説明

水切り乾燥装置及び水切り乾燥方法

【課題】水洗い処理後の被洗浄物を、水分が分離・除去された状態に水切り乾燥することができる水切り乾燥装置及び水切り乾燥方法を提供する。
【解決手段】水洗い処理後の被洗浄物Aを、浸漬槽4に貯液されたフッ素系溶剤とアルコール系溶剤を混合してなる洗浄液Bに浸漬し、被洗浄物Aに付着する水分を洗浄液Bに混入したアルコール系溶剤に溶解させて分離・除去する。浸漬槽4から取り出した浸漬洗浄後の被洗浄物Aを、洗浄液Bの蒸気Baからなる蒸気層5に移動させて、洗浄液Bの蒸発気化が促進される温度に加熱する。蒸気層5から取り出した蒸気洗浄後の被洗浄物Aを、遠赤外線ヒータ6,6から放射される遠赤外線により加熱して、被洗浄物Aに付着するアルコール系溶剤を蒸発気化させて水切り乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば硝子基板、液晶表示板、或いは、電子部品、光学部品、精密部品、金属部品等の水洗い処理された被洗浄物から水分を分離・除去する際に用いられる水切り乾燥装置及び水切り乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述の水切り洗浄する装置としては、例えば水分の付着したワークを、洗浄槽に貯液されたイソプロピルアルコール(IPA)とハイドロフルオロエーテル(HFE)を混合してなる混合液中に浸漬し、ワークに付着した水分をイソプロピルアルコールに吸着させて水切り洗浄する。ワークを洗浄槽から取り出す際に、洗浄槽上方に放出されたハイドロフルオロエーテルの蒸気層によりワークを乾燥処理する水切り乾燥装置がある。
【特許文献1】特開平10−290901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の洗浄槽から取り出されたワークを、洗浄槽上方に放出された蒸気層により乾燥処理しても、混合液をワークから取り除くことが難しく、ワークに混合液が残着していることがある。ワークに、イソプロピルアルコールを混合した混合液が残着していると、ワークを蒸気層から取り出した直後に、蒸気層上方に存在するガスや空気等の雰囲気中に含まれる水分が、ワークに残着する混合液のイソプロピルアルコールに吸着されてしまい、水切り効果が損なわれてしまうという問題点を有している。
【0004】
また、ワークを乾燥する方法として、熱風によりベーキング処理する技術もあるが、ワークを約120℃以上に加熱する必要があるため、ワークの熱による変質が懸念される。且つ、熱風を送気・排気するため、微細なゴミ、塵埃等が洗浄済みのワークに付着することがあり、清浄度が要求されるクリーンルームでの使用ができない。
【0005】
この発明は上記問題に鑑み、水洗い処理後の被洗浄物を、水分が分離・除去された状態に水切り乾燥することができる水切り乾燥装置及び水切り乾燥方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載した発明の水切り乾燥装置は、水分が付着した被洗浄物を、浸漬槽に貯液されたフッ素系溶剤とアルコール系溶剤を混合してなる洗浄液中に浸漬し、被洗浄物に付着する水分をアルコール系溶剤に溶解させて、該被洗浄物から水分を分離・除去する水切り乾燥装置であって、上記浸漬槽に貯液された洗浄液の液面上に、該被洗浄物に付着する洗浄液の蒸発気化が促進される温度に加熱された洗浄液の蒸気からなる蒸気層を備え、上記蒸気層から取り出された被洗浄物に遠赤外線を照射して、該被洗浄物に付着するアルコール系溶剤が蒸発気化する温度に加熱する遠赤外線加熱手段を設けたことを特徴とする。
【0007】
この発明によると、水分が付着した被洗浄物を、浸漬槽に貯液されたフッ素系溶剤とアルコール系溶剤を混合してなる洗浄液中に浸漬し、被洗浄物に付着する水分をアルコール系溶剤に溶解させて、被洗浄物から水分を分離・除去する。
【0008】
洗浄液から取り出された浸漬洗浄後の被洗浄物を、洗浄液の液面上に形成された洗浄液の蒸気からなる蒸気層中に移動させ、洗浄液の蒸気により被洗浄物に付着する洗浄液の蒸発気化が促進される温度に加熱する。
