説明

水圧鉄管の厚み測定装置及びその厚み測定方法

【課題】長さが長い水圧鉄管の厚み測定に適しており、その厚み測定を経済的かつ安全に行うことが可能な水圧鉄管の厚み測定装置及びその厚み測定方法を提供する。
【解決手段】水圧鉄管11の内面12に吸着する複数の車輪13及び走行距離計18を備えた台車14と、水圧鉄管11の塗膜厚み及び総厚みの測定に使用する各センサー22、23を備える計装部19とを有し、計装部19は台車14と分離可能になって、計装部19には更に、台車14の前方、後方、及び各センサー22、23を撮像するカメラ27、28、32と、水圧鉄管11の清掃手段21と、台車14の傾きを検知する角度センサーと、計装部19の送電及び信号通信を行うケーブル31と、その巻取手段42が設けられている。その測定方法は、上流側から下流側へかけて下方へ傾斜又は垂直に配置された水圧鉄管11の上流側に厚み測定装置10を配置した後、下流側へ向けて走行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電所で使用する水圧鉄管の経年劣化に伴って生じる厚みの減少を自動で測定するための水圧鉄管の厚み測定装置及びその厚み測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水力発電所で使用する水圧鉄管は、経年劣化に伴ってその厚みが減少し強度が落ちてくるが、厚みが減少した水圧鉄管の耐圧強度を計算するため、水圧鉄管の厚み測定を定期的に行っている。この厚み測定においては、測定する水圧鉄管の周囲に測定用の足場を組んだ後、検査員が手動式の超音波板厚計を使用し、例えば、水圧鉄管の上下左右の厚みを測定することで行っている。
しかし、足場の組立期間が必要になると共に、組立コストがかかり、更に、検査員が高い足場上で作業するため、安全確保のために細心の注意が必要であった。
そこで、この問題を解消するため、特許文献1に、水圧鉄管の内面に吸着しながら自走する複数の車輪を備えた台車と、台車の走行距離を測定するための走行距離計と、水圧鉄管の内面に形成された塗膜厚みの測定に使用する渦流センサーと、塗膜厚みを含む水圧鉄管の総厚みの測定に使用する超音波センサーとを有する厚み測定装置を使用した厚み測定方法が開示されている。
この厚み測定装置は、検査員が容易に近づくことができる地上型の水圧鉄管の厚みを測定する装置に適したものであり、検査員が厚み測定装置を測定箇所まで運んで、水圧鉄管の厚み測定を自動的に行うものである。これにより、足場を設置することなく、外面側から水圧鉄管の厚みを連続的に測定できる。なお、水圧鉄管の外面側に障害物があり、外面側からの厚み測定ができない場合は、水圧鉄管に設けられたマンホールから厚み測定装置を装入し、内面側から水圧鉄管の厚みを連続的に測定できる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−61213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水圧鉄管には、検査員が外面側に容易に近づくことができず、また内面側にも容易に入っていけないような急傾斜の地上型鉄管又は埋設型鉄管もある。このような水圧鉄管の厚み測定を任意の位置で行うためには、厚み測定装置を水圧鉄管内に装入し、遠隔操作によって内面側で長距離(例えば、200mm以上)移動させる必要がある。
このため、特許文献1の発明のような厚み測定装置を長距離移動させる場合は、例えば、水圧鉄管の内面(減肉)状況、厚み測定装置の走行位置のずれ、又は各センサーを用いた測定状況を、水圧鉄管の外部から確認することはできないため、測定箇所の位置精度が悪くなる恐れがあった。
また、厚み測定装置の各センサーからの信号は、厚み測定装置本体と水圧鉄管の外部とを接続するケーブルを介して、アナログ信号のまま伝送しているが、ケーブル長さが50mを超える場合、減衰が大きくなって測定精度が低下する。
