説明

水処理方法

【課題】浸漬型分離膜手段において被処理液を膜分離するのと同時に、被処理液中の懸濁物質を効率的に沈降分離し、分離膜モジュールへの懸濁物質負荷を軽減することによって、効率よく長期間にわたって安定運転できる水処理方法を提供すること。
【解決手段】被処理液を貯留した浸漬槽内に浸漬設置された分離膜モジュールを用いて膜ろ過水を得る水処理方法であって、少なくとも運転工程が前記分離膜モジュールを介して被処理液を吸引して膜ろ過水を得るろ過工程、前記分離膜モジュール下部に設置した散気装置から空気を供給して前記分離膜モジュールの表面を洗浄する空洗工程、前記浸漬槽底部に沈降し堆積した汚泥を前記浸漬槽外へ排出する排泥工程から構成され、かつ、少なくとも1回以上、1)前記ろ過工程を所定時間単独で行った後、2)前記排泥工程を単独で、または前記ろ過工程と前記排泥工程を同時に行い、3)次いで前記空洗工程をこの順で行うことを特徴とする水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬型膜分離手段を用いた水処理方法に関する。さらに詳しくは、少なくとも運転工程が分離膜モジュールを介して被処理液を吸引して膜ろ過水を得るろ過工程、分離膜モジュール下部に設置した散気装置から空気を供給して分離膜モジュールの表面を洗浄する空洗工程、浸漬槽底部に沈降した懸濁物質を汚泥として浸漬槽外へ排出する排泥工程から構成された水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分離膜を用いた膜分離技術は、上水道における飲料用水製造分野、工業用水、工業用超純水、食品、医療といった産業用水製造分野、都市下水の浄化および工業廃水処理といった下排水処理分野などの幅広い分野に利用されている。また、膜分離に用いられる分離膜モジュールは、処理分野に係わらず加圧型と浸漬型に分類される。浸漬型の分離膜モジュールは浸漬槽内に浸漬設置され、吸引あるいは水頭差を駆動力として、分離膜を介して浸漬槽内の被処理液から膜ろ過水を得る浸漬型膜分離手段に用いられる。
【0003】
この浸漬型膜分離手段において、浸漬槽内の被処理液中の水分は分離膜を介して膜ろ過水として取り出され、懸濁物質は被処理液中あるいは分離膜表面に残されるために、被処理液の懸濁物質濃度は浸漬槽への流入時点よりも高くなる。被処理液の懸濁物質濃度が高くなったり、分離膜表面に蓄積した懸濁物質量が多くなったりすると、分離膜モジュールへの懸濁物質負荷が増して、分離膜モジュールの目詰まりや分離膜間の流路閉塞が進行して所定の膜ろ過水量を得られなくなり、分離膜モジュールの薬品洗浄が必要となる。
【0004】
このような分離膜モジュールの目詰まりや流路閉塞の進行を阻止あるいは抑制するために、一般的には浸漬型分離膜モジュール下部に設置された散気装置から連続的、あるいは間欠的に空気を散気させることによって、気泡によるせん断力や分離膜の揺動により分離膜表面や分離膜間の流路に蓄積した懸濁物質を剥離、除去したり(空洗)、定期的に分離膜の膜ろ過水側から被処理液側へ膜ろ過水を逆流させることによって分離膜表面に蓄積した懸濁物質層を剥離、除去したり(逆洗)する物理洗浄を実施している。しかしながら、平膜モジュールは一般的に構造上の問題から逆洗ができないことが多く、平膜モジュールの物理洗浄は連続的、あるいは断続的な空洗に依るところが大きい。
【0005】
また、被処理液の懸濁物質濃度が高くなりすぎると分離膜モジュールの目詰まりや流路閉塞が進行しやすくなり、所定の膜ろ過水量が得られなくなることから、被処理液の懸濁物質濃度を一定値以下に維持するために、被処理液の一部または全部を連続的、あるいは間欠的に浸漬槽外へ排出している。被処理液中の懸濁物質濃度を連続的に求め、懸濁物質濃度が所定の基準値以下に維持できるように膜分離処理条件を変更したり(特許文献1)、被処理液から沈降分離した沈降汚泥の量を調整して、被処理液中の懸濁物質濃度が所定の基準値以下に維持したり(特許文献2)、分離膜モジュール下部に設置された散気装置から連続的に散気して生ずる気液混相流によって分離膜モジュールの空洗を連続的に行うとともに、浸漬槽下部に形成される気液混相流の影響を受けない沈降ゾーンで一部の懸濁物質を沈降させることによって分離膜近傍の被処理液中の懸濁物質濃度の上昇を抑制したり(特許文献3)している。
