説明

樹脂組成物、並びに光学素子及び液晶表示素子

【課題】異方性膜の膜厚が極端に厚くなることなく、且つ、異方性膜の破壊を伴うこともなく、異方性膜の表面に樹脂層を形成して異方性膜を保護するに有用な樹脂組成物、及該樹脂組成物を用いて形成された樹脂層を有する光学素子及び該光学素子を備えた液晶表示素子を提供する。
【解決手段】基材上に湿式成膜法により形成されたリオトロピック液晶性化合物の異方性膜層の表面に、樹脂層を形成するための組成物であって、炭素数が4以上であり、オクタノール/水の分配係数(P)の常用対数値(logP)が0.5以上の溶媒に樹脂が溶解された樹脂溶液からなる樹脂組成物、並びに、基材上に湿式成膜法により形成された、リオトロピック液晶性化合物の異方性膜層の表面に、該樹脂組成物を塗布し乾燥させることにより形成された樹脂層を有する光学素子、及び、該光学素子を備える液晶表示素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光素子や液晶素子(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)等の表示素子に備えられる偏光膜や位相差膜等の表面に樹脂層を形成するに有用な樹脂組成物、並びに、該樹脂組成物を用いて形成された樹脂層を有する光学素子、及び、該光学素子を備える液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
LCDでは、表示における旋光性や複屈折性等を制御するために直線偏光板や円偏光板が用いられ、OLEDにおいても、外光の反射防止等のために円偏光板が用いられており、従来、これらの偏光板(偏光素子)の製造には、ヨウ素或いは二色性を有する有機色素を、ポリビニルアルコール等の高分子材料のフィルム基材表面に溶解或いは吸着させ、それを一軸方向に延伸して二色性色素等を配向させる方法(例えば、非特許文献1参照。)が広く用いられてきた。しかしながら、用いる色素や高分子材料によっては耐熱性や耐光性等が十分ではなく、そのため、通常、保護フィルムを貼り合わせ積層することが行われているが、その結果、偏光板自体が膜厚となり、又、保護フィルム貼り合わせ時の歩留りが悪い等の問題があった。
【0003】
これに対して、ガラスや透明フィルム等の基材上に、二色性色素を含む溶液を塗布し乾燥させる湿式成膜法にて二色性色素を含む極めて薄い膜を形成し、分子間相互作用等を利用して二色性色素を配向させることにより異方性膜層を形成する方法(例えば、非特許文献1、非特許文献2、特許文献1参照。)が提案されている。しかしながら、これら文献に記載された二色性色素は、水やアルコール等の溶媒中でリオトロピック液晶相を形成し、配向基材や流動場、電場、磁場等の外場により二色性色素を配向させて偏光板としての機能を得ているため、耐水性や耐湿性に劣るという欠点を有している。
【0004】
一方、それらの欠点を改良するため、保護フィルムを貼り合わせることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)が、やはり偏光板自体が膜厚になるという問題があり、又、耐水性や耐湿性を改良するため、異方性膜を塩化バリウム水溶液に浸漬処理する方法も提案されている(特許文献3、4参照。)が、異方性膜に用いられる化合物の種類によっては、異方性膜が破壊されるという問題が発生することが判明した。
【非特許文献1】Dreyer J. F., Phys. and Colloid Chem., 1948, 52,808., "The Fixing of Molecular Orientation"
【非特許文献2】Dreyer J. F., Journal de Physique, 1969, 4, 114.,"Light Polarization from Films of Lyotropic Nematic Liquid Crystals"
【特許文献1】特表平8−511109号公報
【特許文献2】特開2002−090526号公報
【特許文献3】米国特許第6,563,640号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0271878号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、基材上に、湿式成膜法によりリオトロピック液晶性化合物を含む極めて薄い膜を形成し、分子間相互作用等を利用して該化合物を配向させることにより形成される異方性膜の表面に用いられる樹脂層を形成するための組成物であって、
異方性膜の膜厚が極端に厚くなることなく、且つ、異方性膜の破壊を伴うこともなく、異方性膜の表面に樹脂層を形成して異方性膜を保護するに有用な樹脂組成物を提供することを課題とする。
【0006】
また、本発明は該樹脂組成物を用いて形成された樹脂層を有する光学素子、及び、該光学素子を備えた液晶表示素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基材上に湿式成膜法により形成されたリオトロピック液晶性化合物の異方性膜層の表面に、樹脂層を形成するための組成物であって、炭素数が4以上であり、オクタノール/水の分配係数(P)の常用対数値(logP)が0.5以上の溶媒に樹脂が溶解された樹脂溶液からなる樹脂組成物、並びに、基材上に湿式成膜法により形成された、リオトロピック液晶性化合物の異方性膜層の表面に、該樹脂組成物を塗布し乾燥させることにより形成された樹脂層を有する光学素子、及び、該光学素子を備える液晶表示素子、を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基材上に、リオトロピック液晶性化合物を含む溶液を塗布し乾燥させる湿式成膜法にてリオトロピック液晶性化合物を含む極めて薄い膜を形成し、分子間相互作用等を利用してリオトロピック液晶性化合物を配向させることにより形成された異方性膜層において、膜厚が極端に厚くなることなく、且つ、異方性膜の破壊を伴うこともなく、異方性膜層の表面に樹脂層を形成して異方性膜層を保護したり、該層に耐水性や耐湿性を付与するに有用な樹脂組成物、並びに、該樹脂組成物を用いて形成された樹脂層を有する光学素子、及び、該光学素子を備えた液晶表示素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
本発明の樹脂組成物は、基材上に湿式成膜法により形成された、リオトロピック液晶性化合物の異方性膜層の表面に樹脂層を形成するための組成物であって、炭素数が4以上であり、オクタノール/水の分配係数(P)の常用対数値(logP)が0.5以上の溶媒に樹脂が溶解された樹脂溶液からなる。
【0010】
本発明の樹脂組成物における溶媒は、炭素数が4以上であることが必須であり、炭素数が5以上であるのが好ましい。炭素数が3以下では、沸点が低く蒸発が速いため、樹脂組成物としての取扱性や作業性が劣ることとなる。また、通常炭素数は10以下、好ましくは8以下である。
【0011】
更に、本発明における溶媒は、オクタノール/水の分配係数(P)の常用対数値(logP)が0.5以上であることが必須であり、0.7以上であるのが好ましい。また、通常は5以下である。logPが0.5未満では、樹脂組成物として、異方性膜層の表面に塗布し乾燥させて樹脂層を形成するにおいて、溶媒が異方性膜に浸透して該膜の破壊を生じることとなる。すなわち、後述の異方性膜は通常水溶性で極性が高いため、異方性膜上に形成する樹脂層に用いられる樹脂組成物の溶媒の極性を比較的低くすることにより異方性膜層の配向構造の破壊を防止することができる。尚、オクタノール/水の分配係数(P)は、JIS Z7260−107により求めることができ、大きいほど極性が低い。
【0012】
本発明において、用いられる溶媒としては、括弧内にオクタノール/水の分配係数(P)の常用対数値(logP)を付して具体的に挙げると、例えば、メチルエチルケトン(0.7)、メチルイソブチルケトン(1.2)、シクロヘキサノン(1.4)等のケトン類、トルエン(2.3)、キシレン(3.0)等の芳香族炭化水素類、ヘキサン(3.0)、シクロヘキサン(2.5)等の脂肪族炭化水素類、酢酸イソプロピル(0.5)、酢酸ブチル(1.2)等のエステル類が代表的なものとして挙げられる。溶媒は一種のみを用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。二種以上を用いる場合は、全ての溶媒の上記logPが0.5以上である。
【0013】
又、本発明の樹脂組成物における樹脂としては、基本的には、前記溶媒に溶解するものであれば特に限定されるものではないが、透明性を有するものが好ましく、中でも、非晶性樹脂が特に好ましい。
【0014】
本発明において、用いられる樹脂としては、具体的には、例えば、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ビニルブチラール−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、下記構造式で表される重合体等の可溶化ポリイミド樹脂等が代表的なものとして挙げられる。本発明の樹脂組成物において樹脂は一種のみを用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
【化1】

