説明

気筒間空燃比ばらつき推定方法および故障判定方法

【課題】空燃比センサーを用いて多気筒内燃機関における気筒間の空燃比のばらつきを検出する場合、空燃比センサーの個体差が大きく影響するために信頼性に乏しい。
【解決手段】本発明による気筒間インバランス率推定方法は、多気筒内燃機関10の始動時の冷却水温TSを検出するステップと、多気筒内燃機関10の始動時の冷却水温TSがあらかじめ設定した閾水温TLよりも低いか否かを判定するステップと、多気筒内燃機関10の始動時の冷却水温TSが閾水温TLよりも低いと判断した場合、冷却水温TSが多気筒内燃機関10の始動時から所定温度上昇量ΔTに達するまでの吸入空気量GNを積算するステップと、冷却水温TSが所定温度上昇量ΔTに達した時点における積算吸入空気量GMに基づいて気筒間の空燃比のインバランス率を求めるステップとを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関における気筒間の空燃比のばらつき状態を把握し、これによって任意の気筒の不調を判定し得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多気筒内燃機関において、ある特定の気筒にのみ不具合が発生するような場合、これは個々の気筒からの排気中の空燃比のばらつきとなって現われる。例えば、直噴式の多気筒内燃機関では、特定の燃料噴射弁にデポジットが堆積することによる故障や、経年変化に伴う機械的劣化による故障などが発生する。このような故障が発生している燃料噴射弁から対応する気筒に供給される燃料量は、正常に作動する燃料噴射弁から対応する気筒に供給される燃料量よりも多くなり、その排気の空燃比が正常気筒からの排気の空燃比よりも一般的にリッチ傾向となる。
【0003】
このような多気筒内燃機関における気筒間の空燃比のばらつき状態は、排気浄化装置よりも上流側の排気通路に配した空燃比センサーによって検出可能であることが引用文献1に記載されている。気筒間の空燃比のばらつきは、一般にインバランス率で表される。このインバランス率は、ある気筒が故障したと仮定した場合、他の正常気筒への燃料の噴射量に対し、その故障気筒への燃料の噴射量の割合で示される。例えば、故障気筒への燃料噴射量が他の正常気筒よりも40%多い場合、インバランス率は40%であると定義される。なお、インバランス率が一般的に50%を越えるような場合、エンジンに故障があることを示す警告表示がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−257236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空燃比センサーは非常にデリケートな特性を利用したものであるため、製造上のばらつきが比較的大きい。このため、同じ運転条件下にある複数の全く同じ内燃機関であっても、検出される空燃比の値が相違してしまうことが知られている。このため、空燃比センサーを用いて気筒間のインバランス率を検出する引用文献1に開示された方法では、気筒間のインバランス率が実際に同じ内燃機関であっても、使用した空燃比センサーによって検出されるインバランス率がばらつくことになる。しかも、空燃比センサーの劣化や充分なS/N比を取れない状況などを考慮すると、空燃比センサーを用いる従来の方法では検出結果に高い信頼性を持たせることができない。
【0006】
本発明の目的は、個体差が大きな空燃比センサーを用いることなく、多気筒内燃機関における気筒間の空燃比のインバランス率を高い信頼性を以て推定し得る方法と、同時に任意の気筒の異常の有無を判定し得る方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態は、多気筒内燃機関の始動時の冷却水温を検出するステップと、前記多気筒内燃機関の始動時の冷却水温があらかじめ設定した閾水温よりも低いか否かを判定するステップと、前記多気筒内燃機関の始動時の冷却水温が前記閾水温よりも低いと判断した場合、前記冷却水温が前記多気筒内燃機関の始動時から所定温度上昇量に達するまでの吸入空気量を積算するステップと、前記冷却水温が前記所定温度上昇量に達した時点における前記積算吸入空気量に基づいて気筒間の空燃比のインバランス率を推定するステップとを具えたことを特徴とする気筒間の空燃比インバランス率推定方法にある。
