説明

気相反応方法

【課題】一定の品質のカーボンナノチューブなどの生成物を高収量で得ることができる気相反応方法を提供する。
【解決手段】反応場に、粉状あるいは粒子状被反応物を装填する装填工程と、前記粉状あるいは粒子状被反応物を、反応工程における反応場の圧力よりも高い圧力下で、不活性ガスを導入しながら600℃以上まで加熱する加熱工程と、600℃以上かつ減圧下の反応場に反応ガスを導入しながら気相反応させる反応工程を有することを特徴とする気相反応方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉状あるいは粒子状被反応物と気体を接触させ気相反応する気相反応方法に関する。
【0002】
さらに本発明は、中空状ナノファイバーを得ることが可能な気相反応方法に関し、さらに詳しくは、径が小さく、かつグラファイト層の欠陥が少ない、特にカーボンナノチューブと定義される領域の中空状ナノファイバーを得ることが可能な気相反応方法に関する。
【0003】
特に、本発明は、非常に品質の高い1〜2層のカーボンナノチューブを効率よく、大量に生産可能な気相反応方法に関する。
【背景技術】
【0004】
従来、粉状あるいは粒子状被反応物を高温下で気体と接触させ反応させる方法として、石英管などの反応管を横向きに置き、反応管の中央部に石英ボートあるいはアルミナボート上に粉状あるいは粒子状被反応物を載せ、前記反応管中央部を外部から電気炉で加熱した状態にして気体を流す方法が知られている。このような方法では、石英ボートあるいはアルミナボート上に載せられる量の粉状あるいは粒子状被反応物を、反応管内中央部に固定し、その後反応管中央部を外部から電気炉で加熱し、気体を流し反応させる(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0005】
そして、減圧下で粉状あるいは粒子状被反応物を反応させる方法として、加熱された反応管中に炭化水素化合物を流し、その中に、減圧下で遷移金属またはその無機化合物を蒸発させた蒸気を導入する方法が知られている。そして、この方法により、中空状カーボンファイバーを得る方法が記載されている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、触媒化学気相成長法では触媒を担体に担持して行う方法が知られている。例えば、金属触媒をゼオライトに担持させた状態の粉状あるいは粒子状被反応物を減圧下で炭素含有化合物と高温下で接触させて、中空状ナノファイバーを得る方法が記載されている(特許文献2)。
【0006】
しかし、減圧下で粉状あるいは粒子状被反応物を触媒として、炭化水素化合物と減圧反応させる場合、生成物の量及び品質がばらつくことが多かった。
【特許文献1】特開昭62−133119号公報
【特許文献2】特開2004−123505号公報
【非特許文献1】小沼義治、小山恒夫:応用物理 32巻 857頁 (1963)
【非特許文献2】遠藤守信、小山恒夫:固体物理 12巻 1頁 (1977)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情を鑑み、粉状あるいは粒子状被反応物に対して、減圧下での反応プロセスを採用する場合でも、被反応物の触媒活性を維持して、品質の安定した生成物を高収量で得ることができる気相反応方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は径が小さく、かつグラファイト層の欠陥が少ない、特にカーボンナノチューブと定義される領域の中空状ナノファイバーを得るのに適する気相反応方法を提供することを目的とする。特に、非常に品質の高い1〜2層のカーボンナノチューブを効率良く、大量に生産できる気相反応方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、以下の発明によって達成される。
【0010】
(1)反応場に、粉状あるいは粒子状被反応物を装填する装填工程と、前記粉状あるいは粒子状被反応物を、反応工程における反応場の圧力よりも高い圧力下で、不活性ガスを導入しながら600℃以上まで加熱する加熱工程と、600℃以上かつ減圧下の反応場に反応ガスを導入しながら気相反応させる反応工程を有することを特徴とする気相反応方法。
【0011】
(2)装填工程において、反応場を600℃以上、かつ実質的に一定の温度に保ったままで、粉状あるいは粒子状被反応物を前記反応場に装填することを特徴とする(1)に記載の気相反応方法。
【0012】
(3)加熱工程を実施した直後に反応工程を実施することを特徴とする(1)または(2)に記載の気相反応方法。
【0013】
(4)前記反応場において、前記粉状あるいは粒子状被反応物を気体が通過可能な把持体で保持することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載の気相反応方法。
【0014】
(5)前記把持体の周縁部で気体の通過を略封止するシール部を形成することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか記載の気相反応方法。
【0015】
(6)600℃以上の反応場において粉状あるいは粒子状被反応物を気相反応させた後、反応物を反応場から間欠的に取り出す回収工程を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の気相反応方法。
【0016】
(7)前記粉状あるいは粒子状被反応物が、金属触媒を担持した担体であり、前記反応ガスが炭素含有化合物を含むものであり、気相反応により中空状ナノファイバーを生成することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の気相反応方法。
【0017】
(8)金属触媒を担持した担体が、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライト、ケイ素を主成分とするメソポーラス材料を特徴とする(7)に記載の気相反応方法。
【0018】
(9)前記金属は、V、Mo、Fe、Co,Ni,Pd、Pt,Rh,W,Cuのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする(7)または(8)に記載の気相反応方法。
【0019】
(10)前記反応ガスがエタノール蒸気を含むものであることを特徴とする(7)〜(9)のいずれかに記載の気相反応方法。
【0020】
(11)気相反応により得られる中空状ナノファイバーの屈曲部から屈曲部までの平均距離が100nm以上有することを特徴とする(7)〜(10)のいずれかに記載の気相反応方法。
【0021】
(12)気相反応により得られる中空状ナノファイバーが1層あるいは2層の中空状ナノファイバーが体積比で50%以上含むものであることを特徴とする(7)〜(11)のいずれかに記載の気相反応方法。
【0022】
(13)気相反応により得られる中空状ナノファイバーが1層あるいは2層の中空状ナノファイバーが体積比で80%以上含むものであることを特徴とする(12)に記載の気相反応方法。
