説明

樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ

【技術課題】 冷却効率を高めて生産性を高めることのできる溶着チップを提供する。
【解決手段】 溶着チップ1の外に冷却管10を組み付けて冷却エアー通路14を形成する。冷却エアー供給パイプ9から吹き付けた冷却エアーを溶融面3と溶着チップ1の外側全体に流して排出孔11、11aから排出する。
このような冷却エアーの流れをつくることにより、溶着チップ1はその全体が冷却されるため、冷却効率が高まって、連続運転時には特に生産性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、熱可塑性樹脂成形品へ被固定物を固定する際、熱可塑性樹脂成形品の一部に溶着ボスと称される溶着又は変形部を予め形成し、この溶着ボスを被固定物側の固定孔内に通し、突出させた先端側を熱で溶融することにより熱可塑性樹脂成形品に被固定物をカシメ留めするための溶着チップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂で成形された成形品に被固定物を固定する方法として、成形品側に一体成形された溶着ボスを突設しておき、この溶着ボスを被固定物側に形成された固定孔に通し、この固定孔から突き出た溶着ボスの先端側を溶着チップにより加熱溶融又は変形して固定孔より大きいきのこの傘のようなカシメ部を形成し、このカシメ部により被固定物を成形品にカシメ留めする方法が公知である。
【0003】
このカシメ留め方法の場合、溶着チップ及びこのチップにより加熱溶融されたカシメ部は、通常250〜300℃に加熱されるため、その生産性の向上から、溶融が終ると直ちに圧縮された冷却エアーを溶着チップ内に供給し、この冷却エアーにより溶着チップを冷却し、併せて溶融したカシメ部を冷却したのち、冷却エアーは溶着チップに設けた排気孔及びスリットから溶着チップの外に排気している(特許文献1)。そして、この特許文献1の溶着チップにおいては、溶着チップの先端に近い位置に排気孔Aを形成し、この排気孔Aより外部へエアーを流出させることで冷却効果を高めている。
【特許文献1】特開2005-1268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1に記載された溶着チップは、次の様な欠点があった。
1.溶着チップに形成する排気孔とスリットは、強度確保のためその大きさが制限されている。このため、冷却エアーの流量が制限されることから、冷却時間を短縮して生産性を高めるのには一定の限界があった。
2.溶着チップ内に供給された冷却エアーは、溶着チップの先端に形成された溶融部を内側から冷却し、溶融部近傍の側面に形成した排気孔及びスリットから排出され、そして大気中に放出されるため、溶着チップの外側全体は冷却されにくく、このため連続運転により溶融部から伝わった熱が溶着チップ内の奥にこもってここが高温になり、この高温部の冷却が進まないため、これも冷却時間を一定時間以上短縮できない原因となっていた。
3.また、連続運転により、上記2.に述べたように溶着チップの温度が上昇すると、溶着チップの抵抗値が上昇して希望する温度へ昇温しなくなる問題があった。
4.冷却エアーによる冷却は溶着チップと溶着ボスのみであることから、溶着ボスの周囲に伝わった熱により被固定物に変形や変色が発生したり、溶着ボスの近くに電子部品等が存在した場合には、この電子部品に悪影響が出ると云った問題があった。
【0005】
本発明は叙上の如き欠点の解消を図るのが目的であって、具体的には、溶着ボスを溶融した後の冷却効率を高めて冷却時間の短縮を図り、更に溶着チップの温度制御の精度を高めることができると共に、被固定物及び電子部品等への熱影響を排除することができる溶着チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明においては、樹脂基材に溶着ボスを突設し、この溶着ボスを被固定物側に形成した固定孔内に通して溶着ボスの先端を固定孔内から突出させ、この突出した溶着ボスの先端に溶着チップを押し当てて溶着ボスの先端を溶融し、かつ押し潰すことにより被固定物の表面で膨大化させ、その後溶着チップの内部に設けた冷却パイプから冷却用エアーを吹きかけて溶着チップと前記溶融した膨大部を急冷したのち、この冷却エアーを前記溶着チップに設けた排気孔及びスリットを経由して溶着チップの外に排出する構成の樹脂基材に被固定物をカシメ留めするための溶着チップにおいて、前記溶着チップの外側に一定の間隔を空けて冷却エアー通路を形成するための冷却管を装着すると共に、この冷却管の外周の一部に冷却エアーの排出孔を設けて成ることを特徴とするものである。
