説明

樹脂組成物ならびにそれを用いた樹脂成形体、塗料および物品

【課題】本発明は、親水性、撥油性および滑水性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。また、それを用いた樹脂成形体、塗料および物品を提供することを目的とする。
【解決手段】パーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基含有チオール化合物を重合連鎖移動剤として用いて親水基含有モノマーを重合して得られる重合化合物を含む樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物ならびにそれを用いた樹脂成形体、塗料および物品に関する。
詳しくは、親水性、撥油性および滑水性を有する樹脂組成物、それらを使用した塗料および成形体に関する。本発明の樹脂組成物は汚れ防止性および洗浄性に優れ、外壁面、内壁面、塗装部品、台所用品、浴室周り用品等の住宅設備水周りなどの塗装品、成形品に利用できる。
【背景技術】
【0002】
物品の表面に防汚性を付与する方法はいくつか提案されている。1つの方法として、撥水撥油性(水と油の両方をはじく性質)を有する塗料を物品の表面に塗布し、物品の表面に撥水撥油性を付与する方法が挙げられる。この場合、水と油の両方をはじくことにより、汚れの付着を防止することができる。しかし、一旦汚れが付着してしまうと水などでの洗浄が困難になる。
【0003】
また、従来の樹脂組成物を含む塗料を塗布した塗装表面や樹脂組成物からなる成形体表面は、一般的に水の接触角が比較的大きく水をはじく性質(すなわち撥水性)を有するが、汚れの付着を防止できるほど強い撥水性ではない。また、油の接触角が小さく油になじむ性質(すなわち親油性)も有しているため、表面は防汚性および易洗浄性を有しない。
【0004】
他にも、物品の表面に防汚性や易洗浄性を付与する方法として、例えば光触媒酸化物を使う方法が挙げられる(特許文献1参照)。しかしながらこの方法では光を使うため、屋内などの光が弱い場所では十分に効果を発揮できない。
また、別の方法として、例えばシリケート系の化合物などを添加し親水化する方法が挙げられる(特許文献2参照)。この場合、水を使用して比較的容易に汚れを落とすことはできるが、樹脂自体は親油性を有するため、表面は親水性および親油性を有することとなり、油などの汚れが付着すると樹脂表面に油がなじみ、十分な易洗浄性および防汚性は得られない。
【特許文献1】国際公開第97/45502号パンフレット
【特許文献2】特開平11−76375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は物品の表面に防汚性を付与する方法について鋭意検討を重ね、物品の表面に親水性、撥油性および滑水性を付与することできる樹脂組成物が、物品の表面に防汚性を付与することができることを見出した。このような樹脂組成物によって表面に性質を具備する表面の汚れは、水と一緒に容易に洗い流すことができ、加えて、防汚性が高いと考えられる。
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち本発明は、親水性、撥油性および滑水性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。また、それを用いた樹脂成形体、塗料および物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討し、親水基含有モノマーを特定の重合連鎖移動剤を用いて重合して得た重合化合物を樹脂に配合して得た樹脂組成物が、上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は次に示す(I)〜(VII)である。
(I)パーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基含有チオール化合物を重合連鎖移動剤として用いて親水基含有モノマーを重合して得られる重合化合物を含む樹脂組成物。
(II)前記チオール化合物が下記式(1)で表される化合物である、上記(I)に記載の樹脂組成物。
Rf−Y−SH :式(1)
ただし、式(1)中の記号は以下の意味を示す。Rf:炭素数が1〜18のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基。Y:−(CHn1−、−NR−、−SO−、−CO−、−O−またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基。n1:1〜6の整数。R:水素原子または炭素数1〜3のアルキル基。
(III)前記親水基含有モノマーが下記式(2)で表される化合物である、上記(I)または(II)に記載の樹脂組成物。
CH=CR−Z−(Y−X :式(2)
ただし、式(2)中の記号は以下の意味を示す。R:水素原子またはメチル基。Z:単結合、−COO−、または−CONR21−。Y:−(CHn2−、−(AkO)p2−、−NR21−、−SO−、−CO−、−O−、−CH(OH)−、またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基。m:0または1の整数。n2:1〜6の整数。Ak:エチレン基またはプロピレン基。p2が2以上の場合、Akはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。p2:1〜90の整数。X:H、OH、COOH、COOM、NR21、CONR22、SOM、SOHまたはP(=O)(OH)。M:アルカリ金属原子。R21、R22:それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基。
(IV)上記(I)〜(III)に記載の樹脂組成物からなる成形体。