【0009】
蒸気層から取り出された蒸気洗浄後の被洗浄物を、遠赤外線加熱手段から放射される遠赤外線により均一に加熱し、被洗浄物に付着するアルコール系溶剤や水分が含まれるアルコール系溶剤を蒸発気化させて水切り乾燥する。
【0010】
上記被洗浄物は、例えば硝子基板、液晶表示板、或いは、電子部品、光学部品、精密部品、金属部品等で構成することができる。また、洗浄液を構成するフッ素系溶剤は、例えばハイドロフルオロエーテル(HFE)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)等を主成分とする単一溶剤又は複合溶剤で構成することができる。また、フッ素系溶剤に混合されるアルコール系溶剤は、例えば沸点=78.23℃のエチルアルコール(別名エタノール)、沸点=82.4℃のイソプロピルアルコール(IPA)等の水溶解度の高い溶剤で構成することができる。
【0011】
実施例では、上記洗浄液の一例として、旭硝子株式会社製のアサヒクリンAE−3100E(商品名)を使用しているが、他社製の溶剤を洗浄液として使用してもよい。AE−3100Eの主な物性は、沸点=53.7℃、比重(25℃)=1.40、蒸発潜熱=163KJ/Kg、表面張力(25℃)=16.1、水の溶解度=5300ppmである。なお、水分の蒸発潜熱=2259KJ/Kgである。
【0012】
請求項2に記載した発明の水切り乾燥装置は、上記請求項1に記載の構成と併せて、上記浸漬槽に貯液された洗浄液の液面部分に浮上する水分が含まれる液を、該浸漬槽の全方向へオーバーフロー可能に構成したことを特徴とする。
【0013】
この発明によると、被洗浄物に付着する水分を洗浄液に混入したアルコール系溶剤に溶解させ、その水分が含まれる液の比重を、水分が含まれない洗浄液の比重よりも軽くする。水分が含まれる液を浸漬槽に貯液された洗浄液の液面部分に浮上させ、浸漬槽外部の全方向へオーバーフローするので、浸漬槽内部の角隅部付近や周縁部付近にアルコール系溶剤が残留することがなく、被洗浄物を浸漬槽から取り出した際に、フッ素系溶剤の液面部分に浮遊する水分やアルコール系溶剤が被洗浄物外面に再付着するのを防止することができる。
【0014】
請求項3に記載した発明の水切り乾燥装置は、上記請求項1に記載の構成と併せて、上記浸漬槽に、上記洗浄液のフッ素系溶剤よりも沸点温度が高いフッ素系溶剤を加熱媒体とする溶剤加熱手段を設けたことを特徴とする。
【0015】
この発明によると、浸漬槽に貯液された洗浄液のフッ素系溶剤を、その洗浄液のフッ素系溶剤よりも沸点温度が高いフッ素系溶剤を加熱媒体とする溶剤加熱手段により加熱して蒸発気化するので、他の溶剤を加熱媒体として用いるよりも、洗浄液の温度制御が容易に行える。
【0016】
請求項4に記載した発明の水切り乾燥装置は、上記請求項1に記載の構成と併せて、上記遠赤外線加熱手段を、プレート状の遠赤外線ヒータで構成したことを特徴とする。
【0017】
この発明によると、蒸気層から取り出された被洗浄物に対して遠赤外線ヒータから放射される遠赤外線が均一に照射されるので、乾燥速度に差が生じたり、乾燥ムラが発生することがない。
【0018】
請求項5に記載した発明の水切り乾燥方法は、水分が付着した被洗浄物を、浸漬槽に貯液されたフッ素系溶剤とアルコール系溶剤を混合してなる洗浄液中に浸漬して、該被洗浄物に付着する水分をアルコール系溶剤に溶解させ、上記洗浄液から取り出された被洗浄物を、該洗浄液の液面上に形成された洗浄液の蒸気からなる蒸気層中に移動して、該被洗浄物に残着する洗浄液の蒸発気化が促進される温度に洗浄液の蒸気で加熱し、上記蒸気層から取り出された被洗浄物を、遠赤外線加熱手段から放射される遠赤外線により加熱して、該被洗浄物に残着するアルコール系溶剤を蒸発気化させて水切り乾燥することを特徴とする。
【0019】
この発明によると、水分が付着した被洗浄物を、浸漬槽に貯液されたフッ素系溶剤とアルコール系溶剤を混合してなる洗浄液中に浸漬し、被洗浄物に付着する水分をアルコール系溶剤に溶解させて、被洗浄物から水分を分離・除去する。
