説明

機上現像可能な平版印刷版原版

【課題】 レーザー露光による画像記録が可能であり、機上現像性及び耐刷性が優れた機上現像型の平版印刷版原版を提供する。
【解決手段】 露光部の25℃における、相対湿度30%に対する相対湿度50%の含水量変化率が2.O質量%以下である画像形成層を有し、油性インキと水性成分とを供給することにより機上現像可能な平版印刷版原版。画像形成層が、露光により疎水性に変化する官能基を有するバインダー樹脂や塩構造を有する重合性化合物を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版原版に関する。詳しくは、コンピュータ等のデジタル信号に基づいてレーザー光を走査することにより直接製版することができる、いわゆるダイレクト製版可能であり、機上現像可能な平版印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平版印刷版の作製は、中間材料であるリスフィルムを介して平版印刷版原版に露光するシステムで行われてきた。しかし、近年の印刷分野におけるデジタル化の急速な進展と共に、平版印刷版の作製工程は、コンピュータに入力し編集されたデジタルデータを直接出力するCTPシステムに変わりつつある。さらに、一層の工程合理化を目指して、露光後、現像処理することなしに、そのまま印刷が行える現像不要の平版印刷版原版が開発されている。
【0003】
処理工程をなくす方法の一つに、露光済みの平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着し、版胴を回転しながら湿し水とインキを供給することによって、不要な画像形成層を除去する機上現像を呼ばれる方法がある。すなわち、平版印刷版原版を露光後、そのまま印刷機に装着し、通常の印刷過程の中で現像処理が完了する方法である。このような機上現像に適した平版印刷版原版は、湿し水やインキ溶剤に可溶な画像形成層を有し、しかも、明室に置かれた印刷機上で現像されるのに適した明室取扱性を有することが必要とされる。
【0004】
例えば、特許文献1には、親水性バインダーポリマー中に熱可塑性疎水性重合体の微粒子を分散させた感光層を親水性支持体上に設けた平版印刷版原版が記載されている。この特許文献1には、平版印刷版原版をレーザー露光し、画像記録層中の熱可塑性疎水性重合体粒子を熱により合体させて画像形成した後、印刷機の版胴上に版を取付け、湿し水及び/又はインキにより未露光部を除去する(機上現像)できることが記載されている。この平版印刷版原版は感光域が赤外線域であることにより、明室取扱適性も有している。
【0005】
また特許文献2〜6にも、熱可塑性微粒子を熱による合体後、機上現像により印刷版を作製することが記載されている。
【0006】
また特許文献7には、熱可塑性ポリマー微粒子、熱反応性基を有するポリマー微粒子及び熱反応性基を有する化合物を内包するマイクロカプセルのうち少なくとも何れかを含有する画像記録層を有する平版印刷版原版が、機上現像性が良好であり、高感度かつ高耐印刷性を有することが記載されている。
【0007】
また特許文献8には、ビニルオキシ基を有する化合物を内包するマイクロカプセル、親水性樹脂及び酸前駆体を含有する画像記録層を有する機上現像型の感熱性平版印刷版原版によって良好な耐印刷性が得られることが記載されている。
【0008】
また特許文献9には、エポキシ基を有する化合物を内包するマイクロカプセル、親水性樹脂及び酸前駆体を含有する画像記録層を有する機上現像型の感熱性平版印刷版原版によって良好な耐印刷性が得られることが記載されている。
【0009】
さらに特許文献10には、ラジカル重合性基を有する化合物を内包するマイクロカプセル、親水性樹脂及び感熱性重合開始剤を含有する画像記録層を有する機上現像型の感熱性平版印刷版原版によって良好な耐印刷性が得られることが記載されている。
【0010】
また特許文献11には、感光層として親水性ポリマーマトリクス中に親油性ポリマーの微粒子を分散させており、感光層中に存在する光吸収剤が光照射することで光を熱に変換し、発生した熱により親油性ポリマーが発泡したり、熱融着したりして、感光層の親水性が失われ、親インキ性に変化することを利用して現像が行われる平版印刷版原版が記載されている。
【0011】
【特許文献1】特許第2938397号公報
【特許文献2】特開平9−127683号公報
【特許文献3】特開平9−123387号公報
【特許文献4】特開平9−123388号公報
【特許文献5】特開平9−131850号公報
【特許文献6】国際公開第99/10186号パンフレット
【特許文献7】特開2001−293971号公報
【特許文献8】特開2002−29162号公報
【特許文献9】特開2002−46361号公報
【特許文献10】特開2002−137562号公報
【特許文献11】特開2004−299264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記の従来技術も実用的な観点から見ると、機上現像性及び耐刷性の両立が未だ不十分であった。本発明の目的は、レーザー露光による画像記録が可能であり、機上現像性及び耐刷性が優れた機上現像型の平版印刷版原版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、機上現像型の平版印刷版原版のおける耐刷性の劣化や湿し水種依存性の原因を、機上現像性のために画像形成層が湿し水を浸透しやすくなっているため、印刷時の画像部へも水が浸透しやすく画像部が脆弱化するからだと推定して、露光後の画像形成層の吸水性を検討した結果、本発明に到達した。本発明は以下のとおりである。
【0014】
1.露光部の25℃における、相対湿度30%に対する相対湿度50%の含水量変化率が2.O質量%以下である画像形成層を有し、油性インキと水性成分とを供給することにより機上現像可能な平版印刷版原版。
2.前記含水量変化率が0.5〜1.5質量%であることを特徴とする前記1又は2に記載の平版印刷版原版。
3.前記画像形成層が、露光により疎水性に変化する官能基を有するバインダー樹脂を含有することを特徴とする前記1又は2に記載の平版印刷版原版。
4.前記露光により疎水性に変化する官能基を有するバインダー樹脂の含有量が画像形成層中の全固形成分に対して5質量%〜30質量%であることを特徴とする前記3に記載の平版印刷版原版。
5.前記画像形成層が、塩構造を有する重合性化合物を含有することを特徴とする前記1〜4のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
6.前記塩構造を有する重合性化合物の含有量が画像形成層中の全固形成分に対して10質量%〜80質量%であることを特徴とする前記5に記載の平版印刷版原版。
7.前記塩構造を有する重合性化合物が、スルホン酸化合物のアミン塩であることを特徴とする前記5又は6に記載の平版印刷版原版。
8.前記画像形成層にポリマーの溶媒分散物を含む前記1〜7のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
9.ポリマーの溶媒分散物がアクリロニトリルを含む共重合体の分散物である前記1〜8のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レーザー露光による画像記録が可能であり、機上現像性及び耐刷性に優れた平版印刷版原版を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
〔含水量変化率〕
本発明の平版印刷版原版は、機上現像可能であり、25℃において相対湿度が30%から50%に変化した場合の露光部の含水量変化率が2.O質量%以下である画像形成層を有する。このように含水量変化率をコントロールすることで耐刷性を向上させ、耐刷性の湿し水依存性を緩和することができ、従来の機上現像型刷版の耐刷性にまつわる問題を効果的に解決できる。
本発明で上記含水量変化率は、画像形成層露光部の水に対する親和性を示しており、製版後の画像部への湿し水浸透性を表すものと考えることができる。
本発明においては、含水量変化率W(r)は以下の方法によって求められる。
【0017】
平版印刷版原版の保管をある湿度条件からより高湿度の条件に代えると、平版印刷版原版の質量は一般に増加する。この質量変化は平版印刷版原版が吸水(吸湿)することによって生ずるが、この質量変化は、おおむね画像形成層の吸水量に等しい。そこで、本発明では、露光済みの平版印刷版原版の吸水量変化を測定し、以下の計算式によって求められる値を画像形成層露光部の吸水量変化率W(r)と規定した。
【0018】
W(r)={W(50)−W(30)}×100/{S×W(i)}
【0019】
上式において、
W(30): 露光済みの平版印刷版原版を25℃相対湿度30%の環境下に60分保管し、精密天秤で測定した質量(g)。
W(50): W(30)の測定で用いた同じ平版印刷版原版を25℃相対湿度50%の環境下に60分保管し、精密天秤で測定した質量(g)。
S: W(30)、W(50)の測定に用いた平版印刷版原版の面積(m)。
0.1m以上が好ましい。
W(i): 基板上に設けられた画像形成層の塗布量(g/m)。例えば、有機溶剤などを用いて基板上に設けられた画像形成層を除去した際の質量変化より算出される。
なお、露光、は露光量300mJ/cmで行うものとする。
【0020】
上記含水量変化率W(r)を2.0質量%以下にすることで良好な耐刷性を得ることができる。より好ましくは0.5〜1.5質量%以下である。含水量変化率が2.0質量%を超えると露光部の画像形成層(画像部)へ湿し水が浸透性し、耐刷性の低下を引き起こす。また、含水量変化率が0.5質量%以上であれば、未露光部への湿し水浸透性がより好ましく、機上現像性がより向上し、好ましい。
【0021】
このような画像形成層露光部の含水率にするための具体的な態様としては、露光時に親水性から疎水性へ極性変換する素材を画像形成層へ添加することが好ましい。例えば、スルホン酸基やアンモニウム基のような親水性かつ熱分解性で露光により疎水性に変化する官能基を有するバインダー樹脂や、塩構造を有する重合性化合物が好ましく用いられる。また、露光時の重合反応を促進させることも効果的である。具体的には、架橋性基を有するバインダー樹脂、多官能性重合性化合物、酸素遮断性素材の添加などが好ましく用いられる。もちろん、画像形成層に含まれる成分の疎水性化、あるいは疎水性成分と親水性成分の添加量を調整することにより、含水量変化率を本発明の範囲内にすることができる。なかでも、極性変換素材や重合反応促進素材の添加が機上現像性への影響が少なく、好ましい。
【0022】
〔画像形成層〕
以下、本発明の画像形成層について詳細に説明する。
本発明の画像形成層は、塩構造を有する重合性化合物や露光により疎水性に変化する官能基を有するバインダー樹脂、さらに赤外線吸収剤及び重合開始剤を含有し、赤外レーザー照射により重合硬化するタイプであることが好ましい。また本発明の画像形成層は、印刷インキ及び/又は湿し水により除去可能である。
【0023】
<塩構造を有する重合性化合物>
本発明の画像形成層には塩構造を有する重合性化合物を含有させることが好ましい。本発明に用いられる塩構造を有する重合性化合物は、重合性基と親水性のイオン性基を近傍に配置することで、露光時に重合性基が重合すると親水性のイオン性基が物理的に遮蔽され、親水性が低下、すなわち疎水化するものである。塩構造は、カチオン性基とアオニン性基の組み合わせであればよいが、特に、スルホン酸化合物のアミン塩の組み合わせが好ましい。
ここで重合性基とは、付加重合可能なエチレン性不飽和基であり、末端エチレン性不飽和基であることが好ましい。
【0024】
本発明に用いることができる重合性基を含有するスルホン酸化合物のアミン塩は、少なくとも一個のスルホン酸基を有する化合物と少なくとも一つのアミノ基を有する化合物の塩であり、分子内塩であってもよく、二個以上の分子が形成する塩であってもよい。このような化合物群は有機化学の分野において広く知られるものであり、本発明においてはこれらを特に限定無く用いることができる。
【0025】
本発明において、好適に用いることのできるスルホン酸化合物のアミン塩としては、例えば、Aldrich Structure Index 1996-1997Edition ,1996年刊, Aldrich Chemical Company, Inc. に記載のスルホン酸化合物とアミン化合物のどちらか又は両方に少なくとも1つの重合性基を導入したスルホン酸化合物とアミン化合物の組み合わせによって得られるものが挙げられる。
また、スルホン酸化合物のアミン塩は、より高い疎水化効果のためには、分子内に2つ以上のアミン塩構造を有することが好ましい。
本発明において、好適に用いることのできるスルホン酸化合物のアミン塩の具体例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【0028】
塩構造を含有する重合性化合物は、画像形成層中の全固形分に対して、好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは15〜70質量%、特に好ましくは20〜60質量%の範囲で使用される。また、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0029】
<その他の重合性化合物>
本発明の画像形成層には、上記の塩構造を有する重合性化合物又は後述の極性変換基を有するバインダー樹脂と組み合わせて、塩構造をもたない重合性化合物として付加重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物を用いることができる。そのような化合物は光重合末端であるエチレン性不飽和二重結合基を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物の中から任意に選択することができ、例えば、モノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はこれらの混合物ならびにこれらの共重合体等の化学的形態を持つものである。モノマー及びその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。
【0030】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。
【0031】
メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。
【0032】
イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等がある。
クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート等がある。
イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート等がある。
マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等がある。
さらに、前述のエステルモノマーの混合物もあげることができる。
【0033】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等が挙げられる。
【0034】
その他の例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート等の1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、上記の不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、又は、下記の一般式(1)もしくは(2)で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加せしめた、1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0035】
【化3】