【0006】
上記特許文献1や特許文献2に示されたような水処理方法では、浸漬槽内に被処理液中の懸濁物質濃度を連続的に測定できる浮遊物質(SS)濃度計や沈降汚泥と被処理液との界面を連続的に測定できる汚泥界面計を設置したり、これらの計器から得られたデータを基に、懸濁物質濃度や汚泥界面位置、汚泥引抜き流量や被処理液供給流量を維持、制御管理するための演算処理機能や、弁の開閉・工程変更を行う制御システムを構築したりすることが必須となり、水処理装置の構築、施工、維持管理に多大な労力を要する。また、ろ過工程中に連続的あるいは間欠的に空洗工程を行う運転工程では、空洗工程中には被処理液中の懸濁物質が沈降しないばかりか、沈降途中あるいはいったん沈降した懸濁物質が舞い戻る問題点や、懸濁物質が沈降するための時間が空洗工程と空洗工程の間しかないために、充分な懸濁物質の沈降時間を確保できない問題点や、空洗に用いられるエア量が多く必要であるといった問題点がある。さらに、逆洗工程がないために、物理洗浄の効果が限定される問題点がある。また、ろ過運転を間欠的に停止させる方法では、ろ過運転停止中に浸漬槽内の懸濁物質を沈降させることができても、ろ過運転を再開して新たに被処理液が流入した場合、その被処理液中の懸濁物質を沈降させる手段は有していない問題点がある。
【0007】
上記特許文献3に示されたような水処理装置では、気液混相流による分離膜モジュールの空洗を連続的に行える利点があるが、浸漬槽へ流入した被処理液中の懸濁物質の一部は沈降ゾーンへ沈降する一方で、残る懸濁物質は連続的な散気によって生ずる気液混相流によって分離膜近傍を循環し続けるために膜ろ過を継続するのに従って被処理液中の懸濁物質濃度が上昇して、浸漬型分離膜モジュールへの懸濁物質負荷が高まる。また、連続的な散気を行うために、エア量が多く必要であるといった問題点を有する。
【特許文献1】特開平10−286563号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10−286567号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2002−191946号公報([0008]〜[0011]段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、浸漬槽内に浸漬設置した分離膜モジュールによって被処理液を膜分離するのと同時に、被処理液中の懸濁物質を効率的に沈降分離し、分離膜モジュールへの懸濁物質負荷を軽減することによって、ろ過稼働率を高め、効率よく長期間にわたって所定の膜ろ過水量を安定して確保できる水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、次の(1)〜(6)を特徴とするものである。
【0010】
(1)被処理液を貯留した浸漬槽内に浸漬設置された分離膜モジュールを用いて膜ろ過水を得る水処理方法であって、少なくとも運転工程が前記分離膜モジュールを介して被処理液を吸引して膜ろ過水を得るろ過工程、前記分離膜モジュール下部に設置した散気装置から空気を供給して前記分離膜モジュールの表面を洗浄する空洗工程、前記浸漬槽底部に沈降した懸濁物質を汚泥として前記浸漬槽外へ排出する排泥工程から構成され、かつ、前記運転工程において少なくとも1回以上
1)前記ろ過工程を所定時間単独で行った後、
2)前記排泥工程を単独で、または前記ろ過工程と前記排泥工程を同時に行い、
3)次いで前記空洗工程
をこの順で行う運転方法を有することを特徴とする水処理方法。
【0011】
(2)前記分離膜モジュールを間欠的に逆洗をする逆洗工程を、前記排泥工程の完結後に前記空洗工程と組み合わせて行うことを特徴とする(1)に記載の水処理方法。
【0012】
(3)前記分離膜モジュールが中空糸膜モジュールであることを特徴とする(1)または(2)に記載の水処理方法。
【0013】
(4)前記浸漬槽に供給される流入水は、浸漬槽内整流化設備を介して前記浸漬槽に供給されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の水処理方法。
【0014】
(5)前記流入水は、凝集剤を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の水処理方法。
