説明

機能性寒天、並びにそれが含まれた食品、医薬品、化粧品及び飼料

【課題】経口投与であっても、アガロオリゴ糖の生理活性機能を十分発揮させることができる機能性寒天を提供することである。
【解決手段】1重量%のゲル化された状態で37℃の人工胃液中に2時間浸漬させると、アガロオリゴ糖が寒天の量に対し5%以上生成するように調整された機能性寒天である。本発明に係る機能性寒天は、アガロビオースを基本単位とした場合の重合度が6〜250である。さらに、本発明に係る機能性寒天は、平均分子量85,000〜1,000,000の寒天に熱処理、酵素処理、菌分解処理及び酸処理の少なくとも1以上が施されることにより調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アガロオリゴ糖(寒天オリゴ糖)の機能を発揮することが可能な機能性寒天、並びにそれが含まれた食品、医薬品、化粧品及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
寒天は、テングサやオゴノリ等の紅藻類から抽出される多糖類である。寒天の成分は、ガラクトースを基本骨格とする多糖類からなり、アガロースとアガロペクチンに分類される。アガロースの繰り返し単位であるアガロビオースの構造は、1、3位で結合したβ―D−ガラクトピラノースと1、4位で結合した3、6−アンヒドロ−α−L−ガラクトピラノースからなる。また、アガロペクチンは、寒天中のアガロース以外のイオン性の多糖類が全て含まれていると考えられており、その構造は、アガロースと同じ結合様式をしているが、部分的に硫酸エステル、メトキシル基、ピルビン酸基及びカルボキシル基が多く含まれている。
【0003】
ところで、寒天を加水分解することによって得られるアガロオリゴ糖について、抗炎症剤、抗糖尿病作用、発癌抑制作用等の有用な生理活性を有することが知られている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】WO00/43018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、経口投与されたアガロオリゴ糖は、消化管に存在するアミノ酸などと長時間接触することにより、そのアミノ酸などと結合して、その結合された状態で体内吸収されるので、上述したアガロオリゴ糖の生理活性が弱まってしまうという問題がある。また、一般の重合度の高い寒天は、生体内で分解が進まずに食物繊維として働き、アガロオリゴ糖がほとんど生成しないため、アガロオリゴ糖としての機能が期待できないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、経口投与であっても、アガロオリゴ糖の生理活性機能を十分発揮させることができる機能性寒天を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、1重量%のゲル化された状態で37℃の人工胃液(日局14、崩壊試験法、第1液)中に2時間浸漬させると、アガロオリゴ糖が寒天の量に対し5%以上生成するように寒天を調整することによって、経口投与であっても、アガロオリゴ等の生理活性機能を十分発揮させることができることを見出した。すなわち、本発明は、1重量%のゲル化された状態で37℃の人工胃液中に2時間浸漬させると、アガロオリゴ糖が寒天の量に対し5%以上生成するように調整された機能性寒天である。本発明に係る機能性寒天において、寒天の量とは、機能性寒天の量のことをい、1重量%のゲル化された状態とは、本発明に係る機能性寒天の1重量%の水溶液をゲル化させた状態をいう。
【0008】
本発明に係る機能性寒天は、経口投与されると、消化管内で胃液により分解されアガロオリゴ糖を生成して、アミノ酸との結合など他の成分との反応前に生体内に吸収されるので、アガロオリゴ糖の生理活性を十分に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、経口投与であっても、アガロオリゴ糖の生理活性機能を十分発揮させることができる機能性寒天を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る機能性寒天は、アガロビオースを基本単位とした場合の重合度が6〜250であることが好ましく、6〜200であることが特に好ましい。
