樹脂製品の製造方法
【課題】 金型自体に特別な加工を施すことなく、成形される樹脂製品の表面を所定の面粗度に仕上げることのできる樹脂製品の製造方法を提供することである。
【解決手段】 雌型プレートのキャビティ12と雄型プレートのコア13とで型締めされる空間部に加熱溶融した成形樹脂18を射出注入することによって、所定形状の樹脂体(カップ体)21を成形する樹脂製品の製造方法において、前記キャビティ12とコア13との間に所定の面粗度を有した熱可塑性のシート部材14を挟んで型締めし、前記シート部材14とキャビティ12とで形成される空間部内に加熱溶融した成形樹脂18を射出注入し、冷却して固化させた後に、成形されたカップ体21を取り出し、このカップ体21の表面に密着されているシート部材14を剥離することによって、前記カップ体21の面粗度を前記シート部材14の面粗度に合わせて成形した。
【解決手段】 雌型プレートのキャビティ12と雄型プレートのコア13とで型締めされる空間部に加熱溶融した成形樹脂18を射出注入することによって、所定形状の樹脂体(カップ体)21を成形する樹脂製品の製造方法において、前記キャビティ12とコア13との間に所定の面粗度を有した熱可塑性のシート部材14を挟んで型締めし、前記シート部材14とキャビティ12とで形成される空間部内に加熱溶融した成形樹脂18を射出注入し、冷却して固化させた後に、成形されたカップ体21を取り出し、このカップ体21の表面に密着されているシート部材14を剥離することによって、前記カップ体21の面粗度を前記シート部材14の面粗度に合わせて成形した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形を用いた各種形状の樹脂製品の製造方法に関し、特に、表面を所定の面粗度に仕上げるための樹脂製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形は、おもにプラスチック製品を形成する際の代表的な方法であり、電気製品の部品や日用品などの製造に多く用いられている。このような射出成形は、従来、次に示すような工程を経て行われている。最初に、製品の原型となる雌型プレート(キャビティ)12及び雄型プレート(コア)13からなる金型11を製作する(図7)。そして、前記キャビティ12とコア13とを型締めして、製品の原型となる空間部17を形成する(図8)。次に、前記空間部17内に溶融させた成形樹脂18を射出注入する(図9)。そして、前記成形樹脂を冷却して固化させた後、コア13を引き上げ、成形された樹脂製品18aを取り出す(図10)。なお、成形樹脂を射出注入する射出成形機は、前記キャビティ12とコア13とを型締めする型締ユニットと、前記キャビティ12内に溶融させた成形樹脂18を射出させるための射出ユニットとで構成されている。
【0003】
前記キャビティ12及びコア13は、同一の樹脂製品を大量生産するため、繰り返し使用に対しても変形に耐え得る金属材料が用いられる。このため、上記工程を経て形成される樹脂製品の表面は、前記キャビティ12及びコア13の金属面がそのまま転写されたような面粗度を有して形成されることになる。したがって、前記樹脂製品18aの面粗度は、使用するキャビティ12とコア13の表面加工精度に依存することとなる。
【0004】
一方、上記射出成形によって、表面にデザイン性を持たせた装飾品等を形成する場合にあっては、特許文献1に示されているように、キャビティやコアの表面に凹凸模様やシボ模様などを施したメッキ層を新たに設けることによって行われている。
【特許文献1】特開平9−123181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記示したように、成形される樹脂製品の表面を設定された面粗度やデザイン模様にして仕上げる場合は、キャビティやコアからなる金型を製作する際に、その表面を研磨したり、前述したようなメッキ層を別途設けたりしなければならない。このため、金型の設計や製作に多くの工数や時間がかかり、製品コストが高くなるといった問題がある。
【0006】
また、図11に示すように、前記キャビティ12やコア13に表面加工を施しても、繰り返し使用することで、コア13の表面13aの精度が荒くなったり、ごみ等の不純物が付着したりして僅かな凹凸が生じる場合がある。このような凹凸が前記表面13aに生じたまま射出成形を行なうと、成形された樹脂製品18aの表面にも凹凸がそのまま転写されてしまうこととなる。これを防止するには、前記コア13のメンテナンス回数を多くしなければならず、それにかかる費用や工数も増えるといった問題がある。
【0007】
