説明

水処理方法及び水処理凝集剤

【課題】凝集残留物による二次汚染の極少ない、フェノール樹脂系アルカリ溶液からなる水処理凝集剤を用いた水処理方法を提供する。
【解決手段】被処理水に凝集剤を添加した後、膜分離処理する水処理方法。該凝集剤は、融点130〜220℃のフェノール樹脂のアルカリ溶液よりなる。この水処理凝集剤は、フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得られたノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に、アルデヒド類を添加してアルカリ触媒の存在下にレゾール型の2次反応を行って得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂のアルカリ溶液よりなる水処理凝集剤とこの水処理凝集剤を用いる水処理方法に関する。詳しくは、例えば、融点が一般的なノボラック型フェノール樹脂の融点の50〜100℃よりはるかに高い130〜220℃であり、凝集残留物による二次汚染の少ないフェノール樹脂のアルカリ溶液よりなる水処理凝集剤と、この水処理凝集剤を添加した被処理水を膜分離処理する水処理方法であって、特に逆浸透(RO)膜分離処理を用いた水処理に有効な水処理方法に関する。
本発明はまた、この水処理凝集剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノボラック型フェノール樹脂は、その発明者にちなんでベークライト樹脂と称され、古くはプラッスチック製食器として、その後、その耐熱性、絶縁性、機械的強度に優れている特性を活かして、鋳型などの耐火、耐熱材料として、最近では電子材料の原料樹脂として広く普及している。
【0003】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール1モルに対して、ホルムアルデヒドを1モルより僅かに少なくし、酸性触媒下で付加縮合反応させて得られる。その構造はフェノール環1つに対して、ホルムアルデヒドが付加縮合反応して生成したメチレン結合により、反応原理的には二次元的に繋がった構造で、そのため鎖の自由度は大きく、その結果、ノボラック型フェノール樹脂の融点は通常50〜100℃、最も融点の高いものでも120℃までと、比較的低い。従って、成形する際の、加温、軟化処理が容易である。
【0004】
ノボラック型フェノール樹脂は、反応活性のメチロール基を含まないため、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤と、用途に応じた副原料を混合して、樹脂融点以上に加熱して軟化させ、所定の成形を行うと同時に、熱硬化反応を行って樹脂製品とされる。この硬化反応後の樹脂は熱耐性(加熱した時の変形耐性、熱分解耐性)が高く、これがベークライト樹脂の多様な用途を支えている。
【0005】
一方、水処理剤としては、ノボラック型フェノール樹脂をアルカリ溶液に溶解したものが、自動車塗装ブースの余剰塗料を洗い流すための循環水中の塗料回収除去剤(栗田工業(株)商品名「クリスタックB310」)として市販されている。
しかし、このものは、塗装ブース循環水に適用できる程度の水準の処理剤であり、公共用水域に放流できる清澄度を満たすような水処理凝集剤としては使用できず、実際の使用事例も見当たらない。
【0006】
この理由は、ノボラック型フェノール樹脂アルカリ溶液を排水の凝集処理に用いると、凝集せずに、水中に溶解したままの成分が多く含まれるため、これが処理水中に残留し、例えば、特許文献1の第1表の比較例2に示されるように、被処理水より、処理水の方が全有機炭素(TOC)が増加し、これに伴ってCODMnが増加することになる。
【0007】
この凝集せずに、処理水中に残留する成分は、分子量1000以下、特にフェノール骨格2つがメチレン結合でつながった分子量200強のフェノール2核体である。
なお、ノボラック型フェノール樹脂本来の用途である、熱硬化樹脂、及びその硬化工程で、これらの成分は硬化樹脂の成分として反応し、特段の支障もない。
【0008】
本発明者らは、従前より、逆浸透(RO)膜等の膜分離処理で、原水より持ち込まれる膜汚染物質の除去技術について研究を続ける中で、前記ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液が、膜汚染物質の凝集除去に有効であり、処理水の膜汚染度の指標であるMFFを改善することを見出した。
【0009】
MFFは、JIS K 3802に定義されているFIやASTM D4189に定義されているSDIと同様に、RO膜給水の清澄度を表す指標として提案されたもので、通常は細孔径0.45μmの精密濾過膜を用いて測定される。具体的には、濾過水50mLを、ミリポア社製、孔径0.45μm、47φのニトロセルロース製メンブレンフィルターを用い、66kPa(500mmHg)の減圧下で濾過し、濾過時間T1を計測する。更に500mLを同様に減圧濾過し、濾過時間T2を測定する。MFFはT2/T1の比で算出され、汚濁物質の全く存在しない純水ではT1=T2で、MFFは1.00となる。RO膜供給時に必要なMFFは1.10未満で、満足すべき水準としては1.05未満であるとされている。
【0010】
しかし、MFFの良好基準である1.1未満を達成するためには、ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液の添加量を多く必要とする上に、凝集残留物比率が多く、この結果、処理水中の残留樹脂成分が著しく増加し、これが、実際のRO膜を使用した平膜試験において、透過流束の低下を引き起こす新たな膜汚染物質になるため、透過流束の低下防止目的に対しては不適当であった。
【0011】
この凝集しない成分の除去方法については、特許文献2及び特許文献3に、ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液を酸中和し、沈殿物と水中に残留する不純物を固液分離し、沈殿物を再度アルカリに溶解して精製する方法が提案されている。
【0012】
しかし、特許文献2,3に記載される方法を適用した場合、ノボラック型フェノール樹脂濃度が約30%のアルカリ溶液では、沈殿物が全容量を占め、遠心分離を行っても得られる分離液量は極く少なく、また、凝集しない低分子量成分の多くは、沈殿物側に吸着移行、及び水分に随伴移行し、その除去量はごく僅かであった。
【0013】
このようなことから、少量の添加量でMFFを1.1未満とし、凝集残留物が少なく、RO膜を用いた平膜試験で透過流束を安定して確保できる精製物を得るには、ノボラック型フェノール樹脂濃度を0.5%未満(200倍以上の希釈液)とする必要があった。
【0014】
従って、このような精製方法の工業化は、ノボラック型フェノール樹脂の200倍以上の希釈液から出発するため、精製物の分離、脱水、乾燥に大容量の設備を要し、一方で、1000mg/L以上の高CODMnの廃液が大量に発生し、その処理が必要になること、また、沈殿物はガム状の塊になり易く、設備のいたる所に粘着することなどから、経済的にも、技術的にも困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平3−146191号公報
【特許文献2】特開平6−285476号公報
【特許文献3】特開平6−287262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記のように、ノボラック型フェノール樹脂には、凝集に関わらず処理水側に残留する低分子量成分が混在するため、そのアルカリ溶液を、用水、排水の凝集処理、ことにその残留物が新たな膜汚染物質となるRO膜分離処理の前工程としての凝集処理には使用できなかった。
【0017】
本発明は、凝集残留物による二次汚染の少ない、フェノール樹脂系アルカリ溶液からなる水処理凝集剤を低コストかつ高収率で提供することを目的とする。
本発明はまた、このような水処理凝集剤を用いた水処理方法と、この水処理凝集剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、ノボラック型フェノール樹脂をアルカリ溶液に溶解した後、アルデヒド類を添加し、付加縮合反応させるレゾール型2次反応を行うことを試みた。これにより、凝集処理時に残留してしまう樹脂中のフェノール類2核体を含めた低分子量成分を低減させると共に凝集効果向上に寄与する高分子量成分を増加させ、かつ樹脂成分の固化等の製品上の支障がなく、膜汚染指標MFFの改善効果の大きいフェノール樹脂アルカリ溶液を低コスト、高収率で提供することが可能となった。
【0019】
この結果、レゾール型2次反応用ホルムアルデヒドの仕込み比や、反応温度、反応時間等を検討して、得られる樹脂の融点が130〜220℃、好ましくは150℃〜200℃という従来にない高融点の2次反応樹脂のアルカリ溶液を得、これが前記目的を達成できることを見出した。
【0020】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0021】
[1] 被処理水に凝集剤を添加する凝集処理工程と、該凝集処理工程の凝集処理水を膜分離処理する膜分離処理工程とを有する水処理方法において、該凝集剤は、融点130〜220℃のフェノール樹脂のアルカリ溶液よりなることを特徴とする水処理方法。
【0022】
[2] 被処理水に凝集剤を添加する凝集処理工程と、該凝集処理工程の凝集処理水を膜分離処理する膜分離処理工程とを有する水処理方法において、該凝集剤は、フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得られたノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に、アルデヒド類を添加してアルカリ触媒の存在下にレゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂のアルカリ溶液であることを特徴とする水処理方法。
【0023】
[3] [2]において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の融点が130〜220℃であることを特徴とする水処理方法。
【0024】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記膜分離処理工程は逆浸透膜分離処理工程であることを特徴とする水処理方法。
【0025】
[5] [2]ないし[4]のいずれかにおいて、前記フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得られたノボラック型フェノール樹脂が、フェノール類2核体を3重量%以上含み、重量平均分子量2000以上のフェノール樹脂であって、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂が、フェノール類2核体含有率3重量%未満であることを特徴とする水処理方法。
【0026】
[6] [5]において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の、分子量624以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下であることを特徴とする水処理方法。
【0027】
[7] [5]又は[6]において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の、分子量624を超え1200以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下であることを特徴とする水処理方法。
【0028】
[8] [1]又は[3]ないし[7]のいずれかにおいて、前記融点130〜220℃のフェノール樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量が5000〜50000であることを特徴とする水処理方法。
【0029】
[9] [8]において、前記融点130〜220℃のフェノール樹脂の分子量1000以下の低分子量成分の含有率が15重量%以下であることを特徴とする水処理方法。
【0030】
[10] [1]ないし[9]のいずれかにおいて、前記凝集処理工程は、被処理水に前記凝集剤を添加した後、無機凝集剤を添加する工程であることを特徴とする水処理方法。
【0031】
[11] 融点130〜220℃のフェノール樹脂のアルカリ溶液よりなることを特徴とする水処理凝集剤。
【0032】
[12] フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得られたノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に、アルデヒド類を添加してアルカリ触媒の存在下にレゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂のアルカリ溶液よりなることを特徴とする水処理凝集剤。
【0033】
[13] [12]において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の融点が130〜220℃であることを特徴とする水処理凝集剤。
【0034】
[14] [12]又は[13]において、前記フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得られたノボラック型フェノール樹脂が、フェノール類2核体を3重量%以上含み、重量平均分子量2000以上のフェノール樹脂であって、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂が、フェノール類2核体含有率3重量%未満であることを特徴とする水処理凝集剤。
【0035】
