水処理方法及び水処理装置
【課題】低コストで薬剤を使用することなく電子供与性物質を含む被処理水から電子供与性物質を除去、回収する水処理方法、及び水処理装置を提供する。
【解決手段】電子供与性物質を含有する被処理水と光触媒とを接触させ、該被処理水に含まれる該電子供与性物質を該光触媒に吸着させる吸着工程と、該電子供与性物質を回収する水の存在下で、該電子供与性物質を吸着した該光触媒に光を照射し、該光触媒から該電子供与性物質を脱着させる脱着工程と、を有する。
【解決手段】電子供与性物質を含有する被処理水と光触媒とを接触させ、該被処理水に含まれる該電子供与性物質を該光触媒に吸着させる吸着工程と、該電子供与性物質を回収する水の存在下で、該電子供与性物質を吸着した該光触媒に光を照射し、該光触媒から該電子供与性物質を脱着させる脱着工程と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水を始め被処理水中の汚濁物質を除去、又は汚濁物質を回収可能な水処理方法、水処理装置に関し、特に光触媒を用いた水処理方法、水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生活排水、産業排水に含まれる汚濁物質をそのまま河川等に放流すると、環境に悪影響を与えるため、排水処理設備を用いて汚濁物質を除去していることは周知のところである。汚濁物質のうち、窒素、リンは、冨栄養化物質であり、これらが湖沼、内海に流入すると、プランクトンが異常繁殖し種々の弊害をもたらす富栄養化を引き起こす。
【0003】
排水に含まれる汚濁物質を除去する方法としては、活性炭吸着に代表される物理的処理法、凝集沈澱に代表される化学的処理法、活性汚泥に代表される生物的処置法などがあり、これら処理法が、排水に含まれる汚濁物質の種類、濃度、排水の処理量などに応じて適宜選択、又は組み合わされ使用されている。リンの除去には、従来から凝集沈殿法が用いられてきた。凝集沈殿法は、排水中に凝集剤であるPAC(ポリ塩化アルミニウム)、高分子凝集剤など投入し、フロックを形成させ、これを沈殿又は浮上分離させ除去する方法である。凝集沈殿法は、薬品の使用量が多く、また汚泥の発生量も多いことから、凝集沈殿法に代わり生物的処理法である嫌気好気法も使用されている。嫌気好気法は、流入する排水の性状により脱リン性能が大きく変化し、運転、管理が容易ではないという問題が指摘されている。
【0004】
この他、近年では排水処理に光触媒も多く使用されている。光触媒を利用した排水処理は主に、光触媒に紫外線を照射した際の光触媒作用を利用して、排水に含まれる被処理成分を酸化することで行われる。排水中のリンの除去にも、光触媒が用いられているが、従来の光触媒を用いてリンを除去する方法は、必ずしも性能に優れたものではないとの指摘もあり、リン除去にすぐれた光触媒体が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
この光触媒体は、無機多孔質体の表面及び細孔内にリン吸着能を有する光触媒を担持したものである。この際、孔径、気孔率を所定の値とすることで、従来の水浄化用光触媒体と比較して、より多くの光触媒を細孔内部に担持させることが可能となり、さらに被処理水の孔内への進入が容易となる。これによりリン成分を効率的に除去できるとする。さらに光触媒体に吸着されたリン成分は、光触媒体を水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液に浸すことで除去できるとする。このほかリン除去には、吸着剤を用いる方法もある。
【特許文献1】特開2003−103180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、リン吸収能を有する光触媒を無機多孔質体に担持させる際の孔径、気孔率を所定の値とすることで、従来の水浄化用光触媒体と比較して、リン成分を効率的に除去できるとする。しかしながら光触媒体に吸着したリン成分を回収するためには、アルカリ溶液に光触媒体を浸漬させる必要があり、再生に薬剤を必要とするため、リン除去のコストが上昇する。また光触媒体に吸着したリン成分の除去操作も容易ではなく、リン成分を含むアルカリ溶液の処理も必要となる。
【0007】
また吸着剤を用いたリンの除去も、リンの回収が不能、又は回収が容易でないなどの問題がある。リンは有限でかつ貴重な資源であるので回収して再利用することが望ましい。以上、排水処理を中心に説明したけれども、これらは回収、除去する対象物質が異なるものの、飲料水、ボイラ給水、半導体製造用の超純水の製造などにも当てはまる問題である。
【0008】
本発明の目的は、低コストで薬剤を使用することなく電子供与性物質を含む被処理水から電子供与性物質を除去、回収する水処理方法、及び水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電子供与性物質を含有する被処理水と光触媒とを接触させ、該被処理水に含まれる該電子供与性物質を該光触媒に吸着させる吸着工程と、
該電子供与性物質を回収する水の存在下で、該電子供与性物質を吸着した該光触媒に光を照射し、該光触媒から該電子供与性物質を脱着させる脱着工程と、
を有することを特徴とする水処理方法である。
【0010】
また本発明で、前記光触媒は、光触媒活性を有する光触媒であることを特徴とする請求項1に記載の水処理方法である。
【0011】
また本発明で、前記吸着工程と、前記脱着工程とを交互に繰り返し行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法である。
【0012】
また本発明で、前記電子供与性物質は、リン酸態リンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の水処理方法である。
【0013】
また本発明で、前記光触媒は、酸化チタンであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の水処理方法である。
【0014】
また本発明は、光触媒を担持した光触媒担体を充填し、被処理水を処理する処理塔と、
該処理塔へ電子供与性物質を含有する該被処理水を供給する被処理水供給手段と、
該処理塔へ該電子供与性物質を回収する水を供給する給水手段と、
該処理塔へ供給する該被処理水及び該電子供与性物質を回収する水を切替る切替手段と、
該光触媒担体に光を照射する光照射手段と、
