説明

樹脂製回転体の製造方法及び樹脂製歯車、樹脂製回転体成形用半加工部品の製造方法

【課題】1つの補強用繊維基材だけを用いた場合であっても、金属製ブッシュの外周部に設けた回り止め部と補強用繊維基材との結合強度を向上させた、信頼性の高い樹脂製回転体の製造方法を提供する。
【解決手段】補強用繊維基材5を形成するために、多数の補強繊維が集まって構成され且つ中央部に金属製ブッシュの外周部が嵌る貫通孔を備えた筒状の補強繊維集積体8を形成する。補強繊維集積体8を金属製ブッシュ2の外周部に嵌める。金属製ブッシュ2の外周部に嵌めた補強繊維集積体8を前記軸の軸線方向に圧縮する。この圧縮は、補強繊維集積体が内径方向と外径方向へ所定以上に広がるのを規制した状態で実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製回転体の製造方法に関するものであり、また本発明は樹脂製回転体成形用半加工部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
補強用繊維基材を用いた樹脂製回転体は耐久性能に優れ、車輌用品、産業用部品等に用いられる樹脂製歯車などの樹脂製回転体として好適である。樹脂製歯車を成形するための補強用繊維基材として、筒状に織られた又は編まれた筒状体を端部より裏返しながら巻き込みドーナツ状に形成した補強用繊維基材が特許文献1に記載されている。特許文献1には、当該補強用繊維基材に樹脂を含浸して歯部を形成した樹脂製歯車も記載されている。しかしこの従来の技術では、補強用繊維基材と金属製ブッシュに設けた抜け止めとの結合強度を向上させるために、成形金型内で2つの補強用繊維基材を金属製ブッシュを間に介して2段に重ね、金属製ブッシュの抜け止めを図っている(特許文献1の段落番号0013〜0015)。
また、熱硬化性樹脂と繊維チョップを主成分とする抄造シートをプレス抜きした抄造紙シート素形体を複数枚積み重ねて、成形金型内で加熱加圧成形する樹脂製歯車の製造法が特許文献2に記載されている。
【0003】
これら樹脂製歯車は、2つの補強用繊維基材の重ね合わせ界面や抄造シート素形体の積層界面に、繊維の絡み合いが殆どなく、使用用途によっては、積層面で剥離が発生しやすいという心配がある。また、補強用繊維基材と金属製ブッシュとの結合強度が不足する心配がある。これらのことから、使用用途によっては樹脂製歯車の耐久性が不足する心配がある。
【0004】
これらの問題解決のために、補強繊維に繊維チョップを用いて抄造法による金型で集積体を作ることも提案された。特許文献3には繊維チョップと熱硬化性樹脂の混合スラリーを、透水性金型内で加圧ないしは減圧脱水して集積体を得る製造法が開示されている。しかし、水に分散できる樹脂は流動性が低く、樹脂と繊維界面での濡れが不充分なために実用に耐える耐久性が得られない。また、特許文献4には流体流出口を有する成型金型で繊維の充填、加熱加圧もその金型で行い、さらに樹脂注入もその金型で行って加熱加圧をして繊維強化樹脂複合体を形成する方法が開示されている。しかし、この方法では樹脂製回転体の中央部に金属製ブッシュを配置することが難しい。また、注入した樹脂が金網などからなる成型金型全体に洩れて硬化後に成型物を取り出すことが容易にはできない上に、成型金型は目詰まりするために、回数を重ねての使用ができなくなる難点がある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−295913号公報
【特許文献2】特開平11−227061号公報
【特許文献3】特開2001−1413号公報
【特許文献4】特開2005−96173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中央部に金属製ブッシュを配置した樹脂製回転体において、金属製ブッシュの外周部に設けた回り止め部に補強繊維を充填させるために、金属製ブッシュを上下より2つのリング状補強用繊維基材で挟み込み、回り止めに繊維を喰い込ませて充填させる方法は既知の技術である(特許文献1)。しかし、かかる方法では補強用繊維基材の重ね合わせ界面での繊維の絡みがないために、使用用途によっては界面剥離による耐久性能が低下する心配がある。界面剥離の問題は、1個の補強用繊維基材を使用すすることにより解決されるが、金属製ブッシュに設けた回り止め部を挟み込むことができないために、回り止め部に繊維を喰い込ませた樹脂製回転体を作製することができなかった。
