気象現象の自動追尾方法及び自動追尾システム
【課題】積乱雲を含む雷雲等の気象現象をRHI観測により確実且つ自動的に追尾する。
【解決手段】自動追尾システム10において、解析用PC22は、気象ドップラレーダ23が観測した気象現象のエコー強度データに基づくエコー頂高度及び鉛直積算雨水量のプロダクトを用いて、注目したいエコーを追尾対象として自動的に決定し、決定した注目エコーに応じた気象現象に対してRHI観測を行うときの方位角を自動的に算出する。
【解決手段】自動追尾システム10において、解析用PC22は、気象ドップラレーダ23が観測した気象現象のエコー強度データに基づくエコー頂高度及び鉛直積算雨水量のプロダクトを用いて、注目したいエコーを追尾対象として自動的に決定し、決定した注目エコーに応じた気象現象に対してRHI観測を行うときの方位角を自動的に算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、気象レーダが雷雲等の気象現象を観測する際に、該気象現象をRHI観測により追尾するための自動追尾方法及び自動追尾システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3には、気象レーダがPPI(Plane Position Indicator)観測を行うことにより雷雲等の気象現象を追尾することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−122433号公報
【特許文献2】特開平9−318745号公報
【特許文献3】特開平11−271443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、大都市におけるヒートアイランド現象によって、夏季に局地的な積乱雲等の雷雲(気象現象)が頻発し、この結果、前記雷雲に起因した突発的な豪雨による市街地での浸水等の局地的な自然災害が増加している。前記積乱雲は、局地的且つ鉛直方向に成長する気象現象であるため、仰角を固定し且つ方位角を可変にした状態でレーダビームを方位角方向に走査する特許文献1〜3のPPI観測では、前記雷雲を追尾することは難しい。そこで、仰角を可変し且つ方位角を固定した状態でレーダビームを仰角方向に走査するRHI(Range Height Indicator)観測により前記雷雲を追尾することが考えられるが、気象レーダは、予め設定された観測スケジュールに従って、固定の方位角でRHI観測を行うため、前記積乱雲を追尾することは難しい。一方、PPI観測の結果に基づいて、ユーザが前記観測スケジュール中の方位角を変更し、前記気象レーダが前記変更した方位角にてRHI観測を行うことも考えられるが、前記観測スケジュールの変更作業中に、変更後の方位角とは異なる方位角の方向に前記雷雲が移動すれば、変更後の前記方位角でRHI観測を行っても前記雷雲を追尾することはできない。
【0005】
この発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、積乱雲を含む雷雲等の気象現象をRHI観測により確実且つ自動的に追尾することができる自動追尾方法及び自動追尾システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る気象現象の自動追尾方法は、
気象レーダが観測した気象現象を示すエコー強度データを用いてエコー頂高度及び鉛直積算雨水量を求める第1工程と、
求めた前記エコー頂高度及び前記鉛直積算雨水量に基づいて、前記エコー強度データ中の所定のエコーを、追尾すべき注目エコーとして決定する第2工程と、
前記注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測を前記気象レーダが行う際の方位角を算出する第3工程とを有することを特徴とする。
【0007】
この発明に係る気象現象の自動追尾システムは、
観測シーケンスに従ってPPI観測を行うことにより気象現象を示すエコー強度データを取得する気象レーダと、
前記エコー強度データを用いてエコー頂高度及び鉛直積算雨水量を求め、求めた前記エコー頂高度及び前記鉛直積算雨水量に基づいて、前記エコー強度データ中の所定のエコーを、追尾すべき注目エコーとして決定し、決定した該注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測を前記気象レーダが行う際の方位角を算出し、算出した前記方位角を示す方位書き替えコマンドを発行するコマンド発行手段とを有し、
前記気象レーダは、前記コマンド発行手段が前記方位書き替えコマンドを発行した際に、前記注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測の方位角を、前記観測シーケンスに予め設定された方位角から、前記方位書き替えコマンドの方位角に変更して、前記気象現象に対するRHI観測を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
これらの発明によれば、気象レーダが観測した気象現象を示すエコー強度データより得られたエコー頂高度及び鉛直積算雨水量を用いて、所定のエコーを注目エコーとして自動的に決定し、さらに、決定した前記注目エコーに応じた気象現象に対してRHI観測を行う際の方位角を自動的に算出するので、前記注目エコーに応じた積乱雲を含む雷雲等の気象現象を確実且つ自動的に追尾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る自動追尾システムのブロック図である。
【図2】図1の解析用PCにおけるRHI方位角書き替えコマンドの発行処理を示すフローチャートである。
【図3】図3A〜図3Dは、エコー強度データの模式的説明図である。
【図4】図4A〜図4Dは、エコー強度データの模式的説明図である。
【図5】図5Aは、エコー頂高度のプロダクトの模式的説明図であり、図5Bは、鉛直積算雨水量のプロダクトの模式的説明図である。
【図6】プロダクトのメッシュに対するラスタ走査の模式説明図である。
【図7】図7A〜図7Dは、ラベリングの模式説明図である。
【図8】図8A及び図8Bは、前回の処理により得られたセルと、今回の処理により得られたセルとの相関を判定するための模式説明図である。
【図9】図9A及び図9Bは、セルの重心を求めるための模式説明図である。
【図10】図10Aは、方位角を固定としたときのRHI観測の説明図であり、図10Bは、本実施形態におけるRHI観測の説明図である。
【図11】複数の気象ドップラレーダによるRHI観測の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明に係る気象現象の自動追尾方法及び自動追尾システムの好適な実施形態について、図1〜図11を参照しながら説明する。
【0011】
本実施形態に係る自動追尾システム10は、図1に示すように、アンテナ12、アンテナ駆動部14、送受信機16、信号処理機18、ホストコンピュータ(以下、ホストPCともいう。)20及びデータベース24より構成される気象ドップラレーダ23と、コマンド発行手段としてのオンライン化解析用コンピュータ(以下、解析用PCともいう。)22とを有する。
【0012】