を含むことを特徴とする水処理装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水処理方法を用いることにより、薬剤を使用することなく、また簡単に被処理水から電子供与性物質を除去、又は回収することができる。特に薬剤を用いることなく、光触媒に吸着した電子供与性物質を脱着させることができるため、電子供与性物質を回収し容易に有効利用することができる。また、本水処理方法は、光触媒を用いて被処理水中の電子供与性物質を吸着させる吸着工程と、電子供与性物質を吸着した光触媒から電子供与性物質を脱着させる脱着工程と、繰り返し行うことができるので、安価に水処理を行うことができる。また水処理方法が簡便であるので、これを実現する水処理装置も構成が簡単で、取扱が容易な装置を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の水処理方法は、光触媒活性を有する光触媒と、電子供与性物質を含有する被処理水とを接触させ、被処理水に含まれる電子供与性物質を光触媒に吸着させる吸着工程と、電子供与性物質を回収する水の存在下で、電子供与性物質を吸着した光触媒に光を照射し、光触媒から電子供与性物質を脱着させる脱着工程と、を有することを特徴とする水処理方法である。
【0017】
発明者は、酸化チタンや酸化鉄などの金属酸化物とフェノールやビスフェノールなどの電子供与性物質を粉砕混合すると、それらを脱離させるのに300℃以上の高温度を必要とするほどの強い相互作用をすることを見出し、酸化チタン等の金属酸化物表面の酸素欠陥サイトを吸着サイトとして利用する技術を、特許出願(特願2001−072578、特願2001−372616)している。本発明は前述の金属酸化物の中から光触媒性能を有するものに限定し、その半導体特性を利用することで、吸着のみならず、脱離の機構も新たに組み合わせた機能を水処理に応用したものである。
【0018】
具体的には、(1)光触媒の酸素欠陥サイトが水中でもリン酸態リン(PO4−P)のような電子供与性がある物質と強い相互作用を示すこと。(2)光触媒の酸素欠陥サイトに吸着したリン酸態リン(PO4−P)については、紫外線を照射することで水中に放出出来ることを見出し、この特性を水処理に応用することで発明を完成させた。
【0019】
酸化チタンによるリン酸など、電子供与性物質(陰イオン性物質)の吸着、脱着のメカニズムは次のように考えられる。図1は、本発明の水処理の想定されるメカニズムを説明するための図である。酸化チタン光触媒表面の酸素欠陥(正の電荷を持つ)と陰イオン性物質間には比較的強い相互作用が働くため、水中の陰イオン性物質は、酸化チタン光触媒表面の酸素欠陥(正の電荷を持つ)に吸着する。続いて光照射を行うと、誘起された電子が酸素欠陥サイトに注入されるので、正電荷が補償される。その結果、光触媒と吸着陰イオン性物質との相互作用が消失するので、吸着陰イオン性物質は脱着する。これについては、後述する実施例で示すように、水中のリン酸態リン(PO4−P)を用いた実験において、光のON/OFFで、リン酸態リン(PO4−P)は吸着−脱着を繰り返し、この吸着−脱着には再現性があることを確認している。
【0020】
本発明に使用可能な光触媒は、光触媒活性を示す光触媒であれば、種類、形態等は特に限定されない。使用可能な光触媒を例示すれば、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄である。これらは単独使用することも、2種以上を使用することもできる。光触媒活性などを考慮すれば、酸化チタンが好ましい。酸化チタンには、結晶構造を有するものと、結晶構造を有しないアモルファスの酸化チタンがあるが、アモルファスの酸化チタンは、光触媒活性が低いため、吸着能力は発揮できるが脱着能力は発揮できず、本発明の使用には適さない。しかしながら単独では使用に適さないアモルファスの酸化チタンも、光触媒活性を示す酸化チタンを混合することで脱着能力が補われ、利用することができるようになる。結晶性の酸化チタンは、アナタース型、ルチル型、ブルカット型、これらの混合型があるがいずれであってもよい。また酸化チタンは可視光応答型酸化チタンであってもよい。
【0021】
本発明の水処理法は、電子供与性物質を含む被処理水と光触媒を接触させることで、電子供与性物質を光触媒に吸着させ、電子供与性物質を回収する水の存在下で、電子供与性物質を吸着した光触媒に光を照射し、光触媒から電子供与性物質を脱着させるため、光触媒は、比表面積が大きいほど効率的である。光触媒の比表面積と電子供与性物質の吸着量、脱着量と間には、後述の実施例に示すように比例関係が成立している。よって、比表面積の大きい光触媒を選択することで、少量の光触媒で効率的に水処理を行うことができる。
【0022】
また光触媒の形態も特に限定されないため、担体に担持された光触媒、ガラスファイバ等にコートされた光触媒であってもよい。被処理液中の電子供与物質との接触が容易で、光照射を十分に受けることが望ましいため、担体としては被表面積が大きいものが望ましい。担体としては、多孔質ガラス、中空ガラス、多孔質ブロック、ゼオライト、陶磁器などが例示される。さらに担体の形状も特に限定されない。
【0023】
電子供与性物質とは、電子を与えやすい物質を言い、次ぎの置換基を有する物質が例示される。−OH、−OCH3、−OCOCH3、−NH2、−N(CH3)2、−NHCOCH3、−CH3などのアルキル基、−C6H5などのアリール基が該当する。具体的物質としては、リン酸、ホウ酸、メタノール、メチルエチルエーテル、酢酸フェニル、アンモニア、ジメチルアニリン、アセトアニリド、フェノールが例示される。
【0024】
以上のように本発明の水処理方法は、薬剤を使用することなく、また簡単に被処理水から電子供与性物質を除去、又は回収することができる。本発明は、電子供与性物質を含む水に適用することができるから、排水の処理のみならず、飲料水の製造工程、純水、超純水の製造工程にも利用することができる。また本発明の水処理方法は、薬剤を用いることなく、光触媒に吸着した電子供与性物質を脱着させることができるため、電子供与性物質を回収し容易に有効利用することができる。
【0025】
本発明の水処理方法の使用例の一例を示す。図2は、本発明の実施の一形態としての水処理装置1の概略的構成を示す図である。水処理装置1は、流通式の水処理装置であり、流動床形式の処理塔2、処理塔2へ被処理水を供給する被処理水供給系統3、処理塔2へ電子供与物質を回収する水を供給する水供給系統4、水を排出する排水系統5を主に構成されている。処理塔2は円筒形状で塔の上端、下端に各々水の導入する管路6、水を排出する管路7、処理塔2に残留する被処理水などを排出するための管路50を有する。
【0026】
