができる。
【0086】
加熱圧着の方法としては、支持体付きの成形体又は複合成形体を、上述した基板の導体層に接するように重ね合わせ、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータなどの加圧機を使用して加熱圧着(ラミネーション)する方法が挙げられる。加熱加圧することにより、基板表面の導体層と成形体又は複合成形体との界面に空隙が実質的に存在しないように結合させることができる。
【0087】
加熱圧着操作の温度は、通常、30〜250℃、好ましくは70〜200℃であり、加える圧力は、通常、10kPa〜20MPa、好ましくは100kPa〜10MPaであり、時間は、通常、30秒〜5時間、好ましくは1分〜3時間である。また、加熱圧着は、配線パターンの埋め込み性を向上させ、気泡の発生を抑えるために減圧下で行うのが好ましい。加熱圧着を行う減圧下の圧力は、通常100kPa〜1Pa、好ましくは40kPa〜10Paである。
【0088】
(硬化物)
本発明の硬化物は、上述した方法により得られる本発明の積層体について、本発明のフィルムを硬化する処理を行なうことで、硬化物とすることができる。硬化は、通常、導体層上に、本発明のフィルムが形成された基板全体を加熱することにより行う。硬化は、上述した加熱圧着操作と同時に行うことができる。また、先ず加熱圧着操作を硬化の起こらない条件、すなわち比較的低温、短時間で行った後、硬化を行ってもよい。
【0089】
また、電気絶縁層の平坦性を向上させる目的や、電気絶縁層の厚みを増す目的で、基板の導体層上に本発明のフィルムを2以上接して貼り合わせて積層してもよい。
【0090】
(複合体)
本発明の複合体は、上述した本発明の積層体の電気絶縁層上に、無電解めっきにより、さらに別の導体層を形成してなるものである。以下、本発明の複合体の製造方法を、本発明の複合体の一例としての多層回路基板を例示して、説明する。
【0091】
まず、積層体に、電気絶縁層を貫通するビアホールやスルーホールを形成する。ビアホールは、多層回路基板とした場合に、多層回路基板を構成する各導体層を連結するために形成される。ビアホールやスルーホールは、フォトリソグラフィ法のような化学的処理により、又は、ドリル、レーザー、プラズマエッチングなどの物理的処理などにより形成することができる。これらの方法の中でもレーザーによる方法(炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー、UV−YAGレーザーなど)は、より微細なビアホールを電気絶縁層の特性を低下させずに形成できるので好ましい。
【0092】
次に、積層体の電気絶縁層(すなわち、本発明の硬化物)の表面を、粗化する表面粗化処理を行う。表面粗化処理は、電気絶縁層上に形成する導電層との接着性を高めるために行う。
電気絶縁層の表面平均粗度Raは、好ましくは0.05μm以上0.5μm未満、より好ましくは0.06μm以上0.3μm以下であり、かつ表面十点平均粗さRzjisは、好ましくは0.3μm以上6μm未満、より好ましくは0.5μm以上5μm以下である。なお、本明細書において、RaはJIS B0601−2001に示される算術平均粗さであり、表面十点平均粗さRzjisは、JIS B0601−2001付属書1に示される十点平均粗さである。
【0093】
表面粗化処理方法としては、特に限定されないが、電気絶縁層表面と酸化性化合物とを接触させる方法などが挙げられる。酸化性化合物としては、無機酸化性化合物や有機酸化性化合物などの酸化能を有する公知の化合物が挙げられる。電気絶縁層の表面平均粗度の制御の容易さから、無機酸化性化合物や有機酸化性化合物を用いるのが特に好ましい。無機酸化性化合物としては、過マンガン酸塩、無水クロム酸、重クロム酸塩、クロム酸塩、過硫酸塩、活性二酸化マンガン、四酸化オスミウム、過酸化水素、過よう素酸塩などが挙げられる。有機酸化性化合物としてはジクミルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、m−クロロ過安息香酸、過酢酸、オゾンなどが挙げられる。
【0094】
無機酸化性化合物や有機酸化性化合物を用いて電気絶縁層表面を表面粗化処理する方法に格別な制限はない。例えば、上記酸化性化合物を溶解可能な溶媒に溶解して調製した酸化性化合物溶液を電気絶縁層表面に接触させる方法が挙げられる。酸化性化合物溶液を、電気絶縁層の表面に接触させる方法としては、特に限定されないが、たとえば、電気絶縁層を酸化性化合物溶液に浸漬するディップ法、酸化性化合物溶液の表面張力を利用して、酸化性化合物溶液を、電気絶縁層に載せる液盛り法、酸化性化合物溶液を、電気絶縁層に噴霧するスプレー法、などいかなる方法であってもよい。表面粗化処理を行うことにより、電気絶縁層の、導体層など他の層との間の密着性を向上させることができる。
【0095】