【0008】
ここで、多気筒内燃機関における気筒間の空燃比のインバランス率と駆動トルクとの関係を模式的に図6に示し、空燃比のインバランス率と吸入空気量との関係を模式的に図7に示し、空燃比のインバランス率と冷却水温の変化量との関係を模式的に図8に示す。また、車両を特定の運転モードにて走行させた場合における冷態始動時からの車速と冷却水温と積算吸入空気量との関係を図9に示し、空燃比のインバランス率と積算吸入空気量との関係を模式的に図3に示す。なお、図9において空燃比のインバランス率が0%の場合の積算吸入空気量を実線で表し、50%の場合の積算吸入空気量を二点鎖線で表している。
【0009】
図6から明らかなように、気筒間の空燃比にばらつきがある場合、これが大きいほど駆動トルクが相対的に低下する。このため、図7および図9から明らかなように、同じ運転条件の下では空燃比のインバランス率が大きいほど吸入空気量も相対的に大きくなることが理解される。また、図8および図9から明らかなように、同じ運転条件の下での冷態始動時からの冷却水温の変化量は、空燃比のインバランス率の大小に拘らず、一定となる。 従って、空燃比のインバランス率は、図3に示すように多気筒内燃機関の冷態始動時からの積算吸入空気量に比例することが理解されよう。
【0010】
本発明の第1の形態による気筒間の空燃比インバランス率推定方法において、推定された気筒間の空燃比のインバランス率が予め設定した閾値よりも大きい場合、一部の気筒に異常があると判定する。
【0011】
外気温に基づいて吸入空気量を補正するステップをさらに具え、積算吸入空気量が補正された吸入空気量を積算したものであってよい。
【0012】
本発明の第2の形態は、多気筒内燃機関の始動時の冷却水温を検出するステップと、前記多気筒内燃機関の始動時の冷却水温があらかじめ設定した閾水温よりも低いか否かを判定するステップと、前記多気筒内燃機関の始動時からの吸入空気量を積算するステップと、前記多気筒内燃機関の始動時の冷却水温が前記閾水温よりも低いと判断した場合、前記多気筒内燃機関の始動時からの積算吸入空気量があらかじめ設定した所定値に達した時点における冷却水温を検出するステップと、前記吸入空気量が前記所定値に達した時点における前記冷却水温に基づき、一部の気筒に異常があるか否かを判定するステップとを具えたことを特徴とする故障判定方法にある。
【0013】
本発明においては、先の図3,図6〜図9に示した関係から、多気筒内燃機関の冷態始動時から所定吸入空気量に達した時点における冷却水温に基づき、一部の気筒に異常があるか否かが判定される。
【0014】
本発明の第2の形態による故障判定方法において、一部の気筒に異常があるか否かを判定するステップは、積算吸入空気量が所定値に達した時点における冷却水温と、多気筒内燃機関の始動時の冷却水温との差を求めるステップと、これにより求めた冷却水温の差と予め設定した閾値とを比較するステップとを含むものであってよい。この場合、一部の気筒に異常があるか否かを判定するステップは、求められた冷却水温の差が閾値よりも大きい場合、一部の気筒に異常があると判定する。
【0015】
外気温に基づいて吸入空気量を補正するステップをさらに具え、積算吸入空気量が補正された吸入空気量を積算したものであってよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の気筒間の空燃比インバランス率推定方法によると、空燃比センサーを使用せずとも、多気筒内燃機関の始動時から冷却水温が所定温度上昇量に達するまでの積算吸入空気量に基づき、気筒間の空燃比のインバランス率を推定することができる。
【0017】
推定された気筒間の空燃比のインバランス率が予め設定した閾値よりも大きい場合、一部の気筒に異常があると判定することができる。
【0018】
外気温に基づいて吸入空気量を補正し、この補正された吸入空気量を積算するようにした場合、空燃比のインバランス率をより正確に推定することができる。
【0019】