【0015】
(6)前記流入水は、原水を凝集剤を用いて水処理した際に生じる凝集汚泥を含む排水、または原水を分離膜モジュールを用いて水処理した際に生じる膜ろ過洗浄排水を凝集処理した水であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の水処理方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下に説明するとおり、浸漬槽内に浸漬設置した分離膜モジュールによって被処理液を膜分離するのと同時に、被処理液中の懸濁物質を効率的に沈降分離し、分離膜モジュールへの懸濁物質負荷を軽減することによって、ろ過稼働率を高め、効率よく長期間にわたって所定の膜ろ過水量を安定して確保できる。さらに、浸漬槽底部に沈降した懸濁物質の濃縮が進んだ汚泥を排出することによって、高い回収率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の望ましい実施の形態を図面を用いて説明する。ただし、本発明の範囲がこれらに限られるものではない。
【0018】
図1は、本発明の好ましい一実施態様を示す模式図である。流入水は、浸漬槽1に流入水配管3、浸漬槽内整流化設備4を介して連続的あるいは断続的に流入され、浸漬槽1内で液相1aと沈降した懸濁物質からなる沈降汚泥相1bに分離される。浸漬槽1内には分離膜モジュール2が浸漬設置されており、吸引ポンプ6によって分離膜モジュール2、ろ過弁7、膜ろ過水配管5を介して液相1aから膜ろ過水が取り出される(ろ過工程)。ろ過工程において浸漬槽1内は静置状態におかれるために、液相1a中から懸濁物質が沈降して液相1a中の懸濁物質濃度が低減し、分離膜モジュール2への懸濁物質負荷が低減する。ろ過工程を所定時間単独で行った後、吸引ポンプ6を停止し、ろ過弁7を閉じ、ろ過工程を停止する。引き続き、逆洗弁10を開き、逆洗ポンプ9によって逆洗水配管8を介して分離膜モジュール2へ逆洗水を送り込み逆洗を行う(逆洗工程)。同時に、空洗弁13、空洗エア配管12、分離膜モジュール2の下部に設置した散気装置14を介して、ブロワ11から供給される空気を気泡として散気する(空洗工程)。逆洗と空洗によって、分離膜モジュール2を揺動させたり、分離膜表面や分離膜間の流路に蓄積した懸濁物質を剥離、除去したりする。このとき、分離膜表面や分離膜間の流路に蓄積した懸濁物質が液相1a中に舞い戻るうえに、液相1a中を沈降途中あるいはいったん沈降した懸濁物質が舞い戻り、液相1a中の懸濁物質濃度が上昇する。一方、逆洗工程と空洗工程を行う前の時点は、ろ過工程を単独で行う時間、すなわち浸漬槽1内が静置状態となってからの液相1a中の懸濁物質の沈降時間が最も長くなる時点であり、沈降汚泥相1bの懸濁物質量が最大となり、沈降した懸濁物質の濃縮が最も進んで懸濁物質濃度が最高となる。このとき、排泥弁16を開き、沈降汚泥相1b中の沈降した懸濁物質を汚泥として排泥配管15を介して浸漬槽外へと引抜く(排泥工程)。よって、排泥工程は、ろ過工程に次ぐ工程として、逆洗工程と空洗工程の前工程として行うことになる。
【0019】
ここで、静置状態とは、例えば、浸漬型分離膜モジュール下部に設置された散気装置からの散気によって生ずる気液混相流による浸漬槽内での主に上下方向への循環流がなく、さらに、浸漬槽への流入水の流入によって生ずる主に上下方向への水流の乱れや偏流などが少なく、水流による懸濁物質の沈降阻害が小さい状態をいう。例えば、浸漬槽内の水流の平均流速が0.4m/min以下であり、かつ浸漬槽内の水流の平均上昇流速が80mm/min以下である状態をいう。
【0020】
本発明者らは、浸漬槽への流入水の流入がない状態で膜ろ過を行った際、膜ろ過に伴う被処理液の移動による浸漬槽内での水流の乱れが小さく、浸漬槽内は懸濁物質が沈降するような静置状態にあることに着目し、かかる静置状態においては浸漬槽内の懸濁物質が沈降することを確認したうえで、浸漬槽へ流入水を流入させる際に、上記静置状態を乱さないようにすると浸漬槽への被処理液の流入がない状態で膜ろ過を行った場合と同様に、浸漬槽内において懸濁物質が沈降するような静置状態にあることを確認したことから着想を得て、本発明に至った。
【0021】
