説明

機械設備の異常診断装置及び異常診断方法

【課題】 ノイズの影響を受け難くして診断精度を確保しつつ、異常の有無や異常の部位を特定することができる機械設備の異常診断装置及び異常診断方法を提供する。
【解決手段】 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品12を備えた、機械設備の異常診断装置は、機械設備10から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部20と、電気信号の波形の周波数分析を行い、周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と部品に起因した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部32と、を備える。比較照合に用いられる基準値は、実測スペクトルデータの限定した周波数範囲に基づいて算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械設備、例えば、減速機や電動機あるいは風車や鉄道車両等に用いられる回転或いは摺動する部品の異常診断装置及び異常診断方法に関し、特に、該部品の異常の有無や前兆、或いはその異常部位を特定する機械設備の異常診断装置及び異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両や発電用風車等の回転部品は、一定期間使用した後に、軸受やその他の回転部品について、損傷や摩耗等の異常の有無が定期的に検査される。この定期的な検査は、回転部品が組み込まれた機械装置を分解することにより行われ、回転部品に発生した損傷や摩耗は、担当者が目視による検査により発見するようにしている。そして、検査で発見される主な欠陥としては、軸受の場合、異物の噛み込み等によって生ずる圧痕、転がり疲れによる剥離、その他の摩耗等、歯車の場合には、歯部の欠損や摩耗等、車輪の場合には、フラット等の摩耗があり、いずれの場合も新品にはない凹凸や摩耗等が発見されれば、新品に交換される。
【0003】
また、回転部品が組み込まれた機械装置を分解することなく、実稼動状態で回転部品の異常診断を行う様々な方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。最も一般的なものとしては、特許文献1に記載されるように、軸受部に加速度計を設置し、軸受部の振動加速度を計測し、更に、この信号にFFT(高速フーリエ変換)処理を行って振動発生周波数成分の信号を抽出して診断を行う方法が知られている。
【特許文献1】特開2002−22617号公報
【特許文献2】特開2003−202276号公報
【特許文献3】特開2004−257836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記機械設備全体を分解して、担当者が目視で検査する方法では、装置から回転体や摺動部材を取り外す分解作業や、検査済みの回転体や摺動部材を再度装置に組込み直す組込み作業に多大な労力がかかり、装置の保守コストに大幅な増大を招くという問題があった。
【0005】
また、組立て直す際に検査前にはなかった打痕を回転体や摺動部材につけてしまう等、検査自体が回転体や摺動部材の欠陥を生む原因となる可能性があった。また、限られた時間内で多数の軸受を目視で検査するため、欠陥を見落とす可能性が残るという問題もあった。さらに、この欠陥の程度の判断も個人差があり実質的には欠陥がなくても部品交換が行われるため、無駄なコストがかかることにもなる。
【0006】
また、特許文献1に記載の異常診断方法では、判断基準値の設定の仕方によってはノイズ等の影響で診断精度が悪くなり、誤診断を基に異常警報を発進する等、安定稼動が妨げられる問題があった。
【0007】
さらに、上記の異常診断方法では、診断結果が大量に蓄積されることになり、この大量の診断結果に基づいてレポートを作成することは過度の負担となる。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノイズの影響を受け難くして診断精度を確保しつつ、異常の有無や異常の部位を特定することができる機械設備の異常診断装置及び異常診断方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、診断結果のレポート作成の負担を軽減することができる機械設備の異常診断装置及び異常診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、下記の構成により達成される。
(1) 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の波形の周波数分析を行い、該周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
を備え、
前記比較照合に用いられる基準値は、前記実測スペクトルデータの限定した周波数範囲に基づいて算出されることを特徴とする機械設備の異常診断装置。
(2) 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の波形の周波数分析を行い、該周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
