説明

樹脂複合体およびその製造方法

【課題】 ポリマーと補強材とを含有する樹脂複合体において、ポリマーと補強材の含浸性および密着性を向上し、線膨張率が低く、強度の高い樹脂複合体を提供すること。
【解決手段】 本発明に係る樹脂複合体は、ポリマー、および表面処理された補強材を含み、
前記表面処理が、アルコキシシラン、チタネート化合物およびアルミネート化合物からなる群から選択される第1表面処理剤により表面処理する第1表面処理工程、およびシラザン類から選択される第2表面処理剤により表面処理する第2表面処理工程を含むものであることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理された補強材を含有する樹脂複合体に関する。特に、補強材とポリマーとの含浸性および密着性が高く、線膨張率が低く、強度の高い樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の半導体回路の微細化および高多層化、スルーバイアホールやブラインドバイアホール等の小径化、ならびに小型チップ部品の表面実装などによる回路基板の高密度化に伴い、電子機器の小型軽量化、高性能化、および多機能化が進んでいる。こうした高密度実装基板の一つである多層回路基板は、導電体回路と電気絶縁層とが交互に積み上げられた積層体である。導電体回路(配線層)上に電気絶縁層を積み上げる方法としては、表面に導電体回路を有する基板(以下、「基板」ということがある)に、電気絶縁性樹脂のフィルム状又はシート状成形物を重ね、加熱及び加圧することによって積層する方法が一般的である。
【0003】
しかしながら、一般的に回路基板の熱膨張を抑制するための補強材として使用されているガラスクロスと電気絶縁層を形成する樹脂との密着性は低く、得られる回路基板の強度が不足する場合があった。
【0004】
さらに、回路基板への実装時に、パッケージやチップのスタックによる繰り返しの加熱によって、プリント配線板に反りが生じることが大きな問題になっている。これは絶縁層と導体層との熱膨張率の微小な違いによるもので、基板が薄型化するのに伴って顕著になってくる。したがって、回路基板に用いられる材料にもさらなる低収縮率化への対応が求められている。
【0005】
このような課題を解決するために、例えば特許文献1には、重合反応を阻害しないシランカップリング剤で表面処理した強化材の存在下に、シクロオレフィンモノマーをルテニウムカルベン錯体触媒を用いて重合する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2では、サイジング剤付着率が低い強化繊維に、ノルボルネン系モノマーとルテニウム系メタセシス重合触媒とを含有する重合性組成物を含浸させ、半硬化状態としてプリプレグを得る技術が開示されている。サイジング剤付着率が低いことで、ノルボルネン系モノマーと強化繊維とのアンカー効果によって接着すると記載されている。
【0007】
特許文献3では、エポキシポリマーなどのフィルム形成剤、滑剤、および炭素数5以上の直鎖アルケニル基を含むシラン化合物、を含む組成物をサイジング剤として用いてガラス繊維を処理し、これをシクロオレフィンの開環メタセシス重合で得られるポリマーの強化材として用いる技術が開示されている。このサイジング剤は、開環メタセシス重合を実質的に阻害せず、ガラス繊維とポリマーとの接着強度の高い複合体が得られると記載されている。
【特許文献1】米国特許6040363号
【特許文献2】特開2003−171479号公報
【特許文献3】国際公開第2004/009507号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの方法では依然ポリマーと補強材との含浸性および密着性が不十分で、補強材とポリマーとの界面に気泡を生じさせる場合があり、この結果、得られる樹脂複合体の線膨張率が大きくなり、また、強度も満足のいくものではなかった。
【0009】
したがって、本発明はポリマーと補強材とを含有する樹脂複合体において、ポリマーと補強材の含浸性および密着性を向上し、線膨張率が低く、強度の高い樹脂複合体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポリマーと補強材との含浸性および密着性の向上について鋭意検討を行ったところ、補強材に対し2段階の表面処理を施すことで、ポリマーと補強材の含浸性、密着性および線膨張率が改善され、上記課題を解決しうることを見いだし本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、上記課題の解決する本発明は、以下の事項を要旨とする。
【0012】
(1)ポリマー、および表面処理された補強材を含む樹脂複合体であって、
前記表面処理が、アルコキシシラン、チタネート化合物およびアルミネート化合物からなる群から選択される水溶液の第1表面処理剤により表面処理する第1表面処理工程、
およびシラザン類から選択される第2表面処理剤により表面処理する第2表面処理工程、をこの順に含むものである樹脂複合体。
【0013】
(2)前記第1表面処理剤が、下記式(I)で示されるアルコキシシランである(1)に記載の樹脂複合体。
【0014】
SiR(OR4−(m+n)・・・(I)
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して炭化水素基を表し、Xは加水分解性基を表す。mおよびnは1〜3の整数であり、かつm+nは2〜4の整数である。)
(3)前記式(I)におけるRが、炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基である(2)に記載の樹脂複合体。
【0015】
(4)前記第2表面処理剤が、下記式(II)で示される炭化水素基含有シラザンである(1)に記載の樹脂複合体:
【化2】

【0016】
式中、R、Rはそれぞれ独立に炭化水素基であり、R〜Rはそれぞれ独立に水素または炭化水素基であり、nは0〜3の整数である。
【0017】
(5)前記ポリマーが、シクロオレフィンポリマーまたはポリフェニレンエーテルである(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂複合体。
【0018】
(6)さらに架橋剤を含む(1)〜(5)のいずれかに記載の樹脂複合体。
【0019】
(7)(6)に記載の樹脂複合体を架橋してなる架橋樹脂複合体。
【0020】
(8)塊状重合可能なモノマーおよび重合触媒を含む重合性組成物を、
表面処理された補強材の存在下に塊状重合する樹脂複合体の製造方法であって、
前記表面処理が、アルコキシシラン、チタネート化合物およびアルミネート化合物からなる群から選択される水溶液の第1表面処理剤により表面処理する第1表面処理工程、
およびシラザン類から選択される第2表面処理剤により表面処理する第2表面処理工程、をこの順に含むものである樹脂複合体の製造方法。
【0021】
(9)前記塊状重合可能なモノマーが、シクロオレフィンモノマーである(8)に記載の製造方法。
【0022】
(10)前記重合性組成物がさらに架橋剤を含む(8)または(9)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、補強材に特定の表面処理を施すことで、ポリマーと補強材との含浸性および密着性が向上する。このため、得られる樹脂複合体においてポリマーと補強材との界面に気泡が生じることなく、強度の高い樹脂複合体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の樹脂複合体は、ポリマーおよび補強材を含有する。
【0025】
(補強材)
補強材としては、無機系及び/又は有機系の繊維が使用でき、例えば、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、アミド繊維、ポリアリレートなどの液晶繊維、などの公知のものが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。補強材の形状としては、マット、クロス、不織布などが挙げられる。
【0026】
(ガラスクロス)
本発明の補強材としては、ガラスクロスを用いることが好ましい。好ましいガラスクロスは、直径が1〜10μmのガラス製フィラメントを集束してストランドとしたものに撚りをかけたガラスの糸(ガラス製ヤーンという。)を織り上げたものである。またガラスクロスの厚みは通常5〜200μm、好ましくは10〜150μm、より好ましくは10〜100μm、特に好ましくは20〜80μmである。この範囲より小さいと得られる樹脂複合体の強度が弱くなり、またこの範囲より大きいと積層時の厚みの制御が困難になるという問題が生じるおそれがある。
【0027】
(補強材の表面処理)
本発明において使用する補強材は、アルコキシシラン、チタネート化合物およびアルミネート化合物からなる群から選択される第1表面処理剤により表面処理する第1表面処理工程および、シラザン類から選択される第2表面処理剤により表面処理する第2表面処理工程により表面処理されてなる。
【0028】
第1表面処理剤としては、上記の中でもアルコキシシランを用いることが好ましい。アルコキシシランは、ケイ素原子に少なくとも一つのアルコキシル基が結合したシラン化合物であれば限定されないが、下記式(I)で示されるアルコキシシランが好ましい。
【0029】
SiR(OR4−(m+n)・・・(I)
式(I)中、RおよびRはそれぞれ独立して炭化水素基を表し、Xは加水分解性基を表す。
【0030】
炭化水素基の炭素数は好ましくは2〜30、より好ましくは2〜20、さらに好ましくは2〜10である。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、およびアリール基が挙げられる。シクロアルキル基およびアリール基は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。中でも、R(mが2または3である場合は、その少なくとも一つ)は炭素−炭素二重結合を有する基であることが好ましい。ここで、「炭素−炭素二重結合を有する基」とは、アルケニル基、またはアルケニル基を置換基として有するシクロアルキル基もしくはアリール基である。アルケニル基を含む基は、その炭素−炭素二重結合と、他の炭素−炭素二重結合または芳香環とで形成される共役系を有していることがさらに好ましく、炭素−炭素二重結合と芳香環とで形成される共役系を有していることが、ラジカル反応性が高いので最も好ましい。このようなアルコキシシランは、前記した補強材に結合するので、重合時または架橋反応時に、ポリマーと補強材との間に架橋反応が起こり、補強材とポリマーとの界面密着性がさらに向上する。
【0031】