【0036】
(式中、Q及びQは、独立してH又はCHを示す。)
【0037】
【化4】

【0038】
(式中、Q及びQは独立してH又はCHを示し、Qは−CHOHを示す。a及びcはそれぞれ独立して1〜3の整数であり、bは0、1又は2である。但し、a+b+c=4である)
【0039】
また、特開昭51−37193号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号の各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。さらに日本接着協会誌Vol.20、No.7、300〜308頁(1984年)に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも、使用することができる。
【0040】
具体的には、NKオリゴ U−4HA、U−4H、U−6HA、U−108A、U−1084A、U−200AX、U−122A、U−340A、U−324A、UA−100(以上、新中村化学工業(株)製)、UA−306H、AI−600、UA−101T、UA−101I、UA−306T、UA−306I(以上、共栄社化学(株)製)、アートレジン UN−9200A、UN−3320HA、UN−3320HB、UN−3320HC、SH−380G、SH−500、SH−9832(以上、根上工業(株)製)等を挙げることができる。
【0041】
なお、これらの重合性化合物の使用量は、画像形成層の全成分の5〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜80質量%の範囲である。
【0042】
また、これらの重合性化合物はマイクロカプセル又はミクロゲルに含まれる分散物として用いることができる。分散物とすることで、画像形成層表面のベトツキが低減し、合紙の接着や指紋汚れの問題が改良でき、取扱性を向上することができる。さらに、画像形成層の物理的強度を下げることが可能となるため、機上現像性を良好に保つこともできる。
【0043】
上記の重合性化合物をマイクロカプセル化、あるいはミクロゲルする方法としては、公知の方法が適用できる。ここで、マイクロカプセルとは重合性化合物を芯に含むコアシェル型の粒子を指し、ミクロゲルとは明確な相分離構造は観察されないものを指す。
例えばマイクロカプセルの製造方法としては、米国特許第2800457号、同第2800458号明細書にみられるコアセルベーションを利用した方法、米国特許第3287154号の各明細書、特公昭38−19574号、同42−446号の各公報にみられる界面重合法による方法、米国特許第3418250号、同第3660304号明細書にみられるポリマーの析出による方法、米国特許第3796669号明細書に見られるイソシアナートポリオール壁材料を用いる方法、米国特許第3914511号明細書に見られるイソシアナート壁材料を用いる方法、米国特許第4001140号、同第4087376号、同第4089802号の各明細書にみられる尿素―ホルムアルデヒド系又は尿素ホルムアルデヒド−レゾルシノール系壁形成材料を用いる方法、米国特許第4025445号明細書にみられるメラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシセルロース等の壁材を用いる方法、特公昭36−9163号、同51−9079号の各公報にみられるモノマー重合によるin situ法、英国特許第930422号、米国特許第3111407号明細書にみられるスプレードライング法、英国特許第952807号、同第967074号の各明細書にみられる電解分散冷却法などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本発明に用いられる好ましいマイクロカプセル壁は、3次元架橋を有し、溶剤によって膨潤する性質を有するものである。このような観点から、マイクロカプセルの壁材は、ポリウレア、ボリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、及びこれらの混合物が好ましく、特に、ポリウレア及びポリウレタンが好ましい。マイクロカプセル壁に熱反応性基を有する化合物を導入してもよい。
【0045】
上記のマイクロカプセルの平均粒径1は0.01〜3.0μmが好ましいが、0.05〜2.0μmがさらに好ましく、0.10〜1.0μmが特に好ましい。この範囲内で良好な解像度と経時安定性が得られる。
【0046】
このようなマイクロカプセルは、カプセル同士が熱により合体してもよいし、合体しなくともよい。要は、マイクロカプセル内包物のうち、塗布時にカプセル表面もしくはマイクロカプセル外に滲み出したもの、又は、マイクロカプセル壁に浸入したものが、熱により化学反応を起こせばよい。添加された親水性樹脂又は添加された低分子の化合物と反応してもよい。また2種類以上のマイクロカプセルに、それぞれ異なる官能基で互いに熱反応するような官能基をもたせることによって、マイクロカプセル同士を反応させてもよい。従って、熱によってマイクロカプセル同士が、熱で溶融合体することは画像形成上好ましいことであるが、必須ではない。
【0047】
上記マイクロカプセル又はミクロゲルの画像形成層への添加量は、いずれの微粒子の場合も、固形分換算で、画像形成層固形分の50質量%以上が好ましく、70〜98質量%がより好ましい。この範囲内で、良好な画像形成ができ、良好な耐刷性が得られる。
【0048】
本発明の画像形成層にマイクロカプセルを含有させる場合には、内包物が溶解し、かつ壁材が膨潤する溶剤をマイクロカプセル分散媒中に添加することができる。このような溶剤によって、内包された熱反応性基を有する化合物の、マイクロカプセル外への拡散が促進される。このような溶剤としては、マイクロカプセル分散媒、マイクロカプセル壁の材質、壁厚及び内包物に依存するが、多くの市販されている溶剤から容易に選択することができる。例えば架橋ポリウレア、ポリウレタン壁からなる水分散性マイクロカプセルの場合、アルコール類、エーテル類、アセタール類、エステル類、ケトン類、多価アルコール類、アミド類、アミン類、脂肪酸類などが好ましい。
【0049】
具体的化合物として,メタノール、エタノール、第3ブタノール、n−プロパノール、テトラヒドロフラン、乳酸メチル、乳酸エチル、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、γ−ブチルラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどがめるが、これらに限られない。またこれらの溶剤を2種以上用いてもよい。マイクロカプセル分散液には溶解しないが、前記溶剤を混合すれば溶解する溶剤も用いることができる。
【0050】
このような溶剤の添加量は、素材の組み合わせにより決まるものであるが、通常、塗布液の5〜95質量%が有効であり、好ましい範囲は、10〜90質量%、より好ましい範囲は15〜85質量%である。
【0051】
<赤外線吸収剤>
赤外線吸収剤とは、最大吸収波長が近赤外線から赤外線領域にある物質、具体的には最大吸収波長が760nm〜1200nmの領域にある物質である。このような物質としては、例えば、種々の顔料又は染料が挙げられる。
【0052】
本発明で使用される顔料としては、市販の顔料、及び、カラーインデックス便覧「最新顔料便覧日本顔料技術協会編、1977年刊」、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)等に記載されている顔料が利用できる。顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、その他ポリマー結合色素等が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染め付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。
【0053】
これらの中でも、特に、近赤外線から赤外線領域の光を効率よく吸収し、しかも経済的に優れた物質として、カーボンブラックが好ましく用いられる。また、このようなカーボンブラックとしては、種々の官能基を有する分散性のよいグラフト化カーボンブラックが市販されており、例えば、「カーボンブラック便覧第3版」(カーボンブラック協会編、1995年)の167ページ、「カーボンブラックの特性と最適配合及び利用技術」(技術情報協会、1997年)の111ページ等に記載されているものが挙げられ、いずれも本発明に好適に使用される。
【0054】
これらの顔料は表面処理をせずに用いてもよく、また公知の表面処理を施して用いてもよい。公知の表面処理方法としては、樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、シランカップリング剤やエポキシ化合物、ポリイソシアネート等の反応性物質を顔料表面に結合させる方法などが挙げられる。これらの表面処理方法については、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)に記載されている。
本発明で使用される顔料の粒径は、0.01〜15マイクロメートルの範囲にあることが好ましく、0.01〜5マイクロメートルの範囲にあることがさらに好ましい。
【0055】
本発明で使用される染料としては、公知慣用のものが使用でき、例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編、昭和45年刊)、「色材工学ハンドブック」(色材協会編、朝倉書店、1989年刊)、「工業用色素の技術と市場」(シーエムシー、1983年刊)、「化学便覧応用化学編」(日本化学会編、丸善書店、1986年刊)に記載されているものが挙げられる。より具体的には、アゾ染料、金属鎖塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、インジゴ染料、キノリン染料、ニトロ系染料、キサンテン系染料、チアジン系染料、アジン染料、オキサジン染料等の染料が挙げられる。
また、近赤外線又は赤外線を効率よく吸収する染料としては、例えば、シアニン染料、メチン染料、ナフトキノン染料、スクワリリウム色素、アリールベンゾ(チオ)ピリジニウム塩、トリメチンチアピリリウム塩、ピリリウム系化合物、ペンタメチンチオピリリウム塩、赤外吸収染料等が挙げられる。
【0056】
これらの中でも、赤外線吸収剤としては、後述する光重合開始剤に効率よく重合機能を発揮させることから、下記式で表される近赤外線吸収性陽イオン染料が好ましい。
【0057】
【化5】