処理塔2は、内部に光触媒を担持した光触媒担体8を保有し、処理塔2には、光触媒担体8が処理塔2から流出することを防止するための多孔板9、10が上部、下部に着脱可能に装着されている。また処理塔2は、光を処理塔2へ照射可能な光源11を周囲に有する。処理塔2の本体のうち受光部12は、ガラスで形成されている。光源11は、処理塔2に充填した光触媒担体(光触媒)8を活性化させるに適した波長を有する光を照射可能な光源である。
【0027】
処理塔2の大きさは、光触媒の電子供与性物質の吸着速度、又は脱着速度と、被処理水の供給速度とから処理塔2内での必要な滞留時間を算出し、これを基に決定すればよい。このとき、本実施形態のように、処理塔2を流動床として使用する場合は、処理塔2内の液流速を、光触媒担体8を流動化させるに必要な流速とする必要があることを考慮し、塔径、塔高を決定する必要がある。
【0028】
被処理水供給系統3は、電子供与性物質を含有する被処理水を処理塔2へ供給するための装置であり、被処理水を貯留する被処理水貯槽20と、被処理水貯槽20に貯留されている被処理水を処理塔2に圧送する被処理水供給ポンプ21を有する。被処理水供給ポンプ21の吐出部には管路22が連結され、この管路は三方弁23と連結する。
【0029】
水供給系統4は、電子供与性物質を回収する水を処理塔2へ供給するための装置であり、水を貯留する水貯槽30と、水貯槽30に貯留されている水を処理塔2に圧送する水供給ポンプ31を有する。水供給ポンプ31の吐出部には管路32が連結され、この管路は三方弁23と連結する。また管路32は、三方弁23と水供給ポンプ吐出部との間に分岐部33を有する。この分岐部33には、処理塔2へ洗浄用水を供給するための洗浄水供給管路34が接続されている。三方弁23は、処理塔2へ水を送る管路6、被処理水を送水する管路22、水を送水する管路32と連結する。
【0030】
排水系統5は、処理塔2から流出する処理水、及び電子供与性物質を回収した水を所定の場所に送水するための三方弁40を有する。三方弁40は、処理塔2の上部の管路7、処理水を貯槽Aへ送水するための管路41、電子供与性物質を回収した水を貯槽Bへ送水する管路42と連結する。また処理塔2の下端に処理塔2に残留する被処理水などを排出するための管路50を有する。
【0031】
上記のように構成された水処理装置1を用いた水処理は、次の要領で行うことができる。三方弁23を被処理水供給系統3側に切替え、被処理水供給ポンプ21を介して、被処理水貯槽20に貯留される被処理水を処理塔2に送水する。処理塔2に被処理水を供給すると、処理塔2内に充填された光触媒を担持した光触媒担体8は、供給される被処理水で流動化される。これにより、被処理水に含まれる電子供与性物質は、光触媒を担持した光触媒担体8と効率的に接触を行い、光触媒に吸着される。光触媒に電子供与性物質を吸着された被処理水は、処理塔2の上部に連結する管路7、三方弁40、及び管路41を通じて貯槽Aへ送られる。
【0032】
所定の時間、被処理水を処理塔2に供給した後、被処理水の供給を停止する。被処理水を供給可能な時間は、光触媒の充填量と、光触媒の吸着特性から決定することができる。被処理水の供給を停止した後、排水管路50を通じて処理塔2内に残留する被処理水を被処理水貯槽20に返送する。その後、必要に応じて、洗浄用の水を水供給ポンプ31、洗浄水供給管路34を通じて、処理塔2に送水し、光触媒担体8を洗浄する。洗浄した排水は、排水管路50を通じて、被処理水貯槽20へ送る。
【0033】
次に脱着操作を行う。三方弁23を水供給系統4に切替え、水供給ポンプ31を介して、水貯槽30に貯留される水を処理塔2に送水する。同時に光源11から処理塔2に向かって光を照射する。処理塔2に水を供給すると、処理塔2内に充填された光触媒を担持した光触媒担体8は、供給される水で流動化される。同時に光が照射されているため、光触媒に吸着した電子供与性物質は、光触媒から離脱し、水側に移行する。電子供与性物質を含む水は、処理塔2の上部に連結する管路7、三方弁40、及び管路42を通じて貯槽Bへ送られる。所定の時間、光触媒に光を照射しながら、水を処理塔2に供給した後、水の供給を停止し脱着操作を終了する。脱着に必要な時間は、光触媒の充填量と、光触媒の脱着特性から決定することができる。
【0034】
上記の操作により、被処理水に含まる電子供与性物質を被処理水から除去するとともに、電子供与性物質を回収することができる。上記操作は繰り返し行うことが可能であるので、効率的に水処理を行うことができる。また上記のように水処理装置も構成が簡単で、薬剤も必要としないことから水処理装置を安価に製造することができる。
【0035】
(実施例1)
次の要領でリン酸の吸着実験を行った。pH=7に調整したリン酸二水素カリウム(KH2PO4)(関東化学、特級)をリン酸態リン(PO4−P)(リン酸イオン:H2PO4−の形で存在)として濃度5mg/Lの溶液100mLと、酸化チタン粉末10mgとをガラス製の三角フラスコに、投入し、マグネッチクスタラを用いて、暗所で一定時間撹拌を行った。実験には、表1に示すように比表面積などの異なる3種類の酸化チタンを用いた。なお、表1中、SNH−Hycalは、当研究室で調整した触媒であり、可視光応答光触媒である。
【0036】
【表1】
吸着実験時の液温は約25℃であった。所定時間毎に一部溶液を抜き取り、この溶液を、ろ紙を用いて酸化チタンを分離した後、リン酸の濃度を測定した。リン酸の濃度測定には、検出試薬と可視紫外分光光度計(UV−1240 島津製作所製)を用い、波長709nmでの吸収強度を比較することによって行った。
【0037】
脱離実験は次ぎの要領で行った。先の吸着実験でリン酸を吸着させた酸化チタンを含む溶液をガラス製のシャーレに移した。酸化チタンはシャーレの中で沈澱している。この状態で、シャーレの上部から光を照射した。光源には、National製FL10BL−Bを使用した。この光源は、主波長365nmを中心に、325〜400nmの間の波長を有する。紫外光強度は、3mW/cm2、試料と光源との距離は、5cmとした。
【0038】
実験結果を図3から図5に示した。図3は、光触媒ST−01を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。同様に、図4は、光触媒P−25、図5は、光触媒SNH−Hycalを用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。図3から図5に示すように、リン酸溶液と酸化チタンを撹拌混合することで、溶液中のリン酸濃度が低下し、酸化チタンにリン酸が吸着されることが確認できた。3ケースとも、約1時間で吸着量は飽和状態となり、以降溶液中のリン酸濃度はほぼ一定となった。触媒の種類によって、吸着量は異なった。これについては、後述する。
