説明

水中航走体、及び水中航走体の測位方法

【課題】位置の誤差が蓄積されない水中航走体の測位技術を提供する。
【解決手段】本発明による水中航走体は、マルチビーム測深器1と、海底面の各位置の水深を示す水深データが予め格納された水深データベース16を備える測位演算装置5とを具備する。マルチビーム測深器1は、海底面の当該水中航走体10からの深度を、当該水中航走体10の進行方向と垂直な垂直方向に分散して規定された複数の位置について計測する。測位演算装置5は、マルチビーム測深器1によって計測された深度から海底地形に対応する計測海底地形データを生成し、計測海底地形データと水深データベース16に格納された水深データとから、マッチング処理によって当該水中航走体10の位置を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中航走体に関しており、特に、水中航走体の位置や方位を特定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水中を航行する水中航走体を所望の航路で航行させるために、水中航走体には、自己の位置や方位を特定するための測位装置が搭載される必要がある。
【0003】
水中航走体に搭載される測位装置として最も広く用いられているのが、慣性航法装置である。慣性航法装置は、ジャイロと加速度計とを用いて3次元方向のそれぞれの加速度を計測し、その加速度を積分することにより現在位置を特定する。原理から理解されるように、慣性航法装置には、位置の初期値が与えられる必要があるが、一般には、出発時に、出発地の位置が初期値として慣性航法装置に与えられる。
【0004】
慣性航法装置の一つの問題は、誤差が時間の経過と共に蓄積され、認識している現在位置と真の位置との誤差が大きくなることがある点である。このような問題を解決するための一つの方法は、衛星から電波を受信するGPS測位(global positioning system)を利用することである。GPS測位によって得られた位置を慣性航法装置に供給することにより、誤差をリセットすることができる。しかし、衛星から送られる電波は水中には届かないので、GPS測位によって誤差をリセットするためには、水中航走体を浮上させる必要がある。これは、水中航走体の航行状態によっては好ましくない場合がある。
【0005】
慣性航法装置の誤差を修正し、より正確な位置を検出する船位測定装置が、特開昭62−211507号公報に開示されている。この公報に記載の船位測定装置は、船舶の直下の海底の水深を逐次に計測する音響測定器と、海底深度マップを記憶する記憶装置とを備えている。音響測定器によって計測された現在位置の水深から、仮の船位が推定され、その仮の船位の妥当性が、航法装置によって測定された船舶の進行方向及び速度と、過去に測定された水深とから判断される。
【0006】
また、特開2004−170204号公報は、船舶に印加される海潮流等の外力の影響による慣性航法装置の誤差を最小化するための航海支援装置を開示している。公知のその航海支援装置は、メッシュ水深データマップを記憶するデータマップデータベースを備えており、このメッシュ水深データマップに登録されている水深データを用いて慣性航法船位を補正する。より具体的には、当該航海支援装置は、船舶の直下の海底の水深を逐次に計測し、更に、計測された水深と予め登録されている海底の水深との差分が最小化されるような外力成分を最適化手法によって算出する。算出された外力成分が、補正後の自船位置の算出に使用される。
【0007】
これらに開示されている技術は、得られる位置の誤差を小さくすることはできるが、慣性航法装置によって算出された位置や速度に基づいて船位を特定するものであり、慣性航法装置の誤差が蓄積されるという問題を根本的に解決するものではない。このような背景から、位置の誤差が蓄積されない水中航走体の測位技術の提供が望まれている。
【特許文献1】特開昭62−211507号公報
【特許文献2】特開2004−170204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、位置の誤差が蓄積されない水中航走体の測位技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下に述べられる手段を採用する。その手段の記述には、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号・符号が付加されている。但し、付加された番号・符号は、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲を限定的に解釈するために用いてはならない。
【0010】
本発明による水中航走体は、測深手段(1)と、海底面の各位置の水深を示す水深データが予め格納された水深データベース(16)を備える測位演算装置(5)とを具備する。測深手段(1)は、海底面の当該水中航走体(10)からの深度を、当該水中航走体(10)の進行方向と垂直な垂直方向に分散して規定された複数の位置について計測する。測位演算装置(5)は、測深手段(1)によって計測された深度から海底地形に対応する計測海底地形データを生成し、計測海底地形データと水深データベース(16)に格納された水深データとから、マッチング処理によって当該水中航走体(10)の位置を特定する。マッチング処理による水中航走体の位置の特定は、水中航走体(10)の加速度や速度を積分することが不要であり、位置の誤差の蓄積は原理的に起こり得ない。
【0011】
一実施形態では、測深手段(1)としては、複数の超音波ビーム(7)を同時に海底面に照射し、海底面から反射される反射波から計測海底地形データを生成するマルチビーム測深手段が使用されることが好適である。
【0012】
水深データベース(16)に海底面に規定された海底側2次元格子の各格子点における水深を示す水深データが格納される場合には、前記計測海底地形データは、当該水中航走体の近辺に規定された局所座標系の計測側2次元格子の各格子点の当該水中航走体からの深度を示すように生成され、測位演算装置(5)は、当該水中航走体(10)の候補位置を複数決定し、前記候補位置のそれぞれについて、水深データベース(16)の水深データから前記候補位置に対応する部分を抽出し、抽出された前記水深データから前記計測側2次元格子の各格子点の水深を示す参照データを生成し、測位演算装置(5)は、前記計測海底地形データと前記参照データとの間のマッチング処理によって当該水中航走体(10)の位置を特定することが好ましい。この場合、前記計測側2次元格子は、その基本並進ベクトルが前記海底側2次元格子の基本並進ベクトルと同一の長さを有しているように定義されることが好ましい。
【0013】
更に、当該水中航走体(10)が、当該水中航走体(10)の水面からの深度を測定する深度センサ(6)を具備する場合には、測位演算装置(5)は、測深手段(1)によって計測された当該水中航走体(10)からの深度と深度センサ(6)によって測定された当該水中航走体(10)の水面からの深度とから、海底面の各位置の水面からの水深を示す計測海底地形データを生成し、計測海底地形データ及び前記水深データベース(16)に格納された前記水深データから、マッチング処理によって当該水中航走体(10)の位置を特定することが好ましい。
【0014】
この場合、測位演算装置(5)に各位置の潮位を示す潮汐データ(17)が用意され、且つ、前記海底面の各位置の水面からの水深は、前記潮汐データ(17)を用いて算出されることが好ましい。
【0015】
この場合、前記水深データベース(16)には、海底面に規定された海底側2次元格子の各格子点における水深を示す水深データが格納されている場合には、計測海底地形データが、当該水中航走体(10)の近辺に規定された局所座標系の計測側2次元格子の各格子点の水面からの水深を示すように生成され、且つ、測位演算装置(5)は、当該水中航走体(10)の候補位置を複数決定し、前記候補位置のそれぞれについて、前記水深データベース(16)の水深データから前記候補位置に対応する部分を抽出し、抽出された前記水深データから前記計測側2次元格子の各格子点の水深を示す参照データを生成し、測位演算装置(5)は、前記計測海底地形データと前記参照データとの間のマッチング処理によって当該水中航走体(10)の位置を特定することが好ましい。
【0016】
この場合、測位演算装置(5)は、前記候補位置のそれぞれについて、前記計測海底地形データと前記参照データとの一致度を示す評価値を算出し、前記候補位置のうちから前記評価値に基づいて選択された一の候補位置を当該水中航走体の位置として最終的に決定することが好ましい。
【0017】
この場合、前記測位演算装置(5)は、前記計測海底地形データと参照データのそれぞれについて2次元FFTを行ってスペクトルを算出し、算出された前記計測海底地形データと参照データのスペクトルの差分から評価値を算出してもよい。
【0018】
また、前記測位演算装置(5)は、計測海底地形データと前記参照データのそれぞれについて2次元FFTを行ってスペクトルを算出し、実空間における前記計測海底地形データと前記参照データの差分と、前記計測海底地形データと前記参照データのそれぞれの前記スペクトルの差分の両方に基づいて評価値を算出してもよい。
【0019】
また、前記測位演算装置(5)は、前記計測海底地形データと前記参照データのそれぞれについて低域通過フィルタ処理を行い、前記低域通過フィルタ処理によって得られるデータから第1評価値を算出し、前記計測海底地形データと前記参照データのそれぞれについて高域通過フィルタ処理を行い、前記高域通過フィルタ処理によって得られるデータから第2評価値を算出し、前記第1評価値と前記第2評価値の重み付け加算によって全体評価値を算出し、前記候補位置のうちから前記全体評価値に基づいて選択された一の候補位置を当該水中航走体の位置として最終的に決定してよい。