また、加水分解性基Xとしては、加水分解により水酸基を形成し得る基であれば特に限定されないが、例えば、塩素原子や臭素原子などのハロゲン原子が挙げられる。
【0032】
上記(I)式において、mおよびnは1〜3の整数であり、かつm+nは2〜4の整数である。
【0033】
式(I)で表されるアルコキシシランの具体例としては、アリルトリメトキシシラン、3−ブテニルトリメトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、スチリルトリエトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、スチリルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランが挙げられる。中でも、Rが炭素−炭素二重結合を有するアルコキシシランである、アリルトリメトキシシラン、3−ブテニルトリメトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、スチリルトリエトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、スチリルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシランがより好ましい。
【0034】
その他に使用できるアルコキシシランの具体的な例としては、β−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、δ−メタクリロキシブチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、(N(ビニルベンジル)−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
また、チタネート化合物としては、公知のチタネート系カップリング剤を用いることができる。具体的な例を挙げると、トリイソステアロイルイソプロピルチタネート、ジ(ジオクチルホスフェート)ジイソプロピルチタネート、ジドデシルベンゼンスルフォニルジイソプロピルチタネート、ジイソステアリルジイソプロピルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート等が挙げられる。
【0036】
また、アルミネート化合物としては、公知のアルミネート系カップリング剤を用いることができる。具体的な例を挙げると、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロポキシモノエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0037】
本発明では、まず補強材表面を、アルコキシシラン、チタネート化合物およびアルミネート化合物からなる群から選択される第1表面処理剤により処理する第1表面処理工程を行う。表面処理は、第1表面処理剤を補強材表面に接触させて行われる。第1表面処理工程の処理条件は特に限定はされず、第1表面処理剤が補強材表面に接触しうる条件を選択すればよい。具体的には、第1表面処理剤を直接補強材表面に噴霧するなどにより接触させる乾式法、および第1表面処理剤を溶媒に溶解してなる溶液に補強材を接触させる湿式法が挙げられるが、均一に表面処理を行うことができるので、湿式法が好ましい。
【0038】
湿式法の具体的な方法としては、補強材を第1表面処理剤の溶液に浸漬し、次いでこれを引き上げて乾燥する方法や、補強材の表面にロールコーター、ダイコーター、グラビアコーターなどの塗工装置を用いて第1表面処理剤の溶液を塗布し、次いで乾燥する方法が挙げられる。
【0039】
第1表面処理剤を溶解するための溶媒としては、水および有機溶媒のいずれも使用できるが、水が好ましい。また、水と水溶性有機溶媒を併用することも好ましい。水と水溶性有機溶媒を併用することで、第1表面処理剤の溶液を均一な溶液とすることが容易になり、補強材の表面を均一に処理することができる。水溶性有機溶媒は、第1表面処理剤の溶液中で水と均一に混ざり合う有機溶媒であり、具体的には、アルコール類、ケトン類、ピロリドン類、フラン類、アミン類、およびカルボン酸類などが挙げられる。中でも、アルコール類およびケトン類が好ましく、アルコール類がより好ましい。アルコール類としては、メタノールおよびエタノールが最も好ましい。溶媒は、二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
第1表面処理剤の溶液は、さらに界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を用いることで、第1表面処理剤として疎水性の高いものを用いた場合でも、均一に水に溶解させることができる。また、第1表面処理剤の加水分解と縮合を抑制できるので、溶液の保存安定性を高めることができる。
【0041】
第1表面処理剤の溶液のpHは、通常3〜10、好ましくは3〜6である。pHがこの範囲であると、第1表面処理剤の加水分解による縮合反応が抑制され、溶液の保存安定性を高いものとできる。第1表面処理剤の溶液は、そのpHを調整する目的で、pH調整剤を含んでいてもよい。pH調整剤としては、酢酸、蟻酸、シュウ酸、クエン酸、酪酸などの有機酸や、アンモニア水などを用いることができる。
【0042】
第1表面処理剤の溶液における第1表面処理剤の濃度は、通常0.001重量%以上、好ましくは0.005〜10重量%、より好ましくは0.01〜1重量%、特に好ましくは0.01〜0.1重量%である。濃度が薄すぎると、ポリマーとの密着不良が生じ、濃度が濃すぎると加水分解による縮合が発生しやすくなるという問題が生じるおそれがある。
【0043】
次いで、第1表面処理工程を経た補強材に、さらにシラザン類から選択される第2表面処理剤により表面処理する第2表面処理工程を施す。
【0044】
第2表面処理剤は、無置換のシラザンであってもよいが、特に下記式(II)で示される炭化水素基含有シラザンであることが好ましい。
【化3】

【0045】
式中、R、Rはそれぞれ独立に炭化水素基であり、複数のRおよびRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R〜Rはそれぞれ独立に水素または炭化水素基である。また、nは0〜3の整数である。
【0046】
ここで、炭化水素基としては、上記(I)式で説明したものと同様の炭化水素基が挙げられる。
【0047】
このようなシラザン類のさらに具体的な例としては、ヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、テトラメチルジブチルジシラザン、テトラメチルジフェニルジシラザンなどが挙げられ、特に好ましくはヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザンが挙げられる。
【0048】
第2表面処理工程では、上記第1表面処理工程後の補強材を、さらに前記第2表面処理剤により処理する。表面処理は、第2表面処理剤を補強材表面に接触させて行われる。接触させる方法は特に限定されないが、例えば、(a)補強材を第2表面処理剤に浸漬し、次いでこれを引き上げる方法;(b)補強材の表面にロールコーター、ダイコーター、グラビアコーターなどの塗工装置を用いて第2表面処理剤を塗布する方法;および(c)補強材の表面に噴霧装置を用いて第2表面処理剤を噴霧する方法;などが挙げられる。
【0049】
次いで、表面処理された補強材を乾燥することが好ましい。乾燥の温度は特に限定されないが、40〜200℃が好ましい。乾燥時間も特に限定されないが、30分〜6時間が好ましい。乾燥に用いる装置も特に限定されず、公知のものをいずれも用いることができる。また、減圧下に乾燥を行ってもよい。乾燥を行うことにより、残留した未反応の第2表面処理剤により重合反応が阻害されることを防止できる。
【0050】
本発明の樹脂複合体は上記補強材の間隙中にポリマーが緻密に含浸されてなる。本発明の樹脂複合体を製造する方法としては、(I)ポリマーを適当な溶媒に溶解し、ワニスとした上で、前記表面処理された補強材に含浸し、乾燥して溶媒を除去する方法;および(II)塊状重合可能なモノマーおよび重合触媒を含む重合性組成物を、前記表面処理された補強材に含浸し、重合性組成物を塊状重合して得る方法;が挙げられる。特に、補強材に対するポリマーの含浸性および密着性に優れるので、後者(II)の方法が好ましい。ここで、塊状重合とは、実質的に希釈溶剤なしに重合性モノマーを重合させる重合方法である。
【0051】
(ポリマー)
本発明で用いるポリマーとしては、熱可塑性重合体、熱硬化性重合体のいずれも特に制限されることなく用いられる。
【0052】
このようなポリマーのさらに具体的な例としては、ニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等のゴム;
ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー等のポリオレフィン;
ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の汎用プラスチック;
ポリ4メチルペンテン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン(AS樹脂)、メタクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアルキレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、変性ポリアミド6T、ポリサルホン等の各種エンジニアリングプラスチック;さらには
液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリエステル、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性フッ素樹脂(PEA、ETFE)、ポリケトンサルファイド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド、トリアジン樹脂、架橋型ポリイミドおよび架橋型ポリアミドイミド等があげられる。
【0053】
これらのポリマーの中でもシクロオレフィンポリマー、ポリフェニレンエーテル(PPE)が特に好ましい。
【0054】
(シクロオレフィンポリマー)
本発明においてシクロオレフィンポリマーとは、シクロオレフィンモノマーを重合することで得られる。
【0055】
(シクロオレフィンモノマー)
シクロオレフィンモノマーは、分子内に炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。シクロオレフィンモノマーを重合することでシクロオレフィンポリマーが得られる。
【0056】
