説明

歯車装置およびその製造方法

【課題】歯車装置の製造作業が煩雑になることを抑制しつつ、筒体の抜け止めを確実なものにする。
【解決手段】歯車装置は、一方の相手側部材に固定可能な外筒2と、クランク軸20と、他方の相手側部材に固定可能に構成されるとともに貫通孔4bが形成され、クランク軸20の回転に連動して外筒2に対して相対回転するキャリア4と、キャリア4の貫通孔4bに挿入された筒体8と、を備える。筒体8の外周面には、当該筒体を塑性変形させることにより、突起部41〜44が形成されている。突起部41〜44は、キャリア4に形成された収容空間33と係合して、筒体8の中心軸方向Aの移動を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているように、クランク軸の偏心部によって外歯歯車を内歯に噛み合わせながら揺動回転させることにより入力回転から減速した出力回転を得る歯車装置が知られている。特許文献1に開示された歯車装置では、図7に示すように、端板61a及び基部61bを有するキャリア61の中央部分に貫通孔61cが形成されていて、この貫通孔61cにケーブルを挿通させるための筒体63が配置されている。この筒体63の中間部分には、溝63aが形成されており、この溝63aに止め輪65が外嵌されている。そして、筒体63の一端部と止め輪65とを両側から端板61a及び基部61bで挟持することによって、筒体63をキャリア61に固定している。
【0003】
また、特許文献1には、シールリングを使用して筒体を固定する形態も開示されている。この形態では、図8に示すように、筒体63の中間部分に形成された溝63aにシールリング69が嵌め込まれている。そして、シールリング69は、その弾性力によって端板61aの貫通孔61cの内周面に圧接されて密着し、これにより筒体63をキャリア61に固定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2009/119737A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7に示す止め輪65を使用して筒体63を固定する形態では、筒体63の一端部と止め輪65とを両側から端板61a及び基部61bで挟持する構成となっているため、歯車装置の製造工程において、端板61a及び基部61bを組み付けてキャリア61を形成する前に筒体63を組み付けておく必要がある。すなわち、止め輪65が取り付けられた筒体63を基部61bの貫通孔61cに挿入し、その後で端板61aを組み付ける必要がある。しかも、キャリア61及び筒体63の寸法精度を確保する必要があることから、キャリア61及び筒体63の寸法管理が必要となる。このため、図7に示す形態では、歯車装置の製造作業が煩雑になるという問題がある。一方、図8に示すシールリング69を使用する形態では、シールリング69を貫通孔61cに圧接させて弾性力によって筒体63を固定すると記載されているものの、実際には筒体63が中心軸方向に変位する虞があり、筒体63が外れてしまう虞があるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、歯車装置の製造作業が煩雑になることを抑制しつつ、筒体の抜け止めを確実なものにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明の歯車装置は、一対の相手側部材間で所定の減速比で回転力を伝達するための歯車装置であって、一方の相手側部材に固定可能な第1部材と、クランク軸と、他方の相手側部材に固定可能に構成されるとともに貫通孔が形成され、前記クランク軸の回転に連動して前記第1部材に対して相対回転する第2部材と、前記第2部材の前記貫通孔内に配置された筒体と、を備え、前記筒体の外周面には、当該筒体を塑性変形させることにより、少なくとも1個の突起部が形成され、前記突起部は、前記第1部材、前記第2部材または相手側部材と係合して、前記筒体の中心軸方向の移動を規制することを特徴としている。
【0008】
本発明では、筒体の外周面に少なくとも1個の突起部が設けられており、第1部材、第2部材または相手側部材のいずれかに係合して、筒体の中心軸方向の移動を規制することができる。したがって、筒体が第2部材の貫通孔から外れてしまうことを有効に防止することができる。しかも、突起部は塑性変形により形成されるので、筒体を挿入後に筒体の一部を塑性変形して突起部を形成することができるので、第2部材が基部に端板を組み付けた構成である場合であっても、その組み付け後に筒体を組み付けることができる。また、第2部材及び筒体の高度な寸法管理も不要となる。したがって、歯車装置の製造作業が煩雑になることを抑制することができる。
【0009】