【0016】
樹脂の分子量は、重量平均分子量で通常3000以上、好ましくは5000以上、通常100万以下、好ましくは10万以下である。
又、本発明の樹脂組成物における前記樹脂の濃度は、欠陥のない均一な塗膜を形成する面から、0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上が更に好ましく、5重量%以上が特に好ましく、又、50重量%以下が好ましく、30重量%以下が更に好ましい。
【0017】
尚、本発明の樹脂組成物には、前記溶媒及び前記樹脂の外に、必要に応じて、界面活性剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0018】
樹脂組成物として、炭素数が4以上であり、オクタノール/水の分配係数(P)の常用対数値(logP)が0.5以上の溶媒に樹脂が溶解された樹脂溶液を用いることにより、上記本発明の効果を奏する理由は、以下の通りであると、推察される。
【0019】
本発明の前記樹脂組成物は、基材上に湿式成膜法により形成された、リオトロピック液晶性化合物の異方性膜層の表面に樹脂層を形成するためのものである。
【0020】
ここで、基材としては、ガラス、及び、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、トリアセチルセルロース、又はウレタン系等の樹脂のフィルム等が挙げられる。又、これらの基材表面には、リオトロピック液晶性化合物の配向方向を制御するために、「液晶便覧」(丸善株式会社、平成12年10月30日発行)226〜239頁等に記載の公知の方法により、配向処理層が施されていてもよい。
【0021】
なお、リオトロピック液晶性化合物とは、特定の溶媒に、特定の濃度範囲で溶解した場合に液晶性を示す化合物である(丸善株式会社、液晶便覧3p等を参照)。
又、本発明で用いられるリオトロピック液晶性化合物としては、後述の湿式成膜法に供するために、水や有機溶媒に可溶であることが好ましく、特に水溶性であることが好ましい。さらに好ましいものは、「有機概念図−基礎と応用」(甲田善生著、三共出版、1984年)で定義される無機性値が有機性値よりも小さな化合物である。又、塩型をとらない遊離の状態で、その分子量が200以上であるのが好ましく、300以上であるのが特に好ましく、又、1500以下であるのが好ましく、1200以下であるのが特に好ましい。尚、水溶性とは、室温で化合物が水に、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上溶解することをいう。
【0022】
リオトロピック液晶性化合物としては、色素であっても、透明材料であってもよい。特に、リオトロピック液晶性二色性色素を用いることが好ましい。また、リオトロピック液晶性化合物は1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
具体的な色素としては、縮合多環系、及びアゾ系色素等が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。例えば、米国特許第2,400,877号明細書、DreyerJ. F., Phys. and Colloid Chem., 1948, 52, 808., "The Fixing of MolecularOrientation"、Dreyer J. F., Journal de Physique, 1969, 4, 114., "LightPolarization from Films of Lyotropic Nematic Liquid Crystals"、及び、J.Lydon, "Chromonics" in "Handbook of Liquid Crystals Vol.2B: Low MolecularWeight Liquid Crystals II", D. Demus, J. Goodby, G. W. Gray, H. W. Spiessm,V. Vill ed, Willey-VCH, P.981-1007(1998) 等に記載の色素を使用することができる。
中でも、アゾ系色素が好ましく、アゾ系色素の中では、ジスアゾ色素或いはトリスアゾ色素が好ましく、遊離酸の形が下記一般式(I)で表されるジスアゾ色素が特に好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
〔式中、D1 は、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。A1は、
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。R1 及びR2はそれぞれ独立に、水
素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。nは、0、又は1である。〕
【0026】
前記一般式(I)で表されるジスアゾ色素は、分子中の親水性基の数にもよるが、通常、水溶性の色素であり、又、通常、二色性色素である。尚、前記式(I)で表される色素の分子量としては、遊離酸の形で、通常450以上、通常1500以下、好ましくは1100以下である。
【0027】
一般式(I)において、D1 としては、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基であるのが好ましく、置換基を有していてもよいフェニル基であるのが液晶性と溶解性の両方の面で特に好ましい。
【0028】
1 がフェニル基である場合、フェニル基が有していてもよい置換基としては、色素の溶解性を高めるために導入される親水性基や色調を調節するために導入される電子供与性基や電子吸引性基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基等の置換されていてもよい、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等の置換されていてもよい、好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジメチルアミノ基等の、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基で置換されたアルキルアミノ基;フェニルアミノ基;アセチル基、ベンゾイル基等の、好ましくは炭素数2〜7のアシル基で置換されたアシルアミノ基;フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基等の置換カルバモイル基;カルボキシ基;スルホ基;水酸基;シアノ基等が挙げられる。これらの置換基のうち、スルホ基、水酸基、カルボキシ基が好ましい。尚、以上の置換基におけるアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、及びナフチル基は、更に、水酸基、スルホ基、アルコキシ基等の置換基を有していてもよい。又、フェニル基は、これらの置換基を1〜5個有していてもよく、1〜2個有しているのが好ましい。
【0029】
又、D1 がナフチル基である場合、該ナフチル基が有していてもよい置換基としては、溶解性を高めるために導入される親水性基や色調を調節するために導入される電子供与性基や電子吸引性基が好ましい。具体的には、前記フェニル基が有し得る置換基と同種の基、例えば、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基;好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基;好ましくは炭素数1〜4のアルキル基で置換されたアルキルアミノ基;フェニルアミノ基;好ましくは炭素数2〜7のアシル基で置換されたアシルアミノ基;カルボキシ基;スルホ基;水酸基;シアノ基等が挙げられる。これらの置換基のうち、スルホ基、水酸基、カルボキシ基が好ましい。又、ナフチル基は、これらの置換基を1〜4個有していてもよく、1〜2個有しているのが好ましい。