【0020】
洗浄液から取り出した浸漬洗浄後の被洗浄物を、洗浄液の液面上に形成された洗浄液の蒸気からなる蒸気層中に移動させ、洗浄液の蒸気により被洗浄物に付着する洗浄液の蒸発気化が促進される温度に加熱する。
【0021】
蒸気層から取り出した蒸気洗浄後の被洗浄物を、遠赤外線加熱手段から放射される遠赤外線により加熱して、被洗浄物に付着するアルコール系溶剤や水分が含まれるアルコール系溶剤を蒸発気化させて、水切り乾燥する。
【0022】
なお、請求項1,5に記載した被洗浄物に残着するアルコール系溶剤とは、被洗浄物を蒸気層から取り出した際に、蒸気層上方に存在する雰囲気中の水分が吸着されたアルコール系溶剤を含むものである。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、被洗浄物に付着する水分を浸漬槽の洗浄液に溶解させて分離・除去した後、浸漬洗浄後の被洗浄物を、蒸気層の洗浄液からなる蒸気と、遠赤外線加熱手段から放射される遠赤外線により均一に加熱して、被洗浄物に付着するアルコール系溶剤や水分が含まれるアルコール系溶剤を蒸発気化させるので、水洗い処理後の被洗浄物を、水分が分離・除去された状態に水切り乾燥することができる。また、被洗浄物から水溶解度の高いアルコール系溶剤が分離・除去されるため、蒸気層から取り出した際に、雰囲気中の水分が被洗浄物に再付着することがなく、水切り乾燥した状態を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この発明は、水洗い処理後の被洗浄物を水分が分離・除去された状態に水切り乾燥することができるという目的を、被洗浄物に付着する水分を浸漬槽の洗浄液に溶解させた後、蒸気層の洗浄液からなる蒸気と、遠赤外線加熱手段から放射される遠赤外線により加熱することで達成した。
【実施例】
【0025】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は、水洗い処理後の被洗浄物に付着した水分を分離・除去する際に用いられる水切り乾燥装置及び水切り乾燥方法を示し、図1及び図2に於いて、この水切り乾燥装置1は、水洗い処理された被洗浄物Aの搬入が許容される搬入口2aを処理室2左側部に設け、水切り乾燥された被洗浄物Aの搬出が許容される搬出口2bを処理室2右側部に設けている。
【0026】
処理室2内の中央部には、被洗浄物Aから水分を分離・除去するための処理槽3を配置している。処理槽3内部には、被洗浄物Aを浸漬するための洗浄液Bが貯液された浸漬槽4を配置している。浸漬槽4に貯液された洗浄液Bの液面上には、洗浄液Bの蒸気Baからなる蒸気層5を備えている。処理槽3右側部には、蒸気層5から取り出された被洗浄物Aを加熱するための遠赤外線ヒータ6,6を配置している。
【0027】
搬入口2aに配置した搬入コンベヤ7は、水洗い処理された被洗浄物Aを処理室2左側内部に搬入する。搬出口2bに配置した搬出コンベヤ8は、水切り乾燥された被洗浄物Aを処理室2右側外部へ搬出する。また、搬入口2a及び搬出口2bは、被洗浄物Aが通過する直前に開放され、被洗浄物Aが通過した直後に閉塞される。
【0028】
処理槽3上方に配置した運搬装置9は、プレート状の被洗浄物Aが個々に保持される左右一対の運搬体9a,9bを、モータ等により処理槽3の左側上方と右側上方へ水平移動可能に設けるとともに、処理槽3の左側上方と右側上方への水平移動が許容される上昇位置と、下記の動作が許容される降下位置とに垂直昇降可能に設けている。
【0029】
つまり、運搬体9a,9bを処理槽3左側上方へ移動した際に垂直降下させ、処理槽3左側部の搬入コンベヤ7に載置された被洗浄物Aを左側運搬体9aで保持する動作と、浸漬槽4の洗浄液Bに浸漬された被洗浄物Aを右側運搬体9bで保持する動作を行う。
【0030】