また、外形形状は同じでも、面粗度の異なった樹脂製品を多種類製造する場合は、それに応じて前記キャビティやコアを用意しなければならないため、製造効率が悪くなるといった問題も有していた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、金型自体に特別な加工を施すことなく、成形される樹脂製品の表面を所定の面粗度に仕上げることのできる樹脂製品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の樹脂製品の製造方法は、雌型プレートのキャビティと雄型プレートのコアとで型締めされる空間部に加熱溶融した成形樹脂を射出注入することによって、所定形状の樹脂体を成形する樹脂製品の製造方法において、前記コアの表面に密着可能な熱可塑性のシート部材を配置し、このシート部材と前記キャビティとによって形成される空間部に前記成形樹脂を射出注入させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の樹脂製品の製造方法は、雌型プレートのキャビティと雄型プレートのコアとで型締めされる空間部に加熱溶融した成形樹脂を射出注入することによって、所定形状の樹脂体を成形する樹脂製品の製造方法において、前記キャビティとコアとの間に所定の面粗度を有した熱可塑性のシート部材を挟んで型締めし、前記シート部材とキャビティとで形成される空間部内に加熱溶融した成形樹脂を射出注入し、冷却して固化させた後に、成形された樹脂製品を取り出し、この樹脂製品の表面に密着されているシート部材を剥離することによって、前記樹脂製品の面粗度を前記シート部材の面粗度に合わせて成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る樹脂製品の製造方法によれば、キャビティとコアとで型締めされる金型の空間部に所定の面粗度を有したシート部材を挟んだ状態で樹脂成形させるため、前記キャビティやコア自体に直接表面加工を施す必要がない。このため、樹脂製品の表面仕上げを行なうための工数や金型の製作コストを低く抑えることができる。また、前記シート部材を交換するだけで樹脂製品の表面を所定の面粗度になるように成形することができる。
【0012】
また、前記シート部材の熱変形温度が成形樹脂の樹脂温度より低いため、キャビティとコアとで形成される空間内に成形樹脂を射出注入させたときに、最初にシート部材が軟化してコアの表面に隙間なく密着し、その後しばらくして成形樹脂が固化する。このように、成形樹脂を射出して所定形状の樹脂製品に成形すると同時に、その樹脂製品の表面を所定の面粗度に仕上げることができる。
【0013】
また、前記コアは、密着されたシート部材が保護膜となるので、樹脂成形する際の磨耗や劣化を有効に防止して、長期に亘って繰り返し使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて本発明に係る樹脂製品の製造方法の実施形態を詳細に説明する。ここで、図1は製造の流れを示す工程図、図2乃至図6は図1に示した各工程に対応した製造過程を金型の断面図で示したものである。なお、本実施形態では、高輝度発光型の発光ダイオード(LED)やLEDランプに使用される反射用のカップ体を形成する場合の製造方法について説明する。このカップ体は、図6に示されるように、中心部に上面から下面に向かって貫通するすり鉢状の凹部が設けられた円筒体である。また、光を均一に反射させるために、前記凹部面は、面粗度が極力小さくなるような平滑面に仕上げられる。
【0015】
本実施形態における樹脂製品の製造手順を図1に示す。最初に樹脂製品を形成するための土台となるキャビティとコアとからなる金型を製作する(a1)。次に前記キャビティとコアとの間に熱可塑性のシート部材を載置する(a2)。次に前記シート部材をコアによって、前記キャビティ内に押し込みながら挿入する(a3)。そして、前記キャビティとシート部材とでできる空間部内に成形樹脂を注入する(a4)。その後、注入した成形樹脂を冷却して固化させる(a5)。最後に、前記コアをキャビティ内から引き上げ(a6)、形成された樹脂製品の表面からシート部材を剥離する(a7)。
【0016】
図2は、図6に示したようなカップ体21を製造する場合の金型の構成を示したものであり、雌型プレート(キャビティ)12と雄型プレート(コア)13からなる金型11と、前記キャビティ12とコア13との間に介在させる所定の面粗度を有した熱可塑性のシート部材14と、前記キャビティ12内に成形樹脂を射出注入する射出成形機(図示せず)が用いられる。なお、前記射出成形機は、従来の一般的な構成のもので、前記金型11を型締めする型締ユニット及び成形樹脂を注入する射出ユニットとで構成されている。
【0017】
前記キャビティ12には、前記カップ体21の円筒形状の外形部を形成するための凹部15と、外部から成形樹脂を注入させる注入部(ランナ)19が形成され、コア13には、前記カップ体21の反射面(凹部)を形成するための凸部16が形成されている。前記シート部材14は、前記キャビティ12内に注入させる成形樹脂の成形温度よりも低い熱変形温度(Tg)を有するポリイミドフィルムが使用される。このポリイミドフィルムは、加熱によって軟化するため、任意の形状に成形が容易であり、また、それを冷却すれば固化する特性を有している。
【0018】