【0007】
本発明の目的は、1つの補強用繊維基材だけを用いた場合であっても、金属製ブッシュの外周部に設けた回り止め部と補強用繊維基材との結合強度を向上させた、信頼性の高い樹脂製回転体または樹脂製回転体成形用半加工部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、次のような手段を採用するものである。
本発明の樹脂製回転体の製造方法は、外周部に1以上の回り止め部が形成されて軸を中心にして回転する金属製ブッシュを用意するステップと、金属製ブッシュの外周部の外側位置に、この外周部に嵌った状態で配置された補強用繊維基材を形成するステップと、補強用繊維基材に樹脂を含浸させ、樹脂を硬化して樹脂成形体を形成するステップと備えている。そして補強用繊維基材を形成するステップでは、内部に境界面を形成しないように多数の補強繊維により構成され且つ中央部に金属製ブッシュの外周部が嵌る貫通孔を備えた筒状の補強繊維集積体を形成する。次に補強繊維集積体を金属製ブッシュの外周部に嵌める。そして金属製ブッシュの外周部に嵌めた補強繊維集積体を前記軸の軸線方向に圧縮する。この圧縮は、補強繊維集積体が内径方向と外径方向へ所定以上に広がるのを規制した状態で実施する。
【0009】
このようにすると1つの補強繊維集積体を金属製ブッシュの軸線方向に圧縮する過程で、嵩高い補強繊維集積体は、前記軸線方向中央部で内径方向に座屈する。これにより、補強繊維集積体が金属製ブッシュの回り止め部に押し付けられ、金属製ブッシュの回り止め部を完全に包むことができる。したがって従来のように、補強用繊維基材の内部に繊維層の境界面を形成することなく、補強用繊維基材と金属製ブッシュの回り止め部との結合強度を向上させることができる。また前記座屈により、補強繊維の密度が、金属製ブッシュに近い側から粗、密、粗となる樹脂製回転体成形用半加工部品を得ることができる。これを用いた樹脂製回転体は、相手部品と噛合う部分の繊維密度を高めることができ、耐久性能を向上させることができる。
【0010】
内部に境界面を有しない補強繊維集積体は、補強繊維チョップを水中分散させたスラリーを、複数の貫通孔を備えた抄造金型を通して吸引しながら補強繊維チョップを集積させてプレート状集積体を形成するステップと、プレート状集積体から筒状の補強繊維集積体を打ち抜くステップとから形成することができる。このような2つのステップにより補強繊維集積体を形成すると、その内部には後に剥離の原因となるような境界層が形成されることはない。
【0011】
また筒状の補強繊維集積体は、次のようにして形成してもよい。すなわち内側筒体と、内側筒体と同心的に配置された外側筒体と、内側筒体及び外側筒体の下側端部間を連結する底部材とからなり、内側筒体、外側筒体及び底部材の少なくとも1つの部材に複数の貫通孔が形成された抄造金型を用意する。そして補強繊維チョップを水中分散させたスラリーを、抄造金型を通して吸引しながら補強繊維チョップを底部材上に集積させて筒状の補強繊維集積体を形成する。このようにして補強繊維集積体を製造すると、打ち抜き作業が不要なため、製造工程が少なくてすみ、また打ち抜きのように捨てる材料が多くなる問題が生じることはない。
なお、上記補強繊維集積体の内径は、金属製ブッシュ回り止め部の外径より大きいほうが望ましい。
【0012】
金属製ブッシュの外周部に設ける1以上の回り止め部の数及び形状は任意である。例えば、1以上の回り止め部は、軸の径方向に突出する複数の突出部から構成することができる。この場合、複数の突出部は、径方向外側に向かって突出する突出寸法が異なる二種類の突出部から構成することができる。そして二種類の突出部は、前記周方向に交互に並ぶように配置するのが好ましい。
【0013】
また本発明で補強繊維集積体を軸線方向に圧縮するために、例えば、補強繊維集積体が金属製ブッシュの外周部より径方向内側に、及び補強繊維集積体の外周部より径方向外側に広がるのを規制した状態で、補強繊維集積体を軸線方向に圧縮すると、圧縮過程において、補強繊維は金属製ブッシュの径方向内側に向かって移動することになる。その結果、補強繊維は金属製ブッシュの外周部に押し付けられて、1以上の回り止め部の周囲の補強繊維の密度を高くすることができる。補強繊維集積体が金属製ブッシュの外周部より径方向内側へ広がる規制を、若干内側へ広がることを許容し、補強繊維集積体が金属製ブッシュの周縁に覆いかぶさるようにしてもよい。
