説明

機械部品・転がり軸受用転動体・軌道輪およびその超仕上げ加工方法

【課題】交差角模様の加工跡がない機械部品、特に転動体,軌道輪等の軸受部品と、これを用いた転がり軸受と、これらの交差角模様の加工跡の生じない加工が行える超仕上げ加工方法を提供する。
【解決手段】転動体,軌道輪等となる機械部品である被加工物8を超仕上げ加工する方法である。回転する弾性砥石4の加工面4bの表面形状を、被加工物8の被加工面8aに応じた形状とする。被加工物8を回転させ、被加工物8の被加工面8aの端部から回転する弾性砥石4を当てる。この弾性砥石4の被加工物表面に応じて形成した加工面4bが、被加工物8の被加工面8aに沿う加工軌跡で、弾性砥石4を移動させる。このように超仕上げ加工された被加工物8の被加工面8aは、交差角模様の加工跡がない平滑面となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機械部品、特に転がり軸受における転動体や内外の軌道輪などの軸受部品と、これら機械部品,軸受部品の超仕上げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の超仕上げ技術は、被加工物を研削加工した後の後工程で、非回転の砥石を揺動させながら作用させ、その面粗度を向上させるようにして行われている。特許文献1には、超仕上げ用砥石を用いて円筒状転動体の表面の微細な凸部にクラウニングを形成する加工方法が開示されている。特許文献2には、自動調心ころ軸受の球面ころの外周面を超仕上げ加工する方法および装置が開示されている。また、ころ軸受における内輪または外輪からなる軌道輪を超仕上げ加工する方法あるいは装置の例として、特許文献3および特許文献4に開示されている方法,装置が挙げられる。特許文献5には、自動調心ころ軸受の製造において、外輪軌道を形成するための加工条件を定め、各球面ころのスキューによる摩擦および発熱を抑制する技術が開示されている。
【0003】
図7は、円筒状被加工物の周面を砥石で超仕上げ加工する要領の一例を概念的に示している。図7において、円筒状被加工物100は、白抜矢印100Aに示すように、その軸心周りに回転し、この回転する被加工物100の周面に対して、砥石101を被加工物100の軸心方向に沿った白抜矢印101A方向にトラバースさせながら作用させることによって、被加工物100の周面の超仕上げ加工がなされる。
【特許文献1】特開2004−174641号公報
【特許文献2】特開2007−168055号公報
【特許文献3】特開2007−260829号公報
【特許文献4】特開2007−260830号公報
【特許文献5】特開2007−333161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜4に開示された超仕上げ加工方法や装置、あるいは図7に示すような超仕上げ加工方法においては、いずれも、非回転の砥石の動きと被加工物の回転が常に一定の角度を作り、被加工物の表面に交差角と呼ばれる筋状の模様が形成される。また、クラウニング形状や対数形状、あるいは曲線が組み合わさった形状等の複雑な形状に対して、超仕上げ機構が追従できず、そのため、被加工物の形状を崩すことがあった。さらに型番毎、つまり製品仕様ごとに被加工物の外径旋回半径が変わるため、段取り工数の増加、段取り部品の多岐化が避けられず、加工効率や生産管理の点で問題となっていた。
【0005】
この発明の目的は、仕上げ加工面が、交差角模様の加工跡のない平滑面とできて、面粗度の向上が図れる機械部品、転がり軸受用転動体、軌道輪、および転がり軸受を提供することである。
この発明の他の目的は、仕上げ加工面が、交差角模様の加工跡のない平滑面とできて、面粗度の向上が図れる、機械部品、転がり軸受用転動体、および軌道輪の加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の機械部品は、表面が仕上げ加工され、その仕上げ加工面が、交差角と呼ばれる模様の加工跡がない平滑面であることを特徴とする。機械部品は、機械を構成する部品であり、その代表例として、転がり軸受の転動体や軌道輪等の機械部品がある。