【0058】
(式中、D は近赤外線領域に吸収を持つ陽イオン色素を示し、Aはアニオンを示す。)
【0059】
近赤外線領域に吸収を持つ陽イオン色素としては、近赤外線領域に吸収を持つシアニン系色素、トリアリールメタン系色素、アミニウム系色素、ジインモニウム系色素等が挙げられる。近赤外線領域に吸収を持つ陽イオン色素の具体例としては、以下に示すものが挙げられる。
【0060】
【化6】

【0061】
【化7】

【0062】
アニオンとしては、ハロゲン陰イオン、ClO、PF、BF、SbF、CHSO、CFSO 、CSO、CHSO、HOCSO、ClCSO、及び下記式(3)で表されるホウ素陰イオンなどが挙げられる。ホウ素陰イオンとしては、トリフェニルn−ブチルホウ素陰イオン、トリナフチルn−ブチルホウ素陰イオンが好ましい。
【0063】
【化8】

【0064】
(式中、R9 ,R10 ,R11 及びR12は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルカリール基、アリル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂環式基、又は飽和もしくは不飽和複素環式基を示し、R9,R10 ,R11 及びR12のうち少なくとも1つは炭素数1〜8個のアルキル基である。)
【0065】
なかでも、近赤外線領域に吸収を持つ陽イオン色素としては、下記式(4)で示されるものが好ましい。これら色素は、最大吸収波長が817〜822nmにあるので、得られる平版印刷版原版は、既存の近赤外線半導体レーザーを搭載した露光機に好適であり、また、モル吸光係数が1×10 以上であるので、得られる平版印刷版原版の感度が良好となる。
【0066】
【化9】

【0067】
(式中、Xは、N(C又はN(CHであり、Yは、N(C、H、又はOCH であり、Z は下記式で表されるアニオンのいずれかである。)
【0068】
【化10】

【0069】
赤外線吸収剤は、上記の顔料又は染料の中から、後述する光源の特定波長を吸収しうる適当な顔料又は染料を少なくとも1種を選び、画像形成層に添加することにより使用される。
【0070】
赤外線吸収剤として顔料を使用する場合、顔料の含有量は、画像形成層の全固形分に対して、0.5〜15質量%の範囲が好ましく、1〜10質量%の範囲が特に好ましい。顔料の含有量が0.5質量%未満では、赤外線の吸収が不十分であり、顔料の含有量が15質量%を超えると、発生する熱量が多すぎる傾向にあるので好ましくない。
赤外線吸収剤として染料を使用する場合、染料の含有量は、画像形成層の全固形分に対して、0.5〜15質量%の範囲が好ましく、1〜10質量%の範囲が特に好ましい。染料の含有量が0.5質量%未満では、赤外線の吸収が不十分であり、染料の含有量が15質量%を超えると、赤外線の吸収が実質的に飽和に達して添加の効果が上がらない傾向にあるので好ましくない。
【0071】
<光重合開始剤>
光重合開始剤としては、使用する光源の波長により、特許文献、非特許文献等で公知である種々の光重合開始剤、あるいは2種以上の光重合開始剤の併用系(光重合開始系)を適宜選択して使用することができる。なお、本発明においては単独で用いる光重合開始剤、2種以上の光重合開始剤を併用した系を総括して単に「光重合開始剤」という。
【0072】
光重合開始剤としては、有機ホウ素化合物、オニウム塩、トリアジン系化合物が好適である。これらの光重合開始剤は単独でもまたそれぞれ2種以上組み合わせて用いてもよい。
有機ホウ素化合物は、前述の赤外線吸収剤と併用することで重合開始剤としての機能を発現する。有機ホウ素化合物としては、下記式(5)で表される4級ホウ素アニオンのアンモニウム塩が好適である。
【0073】
【化11】

【0074】
(式中、R9 ,R10 ,R11 及びR12は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルカリール基、アリル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂環式基、又は飽和もしくは不飽和複素環式基を示し、R9,R10 ,R11 及びR12のうち少なくとも1つは炭素数1〜8個のアルキル基である。また、R13,R14 ,R15 及びR16は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アリル基、アルカリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂環式基、又は飽和もしくは不飽和複素環式基を示す。)
【0075】
これらの中でも、効率よく重合機能を発揮できることから、テトラn−ブチルアンモニウムトリフェニルホウ素、テトラn−ブチルアンモニウムトリナフチルホウ素、テトラn−ブチルアンモニウムトリ(p−t−ブチルフェニル)ホウ素、テトラメチルアンモニウムn−ブチルトリフェニルホウ素、テトラメチルアンモニウムn−ブチルトリナフチルホウ素、テトラメチルアンモニウムn−オクチルトリフェニルホウ素、テトラメチルアンモニウムn−オクチルトリナフチルホウ素、テトラエチルアンモニウムn−ブチルトリフェニルホウ素、テトラエチルアンモニウムn−ブチルトリナフチルホウ素、トリメチルハイドロゲンアンモニウムn−ブチルトリフェニルホウ素、トリエチルハイドロゲンアンモニウムn−ブチルトリフェニルホウ素、テトラハイドロゲンアンモニウムn−ブチルトリフェニルホウ素、テトラメチルアンモニウムテトラn−ブチルホウ素、テトラエチルアンモニウムテトラn−ブチルホウ素などが好ましく用いられる。
【0076】
上記の有機ホウ素化合物は、前述の赤外線吸収剤(例えば、D)と併用することで、赤外線の照射によって下記式(6)に示すようにラジカル(R・)を発生させ、重合開始剤としての機能を発現することができる(式中、Phはフェニル基、Rは炭素数1〜8個のアルキル基、Xはアンモニウムイオンを示す)。
【0077】
【化12】

【0078】
有機ホウ素化合物の含有量は、画像形成層の固形分に対して、0.1〜15質量%の範囲が好ましく、0.5〜7質量%の範囲が特に好ましい。有機ホウ素化合物の含有量が0.1質量%未満では、重合反応が不十分となり、硬化が不足して、得られるネガ型平版印刷版原版の画像部が弱くなり、有機ホウ素化合物の含有量が15質量%を超えると、重合反応が効率的に起こらない。また必要に応じて、2種以上の(B)有機ホウ素化合物を併用してもよい。
【0079】
オニウム塩は、分子中に1個以上のオニウムイオン原子を有するカチオンと、アニオンとからなる塩である。オニウム塩におけるオニウムイオン原子としては、スルホニウムにおけるS、ヨードニウムのI 、アンモニウムにおけるN 、ホスホニウムにおけるP 原子などが挙げられる。なかでも、好ましいオニウムイオン原子としては、S、I が挙げられる。オニウム塩の構造としては、トリフェニルスルホニウム、及びその化合物のベンゼン環にアルキル基、アリール基等を導入した誘導体、及びその化合物のベンゼン環にアルキル基、アリール基等を導入した誘導体が挙げられる。
【0080】
オニウム塩のアニオンとしては、ハロゲン陰イオン、ClO、PF、BF、SbF、CHSO、CFSO 、CSO、CHSO、HOCSO、ClCSO、上記式(3)で表されるホウ素陰イオンなどが挙げられる。
オニウム塩としては、感度、保存安定性の点から、分子中にSを有するオニウム塩と、分子中にI を有するオニウム塩とを組み合わせたものも好ましい。また、オニウム塩としては、感度、保存安定性の点から、1分子中に2個以上のオニウムイオン原子を有する多価オニウム塩も好ましい。ここで、カチオン中の2個以上のオニウムイオン原子は、共有結合により連結されている。多価オニウム塩の中でも、1分子中に2種以上のオニウムイオン原子を有するものが好ましく、1分子中にS及びI を有するものもより好ましい。特に、多価オニウム塩としては、下記式(7)、(8)で示されるものが好ましい。
【0081】
【化13】