[15] [14]において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の、分子量624以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下であることを特徴とする水処理凝集剤。
【0036】
[16] [14]又は[15]において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の、分子量624を超え1200以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下であることを特徴とする水処理凝集剤。
【0037】
[17] [11]又は[13]ないし[16]のいずれかにおいて、前記融点130〜220℃のフェノール樹脂の重量平均分子量が5000〜50000であることを特徴とする水処理凝集剤。
【0038】
[18] [17]において、前記融点130〜220℃のフェノール樹脂の分子量1000以下の低分子量成分の含有率が15重量%以下であることを特徴とする水処理凝集剤。
【0039】
[19] フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させてノボラック型フェノール樹脂を得、該ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に、アルデヒド類を添加してアルカリ触媒の存在下にレゾール型の2次反応を行う工程を有する水処理凝集剤の製造方法。
【0040】
[20] [19]において、前記フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得、フェノール類2核体含有量率3重量%以上で重量平均分子量2000以上のノボラック型フェノール樹脂を得、前記レゾール型の2次反応を行って、フェノール類2核体含有率3重量%未満のフェノール樹脂を得ることを特徴とする水処理凝集剤の製造方法。
【0041】
[21] [20]において、前記レゾール型の2次反応を行って、分子量624以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下のフェノール樹脂を得ることを特徴とする水処理凝集剤の製造方法。
【0042】
[22] [20]又は[21]において、前記レゾール型の2次反応を行って、分子量624を超え1200以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下のフェノール樹脂を得ることを特徴とする水処理凝集剤の製造方法。
【発明の効果】
【0043】
融点が130〜220℃と、従来にない高融点であるフェノール樹脂のアルカリ溶液、或いは、ノボラック型フェノール樹脂に対してレゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂のアルカリ溶液よりなる本発明の水処理凝集剤は、非イオン界面活性剤や、荷電を有しない中性多糖類等の、一般に、水の凝集処理で使用される無機凝集剤単独では処理不可能な汚濁物質を、効率的に凝集、除去することができ、処理水への汚濁成分混入の問題も低減される。
【0044】
本発明の水処理凝集剤は、特に、RO膜分離処理等の膜分離処理工程の前処理工程として凝集処理に有効であり、膜分離処理に供される水の膜汚染指標MFFを改善し、RO膜等の膜の透過流束の低下を防止して長期に亘り安定かつ効率的な膜分離処理を可能とする。
【0045】
従って、このような本発明の水処理凝集剤を用いた凝集処理水を膜分離処理する本発明の水処理方法によれば、長期に亘り安定かつ効率的な処理を継続して行うことができる。
【0046】
また、本発明の水処理凝集剤の製造方法によれば、ノボラック型フェノール樹脂をアルカリ溶液とし、アルデヒド類を添加して、アルカリ触媒の存在下にレゾール型2次反応を行うことにより、フェノール類2核体を含め、分子量1000以下の低分子量成分を高分子量化させ、水処理凝集剤として使用する際に不都合な低分子量成分の含有率を減少させると共に、凝集処理に有効なものに変え、フェノール樹脂の高分子量化、高融点化を図ることにより、このような本発明の水処理凝集剤を効率的に製造することができる。
この方法においては、有機溶剤等の排水は発生せず、収率100%を達成することも可能であることから、低コスト、高収率で、低分子量成分量が著しく低減された、高融点、高分子量のフェノール樹脂系水処理凝集剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例で用いた平膜試験装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0049】
なお、本発明において分子量又は重量平均分子量は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)で測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出した値である。
【0050】
[水処理凝集剤]
まず、本発明の水処理凝集剤を、その製造方法に従って説明する。
【0051】
本発明の水処理凝集剤は、融点が130〜220℃のフェノール樹脂のアルカリ溶液よりなる。
このような本発明の水処理凝集剤の製造方法には特に制限はないが、好ましくは、フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させてノボラック型フェノール樹脂を得、該ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に、アルデヒド類を添加してアルカリ触媒の存在下にレゾール型の2次反応を行う本発明の水処理凝集剤の製造方法により製造される。
【0052】
即ち、ノボラック型フェノール樹脂をアルカリ溶液とし、含有フェノール環1モル当たり0.2〜0.4モルのホルムアルデヒド類を添加し、80〜100℃で1〜12時間反応せしめる。この反応で、フェノール2核体を含む低分子量成分のフェノール環にホルムアルデヒド類が付加し、反応活性基のメチロール基が生成し、これが既存のフェノール縮合物に反応することで、低分子量成分が、高分子量の凝集有効成分に変換する。
同時に既存の縮合高分子成分のフェノール環でも、ホルムアルデヒド類の付加、メチロール基生成、他の縮合高分子成分への付加反応が起こり、樹脂全体の平均分子量が、元の樹脂の2000〜6000から、数倍程度の5000〜30000に増加する。
【0053】
この反応では、フェノール環は、2つの手で繋がった二次構造(線状)から、3つの手で繋がった三次構造になり、高分子鎖の自由度が減少し、その結果、融点が上昇する。
融点上昇が小さい場合は、低分子量成分の低減が不十分である。逆に、融点が上昇しすぎる、さらには、融点が計測されない(230℃以上では、分解が始まり、融点があるかわからなくなる)程になると、フェノール樹脂の分子量は100万オーダー以上、極端に言えば、塊全部がすべて1分子に繋がった状態に上昇しており、樹脂は溶解できず、析出、固化する。また、液体を保っていても、粘度が上昇し、数日、数十日を経ると固化が始まり、水処理剤として実用に供することはできないものとなる。
【0054】
従って、後述の方法で測定される樹脂の融点が130〜220℃、好ましくは150〜200℃であるものが水処理凝集剤として適用できる。
【0055】
本発明の水処理凝集剤の製造方法において、レゾール型2次反応の原料となるノボラック型フェノール樹脂は、常法に従って、反応釜において、フェノール類及びアルデヒド類を、酸性触媒の存在下で重縮合反応させた後、常圧及び減圧下で、脱水と未反応フェノールの除去を行って製造される。
【0056】
ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いるフェノール類としては、例えば、フェノール、o,m,pの各クレゾール、o,m,pの各エチルフェノール、キシレノール各異性体などのアルキルフェノール類、α,βの各ナフトールなどの多芳香環フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ピロガロール、レゾルシン、カテコールなどの多価フェノール類、ハイドロキノンなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。これらのフェノール類は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
これらのうち、実用的な物質は、フェノール、クレゾール類、キシレノール類、カテコールである。
【0057】
一方、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、グリオキザールなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。これらのアルデヒド類は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
これらのうち、実用的な物質は、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドである。
【0058】
ノボラック型フェノール樹脂を製造する際の酸触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸類、蓚酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸類、酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛等の有機酸塩類が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。これらの酸触媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0059】
レゾール型2次反応の原料となるノボラック型フェノール樹脂の融点に制限はないが、融点が65℃以上と高い樹脂の方が、レゾール型2次反応の対象としている低分子量成分が少なく、2次反応後の樹脂融点を目的とする130〜220℃にするためのレゾール型2次反応の条件幅が広くなり有利である。
また、同組成のノボラック型フェノール樹脂では、融点が高い程、この原料ノボラック型フェノール樹脂の分子量が大きく、レゾール型2次反応後の樹脂の分子量もこれに応じて高くなり、凝集剤としての凝集効果も向上する。
原料ノボラック型フェノール樹脂の融点の上限に制限はないが、ノボラック型フェノール樹脂は、加熱して融解、軟化させて成形し、熱硬化して使用するものであり、前述のように、工業的に融点120℃以上のものはほとんど生産されていない。
なお、融点120℃を超えると、軟化・流動温度は概ね150℃以上となり、ノボラック型フェノール樹脂の反応釜中の局部温度は200℃を大きく超える。そのため、樹脂の分解や焦げ付きが発生し、安定した品質のものが得られない。また、溶融粘度が高くなりすぎるためにその取り出しが工業的には困難になる問題が生じる。
【0060】
また、レゾール型2次反応の原料となるノボラック型フェノール樹脂の分子量に制限はないが、分子量のより高い樹脂の方が、2次反応終了後に、フェノール類2核体及び分子量624程度以下の凝集に関与しないだけでなく、凝集処理水中に残留して、処理水を汚染する低分子量成分含有率が少なくなるため、好ましい。このため、用いるノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量で1000以上であることが好ましく、特に2000以上であることが好ましい。
ノボラック型フェノール樹脂の分子量の上限に制限はないが、前記のように用途上、及び生産上の制約があり、通常、重量平均分子量で6000程度である。
【0061】
このようなノボラック型フェノール樹脂には、重量平均分子量が2000程度以上の樹脂であっても、分子量200程度のフェノール類2核体が3重量%以上、さらに、分子量624以下の、凝集に関与せず、凝集処理水中に残留しやすい低分子量成分が合計で15重量%以上含まれる。そして、例えば原料にフェノールとホルムアルデヒドを使用したノボラック型フェノール樹脂の場合には、分子量200程度のフェノール類2核体が一般的には3〜20重量%程度含まれ、分子量624以下の、凝集に関与せず、凝集処理水中に残留しやすい低分子量成分が合計で一般的には15〜40重量%程度含まれ、分子量1000以下の凝集効果を示さない低分子量成分が合計で25〜50重量%程度含まれる。
【0062】
本発明においては、このようなノボラック型フェノール樹脂をまずアルカリ溶液とする。
ノボラック型フェノール樹脂を溶解する溶剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物の1種又は2種以上を含む水溶液が挙げられ、これが、同時に次工程のレゾール型2次反応のアルカリ触媒となる。
【0063】
また、その他、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブなどのセルソルブ類及びセルソルブ類のエステル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテートなどのカルビトール類及びカルビトール類のエステル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類などに、トリエチルアミン、トリメチルアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン)などの有機塩基を溶解した塩基性溶剤も、レゾール型2次反応のアルカリ触媒を兼ねるアルカリ溶液として用いることができる。
【0064】
ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液のpHには特に制限はないが、pHが低過ぎるとノボラック型フェノール樹脂の溶解性が悪く、高過ぎると添加するアルカリ物質が無駄になることから、pH11〜13程度であることが好ましい。