次に、図2乃至図6に基づいて製造工程を順に説明する。最初に、カップ体21の形状に合わせて製作されたキャビティ12と、コア13とを位置決めして対向配置させると共に、前記キャビティ12の上に熱可塑性のシート部材14を載置する(図2)。次に、前記シート部材14を凹部15内に押し出すようにしながら、コア13をキャビティ12に向けて移動する(図3)。このとき、前記シート部材14は、キャビティ12の内周縁部を基点として撓みながら凸部16の表面に沿って延ばされる。前記キャビティ12とコア13とを完全に型締めしてカップ体21の製品部となる空間部17を形成する(図4)。次に、射出成形機のノズル20をランナ19に挿入して、溶融させた成形樹脂18を空間部17内に射出注入する(図5)。この成形樹脂18は、成形時の樹脂加熱温度が310〜320℃のポリフタルアミドや液晶ポリマなどが使用される。成形樹脂18の注入によって、コア13の凸部16に沿って撓んだシート部材14が軟化して収縮し、さらに、注入する際の射出圧力によって前記凸部16の面形状に沿って隙間なく密着させる。そして、前記空間部17を成形樹脂18で完全に満たした後、冷却して固化させた後、前記コア13をキャビティ12から離間させ、成形されたカップ体21を取り出す。その際、カップ体21の表面に密着されているシート部材14を剥離する(図6)。なお、前記シート部材14の剥離を容易にするため、予めコア13やキャビティ12の表面に離型剤を塗布しておくのが好ましい。
【0019】
以上の工程を経て形成されたカップ体21は、すり鉢状の斜面22がシート部材14の表面をそのまま転写されたものとなる。本実施形態で使用したシート部材14にポリイミドフィルムを使用しているため、面粗度Ra=20nm以下の平滑面に形成することができる。また、このような面粗度は、面粗度の異なるフィルムを適宜選択して使用したり、前記シート部材14に密着させるコア13の表面に面粗度の異なるシートや成形樹脂を挟んだりすることによって自由に設定することが可能となる。これによって、外形形状は同じであっても、必要に応じた様々な面粗度を備えたカップ体21を量産することができる。
【0020】
なお、本発明に係る樹脂製品の製造方法は、キャビティ及びコアで構成される金型に様々な面粗度を有するシート部材をインサートする工程を追加するだけであるので、従来の射出成形で用いられる金型や射出成形機がそのまま使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る樹脂製品の製造方法の流れを示す工程図である。
【図2】本発明の製造方法で使用される金型の断面図である。
【図3】コアをキャビティに向けて移動させた状態の金型の断面図である。
【図4】コアとキャビティとを型締めした状態の金型の断面図である。
【図5】空間部に成形樹脂を満たした状態の金型の断面図である。
【図6】成形された樹脂製品の取り出し方法を示す説明図である。
【図7】従来の樹脂製品の製造方法において使用される金型の断面図である。
【図8】従来の金型におけるコアとキャビティとの型締め状態を示す断面図である。
【図9】図8の金型内に成形樹脂を射出注入して満たしたときの断面図である。
【図10】上記従来の製造方法によって成形された樹脂製品の断面図である。
【図11】コアの表面に細かい凹凸を有した金型によって製造される樹脂製品の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0022】
11 金型
12 キャビティ
13 コア
14 シート部材
15 凹部
16 凸部
17 空間部
18 成形樹脂
18a 樹脂製品
19 ランナ
20 ノズル
21 カップ体
22 斜面
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形を用いた各種形状の樹脂製品の製造方法に関し、特に、表面を所定の面粗度に仕上げるための樹脂製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形は、おもにプラスチック製品を形成する際の代表的な方法であり、電気製品の部品や日用品などの製造に多く用いられている。このような射出成形は、従来、次に示すような工程を経て行われている。最初に、製品の原型となる雌型プレート(キャビティ)12及び雄型プレート(コア)13からなる金型11を製作する(図7)。そして、前記キャビティ12とコア13とを型締めして、製品の原型となる空間部17を形成する(図8)。次に、前記空間部17内に溶融させた成形樹脂18を射出注入する(図9)。そして、前記成形樹脂を冷却して固化させた後、コア13を引き上げ、成形された樹脂製品18aを取り出す(図10)。なお、成形樹脂を射出注入する射出成形機は、前記キャビティ12とコア13とを型締めする型締ユニットと、前記キャビティ12内に溶融させた成形樹脂18を射出させるための射出ユニットとで構成されている。
【0003】