【0082】
オニウム塩の含有量は、画像形成層の固形分に対して、0.1〜15質量%の範囲が好ましく、0.5〜7質量%の範囲が特に好ましい。オニウム塩の含有量が0.1質量%未満では、重合反応が不十分となり、得られるネガ型平版印刷版原版の感度、耐刷性が不十分となるおそれがあり、オニウム塩の含有量が15質量%を超えると、得られるネガ型平版印刷版原版の現像性が悪くなる。
また必要に応じて、2種以上のオニウム塩を併用してもよい。また、多価オニウム塩と、一価のオニウム塩とを併用してもよい。
【0083】
トリアジン系化合物は、ラジカル重合に用いられる公知の重合開始剤であり、例えば、ビス(トリハロメチル)−s−トリアジン等を好適に光重合開始剤として使用することができる。トリアジン系化合物の配合量は、通常わずかなものである。また、不適当に多い場合には有効光線の遮断や塗工後に画像形成層内で結晶化して再析出を起こす等の好ましくない結果を生じる。トリアジン系化合物の含有量は、画像形成層の固形分に対して0.1〜15質量%の範囲で使用するのが好ましい。特に0.5〜7質量%で良好な結果を得る。
【0084】
また、光重合開始剤には3−メルカプトトリアゾール等のメルカプト化合物、アミン化合物等の任意の促進剤を加えてもよい。
【0085】
<露光により疎水性に変化する官能基を有するバインダー樹脂>
本発明に用いられる露光により疎水性に変化する官能基を有するバインダー樹脂(以下では、極性変換基を有するポリマーとも呼ぶ。)は、露光領域をより低い親水性(すなわちより疎水性になる)に「切り換える」(好ましくは不可逆的に)ことにより、画像形成層の親水性を画像様に変化させ、画像部の湿し水浸透性をより低下させるものである。これは、繰返し存在するイオン性基がポリマー主鎖中に存在するか又はポリマー主鎖に化学結合した親水性感熱性ポリマーを使用することにより達成される。
【0086】
このような素材は、未露光部は湿し水受容性の非画像部、露光部はインキ受容性の画像部として機能する素材として用いられてきたが、単独では画像部と非画像部のディスクリミネーションが不足して充分な印刷性能が得られていなかった。本発明の態様では、非画像部における画像形成層の湿し水浸透性付与による機上現像性向上という新たな機能を発現することがわかり、さらに極性変換により画像部の湿し水浸透性をより抑制し耐刷性を向上することが可能となった。
そのようなポリマー及び基を以下でより詳しく説明する。
【0087】
極性変換基を有するポリマーは少なくとも20モル%がイオン性基を含む繰返し単位を含んでなる。好ましくは、繰返し存在する基の少なくとも30モル%はイオン性基を含む。従って、これらのポリマーの各々は、これらのイオン性基により与えられる全電荷を有する。好ましくは、イオン性基は陽イオン性基である。
【0088】
本発明を実施する際に有用な電荷を有するポリマーは、以下の2つの広い材料群のうちのいずれかに含まれる:
(第I部類)正電荷を帯びたペンダントN−アルキル化芳香族複素環式基を含む繰返し単位を含んでなる未架橋又は架橋ビニルポリマー。
(第II部類)繰返し存在するオルガノオニウム基を含んでなる未架橋又は架橋ポリマー。
【0089】
各群のポリマーを順番に説明する。画像形成層は、各群に属するポリマーの混合物又は両方の部類に属する1種以上のポリマーの混合物を含むことができる。第II部類のポリマーがより好ましい。
【0090】
第I部類のポリマー:第I部類のポリマーは概して少なくとも1000の分子量を有するものであって、必要な正電荷を帯びた基を有する種々の親水性ビニルホモポリマー及びコポリマーのうちの任意のものであることができる。それらは、任意の慣用的な重合技術を使用してエチレン系不飽和重合性モノマーから調製される。このポリマーは、2種以上のエチレン系不飽和重合性モノマーから調製されたコポリマーであることが好ましい。これらの2種以上のエチレン系不飽和重合性モノマーのうち、少なくとも1種は望ましい正電荷を帯びたペンダント基を含み、他のモノマーは機上現像性や支持体への接着性等の他の特性を与えることのできるものである。これらのポリマーを調製するのに必要な手順及び反応物は周知である。
【0091】
陽イオン性基の存在は、明らかに、ある手法で光に暴露された領域で、陽イオン性基がその対イオンと反応した場合に、画像形成層の親水性から疎水性への切り換えを提供又は促進する。正味で電荷は減少する。そのような反応は、陰イオンが求核性及び/又は塩基性のより高いものである場合により容易に達成される。例えば、酢酸陰イオンは通常、塩化物陰イオンよりも反応性が高い。陰イオンの化学的性質を変化させることによって、所定の条件群(例えば、レーザーハードウェア及び出力並びに印刷機の条件)に対し、十分な周囲貯蔵寿命と釣り合った最適な画像解像度が提供されるように感熱性ポリマーの反応性を調整することができる。有用な陰イオンとしては、ハロゲン化物イオン、カルボキシレート、スルファート、ボレート及びスルホナートが挙げられる。代表的な陰イオンとしては、限定するわけではないが、当業者に明らかな塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、アセタート、テトラフルオロボラート、ホルマート、スルファート、p−トルエンスルホナート等が挙げられる。ハロゲン化物イオン及びカルボキシラートが好ましい。
【0092】
上記の熱活性化反応が起きて画像形成された印刷層に望ましい疎水性を付与できるようにポリマーの十分な数の繰返し単位中に芳香族陽イオン性基が存在する。この基は、ポリマーの主な主鎖に沿って結合していても又はポリマー網目構造の1つ以上の枝分かれ鎖に結合していてもよい。芳香族基は概して5〜10個の炭素、窒素、硫黄又は酸素原子を環内に含み(少なくとも1つは正電荷を帯びた窒素原子である)、これらの原子に枝分かれのある又は枝分かれのない置換又は未置換アルキル基が結合している。従って、芳香族複素環式基を含有する繰返し単位を、下記構造式Iによって表すことができる。
【0093】
【化14】

【0094】
この構造式において、R 1 は炭素原子数1〜12の枝分かれのある又は枝分かれのない置換又は未置換アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、ヘキシル、メトキシメチル、ベンジル、ネオペンチル及びドデシル)である。好ましくはR 1 は炭素原子数1〜6の置換又は未置換の枝分かれのある又は枝分かれのないアルキル基であり、最も好ましくはR 1 は置換又は未置換メチル基である。
【0095】
2 は置換もしくは未置換アルキル基(上記のようなもの、さらにシアノアルキル基、ヒドロキシアルキル基又はアルコキシアルキル基)、炭素原子数1〜6の置換もしくは未置換アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、オキシメチルメトキシ、n−プロポキシ及びブトキシ)、環内に6〜14個の炭素原子を有する置換もしくは未置換アリール基(例えば、フェニル、ナフチル、アントリル、p−メトキシフェニル、キシリル及びアルコキシカルボニルフェニル)、ハロ(例えばクロロ及びブロモ)、環内に5〜8個の炭素原子を有する置換もしくは未置換シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル及び4−メチルシクロヘキシル)、又は環内に5〜8個の炭素原子を有するとともに環内に少なくとも1個の窒素、硫黄もしくは酸素原子を含む置換もしくは未置換複素環式基(例えば、ピリジル、ピリジニル、テトラヒドロフラニル及びテトラヒドロピラニル)であることができる。好ましくはR 2 は置換又は未置換のメチル又はエチル基である。
【0096】
Z”は炭素であるか又はポリマー主鎖に結合した5員〜10員芳香族N−複素環式環を完成するのに必要な任意の追加の窒素、酸素又は硫黄原子を表す。すなわち、環は、環内に2個以上の窒素原子を含むこと(例えばN−アルキル化ジアジニウム又はイミダゾリウム基であること)ができ、N−アルキル化窒素含有縮合環系としては、限定するわけではないが、ピリジニウム、キノリニウム、イソキノリニウム、アクリジニウム、フェナントラジニウム、及び当業者に明らかな他のものが挙げられる。
- は上記のような適切な陰イオンである。最も好ましくはW - はアセテート又は塩化物イオンである。また、構造Iにおいて、nは0〜6として定義され、好ましくは0又は1である。最も好ましくはn=0である。
【0097】
芳香族複素環式環がポリマー主鎖に環上の任意の位置で結合していてもよい。好ましくは、環内に5又は6個の原子が存在し、それらのうちの1個又は2個は窒素である。すなわち、N−アルキル化窒素含有芳香族環基は好ましくはイミダゾリウム又はピリジニウムであり、もっと好ましくはイミダゾリウムである。
【0098】
陽イオン性芳香族複素環を含有する繰返し単位は、周知の手法及び条件を使用して未だアルキル化されていない窒素含有複素環状単位を含む前駆体ポリマーと適切なアルキル化剤(例えば、アルキルスルホン酸エステル、ハロゲン化アルキル、及び当業者に明らかな他のもの)とを反応させることにより提供できる。
好ましい第I部類のポリマーは、下記構造式IIにより表すことができる。
【0099】
【化15】