この発明によると、冷却エアー通路内を冷却エアーが流動することにより、溶着チップ全体を効率的に冷却することができる。
【0007】
更に、請求項2に記載の発明においては、請求項1記載のカシメ留め用溶着チップにおいて、前記冷却管に形成される排出孔は、溶着チップ側に形成された排気孔及びスリットの位置に対して円周方向にずらした位置に設けたことを特徴とするものである。
この発明によると、溶着チップの排気孔及びスリットから流出した冷却エアーのショートパスを防止して冷却効率を高めることができる。
【0008】
更に、請求項3に記載の発明においては、請求項1記載のカシメ留め用溶着チップにおいて、前記冷却管は、その先端が溶着チップの先端と同一平面となるように装着されていることを特徴とするものである。
この発明によると、冷却エアー漏れを防止することができる。
【0009】
更に、請求項4に記載の発明においては、請求項1記載のカシメ留め用溶着チップにおいて、前記冷却管は、その先端が溶着チップの先端より突出するようにして装着されていることを特徴とするものである。
この発明によると、冷却管の先端を確実に被固定物へ密着させることができる。
【0010】
更に、請求項5に記載の発明においては、請求項4記載のカシメ留め用溶着チップにおいて、前記冷却管は、溶着チップに対して上下動自在に装着されていることを特徴とするものである。
この発明によると、被固定物の表面形状に左右されずに冷却管を被固定物に密着させることができる。
【0011】
更に、請求項6に記載の発明においては、請求項5に記載のカシメ留め用溶着チップにおいて、前記冷却管は、溶着チップに対してスプリングによりその先端が溶着チップの先端より突出する方向に賦勢されていることを特徴とするものである。
この発明によると、被固定物の表面形状に合わせて冷却管の出入りを自由に行わせることができる。
【0012】
更に、請求項7に記載の発明においては、請求項4に記載のカシメ留め用溶着チップにおいて、前記冷却管は、全体が柔軟な材質の耐熱性材料により形成されていることを特徴とするものである。
この発明によると、冷却管の先端を確実に被固定物へ密着させることができる。
【0013】
更に、請求項8に記載の発明においては、請求項4に記載のカシメ留め用溶着チップにおいて、前記冷却管の先端には柔軟な耐熱性材質で形成されたチューブが取り付けられていることを特徴とするものである。
この発明によると、冷却管全体を金属管あるいは柔軟性と耐熱性を有する材料で形成する必要がなくなる。
【0014】
更に、請求項9に記載の発明においては、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のカシメ留め用溶着チップにおいて、前記冷却管又はチューブの先端部は、薄肉に形成されていることを特徴とするものである。
この発明によると、特に樹脂及び金属以外の被固定物の表面に冷却管及びチューブの先端を密着させることができる。
【0015】
更に、請求項10に記載の発明においては、前記冷却管の先端部は、被固定物のカシメ部の表面形状に合わせた形状に形成されていることを特徴とするものである。
この発明によると、被固定物の表面形状が平滑でない場合でも、冷却管の先端を確実に被固定物の表面に密着させることができる。
【発明の効果】
【0016】
上記した請求項1〜請求項10に記載の本発明によると、次の効果を得ることができる。
1.本発明の溶着チップによると、大量の冷却エアーを溶着チップ全体に流動させることができると共に溶着ボス近くの被固定物へ向けて供給できるため、冷却時間を短縮し、生産性を高めることができると共に被固定物や電子部品へ伝わる熱を排除することができる。
2.本発明の溶着チップによると、全体が効率的に冷却されるため、オーバーヒートが無くなり、加熱及び冷却時間を安定させることが出来ると共に溶着チップの長寿命化を図ることができる。
3.本発明の溶着チップによると、冷却時間の短縮により生産性が高まるため、製品のコストダウンと消費電力を削減することができる。
4.本発明の溶着チップによると、連続運転においても加熱温度が安定することから、高品質のカシメ留め製品を得ることができる。
5.本発明の溶着チップによると、溶着ボスと同時に溶着ボス近傍も冷却するため、被固定物側の残熱による変形、変色を防止することができる。