ここで、前記突起部は、前記筒体の周方向に互いに離れて複数個配置されてもよい。この態様では、筒体の周方向において互いに離れて配置された複数個の突起部が、第1部材、第2部材または相手側部材にそれぞれ係合することが可能である。これにより、筒体の中心軸方向の移動をより確実に規制することができる。
【0010】
また、前記第2部材は、前記第1部材と前記第2部材との間における回転力の伝達をする伝達部材を収容する収容空間を有しており、当該収容空間は、前記貫通孔と連通しており、前記突起部は、前記収容空間の内壁に係合されているのが好ましい。
【0011】
この態様では、第2部材において伝達部材を収容する既存の収容空間の内壁を用いて、筒体の突起部を係合することが可能である。そのため、第2部材に突起部を係合するための凹部を新たに形成する必要がなく、製造コストを安価にできる。
【0012】
また、前記突起部は、前記筒体の中心軸方向に離間して複数個配置され、対向する前記収容空間の一対の内壁にそれぞれ係合されているのが好ましい。
【0013】
この態様では、前記突起部は、前記筒体の中心軸方向に離間して複数個配置され、前記収容空間の一対の内壁にそれぞれ係合されているので、収容空間が筒体の中心軸方向に広がっている場合でも、突起部が収容空間の一対の内壁にそれぞれ係合することにより、小さい突起部でも、筒体の中心軸方向の移動を確実に規制することができる。
【0014】
また、前記第2部材における前記貫通孔の内周面には、凹部が形成されており、前記突起部は、前記凹部に嵌合してもよい。この態様によれば、突起部が貫通孔の内周面に形成された凹部に嵌合するので、突起部と凹部との良好な係合状態を得ることが可能である。また、突起部の個数や形状に合わせて凹部を形成することが可能である。
【0015】
さらに、前記一方の相手側部材、前記他方の相手側部材または前記第2部材のいずれかの外部に露出している面のうち、前記筒体の外周面の近傍に、前記突起部が挿入される凹部が形成されており、前記凹部は、前記突起部が挿入された状態で、閉止手段によって閉じられていてもよい。この態様によれば、筒体を挿入する前にあらかじめ突起部を塑性変形により形成しておき、その後、筒体を第2部材の貫通孔に挿入するときに、前記一方の相手側部材、前記他方の相手側部材または前記第2部材のいずれかの外部に露出している面に形成された凹部に突起部を挿入し、その後で、閉止手段によって凹部を閉じることができる。これにより、筒体に突起部を形成する作業が容易になるとともに、突起部と凹部との係合を確実に達成することができる。また、閉止手段を外すことにより、筒体を第2部材の貫通孔から容易に引き出すことが可能である。
【0016】
また、本発明の歯車装置の製造方法は、一対の相手側部材間で所定の減速比で回転力を伝達するための歯車装置であり、一方の相手側部材に固定可能な第1部材と、クランク軸と、他方の相手側部材に固定可能に構成されるとともに貫通孔が形成され、前記クランク軸の回転に連動して前記第1部材に対して相対回転する第2部材と、前記第2部材の前記貫通孔に挿入された筒体とを備えた歯車装置の製造方法であって、前記筒体を前記第2部材の貫通孔に挿入する工程と、前記筒体の内周面から半径方向へ向けて力を与えて、前記筒体を塑性変形させて外周面に突起部を形成することにより、前記第1部材、前記第2部材または相手側部材と係合して、前記筒体の中心軸方向の移動を規制する工程とを含む。
【0017】
この製造方法では、筒体を第2部材の貫通孔に挿入した後に筒体の一部を塑性変形させることにより突起部を形成するので、第2部材が基部及び端板を組み付けた構成である場合であっても、その組み付け後に筒体を第2部材に組み付けることができる。また、第2部材及び筒体の高度な寸法管理も不要となる。したがって、歯車装置の製造作業が煩雑になることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、歯車装置の製造作業が煩雑になることを抑制しつつ、筒体の抜け止めを確実なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る歯車装置を示す断面図である。
【図2】図1の歯車装置の製造方法を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る歯車装置を示す断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る歯車装置を示す断面図である。
【図6】図5の突起部付近の拡大断面図である。
【図7】従来の歯車装置の断面図である。
【図8】従来の歯車装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
本実施形態に係る歯車装置は、例えばロボットの旋回胴や腕関節等の旋回部または各種工作機械の旋回部に減速機として適用される歯車装置である。以下の本実施形態の説明では、ロボットのアームなどの旋回体に歯車装置を適用した例について説明する。