この発明の転がり軸受用転動体は、表面が超仕上げ加工され、その仕上げ加工面が、交差角と呼ばれる模様の加工跡がない平滑面であることを特徴とする。
この発明の転がり軸受用軌道輪は、転走面が超仕上げ加工され、その仕上げ加工面が、交差角と呼ばれる模様の加工跡がない平滑面であることを特徴とする。
上記構成の機械部品、転がり軸受用転動体、および転がり軸受用軌道輪は、いずれも、仕上げ加工面が、交差角と呼ばれる模様の加工跡がない平滑面であるため、面粗度の向上が図れ、この機械部品や、この機械部品に接する相手部材の寿命向上等の品質向上の効果が得られる。
機械部品が、転がり軸受用転動体や転がり軸受用軌道輪である場合、その転動体表面や軌道輪の転走面は、表面の面粗度が転がり寿命に影響する。これらの転動体表面や転走面が、交差角と呼ばれる模様の加工跡がない平滑面であると、面粗度が向上するため、これら転動体や軌道輪の転動寿命の向上効果が得られ、軸受の寿命向上に繋がる。
【0007】
この発明の機械部品において、外周面が、回転する弾性砥石で超仕上げ加工されたものであっても良い。
例えば、上記転がり軸受用転動体は、外周面が、回転する弾性砥石で超仕上げ加工されたものであっても良い。
また、上記転がり軸受用軌道輪は、転走面が、回転する弾性砥石で超仕上げ加工されたものであっても良い。
この構成の場合、砥石が弾性を有し、しかも回転しながら被加工面に作用するから、交差角模様のない平滑面が好適に形成される。また、砥石の有する弾性作用によって、クラウニング形状や対数形状、あるいは曲線が組み合わさった形状等の複雑な形状の超仕上げ加工も好適になされる。
【0008】
この発明の機械部品は、外周面およびこの外周面の縁の面取り部にわたり、回転する弾性砥石で超仕上げ加工されたものであっても良い。
また、この発明の転がり軸受用転動体は、ころ形状の転動体であって、外周面およびこの外周面と端面との間の角部に設けた面取り部が、回転する弾性砥石で超仕上げ加工されたものであっても良い。
この発明の転がり軸受用軌道輪は、転走面およびこの転走面の両側に隣接する周面部分が、回転する弾性砥石で超仕上げ加工されたものであっても良い。
この構成の場合、機械部品の外周面と面取り部にわたり弾性砥石で超仕上げ加工されており、ころ形状の転動体の場合は外周面と面取り部にわたり、また軌道輪の場合は、転走面およびその両側に隣接する周面部分が弾性砥石で超仕上げ加工されているため、これらの各面にわたる複雑な形状部分も、回転する弾性砥石の超仕上げ加工により、交差角模様のない平滑面とされる。特に、砥石が弾性を有するから、このような複雑な形状部分での超仕上げ加工を行うにつき、精密な形状が崩されることなく加工でき、複雑な形状部分の超仕上げ加工が良好に行える。
【0009】
この発明に係る転がり軸受は、この発明の上記いずれかの転がり軸受用転動体または転がり軸受用軌道輪を用いたことを特徴とする。
この構成によると、転がり接触する面である転動体の表面または軌道輪の転走面が、超仕上げ加工されて、交差角模様の加工跡がない平滑面であるため、転がり軸受の転動寿命の長寿命化が図られる。
【0010】
この発明の機械部品の加工方法は、回転する弾性砥石を用いて、機械部品を超仕上げ加工することを特徴とする。
この発明の転がり軸受用転動体の超仕上げ加工方法は、転がり軸受の転動体を、回転する弾性砥石を用いて超仕上げ加工することを特徴とする。
この発明の転がり軸受用軌道輪の超仕上げ加工方法は、転がり軸受の軌道輪の転走面を、回転する弾性砥石を用いて超仕上げ加工することを特徴とする。
この発明方法によると、砥石が弾性を有し、しかも回転しながら被加工面に作用するから、交差角模様の加工跡がない平滑面が良好に形成でき、面粗度の向上が図れる。