【0020】
この場合、前記測位演算装置(5)は、前記計測海底地形データから起伏の大きさを判断し、且つ、前記重み付け加算において前記第1評価値と前記第2評価値に与えられている重み付け係数を、前記起伏の大きさに応じて調節するように構成されることが好適である。
【0021】
測深手段(1)が、超音波ビーム(7)を海底面に照射し、海底面から反射される反射波の強度を前記測位演算装置に送信するように構成されている場合、測位演算装置(5)は、海底面の各位置の底質を記述する底質情報データベース(18)を備え、且つ、海底面から得られる反射波の強度から海底面の底質を推定し、推定された底質と、底質情報データベース(18)に記述された底質とに基づいて、水中航走体(10)の位置及び方位を特定することが好ましい。
【0022】
測位演算装置(5)は、マッチング処理の際、水中航走体(10)の運動状況を参照して水中航走体(10)の位置及び方位を特定することが好ましい。具体的には、測位演算装置(5)は、直前に特定された水中航走体(10)の位置、水中航走体(10)の速度、直前に特定された水通航走体(10)の方位、及び、直前に水中航走体(10)の位置及び方位が特定された時刻と現在時刻の差に基づいて、水中航走体(10)の位置及び方位を特定することが好ましい。
【0023】
水中航走体(10)の位置に加え、水中航走体(10)の方位をマッチング処理によって特定してもよい。
【0024】
この場合、当該水中航走体(10)が方位を測定する方位センサ(3)を具備する場合には、測位演算装置(5)は、方位センサ(3)によって測定された方位に基づいて水中航走体(10)の方位の探索範囲を決定し、探索範囲についてのみマッチング処理を行うことによって水中航走体(10)の方位を最終的に特定することが好ましい。
【0025】
水深データベース(16)に海底面に規定された海底側2次元格子の各格子点における水深を示す水深データが格納される場合には、計測海底地形データが、当該水中航走体の近辺に規定された局所座標系の計測側2次元格子の各格子点の当該水中航走体(10)からの深度を示すように生成され、測位演算装置(5)は、当該水中航走体の候補位置と候補方位の組み合わせを複数決定し、前記候補位置と候補方位の組み合わせのそれぞれについて、水深データベース(16)の水深データから前記候補位置に対応する部分を抽出し、抽出された前記水深データと前記候補方位とに基づいて、前記計測側2次元格子の各格子点の水深を示す参照データを生成し、前記候補位置及び前記候補方位の組み合わせのそれぞれについて、前記計測海底地形データと前記参照データとの一致度を示す評価値を算出し、前記候補位置及び前記候補方位の組み合わせのうちから前記評価値に基づいて選択された一の候補位置及び候補方位の組み合わせを当該水中航走体(10)の位置及び方位として最終的に決定することが好ましい。
【0026】
また、当該水中航走体(10)が、更に、当該水中航走体(19)の水面からの深度を測定する深度センサ(6)を具備し、水深データベース(16)に海底面に規定された海底側2次元格子の各格子点における水深を示す水深データが格納されている場合には、測位演算装置(5)は、前記測深手段(1)によって計測された当該水中航走体(10)からの深度と前記深度センサによって測定された当該水中航走体(10)の水面からの前記深度とから、当該水中航走体(10)の近辺に規定された局所座標系の計測側2次元格子の各格子点の水面からの水深を示す計測海底地形データを生成し、且つ、測位演算装置(5)は、当該水中航走体(10)の候補位置と候補方位の組み合わせを複数決定し、前記候補位置と候補方位の組み合わせのそれぞれについて、水深データベース(16)の水深データから前記候補位置に対応する部分を抽出し、抽出された前記水深データと前記候補方位とに基づいて、前記計測側2次元格子の各格子点の水深を示す参照データを生成し、前記候補位置及び前記候補方位の組み合わせのそれぞれについて、前記計測海底地形データと前記参照データとの一致度を示す評価値を算出し、前記候補位置及び前記候補方位の組み合わせのうちから前記評価値に基づいて選択された一の候補位置及び候補方位の組み合わせを当該水中航走体(10)の位置及び方位として最終的に決定することが好ましい。
【0027】
当該水中航走体(10)に、水温を測定する温度センサ(21)と塩分濃度を測定する塩分濃度センサ(22)とが設けられる場合には、前記測位演算装置(5)は、測定された前記水温と前記塩分濃度から音速を算出し、算出された前記音速を用いて前記海底面(8)の当該水中航走体(10)からの前記深度を算出することが好適である。
【0028】
また、前記測位演算装置(5)に鉛直方向の水温分布を示す水温分布データを蓄積する水温分布データベースと、鉛直方向の塩分濃度分布を示す塩分濃度分布データを蓄積する塩分濃度分布データベースとが用意される場合には、前記測位演算装置は、温度センサ(21)によって測定された水温と塩分濃度センサ(22)によって測定された塩分濃度と前記水温分布データと前記塩分濃度分布データから当該水中航走体と前記海底面の間の音速分布を推定し、推定された前記音速分布を用いて前記海底面(8)の当該水中航走体(10)からの前記深度を算出することが好適である。
【0029】
一方、当該水中航走体(10)に音速を測定する音速センサ(23)が設けられる場合には、前記測位演算装置(5)は、測定された前記音速を用いて前記海底面(8)の当該水中航走体(10)からの前記深度を算出することが好適である。
【0030】
この場合、測位演算装置(5)に、鉛直方向の音速分布を示す音速分布データを蓄積する音速分布データベースが用意され、前記測位演算装置(5)は、測定された前記音速と前記音速分布データを用いて当該水中航走体と前記海底面の間の音速分布を推定し、推定された前記音速分布を用いて前記海底面の当該水中航走体(10)からの前記深度を算出することが好適である。
【0031】
当該水中航走体(10)が、更に、慣性航法によって当該水中航走体の位置を特定する慣性航法装置(4)を具備する場合には、測位演算装置(5)は、前記マッチング処理によって特定した当該水中航走体の位置を、位置の初期値として慣性航法装置(4)に供給することが好ましい。
【0032】
前記測深手段(1、1A)としては、マルチビーム測深器(1)が使用され得る。また、測深手段(1、1A)としてドップラー対地速度計(1A)が使用されることも可能である。
【0033】
本発明による測位方法は、水中航走体の位置を特定するための測位方法である。当該測位方法は、
海底面の各位置の水深を示す水深データが予め格納された水深データベース(16)を水中航走体(10)に用意するステップと、
海底面の前記水中航走体(10)からの深度を、前記水中航走体に搭載された測深手段(1)によって前記水中航走体の進行方向と垂直な垂直方向に分散して規定された複数の位置について計測するステップと、
前記測深手段(1)によって計測された深度から海底地形に対応する計測海底地形データを生成し、計測海底地形データと水深データベース(16)に格納された水深データとから、マッチング処理によって水中航走体(10)の位置及び方位の少なくとも一方を特定するステップ
とを具備する。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、位置の誤差が蓄積されない水中航走体の測位技術が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1は、本発明の一実施形態の水中航走体10の構成を示すブロック図である。水中航走体10は、マルチビーム測深器1と、方位センサ3と、速力センサ2と、慣性航法装置4と、測位演算装置5とを備えている。
【0036】
マルチビーム測深器1は、超音波ビームによって海底地形を計測するために使用される。図2は、マルチビーム測深器1の機能を示す図である。マルチビーム測深器1は、複数の超音波ビーム7を水中航走体10の進行方向と垂直な方向に広がる扇状に発射する。発射された超音波ビーム7は、海底面8によって反射され、マルチビーム測深器1に反射波が帰ってくる。マルチビーム測深器1は、各超音波ビーム7が発射されてから海底面8で反射されて帰ってくるまでの時間tを計測し、その時間tから、水中航走体10を基準とする海底面8の各位置の深度を決定する。水中航走体10を基準として計測された深度は、以下、(水中航走体10を基準とする)計測深度という。計測深度Dは、下記式によって求められる:
D=(t/2)×v×cosθ, ・・・(A)
ここでvは、海中での超音波ビームの伝播速度であり、θは、超音波ビーム7が海底面8によって反射されて生成される反射波の鉛直方向に対する角度である。マルチビーム測深器1は、海底面8の各位置の(水中航走体10を基準とする)計測深度を測位演算装置5に送信する。
【0037】
速力センサ2は、水中航走体10の速度を計測し、計測した速度を示す速度データを測位演算装置5に送信する。
【0038】
方位センサ3は、水中航走体10の方位、即ち、水中航走体10の進行方向を計測し、計測した方位を示す方位データを測位演算装置5に送信する。方位センサ3としては、例えば、地磁気の方向を検出し、その地磁気の方向から水中航走体10の方位を計測する電子式方位センサが使用される。後述のように、方位センサ3は、水中航走体10の方位を最終的に決定するものではないことに留意されたい。方位センサ3によって得られた方位データは、水中航走体10の方位についての探索空間を小さくするために使用される。