(V)塗料である上記(I)〜(III)に記載の樹脂組成物。
(VI)上記(IV)に記載の成形体を有する物品。
(VII)上記(V)に記載の塗料で塗装した物品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、親水性、撥油性および滑水性に優れた樹脂組成物を提供することができる。また、それを用いた樹脂成形体、塗料および物品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明について詳細に説明する。
本発明は、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基含有チオール化合物を重合連鎖移動剤として用いて親水基含有モノマーを重合して得られる重合化合物を含む樹脂組成物である。
このような樹脂組成物を、以下では「本発明の組成物」ともいう。
また、本発明の組成物が含む重合化合物を、以下では「本発明の重合化合物」ともいう。
さらに、本発明の重合化合物を得る際に重合連鎖移動剤として用いるパーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基含有チオール化合物を、以下では「本発明のチオール化合物」ともいう。
【0010】
初めに、本発明のチオール化合物について説明する。
本発明のチオール化合物は、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基を有するチオール化合物であれば特に限定されないが、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
なお、本明細書では、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と記す場合がある。他の式で表される化合物についても同様とする。
【0011】
Rf−Y−SH :式(1)
ただし、式(1)中の記号は以下の意味を示す。
Rf:炭素数が1〜18のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基であり、これらの基は直鎖状または分岐状のいずれであってもよく、直鎖状であることが好ましい。ここで、パーフルオロエーテル基は、前記パーフルオロアルキル基の1箇所以上の炭素−炭素原子間に、エーテル性酸素原子が挿入された基を意味するものとする。
:−(CHn1−、−NR−、−SO−、−CO−、−O−またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基。
n1:1〜6の整数。
:水素原子または炭素数1〜3のアルキル基。
【0012】
本発明の重合化合物は比較的、樹脂と混ざりやすく分離し難い。フッ素成分が集中し過ぎると樹脂に混ざりにくくなったり分離したりする傾向があるが、本発明のチオール化合物が上記の式(1)で表される化合物の場合、1分子中に1つのパーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基が含有される本発明の重合化合物となるので、フッ素成分が均一化され樹脂に混ざりやすく分離しにくいと考えられる。
【0013】
式(1)においてRfがパーフルオロアルキル基である場合は、Rfの炭素数は1〜14であることが好ましく、1〜6であることがより好ましい。
【0014】
また、式(1)におけるRfがパーフルオロエーテル基である場合は、Rfが下記(RFO)式で表される基であることが好ましい。
【0015】
(RFO): Rf−O−(Rf2O)p1−Rf
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
Rf:炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基。
Rf:炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
Rf:炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
p1:0〜200の整数。
【0016】
ここで、Rfで表されるパーフルオロアルキル基、RfおよびRfで表されるパーフルオロアルキレン基は、いずれも直鎖状または分岐状のいずれであっても構わないが、直鎖状であることが好ましい。
【0017】
また、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基であることが好ましく、Rfは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基であることが好ましく、Rfは炭素数1または2のパーフルオロアルキレン基であることが好ましい。
【0018】
化合物(1)において、Yは、−(CHn1−、−NR−、−SO−、−CO−、−O−、またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基である。したがって、Yには、−CO−と−O−とを組み合せた−COO−、−OCO−等が含まれる。また、−NR−と−CO−とを組み合せた−CONH−、−CONR−も含まれる。また−CHO−等も含まれる。
また、n1は1〜6の整数であり、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。
としては、−(CHn1−、−CO−、−O−、またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基が好ましく、−CH−、−CHCH−、−OCO−、またはこれらの組み合わせが特に好ましい。
【0019】
本発明のチオール化合物は、1種のみを単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
