説明

機械部品の製造方法

【課題】アップセット成形と型鍛造とを組み合わせた機械部品の製造方法において、完成品としての機械部品にバリが発生するのを低減しつつ、上型や下型に割れ等の損傷が生じるのを防止する手段を提供する。
【解決手段】本発明に係る機械部品の製造方法は、ワークを上型によって下枠内のキャビティへ押し込んで所定形状に鍛造する機械部品の製造方法であって、前記キャビティの容積と前記ワークの体積との比である、前記キャビティの容積/前記ワークの体積の値を、0.97以上であって1未満としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型のキャビティ内でワークを塑性変形させて所定形状に鍛造する機械部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンバルブのような機械部品を製造する場合、アップセット成形と型鍛造とを組み合わせた製造方法が用いられる。この製造方法では、まず金属棒であるワークの一端部にアップセット成形を施す、すなわちワークを加熱しながら軸方向へ押圧することにより、ワークの一端部を径方向に膨出させる。そして、下型に形成された所定形状のキャビティの内部に、径方向に膨出したワークの一端部をセットし、下型に対向して設けられた上型でワークを鍛造するすなわち繰り返し鍛造することにより、ワークをキャビティに沿った形状に成形する(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このようなエンジンバルブの製造方法では、鍛造により塑性変形したワークが上型と下型との間の隙間に流入することにより、完成した機械部品にバリが生じるという問題がある。従って、このバリの発生を低減させるべく、いわゆるバリレス鍛造が近年採用されている。このバリレス鍛造では、ワークを鍛造する上型を、キャビティの開口に隙間無く嵌合する形状に形成する。そうすれば、塑性変形したワークが流入する隙間が上型と下型との間に生じないため、バリの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−51991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、機械部品の製造方法として用いられる従来のバリレス鍛造では、上型の形状がキャビティの開口に隙間無く嵌合する形状であるため、鍛造時にはキャビティ内部が密封状態となる。従って、上型と下型との間に作用する最大面圧が大きくなって、鍛造を繰り返す間に上型や下型に割れ等の損傷が生じやすく、金型の寿命が短くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、アップセット成形と型鍛造とを組み合わせた機械部品の製造方法において、完成品としての機械部品にバリが発生するのを低減しつつ、上型や下型に割れ等の損傷が生じるのを防止する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明に係る機械部品の製造方法は、ワークを上型によって下枠内のキャビティへ押し込んで所定形状に鍛造する機械部品の製造方法であって、前記キャビティの容積と前記ワークの体積との比である、前記キャビティの容積/前記ワークの体積の値を、0.97以上であって1未満としたことを特徴とする。
【0008】
このような製造方法によれば、ワークの体積をキャビティの容積に近い大きさとすることにより、上型によって鍛造されて塑性変形したワークのうち、上型と下型との間の隙間に流入するワークの量が少なくなる。従って、上型でワークを鍛造する力は最小限の力で済むため、上型と下型との間に生じる面圧は小さくなる。これにより、上型や下型に割れ等の損傷が生じにくい。
【0009】
また、本発明に係る機械部品の製造方法は、前記キャビティの径に対する前記ワークの径の比を、0.5以上であって0.6以下としたことを特徴とする。
【0010】
このような製造方法によれば、キャビティの径に対するワークの径の比が0.5以上であるため、キャビティの容積に対してワークの体積が不足することがなく、鍛造後の機械部品にいわゆる欠肉が発生しない。また、キャビティの径に対するワークの径の比が0.6以下であるため、キャビティの容積に対してワークの体積が過多となることもなく、鍛造後の機械部品に割れは発生せずまたバリが大量に発生することもない。
【0011】
また、本発明に係る機械部品の製造方法は、前記キャビティの溝深さに対する前記ワークの長さの比を、0.4以上であって0.7以下としたことを特徴とする。
【0012】