アンテナ12は、送受信機16からアンテナ駆動部14を介して出力された送信信号をレーダビームとして外部に放射し、一方で、積乱雲等の雷雲(以下、気象現象ともいう。)で反射した前記レーダビーム(反射波)を受信した際に、該反射波を受信信号としてアンテナ駆動部14を介して送受信機16に出力する。この場合、気象ドップラレーダ23は、アンテナ駆動部14によるアンテナ12の回転によって、PPI観測(仰角を固定した状態で方位角方向にアンテナ12を回転することによりレーダビームの送受信を行う観測)、CAPPI観測(複数の仰角に対してPPI観測をそれぞれ行う観測)、及び、RHI観測(方位角を固定した状態で仰角方向にアンテナ12を回転することによりレーダビームの送受信を行う観測)を行うことが可能である。
【0013】
信号処理機18は、PPI観測、CAPPI観測及びRHI観測による受信信号に基づいて、前記反射波の強度を示すエコー強度データを生成してホストPC20に出力する。なお、前記反射波は、雷雲内の水滴に対するレーダビームの反射により発生するので、前記エコー強度データは、前記水滴(水分)の量に応じたデータを示す。
【0014】
ホストPC20は、信号処理機18からのエコー強度データを用いて、図3Aに示すように、同一高度でのエコー強度データ(画像データ)をディスプレイに表示し、一方で、データベース24に記憶されている観測シーケンスに基づいて、アンテナ駆動部14、送受信機16及び信号処理機18を制御する。
【0015】
前記観測シーケンスは、PPI観測又はCAPPI観測での仰角やRHI観測での方位角が予め設定されたアンテナ12の走査スケジュール(例えば、CAPPI観測を行った後に所定の方位角でRHI観測を行うスケジュールを1サイクルとし、このサイクルを繰り返し行う走査スケジュール)をいい、ユーザがホストPC20を操作して前記走査スケジュールの設定変更をすることができないようにされている。従って、ホストPC20は、前記観測シーケンスに設定されたPPI観測、CAPPI観測及びRHI観測の走査スケジュールに従ってアンテナ駆動部14、送受信機16及び信号処理機18を制御することによりエコー強度データ(の画像データ)を取得する。
【0016】
なお、1サイクルのPPI観測又はCAPPI観測及びRHI観測の走査スケジュール(例えば、10分間〜20分間のPPI観測又はCAPPI観測及びRHI観測を1サイクルとする走査スケジュール)を実行することでエコー強度データが得られるので、図3A〜図4Dの順に示すように、1サイクルの観測が終了する毎に、ホストPC20(又は解析用PC22)のディスプレイの画面30の表示内容は順次更新される。すなわち、画面30の表示内容が切り替わるまでは(例えば、画面30が図3Aの表示を行ってから図3Bの表示を行うまでの時間内では)、気象ドップラレーダ23によりPPI観測又はCAPPI観測及びRHI観測が行われていることになる。また、図3A〜図4Dの画面30において、気象ドップラレーダ23の観測可能範囲を示す円32の中心34がアンテナ12の位置を示し、円32内には時間経過に伴って移動する雷雲等の気象現象を示すエコー36〜60が表示されている。
【0017】
解析用PC22は、積乱雲等の雷雲のような局地的且つ鉛直方向に成長する気象現象に対して、前記観測シーケンスに基づきアンテナ12を回転しても該気象現象を追尾することが難しい場合に、ホストPC20からのエコー強度データを用いて、RHI観測の方位角を、前記観測シーケンスに予め設定されている方位角から前記気象現象の方位角に変更するためのRHI方位角書き替えコマンドを発行してデータベース24に格納する。ホストPC20は、データベース24に前記RHI方位角書き替えコマンドが格納されている場合にのみ、前記観測シーケンスに設定されているRHI観測の方位角を、前記RHI方位角書き替えコマンドに設定されている方位角に変更し、変更後の前記方位角(観測シーケンス)に基づいてアンテナ駆動部14、送受信機16及び信号処理機18を制御する。
【0018】
次に、解析用PC22におけるRHI方位角書き替えコマンドの発行処理について、図2〜図9Bを参照しながら説明する。
【0019】
図2は、RHI方位角書き替えコマンドの発行処理を示すフローチャートであり、このフローチャートの処理は、上記の1サイクルにつき1回実行される。
【0020】
ステップS1において、ホストPC20(図1参照)から解析用PC22に1次データとしてのPPI観測によるエコー強度データが入力される。この場合、気象ドップラレーダ23がCAPPI観測を行っていれば、それぞれの仰角に対するPPI観測を行う毎にホストPC20から解析用PC22にエコー強度データが入力されるので、解析用PC20は、全てのPPI観測のエコー強度データを取得するまで各エコー強度データを蓄積する(ステップS2)。
【0021】
次に、ステップS3(第1工程)において、解析用PC22は、蓄積された各エコー強度データに基づいて、同一高度のエコー強度(図3A参照)、エコー頂高度(図5A参照)及び鉛直積算雨水量(図5B参照)を示すプロダクト(画像データ)を生成する。図3A、図5A及び図5Bは、解析用PC22(又はホストPC20)のディスプレイの画面30に表示されるエコー強度、エコー頂高度及び鉛直積算雨水量の画像データを示す模式的説明図である。
【0022】
図3A中のエコー36〜40に対応して、図5Aには、雷雲の頂高度を示すエコー頂高度がエコー62〜78として表示され、一方で、図5Bには、雷雲中の雨水を鉛直方向に積算した鉛直積算雨水量がエコー82〜98として表示されている。なお、図3Aと図5A及び図5Bとでは、互いに対応していないエコーが存在しているが、これは、前述したように、図3Aは、同一高度のエコー36〜40であるため、他の高度で発生している雷雲については画面30に表示されることはなく、一方で、図5A及び図5Bの各エコー62〜78、82〜98は、観測可能範囲(円32)内に発生している全ての雷雲に対応する各エコーを示していることに起因している。
【0023】
次に、ステップS4において、解析用PC22は、図5Aのエコー頂高度の画像データ及び図5Bの鉛直積算雨水量の画像データ(プロダクト)を構成するメッシュに対して同時にラスタ走査を行い、対応するメッシュの情報から評価関数法による閾値判定を行う。
【0024】
具体的には、図6の模式的説明図に示すように、エコー頂高度又は鉛直積算雨水量の画像データを示すプロダクト100を構成するメッシュ102(エコーを構成するメッシュ102a及びエコーを構成しないメッシュ102b)に対してラスタ走査を行い、エコー頂高度の画像データにおける走査箇所104でのメッシュの値と、鉛直積算雨水量の画像データにおける走査箇所104でのメッシュの値とについて、下記の(1)式に示す重み付けを行い、重み付けした各値を加算する。なお、第1の重み及び第2の重みの値は、雷雲等の気象現象の種類に応じて適宜設定する。
(1つのメッシュ102での鉛直積算雨水量)×(第1の重み)
+(対応するメッシュ102のエコー頂高度)×(第2の重み)>(閾値)
(1)
【0025】
加算結果と所定の閾値との間で(1)式の関係を満たすならば走査箇所104のメッシュ102の値を「1」とし、一方で、(1)式の関係を満たさなければメッシュ102の値を「0」とする2値化処理を行うことにより、エコー頂高度の画像データ、鉛直積算雨水量の画像データ及び(1)式に基づく新たな画像データ(2値化配列)を生成する。