6.本発明の溶着チップによると、溶着ボスと同時に溶着ボスの近傍の被固定物側も冷却するため、溶着ボスの周囲に電子部品がある場合には、熱による電子部品の悪影響を防止できる。
7.本発明の溶着チップによると、溶着ボスと同時に溶着ボス近傍も冷却するため、複数の溶着ボスが隣接する形状においても安定した溶着が可能になる。
8.本発明の溶着チップによると、冷却管を溶着チップに対して着脱自在に構成したことにより、被固定物側の条件によっては冷却管を取り外したり、他の特徴を持った冷却管と変換して使用することにより、最適な冷却条件の設定が可能になる。
【発明の実施の形態】
【0017】
本発明に係るカシメ留め用溶着チップに取り付けられる冷却管は、基本的には耐熱性を有する材料を用いて形成されるため、金属製となり、例えばアルミニウム、ステンレス鋼、銅、真鍮を代表例としてあげることができる。また、この冷却管に柔軟性を求める場合には、例えばガラス繊維チューブ、テフロンチューブ(登録商標)を代表例としてあげることができる。
【0018】
冷却管の形状は、溶着チップの外形と相似する形状とするのが好ましいが、被固定物側の条件によっては、必ずしも相似する必要はない。
【0019】
溶着チップと冷却管との間に形成される冷却エアー通路は、冷却エアーがスムーズに流れるスペースを確保できる断面積であれば良い。
【0020】
また、冷却管に設ける排出孔の形状及び大きさは自由であるが、その位置は、溶着チップ側の排気孔から流出した冷却エアーがショートパスしない位置とすることが条件である。
【0021】
特に冷却管で溶着チップ内の奥にこもった熱を冷却するためには、冷却管の排出孔は溶着チップの排気孔より上方であって、溶着チップの基部に近い位置とするのが良い。
【0022】
但し、被固定物あるいはこの被固定物に装備された電子部品等に対する熱影響を極力排除するためには、冷却管の排出孔は冷却管の先端又はこの先端に近い位置にも設けると有効である。
【実施例1】
【0023】
本実施例1は請求項1〜3に記載した発明に対応するもので、この詳細を図1〜図5に基づいて次に説明する。
【0024】
図1は溶着チップと冷却管を分離した状態の説明図、図2(a)は冷却管の斜視図、図2(b)はA−A´線断面図、図3(a)は溶着チップに冷却管を取り付けた状態の説明図、図3(b)は断面図、図4(a)(b)は排気孔及び排出孔の位置関係の説明図、図5は溶着と冷却工程を示すもので、(a)は溶着ボスに溶着チップを当てた溶融直前の説明図、(b)は溶融完了時の説明図、(c)は冷却中の説明図、図7(d)はカシメが終了し、溶着チップがカシメ部から離れた状態の説明図である。
【0025】
上記各図において、符号の1は溶着チップであって、この溶着チップ1は、先端に凹状の溶融面3を形成したチップ本体2の両サイド対称位置であって、前記溶融面3に近い位置に排気孔4、4aを形成し、更に、この排気孔4、4aに続くようにスリット5、5aを形成して、チップ本体2を陽極6と陰極6aに分け、この陽極6と陰極6aに陽極リード端子7と陰極リード端子7aを接続し、更に図3(b)に示すように、前記チップ本体2の上端部2a内に絶縁体8を嵌合し、この絶縁体8の中心孔8aを経由してチップ本体2の溶融面3の裏面3aに近い位置にその先端9aを臨ませて冷却エアー供給パイプ9を挿入した構成である。
【0026】
10はアルミニウム製の冷却管であって、この冷却管10は図2、図3に示すように、前記チップ本体2の外径より大きな内径を有する円筒体から成り、中途の対称位置に冷却エアー排出孔11、11aが形成され、これより上部にビス孔12、12aが形成されている。
【0027】
冷却管10は、図1において矢印aに示すように溶着チップ1に対して先端側から外挿し、図3bに示すようにチップ本体2を固定した絶縁基材15に対してビス13、13aを用いて固定されていて、チップ本体2と冷却管10との間に冷却エアー通路14を形成している。
【0028】
チップ本体2の先端2aと冷却管10の先端10aとは図3(b)に示すように同一平面内に位置し、チップ本体2の排気孔4、4aとスリット5、5aに対する冷却管10の排出孔11、11aは、図4(a)(b)に示すようにその位置関係が90°ずらしてある。
【0029】
因みに本実施例1の溶着チップ1の主要部の寸法は次のとおりである。
溶融面3の直径 φ8mm (面積50.2mm
チップ本体2の外径 φ10mm
チップ本体2の高さ 20mm
