説明

樹脂被覆アルミニウム材

【課題】 耐食性、成形性および金属粒子含有樹脂層の密着性に優れるとともに、アース性ならびに電磁波シールド性にも優れた樹脂被覆アルミニウム材を提供する。
【解決手段】 アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材1と、厚みが10nm以上300nm以下であり空孔率が3%以下でありアニオン含有率が5%以下である金属基材1の表面1aに形成された陽極酸化膜2と、陽極酸化膜2上に塗布された厚みが10μm以下の金属粒子含有樹脂層3とから構成され、金属粒子含有樹脂層3は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂のうちの一種または2種以上の主成分樹脂3aに、金属粒子3bが0.1質量%ないし15質量%の範囲で含有されるとともに、界面活性剤が0.1質量%ないし10質量%の範囲で含有されてなるものであることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材Aを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆アルミニウム材に関するものであり、特に、アース性、電磁波シールド性、耐食性、樹脂層の密着性および成形性に優れた樹脂被覆アルミニウム材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器等を収容する筐体として、あらかじめ所定の形状に成形加工されてから下地処理および塗装処理がなされたアルミニウム材が使用されている。最近では、コストダウンを図るために、先に塗装処理を行ってから成形加工を行なうことが主流になっている。
ところで、ハードディスク等の磁気記録装置の筐体に対しては、コンピュータの誤動作を防止するために、筐体への静電気の蓄積を防ぐアース性と、筐体内部から発生する電磁波をシールドする電磁波シールド性が求められるようになってきた。筐体の塗装のために塗布される塗膜は一般に絶縁性であって電磁波のシールド性を示さないため、塗膜中に金属粒子(Ni、Cu、Ag、Co、Zn、Cr、Fe等)を混合させたり、塗膜中に金属石鹸を添加させることで、塗膜に導電性を与えて電磁波シールド性を付与していた。特許文献1には、用途が異なるが、樹脂層に導電性パウダーと金属石鹸を添加させてなるアルミニウム板材が開示されている。
【特許文献1】特開平5−320685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1のように、塗膜に金属粒子や金属石鹸を添加させると、塗膜の密着性が低下するおそれがある。特に、塗装処理してから成形加工する最近の筐体の製造工程では、潤滑油を塗布することなく複雑な形状に成形加工する場合が多いため、成形加工後に塗膜が剥離してしまう問題があった。
また、最近の環境保護の観点から、塗膜の下地処理として従来まで使用されていたクロメート処理の採用が減少しつつあり、代替として硫酸アルマイト処理が用いられる場合が増えてきた。しかし、硫酸アルマイトは多孔質膜であるため、腐食物質が侵入してアルミニウムを腐食させる場合がある。また硫酸アルマイト膜には数十%の硫酸イオンが含まれており、この硫酸イオンが塗膜や金属粒子と反応して塗膜の密着性を更に低下させる場合があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、耐食性、成形性および金属粒子含有樹脂層の密着性に優れるとともに、アース性ならびに電磁波シールド性にも優れた樹脂被覆アルミニウム材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の樹脂被覆アルミニウム材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材と、厚みが10nm以上300nm以下であり空孔率が3%以下でありアニオン含有率が5%以下である前記金属基材の表面に形成された陽極酸化膜と、前記陽極酸化膜上に塗布された厚みが10μm以下の金属粒子含有樹脂層とから構成され、前記金属粒子含有樹脂層は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂のうちの一種または2種以上の主成分樹脂に、金属粒子が0.1質量%ないし15質量%の範囲で含有されるとともに、界面活性剤が0.1質量%ないし10質量%の範囲で含有されてなるものであることを特徴とする。