本発明の故障判定方法によると、空燃比センサーを使用せずとも、多気筒内燃機関の始動時からの積算吸入空気量が所定値に達した時点における冷却水温に基づき、一部の気筒に異常があるか否かを判定することができる。
【0020】
積算吸入空気量が所定値に達した時点における冷却水温と、多気筒内燃機関の始動時の冷却水温との差を求め、この冷却水温の差が予め設定した閾値よりも大きい場合、一部の気筒に異常があると判定することができる。
【0021】
外気温に基づいて吸入空気量を補正し、この補正された吸入空気量を積算するようにした場合、より正確な故障判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の対象となる多気筒内燃機関の一例を模式的に表す概念図である。
【図2】本発明の方法を実施し得る一実施形態における制御ブロック図である。
【図3】多気筒内燃機関における空燃比のインバランス率と積算吸入空気量との関係を模式的に表すグラフである。
【図4】図2に示した実施形態における処理手順を表すフローチャートである。
【図5】本発明の他の実施形態による処理手順を表すフローチャートである。
【図6】多気筒内燃機関における気筒間の空燃比のインバランス率と駆動トルクとの関係を模式的に表すグラフである。
【図7】空燃比のインバランス率と吸入空気量との関係を模式的に表すグラフである。
【図8】空燃比のインバランス率と冷却水温の変化量との関係を模式的に表すグラフである。
【図9】車両を特定の運転モードにて走行させた場合における冷態始動時からの車速と冷却水温と積算吸入空気量との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を火花点火方式の多気筒内燃機関の故障判定に適用した実施形態について、図1〜図5を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明は火花点火方式の多気筒内燃機関に限らず、軽油を燃料噴射弁から圧縮状態にある燃焼室内に直接噴射することにより、自然着火させる圧縮点火方式の多気筒内燃機関に対してもそのまま応用することが可能である。
【0024】
本実施形態におけるエンジンシステムを模式的に図1に示し、その制御ブロックを図2に示す。本実施形態におけるエンジン10は、ガソリンやアルコールまたはこれらの混合物あるいは液化天然ガスなどの燃料を燃料噴射弁11から燃焼室12内に直接噴射し、点火プラグ13によって着火させる火花点火方式の多気筒内燃機関である。
【0025】
燃焼室12にそれぞれ臨む吸気ポート14aおよび排気ポート14bが形成されたシリンダーヘッド14には、吸気ポート14aを開閉する吸気弁15aおよび排気ポート14bを開閉する排気弁15bを含む動弁機構が組み込まれている。先の燃料噴射弁11や、燃焼室12内の混合気を着火させる点火プラグ13およびこの点火プラグ13に火花放電を発生させる点火コイル16もこのシリンダーヘッド14に組み込まれている。
【0026】
なお、本実施形態における燃料噴射弁11は、燃料を燃焼室12内に直接噴射する直噴形式のものを採用しているが、吸気ポート14a内に噴射するポート噴射形式のものを採用することも可能である。
【0027】
燃料噴射弁11から燃焼室12内に供給される燃料の量および噴射タイミングは、運転者によるアクセルペダル17の踏み込み量を含む車両の運転状態に基づき、 ECU(Electronic Control Unit)18により制御される。アクセルペダル17の踏み込み量は、アクセル開度センサー19により検出され、その検出情報がECU18に出力されるようになっている。より具体的には、ECU18の燃料噴射設定部18aは、アクセル開度センサー19からの検出信号を含む車両の運転状態に基づき、エンジン10の要求駆動トルクを算出する。そして、これに対応した燃料噴射弁11からの燃料の噴射量、つまり供給量と、その噴射時期とを設定する。ECU18の燃料噴射弁駆動部18bは、この燃料噴射設定部18aにて設定された燃料噴射量に対応した燃料が設定された噴射時期に噴射されるように、燃料噴射弁11を駆動する。
【0028】
