説明

橋梁用弾性支承

【課題】支持体に対して橋桁を水平方向に弾性支持することができるとともに、橋桁に加わる回転方向の力によって弾性部材が回転方向に変形することがなく、しかも橋桁を水平方向に支持する際に騒音が発生することのない橋梁用弾性支承を提供する。
【解決手段】ソールプレート10が上沓30に水平方向に係止可能に形成されているので、ソールプレート10が上沓30に係止することにより、弾性部材60によって橋脚1を水平方向に弾性支持することができる。また、上沓30とソールプレート10との間に所定の隙間が設けられているので、橋桁1に加わる回転方向の力によって弾性部材60が回転方向に変形することがない。さらに、上沓30とソールプレート10との間に緩衝ゴム50が設けられているので、上沓30とソールプレート10との係止部から騒音が発生することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば橋桁を橋脚に鉛直方向に支持する他の支承とともに設けられ、橋桁を橋脚に対して水平方向に弾性支持するための橋梁用弾性支承に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の橋梁用弾性支承は、図8に示すように複数の補強板71とゴム部材72とを交互に積層してなる弾性部材70を備えているため、活荷重によって橋桁80に回転方向(図示した矢印の方向)の力が加わり弾性部材70が回転方向に変形すると、回転方向外側における各補強板71の間のゴム部材72が引張方向に変形する。また、ゴム部材72の変形は弾性部材70の水平方向の幅寸法とともに大きくなり、ゴム部材72の引張方向への大きな変形が弾性部材70の強度を低下させる要因となるので、橋桁80に回転方向の力が加わっても弾性部材70が回転方向に変形しないようにすることにより、弾性部材70の強度維持を図ることができる。
【0003】
このような橋梁用弾性支承としては、下端部が橋脚に取付けられるとともに上端部にフランジプレートが設けられた弾性部材と、橋桁の下面に取付けられ、フランジプレートの橋軸直角方向の両端部に水平方向及び下方から係止可能に形成されるとともに、フランジプレートの上面及び前記両端部と所定の隙間を設けて形成された係止プレートとを備え、風などにより橋脚に対して橋桁が橋軸直角方向に移動する場合には、係止プレートがフランジプレートに橋軸直角方向に係止することにより、弾性部材が剪断変形しながら橋脚を橋軸直角方向に支持し、活荷重などにより橋桁に回転方向の力が加わる場合には、前記隙間によってフランジプレートと係止プレートとが係止せず、弾性部材が回転方向に変形しないようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−38418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記橋梁用弾性支承では、係止プレートがフランジプレートに係止することにより橋桁を水平方向に支持するようにしているので、突風などによって橋桁に大きな力が加わって係止プレートとフランジプレートとが係止する場合には、係止部から大きな騒音が発生するという問題点があった。
【0005】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、支持体に対して橋桁を水平方向に弾性支持することができるとともに、橋桁に加わる回転方向の力によって弾性部材が回転方向に変形することがなく、しかも橋桁を水平方向に支持する際に騒音が発生することのない橋梁用弾性支承を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記目的を達成するために、橋桁と橋桁を支持する支持体との間に橋桁を鉛直方向に支持する他の支承とともに設けられ、橋桁を支持体に対して水平方向に弾性支持する橋梁用弾性支承において、下端部側が支持体側に固定されるとともに、上端部にフランジプレートが設けられ、水平方向に弾性変形可能な弾性部材と、橋桁側に取付けられ、フランジプレートの橋軸直角方向及び橋軸方向の両端部に水平方向及び下方から係止可能に形成されるとともに、フランジプレートの上面及び前記各両端部と所定の隙間を設けて形成された係止プレートとを備え、フランジプレートの前記各両端部と係止プレートとの隙間に緩衝部材を設けている。