【発明の効果】
【0023】
粉状あるいは粒子状被反応物を減圧反応させる直前の加熱工程で、該被反応物を比較的高い圧力条件下で、不活性ガスで置換しながら反応温度まで昇温するので、減圧状態に起因する被反応物の触媒活性の低下を防止することができる。その結果、一定の品質の生成物を高収量で得ることができる。また、この気相反応方法を適用して、適正な触媒、炭素源ガスを選択すれば、径が小さく、かつグラファイト層の欠陥が少ない中空状ナノファイバーを高純度で合成することができ、さらには、非常に品質の高い1〜2層のカーボンナノチューブを効率良く、大量合成することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
本発明の気相反応方法は、反応場に、粉状あるいは粒子状被反応物を装填する装填工程と、前記粉状あるいは粒子状被反応物を、反応工程における反応場の圧力よりも高い圧力下で、不活性ガスを導入しながら600℃以上まで加熱する加熱工程と、600℃以上かつ減圧下の反応場に反応ガスを導入しながら気相反応させる反応工程を有することを特徴とする。
【0026】
図1は、本発明の気相反応方法を採用したプロセス概念を示すタイムチャートであり、反応場の温度、圧力、反応室に導入するガスの流量の時間的変化を模式的に示したものである。
【0027】
図1に示すように、本発明の気相反応方法は、粉状あるいは粒子状の被反応物を(好ましくは高温かつ実質的に一定に維持した)反応場に装填する装填工程、反応温度まで被反応物を加熱する加熱工程、反応ガスを導入しながら触媒反応させる反応工程、触媒とともに生成物を回収する回収工程から構成される。
【0028】
一方、図2は、図1の反応プロセスを達成するための気相反応装置の一例を示す概略断面図である。気相反応装置1は、投入室10、準備室11、反応室12、回収室13、および、反応室以外の各室に連結される不活性ガス供給部14、真空排気部15、反応ガス供給部16、不活性ガス供給部17、真空排気部18から構成される。また、反応室12の内部のほぼ中央に位置する反応場を600℃以上の温度に実質的に一定に加熱するためのヒータ21が反応室12の外側表面を覆うように設置されている。なお、反応室12、ヒータ21は反応場を所定の温度に加熱でき、高温下での反応ガスに対して耐性を有するように材質選択、設計等すれば良いが、特に、反応室を石英製の円管形状のもので構成し、ヒータ21に電気抵抗式ヒータ、電磁加熱式ヒータ、赤外線等を利用した管状光学式ヒータを用いるのが好ましい。また、反応室12の下部に被反応物を支持して所定位置に装填するための装填機構部30を有する。
【0029】
ここで、本気相反応方法で扱う被反応物である粉状あるいは粒子状物とは、微視的に見たときに、ナノメートルオーダーの微粒子あるいはこれらの集合体、あるいはこれら粒子が何らかの担持体に保持された状態、ミクロンオーダー、ミリオーダーでの粉状物や粒子状物であったりするが、これらが、熱により分解し、ナノオーダーでの微粒子状になるものであっても良い。ここで、反応場において、前記粉状あるいは粒子状被反応物を、気体が通過可能な把持体で保持することが好ましい。粉状あるいは粒子状被反応物は、単体では飛散してしまうため把持体により位置決めすることが好ましい。したがって、把持体は、これら被反応物を載せる、あるいは、内部に保持するとともに、気体が実質的に通過可能で、それに保持させた被反応物とは気体接触させるものが良い。好ましい把持体としては、シリカ、アルミナ等を含む耐熱性を有するセラミックス材料からなる不織布、フェルト、断熱材等がある。
【0030】
次に、図1の各工程の詳細を、図2に示す気相反応装置1の動作と合わせて以下に説明する。
【0031】
装填工程では、反応場に粉状あるいは粒子状被反応物を装填するが、このとき、600℃以上、かつ、実質的に一定の温度に保ったままの反応場に粉状あるいは粒子状被反応物を装填するのが好ましい。
【0032】
最初に、投入室10の所定位置に被反応物2をセットする。セットは投入ゲートバルブ(扉)22を開けた状態で、手作業あるいは自動で行う。セットを完了した後、投入ゲートバルブ(扉)22を閉じる。その後、投入室10内を不活性ガスで置換する。置換は真空排気部を作動させて減圧した後、不活性ガスを室内がほぼ大気圧になるまで導入するのが良いが、室内を不活性ガスで置換できるのであればいかなる方法でも良い。また、各室を減圧状態にしたまま、ゲートバルブ(扉)を開閉し、被反応物を搬送しても良い。
【0033】
ここで、被反応物は上記説明したように把持体3により保持するのが好ましい。被反応物を保持した状態の把持体3の断面模式図を図3に示す。図3に示すように把持体3は金属酸化物繊維4、多孔板5、押さえ部材6から構成される。粉状あるいは粒子状被反応物2は金属酸化物繊維4の上に設置される。多孔板5は反応領域における金属酸化物繊維を下側から支持して、金属酸化物繊維のたわみを防止して、被反応物の装填状態を安定化させる。また、多孔板5の孔径、孔ピッチ、多孔板の厚み等をガスの流速等の反応条件に合わせて適正化することにより、金属酸化物繊維上の被反応物でガスの流速のバラツキを抑えることが可能である。反応条件にもよるが、概ね適正な孔径は0.5mm〜50mm、好ましくは1〜30mmの範囲であり、適正な孔ピッチは孔径の1.5〜10倍、好ましくは1.5〜5倍であり、適正な多孔板の厚みは0.1mm〜50mm、好ましくは0.5〜10mmの範囲である。
【0034】
次に、投入室と準備室を密閉して区切る準備室入口ゲートバルブ(扉)23を開けて、あらかじめ投入室と同様に不活性ガスで置換している準備室内に、図示しない搬送手段によって、所定位置に搬送・載置する。搬送手段は把持体3を設置するテーブルと該テーブルを両室間で直交移動させうる駆動手段からなるものであればいかなるものでも良い。
【0035】
次に、反応室12の内部にある保持部19に把持体3が設置されるように装填動作を行う。まず、準備室と反応室を密閉して区切る装填上ゲートバルブ(扉)24、反応室と装填機構部30を密閉して区切る装填下ゲートバルブ(扉)25を開けて、あらかじめ不活性ガスで置換している反応室に、支持部31を図示しない昇降手段を駆動して、反応室内部を上昇させ、把持体3の下側を支持する。その後、昇降手段を駆動して、支持部31を下降させることにより、把持体3の下面周縁部を保持部19の上に載置し、支持部31を反応室下側に退避させてから装填上ゲートバルブ(扉)24、装填下ゲートバルブ(扉)25を閉じる。ここで、支持部31は反応部まで挿入されるので、反応部の温度を考慮して、耐熱温度が1000℃以上の材質が好ましい。また、駆動部は、エアーシリンダー等の空圧的手段、モーター等の電磁的手段等、昇降し、位置制御できるものであればいかなるものを用いても良い。
【0036】