【0014】
なおこのようなプレスを可能にするためのプレス装置は、例えば、圧縮動作時に補強用繊維基材が金属製ブッシュの径方向外側に広がるのを規制する筒状金型と、筒状金型の内部に配置されて金属製ブッシュの外周部よりも内側に位置する部分を軸線方向の両側から挟み且つ圧縮動作時に補強繊維集積体が金属製ブッシュの外周部より径方向内側に広がるのを規制する一対の金属製ブッシュ支持用金型と、筒状金型と金属製ブッシュ支持用金型の間に位置して、圧縮動作時に補強繊維集積体を軸線方向両側から挟んで圧縮する一対の圧縮用金型とを備えているのが好ましい。このような圧縮用金型であれば、一対の圧縮用金型で補強繊維集積体を圧縮した場合に、金属製ブッシュの外周部より径方向内側及び補強繊維集積体の外周部より径方向外側の両方向に補強繊維が膨出するのを確実に阻止することができる。この場合、一対の圧縮用金型の少なくとも一方の圧縮用金型の補強用繊維基材と接触する接触面は、他方の圧縮用金型の補強繊維集積体と接触する接触面との間の距離が、筒状金型から一対の金属製ブッシュ支持用金型に近付くに従って長くなるように傾斜する傾斜面であってもよい。
【0015】
樹脂成形体に機械加工を施して複数の歯を形成すれば、機械的に強度が高く、しかも、使用時の騒音の発生が少ない樹脂製歯車を得ることができる。なお本発明の樹脂製回転体を用いて、歯車の他に、プーリ等の回転部品を製造してもよいのは勿論である。
なお樹脂を含浸する前までで製造を停止すれば、樹脂製回転体成形用半加工部品を製造することができる。
【0016】
本発明の方法により形成される補強用繊維基材は、補強用繊維基材の重ね合せ界面がなく、剥離することがない。これらのことから、樹脂製歯車などの樹脂製回転体の耐久性能は大幅に向上する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、1つの補強繊維集積体を軸線方向に圧縮する過程で、補強用繊維基材の一部すなわち補強繊維が金属製ブッシュの外周部に向かう方向に移動し、金属製ブッシュの回り止め部を完全に包むことができ、さらに金属製ブッシュの外周部近傍の補強用繊維基材の密度を高めることができるので、従来のように、補強用繊維基材の内部に繊維層の境界面を形成することなく、補強用繊維基材と金属製ブッシュの回り止め部との結合強度を向上させることができて、樹脂製歯車などの樹脂製回転体の耐久性能を大幅に向上することができる利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、模式的に示した本発明の樹脂製回転体の実施の形態の一例の縦断面図である。この樹脂製回転体1は、図示しない軸を中心にして回転する金属製ブッシュ2を備えている。金属製ブッシュ2の中央部には、図示しない軸が嵌合される貫通孔3が形成されている。また金属製ブッシュの外周部には、複数の回り止め部を構成する突出部4が周方向に所定の間隔をあけて一体に形成されている。なお金属製ブッシュ2に軸が一体に形成されていてもよい。複数の突出部4の軸線方向に測った厚み寸法L2は、金属製ブッシュ2の軸線方向に測った厚み寸法L1よりも小さい。本実施の形態で用いる金属製ブッシュは焼結法により製造されたものである。そして回り止め部を構成する突出部4は、頂部の厚さが厚く基部の厚さが薄いアンダーカット形状である。そして金属製ブッシュ2の横断面に対する角度θが5°以上40°以下のものを用いている。そして図2に示すように、回転方向への負荷に耐える回り止め部の作用を高めるためには、好ましくは、回り止め部となる突出部は、少なくとも高さh1及びh2の異なる2種類の突出部4A及び4Bが交互に配列されたものが好ましい。このようなアンダーカットの形状を持ち、角度θが5°以上40°以下の2種類の突出部を用いると、後述する補強用繊維基材5内に回り止め部としての複数の突出部4Aが完全に埋まった状態となり、両者間の機械的結合の強度を十分なものとすることができる。なお隣り合う二つの突出部間に形成される凹部内に補強用繊維基材5の一部が入ることによっても、前述の機械的強度は当然にして増加する。
