説明

水中油型乳化化粧料

【課題】 高級脂肪酸石鹸型の乳化物において、浸透感を向上させるための特別な成分を添加しなくても、使用感及び皮膚への浸透感に優れた水中油型乳化化粧料を提供する。
【解決手段】 (A)ベヘニン酸、ステアリン酸、及びイソステアリン酸、(B)トリエタノールアミン、及び(C)40〜90質量%の水、を含有することを特徴とする水中油型乳化化粧料。ベヘニン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸の配合量は合計で0.1〜3質量%であるのが好ましく、トリエタノールアミンの配合量は0.1〜2.5質量%であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌へのなじみが早く、なおかつ浸透性に優れた、高級脂肪酸塩(石鹸)型の水中油型乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
高級脂肪酸塩(石鹸)は、一般に皮膚への塗布感触が良好であり、油分の乳化性に優れることから、化粧料や医薬などの乳化剤として広く用いられ、その特性を改善する様々な研究が行われてきた。
例えば、特許文献1には、通常は塩基性である高級脂肪酸石鹸を乳化剤とした乳化物を酸性pHで調製するに当たり、1種又は2種以上の高級脂肪酸石鹸と親油性及び親水性の非イオン型界面活性剤を組み合わせて使用することにより、安定な酸性乳化物が得られることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、炭素数14〜22の脂肪酸のナトリウム塩又はカリウム塩を3種以上組み合わせて含有せしめることにより、乳化性が良好であり、結晶析出が無く、経時安定性に優れた水中油型乳化組成物が得られることが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されている乳化組成物では、高級脂肪酸の中和剤としてナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属が用いられており、このような高級脂肪酸アルカリ金属塩を乳化剤とした組成物では皮膚への浸透感が不十分であった。
【0005】
一方、水中油型乳化組成物の皮膚への浸透感を向上させるために、揮発性シリコーン油分を添加する(特許文献3)、あるいは、オレイン酸エステル、液状アルコール、液状高級脂肪酸などからなる肌浸透成分を配合する(特許文献4)といった試みがなされている。
しかし、前記のような浸透感を付与するための特別な成分を配合しない場合であっても、高級脂肪酸石鹸型の水中油型乳化物の皮膚への浸透感を向上させることは達成されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−24325号公報
【特許文献2】特開昭59−139920号公報
【特許文献3】特開2007−145719号公報
【特許文献4】特開2007−238488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明における課題は、高級脂肪酸石鹸型の乳化物において、浸透感を向上させるための特別な成分の有無によらず、使用感及び皮膚への浸透感に優れた水中油型乳化化粧料を提供することにある。
【0008】
本発明者等は、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、界面活性剤としてベヘニン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸という3種の高級脂肪酸の組み合わせを選択し、中和剤としてトリエタノールアミンを配合することにより、浸透感のある水中油型乳化化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち本発明は、
(A)ベヘニン酸、ステアリン酸、及びイソステアリン酸、
(B)トリエタノールアミン、及び
(C)40〜90質量%の水、
を含有することを特徴とする水中油型乳化化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水中油型乳化化粧料は、肌へのなじみや皮膚への浸透感といった使用性に特に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の化粧料は、高級脂肪酸石鹸型の水中油型乳化化粧料であり、高級脂肪酸として、ベヘニン酸、ステアリン酸、及びイソステアリン酸という特定の3種類の高級脂肪酸の組み合わせ(成分A)を配合したことを第一の特徴としている。
【0012】
本発明の化粧料におけるベヘニン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸の配合量は、通常は3種を合計して0.1〜3質量%、好ましくは0.4〜2質量%、より好ましくは0.5〜1.5質量%である。配合量が0.1質量%未満であると良好な乳化が困難になり、3質量%を越えて配合しても特性の更なる向上は得られない。
【0013】
本発明の化粧料においては、ベヘニン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸を全て含有することが必要であるが、各脂肪酸の配合比は特に限定されるものではない。即ち、ベヘニン酸:ステアリン酸:イソステアリン酸の配合比は、3種の混合物全体を100とした場合、例えば、1〜98:1〜98:1〜98の範囲内で変動させてよく、好ましくは20〜50:20〜60:10〜60、より好ましくは25〜40:25〜50:20〜50とすることができる。
【0014】
本発明の化粧料の第二の特徴は、トリエタノールアミン(成分B)という特定の中和剤を配合したことである。トリエタノールアミンは、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属とともに、高級脂肪酸石鹸型乳化物の中和剤として使用されている(特許文献1参照)。本発明は、前記ベヘニン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸という3種の高級脂肪酸とトリエタノールアミンとを組み合わせて配合したことに特徴がある。
【0015】
本発明の化粧料におけるトリエタノールアミンの配合量は、通常は0.1〜2.5質量%、好ましくは0.1〜2質量%、より好ましくは0.4〜1.5質量%である。配合量が0.1質量%未満であると良好な浸透感を得るのが困難になり、2.5質量%を越えて配合しても特性の更なる向上は得られない。
【0016】
本発明の化粧料において、トリエタノールアミンを配合することは必須であるが、それ以外の中和剤、例えばナトリウム塩やカリウム塩を更に配合してもよい。他の中和剤を配合する場合には、中和剤全体おけるトリエタノールアミンのモル比率を0.25〜1、好ましくは0.5〜1とする。トリエタノールアミンのモル比率が0.25未満であると浸透感が得られにくい。
【0017】
本発明の化粧料の第三の特徴は、水(成分C)を40〜90質量%、好ましくは50〜85質量%、より好ましくは55〜82質量%の配合量で含有することである。水の配合量が40質量%未満である場合、及び90質量%を越えて配合した場合には、本願発明の効果が得られにくい場合がある。
【0018】
本発明の化粧料は、上記の必須成分A〜C以外の他の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。他の成分としては、例えば、保湿剤、増粘剤、界面活性剤、油分、キレート剤、防腐剤、香料、美白剤、紫外線吸収剤、薬剤などが挙げられる。
【0019】
本発明の水中油型乳化化粧料の形態は特に限定されず、通常の皮膚化粧料、例えば化粧水、乳液、美容液、クリーム等の形態として用いられるが、コットン、不織布、クロスなどに含侵した化粧料の形態としても用いることができる。
【0020】
本発明の化粧料は、水中油型乳化組成物の調製に従来から用いられている方法に従って調製することができる。簡潔に記載すれば、水溶性成分を水に溶解して水相とし、油溶性成分を混合して油相とし、ホモミキサー等で撹拌しながら水相に油相を添加して乳化させることにより調製できる。
【0021】
本発明の化粧料は、特に肌への浸透感が優れるという特徴を有するため、皮膚化粧料とするのに適している。例えば、保湿剤を含む乳液、クリームの形態とした場合、皮膚に適用することによって保湿成分が肌に浸透する感触を与えることができる。
本発明の化粧料のpHは特に限定されないが、通常は7.0以上とするのが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下に具体例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例等における配合量は特に断らない限り質量%を示す。
【0023】
(実施例1及び比較例1)
下記表1に掲げた組成の水中油型乳化組成物を調製した。
得られた組成物についてpHを測定し、肌に塗布した際の浸透感を評価した。これらの結果を表1に併せて示す。
浸透感は、専門パネル(N=3)により、次の基準で評価した。
◎:全員が浸透感があると感じた。
○:2人が浸透感があると感じた。
△:1人が浸透感があると感じた。
×:全員が浸透感を感じなかった。
表1から明らかなように、中和剤として水酸化カリウムのみを用いた比較例1では浸透感が感じられなかったのに対し、中和剤をトリエタノールアミンとした実施例1では顕著な浸透感が得られた。
【0024】
【表1】