【0011】
本発明に係る機能性寒天は、平均分子量85,000〜1,000,000の寒天(以下、「通常の寒天」という)に熱処理、酵素処理、菌分解処理及び酸処理の少なくとも1以上を施して、アガロビオースを基本単位とした場合の重合度を調整することによって得ることができる。
【0012】
加熱処理の方法は、特に限定されないが、例えば、粉末の通常の寒天に水を添加して、加湿状態で加熱したり、寒天を水に加熱溶解したゾルの状態で加熱することにより調整することができる。加熱処理は、常圧又は高温加圧状態において行われ、加熱温度は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることが特に好ましい。装置として、乾燥装置、加熱殺菌装置及び加熱調理装置などを用いることが可能であり、例えばエクストルーダーなどを用いることができる。アガロビオースを基本単位とした場合の重合度は、加熱温度と加熱時間を調整することによって行うことができる。すなわち、アガロビオースを基本単位とした場合の重合度を少なくする場合、加熱温度を高くしたり、加熱時間を長くする必要があり、逆に重合度を多くする場合、加熱温度を低くしたり、加熱時間を短くする必要がある。具体的には、エクストルーダーを使用した場合、ダイプレートの温度は、80〜170℃であり、処理時間は、15〜90秒であることが好ましい。
【0013】
酵素処理は、通常の寒天の水溶液にアガラーゼを添加し、35℃〜60℃の30分〜56時間の酵素反応によって行われる。反応後、例えば、100℃の加熱処理により酵素を失活させる。アガロビオースを基本単位とした場合の重合度は、酵素反応の時間を調整することによって行うことができる。すなわち、アガロビオースを基本単位とした場合の重合度を少なくする場合、反応時間を長くする必要があり、逆に重合度を多くする場合、反応時間を短くする必要がある。
【0014】
酸処理は、通常の寒天の水溶液に酸を添加して、適温で反応することにより行われる。酸処理に用いられる酸は、特に限定されてないが、硫酸、塩酸などの無機酸や酢酸、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸等を寒天に添加することによって酸処理が行われる。寒天に添加される酸の濃度は、0.01%以上が好ましく、0.05〜3%であることが特に好ましく、酸処理の反応温度は、70℃以上であることが好ましく、80〜120℃であることが特に好ましい。また、反応時間は、3分以上であることが好ましく、1〜24時間であることが特に好ましい。酸処理後は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリを使用して中和処理される。アガロビオースを基本単位とした場合の重合度は、酸の強弱、反応温度及び反応時間によって、調整することができる。すなわち、アガロビオースを基本単位とした場合の重合度を少なくする場合、硫酸などの強酸を用いたり、反応温度を高くしたり、反応時間を長くする必要があり、逆に重合度を多くする場合、酢酸などの弱酸を用いたり、反応温度を低くしたり、反応時間を短くする必要がある。具体的には、酸として硫酸を用いた場合、添加量は、0.6%であり、反応温度は、90℃であり、反応時間は、2時間であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る機能性寒天において、アガロオリゴ糖は、モノマー、ダイマー、テトラマー、ヘキサマー、オクタマー及びデカマーの合計量を基準とする。
【0016】
本発明に係る食品としては、例えば飲料、ゼリー類、ジャム、ソース、たれ、羊羹、ところてん、ケーキ類、乳製品、栄養剤、病者用食品、惣菜などがある。
【0017】
本発明に係る医薬品としては、例えばカプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、ゼリー剤などがある。