【0039】
一方、脱着実験においても図3から図5に示すように、3ケースにおいて、光触媒からリン酸が脱離されることが確認できた。酸化チタンからの脱着も、酸化チタンへの吸着同様、約1時間で飽和状態となり、以降溶液中のリン酸濃度はほぼ一定となった。また3ケースとも、24時間経過後の溶液中のリン酸濃度は初期濃度よりも若干低い値であった。
【0040】
図6は、吸着実験の結果を基に、酸化チタンの比表面積とリン酸の吸着量との関係を示した図である。図6の結果から、酸化チタンへのリン酸の吸着量は、酸化チタンの比表面積と比例関係、つまり単位比表面当たりの吸着量が同一であることが分かった。これらの関係から、酸化チタンへのリンの吸着量は、酸化チタンの結晶構造、応答する光線の種類(紫外線、可視光)に依存しないことが分かった。
【0041】
図7は、脱着実験の結果を基に、酸化チタンの比表面積とリン酸の脱着量との関係を示した図である。図7の結果から、酸化チタンからのリン酸の脱着量は、酸化チタンの比表面積と比例関係にあることが分かった。またこれらの関係から、酸化チタンからのリンの脱着量は、酸化チタンの結晶構造、応答する光線の種類(紫外線、可視光)に依存しないことが分かる。
【0042】
図8は、吸着、脱着の実験の結果を基に、酸化チタンの比表面積と酸化チタンのリン酸の残存量との関係を示した図である。ここで酸化チタンのリン酸の残存量とは、酸化チタンにリン酸を吸着させた後、脱着させた際の酸化チタンに吸着されたままのリン酸の量を言う。図7の結果から、酸化チタンのリン酸の残存量は、酸化チタンの比表面積と比例関係にあることが分かった。またこれらの関係から、酸化チタンからのリンの着脱量は、酸化チタンの結晶構造、応答する光線の種類(紫外線、可視光)に依存しないことが分かる。
【0043】
(実施例2)
実施例1では、酸化チタンのリン酸の吸着、脱着実験行ったが、実施例2では、酸化チタンのリン酸の吸着、脱着の繰り返し実験を行った。実験に使用した酸化チタン、実験要領は、基本的に実施例1と同一である。繰り返し回数は2回とした。
【0044】
実験結果を図9から図11に示した。図9は、光触媒ST−01を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。同様に、図10は、光触媒P−25、図11は、光触媒SNH−Hycalを用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。図9から図11に示すように、2回の吸着、脱着の曲線は、全く同一のカーブを描き再現性(繰り返し性)が非常に高いことが確認された。またこの結果は、触媒の種類によらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上詳しく説明したとおり、本発明の水処理方法を用いて排水中のリン成分を回収することが可能であり、本発明の水処理方法を富栄養化で問題になっている排水中のリン酸態リン(PO4−P)の濃縮、分離−回収技術として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の水処理の想定されるメカニズムを説明するための図である。
【図2】本発明の実施の一形態としての水処理装置1の概略的構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1の結果であって、光触媒ST−01を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【図4】本発明の実施例1の結果であって、光触媒P−25を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【図5】本発明の実施例1の結果であって、光触媒SNH−Hycalを用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【図6】本発明の実施例1の結果であって、酸化チタンの比表面積とリン酸の吸着量との関係を示した図である。
【図7】本発明の実施例1の結果であって、酸化チタンの比表面積とリン酸の着脱量との関係を示した図である。
【図8】本発明の実施例1の結果であって、酸化チタンの比表面積と酸化チタンのリン酸の残存量との関係を示した図である。
【図9】本発明の実施例2の結果であって、光触媒ST−01を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【図10】本発明の実施例2の結果であって、光触媒P−25を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【図11】本発明の実施例2の結果であって、光触媒SNH−Hycalを用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【符号の説明】
【0047】
1 水処理装置
2 処理塔
3 被処理水供給系統
4 水供給系統
5 排水系統
8 光触媒担体
11 光源
23 三方弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水を始め被処理水中の汚濁物質を除去、又は汚濁物質を回収可能な水処理方法、水処理装置に関し、特に光触媒を用いた水処理方法、水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生活排水、産業排水に含まれる汚濁物質をそのまま河川等に放流すると、環境に悪影響を与えるため、排水処理設備を用いて汚濁物質を除去していることは周知のところである。汚濁物質のうち、窒素、リンは、冨栄養化物質であり、これらが湖沼、内海に流入すると、プランクトンが異常繁殖し種々の弊害をもたらす富栄養化を引き起こす。
【0003】
排水に含まれる汚濁物質を除去する方法としては、活性炭吸着に代表される物理的処理法、凝集沈澱に代表される化学的処理法、活性汚泥に代表される生物的処置法などがあり、これら処理法が、排水に含まれる汚濁物質の種類、濃度、排水の処理量などに応じて適宜選択、又は組み合わされ使用されている。リンの除去には、従来から凝集沈殿法が用いられてきた。凝集沈殿法は、排水中に凝集剤であるPAC(ポリ塩化アルミニウム)、高分子凝集剤など投入し、フロックを形成させ、これを沈殿又は浮上分離させ除去する方法である。凝集沈殿法は、薬品の使用量が多く、また汚泥の発生量も多いことから、凝集沈殿法に代わり生物的処理法である嫌気好気法も使用されている。嫌気好気法は、流入する排水の性状により脱リン性能が大きく変化し、運転、管理が容易ではないという問題が指摘されている。