そして、図8に示すように、水を貯留するサージタンク90から発電を行う水車91までの落差が、例えば200m以上の埋設型の長径間水圧鉄管92内で、厚み測定装置が故障して止まった場合、前記したケーブルを巻取って厚み測定装置を回収しようとすると、例えば、水圧鉄管92のエルボ部93でのケーブルの摩擦抵抗、長さに伴うケーブルの重量増加、及び水圧鉄管92内面への車輪のマグネットの吸着抵抗により、厚み測定装置の回収に多大な牽引力を要することになる。このため、ケーブルの巻取りの際に、ケーブルが切断する恐れがあるため、ケーブルサイズを大きくしたり、また、ケーブルの重量増加に伴って巻取機を大型化する必要があった。
更に、このような水圧鉄管92の厚み測定を行う場合、ケーブルの重量が増加するため、この重量に耐えられず、水圧鉄管に吸着した厚み測定装置が落下する恐れもあった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、長さが長い水圧鉄管の厚み測定に適しており、その厚み測定を経済的かつ安全に行うことが可能な水圧鉄管の厚み測定装置及びその厚み測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る水圧鉄管の厚み測定装置は、水力発電所で使用する水圧鉄管の内面に吸着しながら自走する複数の車輪及び走行距離計を備えた台車と、
該台車に搭載され、前記水圧鉄管の内面に形成された塗膜厚みの測定に使用する渦流センサー、及び該塗膜厚みを含む前記水圧鉄管の総厚みの測定に使用する超音波センサーを備える計装部とを有し、前記水圧鉄管の厚みを非破壊で測定する装置において、
前記計装部は前記台車と分離可能な構成となっており、しかも該計装部には更に、
前記台車の前方、後方、及び前記各センサーの測定状況をそれぞれ撮像する複数台のカメラと、
前記総厚み及び前記塗膜厚みの測定を行う前に、前記水圧鉄管の内面を洗浄する清掃手段と、
前記台車の走行の際に該台車の前後左右の傾きを検知する角度センサーとを有し、
また、前記水圧鉄管外から前記計装部への送電、及び前記水圧鉄管外と前記計装部の信号通信を行うためのケーブルと、
前記ケーブルの送出し及び巻取りを行うための巻取手段が設けられている。
【0007】
第1の発明に係る水圧鉄管の厚み測定装置において、前記台車には、該台車の前記車輪と該台車に設けられた駆動モータとの接続及び解除を行うクラッチ機構が設けられ、前記台車及び前記計装部のいずれか一方又は双方の故障の際には、前記クラッチ機構により、前記車輪と前記駆動モータとの接続状態を解除することが好ましい。
第1の発明に係る水圧鉄管の厚み測定装置において、前記ケーブルは、その外周に突出部が設けられた100m以上の長さを有するものであり、使用にあっては、前記ケーブルが前記突出部を介して前記水圧鉄管の内面に沿って移動することが好ましい。
第1の発明に係る水圧鉄管の厚み測定装置において、前記ケーブルは、前記水圧鉄管外と前記計装部の信号通信を行うための光ケーブル部を有し、前記信号をデジタル信号に変換して伝送することが好ましい。
【0008】
前記目的に沿う第2の発明に係る水圧鉄管の厚み測定方法は、水力発電所で使用する水圧鉄管の内面に形成された塗膜厚みの測定に使用する渦流センサーと、該塗膜厚みを含む前記水圧鉄管の総厚みの測定に使用する超音波センサーとを有し、前記水圧鉄管の内面に吸着しながら自走する厚み測定装置を使用して、前記水圧鉄管の厚みを測定する方法において、
前記水圧鉄管は、上流側から下流側へかけて下方へ傾斜又は垂直に配置されており、前記厚み測定装置を前記水圧鉄管の上流側に配置した後、該厚み測定装置を下流側へ向けて走行させる。
第2の発明に係る水圧鉄管の厚み測定方法において、前記水圧鉄管の長さが100m以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜4記載の水圧鉄管の厚み測定装置は、台車と計装部とが分離可能になっているので、厚み測定装置の各機器を小型化でき水圧鉄管内への装入が容易であると共に、持ち運びにも便利である。