化合物(1)の具体例を以下に示す。
【0021】
SH
13SH
17SH
(CFCF(CFSH
OCOCHSH
13OCOCHSH
17OCOCHSH
(CFCF(CFOCOCHSH
CFO(CFCFO)r1CFCHSH (r1=1〜200)
【0022】
本発明の重合化合物中における本発明のチオール化合物の含有率は、0.01〜50質量%であることが好ましく、0.1〜25質量%であることがより好ましい。撥油効果や表面への移行性がより良好となるとともに、本発明の組成物によって形成した塗膜や成形体の表面の親水性を高めることができるからである。
【0023】
本発明のチオール化合物の合成方法は特に限定されない。例えば従来公知の原料を用いて、従来公知の方法で合成することができる。
例えば、ダイキン化成品販売社から市販されているパーフルオロ基含有のアルコールやヨウ素化物と、一般に市販されているチオール化合物とを原料とし、従来公知の方法で合成して得ることができる。
【0024】
このような本発明のチオール化合物は、本発明の組成物を用いて塗膜および成形体の形成する際に、塗膜および成形体の表面へ移行する性質がある。パーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基に表面移行性があると考えられるからである。したがって、本発明の重合化合物および/または本発明の組成物中における本発明のチオール化合物の含有率が低くても、表面性状への影響を及ぼしやすく、また、樹脂本来の性質や風合いを阻害しにくい。
【0025】
次に、本発明の重合化合物について説明する。
本発明の重合化合物は、本発明のチオール化合物を重合連鎖移動剤として用い親水基含有モノマーを重合して得られる重合化合物である。
【0026】
ここで親水基含有モノマーは、親水基を有し、ホモポリマーまたはコポリマーを形成し得るモノマーであれば特に限定されない。例えば(メタ)アクリル酸及びそのエステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アリル、ビニル、スチレン系の化合物に親水基としてヒドロキシル基、ポリエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基、リン酸基等が結合したものが挙げられる。
前記親水基含有モノマーは、下記式(2)で表される化合物であること好ましい。
【0027】
CH=CR−Z−(Y−X :式(2)
ただし、式(2)中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
Z:単結合、−COO−、または−CONR21−。
:−(CHn2−、−(AkO)p2−、−NR21−、−SO−、−CO−、−O−、−CH(OH)−、またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基。
m:0または1の整数。
n2:1〜6の整数。
Ak:エチレン基またはプロピレン基。p2が2以上の場合、Akはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
p2:1〜90の整数。
X:H、OH、COOH、COOM、NR21、CONR22、SOM、SOHまたはP(=O)(OH)
M:アルカリ金属原子。
21、R22:それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基。
【0028】
ここで、Zが単結合とは、Zの両端に位置するCとYとが直接連結することを意味する。
【0029】
化合物(2)において、Zは単結合、−COO−、または−CONR21−である。R21は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。Zとしては、−COO−、または−CONH−が好ましく、−COO−がより好ましい。
【0030】
化合物(2)において、Yは、−(CHn2−、−(AkO)p2−、−NR21−、−SO−、−CO−、−O−、−CH(OH)−、またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基である。したがって、Yには−COO−、−OCO−、−CHCHOCOCHCH−、−CHCH(OH)CH−などが含まれる。Yは、−(CHn2−、−(AkO)p2−、−CO−、−O−、−CH(OH)−、またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基であることが好ましく、−CH−、−CHCH−、−(AkO)p2−、−COO−、−OCO−、−CHCH(OH)CH−、−CHCHOCOCHCH−が特に好ましい。
また、mは0または1の整数であり、n2は1〜6の整数である。Akはエチレン基またはプロピレン基であり、p2が2以上の場合、Akはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、p2は1〜90の整数である。R21およびR22はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。
【0031】
化合物(2)において、XはH、OH、COOH、COOM、NR21、CONR22、SOM、SOHまたはP(=O)(OH)を意味する 。Mはアルカリ金属原子であり、R21およびR22はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。
Xは、H、OH、COOH、COONa、NH、N(CH、N(C、CONH、CON(CH、CON(C、SONa、SOHまたはP(=O)(OH)であることが好ましく、HまたはOHであることが特に好ましい。
【0032】