【0025】
(実施例2〜9)
下記表2に掲げる組成を基本組成とし、配合するトリエタノールアミンの量を表3に記載した範囲で変化させた水中油型乳化組成物を調製し、実施例1と同様に、得られた組成物のpHを測定し、肌に塗布した際の浸透感を評価した。結果を表3に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
(実施例10〜15)
下記表4に掲げる組成(4−メトキシサリチル酸を含有する酸性組成物)を基本組成とし、配合するトリエタノールアミンの量を表5に記載した範囲で変化させた水中油型乳化組成物を調製し、実施例1と同様に、得られた組成物のpHを測定し、肌に塗布した際の浸透感を評価した。結果を表5に示す。
【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
(実施例16〜19及び比較例2)
下記表6に掲げる組成(4−メトキシサリチル酸を含有する酸性組成物)を基本組成とし、配合する中和剤としてトリエタノールアミン及び/又は水酸化カリウムを用い、それらの量を表7に記載した範囲で変化させた水中油型乳化組成物を調製し、実施例1と同様に、得られた組成物のpHを測定し、肌に塗布した際の浸透感を評価した。結果を表7に示す。
【0032】
【表6】

【0033】
【表7】

【0034】
表7の結果から、中和剤としてトリエタノールアミンを含有していれば、カリウム塩をはじめとするアルカリ金属等の中和剤と併用しても浸透感は得られるが、中和剤におけるトリエタノールアミンの配合比が大きいほど浸透感は向上し、約0.25より大きい場合に優れた浸透感が得られることがわかった。
【0035】
(実施例20〜29及び比較例3〜5)
下記表8に掲げる組成を基本組成とし、配合する脂肪酸(ベヘニン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸)の配合量を表9に記載した範囲で変化させた水中油型乳化組成物を調製し、実施例1と同様に、得られた組成物のpHを測定し、肌に塗布した際の浸透感を評価した。結果を表9に示す。
【0036】
【表8】