【0007】
これにより、係止プレートがフランジプレートの前記各両端部に水平方向及び下方から係止可能に形成されていることから、橋桁が支持体に対して水平方向に移動する場合には、係止プレートがフランジプレートに水平方向に係止するとともに係止プレートによってフランジプレートの下方への移動が規制され、弾性部材が水平方向に弾性変形する。また、係止プレートがフランジプレートの上面及び前記各両端部と所定の隙間を設けて形成されていることから、活荷重などにより橋桁に回転方向の力が加わっても、前記隙間によって係止プレートがフランジプレートに係止しない。さらに、フランジプレートの前記各両端部と係止プレートとの隙間に緩衝部材が設けられていることから、係止プレートがフランジプレートの前記各両端部に係止する際の衝撃力が緩衝部材によって緩和される。
【0008】
また、本発明は、橋桁と橋桁を支持する支持体との間に橋桁を鉛直方向に支持する他の支承とともに設けられ、橋桁を支持体に対して水平方向に弾性支持する橋梁用弾性支承において、下端部側が支持体側に固定されるとともに、上端部にフランジプレートが設けられ、水平方向に弾性変形可能な弾性部材と、橋桁側に取付けられ、フランジプレートの橋軸方向及び橋軸直角方向のうち一方向の両端部に水平方向及び下方から係止可能に形成されるとともに、フランジプレートの上面及び前記両端部と所定の隙間を設けて形成された係止プレートとを備え、フランジプレートの前記両端部と係止プレートとの隙間に緩衝部材を設けている。
【0009】
これにより、係止プレートがフランジプレートの前記両端部に所定の水平方向及び下方から係止可能に形成されていることから、橋桁が支持体に対して所定の水平方向に移動する場合には、係止プレートがフランジプレートに水平方向に係止するとともに係止プレートによってフランジプレートの下方への移動が規制され、弾性部材が水平方向に弾性変形する。また、係止プレートがフランジプレートの上面及び前記両端部と所定の隙間を設けて形成されていることから、活荷重などにより橋桁に回転方向の力が加わっても、前記隙間によってフランジプレートと係止プレートとが係止しない。さらに、フランジプレートの前記両端部と係止プレートとの隙間に緩衝部材が設けられていることから、係止プレートがフランジプレートの前記両端部に係止する際の衝撃力が緩衝部材によって緩和される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の橋梁用弾性支承によれば、橋桁が支持体に対して所定の水平方向に移動する場合には、係止プレートがフランジプレートに水平方向及び下方から係止して弾性部材が水平方向に弾性変形するので、支持体に対して橋桁を水平方向に弾性支持することができる。また、活荷重などにより橋桁に回転方向の力が加わっても、前記隙間によってフランジプレートと係止プレートとが係止しないので、橋桁に加わる回転方向の力によって弾性部材が回転方向に変形することがなく、回転方向への変形による弾性部材の強度低下を防止することができる。さらに、係止プレートがフランジプレートの前記両端部に係止する際の衝撃力が緩衝部材によって緩和されるので、例えば突風などによって係止プレートがフランジプレートに係止する場合でも、係止部から騒音が発生することはない。また、係止の際の衝撃力を緩和することができるので、フランジプレート及び係止プレートを無用に高強度に形成する必要がなく、省スペース化及び製造コストの低減を図る上で極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1乃至図6は本発明の第1の実施形態を示すもので、図1は橋梁の橋軸直角方向における一部断面図、図2は橋梁用弾性支承の橋軸直角方向における断面図、図3は橋梁用弾性支承の橋軸方向における断面図、図4は図3におけるA−A線断面図、図5は橋桁が橋脚に対して橋軸直角方向にずれた状態を示す橋梁用弾性支承の橋軸直角方向における断面図、図6は橋桁が橋脚に対して橋軸方向に傾いた状態を示す橋梁用弾性支承の橋軸方向における断面図である。