【0039】
慣性航法装置4は、水中航走体10の位置を慣性航法によって特定する。より具体的には、慣性航法装置4は、ジャイロと加速度計とを備えており、そのジャイロと加速度計とを用いて3次元方向のそれぞれの加速度を計測し、その加速度を積分することにより水中航走体10の位置を特定する。慣性航法装置4は、特定した位置を示す慣性航法位置データを測位演算装置5に送信する。既述のように、慣性航法による水中航走体10の位置の特定は、時間とともに位置精度が劣化するという欠点があり、慣性航法装置4は、水中航走体10の位置を最終的に決定するものではないことに留意されたい。後述のように、慣性航法装置4によって得られた慣性航法位置データは、水中航走体10の位置についての探索空間を小さくするために使用される。
【0040】
測位演算装置5は、水中航走体10の位置及び方位を特定するための演算を行う。図3は、測位演算装置5の構成を示すブロック図である。測位演算装置5は、入力装置11と、表示装置12と、記憶装置13と、インターフェース14と、演算装置15とを備えている。
【0041】
入力装置11と表示装置12とは、オペレータが測位演算装置5を操作するためのヒューマンインターフェースとして使用される。入力装置11としては、例えばキーボードやマウス等が使用され、表示装置12としては、例えば、CRT(cathode ray tube)やLCD(liquid crystal display)が使用される。
【0042】
記憶装置13は、予め計測された海底面の各位置の水深を示す水深データを格納する水深データベース16を備えている。図4に示されているように、水深データベース16は、海底面に規定された2次元格子の各格子点における水深を示す水深データで構成される。本実施形態では、水深データベース16について規定されている2次元格子の基本並進ベクトルa、bは、同一の長さを有し、且つ、互いに垂直である。ここで基本並進ベクトルa、bは、2次元格子を定義する2つのベクトルである。基本並進ベクトルaは、北方向にとられ、基本並進ベクトルbは、西方向にとられている。基本並進ベクトルa、bを使用すると、水深データベース16について規定されている2次元格子の格子点(i、j)の位置Pi,jは、整数n、mを用いて下記式で表される:
i、j=n・a+m・b
【0043】
図3に戻り、インターフェース14は、マルチビーム測深器1、方位センサ3、速力センサ2、及び慣性航法装置4と通信するために使用される。測位演算装置5は、インターフェース14を介して、マルチビーム測深器1によって計測された計測深度、方位センサ3によって得られた方位データ、速力センサ2によって得られた速度データ、及び、慣性航法装置4によって得られた慣性航法位置データを受け取る。
【0044】
演算装置15は、マルチビーム測深器1によって計測された海底面8の計測深度から計測海底地形データを生成し、その計測海底地形データと水深データベース16に格納された水深データとから、マッチング処理によって水中航走体10の位置及び方位を特定する。以下では、水中航走体10の位置及び方位を特定する手順が詳細に説明される。
【0045】
図5は、本実施形態における水中航走体10の位置及び方位を特定する手順を示すフローチャートである。まず、水中航走体10の位置と方位の探索範囲が決定される(ステップS01)。本実施形態では、水中航走体10の位置の探索範囲は、方位センサ3によって得られた方位データと、慣性航法装置4によって得られた慣性航法位置データから決定される。慣性航法装置4によって特定された水中航走体10の位置は、誤差を含むものの、ある程度は正しい。そこで、水中航走体10の位置の探索範囲は、慣性航法装置4によって特定された水中航走体10の位置の周囲に決められる。一方、水中航走体10の方位の探索範囲は、方位センサ3によって得られた方位データから決定される。慣性航法装置4によって得られた慣性航法位置データや、方位センサ3によって得られた方位データを用いて探索範囲を絞り込むことは、マッチング処理によって水中航走体10の位置及び方位を決定するのに必要な演算量を低減させるために有用である。
【0046】
更に、海底地形の計測が行われる(ステップS02)。詳細には、マルチビーム測深器1によって水中航走体10を基準とする海底面8の深度の計測が行われ、その計測によって得られた計測深度が測位演算装置5に送られる。マルチビーム測深器1による深度の計測は、水中航走体10の進行と共に逐次に行われる。図2を参照して上述されているように、本実施形態では、複数の超音波ビーム7が水中航走体10の進行方向と垂直な垂直方向に広がる扇状に発射され、1度の計測では、垂直方向にのみ分散して規定された各位置の計測深度が計測される。マルチビーム測深器1による計測を水中航走体10が航行すると共に逐次に行い、過去に計測された計測深度を保存しておくことにより、水中航走体10の後方に2次元的に分散して規定された各位置の計測深度を得ることができる。計測深度が測定された位置は、マルチビーム測深器1が超音波ビームを発射する発射角度、マルチビーム測深器1による計測が行われる時間間隔、並びに各時刻における水中航走体10の速度及び進行方向から決定可能である。
【0047】
測位演算装置5は、マルチビーム測深器1によって測定深度から送られてくる計測深度から、計測された海底地形を示す計測海底地形データを生成する。計測海底地形データは、図6に示されているように、水中航走体10と共に移動する局所座標系に規定された2次元格子の各格子点の計測深度から構成されている。各格子点の計測深度は、当該格子点の近傍の位置についてマルチビーム測深器1によって計測された計測深度を平均することによって得られる。
【0048】
計測海底地形データについて規定された2次元格子は、直交格子であり、且つ、その格子間隔は水深データベース16について規定された2次元格子と同一である。言い換えれば、計測海底地形データについて規定された2次元格子の基本並進ベクトルa、bは、互いに直交しており、且つ、その長さは、水深データベース16について規定された2次元格子の基本並進ベクトルa、bと同一である。
【0049】
続いて、候補位置及び候補方位の組み合わせがステップS01で決定された探索範囲内において決定され、その組み合わせのそれぞれについてマッチング処理によって評価値が決定される(ステップS03)。候補位置とは、水中航走体10の位置の候補であり、候補方位とは、水中航走体10の方位の候補である。より具体的には、各候補位置p及び候補方位θの組み合わせに対する評価値の決定は、次のようにして行われる。
【0050】
まず、候補方位θ及び候補方位θの組み合わせのそれぞれについて、水深データベース16に記述された水深データから参照データが作成される。参照データとは、計測海底地形データとのマッチング処理に使用されるデータであり、水中航走体10と共に移動する局所座標系に規定された2次元格子の各格子点の水深データから構成されている。参照データは、上述された計測海底地形データに対応する形式を有している。例えば、計測海底地形データが、N×M個の格子点の計測深度で構成されている場合には、各参照データは、N×M個の格子点の水深で構成される。計測海底地形データと水深データベース16に記述された水深データとに対して、直接にマッチング処理が行われるのではないことに留意されたい。計測海底地形データに規定された2次元格子は、ほとんどの場合、水深データベース16について規定されている2次元格子に対応する方位を有しておらず、したがって、計測海底地形データと水深データベース16に記述された水深データとに対して直接にマッチング処理を行うことはできない。
【0051】
図6Aを参照して、各参照データの生成は、水深データベース16の各格子点の水深データに対して回転処理を行うことによって算出される。具体的には、まず、水深データベース16から、候補位置pの近傍の各格子点の水深データが抽出される。更に、図6Bに示されているように、抽出された各格子点の水深データから、補間計算により、候補方位θだけ水深データベース16を回転させた参照データの各格子点の水深を示す水深データが算出される。参照データの各格子点の水深データは、それに近接する水深データベース16の3つの格子点の水深データ、及び、参照データの各格子点と、その3つの格子点との相対位置とから補間計算によって算出される。参照データの各格子点と、それに近接する3つの格子点との相対位置は、候補方位θから決定可能である。水深データベース16の4以上の格子点のデータが、参照データの各格子点の補間演算による算出に使用されてもよい。
【0052】
続いて、計測海底地形データの各格子点の計測深度と、参照データの対応する格子点の水深データとが一致する程度を示す評価値が算出される。一実施形態では、候補位置p、候補方位θの評価値f(p,θ)は、計測海底地形データの各格子点の計測深度と参照データの対応する格子点の水深データの差の2乗和として定義され、下記式で表される:
【数1】

ここで、d(i,j)は、計測海底地形データの格子点(i,j)における計測深度であり、d(p,θ,i,j)は、候補位置p、候補方位θについて生成された参照データの、対応する格子点(i,j)における水深である。Σは、計測海底地形データ及び参照データの全ての格子点についての和を表している。評価値の算出は、全ての候補位置及び候補方位の組み合わせについて行われる。
【0053】