【0011】
この発明の軸受部品の超仕上げ加工方法は、転がり軸受の転動体または軌道輪からなる軸受部品の超仕上げ加工方法であって、回転する弾性砥石の加工面の表面形状を、前記軸受部品である被加工物の被加工面の断面形状に比例した断面形状とし、この弾性砥石の前記被加工物表面の断面形状に比例した断面形状の加工面が被加工物の被加工面に沿うように、弾性砥石を移動させることにより、被加工物の被加工面を超仕上げ加工することを特徴とする。
この発明方法によると、被加工面の断面形状に比例した断面形状の加工面を持つ弾性砥石を回転させながら、被加工物の被加工面の端部から当て、被加工物の被加工面に沿うように移動させる。しかも、砥石が弾性を有し、回転しながら被加工面に作用する。そのため、交差角模様の加工跡のない平滑面が好適に形成され、面粗度の向上が図れる。特に、被加工面が、クラウニング形状や対数形状、あるいは曲線が組み合わさった形状等の複雑な形状である場合でも、精密な形状を崩すことなく加工できて、超仕上げ加工が好適になされる。また、砥石の回転軸となる主軸の幅方向セッティングと砥石形状のみで段取りが完了するため、段取り工数の減少が可能になる。この技術の確立により、汎用工作機械を用いることが可能となり、機械を新規設計する必要がなくなり、設計の省力化が実現できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明の機械部品、転がり軸受用転動体、軌道輪、および転がり軸受は、仕上げ加工面を交差角模様の加工跡がない平滑面とするため、面粗度の向上が図れる。上記仕上げ加工面を、回転する弾性砥石で超仕上げ加工した場合は、上記交差角模様の加工跡がない平滑面が良好に得られる。
この発明方法は、回転する弾性砥石を用いて、機械部品を超仕上げ加工するため、仕上げ加工面を交差角模様の加工跡がない平滑面とできて、面粗度の向上が図れる。
特に、請求項14に記載の発明方法は、転がり軸受の転動体または軌道輪からなる軸受部品の超仕上げ加工方法であって、回転する弾性砥石の加工面の表面形状を、前記軸受部品である被加工物の被加工面の断面形状に比例した断面形状とし、被加工物を回転させ、被加工物の被加工面の端部から回転する弾性砥石を当て、この弾性砥石の前記被加工物表面の断面形状に比例した断面形状の加工面が被加工物の被加工面に沿うように、弾性砥石を移動させることにより、被加工物の被加工面を超仕上げ加工するため、仕上げ加工面を交差角模様の加工跡がない平滑面とできて、面粗度の向上が図れ、また精密な形状を崩すことなく、複雑な形状に対しての仕上げ加工が実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の実施形態に係る超仕上げ加工方法に使用する超仕上げ加工装置の一例を図1と共に説明する。この加工装置は、機台1と、この機台1上に設置されて主軸2aを回転自在に支持する主軸台2と、基台1上に設置されて主軸2aの軸心O2と同心に芯押軸3aを回転自在に支持する芯押台3と、弾性砥石4を主軸軸心O2と平行な駆動軸心O4周りに回転自在に支持する砥石台5とを備える。主軸2aは、機台1または主軸台2に設置された主軸モータ(図示せず)により回転駆動される。被加工物8は、主軸2aと芯押軸3aとの間に両端が支持され、主軸2aの回転によって回転させられる。芯押台3は、その全体または芯押軸3aを、主軸軸心O2に沿う方向に位置調整自在とされる。
【0014】
弾性砥石4は、超仕上げ加工用の砥石であって、円筒状ないし円板状であり、砥石軸4aを介して砥石台5に回転自在に支持されている。弾性砥石4の外周面からなる加工面4bの断面形状については、後に説明する。