【0026】
次に、ステップS5において、解析用PC22は、ステップS4において生成した2値化配列の新たな画像データのメッシュに対してラスタ走査を行うことにより、下記のラベリングを行う。
【0027】
具体的には、図7A〜図7Dの模式的説明図に示すように、解析用PC22は、2値化配列の画像データ105を構成するメッシュ106(「1」を示すメッシュ106a及び「0」を示すメッシュ106b)に対してラスタ走査を行い、走査箇所108がメッシュ106aに到達した際に(図7A参照)、そのメッシュ106aに対してラベリング番号を付与する。次に、解析用PC22は、ラベリング番号が付与されたメッシュ106a(メッシュ106c)の上下左右のメッシュが、「1」を示すメッシュ106aであるか否かを調べ(図7B参照)、メッシュ106aであれば、そのメッシュ106aに対してラベリング番号を付与する(図7C参照)。このようなラベリング処理を、メッシュ106aの存在を確認することができなくなるまで繰り返し行うことにより、画像データ105において、ラベリング番号が付与された複数のメッシュ106cからなるセル109が構成される(図7D参照)。なお、このセル109の面積が所定のセル化最低面積に到達しない場合(セル109を構成するメッシュ106cの数が所定数に到達しない場合)、解析用PC22は、該セル109を破棄する。
【0028】
次に、ステップS6において、解析用PC22は、今回のステップS5の処理により得られたセルと、前回のステップS5の処理により得られたセルとの相関を取り、相関性が高ければ、前回のセルと今回のセルとは同じセルであると共に、前回のセルの位置から今回のセルの位置に移動したものと判断して、解析用PC22に保存されているラベリングの情報を前回のセルの内容から今回のセルの内容に更新する。
【0029】
具体的には、図8A及び図8Bの模式的説明図に示すように、解析用PC22は、図8Aの画像データ110中の前回のセル116(前回のステップS5の処理により得られたセル)を上下左右に移動させながら、図8Bの画像データ112中の今回のセル118(今回のステップS5の処理により得られたセル)との相関を取り、重複するメッシュ114の数が互いに最大となる(重複部分の面積が互いに最大となる)セル116、118を同一のセルとみなして、保存されているセル116のラベリング情報(ラベリング番号、鉛直積算雨水量、エコー頂強度、観測時刻等の各種情報)を、セル118のラベリング情報に更新する。すなわち、解析用PC22は、前回の処理(前回のPPI観測)から今回の処理(今回のPPI観測)までの間にセル116がセル118の位置にまで移動したものと判断し、該セル116の移動先に位置するセル118を今回の処理におけるセルとみなして更新処理を行う。なお、画像データ110、112内には、複数のセル120が存在するので、解析用PC22は、各セル120に対しても同様の相関判定を行う。
【0030】
ステップS7において、解析用PC22は、気象ドップラレーダ23がエコー強度データ中のエコー(例えば、図3Aのエコー36〜40)を追尾しているか否かを判定し、エコーの追尾をしていなければ、前記エコー強度データ中、注目すべきエコーが存在するか否かを判定し(ステップS8)、注目するエコーが存在すれば、該エコーを注目すべきエコー(注目エコー)として選定する(ステップS9、第2工程)。ステップS8、S9において、注目エコーが存在するか否かの判断処理及び注目エコーを選定するための判断処理としては、例えば、ステップS5、S6のラベリング及び相関判定によって生成されたセル109、116、118に対応するエコーが図3Aのエコー強度データの画像データ中に存在するか否かを判断し、そのようなエコー(図3Aのエコー36)が存在すれば、該エコー36を注目エコーとして選定する。
【0031】
次に、ステップS10において、解析用PC22は、注目エコー(エコー36)が、図3Aの観測時刻(例えば、PPI観測を完了した時刻)から図3Bの観測時刻までの間に移動する方向及び距離(移動先)を予測する。
【0032】
具体的には、図9Aに示すように、先ず、エコー36に対応するセル130(ステップS5、S6の処理で用いられたセル)について、下記の(2)式及び(3)式に基づいて、前回のステップS6の処理におけるセル130の重心と、今回のステップS6の処理におけるセル130の重心とをそれぞれ算出し、算出した前記各重心より該セル130の移動方向及び移動距離を示す移動ベクトルを求める。
(重心のX座標)=Σ(Xn×メッシュ132aの個数)
/(X方向の座標数) (2)
(重心のY座標)=Σ(Yn×メッシュ132aの個数)
/(Y方向の座標数) (3)
【0033】
図9Aは、メッシュ132(セル130を構成するメッシュ132a及びセル130を構成しないメッシュ132b)について、各メッシュ132aの値が略同一である場合(全て「1」である場合)におけるセル130の重心の算出に関する模式説明図であり、X座標(X1〜X5)及びY座標(Y1〜Y5)でのメッシュ132aの個数に基づいて、上記(2)式及び(3)式により重心のX座標及びY座標を算出する。なお、(2)式及び(3)式において、Σは、n=1〜5(Xn=X1〜X5、Yn=Y1〜Y5)での総和を示す数学記号である。
【0034】
次に、今回のセル130の重心に対応するエコー36の位置を、該エコー36の重心の位置とみなした後に、前記移動ベクトルの始点がエコー36の重心の位置と一致するように、前記移動ベクトルをエコー36に重ね合わせることにより該エコー36の移動先を予測する。すなわち、エコー36の重心の位置を始点とする前記移動ベクトルの終点が該エコー36の移動先として予測される。
【0035】
一方、図9Bは、メッシュ134(セル130を構成するメッシュ134a、134b及びセル130を構成しないメッシュ134c)について、メッシュ134a、134bの値を互いに異なる値に設定した場合(ステップS4〜S6において、2値化処理ではなく、複数の値に数値化した処理を行った場合)のセル130の重心の算出に関する模式説明図である。図9Bの場合では、図3A〜図4Dに示すように、エコー強度データが座標毎に異なるエコー強度を示すことを考慮して、X座標(X1〜X7)及びY座標(Y1〜Y7)について、重みWxn、Wynを用いた下記の(4)式及び(5)式により重心のX座標及びY座標を算出する。
(重心のX座標)=Σ(Xn×Wxn)/(X方向の座標数) (4)
(重心のY座標)=Σ(Yn×Wyn)/(Y方向の座標数) (5)
【0036】
なお、(4)式及び(5)式において、Σは、n=1〜7(Xn=X1〜X7、Yn=Y1〜Y7、Wxn=Wx1〜Wx7、Wyn=Wy1〜Wy7)での総和を示す数学記号である。また、エコー36の移動先の予測方法については、図9Aの場合と同様であるので、その詳細な説明については省略する。
【0037】
次に、ステップS11において、解析用PC22は、エコー36が円32の外部(観測可能範囲外)にあるか否かを判定し、円32内にあれば、中心34と前記移動ベクトルの終点(移動先)とを結ぶ方向(図3Bに示す直線44の方向)をRHI観測の際の方位角とするRHI方位角書き替えコマンドを発行してデータベース24に格納する(ステップS12、第3工程)。
【0038】