【0006】
上記の構成によれば、下地膜としての陽極酸化膜を用いることで、金属粒子含有樹脂層の密着性を高めることができる。特に、陽極酸化膜のアニオン含有率が5%以下であるので、陽極酸化膜に含まれるアニオンと、金属粒子含有樹脂層に含まれる主成分樹脂または金属粒子との反応が抑制され、これにより金属粒子含有樹脂層の密着性を向上させることができる。
更に、陽極酸化膜の空孔率を3%以下にすることで無孔質な陽極酸化膜となり、腐食性物質に対するバリヤー性が高まって耐食性が向上する。また、この耐食性の向上に伴って密着性および成形性も向上する。
また、金属粒子含有樹脂層には金属粒子が含まれているので、アース性および電磁波シールド性を向上させることができる。また、金属粒子含有樹脂層に界面活性剤を含有させることによって樹脂層に潤滑性が付与され、これにより樹脂層を形成した後にアルミニウム材を成形加工した場合でも成形金型と樹脂層との滑り性が向上し、樹脂層の剥離を防止するとともに成形性を向上させることができる。
【0007】
また、本発明の樹脂被覆アルミニウム材は、先に記載の樹脂被覆アルミニウム材であって、前記陽極酸化膜と前記金属粒子含有樹脂層との間にシランカップリング剤が塗布されていることを特徴とする。
【0008】
陽極酸化膜と金属粒子含有樹脂層との間にシランカップリング剤を介在させることによって、陽極酸化膜と金属粒子含有樹脂層との密着強度が飛躍的に高まる。特にシランカップリング剤を、成形加工前の金属基材の陽極酸化膜表面に塗布、或いは成形加工済みの金属基材の陽極酸化膜に極薄に塗布することで、接着剤の塗布や乾燥を行なうことなく、金属粒子含有樹脂層の密着強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂被覆アルミニウム材によれば、耐食性、成形性および金属粒子含有樹脂層の密着性に優れるとともに、アース性ならびに電磁波シールド性にも優れた樹脂被覆アルミニウム材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に示すように、本実施形態の樹脂被覆アルミニウム材Aは、金属基材1と、この金属基材1の表面1aに形成された陽極酸化膜2と、陽極酸化膜2上に塗布された金属粒子含有樹脂層3とから概略構成されている。また、金属粒子含有樹脂層3(以下、樹脂層3と表記する場合がある)は、主成分樹脂3aと、この主成分樹脂3a中に分散された金属粒子3bと、界面活性剤とから形成されている。なお、図1においては、金属基材1の上面のみに陽極酸化膜2および樹脂層3が積層されているが、金属基材1の全面に陽極酸化膜2および樹脂層3を積層してもよいのは勿論である。
【0011】
金属基材1は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されている。アルミニウムまたはアルミニウム合金としては、特に限定されず、純アルミ系の1000系合金、Al−Cu系、Al−Cu−Mg系の2000系合金、Al−Mn系の3000系合金、Al−Si系の4000系合金、Al−Mg系の5000系合金、Al−Mg−Si系の6000系合金、Al−Zn−Mg−Cu系、Al−Zn−Mg系の7000系合金、Al−Fe−Mn系の8000系合金などが用いられ、成形用合金、構造用合金、電気用合金、AC1A、AC2A、AC3A、AC4Bなどの鋳造用合金が用いられる。
また、これらの合金に溶体化処理、時効処理などの種々の調質処理を施したものも用いられる。さらに、これらのアルミニウム合金を表面にクラディングしたクラッド材も使用できる。また、予めプレス成形加工などを施した加工材のものであってもよく、未加工の板材、押出材、鋳造品であってもよい。
【0012】