冷却管10の外径φ13mm×内径φ12mm×高さ30mm
冷却エアー通路14の幅 2.0mm
排気孔4、4aの合計面積 0.4cm
排出孔11、11aの合計面積 1.0cm
【0030】
上記構成から成る溶着チップ1の各工程を図5(a)〜(d)を基に説明する。先ず図5(a)〜(d)において、Aは熱可塑性樹脂で成形された基材、Bはこの基材Aに一体に成形された溶着ボス、Cは被固定物であって、この被固定物Cには固定孔Dが設けられていて、溶着(カシメ留め)に際しては、図5(a)に示すように、あらかじめ基材Aの溶着ボスBを被固定物Cの固定孔D内に通して溶着ボスBの先端B´を被固定物Cの固定孔D内から上方に突き出しておく。
【0031】
この状態で、溶着チップ1(チップ本体2)に対して電圧を印加し溶融面3が所定の温度に上昇した時点で、溶着チップ1を冷却管10と共に下降させて溶着チップ1の溶融面3を溶着ボスBの先端B´に押し当て、更に下降させると、溶着ボスBの先端B´は溶融しながら押し潰され、やがて溶着チップ1と冷却管10の先端10aが被固定物Cの表面に当接したとき、溶融した溶着ボスBの先端B´は、図5(b)に示すように溶着チップ1の凹状の溶融面3内に充満する。
【0032】
この状態で溶着チップ1に対する電圧の印加を止め、直ちに図5(c)に示すように圧縮冷却エアー供給装置(図示せず)から冷却エアー供給パイプ9を経由して溶着チップ1の溶融面3の裏面3aに向けて冷却エアーを吹きつけることにより溶融面3とこの周囲を冷却し、併せて溶融して押し潰された溶着ボスBの先端B´を冷却する。
【0033】
その後、冷却エアーは、図5(c)において矢印で示すように溶着チップ1の排気孔4、4aから一旦冷却管10内に流出し、冷却エアー通路14内において溶着チップ1の外周面に接しながら上昇することにより、溶着チップ1の基部を外から冷却し、併せて溶着チップ1内の奥によどんだ高温のエアーを冷却したのち、冷却管10の排出孔11、11aを経由して冷却管10の外に流出する。
【0034】
このように、本実施例1によると、溶着チップ1においては従来例と同様の冷却を行いながら、冷却管10の作用により溶着チップ1全体をその外側からも冷却し、更に溶着チップ1の基部を冷却するため、冷却時間は従来例の4.5秒から3.5秒となり、1秒短縮することができた(図24(a)参照)。
【0035】
また、連続運転により、溶着チップ1の基部内にこもった熱により、電圧を印加して溶融面3を300℃に上昇させるまでの時間が、従来であると1.0秒を要したものが、本実施例1の場合0.8秒に短縮することができた。
【0036】
以上のようにして溶着チップ1と溶着ボスBの冷却を終えたのち、図5(d)に示すように溶着チップ1を上昇させると、溶着ボスBの先端B´の溶融部はキノコの傘のような形状の膨大部となって残り、これがカシメ部Eとなって被固定物Cは基材Aに固定される。
【実施例2】
【0037】
本実施例2は、請求項4〜6に記載した発明に対応するもので、この詳細を図6に、作用を図7に基づいて説明する。本実施例の冷却管10は、図6に示すように、溶着チップ1に対して上下動自在に取り付けられていると共に冷却管10の先端10aは溶着チップ1の先端2aより無負荷時にはスプリング21、21aの力で突出するように賦勢されている。この結果、溶着時に溶着チップ1より冷却管10の先端10aの方が被固定物Cに対して先当りすることにより、確実に冷却管10の先端10aを被固定物Cの表面に密着させて冷却エアーが冷却管10の先端10aの部分から漏れ出て冷却効率が低下するのを防ぐことができる。
【0038】
この具体的な構成とその作用を図6、図7に基づいて詳細に説明する。
【0039】
なお、溶着チップ1及び冷却管10の基本構成は実施例1と同一のため、符号のみを図中に記し、構成の説明は重複を避けるために省略する。
【0040】
実施例1との相違点は、冷却管10に形成するビス孔20、20aを長孔としたこと、この長孔ビス孔20、20aを介して冷却管10をビス13、13aにて基材15に対して上下動自在に取り付けたこと、冷却管10の上端縁10bと前記ビス13、13a間にコイルスプリング21、21aを掛けることにより、冷却管10の先端10aは図6に示すように無負荷時には溶着チップ1の先端2aよりも下方に突出している。
【0041】
この溶着チップ1を用いた溶着工程を図7(a)〜(c)に基づいて説明すると、図7(a)は溶着直前であって、冷却管10の先端10aはコイルスプリング21、21aの作用により溶着チップ1の先端2aより下方に突出している。