前記キャビティ12及びコア13は、同一の樹脂製品を大量生産するため、繰り返し使用に対しても変形に耐え得る金属材料が用いられる。このため、上記工程を経て形成される樹脂製品の表面は、前記キャビティ12及びコア13の金属面がそのまま転写されたような面粗度を有して形成されることになる。したがって、前記樹脂製品18aの面粗度は、使用するキャビティ12とコア13の表面加工精度に依存することとなる。
【0004】
一方、上記射出成形によって、表面にデザイン性を持たせた装飾品等を形成する場合にあっては、特許文献1に示されているように、キャビティやコアの表面に凹凸模様やシボ模様などを施したメッキ層を新たに設けることによって行われている。
【特許文献1】特開平9−123181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記示したように、成形される樹脂製品の表面を設定された面粗度やデザイン模様にして仕上げる場合は、キャビティやコアからなる金型を製作する際に、その表面を研磨したり、前述したようなメッキ層を別途設けたりしなければならない。このため、金型の設計や製作に多くの工数や時間がかかり、製品コストが高くなるといった問題がある。
【0006】
また、図11に示すように、前記キャビティ12やコア13に表面加工を施しても、繰り返し使用することで、コア13の表面13aの精度が荒くなったり、ごみ等の不純物が付着したりして僅かな凹凸が生じる場合がある。このような凹凸が前記表面13aに生じたまま射出成形を行なうと、成形された樹脂製品18aの表面にも凹凸がそのまま転写されてしまうこととなる。これを防止するには、前記コア13のメンテナンス回数を多くしなければならず、それにかかる費用や工数も増えるといった問題がある。
【0007】
また、外形形状は同じでも、面粗度の異なった樹脂製品を多種類製造する場合は、それに応じて前記キャビティやコアを用意しなければならないため、製造効率が悪くなるといった問題も有していた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、金型自体に特別な加工を施すことなく、成形される樹脂製品の表面を所定の面粗度に仕上げることのできる樹脂製品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の樹脂製品の製造方法は、雌型プレートのキャビティと雄型プレートのコアとで型締めされる空間部に加熱溶融した成形樹脂を射出注入することによって、所定形状の樹脂体を成形する樹脂製品の製造方法において、前記コアの表面に密着可能な熱可塑性のシート部材を配置し、このシート部材と前記キャビティとによって形成される空間部に前記成形樹脂を射出注入させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の樹脂製品の製造方法は、雌型プレートのキャビティと雄型プレートのコアとで型締めされる空間部に加熱溶融した成形樹脂を射出注入することによって、所定形状の樹脂体を成形する樹脂製品の製造方法において、前記キャビティとコアとの間に所定の面粗度を有した熱可塑性のシート部材を挟んで型締めし、前記シート部材とキャビティとで形成される空間部内に加熱溶融した成形樹脂を射出注入し、冷却して固化させた後に、成形された樹脂製品を取り出し、この樹脂製品の表面に密着されているシート部材を剥離することによって、前記樹脂製品の面粗度を前記シート部材の面粗度に合わせて成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る樹脂製品の製造方法によれば、キャビティとコアとで型締めされる金型の空間部に所定の面粗度を有したシート部材を挟んだ状態で樹脂成形させるため、前記キャビティやコア自体に直接表面加工を施す必要がない。このため、樹脂製品の表面仕上げを行なうための工数や金型の製作コストを低く抑えることができる。また、前記シート部材を交換するだけで樹脂製品の表面を所定の面粗度になるように成形することができる。
【0012】
また、前記シート部材の熱変形温度が成形樹脂の樹脂温度より低いため、キャビティとコアとで形成される空間内に成形樹脂を射出注入させたときに、最初にシート部材が軟化してコアの表面に隙間なく密着し、その後しばらくして成形樹脂が固化する。このように、成形樹脂を射出して所定形状の樹脂製品に成形すると同時に、その樹脂製品の表面を所定の面粗度に仕上げることができる。
【0013】
また、前記コアは、密着されたシート部材が保護膜となるので、樹脂成形する際の磨耗や劣化を有効に防止して、長期に亘って繰り返し使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて本発明に係る樹脂製品の製造方法の実施形態を詳細に説明する。ここで、図1は製造の流れを示す工程図、図2乃至図6は図1に示した各工程に対応した製造過程を金型の断面図で示したものである。なお、本実施形態では、高輝度発光型の発光ダイオード(LED)やLEDランプに使用される反射用のカップ体を形成する場合の製造方法について説明する。このカップ体は、図6に示されるように、中心部に上面から下面に向かって貫通するすり鉢状の凹部が設けられた円筒体である。また、光を均一に反射させるために、前記凹部面は、面粗度が極力小さくなるような平滑面に仕上げられる。