上述の評価値の決定方法では、水深データベース16に記述された水深データから、計測海底地形データに対応する形式を有する参照データ、即ち、水中航走体10と共に移動する局所座標系に規定された2次元格子の各格子点の水深データから構成されている参照データが作成されている。しかしながら、計測海底地形データから、候補方位θを用いて水深データベース16に規定された方位に対応する照合データが作成され、更に、水深データベース16から候補位置pを用いて参照データが抽出され、その照合データと参照データとから評価値が算出されてもよい。
【0054】
より具体的には、図6Cに示されているように、照合データは、水中航走体10と共に移動するように海底面に規定された2次元格子の各格子点の計測深度で構成される。照合データに規定された2次元格子は、水深データベース16について規定されている2次元格子に対応するような格子間隔や方位を有している。即ち、照合データに規定された2次元格子は、水深データベース16について規定されている2次元格子と同一の基本並進ベクトルa、bで定義されている。
【0055】
照合データの各格子点の計測深度は、計測海底地形データの各格子点の計測深度に対して回転処理を行うことによって算出される。一実施形態では、照合データの各格子点の計測深度の算出は、照合データの当該格子点の位置、それに近接する3つの計測海底地形データの格子点の位置、及び、その3つの格子点の計測深度から補間計算によって算出される。照合データの各格子点の位置は、候補方位θから決定可能である。計測海底地形データの3以上の格子点のデータが、照合データの各格子点の補間演算による算出に使用されてもよい。
【0056】
続いて、候補位置pに対応する範囲の水深データが水深データベース16から抽出されて参照データが作成される。参照データは、上述された照合データに対応する形式を有している。例えば、照合データが、N×M個の格子点の計測深度で構成されている場合には、水深データベース16から候補位置pに対応する位置のN×M個の格子点の水深データが抽出される。
【0057】
続いて、照合データの各格子点の計測深度と、参照データの対応する格子点の水深データとが一致する程度を示す評価値が算出される。一実施形態では、候補位置p、候補方位θの評価値f(p,θ)は、照合データの各格子点の計測深度と参照データの対応する格子点の水深データの差の2乗和として定義され、下記式で表される:
【数2】

ここで、d’(θ,i,j)は、候補方位θについて作成された照合データの格子点(i,j)における計測深度であり、d’(p,i,j)は、候補位置pについて抽出された参照データの、対応する格子点(i,j)における水深である。Σは、照合データ及び参照データの全ての格子点についての和を表している。評価値の算出は、全ての候補位置及び候補方位の組み合わせについて行われる。
【0058】
評価値の算出の後、図5に示されているように、算出された評価値から水中航走体10の位置及び方位が決定される(ステップS04)。本実施形態では、評価値を最小にする候補位置及び候補方位が、水中航走体10の最終的な位置及び方位として決定される。
【0059】
演算量の増大が許容されるのであれば、水中航走体10の方位の探索範囲は、全方位とされてもよい。この場合、方位センサ3によって測定された方位データは、探索範囲の決定に使用されない。同様に水中航走体10の位置の探索範囲は、水深データベース16に規定された全位置とされてもよい。この場合には、慣性航法装置4による位置の特定は不要である。
【0060】
一方、演算量を減らすためには、方位センサ3によって計測された方位を探索範囲の決定に使用するのではなく、最終的に確定した水中航走体10の方位であるとして採用してもよい。この場合、マッチング処理において方位についての探索は行われない。即ち、候補方位は生成されず、参照データ(又は照合データ)は、方位センサ3によって計測された方位から生成される。この場合には一の参照データ(又は照合データ)しか作成する必要がなく、演算量を少なくするために有効である。
【0061】
マルチビーム測深器1としては、複数の超音波ビーム7を扇状ではなく2次元的に分散して発射し、水中航走体10の進行方向と垂直方向との両方に分散して規定された海底面8の各位置の(水中航走体10を基準とした)深度を計測可能な測深器が使用されてもよい。この場合には、計測海底地形データを、一度の計測によって得ることができる。
【0062】
図7に示されているように、水中航走体10に水中航走体10の水面からの深度を計測する深度センサ6が設けられている場合には、マルチビーム測深器1によって計測される海底面8の各位置の計測深度に、深度センサ6によって測定された水中航走体10の深度を加算することによって、海底面8の各位置の水深(即ち、水面からの深度)が算出されることが好適である;マルチビーム測深器1によって計測される海底面8の各位置の計測深度に、深度センサ6によって測定された水中航走体10の深度を加算することによって得られた水深は、以下、計測水深と呼ばれる。深度センサ6としては、例えば、水中航走体10に印加される水圧を計測し、その水圧から水中航走体10の海面からの深度dを算出する圧力センサが用いられる。
【0063】
この場合、計測海底地形データ(及びそれから生成される照合データ)は、海底面8に規定された2次元格子の各格子点の計測水深で構成され、且つ、評価値は、計測海底地形データ(及びそれから生成される照合データ)の各格子点の計測水深と参照データの対応する格子点の水深データから算出される。
【0064】
評価値の算出に計測水深を使用することは、特に、水中航走体10の水面からの深度が航行中に大きく変化する場合に有効である。上述されているように、マルチビーム測深器1によって計測される計測深度は水中航走体10を基準として測定される深度であるから、その計測深度で構成されている計測海底地形データは、水中航走体10の水面からの深度が逐次に変化する場合には、正確に海底地形を反映しているとはいえない。計測海底地形データ及び照合データとして、マルチビーム測深器1によって計測される計測深度と深度センサ6によって測定された水中航走体10の深度とを加算して得られた計測水深を使用することにより、水中航走体10の位置及び方位をより正確に算出することができる。
【0065】
計測水深が算出される場合、図8に示されているように、測位演算装置5に各位置の潮位を示す潮汐データ17が用意され、この潮汐データ17を用いて計測水深が補正されることが好適である。これにより、計測水深を一層に正確に算出し、水中航走体10の位置及び方位をより正確に算出することができる。
【0066】
図9に示されているように、測位演算装置5に、海底の各位置の底質(例えば、泥、砂、岩)を記述した底質情報データベース18が用意され、この底質情報データベース18が、水中航走体10の位置及び方位の特定に補助的に使用されることも好適である。マルチビーム測深器1が受信する反射波の強度は、海底の底質に依存しているから、マルチビーム測深器1が受信する反射波の強度から海底面8の底質を推定することができる。評価値が近い候補位置及び候補方位の組み合わせが複数存在する場合には、推定された海底面8の底質と底質情報データベース18に記述された底質とが、水中航走体10の位置及び方位の特定の際に参照され、これにより、水中航走体10の位置及び方位の特定確度が向上される。
【0067】
図10は、底質情報データベース18が使用される場合における、水中航走体10の位置及び方位の特定の手順を示すフローチャートである。底質情報データベース18が使用されない場合と同様に、探索範囲の決定(ステップS01)、海底地形の測定(ステップS02)、及び評価値の算出(ステップS03)が行われる。
【0068】
続いて、評価値を参照して候補位置及び候補方位の組み合わせに順位が付けられる(ステップS11)。本実施形態では、評価値が小さい順によい順位が候補位置及び候補方位の組み合わせに与えられる。評価値が最小の候補位置及び候補方位の組み合わせは、以下、第1位候補と呼ばれ、同様に、評価値がk番目に小さい候補位置及び候補方位の組み合わせは、第k位候補と呼ばれる。
【0069】
続いて第1位候補の評価値fと第n位候補の評価値fが評価される(ステップS12)。nは、所定の自然数である。第1位候補の評価値fと第n位候補の評価値fとの比f/fが所定の閾値よりも大きい場合には、第1位候補に係る候補位置及び候補方位が、最終的に水中航走体10の位置及び方位として決定される(ステップS13)。
【0070】
一方、第1位候補の評価値fと第n位候補の評価値fとの比f/fが所定の閾値以下である場合には、推定された海底面8の底質と底質情報データベース18に記述された底質とが、水中航走体10の位置及び方位の特定の際に参照される(ステップS14)。より具体的には、測位演算装置5は、マルチビーム測深器1が受信する反射波の強度から、計測海底地形データの各格子点における海底面の底質を推定する。更に、測位演算装置5は、底質情報データベース18から、参照データの各格子点における海底面の底質を抽出する。そして、第1位候補から第n位候補のうち、底質が一致する格子点が最も多い候補に係る候補位置及び候補方位の組み合わせが、最終的に、水中航走体10の位置及び方位として決定される。このような水中航走体10の位置及び方位の特定方法は、水中航走体10の位置及び方位の特定確度を向上させるために有効である。
【0071】
また、水中航走体10の運動状況が、水中航走体10の位置及び方位の特定の際に参照されることも好適である。例えば、
1)直前に特定された水中航走体10の位置
2)水中航走体10の速度
3)直前に特定された水通航走体10の進行方向(方位)
4)直前に水中航走体10の位置及び方位が特定された時刻と、現在時刻の差
が、水中航走体10の位置及び方位の特定の際に参照されることが好適である。
【0072】