これにより、次回のサイクルのRHI観測において、気象ドップラレーダ23は、RHI方位角書き替えコマンドの方位角でRHI観測を行い、この結果、図3Bに示す画面30には、エコー36を囲む円46が表示されると共に、エコー36(に応じた気象現象)を前記RHI観測により追尾していることを示す直線44が表示される。
【0039】
従って、各サイクルで得られたエコー強度データがホストPC20から解析用PC22に入力される毎に、解析用PC22において上記のステップS1〜S12の処理を繰り返し行うことで、図3B〜図4Cに示すように、時間経過に伴い移動する注目エコー(エコー36)を確実且つ自動的に追尾することができる。なお、前述したように、直線44は、中心34と、解析用PC22にて予測した移動先とを結ぶ直線であり、一方で、円46は、前記移動先でのエコー36の重心を示している。そのため、時間経過に伴ってエコー36(に応じた気象現象)が成長し又は衰退しても、該エコー36を確実に捕捉することが可能である。また、図3B〜図4Cには、エコー36以外にも、エコー38〜60が表示されているが、これらのエコー38〜60は、衰退する雷雲、次回の観測時には気象ドップラレーダ23の観測範囲外となる雷雲、あるいは、成長する雷雲であってもエコー36に応じた雷雲程成長しないもの等である。
【0040】
なお、図2のフローチャートにおいて、ステップS8で注目エコーが存在しないと判断した場合、解析用PC22は、ステップS9以降の処理、すなわち、RHI方位角書き替えコマンドの発行処理を行わない。
【0041】
また、ステップS7で注目エコー(エコー36)を追尾中と判定した際に、解析用PC22は、追尾中のエコー36が消失したか否かを判定し、エコー36が消失していなければ、前回のステップS10の処理において予測したエコー36の移動先と、今回のエコー強度データに含まれるエコー36の位置とを比較して、移動予測誤差を算出し(ステップS14)、算出した移動予測誤差を次のステップS10の処理に反映することにより、エコー36の移動先を精度良く算出する。
【0042】
さらに、ステップS13でエコー36が消失したと判定した際に、解析用PC22は、ステップS14以降の処理を行わず、従って、RHI方位角書き替えコマンドの発行を行わない。
【0043】
さらにまた、図2及び図4Dに示すように、ステップS10の処理後、エコー36の重心が円32の外部(観測可能範囲外)に位置することにより、円46が円32の外部に位置することになる場合に、解析用PC22は、エコー36の追尾を停止する(ステップS15)。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る自動追尾システム10及び自動追尾方法によれば、気象ドップラレーダ23が観測した気象現象のエコー強度データに基づくエコー頂高度及び鉛直積算雨水量のプロダクト100を用いて、注目したいエコー36を追尾対象として自動的に決定し、さらに、決定したエコー36に応じた気象現象に対してRHI観測を行う際の方位角を自動的に算出するので、注目したいエコー36に応じた積乱雲を含む雷雲等の気象現象を確実且つ自動的に追尾することができる。
【0045】
すなわち、図10Aに示すように、RHI観測の際の方位角が観測シーケンスにより固定とされている場合には、突発的に発生する雷雲等の気象現象を示すエコー140の方向に方位角を向けることができず、該エコー140を追尾することができない。
【0046】
これに対して、本実施形態では、図10Bに示すように、解析用PC22にてRHI方位角書き替えコマンドを発行した際に、気象ドップラレーダ23がRHI方位角書き替えコマンド中の方位角にてRHI観測を行うので、注目したいエコー140を確実に狙い打ちできるような追尾を行うことが可能となる。この結果、短時間で急激に発生する積乱雲のような鉛直構造の気象現象を取り逃がすことなく観測することができるので、前記積乱雲に起因した自然災害に対する有意な研究データを容易に収集することができる。また、気象ドップラレーダ23に上記の追尾機能を持たせることにより、前記気象現象の発生から衰退までをRHI観測することが可能となる。
【0047】
本実施形態に係る自動追尾システム10及び自動追尾方法は、上述した説明に限定されるものではなく、図11に示すように、例えば、3台の気象ドップラレーダ150a〜150cの観測可能範囲152a〜152cの重複部分154内に気象現象156がある場合に、解析用PC22(図1参照)は、各気象ドップラレーダ150a〜150cに対して、方位角の互いに異なるRHI走査方位角書き替えコマンドを発行し、各気象ドップラレーダ150a〜150cは、前記RHI走査方位角書き替えコマンドの方位角を示す直線44a〜44cに基づきRHI観測を行ってもよい。
【0048】
この場合、各気象ドップラレーダ150a〜150cが同時にRHI観測を行っても、あるいは、PPI観測を行う気象ドップラレーダと、RHI観測を行う気象ドップラレーダとに分けて気象現象156に対する観測を行っても、複数の気象ドップラレーダ150a〜150cによる観測が可能となるので、気象現象156を効率よく且つ確実に追尾することができると共に、気象現象156の解析精度を向上することができる。また、PPI観測を行う気象ドップラレーダと、RHI観測を行う気象ドップラレーダとに分けて気象現象156に対する観測を行うことで、RHI観測によるデータと、PPI観測によるデータとを共に得ることが可能となる。
【0049】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
10…自動追尾システム 20…ホストPC
22…解析用PC 23…気象ドップラレーダ
24…データベース
36、38、40、60、62、78、82、98、140…エコー
44…直線 46…円
109、116、118、120、130…セル
【技術分野】
【0001】
この発明は、気象レーダが雷雲等の気象現象を観測する際に、該気象現象をRHI観測により追尾するための自動追尾方法及び自動追尾システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3には、気象レーダがPPI(Plane Position Indicator)観測を行うことにより雷雲等の気象現象を追尾することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−122433号公報
【特許文献2】特開平9−318745号公報
【特許文献3】特開平11−271443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、大都市におけるヒートアイランド現象によって、夏季に局地的な積乱雲等の雷雲(気象現象)が頻発し、この結果、前記雷雲に起因した突発的な豪雨による市街地での浸水等の局地的な自然災害が増加している。前記積乱雲は、局地的且つ鉛直方向に成長する気象現象であるため、仰角を固定し且つ方位角を可変にした状態でレーダビームを方位角方向に走査する特許文献1〜3のPPI観測では、前記雷雲を追尾することは難しい。そこで、仰角を可変し且つ方位角を固定した状態でレーダビームを仰角方向に走査するRHI(Range Height Indicator)観測により前記雷雲を追尾することが考えられるが、気象レーダは、予め設定された観測スケジュールに従って、固定の方位角でRHI観測を行うため、前記積乱雲を追尾することは難しい。一方、PPI観測の結果に基づいて、ユーザが前記観測スケジュール中の方位角を変更し、前記気象レーダが前記変更した方位角にてRHI観測を行うことも考えられるが、前記観測スケジュールの変更作業中に、変更後の方位角とは異なる方位角の方向に前記雷雲が移動すれば、変更後の前記方位角でRHI観測を行っても前記雷雲を追尾することはできない。