【0030】
尚、D1 がナフチル基である場合には、1−ナフチル基、2−ナフチル基、或いは3−ナフチル基が挙げられるが、2−ナフチル基、或いは3−ナフチル基であることが液晶性発現濃度低下のため更に好ましい。
【0031】
又、D1 が1−ナフチル基である場合には、ナフチル基の3位、4位、6位、或いは8位に置換基を有していることが液晶性発現のため好ましく、特にスルホ基、カルボキシ基、シアノ基を有していることが好ましい。尚、式(I)において、D1が、3,6−ジスルホ−8−ヒドロキシナフチル基の場合、R1 及びR2が水素原子で、n=0であることはない。又、D1 が2−ナフチル基である場合には、ナフチル基の1位、3位、4位、6位、或いは8位に置換基を有していることが液晶性発現のため好ましく、特に1位、或いは4位に置換基を有していることが好ましく、特にスルホ基を有していることが好ましい。又、D1が3−ナフチル基である場合には、ナフチル基の6位に置換基を有していることが液晶性発現のため好ましく、特にスルホ基を有していることが好ましい。
【0032】
又、D1 が芳香族複素環基である場合、該芳香族複素環基のヘテロ原子としては、窒素原子、硫黄原子等が挙げられるが、窒素原子を有する芳香族複素環基が液晶性発現濃度低下のため好ましい。芳香族複素環基として具体的には、ピリジル基、キノリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられ、好ましくはピリジル基である。
【0033】
又、芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、溶解性を高めるために導入される親水性基や色調を調節するために導入される電子供与性基や電子吸引性基が好ましい。具体的には、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基;好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基;好ましくは炭素数1〜4のアルキル基で置換されたアルキルアミノ基;フェニルアミノ基;好ましくは炭素数2〜7のアシル基で置換されたアシルアミノ基;カルボキシ基;スルホ基;シアノ基等が挙げられる。これらの置換基のうち、スルホ基、カルボキシ基が好ましい。又、芳香族複素環基は、これらの置換基を1〜4個有していてもよく、1〜2個有しているのが好ましい。
【0034】
前記一般式(I)において、A1 の芳香族炭化水素基としては、具体的には、フェニレン基、ナフチレン基が挙げられる。そのフェニレン基としては1,4−フェニレン基であるのが好ましく、ナフチレン基としては1,4−ナフチレン基であるのが前記相互作用を示すために好ましい。
【0035】
1 がフェニレン基の場合、該フェニレン基が有し得る置換基としては、極性の小さい基、或いは、水素結合性を有する基がリオトロピック液晶を形成する上での相互作用による会合性向上の点で好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基等の置換されていてもよい、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等の置換されていてもよい、好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基;アセチル基、ベンゾイル基等の、好ましくは炭素数2〜7のアシル基で置換されたアシルアミノ基等が挙げられる。尚、以上の置換基におけるアルキル基、アルコキシ基は、更に、これら置換基やヒドロキシ基等の置換基を有していてもよい。又、フェニレン基は、これらの置換基を1〜4個有していてもよく、1〜2個有しているのが好ましい。
【0036】
1 がナフチレン基の場合、該ナフチレン基が有し得る置換基としては、メトキシ基、エトキシ基等、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等の置換されていてもよい、好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基、水酸基、スルホ基等が、リオトロピック液晶を形成する上での相互作用による会合性向上の点で好ましい。尚、以上の置換基におけるアルコキシ基は、更に、これら置換基やヒドロキシ基等の置換基を有していてもよい。又、ナフチレン基は、これらの置換基を1〜4個有していてもよく、1〜2個有しているのが好ましい。
【0037】
前記一般式(I)において、R1 及びR2 のアルキル基としては、メチル基、エチル基等の、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、アルキル基及びフェニル基の有し得る置換基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基等が挙げられる。これらのR1及びR2 の中で、少なくとも一方が水素原子であるのが特に好ましい。
【0038】
前記一般式(I)で表される色素は、通常、色調が黒色で高いリオトロピック液晶状態を形成することができる。従って、湿式成膜法により形成される異方性膜用の色素として適しており、又、波長分散性が低く、その二色比も高いので、該色素を用いて高い分子配向度を示し、よって、偏光特性の高い異方性膜(異方性色素膜)を得ることができる。
【0039】
本発明において、色素は、前記一般式(I)で示されるような遊離酸の形のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型を取っているものであってもよい。又、塩型の色素と遊離酸型の色素が混在していてもよい。又、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換してもよい。塩型の交換方法としては、公知の方法を任意に用いることができ、例えば以下の方法が挙げられる。
【0040】
1)塩型で得られた色素の水溶液に塩酸等の強酸を添加し、色素を遊離酸の形で酸析せしめたのち、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で色素酸性基を中和し塩交換する方法。
2)塩型で得られた色素の水溶液に、所望の対イオンを有する大過剰の中性塩(例えば
塩化リチウム)を添加し、塩析ケーキの形で塩交換を行う方法。
【0041】
3)塩型で得られた色素の水溶液を、強酸性陽イオン交換樹脂で処理し、色素を遊離酸の形で酸析せしめたのち、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で色素酸性基を中和し塩交換する方法。
4)予め所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で処理した強酸性陽イオン交換樹脂に、塩型で得られた色素の水溶液を作用させ、塩交換を行う方法。
【0042】
前記塩型の例としては、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、又は有機アミンの塩が挙げられる。有機アミンの例として、炭素数1〜6の低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン、カルボキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン等が挙げられる。これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず複数種混在していてもよい。
【0043】
本発明において、前記一般式(I)で表される色素の遊離酸の形での具体例としては、例えば以下の(1)から(29)に示す構造の色素が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
【化3】