つぎに、陽極酸化膜2は、後述するように金属基材1の表面1aを電解処理することによって形成されるものであり、厚みが10nm以上300nm以下であり、空孔率が3%以下であり、アニオン含有率が5%以下のものである。この陽極酸化膜2は、金属基材1の表面1aを覆うことで金属基材1の耐食性を向上させることができる。また陽極酸化膜2は、金属粒子含有樹脂層3に含まれる主成分樹脂3aと化学的に結合することにより、金属粒子含有樹脂層3の密着性を向上させることができる。陽極酸化膜2の膜厚が10nm未満であると、膜厚が不均一になりやすく、金属基材1に対する密着性および耐食性が低下するので好ましくない。また膜厚が300nmを超えると、樹脂被覆アルミニウム材Aを所定の形状に成形加工する際に陽極酸化膜2自体にクラックが発生し、金属基材1に対する陽極酸化膜2の密着性および金属基材1の耐食性が低下するので好ましくない。また陽極酸化膜2の密着性の低下は、成形加工時における樹脂層3の剥離を誘発させ、成形金型との潤滑性が低下して成形性を低下させてしまうので好ましくない。陽極酸化膜2の特に望ましい膜厚は50nm以上200nm以下の範囲である。
【0013】
また、陽極酸化膜2の空孔率は3%以下であることが好ましい。空孔率が3%を超えると陽極酸化膜2に含有されるアニオン量が増加し、このアニオンが樹脂層3に含まれる主成分樹脂3aまたは金属粒子3bと反応して樹脂層3の密着性を低下させてしまうので好ましくない。更に樹脂層3の密着性の低下は、成形加工時における樹脂層3の剥離を誘発させ、成形金型との潤滑性が低下して成形性を低下させてしまうので好ましくない。また空孔率が3%を超えることによって多数の孔が形成され、これにより陽極酸化膜2のバリア性が低下して金属基材1の耐食性が低下してしまうので好ましくない。より好ましい空孔率の範囲は1%以下である。
【0014】
また、陽極酸化膜2は、その電解処理の過程でアニオンを含有する場合があるが、陽極酸化膜2におけるアニオン含有率は5%以下とすることが好ましい。アニオン含有率が5%を超えると、アニオンが金属粒子含有樹脂層の主成分樹脂3aもしくは金属粒子3bと反応して金属粒子含有樹脂層3の密着性が低下し、これにともなって成形加工時における樹脂層3の剥離が誘発され、成形金型との潤滑性が低下して成形性が低下してしまうので好ましくない。より好ましいアニオン含有率の範囲は3%以下である。
【0015】
次に金属粒子含有樹脂層3は、主成分樹脂3a中に金属粒子3bと界面活性剤とが添加されて構成されている。
主成分樹脂3aとしては、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂のうちの一種または2種以上の樹脂が好ましい。これら主成分樹脂3aは、カルボニル基等のような比較的活性の高い官能基を有しており、このような官能基が陽極酸化膜2との間で化学結合を形成することで、陽極酸化膜2と金属粒子含有樹脂層3との接着性を向上させることができる。
【0016】
また、金属粒子3bとしては、Ni、Cu、Ag、Co、Zn、Cr、Fe等のうちの一種または2種以上からなる粒子が好ましい。これら金属粒子3bを添加することによって樹脂層3に導電性が付与され、樹脂被覆アルミニウム材Aにアース性および電磁波シールド性を発現させることができる。
【0017】
また、金属粒子含有樹脂層3に対する金属粒子3bの含有率は0.1質量%以上15質量%以下の範囲が好ましい。金属粒子3bの含有率が0.1質量%未満であるとアース性、電磁波シールド性がほとんど得られないので好ましくなく、含有率が15質量%を超えると樹脂層3の密着性が低下してしまうので好ましくない。金属粒子3bのより好ましい含有率は1質量%以上10質量%以下の範囲である。
【0018】
また、金属粒子3bの平均粒径は0.01μm以上7μm以下の範囲が好ましい。平均粒径が0.01μm未満だと、樹脂中での分散性が低下してアース性が低下するので好ましくない。また平均粒径が7μmを超えると塗膜から剥離しやすくなるので好ましくない。
また、金属粒子含有樹脂層3の膜厚は10μm以下の範囲が好ましい。膜厚が10μmを超えると、樹脂被覆アルミニウム材Aを所定の形状に成形加工する際に樹脂層3自体にクラックが発生し、樹脂層3の密着性およびアルミニウム材Aの耐食性が低下するので好ましくない。樹脂層3のより好ましい膜厚は1μm以上6μm以下の範囲である。
【0019】