これらの酸化性化合物溶液を電気絶縁層表面に接触させる温度や時間は、酸化性化合物の濃度や種類、接触方法などを考慮して、任意に設定すればよいが、温度は、通常、10〜250℃、好ましくは20〜180℃であり、時間は、通常、0.5〜60分間、好ましくは1〜40分間である。
【0096】
なお、表面粗化処理後、酸化性化合物を除去するため、表面粗化処理後の電気絶縁層表面を水で洗浄する。また、水だけでは洗浄しきれない物質が付着している場合には、その物質を溶解可能な洗浄液でさらに洗浄したり、他の化合物と接触させたりすることにより水に可溶な物質にしてから水で洗浄する。例えば、過マンガン酸カリウム水溶液や過マンガン酸ナトリウム水溶液などのアルカリ性水溶液を電気絶縁層と接触させた場合は、発生した二酸化マンガンの皮膜を除去する目的で、硫酸ヒドロキシアミンと硫酸との混合液などの酸性水溶液により中和還元処理した後に水で洗浄することができる。
【0097】
次いで、積層体の電気絶縁層について表面粗化処理を行った後、電気絶縁層の表面及びビアホールやスルーホールの内壁面に、導体層を形成する。
導体層の形成方法は、密着性に優れる導体層を形成できるという観点より、無電解めっき法により行なう。
【0098】
たとえば、無電解めっき法により導体層を形成する際においては、まず、金属薄膜を電気絶縁層の表面に形成させる前に、電気絶縁層上に、銀、パラジウム、亜鉛、コバルトなどの触媒核を付着させるのが一般的である。触媒核を電気絶縁層に付着させる方法は特に制限されず、例えば、銀、パラジウム、亜鉛、コバルトなどの金属化合物やこれらの塩や錯体を、水又はアルコールもしくはクロロホルムなどの有機溶剤に0.001〜10重量%の濃度で溶解した液(必要に応じて酸、アルカリ、錯化剤、還元剤などを含有していてもよい。)に浸漬した後、金属を還元する方法などが挙げられる。
【0099】
無電解めっき法に用いる無電解めっき液としては、公知の自己触媒型の無電解めっき液を用いればよく、めっき液中に含まれる金属種、還元剤種、錯化剤種、水素イオン濃度、溶存酸素濃度などは特に限定されない。例えば、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸、水素化硼素アンモニウム、ヒドラジン、ホルマリンなどを還元剤とする無電解銅めっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−リンめっき液;ジメチルアミンボランを還元剤とする無電解ニッケル−ホウ素めっき液;無電解パラジウムめっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解パラジウム−リンめっき液;無電解金めっき液;無電解銀めっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−コバルト−リンめっき液などの無電解めっき液を用いることができる。
【0100】
金属薄膜を形成した後、基板表面を防錆剤と接触させて防錆処理を施すことができる。また、金属薄膜を形成した後、密着性向上などのため、金属薄膜を加熱することもできる。加熱温度は、通常、50〜350℃、好ましくは80〜250℃である。なお、この際において、加熱は加圧条件下で実施してもよい。このときの加圧方法としては、例えば、熱プレス機、加圧加熱ロール機などの物理的加圧手段を用いる方法が挙げられる。加える圧力は、通常、0.1〜20MPa、好ましくは0.5〜10MPaである。この範囲であれば、金属薄膜と電気絶縁層との高い密着性が確保できる。
【0101】
このようにして形成された金属薄膜上にめっき用レジストパターンを形成し、更にその上に電解めっきなどの湿式めっきによりめっきを成長させ(厚付けめっき)、次いで、レジストを除去し、更にエッチングにより金属薄膜をパターン状にエッチングして導体層を形成する。従って、この方法により形成される導体層は、通常、パターン状の金属薄膜と、その上に成長させためっきとからなる。
【0102】
以上のようにして得られた多層回路基板を、上述した積層体を製造するための基板とし、これを上述した成形体又は複合成形体とを加熱圧着し、硬化して電気絶縁層を形成し、さらにこの上に、上述した方法に従い、導電層の形成を行い、これらを繰り返すことにより、更なる多層化を行うことができ、これにより所望の多層回路基板とすることができる。
【0103】
このようにして得られる本発明の複合体(及び本発明の複合体の一例としての多層回路基板)は、本発明の樹脂組成物からなる電気絶縁層(本発明の硬化物)を有してなり、該電気絶縁層は、表面粗度が低いものであるため、導体層をパターン化し、微細配線を形成した際に、導体層のパターン化を良好に行なうことができるものである。加えて、本発明の樹脂組成物からなる電気絶縁層は、表面粗度が低く保ちながら、導電層に対する密着性に優れるものであるため、高い信頼性を有するものである。そのため、本発明の複合体(及び本発明の複合体の一例としての多層回路基板)は、各種用途に好適に用いることができる。
【0104】
(電子材料用基板)