【0004】
この他、近年では排水処理に光触媒も多く使用されている。光触媒を利用した排水処理は主に、光触媒に紫外線を照射した際の光触媒作用を利用して、排水に含まれる被処理成分を酸化することで行われる。排水中のリンの除去にも、光触媒が用いられているが、従来の光触媒を用いてリンを除去する方法は、必ずしも性能に優れたものではないとの指摘もあり、リン除去にすぐれた光触媒体が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
この光触媒体は、無機多孔質体の表面及び細孔内にリン吸着能を有する光触媒を担持したものである。この際、孔径、気孔率を所定の値とすることで、従来の水浄化用光触媒体と比較して、より多くの光触媒を細孔内部に担持させることが可能となり、さらに被処理水の孔内への進入が容易となる。これによりリン成分を効率的に除去できるとする。さらに光触媒体に吸着されたリン成分は、光触媒体を水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液に浸すことで除去できるとする。このほかリン除去には、吸着剤を用いる方法もある。
【特許文献1】特開2003−103180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、リン吸収能を有する光触媒を無機多孔質体に担持させる際の孔径、気孔率を所定の値とすることで、従来の水浄化用光触媒体と比較して、リン成分を効率的に除去できるとする。しかしながら光触媒体に吸着したリン成分を回収するためには、アルカリ溶液に光触媒体を浸漬させる必要があり、再生に薬剤を必要とするため、リン除去のコストが上昇する。また光触媒体に吸着したリン成分の除去操作も容易ではなく、リン成分を含むアルカリ溶液の処理も必要となる。
【0007】
また吸着剤を用いたリンの除去も、リンの回収が不能、又は回収が容易でないなどの問題がある。リンは有限でかつ貴重な資源であるので回収して再利用することが望ましい。以上、排水処理を中心に説明したけれども、これらは回収、除去する対象物質が異なるものの、飲料水、ボイラ給水、半導体製造用の超純水の製造などにも当てはまる問題である。
【0008】
本発明の目的は、低コストで薬剤を使用することなく電子供与性物質を含む被処理水から電子供与性物質を除去、回収する水処理方法、及び水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電子供与性物質を含有する被処理水と光触媒とを接触させ、該被処理水に含まれる該電子供与性物質を該光触媒に吸着させる吸着工程と、
該電子供与性物質を回収する水の存在下で、該電子供与性物質を吸着した該光触媒に光を照射し、該光触媒から該電子供与性物質を脱着させる脱着工程と、
を有することを特徴とする水処理方法である。
【0010】
また本発明で、前記光触媒は、光触媒活性を有する光触媒であることを特徴とする請求項1に記載の水処理方法である。
【0011】
また本発明で、前記吸着工程と、前記脱着工程とを交互に繰り返し行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法である。
【0012】
また本発明で、前記電子供与性物質は、リン酸態リンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の水処理方法である。
【0013】
また本発明で、前記光触媒は、酸化チタンであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の水処理方法である。
【0014】
また本発明は、光触媒を担持した光触媒担体を充填し、被処理水を処理する処理塔と、
該処理塔へ電子供与性物質を含有する該被処理水を供給する被処理水供給手段と、
該処理塔へ該電子供与性物質を回収する水を供給する給水手段と、
該処理塔へ供給する該被処理水及び該電子供与性物質を回収する水を切替る切替手段と、
該光触媒担体に光を照射する光照射手段と、
を含むことを特徴とする水処理装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水処理方法を用いることにより、薬剤を使用することなく、また簡単に被処理水から電子供与性物質を除去、又は回収することができる。特に薬剤を用いることなく、光触媒に吸着した電子供与性物質を脱着させることができるため、電子供与性物質を回収し容易に有効利用することができる。また、本水処理方法は、光触媒を用いて被処理水中の電子供与性物質を吸着させる吸着工程と、電子供与性物質を吸着した光触媒から電子供与性物質を脱着させる脱着工程と、繰り返し行うことができるので、安価に水処理を行うことができる。また水処理方法が簡便であるので、これを実現する水処理装置も構成が簡単で、取扱が容易な装置を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の水処理方法は、光触媒活性を有する光触媒と、電子供与性物質を含有する被処理水とを接触させ、被処理水に含まれる電子供与性物質を光触媒に吸着させる吸着工程と、電子供与性物質を回収する水の存在下で、電子供与性物質を吸着した光触媒に光を照射し、光触媒から電子供与性物質を脱着させる脱着工程と、を有することを特徴とする水処理方法である。
【0017】
発明者は、酸化チタンや酸化鉄などの金属酸化物とフェノールやビスフェノールなどの電子供与性物質を粉砕混合すると、それらを脱離させるのに300℃以上の高温度を必要とするほどの強い相互作用をすることを見出し、酸化チタン等の金属酸化物表面の酸素欠陥サイトを吸着サイトとして利用する技術を、特許出願(特願2001−072578、特願2001−372616)している。本発明は前述の金属酸化物の中から光触媒性能を有するものに限定し、その半導体特性を利用することで、吸着のみならず、脱離の機構も新たに組み合わせた機能を水処理に応用したものである。
【0018】
具体的には、(1)光触媒の酸素欠陥サイトが水中でもリン酸態リン(PO4−P)のような電子供与性がある物質と強い相互作用を示すこと。(2)光触媒の酸素欠陥サイトに吸着したリン酸態リン(PO4−P)については、紫外線を照射することで水中に放出出来ることを見出し、この特性を水処理に応用することで発明を完成させた。
【0019】