静置状態を乱さないように浸漬槽へ流入水を連続的、あるいは間欠的に流入させる手段としては、整流壁や多孔板を介して浸漬槽の側面から流入させる手段、トラフや越流堰を介して浸漬槽上端から流入させる手段、浸漬槽の水面から分離膜モジュール上端の間に設置した多孔板や傾斜管を介して浸漬槽上部から流入させる手段、流入部に設置した邪魔板によって流入水のエネルギーを減じさせて流入させる手段等があるが、静置状態を乱さない流入水の流入手段であればどのような手段を用いても構わない。これらの手段を浸漬槽内整流化設備とする。この中でも、流入水を浸漬槽の上部から流入させる場合、懸濁物質の沈降速度と、上部から新たに流入してきた流入水からなる被処理液の水塊による下向きの移動速度とが足し合わされ、懸濁物質が沈降する効率が高まるので好ましい。
【0022】
また、浸漬槽への流入水の流入が間欠的であり、前記浸漬槽内整流化設備を設置しない場合でも、流入水の流入時に浸漬槽内のろ過工程等の操作を所定の時間停止し、流入水の流入が終わって浸漬槽内が静置状態になるのを待ってから(静置工程)、ろ過工程等を開始する手段もある。しかしながら、浸漬槽内整流化設備を設置する方がろ過稼働率を高くできるのでより好ましい。
【0023】
ここで、ろ過稼働率とは、ろ過工程、逆洗工程、空洗工程、排泥工程、静置工程から構成される運転工程に占めるろ過工程の時間の割合、あるいは1日に占める総ろ過工程時間の割合を示す。
【0024】
一方で、ろ過工程においては被処理液中の沈降しない懸濁物質は、被処理液が膜ろ過される際に分離膜表面や分離膜間の流路に蓄積するために、単独で空洗工程を、または空洗工程と逆洗工程を組み合わせた工程を定期的に行うことによって剥離・除去しなければならない。このとき、逆洗工程は必ずしも行わなければならない工程ではないが、分離膜表面や分離膜間の流路に蓄積した懸濁物質を剥離・除去する効果が高いことから、空洗工程と組み合わせて行うことが好ましい。このとき、逆洗工程と空洗工程を組み合わせとしては、逆洗工程が完結してから空洗工程を行っても、空洗工程が完結してから逆洗工程を行っても、逆洗工程と空洗工程を同時工程として行っても、逆洗工程と空洗工程を同時に開始してからどちらか一方を先に完結させる工程としても、どちらか一方を所定時間行った後に逆洗工程と空洗工程の同時工程に移行する工程としてもよく、どのような組み合わせとしても構わない。特に、逆洗工程と空洗工程を同時に行う組み合わせをもつ工程だと、懸濁物質を剥離・除去する効果がさらに高くなることから好ましい。
【0025】
逆洗、空洗によって、分離膜表面や分離膜間の流路から剥離・除去されたり、空洗によって生ずる気液混相流による浸漬槽内での主に上下方向への循環流によって沈降途中あるいはいったん沈降した懸濁物質が舞い戻ったりするために、逆洗、空洗の直後には被処理液の懸濁物質濃度が最も高くなる。そのため、逆洗、空洗の直後に、膜ろ過を行わずに浸漬槽内を静置状態において懸濁物質を沈降させる工程(静置工程)を設けても構わない。この場合、分離膜モジュールへの懸濁物質負荷をより軽減でき、より長期間にわたって所定の膜ろ過水量を安定して確保することができるので好ましい。なお、本発明においては静置工程を設けて、より長期間にわたって所定の膜ろ過水量を安定して確保できる水処理方法を選んでもよいし、静置工程を設けずに、ろ過稼働率を高める水処理方法を選んでもよく、処理の用途によって適宜選べばよい。
【0026】
また、散気管と汚泥界面の距離を一定以上保つと、いったん沈降した懸濁物質が空洗時に舞い戻り難くなるので好ましい。その距離は、一般的には0.3〜0.5m以上とされる。
【0027】
沈降した懸濁物質は汚泥としてバルブやポンプを介して浸漬槽外へ排出されるが、排出量は、あらかじめ試験を実施して得られた結果から予想される汚泥発生量をもとにバルブの開閉時間やポンプの起動時間を設定して定めても構わないし、浸漬槽内に設置した汚泥界面計等の汚泥量検知手段から得られた汚泥発生量をもとにバルブの開閉時間やポンプの起動時間を制御しても構わない。ここで、排出量は、浸漬槽外へ汚泥として排出される水量をいう。本発明の主旨からは、排出される懸濁物質量が沈降した懸濁物質量と等しくなるような汚泥排出方法であればどのような方法を用いても構わない。例えば汚泥界面計等の汚泥量検知手段から得られた汚泥発生量をもとにバルブの開閉時間やポンプの起動時間を制御して汚泥を排出すると、排出量(水量)が最小限となって回収率が向上するので好ましい。