本発明の電子材料用基板は、上述した本発明の硬化物又は複合体からなるものである。このような本発明の硬化物又は複合体からなる本発明の電子材料用基板は、携帯電話機、PHS、ノート型パソコン、PDA(携帯情報端末)、携帯テレビ電話機、パーソナルコンピューター、スーパーコンピューター、サーバー、ルーター、液晶プロジェクタ、エンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルを備えた装置などの各種電子機器に好適に用いることができる。
【実施例】
【0105】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
【0106】
(1)脂環式オレフィン重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)
脂環式オレフィン重合体の数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを展開溶媒として、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
【0107】
(2)脂環式オレフィン重合体の水素添加率
水素添加前における重合体中の不飽和結合のモル数に対する水素添加された不飽和結合のモル数の比率を、400MHzのH−NMRスペクトル測定により求め、これを水素添加率とした。
【0108】
(3)脂環式オレフィン重合体のカルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率
重合体中の総単量体単位モル数に対するカルボン酸無水物基を有する繰り返し単位のモル数の割合を、400MHzのH−NMRスペクトル測定により求め、これを重合体のカルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率とした。
【0109】
(4)線膨張係数
フィルム成形体から幅5.95mm、長さ15.4mm、厚さ20μmの小片を切り出し、支点間距離10mm、昇温速度10℃/分の条件で、熱機械分析装置(TMA/SDTA840:メトラー・トレド社製)により、30℃〜150℃の線膨張係数の測定を行った。
【0110】
(5)絶縁層と金属層との密着性(ピール強度)
多層プリント配線板における絶縁層と銅めっき層との引き剥がし強さをJIS C6481−1996に準拠して測定した。
【0111】
(6)絶縁層の表面粗度(算術平均粗さRa)
配線パターン付き多層プリント配線板の導体回路が形成されていない部分における電気絶縁層の表面を、表面形状測定装置(ビーコインスツルメンツ社製、WYKO NT1100)を用いて、測定範囲91μm×120μmで表面粗度(算術平均粗さRa)を測定した。
【0112】
合成例1
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(メタノテトラヒドロフルオレン)70モル部、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物30モル部、1−ヘキセン6モル部、アニソール590モル部及びルテニウム系重合触媒として4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(C1063、和光純薬社製)0.015モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で1時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。この溶液について、ガスクロマトグラフィーを測定したところ、実質的に単量体が残留していないことが確認され、重合転化率は99%以上であった。
【0113】
次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧7MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行った。次いで、得られた水素化反応溶液を濃縮して、脂環式オレフィン重合体(E−1)の溶液を得た。得られた脂環式オレフィン重合体(E−1)の重量平均分子量は10,000、数平均分子量は5,000、分子量分布は2であった。また、水素添加率は97%であり、カルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率は30モル%であった。脂環式オレフィン重合体(E−1)の溶液の固形分濃度は55%であった。
【0114】
実施例1
(樹脂組成物)