シクロオレフィンモノマーを構成する脂環式構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環およびこれらの組み合わせ多環などが挙げられる。脂環式構造を構成する炭素数に格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。
【0057】
シクロオレフィンモノマーとしては、単環シクロオレフィンモノマーや、ノルボルネン系モノマーなどが挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーである。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭化水素基や、極性基によって置換されていてもよい。また、ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環の二重結合以外に、二重結合を有していてもよい。
【0058】
単環シクロオレフィンモノマーとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0059】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエンなどのジシクロペンタジエン類;
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物などのテトラシクロドデセン類;
2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、アクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、メタクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物などのノルボルネン類;
7−オキサ−2−ノルボルネン、5−エチリデン−7−オキサ−2−ノルボルネンなどのオキサノルボルネン類;
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−4,10−ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.02,10.03,8]ペンタデカ−5,12−ジエンなどの四環以上の環状オレフィン類;などが挙げられる。
【0060】
これらのシクロオレフィンモノマーのうち、極性基を有しないシクロオレフィンモノマーが、低誘電正接の樹脂複合体を得ることができるので好ましい。
【0061】
シクロオレフィンポリマーは、シクロオレフィンモノマーの開環重合体であっても付加重合体であってもよく、これらの水素化物であってもよい。また付加重合体は、シクロオレフィンモノマーと、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィンや、1,4−ヘキサジエンなどの鎖状の非共役ジエンとの共重合体であってもよい。
【0062】
重合方法は、塊状重合でも溶液重合でもよいが、上記表面処理された補強材の存在下にシクロオレフィンモノマーを塊状開環重合することが好ましい。このような方法によれば、モノマーがガラス繊維補強材中に比較的短時間で均一に含浸されるため、均質な樹脂複合体を簡便に得ることができる。
【0063】
開環重合の触媒としては、メタセシス触媒が用いられる。メタセシス触媒は、シクロオレフィンモノマーをメタセシス重合できるものであれば特に限定されない。かかるメタセシス重合触媒としては、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、長周期型周期律表第5周期以降の金属であって、5族、6族及び8族の原子が挙げられる。それぞれの族における原子は特に限定されず、例えば、5族の原子としてはタンタルが、6族の原子としてはモリブデンやタングステンが、8族の原子としてはルテニウムやオスミウムが挙げられる。
【0064】
これらの中でも、長周期型周期律表第8族のルテニウムやオスミウムの錯体が好ましく、次の理由からルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、触媒活性に優れるため開環重合反応率を高くでき生産性に優れる。また、得られる樹脂複合体に臭気(未反応の環状オレフィンに由来する)が少ない。更に、ルテニウムカルベン錯体は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定で失活しにくい特徴を有するため、特に塊状重合に好適に用いることができる。
【0065】
ルテニウムカルベン錯体は、例えば、Organic Letters,第1巻,953頁,1999年、Tetrahedron Letters,第40巻,2247頁,1999年などに記載された方法によって製造することができる。
【0066】
ルテニウムカルベン錯体の例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの配位子としてヘテロ原子含有カルベン化合物および中性の電子供与性化合物を有するルテニウム錯体化合物;
ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの配位子として2つのヘテロ原子含有カルベン化合物を有するルテニウム錯体化合物;
(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(フェニルビニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(t−ブチルビニリデン)(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0067】
これらルテニウムカルベン錯体の中でも特に、特開2005−104922号公報で例示される4位および5位がハロゲン原子で置換された置換イミダゾリン−2−イリデンを配位子として有するルテニウム錯体化合物が好ましい。
【0068】
これらは一種単独でも用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。メタセシス重合触媒の量は、(触媒中の遷移金属原子):(シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0069】
メタセシス重合触媒は活性剤と併用することもできる。活性剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させる目的で添加される。活性剤としては、アルミニウム、スカンジウム、スズのアルキル化物、ハロゲン化物、アルコキシ化物及びアリールオキシ化物などを例示することができる。
【0070】
好ましい活性剤としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。
【0071】
活性剤を使用する場合の使用量は、(メタセシス重合触媒中の金属原子:活性剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0072】
また、メタセシス重合触媒として、5族及び6族の遷移金属原子の錯体を用いる場合には、メタセシス重合触媒及び活性剤は、いずれもシクロオレフィンモノマーに溶解して用いる方が好ましいが、生成物の性質を本質的に損なわない範囲であれば少量の溶剤に懸濁又は溶解させて用いることができる。
【0073】
シクロオレフィンモノマーの付加重合に用いられる触媒としては、チタン、ジルコニウムまたはバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒;チタンやジルコニウムなどの4族の遷移金属原子のメタロセン化合物;ニッケルやパラジウムなどの8〜10族の遷移金属原子の錯体;などが挙げられる。
【0074】
溶液重合に用いられる溶媒は触媒に不活性なものであれば特に限定されない。かかる溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。
【0075】
メタセシス重合に際しては、メタセシス重合触媒の溶解性に優れ工業的に汎用されている芳香族炭化水素や鎖状脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素が好ましい。また、メタセシス重合触媒の活性を低下させないものであれば、液状の酸化防止剤、液状の可塑剤、液状の改質剤を溶媒として用いてもよい。これらは一種単独または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
塊状重合においても、上記の溶媒を、重合触媒やその他の成分を必要に応じて溶解するために少量使用できる。その使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、さらに好ましくは2重量部以下である。
【0077】
重合反応においては、連鎖移動剤を用いることが好ましい。連鎖移動剤を用いることにより、重合の際の発熱により反応が過度に進行することを防止でき、生成する重合体の分子量を調整することができる。シクロオレフィンモノマーのメタセシス重合における連鎖移動剤としては、ビニル基を少なくとも一つ有する化合物を用いることができる。
【0078】
連鎖移動剤としては、ビニル基以外に、後述する架橋に寄与する基を有するものが好ましい。かかる架橋に寄与する基とは、具体的には、炭素−炭素二重結合を有する基であり、ビニル基、アクリロイル基およびメタクリロイル基等が挙げられる。これらの基は、分子鎖の末端にあることが好ましい。特に、式:CH=CH−Q−Yで表される化合物が好ましい。式中、Qは二価の炭化水素基を表し、Yはビニル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基を表す。Qで表される二価の炭化水素基としては、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数6〜20のアリーレン基、およびこれらが結合してなる基等が挙げられる。中でも、フェニレン基および炭素数4〜12のアルキレン基が好ましい。この構造の連鎖移動剤を用いることで、より強度の高い架橋体や架橋樹脂複合体を得ることが可能になる。
【0079】
かかる連鎖移動剤の好ましい具体例としては、メタクリル酸アリル、メタクリル酸3−ブテン−1−イル、メタクリル酸ヘキセニル、メタクリル酸ウンデセニル、メタクリル酸デセニルなどのYがメタクリロイル基である化合物;アクリル酸アリル、アクリル酸3−ブテン−1−イルなどのYがアクリロイル基である化合物;ジビニルベンゼンなどのYがビニル基である化合物;などが挙げられる。中でも、メタクリル酸ウンデセニル、メタクリル酸ヘキセニルおよびジビニルベンゼンが特に好ましい。
【0080】