また、ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液中のノボラック型フェノール樹脂濃度には特に制限はないが、濃度が高過ぎると溶液粘性が上昇し、アルデヒド類を添加する2次反応の均一性の保持、更には、最終製品のポンプ薬注などの取り扱いに不都合であり、低過ぎると生産効率の低下や最終製品の梱包、輸送費用の増加があることから、5〜50重量%、特に10〜30重量%程度であることが好ましい。
【0065】
レゾール型2次反応のために、ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に添加するアルデヒド類としては、前述のノボラック型フェノール樹脂原料としてのアルデヒド類と同様のものを1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができ、これらのうち特にホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが実用的であるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液へのアルデヒド類の添加量は、特に限定されるものではないが、添加量が少な過ぎると2核体をはじめとする低分子量成分の低下が不十分であり、レゾール型2次反応により得られるフェノール樹脂(以下、「2次反応フェノール樹脂」と称す場合がある。)の融点上昇も少ない。逆に、多過ぎると得られる2次反応フェノール樹脂の融点が測定不能な分解温度に近づき、架橋が進み、不溶化、固化してしまう。適正なアルデヒド類の添加量は、原料ノボラック型フェノール樹脂中の2核体を含む分子量1000以下の低分子量成分の含有率や、構成するフェノール類の種類により異なるが、概ね、ノボラック型フェノール樹脂中のフェノール環1モル当たり0.2〜0.4モルとなる。ただし、実際には、事前にアルデヒド類添加量と2次反応フェノール樹脂の融点との関係を確認する予備試験を行い、その結果に基いて、所望の融点の2次反応フェノール樹脂が得られるように、その添加量を決定することが好ましい。
【0067】
レゾール型の2次反応の方法には特に制限はないが、例えば、攪拌機、蒸気吹き込み設備、還流器、及び温度制御機構を有する反応設備で、所定の樹脂濃度及びpHのノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液を、蒸気吹き込み等で所定温度、例えば40〜70℃程度に上昇させた後、アルデヒド類を添加し、80〜100℃で1〜12時間、この温度を保ちながら、アルカリ触媒下のレゾール型反応を行う。
【0068】
反応終了後は反応液を冷却し、融点が130〜220℃、好ましくは150℃〜200℃であり、フェノール類2核体をはじめとする分子量1000以下の低分子量成分含有量の少ない、また重量平均分子量が高められた2次反応フェノール樹脂のアルカリ溶液を得る。
【0069】
なお、上記2次反応における樹脂濃度、pH、アルデヒド類添加量、反応温度や反応時間は何ら制約されるものではなく、所望とする融点の2次反応フェノール樹脂が得られるように適宜設定される。
【0070】
このようにして得られる2次反応フェノール樹脂の融点は130〜220℃であり、好ましくは150〜200℃である。
【0071】
また、この2次反応フェノール樹脂の重量平均分子量は5000以上が好ましく、さらに好ましくは10000以上である。一方、重量平均分子量が50000を超える場合は、一部分子量100万以上の分子が生成し、粘度が高く、時間経過でさらに架橋し、不溶物が発生する可能性が高いため、2次反応フェノール樹脂の重量平均分子量は50000以下、特に30000以下であることが好ましい。
また、この2次反応フェノール樹脂の重量平均分子量は、反応前、即ち、レゾール型2次反応の原料であるノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量の2〜5倍程度となることが好ましい。
【0072】
また、2次反応フェノール樹脂は、フェノール類2核体含有率が3重量%未満、特に2重量%以下であることが好ましく、また、分子量624以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、分子量624以下の低分子量成分の含有率は5重量%以下である。また、分子量624を超え1200以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下、特に7重量%以下であることが好ましい。
【0073】
また、この2次反応フェノール樹脂は、レゾール型2次反応の原料であるノボラック型フェノール樹脂に対して、2核体を含む概ね分子量1000以下の低分子量成分が通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下と大きく減少し、水の凝集処理に用いた場合、凝集処理水側に残留する未凝集物が著しく少なく、TOC、CODMnが著しく低減された、膜分離処理の給水として好ましい凝集処理水が得られる。
【0074】
このレゾール型2次反応で得られるフェノール樹脂のアルカリ溶液は、ポンプ薬注可能な液体であり、製造品をそのまま水処理凝集剤として使用することができる。
【0075】
なお、本発明における2次反応フェノール樹脂、又はレゾール型2次反応の原料であるノボラック型フェノール樹脂の融点測定試料調製法、融点測定法、分子量等測定試料調製法、分子量等測定法は次の通りである。
【0076】
<融点測定試料調製法>
2次反応フェノール樹脂のアルカリ溶液を樹脂濃度として1重量%以下になるようにイオン交換水で希釈し、スターラー等で十分撹拌した状態にして、約1N程度の塩酸を滴下し、pHを5未満に調整する。この操作で析出した樹脂をNo.5A濾紙で濾過した後、イオン交換水で2回洗浄し、この析出樹脂を別の濾紙に移し、水分をよく切る。
水分をよく切った樹脂を、常温にて一晩、真空乾燥するか、或いはデシケーターで重量減少がなくなるまで、数日乾燥させる。
なお、2次反応を行わない、レゾール型2次反応の原料であるノボラック型フェノール樹脂については、アルカリ溶液としてから、再度、前記の方法で試料を調製する。
【0077】
<融点測定法>
エスアイアイ・ナノテクノロジー製の示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry:DSC)を用いて測定する。
試料2mgをDSC測定器にかけ、10℃/分で昇温を行い、横軸の温度上昇に対して、熱流(Heat Flow/mW)のラインを求め、吸熱ピークのトップ温度を融点とする。
本発明において、ノボラック型フェノール樹脂及び2次反応フェノール樹脂の融点は、前記の試料調整法と融点測定法によって測定した値である。
【0078】
<分子量等測定試料調製法>
分画を含む分子量測定を行うには、2次反応フェノール樹脂のアルカリ溶液のアルカリ金属イオンの除去と水分除去を、該樹脂中のフェノール類2核体を含む低分子量成分を流出させずに行う必要がある。
そのため、まず、2次反応フェノール樹脂のアルカリ溶液を樹脂濃度0.1重量%(1000mg/L)程度に希釈し、透析膜装置に入れ、次いで予め乖離しているフェノール水酸基の非乖離化のために必要な中性化用塩酸の量を決めておき、これを透析膜装置内の溶液に添加してから、透析を行う。透析完了後の内容物を、付着物を含めその全量を減圧フラスコで40℃程度の低温で濃縮、乾固させる。
これを、常温で真空乾燥し、前記のテトラヒドロフランで溶解し、分画を含む分子量測定試料を得る。
なお、レゾール型2次反応を行う前の原料のノボラック型フェノール樹脂も、同様の操作を行い、前処理で生じる可能性のある、測定値のシフト等、誤差要因を共通化する。
【0079】
<分子量分画・分子量測定方法>
分子量はゲルパーミネーションクロマトグラフィー(以下GPCと記す)で測定する。
上述の2次反応フェノール樹脂のテトラヒドロフラン溶液を、クロマトカラムとしてTOSOH製HLC8022、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、流量0.8mL/分、温度40℃で展開し、溶出を行う。樹脂検出は、屈折率及び紫外吸光で行い、最大吸収のある波長254nmとし、検出器はTOSOH製RI−8020及びUV−8020を使用する。
この結果を、分子量の明らかなポリスチレン標準物質を用いた検量線に当てはめ、分子量分画と分画された樹脂成分の分子量及びその含有量を検定する。
低分子量成分の含有量は、GPCの分子量分布曲線により、樹脂全体に対する面積比率(%)から算出する。
本発明におけるフェノール樹脂の重量平均分子量及び低分子量成分の分子量並びにその含有量は、前記の試料調整法と分子量分画・分子量測定法により求めた値である。
【0080】
本発明の水処理凝集剤は、好ましくは、上述のようにして、ノボラック型フェノール樹脂のレゾール型2次反応を行って得られた、融点が130〜220℃、好ましくは150〜200℃の2次反応フェノール樹脂のアルカリ溶液よりなるものであり、そのフェノール樹脂濃度としては10〜25重量%、pHは11.0〜13.0程度であることが好ましい。
この水処理凝集剤は、凝集に関わらず処理水側に残留する低分子量成分量が少ないため、用水、排水の凝集処理、特に膜分離処理、とりわけRO膜分離処理の前処理工程としての凝集処理に用いる水処理凝集剤として有効である。
【0081】
[水処理方法]
本発明の水処理方法は、被処理水に凝集剤を添加して凝集処理し、この凝集処理水を膜分離処理するものであり、被処理水に添加する凝集剤として、上述の本発明の水処理凝集剤を用いることを特徴とするものである。
【0082】
本発明の水処理凝集剤が特にその凝集効果を発揮する対象物質は、通常のポリ塩化アルミニウム(PAC)等のアルミニウム塩、塩化第二鉄等の鉄塩で代表される無機凝集剤で処理不能な、非イオン性界面活性剤、アニオン性を持たない、或いは極少ないアニオン性である中性多糖類である。
【0083】
RO膜分離処理においては、通常の無機凝集剤による前処理凝集で除去できない中性多糖類が残存し、RO膜を汚染し、その透過流束を減少させることが問題となるため、特に、この分野において、本発明の水処理凝集剤及び水処理方法は有効に適用される。
【0084】
本発明の水処理凝集剤をこのような凝集処理に用いる場合、被処理水への水処理凝集剤添加量は、被処理水の水質や目的とする凝集処理効果により適宜決定され、また、無機凝集剤の併用の有無によっても異なるが、概ね、本発明の水処理凝集剤の凝集対象である非イオン性界面活性剤、中性多糖類と同量程度とされ、例えば、RO膜分離処理等の膜分離処理工程の前処理工程で用いる場合、フェノール樹脂換算の添加量として0.1〜5.0mg/L、特に0.3〜2.0mg/L程度とすることが好ましい。
【0085】
また、本発明の水処理凝集剤を、特にRO膜、限外濾過膜、精密濾過膜等を用いる膜分離処理の前処理工程としての凝集処理に用いる場合、本発明の水処理凝集剤と共に無機凝集剤を併用することが好ましい。
併用する無機凝集剤としては、特に制限はないが、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等のアルミニウム系凝集剤や、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄系凝集剤が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
無機凝集剤の添加量は、被処理水の水質や目的とする処理水質等によっても異なるが、被処理水が工業用水で、膜分離工程の前処理工程に用いる場合には通常20〜100mg/L程度であり、被処理水が生物処理水等の排水の一次処理水で膜分離工程の前処理工程に用いる場合には通常100〜400mg/L程度である。
【0086】
本発明の水処理凝集剤と無機凝集剤を併用して膜分離処理の前処理としての凝集処理を行う場合、最初に被処理水に本発明の水処理凝集剤を添加した後無機凝集剤を添加する。具体的には、被処理水に本発明の水処理凝集剤を添加して1分以上反応せしめ、その後、無機凝集剤を添加して急速攪拌で3〜10分程度、更に緩速攪拌で3〜10分程度反応せしめ、得られた凝集処理液を沈殿槽、加圧浮上装置等により一次固液分離し、更に重力濾過装置で二次の固液分離を行い、分離水を膜分離処理の供給水とすることが好ましい。
【0087】
被処理水に対して本発明の水処理凝集剤と無機凝集剤とを同時に添加したり、無機凝集剤を本発明の水処理凝集剤の添加箇所に近接した箇所に添加すると、フェノール樹脂と無機凝集剤とが直接反応する結果、フェノール樹脂の添加効果が得られず、反応により消費された分を補うために薬剤の必要添加量が増大する。
なお、本発明の水処理凝集剤を無機凝集剤よりも後に添加すると被処理水が、海水等の電気伝導率が1000mS/m以上の高塩類含有水である場合を除いては、フェノール樹脂が未凝集の状態で残留し、膜分離阻害物となり、MFFを悪化させる。
【実施例】
【0088】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、以下において「%」は「重量%」を表す。
【0089】
また、以下において、前述の<融点測定試料調製法>に従って、調製した試料について、前述の<融点測定法>に従って測定した融点を単に「融点」と称し、樹脂のカタログ値、或いは、試料樹脂についてアルカリ溶液に溶解させることなく測定した融点を「原体樹脂融点」と称す。
【0090】
[2次反応フェノール樹脂アルカリ溶液の製造]
原料樹脂として群栄化学工業(株)製のレヂトップPSM−6358及びPSM−4324を使用した。本品はフェノールとホルムアルデヒドを酸触媒の存在下に重縮合を行って得られたノボラック型フェノール樹脂であり、その融点、重量平均分子量、低分子量成分含有率等は以下の通りである。
【0091】
【表1】