このような製造方法によれば、キャビティの溝深さに対するワークの長さの比が0.4以上であるため、キャビティの容積に対してワークの体積が不足することがなく、鍛造後の機械部品にいわゆる欠肉が発生しない。また、キャビティの溝深さに対するワークの長さの比が0.7以下であるため、キャビティの容積に対してワークの体積が過多となることもなく、鍛造後の機械部品に割れは発生せずまたバリが大量に発生することもない。
【0013】
また、本発明に係る機械部品の製造方法は、前記ワークが、1000℃以上であって1200℃以下の温度に保持された状態で鍛造されることを特徴とする。
【0014】
このような製造方法によれば、鍛造時にワークが1000℃以上の温度に保持されるので、ワークを十分に塑性変形させてキャビティに合致した形状に成形することができる。また、鍛造時にワークが1200℃以下の温度に保持されるので、強靭な組織を有する機械部品が製造される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る機械部品の製造方法によれば、アップセット成形と型鍛造とを組み合わせた機械部品の製造方法において、完成品としての機械部品にバリが発生するのを低減しつつ、上型や下型に割れ等の損傷が生じるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンバルブの製造方法に関し、特にアップセット成形について説明する説明図である。
【図2】ワークのアップセット成形部の周辺を拡大した部分拡大正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るエンジンバルブの製造方法に関し、特に型鍛造について説明する説明図である。
【図4】キャビティの容積について説明するための概略断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るエンジンバルブの製造方法に関し、特に型鍛造について説明する説明図である。
【図6】「キャビティの容積/ワークの体積」の値と、上型の押圧面と下型の被押圧面との間に作用する最大面圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態に係る機械部品の製造方法ついて説明する。ここで本実施形態では、機械部品の一例であるエンジンバルブを、アップセット成形と型鍛造との組み合わせによって製造する方法について説明する。そしてまず、アップセット成形に使用するアップセット成形装置の構成、及び型鍛造に使用する型鍛造装置の構成について、図1及び図3を用いてそれぞれ説明する。
【0018】
図1(a)に示すように、アップセット成形装置10は、往復動可能に設けられたピストンロッド11と、このピストンロッド11の往復動方向に所定間隔だけ離間して設けられた台座12と、ピストンロッド11と台座12の間に設けられた支持電極対13と、を備えるものである。
【0019】
ピストンロッド11は、被加工物としてのワークWの一端を押圧するためのものである。このピストンロッド11は、空気や油等を駆動源として図1(a)に向かって上下方向に往復動可能となっている。また、台座12は、ワークWの他端を支持するためのものである。また、支持電極対13は、ワークWを挟持することで移動不能に保持する役割と、加熱時にワークWを電源(不図示)に接続する役割とを果たすものである。この支持電極対13は、ピストンロッド11の往復動方向と略直交する方向へ所定距離だけ離間して配置され、互いに近接しまたは離間するようにそれぞれ移動可能に設けられている。
【0020】
図3に示すように、型鍛造装置20は、固定して設置された下型21と、その上方に設置されて下型21に近接しまたは離間するように移動可能な上型22と、を有するものである。尚、本実施形態では下型21を固定して上型22を移動可能としたが、これに限られず、上型22を固定して下型21を移動可能としてもよいし、または上型22と下型21の両方を移動可能としてもよい。
【0021】
下型21は、図3に示すように、上型22に面する被押圧面211の中央部に、製造すべきエンジンバルブの形状に対応した形状のキャビティ212が形成されている。そして、このキャビティ212の底部から上型22とは逆方向へ延びるようにして、ワークWと略同径のワーク挿通穴213が形成されている。
【0022】
上型22は、図3に示すように、下型21に面する押圧面221の中央部に、下型21のキャビティ212に略嵌合する形状の凸部222が形成されている。ここで、凸部222の押圧面221からの突出高さH1は、キャビティ212の被押圧面211からの溝深さH2より小さく形成されている。これにより、凸部222の存在に拘らず、押圧面221と被押圧面211とが当接する位置まで上型22を下型21に近接させることが可能となっている。