【0012】
本実施形態の橋梁用弾性支承は、橋桁1に取付けられた係止プレートとしてのソールプレート10と、支持体としての橋脚2に取付けられたベースプレート20と、ソールプレート10に係止可能なフランジプレートとしての上沓30と、ベースプレート20に取付けられた下沓40と、ソールプレート10と上沓30との間に設けられた緩衝部材としての緩衝ゴム50と、上沓30と下沓40との間に配置された弾性部材60とを備えている。
【0013】
橋桁1は上面に自動車用道路が設けられ、橋軸直角方向Yに並ぶように設けられた2つの鉛直方向支持機構3によって橋脚2に支持されている。また、鉛直方向支持機構3は周知の積層ゴム構造体からなり、上面側が橋桁1の下面に取付けられるとともに、下面側が橋脚2の上面に取付けられている。
【0014】
ソールプレート10は、橋桁1の下面に取付けられた橋桁側プレート11と、橋桁側プレート11の下面における橋軸直角方向Yの両端部にそれぞれ下方に延びるように設けられた第1係止部材としての一対の第1延設部材12と、各第1延設部材12の下面にそれぞれ設けられた第2係止部材としての一対の第1下側係止部材13と、橋桁側プレート11の下面における橋軸方向Xの両端部にそれぞれ下方に延びるように設けられた第3係止部材としての一対の第2延設部材14と、各第2延設部材14の下面にそれぞれ設けられた第4係止部材としての一対の第2下側係止部材15とから構成されている。
【0015】
橋桁側プレート11は各鉛直方向支持機構3の間に配置され、複数のアンカーボルト11aによって橋桁1に取付けられている。尚、橋桁1が鉄鋼材料から形成されている場合は、プレート11を橋桁1にボルトや溶接によって取付けることも可能である。また、橋桁側プレート11は鉄鋼材料からなり、矩形の板状に形成されている。さらに、橋桁側プレート11の下面における中央部には凹状部11bが設けられ、凹状部11bは水平方向の断面が円形状に形成されている。
【0016】
各第1延設部材12は橋桁側プレート11における橋軸直角方向Yの両端部に沿うように形成された直方体の部材からなり、互いに橋軸方向Xに間隔をおいて複数の取付孔12aが設けられている。ここで、第1延設部材12は市販されている標準サイズの断面長方形の圧延鋼材を所定の長さに切断して形成されている。
【0017】
各第1下側係止部材13は各第1延設部材12の下面に沿うように形成された直方体の部材からなるとともに、橋桁側プレート11における橋軸直角方向Yの内側に延びるように形成され、第1延設部材12の各取付孔12aに対応する位置にそれぞれ取付孔13aが設けられている。ここで、第1下側係止部材13は市販されている標準サイズの断面長方形の圧延鋼材を所定の長さに切断して形成されている。また、各取付孔13aにはそれぞれ第1取付部材としてのボルト13bが下方から挿入され、各ボルト13bは各取付孔12aを挿通して橋桁側プレート11にそれぞれ螺合している。即ち、各延設部材12及び第1下側係止部材13は各ボルト13bによって橋桁側プレート11に取付けられている。
【0018】
各第2延設部材14は橋桁側プレート11における橋軸方向Xの両端部に沿うように形成された直方体の部材からなり、互いに橋軸直角方向Yに間隔をおいて複数の取付孔14aが設けられている。ここで、第2延設部材14は市販されている標準サイズの断面長方形の圧延鋼材を所定の長さに切断して形成されている。
【0019】
各第2下側係止部材15は各第2延設部材14の下面に沿うように形成された直方体の部材からなり、橋桁側プレート11における橋軸方向Xの内側に延びるように形成され、第1延設部材14の各取付孔14aに対応する位置にそれぞれ取付孔15aが設けられている。ここで、第2下側係止部材15は市販されている標準サイズの断面長方形の圧延鋼材を所定の長さに切断して形成されている。また、各取付孔15aにはそれぞれ第2取付部材としてのボルト15bが下方から挿入され、各ボルト15bは各取付孔14aを挿通して橋桁側プレート11にそれぞれ螺合している。即ち、各延設部材14及び第2下側係止部材15は各ボルト15bによって橋桁側プレート11に取付けられている。