車両の運転状態は、アクセル開度センサー19を含む後述の各種センサーなどからの検出信号に基づき、ECU18の運転状態判定部18cにて把握され、ここからエンジン10の運転状態に関する情報が上述した燃料噴射設定部18aなどに出力される。
【0029】
また、点火プラグ13の点火時期は、ECU18の運転状態判定部18cからの情報に基づき、ECU18の点火時期設定部18dにて設定される。ECU18の点火コイル駆動部18eは、この点火時期設定部18dにて設定された点火時期に点火プラグ13が火花放電を起こすように、点火コイル16を駆動する。
【0030】
吸気ポート14aに連通するようにシリンダーヘッド14に連結されて吸気ポート14aと共に吸気通路20aを画成する吸気管20の上流端側には、大気中に含まれる塵埃などを除去して吸気通路20aに導くためのエアークリーナー21が設けられている。このエアークリーナー21と吸気ポート14aとの間の吸気管20の途中には、燃焼室12に導かれる吸気の脈動を緩和するためのサージタンク22が形成されている。このサージタンク22と先のエアークリーナー21との間の吸気管20の途中には、吸気通路20aの開度を調整するためのスロットル弁23が組み込まれている。本実施形態におけるスロットル弁23は、運転者によって操作されるアクセルペダル17の踏み込み量を含むECU18の運転状態判定部18cで判定される車両の運転状態に基づき、ECU18のスロットル開度設定部18fにて設定される。そして、このスロットル開度設定部18fにて設定された開度となるように、ECU18のアクチュエーター駆動部18gがスロットルアクチュエーター24を介してスロットル弁23の駆動を行う。
【0031】
このように、本実施形態ではアクセルペダル17の踏み込み動作と、スロットル弁23の開閉動作とを機械的に切り離し、スロットルアクチュエーター24を用いてスロットル弁23の開閉動作を電気的に制御できるようにしている。しかしながら、アクセルペダル17とスロットル弁23とを機械的に連結したものであってもよく、この場合にはスロットルアクチュエーター24を省略することが可能である。なお、エアークリーナー21とスロットル弁23との間の吸気管20の途中には、吸気通路20a内を流れる吸気流量を検出してこれをECU18に出力するエアーフローメーター25が設けられている。
【0032】
ピストン26が往復動するシリンダーブロック27には、連接棒28を介してピストン26が連結されるクランク軸29の回転位相、つまりクランク角位置を検出してこれをECU18に出力するクランク角センサー30が取り付けられている。また、このシリンダーブロック27には、ここに形成された水ジャケット27a内の冷却水の温度を検出してこれをECU18に出力する水温センサー31も取り付けられている。
【0033】
燃焼室12内での混合気の燃焼により生成する有害物質を無害化するための排気浄化装置32は、吸気ポート14aに連通するようにシリンダーヘッド14に連結されて排気ポート14bと共に排気通路33aを画成する排気管33の途中に配されている。
【0034】
従って、エアークリーナー21から吸気通路20aを通って燃焼室12内に供給される吸気は、燃料噴射弁11から燃焼室12内に噴射される燃料と混合気を形成する。そして、ピストン26の圧縮上死点近傍にて点火プラグ13の火花放電により着火して燃焼し、これによって生成する排気が排気浄化装置32を通って排気管33から大気中に排出される。
【0035】
前記ECU18は、周知のワンチップマイクロプロセッサであり、図示しないデータバスにより相互接続されたCPU,ROM,RAM,不揮発性メモリおよび入出力インターフェースなどを含む。このECU18は、予め設定されたプログラムに従って円滑なエンジン10の運転がなされるように、燃料噴射弁11,点火コイル16,スロットルアクチュエーター24などの作動を制御する。このため、ECU18にはイグニッションキースイッチ34や、上述したセンサー19,30,31および外気温を検出する外気温センサー35ならびにエアーフローメーター25などからの検出情報が入力される。
【0036】