【0045】
【化4】

【0046】
【化5】

【0047】
【化6】

【0048】
【化7】

【0049】
【化8】

【0050】
【化9】

【0051】
前記一般式(I)で表されるアゾ色素は、それ自体公知の方法に従って製造することができる。例えば前記色素No.(1)で示される色素は、下記(A)、(B)の工程で製造できる。
(A)3−アミノベンゼンスルホン酸(メタニル酸)と8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸(1,7−クレーブ酸)とから常法[例えば、細田豊著「新染料化学」(昭和48年12月21日、技報堂発行)第396頁第409頁参照]に従って、ジアゾ化、カップリング工程を経てモノアゾ化合物を製造する。
(B)得られたモノアゾ化合物を同様に、常法によりジアゾ化し、7−アミノ−1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸(RR酸)とカップリング反応を行い塩化ナトリウムで塩
析することにより目的の色素No.(1)が得られる。
【0052】
得られた色素は、必要に応じ精製処理を行ってもよい。
また、透明材料としては、例えば、以下のA−1〜A−21等のリオトロピック液晶性化合物などが挙げられる。透明材料とは、該透明材料を用いて厚さ0.5μmの膜を形成した時の、膜の可視光の透過濃度が0.2以下となる材料をいう。
尚、下記A−1〜A−21及びB−1〜B−7の化合物は、酸性基が塩型となっているもの及び遊離酸型となっているものの両方が記載されているが、これに限らず、酸性基は塩型であっても、遊離酸型であってもよい。塩型の具体例としては、前記色素の酸性基が塩型となる場合の例と同じである。
【0053】
【化10】