また、厚み測定装置は、台車の前方、後方、及び各センサーの測定状況をそれぞれ撮像する複数台のカメラを有しているので、例えば、長さが長い水圧鉄管の厚み測定の際にも、水圧鉄管の内面(減肉)状況、台車の走行状況、ケーブルの状況、又は各センサーの測定状況を、水圧鉄管の外部から容易に確認できる。
そして、厚み測定装置は清掃手段を有しているので、例えば、水圧鉄管の内面に堆積した水垢を除去でき、水圧鉄管の厚みを精度よく測定できる。また、水圧鉄管内を台車がスリップすることなく正常に走行できる。
厚み測定装置は、角度センサーを有しているので、現状の台車の走行状況を容易に把握でき、その位置を修正することにより、測定対象を精度良く測定できる。
更に、厚み測定装置は、ケーブルを有しているので、このケーブルの長さを、ケーブルの送出し及び巻取りを行うための巻取手段で調節することで、長さが長い水圧鉄管の測定も容易にできる。
このように、厚み測定装置は、長さが長い水圧鉄管の厚み測定に適しており、その厚み測定を、簡単な構成で経済的かつ安全に行うことが可能である。
【0010】
特に、請求項2記載の水圧鉄管の厚み測定装置は、クラッチ機構を設けているので、故障の際には、車輪と駆動モータとの接続を解除することで、車輪の回転を妨げる力を小さくできる。これにより、例えば、長さが長い水圧鉄管の内部から、厚み測定装置が自力で元の位置に戻れなくなった場合においても、ケーブルサイズ又はケーブルの巻取機の能力を過剰に大きくすることなく、水圧鉄管の外部からケーブルを巻取ることで、水圧鉄管内からの厚み測定装置の回収を容易に実施できる。
請求項3記載の水圧鉄管の厚み測定装置は、100m以上の長さを有するケーブルを使用するので、長さの長い水圧鉄管の厚み測定を容易に実施できる。また、ケーブルの外周には、突出部が設けられているので、長さが長くなるに伴ってケーブルの重量が増加しても、水圧鉄管の内面に対するケーブルの摩擦抵抗を、突出部が無い場合よりも小さくできる。これにより、各種機器を搭載して大型化した厚み測定装置の重量増大に伴う更なる摩擦抵抗の増加を抑制できる。
請求項4記載の水圧鉄管の厚み測定装置は、水圧鉄管外と計装部の信号通信を、デジタル信号に変換して光ケーブル部で伝送して行うので、アナログ信号による伝送とは異なり、ケーブルの長さが長くなっても減衰がほとんどなく、水圧鉄管の厚みを高い測定精度で得ることができる。
【0011】
請求項5及び6記載の水圧鉄管の厚み測定方法は、厚み測定装置を下降させながら水圧鉄管の厚み測定を行うので、例えば、厚み測定装置の重量が重くなったり、また厚み測定装置に送電を行うケーブルの長さが長くなるに伴ってその重量が重くなった場合においても、厚み測定装置の駆動力を過剰に大きくすることなく、厚み測定装置を自重で下降させながら水圧鉄管の厚み測定を実施できる。このように、長さが長い水圧鉄管の厚み測定を、簡単な方法で経済的かつ安全に行うことが可能である。
特に、請求項6記載の水圧鉄管の厚み測定方法は、長さが100m以上の水圧鉄管の厚み測定を行うので、前記した効果が更に顕著に現れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る水圧鉄管の厚み測定装置の側面図、図2は同水圧鉄管の厚み測定装置の正面図、図3は同水圧鉄管の厚み測定装置の背面図、図4は同水圧鉄管の厚み測定装置のクラッチ機構の説明図、図5(A)、(B)はそれぞれ同水圧鉄管の厚み測定装置のケーブルの断面図、側面図、図6は同水圧鉄管の厚み測定装置の使用状態を示す説明図、図7は同水圧鉄管の厚み測定装置の装置構成の説明図である。
【0013】