本発明の重合化合物は、1種のみを単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
化合物(2)の具体例を以下に示す。
【0034】
CH=CHCOOH
CH=C(CH)COOH
CH=CHCOO(CHCHO)r2H (r2=1〜90)
CH=C(CH)COO(CHCHO)r3H (r3=1〜90)
CH=CHCOOCHCH(OH)CHOH
CH=C(CH)COOCHCH(OH)CHOH
CH=CHCOOCHCH(OH)CH
CH=C(CH)COOCHCH(OH)CH
CH=CHCOOCHCHOCOCHCHCOOH
CH=C(CH)COOCHCHOCOCHCHCOOH
CH=CHCOOCHCHN(CH
CH=C(CH)COOCHCHN(CH
CH=CHCONH
CH=C(CH)CONH
CH=CHCON(CH
CH=C(CH)CON(CH
CH=CHCON(C
CH=C(CH)CON(C
CH=CHCONH(CHN(CH
CH=CHCONHCHCHOH
CH=CHCHSONa
CH=C(CH)CHSONa
CH=CHSO
CH=C(CH)COO(CHCHO)P(=O)(OH)(n=1〜10)
【0035】
前記親水基含有モノマーとしては市販のものを用いることができる。例えばライトエステル(共栄社化学社製)、ライトアクリレートシリーズ(共栄社化学社製)、ブレンマーシリーズ(日本油脂社製)、ホスマーシリーズ(ユニケミカル社製)が挙げられる。その他にも、興人社、日本触媒社、大阪有機化学工業社、旭化成ファインケム社等から市販されているものを用いることができる。
【0036】
本発明の重合化合物中における前記親水基含有モノマーの含有率は、25〜99.99質量%であることが好ましく、40〜99.9質量%であることがより好ましく、50〜99質量%であることがさらに好ましい。塗膜や成形体の表面がより親水性になるからである。
【0037】
本発明の重合化合物は、本発明のチオール化合物を重合連鎖移動剤として用い、前記親水基含有モノマーを重合して得られる重合体であってよい。ここで前記親水基含有モノマーは2種類以上のものを用いてもよいし、1種類のものを用いてもよい。すなわち、本発明の重合化合物は、本発明のチオール化合物と前記親水基含有モノマーを重合して得られるホモポリマーとの化合物からなるものであってもよい。
【0038】
また、本発明の重合化合物は、本発明のチオール化合物を重合連鎖移動剤として用い、前記親水基モノマーとその他のモノマーとを共重合して得られる重合体であってもよい。すなわち、本発明のチオール化合物と、前記親水基含有モノマーおよびその他のモノマーのコポリマーとの化合物からなるものであってもよい。このような場合、本発明の重合化合物中に存在する前記親水基含有モノマーの部分の、本発明の重合化合物における含有率が、上記のような好ましい範囲内(25〜99.99質量%)であることが好ましい。
一般的に樹脂は疎水性が高いので、本発明の重合化合物の親水性が高すぎると、本発明の組成物を得る際に、樹脂に混ざり難くなり分離してしまうこともある。そのため使用する樹脂に応じて、本発明の重合化合物をこのようなコポリマーとすることが好ましい。
【0039】
このような前記親水基含有モノマーとコポリマーを形成するその他のモノマーとしては、例えば、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、スチレン、メチルスチレン、(メタ)アクリル酸とそのエステル、(メタ)アクリルアミド系モノマー、(メタ)アリル系モノマー等が挙げられる。
【0040】
前記親水基含有モノマーを用いて本発明の重合化合物を得るための重合方式は、特に限定されない。例えば従来公知の方法を適用することができる。例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれでもよく、また、熱重合以外にも光重合、エネルギー線重合等の採用も可能である。重合開始剤として既存の有機アゾ化合物、過酸化物、過硫酸塩等の重合開始剤を用いてもよい。
【0041】
また、このような重合方法を適用して本発明の重合化合物を得る際に用いる重合溶媒も特に限定されない。例えば従来公知のものを用いることができる。例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、トルエンなど一般的な溶媒の他、フロン、ハイドロフルオロエーテル、キシレンヘキサフロライド等のフッ素系溶媒等を用いることができる。
【0042】
本発明の重合化合物の分子量(重量平均分子量)は、1,000〜1,000,000であることが好ましく、2,000〜100,000であることがより好ましい。性能の持続性や表面へのブリードアウト性がよりよいからである。
【0043】
次に本発明の組成物について説明する。
本発明の組成物は、本発明の重合化合物を含む樹脂組成物である。
本発明の組成物は、後述するように、成形体を製造するための成形材料として用いたり、塗料として用いることもできる。
【0044】
本発明の組成物は、本発明の重合化合物を樹脂に配合したものであってよい。
樹脂は、例えば従来公知の樹脂を使用できる。例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エネルギー線硬化樹脂、さらに具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、DAP樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂等、アクリルウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが使用できる。
【0045】