【0054】
【化11】

【0055】
【化12】

【0056】
【化13】

【0057】
【化14】

【0058】
【化15】

【0059】
また、その他の透明材料としては、以下のB−1〜B−7の化合物等が挙げられる。これらのB−1〜B−7の化合物は、前記の透明材料などのリオトロピック液晶性化合物と併用することにより、リオトロピック液晶性化合物と相互作用して配向しやすいため、好ましい。
【0060】
【化16】

【0061】
【化17】

【0062】
なお、透明材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明において、異方性膜層は上記リオトロピック液晶性化合物および溶剤を含有する異方性膜用組成物を前記基材上に湿式成膜法により成膜することにより得られる。通常は、該組成物を基材上に塗布し乾燥させて、リオトロピック液晶性化合物を含む極めて薄い膜を形成し、分子間相互作用等を利用して、リオトロピック液晶性化合物を配向させることにより形成される。
【0063】
異方性膜用組成物中において、リオトロピック液晶性化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
例えば、リオトロピック液晶性化合物として、上記色素を用いる場合などは、異方性膜用組成物に、他の色素を混合して用いてもよい。
【0064】
ここで、混合される他の色素の好ましい例としては、例えば、C.I.DirectYellow 12、C.I.Direct Yellow 34、C.I.DirectYellow 86、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct
Yellow 132、C.I.Acid Yellow 25、C.I.Direct
Orange39、C.I.Direct Orange 72、C.I.Direct
Orange79,、C.I.Acid Orange28、C.I.Direct Red39、C.I.Direct Red 79、C.I.Direct Red 81、C
.I.DirectRed 83、C.I.Direct Red 89、C.I.Aci
d Red 37、C.I.DirectViolet
9、C.I.Direct Violet 35、C.I.Direct Violet4
8、C.I.Direct Violet 57、C.I.Direct Blue1、C
.I.Direct Blue 67、C.I.Direct Blue 83、C.I.DirectBlue 90、C.I.Direct Green 42、C.I.Dire
ctGreen 51、C.I.Direct Green 59等が挙げられる。
【0065】
又、異方性膜用組成物に用いられる溶媒としては、水、水混和性のある有機溶媒、或いはこれらの混合物が適している。有機溶媒の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類等が挙げられ、これらは単独でも二種以上の混合溶媒としても使用できる。
【0066】
又、異方性膜用組成物中におけるリオトロピック液晶性化合物の濃度としては、リオトロピック液晶性化合物の溶解性やリオトロピック液晶状態等の会合状態の形成濃度にも依存するが、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、又、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。化合物濃度が低過ぎると異方性膜において十分な異方性(色素であれば二色性)を得ることができず、高過ぎると化合物が析出する恐れがある。
【0067】
尚、異方性膜用組成物には、基材への濡れ性、塗布性等を向上させるため、必要に応じて、界面活性剤等の添加剤が配合されてもよい。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性いずれも使用可能である。その添加濃度は、目的の効果を得るために十分であって、且つリオトロピック液晶性化合物の分子の配向を阻害しない量として、異方性膜用組成物中の濃度として通常0.05重量%以上、0.5重量%以下が好ましい。
【0068】
又、異方性膜用組成物中での化合物の造塩や凝集等の不安定性を抑制する等の目的のために、通常公知の酸、アルカリ等のpH調整剤等を、構成成分の混合の前後いずれかで添加してpH調整を行ってもよい。
【0069】
又、異方性膜用組成物中に、酸性基、塩基性基、及び中性基よりなる群から選ばれる基を2つ以上有し、該2つ以上の基のうちの少なくとも1つは塩基性基である化合物を加えることも好ましい。
【0070】
ここで、酸性基及び塩基性基とは、不活性支持電解質を0.1〜3mol/dm加えた水溶液中で、それぞれ7未満、7以上のpkaを有する官能基のことである。又、中性基とは解離定数を持たないもののことである。
【0071】
その酸性基としては、例えば、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基等が挙げられる。塩基性基としては、アミノ基、スルホニウム基、ピロール基、3−ピロリン基、ピロリジン基、ピラゾール基、2−ピラゾリン基、ピラゾリジン基、イミダゾール基、1,2,3−トリアゾール基、1,2,4−トリアゾール基、ピリジン基、ピリダジン基、ピペリジン基、ピラジン基、ピペラジン基、ピリミジン基、トリアジン基等が挙げられる。中性基としては、水酸基、アミンオキシド基、スルホキシド基、ホスフィンオキシド基等が挙げられる。これらの基は、本発明における異方性膜用組成物の特性を大きく変化させない程度のものであれば、更に置換基を有していてもよい。
【0072】
これらの酸性基と塩基性基は、その一部又は全部が塩型をとっていてもよい。塩基性基の塩型としては、例えば、塩酸や硫酸等の無機酸の塩、酢酸やギ酸等の有機酸の塩が挙げられる。又、酸性基の塩型としては、例えば、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、或い
は有機アミンの塩等が挙げられる。これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず複数種混在していてもよい。