また、このとき、図3に示すように金属酸化物繊維4の下面周縁部が反応室内の保持部19と密着することによりシール部7が形成される。このシール部7は押さえ部材6の重力により金属酸化物繊維が圧縮されて形成されるものであり、ガスの通過を略封止する。さらに、下方よりガスが導入された場合、把持体3の圧損の影響による力を下方から受けても、把持体3の重力がその力より大きければ、把持体は上方に浮くことないので、シール部7でシール性を維持できる。その結果、下方より導入されたガスは殆ど多孔板5及び金属酸化物繊維4を通過して、被反応物1に均一に接触することができる。
【0037】
そして、反応部の温度が600℃以上の場合にも適用できるように反応場の反応熱を考慮して、構成部材4〜6はすべて耐熱温度が950℃以上のものを使用するのが好ましい。例として、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素等の耐熱セラミックス、石英等がある。
【0038】
なお、この一例では、多孔板以外の構成部材として押さえ部材を用いたが、金属酸化物繊維および多孔板の形状、装填形態等に合わせて、適宜、必要な構成部材を準備すれば良い。さらに、ガス導入時や、真空引きを行う場合に被反応物が飛散したり、吸引排出されるのを防止するために、被反応物の上側にさらに金属酸化物繊維等の耐熱性の通気材を設置しても良い。
【0039】
600℃以上の高温状態でも支持部31が、単に昇降するだけの動作であるので、該治具が600℃の耐熱性を有していれば、600℃以上、かつ、実質的に一定の温度に維持した反応場に被反応物を装填できる。そのため、被反応物を反応室に装填してから反応室を加熱する必要がなく、バッチ連続的に処理できるので、非常に効率よく反応物を生成できる。
【0040】
次に、被反応物2を加熱する加熱工程に進む。反応室への装填が完了した後に、不活性ガスを流しながら、被反応物を加熱する。加熱工程では、反応工程における反応場の圧力よりも高い圧力下で、不活性ガスを導入しながら600℃以上まで加熱することが必要である。不活性ガスは、排気バルブ27を開けた状態で、不活性ガス供給部17を作動させて、適正な流量の不活性ガスを一定に制御しながら導入する。排気側出口を大気圧もしくは若干の負圧程度とすることにより、反応場の圧力は不活性ガスの供給圧に依存し、大気圧近傍、もしくは、大気圧以上となる。不活性ガスとして窒素、アルゴン、ヘリウムが良く用いられ、また、触媒金属の活性化に効果的な水素を含有させることも好ましい。反応管を通過するガスの流速は、1cm/秒〜100cm/秒の範囲が好ましい。1cm/秒以下では置換の効率が悪く、また、100cm/秒以上では金属酸化物繊維4及び被反応物2での圧力損失が大きく、把持体上下での圧力差により、被反応物が舞い上がったり、動いたりするので良くない。さらに、加熱工程での反応場の圧力は、反応工程における反応場の圧力よりも高い圧力であればよいが、1.0×10〜2.02×10Paの範囲が好ましく、さらに好ましくは1.01×10〜1.11×10Paの範囲が好ましい。また、含有する水素ガスは0.1%〜10%(モル比)の範囲が好ましい。
【0041】
従来の減圧反応を採用するプロセスでは、被反応物を装填した直後から被反応物の加熱とともに減圧を開始していた。ところが、この方法では真空度の状態により反応状態が左右され、反応物の品質、収量ともに低下することがあった。発明者が鋭意検討を重ね、この反応物の品質、収量低下は、反応工程における反応場圧力条件の変動よりも、反応工程に至る以前の加熱工程で、被反応物の触媒活性が低下することにより起こっている可能性が高いことを突き止めた。特に、高温に加熱された反応室に直接、被反応物を装填するこのバッチ連続式の気相反応方法の場合、真空引き開始初期の十分に減圧されていない時点で、既に被反応物が酸化反応を起こしうる温度に到達し、未だ十分に排除しきれていない酸素ガスや水蒸気等と酸化反応を起こしている可能性が高い。そして、この酸化反応による触媒活性の低下が、後の反応工程で品質、収量の低下をもたらすものと考えている。また、扱う被反応物が粉状あるいは粒子状物であるため、被反応物がシール部等に付着する可能性がある。その結果、被反応物の加熱中においてもわずかな外部ガスの漏れ込み等により被反応物が酸化され、触媒活性が低下する可能性もある。
【0042】
そこで、被反応物を昇温する工程では、反応室内部を若干の負圧もしくは大気圧以上に維持したまま不活性ガスを流すことにより、真空引き開始初期の十分に減圧されていない時点での被反応物の酸化反応を防止できる。その結果、被反応物の触媒活性を高く維持できるので、次の反応工程において一定の品質の反応物を安定して得ることができる。
【0043】
なお、本実施形態の加熱工程では、真空ポンプを作動させずに排気を行っているが、被反応物が酸化反応を起こさない程度であれば、排気速度を次に説明する反応工程時よりも小さく調整した状態で真空ポンプを作動させて、反応室を若干の負圧状態としても良い。さらにまた、本実施形態では被反応物を反応室に装填してから加熱しているが、別の場所で加熱し、被反応物を高温で維持したまま反応室に装填し、そのまま反応工程に進んでも良い。
【0044】
次に、減圧下の反応場に反応ガスを導入しながら気相反応させる反応工程に進む。本発明では、前記加熱工程を実施した直後に、反応工程を実施するのが好ましく、加熱工程から引き続き反応工程を実施するのが好ましい。被反応物が所定の温度まで昇温した後、不活性ガス供給部17による不活性ガスの導入を停止し、真空排気部18を作動させて、反応室内を排気、減圧した後に、反応ガス供給部16を制御して反応ガスを導入する。反応室内に導入された反応ガスは把持体3に保持された被反応物2と接触して触媒反応を起こし、生成物が生成される。なお、反応ガス種、流速及び圧力等はその反応プロセスに最適な条件を選択すれば良いが、反応ガスに炭素含有化合物を適用する場合、適正な不活性ガスで希釈されたものも含む。そして、反応室の圧力は0.1Pa〜1.0×10Paの範囲で好ましく適用される。
【0045】
反応ガスを所定時間導入した後、反応ガス供給部16による反応ガスの導入を停止し、その後、不活性ガス供給部17を作動させて、反応室内に不活性ガスを導入して大気圧に戻す。大気圧に戻す前にしばらく反応室の中を真空引きして、残存する反応ガスを完全に排除するのが良い。その後、装填上ゲートバルブ(扉)24、装填下ゲートバルブ(扉)25を開け、支持部31を昇降させて、把持体3を上昇し、準備室11の内部にある図示しないテーブルに受け渡す。その後、支持部31を下降させて、装填機構部に格納した後、装填上ゲートバルブ(扉)24、装填下ゲートバルブ(扉)25を閉じる。そして、準備室11と回収室13を密閉して区切る準備室出口ゲートバルブ(扉)26を開けて、あらかじめ不活性ガスで置換した回収室13まで搬送する。なお、回収室13を2室構成にして、生成物を冷却するための冷却室を回収室13と準備室11の間に設けても良い。回収室13まで搬送された把持体3は、回収ゲートバルブ(扉)28を開けて、手作業あるいは自動で取り出す。
【0046】
この時、600℃以上の反応場において粉状あるいは粒子状被反応物を気相反応させた後、反応物を反応場から間欠的に取り出すことが好ましい。
順次間欠的に反応場に被反応物を装填して反応させれば良いが、その次に装填された被反