【0092】
これらPSM−6358及びPSM−4324の主用途は電子材料積層板用エポキシ硬化剤であり、水処理凝集剤としては使用されていない。
【0093】
<実施例I−1>
ビーカーに、PSM−6358 41g、イオン交換水146.2g、及び48%水酸化ナトリウム水溶液12.8gを入れ、マグネチックスターラーにて攪拌溶解し、PSM−6358を20.5%含有するノボラック型フェノール樹脂アルカリ溶液200gを得た。この溶液のpHは12.4であった。
【0094】
200mg/Lの共栓付三角フラスコにPSM−6358アルカリ液100gを入れ、約60℃に加温してから37%のホルムアルデヒド水溶液4.43gを加え、コンデンサー、攪拌用窒素ガス吹き込み管、及び温度計を共栓に取り付け、オイルバスで、液温度85℃で8時間、レゾール型のホルムアルデヒド付加・重縮合反応を進行させた(レゾール型2次反応)。なお、ここで用いたホルムアルデヒド量は、PSM−6358のフェノール環(分子量106)に対する割合として28モル%(PSM−6358:20.5g、20.5÷106=0.193モル、ホルムアルデヒド4.43×0.37=1.64g、1.64÷30=0.055モル、従って、0.055÷0.193=0.28)に相当する。その後、これを冷却し、イオン交換水(濃度調整用イオン交換水)4.46gを加えて、フェノール類2核体を含む低分子量成分含有率を低減し、重量平均分子量を増加させた高融点の2次反応フェノール樹脂アルカリ溶液(以下「本発明合成品A」と称す。)を得た。
【0095】
<実施例I−2>
実施例I−1において、PSM−6358のかわりにPSM−4324を用いたこと以外は同様にして、2次反応フェノール樹脂アルカリ溶液(以下「本発明合成品B」と称す。)を得た。
【0096】
<実施例I−3>
実施例I−1において、レゾール型2次反応で添加する37%ホルムアルデヒド水溶液の添加量を3.9gとし、レゾール型2次反応完了後の濃度調整イオン交換水の添加量を4.59gとしたこと以外は同様にして2次反応フェノール樹脂アルカリ溶液(以下「本発明合成品C」と称す。)を得た。
【0097】
<実施例I−4>
実施例I−1において、レゾール型2次反応で添加する37%ホルムアルデヒド水溶液の添加量を3.2gとし、レゾール型2次反応完了後の濃度調整イオン交換水の添加量を4.76gとしたこと以外は同様にして2次反応フェノール樹脂アルカリ溶液(以下「本発明合成品D」と称す。)を得た。
【0098】
<実施例I−5>
実施例I−1において、レゾール型2次反応で添加する37%ホルムアルデヒド水溶液の添加量を5.0gとし、レゾール型2次反応完了後の濃度調整イオン交換水の添加量を4.33gとしたこと以外は同様にして2次反応フェノール樹脂アルカリ溶液(以下「本発明合成品E」と称す。)を得た。
【0099】
<比較例I−1>
実施例I−1において、レゾール型2次反応で添加する37%ホルムアルデヒド水溶液の添加量を2.5gとし、レゾール型2次反応完了後の濃度調整イオン交換水の添加量を4.92gとしたこと以外は同様にして2次反応フェノール樹脂アルカリ溶液(以下「比較合成品F」と称す。)を得た。
【0100】
<比較例I−2>
実施例I−1において、レゾール型2次反応で添加する37%ホルムアルデヒド水溶液の添加量を5.6gとし、レゾール型2次反応完了後の濃度調整イオン交換水の添加量を4.19gとしたこと以外は同様にして2次反応フェノール樹脂アルカリ溶液(以下「比較合成品G」と称す。)を得た。
【0101】
<比較例I−3>
実施例I−1において、樹脂原料PSM−6358のアルカリ溶液100gに、イオン交換水5.52gを加えて混合したものを比較調整品Hとした。
【0102】
<比較例I−4>
実施例I−2において、樹脂原料PSM−4324のアルカリ溶液100gに、イオン交換水5.52gを加えて混合したものを比較調整品Iとした。
【0103】
上記の本発明合成品A〜E、比較合成品F,G及び比較調整品H,Iアルカリ溶液中の樹脂濃度は、レゾール型2次反応で添加したホルムアルデヒドが樹脂化した分を含め、いずれも19.43%である。
【0104】
[融点、分子量及び低分子量成分含有率の測定]
本発明合成品A〜E、比較合成品F,G及び比較調整品H,Iについて、前述の方法でそれぞれ分子量分画を行い、フェノール(モノマー)、フェノール類2核体、及び低分子量成分含有量の検定を行い、結果を表2に示した。
また、前述の方法で融点を測定し、結果を表2に示した。
なお、フェノール(モノマー)については、JIS K−6910−7.22により別途分析した。
【0105】
[加温下保管安定性の評価]
本発明合成品A〜E、比較合成品F,G及び比較調整品H,Iのフェノール樹脂アルカリ溶液50mLを50mLのポリエチレン容器に密封し、60℃で1ヶ月又は3ヶ月保管した後の流動性等の変化を目視観察することにより、加温下保管安定性を調べ、結果を表2に示した。
なお、この加温下保管安定性の評価基準は以下の通りである。
○:保管前と流動性に変化はなく、良好
△:容器を横にしたとき、液面がゆっくり移動する状態
×:容器を逆さにしても液がたれてこない状態
【0106】
なお、表2に、各例におけるレゾール型2次反応に供したノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液の含有フェノール環1モル当たりのホルムアルデヒドモル量を併記する。
【0107】
【表2】