また、本実施形態におけるエンジンシステムは、気筒間の空燃比のインバランス率を推定してこれが例えば50%を越えた場合、エンジン10が不調であることを警告するための警告表示器36をさらに具えている。このため、本実施形態におけるECU18は、前述した運転状態判定部18cなどの他に、インバランス異常判定部18hおよび警告表示器駆動部18iをさらに具えている。なお、先の警告表示器36は、聴覚や視覚などを利用してエンジン10を駆動する車両の運転者などに対する注意を喚起し得るものであればよい。
【0037】
インバランス異常判定部18hは、先の図3に示すような空燃比のインバランス率と積算吸入空気量GMとを関係付けたマップを記憶している。そして、冷態始動時の冷却水温TSがエンジン10の冷態始動時から所定温度上昇量ΔTに達するまでの吸入空気量GNを積算し、空燃比のインバランス率が例えば50%を越えている場合、エンジン10が不調であると判定する。このインバランス異常判定部18hでの判定結果は、警告表示器駆動部18iに出力される。警告表示器駆動部18iは、インバランス異常判定部18hからの判定結果に基づき、推定される空燃比のインバランス率が50%を越えた場合に警告表示器36を駆動する。なお、本実施形態においては、イグニッションキースイッチ34がオンに切り替わった時の冷却水温TSが予め設定した閾水温TL未満の場合、エンジン10が冷態始動状態であると判定する。この場合、冷態始動判定用の閾水温TLとして例えば25℃が一般的であり、先の所定温度上昇量ΔTは冷態始動時の冷却水温TSとその後の冷却水温TNとの差(TN−TS)で表され、これは例えば50度に設定される。
【0038】
このように、ある気筒が故障して燃料噴射量が適正な値から外れる場合、フィードバック制御の結果として、正常な気筒も適正な燃料噴射量から外れた状態で制御される結果、全体として発生する駆動トルクも低下する。このため、同じ運転条件における吸入空気量が気筒間の空燃比のインバランス率に比例するという特性を利用し、冷態始動時からの積算吸入空気量GMに基づいて気筒間の空燃比のインバランス率を推定することが可能となる。つまり、気筒間に空燃比のばらつきがあると、エンジン10の駆動トルクが低下するため、同じ運転条件ではスロットル弁23の開度をより大きくしなければならず、結果として吸入空気量が増大する。これに対し、同じ運転条件を維持するために必要な発熱量は変化しないので、冷却水温の変化量は空燃比のインバランス率に拘らず、基本的に一定となるので、エンジン10の冷態始動時から冷却水温が所定温度上昇量に達するまでの間の積算吸入空気量GMは、インバランス率の増大に伴って増加することとなる。結果として、冷態始動時における冷却水温TSが所定温度上昇量ΔTに達した時点での積算吸入空気量GMがあらかじめ設定した閾値GR以上の場合、エンジン10が不調であると判断することが可能となる。
【0039】
この場合、冷却水温TNの所定温度上昇量ΔTは、点火時期(点火遅角量)や外気温によって変化する。例えば、外気温が低い場合には冷却水温TNの上昇速度が遅くなるため、冷却水温TNが所定温度上昇量ΔT以上に昇温するまでの時間が長くなり、気筒間の空燃比のインバランス率が低い正常な状態であっても積算吸入空気量GMが大きくなってしまう。そこで、運転状態判定部18cは、外気温に応じてあらかじめ設定された補正係数をエアーフローメーター25による検出値に乗算し、これによって補正した吸入空気量GNを積算するようにしている。
【0040】
なお、エンジン10が冷態始動ではない場合、冷却水温TNの上昇速度が高くなって空燃比のインバランス率に応じた吸入空気量の変化が小さくなる傾向となる。従って、本実施形態では冷態始動時以外では空燃比のインバランス率の推定を行わないようにしている。
【0041】
このような本実施形態による本発明の実施手順の一例を図4のフローチャートに示すが、この制御はイグニッションキースイッチ34のオン信号の度に起動するものである。すなわち、イグニッションキースイッチ34のオン信号により、まずS10のステップにてフラグがセットされているか否かを判定する。最初はフラグがセットされていないので、S11のステップに移行し、ここで冷却水温TSが閾水温TLよりも低いか否かを判定する。S11のステップにて冷却水温TSが閾水温TL以上である、すなわち冷態始動ではないと判断した場合には、何もせずに今回の処理を終了する。