【0047】
応物と接触させるために導入される反応ガスと、その前の工程で生成された反応物とが反応することを防止するためである。また、導入した炭素含有化合物等の反応ガスが装填された被反応物と接触する前にする分解、改質し、その結果、次に装填された被反応物と想定外の反応を起こし、所望の生成物を得られない可能性がある。
【0048】
本発明の気相反応方法を用いれば、前記粉状あるいは粒子状被反応物として、メソポーラス細孔を有する酸化物に金属を担持させたものを適用し、前記反応ガスが炭素含有化合物を含むものを適用すれば、極めて不純物の少ない中空状ナノファイバーを生成することができる。
【0049】
メソポーラス材料とは、2〜50nm程度の直径を有する細孔を持つ材料である。界面活性剤と無機物質の協奏的な自己組織化により合成される。メソポーラス材料は大きい比表面積と高い安定性など、触媒や吸着剤としての優れた基本物性を有する。この様な材料のメソポーラス細孔は、担体上でカーボンナノチューブを合成する際に金属担持する細孔として有用である。代表的物質としてメソポーラスシリカが挙げられる。メソポーラスシリカの結晶構造は特に限定されないが、例えば、モービル社が開発したヘキサゴナル構造をもつMCM−41、キュービック構造をもつMCM−48、層状すなわちラメラ構造をもつMCM−50があり、特に規則的な六角形の細孔が平行に配列したMCM−41構造が好んで用いられる。メソポーラス材料は大きい比表面積と高い安定性など、触媒や吸着剤としての優れた基本物性を有する。また均一で規則的な配列は有していないが、一般的な多孔性無機材料で、メソポーラス細孔を有する材料としてゼオライト、アルミナ、チタニア、マグネシア、ジルコニアなどが知られている。この様な材料のメソポーラス細孔は、担体上でカーボンナノチューブを合成する際に金属担持する細孔として有用である。
【0050】
メソポーラス細孔の直径と細孔容量は液体窒素温度での窒素の物理吸着から求めることができる。窒素を徐々に投入し、0〜大気圧の窒素の吸着等温線をとり、大気圧まで到達したら徐々に窒素を減らしていき、窒素の脱着等温線をとるようにすればよい。メソポーラス部分の細孔径分布を求めるためには、通常脱着等温線を使用して計算する。細孔径分布を求める理論式としては、Dollimore-Heal法(以下、D−H法と略称)が知られている。本発明で定義する細孔径分布は窒素の脱着等温線からD−H法で求めたものである。一般に細孔径分布は、横軸に細孔径をとり、縦軸にΔVp/ΔRpをとることで求められるが、本発明における細孔容量は、このグラフの面積から、求めることができる。
【0051】
上記の担体は特に限定されないが、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライトが好ましく用いられる。ここで、ゼオライトとは、分子サイズの細孔径を有する結晶性無機酸化物からなるものである。ここに分子サイズとは、世の中に存在する分子のサイズの範囲であり、一般的には、0.2nmから2nm程度の範囲を意味する。さらに具体的には、結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、あるいは結晶性メタロアルミノフォスフェート等で構成された結晶性マイクロポーラス物質のことである。
【0052】
結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、結晶性メタロアルミノフォスフェートとしては、特に種類は制限されないが、例えば、アトラス オブ ゼオライト ストラクチュア タイプス(マイヤー、オルソン、バエロチャー、ゼオライツ、17(1/2)、1996)(Atlas of Zeolite Structure types(W. M. Meier, D. H. Olson, Ch. Baerlocher, Zeolites, 17(1/2),1996))に掲載されている構造をもつ結晶性無機多孔性物質が挙げられる。また、本発明におけるゼオライトは、本文献に掲載されているものに限定されるものではなく、近年次々と合成されている新規な構造を有するゼオライトも含む。好ましい構造は、入手が容易なFAU型、MFI型、MOR型、BEA型、LTL型、LTA型であるが、これに限定されない。
【0053】
本発明において、好ましくはゼオライトとして耐熱性が高いゼオライトを用いるとよい。ここで耐熱性が高いゼオライトとは、具体的には、実質的に4価の金属(Si,Ti,Ge,Zr等)と酸素で骨格が構成されているゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)>200)と、3価以下の金属を骨格中に含むゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)<200)であって、前述のごとき900℃での耐熱性を有するものである。ここで4価の金属の主成分はSiである。3価以下の金属を骨格中に含むゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)<200)においては、一般にSi原子以外の原子(ヘテロ原子)が少ない方が耐熱性が高い。ゼオライト骨格中のSi/ヘテロ原子の原子比が10以上のものが耐熱性が高く好ましく、さらに好ましくは15以上であるものがよい。ゼオライト骨格中のSi/ヘテロ原子の原子比は、29Si MAS NMRで測定することができる。最も好ましくは、4価の元素と酸素のみで構成されたゼオライトである。
【0054】
ゼオライトは、その骨格が4面体の中心にSi又はAlやチタン等のヘテロ原子(Si以外の原子)、4面体の頂点に酸素を有するシリケート構造を有している。従って、4価の金属がその4面体構造の中心に入るのが最も安定であり、耐熱性が期待できる。したがって、理論的にはAl等の3価の成分を実質的に含まないか、或いは少ないゼオライトが耐熱性が高い。これらの製造法としては、従来公知の水熱合成法などで直接合成するか、後処理で3価の金属を骨格から抜く方法が好んで用いられる。
【0055】
ゼオライト等担体に酸またはアルカリ処理を施して、メソポーラス細孔を形成してもよい。
【0056】
酸処理とは、担体を酸に接触させる処理であり、使用する酸は特に限定されないが、フッ化水素酸、硫酸、塩酸、硝酸またはこれら混合物が好ましい。
【0057】
酸処理よる担体のメソポーラス細孔形成法は特に限定されない。例えば0.01〜1.00Mの酸の水溶液中に、1〜100gの酸化物を含浸し、0〜100℃で充分に攪拌して分散混合した後、水洗し、50〜200℃で乾燥することによりメソポーラス細孔を形成することができる。
【0058】
またアルカリ処理とは、担体にアルカリを接触させて、メソポーラス細孔を形成する方法であり、いくつかのアルカリによる処理を挙げることができる。使用するアルカリは特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムまたはこれら混合物が好ましい。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0059】