図11は、水中航走体10の運動状況が、水中航走体10の位置及び方位の特定の際に参照される場合における、水中航走体10の位置及び方位の特定の手順を示すフローチャートである。図10に示されている水中航走体10の位置及び方位の特定手順と同様に、探索範囲の決定(ステップS01)、海底地形の測定(ステップS02)、及び評価値の算出(ステップS03)、及び、候補位置及び候補方位の組み合わせの順位付けが行われる(ステップS11)。
【0073】
続いて第1位候補の評価値fと第n位候補の評価値fが評価される(ステップS12)。nは、所定の自然数である。第1位候補の評価値fと第n位候補の評価値fとの比f/fが所定の閾値よりも大きい場合には、第1位候補に係る候補位置及び候補方位が、最終的に水中航走体10の位置及び方位として決定される(ステップS13)。
【0074】
一方、第1位候補の評価値fと第n位候補の評価値fとの比f/fが所定の閾値よいかである場合には、水中航走体10の運動状況を参照して水中航走体10の位置及び方位が特定される(ステップS15)。具体的には、
1)直前に特定された水中航走体10の位置
2)水中航走体10の速度
3)直前に特定された水通航走体10の進行方向(方位)
4)直前に水中航走体10の位置及び方位が特定された時刻と、現在時刻の差
から考えられ得る現在の水中航走体10の位置の範囲が特定され、第1位候補〜第n位候補のうち、候補位置が当該範囲外である候補が除外される。残った候補のうち、最も評価値が高い候補に係る候補位置及び候補方位が、最終的に水中航走体10の位置及び方位として決定される。
【0075】
このような水中航走体10の位置及び方位の特定方法は、水中航走体10の運動の観点からあり得ない候補位置が最終的に水中航走体10の位置として特定されることを防止し、水中航走体10の位置の特定確度を向上させるために有効である。
【0076】
計測海底地形データと参照データとの照合によって評価値が算出される場合には、ステップS03における評価値の算出の際、計測海底地形データと参照データについて2次元FFT(Fast Fourier Transform)を行うことによってそれぞれのスペクトルが算出され、そのスペクトルから評価値が算出されてもよい。2次元FFTを行って空間周波数領域で計測海底地形データと参照データとを照合することは、海底地形によっては、位置及び方位の特定の正確性を向上させることがある。一実施形態では、計測海底地形データのスペクトルと、参照データのスペクトルの差の2乗和が評価値Fとして使用される。より具体的には、下記式によって候補位置p及び候補方位θに対応する評価値F(p,θ)が算出される。
【数3】

ここで、D(u,v)は、計測海底地形データの空間周波数u,vにおけるスペクトル強度であり、D(p,θ,u,v)は、候補位置p及び候補方位θについて抽出された参照データの、空間周波数u,vにおけるスペクトル強度である。ここで、uは、x軸方向(水中航走体10の進行方向)の空間周波数であり、vは、y軸方向の空間周波数であり、Σは、対象の全周波数空間についての和を表している。
【0077】
計測海底地形データから照合データが生成され、その照合データと参照データとの照合によって評価値が算出される場合には、照合データと参照データについて2次元FFT(Fast Fourier Transform)を行うことによってそれぞれのスペクトルが算出され、そのスペクトルから評価値が算出されてもよい。一実施形態では、計測海底地形データのスペクトルと、参照データのスペクトルの差の2乗和が評価値Fとして使用される。より具体的には、下記式によって評価値Fが算出される:
【数4】

ここで、D’(θ,u,v)は、候補方位θについて作成された照合データの空間周波数u,vにおけるスペクトル強度であり、D’(p,u,v)は、候補位置pについて抽出された参照データの、空間周波数u,vにおけるスペクトル強度である。ここで、uは、北方向の空間周波数であり、vは、西方向の空間周波数であり、Σは、対象の全周波数空間についての和を表している。
【0078】
また、評価値は、実空間における計測海底地形データ(又は照合データ)と参照データの差分と、周波数空間における計測海底地形データ(又は照合データ)と参照データの差分の両方に基づいて算出されることも可能である。より具体的には、上述の式(1a)又は式(1b)で定義される評価値f(p,θ)、及び式(2a)又は式(2b)で定義される評価値F(p,θ)を用いて、下記式により、候補位置p及び候補方位θに対する評価値ftotal(p,θ)が算出されることが可能である:
total(p,θ)=α・f(p,θ)+β・F(p,θ),
・・・(3)
ここで、α、βは、所定の重み付け係数である。
【0079】
また、計測海底地形データと水深データベース16から抽出された参照データとの照合によって評価値が算出される場合においては、計測海底地形データと参照データをそれぞれ低域通過フィルタ処理して得られたデータの差の2乗和と、計測海底地形データと参照データをそれぞれ高域通過空間フィルタ処理して得られたデータの差の2乗和とを算出し、算出された2乗和に対して重み付けを行うことによって評価値を算出することが可能である。ここでいう低域通過フィルタ処理、高域通過フィルタ処理は、いずれも、2次元空間フィルタ処理の一種であることに留意されたい。
【0080】
図13A、13Bは、低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理の周波数特性の例を示している。図13A、図13Bにおいて、fLCUTは、低域通過フィルタ処理のカットオフ周波数(ゲインが−3dBになる周波数)を示しており、fHCUTは、高域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を示している。低域通過フィルタ処理は、カットオフ周波数fLCUTよりも低い周波数範囲の周波数成分を選択的に取り出すように行われ、高域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を示している。低域通過フィルタ処理は、カットオフ周波数fHCUTよりも高い周波数範囲の周波数成分を取り出すように行われる。低域通過フィルタ処理のカットオフ周波数fLCUTは、図13Aに示されているように高域通過フィルタ処理のカットオフ周波数fHCUTよりも高くてもよく、図13Bに示されているようにカットオフ周波数fHCUTよりも低くてもよく、また、カットオフ周波数fHCUTと一致していてもよい。
【0081】
一実施形態では、評価値f(p,θ)は、下記式から算出される:
【数5】

1L(i,j):計測海底地形データd(i,j)に対して低域通過フィルタ処理を行うことによって得られるデータ
1H(i,j):計測海底地形データd(i,j)に対して高域通過フィルタ処理を行うことによって得られるデータ
2L(p,θ,i,j):水深データベース16から抽出された参照データd(p,θ,i,j)に対して低域通過フィルタ処理を行うことによって得られるデータ
2H(p,θ,i,j):水深データベース16から抽出された参照データd(p,θ,i,j)に対して高域通過フィルタ処理を行うことによって得られるデータ
α、β:重み付け係数
【0082】
また、計測海底地形データから照合データが生成され、その照合データと水深データベース16から抽出された参照データの照合によって評価値が算出される場合には、評価値f(p,θ)は、下記式から算出される:
【数6】

1L’(θ,i,j):照合データd’(θ,i,j)に対して低域通過フィルタ処理を行うことによって得られるデータ
1H’(θ,i,j):照合データd’(θ,i,j)に対して高域通過フィルタ処理を行うことによって得られるデータ
2L’(p,i,j):水深データベース16から抽出された参照データd(p,i,j)に対して低域通過フィルタ処理を行うことによって得られるデータ
2H’(p,i,j):水深データベース16から抽出された参照データd(p,i,j)に対して高域通過フィルタ処理を行うことによって得られるデータ
α、β:重み付け係数
【0083】
このような照合処理では、重み付け係数を適切に選択することによって対象の海域内の起伏の状況に応じた適切な評価値を得ることができる。例えば、高域通過フィルタ処理によって得られる評価値f(p,θ)の重みを大きくすると(即ち,αに比べてβの値を大きくすると)、絶対水深の一致度よりも、細かな起伏の一致度が優先される。したがって、海底地形が比較的平坦で、且つ、絶対水深の計測に誤差が含まれる場合には、評価値f(p,θ)の重みを大きくすることによって、水中航走体10の位置及び方位をより正しく推定することができる。
【0084】
好適な一実施形態では、マルチビーム測深器1によって計測された計測水深からエリア内の地形の起伏の大きさが判別され、判別された起伏の大きさに応じて低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理の周波数特性及び重み付け係数が調節される。これにより、水中航走体10の位置をより正しく推定することが可能である。地形の大きさは、例えば、計測水深の標準偏差によって定量化することが可能である。
【0085】
図14は、計測海底地形データから地形の起伏の大きさを判別し、その起伏の大きさに応じて低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理の周波数特性や重み付け係数を調節する処理の一例を説明する図である。
【0086】