【0042】
一方、S11のステップにて冷却水温TSが閾水温TLよりも低い、すなわちエンジン10の冷態始動中であると判断した場合には、S12のステップに移行してフラグをセットする。次に、S13のステップにて外気温に応じた吸入空気量GNの補正を行い、これに基づいてS14のステップにて補正した吸入空気量GNの積算を行う。しかる後、S15のステップにて現在の冷却水温TNから今回の冷態始動時の冷却水温TSを減算した値が所定温度上昇量ΔTに達しているか否かを判定する。最初は、現在の冷却水温TNから今回の冷態始動時の冷却水温TSを減算した値が所定温度上昇量ΔTに達していないので、S10のステップに戻り、S13〜S15のステップを繰り返し、積算吸入空気量GMの更新を続ける。
【0043】
このようにして、S15のステップにて現在の冷却水温TNから今回の冷態始動時の冷却水温TSを減算した値が所定温度上昇量ΔTに達したと判断した場合には、S16のステップに移行してこの時の積算吸入空気量GMが閾値GRよりも少ないか否かを判定する。ここで、積算吸入空気量GMが閾値GRよりも少ない、すなわちエンジン10の気筒に異常がないと判断した場合には、S17のステップに移行してフラグをリセットして今回の故障判定を終了する。なお、先の図3のグラフから明らかなように、S16のステップにて算出される積算吸入空気量GMに基づき、現在のエンジン10における気筒間の空燃比のインバランス率を推定することも可能であることに注意されたい。
【0044】
一方、S16のステップにて冷態始動時からの積算吸入空気量GMが閾値GR以上である、すなわちエンジン10の気筒の一部に異常があると判断した場合には、S18のステップに移行する。そして、このS18のステップにて警告表示器36を駆動し、運転者にエンジン10の不調があることを知らせる。次いでS19のステップに移行し、フラグをリセットして今回の故障判定を終了する。
【0045】
上述した実施形態においては、エンジン10の冷態始動時からの冷却水温TSが所定温度上昇量ΔTまで上昇した時点における積算吸入空気量GMを閾値GRと比較して気筒間の空燃比のインバランス状態を把握することができる。しかしながら、エンジン10の冷態始動時からの積算吸入空気量GMがあらかじめ設定した所定値GOに達した時点における冷却水温の上昇代ΔTNに基づき、エンジン10の故障判定を行うことも可能である。
【0046】
このような他の実施形態による本発明の実施手順の一例を図5のフローチャートに示すが、S20〜S24までのステップは、先の実施形態におけるS10〜S14までのステップと全く同じであるので、S25以降のステップから説明を始める。すなわち、S25のステップにて現在の積算吸入空気量GMがあらかじめ設定した所定値GOよりも少ないか否かを判定する。最初は、積算吸入空気量GMが所定値GOよりも少ないので、S20のステップに戻り、S23〜S25のステップを繰り返す。
【0047】
このようにして、S25のステップにて現在の積算吸入空気量GMが所定値GOに達したと判断した場合には、S26のステップに移行する。そして、この時の冷却水温TNから冷態始動時の冷却水温TSを減じた値が閾値ΔTRよりも高いか否かを判定する。ここで、冷却水温TNから冷態始動時の冷却水温TSを減じた値が閾値ΔTRよりも高い、すなわちエンジン10の気筒に異常がないと判断した場合には、S27のステップに移行してフラグをリセットして今回の故障判定を終了する。
【0048】
一方、S26のステップにて冷却水温TNから冷態始動時の冷却水温TSを減じた値が閾値ΔTR以下である、すなわちエンジン10の気筒の一部に異常があると判断した場合には、S28のステップに移行する。そして、このS28のステップにて警告表示器36を駆動し、運転者にエンジン10の不調があることを知らせる。次いでS29のステップに移行し、フラグをリセットして今回の故障判定を終了する。
【0049】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【符号の説明】
【0050】
10 エンジン
11 燃料噴射弁
12 燃焼室
13 点火プラグ
14 シリンダーヘッド
14a 吸気ポート
14b 排気ポート