【0073】
分子配向性、凝集性等の点から、該化合物が有する塩基性基は1以上であればよいが、好ましくは2以上で、5以下、更に好ましくは4以下である。尚、該化合物が、中性基、酸性基を有さず、塩基性基のみを有する場合には、塩基性基の数が3以上が好ましく、5以下が好ましく、更に好ましくは4以下である。又、該化合物が酸性基を有する場合、酸性基は1以上であればよいが、好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。尚、該化合物中の塩基性基と酸性基の数の相対比は、1.3以上が好ましく、4以下が好ましい。又、該化合物が中性基を有する場合、中性基は1以上であればよく、その数には特に制限はないが、通常8以下、好ましくは6以下である。該化合物が塩基性基、酸性基、中性基を2以上有する場合、2以上の基は同一の基であっても異なる基であってもよい。
【0074】
又、該化合物の分子量としては、通常60以上、75以上が好ましく、100以上が更に好ましく、140以上が特に好ましく、又、300以下が好ましく、250以下が更に好ましく、200以下が特に好ましい。又、該化合物は、炭素数1以上の化合物であることが好ましく、更に好ましくは3以上、特に好ましくは6以上、又、好ましくは15以下、更に好ましくは12以下、特に好ましくは10以下である。
【0075】
又、該化合物としては、鎖状化合物或いは環式化合物のいずれでもよい。これらの化合物としては、具体的には、アミン類が好ましく、特にアミノ酸類、ベタイン類、ヒドロキシアミン類、塩基性基を有する環式化合物が好ましい。
【0076】
そのアミノ酸類は、酸性基及び塩基性基の数と性質から、中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸に分類されるが、その中性アミノ酸の具体例としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、セリン、トレオニン、プロリン、4−ヒドロキシプロリン、システイン、シスチン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、β−アラニン、シトルリン、クレアチン、キヌレニン等が挙げられ、これらのうち、特にフェニルアラニン、アスパラギン、4−ヒドロキシプロリン、β−アラニンが好ましい。又、酸性アミノ酸の具体例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられ、これらのうち、特にアスパラギン酸、グルタミン酸が好ましい。又、塩基性アミノ酸の具体例としては、リジン、アルギニン、ヒスチジン等が挙げられる。これらアミノ酸類の分子量としては、通常60以上、好ましくは75以上で、通常300以下、好ましくは250以下である。アミノ酸類の分子量が大き過ぎると分子サイズが大きいためにリオトロピック液晶性化合物の分子の配向を乱すことがあり、逆に小さ過ぎるとリオトロピック液晶性化合物の分子の配向固定効果が十分発揮されないおそれがある。
【0077】
又、そのベタイン類としては、カルボキシアルキルトリアルキルアンモニウム水酸化物、カルボキシアルキルピリジニウム水酸化物、スルホアルキルトリアルキルアンモニウム水酸化物、スルホアルキルピリジニウム水酸化物、ホスホアルキルトリアルキルアンモニウム水酸化物、ホスホアルキルピリジニウム水酸化物、及びこれら化合物の誘導体等が挙げられ、これらのうちカルボキシメチルトリメチルアンモニウム水酸化物、スルホプロピルピリジニウム水酸化物が好ましい。これらベタイン類の分子量としては、通常60以上、好ましくは75以上で、通常300以下、好ましくは250以下である。ベタイン類の分子量が大き過ぎると分子サイズが大きいためにリオトロピック液晶性化合物の分子の配向を乱すことがあり、逆に小さ過ぎるとリオトロピック液晶性化合物の分子の配向固定効果が十分発揮されないおそれがある。
【0078】
又、そのヒドロキシアミン類としては、アミノアルキルアルコール、ジアミノアルキル
アルコール、アミノアルキルジオール、ジアミノアルキルジオール等が挙げられ、これらのうち、アミノプロパンジオールが好ましい。これらヒドロキシアミン類の分子量としては、通常60以上、好ましくは75以上で、通常300以下、好ましくは250以下である。ヒドロキシアミン類の分子量が大き過ぎると分子サイズが大きいためにリオトロピック液晶性化合物の分子の配向を乱すことがあり、逆に小さ過ぎるとリオトロピック液晶性化合物の分子の配向固定効果が十分発揮されないおそれがある。
【0079】
又、その塩基性を有する環式化合物としては、アミノピリジン、ジアミノピリジン、トリアミノピリジン、アミノピリダジン、ジアミノピリダジン、トリアミノピリダジン、アミノピリミジン、ジアミノピリミジン、トリアミノピリミジン、アミノピラジン、ジアミノピラジン、トリアミノピラジン、アミノトリアジン、ジアミノトリアジン、トリアミノトリアジン等が挙げられ、これらのうち、トリアミノピリミジンが好ましい。これら塩基性基を有する環式化合物の分子量としては、通常60以上、好ましくは75以上で、通常300以下、好ましくは250以下である。塩基性基を有する環式化合物の分子量が大き過ぎると分子サイズが大きいためにリオトロピック液晶性化合物の分子の配向を乱すことがあり、逆に小さ過ぎるとリオトロピック液晶性化合物の分子の配向固定効果が十分発揮されないおそれがある。
【0080】
以上の化合物は、1種を単独で用いてもよく、同種の化合物或いは異種の化合物の各々の2種以上を組合わせて用いてもよい。又、例えばアミノ酸に存在する光学異性体は、それぞれを単独で用いてもよく、両方を含んでいてもよい。又、塩型の化合物と遊離の化合物とを含んでいてもよく、異なる塩型の化合物を含んでいてもよい。
【0081】