上記の他に連鎖移動剤として用いることのできる化合物としては、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどの脂肪族オレフィン類;スチレンなどの芳香族基を有するオレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素基を有するオレフィン類;エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;メチルビニルケトン、1,5−ヘキサジエン−3−オン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン−3−オンなどのビニルケトン類;アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレートなどのアクリル酸エステル;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシランなどのシラン類;アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル;アリルアミン、2−(ジエチルアミノ)エタノールビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリン;などが挙げられる。
【0081】
これら連鎖移動剤は一種単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。連鎖移動剤を使用する場合その量は、重合性モノマー100重量部に対して、通常0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。連鎖移動剤の量が、この範囲であるときに、重合時の架橋反応が十分に抑制されるので、流動性に優れたポリマーが得られる。
【0082】
溶液重合を行う場合の反応条件は、公知の方法に従えばよく、特に限定されない。例えば、重合反応温度は通常−50〜100℃であり、重合反応時の圧力は通常0〜5MPaである。水素化を行う場合の反応条件も、公知の方法に従えばよく、特に限定されない。
【0083】
塊状重合においては、重合性組成物にメタセシス重合遅延剤が配合されていてもよい。メタセシス重合遅延剤は、メタセシス重合触媒の重合活性を制御し、重合性組成物のゲル化時間(ポットライフ)を伸ばし、加工性を向上させる目的で配合される。このようなメタセシス重合遅延剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン類;アニリンなどのルイス塩基;などが挙げられる。
【0084】
さらに、環内にジエン構造やトリエン構造を有するシクロオレフィンモノマーや環外に不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマーは、重合遅延剤としても作用する。このようなシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、1,5−シクロオクタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。
【0085】
これら重合反応遅延剤の中でも、室温以下での重合反応の進行を抑制する効果が大きいので、ホスフィン化合物が好ましく、トリフェニルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィンおよびビニルジフェニルホスフィンがより好ましい。これらメタセシス重合遅延剤は、一種単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。メタセシス重合遅延剤を使用する場合その量は、使用する化合物や目的に応じて任意に設定されるが、(メタセシス重合触媒中の遷移金属原子:重合遅延剤)のモル比で、通常1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0086】
(重合性組成物の製造方法)
重合性組成物の製造方法は、上記各成分を混合する工程からなり、混合の順序等は特に制約されない。すなわち、各成分を単純に混合して重合性組成物を得ても良い。シクロオレフィンモノマーを含む重合性組成物は、好ましくは、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(以下、「触媒液」ということがある。)を調製し、別に重合性モノマーに連鎖移動剤、後述する架橋剤などの添加剤を必要に応じて配合した液(以下、「モノマー液」ということがある。)を調製し、該モノマー液に触媒液を添加し、攪拌することによって調製できる。触媒液の添加は次に述べる重合を行う直前に行うことが好ましい。
【0087】
この場合、触媒液を添加するときのモノマー液の温度を通常−10℃〜25℃、好ましくは−5℃〜20℃、より好ましくは−5〜15℃、特に好ましくは−5℃〜10℃とすることが好ましい。この温度より高いと重合触媒を入れた瞬間に重合が急激に進行して、重合性組成物の粘度が増加し含浸不能となるおそれがある。
さらに触媒液を添加してからの重合を開始するまでの重合性組成物の温度を好ましくは、−10℃〜25℃、より好ましくは−5℃〜20℃、−5〜15℃、特に好ましくは―5〜10℃とすることが好ましい。この温度より高いと重合が急激に進行して、配合液の粘度が増加し含浸不能となるおそれがある。この温度よりも低いとモノマー液が凍結したり、経済性がなる悪く場合がある。また、触媒液の添加は、窒素など不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0088】
触媒液添加前のモノマー液および触媒液添加後の重合性組成物の冷却方法は特に限定されず通常用いられる方法で行われる。例えば、冷水、氷浴、氷塩浴、メタノール−ドライアイス浴などで冷却することができる。
モノマー液の調製に際して、シクロオレフィンモノマーに重合遅延剤やその他の添加剤を入れる順序は特に限定されない。また、モノマー液の調製に用いる混合装置などは特に限定されず、モノマー液の粘度などによって適時選択すればよい。例えばミックスマラー、ボールミル、ニーダー、ヘンシェルミキサー、ロールミル、バンバリミキサー、リボンミキサー、ホモジナイザー、二軸押し出し機、らいかい機などホイール型、ボール型、ブレード型、ロール型の装置などが挙げられる。
塊状重合は、補強材に前記重合性組成物を含浸させ、含浸物を所定温度に加熱して行うことができる。
【0089】
補強材に重合性組成物を含浸させる方法としては、例えば、重合性組成物の所定量を、補強材のクロス、マット等の上に注ぎ、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上方からローラーなどで押圧する方法が挙げられる。
【0090】
重合性組成物を所定温度に加熱することにより塊状重合反応が開始する。加熱方法としては、例えば含浸物を支持体上に設置して、加熱プレート上に支持体に塗布された重合性組成物を載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、熱したローラーを押圧する方法、加熱炉を用いる方法、予め型内に補強材を設置しておき、重合性組成物を含浸させてから加熱する方法などが用いられる。
【0091】
重合性組成物を塊状重合させるための加熱温度は、通常30〜250℃、好ましくは50〜200℃である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常1秒〜20分、好ましくは10秒〜5分以内である。
【0092】
塊状重合反応が開始すると、重合性組成物の温度は反応熱により急激に上昇し、短時間(例えば、10秒〜5分程度)でピーク温度に到達する。さらに塊状重合反応は進むが、重合反応は次第に収まり、温度が低下していく。ピーク温度を、この重合反応により得られる複合体を構成する重合体のガラス転移温度以上になるように制御すると、完全に重合が進行するので好ましい。ピーク温度は加熱温度により制御できる。また、連鎖移動剤を配合した重合性組成物から得られる複合体の場合、重合体の重合反応率は、通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。なお、重合体の重合反応率は、例えば、重合体を溶剤に溶解して得られた溶液をガスクロマトグラフィーにより分析することで求めることができる。塊状重合がほぼ完全に進行している重合体は、残留モノマーが少なく、臭気の発生が少ない。
【0093】
また、本発明に用いられるシクロオレフィンポリマーの重量平均分子量の範囲は、好ましくは5,000〜80,000、より好ましくは10,000〜50,000、最も好ましくは15,000〜30,000である。また、分子量分布は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で、好ましくは3以下、より好ましくは2.3以下、最も好ましくは2以下である。分子量が低すぎると流動性が高すぎるために支持体への樹脂の埋め込み性や平坦性の制御が困難となるおそれがある。また、分子量が高すぎると架橋時の温度範囲では、流動しないおそれがある。
【0094】
(ポリフェニレンエーテル)
ポリフェニレンエーテルは、置換基を有していてもよいフェニレンオキシ基が1,4−結合してなる繰り返し単位を有する重合体である。かかる繰り返し単位は、下記式(1)で表される。
【化4】

【0095】
式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、もしくはハロアルキル基を表す。中でも、RおよびRはアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。RおよびRは水素原子であることが好ましい。
【0096】
ポリフェニレンエーテル中における式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。本発明に用いられるポリフェニレンエーテルは、式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を有していてもよい。かかる繰り返し単位は、二価の有機基であれば特に限定されない。具体的には、アルキレン基、アリーレン基および酸素原子などが挙げられる。
【0097】
ポリフェニレンエーテルは、これらの繰り返し単位から形成される直鎖状の重合体であってもよいが、かかる重合体が複数結合した構造を有する分岐鎖状の重合体であってもよい。
【0098】
ポリフェニレンエーテルの分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される、標準ポリスチレン換算の数平均分子量で、好ましくは2,000〜15,000、より好ましくは2,000〜10,000である。数平均分子量がこの範囲であると、流動性と耐熱性が共に優れる。