【0005】
この発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、積乱雲を含む雷雲等の気象現象をRHI観測により確実且つ自動的に追尾することができる自動追尾方法及び自動追尾システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る気象現象の自動追尾方法は、
気象レーダが観測した気象現象を示すエコー強度データを用いてエコー頂高度及び鉛直積算雨水量を求める第1工程と、
求めた前記エコー頂高度及び前記鉛直積算雨水量に基づいて、前記エコー強度データ中の所定のエコーを、追尾すべき注目エコーとして決定する第2工程と、
前記注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測を前記気象レーダが行う際の方位角を算出する第3工程とを有することを特徴とする。
【0007】
この発明に係る気象現象の自動追尾システムは、
観測シーケンスに従ってPPI観測を行うことにより気象現象を示すエコー強度データを取得する気象レーダと、
前記エコー強度データを用いてエコー頂高度及び鉛直積算雨水量を求め、求めた前記エコー頂高度及び前記鉛直積算雨水量に基づいて、前記エコー強度データ中の所定のエコーを、追尾すべき注目エコーとして決定し、決定した該注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測を前記気象レーダが行う際の方位角を算出し、算出した前記方位角を示す方位書き替えコマンドを発行するコマンド発行手段とを有し、
前記気象レーダは、前記コマンド発行手段が前記方位書き替えコマンドを発行した際に、前記注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測の方位角を、前記観測シーケンスに予め設定された方位角から、前記方位書き替えコマンドの方位角に変更して、前記気象現象に対するRHI観測を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
これらの発明によれば、気象レーダが観測した気象現象を示すエコー強度データより得られたエコー頂高度及び鉛直積算雨水量を用いて、所定のエコーを注目エコーとして自動的に決定し、さらに、決定した前記注目エコーに応じた気象現象に対してRHI観測を行う際の方位角を自動的に算出するので、前記注目エコーに応じた積乱雲を含む雷雲等の気象現象を確実且つ自動的に追尾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る自動追尾システムのブロック図である。
【図2】図1の解析用PCにおけるRHI方位角書き替えコマンドの発行処理を示すフローチャートである。
【図3】図3A〜図3Dは、エコー強度データの模式的説明図である。
【図4】図4A〜図4Dは、エコー強度データの模式的説明図である。
【図5】図5Aは、エコー頂高度のプロダクトの模式的説明図であり、図5Bは、鉛直積算雨水量のプロダクトの模式的説明図である。
【図6】プロダクトのメッシュに対するラスタ走査の模式説明図である。
【図7】図7A〜図7Dは、ラベリングの模式説明図である。
【図8】図8A及び図8Bは、前回の処理により得られたセルと、今回の処理により得られたセルとの相関を判定するための模式説明図である。
【図9】図9A及び図9Bは、セルの重心を求めるための模式説明図である。
【図10】図10Aは、方位角を固定としたときのRHI観測の説明図であり、図10Bは、本実施形態におけるRHI観測の説明図である。
【図11】複数の気象ドップラレーダによるRHI観測の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明に係る気象現象の自動追尾方法及び自動追尾システムの好適な実施形態について、図1〜図11を参照しながら説明する。
【0011】
本実施形態に係る自動追尾システム10は、図1に示すように、アンテナ12、アンテナ駆動部14、送受信機16、信号処理機18、ホストコンピュータ(以下、ホストPCともいう。)20及びデータベース24より構成される気象ドップラレーダ23と、コマンド発行手段としてのオンライン化解析用コンピュータ(以下、解析用PCともいう。)22とを有する。
【0012】
アンテナ12は、送受信機16からアンテナ駆動部14を介して出力された送信信号をレーダビームとして外部に放射し、一方で、積乱雲等の雷雲(以下、気象現象ともいう。)で反射した前記レーダビーム(反射波)を受信した際に、該反射波を受信信号としてアンテナ駆動部14を介して送受信機16に出力する。この場合、気象ドップラレーダ23は、アンテナ駆動部14によるアンテナ12の回転によって、PPI観測(仰角を固定した状態で方位角方向にアンテナ12を回転することによりレーダビームの送受信を行う観測)、CAPPI観測(複数の仰角に対してPPI観測をそれぞれ行う観測)、及び、RHI観測(方位角を固定した状態で仰角方向にアンテナ12を回転することによりレーダビームの送受信を行う観測)を行うことが可能である。
【0013】
信号処理機18は、PPI観測、CAPPI観測及びRHI観測による受信信号に基づいて、前記反射波の強度を示すエコー強度データを生成してホストPC20に出力する。なお、前記反射波は、雷雲内の水滴に対するレーダビームの反射により発生するので、前記エコー強度データは、前記水滴(水分)の量に応じたデータを示す。
【0014】
ホストPC20は、信号処理機18からのエコー強度データを用いて、図3Aに示すように、同一高度でのエコー強度データ(画像データ)をディスプレイに表示し、一方で、データベース24に記憶されている観測シーケンスに基づいて、アンテナ駆動部14、送受信機16及び信号処理機18を制御する。
【0015】
前記観測シーケンスは、PPI観測又はCAPPI観測での仰角やRHI観測での方位角が予め設定されたアンテナ12の走査スケジュール(例えば、CAPPI観測を行った後に所定の方位角でRHI観測を行うスケジュールを1サイクルとし、このサイクルを繰り返し行う走査スケジュール)をいい、ユーザがホストPC20を操作して前記走査スケジュールの設定変更をすることができないようにされている。従って、ホストPC20は、前記観測シーケンスに設定されたPPI観測、CAPPI観測及びRHI観測の走査スケジュールに従ってアンテナ駆動部14、送受信機16及び信号処理機18を制御することによりエコー強度データ(の画像データ)を取得する。
【0016】