該信号処理部にて診断された診断結果を記憶する記憶部と、
前記診断結果を所定の形式で出力する出力部と、
該出力部によって出力される出力結果を、少なくとも一つのプログラムに基づいてレポートを作成するレポート作成部と、
を備えることを特徴とする機械設備の異常診断装置。
(3)前記信号処理部は、前記検出された信号に増幅処理とフィルタ処理の少なくとも一方を施し、その処理された波形にエンベロープ処理を行うことを特徴とする(1)または(2)に記載の機械設備の異常診断装置。
(4) 前記信号処理部による判定結果を伝送するデータ伝送手段を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の異常診断装置。
(5) 前記信号処理部による処理、及び前記判定結果を制御系に出力する処理を行なうマイクロコンピュータを具備したことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の異常診断装置。
(6) 前記機械設備は鉄道車両用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(7) 前記機械設備は風車用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(8) 前記機械設備は工作機械主軸用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(9) 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
該検出された信号の波形の周波数を分析する工程と、
該分析工程で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを比較照合する工程と、
該比較工程での照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する工程と、
を備え、
前記比較照合に用いられる基準値は、前記実測スペクトルデータの限定した周波数範囲に基づいて算出されることを特徴とする機械設備の異常診断方法。
(10) 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
該検出された信号の波形の周波数を分析する工程と、
該分析工程で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを比較照合する工程と、
該比較工程での照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する工程と、
前記分析、比較、判定工程の少なくとも一つにて得られる診断結果を記憶する工程と、
前記診断結果を所定の形式で出力する工程と、
該出力工程によって出力される出力結果を、少なくとも一つのプログラムに基づいてレポートを作成する工程と、
を備えることを特徴とする機械設備の異常診断方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、実測スペクトルデータの周波数成分と部品に起因した周波数成分とを比較照合する際、比較照合に用いられる基準値は、実測スペクトルデータの限定した周波数範囲に基づいて算出されるようにしたので、ノイズの影響を受け難くして診断精度を上げることができ、異常の有無及び異常部位を特定することができる。
【0011】
また、本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、簡単な構成で回転或いは摺動する部品が組み込まれている機械装置を分解することなく、異常の有無と異常の部位を特定することができ、装置の分解や組立にかかる手間を軽減できると共に、分解や組立に伴う該部品への損傷を防止することができる。
【0012】
さらに、本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、異常の有無、異常の部位、診断時のスペクトル波形(実測スペクトルデータ)のような診断結果を所定の形式で出力し、この出力結果を少なくとも一つのプログラムに基づいてレポートを作成するので、診断結果に基づくレポートの作成作業が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態に係る機械設備の異常診断装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
まず、図1〜4を参照して、第1実施形態の機械設備の異常診断装置について説明する。図1に示されるように、異常診断装置は、機械設備10から発生する信号を検出する検出部20と、検出部20の出力した電気信号から機械設備10の異常等の状態を判定するための信号処理部32及び機械設備10を駆動制御する制御部34とを備えた制御器30と、モニタ43や警報機44やレポート作成部45等の出力装置40とを備える。
【0015】
機械設備10には、回転部品である転がり軸受12が設けられており、転がり軸受12は、回転軸(図示せず)に外嵌される回転輪である内輪14と、ハウジング(図示せず)に内嵌される固定輪である外輪16と、内輪14及び外輪16との間に配置された複数の転動体である玉18と、玉18を転動自在に保持する保持器(図示せず)とを備える。
【0016】