マルチビーム測深器1によって計測海底地形データが取得されると、計測海底地形データから計測水深の標準偏差が算出される。更に、算出された標準偏差から起伏の大きさが判断される。図14の処理では、起伏の大きさは、レベル0〜レベルnとして表現される。レベル0は、最も起伏が小さい(即ち、最も平坦な)地形に対応するレベルであり、レベルnは、(例えば岩場のような)最も起伏が大きい地形に対応するレベルである。計測水深の標準偏差から、起伏の大きさのレベルが判断される。
【0087】
一方、水中航走体10の測位演算装置5には、予め、低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理のパラメータ、及び、重み付け係数α、βが各レベルiに対応付けて用意される。低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理のパラメータとしては、例えばカットオフ周波数が使用され得る。重み付け係数α、βは、下記式を満足するように設定されている:
α≧α≧・・・≧α
β≦β≦・・・≦β
これらの式は、起伏が大きいほど、低域通過フィルタ処理によって得られる評価値f(p,θ)の重み付け係数αが小さく、高域通過フィルタ処理によって得られる評価値f(p,θ)の重み付け係数βが大きいことを意味している。
【0088】
標準偏差から決定された起伏の大きさのレベルに応じて、低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理のパラメータ及び重み付け係数α、βが選択される。選択されたパラメータを使用して計測海底地形データ(又は照合データ)と参照データの低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理が行われ、更に、選択された重み付け係数を使用して式(3c)又は(4c)を用いて評価値f(p,θ)が算出される。
【0089】
このような照合処理によれば、低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理の周波数特性、及び、重み付け係数Wが起伏の大きさに応じて調節され、水中航走体10の位置及び方位をより正しく推定することができる。
【0090】
上述の式(A)から理解されるように、マルチビーム測深器1によって海底地形を正確に計測するためには、音速(即ち、超音波ビームが伝播する速度)の誤差が小さいことが重要である。計測深度Dの算出に使用される音速vが実際の音速と相違すると、計測深度Dの精度が低下してしまう。
【0091】
海底地形をより正確に計測するためには、図15に示されているように、水温を測定する温度センサ21と塩分濃度を測定する塩分濃度センサ22が水中航走体10に搭載され、測定された水温と塩分濃度から音速vが算出され、算出された音速vが計測深度Dの算出に使用されることが好適である。これにより、海底地形をより正確に計測することができる。海底地形を正確に計測することは、水中航走体10の位置及び方位を正しく推定するために有効である。
【0092】
温度センサ21と塩分濃度センサ22が搭載される代わりに、図16に示されているように、音速を計測する音速センサ23が水中航走体10に搭載されることも可能である。音速センサ23によって計測された音速vを計測深度Dの算出に使用することにより、海底地形をより正確に計測することができる。海底地形を正確に計測することは、水中航走体10の位置及び方位を正しく推定するために有効である。
【0093】
一層に海底地形を正確に計測するためには、水中航走体10と海底の間の音速分布を考慮して計測深度Dを算出することが有効である。温度センサ21や塩分濃度センサ22によって算出される音速、及び、音速センサ23によって計測される音速は、特定位置の音速(具体的には、水中航走体10の位置における音速)であるが、現実には、音速は位置によって変動する。これは、水温や塩分濃度が、位置に応じて変動するからである。
【0094】
図17は、音速の位置による変動を考慮して海底地形をより正確に計測するために好適な水中航走体10の構成を示すブロック図である。図17の水中航走体では、温度センサ21と塩分濃度センサ22が水中航走体10に搭載され、更に、測位演算装置5に水温分布データベース31及び塩分濃度分布データベース32が用意される。水温分布データベース31は、水中航走体10が航行し得る海域のそれぞれについて、季節ごとの水温の鉛直方向の分布を示すデータ(水温分布データ)を蓄積するデータベースであり、塩分濃度分布データベース32は、各海域の季節ごとの塩分濃度の鉛直方向の分布を示すデータ(塩分濃度分布データ)を蓄積するデータベースである。
【0095】
水温分布データベース31の水温分布データは、位置及び時刻の分解能を粗く取らざるを得ない。水中航走体10の各位置、各時刻における水温分布を水温分布データベース31に記述することは現実的ではないからである。同様に、塩分濃度データも、位置及び時刻の分解能を粗く取らざるを得ない。そこで、水中航走体10と海底の間の水温分布及び塩分濃度分布をより正確に推定するために、水温分布データベース31の水温分布データと塩分濃度分布データベース32の塩分濃度分布データに加え、温度センサ21によって測定された水温と塩分濃度センサ22によって測定された塩分濃度を用いて水温分布及び塩分濃度分布が推定される。
【0096】
図18Aは、温度センサ21によって測定された水温と水温分布データベース31の水温分布データから水温分布を推定する方法を説明するグラフである。海底における水温には変動が少ないこと、及び水温分布の全体としての傾向は変動しにくいことを考慮して、一実施形態では、水深xにおける水温T(x)が下記式によって推定される:
【数7】

ここで、T(x)は、水温分布データベース31の水深分布データに記述された水深xにおける水温であり、dは、現在の水中航走体10の水深であり、Tは、水中航走体10に設けられた温度センサ21によって測定された水温である。式(5a)は、推定された水温T(x)のグラフが、水温分布データベース31の水温分布データT(x)のグラフを、温度T=T(d)のグラフを基準として{T−T(d)}/{T(d)−T(d)}倍したものになることを意味していることに留意されたい。式(5a)によれば、海底における水温T(d)は、水温分布データベース31の水深分布データの値Tc(d)に一致し、現在の水中航走体10の水深dにおける水温T(d)は、温度センサ21によって測定された水温Tに一致していることは容易に理解されよう。
【0097】
同様に、図18Bに示されているように、水深xにおける塩分濃度C(x)は、下記式によって推定される:
【数8】

ここで、C(x)は、塩分濃度分布データベース32の塩分濃度分布データに記述された水深xにおける塩分濃度であり、dは、現在の水中航走体10の水深であり、Cは、水中航走体10に設けられた塩分濃度センサ22によって測定された塩分濃度である。
【0098】
推定された水温T(x)及び塩分濃度C(x)から音速分布(即ち、水深xにおける音速v(x))が推定され、推定された音速分布を用いて計測深度Dが算出される。最も簡便には、水中航走体10と海底の間の平均的な音速vaveが算出され、算出されたvaveから下記式(A’)によって計測深度Dが算出される:
D=(t/2)×vave×cosθ, ・・・(A’)
ここでθは、超音波ビーム7が海底によって反射されて生成される反射波の鉛直方向に対する角度であり、tは、超音波ビーム7が発射されてから海底面8で反射されて帰ってくるまでの時間である。平均的な音速vaveは、下記式から算出される:
【数9】

【0099】
より厳密に計測深度Dを算出するためには、下記の積分方程式:
【数10】

を満足する計測深度Dが演算処理によって算出されてもよい。
【0100】
図19に示されているように、水温分布データベース31及び塩分濃度分布データベース32の代わりに、音速分布データベース33を測位演算装置5に用意してもよい。ここで水中航走体10が航行し得る海域のそれぞれについて、季節ごとの音速の鉛直方向の分布を示すデータ(音速分布データ)を蓄積するデータベースである。この場合、図20に示されているように、水深xにおける音速v(x)は、下記式によって推定される:
【数11】

ここで、v(x)は、音速分布データベース33の塩分濃度分布データに記述された水深xにおける塩分濃度であり、dは、現在の水中航走体10の水深であり、vは、水中航走体10に設けられた音速センサ23によって測定された音速である。
【0101】
音速分布データベース33が使用される場合においても、音速分布が推定された後は、水温分布データベース31及び塩分濃度分布データベース32が使用される場合と同様にして計測深度Dが算出される。計測深度Dは、上記の式(A’)によって算出されてもよいし、上記式(7)に基づいて算出されてもよい。
【0102】
上述の実施形態においては、マルチビーム測深器1が海底地形の計測に使用されているが、図21に示されているように、マルチビーム測深器1の代わりにドップラー対地速度計1Aが設けられ、そのドップラー対地速度計1Aの測深機能を利用して海底地形が計測されてもよい。一般的なドップラー対地速度計は、3本又は4本の超音波ビームを放射し、帰ってくる反射波のドップラーシフトを用いて対地速度を検出するように構成されている。計測点の数は減少するものの、マルチビーム測深器1の代わりにドップラー対地速度計1Aを用いても、海底面8の各点における深度を計測することができる。水中航走体は、しばしば、ドップラー対地速度計を標準的に装備しているため、ドップラー対地速度計1Aの測深機能を利用することにより、マルチビーム測深器を追加的に装備する必要が無くなる。これは、コスト及び搭載スペースの面で有利である。
【0103】