【0042】
溶着が進行して行くと、冷却管10の先端10aは、図7(b)に示すように、溶着チップ1の先端2aが未だ被固定物Cの表面に当接する前に被固定物Cの表面に当接して密着する。
【0043】
更に溶着チップ1を下降させると、ビス孔20、20aの長孔の作用で冷却管10は停止したまま溶着ボスBの先端B´が溶融して押し潰されることにより、溶着チップ1の先端2aが被固定物Cの表面に当接し、溶融面3内には樹脂が充満する。
【0044】
この状態で実施例1と同じように冷却エアーパイプ9から冷却エアーが溶融面3の裏3aに吹きつけられると、この冷却エアーは実施例1の場合と同様の流れで溶着チップ1を冷却し、冷却管10の排出孔11、11aから外に流出する。
【0045】
このように、冷却管10を溶着チップ1に対して上下動自在に取り付けておくと、冷却管10を確実に被固定物Cの表面に密着させることができるため、冷却効率が向上する。
【0046】
本実施例2の場合、冷却時間は3.0秒となり、冷却管なしの場合の冷却時間4.5秒と比較して、1.5秒冷却時間を短縮することができた。また、冷却管10の先端10aをスプリング21、21aの弾性で被固定物Cに密着させることにより冷却エアーの漏れが実施例1より更に少なくなり、これも冷却時間を1.5秒短縮する要因となった(図24(b)参照)。
【実施例3】
【0047】
本実施例3は、請求項7に記載した発明に対応するもので、この詳細を図8に、その作用を図9(a)〜(c)に基づいて説明する。
【0048】
本実施例3の溶着チップ1は、冷却管10を実施例1、2の場合のように金属製ではなく、耐熱性と柔軟性を有する材質とすることにより、実施例2の場合と同じように冷却管10の先端10aを被固定物Cの表面に密着させてエアー漏れを防ぎながら冷却効率を高めるように構成したものである。
【0049】
図8において、溶着チップ1及び冷却管10の構成は実施例1と同じであり、相違点は冷却管10をガラス繊維にて形成し、この冷却管10の先端10aを溶着チップ1の先端2aより実施例2の場合と同様、少し突出させた。
【0050】
この実施例の溶着チップ1の作用は、図9(a)に示すように、溶着ボスBの先端B´に溶着チップ1を押し当てて溶着チップ1を押し下げると、図9(b)に示すように冷却管10の先端10´が被固定物Cに先当りを行い、更に溶着チップ1を押し下げると、図9(c)に示すように冷却管10は符号のPの範囲で溶着チップ1の先端2aが被固定物Cに当るまで変形し、密着する。
【0051】
この状態で冷却エアー供給パイプ9から供給された冷却エアーは、実施例1、2の場合と同様に溶着チップ1を冷却すると共にカシメ部E及び冷却管10の先端10aで囲まれた被固形物Cの表面を冷却する。
【0052】
この結果、溶着チップ1の冷却効率が高まり、冷却時間の短縮と連続稼動時における溶着チップ1の温度管理を適切に行うことができる。
【0053】
なお、上記冷却管10の材質としては、柔軟性と耐熱性を兼ね備えているものであれば、ガラス繊維以外に、テフロンチューブ(登録商標)あるいはその他のものを用いることができる。
【実施例4】
【0054】
本実施例4は、請求項8に記載した発明に対応するもので、その詳細を図10、図11に、作用を図12(a)〜(e)に基づいて説明する。
【0055】
本実施例4の冷却管10は、図10に示すように実施例1と同様金属で成形し、実施例3で説明した柔軟性と耐熱性を兼ね備えたチューブ10cを冷却管10の先端に装着し、このチューブ10cで密着性を確保する内容である。
【0056】
本実施例4の冷却管10は、図10に示すように、その先端にガラス繊維製のチューブ10cが装着してある。そして、このチューブ10cの先端10aは、実施例3と同様に溶着チップ1の先端2aより少し突出している。
【0057】
この結果、図12(a)のように溶着チップ1の先端2aを溶着ボスBの先端に押し当てると、図12(b)に示すように溶着ボスBが溶融して押し潰され、先ずチューブ10cの先端が被固定物Cに当接し、更に押し下げると図12(c)に示すようにチューブ10cが変形し、溶融面3内に溶融した樹脂が充満する。この状態を保持し、冷却エアー供給パイプ9から冷却用エアーを溶着チップ1内の溶融面3の裏側3bへ吹き付けることにより、溶着チップ1及び溶融面3内の樹脂及びチューブ10cで囲まれた被固定物Cの表面が冷却される。
【実施例5】
【0058】