アルカリ処理による酸化物のメソポーラス細孔形成法は特に限定されない。例えば0.01〜1.00Mのアルカリの水溶液中に、1〜100gの酸化物を含浸し、0〜100℃で充分に攪拌して分散混合した後、水洗し、50〜200℃で乾燥することによりメソポーラス細孔を形成することができる。
【0060】
担体に担持する金属の種類は、特に限定されないが、3〜12族の金属、特に好ましくは、5〜11族の金属が用いられる。中でも、V,Mo,Fe,Co,Ni,Pd,Pt,Rh、W、Cu等が特に好ましく、さらに好ましくは、Fe,Co,Niが用いられる。ここで金属とは、0価の状態とは限らない。反応中では0価の金属状態になっていると推定できるが、広く金属を含む化合物又は金属種という意味で解釈してよい。また金属は微粒子であることが好ましい。微粒子とは粒径が0.5〜10nmであることが好ましい。金属が微粒子であると細いカーボンナノチューブが生成しやすい。
【0061】
金属は1種類だけを担持させても、2種類以上を担持させてもよいが、好ましくは、2種類以上を担持させるようにした方がよい。2種類の金属を担持させる場合は、Co,Ni,Pd,Pt,Rhと他の金属の組み合わせが特に好ましい。CoとFe,Ni,V,Mo,Pdの1種以上とを組み合わせる場合が最も好ましい。
【0062】
担体に対する金属の担持方法は、特に限定されない。例えば、担持したい金属の塩を溶解させた非水溶液中(例えばエタノール溶液)又は水溶液中に、酸化物を含浸し、充分に分散混合した後、乾燥させ、窒素、水素、不活性ガスまたはその混合ガス又は真空中で高温(300〜600℃)で加熱することにより、酸化物に金属を担持させることができる(含浸法)。
【0063】
金属担持量は、多いほどカーボンナノチューブの収量が上がるが、多すぎると金属の粒子径が大きくなり、生成するカーボンナノチューブが太くなる場合がある。金属担持量が少ないと、担持される金属の粒子径が小さくなり、細いカーボンナノチューブが得られるが、収率が低くなる傾向がある。最適な金属担持量は、酸化物の細孔容量や外表面積、担持方法によって異なるが、酸化物に対して0.1〜10重量%の金属を担持することが好ましい。2種類以上の金属を使用する場合、その比率は限定されない。
【0064】
そして、使用する炭素含有化合物は、特に限定されないが、好ましくは炭化水素又は一酸化炭素を使うとよい。
【0065】
炭化水素は芳香族であっても、非芳香族であってもよい。芳香族の炭化水素では、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン又はこれらの混合物などを使用することができる。また、非芳香族の炭化水素では、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチレン、プロピレンもしくはアセチレン、又はこれらの混合物等を使用することができる。炭化水素には、また酸素を含むもの、例えばエタノール若しくはメタノール、プロパノール、ブタノールのごときアルコール類、アセトンのごときケトン類、及びホルムアルデヒドもしくはアセトアルデヒドのごときアルデヒド類、トリオキサン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルのごときエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類又はこれらの混合物であってもよい。
【0066】
これらの中で、特にエタノールが、屈曲部の少ない単層、あるいは2層のカーボンナノチューブを生成するのに最も適した炭素含有化合物である。
【0067】
なお、触媒と炭素含有化合物とを接触させる温度は600℃〜1200℃の範囲がよい。温度が600℃よりも低いと、カーボンナノチューブの収率が悪くなり、また温度が1200℃よりも高いと、使用する反応器の材質に制約があると共に、カーボンナノチューブ同士の接合が始まり、カーボンナノチューブの形状のコントロールが困難になる。単層カーボンナノチューブや2層カーボンナノチューブ等の細いカーボンナノチューブは、比較的高い温度で得られる。炭素源によるが、800℃〜950℃の範囲で好ましい。そして、反応場の圧力は1000Pa以下が好ましく、かつエタノールの分圧は1Pa以上100Pa以下であることが好ましい。触媒にエタノールを接触させる工程の圧力が1000Pa以上では、2層CNTの収率が著しく低下し、好ましくない。また、アルコールの分圧が1Pa以下では2層CNTの収率が著しく低下し、100Pa以上では多層CNTの生成が促進されるため好ましくない。
【0068】
上記の発明の気相反応方法を用いれば、屈曲部の少ないカーボンナノチューブを生成することができる。ここで、カーボンナノチューブ中の屈曲部とは、カーボンナノチューブのグラファイト構造中に炭素5員環と7員環が存在することによる屈曲を言い、高分解能透過型電子顕微鏡写真でカーボンナノチューブが折れ曲がって観察される部分のことを言う。そして、屈曲部の少ないカーボンナノチューブとは、高分解能透過型電子顕微鏡で選んだ任意のカーボンナノチューブについて屈曲部から屈曲部までの距離の平均を求め、それを10本以上のカーボンナノチューブについて平均した結果が、100nm以上であるものである。屈曲部から屈曲部までの距離が長ければ長いほど、カーボンナノチューブの直線性は向上し、導電性、熱伝導性が高い2層カーボンナノチューブとなる。屈曲部間距離は長いほど好ましいため、300nm以上がより好ましく、500nm以上がさらに好ましく、1μm以上が最も好ましい。屈曲部の少ないカーボンナノチューブは絡まりが少なく、溶媒に分散させたときの分散性が非常に高い。
【0069】
さらに、上記の気相反応方法を用いて、生成するカーボンナノチューブのすべての中で、1層あるいは2層のカーボンナノチューブを体積比で50%以上含ませるのが良い。さらに好ましくは、1層あるいは2層のカーボンナノチューブを体積比で50%以上含ませるのが好ましい。
【0070】
1層あるいは2層のカーボンナノチューブはこれを利用した製品用途で、3層以上の多層カーボンナノチューブよりも優れた特性を発揮できる。特に、電子放出材料、電池電極材料、高強度樹脂、導電性樹脂、電磁波シールド材の材料として最適である。
【0071】
ここで、1層あるいは2層のカーボンナノチューブを体積比で50%以上含むということは、カーボンナノチューブ含有組成物を透過型電子顕微鏡で100万倍で観察し、150nm四方の視野の中で視野面積の10%がカーボンナノチューブで、かつ10本以上のカーボンナノチューブが含まれ、そのうちの50%以上の本数が単層あるいは2層のカーボンナノチューブである写真を撮ることができるような組成物のことである。なお、上記測定を10箇所について行った平均値で評価する。
【0072】