なお、1サイクルのPPI観測又はCAPPI観測及びRHI観測の走査スケジュール(例えば、10分間〜20分間のPPI観測又はCAPPI観測及びRHI観測を1サイクルとする走査スケジュール)を実行することでエコー強度データが得られるので、図3A〜図4Dの順に示すように、1サイクルの観測が終了する毎に、ホストPC20(又は解析用PC22)のディスプレイの画面30の表示内容は順次更新される。すなわち、画面30の表示内容が切り替わるまでは(例えば、画面30が図3Aの表示を行ってから図3Bの表示を行うまでの時間内では)、気象ドップラレーダ23によりPPI観測又はCAPPI観測及びRHI観測が行われていることになる。また、図3A〜図4Dの画面30において、気象ドップラレーダ23の観測可能範囲を示す円32の中心34がアンテナ12の位置を示し、円32内には時間経過に伴って移動する雷雲等の気象現象を示すエコー36〜60が表示されている。
【0017】
解析用PC22は、積乱雲等の雷雲のような局地的且つ鉛直方向に成長する気象現象に対して、前記観測シーケンスに基づきアンテナ12を回転しても該気象現象を追尾することが難しい場合に、ホストPC20からのエコー強度データを用いて、RHI観測の方位角を、前記観測シーケンスに予め設定されている方位角から前記気象現象の方位角に変更するためのRHI方位角書き替えコマンドを発行してデータベース24に格納する。ホストPC20は、データベース24に前記RHI方位角書き替えコマンドが格納されている場合にのみ、前記観測シーケンスに設定されているRHI観測の方位角を、前記RHI方位角書き替えコマンドに設定されている方位角に変更し、変更後の前記方位角(観測シーケンス)に基づいてアンテナ駆動部14、送受信機16及び信号処理機18を制御する。
【0018】
次に、解析用PC22におけるRHI方位角書き替えコマンドの発行処理について、図2〜図9Bを参照しながら説明する。
【0019】
図2は、RHI方位角書き替えコマンドの発行処理を示すフローチャートであり、このフローチャートの処理は、上記の1サイクルにつき1回実行される。
【0020】
ステップS1において、ホストPC20(図1参照)から解析用PC22に1次データとしてのPPI観測によるエコー強度データが入力される。この場合、気象ドップラレーダ23がCAPPI観測を行っていれば、それぞれの仰角に対するPPI観測を行う毎にホストPC20から解析用PC22にエコー強度データが入力されるので、解析用PC20は、全てのPPI観測のエコー強度データを取得するまで各エコー強度データを蓄積する(ステップS2)。
【0021】
次に、ステップS3(第1工程)において、解析用PC22は、蓄積された各エコー強度データに基づいて、同一高度のエコー強度(図3A参照)、エコー頂高度(図5A参照)及び鉛直積算雨水量(図5B参照)を示すプロダクト(画像データ)を生成する。図3A、図5A及び図5Bは、解析用PC22(又はホストPC20)のディスプレイの画面30に表示されるエコー強度、エコー頂高度及び鉛直積算雨水量の画像データを示す模式的説明図である。
【0022】
図3A中のエコー36〜40に対応して、図5Aには、雷雲の頂高度を示すエコー頂高度がエコー62〜78として表示され、一方で、図5Bには、雷雲中の雨水を鉛直方向に積算した鉛直積算雨水量がエコー82〜98として表示されている。なお、図3Aと図5A及び図5Bとでは、互いに対応していないエコーが存在しているが、これは、前述したように、図3Aは、同一高度のエコー36〜40であるため、他の高度で発生している雷雲については画面30に表示されることはなく、一方で、図5A及び図5Bの各エコー62〜78、82〜98は、観測可能範囲(円32)内に発生している全ての雷雲に対応する各エコーを示していることに起因している。
【0023】
次に、ステップS4において、解析用PC22は、図5Aのエコー頂高度の画像データ及び図5Bの鉛直積算雨水量の画像データ(プロダクト)を構成するメッシュに対して同時にラスタ走査を行い、対応するメッシュの情報から評価関数法による閾値判定を行う。
【0024】
具体的には、図6の模式的説明図に示すように、エコー頂高度又は鉛直積算雨水量の画像データを示すプロダクト100を構成するメッシュ102(エコーを構成するメッシュ102a及びエコーを構成しないメッシュ102b)に対してラスタ走査を行い、エコー頂高度の画像データにおける走査箇所104でのメッシュの値と、鉛直積算雨水量の画像データにおける走査箇所104でのメッシュの値とについて、下記の(1)式に示す重み付けを行い、重み付けした各値を加算する。なお、第1の重み及び第2の重みの値は、雷雲等の気象現象の種類に応じて適宜設定する。
(1つのメッシュ102での鉛直積算雨水量)×(第1の重み)
+(対応するメッシュ102のエコー頂高度)×(第2の重み)>(閾値)
(1)
【0025】
加算結果と所定の閾値との間で(1)式の関係を満たすならば走査箇所104のメッシュ102の値を「1」とし、一方で、(1)式の関係を満たさなければメッシュ102の値を「0」とする2値化処理を行うことにより、エコー頂高度の画像データ、鉛直積算雨水量の画像データ及び(1)式に基づく新たな画像データ(2値化配列)を生成する。
【0026】
次に、ステップS5において、解析用PC22は、ステップS4において生成した2値化配列の新たな画像データのメッシュに対してラスタ走査を行うことにより、下記のラベリングを行う。
【0027】
具体的には、図7A〜図7Dの模式的説明図に示すように、解析用PC22は、2値化配列の画像データ105を構成するメッシュ106(「1」を示すメッシュ106a及び「0」を示すメッシュ106b)に対してラスタ走査を行い、走査箇所108がメッシュ106aに到達した際に(図7A参照)、そのメッシュ106aに対してラベリング番号を付与する。次に、解析用PC22は、ラベリング番号が付与されたメッシュ106a(メッシュ106c)の上下左右のメッシュが、「1」を示すメッシュ106aであるか否かを調べ(図7B参照)、メッシュ106aであれば、そのメッシュ106aに対してラベリング番号を付与する(図7C参照)。このようなラベリング処理を、メッシュ106aの存在を確認することができなくなるまで繰り返し行うことにより、画像データ105において、ラベリング番号が付与された複数のメッシュ106cからなるセル109が構成される(図7D参照)。なお、このセル109の面積が所定のセル化最低面積に到達しない場合(セル109を構成するメッシュ106cの数が所定数に到達しない場合)、解析用PC22は、該セル109を破棄する。
【0028】
次に、ステップS6において、解析用PC22は、今回のステップS5の処理により得られたセルと、前回のステップS5の処理により得られたセルとの相関を取り、相関性が高ければ、前回のセルと今回のセルとは同じセルであると共に、前回のセルの位置から今回のセルの位置に移動したものと判断して、解析用PC22に保存されているラベリングの情報を前回のセルの内容から今回のセルの内容に更新する。
【0029】