エポキシ化合物(A)としてのポリフェノール型エポキシ樹脂(「1032H60」、三菱化学社製、エポキシ当量163〜175)1.1部、同じくエポキシ化合物(A)としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(「jER 828EL」、三菱化学社製、エポキシ当量184〜194)11部、同じくエポキシ化合物(A)としてのジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(「エピクロンHP7200L」、大日本インキ化学工業社製、「エピクロン」は登録商標)4.7部、オキサゾリン基含有化合物(B)としてのオキサゾリン基含有ポリスチレン(「エポクロスRPS1005」、DOW社製、重量平均分子量160,000、「エポクロス」は登録商標)4.0部、ゴム状重合体(C)としての液状エポキシ化ポリブタジエン(Ricon657、サートマー・ジャパン社製、分子量2,000)3.5部、エポキシ硬化剤(D)としてのフェノール樹脂(「レヂトップGDP−6140」、群栄化学工業社製、「レヂトップ」は登録商標)11部、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール0.21部、無機充填材(F)としてのシランカップリング剤処理シリカ(「アドマファインシリカSC2500−SXJ」、アドマテックス社製、「アドマファイン」は登録商標)53部、同じく無機充填材(F)としてのシリカ(「アドマファインシリカSO−C1」、及びアドマテックス社製、「アドマファイン」は登録商標)13部を、アニソールに混合して、配合剤濃度が65%になるように混合することで、樹脂組成物のワニスを得た。
【0115】
(フィルム成形体の作製)
次いで、上記にて得られた樹脂組成物を、ダイコーターを用いて、縦300mm×横300mmの大きさで厚さが38μm、表面平均粗度Raが0.08μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体:ルミラー(登録商標)T60 東レ社製)上に塗工し、次いで、窒素雰囲気下、80℃で10分間乾燥し、支持体上に厚さ40 μmの樹脂組成物のフィルム成形体を得た。
【0116】
ここで、厚さ10μmの銅箔に、得られた樹脂組成物のフィルム成形体から切り出した小片を、支持体が付いた状態で、硬化性樹脂組成物が内側になるようにして、耐熱性ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを用い、200Paに減圧して、温度110℃、圧力0.1MPaで60秒間加熱圧着積層し、その後180℃で120分間空気中で加熱硬化した。硬化後、銅箔付き硬化樹脂を切り出し、銅箔を1mol/Lの過硫酸アンモニウム水溶液にて溶解し、フィルム状の硬化物を得た。得られたフィルム状の硬化物を用いて、上記方法に従い、線膨張係数の測定を行った。結果を表1に示す。
【0117】
(積層体の作製)
次いで、上記とは別に、ガラスフィラー及びハロゲン不含エポキシ樹脂を含有するワニスをガラス繊維に含浸させて得られたコア材の表面に、厚みが18μmの銅が貼られた、厚み0.8mm、150mm角(縦150mm、横150mm)の両面銅張り基板表面に、配線幅及び配線間距離が50μm、厚みが18μmで、表面が有機酸との接触によってマイクロエッチング処理された導体層を形成して内層基板を得た。
【0118】
この内層基板の両面に、上記にて得られたフィルム成形体を150mm角に切断したものを、樹脂成形体フィルム面が内側となるようにして貼り合わせた後、一次プレスを行った。一次プレスは、耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータにて、200Paの減圧下で温度110℃、圧力0.1MPaで90秒間の加熱圧着である。さらに、金属製プレス板を上下に備えた油圧プレス装置を用いて、圧着温度110℃、1MPaで90秒間、加熱圧着した。次いで支持体を剥がすことにより、樹脂組成物の樹脂層と内層基板との積層体を得た。さらに積層体を空気雰囲気下、180℃で60分間放置し、樹脂層を硬化させて内層基板上に電気絶縁層を形成した。
【0119】
(膨潤処理工程)
得られた積層体を、膨潤液(「スウェリング ディップ セキュリガント P」、アトテック社製、「セキュリガント」は登録商標)500mL/L、水酸化ナトリウム3g/Lになるように調製した60℃の水溶液に15分間揺動浸漬した後、水洗した。
【0120】
(粗化処理工程)
次いで、過マンガン酸塩の水溶液(「コンセントレート コンパクト CP」、アトテック社製)500mL/L、水酸化ナトリウム濃度40g/Lになるように調製した80℃の水溶液に30分間揺動浸漬をした後、水洗した。
【0121】
(中和還元処理工程)
続いて、硫酸ヒドロキシアミン水溶液(「リダクション セキュリガント P 500、アトテック社製、「セキュリガント」は登録商標」100mL/L、硫酸35mL/Lになるように調製した40℃ の水溶液に、積層体を5分間浸漬し、中和還元処理をした後、水洗した。
【0122】
(クリーナー・コンディショナー工程)
次いで、クリーナー・コンディショナー水溶液(「アルカップ MCC−6−A」、上村工業社製)を濃度50mL/Lとなるよう調整した50℃の水溶液に積層体を5分間浸漬し、クリーナー・コンディショナー処理を行った。次いで40℃の水洗水に積層体を1分間浸漬した後、水洗した。