【0100】
[式中、XはN−アルキル化窒素含有芳香族複素環式基(HET + により表す)が結合している繰返し単位を表し、Yは種々の架橋機構(以下で説明する)のうちのいずれかを使用して架橋のための活性部位を提供することのできるエチレン系不飽和重合性モノマーから誘導された繰返し単位を表し、Zは任意のさらなるエチレン系不飽和重合性モノマーから誘導された繰返し単位を表す。]
【0101】
20〜100モル%であるx、0〜20モル%であるy及び0〜80モル%であるzにより表されるように、種々の繰返し単位が適切な量で存在する。好ましくはx=30〜98モル%であり、yは2〜10モル%であり、そしてzは0〜68モル%である。
【0102】
種々の方法でポリマーの架橋を提供することができる。当業者に知られている架橋のためのモノマー及び方法が多く存在する。架橋可能な基又は活性な架橋可能な部位(又は架橋用添加剤の結合点として作用することのできる基、例えばエポキシド類)を有するモノマーを上記の他のモノマーにより架橋させることができる。そのようなモノマーとしては、限定するわけではないが、3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート又はメタクリレート、シンナミルアクリレート又はメタクリレート、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−アミノプロピルアクリルアミド塩酸塩、アクリル酸又はメタクリル酸、及びヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられる。
【0103】
上記構造式IIの中で「Z」により表される繰り返し単位を提供するさらなるモノマーとしては、親水性画像形成層に望ましい物理的特性又は印刷適性を付与することのできる任意の有用な親水性又は親油性エチレン系不飽和重合性モノマーが挙げられる。そのようなモノマーとしては、限定するわけではないが、アクリレート、メタクリレート、イソプレン、アクリロニトリル、スチレン及びスチレン誘導体、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸又はメタクリル酸並びにハロゲン化ビニルが挙げられる。
【0104】
第II部類のポリマー 第II部類のポリマーも概して少なくとも1000の分子量を有する。第II部類のポリマーは、種々のビニル又は非ビニルホモポリマー及びコポリマーのうちのいずれであってもよい。第II部類に属する非ビニルポリマーとしては、限定するわけではないが、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミド−エステル、ポリアリレンオキシド及びそれらの誘導体、ポリウレタン、ポリキシリレン及びそれらの誘導体、ポリアミドアミン、ポリイミド、ポリスルホン、ポリシロキサン、ポリエーテル、ポリ(エーテルケトン)、ポリ(フェニレンスルフィド)アイオノマー、ポリスルフィド及びポリベンズイミダゾールが挙げられる。好ましくは、そのような非ビニルポリマーは、ポリアリレンオキシド、ポリ(フェニレンスルフィド)アイオノマー又はポリキシリレンであり、最も好ましくはポリ(フェニレンスルフィド)アイオノマーである。これらの種類のポリマー全てを調製するのに必要な手法及び反応物は周知である。本明細書に提供するさらなる教示によって、当業者は、周知のポリマー反応物及び条件を変更して適切な陽イオン性オルガノオニウム部分を導入又は結合させることができる。
【0105】
ポリマーに化学的に含められたオルガノオニウム部分の存在は、一応外見上、熱を提供又は発生するエネルギーへの暴露によって暴露された領域で、陽イオン性部分が対イオンと反応した場合に、画像形成層の親水性から親油性への切り換えを提供又は促進する。正味で電荷は減少する。そのような反応は、第I部類のポリマーについて既に述べたように、オルガノオニウム部分の陰イオンの求核性及び/又は塩基性がより高いほどより容易に達成される。
【0106】
ポリマー中のオルガノオニウム部分は、三置換硫黄部分(オルガノスルホニウム)、四置換窒素部分(オルガノアンモニウム)又は四置換リン部分(オルガノホスホニウム)から選択できる。四置換窒素(オルガノアンモニウム)部分が好ましい。この部分は、適切な対イオンとともに、ポリマー主鎖に化学的に結合していても、ある態様で主鎖中に組み込まれていてもよい。いずれの態様においても、オルガノオニウム部分は、上記の熱活性化反応が起きて画像形成層に望ましい疎水性を提供するようにポリマーの十分な数の繰返し単位(少なくとも20モル%)中に存在する。ペンダント基として化学的に結合した場合に、オルガノオニウム部分は、ポリマーの主な主鎖に沿って結合していても、ポリマー網目構造の1つ以上の枝分かれ鎖に結合していてもそれらの両方に結合していてもよい。オルガノオニウム部分がポリマー主鎖に化学的に組み込まれた場合に、オルガノオニウム部分は環状又は非環状形で存在することができ、また、ポリマー網目構造中に分岐点を形成していてもよい。オルガノオニウム部分がポリマー主鎖に沿ってペンダント基として提供されることが好ましい。ポリマー形成後にペンダントオルガノオニウム部分をポリマー主鎖に結合させても、周知の化学反応を使用してポリマー上の官能基をオルガノオニウム部分に転化させてもよい。例えば、ペンダント第4級アンモニウム基を、第3級アミン求核試薬による「脱離基」官能基(例えばハロゲン)の置換によって、ポリマー主鎖上に提供できる。代わりに、オルガノオニウム基をモノマー上に存在させ、その次にそのモノマーを重合させるか、又はポリマー中に既に組み込まれた中性のヘテロ原子単位(3価窒素又はリン基又は2価硫黄基)のアルキル化によりオルガノオニウム基を誘導することができる。
【0107】
オルガノオニウム部分は置換されて、正電荷が提供される。各置換基は、オルガノオニウム部分の硫黄、窒素又はリン原子に直接結合した少なくとも1個の炭素原子を必ず有する。有用な置換基としては、限定するわけではないが、炭素原子数1〜12、好ましくは炭素原子数1〜7の置換又は未置換アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、ヘキシル、メトキシエチル、イソプロポキシメチル)、置換もしくは未置換アリール基(例えば、フェニル、ナフチル、p−メチルフェニル、m−メトキシフェニル、p−クロロフェニル、p−メチルチオフェニル、p−N,N−ジメチルアミノフェニル、キシリル、メトキシカルボニルフェニル及びシアノフェニル)、及び炭素環式環内に5〜8個の炭素原子を有する置換又は未置換シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル及び3−メチルシクロヘキシル)が挙げられる。他の有用な置換基は当業者に明らかであろうし、ここに特に記載した置換基の任意の組み合わせも考慮する。
【0108】
さらに、本発明を実施する際にビニル類の第II部類のポリマーを使用することができる。非ビニルポリマーと同様に、そのような感熱性ポリマーは、1種以上のオルガノオニウム基を有する繰返し単位を含む。例えば、そのようなポリマーは、オルガノアンモニウム基及びオルガノスルホニウム基の両方を有する繰返し単位を有することができる。また、オルガノオニウム基の全てが同じアルキル置換基を有することは必要ではない。例えば、ポリマーは、2種以上のオルガノアンモニウム基を有する繰返し単位を有することができる。これらのポリマー中の有用な陰イオンは、非ビニルポリマーについて既に述べたものと同じものである。さらに、ハロゲン化物イオン及びカルボキシラートが好ましい。
【0109】
上記の熱活性化反応が起きて画像形成された印刷層に望ましい疎水性を付与できるようにポリマーの十分な数の繰返し単位中にオルガノオニウム基が存在する。この基は、ポリマーの主な主鎖に沿って結合していても、ポリマー網目構造の1つ以上の枝分かれ鎖に結合していても、それらの両方に結合していてもよい。ペンダント基を、ポリマー形成後、周知の化学反応を使用してポリマー主鎖に化学的に結合させることができる。例えば、ポリマー主鎖上のペンダント脱離基(例えば、ハライド又はスルホネートエステル)を3価アミン、4価硫黄又は3価リン求核試薬で求核置換することによりポリマー主鎖にペンダントオルガノアンモニウム、オルガノホスホニウム又はオルガノスルホニウム基を提供できる。また、アルキルスルホネートエステル又はハロゲン化アルキル等の任意の通常使用されているアルキル化剤を使用する対応するペンダント中性ヘテロ原子基(窒素、硫黄又はリン)のアルキル化によってペンダントオニウム基を提供することができる。代わりに、望ましいオルガノアンモニウム、オルガノホスホニウム又はオルガノスルホニウム基を含有するモノマー前駆体を重合させて望ましいポリマーを得ることができる。
【0110】
ビニルポリマー中のオルガノアンモニウム、オルガノホスホニウム又はオルガノスルホニウム基は望ましい正電荷を提供する。一般的に、好ましいペンダントオルガノオニウム基は、下記構造式III、IV及びVにより例示できる。
【0111】
【化16】

【0112】
上記式中、Rは、1〜12個の炭素原子を有し、さらに鎖に1個以上のオキシ、チオ、カルボニル、アミドもしくはアルコキシカルボニル基を含んでいてもよい置換もしくは未置換アルキレン基(例えば、メチレン、エチレン、イソプロピレン、メチレンフェニレン、メチレンオキシメチレン、n−ブチレン及びヘキシレン)、環内に6〜10個の炭素原子を有する置換もしくは未置換アリレン基(例えば、フェニレン、ナフチレン、キシリレン及び3−メトキシフェニレン)、又は環内に5〜10個の炭素原子を有する置換もしくは未置換シクロアルキレン基(例えば、1,4−シクロヘキシレン及び3−メチル−1,4−シクロヘキシレン)である。さらに、Rは上記置換又は未置換アルキレン、アリレン及びシクロアルキレン基の2つ以上の組み合わせであることができる。好ましくは、Rは置換又は未置換エチレンオキシアルボニル又はフェニレンメチレン基である。ここに挙げなかった他の有用な置換基には、当業者であれば容易に理解できるように、上記基の任意の組み合わせも包含される。
【0113】
3 、R 4 及びR 5 は独立に、炭素原子数1〜12の置換又は未置換アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、ヘキシル、ヒドロキシメチル、メトキシメチル、ベンジル、メチレンカルボアルコキシ及びシアノアルキル)、炭素環式環内に6〜10個の炭素原子を有する置換又は未置換アリール基(例えば、フェニル、ナフチル、キシリル、p−メトキシフェニル、p−メチルフェニル、m−メトキシフェニル、p−クロロフェニル、p−メチルチオフェニル、p−N,N−ジメチルアミノフェニル、メトキシカルボニルフェニル及びシアノフェニル)、又は炭素環式環内に5〜10個の炭素原子を有する置換又は未置換シクロアルキル基(例えば1,3−又は1,4−シクロヘキシル)である。代わりに、R 3 、R 4 及びR 5 のうちのいずれか2つが組合わさって、電荷を帯びたリン、硫黄又は窒素原子を有するとともに環内に4〜8個の炭素、窒素、リン、硫黄又は酸素原子を有する置換又は未置換複素環式環を形成していてもよい。そのような複素環式環としては、限定するわけではないが、構造Vに対し、置換又は未置換モルホリニウム、ピペリジニウム及びピロリジニウム基が挙げられる。これらの種々の基に対し、他の有用な置換基は当業者に明らかであろうし、本明細書に特に記載した置換基の任意の組み合わせも考慮される。
【0114】
好ましくは、R 3 、R 4 及びR 5 は独立に、置換又は未置換メチル又はエチル基である。W - は、第1部類のポリマーに関して既に記載した通りの任意の適切な陰イオンである。アセテート及び塩化物イオンが好ましい陰イオンである。本明細書に記載した第4級アンモニウム基を含むポリマーが最も好ましいビニル種の第II部類のポリマーである。好ましい態様において、本発明を実施する際に有用なビニル種の第II部類のポリマーは下記構造式VIにより表される。
【0115】
【化17】