運搬体9a,9bを処理槽3右側上方に移動した際に垂直降下させ、左側運搬体9aで保持した被洗浄物Aを浸漬槽4の洗浄液Bに浸漬する動作と、右側運搬体9bで保持した蒸気洗浄後の被洗浄物Aを処理槽3右側部の搬出コンベヤ8に載置する動作を行う。また、運搬体9a,9bを独立して水平移動及び垂直昇降させてもよい。
【0031】
処理室2内の中央部に配置した処理槽3は、被洗浄物Aが載置された運搬体9aの搬入及び搬出される出入口3aを槽上部に設け、運搬体9aに載置された被洗浄物A全体が洗浄液Bに浸漬される浸漬槽4を処理槽3内の下部中央に設けている。
【0032】
浸漬槽4は、図3、図4にも示すように、運搬体9aに載置された被洗浄物Aの搬入及び搬出される出入口4aを槽上部に設け、出入口4a周縁部を同一高さに設定して、洗浄液Bの液面部分に浮上する水分が溶解した水分溶解液Bbを前後左右の全方向へオーバーフロー可能に構成している。
【0033】
また、浸漬槽4を、処理槽3の前後内壁面及び左右内壁面に対して所定間隔に離間した状態に支持して、処理槽3と浸漬槽4の対向壁面間に、浸漬槽4からオーバーフローした水分溶解液Bbの貯液が許容される貯液槽10を設けている。
【0034】
浸漬槽4には、フッ素系溶剤の一例であるハイドロフルオロエーテルと、アルコール系溶剤の一例であるエチルアルコール(別名エタノール)を混合してなる洗浄液Bを、被洗浄物A全体の浸漬が許容される貯液レベルに貯液している。実施例では、洗浄液Bの一例である旭硝子株式会社製のアサヒクリンAE−3100E(商品名)を使用している。洗浄液Bを構成するフッ素系溶剤とアルコール系溶剤の混合比率は、ハイドロフルオロエーテルを約94.5wt%、エチルアルコールを約5.5wt%の割合で混合している。
【0035】
また、アルコール系溶剤の混合比率は、例えば略5%〜略6%の範囲に含まれる含有量に設定するのが好ましいが、略5%以下又は略6%以上の混合比率に変更してもよい。
【0036】
つまり、被洗浄物A全体を浸漬槽4の洗浄液Bに浸漬した際に、被洗浄物Aに付着する水分を、洗浄液Bのフッ素系溶剤に混入したアルコール系溶剤に溶解させて、被洗浄物A外面から水分を分離・除去する。その水分がアルコール系溶剤に溶解した水分溶解液Bbは洗浄液Bよりも比重が軽くなるため、浸漬槽4に貯液された洗浄液Bの液面部分に浮上する。洗浄液Bの液面部分に浮上した水分溶解液Bbは、浸漬槽4の出入口4a周縁部から全方向へ向けてオーバーフローして、処理槽3と浸漬槽4の対向壁面間に設けた貯液槽10に貯液される。
【0037】
浸漬槽4内の底部内壁面に配置した溶剤加熱手段である管状の加熱ヒータ11は、ポンプ12、バルブ13、循環路14を介して媒体加熱装置15に接続されており、ポンプ12の移送力により、媒体加熱装置15により加熱された液状の加熱媒体を加熱ヒータ11に循環供給して、浸漬槽4に貯液された洗浄液Bを蒸発気化する温度に加熱及び保温する。加熱媒体としては、例えば浸漬槽4に貯液されたフッ素系溶剤よりも沸点が高いフッ素系溶剤が使用されるので、他の溶剤を加熱媒体として用いるよりも、洗浄液Bの温度制御が容易に行える。
【0038】
加熱ヒータ11により蒸発気化された洗浄液Bの蒸気Baは、浸漬槽4に貯液された洗浄液Bの液面上に供給され、被洗浄物A全体を残着する洗浄液Bの蒸発気化が促進される温度に加熱するための蒸気層5を、浸漬槽4に貯液された洗浄液Bの液面と、その上方に配置された後述する冷却ジャケット16の間に形成している。
【0039】
処理槽3内の蒸気層5上方に配置した冷却ジャケット16は、出入口3aと蒸気層5との間の内壁面に沿ってループ状に配置され、冷却ジャケット16側部に配置した凝縮コイル17は、浸漬槽4の上方側部に連設した水分離槽18上方に配置されている。また、被洗浄物Aの搬入及び搬出、移動が妨げられないように配設している。
【0040】
冷却ジャケット16及び凝縮コイル17は、例えばチラーやブラインチラー等の図示しない冷凍装置に接続され、冷凍装置から循環供給される冷却媒体により、蒸気層5に供給される洗浄液Bの蒸気Ba及び槽内部に侵入する大気中の水分が凝縮液化される温度に冷却されている。
【0041】