上記の生成したカーボンナノチューブ含有組成物は共鳴ラマン分光法により評価も可能である。ラマンスペクトルにおいて1590cm−1付近に見られるラマンシフトはグラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm−1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このG/D比が高いほどグラファイト化度が高く、高品質なカーボンナノチューブを意味する。本発明にある1層あるいは2層カーボンナノチューブは、そのG/D比が10以上である。より好ましくは15以上、最も好ましくは20以上である。
【実施例】
【0073】
以下に、上記実施形態の気相反応方法を用いてカーボンナノチューブを生成する実施例について説明する。本実施例で適用した固体触媒の作成、カーボンナノチューブの評価方法、カーボンナノチューブの精製方法、カーボンナノチューブを利用した電界電子放出源の作成と評価を以下に示す。
【0074】
A.触媒作成
(HSZ−390HUAへの金属塩の担持)
酢酸鉄(アルドリッチ社製)1.62gと酢酸コバルト・4水和物(関東化学社製)2.17gとをエタノール(関東化学社製)800mlに溶解した。この溶液に、HSZ−390HUA(東ソー社製)を20g加え、超音波洗浄機で60分間処理し、80℃の恒温下でエタノールを除去して乾燥し、HSZ−390HUA粉末に金属塩が担持された固体触媒を得た。
【0075】
B.触媒作成
(MCM−41の合成)
セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB:アルドリッチ社製)3.64gと、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH:アルドリッチ社製)1.45gを35℃のイオン交換水28.8mlに加えた後に、ヒュームドシリカ(アルドリッチ社製)2.4gを加え1時間撹拌した。20時間エージング後に、オートクレーブに移し、150℃で96時間、水熱合成した。水熱合成後に生成物をろ取、洗浄後に550℃で8時間焼成し、MCM−41を得た。
【0076】
(MCM−41への金属塩の担持)
酢酸鉄(アルドリッチ社製)0.69gと酢酸コバルト・4水和物(関東化学社製)0.93gとをメタノール(関東化学社製)100mlに溶解した。この溶液に、MCM−41を8.8g加え、超音波洗浄機で60分間処理し、80℃の恒温下でメタノールを除去して乾燥し、MCM−41粉末に金属塩が担持された固体触媒を得た。
【0077】
C.カーボンナノチューブの評価
高分解能透過型電子顕微鏡で100万倍で10箇所について観察評価する。また、日本電子(株)社製の走査顕微鏡(JSM−6301F)を用いて屈曲部等を観察評価する。堀場ジョバンイボン社製のラマン分光測定装置INF−300を使用し、レーザー波長532nmでラマン分光測定を行い、10点の測定スペクトルからG/D比の平均を計算した。
【0078】
D.カーボンナノチューブの精製方法
(1)焼成・分離
<焼成>
合成で得たカーボンナノチューブ含有組成物10.0gを、大気雰囲気で400℃(昇温時間40分)に加熱した。400℃で60分保持した後、室温まで冷却した(降温時間60分)。
【0079】
<分離>
焼成後のカーボンナノチューブ含有組成物10.0gを、トルエン100mlとイオン交換水100mlを入れたビーカー(300ml用)に投入し、60分間超音波照射した後、分液ロート(250ml用)に移し、30分静置した。上層部(トルエン側)と下層部(イオン交換水側)を分液、それぞれ回収し、回収した上層部(トルエン側)は、イオン交換水100mlを加えてビーカー(300ml用)に投入した。このような撹拌、超音波処理、静置、分液、回収した上層部(トルエン側)にイオン交換水を追加する一連の操作を1回として、3回繰り返し、最後に得られた上層部(トルエン側)を濾過、乾燥した。
【0080】
E.電界電子放出源の作成と評価
(1)基板作成
100×100mm、厚さ2.8mmのITO等の透明電極を塗布したソーダガラス基板の中央部50mm×50mmの領域にCRT用蛍光体(緑)を厚み1〜10μmでスクリーン印刷した。また、同じサイズの別の基板の表面に銀電極膜をスクリーン印刷で形成し、さらにその中央部の10×10mmの領域にカーボンナノチューブを濃度0.01%として有機溶媒中に超音波分散させた分散液をスプレー塗布し、成膜した。
【0081】
そして、上記2枚の基板をカーボンナノチューブ面と、蛍光体面が対向するようにギャップ300μmとなるようにジルコニアビーズを基板間に分散し、貼り合わせた。
【0082】
(2)エミッションの評価
上記(1)で作成した基板を真空チャンバーの中にセットし、電極間I−V特性を評価した。この時のチャンバー内の圧力は3.0−5.0×10−5Paであった。
【0083】
実施例1
(1)<合成>
(1.1)装填工程
上記Aにより得られた固体触媒10gを図3に示す把持体に保持した状態で、図1に示す気相反応装置の投入室にセットする。その後、装置を作動させて、あらかじめ反応部を850℃に加熱した反応室に装填する。反応室は内径250mmの石英反応管であり、触媒の装填前にあらかじめアルゴンで満たしておく。
【0084】
(1.2)加熱工程
装填後、5分間、反応室をアルゴンで置換しながら触媒を加熱する。アルゴンをマスフローコントローラ3250(コフロック(株)製)を用いて、40L/分の流量で制御しながら、反応室を置換する。アルゴンの導入は、反応管下部に対向配置された2箇所のガス導入口から導入し、排気は反応管上部に90度ピッチで設けた4箇所の排気口より行う。この時に、反応管排気口近くに設けた真空計M−320XG(アネルバ(株)製)で大気圧を示していた。
【0085】
(1.3)反応工程
次に、反応室を減圧にしてエタノールを供給する。
【0086】
アルゴンの供給を停止し、反応室に連結された真空ポンプDVS−631(アルバック機工(株)製)を作動させて、反応室を減圧にする。反応室の排気口近くに設けられた真空計(M−320XG:アネルバ(株)製)で50Paを示していた。
【0087】
次に、アルゴンをキャリアーガスとして、エタノールを供給する。エタノール供給機構として、キャリアーガス用マスフローコントローラMC−3202((株)リンテック製)、エタノール用マスフローメーターLM−2100A((株)リンテック製)、気化器VU−450((株)リンテック製)を連結して構成する気化供給装置を用いる。エタノール流量を1g/分で、アルゴン流量を10L/分で20分間導入した。なお、反応室の排気口近くに設けた真空計M−320XG(アネルバ(株)製)で700Paであった。
【0088】
(1.4)回収工程
反応終了後、反応室をアルゴンを導入し、大気圧まで戻した後、触媒および生成物を回収室に回収した。
【0089】
(2)<カーボンナノチューブの評価>
生成物に対して、上記Cの評価を実施した。電子顕微鏡で観察した結果、1層のカーボンナノチューブが80%生成され、屈曲部から屈曲部までの距離は250nmと非常に屈曲部の少ないカーボンナノチューブであった。また、レーザー波長532nmでラマン分光を測定した結果、10点の測定スペクトルからG/D比は18であった。得られた電子顕微鏡の像の一例を図4に示す。