次に界面活性剤は、金属粒子含有樹脂層3に潤滑性を付与し、成形加工時の成形金型と樹脂層3との滑り性を向上させ、樹脂層3の剥離を防止させるとともに成形性を向上させる。また、成型時の潤滑油の使用を省略することができ、成形工程をより簡略にすることができる。
樹脂層3に添加する界面活性剤としては、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、高級アルコールエチレンオキサイド付加物のようなノニオン系、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩のようなアニオン系、高級アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、サパミン型第4級アンモニウム塩のようなカチオン系のうちのいずれか1種または2種以上が好ましい。また、樹脂層3に対する界面活性剤の含有率は、0.1質量%以上10質量%以下の範囲が好ましい。界面活性剤の含有率が0.1質量%未満であると、樹脂層3に潤滑性を付与することができなくなるので好ましくなく、含有率が10質量%を超えると、樹脂層3の密着性が低下するので好ましくない。界面活性剤のより好ましい含有率は1質量%以上5質量%以下の範囲である。
【0020】
また必要に応じて、陽極酸化膜2と金属粒子含有樹脂層3との間にシランカップリング剤を塗布させてもよい。シランカップリング剤は、陽極酸化膜2および金属粒子含有樹脂層3の主成分樹脂3aもしくは金属粒子3bとの間で化学結合を生成させ、陽極酸化膜2と金属粒子含有樹脂層3との密着性をより向上させる。シランカップリング剤としては、アミノ系、エポキシ系、ビニル系、メタクリル系、メルカプト系などのものが好ましく、より具体的には、3−(トリエトキシシリル)プロピルアミン、N―β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどを例示することができる。
なお、陽極酸化膜2に対するシランカップリング剤の塗布量は、1mg/m以上200mg/m以下の範囲であることが好ましい。塗布量がこの範囲から外れると、金属粒子含有樹脂層3の密着性が低下するので好ましくない。
【0021】
次に、本実施形態の樹脂被覆アルミニウム材Aの製造方法について説明する。
まず、上記のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材1を用意する。金属基材1は、予め前処理を施しておくことが望ましい。この前処理の手段は特に限定されず、要は金属基材1の表面1aに付着した油脂分を除去し、表面の不均質な酸化物皮膜が除去できるものであればよい。例えば、弱アルカリ性の脱脂液による脱脂処理を施したのち、水酸化ナトリウム水溶液でアルカリエッチングをしたのち、硝酸水溶液中でデスマット処理を行う方法や脱脂処理後に酸洗浄を行う方法などが適宜選択して用いられる。
【0022】
次に、金属基材1の表面1aを電解浴中で電解処理することによって陽極酸化膜2を形成させる。電解浴には、生成する陽極酸化膜が溶解しにくく、かつ無孔質の膜を生成する電解質であるホウ酸、ホウ酸塩、リン酸塩、アジピン酸塩、フタル酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩などの群から選ばれる1種または2種以上を溶解した水溶液が用いられる。これらの電解質のなかでもホウ酸、アジピン酸塩、フタル酸塩が酸化膜の性状、コストなどの点で好ましい。電解浴中の電解質濃度は2質量%からその電解質の飽和濃度の範囲で選ばれる。たとえばホウ酸の場合は2%ないし5%の範囲がよい。電解質濃度が高すぎると皮膜溶解性が増して多孔質膜になるおそれがあり、アニオン含有率も高くなるおそれがある。電解浴の浴温は20〜40℃の範囲で十分であり、浴温を40℃以上の高温とする必要はない。また、電解浴のpHはpH6.0ないし8.0の範囲が好ましい。pHが高すぎると多孔質化しやすくなるので好ましくない。
【0023】