上述された水中航走体10の位置の特定方法は、GPS測位を使用せずに慣性航法装置4の誤差をリセットするために使用されることも可能である。上述のように、GPS測位で得られた位置を慣性航法装置に与えることによって誤差をリセットする方法は、水中航走体を浮上させる必要があり好適ではない。上述された水中航走体10の位置の特定方法を用いて特定された位置を位置の初期値として慣性航法装置4に供給することにより、浮上することなく慣性航法装置4の誤差をリセットすることができる。
【0104】
例えば、下記のようにして慣性航法装置4の誤差がリセットされることが好適である。図12Aに示されているように、水中航走体10の予定航路21にウエイポイント22が予め設定される。ウエイポイント22は、上述のマッチング処理による水中航走体10の位置の特定方法による位置の特定確度が高くなるように、予め決められた特徴的地形23の上方に選ばれる。慣性航法装置4によって、ウエイポイント22に到達した、又は、ウエイポイント22に所定の距離まで近づいたことを検出すると、測位演算装置5は、上述の水中航走体10の位置の特定方法によって水中航走体10の位置を特定する。測位演算装置5によって特定された水中航走体10の位置が、位置の初期値として慣性航法装置4に供給される。これにより、浮上することなく慣性航法装置4の誤差をリセットすることができる。
【0105】
ウエイポイント22は、必ずしも特徴的地形23の上方に決定される必要はない。図12Bに示されているように、近辺に特徴的地形23、24が存在し、上述のマッチング処理による水中航走体10の位置の特定方法による位置の特定確度が高い位置であれば、任意に選ばれることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、本発明の一実施形態の水中航走体の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態におけるマルチビーム測深器の機能を説明する概念図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態における測位演算装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態における水深データベースの内容を説明する概念図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態における水中航走体の位置及び方位を特定する手順を示すフローチャートである。
【図6A】図6Aは、計測海底地形データに規定された2次元格子と、水深データベースに規定された2次元格子の関係を示す図である。
【図6B】図6Bは、水深データベースの水深データから、参照データを生成する回転処理を説明する図である。
【図6C】図6Cは、計測海底地形データに規定された2次元格子と、照合データに規定された2次元格子の関係を示す図である。
【図7】図7は、本発明の他の実施形態の水中航走体の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、本発明の更に他の実施形態の水中航走体の構成を示すブロック図である。
【図9】図9は、本発明の更に他の実施形態の水中航走体の構成を示すブロック図である。
【図10】図10は、本発明の更に他の実施形態における水中航走体の位置及び方位を特定する手順を示すフローチャートである。
【図11】図11は、本発明の更に他の実施形態における水中航走体の位置及び方位を特定する手順を示すフローチャートである。
【図12A】図12Aは、慣性航法装置に位置の初期値を与えて誤差をリセットする方法を説明する図である。
【図12B】図12Bは、慣性航法装置に位置の初期値を与えて誤差をリセットする方法の変形例を説明する図である。
【図13A】図13Aは、低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理の周波数特性の例を示す図である。
【図13B】図13Bは、低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理の周波数特性の他の例を示す図である。
【図14】図14は、計測海底地形データから地形の起伏の大きさを判別し、その起伏の大きさに応じて低域通過フィルタ処理及び高域通過フィルタ処理の周波数特性や重み付け係数を調節する処理の一例を説明する図である。
【図15】図15は、本発明の更に他の実施形態の水中航走体の構成を示すブロック図である。
【図16】図16は、本発明の更に他の実施形態の水中航走体の構成を示すブロック図である。
【図17】図17は、本発明の更に他の実施形態の水中航走体の構成を示すブロック図である。
【図18A】図18Aは、温度センサによって測定された水温と、水温分布データベースの水温分布データから水温分布を推定する方法を説明するグラフである。
【図18B】図18Bは、塩分濃度センサによって測定された塩分濃度と、塩分濃度分布データベースの塩分濃度分布データから塩分分布を推定する方法を説明するグラフである。
【図19】図19は、本発明の更に他の実施形態の水中航走体の構成を示すブロック図である。
【図20】図20は、音速センサによって測定された音速と、音速分布データベースの音速分布データから音速分布を推定する方法を説明するグラフである。
【図21】図21は、本発明の更に他の実施形態の水中航走体の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0107】
1:マルチビーム測深器
2:速力センサ
3:方位センサ
4:慣性航法装置
5:測位演算装置
6:深度センサ
7:超音波ビーム
8:海底面
10:水中航走体
11:入力装置
12:表示装置
13:記憶装置
14:インターフェース
15:演算装置
16:水深データベース
17:潮汐データ
18:底質情報データベース
21:温度センサ
22:塩分濃度センサ
23:音速センサ
31:水温分布データベース
32:塩分濃度分布データベース
33:音速分布データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測深手段と、
海底面の各位置の水深を示す水深データが予め格納された水深データベースを備える測位演算装置
とを具備する水中航走体であって、
前記測深手段は、前記海底面の当該水中航走体からの深度を、当該水中航走体の進行方向と垂直な垂直方向に分散して規定された複数の位置について計測し、
前記測位演算装置は、前記測深手段によって計測された前記深度から海底地形に対応する計測海底地形データを生成し、前記計測海底地形データと前記水深データベースに格納された前記水深データとから、マッチング処理によって当該水中航走体の位置を特定する
水中航走体。
【請求項2】
請求項1に記載の水中航走体であって、
前記測深手段は、複数の超音波ビームを同時に前記海底面に照射し、前記海底面から反射される反射波から前記計測海底地形データを生成するマルチビーム測深手段を備える
水中航走体。
【請求項3】
請求項1に記載の水中航走体であって、
前記水深データベースには、海底面に規定された海底側2次元格子の各格子点における水深を示す水深データが格納されており、
前記計測海底地形データは、当該水中航走体の近辺に規定された局所座標系の計測側2次元格子の各格子点の当該水中航走体からの深度を示しており、
前記測位演算装置は、当該水中航走体の候補位置を複数決定し、前記候補位置のそれぞれについて、前記水深データベースの水深データから前記候補位置に対応する部分を抽出し、抽出された前記水深データから前記計測側2次元格子の各格子点の水深を示す参照データを生成し、前記測位演算装置は、前記計測海底地形データと前記参照データとの間のマッチング処理によって当該水中航走体の位置を特定する
水中航走体。
【請求項4】
請求項3に記載の水中航走体であって、
前記計測側2次元格子の基本並進ベクトルは、前記海底側2次元格子の基本並進ベクトルと同一の長さを有している
水中航走体。
【請求項5】
請求項1に記載の水中航走体であって、
更に、当該水中航走体の水面からの深度を測定する深度センサを具備し、
前記測位演算装置は、前記測深手段によって計測された当該水中航走体からの深度と前記深度センサによって測定された当該水中航走体の水面からの前記深度とから、前記海底面の各位置の水面からの水深を示す計測海底地形データを生成し、前記計測海底地形データ及び前記水深データベースに格納された前記水深データから、マッチング処理によって当該水中航走体の位置を特定する
水中航走体。
【請求項6】
請求項5に記載の水中航走体であって、
前記測位演算装置は、各位置の潮位を示す潮汐データを記憶しており、且つ、前記海底面の各位置の水面からの水深を前記潮汐データを用いて算出する
水中航走体。
【請求項7】
請求項5に記載の水中航走体であって、
前記水深データベースには、海底面に規定された海底側2次元格子の各格子点における水深を示す水深データが格納されており、
前記計測海底地形データは、該水中航走体の近辺に規定された局所座標系の計測側2次元格子の各格子点の水面からの水深を示すように生成され、
前記測位演算装置は、当該水中航走体の候補位置を複数決定し、前記候補位置のそれぞれについて、前記水深データベースの水深データから前記候補位置に対応する部分を抽出し、抽出された前記水深データから前記計測側2次元格子の各格子点の水深を示す参照データを生成し、前記測位演算装置は、前記計測海底地形データと前記参照データとの間のマッチング処理によって当該水中航走体の位置を特定する
水中航走体。
【請求項8】
請求項3又は請求項7に記載の水中航走体であって、