【0028】
この排泥工程をろ過工程を単独で所定時間行った後、ろ過工程と同時、あるいはろ過工程の完結後、すなわち空洗工程の前工程として実施すると、ろ過工程における静置状態、すなわち懸濁物質の沈降時間を最長にできるうえに、浸漬槽底部に沈降した懸濁物質量が最大となり、沈降した懸濁物質の濃縮が最も進んで懸濁物質濃度が最高となることから排出量を最小限にできるために好ましい。
【0029】
また、排泥工程を、毎回の空洗工程の前工程として実施せずに、排泥工程を含まずに少なくともろ過工程、空洗工程により構成されて行われる運転方法(「運転方法2」とする。)を複数回実施する間で、少なくとも1回以上の頻度で、少なくともろ過工程、排泥工程、空洗工程から構成され、1)前記ろ過工程を所定時間単独で行った後、2)前記排泥工程を単独で、または前記ろ過工程と前記排泥工程を同時に行い、3)次いで前記空洗工程をこの順で行われる運転方法(「運転方法1」とする。)を実施すると、浸漬槽底部での懸濁物質の濃縮がさらに進むことから排出量をさらに抑制できるために好ましい。排泥工程をかかる運転方法を組み合わせて実施することにより、結果として回収率がより向上する。なお、前記運転方法2をn回実施する間に前記運転方法1を1回行う場合、運転方法1が行われる頻度、すなわち排泥工程が行われる頻度は、浸漬槽底部に沈降する懸濁物質量によって適宜決めればよく、n=1〜10の範囲で運転方法2を行うと、沈降した懸濁物質による汚泥界面を低く抑制できるので好ましい。
【0030】
ここで、回収率とは、浸漬槽へ流入した流入水量に対して膜ろ過水のうち生産水として流出する生産水量の割合を示し、流入水量に対する膜ろ過水量から逆洗に使用した逆洗水量を引いた生産水量の割合、あるいは流入水量に対する流入水量から排出量を引いた生産水量の割合として求められる。いずれの算出方式から回収率を求めても同じ値を得ることができる。
【0031】
本発明における各工程の時間配分は、流入水の水質や、処理の用途によって様々な組合せにしてもよいが、基本的にはろ過工程10〜120分、空洗工程10〜120秒、逆洗工程10〜120秒の範囲とすると、長期間にわたって安定に運転を継続しやすいので好ましい。なお、空洗工程は10〜120秒の範囲で充分な物理洗浄効果を確保できるうえに、空洗に用いられるエア量を抑制できるので好ましく、逆洗工程10〜120秒の範囲で充分な物理洗浄効果を確保できるうえに、逆洗に用いられる逆洗水量を抑制できて回収率を向上できるので好ましい。
【0032】
ここで、浸漬型の分離膜モジュールとは、単独あるいは複数の分離膜エレメントを内挿して構成したものをいい、分離膜エレメントの形状には、中空糸膜、チューブラー膜、平膜等がある。ここで、中空糸膜とは直径2mm未満の円管状の分離膜、チューブラー膜とは直径2mm以上の円管状の分離膜をいう。本発明においては、いずれの形状の分離膜エレメントを用いても構わないが、ろ過工程中に分離膜表面や分離膜間の流路に懸濁物質の蓄積が進行して、分離膜モジュールの目詰まりや分離膜間の流路閉塞が発生するのを阻止、抑制するための充分な物理洗浄効果を得るために、逆洗と空洗を行うことが好ましく、この場合には一般的に逆洗ができない構造であることが多い平膜形状の分離膜エレメントよりも、逆洗ができる構造である中空糸膜やチューブラー膜形状の分離膜エレメントを用いることが好ましい。
【0033】
空洗は、分離膜を揺動させたり、気泡によるせん断力によって、分離膜表面や分離膜間の流路に蓄積した懸濁物質を剥離、除去させる洗浄であるために、一般的に支持体上に固定されて分離膜間の距離が変化しにくい平膜形状の分離膜エレメントよりも、分離膜の揺動により分離膜間の距離や分離膜同士の位置関係が変動する中空糸膜やチューブラー膜形状の分離膜エレメントの方が、気泡によるせん断力による物理洗浄効果の他に空洗時に分離膜間の流路が大きく変動したり、分離膜同士が接触したりすることによって懸濁物質を剥離、除去する効果が加わるために、空洗単独による物理洗浄効果の面でも好ましい。また、直径が小さい中空糸膜形状の分離膜エレメントの方が、空洗による分離膜の揺動が大きいことから物理洗浄効果が高くなるために、より好ましい。
【0034】