【0019】
本実施の形態では、1つの補強用繊維基材5が、金属製ブッシュ2の外周部の外側の位置に、外周部に嵌った状態で配置されている。そして補強用繊維基材5に樹脂が含浸され且つ樹脂が硬化して形成された樹脂成形体6が形成されている。補強用繊維基材5は、図3に概略的に示すように、多数の補強繊維が集まって構成され且つ中央部に金属製ブッシュ2の外周部が嵌る貫通孔7を備えた筒状の補強繊維集積体8が、金属製ブッシュ2の外周部に嵌った状態で、軸の軸線方向に圧縮されて形成されたものである。補強用繊維基材5または補強繊維集積体8を形成するために用いる補強繊維の種類は後述するように、種々のものを用いることができる。
【0020】
また、金属製ブッシュ2の外周部に設けた回り止めと樹脂部の結合を強固たるものとするためには、前記回り止めは、軸線方向に沿って測定した頂部の厚み寸法が基部の厚み寸法よりも大きいアンダーカット形状であり、金属製ブッシュの軸線方向に対向する一対の側面の横断面に対する角度が5°以上40°以下、好ましくは、10°以上35°であるものが効果的である。これは外径方向への抜け阻止に作用するものである。
【0021】
上記アンダーカット形状をもった回り止め部を構成する突出部は、焼結法で成型すれば、精度よく設計どおりに作ることができる。突出部4の最適構造は、たとえば外径60mmの樹脂製歯車の場合、突出部(山)の数が30であり、突出部の間に形成される凹部すなわち谷部分の数は29である。なおこれらの数は、樹脂製歯車の径や厚さ、歯の構造に応じて適宜変更されることは当然である。
【0022】
なお円筒状の補強繊維集積体8を得るためには、図4に示すような抄造金型9を用いるのが好ましい。この抄造金型9は、内側筒体10と、内側筒体10と同心的に配置された外側筒体11と、内側筒体10及び外側筒体11の下側端部間を連結する底部材12とからなり、内側筒体10、外側筒体11及び底部材12の少なくとも1つの部材に、10メッシュ以上250メッシュ以下の複数の貫通孔が形成されたものである。この例では、内側筒体10、外側筒体11及び底部材12のすべてに、10メッシュ以上250メッシュ以下の複数の貫通孔が形成されている。なお具体的な内側筒体10、外側筒体11及び底部材12は、濾水性を有する金網によって構成されている。この抄造金型9の内側筒体10外径寸法は、使用する金属製ブッシュ2の突出部4を含む外径寸法と同じか、好ましくはこの外径寸法より大きくしておく。得られた円筒状の補強繊維集積体8の内径が金属製ブッシュ2の外径よりも小さいと、補強繊維集積体8の径方向及び厚み方向の中央位置に金属製ブッシュ2を配置することができない。または金属製ブッシュ2の外周部に設けた回り止め用の突出部4に円筒状の補強繊維集積体8の内径部分の繊維が引っかかり、円筒状の補強繊維集積体8の形状が崩れてしまうためである。抄造金型9は、ポンプPによって室内が負圧状態に吸引されるケース13内にセットされて使用される。
【0023】
抄造金型9を構成する部材に用いる金網(貫通孔が形成された構造体)のメッシュサイズは250メッシュより大きくなると水と繊維の濾過抵抗が大きくなり、抄造金型9の内部に入れた補強繊維チョップを含むスラリーを、ポンプPで吸引して水分を抄造金型9から排水させても、繊維と水の分離に要する時間が長くなり、製造サイクルが長くなる。またメッシュサイズが10メッシュより小さいと、繊維長が長い補強繊維チョップを使用しても網目の隙間(貫通孔)が大きいために補強繊維の多くが水と共に流出してしまう。そのために、補強繊維集積体8の繊維密度が著しく低下してしまう問題が発生する。よって使用するメッシュサイズは10メッシュ以上250メッシュ以下が好ましい。
【0024】
また、円筒状の補強繊維集積体8は、図8に示すようにプレート状集積体26を形成し、このプレート状集積体26から筒状の補強繊維集積体8を打ち抜く(プレス抜きする)ようにして形成してもよい。
【0025】
使用する補強繊維チョップは、融点、あるいは分解温度が250℃以上の繊維からなるものが好ましい。このような繊維チョップを用いて補強繊維集積体8を形成することで、成形時の成形温度や加工温度、実際の使用時にかかる雰囲気温度において、樹脂製回転体内の繊維チョップが熱劣化を起こすことなく、耐熱性に優れた樹脂製回転体とすることができる。このような繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、およびポリビニルアルコール系繊維から選ばれた少なくとも1種以上の繊維を使用するのが好ましい。