【0123】
(ソフトエッチング処理工程)
次いで、硫酸濃度100g/L、過硫酸ナトリウム100g/Lとなるように調製した水溶液に積層体を2分間浸漬しソフトエッチング処理を行った後、水洗した。
【0124】
(酸洗処理工程)
次いで、硫酸濃度100g/Lとなるよう調製した水溶液に積層体を1分間浸漬し酸洗処理を行った後、水洗した。
【0125】
(触媒付与工程)
次いで、アルカップ アクチベータ MAT−1−A(商品名、上村工業社製)が200mL/L、アルカップ アクチベータ MAT−1−B(上商品名、村工業社製)が30mL/L、水酸化ナトリウムが0.35g/Lになるように調製した60℃のPd塩含有めっき触媒水溶液に積層体を5分間浸漬した後、水洗した。
【0126】
(活性化工程)
続いて、アルカップレデユーサ− MAB−4−A(商品名、上村工業社製)が20mL/L、アルカップレデユーサ− MAB−4−B(商品名、上村工業社製)が200mL/Lになるように調整した水溶液に積層体を35℃で、3分間浸漬し、めっき触媒を還元処理した後、水洗した。
【0127】
(アクセレレータ処理工程)
次いで、アルカップ アクセレレーター MEL−3−A(商品名、上村工業社製)が50mL/Lになるように調製した水溶液に積層体を25℃で、1分間浸漬した。
【0128】
(無電解めっき工程)
このようにして得られた積層体を、スルカップ PEA−6−A(商品名、上村工業社製)100mL/L、スルカップ PEA−6−B−2X(商品名、上村工業社製)50mL/L、スルカップ PEA−6−C(商品名、上村工業社製)14mL/L、スルカップ PEA−6−D(商品名、上村工業社製)15mL/L、スルカップ PEA−6−E(商品名、上村工業社製)50mL/L、37重量%ホルマリン水溶液5mL/Lとなるように調製した無電解銅めっき液に空気を吹き込みながら、温度36℃で、20分間浸漬して無電解銅めっき処理して積層体表面に金属薄膜層を形成した。次いで、空気雰囲気下において150℃で30分間アニール処理を行った。
【0129】
アニール処理が施された積層体に、電解銅めっきを施し厚さ18μmの電解銅めっき膜を形成させた。次いで当該積層体を180℃で60分間加熱処理することにより、積層体上に前記金属薄膜層及び電解銅めっき膜からなる導体層で回路を形成した両面2層の多層プリント配線板Aを得た。そして、得られた回路基板のピール強度を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
【0130】
また、アニール処理が施された積層体に、市販の感光性レジストのドライフィルムを熱圧着して貼り付け、次いで、このドライフィルム上に評価用パターンのマスクを密着させ露光した後、現像してレジストパターンを得た。次に硫酸50mL/Lの水溶液に25℃で1分間浸漬させ防錆剤を除去し、レジスト非形成部分に電解銅めっきを施し厚さ18μmの電解銅めっき膜を形成させた。その後、積層体上のレジストパターンを、剥離液を用いて除去し、塩化第二鉄と塩酸混合溶液によりエッチング処理を行った。次いで当該積層体を180℃で60分間加熱処理することにより、積層体上に前記金属薄膜層及び電解銅めっき膜からなる導体層で回路を形成した両面2層の配線パターン付き多層プリント配線板Bを得た。得られた配線パターン付き多層プリント配線板Bについて、導体回路が形成されていない部分における電気絶縁層の表面平均粗さRaを、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
【0131】
実施例2
エポキシ化合物(A)としてのポリフェノール型エポキシ樹脂(「1032H60」)の配合量を1.1部から1.0部に、同じくエポキシ化合物(A)としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(「jER 828EL」)の配合量を11部から10部に、同じくエポキシ化合物(A)としてのジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(「エピクロン(登録商標)HP7200L」)の配合量を4.7部から4.5部にそれぞれ変更し、エポキシ硬化剤(D)としてのフェノール樹脂(「レヂトップ(登録商標)GDP−6140」)の配合量を11部とし、合成例1で得られた脂環式オレフィン重合体(E−1)1.5部をさらに配合した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のワニス、フィルム成形体及び多層プリント配線板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0132】
比較例1