本実施例5は、請求項9に記載した発明に対応するもので、その詳細は、図13、図14に示すように、冷却管10の先端10aが被固定物Cの表面において隙間なく密着させるために、先端10aを尖らせたもので、特に本発明の場合は、被固定物Cが合成皮革とか織物、不織布のような柔らかい材質のものにおいて、先端10aがその表面に喰い込んで冷却エアーの漏れを防ぐため有効である。
【0059】
溶着及び冷却作用は実施例1と同様につき、その説明を省略する。
【実施例6】
【0060】
本実施例6は、請求項10に記載した発明に対応するもので、その構成は、図15、図16に示すように、冷却管10の先端10aを円弧状に形成し、被固定物Cの表面が円曲している場合に、図17(a)、(b)に示すように、この円曲面に沿わせて冷却管10の先端10aに形成した円弧部を密着させて冷却エアーの漏れを防ぎ、冷却効率を高める内容である。
【0061】
溶着及び冷却作用は実施例1と同様につき、その説明を省略する。
【実施例7】
【0062】
本実施例7は、これまで説明した冷却管10のように、その先端10aを被固定物Cの表面に密着させるのではなく、積極的にこの先端10aから冷却エアーを流出させることにより、被固定物C及びこれに装着された電子部品等を冷却する内容であって、図18に示すように、冷却管10の先端10aに冷却エアー流出口10fを形成し、冷却エアーの一部を冷却エアー流出口10fから流出させて被固定物Cあるいは電子部品を冷却するように構成したものである。
【0063】
なお、本実施例7の冷却管10の構成は、これまで説明したすべての実施例1〜6において適用することが可能である。
【0064】
また、冷却管10は、本実施例7も含めて実施例1〜6においてすべて直管タイプであるが、被固定物Cにおいて広い範囲でこの被固定物Cの表面を冷却したい場合には、図19に示すように先端10a側を拡径した形状としても良い。この拡径は、冷却管10より大径の別部材10eを図19に示すように冷却管10の先端に装着する方法が簡単である。
【比較例】
【0065】
実施例1で説明した溶着チップ1と従来の冷却管10を持たない溶着チップを用いた時の冷却エアーの流れと冷却時間の比較例を図20〜23を用いて説明する。
【0066】
従来の冷却管を持たない溶着チップの場合は、図22、23に示すように、冷却パイプ9から噴出した冷却エアーは、矢印に示すように溶着チップ1の溶融面3を冷却し、側面の排気孔4、4a及びスリット5、5aから排出されるため、溶着チップ1の溶融面3だけが冷却される。
【0067】
一方、実施例1における冷却管10を有する溶着チップ1においては、図20、21に示すように上記従来の方法に加えて、溶着チップ1の外側に冷却管10が設置され、その排出孔11、11aは溶着チップ1の排気孔4、4a及びスリット5、5aと90°ずれて形成され、冷却管10の先端10aは被溶着物Cと密着している。
【0068】
この結果、冷却パイプ9から噴出した冷却エアーは、図20、21に示すように、溶着チップ1の溶融面3を冷却し、側面の排気孔4、4a及びスリット5、5aから流出し、溶着チップ1の外側にまわり込んで溶着チップ1全体を冷却しながら排気孔11、11aより排出され、大気に開放されることで溶着チップ1全体が冷却される。
【0069】
このような冷却エアーの流れによりもたらされる溶着温度プロファイルを図24(a)〜(c)に示す。このプロファイルから解るように、本発明によると、従来の冷却管無しに比べて22〜35%冷却時間を短縮することができた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る溶着チップにおいて冷却管を取り外した状態の説明図
【図2】(a)冷却管の説明図 (b)A−A´線断面図
【図3】(a)冷却管を装着した溶着チップの説明図 (b)冷却管を装着した溶着チップの断面図
【図4】(a)(b)溶着チップの排気孔と冷却管の排出孔の位置関係の説明図
【図5】(a)〜(d)溶着及び冷却作用の説明図
【図6】実施例2の説明図
【図7】(a)〜(c)実施例2の溶着及び冷却作用の説明図
【図8】実施例3の説明図
【図9】(a)〜(c)実施例3の溶着及び冷却作用の説明図
【図10】実施例4の説明図
【図11】溶着チップに冷却管を組み付けた状態の説明図
【図12】(a)〜(c)実施例4の溶着及び冷却作用の説明図
【図13】実施例5の冷却管の説明図
【図14】実施例5の冷却管を溶着チップに組み付けた状態の説明図
【図15】実施例6の冷却管の説明図
【図16】実施例6の冷却管を溶着チップに組み付けた状態の説明図