弾性砥石4は、一般に使用される砥石よりも弾性を持った砥石であり、一般的なビトリファイド砥石やレジノイド砥石(ヤング率:10000〜50000MPa)よりもヤング率が小さな材質のものが用いられる。砥石は、砥粒と、この砥粒を結び付ける接合材とで構成されるが、弾性砥石4は、結合材に、ビトリファイド(陶磁器質)、レジノイド(フェノール樹脂)よりも軟質の樹脂、例えばポリビニールアルコールやポリウレタン等の軟質樹脂を使用したものとされる。弾性砥石4には、具体的には、FBB砥石(ポリビニールアルコールと熱硬化性樹脂を反応させてなる結合材と気孔と砥粒によって構成された砥石)(ヤング率:200〜5000MPa)が用いられる。
【0015】
砥石台5には、砥石回転駆動用のモータ6と、このモータ6の回転を弾性砥石4に伝達するプーリー,ベルト等の駆動伝達機構6aが搭載されている。砥石台5は、基台1上に主軸軸心O2に沿う方向(x軸方向)に進退自在に設置された送り台7上に、主軸軸心O2と直交する方向(y軸方向)に進退自在に搭載されている。これら可動テーブル7と砥石台5とにより、弾性砥石4は2次元平面で移動可能とされている。砥石台5および送り台7の進退駆動は、それぞれ送り台7および機台1に設置されたサーボモータおよびそのモータの回転を進退動作に変換するボールねじ等の回転・直動変換機構(いずれも図示せず)等で構成される。
【0016】
上記構成の超仕上げ加工装置を用いて鋼製の被加工物8を超仕上げ加工する加工方法を説明する。先ず、被加工物8を主軸2aと心押軸3aの間に支持させる。図1の被加工物8は、円筒状または円筒状であり、その外周面が被加工面8aとされている。このように支持された被加工物8に対して、送り台7および砥石台5を移動させて、弾性砥石4の加工面4bを被加工物8の被加工面8aに近接させる。この状態で、主軸台2の主軸を矢印aのように回転させ、弾性砥石4を矢印bのように反対方向に回転させる。
弾性砥石4の加工面4bを被加工面8aに押し当て、加工面4bが、各例毎に後述する加工軌跡を描くように、砥石台5および送り台7を移動させて、被加工物8の被加工面8aを超仕上げ加工する。この弾性砥石4の加工面4bの断面形状を被加工物8の形状に応じた形状とすることにより、種々の形状の被加工物8に応じて超仕上げ加工が可能とされる。
【0017】
次に、単一曲率を持つ被加工物8の場合について、被加工物8の形状と弾性砥石4の形状との関係、および弾性砥石4の加工軌跡の算出例について説明する。図2は、被加工物8が、鋼製の転がり軸受用転動体、詳しくは円筒ころ軸受における非対称形状の円筒ころであって、仕上げ加工前の旋削や研削等の前加工工程までが完了したものである。被加工物8の被加工面8aである外周面は、最大径位置P1 に対して軸方向に非対称であるが、単一曲率の円弧形状のクウニング形状となっている。図中のP0 ,P2 は、被加工面8aの全円弧面領域の両端の軸方向位置を示す。
【0018】
(1) 先ず、被加工面8aの、最大径位置P1 に対する両側の円弧面領域P0 −P1 間、およびP1 −P2 間の距離を、適用される転がり軸受の設計パラメータから算出する。
(2) P0 −P1 間の距離をA、P1 −P2 間の距離をBとする。
(3) 弾性砥石4における加工面4bの有効幅Dを任意に設定する。加工面4bは断面円弧形状である。
(4) 弾性砥石4の加工面4bの有効幅Dにおける最大径の位置の両側部分となる加工面領域の距離B´、A´を計算する。この場合に、被加工物8の距離B:Aの比と、加工面領域の距離B´:A´の比が一致するように計算する。
すなわち、
A´=(A×D)/(A+B)
B´=(B×D)/(A+B)
とする。
(5) 被加工面8aの曲率半径をRとし、弾性砥石4の加工面4bの曲率半径rとして、次式を計算する。
r=(R×D)/(A+B)
(6) 被加工物8の半径Rと弾性砥石4の半径rの和(等価円)R+rを、弾性砥石4を円弧状に移動させる経路、すなわち加工軌跡Lの半径とする。
(7) 以上のように求めた加工面4bの形状を持つ弾性砥石4を用い、この弾性砥石4を回転させながら、上記のように円弧状の加工軌跡Lで移動させて超仕上げ加工を行う。
【0019】