【0023】
ここで図4は、下型21のキャビティ212の周辺を拡大した部分拡大断面図である。尚、図4では説明の便宜上、キャビティ212とワーク挿通穴213との境界をキャビティ境界線23として図示している。下型21のキャビティ212は、上型22の凸部222より若干大径に形成されている。これにより、上型22の押圧面221が下型21の被押圧面211に当接する位置まで凸部222をキャビティ212に嵌合させた時に、上型22と下型21との間には若干のラジアル隙間24が形成される。
【0024】
また本願発明では、図4に示すように、上型22の凸部222を下型21のキャビティ212に嵌合させた状態において網状のハッチングを施した領域、すなわち上型22の凸部222の下面と、キャビティ212の内周面と、キャビティ境界線23とによって包囲される空間の容積を、「キャビティ212の容積」として定義する。尚、上型22と下型21との間に形成される前記ラジアル隙間24の容積は、この「キャビティ212の容積」には含まれないものとする。
【0025】
次に、アップセット成形装置10及び型鍛造装置20を用いたエンジンバルブの製造方法について、工程毎に説明する。本実施形態では、被加工物であるワークWとして、SUH(Steel Use Heat Resisting)と呼ばれ、高温環境下で耐酸化性、耐腐食性、または高強度を有する耐熱鋼からなる棒状の素材が用いられる。
【0026】
エンジンバルブを製造しようとする作業者は、まず図1(a)に示すように、略円柱形状の金属棒であるワークWをアップセット成形装置10にセットする。すなわち作業者は、アップセット成形装置10を構成する支持電極対13を十分に離間させた状態において、ワークWの長手方向一端を台座12に当接させるとともに、長手方向他端をピストンロッド11に当接させる。
【0027】
次に作業者は、図1(b)に示すように、支持電極対13を互いに近接する方向へそれぞれ移動させることにより、ワークWを支持電極対13で両側から挟持する。そして作業者は、この状態からピストンロッド11を台座12に近付く方向へ移動させることにより、ワークWの長手方向他端をピストンロッド11で押圧する。
【0028】
そうすると、図1(c)に示すように、ワークWの台座12側の端部には、径方向へ膨出してなるアップセット成形部WAが成形される。その後作業者は、図1に詳細は示さないが、支持電極対13を互いに離間する方向へそれぞれ移動させるとともに、ピストンロッド11を台座12から遠ざかる方向へ移動させる。これにより、支持電極対13による挟持及びピストンロッド11による押圧からワークWを開放する。そして作業者は、ワークWをアップセット成形装置10から取り出す。
【0029】
ここで、図2は、ワークWのアップセット成形部WAの周辺を拡大した部分拡大正面図である。アップセット成形後のワークWは、図2に示すように、アップセット成形前のワークWと同径の軸部WJと、径方向に膨出したアップセット成形部WAとを有している。そして本願発明では、アップセット成形部WAの体積を「ワークWの体積」として定義する。尚、図2では説明の便宜上、アップセットと軸部WJとの境界を、アップセット境界線WBとして図示している。
【0030】
次に作業者は、図3に示すように、アップセット成形部WAが形成されたワークWを型鍛造装置20にセットする。すなわち作業者は、型鍛造装置20の上型22を下型21から十分に離間させた状態において、ワークWの軸部WJをワーク挿通穴213に挿通させ、ワーク挿通穴213より大径のアップセット成形部WAがキャビティ212の底部に当接した状態とする。この時、アップセット成形部WAの頂部は、下型21の被押圧面211より上方へ突出した状態となっている。
【0031】
そして作業者は、ワークWを鍛造して所定形状に変形させる。すなわち作業者は、図3に示す状態から上型22を下型21に対して近接するようにまたは離間するように往復動させ、上型22の凸部222でワークWを鍛造する動作を繰り返す。これにより、図5に示すように、ワークWが塑性変形してキャビティ212の内周面に沿った形状となり、所望の形状のエンジンバルブが完成する。また、塑性変形したワークWの一部は、上型22と下型21との間に形成されたラジアル隙間24へ侵入する。そして、このラジアル隙間24に侵入した部分が、完成したエンジンバルブの周縁部にバリBとして形成される。
【0032】