【0022】
(第1実施形態)
第1実施形態に係わる歯車装置は、図1に示すように旋回体50とベース52との間で所定の減速比で回転力を伝達するものである。ベース52は、一方の相手部材の概念に含まれるものであり、旋回体50は、他方の相手部材の概念に含まれるものである。そして、本実施形態の歯車装置は、外筒2と、内歯ピン3と、キャリア4と、主軸受6と、筒体8と、中央歯車部材16と、クランク軸歯車18と、クランク軸20と、クランク軸受22と、揺動歯車24とを備えている。
【0023】
外筒2は、一方の相手側部材に固定可能な第1部材の概念に含まれるものであり、歯車装置の外面を構成するケースとして機能する。この外筒2は、略円筒状に形成されている。また、外筒2は、例えばロボットのベース52に締結される。外筒2の内面には、多数の内歯ピン3が周方向に等間隔で配設されている。内歯ピン3は、外歯歯車からなる揺動歯車24が噛み合う内歯として機能する。揺動歯車24の歯数は、内歯ピン3の数よりも若干少なくなっている。本実施形態では揺動歯車24を2個(複数)使用している。
【0024】
キャリア4は、例えばロボットの旋回体50に締結され、第1部材に対して相対的に回転可能な第2部材の概念に含まれるものであり、外筒2と同軸上に配置された状態でその外筒2内に収容されている。本実施形態では、キャリア4は、外筒2に対して同じ軸回りに相対回転する。このキャリア4は、複数のボルトB1によって旋回体50に締結される。キャリア4が外筒2に対して相対回転すると、旋回体50は、ベース52に対して旋回する。
【0025】
なお、本実施形態ではキャリア4を旋回体50に締結して旋回するようにし、外筒2をベース52に固定して不動にしているが、外筒2を旋回体50に締結し、キャリア4をベース52に締結して使用することも勿論可能である。
【0026】
キャリア4は、軸方向に離間して一対に設けられた主軸受6により外筒2に対して相対回転可能に支持されている。そして、キャリア4は、基部32と端板部34とを備えており、それらの間には、外筒2とキャリア4との間における回転力の伝達をする伝達部材である揺動歯車24を収納する収容空間33が形成されている。収容空間33は、キャリア4の貫通孔4bと連通している。
【0027】
基部32は、外筒2内においてその外筒2の端部近傍に配置される基板部32aと、その基板部32aから端板部34に向かって軸方向に延びるシャフト部32bとを有する。シャフト部32bは、ボルト5によって端板部34に締結されている。それによって、基部32と端板部34とが一体化されている。
【0028】
キャリア4の径方向中央部には、軸方向に貫通する貫通孔4bが設けられている。この貫通孔4bには、基部32の基板部32aに形成された基部貫通部38と、端板部34に形成された端板貫通部39とが含まれている。また、端板部34には、基板部32aとの反対側の端面に中央凹部34aが形成されており、端板貫通部39の一端は、この中央凹部34aの底面に開口している。
【0029】
中央歯車部材16は、駆動源であるモータMによって駆動される駆動歯車Dに噛み合う従動歯車16bと、この従動歯車16bと同心状に形成された伝達歯車16cとを一体的に有する。中央歯車部材16は、端板部34の径方向中央部に設けられており、中央歯車部材16の一部は中央凹部34aの中に入り込んでいる。そして、中央歯車部材16は、軸受17を介して端板部34に取り付けられている。これにより、中央歯車部材16は、キャリア4に対して同軸に回転自在となっている。
【0030】
中央歯車部材16の中央には、軸方向に貫通する挿通孔16aが設けられている。その挿通孔16aには、筒体8が挿通されている。挿通孔16aの内径は、筒体8の外径よりも大きい。このため、挿通孔16aの内面と筒体8の外面の間には、隙間Gが設けられている。
【0031】
筒体8は、基部貫通部38と端板貫通部39とに亘ってキャリア4と同軸となるように貫通孔4bに挿通されている。筒体8は、断面が円環状の部材によって構成されており、キャリア4の中心軸方向Aに直線状に延びている。筒体8には、配線ケーブルCなどが挿通される。筒体8は、ケーブルCと歯車装置内の各歯車等との接触を防止するとともに、その内部に潤滑油等が侵入するのを防止する。
【0032】
筒体8は、塑性変形可能な薄肉の材料が用いられ、とくに腐食や錆などの対策のためにステンレス鋼のパイプ材を使用することが好ましい。
【0033】
図1に示されるように、筒体8の外周面には、筒体8を塑性変形させることにより、4個の点状の突起部41、42、43、44が形成されている。突起部41、42の組、および突起部43、44の組は、それぞれ互いに筒体8の軸回りに対称の位置関係にある。また、突起部41、43の組、および突起部42、44の組は、それぞれ互いに筒体8の中心軸方向Aに離間した位置関係にある。