湿式成膜法としては、原崎勇次著「コーティング工学」(株式会社朝倉書店、1971年3月20日発行)253〜277頁や市村國宏監修「分子協調材料の創製と応用」(株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行)118〜149頁等に記載の公知の方法や、例えば、予め配向処理を施した基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法等で塗布する方法が挙げられる。塗布時の温度は、好ましくは0℃以上、80℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。又、塗膜の乾燥時の温度は、好ましくは0℃以上、120℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。
【0082】
湿式成膜法で基材上に異方性膜層を形成する場合、異方性膜層の乾燥後の膜厚は、通常、好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上、又、好ましくは5
0μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下である。
【0083】
本発明において、前述の如き湿式成膜法により得られたリオトロピック液晶性化合物を含む薄膜層は、分子間相互作用等を利用してリオトロピック液晶性化合物を配向させることにより異方性膜層とされる。ここで、分子間相互作用等の利用方法としては、配向処理が施された基材を用いる方法の他、流動場、電場、磁場等の外場によりリオトロピック液晶性化合物を配向させる方法等の従来公知の方法が用いられる。
【0084】
尚、本発明でいう異方性膜とは、膜の厚み方向及び任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する膜である。電磁気学的性質としては、吸収、屈折等の光学的性質、抵抗、容量等の電気的性質等が挙げられる。吸収、屈折等の光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜等がある。
【0085】
そして、本発明においては、形成された異方性膜層の表面に、前記樹脂組成物を塗布し乾燥させることにより、樹脂層が形成される。ここで、異方性膜層表面への塗布方法とし
ては、上記異方性膜の形成方法として挙げたものと同様に湿式成膜法が用いられる。又、乾燥条件等も同様である。尚、その樹脂層の乾燥後の膜厚としては、20nm以上が好ましく、50nm以上が更に好ましく、又、5μm以下が好ましく、2μm以下が更に好ましい。また、乾燥後の樹脂層に架橋操作を行い、樹脂層を補強してもよい。
【0086】
本発明の光学素子は、基材上に湿式成膜法により形成されたリオトロピック液晶性化合物の異方性膜層の表面に、本発明の樹脂組成物を塗布し乾燥させることにより形成された樹脂層を有するものである。光学素子としては、異方性膜により、偏光素子や位相差素子などとして使用することができる。
かくして、本発明の樹脂組成物を用いて形成された樹脂層を有する光学素子は、膜厚の問題を生じることなく、且つ、樹脂層の形成時に異方性膜の破壊を伴うこともなく、結果、異方性膜が、例えば、好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは15以上の高い二色比などの異方性を有すると共に、光学素子としての耐水性や耐湿性等にも優れ、液晶表示素子や有機エレクトロルミネッセンス表示素子等として広範な用途への応用が期待される。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<異方性膜用組成物の調製例>
4−アミノベンゾニトリルと8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸とから常法に従って、ジアゾ化、カップリング反応を経て、モノアゾ化合物を製造し、次いで、得られたモノアゾ化合物を、常法に従ってジアゾ化し、7−アミノ−1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸とカップリング反応を行い、塩化ナトリウムで塩析することにより、二色性アゾ色素のナトリウム塩を得た。得られた二色性アゾ色素のナトリウム塩の水溶液をイオン交換樹脂に通した後、塩化リチウムで中和し、蒸発乾固させて、二色性アゾ色素〔例示化合物(23)〕リチウム塩の粉末を得た。得られた二色性アゾ色素リチウム塩粉末とアリザリンレッドSを、それぞれの濃度が21重量%と1重量%となるように蒸留水に加えた後、加熱攪拌して溶解させることにより、均一な異方性膜用組成物を調製した。
【0088】
(実施例1)
ガラス製基材(75mm×25mm、厚さ1.1mm)表面に膜厚約800Åのポリイミド配向膜が形成された該ポリイミド配向膜を予めラビング処理した後、その上に、前記で調製した異方性膜用組成物をギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布し自然乾燥させることにより、膜厚約2μmの異方性膜層を形成した。更に、その異方性膜層表面に、樹脂組成物として調製した、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製「エスレックBM−S」)をトルエン(logP=2.3)/メチルエチルケトン(logP=0.7)の体積比1/1の混合溶媒に濃度が10重量%になるように
溶解した溶液をスピンコート法により塗布し自然乾燥させて、膜厚約1μmの透明なポリビニルブチラール樹脂層を形成することにより、偏光素子を製造した。
【0089】
得られた偏光素子について、その異方性膜層を偏光顕微鏡で観察したところ、異方性膜に何らの欠陥も発生していなかった。更に、樹脂層上に蒸留水を一滴落とし、30秒後に蒸留水を取り除いた後、同様に異方性膜層を偏光顕微鏡で観察したところ、異方性膜に何らの欠陥も発生していなかった。
【0090】
(実施例2)
2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンと2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニルから、米国特許第5,344,916号明細書に記載の方法により、ポリイミドを合成し、得られたポリイミドをメチルイソブチルケトン(logP=1.2)に濃度が10重量%になるように溶解した溶液をスピンコート法により塗布し自然乾燥させて、膜厚約1μmの透明なポリイミド樹脂層を形成した以外は、実施例1と同様にして、偏光素子を製造した。