つまり、冷却ジャケット16により凝縮液化された洗浄液Bを浸漬槽4及び水分離槽18に滴下し、蒸発気化した洗浄液Bの蒸気Baが機外へ放出されるのを防止している。また、凝縮コイル17により凝縮液化した洗浄液Bを水分離槽18に滴下して、凝縮液化された水分が浸漬槽4の洗浄液Bに混入するのを防止している。
【0042】
水分離槽18は、2枚の仕切り板18a,18bにより、凝縮コイル17により凝縮液化された水及び洗浄液Bを貯液するための貯液槽18cと、比重差により水分が分離された洗浄液Bを貯液するための貯液槽18dに分割されている。
【0043】
貯液槽18cの上部貯液領域は、バルブ19、回収路20を介して、液面部分に浮上した水を廃棄処理するための図示しない廃棄処理部に接続している。
【0044】
貯液槽18dの下部貯液領域は、返還路24を介して、浸漬槽4の上部貯液領域に接続されており、浸漬槽4と貯液槽18dの高低差により、水分が比重差により分離され、所定の洗浄力に回復した洗浄液Bを貯液槽18dから浸漬槽4へ返還して再利用する。
【0045】
また、貯液槽10は、2枚の仕切り板10a,10bにより、水分が溶解した水分溶解液Bbを貯液するための槽部10cと、比重差により水分が分離された洗浄液Bを貯液するための槽部10dに分割されている。
【0046】
槽部10dの下部貯液領域は、ポンプ25、バルブ26、回収路27を介して濾過装置28の回収ポートに接続されており、ポンプ25の移送力により、槽部10dに貯液された比重分離後の洗浄液Bを濾過装置28に供給して、例えばゴミや塵埃等の異物を洗浄液Bから分離・除去する。
【0047】
濾過装置28の返還ポートは、ポンプ29、バルブ30、返還路31を介して浸漬槽4の下部貯液領域に接続されており、ポンプ29の移送力により、水分が分離されて所定の洗浄力に回復した洗浄液Bを浸漬槽4へ返還する。
【0048】
槽部10cの上部貯液領域は、バルブ32、排出路33を介して、液面部分に浮上した水を廃棄処理するための図示しない廃棄処理部に接続している。
【0049】
処理槽3右側部に配置した遠赤外線加熱手段であるプレート状の遠赤外線ヒータ6,6は、図5、図6にも示すように、右側運搬体9bに保持された被洗浄物Aの前後両面と対向して2枚配置され、被洗浄物Aが保持された右側運搬体9bの昇降移動が許容される前後間隔に隔てて略同一高さに配置している。
【0050】
つまり、蒸気層5上方に取り出された被洗浄物Aに、アルコール系溶剤が含まれる洗浄液Bが残着していると、被洗浄物Aを蒸気層5から取り出した直後において、処理槽3の出入口3aと冷却ジャケット16の間に形成されたフリーボード空間に存在するガスや空気等の雰囲気中に含まれる水分が、被洗浄物Aに残着する洗浄液Bのアルコール系溶剤に吸着されるため、水切り効果が損なわれてしまう。
【0051】
しかし、降下途中の右側運搬体9bに保持された被洗浄物Aの前後両面に、前後一対の遠赤外線ヒータ6,6から放射される遠赤外線を照射して、被洗浄物A全体を洗浄液Bが蒸発気化する温度、すなわち、少なくともアルコール系溶剤が蒸発気化する温度(約80℃〜約85℃の範囲に含まれる温度)に均一に加熱すれば、被洗浄物Aに残着する水分を含んだ薄膜状のアルコール系溶剤が蒸発気化されるため、蒸気層5から取り出した際に、雰囲気中の水分が被洗浄物Aに再付着することがなく、水切り乾燥した状態を保つことができる。
【0052】
処理室2後部に配置した排気装置34は、処理室2の下部内壁面に開口した吸気口35,35と、処理室2の上部外壁面に配置した濾過ユニット36の吸気ポートを排気路37で連通接続し、有機排気を処理するための図示しない有機排気処理装置と、濾過ユニット36の排気ポートを図示しない排気路で接続している。濾過ユニット36に内蔵された図示しないファンの移送力により、処理室2内に放出されたフッ素系溶剤やアルコール系溶剤等の気化溶剤が含まれる雰囲気を吸気口35,35から吸気し、濾過ユニット36により濾過処理された雰囲気を有機排気処理装置へ供給して排気処理する。
【0053】