【0034】
これら4個の突起部41、42、43、44は、キャリア4の貫通孔4bに連通する収容空間33の内壁33a、33bに係合している。具体的には、筒体8の中心軸方向Aに離間して対向する収容空間33の一対の内壁33a、33bのうち、一方(基板部32a)の内壁33aには、突起部41、42が係合しており、他方(端版部34)の内壁33bには、2個の突起部43、44がそれぞれ係合している。つまり、突起部41、42、43、44は、キャリア4に係止されている。
【0035】
図1に示すように、筒体8は、端板部34及び中央歯車部材16を通過してさらに外方へ延びている。詳細には、筒体8の中間部分は、端板貫通部39に挿嵌されており、筒体8の一方の端部8bは、端板部34及び中央歯車部材16よりも中心軸方向Aの外側へ突出してベース52側へ延びている。この端部8bは、ベース52に設けられたオイルシールSによって周方向に回転して摺動できるように支持されている。筒体8の端部8bの外周面は、オイルシールSの摺動面になる。
【0036】
筒体8は、オイルシールSのリップ(薄肉のシール部分)がめくれないように、中心軸方向Aに極力動かない方が好ましいが、本実施形態では、筒体8の中心軸方向Aの移動を規制する4個の突起部41〜44が設けられているので、オイルシールSのリップがめくれるなどの不具合が生じにくい。
【0037】
筒体8の外周面において、オイルシールSに接触してオイルシールSに対して相対的に摺動する部分は、摺動抵抗を低減させるとともにシール性を向上させるために、仕上げ加工した方が好ましい。
【0038】
また、筒体8の他方の端部8cの外周面は、後述するオーリング30によって封止されている。筒体8の外周面において、オーリング30に接触する部分は、シール性を向上させるために仕上げ加工した方が好ましい。
【0039】
基部貫通部38は、キャリア4の軸心を中心とした円形断面を有しており、中間部分から端板部34と反対側の端部に向かうに従ってフレア状に広がっている。
【0040】
基部貫通部38の内周面には、断面矩形状の凹部が形成されている。この凹部は、基部貫通部38の内周面の周方向全体に亘るように形成されており、凹部にはオーリング30が配設されている。
【0041】
オーリング30は、ゴム等の弾性を有する材料からなり、その弾性力によって筒体8の外周面に圧接される。これにより、オーリング30は、シール部材として機能するとともに、筒体8の回り止め部材としても機能する。すなわち、オーリング30は、筒体8の外周面に圧接された状態で密着することにより、筒体8の外側から内側への潤滑油の進入を防ぐとともにキャリア4に対する筒体8の軸回りの回転を抑制する。
【0042】
端板貫通部39は、キャリア4の軸心を中心とした円形断面を有しており、基板部32a側の端部から中間部分にかけて軸方向に同径の平行部39aとなっている。この平行部39aは、筒体8の外径に対応する内径を有しており、平行部39aには、筒体8が挿通されている。そして、平行部39aの内面は、筒体8の外面に密着している。したがって、端板部34は、筒体8の中心軸方向Aの中間部分を径方向にぶれないように支持している。
【0043】
端板貫通部39には、溝31が設けられている。溝31は、端板貫通部39の内周面の周方向全体に亘るように形成されている。溝31には、オーリング37が嵌め込まれている。
【0044】
クランク軸20は、複数設けられており、各クランク軸20は筒体8の周囲に周方向に等間隔に配置されている。その各クランク軸20の端部には、クランク軸歯車18がそれぞれ取り付けられている。各クランク軸歯車18は、中央歯車部材16の伝達歯車16cとそれぞれ噛み合っている。この各クランク軸歯車18は、中央歯車部材16の回転をそのクランク軸歯車18が取り付けられたクランク軸20に伝達する。そして、各クランク軸20は、一対のクランク軸受22を介してキャリア4にその軸回りに回転自在に取り付けられている。すなわち、クランク軸20は、キャリア4に回転自在に支持されている。
【0045】
クランク軸20は、複数(本実施形態では2つ)の偏心部20aを有している。この複数の偏心部20aは、一対のクランク軸受22の間の位置で軸方向に並ぶように配置されている。各偏心部20aは、それぞれクランク軸20の軸心から所定の偏心量で偏心した円柱状に形成されている。そして、各偏心部20aは、互いに所定角度の位相差を有するようにクランク軸20に形成されている。
【0046】
2個の揺動歯車24は、クランク軸20の各偏心部20aにそれぞれころ軸受28aを介して取り付けられている。揺動歯車24は、外筒2の内径よりも少し小さく形成されており、クランク軸20が回転するときに偏心部20aの偏心回転に連動して外筒2内面の内歯ピン3に噛み合いながら揺動回転する。