【0020】
ベースプレート20は鉄鋼材料からなり、橋桁側プレート11と同様の形状に形成されるとともに、複数のアンカーボルト20aによって橋脚2に取付けられている。尚、橋脚2が鉄鋼材料から形成されている場合は、ベースプレート20を橋脚2にボルトや溶接によって取付けることも可能である。また、ベースプレート20の上面における中央部には凹状部20bが設けられ、凹状部20bは水平方向の断面が円形状に形成されている。
【0021】
上沓30は鉄鋼材料からなり、矩形の板状に形成されている。また、上沓30の橋軸直角方向Yの両端部とソールプレート10の各第1延設部材12との間には所定の隙間が設けられるとともに、上沓30の橋軸方向Xの両端部と各第2延性部材14との間には所定の隙間が設けられている。さらに、上沓30の上面と橋桁側プレート11との間には所定の隙間が設けられるとともに、上沓30の下面と各下側係止部材13,15との間には所定の隙間が設けられている。また、上沓30の中央部には貫通孔30aが設けられ、貫通孔30aは水平方向の断面が円形状に形成されている。
【0022】
下沓40は鉄鋼材料からなり、上沓30と同様の形状である矩形の板状に形成されるとともに、複数のボルト40aによってベースプレート20に取付けられている。また、下沓40の中央部には貫通孔40bが設けられ、貫通孔40bは水平方向の断面が円形状に形成されている。
【0023】
緩衝ゴム50は天然ゴムや合成ゴムからなり、上沓30の橋軸直角方向Y及び橋軸方向Xの両端部とソールプレート10との隙間に設けられている。即ち、上沓30は緩衝ゴム50を介してソールプレート10の各第1延設部材12に橋軸直角方向Yに係止し、橋桁1に対する橋軸直角方向Yへの移動を規制されるようになっている。また、上沓30は緩衝ゴム50を介してソールプレート10の各第2延設部材14に係止し、橋桁1に対する橋軸方向Xへの移動を規制されるようになっている。さらに、上沓30は緩衝ゴム50を介して各下側係止部材13,15に係止し、橋桁1に対する下方への移動を規制されるようになっている。
【0024】
弾性部材60は、上沓30に取付けられた上側補強板61と、下沓40に取付けられた下側補強板62と、上側補強板61と下側補強板62との間に互いに上下方向に間隔をおいて設けられた複数の補強板63と、各補強板61,62,63を加硫接着によって連結するゴム部材64とから構成されている。
【0025】
上側補強板61は鉄鋼材料からなり、矩形の板状に形成されるとともに、複数のボルト61aによって上沓30に取付けられている。また、上側補強板61の上面には凹状部61bが設けられ、凹状部61bは水平方向の断面が円形状に形成されている。さらに、凹状部61bには円柱状のキー部材61cが挿入され、キー部材61cの上端部側は上沓30の貫通孔30aを挿通するとともに、橋桁側プレート11の凹状部11bに挿入されている。また、キー部材61cの上端部と橋桁側プレート11の凹状部11bとの間には水平方向及び上下方向に所定の隙間が設けられている。
【0026】
下側補強板62は鉄鋼材料からなり、矩形の板状に形成されるとともに、複数のボルト62aによって下沓40に取付けられている。また、下側補強板62の下面には凹状部62bが設けられ、凹状部62bは水平方向の断面が円形状に形成されている。さらに、凹状部62bには円柱状のキー部材62cが挿入され、キー部材62cの下端部側は下沓40の貫通孔40bを挿通するとともに、ベース板20の凹状部20bに挿入されている。
【0027】
各補強板63は鉄鋼材料からなり、矩形の板状に形成されている。また、各補強板63は上側補強板61及び下側補強板62よりも薄く形成されている。
【0028】
ゴム部材64は高減衰ゴムからなり、各補強板61,62,63を被覆するように形成されるとともに、水平方向の断面形状が矩形となる直方体に形成されている。一方、上沓30及び下沓40は弾性部材60の側面よりも橋軸直角方向Y及び橋軸方向Xに突出するように形成されている。ここで、高減衰ゴムとしては、特開平10−219029号公報、特開平10−219033号公報、特開2000−336207号公報、特開2002−020546号公報などに示されているものを使用することが望ましい。