図1〜図7に示すように、本発明の一実施の形態に係る水圧鉄管の厚み測定装置(以下、単に厚み測定装置ともいう)10は、水力発電所で使用する水圧鉄管(例えば、内径が1000mm以上5000mm以下程度)11の厚みを、水圧鉄管11を破壊することなく自動で測定することが可能な装置であり、特に、100m以上(ここでは200m程度)の長さを有する水圧鉄管11の厚み測定に適した装置である。以下、詳しく説明する。
【0014】
図1〜図3に示すように、厚み測定装置10は、水圧鉄管11の内面12に吸着しながら自走する複数の車輪13を備えた台車14を有している。
台車14の左右両側には、それぞれ車輪13が前後方向(走行方向)に4個ずつ回転可能に設けられている。この車輪13は、周囲にウレタンゴムがコーティングされたマグネット車輪(例えば、直径が100mm程度)であり、図4に示すように、台車14の左右各側の前後に配置される2個ずつの車輪13を一組として、1つの減速機付きの直流駆動モータ15で走行可能にしている。このように、4台の駆動モータ15を使用することで、マグネット作用時における台車14の駆動力を向上させることができ、しかも各駆動モータ15の出力を個別に調整(車輪の回転速度を調整)することで、台車14の進行方向を調整できる。
なお、複数の車輪13は、正面視してハ字状に配置され、台車14の上下方向に対して傾斜(例えば、1度以上10度以下程度)させているので、水圧鉄管11の内面12に対する車輪13の接触面積を広くでき、水圧鉄管11の内面12への車輪13の吸着力を向上できる。
【0015】
図4に示すように、一組の車輪13を駆動する駆動軸16と駆動モータ15との間には、クラッチ機構17が設けられている。なお、図4は、台車14の片側について図示している。
このクラッチ機構17としては、駆動軸16に設けられた駆動軸用ギアと、駆動モータ15に設けられた駆動モータ用ギアと、この二つのギアに噛み合うギアとで構成できる。ここで、駆動軸用ギアと駆動モータ用ギアにギアを噛み合わせることで、駆動軸16と駆動モータ15とを接続し、駆動モータ15の動力を駆動軸16へ伝達して車輪13を回転できる。一方、駆動軸用ギアと駆動モータ用ギアからギアを外すことで、駆動軸16と駆動モータ15との接続を解除し、車輪13の回転を自由状態にできる。
台車14の下側中央部には、ロータリエンコーダ(走行距離計の一例)18が設けられている。このロータリエンコーダ18は、ばねを使用して水圧鉄管11の内面12に所定の力で押し付けられる構成となっている。
なお、台車14のクラッチ機構17を除く詳細な構成は、例えば、特開2004−61213号公報に記載されたものと同様にできる。
【0016】
図1〜図3に示すように、台車14には、計装部19が取付け取外し(分離)可能に載置されている。
計装部19は、台車14に載置するケーシング20を有し、このケーシング20の前方下側には水圧鉄管11の内面12を洗浄する清掃手段21が設けられ、後方下側には渦流センサー22及び反射型の超音波センサー23が設けられている。
清掃手段21は、厚み測定装置10の幅方向に平行に配置される軸心を中心として、回転可能になった洗浄ブラシ24を有している。なお、洗浄ブラシ24の前後斜め上方には、洗浄ブラシ24の軸心と平行に給水パイプ25が設置されている。
これにより、給水パイプ25の長手方向に渡って等間隔に複数取付けられた噴出口26を介して、水圧鉄管11の内面12に水を吹き付けると共に、洗浄ブラシ24を回転して水圧鉄管11の内面12を洗浄できる。
【0017】
渦流センサー22は、水圧鉄管11の内面12に形成された塗膜厚みの測定に使用する従来公知のものであり、この渦流センサー22から得られた信号(電圧)を処理して、塗膜厚みtを求めることができる。また、超音波センサー23は、塗膜厚みtを含む水圧鉄管11の総厚みの測定に使用する従来公知のものであり、この超音波センサー23から得られた信号(波形)を処理して、総厚みSを求めることができる。
この総厚みSから塗膜厚みtを引算することで、水圧鉄管11の厚みTを求めることができる。