具体的には、図8A及び図8Bの模式的説明図に示すように、解析用PC22は、図8Aの画像データ110中の前回のセル116(前回のステップS5の処理により得られたセル)を上下左右に移動させながら、図8Bの画像データ112中の今回のセル118(今回のステップS5の処理により得られたセル)との相関を取り、重複するメッシュ114の数が互いに最大となる(重複部分の面積が互いに最大となる)セル116、118を同一のセルとみなして、保存されているセル116のラベリング情報(ラベリング番号、鉛直積算雨水量、エコー頂強度、観測時刻等の各種情報)を、セル118のラベリング情報に更新する。すなわち、解析用PC22は、前回の処理(前回のPPI観測)から今回の処理(今回のPPI観測)までの間にセル116がセル118の位置にまで移動したものと判断し、該セル116の移動先に位置するセル118を今回の処理におけるセルとみなして更新処理を行う。なお、画像データ110、112内には、複数のセル120が存在するので、解析用PC22は、各セル120に対しても同様の相関判定を行う。
【0030】
ステップS7において、解析用PC22は、気象ドップラレーダ23がエコー強度データ中のエコー(例えば、図3Aのエコー36〜40)を追尾しているか否かを判定し、エコーの追尾をしていなければ、前記エコー強度データ中、注目すべきエコーが存在するか否かを判定し(ステップS8)、注目するエコーが存在すれば、該エコーを注目すべきエコー(注目エコー)として選定する(ステップS9、第2工程)。ステップS8、S9において、注目エコーが存在するか否かの判断処理及び注目エコーを選定するための判断処理としては、例えば、ステップS5、S6のラベリング及び相関判定によって生成されたセル109、116、118に対応するエコーが図3Aのエコー強度データの画像データ中に存在するか否かを判断し、そのようなエコー(図3Aのエコー36)が存在すれば、該エコー36を注目エコーとして選定する。
【0031】
次に、ステップS10において、解析用PC22は、注目エコー(エコー36)が、図3Aの観測時刻(例えば、PPI観測を完了した時刻)から図3Bの観測時刻までの間に移動する方向及び距離(移動先)を予測する。
【0032】
具体的には、図9Aに示すように、先ず、エコー36に対応するセル130(ステップS5、S6の処理で用いられたセル)について、下記の(2)式及び(3)式に基づいて、前回のステップS6の処理におけるセル130の重心と、今回のステップS6の処理におけるセル130の重心とをそれぞれ算出し、算出した前記各重心より該セル130の移動方向及び移動距離を示す移動ベクトルを求める。
(重心のX座標)=Σ(Xn×メッシュ132aの個数)
/(X方向の座標数) (2)
(重心のY座標)=Σ(Yn×メッシュ132aの個数)
/(Y方向の座標数) (3)
【0033】
図9Aは、メッシュ132(セル130を構成するメッシュ132a及びセル130を構成しないメッシュ132b)について、各メッシュ132aの値が略同一である場合(全て「1」である場合)におけるセル130の重心の算出に関する模式説明図であり、X座標(X1〜X5)及びY座標(Y1〜Y5)でのメッシュ132aの個数に基づいて、上記(2)式及び(3)式により重心のX座標及びY座標を算出する。なお、(2)式及び(3)式において、Σは、n=1〜5(Xn=X1〜X5、Yn=Y1〜Y5)での総和を示す数学記号である。
【0034】
次に、今回のセル130の重心に対応するエコー36の位置を、該エコー36の重心の位置とみなした後に、前記移動ベクトルの始点がエコー36の重心の位置と一致するように、前記移動ベクトルをエコー36に重ね合わせることにより該エコー36の移動先を予測する。すなわち、エコー36の重心の位置を始点とする前記移動ベクトルの終点が該エコー36の移動先として予測される。
【0035】
一方、図9Bは、メッシュ134(セル130を構成するメッシュ134a、134b及びセル130を構成しないメッシュ134c)について、メッシュ134a、134bの値を互いに異なる値に設定した場合(ステップS4〜S6において、2値化処理ではなく、複数の値に数値化した処理を行った場合)のセル130の重心の算出に関する模式説明図である。図9Bの場合では、図3A〜図4Dに示すように、エコー強度データが座標毎に異なるエコー強度を示すことを考慮して、X座標(X1〜X7)及びY座標(Y1〜Y7)について、重みWxn、Wynを用いた下記の(4)式及び(5)式により重心のX座標及びY座標を算出する。
(重心のX座標)=Σ(Xn×Wxn)/(X方向の座標数) (4)
(重心のY座標)=Σ(Yn×Wyn)/(Y方向の座標数) (5)
【0036】
なお、(4)式及び(5)式において、Σは、n=1〜7(Xn=X1〜X7、Yn=Y1〜Y7、Wxn=Wx1〜Wx7、Wyn=Wy1〜Wy7)での総和を示す数学記号である。また、エコー36の移動先の予測方法については、図9Aの場合と同様であるので、その詳細な説明については省略する。
【0037】
次に、ステップS11において、解析用PC22は、エコー36が円32の外部(観測可能範囲外)にあるか否かを判定し、円32内にあれば、中心34と前記移動ベクトルの終点(移動先)とを結ぶ方向(図3Bに示す直線44の方向)をRHI観測の際の方位角とするRHI方位角書き替えコマンドを発行してデータベース24に格納する(ステップS12、第3工程)。
【0038】
これにより、次回のサイクルのRHI観測において、気象ドップラレーダ23は、RHI方位角書き替えコマンドの方位角でRHI観測を行い、この結果、図3Bに示す画面30には、エコー36を囲む円46が表示されると共に、エコー36(に応じた気象現象)を前記RHI観測により追尾していることを示す直線44が表示される。
【0039】
従って、各サイクルで得られたエコー強度データがホストPC20から解析用PC22に入力される毎に、解析用PC22において上記のステップS1〜S12の処理を繰り返し行うことで、図3B〜図4Cに示すように、時間経過に伴い移動する注目エコー(エコー36)を確実且つ自動的に追尾することができる。なお、前述したように、直線44は、中心34と、解析用PC22にて予測した移動先とを結ぶ直線であり、一方で、円46は、前記移動先でのエコー36の重心を示している。そのため、時間経過に伴ってエコー36(に応じた気象現象)が成長し又は衰退しても、該エコー36を確実に捕捉することが可能である。また、図3B〜図4Cには、エコー36以外にも、エコー38〜60が表示されているが、これらのエコー38〜60は、衰退する雷雲、次回の観測時には気象ドップラレーダ23の観測範囲外となる雷雲、あるいは、成長する雷雲であってもエコー36に応じた雷雲程成長しないもの等である。
【0040】
なお、図2のフローチャートにおいて、ステップS8で注目エコーが存在しないと判断した場合、解析用PC22は、ステップS9以降の処理、すなわち、RHI方位角書き替えコマンドの発行処理を行わない。
【0041】
また、ステップS7で注目エコー(エコー36)を追尾中と判定した際に、解析用PC22は、追尾中のエコー36が消失したか否かを判定し、エコー36が消失していなければ、前回のステップS10の処理において予測したエコー36の移動先と、今回のエコー強度データに含まれるエコー36の位置とを比較して、移動予測誤差を算出し(ステップS14)、算出した移動予測誤差を次のステップS10の処理に反映することにより、エコー36の移動先を精度良く算出する。
【0042】
さらに、ステップS13でエコー36が消失したと判定した際に、解析用PC22は、ステップS14以降の処理を行わず、従って、RHI方位角書き替えコマンドの発行を行わない。
【0043】