また、処理室2の天井部内壁面に配置した濾過ユニット38は、上記ファンの移送力により処理室2内の雰囲気を排気する際に、処理室2内に吸気される雰囲気をクリーンな状態に清浄濾過する。
【0054】
図示実施例は上記の如く構成するものにして、以下、水切り乾燥装置1により水分が付着した被洗浄物Aを水切り乾燥する方法を説明する。
【0055】
先ず、図1に示すように、純水等による水洗い処理後の被洗浄物Aを搬入コンベヤ7に載置して、処理室2左側内部に搬入口2aから搬入する。
【0056】
処理室2左側内部に搬入された被洗浄物Aを、処理槽3左側部に待機する運搬装置9の左側運搬体9aにより保持した後、左右一対の運搬体9a,9bを一括して垂直上昇させ、左側運搬体9aで保持した被洗浄物Aを処理槽3左側上方へ移動する。
【0057】
運搬体9a,9bを処理槽3の左側上方から右側上方へ水平移動させ、左側運搬体9aで保持した被洗浄物Aを処理槽3上方へ移動した後、運搬体9a,9bを垂直降下させ、図2、図4にも示すように、左側運搬体9aで保持した被洗浄物A全体を浸漬槽4に貯液された洗浄液Bに所定時間浸漬する。浸漬直後において、左側運搬体9aによる被洗浄物Aの保持を解除した後、運搬体9a,9bを上昇させ、処理槽3左側上方へ復帰移動させる。
【0058】
被洗浄物A全体を洗浄液Bに浸漬した際に、被洗浄物Aに付着する水分は、洗浄液Bに混入したアルコール系溶剤に溶解され、被洗浄物Aから分離・除去される。水分がアルコール系溶剤に溶解した水分溶解液Bbは、洗浄液Bの主成分であるフッ素系溶剤よりも比重が軽くなり、浸漬槽4に貯液された洗浄液Bの液面部分に浮上する。
【0059】
洗浄液Bの液面部分に浮上した水分溶解液Bbは、図3にも示すように、浸漬槽4の出入口4a周縁部から全方向へ向けてオーバーフローされ、処理槽3と浸漬槽4の対向壁面間に設けた貯液槽10に貯液される。
【0060】
浸漬槽4内部の角隅部付近や周縁部付近に水分が溶解した水分溶解液Bbが残留することがなく、被洗浄物Aを浸漬槽4の洗浄液Bから取り出した際に、洗浄液Bの液面部分に浮上した水分溶解液Bbが被洗浄物A外面に再付着するのを防止することができる。
【0061】
浸漬洗浄中において、処理槽3左側上方へ移動した運搬体9a,9bを降下させ、左側運搬体9aにより処理室2左側内部に搬入された次の被洗浄物Aを保持する動作と、右側運搬体9bにより浸漬槽4の洗浄液Bに浸漬された被洗浄物Aを保持する動作を同時に行う。
【0062】
次に、運搬体9a,9bを上昇させ、左側運搬体9aで保持した被洗浄物Aを処理槽3左側上方へ移動するとともに、右側運搬体9bで保持した被洗浄物Aを浸漬槽4の洗浄液Bから取り出して処理槽3上方へ移動する。
【0063】
右側運搬体9bで保持した被洗浄物Aを浸漬槽4の洗浄液Bから取り出した際に、浸漬洗浄後(水切り後)の被洗浄物Aを洗浄液Bの蒸気Baからなる蒸気層5中に移動させ、その洗浄液Bの蒸気Baにより被洗浄物Aの少なくとも接液面全体を、洗浄液Bの蒸発気化が促進される温度に加熱して蒸気洗浄する。
【0064】
蒸気洗浄後において、運搬体9a,9bを処理槽3よりも上方へ上昇した後、処理槽3の左側上方から右側上方へ水平移動させ、左側運搬体9aで保持した被洗浄物Aを処理槽3上方へ移動するとともに、右側運搬体9bで保持した被洗浄物Aを処理槽3左側上方へ移動する。
【0065】
処理槽3右側上方に水平移動した左右一対の運搬体9aを降下させ、左側運搬体9aで保持した被洗浄物Aを浸漬槽4の洗浄液Bに浸漬する動作と、右側運搬体9bで保持した被洗浄物Aを、処理槽3右側部の搬出コンベヤ8に載置する動作を同時に行う。
【0066】
左側運搬体9aで保持した蒸気洗浄後の被洗浄物Aを一定速度でゆっくりと降下させながら、図5、図6にも示すように、処理槽3右側部に配置した前後一対の遠赤外線ヒータ6,6から放射される遠赤外線を被洗浄物Aの前後両面に対して略同時に照射し、被洗浄物A全体を洗浄液Bが蒸発気化する温度に均一に加熱する。
【0067】