【0018】
本発明に係る化粧品としては、例えばファンデーション、乳液、パック剤、口中清涼剤、口紅などがある。
【0019】
本発明に係る飼料としては、例えば家畜用、ペット用、魚用などがある。
【0020】
本発明に係る機能性寒天の人工胃液中におけるアガロオリゴ糖の生成の確認は、以下のように行われる。先ず、本発明に係る機能性寒天1gを水100gに加熱溶解し冷却してゲルを作製する。ゲル100gを4mm角のメッシュを通過させ37℃の人工胃液500mLに入れ、これを日局14溶出試験パドル法(50rpm,37℃)で処理し、2時間経過後、生成されたアガロオリゴ糖を測定する。このように2時間経過後の生成されたアガロオリゴ糖を測定したのは、日局14崩壊試験法(6)腸溶性の製剤から、胃の中での滞留時間を120分と想定したからである。アガロオリゴ糖の定量は、HPLC法によって行う。
【実施例】
【0021】
次に、本発明に係る機能性寒天の実施例について説明する。
実施例1
先ず、市販の寒天(伊那食品工業(株)製、S−7)100部に水10部を加えて加湿状態とし、全体に均等に且つ短時間で熱処理を行うためエクストルーダー(日本製鋼所)を使用した。エクストルーダーの熱処理条件は、ダイプレートの温度90℃〜100℃、圧力0.4〜1.4MPaとし、処理時間は、25〜35秒とした。以上のような条件でエクストルーダーにより加湿状態の粉末寒天に熱処理を施すことによって、実施例1に係る機能性寒天を得た。この機能性寒天のアガロビオースを基本単位とした重合度をGPC法によって測定したところ、210であった。また市販の寒天(伊那食品工業(株)製、S−7)の重合度を同様に測定したところ、約860であった。
【0022】
実施例2
エクストルーダーの熱処理条件をダイプレートの温度100〜110℃、圧力0.8〜1.5MPa、処理時間は30〜35秒とする以外は、実施例1同様に熱処理をすることによって、実施例2に係る機能性寒天を得た。この機能性寒天のアガロビオースを基本単位とした重合度を実施例1と同様に測定したところ、150であった。
【0023】
実施例3
市販の寒天に水とともにクエン酸(磐田化学製)を0.1部加える以外は、実施例1と同様に処理して実施例3に係る機能性寒天を得た。この機能性寒天のアガロビオースを基本単位とした重合度を実施例1と同様に測定したところ、100であった。
【0024】
実験例1
実施例1乃至3に係る機能性寒天及び比較例1として市販の寒天(伊那食品工業(株)製、S−7)それぞれ1gを水100gに加熱溶解した後、冷却することによって1重量%のゲルを作製した。日局14溶出試験器の容器に日局1液(人工胃液)を500mL入れ37℃に調整し、これに4mm角のメッシュを通過させて(形のあるものは4mm角に切断し)、日局1液に入れ、37℃、パドル法、50rpmにて処理し、0分後、30分後、60分後、90分後、120分後及び180分後それぞれについて、経時的に生成されたアガロオリゴ糖の量を測定し、寒天量1gに対する測定値の割合を計算した。アガロオリゴ糖の量の測定は、ホモジナイズして均一な溶液にした後、水酸化ナトリウムで中和し、ろ過してろ液を分取し、HPLCによって分取したろ液からアガロオリゴ糖量を測定することにより行った。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
このように生体内の胃液を模倣した日局1液内で市販の寒天がほとんどアガロオリゴ糖を生成をしないのに対し、実施例1乃至3に係る機能性寒天は、アガロオリゴ糖の生成量が多く効率よくアガロオリゴ糖を摂取できることが分かる。
【0027】
実施例4
次に、実施例4に係る機能性寒天として、実施例1に係る機能性寒天を水に加熱溶解後、グラニュー糖、クエン酸、クエン酸ナトリウム及び香料を表2の配合で水に溶解させることによって、機能性寒天入飲料を得た。また、実施例1に係る代わりに市販の寒天(伊那食品工業(株)製、S−7)とすることにより、比較例2に係る寒天入飲料を得た。
【0028】
【表2】