【0116】
上記式中、X’はオルガノオニウム基(「ORG」)が結合した繰返し単位を表し、Y’は種々の架橋機構(以下で説明する)のうちのいずれかを使用して架橋のための活性部位を提供することのできるエチレン系不飽和重合性モノマーから誘導された繰返し単位を表し、Z’は任意のさらなるエチレン系不飽和重合性モノマーから誘導された繰返し単位を表す]により表すことができる。20〜99モル%であるx’、1〜20モル%であるy’及び0〜79モル%であるz’により表されるように、種々の繰返し単位が適切な量で存在する。好ましくはx’=30〜98モル%であり、y’=2〜10モル%であり、そしてz’=0〜68モル%である。ビニルポリマーの架橋は、第1部類のポリマーについて先に記載したものと同じように達成できる。
【0117】
構造VIにおいてZ’により表されるさらなる繰返し単位を提供するさらなるモノマーとしては、画像形成層に望ましい物理的特性及び印刷適性を付与することのできる任意の有用な親水性又は親油性のエチレン系不飽和重合性モノマーが挙げられる。そのようなモノマーとしては、限定するわけではないが、アクリレート、メタクリレート、アクリロニトリル、イソプレン、スチレン及びスチレン誘導体、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸又はメタクリル酸並びにハロゲン化ビニルが挙げられる。
【0118】
第II部類の代表的なビニルポリマーとしては、ポリ[メチルメタクリレート−co−2−トリメチルアンモニウムエチルメタクリル酸クロリド−co−N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩](モル比7:2:1)、ポリ[メチルメタクリレート−co−2−トリメチルアンモニウムエチルメタクリル酸アセタート−co−N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド](モル比7:2:1)、ポリ[メチルメタクリレート−co−2−トリメチルアンモニウムエチルメタクリル酸フルオリド−co−N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩](モル比7:2:1)、ポリ[ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド−co−N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩](モル比19:1)、ポリ[ビニルベンジルトリメチルホスホニウムアセタート−co−N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩](モル比19:1)、ビニルベンジルブロミド(p−異性体とm−異性体の60:40混合物)、ポリ[ジメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホニウムクロリド−co−N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩](モル比19:1)、ポリ[ビニルベンジルジメチルスルホニウムメチルスルファート]、ポリ[ビニルベンジルジメチルスルホニウムクロリド]、ポリ(N,N,N,N−p−ビニルベンジル(2−トリメチルアンモニウムメチル)ジメチルアンモニウムジクロリド−co−アミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩)(モル比9:1)、ポリ(ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド−co−メタクリル酸)(モル比94:6)が挙げられ、なかでも極性変換効率の観点でポリ[ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド−co−N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩](モル比19:1)が最も好ましい。また、これら2種以上の混合物を使用することもできる。
【0119】
本発明の画像形成層は、1種以上の第I部類又は第II部類のポリマーを含み、その上さらに、画像形成特性に悪影響を及ぼすことのない少量(画像形成層固形分の20質量%未満)のさらなるバインダー又はポリマー物質を含んでも含んでいなくてもよい。
【0120】
極性変換基を有するポリマーの画像形成層への添加量は、画像形成層の全固形分に対して、1〜90質量%であり、1〜50質量%であるのが好ましく、5〜30質量%であるのがより好ましい。
【0121】
<その他のバインダー樹脂>
本発明の画像形成層は、上記の極性変換基を有するポリマーのほかに、画像形成層の皮膜性や現像性の向上など、必要に応じ画像形成特性に悪影響を及ぼすことのない範囲(画像形成層固形分の20質量%未満)で、その他のバインダー樹脂を含むことが出来る。
画像形成層の皮膜性を向上させるようなバインダー樹脂の例としては、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴムが挙げられる。
この中でもポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ヘキサメチレンジイソシアナートとキシリレンジイソシアナートとプロピレングリコールの重縮合体などのポリウレタン樹脂などが好ましく用いられる。
【0122】
これら高分子重合体は、側鎖にラジカル反応性基を導入することによりバインダー樹脂からなる皮膜の強度を向上させることができる。付加重合反応し得る官能基としては、エチレン性不飽和結合基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられ、また光照射によりラジカルになり得る官能基としては、メルカプト基、チオール基、ハロゲン原子、トリアジン構造、オニウム塩構造等が、又極性基としてカルボキシル基、イミド基等が挙げられる。上記付加重合反応し得る官能基としては、アクリル基、メタクリル基、アリル基、スチリル基等のエチレン性不飽和結合基が特に好ましいが、アミノ基、ヒドロキシ基、ホスホン酸基、燐酸基、カルバモイル基、イソシアネート基、ウレイド基、ウレイレン基、スルホン酸基、アンモニオ基から選ばれる官能基も使用し得る。
【0123】
画像形成後に現像処理を行なうことなく、そのまま印刷機に装着し、シリンダーを回転しながら湿し水とインキを供給することによって、印刷用原版の非画像部を除去する機上現像性や、画像形成後に中性の現像液を使用する場合の現像性を向上するために、親水的なバインダー樹脂を用いることができる。
親水的なバインダー樹脂としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボキシレート基、ヒドロキシエチル基、ポリオキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ポリオキシプロピル基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、アンモニウム基、アミド基、カルボキシメチル基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性基を有するものが好適に挙げられる。
【0124】
具体例として、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、デンプン誘導体、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩、セルロースアセテート、アルギン酸ナトリウム、酢酸ビニル−マレイン酸コポリマー類、スチレン−マレイン酸コポリマー類、ポリアクリル酸類およびそれらの塩、ポリメタクリル酸類およびそれらの塩、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシピロピルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ポリエチレングリコール類、ヒドロキシプロピレンポリマー類、ポリビニルアルコール類、加水分解度が60質量%以上、好ましくは80質量%以上である加水分解ポリビニルアセテート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、メタクリルアミドのホモポリマーおよびポリマー、N−メチロールアクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、ポリビニルピロリドン、アルコール可溶性ナイロン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンとエピクロロヒドリンとのポリエーテル等が挙げられる。
この中でも、ポリエチレングリコールモノメタクリレートとその他の不飽和基含有化合物との旧重合体が好ましく用いられる。
【0125】
下記に、本発明に好ましく用いられるバインダー樹脂を構成するモノマー成分で例示するが、本発明はこれらに限定されるものでは無い。
ポリエチレングリコールモノメタクリレート/スチレン/アクリロニトリル=10/20/70(質量平均分子量8万)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート/メチルメタクリレート/アクリロニトリル=10/20/70(質量平均分子量8万)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート/メチルメタクリレート=60/40(質量平均分子量6万)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート/アクリロニトリル=30/70(質量平均分子量6万)などが挙げられる。
【0126】
これらのバインダー樹脂は、機上現像性向上の観点で極性溶媒分散性の粒子形態であることが好ましい。粒子表面に例えばエチレングリコールのような極性基が配向するため親水的になり、機上現像性が向上する。
露光部では露光により発生した熱で粒子が軟化、溶融することで表面の親水性が遮蔽され、充分な感脂性を得ることができる。
溶媒分散のバインダー樹脂を得る方法としては、分散重合、乳化重合、界面重合など重合過程で粒子を形成する方法や、バインダー樹脂溶液を目的とする分散媒にホモジナイザーなどの分散装置を用いて分散し、バインダー樹脂を溶解する溶媒を除去する方法など公知の方法が制限なく利用できる。
用いられる分散媒に特に制限はないが、機上現像性の観点で極性溶媒が好ましく、塗布溶媒と共通であることがより好ましい。具体的には、後述の、画像形成層の作成の際に感光性組成物の溶解に用いる溶媒が好適に用いられる。
【0127】
平版印刷版原版の現像性を維持するためには、使用されるバインダー樹脂は、質量平均分子量で5000〜30万、アルキレンオキシド単位の繰り返し数は2〜120の高分子重合体が特に好ましい。
【0128】
これらのバインダー樹脂は、画像形成層中に任意な量で含有させることができるが、90質量%を超える場合には当該層を用いて形成される画像強度等の点で好ましい結果を与えない場合があるので、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%である。
【0129】
また前記した重合性化合物とバインダー樹脂の使用割合は、質量比で1/9〜9/1の範囲とするのが好ましく、より好ましくは2/8〜8/2てあり、最も好ましくは3/7〜7/3である。
【0130】
<その他の添加物>
また、露光による重合性化合物の重合を阻害する物質である酸素の画像形成層における濃度を低減するため、画像形成層上に酸素遮断性の保護層を設けるか、画像形成層中に酸素透過性の低い化合物を添加するとにより本発明の効果を得ることもできる。重合が促進されれば露光部はより疎水的になり、湿し水に対する耐性が向上する。
【0131】
画像形成層中に添加する酸素による重合阻害を防止するための素材としては、ベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等が挙げられる。これらは塗布後の乾燥の過程で画像形成層の表面に偏在化し、外部(大気中)から画像形成層中への酸素の浸透を抑制する効果がある。これら高級脂肪酸誘導体の添加量は、全組成物の約0.1質量%〜約10質量%が好ましい。
【0132】
また、極性基を含有するか、結晶性の高いポリマーを添加する方法も挙げられる。酸素遮断性の高い素材としてよく用いられるポリビニルアルコールや、それに匹敵する酸素遮断性を有することが知られているポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニルやその共重合体、又はセルロースやその誘導体などが好適に用いられる。これらの酸素遮断性ポリマーは、機上現像性向上の観点で、極性溶媒分散性の粒子形態であることが好ましい。粒子表面が親水性となるため、機上現像性が向上すると共に、酸素遮断の効果も保たれる。分散粒子の形成し易さの観点から、ポリアクリロニトリル又はその共重合体の溶媒分散粒子が最も好ましく用いられる。共重合成分としては、エチレン性不飽和基を含有する汎用素材を用いることができる。アクリロニトリルとの共重合性の点で、スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルが好ましく用いられる。これら酸素遮断性ポリマー分散物の画像形成層中への添加量は、画像形成層中の全固形分量に対し、5〜95質量%である。好ましくは10〜90質量%で、より好ましくは20〜90質量%である。
【0133】
本発明における画像形成層においては、さらに、画像形成層の形成中あるいは保存中において重合性化合物の不要な熱重合を阻止するために、少量の熱重合禁止剤を添加することが望ましい。好ましい熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン第一セリウム塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等が挙げられる。この種の熱重合禁止剤の添加量は、画像形成層の全成分の約0.01質量%〜約5質量%が好ましい。また必要に応じて、酸素による重合阻害を防止するために、ベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で光重合性画像形成層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体の添加量は、画像形成層の全成分の0.5〜10質量%が好ましい。
【0134】
さらに画像形成層の着色を目的として、着色剤を添加してもよい。着色剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料(C.I.Pigment Blue 15:3、15:4、15:6等)、アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、エチルバイオレット、クリスタルバイオレット、アゾ染料、アントラキノン系染料、シアニン系染料がある。染料及び顔料の添加量は、画像形成層の全成分の約0.5質量%〜約5質量%が好ましい。
【0135】
加えて、画像形成層から得られる硬化皮膜の物性を改良するために、無機充填剤やジオクチルフタレート、ジメチルフタレート、トリクレジルホスフェート等の可塑剤等の添加剤を加えてもよい。また、塗工表面の塗膜性を向上させる目的で、公知の界面活性剤を加えてもよい。公知の界面活性剤としては、フッ素系の界面活性剤、ポリオキシアルキレン系のノニオン界面活性剤、ジアルキルシロキサン等のシリコーン系の界面活性剤等がある。
【0136】
前記無機充填剤としては、シリカ粒子が好ましく、表面特性が改質された変性シリカ粒子が特に好ましい。シリカ粒子は、当該技術分野で慣用のものであり、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とするものである。シリカ粒子の粒径は通常は1nm〜1000nmであり、好ましくは1nm〜500nm、より好ましくは1nm〜100nmの範囲である。シリカ粒子は市販されており、例えば、日産化学工業(株)製 スノーテックスOL(粒径45nmシリカ20質量%コロイド水溶液)、及び、MEK−ST(粒径10−20nmシリカ30質量%コロイドメチルエチルケトン溶液)日本アエロジル(株)製 AEROSIL130(粒径16nmシリカ)、水澤化学工業(株)製 ミズカシルP−527U(粒径60nmシリカ)等が挙げられる。
シリカ粒子には、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、コロイダルシリカ等の態様が存在するが、これらの中でもコロイダルシリカの使用が好ましい。
【0137】
前記シリカ粒子は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基、少なくとも1つの親水性部位及び少なくとも1つのシリルオキシ基を有する有機化合物によってその表面を改質し、変性シリカ粒子として使用することが好ましい。エチレン性不飽和基、重合性化合物との反応性を付与し、また、シリルオキシ基はシリカ粒子との結合性を付与する。前記エチレン性不飽和基及び前記シリルオキシ基は有機化合物の分子鎖両末端に位置することが好ましく、この場合は、親水性部位はエチレン性不飽和基とシリルオキシ基との間に存在する。親水性部位としては特に制限されるものではないがポリオキシアルキレン鎖であることが好ましく、ポリエチレン鎖、ポリプロピレン鎖、もしくは、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン鎖の何れであってもよいが、特に、ポリエチレン鎖が好ましい。
前記有機化合物としては、具体的には、以下の式を有するものが好ましい。
【0138】
CH=CH−COO−(CHCHO)−(CHCH(CH)O)−CO−X
−(CH−(CHY)−(CH−Si(OR)
【0139】
〔式中、RはC〜Cのアルキル基であり、好ましくはメチル基又はエチル基であり、Xは、−CH−、−O−、−S−、及び、−NZ−から選択される2価の有機基(ZはH又はC〜Cのアルキル基を表す)であり、好ましくはHであり、Yは、C〜Cのアルキル基又はハロゲン原子であり、好ましくはメチル基又はフッ素原子であり、
mは0〜100の整数であり、好ましくは1〜50の整数であり、
nは0〜100の整数であり、好ましくは0〜20の整数であり、
但し、m+nは1以上であり、
oは0〜10の整数であり、好ましくは1〜10の整数であり、
pは0〜5の整数であり、好ましくは0〜2の整数であり、
qは0〜10の整数であり、好ましくは1〜10の整数であり、
但し、o+qは1以上であり、好ましくは2以上である〕
【0140】