【0108】
表2より次のことが明らかである。
本発明合成品A、C〜E及び本発明合成品Bは、それぞれ、低分子量成分含有率が比較調整品H,Iから大きく減少し、融点及び重量平均分子量も大きくなり、水処理凝集剤として適性ある物性が得られた。
なお、融点が125℃と低い比較合成品Fは後掲の表3に示されるように水処理凝集剤としての性能が低い。また、融点が233℃と高い比較合成品Gは、60℃で1ヶ月保管したところ、流動性がなくなり、固形物を形成し、凝集剤としては使用不可能であった。
【0109】
[水処理凝集剤としての性能評価]
本発明合成品A〜Eと比較合成品F及び比較調整品H,I用いて、水処理凝集剤としての評価を行った。
【0110】
{非イオン系界面活性剤合成排水の凝集処理}
水処理用凝集には、無機凝集剤の適用が不可欠である。無機凝集剤はポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄等がその代表的なものである。その作用は、被処理水(以下「原水」と記す)中の、一般的に負に帯電し、静電反発で分散・安定している濁質を荷電中和して凝結・凝集させるものである。
この無機凝集剤で、凝集除去が困難な代表的物質として、非イオン系界面活性剤がある。本物質は、荷電を持たないため、無機凝集剤と静電相互作用がなく、無機凝集剤では凝結・凝集ができない。
【0111】
そこで、非イオン界面活性剤として、親水度の高いHLB15のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(ミヨシ1230)を用い、これを栃木県野木町水道水中に20mg/L濃度で溶解した非イオン系界面活性剤合成排水を原水とする凝集処理性能評価を以下の方法で行い、結果を表3に示した。
【0112】
この合成排水のTOCは16.5mg/L(野木町水道水分0.5mg/Lを差し引いて界面活性剤分は16.0mg/L)、CODMnは12.2mg/L(同0.4mg/Lを差し引いて界面活性剤分は11.8mg/L)であった。
【0113】
<実施例II−1〜4>
合成排水を500mLビーカーに採取し、ジャーテスターにセットし、本発明合成品Aを樹脂成分として各9.7、19.4、29.1、38.9mg/L添加して150rpmで2分間急速攪拌し、次いでPAC100mg/Lを添加して150rpmで2分間急速攪拌した後、50rpmで5分間緩速攪拌を行った。その後、30分静置後に上澄み水を純水で、濾紙に含まれる溶解性TOCを洗い流したNo.5A濾紙で濾過し、処理水を得た。
【0114】
処理水のTOCは本発明合成品A(融点183℃)の添加量を増加するにしたがって低下し、添加量29.1mg/Lで、合成排水の16.0mg/Lから最低値の3.6mg/Lになった。
処理水CODMnもTOCと同様に本発明合成品Aの29.1mg/Lの添加で、最低値の3.4mg/Lとなった。本発明合成品Aが38.9mg/L添加で、処理水のTOC、CODMnが上昇に転ずるのは、界面活性剤の除去はほぼ完了している一方、少量ではあるが、処理水中の低分子量のフェノール樹脂分が本発明合成品Aの添加量増加に伴い、少しずつ増えるためであると考えられる。
【0115】
<実施例II−5〜8>
実施例II−1〜4における本発明合成品Aの最適添加量29.1mg/Lで、本発明合成品B(融点153℃)、本発明合成品C(融点151℃)、本発明合成品D(融点132℃)、本発明合成品E(融点213℃)について、それぞれ同様に試験した。いずれの本発明合成品も、処理水のTOCは7.4mg/L以下で、原水のTOC16.0mg/Lに対し50%以上の低減が得られた。
また、処理水CODMnは6.9mg/L以下で、原水CODMn11.8mg/Lに対し40%以上の低減が得られた。
【0116】
<比較例II−1>
比較合成品F(融点125℃)を用いて、実施例II−5と同様に試験を行ったが、処理水のTOC、CODMnは原水に対して低下するものの、実施例II−1〜8に対して明らかに劣るものであった。
【0117】
<比較例II−2,3>
比較調整品H(融点71℃)及び比較調整品I(融点67℃)を用いて実施例II−5と同様に試験を行ったが、原水より、処理水TOC、CODMnが増加した。
【0118】
<比較例II−4>
実施例II−1において、本発明合成品Aを用いず、PAC100mg/Lのみで同様に試験を行った結果、処理水TOC、CODMnは原水とほとんど変わらず、界面活性剤は除去できなかった。
【0119】
【表3】