【0090】
(3)<電子放出源の作成および評価>
生成物に対して上記Dの精製方法を実施し、純度97%(重量比)の1.0gのカーボンナノチューブを得た。このカーボンナノチューブを用いて、上記E(1)の方法で作成した基板のエミッションを上記E(2)の方法で評価を行った。その結果、立ち上がり電圧が2V/μm以下であった。
【0091】
実施例2
(1)<合成>
(1.1)装填工程
上記Bにより得られた固体触媒10gを図3に示す把持体に保持した状態で、図1に示す気相反応装置の投入室にセットする。その後、装置を作動させて、あらかじめ反応部を850℃に加熱した反応室に装填する。反応室は内径250mmの石英反応管であり、触媒の装填前にあらかじめアルゴンで満たしておく。
【0092】
(1.2)加熱工程
装填後、5分間、反応室をアルゴンで置換しながら触媒を加熱する。アルゴンをマスフローコントローラ3250(コフロック(株)製)を用いて、40L/分の流量で制御しながら、反応室を置換する。アルゴンの導入は、反応管下部に対向配置された2箇所のガス導入口から導入し、排気は反応管上部に90度ピッチで設けた4箇所の排気口より行う。この時に、反応管排気口近くに設けた真空計M−320XG(アネルバ(株)製)で大気圧を示していた。
【0093】
(1.3)反応工程
次に、反応室を減圧にしてエタノールを供給する。
【0094】
アルゴンの供給を停止し、反応室に連結された真空ポンプDVS−631(アルバック機工(株)製)を作動させて、反応室を減圧にする。反応室の排気口近くに設けられた真空計(M−320XG)で50Paを示していた。
【0095】
次に、アルゴンをキャリアーガスとして、エタノールを供給する。エタノール供給機構として、キャリアーガス用マスフローコントローラMC−3202((株)リンテック製)、エタノール用マスフローメーターLM−2100A((株)リンテック製)、気化器VU−450((株)リンテック製)を連結して構成する気化供給装置を用いる。エタノール流量を1g/分で、アルゴン流量を10L/分で20分間導入した。なお、反応室の排気口近くに設けた真空計M−320XG(アネルバ(株)製)で700Paであった。
【0096】
(1.4)回収工程
反応終了後、反応室をアルゴンを導入し、大気圧まで戻した後、触媒および生成物を回収室に回収した
(2)<カーボンナノチューブの評価>
生成物に対して、上記Cの評価を実施した。電子顕微鏡で観察した結果、すべてのカーボンナノチューブに対して、1層のカーボンナノチューブが30%(体積比)生成され、2層のカーボンナノチューブが50%生成されていた。また、屈曲部から屈曲部までの距離は250nm以上と非常に屈曲部の少ないカーボンナノチューブであった。また、レーザー波長532nmでラマン分光を測定した結果、10点の測定スペクトルからG/D比は13であった。得られた電子顕微鏡の像の一例を図5に示す。
【0097】
(3)<電子放出源の作成および評価>
生成物に対して上記Dの精製方法を実施し、純度96%(重量比)の1.0gのカーボンナノチューブを得た。このカーボンナノチューブを用いて、上記E(1)の方法で作成した基板のエミッションを上記E(2)の方法で評価を行った。その結果、立ち上がり電圧が2V/μm以下であった。
【0098】
比較例1
(1)<合成>
(1.1)装填工程
上記Aにより得られた固体触媒10gを図3に示す把持体に保持した状態で、図1に示す気相反応装置の投入室にセットする。その後、装置を作動させて、あらかじめ反応部を850℃に加熱した反応室に装填する。反応室は内径250mmの石英反応管であり、触媒の装填前にあらかじめアルゴンで満たしておく。
【0099】
(1.2)加熱工程
装填後、反応室をアルゴンを導入しながら減圧にし、5分間触媒を加熱する。減圧は、反応室に連結された真空ポンプDVS−631(アルバック機工(株)製)を作動させて行う。アルゴンをマスフローコントローラ3250(コフロック(株)製)を用いて、1L/分の流量で制御し、この時に、反応管排気口近くに設けた真空計M−320XG(アネルバ(株)製)で250Paを示していた。アルゴンの導入は、反応管下部に対向配置された2箇所のガス導入口から導入し、排気は反応管上部に90度ピッチで設けた4箇所の排気口より行う。
【0100】
(1.3)反応工程
次に、反応室にしてアルゴンをキャリアーガスとしてエタノールを供給する。エタノール供給機構として、キャリアーガス用マスフローコントローラMC−3202((株)リンテック製)、エタノール用マスフローメーターLM−2100A((株)リンテック製)、気化器VU−450((株)リンテック製)を連結して構成する気化供給装置を用いる。エタノール流量を1g/分で、アルゴン流量を10L/分で20分間導入した。なお、反応室の排気口近くに設けた真空計M−320XG(アネルバ(株)製)で700Paであった。
【0101】
(1.4)回収工程
反応終了後、反応室をアルゴンを導入し、大気圧まで戻した後、触媒および生成物を回収室に回収した。
【0102】
(2)<カーボンナノチューブの評価>
生成物に対して、上記Cの評価を実施した。電子顕微鏡で観察した結果、1層のカーボンナノチューブが6%生成され、後はほとんど多層のカーボンナノチューブであった。屈曲部から屈曲部までの距離は50nmと屈曲部の多いカーボンナノチューブであった。また、レーザー波長532nmでラマン分光を測定した結果、10点の測定スペクトルからG/D比は4.1であった。
【0103】
(3)<電子放出源の作成および評価>
生成物に対して上記Dの精製方法を実施し、純度97%(重量比)の0.5gのカーボンナノチューブを得た。このカーボンナノチューブを用いて、上記E(1)の方法で作成した基板のエミッションを上記E(2)の方法で評価を行った。その結果、立ち上がり電圧が5V/μm以上であった。
【0104】
比較例2
(1)<合成>
(1.1)装填工程
上記Bにより得られた固体触媒10gを図3に示す把持体に保持した状態で、図1に示す気相反応装置の投入室にセットする。その後、装置を作動させて、あらかじめ反応部を850℃に加熱した反応室に装填する。反応室は内径250mmの石英反応管であり、触媒の装填前にあらかじめアルゴンで満たしておく。
【0105】
(1.2)加熱工程
装填後、反応室にアルゴンを導入しながら減圧にし、5分間触媒を加熱する。減圧は、反応室に連結された真空ポンプDVS−631(アルバック機工(株)製)を作動させて行う。アルゴンをマスフローコントローラ3250(コフロック(株)製)を用いて、1L/分の流量で制御し、この時に、反応管排気口近くに設けた真空計M−320XG(アネルバ(株)製)で210Paを示していた。アルゴンの導入は、反応管下部に対向配置された2箇所のガス導入口から導入し、排気は反応管上部に90度ピッチで設けた4箇所の排気口より行う。
【0106】
(1.3)反応工程
次に、反応室を減圧にしてエタノールを供給する。
【0107】