【0099】
(ポリフェニレンエーテルの製造法)
ポリフェニレンエーテルの製造法は、公知の方法をいずれも採用することができ、特に限定されないが、酸化重合法が好ましい。酸化重合法は、式(2)で表される1価のフェノールおよび/または式(3)で表される2価のフェノールを触媒の存在下に酸化重合する方法である。酸化重合法によれば、上記の分子量範囲のポリフェニレンエーテル樹脂を容易に得ることができる。酸化の方法としては、直接酸素ガスもしくは空気を使用する方法、または電極酸化の方法が挙げられる。
【化5】

【0100】
式(2)および式(3)中、R〜Rは式(1)と同様の意味を表す。また、式(3)中、R’1〜R’4はそれぞれ式(1)のR〜Rと同様の意味を表す。
【0101】
酸素ガスまたは空気を用いて酸化重合をする場合の触媒としては、銅塩とアミン類を組み合わせた触媒が用いられる。銅塩としては、CuCl、CuBr、CuSO、CuCl、CuBr、CuSO、CuI等が挙げられる。アミン類としては、ピリジン、メチルピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、ポリ−4−ビニルピリジン、ピペリジン、モルホリン、トリエタノールアミン、n−ブチルアミン、オクチルアミン、ジブチルアミン、N,N−ジメチル−n−ヘキシルアミン、N,N−ジメチル−n−ブチルアミン、トリエチルアミン、(N,N−ジ−tert−ブチル)エチレンジアミン2−アミノエタンチオール、2−メルカプト−1−エタノール、1,2−ジメルカプト−4−メチルベンゼン等が挙げられる。
【0102】
重合において使用される溶媒は特に限定はなく、重合反応の温度についても限定はないが、0〜50℃で行うことが好ましい。
【0103】
高分子量のポリフェニレンエーテルは、The Journal of Organic Chemistry, 1969年, 第34巻, 297頁などに開示される再分配反応により分子量を低減させ、上記の分子量範囲として用いることもできる。再分配反応は、ポリフェニレンエーテルに、ラジカル開始剤の存在下にフェノール類を反応させることにより分子量を低減させる方法である。
【0104】
再分配反応に用いるフェノール類としては、フェノール、o−ブロモフェノール、m−ブロモフェノール、p−ブロモフェノール、p−クロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール、ペンタクロロフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,6−キシレノール、メシトール、2,6−ジメチル−4−(ベンゾイロキシ)フェノール、p−メトキシフェノール、p−フェノキシフェノール、ヒドロキノンモノベンゾエート、β−ナフトール、p−ヒドロキシベンゾニトリル、2,6−ジメチルフェノール、p−ニトロフェノール、メチルp−ヒドロキシベンゾエート、サリチル酸メチル、ビスフェノールA、2,6−ジメチルフェノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。フェノール類の使用量は、所望のポリフェニレンエーテルの分子量に応じて適切に調節できるが、ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部に対し0.5〜10重量部が好ましい。
【0105】
ラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイル,3,3’,5,5’−テトラメチル−1,4−ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノキシル、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。ラジカル開始剤の使用量は、ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部に対し0.5〜5.0重量部が好ましい。また、反応促進剤として、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸マンガンなどのカルボン酸金属塩を用いることが好ましい。
【0106】
再分配反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に限定されないが、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール類、ラジカル開始剤および必要に応じ用いられるカルボン酸金属塩を溶媒中に溶解または分散させ、これを加熱することにより再分配反応を行うことができる。反応の温度は、好ましくは60〜120℃であり、反応時間は、好ましくは10分〜6時間である。
【0107】
以上により得られるポリフェニレンエーテルは、通常、末端に水酸基、またはオルト位もしくはメタ位に置換基を有していてもよいフェニル基を有している。このポリフェニレンエーテル樹脂の末端を変性することで、上記以外の置換基を有するポリフェニレンエーテルを用いてもよい。特に、不飽和炭化水素基を有することが好ましい。
【0108】
ポリフェニレンエーテルの分子鎖末端を変性して不飽和炭化水素基を導入する方法としては、未変性のポリフェニレンエーテル樹脂に、塩基性の水酸化物の存在下、炭素−炭素不飽和結合を有するハロゲン化炭化水素化合物を反応させる方法が挙げられる。塩基性の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化テトラアルキルアンモニウムが挙げられる。炭素−炭素不飽和結合を有するハロゲン化炭化水素化合物としては、例えば、p−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、p−ブロモメチルスチレン、m−ブロモメチルスチレン、および臭化アリル等が挙げられる。また、反応を促進するためにテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩を相間移動触媒として使用しても良い。反応条件は特に限定されないが、反応温度は通常30〜100℃、反応時間は通常0.5〜20時間である。末端を変性することでポリフェニレンエーテル中の極性構造が減少するので、これを用いて得られる架橋樹脂は電気特性に優れる。
【0109】
本発明においては、上記のシクロオレフィンモノマー以外の塊状重合性モノマーも、好ましく用いることができる。
【0110】
このような塊状重合性モノマーの具体例としては、
オレフィン、ハロゲン化オレフィン、ジエン、アセチレン、スチレン、ビニル化合物、アクリル酸類等の付加重合型の炭素多重結合系モノマー;
環状エーテル、ラクトン、ラクタム、環状アミン、環状スルフィド、環状カーボナート、環状酸無水物、環状イミノエーテル、アミノ酸-N-カルボン酸無水物、環状イミド、環状含リン化合物、環状含シリコン化合物、環状オレフィン等の開環重合型または重縮合型の環状モノマー;
フェノール、メラミン、尿素、ジアミン、ジカルボン酸類、オキシカルボン酸、アミノカルボン酸、ジオール、ジイソシアナート、含硫黄化合物、含リン化合物、芳香族エーテル、ジハロゲン化合物、アルデヒド、ジケトン化合物、炭酸誘導体等の重縮合型または重付加型の二官能性モノマー;さらに
アニリン誘導体、ケイ素化合物、エポキシ化合物、マクロマー等があげられる。
【0111】
これら塊状重合性モノマーの中でも、入手の容易性、反応の均一性および得られる重合体の物性等の観点から、芳香族ビニルモノマーおよびアクリルモノマーが好ましい。
【0112】
(芳香族ビニルモノマー)
芳香族ビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、p−t−ブチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。
【0113】
(アクリルモノマー)
本発明においてアクリルモノマーとは、アクリル酸、メタクリル酸、またはこれらのエステルを表す。アクリル酸またはメタクリル酸エステルは、アルキルエステルであることが好ましく、その具体例としては、アクリル酸またはメタクリル酸メチルエステル、アクリル酸またはメタクリル酸エチルエステル、アクリル酸またはメタクリル酸n−ブチルエステル、アクリル酸またはメタクリル酸2−エチルヘキシルエステル、アクリル酸またはメタクリル酸n−オクチルエステルなどが挙げられる。また、アクリル酸またはメタクリル酸ヒドロキシエチルエステル、アクリル酸またはメタクリル酸N,N−ジメチルアミノメチルエステル、アクリル酸またはメタクリル酸グリシジルエステルなどの極性基を含有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルや、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどの多価アクリル酸(またはメタクリル酸)エステル類も用いることができる。
【0114】
重合性組成物には、重合性モノマーに加えて、重合触媒が含まれ、さらに必要に応じ、連鎖移動剤等を含有していてもよい。
【0115】
(重合触媒)
重合触媒は、使用する重合性モノマーの種類に応じて適宜に選択され、その使用量も触媒種および反応系に応じて適宜に設定される。このような重合触媒としては、光重合開始剤、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤等の重合開始剤、
白金触媒、メタロセン触媒、メタセシス触媒など遷移金属触媒、および
有機酸、無機酸、無機アルカリ、アミン類などが挙げられる。
【0116】
中でも、重合性モノマーが芳香族ビニルモノマーである場合には、重合触媒としてはラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤、メタロセン触媒、フェノキシイミン触媒などが挙げられ、ラジカル重合開始剤、メタロセン触媒、フェノキシイミン触媒などが好ましい。
【0117】
重合性モノマーがアクリルモノマーである場合には、重合触媒としてはラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤が好ましく用いられる。
【0118】
ラジカル開始剤としては、公知のものが使用できる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;過酸化水素;ラウロイルパーオキサイド、ベンソイルパーオキサイド、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物などがあり、これらは単独もしくは混合して、またはさらに酸性亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などのような還元剤と併用したレドックス系として使用できる。また、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイック酸)などのアゾ化合物;2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライドなどのアミジン化合物などを使用することもできる。