【0120】
{中性多糖類合成排水の凝集処理}
RO膜等の膜分離処理では、藻類や活性汚泥微生物を含む微生物が代謝生産する多糖類が膜汚染物となっており、また、多糖類の内でもアニオン性を有しないか、又は極少ないアニオン性しか有さない中性多糖類が、無機凝集剤で処理できないため、特にその凝集処理による効率的な除去法の開発が重要とされる。
そこで、中性多糖類の一種である、プルランを水道水に添加した水を原水とする凝集処理性能の評価を行い、結果を表4に示した。
プルランは東京化成製の試薬を使用し、これを野木町水道水に5mg/Lの濃度に溶解させて合成排水とした。野木町水道水のNo.5A濾紙濾過水のTOCは0.45mg/L、膜濾過性指標MFFは1.042であった。
これにプルラン5mg/Lを溶解させた合成排水のTOCは野木町水道水のTOC0.45mg/Lを差し引いた値で2.25mg/L、膜濾過性指標MFFは1.124に悪化した。
【0121】
評価は、凝集処理濾過水のTOC、及び膜濾過性指標であるMFF測定によって行った。
その手順は以下の通りである。
【0122】
(1) 原水を、水温22±2℃に調整し、その1100Lをビーカーに採り、宮本製作所製MJS−6でジャーテストを行った。
反応条件は、各フェノール樹脂アルカリ溶液を所定量添加し150rpmで3分間反応後、PAC100mg/Lを添加し、150rpmで10分、続けて50rpmで7分撹拌して反応させる条件とした(ただし、比較例III−4ではPACのみ添加)。
(2) 凝集処理水を約30分沈殿後、純水で、濾紙に含まれる溶解性TOCを洗い流したNo.5A濾紙で、凝集フロックを含む全量を濾過した。
(3) 得られた濾過水1000mLを500mLずつ2本のシリンダーに採取した。
(4) 濾過水500mLを、ミリポア社製 孔径0.45μm、47φのニトロセルロース製メンブレンフィルターを用い、66kPa(500mmHg)の減圧下で濾過し、濾過時間T1を計測した。続いてもう1本の500mLを同様に減圧濾過し、濾過時間T2を測定した。水温は測定時22±2℃になるよう、実験室温度を調整するとともに、測定時水温を記録した。
(5) MFFはT2/T1の比で算出され、汚濁物質の全く存在しない純水ではT1=T2で、MFFは1.00となる。RO膜供給水の好適なMFFは1.10未満、さらに満足すべき水準としては1.05未満である。
(6) 残余の濾過水につき、フェノール樹脂の吸収ピーク波長280nmの紫外吸光度を50mmセルで測定した。また、TOC(全有機炭素)を測定した。
(7) プルランには波長280nmの紫外吸光がないため、波長280nm紫外吸光度の、比較例III−4のPAC100mg/Lのみの処理における波長280nm紫外吸光度との差(Δ280nm)が、フェノール樹脂残留成分とみなせる。そこで、フェノール樹脂の濃度〜吸光度検量線(フェノール樹脂濃度=Δ280/0.093)より残留濃度を求めた。
【0123】
<実施例III−1〜3>
本発明合成品A(融点183℃)を樹脂成分として、1.6mg/L、3.1mg/L、4.7mg/Lの添加量で添加したことで、プルランの除去が進行し、除去率は、添加量に応じて30、45、60%が得られた。
膜濾過性指標のMFFは、プルラン除去率30%で水道水以下の1.033と良好な結果を示した。これは、多糖類の膜濾過阻害作用がその分子量が大きいほど大きく、分子量1000以下と推察される小さいものは膜濾過阻害作用があまりないと想定される一方で、レゾール型2次反応を経たフェノール樹脂でのプルランの凝集除去は、プルラン分子量が大きい程、優先して行われるためと考えられる。
【0124】
<実施例III−4〜7>
本発明合成品AでMFF1.024と非常に良好な膜濾過性と、プルラン除去率45%が得られた、添加量3.1mg/Lの条件で、本発明合成品B(融点153℃)、本発明合成品C(融点151℃)、本発明合成品D(融点132℃)、及び本発明合成品E(融点213℃)の評価を行った。いずれの合成品も、処理水のMFFが1.020〜1.033、プルラン除去率39〜47%と良好な結果が得られた。
【0125】
<比較例III−1>
レゾール型2次反応を施したが、融点が125℃と130℃以下の比較合成品Fでは、添加量3.1mg/Lで、野木町水道水並みのMFF1.041を得たが、プルラン除去率は26%と、いずれの実施例よりも劣った。
【0126】
<比較例III−2,3>
レゾール型2次反応を行わない、融点71℃の比較調整品H、及び融点67℃の比較調整品Iは、比較例III−4のPAC100mg/Lのみ添加の場合より、MFFの改善が見られたが、もとの水道水のMFF水準には達しなかった。
また、低分子量成分が多く残留するため、TOCは合成原水より増加し、排水浄化のための凝集剤としても不適当であった。
【0127】
<比較例III−4>
無機凝集剤PAC100mg/Lのみの処理では、原水よりMFFが改善するものの、プルランを含まないもとの水道水のMFF1.041に遠く及ばない1.162であった。またプルラン除去率は4%と僅かであった。
【0128】
【表4】