この電解浴中で、金属基材1は、連続あるいは断続であっても陽極となるように電源に接続されて電解される。陰極には不溶性の導電材料が用いられる。電解電流は、直流電流が用いられ、直流電解では直流密度3〜5A/dm程度、電解時間数秒〜10分程度で電解が行われる。電流密度が低いと、長時間の電解が必要になってコスト高となり、更に皮膜が溶解しやすくなって多孔質化のおそれがある。印加電圧は、直流電流では、電圧1Vに対して形成される酸化膜厚さが約14Åとなる関係があることから約5〜220V、好ましくは約35〜145Vの範囲とされる。電源装置などの点からは220V以下とすることが好ましく、このような低電圧での電解でも優れた密着性と耐食性が得られる。この電解によって金属基材1の表面1aに厚さ10〜300nm、好ましくは50〜200nmの均一な陽極酸化膜2が形成される。
【0024】
このようにして得られた陽極酸化膜2はほぼ無孔質であり、その空孔率は最大でも3%以下となる。また、陽極酸化膜2のアニオン含有率は5質量%以下、通常は1〜3質量%と極めて低い値を示す。
【0025】
以上の陽極酸化処理は、未加工の状態のアルミニウムまたはアルミニウム合金に対して行うこともでき、またプレス加工などの成形加工を施した後のものに対しても行うことができる。
【0026】
次に、形成した陽極酸化膜2上に金属粒子含有樹脂層3を塗布する。樹脂層3の塗布は、主成分樹脂3aおよび金属粒子3bならびに界面活性剤を適当な溶媒で分散させた塗料を用意し、この塗料をバーコーターなどを用いて陽極酸化膜2に塗布する。バーコーター等で塗布した後、溶媒を加熱等により除去することで、金属粒子含有樹脂層3が得られる。
このようにして、金属基材1と陽極酸化膜2と金属粒子含有樹脂層3からなる樹脂被覆アルミニウム材Aが得られる。
【0027】
なお、金属粒子含有樹脂層3を形成する前に、陽極酸化膜2上にシランカップリング剤を塗布してもよい。シランカップリング剤の塗布は、シランカップリング剤を適当な溶媒で希釈させた塗料を用意し、この塗料をバーコーターなどを用いて陽極酸化膜2に塗布する。バーコーター等で塗布した後、溶媒を加熱等により除去することで、シランカップリング剤が塗布される。シランカップリング剤の塗布量は、塗料の希釈濃度、バーコーター等による塗料の塗布量で調整すればよい。
【0028】
上記の樹脂被覆アルミニウム材Aによれば、下地膜としての陽極酸化膜2のアニオン含有率が5%以下なので、陽極酸化膜2に含まれるアニオンと、金属粒子含有樹脂層3に含まれる主成分樹脂3aまたは金属粒子3bとの反応が抑制され、これにより樹脂層3の密着性を向上させることができる。
また、陽極酸化膜2の空孔率を3%以下にすることで無孔質な陽極酸化膜となり、腐食性物質に対するバリヤー性が高まって耐食性を向上させることができる。更に、この耐食性の向上に伴って樹脂層3の密着性およびアルミニウム材A自体の成形性を向上させることができる。
また、樹脂層3には金属粒子3bが含まれているので、樹脂被覆アルミニウム材Aのアース性および電磁波シールド性を向上させることができる。また、樹脂層3に界面活性剤が含有されることによってこの樹脂層3に潤滑性が付与され、これにより樹脂層3を形成した後にアルミニウム材Aを成形加工した場合でも成形金型と樹脂層3との滑り性が向上し、樹脂層3の剥離を防止するとともに成形性を向上することができる。
【0029】
以上により、上記の樹脂被覆アルミニウム材Aによれば、陽極酸化膜2と金属粒子含有樹脂層3との密着性を向上させることができるともに、腐食物質に対する耐食性を高めることができる。また、アース性および電磁波シールド性も向上できる。
【実施例】
【0030】
以下、実験例1および実験例2により本発明について更に詳細に説明する。
(実験例1)
まず、金属基材として、1.0mmまで圧延したJISA5052のアルミニウム合金の板材を準備した。この板材を10%NaOH水溶液で50℃で30秒間エッチングした後、30秒間水洗した。引き続き、10%HNO溶液で30秒間洗浄した後、30秒間水洗した。次いで、pH3、液温60℃、濃度10%のホウ酸水溶液中で、上記金属基材を陽極とし、カーボンを陰極として、1.5A/dmで電解処理を行い、陽極酸化膜を形成した。無孔質陽極酸化膜の膜厚は電圧で調整し、電解時間は30秒とした。
【0031】