【0119】
重合性組成物には、さらに連鎖移動剤が配合されていてもよい。連鎖移動剤を配合することにより、重合の際の発熱による反応が進行することを防止でき、生成する重合体の分子量を調整することができる。
【0120】
重合性モノマーとしてアクリルモノマーまたは芳香族ビニルモノマーを用いた場合は、連鎖移動剤として、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−プロピオンメルカプト酸およびα―メチルスチレンダイマーなどを用いることができる。
【0121】
これら連鎖移動剤は一種単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。連鎖移動剤を使用する場合その量は、重合性モノマー100重量部に対して、通常0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。連鎖移動剤の量が、この範囲であるときに、重合時の架橋反応が十分に抑制されるので、流動性に優れた樹脂成形体が得られる。
【0122】
重合性組成物においては、さらに初期の粘度調整のために重合体が配合されていてもよい。配合される重合体は、重合性組成物に含まれるモノマーまたはその誘導体から形成される重合体が好ましい。たとえば、モノマーとしてアクリルモノマーが使用される場合には、粘度調整用重合体としては、アクリルモノマーを重合して得られる重合体が好ましい。
【0123】
重合性組成物の製造方法および塊状重合の方法は、特に限定されないが、シクロオレフィンモノマーを用いる場合と同様の方法を採ることができる。
【0124】
(樹脂複合体の製造)
本発明の樹脂複合体(プリプレグ)は、前述したように、補強材に前記重合性組成物を含浸させ、含浸物を所定温度に加熱して塊状重合することにより得ることができる。また、前記ポリマーを適当な溶媒に溶解し、ワニスとした上で補強材に含浸し、乾燥して溶媒を除去することで得ることもできる。
【0125】
ワニスの調製に用いられる溶媒としては、前記ポリマーを溶解できるものであれば限定されないが、沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものがより好ましい。このような範囲の沸点を有する溶媒を使用すると、後に加熱して揮散させ、乾燥するのに好適である。かかる溶媒としては、前記の溶液重合の溶媒として例示したものを用いることができる。
【0126】
溶媒の使用量は、所望の成形体の厚みや表面平坦度に応じて適宜選択されるが、ワニスの固形分濃度が、通常、5〜70重量%、好ましくは10〜65重量%、より好ましくは20〜60重量%になる範囲である。
【0127】
ワニスの調製法に格別な制限はなく、例えば、前記のポリマー及び必要に応じ配合される任意成分を常法に従って混合すればよい。
【0128】
混合に用いる混合機としては、マグネチックスターラー、高速ホモジナイザー、ディス
パー、遊星攪拌機、二軸攪拌機、ボールミル、三本ロール等が挙げられる。
【0129】
混合温度は、後述する架橋剤による架橋反応を起こさない範囲で、かつ溶媒の沸点以下であることが好ましい。
【0130】
補強材にワニスを含浸させるには、例えば、ワニスの所定量を、補強材のクロス、マット等の上に注ぎ、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上方からローラーなどで押圧することにより行うことができる。
【0131】
ワニスの乾燥条件は、溶媒の種類により適宜選択される。具体的には、乾燥温度は通常20〜300℃、好ましくは30〜200℃である。乾燥温度が高すぎると、架橋反応が進行して、得られる樹脂複合体が不均一になったり、溶媒が残留するおそれがある。また、乾燥時間は、通常30秒〜1時間、好ましくは1分〜30分である。
【0132】
(架橋剤)
本発明の樹脂複合体には、上記ポリマーと補強材に加えてさらに架橋剤が含まれていることが好ましい。
【0133】
架橋剤は、ポリマー中の官能基と架橋反応して架橋構造を生じせしめるものである。このような架橋反応に関与する官能基としては、例えば、炭素−炭素二重結合、カルボン酸基、酸無水物基、水酸基、アミノ基、活性ハロゲン原子、エポキシ基などが挙げられ、ポリマー中にこれらの官能基を有する場合に、架橋剤を添加することにより、得られる樹脂複合体に架橋性を付与することができる。
【0134】
架橋剤としては、例えば、ラジカル発生剤、エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、酸無水物基含有化合物、アミノ基含有化合物、ルイス酸などが挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ラジカル発生剤、エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、酸無水物基含有化合物が好ましく、ラジカル発生剤が特に好ましい。
【0135】
ラジカル発生剤としては、例えば、有機過酸化物、ジアゾ化合物および非極性ラジカル発生剤などが挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ジ(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキサシド;などが挙げられる。
【0136】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2’−ジアジドスチルベンなどが挙げられる。
【0137】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジフェニルブタン、1,4−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2,2−テトラフェニルエタン、2,2,3,3−テトラフェニルブタン、3,3,4,4−テトラフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルプロパン、1,1,2−トリフェニルエタン、トリフェニルメタン、1,1,1−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニルプロパン、1,1,1−トリフェニルブタン、1,1,1−トリフェニルペンタン、1,1,1−トリフェニル−2−プロペン、1,1,1−トリフェニル−4−ペンテン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0138】
中でも、メタセシス触媒の開環塊状重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドおよび非極性ラジカル発生剤が好ましい。
【0139】
樹脂複合体中のどの官能基(架橋部位)で架橋させるかにより、用いる架橋剤を使い分けることができる。例えば、炭素−炭素二重結合部分で架橋させる場合にはラジカル発生剤を使用することが好ましい。また、カルボキシル基や酸無水物基を有する熱可塑性樹脂を架橋させる場合にはエポキシ化合物を使用することができ、水酸基を有する熱可塑性樹脂を架橋させる場合には、イソシアネート基を含有する化合物を使用でき、エポキシ基を含有する熱可塑性樹脂を架橋させる場合には、カルボキシル基含有化合物や酸無水物基含有化合物を使用することができる。その他、カチオン的に架橋させたい場合には、ルイス酸を架橋剤として使用することもできる。
【0140】
架橋剤の量は特に限定されず、用いる架橋剤の種類に応じて、適宜設定することができる。例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を使用する場合には、架橋剤の使用量は、重合性モノマー100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。架橋剤の添加量が過度に少ないと架橋が不十分となり、高い架橋密度の架橋成形体が得られなくなるおそれがある。使用量が多すぎる場合には、架橋効果が飽和する一方で、所望の物性を有する架橋性成形体及び架橋成形体が得られなくなるおそれがある。
【0141】
本発明の樹脂複合体には、さらに架橋助剤、ラジカル架橋遅延剤、改質剤、酸化防止剤、難燃剤、充填剤、着色剤、光安定剤などを含有させることができる。架橋剤およびこれらの添加剤は、前記の重合性組成物またはワニスに添加して用いることができる。
【0142】
架橋剤としてラジカル発生剤を用いた場合、その架橋反応を促進させるために、架橋助剤を使用することができる。架橋助剤としては、ジイソプロペニルベンゼンなどのイソプロペニル基を2以上有する炭化水素化合物;ラウリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクレートなどのメタクリレート化合物;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどのシアヌル酸化合物;マレイミドなどのイミド化合物;などが挙げられる。
【0143】
また、ラジカル架橋遅延剤を用いることもできる。ラジカル架橋遅延剤としては、アルコキシフェノール類、カテコール類、ベンゾキノン類が挙げられ、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソールなどのアルコキシフェノール類が好ましい。
【0144】
難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系難燃剤、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、などが挙げられる。難燃剤は単独で用いてもよいが、二種以上を組合せて用いることが好ましい。
【0145】
充填材としては、ガラス粉末、セラミック粉末、シリカ、金属粉などが挙げられる。これら充填材は、二種類以上を併用してもよい。充填剤として、シランカップリング剤等で表面処理したものを用いることもできる。
【0146】
着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。
【0147】
各成分の配合量は、重合性組成物の粘度が、通常10,000mPa・s以下、好ましくは5,000mPa・s以下、より好ましくは1,000mPa・s以下、特に好ましくは500mPa・s以下となるように設定することが特に望ましい。この範囲より粘度が高いと補強材への含浸が困難になることがある。