【0129】
{生物処理水の凝集処理及びRO膜分離処理}
〔凝集処理〕
液晶製造工程排水を脱窒素までを含む生物処理を行った処理水を、さらにポリ硫酸鉄による凝集処理を行い、次いでRO膜分離処理を行って排水回収を行っているF工場の生物処理水を原水として用い、無機凝集剤としてPACの代りにポリ硫酸第二鉄400mg/Lを用いた他は、前述の中性多糖類合成排水の凝集処理におけると同様に、ジャーテスト、No.5A濾紙濾過、MFF測定、280nm紫外吸光度測定を行った。
フェノール樹脂残留濃度は前述の中性多糖類合成排水の凝集処理におけると同様の方法で計算したが、本原水では、原水に存在する波長280nmに吸光のある成分の一部がフェノール樹脂で凝集・除去されている可能性があるので参考値とした。
【0130】
本発明合成品A、本発明合成品Cと比較合成品F、比較調整品Hについて、フェノール樹脂添加量を0.97mg/L、1.36mg/L、1.94mg/Lと変化させた時の結果と、ポリ硫酸第二鉄のみの場合の結果を表5に示す。
【0131】
<実施例IV−1〜6>
本発明合成品A(融点183℃)、本発明合成品C(融点151℃)とも、フェノール樹脂1.36mg/Lの添加で、処理水MFFは1.1未満の良好水準が得られ、残留樹脂による280nm紫外吸光度の増加も非常に少なかった。
【0132】
<比較例IV−1〜6>
比較合成品F(融点125℃)はレゾール型2次反応を行っているが、融点が低く、低分子量成分の低減が不十分と推定され、フェノール樹脂残留濃度が実施例IV−1〜6より高くなる。また、高分子量化が不十分と推定され1.36mg/Lの添加では、処理水はMFFの良好水準1.1未満を達成できない。
比較調整品H(融点71℃)は、比較合成品Fよりも更に劣る結果である。
【0133】
<比較例IV−7>
ポリ硫酸第二鉄400mg/Lのみの処理では、膜濾過性指標MFFは1.354と不良であった。
【0134】
【表5】

【0135】
〔RO膜分離処理〕
いずれもMFF良好水準のMFF1.1未満を得た、実施例IV−2(本発明合成品A:1.36mg/L)、同IV−5(本発明合成品C:1.36mg/L)、比較例IV−3(比較合成品F:1.94mg/L)、同IV−6(比較調整品H:1.94mg/L)、及びMFF1.354のポリ硫酸第二鉄のみの比較例IV−7について、それぞれ同様のジャーテストと濾過を繰り返し行って、凝集処理水約20Lを作成し、平膜試験を行い、結果を表6〜10に示した。
【0136】
平膜試験は、実際のRO膜片を使用して、凝集処理水(供給水)を加圧下に透過させ、透過水量を測定し、単位膜面積当たりの透過流束(m/m・hr)の時間に対する低下度合いを検定するものであり、この結果で、凝集処理水をRO膜モジュールに実際に通水する場合の膜の詰まり具合、言い換えれば連続通水可能な時間を評価することができる。
【0137】
試験装置としては、図1に示すものを用いた。凝集処理水(RO膜供給水)は、配管11より高圧ポンプ4で、密閉容器1のRO膜をセットした平膜セル2の下側の原水室1Aに0.7mL/minで定量供給した。原水室1A内はスターラー3で攪拌子5を回転させて攪拌した。密閉容器内圧力は、濃縮水取出配管13に設けた圧力計6と圧力調整バルブ7により0.75MPaに調整し、この条件下で透過水量を計測した。
RO膜としては日東電工(株)製ポリアミド膜製品名ES−20を使用した。平膜セル面の濾過面積は8.04cmである。
この試験は室温25℃から大きく外れない条件で行い、透過水の水温tを実測し、水温25℃に換算して下記式により透過流束を算出した。
【0138】
透過流束=透過水量×温度補正係数(1.024(25−t))÷平膜面積(単位 m/m・hr)
【0139】
また、透過流束の時間に対する低下傾向指標としてflux decline slope(以下「m値」と称する)を計算して、評価した。
m値の計算式と評価は以下の通りである。
m値=(log初期透過流束−log経過時間Tにおける透過流束)÷(log初期時間(通常1hr)−log経過時間T)
【0140】
m値はマイナス値を取り、m値と、透過流束が初期の80%まで低下する(20%低下する)時間の関係は以下のようになる。
m=−0.02 :低下時間計算値70000時間(8ヶ年)
m=−0.025:低下時間計算値7500時間(10ヶ月)
m=−0.03 :低下時間計算値1700時間(2.3ヶ月)
m=−0.035:低下時間計算値587時間(0.8ヶ月)
m=−0.04 :低下時間計算値265時間(11日)
【0141】
一般に、原水が工業用水で、これを十分に凝集処理、重力濾過処理した場合、m値は−0.02程度となる。原水が一度使用した排水で、これを凝集処理、重力濾過した場合のm値の目安としては−0.04以上(絶対値は0.04以下)となる。
【0142】
RO膜通水時、時間の経過ともに透過流束は低下してゆく。この低下に応じて、給水圧力を上げて、初期透過流束を確保するが、通常、80%程度まで低下すると、通水停止して、膜洗浄を実施する。これを繰り返してゆくと、洗浄による透過流束回復度は悪くなり、その場合、膜交換を行う。
前記m値からの透過流束低下時間計算値は、膜供給水から持ち込まれる微粒子や溶解性有機物による透過流束低下度合いを示すもので、実際には供給水の濃縮による無機塩類等のスケール付着、微生物繁殖によるその代謝生成物付着などの後天的透過流束低下要因が加わる。
従って、m値が−0.02で、低下時間計算値が8ヶ年でも、上記汚染要素や、膜の物理的強度寿命もあり、実際には8ヶ年連続通水が可能とはならない。
【0143】
<実施例V−1>
実施例IV−2の本発明合成品A(融点183℃)を用いた凝集処理水をRO膜供給水とした場合、m値は−0.0282で透過流束20%低下までの計算通水日数は113日で良好な結果であった。
【0144】
【表6】

【0145】
<実施例V−2>
実施例IV−5の本発明合成品C(融点151℃)を用いた凝集処理水をRO膜供給水とした場合、m値は−0.0294で透過流束20%低下までの計算通水日数は83日で良好な結果であった。
【0146】
【表7】

【0147】
<比較例V−1>
比較例IV−3の、レゾール型2次反応を施したが低融点の比較合成品F(融点125℃)を用いた凝集処理水をRO膜供給水とした場合、m値は−0.0351で透過流束20%低下までの計算通水日数は24日で、実施例とは明らかな差があった。
【0148】
【表8】

【0149】
<比較例V−2>
比較例IV−6のレゾール型2次反応を行わない比較調整品H(融点71℃)を用いた凝集処理水をRO膜供給水とした場合、m値は−0.0375で透過流束20%低下までの計算通水日数は16日で、比較例V−3のポリ硫酸第二鉄のみの場合よりは良いが、実施例とは明らかな差があった。
【0150】
【表9】