【0047】
揺動歯車24は、中央部貫通孔24bと、複数の偏心部挿通孔24cと、複数のシャフト部挿通孔24dとを有する。筒体8は、中央部貫通孔24bに遊びを有した状態で挿通されている。
【0048】
偏心部挿通孔24cは、揺動歯車24において中央部貫通孔24bの周囲に周方向に等間隔で設けられている。各偏心部挿通孔24cには、ころ軸受28aを介装した状態で各クランク軸20の偏心部20aがそれぞれ挿通されている。
【0049】
シャフト部挿通孔24dは、揺動歯車24において中央部貫通孔24bの周囲に周方向に等間隔で設けられている。各シャフト部挿通孔24dは、周方向において偏心部挿通孔24c間の位置にそれぞれ配設されている。各シャフト部挿通孔24dには、キャリア4の各シャフト部32bが遊びを有した状態で挿通されている。
【0050】
次に、本実施形態による歯車装置の動作について説明する。
【0051】
中央歯車部材16の従動歯車16bが、モータMからの回転駆動力を受けると、伝達歯車16cを介して各クランク軸歯車18に伝達される。これにより、各クランク軸20は、それぞれの軸回りに回転する。
【0052】
そして、各クランク軸20の回転に伴って、そのクランク軸20の偏心部20aが偏心回転する。これにより、揺動歯車24は、偏心部20aの偏心回転に連動して外筒2の内面の内歯ピン3に噛み合いながら揺動回転する。揺動歯車24の揺動回転は、各クランク軸20を通じてキャリア4に伝達される。本実施形態では、外筒2はベース52に固定されて不動であるので、それによって、キャリア4および旋回体50は、入力された回転から減速された回転数で外筒2及びベース52に対して相対回転する。
【0053】
次に、本実施形態による歯車装置の製造方法について簡単に説明する。
【0054】
まず、クランク軸20を揺動歯車24に組み付けるとともに、これら及び一方の主軸受6をキャリア4の基部32に組み付ける。そして、外筒2及び他方の主軸受6を挟んだ状態で基部32に端板部34を締結する。一方で、基板部32aの凹部にオーリング30を嵌め込む。
【0055】
続いて、筒体8を、突起部41〜44が形成されていない状態で、端板部34の中央凹部34a側からキャリア4の貫通孔4bに挿入する。このとき、筒体8の端部は、端板部34の端板貫通部39の内周面に当接することなく端板貫通部39を通過し、基部貫通部38に挿入される。その後、端板部34に軸受17を取り付けるとともに中央歯車部材16を取り付ける。
【0056】
ついで、図2に示されるように、筒体8を内側から治具100を用いて、筒体8の内周面から半径方向外側へ向けて力を与えて、筒体8を塑性変形させて外周面に点状の突起部41〜44を形成する。具体的には、図2に示されるようなネジ式の突き出し治具100を用いて点状の突起部41〜44を形成する。
【0057】
突き出し治具100は、おねじ部材101と、めねじ部材102とから構成されている。おねじ部材101は、六角形断面の本体101aと、本体101aの下面から下方に延びるおねじ部101bと、本体101aの上面に上方へ突出する押圧突起101cとを有している。おねじ部101bの外周面には、ねじ山が形成されている。めねじ部材102は、六角形断面の本体102aと、本体102aの下面に下方へ突出する押圧突起102cとを有している。また、本体102aの内部には、めねじ穴102bが形成されている。めねじ穴102bの内部には、ねじ溝が形成されている。おねじ部材101のおねじ部101bがめねじ部材102のめねじ穴102bの内部に螺入されることにより、おねじ部材101とめねじ部材102とが連結されている。
【0058】
突き出し治具100を使用する場合、まず、突き出し治具100を縮めた状態で、筒体8の内部に挿入し、突起部41〜44を形成する所定の位置で筒体8の半径方向に向けて配置する。その後、おねじ部材101の本体101aおよびめねじ部材102の本体102aを六角レンチなどの工具で回転操作することにより、上下一対の押圧突起101c、102cの互いの距離を広げていき、押圧突起101c、102cを筒体8に内側から径方向にめり込ませる。これにより、筒体8を部分的に塑性変形させて、突起部41〜44を形成することができる。
【0059】
筒体8の外周面に形成された突起部41〜44は、キャリア4に形成された収容空間33の内壁33a、33bとそれぞれ係合する。その結果、筒体8の中心軸方向Aの移動を規制することができ、筒体8は、キャリア4の貫通孔4b内部で保持される。これにより、歯車装置が完成する。
【0060】
なお、筒体8の内側に突き出し治具100が入らないような小口径の筒体8の場合には、油圧やくさびなどを用いてポンチなどの工具を押し付ける治具を用いればよい。
【0061】