最後に作業者は、エンジンバルブからバリBを除去する後処理を行う。すなわち作業者は、図に詳細は示さないが、回転駆動される砥石を径方向に移動させて図5に示すバリBを研磨することにより、エンジンバルブの周縁部からバリBを除去する。
【0033】
ここで、鍛造時に上型22の押圧面221と下型21の被押圧面211との間に軸方向への隙間(不図示)が形成される場合、塑性変形したワークWの一部が、図5に示すラジアル隙間24だけでなく軸方向への隙間にも侵入することにより、完成したエンジンバルブの周縁部には図5に示すような軸方向に延びるバリBだけでなく、径方向に延びるバリも形成される。従って、この場合の後工程としては、前述のように砥石を用いた研磨によって軸方向に延びるバリBを除去する作業だけでなく、回転駆動される旋盤を軸方向に移動させて径方向に延びる不図示のバリを切削して除去する作業が必要となる。この点、本実施形態では鍛造時に押圧面221と被押圧面211とが密着し両者の間に隙間が生じないため、完成したエンジンバルブの周縁部には径方向に延びるバリは形成されない。従って、本実施形態に係るエンジンバルブの製造工程によれば、後工程が砥石による研磨作業だけで足り、旋盤による切削作業が不必要な分、径方向に延びるバリが形成される場合と比較して作業を簡略化することができるという利点がある。
【0034】
ところで、本願発明では、「キャビティ212の容積」を「ワークWの体積」で除算した「キャビティ212の容積/ワークWの体積」の値が0.97以上であって1未満となるように、キャビティ212の容積を設計している。このように、キャビティ212の容積をワークWの体積に近い大きさとすれば、塑性変形して上型22と下型21との間のラジアル隙間24に流入するワークWの量が少なくなる。従って、上型22の凸部222でワークWを鍛造する力は最小限の力で済むため、上型22の押圧面221と下型21の被押圧面211との間に生じる面圧は小さくなる。これにより、上型22や下型21には割れ等の損傷が生じにくい。
【0035】
図6は、「キャビティ212の容積/ワークWの体積」の値と、上型22の押圧面221と下型21の被押圧面211との間に作用する最大面圧との関係を示すグラフであって、横軸が「キャビティ212の容積/ワークWの体積」を、縦軸が最大面圧をそれぞれ示している。また、図6中における黒四角のプロット、白三角のプロット、白四角のプロットは、アップセット成形部WAの形状が互いに異なるタイプA,Bであることをそれぞれ意味している。ここで、黒四角で示すタイプAのワークWに着目すると、「キャビティ212の容積/ワークWの体積」の値が0.97以上であって1未満の範囲にあるプロットは、いずれもその最大面圧が図中に二点差線で示す面圧閾値Sを下回っている。従って、鍛造を繰り返しても上型22や下型21に割れ等の損傷が生じにくい。他方、「キャビティ212の容積/ワークWの体積」の値が0.97未満の範囲にあるプロットは、いずれもその最大面圧が面圧閾値Sを上回っている。従って、鍛造を繰り返す間に上型22や下型21に割れ等の損傷が生じやすい。
【0036】
また、図6中に白四角で示すタイプBのワークWに着目した場合も、タイプAのワークWと同様に、「キャビティ212の容積/ワークWの体積」の値が0.97以上であって1未満の範囲にあるプロットは、いずれもその最大面圧が面圧閾値Sを下回っており、上型22や下型21に損傷が生じにくい。他方、「キャビティ212の容積/ワークWの体積」の値が0・97未満の範囲にあるプロットは、その最大面圧が面圧閾値Sを上回っており、上型22や下型21に損傷が生じやすい。
【0037】
尚、キャビティ212は、その容積が上記の関係を満たす範囲であれば、その断面形状は本実施形態の形状に限定されず、適宜設計変更が可能である。
また、本実施形態では、「キャビティ212の容積/ワークWの体積」の値を0.97以上であって1未満に設定する手段としてキャビティ212の容積を制御したが、これに代えて、ワークWの体積を制御してもよい。すなわち、ワークWの一端に形成されるアップセット成形部WAが所望の体積になるよう、アップセット成形装置10の各部を調整してもよい。しかし、本実施形態のようにキャビティ212の容積を制御する方が、ワークWの体積を制御する場合と比較して、その制御が容易化するという利点がある。
【0038】
また、本実施形態では、キャビティ212の容積を上記のように設計した条件下において、更にキャビティ212の径、キャビティ212の溝深さ、及び鍛造時におけるワークWの温度が鍛造後のエンジンバルブにそれぞれどのような影響を及ぼすかについても実験を行った。ここで本願発明では、図3に示すキャビティ212の最大径R2を「キャビティ212の径」と定義する。更に本願発明では、図2に示すアップセット成形部WAの最大径Raを「ワークWの径」と定義するとともに、アップセット成形部WAの軸方向長さLaを「ワークWの長さ」として定義する。