また、補強繊維チョップには、引張強度15cN/dtex以上、引張弾性率350cN/dtex以上の高強度高弾性率繊維を少なくとも20体積%以上含むことが好ましい。このようにして得られる補強繊維集積体8を用いた樹脂製回転体は、使用中にかかる高負荷に耐え得るものとすることができる。
【0026】
また、抄造後及び金属製ブッシュと一体化した後の補強用繊維基材5を次工程に移動、又は搬送する際に形状を維持するための強度を付与するためには、補強繊維がアラミド繊維をフィブリル化処理した微細繊維を含み、微細繊維のフリーネスが100ml以上400ml以下であって、微細繊維の含有量が補強繊維中の30質量%以下になるように配合することが望ましい。望ましい態様としては、パラアラミド繊維の機械的剪断で繊維軸方向に裂開させたフィブリル化処理したアラミド微細繊維を混合することが好ましい。フリーネスが400mlを超えるとフィブリル化が不充分のため補強用繊維基材の形状を維持するための強度を付与することが困難になる。またフリーネスが100ml未満になると繊維軸方向に裂開させるだけでなく、径方向に剪断されて粉末状態になってしまうために繊維の絡みが悪くなって、補強用繊維基材の形状を維持するための強度を付与する事が困難となる。また濾水性が悪化し、樹脂含浸の妨げるとなる。またフィブリル化処理したアラミド微細繊維が30質量%を超えると繊維間の隙間にフィブリル化した微細繊維が充填され、樹脂注入成形時に、樹脂の樹脂含浸が阻害され、含浸不良などの不具合が生じてしまう。好ましくは適度な強度を付与し、樹脂含浸性を阻害しない5から10質量%のフィブリル化した微細繊維を配合するのが良い。
【0027】
上記繊維チョップを水中に分散させる際の濃度は、0.3g/リットル以上20g/リットル以下が好ましい。繊維長が短い繊維を使用する場合、繊維同士の絡みが少なく、分散が良いため濃度20g/リットルの高濃度のスラリーで分散させることができる。一方、繊維長が長い繊維を使用する場合、繊維長が長すぎるため濃度0.3g/リットルの低濃度でないと充分分散させることができない。
【0028】
ちなみに、前述の補強繊維がアラミド繊維をフィブリル化処理した微細繊維を含む場合において、金属製ブッシュ2の直径が5cmの場合に使用する補強繊維集積体8の厚み寸法(軸線方向寸法)は、約8cmである。そして後述する圧縮作業により、補強繊維集積体8は約1.5cm程度まで圧縮されて補強用繊維基材5に成形される。
【0029】
次に、補強繊維集積体8を圧縮して補強用繊維基材5を備えた樹脂製回転体成形用半加工部品を製造するステップの一例を図5を用いて説明する。図5に示したプレス装置は、圧縮動作時に補強用繊維基材が金属製ブッシュの径方向外側に広がるのを規制する筒状金型15と、筒状金型15の内部に配置されて金属製ブッシュ2の外周部よりも内側に位置する部分を軸線方向の両側から挟み且つ圧縮動作時に補強繊維集積体8が金属製ブッシュ2の外周部より径方向内側に広がるのを規制する一対の金属製ブッシュ支持用金型16及び17と、筒状金型15と一対の金属製ブッシュ支持用金型16及び17の間に位置して、圧縮動作時に補強繊維集積体8を軸線方向両側から挟んで圧縮する一対の圧縮用金型18及び19とを備えている。このような圧縮用金型であれば、一対の圧縮用金型18及び19で補強繊維集積体8を圧縮した場合に、金属製ブッシュ2の外周部より径方向内側及び補強繊維集積体の外周部より径方向外側の両方向に補強繊維が膨出するのを確実に阻止することができる。
【0030】
このとき、図5(C)に示すように、嵩高い補強繊維集積体8は、軸線方向中央部で内径方向に座屈する。これにより、補強繊維集積体8が金属製ブッシュ2の回り止め部に押し付けられ、金属製ブッシュの回り止め部を完全に包むことができる。また、図10に模式的に示すように、前記座屈により、補強繊維の密度が、金属製ブッシュに近い側から粗、密、粗となる樹脂製回転体成形用半加工部品を得ることができる。なお、補強繊維の密度は、例えば、電子顕微鏡にて樹脂製回転体の断面写真(500倍程度)を撮影し、単位面積当りの補強繊維の本数を計測することにより、確認することができる。