【0029】
実験例2
実施例4に係る機能性寒天入飲料及び比較例2に係る寒天入飲料それぞれ100gを人工胃液500mLに加え日局14の溶出試験法パドル法にて2時間処理(37℃、50rpm)し、生成されたアガロオリゴ糖の量を実験例1と同様に測定した。その結果、実施例4に係る機能性寒天入飲料のアガロオリゴ糖の生成量は、寒天量に対し8.9%であり、比較例2に係る寒天入飲料のアガロオリゴ糖の生成量は、寒天量に対し 2.2%である。以上のように、実施例4に係る機能性寒天入飲料は、胃液中でアガロオリゴ糖を効率良く生成することが分かる。
【0030】
実施例5
次に、実施例5に係る機能性寒天が含まれた医薬品として、実施例1に係る機能性寒天を水に加熱溶解後、表3に示した成分を加えることにより機能性寒天入りの医薬用ビタミンゼリー剤を調整し、1包25gのスティックゼリー剤を得た。また、実施例1の代わりに市販の寒天(伊那食品工業(株)製、S−7)を加えることにより、比較例3に係る医薬用ビタミンゼリー剤を調整し1包25gのスティックゼリー剤を得た。
【0031】
【表3】

【0032】
実験例3
実施例5及び比較例3に係る医薬用ビタミンゼリー剤25gの4包、計100gを人工胃液500mLに加え日局14の溶出試験法バドル法にて2時間処理(37℃、50rpm)し、生成されたアガロオリゴ糖の量を実験例1と同様に測定した。その結果、実施例5に係る医薬用ビタミンゼリーのアガロオリゴ糖の生成量は寒天量に対し8.1%であり、比較例3に係る医薬用ビタミンゼリーのアガロオリゴ糖の生成量は、寒天量に対し1.8%である。以上のように、実施例5に係る機能性寒天は胃液中でアガロオリゴ糖を効率よく生成することがわかる。
【0033】
実施例6
次に、実施例6に係る機能性寒天が含まれた食品として、実施例1に係る機能性寒天を水に加熱溶解後、表4に示した成分を加えることにより機能性寒天入りのハチミツスプレッドを作製した。また、実施例1の代わりに市販の寒天(伊那食品工業(株)製、S−7)を加えることにより、比較例4に係るハチミツスプレッドを得た。
【0034】
【表4】

【0035】
実験例4
実施例6及び比較例4に係るハチミツスプレッド計100gを人工胃液500mLに加え日局14の溶出試験法バドル法にて2時間処理(37℃、50rpm)し、生成されたアガロオリゴ糖の量を実験例1と同様に測定した。その結果、実施例6に係るハチミツスプレッドのアガロオリゴ糖の生成量は寒天量に対し8.9%であり、比較例4に係るハチミツスプレッドのアガロオリゴ糖の生成量は、寒天量に対し2.6%である。以上のように、実施例6に係る機能性寒天は胃液中でアガロオリゴ糖を効率よく生成することがわかる。
【0036】
実施例7
実施例7に係る機能性寒天が含まれた化粧品として、実施例1に係る機能性寒天を水に加熱溶解後、表5に示した成分を加えることにより機能性寒天入りの口中清涼剤を得た。
【0037】
【表5】

【0038】
実施例8
実施例8に係る機能性寒天が含まれた飼料として、実施例1に係る機能性寒天を水に加熱溶解後、表6に示した成分を加え、さらに缶に詰めレトルト殺菌することにより機能性寒天入りのペットフードを得た。
【0039】
【表6】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
1重量%のゲル化された状態で37℃の人工胃液中に2時間浸漬させると、アガロオリゴ糖が寒天の量に対し5%以上生成するように調整された機能性寒天。
【請求項2】
アガロビオースを基本単位とした場合の重合度が6〜250であることを特徴とする請求項1記載の機能性寒天。
【請求項3】
平均分子量85,000〜1,000,000の寒天に熱処理、酵素処理、菌分解処理及び酸処理の少なくとも1以上が施されることにより調整されることを特徴とする請求項1又は2記載の機能性寒天。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載の機能性寒天が含まれたことを特徴とする食品。
【請求項5】
請求項1乃至3いずれか記載の機能性寒天が含まれたことを特徴とする医薬品。
【請求項6】
請求項1乃至3いずれか記載の機能性寒天が含まれたことを特徴とする化粧品。
【請求項7】
請求項1乃至3いずれか記載の機能性寒天が含まれたことを特徴とする飼料。



【公開番号】特開2007−154117(P2007−154117A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354545(P2005−354545)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】