エポキシ化合物(A)としてのポリフェノール型エポキシ樹脂(「1032H60」)の配合量を1.1部から1.0部に、同じくエポキシ化合物(A)としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(「jER 828EL」)の配合量を11部から10部に、同じくエポキシ化合物(A)としてのジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(「エピクロン(登録商標)HP7200L」)の配合量を4.7部から4.5部にそれぞれ変更し、エポキシ硬化剤(D)としてのフェノール樹脂(「レヂトップ(登録商標)GDP−6140」)の配合量を11部とし、オキサゾリン基含有化合物(B)としてのオキサゾリン基含有ポリスチレンを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のワニス、フィルム成形体及び多層プリント配線板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0133】
比較例2
エポキシ化合物(A)としてのポリフェノール型エポキシ樹脂(「1032H60」)の配合量を1.1部から1.3部に、同じくエポキシ化合物(A)としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(「jER 828EL」)の配合量を11部から13部に、同じくエポキシ化合物(A)としてのジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(「エピクロン(登録商標)HP7200L」)の配合量を4.7部から5.9部にそれぞれ変更し、エポキシ硬化剤(D)としてのフェノール樹脂(「レヂトップGDP−6140」)の配合量を11部とし、ゴム状重合体(C)としての液状エポキシ化ポリブタジエンを使用しないとともに、実施例1と同様にして、樹脂組成物のワニス、フィルム成形体及び多層プリント配線板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0134】
比較例3
多層プリント配線板を得る際における酸化処理工程を行なう際の過マンガン酸塩の水溶液中への揺動浸漬時間を30分に変更した以外は、比較例1と同様にして、樹脂組成物のワニス、フィルム成形体及び多層プリント配線板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0135】
【表1】

【0136】
表1に示すように、本発明の樹脂組成物を用いることにより、得られる電気絶縁層(樹脂層)を表面粗度を低いものとしながら、導体層との密着性(ピール強度)に優れたものとすることができることが確認できる(実施例1,2)。
【0137】
一方、オキサゾリン基含有化合物(B)を含有しない樹脂組成物を用いた場合や、ゴム状重合体(C)を含有しない樹脂組成物を用いた場合には、得られる電気絶縁層(樹脂層)は、導体層との密着性(ピール強度)が低くなる結果となった(比較例1,2)。
また、オキサゾリン基含有化合物(B)を含有しない樹脂組成物を用い、かつ、過マンガン酸塩の水溶液に長時間揺動浸漬し、これにより表面粗度を大きくした場合には、過マンガン酸塩の水溶液に長時間揺動浸漬したことにより、電気絶縁層(樹脂層)が劣化してしまい、これに起因して、導体層との密着性(ピール強度)が低くなる結果となった(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)、分子内にオキサゾリン基を有する化合物(B)、ゴム状重合体(C)、及びエポキシ硬化剤(D)を含有してなる樹脂組成物。
【請求項2】
前記分子内にオキサゾリン基を有する化合物(B)が、側鎖及び/又は末端にオキサゾリン基を有する高分子化合物である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
極性基を有する脂環式オレフィン重合体(E)をさらに含有する請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
無機充填剤(F)をさらに含有する請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のフィルムを基材に積層してなる積層体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物、請求項5に記載のフィルム、又は請求項6に記載の積層体を硬化してなる硬化物。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化物の表面に、無電解めっきにより、導体層を形成してなる複合体。
【請求項9】
請求項7に記載の硬化物、又は請求項8に記載の複合体を構成材料として含む電子材料用基板。

【公開番号】特開2013−10887(P2013−10887A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145266(P2011−145266)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】