上記の式の有機化合物をシリカ粒子と反応させると、シリルオキシ基(-Si(OR)3)がシリカ表面の水酸基と反応して共有結合するので、シリカ粒子の表面が改質される。シリカ表面に結合したエチレン性不飽和基は重合性化合物との反応部位となる。
【0141】
前記有機化合物によるシリカ粒子の表面改質は例えば両者を所定時間接触させる等の当該技術分野で慣用の手法によって行うことができる。シリカ粒子表面の改質率は通常は50〜99%の範囲であり、好ましくは80〜99%である。シリカ粒子表面の改質率はシリカ粒子と前記有機化合物との質量比を調節することによって制御することができる。
前記有機化合物は少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有するので、当該有機化合物により変性されたシリカ粒子と重合性化合物を含む画像形成層は下地層との接着性がさらに高まる。したがって、下地層を介して前記画像形成層を支持体上に備える平版印刷版原版は露光により画像形成層中の重合性化合物が架橋して当該画像形成層が収縮しても支持体と画像形成層との良好な一体性を維持することができる。
【0142】
本発明の平版印刷版原版における画像形成層は上記の重合性化合物を含む感光性組成物を各種の有機溶剤に溶解して下地層上に塗布することにより得ることができる。
【0143】
ここで使用し得る溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、エチレンジクロライド、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシプロパノール、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、水等がある。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。なお、塗布溶液中の固形分濃度は、1〜50質量%が適当である。
【0144】
本発明の平版印刷版原版における画像形成層の被覆量は、塗布乾燥後の質量で0.1〜10g/mの範囲が適当であり、より好ましくは0.3〜5g/mであり、さらに好ましくは0.5〜3g/mである。
【0145】
〔支持体〕
本発明の平版印刷版原版の支持体は、表面が親水性であれば如何なるものでも使用し得るが、寸度的に安定な板状物が好ましく、例えば、紙、プラスチック(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、また、例えばアルミニウム(アルミニウム合金も含む。)、亜鉛、銅等のような金属又はその合金(例えばケイ素、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、鉛、ビスマス、ニッケルとの合金)の板、さらに、例えば二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酪酸酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等のようなプラスチックのフィルム、上記の如き金属又は合金がラミネートもしくは蒸着された紙もしくはプラスチックフィルム等が挙げられる。これらの支持体のうち、アルミニウム板は寸度的に著しく安定であり、しかも安価であるので特に好ましい。さらに、特公昭48−18327号に記載されているようなポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムシートが結合された複合体シートも好ましい。通常その厚さは0.05mm〜1mm程度である。
【0146】
また金属、特にアルミニウムの表面を有する支持体の場合には、後述する砂目立て処理、珪酸ソーダ、弗化ジルコニウム酸カリウム、燐酸塩等の水溶液への浸漬処理、あるいは陽極酸化処理等の表面処理がなされていることが好ましい。
【0147】
<砂目立て処理>
砂目立て処理方法は、特開昭56−28893号公報に開示されているような機械的砂目立て、化学的エッチング、電解グレイン等がある。さらに塩酸又は硝酸電解液中で電気化学的に砂目立てする電気化学的砂目立て方法、及びアルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするボールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法のような機械的砂目立て法を用いることができ、上記砂目立て方法を単独あるいは組み合わせて用いることもできる。その中でも本発明において有用に使用される表面粗さを作る方法は、塩酸又は硝酸電解液中で化学的に砂目立てする電気化学的方法であり、適する電流密度は100〜400C/dmの範囲である。さらに具体的には、0.1〜50質量%の塩酸又は硝酸を含む電解液中、温度20〜100℃、時間1秒〜30分、電流密度100〜400C/dmの条件で電解を行うことが好ましい。
【0148】
このように砂目立て処理されたアルミニウム支持体は、酸又はアルカリにより化学的にエッチングされる。酸をエッチング剤として用いる場合は、微細構造を破壊するのに時間がかかり、工業的に本発明を適用するに際しては不利であるが、アルカリをエッチング剤として用いることにより改善できる。好適に用いられるアルカリ剤は、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられ、濃度と温度の好ましい範囲はそれぞれ1〜50質量%、20〜100℃であり、アルミニウムの溶解量が5〜20g/mとなるような条件が好ましい。
【0149】
エッチングの後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗いが行われる。用いられる酸としては、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸等が挙げられる。特に電気化学的粗面化処理後のスマット除去処理方法としては、好ましくは特開昭53−12739号公報に記載されているような50〜90℃の温度の15〜65質量%の硫酸と接触させる方法、及び、特公昭48−28123号公報に記載されているアルカリエッチングする方法が挙げられる。なお、本発明において好ましいアルミニウム支持体の表面粗さ(Ra)は、0.3〜0.7μmである。
【0150】
<陽極酸化処理>
以上のようにして処理されたアルミニウム支持体には、好ましくは、さらに陽極酸化処理が施される。陽極酸化処理は、当該技術分野において従来行われている方法で行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルフォン酸等あるいはこれらの二種以上を組み合わせて、水溶液又は非水溶液中でアルミニウムに直流又は交流を流すと、アルミニウム支持体表面に陽極酸化皮膜を形成することができる。陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液の濃度が1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.5〜60アンペア/dm、電圧1〜100V、電解時間10〜100秒の範囲が適当である。
これらの陽極酸化処理のうちでも特に英国特許第1,412,768号明細書に記載されている、硫酸中において、高電流密度で陽極酸化する方法、及び、米国特許第3,511,661号明細書に記載されているリン酸を電解浴として陽極酸化する方法が好ましい。
本発明においては、陽極酸化皮膜は1〜10g/mであることが好ましく、1g/m未満であると版に傷が入りやすく、10g/mを超えると製造に多大な電力が必要となり、経済的に不利である。好ましくは、1.5〜7g/mであり、さらに好ましくは、2〜5g/mである。
【0151】
さらに、本発明においては、支持体は、砂目立て処理及び陽極酸化後に、封孔処理を施されてもよい。かかる封孔処理は、熱水及び無機塩又は有機塩を含む熱水溶液への基板の浸漬並びに水蒸気浴などによって行われる。
【0152】
さらに、本発明においては、支持体は、砂目立て処理及び陽極酸化後に、アルカリ金属ケイ酸塩による処理を行うことが好ましい。これにより、下地層と支持体との間の接着性がさらに向上する。ここでいうアルカリ金属ケイ酸塩による処理とは、支持体をアルカリ金属ケイ酸塩水溶液に所定時間浸漬させることをいう。アルカリ金属ケイ酸塩水溶液による処理において好ましい処理時間とは、1秒〜2分であり、好ましいアルカリ金属ケイ酸塩水溶液の温度は40〜90℃であり、好ましいアルカリ金属ケイ酸塩水溶液の濃度は1g/l〜50g/lである。アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムが挙げられる。
【0153】
〔製版〕
上述した本発明の平版印刷版原版は、レーザーで画像様に露光されることが好ましい。用いられるレーザーは、特に限定されないが、波長760〜1200nmの赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーが好適に挙げられる。赤外線レーザーの出力は、100mW以上であるのが好ましい。また、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。
1画素あたりの露光時間は、20μs以内であるのが好ましい。また、照射エネルギー量は、10〜300mJ/cm2 であるのが好ましい。
【0154】
本発明において、平版印刷版原版の未露光部画像形成層を除去可能とならしめる水性成分としては、水に種々の化合物を溶解もしくは分散させた液が挙げられる。水に溶解もしくは分散させる種々の化合物としては、機上現像性の観点から、アルコールなどの極性溶剤、界面活性剤、有機酸類及びその塩類、無機酸類及びその塩類などが好ましく用いられる。除去は印刷機上で行うことができるが、現像機を用いて行うこともできる。
【0155】
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、2−エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、オクタンジオール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、等が挙げられる。
これらのなかでもイソプロパノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、オクタンジオール、グリセリンが特に好ましく用いられる。
【0156】
前記水性成分中に含まれるアルコールの比率としては、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.5〜3質量%が特に好ましい。この範囲内で、画像形成層の露光部へのダメージを伴わずに、良好に機上現像性を促進できる。
【0157】
前記界面活性剤を含有する水溶液を前記水性成分として使用する場合、前記ブランケット洗浄部材と前記ブランケット表面との間での泡の発生、前記水性成分を収容するタンク内での泡の発生、前記ブランケット洗浄部材に前記水性成分を供給するための送液ポンプ中への泡の混入によるポンプへの負荷、等の起泡による種々の問題を回避する観点からは、前記水性成分のなかでも起泡の少ないものが好ましい。
【0158】
界面活性剤としては、特に限定されず、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0159】
前記ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコール型の高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂の
エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ジメチルシロキサン−エチレンオキサイドブロックコポリマー、ジメチルシロキサン−(プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド)ブロックコポリマー等や、多価アルコール型のグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。これらノニオン系界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0160】
前記ノニオン性界面活性剤のHLB(Hydorophile−Lipophile Balance)値としては、水に対する安定な溶解性あるいは混濁性及び前記機上現像性を良好にする観点から、6〜15であることが好ましく、6〜13であることがより好ましく、6〜11であることが特に好ましい。
【0161】
前記アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。
【0162】
より詳細には、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリ
ウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、tert−オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩等が挙げられる。
これらのなかでもジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類及びアルキルナフタレンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0163】
前記水性成分中に含まれる界面活性剤の比率としては、0.01〜0.20質量%が好ましく、0.02〜0.18質量%がより好ましく、0.04〜0.15質量%が特に好ましい。この範囲内で、水性成分の安定性悪化や起泡による問題を起こすことなく、良好に機上現像性を促進させることができる。
【0164】
また、さらなる抑泡の目的で、前記水性成分中に公知の消泡剤を添加することもできる。前記消泡剤としては、特に、シリコーン系消泡剤が好ましい。さらに、前記水性成分中に、アルカリ剤(例えば、炭酸ナトリウム、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム等)や防腐剤(例えば、安息香酸及びその誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、3−イソチアゾロン化合物、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム塩等)を添加することもできる。
【0165】
また、本発明の水性成分に用いられる水溶性高分子化合物としては、大豆多糖類、変性澱粉、アラビアガム、デキストリン、繊維素誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース等)及びその変性体、プルラン、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びアクリルアミド共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0166】
上記大豆多糖類は、公知ものが使用でき、例えば市販品として商品名ソヤファイブ(不二製油(株)製)があり、各種グレードのものを使用することができる。好ましく使用できるものは、10質量%水溶液の粘度が10〜100mPa/secの範囲にあるものである。
【0167】
上記変性澱粉も、公知のものが使用でき、トウモロコシ、じゃがいも、タピオカ、米、小麦等の澱粉を酸又は酵素等で1分子当たりグルコース残基数5〜30の範囲で分解し、さらにアルカリ中でオキシプロピレンを付加する方法等で作ることができる。
【0168】
水溶性高分子化合物は2種以上を併用することもできる。水溶性高分子化合物の水性成分中における含有量は、0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0169】
以上のような種々の添加物を含有する水性成分として、既存の各種湿し水を用いてもよい。
【0170】
上記水性成分を平版印刷版原版上に供給する液量は、水性成分の種類等に依存するが平版印刷版原版上で0.1〜5μmの厚みになることが好ましい。より好ましくは0.5〜3μmである。
【0171】
上記のような水性成分の温度としては、任意の温度で使用することができるが、10〜50℃が好ましい。
上記のような水性成分のpHとしては、2.0〜10.0が好ましく、3.0〜9.0がより好ましく、3.5〜8.5が最も好ましい。
【0172】
本発明の平版印刷方法においては、上述したように、本発明の平版印刷版原版をレーザーで画像様に露光した後、現像処理工程を行って印刷することもできるが、処理簡易化の観点から、なんらの現像処理工程を経ることなく油性インキと水性成分とを供給して印刷することが好ましい。下記に詳述する。
具体的には、平版印刷版原版を赤外線レーザーで露光した後、現像処理工程を経ることなく印刷機に装着して印刷する方法、平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上において赤外線レーザーで露光し、現像処理工程を経ることなく印刷する方法等が挙げられる。
【0173】
平版印刷版原版を赤外線レーザーで画像様に露光した後、湿式現像処理工程等の現像処理工程を経ることなく水性成分と油性インキとを供給して印刷すると、画像形成層の露光部においては、露光により硬化した画像形成層が、親油性表面を有する油性インキ受容部を形成する。一方、未露光部においては、供給された水性成分及び/又は油性インキによって、未硬化の画像形成層が溶解し又は分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。
その結果、水性成分は露出した親水性の表面に付着し、油性インキは露光領域の画像形成層に着肉し、印刷が開始される。ここで、最初に版面に供給されるのは、水性成分でもよく、油性インキでもよいが、水性成分が未露光部の画像形成層により汚染されることを防止する点で、最初に油性インキを供給するのが好ましい。水性成分及び油性インキとしては、通常の平版印刷用の、湿し水と印刷インキが用いられる。
このようにして、平版印刷版原版はオフセット印刷機上で機上現像され、そのまま多数枚の印刷に用いられる。
【実施例】
【0174】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0175】
〔実施例1〜12及び比較例1〕
1.平版印刷版原版の作製
電解粗面化及びホスホン酸で陽極酸化されたアルミニウム基板を予めポリビニルホスホン酸処理した基板それぞれに、下記表1または表2記載の成分を溶媒(n−プロパノール/水/2−ブタノン=76/20/4(質量比))に固形分濃度12%となるように溶解した溶液を、乾燥塗布量が1.5g/mになるようワイヤーバーを用い塗布し、100℃で90秒間乾燥した。
【0176】
【表1】