本発明の組成物中における本発明の重合化合物の含有率は特に限定されない。本発明の重合化合物および樹脂の種類の組合せや混合比等によっては、本発明の重合化合物が樹脂に分散し難くなる場合や、形成される塗膜や成形体の硬度や外観に悪影響を及ぼす場合がある。当該含有率は最終的に成形体や塗膜になる成分に対して0.01〜30質量%であることが好ましく、0.05〜25質量%であることがより好ましく、0.1〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明の組成物は前記樹脂等および本発明の重合化合物の他に、さらに従来公知の樹脂成形体や塗料の構成成分である添加剤を含んでもよい。例えば、フィラー、顔料、染料、硬化剤、重合禁止剤、離型剤、増粘剤、減粘剤、消泡剤、発泡剤、分離防止剤、レベリング剤、可塑剤、乳化剤、乾燥剤、溶剤、ガラス繊維、カーボン繊維、界面活性剤を含んでもよい。
例えば、樹脂と反応または内添されている無機フィラーに吸着するような活性基(例えばイソシアネート基、二重結合基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、シラン基)やアンカー効果が期待できる長鎖化合物(例えばラウリル、ステアリル、シリコーン)を添加すると、形成される塗膜や成形体の耐久性が高まる傾向があるので好ましい。
このような添加剤や長鎖化合物の含有率は、本発明の組成物中において、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
また、本発明の組成物は、上記のように、本発明のチオール化合物を重合連鎖移動剤として用いて得た本発明の重合化合物を含むが、本発明のチオール化合物以外の重合連鎖移動剤を用いて得た重合体(以下、「重合体W」ともいう。)を、さらに含んでもよい。
例えば、本発明の重合化合物中のフッ素比率が高くなりすぎると、本発明の組成物によって形成した塗膜または成形体の表面の親水性が低下する場合があるが、このような場合に本発明の組成物が本発明のチオール化合物以外の重合連鎖移動剤(チオール、メルカプタン、α−メチルスチレン、四塩化炭素等)を用いて得た重合体である重合体Wを含むと、表面の親水性が改善する場合がある。ここで重合体Wを形成するモノマーは、本発明の重合化合物を形成するために用いた親水基含有モノマーおよび/またはその他のモノマーであってよい。
【0048】
このような重合体Wの本発明の組成物における含有率は、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
また、このような本発明のチオール化合物以外の重合連鎖移動剤の、重合体Wにおける含有率は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
本発明のチオール化合物以外の重合連鎖移動剤の含有率が高すぎると、撥油性が低下する場合があるので、親水性と撥油性のバランスを考慮して含有量を選ぶことが好ましい。
【0049】
また、本発明の組成物は、すでに樹脂組成物として市販されている成形用樹脂材料と混合して用いることもできる。そのような実施態様であっても本発明の範囲内である。
【0050】
このような本発明の組成物は、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基が撥水性、撥油性、滑水性を有し、親水基は親水性を有し、樹脂そのものは親油性を有し、全体として親水性、撥油性、滑水性に優れた樹脂組成物となる。
各々の本発明の組成物中における含有率を最適化すると、より親水性、撥油性および滑水性の優れた組成物を得ることができる。
【0051】
次に本発明の成形体について説明する。
本発明の成形体は、本発明の組成物をそのまま成形して得ることができる。成形方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法が適用できる。例えば型に本発明の成形体を流し込み、冷却することで得ることができる。例えば、外壁面、内壁面、塗装部品、台所用品、浴室周り用品等の住宅設備水周りなどに用いる成形体を得ることができる。
また、本発明の成形体は、流動性を付与するために適量の溶剤を含有させた本発明の組成物を、例えば型に流し込み、冷却して得ることもできる。
また、本発明の成形体は、反応性の溶剤を含有させた本発明の組成物を用いて成形することもできる。本発明の組成物が反応性の溶剤を含有する塗、成形前では流動性は保持でき、成形後は短時間で硬化させて本発明の成形体を得ることができるからである。ここで、反応性の溶剤としては反応性モノマーが挙げられる。
本発明の成形体を少なくともその一部に有する各種物品(製品)は、親水性、撥油性および滑水性に優れたものである。
【0052】
次に本発明の塗料について説明する。
本発明の塗料は、上記のように、本発明の重合化合物を樹脂に配合して得られる本発明の組成物であってよく、さらに上記のように添加剤、長鎖化合物、重合体Wなどを含有するものであってよい。また、さらに流動性を付与するための溶剤や水を含有させたものであってもよい。また、さらに市販の塗料を含有させたものであってもよい。
また、市販の塗料は、一般に塗料用の樹脂と添加剤と溶剤とを含むものであるため、これに本発明の重合化合物を添加したものは本発明の組成物であり、本発明の塗料でもある。
本発明の塗料における本発明の重合化合物の含有率は上記の通りであるが、必要に応じてさらに水や有機溶剤などで希釈しても構わない。
市販の塗料としては、アクリル系、アクリルウレタン系、ウレタン系、エポキシ系、フェノール系、シリコーン系、フッ素系、紫外線硬化系などの樹脂を含有するものが挙げられる。
【0053】
このような本発明の塗料で塗装する物品は特に限定されない。例えば外壁面、内壁面、塗装部品、台所用品、浴室周り用品等の住宅設備水周りなどに用いる物品が挙げられる。
塗装方法も特に限定されない。例えば浸漬、はけ、ローラー、スプレー、コーター等による塗布が挙げられる。