酸化チタンによるリン酸など、電子供与性物質(陰イオン性物質)の吸着、脱着のメカニズムは次のように考えられる。図1は、本発明の水処理の想定されるメカニズムを説明するための図である。酸化チタン光触媒表面の酸素欠陥(正の電荷を持つ)と陰イオン性物質間には比較的強い相互作用が働くため、水中の陰イオン性物質は、酸化チタン光触媒表面の酸素欠陥(正の電荷を持つ)に吸着する。続いて光照射を行うと、誘起された電子が酸素欠陥サイトに注入されるので、正電荷が補償される。その結果、光触媒と吸着陰イオン性物質との相互作用が消失するので、吸着陰イオン性物質は脱着する。これについては、後述する実施例で示すように、水中のリン酸態リン(PO4−P)を用いた実験において、光のON/OFFで、リン酸態リン(PO4−P)は吸着−脱着を繰り返し、この吸着−脱着には再現性があることを確認している。
【0020】
本発明に使用可能な光触媒は、光触媒活性を示す光触媒であれば、種類、形態等は特に限定されない。使用可能な光触媒を例示すれば、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄である。これらは単独使用することも、2種以上を使用することもできる。光触媒活性などを考慮すれば、酸化チタンが好ましい。酸化チタンには、結晶構造を有するものと、結晶構造を有しないアモルファスの酸化チタンがあるが、アモルファスの酸化チタンは、光触媒活性が低いため、吸着能力は発揮できるが脱着能力は発揮できず、本発明の使用には適さない。しかしながら単独では使用に適さないアモルファスの酸化チタンも、光触媒活性を示す酸化チタンを混合することで脱着能力が補われ、利用することができるようになる。結晶性の酸化チタンは、アナタース型、ルチル型、ブルカット型、これらの混合型があるがいずれであってもよい。また酸化チタンは可視光応答型酸化チタンであってもよい。
【0021】
本発明の水処理法は、電子供与性物質を含む被処理水と光触媒を接触させることで、電子供与性物質を光触媒に吸着させ、電子供与性物質を回収する水の存在下で、電子供与性物質を吸着した光触媒に光を照射し、光触媒から電子供与性物質を脱着させるため、光触媒は、比表面積が大きいほど効率的である。光触媒の比表面積と電子供与性物質の吸着量、脱着量と間には、後述の実施例に示すように比例関係が成立している。よって、比表面積の大きい光触媒を選択することで、少量の光触媒で効率的に水処理を行うことができる。
【0022】
また光触媒の形態も特に限定されないため、担体に担持された光触媒、ガラスファイバ等にコートされた光触媒であってもよい。被処理液中の電子供与物質との接触が容易で、光照射を十分に受けることが望ましいため、担体としては被表面積が大きいものが望ましい。担体としては、多孔質ガラス、中空ガラス、多孔質ブロック、ゼオライト、陶磁器などが例示される。さらに担体の形状も特に限定されない。
【0023】
電子供与性物質とは、電子を与えやすい物質を言い、次ぎの置換基を有する物質が例示される。−OH、−OCH3、−OCOCH3、−NH2、−N(CH3)2、−NHCOCH3、−CH3などのアルキル基、−C6H5などのアリール基が該当する。具体的物質としては、リン酸、ホウ酸、メタノール、メチルエチルエーテル、酢酸フェニル、アンモニア、ジメチルアニリン、アセトアニリド、フェノールが例示される。
【0024】
以上のように本発明の水処理方法は、薬剤を使用することなく、また簡単に被処理水から電子供与性物質を除去、又は回収することができる。本発明は、電子供与性物質を含む水に適用することができるから、排水の処理のみならず、飲料水の製造工程、純水、超純水の製造工程にも利用することができる。また本発明の水処理方法は、薬剤を用いることなく、光触媒に吸着した電子供与性物質を脱着させることができるため、電子供与性物質を回収し容易に有効利用することができる。
【0025】
本発明の水処理方法の使用例の一例を示す。図2は、本発明の実施の一形態としての水処理装置1の概略的構成を示す図である。水処理装置1は、流通式の水処理装置であり、流動床形式の処理塔2、処理塔2へ被処理水を供給する被処理水供給系統3、処理塔2へ電子供与物質を回収する水を供給する水供給系統4、水を排出する排水系統5を主に構成されている。処理塔2は円筒形状で塔の上端、下端に各々水の導入する管路6、水を排出する管路7、処理塔2に残留する被処理水などを排出するための管路50を有する。
【0026】
処理塔2は、内部に光触媒を担持した光触媒担体8を保有し、処理塔2には、光触媒担体8が処理塔2から流出することを防止するための多孔板9、10が上部、下部に着脱可能に装着されている。また処理塔2は、光を処理塔2へ照射可能な光源11を周囲に有する。処理塔2の本体のうち受光部12は、ガラスで形成されている。光源11は、処理塔2に充填した光触媒担体(光触媒)8を活性化させるに適した波長を有する光を照射可能な光源である。
【0027】
処理塔2の大きさは、光触媒の電子供与性物質の吸着速度、又は脱着速度と、被処理水の供給速度とから処理塔2内での必要な滞留時間を算出し、これを基に決定すればよい。このとき、本実施形態のように、処理塔2を流動床として使用する場合は、処理塔2内の液流速を、光触媒担体8を流動化させるに必要な流速とする必要があることを考慮し、塔径、塔高を決定する必要がある。
【0028】
被処理水供給系統3は、電子供与性物質を含有する被処理水を処理塔2へ供給するための装置であり、被処理水を貯留する被処理水貯槽20と、被処理水貯槽20に貯留されている被処理水を処理塔2に圧送する被処理水供給ポンプ21を有する。被処理水供給ポンプ21の吐出部には管路22が連結され、この管路は三方弁23と連結する。
【0029】
水供給系統4は、電子供与性物質を回収する水を処理塔2へ供給するための装置であり、水を貯留する水貯槽30と、水貯槽30に貯留されている水を処理塔2に圧送する水供給ポンプ31を有する。水供給ポンプ31の吐出部には管路32が連結され、この管路は三方弁23と連結する。また管路32は、三方弁23と水供給ポンプ吐出部との間に分岐部33を有する。この分岐部33には、処理塔2へ洗浄用水を供給するための洗浄水供給管路34が接続されている。三方弁23は、処理塔2へ水を送る管路6、被処理水を送水する管路22、水を送水する管路32と連結する。
【0030】
排水系統5は、処理塔2から流出する処理水、及び電子供与性物質を回収した水を所定の場所に送水するための三方弁40を有する。三方弁40は、処理塔2の上部の管路7、処理水を貯槽Aへ送水するための管路41、電子供与性物質を回収した水を貯槽Bへ送水する管路42と連結する。また処理塔2の下端に処理塔2に残留する被処理水などを排出するための管路50を有する。
【0031】