検出部20は、運転中に機械設備10から発生する振動を検出するセンサ22を備える。センサ22は、ボルト固定、接着、ボルト固定と接着、或いはモールド材による埋め込み等によってハウジングの外輪近傍に固定されている。なお、ボルト固定の場合には、回り止め機能を備えるようにしてもよい。また、センサ22をモールドする場合には、防水性が図られると共に、外部からの加振に対する防振性が向上するため、センサ22自体の信頼性を飛躍的に向上することができる。
【0017】
また、センサ22は、振動を検出可能なものであればよく、振動センサ、AE(acoustic emission)センサ、超音波センサ、及びショックパルスセンサ等や、加速度、速度、歪み、応力、変位型等、振動を電気信号化できるものであればよい。また、ノイズが多いような機械装置に取り付ける際には、絶縁型を使用する方がノイズの影響を受けることが少ないので好ましい。さらに、センサ22が、圧電素子等の振動検出素子を使用する場合には、この素子をプラスチック等にモールドして構成してもよい。
【0018】
さらに、本実施形態の機械設備10は、転がり軸受12の他に、歯車や車輪(共に図示せず)等の振動をセンサ22によって検出することができる。
【0019】
信号処理部32及び制御部34とを備える制御器30は、マイクロコンピュータ(ICチップ,CPU,MPU,DSP等)によって構成されており、データ伝送手段24を介してセンサ22からの電気信号を受け取る。
【0020】
信号処理部32は、図2に示されるように、データ蓄積分配部50、回転分析部52、フィルタ処理部54、振動分析部56、比較判定部58、内部データ保存部60を備える。データ蓄積分配部50は、センサ22からの電気信号及び回転速度に関する電気信号を受け取り一時的に蓄積すると共に、信号の種類に応じて各分析部52,56の何れかに信号を振り分ける収集および分配機能を有している。各種信号は、データ蓄積分配部50に送られる以前に、図示しないA/Dコンバータによりデジタル信号にA/D変換され、図示しない増幅器によって増幅された後にデータ蓄積分配部50に送られる。なお、A/D変換と増幅は、順序が逆であっても構わない。
【0021】
回転分析部52は、回転速度を検出するセンサ(図示せず)からの出力信号を基に、内輪14、即ち回転軸の回転速度を算出し、算出した回転速度を比較判定部58に送信する。なお、上記検出素子が、内輪14に取り付けられたエンコーダと外輪16に取り付けられた磁石及び磁気検出素子で構成されている場合には、検出素子が出力する信号は、エンコーダの形状と回転速度に応じたパルス信号となる。回転分析部52は、エンコーダの形状に応じた所定の変換関数又は変換テーブルを有しており、関数またはテーブルに従って、パルス信号から内輪14及び回転軸の回転速度を算出する。
【0022】
フィルタ処理部54は、回転部品である転がり軸受12や歯車や車輪等の固有振動数に基づいて、振動信号からその固有振動数に対応する所定の周波数帯域のみを抽出し、不要な周波数帯域を除去する。この固有振動数は、回転部品を被測定物として、打撃法により加振し、被測定物に取付けた振動検出器又は打撃により発生した音響を周波数分析することにより容易に求めることができる。なお、被測定物が転がり軸受の場合には、内輪、外輪、転動体、保持器等のいずれかに起因する固有振動数が与えられる。一般的に、機械部品の固有振動数は複数存在し、また固有振動数での振幅レベルは高くなるため測定の感度がよい。
【0023】
振動分析部56は、センサ22からの出力信号を基に、軸受12、歯車、車輪に発生している振動の周波数分析を行う。具体的には、振動分析部56は、振動信号の周波数スペクトルを算出するFFT計算部であり、FFTのアルゴリズムに基づいて、振動の周波数スペクトルを算出する。算出された周波数スペクトルは、比較判定部58に送信される。また、振動分析部56は、FFTを行う前処理として、絶対値処理やエンベロープ処理を行い、診断に必要な周波数成分のみに変換してもよい。振動分析部56は、必要に応じて、エンベロープ処理後のエンベロープデータも併せて比較判定部58に出力する。
【0024】
比較判定部58は、転がり軸受12、歯車、車輪に起因した周波数成分と振動分析部56による振動の実測スペクトルデータの周波数成分とを比較照合する。本実施形態では、比較判定部58は、実測スペクトルデータの限定した周波数範囲から基準値(例えば、音圧レベル或いは電圧レベル)を算出する一方、図4及び図5に示す関係式を用いて転がり軸受や歯車の傷に起因する周波数(振動発生周波数)を計算し、実測スペクトルデータから振動発生周波数での音圧レベルを抽出して、基準値と比較している。さらに、比較判定部58は、判定結果に基づき、異常の有無及び異常部位の特定を行う。
【0025】
なお、振動発生周波数の演算は、これより前に行ってもよく、以前に同様の診断を行っている場合には、内部データ保存部60に記憶し、そのデータを用いてもよい。また、算出に用いる各回転部品の設計諸元データは事前に入力記憶させておく。
【0026】
そして、比較判定部58での判定結果は、メモリやHDD等の内部データ保存部60に保存されても良いし、データ伝送手段42を介して出力装置40へ伝送されてもよい。また、この判定結果を、機械設備10の駆動機構の動作を制御する制御部34へ出力し、この判定結果に応じた制御信号をフィードバックするようにしてもよい。