【0148】
(架橋樹脂複合体)
架橋性の樹脂複合体は、上記架橋剤を含有しているにもかかわらず、加熱しない限りは架橋反応が進行しない。従って、架橋性の樹脂複合体の表面硬度が保存中に変化しにくく、保存安定性に優れる。
【0149】
塊状重合で樹脂複合体を得る場合において、重合性組成物が架橋剤を含有する場合には、塊状重合反応時のピ−ク温度が高くなりすぎると、塊状重合反応のみならず、一挙に架橋反応も進行してしまうおそれがある。したがって、塊状重合反応のみを完全に進行させ、架橋反応が進行しないようにするためには、重合における重合性組成物のピーク温度を、好ましくは200℃未満に制御する必要がある。ただし、生産性等の観点から、塊状重合反応と架橋反応とを同時に進行させてもよい。
【0150】
ラジカル発生剤を含有する重合性組成物を用いる場合、塊状開環重合でのピーク温度をラジカル発生剤の1分間半減期温度以下とするのが好ましい。ここで、1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。
【0151】
本発明の架橋樹脂複合体は、架橋剤を含有するワニスまたは重合性組成物を用いて得られた架橋性樹脂複合体を加熱して架橋させることにより得ることができる。架橋性樹脂複合体を加熱して架橋させるときの温度は、通常170〜250℃、好ましくは180〜220℃である。この温度は、前記塊状重合でのピーク温度より高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。また、加熱して架橋させる時間は特に制約されないが、通常、1分から10時間である。
【0152】
架橋性の樹脂複合体がシート状又はフィルム状である場合には、該架橋性の樹脂複合体を必要に応じて積層し、熱プレスすることにより、一定の形状に保ったまま加熱して架橋することが好ましい。熱プレスするときの圧力は、通常0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスするには、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行うことができ、生産性に優れる。
【0153】
なお、上述したように、生産性等の観点から、塊状重合反応と架橋反応とを同時に進行させて、重合性組成物から直接架橋複合体を得ても良い。重合性組成物を加熱し、重合、架橋する方法は特に制約されない。たとえば、重合性組成物を型枠内に注入し、熱プレスにより加熱と同時に圧力を加える方法が好ましい。熱プレスする時の圧力は、通常、0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。
【0154】
(積層体)
上記複合体または架橋複合体は、積層体として用いても良い。積層体は、上記樹脂複合体または架橋樹脂複合体からなる構成層を有し、より具体的には、少なくとも二以上の層を有し、その少なくとも一の層が上記の樹脂複合体または架橋樹脂複合体で形成されている。このような積層体のさらに具体的な例としては、銅箔などの基体材料と、本発明の樹脂複合体または架橋樹脂複合体から形成される構成層を含む積層体が挙げられる。また、積層体は、多層積層基板のように、銅箔などの基体材料と、樹脂複合体または架橋樹脂複合体からなる樹脂層とが交互に積層されてなる複合材料であってもよい。ここで、樹脂複合体または架橋樹脂複合体からなる樹脂層が複数含まれている場合には、それぞれの樹脂層の組成は同一であっても異なっていてもよい。
【0155】
上記基体材料としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔などの金属箔;プリント配線板製造用基板;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)性フィルムや導電性ポリマーフィルム等の樹脂フィルム;ノイズ抑制シート、電波吸収体などが挙げられる。また、基体材料の表面はシラン系カップリング剤、チオール系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、各種接着剤などで処理されていてもよい。
【0156】
積層体を得る方法に格別な制限はなく、たとえば上記複合体を適当の基体材料に重ね合わせて積層体を得てもよく、また複合体同士を重ね合わせて積層体を得てもよい。さらに重合性組成物を適当な基体材料あるいは複合体上に塗工し、該重合性組成物を重合して積層体を得ることもできる。
【0157】
また、本発明の架橋樹脂複合体からなる構成層を含む積層体を得る場合には、例えば(1)架橋剤を含有するワニスまたは重合性組成物を用いて得られた架橋性樹脂複合体を、基体材料に重ね合わせ、次いで加熱して架橋させる、(2)重合性組成物を基体材料上に積層し、塊状開環重合及び架橋反応を進行させる、(3)架橋剤を含有するワニスまたは重合性組成物を用いて得られた架橋性樹脂複合体を、2枚以上重ね合わせ、次いで加熱して架橋させる、という方法が挙げられる。
【0158】
前記(1)の方法により積層体を得るには、例えば、架橋性樹脂複合体と、基体材料としての金属箔とを重ね合わせて熱プレスなどによって加熱することにより架橋させて、金属箔と強固に密着した金属箔張積層板を得ることができる。得られる金属箔張積層板の金属箔の引き剥がし強さは、金属箔として銅箔を用いた場合、JIS C6481に基づいて測定した値で、0.5kN/m以上、好ましくは0.8kN/m以上、より好ましくは1.2kN/m以上である。
【0159】
前記(2)の方法により積層体を得るためには、重合性組成物の塊状開環重合温度を高く設定して架橋反応も起きる温度で加熱する。しかし、前記(1)の方法のように、一旦架橋性樹脂複合体の段階を経る方が界面の引き剥がし強さが大きくなる。
【0160】
このような特徴を有する本発明に係る樹脂複合体、架橋樹脂複合体は、プリプレグ;樹脂付き銅箔;プリント配線板、絶縁シート、層間絶縁膜、オーバーコート、アンテナ基板、電磁波吸収体、電磁波シールドなどの電子部品材料として好適である。
【実施例】
【0161】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特に断りのない限り、重量基準である。
【0162】
(ポリマーの分子量)
テトラヒドロフランを展開溶媒とする、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる測定結果を標準ポリスチレンの分子量に換算して求めた。
【0163】
(熱膨張率の測定)
両面銅張積層板を40℃の塩化第二鉄溶液(サンハヤト社製)に浸漬し、表面の銅箔を取り除いた。次いで、これを5mm角に切り出し、得られた試験片のZ方向(厚み方向)の線膨張(αz)を測定し、以下の基準にて評価した。
【0164】
A:αz<50ppm/℃
B:50ppm/℃≦αz<60ppm/℃
C:60ppm/℃≦αz<70ppm/℃
D:70ppm/℃≦αz
(含浸性)
両面銅張積層板を40℃の塩化第二鉄溶液(サンハヤト社製)に浸漬し、表面の銅箔を取り除いた。得られた積層板の内部を顕微鏡で観察し、以下の基準にて評価した。
【0165】
A:顕微鏡観察にて気泡が観察されない
B:顕微鏡観察にて僅かな気泡が観察される
C:顕微鏡観察にて気泡が観察される
D:顕微鏡観察にて多くの気泡が観察される
(ピール強度)
ピール強度測定用サンプルの銅箔をJIS−C6481に従って、クロスヘッドの速度を50mm/分に設定した引っ張り試験機にて90°剥離試験を行い導体のピール強度を測定した。
【0166】
(実施例1)
イオン交換水700mlに酢酸を滴下してpHを4.0とし、更にスチリルトリメトキシシラン(商品名:KBM−1403、信越シリコーン社製)を濃度が1.0g/リットルとなるように溶解させ、シランカップリング剤水溶液を作製した。
【0167】
表面が未処理のガラスクロス(厚さ80μm、単位面積当たりの重量が85g/m、Eガラス)を温度400℃で27時間ヒートクリーニングした。第1表面処理工程として、前記シランカップリング剤水溶液の中に該ヒートクリーニング処理したガラスクロスを浸漬し、余剰分を絞って乾燥させた。更に、第2表面処理工程として、シラザンとしてジビニルテトラメチルジシラザン(日本ゼオン社製、製品名ZHMDS100)の中に該シランカップリング剤処理したガラスクロスを浸漬し、余剰分を絞って100℃にて乾燥させ、表面処理されたガラスクロスを作成した。
【0168】
メタセシス触媒として、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−ピロリドン−1−イルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド0.127部、トリフェニルホスフィン0.197部をフラスコに入れ、真空脱気と窒素封入を繰り返し、最後に窒素封入した。窒素を流しながらテトラヒドロフラン(和光純薬製)2.38部を入れて溶解し、メタセシス触媒のテトラヒドロフラン溶液を調製した。
【0169】
シクロオレフィンモノマーとして、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(TCD)80部および2−ノルボルネン(NB)20部、ならびに酸化防止剤として2,6−ジターシャリーブチルヒドロキシトルエン0.28部を添加した混合物をガラス容器に入れ、ここに充填剤としてシリカ(アドマテックス社製、製品名SO−E1,スチリルトリメトキシシラン処理品 平均粒径0.2μm)を100部投入して攪拌機で攪拌した。これを氷水で冷却し、ここに、連鎖移動剤としてメタクリル酸ウンデセニル(東京化成社製)1.7部と、有機過酸化物の架橋剤としてジ−t−ブチルパーオキサイド(化薬アクゾ社製、製品名カヤブチルD)1.14部を投入してモノマー液を得た。このモノマー液に上記メタセシス触媒液をシクロオレフィンモノマー100部あたり0.26ml投入して攪拌し、重合性組成物を得た。
【0170】
このようにして調製した重合性組成物80部を、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(帝人デュポンフィルム社製、厚み75μm)の上に流延し、その上に前記表面処理されたガラスクロスを敷いて、さらにその上に重合性組成物80部を流延した。その上からさらにPENフィルムをかぶせ、ローラーで重合性組成物をガラスクロス全体に含浸させた。重合性組成物がガラスクロス端部から滲出するのを確認し、十分な量の重合性組成物がガラスクロスに含浸されたことを確認した。次いで、これを135℃にセットしたホットプレートに1分間静置して、重合性組成物を塊状重合させて上下のPENフィルムを剥離して厚さ約0.1mmのプリプレグを得た。
【0171】