上記(7) の動作を説明する。主軸軸心O2回りに回転する被加工物8の被加工面8aに対して、駆動軸心O4周りに回転する弾性砥石4の加工面4bを押し当てながら、被加工面8aの端部から、弾性砥石4を円弧状の加工軌跡Lを描くよう移動させ、被加工面8aの超仕上げ加工を行う。上記円弧状の加工軌跡Lを描く弾性砥石4の移動は、砥石台4および送り台7の移動の複合動作により行わせる。この加工軌跡Lの曲率半径は、前述のように計算した、被加工物8の被加工面8aの曲率半径Rと弾性砥石4の加工面4bの曲率半径rとの和(等価円)R+rとされる。加工軌跡Lとこれに基づく砥石台5,送り台7の動作パターン毎の動作プログラムは、数値制御装置(図示せず)等に記憶されて、実行される。
【0020】
このように弾性砥石4を回転させながら、加工軌跡Lに沿って繰り返しトラバースさせて、被加工物8の被加工面8aに作用させることにより、図示のようにP0 −P1 −P2 の単一曲率の球面が超仕上げ加工される。この加工では、被加工物8の回転と、弾性砥石4の回転と、弾性砥石4のトラバースとが加わった複合動作となるため、超仕上げ加工される球面は、交差角と呼ばれる模様の加工跡のない平滑面とされる。そのため、面粗度が向上する。
なお、図2において、弾性砥石4が2箇所に描かれているが、これは、便宜上、1個の弾性砥石4が加工軌跡Lに沿って、ほぼこの2箇所間に渡ってトラバース移動することを示している。
【0021】
図3は、複数の形状を合わせ持つ被加工物8の場合を示す。同図の被加工物8は、鋼製の転がり軸受用転動体、詳しくは円すいころ軸受における円すいころであって、被加工面8aである外周面の断面形状が、半径RBの中間円弧面領域(軸方向距離Bの部分)と、それぞれ半径RA ,RC を持つ両側の端部円弧面領域(軸方向距離A,Cの部分)とが連なった形状である。この場合における、被加工物8の形状と弾性砥石4の形状との関係および、弾性砥石4の加工軌跡の算出例について説明する。
【0022】
(1) 被加工物8の被加工面8aにおける一方の端部の円弧面領域(P0 −P1 間)、中間の円弧面領域(P1 −P2 間)、および他方の端部の円弧面領域(P2 −P3 間)の距離を、適用される転がり軸受の設計パラメータから算出する。
(2) P0 −P1 間の距離をA、P1 −P2 間の距離をB、P2 −P3 間の距離をCとする。
(3) 弾性砥石4における加工面4bの有効幅Dを任意に設定する。
(4) 弾性砥石4の加工面4bの有効幅D内で、この加工面4bのそれぞれの曲率半径とする円弧状の断面形状の部分となる、一方の端部、中間部分、他方の端部の各加工面領域の軸方向長さ、A´,B´,C′を計算する。この長さは、被加工物8の被加工面8aの各円弧面領域の長さの比A:B:Cが、各加工面領域の長さの比A´:B´:C′と一致するようにする。すなわち、
A´=(A×D)/(A+B+C)、
B´=(B×D)/(A+B+C)、
C´=(C×D)/(A+B+C)、
とする。
(5) 被加工物8の被加工面8aの半径をR、弾性砥石4の半径をrとして、それぞれの曲率部分で、次式を計算する。
r=(R×D)/(A+B)
被加工物8の各曲率半径の円弧面領域に対応する曲率半径を、それぞれRA ,RB ,RC とすると、弾性砥石4の加工面4bの各加工面領域(距離A´,B´,Cの領域)に対応するそれぞれの曲率半径rA,rB,rC は、
式、rA=(RA ×D)/(A+B+C)
rB=(RB ×D)/(A+B+C)
rC=(RC ×D)/(A+B+C)
で計算される。
(6) 被加工物8の半径Rと弾性砥石4の半径rの和(等価円)R+rを、弾性砥石4を円弧状に移動させる各経路、つまり加工軌跡Laの各部の半径とする。
(7) 以上のように求めた加工面4bの形状を持つ弾性砥石4を用い、この弾性砥石4を回転させながら、上記のように各曲率部分毎に円弧状の加工軌跡Laで移動させて、超仕上げ加工を行う。
【0023】