すなわち、少なくともアルコール系溶剤が薄膜蒸留される温度(約80℃)に加熱すれば、被洗浄物A外面からアルコール系溶剤が分離・除去されるので、大きさや形状に影響されることなく、小型・大型の被洗浄物Aを水分が分離・除去された状態に水切り乾燥することができる。水切り乾燥後の被洗浄物Aを蒸気層5から取り出した際に、雰囲気中の水分が被洗浄物Aに再付着することがなく、水切り乾燥した状態を保つことができる。
【0068】
また、加熱乾燥時において、温風や熱風等の乾燥した気流を被洗浄物Aに吹き付けてベーキング処理する場合、被洗浄物Aを高温に加熱するため、被洗浄物Aの熱による変質が懸念されるとともに、気流が吹き付けられる部分が早期に乾燥し、他の部分の乾燥が遅くなるため、乾燥ムラが発生しやすい。
【0069】
しかし、被洗浄物A全体を遠赤外線ヒータ6,6から放射される遠赤外線により均一に加熱して、被洗浄物Aに残着する薄膜状の洗浄液Bやアルコール系溶剤を薄膜蒸留するため、沸点温度に加熱しなくても、少なくともアルコール系溶剤の沸点よりも低い温度で加熱するだけで、被洗浄物Aに残着するアルコール系溶剤を蒸発気化することができる。また、乾燥速度に差が生じたり、乾燥ムラが発生することがなく、シミや跡等が被洗浄物A表面に残るのを防止することができる。且つ、熱風等の気流を送気・排気する必要がないため、微細なゴミ、塵埃等が洗浄済みのワークに付着するのを防止することができ、清浄度が要求されるクリーンルームでの使用が可能である。
【0070】
また、洗浄液Bの蒸発潜熱は、水分の蒸発潜熱よりも低く、被洗浄物A表面に対して薄膜状に残着しているため、洗浄液Bの沸点よりも低い温度に遠赤外線ヒータ6,6で加熱すれば、熱による変質を生じさせることなく、被洗浄物Aを、洗浄液B(水分が溶解したアルコール系溶剤も含む)が分離・除去された状態に乾燥処理することができる。
【0071】
右側運搬体9bで保持した水切り乾燥後の被洗浄物Aを搬出コンベヤ8に載置し、右側運搬体9bによる被洗浄物Aの保持を解除した後、運搬体9a,9bを上昇させ、処理槽3左側上方へ復帰移動させる。一方、水切り乾燥後の被洗浄物Aを、搬出コンベヤ8により処理室2右側外部へ搬出口2bから搬出すれば、水切り乾燥装置1による被洗浄物Aの水切り乾燥が完了する。上述と同様に、運搬体9a,9bを処理槽3の左側上方と右側上方へ往復移動させて、被洗浄物Aの水切り乾燥を継続する。
【0072】
図7は、2枚の遠赤外線ヒータ6,6を、被洗浄物Aの前後両面が片面ずつ順に加熱されるように上下に位置をずらせて配置した他の例を示し、上方の遠赤外線ヒータ6により被洗浄物Aの後面側を加熱した後、下方の遠赤外線ヒータ6により被洗浄物Aの前面側を加熱する。つまり、被洗浄物Aの前後両面を片面ずつ順に加熱するので、アルコール系溶剤が蒸発気化する温度以上に、被洗浄物Aを加熱し過ぎるのを防止することができる。
【0073】
また、複数枚の遠赤外線ヒータ6…を、被洗浄物Aの前後両面及び左右両面が略同時に加熱されるか、前後及び左右の各面が順に加熱されるように配置してもよい。
【0074】
また、遠赤外線ヒータ6を、大型の被洗浄物Aを加熱するのに最適な大きさ及び形状に形成してもよく、被洗浄物A全体を遠赤外線ヒータ6から放射される遠赤外線により均一に加熱することができる。
【0075】
図8は、蒸気層5から取り出された被洗浄物Aを、処理槽3の出入口3a側内壁面に配置した前後一対の遠赤外線ヒータ6,6により加熱する他の例を示し、遠赤外線ヒータ6,6は、処理槽3内に形成したフリーボード空間の前後内壁面に配置されている。つまり、蒸気層5上方に取り出された被洗浄物Aを処理槽3上方に一定速度で移動させながら、被洗浄物Aの前後両面を、前後一対の遠赤外線ヒータ6,6から放射される遠赤外線により均一に加熱して水切り乾燥するので、蒸気層5から取り出された直後の被洗浄物Aに、処理槽3のフリーボード空間に存在する雰囲気中の水分が再付着するのを防止することができ、上記実施例と略同等の作用及び効果を奏することができる。また、遠赤外線ヒータ6を、処理槽3の左右内壁面にも配置してもよい。