上記のようにして作製したプリプレグを100mm角の大きさに切り出し、これを6枚重ねにし、その両面を銅箔(TypeGTS、厚み35μm、シランカップリング剤表面処理品、古河サーキットフォイル社製)で挟み、熱プレスにて、3MPa、基板表面温度200℃、で15分間プレスし、厚さ約0.8mmの両面銅張積層板を作製した。この両面銅張積層板を用いて、含浸性および熱膨張率を測定した。結果を表1に示す。
【0172】
次いで、得られた両面銅張積層板を25mm×100mmに切り出し、表面の銅箔をアルカリ脱脂、ソフトエッチング、および10%硫酸処理した。この銅箔の処理面にドライフィルムレジスト(日立化成工業社製 RY−3215)をラミネートし、JIS C6481の引きはがし強さのパターンが反転して印刷されたフィルムフォトマスクをレジストの上に重ねて、フォトレジスト用露光装置(オーク製作所製 EXP−2805)にて露光した。次いで、1%炭酸ナトリウム水溶液にてレジストを現像し、塩化銅(II)水溶液にて銅箔のエッチングを行い、さらに5%水酸化ナトリウム水溶液にて残ったレジストを剥離してピール強度測定用サンプルを作製した。このサンプルのピール強度を測定した結果を表1に示す。
【0173】
(実施例2)
第2表面処理剤として、ジビニルテトラメチルジシラザン1部に代えて、ヘキサメチルジシラザン1部を使用した以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0174】
(実施例3)
シクロオレフィンポリマー系の樹脂組成物の重合方法を変えた以外は実施例1と同様の実験を行った。調整方法を以下に示す。
【0175】
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン100部に、連鎖移動剤としてメタクリル酸ウンデセニル(東京化成社製)0.34部、助触媒および安定剤としてジイソプロピルエーテル0.06部、トリイソブチルアルミニウム0.04部、及びイソブチルアルコール0.015重量部を室温で反応器に入れ混合した。そこへ、シクロオレフィンモノマーとしてTCD80部およびNB20部、ならびにメタセシス触媒として六塩化タングステンの1.0重量%トルエン溶液15部を、反応器の温度を55℃に保ちながら、2時間かけて連続的に添加し、重合を行った。
【0176】
得られた溶液に、酸化防止剤として2,6−ジターシャリーブチルヒドロキシトルエン0.056部、有機過酸化物の架橋剤としてジ−t−ブチルパーオキサイド(化薬アクゾ社製、製品名カヤブチルD)1.14部を加え、溶解させ、充填剤としてシリカ(アドマテックス社製、製品名SO−E1,スチリルトリメトキシシラン処理品 平均粒径0.2μm)を100部投入して攪拌機で攪拌して樹脂組成物を得た。
【0177】
次いで、ポリエチレンナフタレート(PEN)製フィルム(帝人デュポンフィルム社製、厚さ75μm)上に、実施例1と同様にして得られた表面処理したガラスクロスを配置した。ここに上記で得られた樹脂組成物を浸漬させ、ローラーで厚みムラを調整した。次いで、これを135℃のイナートオーブン中に2分静置して樹脂組成物の溶剤を除去し、PENフィルムを剥離して厚さ約0.1mmのプリプレグを得た。
【0178】
(実施例4)
表面処理ガラスクロスの乾燥を行わなかった以外は実施例3と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0179】
(実施例5)
シクロオレフィンポリマーに代えて、エテニルベンジル化ポリフェニレンエーテル系の樹脂組成物を使用した以外は実施例3と同様の実験を行った。調整方法を以下に示す。
【0180】
先ず、攪拌装置を装着したフラスコにトルエンを2,000部入れて、トルエンが80℃になるまで加熱した。ここに、ポリフェニレンエーテル(PPE、商品名:ノリルPX9701、GEプラスチック社製、Mn=14,000)100部、ビスフェノールA、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(商品名:パーブチルI、日本油脂社製)、およびナフテン酸コバルト0.0042部を濃度8%に調整したトルエン溶液を添加し、完全に溶解するまで攪拌して反応させ、PPEを低分子量化した。反応終了後、多量のメタノールを加えてPPEを再沈殿させ、不純物を除去して、減圧下80℃で3時間乾燥して溶剤を完全に除去した。得られたPPEのMnは9,000であった。
【0181】
次いで、攪拌装置を装着したフラスコにトルエン2,000部を入れて、トルエンが75℃になるまで加熱した。ここに、上記低分子量化したPPE100部、クロロメチルスチレン7.3部、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド0.41部、およびトルエン200部を添加して、これらを溶解させると共に、ここに濃度を50%の水酸化ナトリウム水溶液を10部滴下した。その後、この混合液をろ過し、洗浄して末端がビニルベンジル化された変性PPEを得た。
【0182】
樹脂組成物は、次のようにして調製した。先ず、攪拌装置を装着したフラスコにトルエン2,000部を入れて、トルエンが80℃になるまで加熱した。ここに、上記変性PPEを入れて、完全に溶解するまで攪拌した。完全に溶解後、トリアリルイソシアネート(日本油脂株式会社製)5.0部、α,α’−ジ(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン(日本油脂株式会社製)0.4部を加えた。これを攪拌することによって、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて実施例3と同様にして厚さ約0.1mmのプリプレグを得た。
【0183】
(実施例6)
第1表面処理剤として、スチリルトリメトキシシラン1部に代えて、ヘキシルトリメトキシシラン1部を使用した以外は実施例2と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0184】
(実施例7)
重合性組成物に架橋剤を添加しなかった以外は実施例5と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0185】
(比較例1)
第2表面処理剤を使用しなかった以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0186】
(比較例2)
第1表面処理剤としてのシラン化合物を使用せず、第2表面処理剤としてのヘキサメチルジシラザンを2部使用した以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0187】
(比較例3)
第1表面処理剤としてのシラン化合物を使用せず、第2表面処理剤としてのヘキサメチルジシラザンを2部使用した以外は実施例4と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
(比較例4)
表面処理剤として、ビニルトリメトキシシラン1部、ヘキサメチルジシラザン1部の混合物を使用し、表面処理工程を1回にした以外は実施例2と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0188】
(比較例5)
表面処理剤として、ビニルトリメトキシシラン1部、ヘキサメチルジシラザン1部の表面処理工程を逆にして使用した以外は実施例2と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【0189】
上記、実施例と比較例からわかるように、特定の第1表面処理剤および第2表面処理剤で補強材表面を順次処理することで、ポリマーの含浸性および密着性が高く、熱膨張率の低い、強度の高い樹脂複合体が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー、および表面処理された補強材を含む樹脂複合体であって、
前記表面処理が、アルコキシシラン、チタネート化合物およびアルミネート化合物からなる群から選択される水溶液の第1表面処理剤により表面処理する第1表面処理工程、
およびシラザン類から選択される第2表面処理剤により表面処理する第2表面処理工程、をこの順に含むものである樹脂複合体。
【請求項2】
前記第1表面処理剤が、下記式(I)で示されるアルコキシシランである請求項1に記載の樹脂複合体。
SiR(OR4−(m+n)・・・(I)
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して炭化水素基を表し、Xは加水分解性基を表す。mおよびnは1〜3の整数であり、かつm+nは2〜4の整数である。)
【請求項3】
前記式(I)におけるRが、炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基である請求項2に記載の樹脂複合体。
【請求項4】
前記第2表面処理剤が、下記式(II)で示される炭化水素基含有シラザンである請求項1に記載の樹脂複合体:
【化1】

式中、R、Rはそれぞれ独立に炭化水素基であり、R〜Rはそれぞれ独立に水素または炭化水素基であり、nは0〜3の整数である。
【請求項5】
前記ポリマーが、シクロオレフィンポリマーまたはポリフェニレンエーテルである請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂複合体。
【請求項6】
さらに架橋剤を含む請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂複合体。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂複合体を架橋してなる架橋樹脂複合体。
【請求項8】
塊状重合可能なモノマーおよび重合触媒を含む重合性組成物を、
表面処理された補強材の存在下に塊状重合する樹脂複合体の製造方法であって、
前記表面処理が、アルコキシシラン、チタネート化合物およびアルミネート化合物からなる群から選択される水溶液の第1表面処理剤により表面処理する第1表面処理工程、
およびシラザン類から選択される第2表面処理剤により表面処理する第2表面処理工程、をこの順に含むものである樹脂複合体の製造方法。
【請求項9】
前記塊状重合可能なモノマーが、シクロオレフィンモノマーである請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記重合性組成物がさらに架橋剤を含む請求項8または9に記載の製造方法。




【公開番号】特開2009−132840(P2009−132840A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311408(P2007−311408)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】