以上説明したように、第1実施形態では、筒体8の外周面に4個の突起部41〜44が設けられ、これらの突起部41〜44は、キャリア4に係合して、筒体8の中心軸方向Aの移動を規制するストッパとして機能することができる。したがって、筒体8がキャリア4の貫通孔4bから外れてしまうことを有効に防止することができる。
【0062】
しかも、突起部41〜44は塑性変形により形成されるので、筒体8を挿入後に筒体8の一部を塑性変形して突起部41〜44を形成することができるので、キャリア4が基部32に端板部34を組み付けた構成である場合であっても、その組み付け後に筒体8をキャリア4に組み付けることができる。また、キャリア4及び筒体8の高度な寸法管理も不要となる。したがって、歯車装置の製造作業が煩雑になることを抑制することができる。
【0063】
また、筒体8として、直管の薄肉のパイプ材を適当な長さにカットしたものをそのまま適用することが可能になるため、低コストで筒体8を製作することができる。とくに、規格品のパイプ材を用いることにより、さらに製造コストを低減することが可能になる。
【0064】
また、第1実施形態では、キャリア4において揺動歯車24を収容する既存の収容空間33の一対の内壁33a、33bを用いて、筒体8の突起部41〜44を係合することが可能である。そのため、キャリア4に突起部41〜44を係合するための凹部を新たに形成する必要がなく、製造コストを安価にできる。
【0065】
しかも、突起部41〜44は、筒体8の中心軸方向に離間して複数個配置され、対向する収容空間33の一対の内壁33a、33bにそれぞれ係合されているので、収容空間33が筒体8の中心軸方向Aに広がっている場合でも、突起部41〜44が収容空間33の一対の内壁33a、33bにそれぞれ係合することにより、突起部41〜44がそれぞれ小さくても、筒体8の中心軸方向Aの移動を確実に規制することができる。
【0066】
また、複数の点状の突起部41〜44が筒体8の周方向に離れて配置されているので、筒体8の周方向において2箇所以上で、筒体8の突起部41〜44をキャリア4に係合することが可能である。これにより、筒体8の中心軸方向Aの移動をより確実に規制することができる。
【0067】
なお、第1実施形態では、4個の点状の突起部41〜44が筒体8の中心軸方向に離間して対向する収容空間33の一対の内壁33a、33bにそれぞれ係合されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、収容空間33の一対の内壁33a、33bにそれぞれ係合できるように、筒体8の広い範囲を拡径して大きな凸部を形成してもよい。この場合も、大きな凸部が収容空間33の一対の内壁33a、33bにそれぞれ係合して、筒体8の中心軸方向Aの移動を規制することができる。
【0068】
なお、本実施形態では、筒体8の外周面に形成された突起部41〜44が、本発明の第2部材であるキャリア4に係止されている例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1部材である外筒2に係止されてもよい。または、相手側部材、例えば、旋回体50またはベース52のいずれかに係止するようにしてもよい。突起部がベース52に係止される例については、後段の第3実施形態で詳述する。
【0069】
(第2実施形態)
図3〜4に示される第2実施形態では、筒体8の突起部45、46が係合する部分として、揺動歯車24の収容空間33とは別に、キャリア4の貫通孔4bの内周面に環状の溝35が形成されている。その他の構成は、上記の第1実施形態の歯車装置と共通している。
【0070】
環状の溝35は、キャリア4の貫通孔4bの内周面において、オーリング30の取付位置よりも揺動歯車24に近い側に形成されている。
【0071】
第2実施形態では、筒体8をキャリア4の貫通孔4bに挿入した後に、上記の突き出し治具100などを用いて、環状の溝35の位置に合わせて、一対の点状の突起部45、46を塑性変形により形成する。これにより、一対の点状の突起部45、46は、環状の溝35の内壁に密着して嵌合させることができる。その結果、キャリア4に係合して、筒体8の中心軸方向Aの移動を規制することができる。
【0072】
以上のように、第2実施形態では、キャリア4における貫通孔4bの内周面には、環状の溝35が形成されており、突起部45、46が、環状の溝35にそれぞれ嵌合しているので、突起部45、46と環状の溝35との良好な係合状態を得ることが可能である。
【0073】
なお、突起部45、46の個数や形状に合わせてそれらが嵌合する凹部を貫通孔4bの内周面に形成することも可能である。例えば、環状の溝35の代わりに、突起部45、36の個数や形状に合わせて点状の穴を複数個所形成してもよい。その場合、突起部45、46が点状の穴にそれぞれ嵌合することにより、筒体8の中心軸方向Aおよび周方向のそれぞれの移動を規制することができる。