上記(7) の動作を説明する。主軸軸心O2周りに回転する被加工物8の被加工面8aに対して、駆動中心O4回りに回転する弾性砥石4の加工面4bを押し当てながら、被加工面8aの端部から、弾性砥石4を、各加工面領域毎に曲率半径の円弧状の加工軌跡Laを描くよう動作させ、被加工面8aの超仕上げ加工を行う。
この加工軌跡Laは、3つの領域が複合されて構成され、第1の領域の曲率半径は、被加工面8aにおける曲面領域Aの曲率半径RA と弾性砥石4の加工面4bにおける対応する加工面領域の曲率半径rAとの和(等価円)RA +rAとされる。第2の領域の曲率半径は、同曲面領域Bの曲率半径RB と同加工面領域の曲率半径rBとの和(等価円)RB +rBとされる。第3の領域の曲率半径は、同曲面領域Cの曲率半径RC と同加工面領域の曲率半径rCとの和(等価円)RC +rCとされる。
【0024】
このように弾性砥石4を回転させながら、加工軌跡Laに沿って繰り返しトラバースさせて、被加工物8の被加工面8aに作用させることにより、図示のようにP0 −P1 −P2 −P3 の複数の形状を併せ持つ曲面が超仕上げ加工される。この加工においても、被加工物8の回転と、弾性砥石4の回転と、弾性砥石4のトラバースとが加わった複合動作となるため、超仕上げ加工される曲面は、交差角と呼ばれる模様の加工跡のない平滑面とされる。そのため、面粗度が向上する。
【0025】
図4と共に、面取り部の加工について説明する。同図は、図2に示した円筒ころ形状の軸受用転動体となる被加工物8における外周面8aと、端面8bとの間の角部に設けた面取り部8cを超仕上げ加工する状態を示す。
(1) 先ず、被加工物8の面取り部8cにおける超仕上げ加工する領域の両端(軸方向位置P0 −P1 )をつなぐ円弧の半径Rを算出する。
(2) 弾性砥石4の断面円弧状とした端部円弧状部分4cの円弧半径rを、任意に設定する。
(3) 被加工物8における面取り部8cの曲率中心8coから半径R+rの円弧を描く。
(4) 被加工物8における面取り部8cの曲率中心8coと、加工したい部分の両側の端部P0 ,P1 とをそれぞれ直線で繋ぐ。
(5) 上記半径R+rの円弧における、上記各直線との交点Lb0 ,Lb1 を弾性砥石4の稼働範囲とする。すなわち、上記半径R+rの円弧における、上記両交点間の部分を加工軌跡Lbとする。
(6) 以上に示すように弾性砥石4を設け、弾性砥石4を回転させながら上記加工軌跡Lbで移動動作させることで、面取り部8cの超仕上げ加工を行う。
【0026】
上記(6) のを動作を説明する。主軸軸心O2回りに回転する被加工物8の面取り部8cに対し、駆動軸心O4回りに回転する弾性砥石4の端部円弧状部分4cを押付けながら、砥石台5および送り台7を作動させて、弾性砥石4を加工軌跡Lbを描くよう動作させ、面取り部8cの超仕上げ加工を行う。この場合、曲率中心8COとP0 およびP1 を結ぶ線分と加工軌跡Lbとの交点Lb0 −Lb1 間が弾性砥石4の移動範囲とされる。図4の拡大部分には、弾性砥石4が2個描かれているが、それぞれが交点Lb0 、Lb1 に対応する位置にある場合を示している。
このように弾性砥石4を、その駆動軸心O4周りに回転させ、かつ、加工軌跡Lbに沿って交点Lb0 −Lb1 間を繰り返しトラバースさせながら、被加工物8の角部に作用させることにより、図示のようにP0 −P1 間の面取り部8cが超仕上げ加工され、この加工面は交差角と呼ばれる模様の加工跡のない平滑面とされる。
【0027】