【0076】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の遠赤外線加熱手段は、実施例の遠赤外線ヒータ6に対応し、
以下同様に、
溶剤加熱手段は、加熱ヒータ11に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではなく、請求項に示される技術思想に基づいて応用することができ、多くの実施の形態を得ることができる。
【0077】
例えば運搬装置9により保持した被洗浄物Aを、処理槽3上方に配置した図示しない昇降装置に受け渡して、昇降装置により保持した被洗浄物Aを浸漬槽4の洗浄液Bに浸漬してもよい。また、被洗浄物Aの浸漬時において、処理槽3の出入口3aを蓋や扉等で閉塞してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】水切り乾燥装置による被洗浄物の処理工程を示す縦断正面図。
【図2】被洗浄物を浸漬槽の洗浄液に浸漬した状態を示す中央縦断側面図。
【図3】洗浄液を浸漬槽の全方向へオーバーフローする状態を示す斜視図。
【図4】被洗浄物を浸漬槽の洗浄液に浸漬する動作を示す説明図。
【図5】被洗浄物を遠赤外線により加熱する動作を示す説明図。
【図6】遠赤外線ヒータを同一高さに配置した例を示す斜視図。
【図7】遠赤外線ヒータを上下に配置した他の例を示す斜視図。
【図8】遠赤外線ヒータを処理槽内に配置した他の例を示す縦断正面図。
【符号の説明】
【0079】
A…被洗浄物
B…洗浄液
Ba…蒸気
Bb…水分溶解液
1…水切り乾燥装置
2…処理室
3…処理槽
4…浸漬槽
5…蒸気層
6…遠赤外線ヒータ
9…運搬装置
10…貯液槽
11…加熱ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分が付着した被洗浄物を、浸漬槽に貯液されたフッ素系溶剤とアルコール系溶剤を混合してなる洗浄液中に浸漬し、被洗浄物に付着する水分を洗浄液のアルコール系溶剤に溶解させて、該被洗浄物から水分を分離・除去する水切り乾燥装置であって、
上記浸漬槽に貯液された洗浄液の液面上に、該被洗浄物に付着する洗浄液の蒸発気化が促進される温度に加熱された洗浄液の蒸気からなる蒸気層を備え、
上記蒸気層から取り出された被洗浄物に遠赤外線を照射して、該被洗浄物に残着するアルコール系溶剤が蒸発気化する温度に加熱する遠赤外線加熱手段を設けた
水切り乾燥装置。
【請求項2】
上記浸漬槽に貯液された洗浄液の液面部分に浮上する水分が含まれる液を、該浸漬槽の全方向へオーバーフロー可能に構成した
請求項1に記載の水切り乾燥装置。
【請求項3】
上記浸漬槽に、上記洗浄液のフッ素系溶剤よりも沸点温度が高いフッ素系溶剤を加熱媒体とする溶剤加熱手段を設けた
請求項1に記載の水切り乾燥装置。
【請求項4】
上記遠赤外線加熱手段を、プレート状の遠赤外線ヒータで構成した
請求項1に記載の水切り乾燥装置。
【請求項5】
水分が付着した被洗浄物を、浸漬槽に貯液されたフッ素系溶剤とアルコール系溶剤を混合してなる洗浄液中に浸漬して、該被洗浄物に付着する水分をアルコール系溶剤に溶解させ、
上記洗浄液から取り出された被洗浄物を、該洗浄液の液面上に形成された洗浄液の蒸気からなる蒸気層中に移動して、該被洗浄物に残着する洗浄液の蒸発気化が促進される温度に洗浄液の蒸気で加熱し、
上記蒸気層から取り出された被洗浄物を、遠赤外線加熱手段から放射される遠赤外線により加熱して、該被洗浄物に残着するアルコール系溶剤を蒸発気化させて水切り乾燥する
水切り乾燥方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−82569(P2008−82569A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260197(P2006−260197)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(596168605)
【Fターム(参考)】