15a 吸気弁
15b 排気弁
16 点火コイル
17 アクセルペダル
18 ECU
18a 燃料噴射設定部
18b 燃料噴射弁駆動部
18c 運転状態判定部
18d 点火時期設定部
18e 点火コイル駆動部
18f スロットル開度設定部
18g アクチュエーター駆動部
18h インバランス異常判定部
18i 警告表示器駆動部
19 アクセル開度センサー
20 吸気管
20a 吸気通路
21 エアークリーナー
22 サージタンク
23 スロットル弁
24 スロットルアクチュエーター
25 エアーフローメーター
26 ピストン
27 シリンダーブロック
27a 水ジャケット
28 連接棒
29 クランク軸
30 クランク角センサー
31 水温センサー
32 排気浄化装置
33 排気管
33a 排気通路
34 イグニッションキースイッチ
35 外気温センサー
36 警告表示器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒内燃機関の始動時の冷却水温を検出するステップと、
前記多気筒内燃機関の始動時の冷却水温があらかじめ設定した閾水温よりも低いか否かを判定するステップと、
前記多気筒内燃機関の始動時の冷却水温が前記閾水温よりも低いと判断した場合、前記冷却水温が前記多気筒内燃機関の始動時から所定温度上昇量に達するまでの吸入空気量を積算するステップと、
前記冷却水温が前記所定温度上昇量に達した時点における前記積算吸入空気量に基づいて気筒間の空燃比のインバランス率を推定するステップと
を具えたことを特徴とする気筒間の空燃比インバランス率推定方法。
【請求項2】
推定された前記気筒間の空燃比のインバランス率が予め設定した閾値よりも大きい場合、一部の気筒に異常があると判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の気筒間の空燃比インバランス率推定方法。
【請求項3】
外気温に基づいて吸入空気量を補正するステップをさらに具え、前記積算吸入空気量は、補正された吸入空気量を積算したものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の気筒間の空燃比インバランス率推定方法。
【請求項4】
多気筒内燃機関の始動時の冷却水温を検出するステップと、
前記多気筒内燃機関の始動時の冷却水温があらかじめ設定した閾水温よりも低いか否かを判定するステップと、
前記多気筒内燃機関の始動時からの吸入空気量を積算するステップと、
前記多気筒内燃機関の始動時の冷却水温が前記閾水温よりも低いと判断した場合、前記多気筒内燃機関の始動時からの積算吸入空気量があらかじめ設定した所定値に達した時点における冷却水温を検出するステップと、
前記積算吸入空気量が前記所定値に達した時点における前記冷却水温に基づき、一部の気筒に異常があるか否かを判定するステップと
を具えたことを特徴とする故障判定方法。
【請求項5】
一部の気筒に異常があるか否かを判定する前記ステップは、前記積算吸入空気量が前記所定値に達した時点における前記冷却水温と、前記多気筒内燃機関の始動時の冷却水温との差を求めるステップと、これにより求めた前記冷却水温の差と予め設定した閾値とを比較するステップとを含むことを特徴とする請求項4に記載の故障判定方法。
【請求項6】
一部の気筒に異常があるか否かを判定する前記ステップは、前記求められた前記冷却水温の差が前記閾値よりも大きい場合、一部の気筒に異常があると判定することを特徴とする請求項5に記載の故障判定方法。
【請求項7】
外気温に基づいて吸入空気量を補正するステップをさらに具え、前記積算吸入空気量は、補正された吸入空気量を積算したものであることを特徴とする請求項4から請求項6の何れかに記載の故障判定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−57288(P2013−57288A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195853(P2011−195853)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】