図5は、図1の超仕上げ加工装置を用いて、被加工物としての転がり軸受用軌道輪の転走面およびこの転走面の両側に隣接する周面部分を超仕上げ加工する状態を示している。図示の転がり軸受用軌道輪9は、単列の円筒ころ軸受における両鍔付きの内輪である。この内輪(被加工物)9は中空円筒形であり、その外周面が転走面9aとされ、この転走面9aの両端の鍔部9bに至る周面部分も含んで被加工面とされる。この被加工物9は、前記と同様に、主軸台2aと心押軸3a間に支持される。次いで、砥石台6および送り台7を移動させて、弾性砥石4の加工面4bを被加工物9の被加工面(両側の周面部分含む)9aに近接させる。この状態で、主軸2aを矢印aのように回転させ、また、弾性砥石4を矢印bのように逆方向に回転させる。そして、弾性砥石4を被加工物9の被加工面9aに押し当ると共に弾性砥石4の加工面4bが所定の加工軌跡を描くように、砥石台5および送り台7を移動させて、被加工物9の被加工面9aを超仕上げ加工する。
【0028】
この場合も、被加工物9の形状に応じた弾性砥石4を選択して、その駆動部に取付ける。また、弾性砥石4の加工軌跡も前述と同じ要領で算出し、この算出加工軌跡に沿うように、砥石台5および送り台7の動作パターンを設定する。このようにして超仕上げ加工された被加工物9の被加工面9aは、交差角模様の加工跡のない平滑面とされる。特に、内輪や外輪のような軌道輪は、クラウニング形状や対数形状、あるいは曲線が組み合わさった複雑な形状を有しているが、このような形状に追従させた加工が可能であり、これにより形状を崩すことなく、面粗度の向上を図ることができる。
なお、外輪の超仕上げ加工は、主軸2aに対する加工ワークの取付け方、および、弾性砥石4の転走面に対する作用のさせ方が、内輪の場合と異なるが、前記と同様の手法で実施することができる。
【0029】
図6は、前述の加工方法で超仕上げ加工がなされた軸受部品(転動体8、内輪9および外輪10)を用いて組み立てられた単列の転がり軸受11を概略的に示している。この転がり軸受11は、ころ軸受であり、転動体である円筒状ころ8の外周面8a、軌道輪である内輪9の外周面(転走面)9a、およびもう一方の軌道輪である外輪9の内周面(転走面)10aが被加工面として、前記方法によって超仕上げ加工されたものである。これら軸受部品8,9,10および転動体の保持器12を組み付け構成されたころ軸受11は、互いに転がり接触する各被加工面8a,9a,10aが、交差角模様の加工跡のない平滑面とされるから、面粗度が向上し、これにより転がり軸受としての転動疲労寿命が長寿命となる。
【0030】
これら図2ないし図6の各例と共に説明したように、弾性砥石4を用い、弾性砥石4の加工面4aの断面形状および移動規制L,La,Lbを、被加工面8aの断面形状に応じた形状とするため、次の各利点が得られる。
(1) 交差角模様の加工跡の生じない平滑面が得られて、面粗度が向上する。
(2) 従来の超仕上げ技術では、複雑な形状に対応することができず、被加工物の形状を崩すことがあるが、上記実施形態とすることで、クラウニング形状や、曲線が組み合わさった形状等の複雑な形状に対しての加工が実現可能となる。
(3) 面取部まで超仕上げ加工が可能となる。
(4) 被加工物8のセッティングと砥石形状の変更のみで段取りが完了するため、段取り工数の減少が可能となる。
(5) 汎用の研削盤等の加工機を用いた加工が可能となるため、機械を新規設計する必要がなくなり、設計の省力化が実現できる。
【0031】
なお、図6に示すころ軸受11は、単列の円筒ころ軸受であるが、複列の円筒ころ軸受、針状ころ軸受、単列あるいは複列の円すいころ軸受、さらには自動調心ころ軸受であってもよい。これらにおいても、各軸受部品の形状に応じて、弾性砥石4の形状および弾性砥石4の加工軌跡を適宜設定することによって、それぞれの被加工面を交差角模様の加工跡のない平滑面とすることができるから、面粗度が向上し、前記と同様の各効果がえられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施形態に係る超仕上げ加工方法を実施するための超仕上げ加工装置を概念的に示す構成図である。
【図2】この発明の実施形態に係る超仕上げ加工方法における被加工物の形状、弾性砥石の形状および弾性砥石の加工軌跡の関係を示す線図である。
【図3】同他の実施形態における被加工物の形状、弾性砥石の形状および弾性砥石の加工軌跡の関係を示す線図である。