【0015】
本実施形態における樹脂製品の製造手順を図1に示す。最初に樹脂製品を形成するための土台となるキャビティとコアとからなる金型を製作する(a1)。次に前記キャビティとコアとの間に熱可塑性のシート部材を載置する(a2)。次に前記シート部材をコアによって、前記キャビティ内に押し込みながら挿入する(a3)。そして、前記キャビティとシート部材とでできる空間部内に成形樹脂を注入する(a4)。その後、注入した成形樹脂を冷却して固化させる(a5)。最後に、前記コアをキャビティ内から引き上げ(a6)、形成された樹脂製品の表面からシート部材を剥離する(a7)。
【0016】
図2は、図6に示したようなカップ体21を製造する場合の金型の構成を示したものであり、雌型プレート(キャビティ)12と雄型プレート(コア)13からなる金型11と、前記キャビティ12とコア13との間に介在させる所定の面粗度を有した熱可塑性のシート部材14と、前記キャビティ12内に成形樹脂を射出注入する射出成形機(図示せず)が用いられる。なお、前記射出成形機は、従来の一般的な構成のもので、前記金型11を型締めする型締ユニット及び成形樹脂を注入する射出ユニットとで構成されている。
【0017】
前記キャビティ12には、前記カップ体21の円筒形状の外形部を形成するための凹部15と、外部から成形樹脂を注入させる注入部(ランナ)19が形成され、コア13には、前記カップ体21の反射面(凹部)を形成するための凸部16が形成されている。前記シート部材14は、前記キャビティ12内に注入させる成形樹脂の成形温度よりも低い熱変形温度(Tg)を有するポリイミドフィルムが使用される。このポリイミドフィルムは、加熱によって軟化するため、任意の形状に成形が容易であり、また、それを冷却すれば固化する特性を有している。
【0018】
次に、図2乃至図6に基づいて製造工程を順に説明する。最初に、カップ体21の形状に合わせて製作されたキャビティ12と、コア13とを位置決めして対向配置させると共に、前記キャビティ12の上に熱可塑性のシート部材14を載置する(図2)。次に、前記シート部材14を凹部15内に押し出すようにしながら、コア13をキャビティ12に向けて移動する(図3)。このとき、前記シート部材14は、キャビティ12の内周縁部を基点として撓みながら凸部16の表面に沿って延ばされる。前記キャビティ12とコア13とを完全に型締めしてカップ体21の製品部となる空間部17を形成する(図4)。次に、射出成形機のノズル20をランナ19に挿入して、溶融させた成形樹脂18を空間部17内に射出注入する(図5)。この成形樹脂18は、成形時の樹脂加熱温度が310〜320℃のポリフタルアミドや液晶ポリマなどが使用される。成形樹脂18の注入によって、コア13の凸部16に沿って撓んだシート部材14が軟化して収縮し、さらに、注入する際の射出圧力によって前記凸部16の面形状に沿って隙間なく密着させる。そして、前記空間部17を成形樹脂18で完全に満たした後、冷却して固化させた後、前記コア13をキャビティ12から離間させ、成形されたカップ体21を取り出す。その際、カップ体21の表面に密着されているシート部材14を剥離する(図6)。なお、前記シート部材14の剥離を容易にするため、予めコア13やキャビティ12の表面に離型剤を塗布しておくのが好ましい。
【0019】
以上の工程を経て形成されたカップ体21は、すり鉢状の斜面22がシート部材14の表面をそのまま転写されたものとなる。本実施形態で使用したシート部材14にポリイミドフィルムを使用しているため、面粗度Ra=20nm以下の平滑面に形成することができる。また、このような面粗度は、面粗度の異なるフィルムを適宜選択して使用したり、前記シート部材14に密着させるコア13の表面に面粗度の異なるシートや成形樹脂を挟んだりすることによって自由に設定することが可能となる。これによって、外形形状は同じであっても、必要に応じた様々な面粗度を備えたカップ体21を量産することができる。
【0020】
なお、本発明に係る樹脂製品の製造方法は、キャビティ及びコアで構成される金型に様々な面粗度を有するシート部材をインサートする工程を追加するだけであるので、従来の射出成形で用いられる金型や射出成形機がそのまま使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る樹脂製品の製造方法の流れを示す工程図である。
【図2】本発明の製造方法で使用される金型の断面図である。
【図3】コアをキャビティに向けて移動させた状態の金型の断面図である。
【図4】コアとキャビティとを型締めした状態の金型の断面図である。
【図5】空間部に成形樹脂を満たした状態の金型の断面図である。
【図6】成形された樹脂製品の取り出し方法を示す説明図である。
【図7】従来の樹脂製品の製造方法において使用される金型の断面図である。
【図8】従来の金型におけるコアとキャビティとの型締め状態を示す断面図である。