【0027】
また、出力装置40は、判定結果をモニタ43等にリアルタイムに表示してもよいし、異常が検出された場合にはライトやブザー等の警報機44を使って異常の通知を行なってもよい。
【0028】
さらに、出力装置40は、信号処理部32で得られる、異常の有無、異常の部位、診断時のスペクトル波形(実測スペクトルデータ)のような診断結果を記憶する記憶部46と、診断結果を所定の形式で出力するデータ出力部47と、データ出力部47によって出力される出力結果を、少なくとも一つのプログラムに基づいてレポートを作成するレポート作成部45と、を備える。これにより、レポート作成部45は、診断結果に基づくレポートの作成作業を容易に行うことができる。
ここで、所定の形式とは、レポート作成部45で加工するために要求されている形式のことである。なお、対象データをすべて出力してレポート作成部45で選定・選択するようにしてもよいし、データ出力部47で対象データを選定・選択するようにしてから出力してもよい。
【0029】
なお、データ伝送手段24,42は、的確に信号を送受信可能であれば良く、有線でも良いし、ネットワークを考慮した無線を利用しても良い。
【0030】
次に、図3を参照して、振動信号を基にした異常診断の処理フローの具体例について説明する。
【0031】
まず、センサ31は各回転部品の振動を検出する(ステップS101)。検出された振動信号は、A/D変換器によりデジタル信号に変換され(ステップS102)、所定の増幅率で増幅された後(ステップS103)、フィルタ処理部54により回転部品の固有振動数に対応した所定の周波数帯域のみを抽出するフィルタ処理が行われる(ステップS104)。その後、振動分析部56では、フィルタ処理後のデジタル信号に対してエンベロープ処理を施し(ステップS105)、エンベロープ処理後のデジタル信号の周波数スペクトルを求める(ステップS106)。
【0032】
次に、図4及び図5に示す関係式から、回転速度信号に基づき各回転部品の異常に起因して発生する振動発生周波数を求め(ステップS107)、求めた周波数に対応する各回転部品の異常周波数帯域の音圧レベル(転がり軸受12の場合には、軸受傷成分Sx、即ち、内輪傷成分Si、外輪傷成分So、転動体傷成分Sb及び保持器成分Sc、歯車の場合には、噛み合いに対応する歯車傷成分Sg、及び車輪等の回転体の場合には、回転体の摩耗やアンバランス成分Sr)を求める(ステップS108)。
【0033】
一方、振動分析部54で得られた周波数スペクトルから異常診断に用いられる基準値(例えば、音圧レベル或いは電圧レベル)を算出する(ステップS109)。ここで、本実施形態の基準値は、任意の時間における実測スペクトルデータの限定した周波数範囲を用いて算出される。即ち、基準値は、所定の周波数範囲のスペクトルデータ、例えば、DC成分等のノイズの影響を小さくするため、得られた周波数範囲から複数のスペクトル(例えば、上位10個と下位10個)を除いたものを用いて算出された実効値(周波数スペクトルの自乗平均の平方根)であってもよく、あるいは、実効値を基に、次式(1)や(2)に基づき算出されたものであってもよい。
(基準値)=(実効値)+α ・・・(1)
(基準値)=(実効値)×β ・・・(2)
α,β:データの種類によって可変な所定の値
また、実効値の代わりに、任意の時間における実測スペクトルデータの平均値やピーク値を用いて算出してもよい。
【0034】
次いで、ステップS108で算出された各回転部品の異常周波数帯域の音圧レベル(或いは電圧レベル)とステップS109で計算された基準値との比較を設計諸元の異なる各回転部品毎に分けて順番に行う(ステップS110)。全ての成分が一致しない時は回転部品に異常なしとして判断する(ステップS111)。一方、いずれかの成分が一致する場合には、異常有りと判断してその異常部位を特定する(ステップS112)と共に、その照合結果を制御部34や、モニタ43、警報機44等の出力装置40に出力する(ステップS113)。また、ステップS113では、ステップS111,S112で得られた診断結果が出力装置の記憶部46に記憶される。そして、レポートを作成する場合には、記憶部46に記憶された診断結果をデータ出力部47に送り、データ出力部47は送られたデータから対象データを選定・選択する(ステップS114)。さらに、選択された対象データを、レポート作成プログラムを有するレポート作成部45に送って、診断結果に基づくレポートを作成する(ステップS115)。
【0035】
このように本実施形態では、実測スペクトルデータの周波数成分と部品に起因した周波数成分とを比較照合する際、比較照合に用いられる基準値は、実測スペクトルデータの限定した周波数範囲に基づいた実効値、平均値、あるいはピーク値により算出されるようにしたので、DC成分等のノイズの影響を受け難くして診断精度を上げることができ、異常の有無及び異常部位を特定することができる。
【0036】
また、本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、簡単な構成で回転部品が組み込まれている機械装置を分解することなく、異常の有無と異常の部位を特定することができ、装置の分解や組立にかかる手間を軽減できると共に、分解や組立に伴う該部品への損傷を防止することができる。
【0037】