上記した計装部19の清掃手段21、渦流センサー22、及び超音波センサー23の詳細な構成は、例えば、特開2004−61213号公報に記載されたものと同様にできる。
【0018】
更に、計装部19のケーシング20の前側上端部及び後ろ側上端部には、厚み測定装置10の前方を撮像する前方観察用カメラ(CCDカメラ)27及び厚み測定装置10の後方を撮像する後方観察用カメラ(CCDカメラ)28が、それぞれ設置されている。
この前方観察用カメラ27は、台車14の上下方向に配置された軸心により、台車14の左右方向に首振り可能で、しかも台車14の水平方向に配置された軸心により、台車14に対して傾斜角度を調整可能な構成となっている。なお、前方観察用カメラ27の両側には、高輝度LEDで構成される前方用照明29が設けられている。
これにより、前方観察用カメラ27に対する前方用照明29の固定位置を調整することで、暗い水圧鉄管11内でも、例えば、水圧鉄管11の内面(減肉)状況、又は厚み測定装置10の走行状況を撮像できる。
【0019】
また、後方観察用カメラ28の両側にも、高輝度LEDで構成される後方用照明30が設けられている。この後方観察用カメラ28及び後方用照明30は、その設置位置が固定されているが、前方観察用カメラ27及び前方用照明29と同様、その位置を調整することも可能である。
これにより、暗い水圧鉄管11内でも、例えば、厚み測定装置10の後退走行時の走行状況、又は厚み測定装置10の計装部19へ外部から送電を行うケーブル31の状況を撮像できる。
また、計装部19のケーシング20の後ろ側面には、渦流センサー22及び超音波センサー23の測定状況を撮像するセンサー観察用カメラ(CCDカメラ)32が設置されている。
このセンサー観察用カメラ32にも、高輝度LEDで構成されるセンサー用照明が設けられており、暗い水圧鉄管11内でも、渦流センサー22及び超音波センサー23による測定状況を撮像できる。
【0020】
ケーシング20には、台車14の走行の際に台車14の前後左右の傾きを検知する従来公知の角度センサーが設けられている。これにより、例えば、台車14が水圧鉄管11のどの位置を走行しているのか、また台車14の走行状況を容易に把握できる。
また、ケーシング20の両側には、駆動モータ15及びクラッチ機構17の制御ケーブルを接続するための接続コネクタ33が設けられている。そして、ケーシング20の前側には、清掃手段21の給水パイプ25への給水用配管、洗浄ブラシ24の制御ケーブル、前方観察用カメラ27及び前方用照明29の制御ケーブルを接続するための接続コネクタ(図示しない)が設けられている。更に、ケーシング20の後ろ側には、渦流センサー22及び超音波センサー23との信号通信等を行うケーブル31、後方観察用カメラ28及び後方用照明30の制御ケーブルを接続するための接続コネクタ(図示しない)が設けられている。
【0021】
図5(A)、(B)に示すように、計装部19に接続されるケーブル31は、ステンレスワイヤー34、水チューブ35、光ファイバー(光ケーブル部の一例)36、電源線37、通信線38、及び制御線39をまとめた複合ケーブルであり、水圧鉄管11外から計装部19への送電、給水、及び水圧鉄管11外と計装部19の信号通信を行うためのものである。このケーブル31は、水圧鉄管11の長さに応じてその長さが決定されており、現状の水圧鉄管11の長さを考慮すれば、例えば、100m以上300m以下程度(ここでは200m)の長さを有し、10mm以上30mm以下程度(ここでは20mm)の直径を有している。
ケーブル31の外周部は、軽量かつ強靱となって水圧鉄管11との摩擦抵抗を小さくできるもの、例えばポリアミドで覆われている。なお、ケーブル31の外周には、ケーブル31の長手方向に渡って螺旋状に芯線40が捲かれており、これをポリアミドで覆うことにより、ケーブル31の外周に突出部41(例えば、突出高さが0.5mm以上2mm以下程度、螺旋の周期が50mm以上200mm以下程度)が設けられている。