【図17】(a)(b)実施例6の作用の説明図
【図18】実施例8の説明図
【図19】実施例9の説明図
【図20】実施例1の溶着チップの冷却エアーの流れの説明図
【図21】B−B´線断面図
【図22】冷却管を持たない従来の溶着チップの説明図
【図23】C−C´線断面図
【図24】(a)〜(c)冷却時間の比較例の説明図
【符号の説明】
【0071】
1 溶着チップ
2 チップ本体
3 溶融面
4、4a 排気孔
9 冷却用エアー供給パイプ
10 冷却管
11、11a 排出孔
14 冷却エア通路
A 成形品
B 溶着ボス
C 被固定物
D 固定孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材に溶着ボスを突設し、この溶着ボスを被固定物側に形成した固定孔内に通して溶着ボスの先端を固定孔内から突出させ、この突出した溶着ボスの先端に溶着チップを押し当てて溶着ボスの先端を溶融し、かつ押し潰すことにより被固定物の表面で膨大化させ、その後溶着チップの内部に設けた冷却パイプから冷却用エアーを吹きかけて溶着チップと前記溶融した膨大部を急冷したのち、この冷却エアーを前記溶着チップに設けた排気孔及びスリットを経由して溶着チップの外に排出する構成の樹脂基材に被固定物をカシメ留めするための溶着チップにおいて、前記溶着チップの外側に一定の間隔を空けて冷却エアー通路を形成するための冷却管を装着すると共に、この冷却管の外周の一部に冷却エアーの排出孔を設けて成る樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ。
【請求項2】
請求項1において、前記冷却管に形成される排出孔は、溶着チップ側に形成された排気孔及びスリットの位置に対して円周方向にずらした位置に設けたことを特徴とする樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ。
【請求項3】
請求項1において、前記冷却管は、その先端が溶着チップの先端と同一平面となるように装着されていることを特徴とする樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ。
【請求項4】
請求項1において、前記冷却管は、その先端が溶着チップの先端より突出するようにして装着されていることを特徴とする樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ。
【請求項5】
請求項4において、前記冷却管は、溶着チップに対して上下動自在に装着されていることを特徴とする樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ。
【請求項6】
請求項5において、前記冷却管は、溶着チップに対してスプリングによりその先端が溶着チップの先端より突出する方向に賦勢されていることを特徴とする樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ。
【請求項7】
請求項4において、前記冷却管は、全体が柔軟な材質の耐熱性材料により形成されていることを特徴とする樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ。
【請求項8】
請求項4において、前記冷却管の先端には柔軟な耐熱性材質で形成されたチューブが取り付けられていることを特徴とする樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項において、前記冷却管又はチューブの先端部は、薄肉に形成されていることを特徴とする樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項において、前記冷却管の先端部は、被固定物のカシメ部の表面形状に合わせた形状に形成されていることを特徴とする樹脂製品のカシメ留め用溶着チップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2010−125646(P2010−125646A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300690(P2008−300690)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(591061769)ムネカタ株式会社 (40)
【Fターム(参考)】