上記のように構成された水処理装置1を用いた水処理は、次の要領で行うことができる。三方弁23を被処理水供給系統3側に切替え、被処理水供給ポンプ21を介して、被処理水貯槽20に貯留される被処理水を処理塔2に送水する。処理塔2に被処理水を供給すると、処理塔2内に充填された光触媒を担持した光触媒担体8は、供給される被処理水で流動化される。これにより、被処理水に含まれる電子供与性物質は、光触媒を担持した光触媒担体8と効率的に接触を行い、光触媒に吸着される。光触媒に電子供与性物質を吸着された被処理水は、処理塔2の上部に連結する管路7、三方弁40、及び管路41を通じて貯槽Aへ送られる。
【0032】
所定の時間、被処理水を処理塔2に供給した後、被処理水の供給を停止する。被処理水を供給可能な時間は、光触媒の充填量と、光触媒の吸着特性から決定することができる。被処理水の供給を停止した後、排水管路50を通じて処理塔2内に残留する被処理水を被処理水貯槽20に返送する。その後、必要に応じて、洗浄用の水を水供給ポンプ31、洗浄水供給管路34を通じて、処理塔2に送水し、光触媒担体8を洗浄する。洗浄した排水は、排水管路50を通じて、被処理水貯槽20へ送る。
【0033】
次に脱着操作を行う。三方弁23を水供給系統4に切替え、水供給ポンプ31を介して、水貯槽30に貯留される水を処理塔2に送水する。同時に光源11から処理塔2に向かって光を照射する。処理塔2に水を供給すると、処理塔2内に充填された光触媒を担持した光触媒担体8は、供給される水で流動化される。同時に光が照射されているため、光触媒に吸着した電子供与性物質は、光触媒から離脱し、水側に移行する。電子供与性物質を含む水は、処理塔2の上部に連結する管路7、三方弁40、及び管路42を通じて貯槽Bへ送られる。所定の時間、光触媒に光を照射しながら、水を処理塔2に供給した後、水の供給を停止し脱着操作を終了する。脱着に必要な時間は、光触媒の充填量と、光触媒の脱着特性から決定することができる。
【0034】
上記の操作により、被処理水に含まる電子供与性物質を被処理水から除去するとともに、電子供与性物質を回収することができる。上記操作は繰り返し行うことが可能であるので、効率的に水処理を行うことができる。また上記のように水処理装置も構成が簡単で、薬剤も必要としないことから水処理装置を安価に製造することができる。
【0035】
(実施例1)
次の要領でリン酸の吸着実験を行った。pH=7に調整したリン酸二水素カリウム(KH2PO4)(関東化学、特級)をリン酸態リン(PO4−P)(リン酸イオン:H2PO4−の形で存在)として濃度5mg/Lの溶液100mLと、酸化チタン粉末10mgとをガラス製の三角フラスコに、投入し、マグネッチクスタラを用いて、暗所で一定時間撹拌を行った。実験には、表1に示すように比表面積などの異なる3種類の酸化チタンを用いた。なお、表1中、SNH−Hycalは、当研究室で調整した触媒であり、可視光応答光触媒である。
【0036】
【表1】
吸着実験時の液温は約25℃であった。所定時間毎に一部溶液を抜き取り、この溶液を、ろ紙を用いて酸化チタンを分離した後、リン酸の濃度を測定した。リン酸の濃度測定には、検出試薬と可視紫外分光光度計(UV−1240 島津製作所製)を用い、波長709nmでの吸収強度を比較することによって行った。
【0037】
脱離実験は次ぎの要領で行った。先の吸着実験でリン酸を吸着させた酸化チタンを含む溶液をガラス製のシャーレに移した。酸化チタンはシャーレの中で沈澱している。この状態で、シャーレの上部から光を照射した。光源には、National製FL10BL−Bを使用した。この光源は、主波長365nmを中心に、325〜400nmの間の波長を有する。紫外光強度は、3mW/cm2、試料と光源との距離は、5cmとした。
【0038】
実験結果を図3から図5に示した。図3は、光触媒ST−01を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。同様に、図4は、光触媒P−25、図5は、光触媒SNH−Hycalを用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。図3から図5に示すように、リン酸溶液と酸化チタンを撹拌混合することで、溶液中のリン酸濃度が低下し、酸化チタンにリン酸が吸着されることが確認できた。3ケースとも、約1時間で吸着量は飽和状態となり、以降溶液中のリン酸濃度はほぼ一定となった。触媒の種類によって、吸着量は異なった。これについては、後述する。
【0039】
一方、脱着実験においても図3から図5に示すように、3ケースにおいて、光触媒からリン酸が脱離されることが確認できた。酸化チタンからの脱着も、酸化チタンへの吸着同様、約1時間で飽和状態となり、以降溶液中のリン酸濃度はほぼ一定となった。また3ケースとも、24時間経過後の溶液中のリン酸濃度は初期濃度よりも若干低い値であった。
【0040】
図6は、吸着実験の結果を基に、酸化チタンの比表面積とリン酸の吸着量との関係を示した図である。図6の結果から、酸化チタンへのリン酸の吸着量は、酸化チタンの比表面積と比例関係、つまり単位比表面当たりの吸着量が同一であることが分かった。これらの関係から、酸化チタンへのリンの吸着量は、酸化チタンの結晶構造、応答する光線の種類(紫外線、可視光)に依存しないことが分かった。
【0041】
図7は、脱着実験の結果を基に、酸化チタンの比表面積とリン酸の脱着量との関係を示した図である。図7の結果から、酸化チタンからのリン酸の脱着量は、酸化チタンの比表面積と比例関係にあることが分かった。またこれらの関係から、酸化チタンからのリンの脱着量は、酸化チタンの結晶構造、応答する光線の種類(紫外線、可視光)に依存しないことが分かる。
【0042】
図8は、吸着、脱着の実験の結果を基に、酸化チタンの比表面積と酸化チタンのリン酸の残存量との関係を示した図である。ここで酸化チタンのリン酸の残存量とは、酸化チタンにリン酸を吸着させた後、脱着させた際の酸化チタンに吸着されたままのリン酸の量を言う。図7の結果から、酸化チタンのリン酸の残存量は、酸化チタンの比表面積と比例関係にあることが分かった。またこれらの関係から、酸化チタンからのリンの着脱量は、酸化チタンの結晶構造、応答する光線の種類(紫外線、可視光)に依存しないことが分かる。
【0043】
(実施例2)
実施例1では、酸化チタンのリン酸の吸着、脱着実験行ったが、実施例2では、酸化チタンのリン酸の吸着、脱着の繰り返し実験を行った。実験に使用した酸化チタン、実験要領は、基本的に実施例1と同一である。繰り返し回数は2回とした。
【0044】