【0029】
以上のように構成された橋梁用弾性支承は、各鉛直方向支持機構3によって橋桁1が鉛直方向に支持されていることから、橋桁側プレート11の下面と上沓30の上面との間に所定の隙間を設けた状態で橋桁1と橋脚2との間に取付けられる。また、上沓30の橋軸直角方向Y及び橋軸方向Xの両端部とソールプレート10との間に所定の隙間が設けられるように、ソールプレート10が橋桁1に取付けられている。
【0030】
ここで、図5に示すように、風などによって橋桁1に橋軸直角方向Yの力が加わる場合には、橋桁1が橋脚2に対して橋軸直角方向Yに移動し、ソールプレート10が緩衝ゴム50を介して上沓30に係止する。これにより、弾性部材60が橋軸直角方向Yに剪断変形しながら橋桁1を橋軸直角方向Yに支持する。この際、ソールプレート10が上沓30に係止した後にキー部材61cが橋桁側プレート11の凹状部11bに水平方向に係止し、ソールプレート10に対する上沓30の径方向の移動が規制される。
【0031】
また、気温の変化や活荷重によって橋桁1が橋軸方向Xに伸びた場合には、橋桁1が橋脚2に対して橋軸方向Xに移動し、ソールプレート10が緩衝ゴム50を介して上沓30に係止する。これにより、橋軸直角方向Yの場合と同様に、弾性部材60が橋軸方向Xに剪断変形しながら橋桁1を橋軸方向Xに支持する。この際、ソールプレート10が上沓30に係止した後にキー部材61cが橋桁側プレート11の凹状部11bに水平方向に係止し、ソールプレート10に対する上沓30の径方向の移動が規制される。
【0032】
ここで、ソールプレート10は緩衝ゴム50を介して上沓30に係止するので、ソールプレート10が上沓30に係止する際の衝撃力が緩衝ゴム50によって緩和される。
【0033】
また、ソールプレート10は上沓30に橋軸直角方向Y及び橋軸方向Xに係止可能に形成されているので、弾性部材60によって橋桁1を橋軸直角方向Y及び橋軸方向Xに弾性支持することができる。
【0034】
さらに、弾性部材60を構成するゴム部材64が高減衰ゴムから形成されているので、橋脚2に対して移動する橋桁1の運動エネルギーを弾性部材60の剪断変形によって大幅に減衰することができる。これにより、風などによる橋桁1の揺れを早期に減衰させることができ、弾性部材60によって橋桁1を水平方向に確実に弾性支持することができる。
【0035】
一方、図6に示すように、活荷重によって橋桁1に回転方向(図示した矢印の方向)の力が加わり、ソールプレート10が橋軸方向Xに傾く場合には、上沓30の上面及び橋軸方向Xの両端部とソールプレート10との間に所定の隙間が設けられているので、ソールプレート10が上沓30に係止しない。また、活荷重によって橋桁1に回転方向の力が加わり、ソールプレート10が橋軸直角方向Yに傾く場合には、橋軸方向Xの場合と同様に、上沓30の上面及び橋軸直角方向Yの両端部とソールプレート10との間に所定の隙間が設けられているので、ソールプレート10が上沓30に係止しない。この際、キー部材61cと橋桁側プレート11の凹状部11bとの間には隙間が設けられているので、キー部材61cを介して上沓30に回転方向の力が加わることがない。
【0036】
次に、例えば地震によって橋桁1が橋脚2に対して橋軸直角方向Yまたは橋軸方向Xに大きく移動する場合には、弾性部材60が大きく剪断変形して上沓30が下方に移動しようとするが、上沓30はソールプレート10の各下側係止部材13,15によって下方への移動を規制されているので、ソールプレート10と上沓30との橋軸直角方向Yまたは橋軸方向Xの係止が解除されることがない。
【0037】
このように、本実施形態によれば、ソールプレート10には第1延設部材12及び第2延設部材14が設けられ、ソールプレート10が上沓30に橋軸直角方向Y及び橋軸方向Xに係止可能に形成されているので、風や気温の変化などによって橋桁1が橋脚2に対して橋軸直角方向Yまたは橋軸方向Xに移動する場合には、ソールプレート10が上沓30に水平方向に係止し、弾性部材60が剪断変形しながら橋桁1を水平方向に支持することができる。