【図4】同さらに他の実施形態における被加工物の形状、弾性砥石の形状および弾性砥石の加工軌跡の関係を示す線図である。
【図5】図1に示す超仕上げ加工装置を用いて別の被加工物を超仕上げ加工する状態を示す図1と同様図である。
【図6】この発明の実施形態に係る軸受部品を用いて組み立てられたころ軸受の一例を示す断面図である。
【図7】従来の超仕上げ加工の要領を示す概念的斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
4…弾性砥石
4b…加工面
8…転動体(軸受部品、被加工物)
8a…外周面(被加工面)
8c…面取り部(被加工面)
9…軌道輪(内輪、軸受部品、被加工物)
9a…転走面(被加工面)
10…軌道輪(外輪、軸受部品、被加工物)
10a…転走面(被加工面)
11…転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が仕上げ加工され、その仕上げ加工面が、交差角と呼ばれる模様の加工跡がない平滑面である機械部品。
【請求項2】
表面が超仕上げ加工され、その仕上げ加工面が、交差角と呼ばれる模様の加工跡がない平滑面である鋼製の転がり軸受用転動体。
【請求項3】
転走面が超仕上げ加工され、その仕上げ加工面が、交差角と呼ばれる模様の加工跡がない平滑面である鋼製の転がり軸受用軌道輪。
【請求項4】
外周面が、回転する弾性砥石で超仕上げ加工された請求項1に記載の機械部品。
【請求項5】
外周面が、回転する弾性砥石で超仕上げ加工された請求項2に記載の転がり軸受用転動体。
【請求項6】
転走面が、回転する弾性砥石で超仕上げ加工された請求項3に記載の転がり軸受用軌道輪。
【請求項7】
外周面およびこの外周面の縁の面取り部にわたり、回転する弾性砥石で超仕上げ加工された請求項4に記載の機械部品。
【請求項8】
ころ形状の転動体であって、外周面およびこの外周面と端面との間の角部に設けた面取り部が、回転する弾性砥石で超仕上げ加工された請求項5に記載の転がり軸受用転動体。
【請求項9】
転走面およびこの転走面の両側に隣接する周面部分が、回転する弾性砥石で超仕上げ加工された請求項6に記載の転がり軸受用軌道輪。
【請求項10】
請求項2もしくは請求項5もしくは請求項8に記載の転がり軸受用転動体、または請求項3もしくは請求項6もしくは請求項9に記載の転がり軸受用軌道輪を用いた転がり軸受。
【請求項11】
回転する弾性砥石を用いて、機械部品を超仕上げ加工することを特徴とする機械部品の超仕上げ加工方法。
【請求項12】
転がり軸受の転動体を超仕上げ加工する方法であって、回転する弾性砥石を用いて超仕上げ加工することを特徴とする転がり軸受用転動体の超仕上げ加工方法。
【請求項13】
転がり軸受の軌道輪の転走面を超仕上げ加工する方法であって、回転する弾性砥石を用いて超仕上げ加工することを特徴とする転がり軸受用軌道輪の超仕上げ加工方法。
【請求項14】
転がり軸受の転動体または軌道輪からなる軸受部品の超仕上げ加工方法であって、
回転する弾性砥石の加工面の表面形状を、前記軸受部品である被加工物の被加工面の断面形状に比例した断面形状とし、
被加工物を回転させ、被加工物の被加工面の端部から回転する弾性砥石を当て、
この弾性砥石の前記被加工物表面の断面形状に比例した断面形状の加工面が被加工物の被加工面に沿うように、弾性砥石を移動させることにより、
被加工物の被加工面を超仕上げ加工することを特徴とする、
軸受部品の超仕上げ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−139032(P2010−139032A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318108(P2008−318108)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】