次に、平均分子量8000のポリエステル樹脂からなる主成分樹脂と、平均粒径0.1μmのニッケル粉末からなる金属粒子と、高級アルコールエチレンオキサイド付加物からなる界面活性剤とを、イソプロピルアルコールに分散させて塗料を調製した。この塗料を陽極酸化膜上に塗布してから180℃で60秒間の焼き付けを行なうことにより、金属粒子含有樹脂層を形成した。なお、金属粒子含有樹脂層中の金属粒子の含有率は3質量%であり、界面活性剤の含有率は1質量%であり、金属粒子含有樹脂層の厚みは3μmであった。
【0032】
なお、一部の試料については、金属粒子含有樹脂層の形成前に、陽極酸化膜上にシランカップリング剤を塗布した。具体的には、3−(トリエトキシシリル)プロピルアミン(アミノ系シランカップリング剤)の1%水溶液を調製し、この水溶液を陽極酸化膜上にバーコーターで塗布して100℃で3分間の熱処理を行なうことにより、シランカップリング剤を塗布した。塗布量は30mg/mとした。
【0033】
以上のようにして、実施例1ないし実施例5および比較例1ないし比較例11の樹脂被覆アルミニウム材を製造した。表1に実施例および比較例の詳細を示す。
なお、比較例4および比較例5については、無孔質陽極酸化膜に代えて厚みが1.0μmの硫酸アルマイト膜を形成した。更に比較例6および比較例7については、無孔質陽極酸化膜に代えて付着量が20mg/mのクロメート膜を形成した。また比較例8については、金属粒子の含有率を0.04質量%とした。更に比較例9については金属粒子の含有率を16質量%とした。また比較例10については界面活性剤の含有率を0.04質量%とし、比較例11については界面活性剤を11質量%とした。
【0034】
なお、表1における樹脂層の空孔率は、陽極酸化膜表面の任意の20カ所について、10万倍の拡大写真を電子顕微鏡で撮影し、撮影面積に対する孔の開口面積率を測定してこの開口面積率を空孔率とした。尚、孔は、開口面積が5nm以上で深さが5nm以上のものを計測対象とした。また、金属間化合物等が存在して皮膜が不連続となっている特異な部位は測定から除外した。
また表1における樹脂層の膜厚は、陽極酸化膜をミクロトームで切断し、その断面を観察して膜厚を求めた。
更に表1における樹脂層のアニオン含有率は、SIMS(二次イオン質量分析計)により陽極酸化膜の深さ方向に分析して求めた。
【0035】
得られた実施例および比較例のアルミニウム材について、電磁波シールド性およびアース性、アルミニウム材の成形性、金属粒子含有樹脂層の密着性および耐食性を調査した。結果を表1に示す。
電磁波シールド性およびアース性は、樹脂層の導電性に依存する。そこで、樹脂層を金属基材から剥離させて樹脂層単独での導電性を測定し、この結果から電磁波シールド性およびアース性を評価した。抵抗値が100Ω以下の場合を○、100Ωを超える場合を×とした。
【0036】
成形性の評価は、ポンチおよびダイスの間にアルミニウム材を配置して円筒深絞り加工を行なって評価した。加工は、ポンチの直径を30mmとし、ダイスの直径を31.8mmとし、成形速度を20mm/秒とする条件で行なった。破断高さが5mm以上のものを○、5mm未満のものを×とした。
【0037】
密着性は、アルミニウム材に対して1/4インチ鋼球を50cmの高さから落下させるデュポン衝撃試験を実施し、凸形状になった面の樹脂層に粘着テープを貼り付けてから剥がしたときの樹脂層の剥離の程度で評価した。樹脂層が剥離しなかったものを○、変形した部分の面積に対する剥離面積の割合が5%以下のものを△、5%を超えたものを×とした。
【0038】
耐食性は、上記と同様にしてデュポン衝撃試験を実施し、試験後のアルミニウム材に対して5%食塩水を連続して30日間噴霧した後、表面の腐食状態を観察することにより評価した。外観に変化がなかったものを○、直径2mm以下の点状の腐食部が10個以下見られたものを△、直径2mmを超える腐食や、直径2mm以下の点状腐食が10箇所を超えて見られたものを×とした。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、実施例1ないし実施例5については、いずれも良好な評価結果が得られた。
【0041】
比較例1については、陽極酸化膜の空孔率が大きいため、バリアー性が低下して耐食性が悪化した。これに伴い、金属粒子含有樹脂層の密着性が低下し、さらにアルミニウム材自体の成形性も低下した。
比較例2については、陽極酸化膜のアニオン含有率が大きいため、樹脂層の密着性が低下し、これにより耐食性および成形性が低下した。