実験結果を図9から図11に示した。図9は、光触媒ST−01を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。同様に、図10は、光触媒P−25、図11は、光触媒SNH−Hycalを用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。図9から図11に示すように、2回の吸着、脱着の曲線は、全く同一のカーブを描き再現性(繰り返し性)が非常に高いことが確認された。またこの結果は、触媒の種類によらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上詳しく説明したとおり、本発明の水処理方法を用いて排水中のリン成分を回収することが可能であり、本発明の水処理方法を富栄養化で問題になっている排水中のリン酸態リン(PO4−P)の濃縮、分離−回収技術として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の水処理の想定されるメカニズムを説明するための図である。
【図2】本発明の実施の一形態としての水処理装置1の概略的構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1の結果であって、光触媒ST−01を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【図4】本発明の実施例1の結果であって、光触媒P−25を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【図5】本発明の実施例1の結果であって、光触媒SNH−Hycalを用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【図6】本発明の実施例1の結果であって、酸化チタンの比表面積とリン酸の吸着量との関係を示した図である。
【図7】本発明の実施例1の結果であって、酸化チタンの比表面積とリン酸の着脱量との関係を示した図である。
【図8】本発明の実施例1の結果であって、酸化チタンの比表面積と酸化チタンのリン酸の残存量との関係を示した図である。
【図9】本発明の実施例2の結果であって、光触媒ST−01を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【図10】本発明の実施例2の結果であって、光触媒P−25を用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【図11】本発明の実施例2の結果であって、光触媒SNH−Hycalを用いた場合のリン酸の吸着、脱着曲線である。
【符号の説明】
【0047】
1 水処理装置
2 処理塔
3 被処理水供給系統
4 水供給系統
5 排水系統
8 光触媒担体
11 光源
23 三方弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性物質を含有する被処理水と光触媒とを接触させ、該被処理水に含まれる該電子供与性物質を該光触媒に吸着させる吸着工程と、
該電子供与性物質を回収する水の存在下で、該電子供与性物質を吸着した該光触媒に光を照射し、該光触媒から該電子供与性物質を脱着させる脱着工程と、
を有することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記光触媒は、光触媒活性を有する光触媒であることを特徴とする請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記吸着工程と、前記脱着工程とを交互に繰り返し行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記電子供与性物質は、リン酸態リンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記光触媒は、酸化チタンであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の水処理方法。
【請求項6】
光触媒を担持した光触媒担体を充填し、被処理水を処理する処理塔と、
該処理塔へ電子供与性物質を含有する該被処理水を供給する被処理水供給手段と、
該処理塔へ該電子供与性物質を回収する水を供給する給水手段と、
該処理塔へ供給する該被処理水及び該電子供与性物質を回収する水を切替る切替手段と、
該光触媒担体に光を照射する光照射手段と、
を含むことを特徴とする水処理装置。
【請求項1】
電子供与性物質を含有する被処理水と光触媒とを接触させ、該被処理水に含まれる該電子供与性物質を該光触媒に吸着させる吸着工程と、
該電子供与性物質を回収する水の存在下で、該電子供与性物質を吸着した該光触媒に光を照射し、該光触媒から該電子供与性物質を脱着させる脱着工程と、
を有することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記光触媒は、光触媒活性を有する光触媒であることを特徴とする請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記吸着工程と、前記脱着工程とを交互に繰り返し行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記電子供与性物質は、リン酸態リンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記光触媒は、酸化チタンであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の水処理方法。
【請求項6】
光触媒を担持した光触媒担体を充填し、被処理水を処理する処理塔と、
該処理塔へ電子供与性物質を含有する該被処理水を供給する被処理水供給手段と、
該処理塔へ該電子供与性物質を回収する水を供給する給水手段と、
該処理塔へ供給する該被処理水及び該電子供与性物質を回収する水を切替る切替手段と、
該光触媒担体に光を照射する光照射手段と、
を含むことを特徴とする水処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−90246(P2007−90246A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283810(P2005−283810)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】
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