【0074】
(第3実施形態)
図5〜6に示される第3実施形態では、筒体8の突起部47、48が係合する部分として、揺動歯車24の収容空間33とは別に、歯車装置の外筒2が固定される相手側部材であるロボットのベース52の外部に露出している面52cのうち、筒体8の外周面の近傍、具体的には、ベース52の貫通孔55の開口縁の角部に、突起部47、48が挿入される凹部52a、52bが形成されている。凹部52a、52bは、筒体8の中心軸方向Aから見れば、外部に露出しており、かつ、ベース52の貫通孔55に連通しているので、突起部47、48を中心軸方向Aから入れ込ませることができる。凹部52a、52bは、突起部47、48が挿入された状態で、ボルトB2とワッシャWとによって外部から閉じられる。
【0075】
第3実施形態では、突起部47、48は、ベース52の凹部52a、52bに入れ込ませて固定される。つまり、突起部47、48は、ベース52に対して係止されている。これにより、筒体8は、ベース52に対して相対的に回転できないように固定されている。したがって、筒体8は、キャリア4に対しては相対的に回転可能にする必要がある。そのため、キャリア4には、筒体8の相対的な回転を許すオイルシール54が設けられている。一方、ベース52には、回り止めの機能を有するオーリング53が配置されている。
その他の構成は、上記の第1実施形態の歯車装置と共通している。
【0076】
第3実施形態の歯車装置では、筒体8をキャリア4の貫通孔4bに挿入する前に、上記の突き出し治具100またはプレス加工機などを用いて、凹部52a、52bの位置に合わせて、一対の点状の突起部47、48を塑性変形により容易に形成することができる。
【0077】
以上のように、第3実施形態の歯車装置は、キャリア4の外部に露出している面52cのうち、筒体8の外周面の近傍に、突起部47、48が挿入される凹部52a、52bが形成されており、凹部52a、52bは、突起部47、48が挿入された状態で、外部からボルトB2およびワッシャWなどの閉止手段によって閉じられる構成を有している。
【0078】
かかる構成によって、筒体8を挿入する前にあらかじめ突起部47、48を塑性変形により形成しておき、その後、筒体8をキャリア4の貫通孔4bに挿入するときに、ロボットのベース52に形成された凹部52a、52bに挿入し、その後で、外部からボルトB2およびワッシャWからなる閉止手段によって凹部52a、52bを閉じることができる。これにより、筒体8に突起部47、48を形成する作業が容易になるとともに、突起部47、48と凹部52a、52bとの係合を確実に達成することができる。
【0079】
また、筒体8をキャリア4から取り外すときには、ボルトB1とワッシャWを外せば、筒体8をキャリア4の貫通孔4bから容易に引き出すことが可能である。
【0080】
とくに、第3実施形態の場合、第1実施形態のように、揺動歯車24の収容空間33の内壁33a、33bの両端に筒体8の突起部41〜44が係止できない場合にも、筒体8の中心軸方向Aの移動を効果的に規制することができる。
【0081】
なお、突起部47、48は、筒体8をキャリア4の貫通孔4bに挿入後に、上記の突き出し治具100などを用いて筒体8を塑性変形することによって形成してもよい。その場合も、突起部47、48を形成した後にボルトB2およびワッシャWによって凹部52a、52bを閉じることにより、筒体8をベース52に係合して、中心軸方向Aの移動を規制することができる。
【0082】
さらに、突起部47、48は、筒体8の端部を部分的に拡径して形成してもよく、この場合も、キャリア4の外部に露出する面に形成された凹部52a、52bに入れ込ませることが可能である。
【0083】
なお、外部に露出する断面L字状の凹部52a、52bは、ロボット部材のベース52の外部に露出する面52cだけでなく、旋回体50側の外部に露出する面や、キャリア4の外部に露出する面にも形成することが可能であり、その場合でも筒体8をキャリア4の貫通孔4bに挿入するときに、突起部47、48を凹部に入れ込ませて、ボルトB2とワッシャWで抜け止めをすることが可能である。
【0084】
なお、本発明は、前記第1〜第3実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、キャリア4がベース52に締結されるとともに、外筒2が旋回体50に固定される構成としてもよい。
【0085】
前記実施形態では、クランク軸20が複数設けられる構成としたが、クランク軸20が1つだけ設けられる構成としてもよい。
【0086】