【0038】
また、上沓30の上面及び橋軸直角方向Y及び橋軸方向Xの両端部とソールプレート10との間に所定の隙間が設けられているので、活荷重によって橋桁1に回転方向の力が加わり橋桁1が橋軸直角方向Yまたは橋軸方向Xに傾いても、前記隙間によってソールプレート10が上沓30に係止しないので、橋桁1に加わる回転方向の力によって弾性部材60が回転方向に変形することがなく、回転方向への変形による弾性部材60の強度低下を防止することができる。これにより、弾性部材60の上下方向の寸法を小さくしても弾性部材60の強度を確保することができ、弾性部材60を小型化することによる省スペース化及び製造コストの低減を図ることができる。
【0039】
さらに、上沓30の橋軸直角方向Y及び橋軸方向Xの両端部とソールプレート10との隙間には全周に亘って緩衝ゴム50が設けられ、ソールプレート10は緩衝ゴム50を介して上沓30に係止するようになっているので、ソールプレート10が上沓30に係止する際の衝撃力が緩衝ゴム50によって緩和され、例えば突風などによって橋桁1に大きな力が加わってソールプレート10が上沓30に係止する場合でも、係止部からの騒音が発生することはない。また、係止の際の衝撃力を緩和することができるので、ソールプレート10及び上沓30を無用に高強度に形成する必要がなく、省スペース化及び製造コストの削減を図る上で極めて有利である。
【0040】
また、ソールプレート10には各下側係止部材13,15が設けられ、各下側係止部材13,15によって上沓30の下方への移動が規制されるようになっているので、例えば地震によって橋桁1が橋脚2に対して橋軸直角方向Yまたは橋軸方向Xに大きく移動する場合にも、ソールプレート10と上沓30との橋軸直角方向Yまたは橋軸方向Xの係止が解除されることがなく、弾性部材60によって橋桁1を水平方向に確実に弾性支持することができる。
【0041】
さらに、ソールプレート10を、各延設部材12,14及び各下側係止部材13,15を各ボルト13b,15bによって橋桁側プレート11に取付ける簡単な構造としたので、各延設部材12,14及び各下側係止部材13,15を市販されている標準サイズの圧延鋼材を所定の長さに切断することにより形成することができ、ソールプレート10の製造を容易にするとともに製造コストの低減を図ることができる。
【0042】
尚、本実施形態では、ソールプレート10に各延設部材12,14及び各下側係止部材13,15を設け、ソールプレート10を上沓30に橋軸直角方向Y及び橋軸方向Xに係止可能に形成したものを示したが、図7に示すように、ソールプレート10に第1係止部材としての一対の第1延設部材12及び第2係止部材としての一対の第1下側係止部材13のみを設け、ソールプレート10を上沓30に橋軸直角方向Yにのみ係止可能に形成することもできる。この場合は上沓30の橋軸直角方向Yの両端部とソールプレート10との隙間に緩衝ゴム50を設ける。これにより、橋桁1の橋軸直角方向Yへの移動を弾性部材60によって弾性支持することができる。
【0043】
また、ソールプレート10に第1係止部材としての一対の第2延設部材14及び第2係止部材としての一対の下側第2係止部材15のみを設け、ソールプレート10を上沓30に橋軸方向Xにのみ係止可能に形成することもできる。この場合は、上沓30の橋軸方向Xの両端部とソールプレート10との隙間に緩衝ゴム50を設ける。これにより、橋桁1の橋軸方向Xへの移動を弾性部材60によって弾性支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明における一実施形態を示す橋梁の橋軸直角方向における一部断面図
【図2】橋梁用弾性支承の橋軸直角方向における断面図
【図3】橋梁用弾性支承の橋軸方向における断面図
【図4】図3におけるA−A線断面図
【図5】橋桁が橋脚に対して橋軸直角方向にずれた状態を示す橋梁用弾性支承の橋軸直角方向における断面図