【0151】
<比較例V−3>
ポリ硫酸第二鉄のみで、フェノール樹脂アルカリ溶液を添加しなかった比較例IV−7の凝集処理水をRO膜供給水とした場合、m値は−0.0451で透過流束20%低下までの計算通水日数は6日と、膜汚染度が大きかった。
【0152】
【表10】

【0153】
{工業用水の凝集処理及びRO膜分離処理}
〔凝集処理〕
<実施例VI−1,2、比較例VI−1〜5>
茨城県鹿島地区工業用水で、本発明合成品A(融点183℃)、又はその原料である比較調整品H(融点71℃)とPAC、或いはPACのみによる凝集処理を行い、膜透過性指標MFFと処理水TOC、紫外線吸光度の評価を行い、結果を表11に示した。
上記工業用水の取水源は、閉鎖性水域の北浦で、汚濁度は大きい部類である。
凝集試験、MFF、紫外線吸光度の評価方法は、ポリ硫酸第二鉄400mg/Lの替わりに、PAC100mg/Lを無機凝集剤として用いた他は、上記の生物処理水の凝集処理におけると同様である。
【0154】
【表11】

【0155】
表11より次のことが分かる。
PAC100mg/Lのみを用いた比較例VI−3では、MFF1.141で、RO供給水として不十分な値であったが、本発明合成品Aを併用した実施例VI−1,2では、いずれもMFF1.10未満を得た。MFFは合成品Aの添加量の0.50mg/L→0.97mg/Lの増加に応じて、1.072→1.042と良くなった。
【0156】
一方、本発明合成品Aの原料である比較調整品Hを併用した場合、添加量0.50mg/Lでは、MFFが1.108でRO膜の供給水として不適当である。添加量0.97mg/Lの比較例V−2では、MFF1.071となる。しかしながら、280nmの紫外線吸光度はPACのみの処理の比較例VI−3での、吸光度0.102に対して、0.125と上昇し、TOCにも上昇が見られ、ノボラック型フェノール樹脂のフェノール類2核体を含む低分子量成分の残留が0.23mg/Lと想定された。
また、PACのみでは、添加量を増量しても140mg/Lで、MFF1.102が限界であった。
【0157】
〔RO膜分離処理〕
<実施例VII−1、比較例VII−1,2>
実施例VI−1、比較例VI−2,4の凝集処理水を用いて、前記の生物処理水の凝集処理水のRO膜分離処理におけると同様にRO膜を用いた平膜試験を行い、結果を表12〜14に示した。
【0158】
【表12】

【0159】
【表13】

【0160】
【表14】

【0161】
表12〜14から次のことが分かる。
本発明合成品Aの0.50mg/LとPAC100mg/Lの併用処理を行った実施例VI−1の凝集処理水の平膜試験を行った実施例VII−1では、10日間連続通水での透過流束低下率は10.4%、m値は−0.0200であった。m値から計算される透過流束低下率20%までの計算日数は2920日であった。
【0162】
比較調整品Hの0.97mg/LとPAC100mg/Lの併用処理を行った比較例VI−2の凝集処理水の平膜試験を行った比較例VII−1では、10日間連続通水での透過流束低下率は14.6%、m値は−0.0288であった。m値から計算される透過流束低下率20%までの計算日数は96日であった。
比較例VI−2の凝集処理水は、膜透過性指標が1.071と良好であるにも関わらず、膜透過性指標が1.102のPAC140mg/L単独処理の比較例VI−3の凝集処理水と同程度の平膜評価結果しか得られなかったのは、フェノール類2核体を含む低分子量成分が処理水中に残留したためと判断される。
【0163】
PAC140mg/Lのみで凝集処理を行った比較例VI−4の凝集処理水の平膜試験を行った比較例VII−2では、10日間連続通水での透過流束低下率は14.5%、m値は−0.0273であった。m値から計算される透過流束低下率20%までの計算日数は102日であった。
【符号の説明】
【0164】
1 容器
1A 原水室
1B 透過水室
2 平膜セル
3 スターラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に凝集剤を添加する凝集処理工程と、該凝集処理工程の凝集処理水を膜分離処理する膜分離処理工程とを有する水処理方法において、
該凝集剤は、融点130〜220℃のフェノール樹脂のアルカリ溶液よりなることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
被処理水に凝集剤を添加する凝集処理工程と、該凝集処理工程の凝集処理水を膜分離処理する膜分離処理工程とを有する水処理方法において、
該凝集剤は、フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得られたノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に、アルデヒド類を添加してアルカリ触媒の存在下にレゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂のアルカリ溶液であることを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
請求項2において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の融点が130〜220℃であることを特徴とする水処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記膜分離処理工程は逆浸透膜分離処理工程であることを特徴とする水処理方法。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、前記フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得られたノボラック型フェノール樹脂が、フェノール類2核体を3重量%以上含み、重量平均分子量2000以上のフェノール樹脂であって、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂が、フェノール類2核体含有率3重量%未満であることを特徴とする水処理方法。
【請求項6】
請求項5において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の、分子量624以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下であることを特徴とする水処理方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の、分子量624を超え1200以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下であることを特徴とする水処理方法。
【請求項8】
請求項1又は請求項3ないし7のいずれか1項において、前記融点130〜220℃のフェノール樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量が5000〜50000であることを特徴とする水処理方法。
【請求項9】
請求項8において、前記融点130〜220℃のフェノール樹脂の分子量1000以下の低分子量成分の含有率が15重量%以下であることを特徴とする水処理方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、前記凝集処理工程は、被処理水に前記凝集剤を添加した後、無機凝集剤を添加する工程であることを特徴とする水処理方法。
【請求項11】
融点130〜220℃のフェノール樹脂のアルカリ溶液よりなることを特徴とする水処理凝集剤。
【請求項12】
フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得られたノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に、アルデヒド類を添加してアルカリ触媒の存在下にレゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂のアルカリ溶液よりなることを特徴とする水処理凝集剤。
【請求項13】
請求項12において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の融点が130〜220℃であることを特徴とする水処理凝集剤。
【請求項14】
請求項12又は13において、前記フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得られたノボラック型フェノール樹脂が、フェノール類2核体を3重量%以上含み、重量平均分子量2000以上のフェノール樹脂であって、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂が、フェノール類2核体含有率3重量%未満であることを特徴とする水処理凝集剤。
【請求項15】
請求項14において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の、分子量624以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下であることを特徴とする水処理凝集剤。
【請求項16】
請求項14又は15において、前記レゾール型の2次反応を行って得られるフェノール樹脂の、分子量624を超え1200以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下であることを特徴とする水処理凝集剤。
【請求項17】
請求項11又は請求項13ないし16のいずれか1項において、前記融点130〜220℃のフェノール樹脂の重量平均分子量が5000〜50000であることを特徴とする水処理凝集剤。
【請求項18】
請求項17において、前記融点130〜220℃のフェノール樹脂の分子量1000以下の低分子量成分の含有率が15重量%以下であることを特徴とする水処理凝集剤。
【請求項19】
フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させてノボラック型フェノール樹脂を得、該ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に、アルデヒド類を添加してアルカリ触媒の存在下にレゾール型の2次反応を行う工程を有する水処理凝集剤の製造方法。
【請求項20】
請求項19において、前記フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得、フェノール類2核体含有量率3重量%以上で重量平均分子量2000以上のノボラック型フェノール樹脂を得、前記レゾール型の2次反応を行って、フェノール類2核体含有率3重量%未満のフェノール樹脂を得ることを特徴とする水処理凝集剤の製造方法。
【請求項21】
請求項20において、前記レゾール型の2次反応を行って、分子量624以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下のフェノール樹脂を得ることを特徴とする水処理凝集剤の製造方法。
【請求項22】
請求項20又は21において、前記レゾール型の2次反応を行って、分子量624を超え1200以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下のフェノール樹脂を得ることを特徴とする水処理凝集剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−56496(P2011−56496A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81078(P2010−81078)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】