比較例3については、陽極酸化膜の膜厚が厚すぎたため、陽極酸化膜にクラックが生じて耐食性が悪化した。これに伴い、樹脂層の密着性および成形性が低下した。
【0042】
比較例4ないし比較例7については、下地膜が硫酸アルマイト膜またはクロメート膜であったため、樹脂層の密着性および耐食性ならびに成形性が十分でなかった。
比較例8については、成形性、密着性および耐食性は良好であったが、金属粒子の含有率が十分でなかったためにアース性および電磁波シールド性が大幅に低下した。
【0043】
比較例9については、金属粒子の含有率が高すぎたため、樹脂層の密着性が大幅に低下し、これに伴って成形性および耐食性が低下した。
比較例10については、界面活性剤の含有率が不足してアース性および電磁波シールド性が低下した。また、比較例11については、界面活性剤の含有率が多すぎたために成形性、密着性および耐食性が低下した。
【0044】
(実験例2)
実験例1と同様にして、金属基材として、1.0mmまで圧延したJISA5052のアルミニウム合金の板材を準備した。この板材に対して実験例1と同様にして電解処理を行なうことにより、空孔率1%、アニオン含有率3%、厚み100nmの陽極酸化膜を形成した。
【0045】
次に、各種材質の主成分樹脂および金属粒子ならびに界面活性剤を、イソプロピルアルコールに分散させて塗料を調製した。この塗料を陽極酸化膜上に塗布してから180℃で60秒間の焼き付けを行なうことにより、金属粒子含有樹脂層を形成した。金属粒子含有樹脂層の詳細は表2に示す。
【0046】
以上のようにして、実施例6ないし実施例11および比較例12ないし比較例14の樹脂被覆アルミニウム材を製造した。表2に実施例および比較例の詳細を示す。
得られた実施例および比較例のアルミニウム材について、実験例1と同様にして、アース性および電磁波シールド性、成形性、樹脂層の密着性および耐食性を調査した。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、実施例6ないし実施例11については、いずれも良好な評価結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
ハードディスク、等の筐体用のアルミニウム材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態である耐熱性アルミニウム材の断面模式図。
【符号の説明】
【0051】
1…金属基材、1a…表面、2…陽極酸化膜、3…金属粒子含有樹脂層、3a…主成分樹脂、3b…金属粒子、A…樹脂被覆アルミニウム材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材と、厚みが10nm以上300nm以下であり空孔率が3%以下でありアニオン含有率が5%以下である前記金属基材の表面に形成された陽極酸化膜と、前記陽極酸化膜上に塗布された厚みが10μm以下の金属粒子含有樹脂層とから構成され、
前記金属粒子含有樹脂層は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂のうちの一種または2種以上の主成分樹脂に、金属粒子が0.1質量%ないし15質量%の範囲で含有されるとともに、界面活性剤が0.1質量%ないし10質量%の範囲で含有されてなるものであることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材。
【請求項2】
前記陽極酸化膜と前記金属粒子含有樹脂層との間にシランカップリング剤が塗布されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆アルミニウム材。


【図1】
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【公開番号】特開2006−26914(P2006−26914A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204527(P2004−204527)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】