【0037】
【表9】

【0038】
表9の結果から、ベヘニン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸という3種類の脂肪酸を含有する実施例20〜29では、それらの配合比率を変化させた場合でも優れた浸透感が得られるが、いずれか1種類でも欠く組成物(比較例3〜5)では十分な浸透感が得られないことがわかる。
【0039】
(処方例1)乳液
原料名 配合量(質量%)
流動パラフィン 7
ワセリン 3
デカメチルシクロペンタシロキサン 2
ベヘニルアルコール 0.7
グリセリン 5
ジプロピレングリコール 7
ポリエチレングリコール1500 2
ホホバ油 1
イソステアリン酸 0.5
ステアリン酸 0.5
ベヘニン酸 0.5
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 3
2−エチルヘキサン酸セチル 3
モノステアリン酸グリセリン 1
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン 1
トリエタノールアミン 0.05
グリチルレチン酸ステアリル 0.05
L−アルギニン 0.1
ローヤルゼリーエキス 0.1
酵母エキス 0.1
酢酸トコフェロール 0.1
アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
エデト酸三ナトリウム 0.05
4−t−ブチル4‘−メトキシジベンゾイルメタン 0.1
パラメトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル 0.1
カルボキシビニルポリマー 0.15
パラベン 適量
精製水 残余
香料 適量
【0040】
製造方法
少量の精製水にカルボキシビニルポリマーを溶解する(A相)。残りの精製水にポリエチレングリコール1500とトリエタノールアミンを加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し、加熱溶解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加えて予備乳化を行い、A相を加えてホモミキサーで均一に乳化し、乳化後、よく撹拌しながら30℃まで冷却する。
【0041】
(処方例2)クリーム
原料名 配合量(質量%)
流動パラフィン 3
ワセリン 1
ジメチルポリシロキサン 1
ステアリルアルコール 1.8
ベヘニルアルコール 1.6
グリセリン 8
ジプロピレングリコール 5
マカデミアナッツ油 2
硬化油 3
スクワラン 6
ベヘニン酸 0.6
ステアリン酸 0.6
イソステアリン酸 0.8
ヒドロキシステアリン酸コレステリル 0.5
2−エチルヘキサン酸セチル 4
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.5
自己乳化型モノステアリン酸グリセリン 3
トリエタノールアミン 0.4
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.05
トリメチルグリシン 2
α−トコフェロール 2−l−アスコルビン酸リン酸ジエステル
カリウム塩 1
酢酸トコフェロール 0.1
甜茶エキス 0.1
パラベン 適量
エデト酸三ナトリウム 0.05
4−t−ブチル4‘−メトキシジベンゾイルメタン 0.05
ジパラメトキシ桂皮酸モノ2−エチルヘキサン酸グリセリル 0.05
色剤 適量
カルボキシビニルポリマー 0.05
精製水 残余
【0042】
製造方法
精製水にジプロピレングリコールを加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し、加熱溶解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加えて予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化した後、よく撹拌しながら30℃まで冷却する。
【0043】
(処方例3)日中用クリーム
原料名 配合量(質量%)
メチルフェニルポリシロキサン 5
ステアリルアルコール 2
グリセリン 5
ジプロピレングリコール 5
ソルビット液(70%) 5
ベヘニン酸 0.75
ステアリン酸 0.9
イソステアリン酸 0.85
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 4
自己乳化型モノステアリン酸グリセリン 1
トリエタノールアミン 0.5
オクチルメトキシシンナメート 6
ワセリン 2
トラネキサム酸 2
1,3−ブチレングリコール 4
スクワラン 3
クエン酸ナトリウム 0.1
アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
キサンタンガム 0.2
ベントナイト 1
パラベン 適量
精製水 残余
香料 適量
【0044】
製造方法
精製水にジプロピレングリコールを加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し、加熱溶解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加えて予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化した後、よく撹拌しながら30℃まで冷却する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ベヘニン酸、ステアリン酸、及びイソステアリン酸、
(B)トリエタノールアミン、及び
(C)40〜90質量%の水、
を含有することを特徴とする水中油型乳化化粧料。
【請求項2】
ベヘニン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸の配合量が、合計で0.1〜3質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
トリエタノールアミンの配合量が、0.1〜2.5質量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の化粧料。
【請求項4】
トリエタノールアミン以外の中和剤を更に含有し、中和剤全体おけるトリエタノールアミンのモル比率が0.25〜1であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項5】
乳液又はクリームの形態であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の化粧料。

【公開番号】特開2010−222317(P2010−222317A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73086(P2009−73086)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】