アルゴンの供給を停止し、反応室に連結された真空ポンプDVS−631(アルバック機工(株)製)を作動させて、反応室を減圧にする。反応室の排気口近くに設けられた真空計(M−320XG)で60Paを示していた。
【0108】
次に、アルゴンをキャリアーガスとして、エタノールを供給する。エタノール供給機構として、キャリアーガス用マスフローコントローラMC−3202((株)リンテック製)、エタノール用マスフローメーターLM−2100A((株)リンテック製)、気化器VU−450((株)リンテック製)を連結して構成する気化供給装置を用いる。エタノール流量を1g/分で、アルゴン流量を10L/分で20分間導入した。なお、反応室の排気口近くに設けた真空計M−320XG(アネルバ(株)製)で730Paであった。
【0109】
(1.4)回収工程
反応終了後、反応室から触媒および生成物を回収した。
【0110】
(2)<カーボンナノチューブの評価>
生成物に対して、上記Cの評価を実施した。電子顕微鏡で観察した結果、すべてのカーボンナノチューブに対して、1層のカーボンナノチューブが3%(体積比)生成され、2層のカーボンナノチューブが2%生成されていた。残りはほとんどが多層ナノチューブまたはファイバーであった。また、屈曲部から屈曲部までの距離は25nmと屈曲部の多いカーボンナノチューブであった。また、レーザー波長532nmでラマン分光を測定した結果、10点の測定スペクトルからG/D比は3.6であった。
【0111】
(3)<電子放出源の作成および評価>
生成物に対して上記Dの精製方法を実施し、純度96%(重量比)の0.6gのカーボンナノチューブを得た。このカーボンナノチューブを用いて、上記E(1)の方法で作成した基板のエミッションを上記E(2)の方法で評価を行った。その結果、立ち上がり電圧が5V/μm以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、紛状あるいは粒子状被反応物を使用する気相反応方法に有効であり、特に金属触媒を担持した担体と炭素含有ガスを接触させてカーボンナノチューブを製造する気相反応に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明の気相反応方法を採用したプロセス概念を示すタイムチャートである。
【図2】本発明の気相反応方法を達成するための気相反応装置の一例を示す概略断面図である。
【図3】被反応物を保持する把持体を示す概略断面図である。
【図4】実施例1によって得られたカーボンナノチューブの電子顕微鏡による像の一例である。
【図5】実施例2によって得られたカーボンナノチューブの電子顕微鏡による像の一例である。
【符号の説明】
【0114】
1:気相反応装置
2:被反応物
3:把持体
4:金属酸化物繊維
5:多孔板
6:押さえ部材
7:シール部
10:投入室
11:準備室
12:反応室
13:回収室
14:不活性ガス供給部
15:真空排気部
16:反応ガス供給部
17:不活性ガス供給部
18:真空排気部
19:保持部
21:ヒータ
22:投入ゲートバルブ(扉)
23:準備室入口ゲートバルブ(扉)
24:装填上ゲートバルブ(扉)
25:装填下ゲートバルブ(扉)
26:準備室出口ゲートバルブ(扉)
27:排気バルブ
28:回収ゲートバルブ(扉)
30:装填機構部
31:支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応場に、粉状あるいは粒子状被反応物を装填する装填工程と、前記粉状あるいは粒子状被反応物を、反応工程における反応場の圧力よりも高い圧力下で、不活性ガスを導入しながら600℃以上まで加熱する加熱工程と、600℃以上かつ減圧下の反応場に反応ガスを導入しながら気相反応させる反応工程を有することを特徴とする気相反応方法。
【請求項2】
装填工程において、反応場を600℃以上、かつ実質的に一定の温度に保ったままで、粉状あるいは粒子状被反応物を前記反応場に装填することを特徴とする請求項1に記載の気相反応方法。
【請求項3】
加熱工程を実施した直後に反応工程を実施することを特徴とする請求項1または2に記載の気相反応方法。
【請求項4】
前記反応場において、前記粉状あるいは粒子状被反応物を気体が通過可能な把持体で保持することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の気相反応方法。
【請求項5】
前記把持体の周縁部で気体の通過を略封止するシール部を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の気相反応方法。
【請求項6】
600℃以上の反応場において粉状あるいは粒子状被反応物を気相反応させた後、反応物を反応場から間欠的に取り出す回収工程を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の気相反応方法。
【請求項7】
前記粉状あるいは粒子状被反応物が、金属触媒を担持した担体であり、前記反応ガスが炭素含有化合物を含むものであり、気相反応により中空状ナノファイバーを生成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の気相反応方法。
【請求項8】
金属触媒を担持した担体が、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライト、ケイ素を主成分とするメソポーラス材料を特徴とする請求項7に記載の気相反応方法。
【請求項9】
前記金属は、V、Mo、Fe、Co,Ni,Pd、Pt,Rh,W,Cuのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項7または8に記載の気相反応方法。
【請求項10】
前記反応ガスがエタノール蒸気を含むものであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の気相反応方法。
【請求項11】
気相反応により得られる中空状ナノファイバーの屈曲部から屈曲部までの平均距離が100nm以上有することを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の気相反応方法。
【請求項12】
気相反応により得られる中空状ナノファイバーが1層あるいは2層の中空状ナノファイバーが体積比で50%以上含むものであることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の気相反応方法。
【請求項13】
気相反応により得られる中空状ナノファイバーが1層あるいは2層の中空状ナノファイバーが体積比で80%以上含むものであることを特徴とする請求項12に記載の気相反応方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−187724(P2006−187724A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1265(P2005−1265)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】