また、分離膜としては、精密ろ過膜および限外ろ過膜のいずれでもよく、その分離性能あるいは分画性能は、精密ろ過膜では公称孔径が0.01μm〜3μmの範囲が好ましく、分離性能に優れる面や目詰まりの進行しにくさの面から0.02μm〜0.45μmの範囲がより好ましい。限外ろ過膜では公称分画分子量が1000Da〜100万Daの範囲が好ましい。
【0035】
分離膜の素材としては、本発明の主旨から特に限定されるものではないが、有機素材を使用する場合、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびクロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース等が使用でき、無機素材を使用する場合はセラミック等が使用利用できる。この中でも膜強度や耐薬品性の観点からフッ素を含む有機素材やセラミックを素材とするものが好ましい。また、汚れにくさや洗浄回復性の観点から一般的に親水性素材とされるポリアクリロニトリルや酢酸セルロースを含む有機素材が好ましい。
【0036】
ここで、分離膜モジュールのろ過流量制御方式としては、定流量ろ過方式であっても定圧ろ過方式であっても構わないが、一般的には定流量ろ過方式が用いられる。また、ろ過方法としては、本発明の主旨から特に限定されるものではないが、例えば吸引ポンプを駆動力とする方法や、水頭差を駆動力とする方法が挙げられる。
【0037】
本発明における流入水としては、特に限定されるものではなく、河川水、湖沼水、地下水、工業用水、都市下水、工業廃水等のいずれの原水でも構わず、前記原水を、粗沈殿、粗ろ過、凝集、沈殿、砂ろ過、膜ろ過、生物処理等のいずれの水処理プロセスによって処理された水や、該水処理プロセスにおいて発生した排水でも構わないが、本発明の主旨から、沈降性を有する懸濁物質を含む水であることが好ましく、これらの水に凝集剤が含まれる場合、懸濁物質は良好な沈降性を有していることからより好ましい。また、原水を凝集剤を用いて水処理した際に生じる凝集汚泥を含む排水、または原水を分離膜モジュールを用いて水処理した際に生じる膜ろ過洗浄排水を凝集処理した水を流入水とする場合、懸濁物質はより良好な沈降性を示すことからさらに好ましい。
【0038】
特に、原水を分離膜モジュールを用いて水処理した際に生じる膜ろ過洗浄排水を凝集処理した水、または原水を凝集処理して分離膜モジュールを用いて水処理した際に生じる膜ろ過洗浄排水を流入水とした場合、懸濁物質は良好な沈降性を示すことから分離膜モジュールへの懸濁物質負荷を軽減できるとともに、いったんは分離膜モジュールによって阻止された懸濁物質を再度、分離膜モジュールを用いて膜ろ過することから分離膜への目詰まりが抑制できるために本発明の効果が最も高く発揮され、好ましい。
【0039】
本発明で用いられる凝集剤は、本発明の主旨から特に限定されるものではないが、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化鉄、硫酸鉄、ポリ鉄、ポリシリカ鉄等の無機系凝集剤や、アクリルアミドポリマーを含む有機高分子凝集剤等が使用でき、これに活性ケイ酸、水道用アルギン酸ソーダ等の凝集助剤や、酸、アルカリ剤を使用できる。
【実施例】
【0040】
本発明を、以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。なお、実施例、比較例において、外径1.5mm、公称孔径0.05μmのポリフッ化ビニリデン製中空糸膜が1800本からなる中空糸膜束の両端を接着剤で固定し、その接着固定部の一端の一部を切断して中空糸膜内部を開口させることで、長さ1m、有効膜面積7mの円筒状の中空糸膜モジュールを作成した。この中空糸膜モジュールを1本、浸漬型分離膜モジュールとして用いて、実施例、比較例に示す実験を行った。実験は、実施例6を除いて、図1に示したフローにて行った。なお、断りのない限り、浸漬槽内整流化設備としては、浸漬槽上部から流入水を流入させる際に、壁面をつたわせて浸漬槽内の被処理液部に流入させることで、被処理液の静置状態を乱さないようにする手段を用いた。また、原水にポリ塩化アルミニウムを注入して凝集処理をする際に、ポリ塩化アルミニウムの注入方式は、原水濁度を指標とした比例注入方式とした。
【0041】
(実施例1)