【0039】
その結果、図3に示すキャビティ212の径に対するワークWの径の比が0.5以上であって0.6以下である場合に、良好なエンジンバルブを製造することができた。すなわち、キャビティ212の径に対するワークWの径の比が0.5より小さい場合には、キャビティ212の容積に対してワークWの体積が不足することにより、完成したエンジンバルブの一部が欠落する、いわゆる欠肉が発生した。一方、キャビティ212の径に対するワークWの径の比が0.6より大きい場合には、キャビティ212の容積に対してワークWの体積が過多となることにより、完成したエンジンバルブに割れが発生し或いはバリBが大量に発生した。この点、キャビティ212の径に対するワークWの径の比が0.5以上であって0.6以下の範囲である場合、欠肉が発生することなく且つバリBの発生も少なかった。
【0040】
また、図3に示キャビティ212の溝深さH2に対するワークWの長さの比が0.4以上であって0.7以下である場合に、良好なエンジンバルブを製造することができた。すなわち、キャビティ212の溝深さH2に対するワークWの長さの比が0.4より小さい場合には、キャビティ212の容積に対してワークWの体積が不足することにより、いわゆる欠肉が発生した。一方、キャビティ212の溝深さH2に対するワークWの長さの比が0.7より大きい場合、キャビティ212の容積に対してワークWの体積が過多となることにより、完成したエンジンバルブに割れが発生し或いはバリBが大量に発生した。この点、キャビティ212の溝深さH2に対するワークWの径の比が0.4以上であって0.7以下の範囲である場合、欠肉が発生することなく且つバリBの発生も少なかった。
【0041】
また、鍛造時におけるワークWの温度が1000℃以上であって1200℃以下である場合に、良好なエンジンバルブを製造することができた。すなわち、ワークWの温度が1000℃未満の状態で鍛造を行うと、ワークWが十分に塑性変形せず、キャビティ212に合致した形状にワークWを成形することができないという問題が生じる。一方、ワークWの温度が1200℃を超えた状態で鍛造を行うと、鍛造後のエンジンバルブの組織が脆弱になるという問題が生じる。この点、ワークWの温度が1000℃以上1200℃以下の状態で鍛造を行うと、ワークWを十分に塑性変形させてキャビティ212に合致した形状に成形することができるとともに、強靭な組織を有するエンジンバルブを製造することができる。
【0042】
尚、上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 アップセット成形装置
11 ピストンロッド
12 台座
13 支持電極対
20 型鍛造装置
21 下型
211 被押圧面
212 キャビティ
213 ワーク挿通穴
22 上型
221 押圧面
222 凸部
23 キャビティ境界線
24 ラジアル隙間
B バリ
H1 突出高さ
H2 溝深さ
La アップセット成形部の軸方向長さ
R2 キャビティの最大径
Ra アップセット成形部の最大径
S 面圧閾値
W ワーク
WA アップセット成形部
WB アップセット境界線
WJ 軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを上型によって下枠内のキャビティへ押し込んで所定形状に鍛造する機械部品の製造方法であって、
前記キャビティの容積と前記ワークの体積との比である、前記キャビティの容積/前記ワークの体積の値を、0.97以上であって1未満としたことを特徴とする機械部品の製造方法。
【請求項2】
前記キャビティの径に対する前記ワークの径の比を、0.5以上であって0.6以下としたことを特徴とする請求項1に記載の機械部品の製造方法。
【請求項3】
前記キャビティの溝深さに対する前記ワークの長さの比を、0.4以上であって0.7以下としたことを特徴とする請求項1に記載の機械部品の製造方法。
【請求項4】
前記ワークが、1000℃以上であって1200℃以下の温度に保持された状態で鍛造されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の機械部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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