【0091】
得られた偏光素子について、その異方性膜層を偏光顕微鏡で観察したところ、異方性膜に何らの欠陥も発生していなかった。更に、樹脂層上に蒸留水を一滴落とし、30秒後に蒸留水を取り除いた後、同様に異方性膜層を偏光顕微鏡で観察したところ、異方性膜に何らの欠陥も発生していなかった。
(実施例3)
クロモリンナトリウム塩(シグマ社製)0.9gを蒸留水4.1gに溶解させて異方性膜用組成物を得た。
【0092】
この異方性膜用組成物を、ガラス製基材上にギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)を用いて塗布した後、乾燥させて厚さ約2μmの膜を得た。この膜を、吸収軸が直交状態にある2枚の偏光板の間に、塗布方向が吸収軸に対して45度になるように設置すると、直交状態にある偏光板の背後にある光源の光が観察できた。また塗布方向を吸収軸に対して0度になるように設置すると、直交状態にある偏光板の背後にある光源の光は観察できなかった。これらの結果から、得られた膜は光学異方性を有し、位相差素子として作用する異方性膜であることがわかった。
【0093】
次いで、この異方性膜上に、アクリル樹脂(BR-80、三菱レイヨン製)をトルエン/メ
チルエチルケトン(体積比1/1)に溶解させた濃度12.5重量%の樹脂溶液を、ギャップ10μmのアプリケーターを用いて塗布し自然乾燥させて、厚さ約1μmの透明なアクリル樹脂層を形成した。
この素子を偏光顕微鏡で観察したところ、異方性膜に何らの欠陥も発生していなかった。更に、樹脂層上に蒸留水を一滴落とし、30秒後に蒸留水を取り除いた後、同様に光学異方性膜層を偏光顕微鏡で観察したところ、光学異方性膜に何らの欠陥も発生していなかった。この膜を、吸収軸が直交状態にある2枚の偏光板の間に、塗布方向が吸収軸に対して45度になるように設置すると、直交状態にある偏光板の背後にある光源の光が観察できたことから、位相差素子として作用していることがわかった。
【0094】
(比較例1)
実施例1と同様にして作製した異方性膜層を、10重量%塩化バリウム水溶液に10秒間浸漬して引き上げたところ、異方性膜は白色化していた。得られた偏光素子について、その異方性膜層を偏光顕微鏡で観察したところ、多数の亀裂が発生していることが確認された。
【0095】
(比較例2)
実施例1と同様にして作製した異方性膜層を、10重量%塩化カルシウム水溶液に10秒間浸漬して引き上げたところ、異方性膜は白色化していた。得られた偏光素子について、その異方性膜層を偏光顕微鏡で観察したところ、多数の亀裂が発生していることが確認された。
【0096】
(比較例3)
樹脂組成物の溶媒としてN−メチルピロリドン(logP=−0.3)を用いることにより調製した樹脂組成物を用いた外は、実施例1と同様にして偏光素子を製造した。得られた偏光素子について、その異方性膜層を偏光顕微鏡で観察したところ、異方性膜に多数の亀裂が発生していることが確認された。
【0097】
(比較例4)
樹脂組成物の溶媒としてイソプロピルアルコール(logP=0.4)を用いることにより調製した樹脂組成物を用いた外は、実施例1と同様にして偏光素子を製造した。得られた偏光素子について、その異方性膜層を偏光顕微鏡で観察したところ、異方性膜に多数の亀裂が発生していることが確認された。
【0098】
(比較例5)
樹脂組成物の溶媒としてプロピレングリコール−1−メチルエーテル−2−アセテート(logP=0.1)を用いることにより調製した樹脂組成物を用いた外は、実施例1と同様にして偏光素子を製造した。得られた偏光素子について、その異方性膜層を偏光顕微鏡で観察したところ、異方性膜に多数の亀裂が発生していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明における光学素子は、その有する異方性膜をLCDやOLED等の各種の表示素子に偏光フィルター等として用いる場合には、これらの表示素子を構成する電極基板等に直接該異方性膜を形成したり、該異方性膜を形成した基材をこれら表示素子の構成部材に用いることができる。
又、本発明における光学素子は、光吸収の異方性を利用し直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能する他、膜形成プロセスと基材や化合物を含有する組成物の選択により、屈折異方性や伝導異方性等の各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途の光学素子として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に湿式成膜法により形成されたリオトロピック液晶性化合物の異方性膜層の表面に、樹脂層を形成するための組成物であって、炭素数が4以上であり、オクタノール/水の分配係数(P)の常用対数値(logP)が0.5以上の溶媒に樹脂が溶解された樹脂溶液からなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
リオトロピック液晶性化合物が、アゾ系色素である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
リオトロピック液晶性化合物が、透明材料である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
基材上に湿式成膜法により形成されたリオトロピック液晶性化合物の異方性膜層の表面に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を塗布し乾燥させることにより形成された樹脂層を有することを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光学素子を備えることを特徴とする液晶表示素子。

【公開番号】特開2007−241269(P2007−241269A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30987(P2007−30987)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】