【図6】橋桁が橋脚に対して橋軸方向に傾いた状態を示す橋梁用弾性支承の橋軸方向における断面図
【図7】本発明におけるソールプレートの変形例を示す橋梁用弾性支承の水平方向断面図
【図8】従来の橋梁用弾性支承の橋軸方向における断面図
【符号の説明】
【0045】
1…橋桁、2…橋脚、3…鉛直方向支持機構、10…ソールプレート、11…橋桁側プレート、12…第1延設部材、13…第1下側係止部材、13b…ボルト、14…第2延設部材、15…第2下側係止部材、15b…ボルト、20…ベースプレート、30…上沓、40…下沓、50…緩衝ゴム、60…弾性部材、61…上側補強板、62…下側補強板、63…補強板、64…ゴム部材、X…橋軸方向、Y…橋軸直角方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁と橋桁を支持する支持体との間に橋桁を鉛直方向に支持する他の支承とともに設けられ、橋桁を支持体に対して水平方向に弾性支持する橋梁用弾性支承において、
下端部側が支持体側に固定されるとともに、上端部にフランジプレートが設けられ、水平方向に弾性変形可能な弾性部材と、
橋桁側に取付けられ、フランジプレートの橋軸直角方向及び橋軸方向の両端部に水平方向及び下方から係止可能に形成されるとともに、フランジプレートの上面及び前記各両端部と所定の隙間を設けて形成された係止プレートとを備え、
フランジプレートの前記各両端部と係止プレートとの隙間に緩衝部材を設けた
ことを特徴とする橋梁用弾性支承。
【請求項2】
前記係止プレートを、橋桁側に取付けられ、フランジプレートの上面と所定の隙間を設けて配置された橋桁側プレートと、フランジプレートの橋軸直角方向の両端部と所定の隙間を設けて配置されて前記両端部に水平方向に係止可能な一対の第1係止部材と、フランジプレートの橋軸直角方向の両端部と所定の隙間を設けて配置されて前記両端部に下方から係止可能な一対の第2係止部材と、フランジプレートの橋軸方向の両端部と所定の間隔を設けて配置されて前記両端部に水平方向に係止可能な一対の第3係止部材と、フランジプレートの橋軸方向の両端部と所定の間隔を設けて配置されて前記両端部に下方から係止可能な一対の第4係止部材と、各第1係止部材及び各第2係止部材を橋桁側プレートに取付けるための第1取付部材と、各第3係止部材及び各第4係止部材を橋桁側プレートに取付けるための第2取付部材とから構成した
ことを特徴とする請求項1記載の橋梁用弾性支承。
【請求項3】
橋桁と橋桁を支持する支持体との間に橋桁を鉛直方向に支持する他の支承とともに設けられ、橋桁を支持体に対して水平方向に弾性支持する橋梁用弾性支承において、
下端部側が支持体側に固定されるとともに、上端部にフランジプレートが設けられ、水平方向に弾性変形可能な弾性部材と、
橋桁側に取付けられ、フランジプレートの橋軸方向及び橋軸直角方向のうち一方向の両端部に水平方向及び下方から係止可能に形成されるとともに、フランジプレートの上面及び前記両端部と所定の隙間を設けて形成された係止プレートとを備え、
フランジプレートの前記両端部と係止プレートとの隙間に緩衝部材を設けた
ことを特徴とする橋梁用弾性支承。
【請求項4】
前記係止プレートを、橋桁側に取付けられ、フランジプレートの上面と所定の隙間を設けて配置された橋桁側プレートと、フランジプレートの前記両端部と所定の隙間を設けて配置されて前記両端部に水平方向に係止可能な一対の第1係止部材と、フランジプレートの前記両端部と所定の隙間を設けて配置されて前記両端部に下方から係止可能な一対の第2係止部材と、各係止部材を橋桁側プレートに取付けるための取付部材とから構成した
ことを特徴とする請求項3記載の橋梁用弾性支承。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−265936(P2006−265936A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85558(P2005−85558)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】