【図9】図8の金型内に成形樹脂を射出注入して満たしたときの断面図である。
【図10】上記従来の製造方法によって成形された樹脂製品の断面図である。
【図11】コアの表面に細かい凹凸を有した金型によって製造される樹脂製品の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0022】
11 金型
12 キャビティ
13 コア
14 シート部材
15 凹部
16 凸部
17 空間部
18 成形樹脂
18a 樹脂製品
19 ランナ
20 ノズル
21 カップ体
22 斜面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌型プレートのキャビティと雄型プレートのコアとで型締めされる空間部に加熱溶融した成形樹脂を射出注入することによって、所定形状の樹脂体を成形する樹脂製品の製造方法において、
前記コアの表面に密着可能な熱可塑性のシート部材を配置し、このシート部材と前記キャビティとによって形成される空間部に前記成形樹脂を射出注入させることを特徴とする樹脂製品の製造方法。
【請求項2】
雌型プレートのキャビティと雄型プレートのコアとで型締めされる空間部に加熱溶融した成形樹脂を射出注入することによって、所定形状の樹脂体を成形する樹脂製品の製造方法において、
前記キャビティとコアとの間に所定の面粗度を有した熱可塑性のシート部材を挟んで型締めし、前記シート部材とキャビティとで形成される空間部内に加熱溶融した成形樹脂を射出注入し、冷却して固化させた後に、成形された樹脂製品を取り出し、この樹脂製品の表面に密着されているシート部材を剥離することによって、前記樹脂製品の面粗度を前記シート部材の面粗度に合わせて成形する樹脂製品の製造方法。
【請求項3】
前記シート部材は、前記空間部に射出注入される成形樹脂の熱によって軟化され、射出する際の圧力によって、前記コアの表面に密着する請求項1又は2記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項4】
前記シート部材は、前記成形樹脂より低い熱変形温度を有する請求項3記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項5】
前記シート部材は、ポリイミドフィルムである請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項1】
雌型プレートのキャビティと雄型プレートのコアとで型締めされる空間部に加熱溶融した成形樹脂を射出注入することによって、所定形状の樹脂体を成形する樹脂製品の製造方法において、
前記コアの表面に密着可能な熱可塑性のシート部材を配置し、このシート部材と前記キャビティとによって形成される空間部に前記成形樹脂を射出注入させることを特徴とする樹脂製品の製造方法。
【請求項2】
雌型プレートのキャビティと雄型プレートのコアとで型締めされる空間部に加熱溶融した成形樹脂を射出注入することによって、所定形状の樹脂体を成形する樹脂製品の製造方法において、
前記キャビティとコアとの間に所定の面粗度を有した熱可塑性のシート部材を挟んで型締めし、前記シート部材とキャビティとで形成される空間部内に加熱溶融した成形樹脂を射出注入し、冷却して固化させた後に、成形された樹脂製品を取り出し、この樹脂製品の表面に密着されているシート部材を剥離することによって、前記樹脂製品の面粗度を前記シート部材の面粗度に合わせて成形する樹脂製品の製造方法。
【請求項3】
前記シート部材は、前記空間部に射出注入される成形樹脂の熱によって軟化され、射出する際の圧力によって、前記コアの表面に密着する請求項1又は2記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項4】
前記シート部材は、前記成形樹脂より低い熱変形温度を有する請求項3記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項5】
前記シート部材は、ポリイミドフィルムである請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂製品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−38559(P2007−38559A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226329(P2005−226329)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000131430)シチズン電子株式会社 (798)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000131430)シチズン電子株式会社 (798)
【Fターム(参考)】
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