また前記第1〜第3実施形態では、揺動歯車24が外歯歯車によって構成された構成について説明したが、これに限られるものではない。例えば、揺動歯車が内歯歯車によって構成されていて、他方の相手側部材(例えば旋回体50)に締結される第2部材が、この揺動歯車の内歯に噛み合う外歯を有する外歯歯車によって構成されていてもよい。この場合、揺動歯車を揺動させるためのクランク軸20は、一方の相手側部材(例えばベース52)に締結される第1部材に回転自在に支持される構成となる。
【0087】
また、前記第1〜第3実施形態では、筒体8の外周面に2個または4個の突起部が形成されているが、少なくとも1個の突起部が形成されていればよく、3個以上の複数個の突起部を、筒体8の周方向に設けてもよい。例えば、1個だけの突起部を形成する場合には、突き出し治具100として、押圧突起101c、102cのいずれか一方が設けられていないものを使用して突起部を形成すればよい。さらに、筒体8の内側から全周にわたって鍛造のように突き出して環状の突起部を形成してもよい。その場合、環状の突条に係合する環状の溝を、キャリア4の内周面などに形成すればよい。
【符号の説明】
【0088】
2 外筒
4 キャリア
4b 貫通孔
5 ボルト
8 筒体
8b、8c 端部
20 クランク軸
20a 偏心部
24 揺動歯車
32 基部
32a 基板部
32b シャフト部
33 収容空間
33a、33b 内壁
34 端板部
35、52a、52b 凹部
30、37、53 オーリング
38 基部貫通部
39 端板貫通部
39a 平行部
41〜48 突起部
50 旋回体
52 ベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の相手側部材間で所定の減速比で回転力を伝達するための歯車装置であって、
一方の相手側部材に固定可能な第1部材と、
クランク軸と、
他方の相手側部材に固定可能に構成されるとともに貫通孔が形成され、前記クランク軸の回転に連動して前記第1部材に対して相対回転する第2部材と、
前記第2部材の前記貫通孔内に配置された筒体と、を備え、
前記筒体の外周面には、当該筒体を塑性変形させることにより、少なくとも1個の突起部が形成され、
前記突起部は、前記第1部材、前記第2部材または相手側部材と係合して、前記筒体の中心軸方向の移動を規制する、
歯車装置。
【請求項2】
前記突起部は、前記筒体の周方向に互いに離れて複数個配置されている、
請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記第2部材は、前記第1部材と前記第2部材との間における回転力の伝達をする伝達部材を収容する収容空間を有しており、
当該収容空間は、前記貫通孔と連通しており、
前記突起部は、前記収容空間の内壁に係合されている、
請求項1または2に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記突起部は、前記筒体の中心軸方向に離間して複数個配置され、対向する前記収容空間の一対の内壁にそれぞれ係合されている、
請求項3に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記第2部材における前記貫通孔の内周面には、凹部が形成されており、
前記突起部は、前記凹部に嵌合している、
請求項1から4のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項6】
前記一方の相手側部材、前記他方の相手側部材、または前記第2部材のいずれかの外部に露出している面のうち、前記筒体の外周面の近傍に、前記突起部が挿入される凹部が形成されており、
前記凹部は、前記突起部が挿入された状態で、閉止手段によって閉じられている、
請求項1または2に記載の歯車装置。
【請求項7】
一対の相手側部材間で所定の減速比で回転力を伝達するための歯車装置であり、
一方の相手側部材に固定可能な第1部材と、
クランク軸と、
他方の相手側部材に固定可能に構成されるとともに貫通孔が形成され、前記クランク軸の回転に連動して前記第1部材に対して相対回転する第2部材と、
前記第2部材の前記貫通孔に挿入された筒体とを備えた歯車装置の製造方法であって、
前記筒体を前記第2部材の貫通孔に挿入する工程と、
前記筒体の内周面から半径方向へ向けて力を与えて、前記筒体を塑性変形させて外周面に突起部を形成することにより、前記第1部材、前記第2部材または相手側部材と係合して、前記筒体の中心軸方向の移動を規制する工程と、
を含む歯車装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−236960(P2011−236960A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108115(P2010−108115)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】