なお補強繊維集積体8は水分を含んだ状態で圧縮しても、乾燥した状態で圧縮してもどちらでも樹脂製回転体成形用半加工部品を製造する事は可能であるが、圧縮後の樹脂製回転体成形用半加工部品の基材厚みの戻り量が少ない点から、水分を含んだ補強繊維集積体を使用したほうが好ましい。
【0031】
次に図6に示すように、補強用繊維基材5を備えた樹脂製回転体成形用半加工部品を金型27内に配置した後に金型27に液状樹脂を注入して補強用繊維基材5に樹脂を含浸させ、その後硬化させて、樹脂成形体を備えた樹脂製回転体を成形する。成形した樹脂製回転体の樹脂成形体の外周部に機械加工を施して歯を形成すれば樹脂製歯車を得ることができる。また外周面に沿って溝を形成すれば、プーリを得ることができる。
【0032】
液状樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等いずれのものでも良く、エポキシ樹脂、ポリアミノアミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂から選ばれた1以上の樹脂と該樹脂の硬化剤を組合せたものが使用できる。
【0033】
これらの中でも、樹脂硬化物の強度、耐熱性等の点からポリアミノアミド樹脂が好ましく、耐熱性、強度が優れる2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンとアミン硬化剤、および前記混合物100質量部に対し5質量部以下の触媒とからなる樹脂を使用することが好ましい。前記触媒を5質量部以上添加すると硬化時間が短く、補強用繊維基材に樹脂が充分含浸される前に樹脂が硬化してしまうため、樹脂含浸不良の問題が発生する。
【0034】
補強繊維の樹脂製回転体に含まれる割合は、所望する樹脂製回転体の強度等によって異なるが、30体積%以上50体積%以下であることが好ましい。樹脂製回転体に占める補強繊維の割合が30体積%未満である場合、樹脂を繊維で補強する効果がほとんど見られず、また金属製ブッシュ回り止めへの繊維の充填も不充分となる。また、補強繊維の割合が50体積%を越えた場合は、繊維の占める割合が高すぎるため、樹脂注入成形時樹脂の樹脂含浸不足が発生しやすくなるなどの問題がおこる。そのため繊維強化樹脂複合体に含まれる繊維の割合は樹脂製回転体の強度があり、及び2つの突出部の間に形成される回り止め用の凹部内ならびに回り止め部の周囲に繊維が確実に充填され、しかも樹脂の含浸を阻害しない35〜45体積%がさらに好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明する。
実施例1
スラリーを製造するために、繊維チョップ投入時の濃度が1g/リットルとなる量の水を満たしたタンクに、樹脂成形体中の補強繊維の繊維総量が40体積%となり、また繊維チョップとして、アスペクト比200のパラ系アラミド繊維“帝人(株)製「テクノーラ(商標)」”を50質量%、アスペクト比200のメタ系アラミド繊維“帝人(株)製「コーネックス(商標)」”を45質量%、そしてフリーネス値300mlまでフィブリル化処理した微細繊維“デュポン(株)製「ケブラー(商標)」”を5質量%となる量をそれぞれ投入し、攪拌機で攪拌し分散させる。図4の抄造金型を用いる場合には、減圧用のポンプPにてケース13内の空洞部分Sを80kPa以下に減圧する。そしてこの抄造金型9内に、分散させた繊維チョップを含むスラリーを充填し、繊維チョップと水を分離して円筒状の補強繊維集積体8を得る。なお抄造金型を構成する金網としては金属製70メッシュの金網を用いた。
【0036】
次に、図5に示す金型を用いて、金型中央の下側のセンターピン17の上に金属製ブッシュ2を配置した後、円筒状の補強繊維集積体8を下側の圧縮用金型19の上に配置する。使用する金属製ブッシュ2の突出部4の形状は、h1=2mm、h2=0.5mmであり、アンダーカット形状であり、金属製ブッシュ2の横断面に対する角度θが20°である。そして金属製ブッシュ2を下側のセンターピン17と上側のセンターピン16で挟み込む。その後、一対の圧縮用金型18及び19により補強繊維集積体8を所定厚さまで軸方向に圧縮する。これにより円筒状の補強繊維集積体8を金属製ブッシュ2に設けた突出部4と一体化させる。これを乾燥して補強用繊維基材5を得る。