湖沼水を原水として浸漬槽に流入水として浸漬槽上部から壁面をつたわせて流入させ、1.0m/m/日の定流量ろ過方式でろ過時間30分、逆洗時間60秒、空洗時間60秒、排泥工程では排出量2.5Lとして、ろ過工程、排泥工程、逆洗工程と空洗工程の同時工程とした順番で構成される運転工程にて運転を行った。2ヵ月後の時点で膜間差圧は20kPa程度でほぼ横這いに推移していた。なお、このときの回収率は98.2%であった。
【0042】
(実施例2)
湖沼水を原水とし、ポリ塩化アルミニウム5〜10mg/Lを注入してから浸漬槽に流入水として浸漬槽上部から壁面をつたわせて流入させ、1.0m/m/日の定流量ろ過方式でろ過時間30分、逆洗時間60秒、空洗時間60秒、排泥工程では排出量2.5Lとして、ろ過工程、排泥工程、逆洗工程と空洗工程の同時工程とした順番で構成される運転工程にて運転を行った。2ヵ月後の時点で膜間差圧は15kPa程度でほぼ横這いに推移していた。なお、このときの回収率は98.2%であった。
【0043】
(実施例3)
湖沼水を原水とし、ポリ塩化アルミニウム5〜10mg/Lを注入してから浸漬槽に流入水として浸漬槽上部から壁面をつたわせて流入させ、1.0m/m/日の定流量ろ過方式でろ過時間30分、逆洗時間60秒、空洗時間60秒、排泥工程では排出量2.5Lとして、ろ過工程を単独で時間29.9分行った後に、ろ過を継続しながらろ過工程と排泥工程を同時に行い、その後に逆洗工程と空洗工程の同時工程とした順番で構成される運転工程にて運転を行った。2ヵ月後の時点で膜間差圧は15kPa程度でほぼ横這いに推移していた。なお、このときの回収率は98.2%であった。なお、排泥工程に要する時間はおよそ5秒であったため、稼働率は、実施例1および実施例2における96.5%よりもやや高い96.8%であった。
【0044】
(実施例4)
湖沼水を原水とし、ポリ塩化アルミニウム5〜10mg/Lを注入してから浸漬槽に流入水として浸漬槽上部から壁面をつたわせて流入させ、1.0m/m/日の定流量ろ過方式でろ過時間30分、逆洗時間60秒、空洗時間60秒、排泥工程では排出量5Lとして、ろ過工程、逆洗工程と空洗工程の同時工程とした順番で構成される運転工程1を2回行った後に、ろ過工程、排泥工程、逆洗工程と空洗工程の同時工程とした順番で構成される運転工程2を1回行う運転を行った。2ヵ月後の時点で膜間差圧は17kPa程度でほぼ横這いに推移していた。なお、このときの回収率は98.8%、稼働率は96.7%であった。
【0045】
(実施例5)
河川水を原水とし、ポリ塩化アルミニウム5〜10mg/Lを注入して公称孔径0.05μmのポリフッ化ビニリデン製中空糸膜からなる有効膜面積72mの加圧型分離膜モジュール(東レ(株)社製、トレフィルHFS−2020)で膜ろ過をした際に生じる膜ろ過洗浄排水を流入水とし、浸漬槽上部から邪魔板を介して流入させ0.7m/m/日の定流量ろ過方式でろ過時間30分、逆洗時間60秒、空洗時間60秒、排泥工程では排出量3Lとして、ろ過工程、逆洗工程と空洗工程の同時工程とした順番で構成される運転工程1を4回行った後に、ろ過工程、排泥工程、逆洗工程と空洗工程の同時工程とした順番で構成される運転工程2を1回行う運転を行った。1ヶ月後の時点で膜間差圧は10kPa程度でほぼ横這いに推移していた。なお、このときの浸漬型膜ろ過手段の回収率は、99.4%であった。また、原水量に対する、加圧型膜ろ過手段と浸漬型膜ろ過手段とから得られる生産水を足し合わせた生産水量の割合を浄水回収率とすると、99.96%であった。
【0046】
(実施例6)
浸漬槽への流入水の流入方法を、排泥配管を分岐させて設置した流入水配管を介して浸漬槽底部から流入させた以外は、実施例2と全く同じ条件のもとで運転を行った。このとき、浸漬槽内の被処理液は、浸漬槽底部から上向きに移動しているのが観察され、被処理液中の懸濁物質は上向きの流れで沈降阻害を受ける中、粗大な懸濁物質は沈降することが観察された。2ヵ月後の時点で膜間差圧はゆるやかな上昇傾向のもとで38kPa程度であった。なお、このときの回収率は98.2%であった。
【0047】
(比較例1)
湖沼水を原水として浸漬槽に流入水として浸漬槽上部から壁面をつたわせて流入させ、浸漬槽内で連続的に散気を行っている中で、1.0m/m/日の定流量ろ過方式でろ過時間30分、逆洗時間60秒、排泥工程では排出量2.5Lとして、ろ過工程、排泥工程、逆洗工程の順番で構成される運転工程にて運転を行った。2ヵ月後の時点で膜間差圧はゆるやかな上昇傾向のもとで45kPa程度であった。なお、このときの回収率は98.2%であった。