【0177】
【表2】

【0178】
(注1)DESMODUR N100(ヘキサメチレンジイソシアネートを含む脂肪族ポリイソシアネート樹脂:バイエル社製)をヒドロキシエチルアクリレート及びペンタエリスリトールトリアクリレートを反応して得られた、2−ブタノン中の80質量%溶液
(注2)ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート/スチレン/アクリロ二トリル=10/20/70共重合体(質量平均分子量8万)の21質量%のn−プロパノール/水=80/20混合溶媒分散液
(注3)プロピレンカーボネート中のヨードニウム(4−メトキシフェニル[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヘキサフルオロリン酸)の75質量%溶液(チバスペシャルティケミカルズ社製)
(注4)キシレン/メトキシプロピル酢酸溶液中の変性ジメチルポリシロキサンコポリマーの25質量%溶液(BYKケミー社製)
(注5)下記化学式で表される近赤外線領域に吸収を持つ陽イオン色素の溶液
【0179】
【化18】

【0180】
極性変換基を有するポリマー(1):ポリ[ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド−co−N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩](モル比19:1)
極性変換基を有するポリマー(2):ポリ(N,N,N,N−p−ビニルベンジル(トリメチルアンモニウムメチル)ジメチルアンモニウムジクロリド−co−N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩)(モル比9:1)
【0181】
2.平版印刷版原版の評価
得られた平版印刷版原版の露光部含水量変化率W(r)を上述した方法で測定し、印刷を行い機上現像性と耐刷性の評価を行った。
露光は、水冷式40W赤外線半導体レーザー搭載のCreo社製Trendsetter3244VXにて、出力17W、外面ドラム回転数133rpm(露光量300mJ/cm)、解像度2400dpiの条件で露光した。
得られた露光済み原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製スプリント25印刷機のシリンダーに取り付けた。IF102湿し水4容量%水溶液(富士フイルム(株)製)と、TRANS−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、湿し水とインキを供給した後、毎時8000枚の印刷速度で印刷を行い、良好な印刷物が得られるのに要した印刷枚数を機上現像性として評価した。
機上現像後そのまま印刷を続けると、画像部の画像形成層が磨耗しインキ受容性が低下するため、印刷用紙におけるインキ濃度(反射濃度)が低下する。このインキ濃度が印刷開始時よりも0.1低下したときの印刷枚数により耐刷性を評価した。
上記の測定及び評価の結果を表3に示す。
【0182】
【表3】

【0183】
この結果から分かるように、露光部含水量変化率を2.0質量%以下とすると、機上現像性を損なうことなく、良好な耐刷性が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光部の25℃における、相対湿度30%に対する相対湿度50%の含水量変化率が2.O質量%以下である画像形成層を有し、油性インキと水性成分とを供給することにより機上現像可能な平版印刷版原版。
【請求項2】
前記含水量変化率が0.5〜1.5質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
前記画像形成層が、露光により疎水性に変化する官能基を有するバインダー樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
前記露光により疎水性に変化する官能基を有するバインダー樹脂の含有量が画像形成層中の全固形成分に対して5質量%〜30質量%であることを特徴とする請求項3に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記画像形成層が、塩構造を有する重合性化合物を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記塩構造を有する重合性化合物の含有量が画像形成層中の全固形成分に対して10質量%〜80質量%であることを特徴とする請求項5に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記塩構造を有する重合性化合物が、スルホン酸化合物のアミン塩であることを特徴とする請求項5又は6に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記画像形成層にポリマーの溶媒分散物を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
ポリマーの溶媒分散物がアクリロニトリルを含む共重合体の分散物である請求項1〜8のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。

【公開番号】特開2008−230028(P2008−230028A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72267(P2007−72267)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】