【0037】
次に図6に示すように、上記の工程で得られた金属製ブッシュ2と一体化した補強用繊維基材5を200℃に加熱した成形金型27に配置して型締めする。そして、成形金型27内部を圧力90kPa以下に減圧した後、2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリン(三国製薬工業(株)製「1,3−PBO」)69質量部、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(三井化学(株)製「MDA」)31質量部を混合したものを温度140℃で溶解し、オクチルブロマイド1質量部を加えて撹拌した樹脂を金型内部に注入して補強用繊維基材11に含浸させ、成形金型27内で加熱硬化し歯車素材を得る。この歯車素材を切削加工により歯を形成することにより樹脂製歯車を得る。
【0038】
比較例1
パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維の混紡糸(パラ系アラミド繊維混紡量:45質量%)で編んだ丸編み筒状体を準備する。この筒状体を軸方向に端部より巻き上げてリング状に整える。さらに断面が矩形になるように金型でプレス成形した補強用繊維基材を2個使用し、図7に示すように、金属製ブッシュ2に設けた突出部4を挟み込み、加熱した成形金型41に配置して型締めをする。その後の工程は、実施例1と同様にして、樹脂製歯車51を製造する。この比較例は、特許文献1に記載の方法により製造するものである。
比較例2
図8に示す抄造金型25を用いてプレート状集積体を作成した。抄造金型25は、底面部25Aのみ金網で構成されており、金網は#70のシート状メッシュである。この抄造金型25に、実施例1と同様の繊維配合、濃度でタンク21内で水中に分散させた繊維チョップを導入して、脱水を行い、厚み20mm〜30mmの集積物26’を得る。集積物26’を乾燥した後、外径φ80mm×内径φ55mmのリング状に打ち抜き、筒状の補強繊維集積体8を得る。樹脂製回転体を作製する際は補強繊維集積体8を2個使用する。なお、補強繊維集積体8を用いて樹脂製回転体を作製した場合の樹脂成形体に対する補強繊維の体積が40体積%となるように、補強繊維の投入量を計算している。
【0039】
上記の工程で得られた補強繊維集積体8を2個使用し、図7に示すように、金属製ブッシュ2に設けた突出部4を挟み込み、加熱した成形金型41内に配置して型締めをする。その後の工程は、実施例1と同様にして、樹脂製歯車を製造する。
【0040】
上記実施例1および比較例1〜2に示す方法で作製した樹脂製歯車を用いてボス抜き強度を測定した結果を表1に示す。測定方法は以下に示すとおりである。
ボス抜き強度:図9に示すように樹脂部のみに接し、かつ金属製ブッシュ2の外径サイズより大きい内径の円筒形状の台55の上に樹脂製歯車51を配置する。上方より金属製ブッシュ2を押さえる金具56を取付け、これに荷重を加え樹脂製歯車51が破壊に至る最大荷重を測定した。
【0041】
【表1】

【0042】

実施例1と比較例1〜2の対照から、本発明の実施例1は金属製ブッシュのアンダーカット部分への繊維の充填性が比較例1,2より向上しているため、ボス抜き強度が向上している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】模式的に示した本発明の樹脂製回転体の実施の形態の一例の縦断面図である。
【図2】(A)及び(B)は金属製ブッシュの平面図及び縦断面図である。
【図3】補強繊維集積体の概略図である。
【図4】補強繊維集積体の製造に用いる抄造金型を示す概略図である。
【図5】(A)乃至(D)は、補強用繊維基材の成形工程を順番に示す図である。
【図6】樹脂注入用の金型に樹脂製回転体成形用半加工部品を配置した状態を示す説明図である。
【図7】比較例の樹脂製回転体を製造する場合の例を説明するために用いる図である。
【図8】(A)及び(B)はプレート状集積体を製造する抄造金型の例とプレート状集積体から補強繊維集積体を製造する例を示す図である。
【図9】ボス抜き強度を測定する装置の構成を示す図である。