【0048】
(比較例2)
湖沼水を原水とし、ポリ塩化アルミニウム5〜10mg/Lを注入してから浸漬槽に流入水として浸漬槽上部から壁面をつたわせて流入させ、浸漬槽内で連続的に散気を行っている中で、1.0m/m/日の定流量ろ過方式でろ過時間30分、逆洗時間60秒、ろ過工程6回に対して排泥工程1回の頻度で排出量50Lとして、ろ過工程、排泥工程、逆洗工程の順番で構成される運転を行った。なお、排出量50Lとは浸漬槽内の被処理液の容積の全量である。2ヵ月後の時点で膜間差圧は21kPa程度でほぼ横這いに推移していた。なお、このときの回収率は94.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、浸漬型分離膜モジュールを用いた水処理方法に関するものである。さらに詳しくは、上水道における飲料用水製造分野、工業用水、工業用超純水、食品、医療といった産業用水製造分野、都市下水の浄化および工業廃水処理といった下排水処理分野などに使用される浸漬型分離膜モジュールを用いた水処理方法に関するものであるが、本発明はこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の好ましい一実施態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0051】
1 :浸漬槽
1a:液相
1b:沈降汚泥相
2 :分離膜モジュール
3 :流入水配管
4 :浸漬槽内整流化設備
5 :膜ろ過水配管
6 :吸引ポンプ
7 :ろ過弁
8 :逆洗水配管
9 :逆洗ポンプ
10 :逆洗弁
11 :ブロワ
12 :空洗エア配管
13 :空洗弁
14 :散気装置
15 :排泥配管
16 :排泥弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液を貯留した浸漬槽内に浸漬設置された分離膜モジュールを用いて膜ろ過水を得る水処理方法であって、少なくとも運転工程が前記分離膜モジュールを介して被処理液を吸引して膜ろ過水を得るろ過工程、前記分離膜モジュール下部に設置した散気装置から空気を供給して前記分離膜モジュールの表面を洗浄する空洗工程、前記浸漬槽底部に沈降した懸濁物質を汚泥として前記浸漬槽外へ排出する排泥工程から構成され、かつ、前記運転工程において少なくとも1回以上
1)前記ろ過工程を所定時間単独で行った後、
2)前記排泥工程を単独で、または前記ろ過工程と前記排泥工程を同時に行い、
3)次いで前記空洗工程
をこの順で行う運転方法を有することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記分離膜モジュールを間欠的に逆洗をする逆洗工程を、前記排泥工程の完結後に前記空洗工程と組み合わせて行うことを特徴とする請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記分離膜モジュールが中空糸膜モジュールであることを特徴とする請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記浸漬槽に供給される流入水は、浸漬槽内整流化設備を介して前記浸漬槽に供給されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項5】
前記流入水は、凝集剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項6】
前記流入水は、原水を凝集剤を用いて水処理した際に生じる凝集汚泥を含む排水、または原水を分離膜モジュールを用いて水処理した際に生じる膜ろ過洗浄排水を凝集処理した水であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−255587(P2006−255587A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76620(P2005−76620)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】