さらに、本実施形態の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、信号処理部をマイクロコンピュータで構成するようにしたので、信号処理部がユニット化され、異常診断装置の小型化やモジュール化を図ることができる。
【0038】
加えて、本実施形態の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、信号処理部32で得られる、異常の有無、異常の部位、診断時のスペクトル波形(実測スペクトルデータ)のような診断結果を記憶する記憶部46と、診断結果を所定の形式で出力するデータ出力部47と、データ出力部47によって出力される出力結果を、少なくとも一つのプログラムに基づいてレポートを作成するレポート作成部45と、を備えるので、大量に蓄積された診断結果を、必要に応じて対象となる箇所のデータを所定の形式で出力して、簡単にレポートを作成することができる。
【0039】
なお、本実施形態では、診断結果を記憶する記憶部46を出力装置40内に設けているが、記憶部46を制御器30内に設けて、レポートを作成する際に診断結果をデータ伝送手段42を介してデータ出力部47に送信してもよい。
【0040】
次に、図6を参照して、本発明の第2実施形態に係る機械設備の異常診断装置及び異常診断方法について詳細に説明する。なお、第1実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略あるいは簡略化する。
【0041】
本実施形態は、複数の転がり軸受12,12を備えた機械設備70の異常診断装置において、センサ22を含んだ検出部とマイクロコンピュータ50からなる信号処理部とを組み合わせた、単一の処理ユニット80を転がり軸受12の軸受装置内に組み込んでいる。
これにより、異常診断装置は管理を集中して行えるため、効率的な監視が可能である。
また、単一の処理ユニットを軸受装置内に組み込むことで、装置全体がコンパクトになるといったメリットがあり好ましい。なお、この単一の処理ユニットは、機械設備内に組み込んでコンパクト化を図っても良く、また、複数の転がり軸受に対して単一の処理ユニットを構成するようにしても良い。
その他の構成および作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
本発明の機械設備は、異常診断対象である回転或いは摺動する部品を備えたものであればよく、鉄道車両用軸受装置、風車用軸受装置、工作機械主軸用軸受装置等を含む。
【0043】
例えば、鉄道車両用軸受装置90は、図7に示されるように、複列円錐ころ軸受12を介して車軸90を鉄道車両用台車の一部を構成する軸受箱92に対して回転自在に支持しており、検出部20,20を軸受箱92のラジアル荷重の負荷圏領域に固定して、軸受箱92の振動を検出することで異常診断を行っている。なお、軸受軌道面に損傷が発生した場合、その損傷部を転動体が通過する際に生じる衝突力は無負荷圏よりも負荷圏の方が大きいことから、検出部20を負荷圏側に固定することで、感度の良い振動検出を可能とする。
【0044】
また、回転或いは摺動する部品としては、転がり軸受、歯車、車軸、ボールねじ等の回転部品や、リニアガイド、リニアボールベアリング等の摺動部品であってもよく、損傷によって周期的な振動を発生する部品であれば良い。また、回転部品の損傷に起因する周波数成分を算出するための速度信号としては、回転速度信号が用いられたが、摺動部品の場合の速度信号としては、移動速度信号が用いられる。
【0045】
さらに、検出部によって検出される信号は、音、振動、超音波(AE)、応力、変位、歪み等を含み、これらの信号では、回転或いは摺動部品を含む機械設備に欠陥または異常がある場合に、その欠陥または異常を示す信号成分を含む。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の機械設備の異常診断装置及び方法を用いた回転部品の異常診断について具体例を示す。
【0047】
図8は、外輪軌道面に欠陥をつけた円すいころ軸受を200min-1で回転中にノイズが入った時のハウジングの振動をエンベロープ処理後に周波数分析を行った結果を示す。図において、実線は、実測した振動データに基づくエンベロープ周波数スペクトルを示し、点線は基準値(ここでは、実効値+6dB)、一点鎖線は回転速度200min-1に基づく外輪損傷に起因した周波数成分(f〜f)を示している。さらに、網掛範囲は基準値を算出するために用いた周波数範囲を示しており、ここでは、f−3Hz〜f+3Hzである。この結果より、基準値を越えるピークが外輪損傷に起因した周波数成分と一致していることから、軸受の外輪が損傷していると判断することができる。
【0048】
一方、図9は、図8の場合と同条件で得られた周波数分析の結果に対して、基準値を算出するために用いた周波数範囲を全領域にした場合を示している。図9では、外輪損傷に起因した周波数成分が基準値を超えていないため、異常なしと判断してしまう虞がある。
従って、図8及び図9の結果から、比較照合に用いる基準値を実測スペクトルデータの限定した範囲から算出することにより、ノイズの影響を受け難く、精度の良い診断が可能であることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施形態である異常診断装置の概略図である。