塗装によって形成される皮膜の厚さ等も特に限定されない。例えば1〜500μm程度とすることができる。
本発明の塗料で少なくともその一部を塗装した各種物品(製品)は、親水性、撥油性および滑水性に優れたものである。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を示し本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
[合成例1〜5]
耐圧密閉容器に表1に示す割合(質量部)で、パーフルオロアルキル基含有チオール化合物、親水基含有モノマー、およびその他のモノマーを仕込み、窒素パージ後、60℃で15時間反応させ重合化合物を合成した。なお、以下において、合成例Aで得られた重合化合物を「化合物A」と記す。他の合成例で得られた化合物も同様とする。
本発明の実施例および比較例で使用した重合化合物を以下に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
[実施例1〜6、比較例1〜3]
実施例1、2および比較例1、2では不飽和ポリエステル樹脂(ユピカ6424、日本ユピカ社製)100部に、合成例の化合物を10部および硬化剤(パーメックN、日本油脂社製)を1部加えて、混ぜ合わせた後、型に入れて80℃、2時間で硬化させた。そして、約4.5cm×4.5cm、厚み3mmという成形体を得た。
【0058】
実施例3〜6および比較例3ではアクリル樹脂塗料(タミヤカラーレモンイエロー、タミヤ社製)100部に合成例の化合物10部、メタノール100部を混合して、ステンレス板に塗布した。そして、常温で1時間乾燥後、50℃で1時間乾燥させ、皮膜をステンレス板の表面に形成した。
各実施例、比較例の組成(質量部)を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
実施例1、2および比較例1、2において、得られた硬化物表面の水、およびn−ヘキサデカン(以下n−HD)に対する接触角を接触角計(OCA15plus、英弘精機社製)で測定した。その結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
実施例3〜6および比較例3において、得られた塗装面の水およびn−HDに対する接触角を接触角計(OCA15plus、英弘精機社製)で測定した。また、水の滑落角を滑落角計(TILTE STAGE、ERMA社製)で測定した。その結果を表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
表3、4から、実施例の場合は比較例の場合と比較して水接触角および水滑落角が小さいことがわかる。表3に示した場合は明確でないが、表4に示した場合は、明確に実施例の場合の方がn−HD接触角が大きくなった。
このような結果から、本発明の成形体および本発明の塗料を塗布した物品は、親水性、撥油性および滑水性に優れたものであるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基含有チオール化合物を重合連鎖移動剤として用いて親水基含有モノマーを重合して得られる重合化合物を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記チオール化合物が下記式(1)で表される化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
Rf−Y−SH :式(1)
ただし、式(1)中の記号は以下の意味を示す。
Rf:炭素数が1〜18のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基。
:−(CHn1−、−NR−、−SO−、−CO−、−O−またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基。
n1:1〜6の整数。
:水素原子または炭素数1〜3のアルキル基。
【請求項3】
前記親水基含有モノマーが下記式(2)で表される化合物である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
CH=CR−Z−(Y−X :式(2)
ただし、式(2)中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
Z:単結合、−COO−、または−CONR21−。
:−(CHn2−、−(AkO)p2−、−NR21−、−SO−、−CO−、−O−、−CH(OH)−、またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基。
m:0または1の整数。
n2:1〜6の整数。
Ak:エチレン基またはプロピレン基。p2が2以上の場合、Akはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
p2:1〜90の整数。
X:H、OH、COOH、COOM、NR21、CONR22、SOM、SOHまたはP(=O)(OH)
M:アルカリ金属原子。
21、R22:それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の樹脂組成物からなる成形体。
【請求項5】
塗料である請求項1〜3に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の成形体を有する物品。
【請求項7】
請求項5に記載の塗料で塗装した物品。

【公開番号】特開2009−132773(P2009−132773A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308673(P2007−308673)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】