さらにまた、図2及び図4Dに示すように、ステップS10の処理後、エコー36の重心が円32の外部(観測可能範囲外)に位置することにより、円46が円32の外部に位置することになる場合に、解析用PC22は、エコー36の追尾を停止する(ステップS15)。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る自動追尾システム10及び自動追尾方法によれば、気象ドップラレーダ23が観測した気象現象のエコー強度データに基づくエコー頂高度及び鉛直積算雨水量のプロダクト100を用いて、注目したいエコー36を追尾対象として自動的に決定し、さらに、決定したエコー36に応じた気象現象に対してRHI観測を行う際の方位角を自動的に算出するので、注目したいエコー36に応じた積乱雲を含む雷雲等の気象現象を確実且つ自動的に追尾することができる。
【0045】
すなわち、図10Aに示すように、RHI観測の際の方位角が観測シーケンスにより固定とされている場合には、突発的に発生する雷雲等の気象現象を示すエコー140の方向に方位角を向けることができず、該エコー140を追尾することができない。
【0046】
これに対して、本実施形態では、図10Bに示すように、解析用PC22にてRHI方位角書き替えコマンドを発行した際に、気象ドップラレーダ23がRHI方位角書き替えコマンド中の方位角にてRHI観測を行うので、注目したいエコー140を確実に狙い打ちできるような追尾を行うことが可能となる。この結果、短時間で急激に発生する積乱雲のような鉛直構造の気象現象を取り逃がすことなく観測することができるので、前記積乱雲に起因した自然災害に対する有意な研究データを容易に収集することができる。また、気象ドップラレーダ23に上記の追尾機能を持たせることにより、前記気象現象の発生から衰退までをRHI観測することが可能となる。
【0047】
本実施形態に係る自動追尾システム10及び自動追尾方法は、上述した説明に限定されるものではなく、図11に示すように、例えば、3台の気象ドップラレーダ150a〜150cの観測可能範囲152a〜152cの重複部分154内に気象現象156がある場合に、解析用PC22(図1参照)は、各気象ドップラレーダ150a〜150cに対して、方位角の互いに異なるRHI走査方位角書き替えコマンドを発行し、各気象ドップラレーダ150a〜150cは、前記RHI走査方位角書き替えコマンドの方位角を示す直線44a〜44cに基づきRHI観測を行ってもよい。
【0048】
この場合、各気象ドップラレーダ150a〜150cが同時にRHI観測を行っても、あるいは、PPI観測を行う気象ドップラレーダと、RHI観測を行う気象ドップラレーダとに分けて気象現象156に対する観測を行っても、複数の気象ドップラレーダ150a〜150cによる観測が可能となるので、気象現象156を効率よく且つ確実に追尾することができると共に、気象現象156の解析精度を向上することができる。また、PPI観測を行う気象ドップラレーダと、RHI観測を行う気象ドップラレーダとに分けて気象現象156に対する観測を行うことで、RHI観測によるデータと、PPI観測によるデータとを共に得ることが可能となる。
【0049】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
10…自動追尾システム 20…ホストPC
22…解析用PC 23…気象ドップラレーダ
24…データベース
36、38、40、60、62、78、82、98、140…エコー
44…直線 46…円
109、116、118、120、130…セル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象レーダが観測した気象現象を示すエコー強度データを用いてエコー頂高度及び鉛直積算雨水量を求める第1工程と、
求めた前記エコー頂高度及び前記鉛直積算雨水量に基づいて、前記エコー強度データ中の所定のエコーを、追尾すべき注目エコーとして決定する第2工程と、
前記注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測を前記気象レーダが行う際の方位角を算出する第3工程と、
を有することを特徴とする気象現象の自動追尾方法。
【請求項2】
観測シーケンスに従ってPPI観測を行うことにより気象現象を示すエコー強度データを取得する気象レーダと、
前記エコー強度データを用いてエコー頂高度及び鉛直積算雨水量を求め、求めた前記エコー頂高度及び前記鉛直積算雨水量に基づいて、前記エコー強度データ中の所定のエコーを、追尾すべき注目エコーとして決定し、決定した該注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測を前記気象レーダが行う際の方位角を算出し、算出した前記方位角を示す方位書き替えコマンドを発行するコマンド発行手段と、
を有し、
前記気象レーダは、前記コマンド発行手段が前記方位書き替えコマンドを発行した際に、前記注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測の方位角を、前記観測シーケンスに予め設定された方位角から、前記方位書き替えコマンドの方位角に変更して、前記気象現象に対するRHI観測を行う
ことを特徴とする気象現象の自動追尾システム。
【請求項1】
気象レーダが観測した気象現象を示すエコー強度データを用いてエコー頂高度及び鉛直積算雨水量を求める第1工程と、
求めた前記エコー頂高度及び前記鉛直積算雨水量に基づいて、前記エコー強度データ中の所定のエコーを、追尾すべき注目エコーとして決定する第2工程と、
前記注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測を前記気象レーダが行う際の方位角を算出する第3工程と、
を有することを特徴とする気象現象の自動追尾方法。
【請求項2】
観測シーケンスに従ってPPI観測を行うことにより気象現象を示すエコー強度データを取得する気象レーダと、
前記エコー強度データを用いてエコー頂高度及び鉛直積算雨水量を求め、求めた前記エコー頂高度及び前記鉛直積算雨水量に基づいて、前記エコー強度データ中の所定のエコーを、追尾すべき注目エコーとして決定し、決定した該注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測を前記気象レーダが行う際の方位角を算出し、算出した前記方位角を示す方位書き替えコマンドを発行するコマンド発行手段と、
を有し、
前記気象レーダは、前記コマンド発行手段が前記方位書き替えコマンドを発行した際に、前記注目エコーに応じた気象現象に対するRHI観測の方位角を、前記観測シーケンスに予め設定された方位角から、前記方位書き替えコマンドの方位角に変更して、前記気象現象に対するRHI観測を行う
ことを特徴とする気象現象の自動追尾システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−33528(P2011−33528A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181539(P2009−181539)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】
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