【図2】図1の信号処理部のブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態である異常診断方法の処理フローを示すフローチャートである。
【図4】軸受の傷の部位と、傷に起因して発生する振動発生周波数の関係を示す図である。
【図5】歯車の噛み合いで発生する異常振動周波数の関係式を説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態である異常診断装置の概略図である。
【図7】異常診断装置の検出部が組み込まれた機械設備である鉄道車両用軸受装置の断面図である。
【図8】実施例の異常診断を説明するための図である。
【図9】従来の異常診断を説明するための図である。
【符号の説明】
【0050】
10,70 機械設備
12 転がり軸受(回転部品)
20 検出部
22 センサ
30 制御器
32 信号処理部
34 制御部
40 出力装置
45 レポート作成部
46 記憶部
47 データ出力部
50 データ蓄積分配部
52 回転分析部
54 フィルタ処理部
56 振動分析部
58 比較判定部
60 内部データ保存部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の波形の周波数分析を行い、該周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
を備え、
前記比較照合に用いられる基準値は、前記実測スペクトルデータの限定した周波数範囲に基づいて算出されることを特徴とする機械設備の異常診断装置。
【請求項2】
回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の波形の周波数分析を行い、該周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
該信号処理部にて診断された診断結果を記憶する記憶部と、
前記診断結果を所定の形式で出力する出力部と、
該出力部によって出力される出力結果を、少なくとも一つのプログラムに基づいてレポートを作成するレポート作成部と、
を備えることを特徴とする機械設備の異常診断装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記検出された信号に増幅処理とフィルタ処理の少なくとも一方を施し、その処理された波形にエンベロープ処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項4】
前記信号処理部による判定結果を伝送するデータ伝送手段を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項5】
前記信号処理部による処理、及び前記判定結果を制御系に出力する処理を行なうマイクロコンピュータを具備したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項6】
前記機械設備は鉄道車両用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項7】
前記機械設備は風車用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項8】
前記機械設備は工作機械主軸用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項9】
回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
該検出された信号の波形の周波数を分析する工程と、
該分析工程で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを比較照合する工程と、
該比較工程での照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する工程と、
を備え、
前記比較照合に用いられる基準値は、前記実測スペクトルデータの限定した周波数範囲に基づいて算出されることを特徴とする機械設備の異常診断方法。
【請求項10】
回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
該検出された信号の波形の周波数を分析する工程と、
該分析工程で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを比較照合する工程と、
該比較工程での照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する工程と、
前記分析、比較、判定工程の少なくとも一つにて得られる診断結果を記憶する工程と、
前記診断結果を所定の形式で出力する工程と、
該出力工程によって出力される出力結果を、少なくとも一つのプログラムに基づいてレポートを作成する工程と、
を備えることを特徴とする機械設備の異常診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−234784(P2006−234784A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168204(P2005−168204)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】