【図10】補強繊維集積体を圧縮したときの様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 樹脂製回転体
2 金属製ブッシュ
3 貫通孔
4,4A,4B 突出部(回り止め部)
5 補強用繊維基材
8 補強繊維集積体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に1以上の回り止め部を有して、軸を中心にして回転する金属製ブッシュと、
前記金属製ブッシュの前記外周部の外側位置に、前記外周部に嵌った状態で配置された補強用繊維基材を形成するステップと、
前記補強用繊維基材に樹脂を含浸させ、前記樹脂を硬化して樹脂成形体を形成するステップとを備えてなる樹脂製回転体の製造方法であって、
前記補強用繊維基材を形成するステップは、
内部に境界面を形成しないように多数の補強繊維により構成され且つ中央部に前記金属製ブッシュの前記外周部が嵌る貫通孔を備えた筒状の補強繊維集積体を形成するステップと、
前記補強繊維集積体を前記金属製ブッシュの前記外周部に嵌めるステップと、
前記金属製ブッシュの前記外周部に嵌めた前記補強繊維集積体を前記軸の軸線方向に圧縮するステップであり、
前記軸の軸線方向に圧縮するステップは、補強繊維集積体が内径方向と外径方向へ所定以上に広がるのを規制した状態で実施することを特徴とする樹脂製回転体の製造方法。
【請求項2】
前記軸の軸線方向に圧縮するステップは、前記補強繊維集積体の内径が、前記金属製ブッシュの外周部より径方向内側に、及び前記補強繊維集積体の外径が、径方向外側に広がるのを規制した状態で、前記補強繊維集積体を前記軸線方向に圧縮することを特徴とする請求項1に記載の樹脂製回転体の製造方法。
【請求項3】
前記軸の軸線方向に圧縮するステップは、圧縮動作時に前記補強繊維集積体が前記金属製ブッシュの径方向外側に広がるのを規制する筒状金型と、前記筒状金型の内部に配置されて前記金属製ブッシュの前記外周部よりも内側に位置する部分を前記軸線方向の両側から挟み且つ圧縮動作時に前記補強繊維集積体が前記金属製ブッシュの外周部より径方向内側に広がるのを規制する一対の金属製ブッシュ支持用金型と、前記筒状金型と前記一対の金属製ブッシュ支持用金型の間に位置して、圧縮動作時に前記補強繊維集積体を前記軸線方向両側から挟んで圧縮する一対の圧縮用金型とを備えているプレス装置により実施するものである請求項2に記載の樹脂製回転体の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法により製造された樹脂製回転体の樹脂成形体に歯切り加工が施されて形成された樹脂製歯車。
【請求項5】
外周部に1以上の回り止め部を有して、軸を中心にして回転する金属製ブッシュと、
前記金属製ブッシュの前記外周部の外側位置に、前記外周部に嵌った状態で配置された補強用繊維基材を形成するステップとからなる樹脂製回転体成形用半加工部品を製造する方法であって、
前記補強用繊維基材を形成するステップは、
内部に境界面を形成しないように多数の補強繊維により構成され且つ中央部に前記金属製ブッシュの前記外周部が嵌る貫通孔を備えた筒状の補強繊維集積体を形成するステップと、
前記補強繊維集積体を前記金属製ブッシュの前記外周部に嵌めるステップと、
前記金属製ブッシュの前記外周部に嵌めた前記補強繊維集積体を前記軸の軸線方向に圧縮するステップであり、
前記軸の軸線方向に圧縮するステップは、補強繊維集積体が内径方向と外径方向へ所定以上に広がるのを規制した状態で実施することを特徴とする樹脂製回転体成形用半加工部品の製造方法。
【請求項6】
補強繊維の密度が、金属製ブッシュに近い側から粗、密、粗であることを特徴とする樹脂製回転体。
【請求項7】
補強繊維の密度が、金属製ブッシュに近い側から粗、密、粗であることを特徴とする樹脂製回転体成形用半加工部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−113486(P2009−113486A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269276(P2008−269276)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】