前記測位演算装置は、前記候補位置のそれぞれについて、前記計測海底地形データと前記参照データとの一致度を示す評価値を算出し、前記候補位置のうちから前記評価値に基づいて選択された一の候補位置を当該水中航走体の位置として最終的に決定する
水中航走体。
【請求項9】
請求項8に記載の水中航走体であって、
前記測位演算装置は、前記計測海底地形データと前記参照データのそれぞれについて2次元FFTを行ってスペクトルを算出し、算出された前記計測海底地形データと前記参照データの前記スペクトルの差分から前記評価値を算出する
水中航走体。
【請求項10】
請求項8に記載の水中航走体であって、
前記測位演算装置は、前記計測海底地形データと前記参照データのそれぞれについて2次元FFTを行ってスペクトルを算出し、実空間における前記計測海底地形データと前記参照データの差分と、前記計測海底地形データと前記参照データのそれぞれの前記スペクトルの差分の両方に基づいて前記評価値を算出する
水中航走体。
【請求項11】
請求項1に記載の水中航走体であって、
前記測深手段は、超音波ビームを前記海底面に照射し、前記海底面から反射される反射波の強度を前記測位演算装置に送信するように構成され、
前記測位演算装置は、前記海底面の各位置の底質を記述する底質情報データベースを備え、且つ、前記反射波の強度から前記海底面の底質を推定し、推定された底質と前記底質情報データベースに記述された底質とに基づいて、当該水中航走体の位置及び方位を特定する
水中航走体。
【請求項12】
請求項1に記載の水中航走体であって、
前記測位演算装置は、前記水中航走体の運動状況に基づいて当該水中航走体の位置及び方位を特定する
水中航走体。
【請求項13】
請求項12に記載の水中航走体であって、
前記測位演算装置は、直前に特定された当該水中航走体の位置、当該水中航走体の速度、直前に特定された当該水中航走体の方位、及び、直前に当該水中航走体の位置及び方位が特定された時刻と現在時刻の差に基づいて、当該水中航走体の位置及び方位を特定する
水中航走体。
【請求項14】
請求項1に記載の水中航走体であって、
前記測位演算装置は、前記計測海底地形データと前記水深データベースに格納された前記水深データとから、マッチング処理によって当該水中航走体の方位を特定する
水中航走体。
【請求項15】
請求項14に記載の水中航走体であって、
更に、当該水中航走体の方位を測定する方位センサを具備し、
前記測位演算装置は、前記方位センサによって測定された前記方位に基づいて当該水中航走体の方位の探索範囲を決定し、前記探索範囲についてのみ前記マッチング処理を行うことによって当該水中航走体の方位を最終的に特定する
水中航走体。
【請求項16】
請求項14に記載の水中航走体であって、
前記水深データベースには、海底面に規定された海底側2次元格子の各格子点における水深を示す水深データが格納されており、
前記計測海底地形データは、当該水中航走体の近辺に規定された局所座標系の計測側2次元格子の各格子点の当該水中航走体からの深度を示しており、
前記測位演算装置は、当該水中航走体の候補位置と候補方位の組み合わせを複数決定し、前記候補位置と候補方位の組み合わせのそれぞれについて、前記水深データベースの水深データから前記候補位置に対応する部分を抽出し、抽出された前記水深データと前記候補方位とに基づいて、前記計測側2次元格子の各格子点の水深を示す参照データを生成し、前記候補位置及び前記候補方位の組み合わせのそれぞれについて、前記計測海底地形データと前記参照データとの一致度を示す評価値を算出し、前記候補位置及び前記候補方位の組み合わせのうちから前記評価値に基づいて選択された一の候補位置及び候補方位の組み合わせを当該水中航走体の位置及び方位として最終的に決定する
【請求項17】
請求項14に記載の水中航走体であって、
更に、当該水中航走体の水面からの深度を測定する深度センサを具備し、
前記水深データベースには、海底面に規定された海底側2次元格子の各格子点における水深を示す水深データが格納されており、
前記測位演算装置は、前記測深手段によって計測された当該水中航走体からの深度と前記深度センサによって測定された当該水中航走体の水面からの前記深度とから、該水中航走体の近辺に規定された局所座標系の計測側2次元格子の各格子点の水面からの水深を示す計測海底地形データを生成し、且つ、
前記測位演算装置は、当該水中航走体の候補位置と候補方位の組み合わせを複数決定し、前記候補位置と候補方位の組み合わせのそれぞれについて、前記水深データベースの水深データから前記候補位置に対応する部分を抽出し、抽出された前記水深データと前記候補方位とに基づいて前記計測側2次元格子の各格子点の水深を示す参照データを生成し、前記候補位置及び前記候補方位の組み合わせのそれぞれについて、前記計測海底地形データと前記参照データとの一致度を示す評価値を算出し、前記候補位置及び前記候補方位の組み合わせのうちから前記評価値に基づいて選択された一の候補位置及び候補方位の組み合わせを当該水中航走体の位置及び方位として最終的に決定する
水中航走体。
【請求項18】
請求項1に記載の水中航走体であって
更に、慣性航法によって当該水中航走体の位置を特定する慣性航法装置を具備し、
前記測位演算装置は、前記マッチング処理によって特定した当該水中航走体の位置を、位置の初期値として前記慣性航法装置に供給する
水中航走体。
【請求項19】
請求項3又は請求項7に記載の水中航走体であって、
前記測位演算装置は、前記計測海底地形データと前記参照データのそれぞれについて低域通過フィルタ処理を行い、前記低域通過フィルタ処理によって得られるデータから第1評価値を算出し、前記計測海底地形データと前記参照データのそれぞれについて高域通過フィルタ処理を行い、前記高域通過フィルタ処理によって得られるデータから第2評価値を算出し、前記第1評価値と前記第2評価値の重み付け加算によって全体評価値を算出し、前記候補位置のうちから前記全体評価値に基づいて選択された一の候補位置を当該水中航走体の位置として最終的に決定する
水中航走体。
【請求項20】
請求項19に記載の水中航走体であって、
前記測位演算装置は、前記計測海底地形データから起伏の大きさを判断し、且つ、前記重み付け加算において前記第1評価値と前記第2評価値に与えられている重み付け係数を、前記起伏の大きさに応じて調節するように構成された
水中航走体。
【請求項21】
請求項1に記載の水中航走体であって、
更に、
水温を測定する温度センサと、
塩分濃度を測定する塩分濃度センサ
とを具備し、
前記測位演算装置は、測定された前記水温と前記塩分濃度から音速を算出し、算出された前記音速を用いて前記海底面の当該水中航走体からの前記深度を算出する
水中航走体。
【請求項22】
更に、音速を測定する音速センサを具備し、
前記測位演算装置は、測定された前記音速を用いて前記海底面の当該水中航走体からの前記深度を算出する
水中航走体。
【請求項23】
請求項1に記載の水中航走体であって、
更に、
水温を測定する温度センサと、
塩分濃度を測定する塩分濃度センサ
とを具備し、
前記測位演算装置は、
鉛直方向の水温分布を示す水温分布データを蓄積する水温分布データベースと、
鉛直方向の塩分濃度分布を示す塩分濃度分布データを蓄積する塩分濃度分布データベース
とを備え、
前記測位演算装置は、測定された前記水温と前記塩分濃度と前記水温分布データと前記塩分濃度分布データから当該水中航走体と前記海底面の間の音速分布を推定し、推定された前記音速分布を用いて前記海底面の当該水中航走体からの前記深度を算出する
水中航走体。
【請求項24】
請求項1に記載の水中航走体であって、
更に、音速を測定する音速センサを具備し、
前記測位演算装置は、鉛直方向の音速分布を示す音速分布データを蓄積する音速分布データベースを備え、
前記測位演算装置は、測定された前記音速と前記音速分布データを用いて当該水中航走体と前記海底面の間の音速分布を推定し、推定された前記音速分布を用いて前記海底面の当該水中航走体からの前記深度を算出する
とを備え、
水中航走体。
【請求項25】
請求項1に記載の水中航走体であって、
前記測深手段がマルチビーム測深器である
水中航走体。
【請求項26】
請求項1に記載の水中航走体であって、
前記測深手段がドップラー対地速度計である
水中航走体。
【請求項27】
水中航走体の位置を特定するための測位方法であって、
海底面の各位置の水深を示す水深データが予め格納された水深データベースを水中航走体に用意するステップと、
海底面の前記水中航走体からの深度を、前記水中航走体に搭載された測深手段によって前記水中航走体の進行方向と垂直な垂直方向に分散して規定された複数の位置について計測するステップと、
前記測深手段によって計測された前記深度から海底地形に対応する計測海底地形データを生成し、前記計測海底地形データと前記水深データベースに格納された前記水深データとから、マッチング処理によって前記水中航走体の位置を特定するステップ
とを具備する
水中航走体の測位方法。
【請求項28】
請求項27に記載の測位方法であって、
更に、前記計測海底地形データと前記水深データベースに格納された前記水深データとから、マッチング処理によって前記水中航走体の位置を特定するステップを具備する
水中航走体の測位方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−292729(P2007−292729A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31057(P2007−31057)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】