これにより、ケーブル31が突出部41を介して水圧鉄管11の内面12に沿って移動するため、突出部41が無い場合と比較して、その摩擦抵抗を例えば1/5以下程度まで低減できる。
【0022】
このケーブル31の中心に配置されたステンレスワイヤー34は、ケーブル31の張力を向上させるものであり、例えば、外径が1.5mm以上3.5mm以下(ここでは2.4mm)程度のものである。これにより、ケーブル31を牽引して台車14を回収する際に発生する張力により、ケーブル31が切断されることを防止できる。
また、ケーブル31は、図6、図7に示すように、ケーブル31を巻き取る巻取機(巻取手段の一例)42を介して制御装置(例えば、遠隔操作器)43に接続され、この制御装置43がカメラモニター44と信号処理装置(例えば、ノート型パソコン)45に接続されている。この巻取機42は、ケーブル31の送出し速度又は巻取り速度を、台車14の走行速度(走行位置)と同期運転させることが可能な構成となっている。また、巻取機42には、スリップリングとスイベルジョイントが設けられ、ケーブル31の送出し又は巻取りの際のケーブル31との電気的な接続と、水の供給を可能にしている。なお、巻取機42には、光−LAN変換器及び光−映像変換器が設けられている。
【0023】
これにより、ケーブル31内の水チューブ35を介して、ポンプ46により水タンク47から清掃手段21の給水パイプ25へ水を供給できる。
また、光ファイバー36を使用することで、渦流センサー22及び超音波センサー23からのアナログ信号を、台車14に搭載されたAD変換器49でデジタル信号に変換し、信号の減衰を抑制しながら伝送できる。なお、光ファイバー36で伝送した信号は、巻取機42の光−LAN変換器を介して信号処理装置45へ送られる。
なお、ロータリエンコーダ18及び角度センサーからの信号も、信号処理装置45へ送ることができる。
そして、電源線37により、発電機48から計装部19へ送電できる。これにより、例えば、駆動モータ15、清掃手段21の洗浄ブラシ24の作動、前方観察用カメラ27、後方観察用カメラ28、センサー観察用カメラ32、電源及び制御基板、及びAD変換器49の動作が可能になる。
また、通信線(例えば、光ファイバー)38により、前方観察用カメラ27、後方観察用カメラ28、及びセンサー観察用カメラ32で撮像した画像信号を、AD変換器49でデジタル信号に変換し、巻取機42の光−映像変換器を介してカメラモニター44へ送信できる。
更に、制御線39により、制御装置43からの指令を計装部19へ送信できる。
【0024】
このように、ケーブル31により、水圧鉄管11外から計装部19への送電、及び水圧鉄管11外と計装部19の信号通信が可能になるので、信号処理装置45が渦流センサー22及び超音波センサー23からの信号を取り込み、測定波形をディスプレイ上にグラフィック表示できる。従って、信号処理装置45に予め水圧鉄管11の配置図を入力しておくことにより、例えば、装入基準点からの台車14の位置(距離)、台車14の進行角度、及び走行角度を、ディスプレイ上にグラフィックに表示できる。
以上のことから、厚み測定装置10により、水圧鉄管11の厚みを連続的に測定しながら、作業者は、カメラモニター44により、水圧鉄管11内の状況を確認できるので、厚み測定を経済的かつ安全に行うことができる。
【0025】
続いて、本発明の一実施の形態に係る水圧鉄管の厚み測定方法を、前記した厚み測定装置10及び図6を参照しながら説明する。なお、測定対象となる水圧鉄管11は、上流側から下流側へかけて垂直に配置されたものである(図8参照)。
まず、台車14と計装部19とを分離した状態で水圧鉄管11内へ装入し、内部で台車14に計装部19を載置して取付ける。このとき、計装部19に、前方観察用カメラ27、後方観察用カメラ28、センサー観察用カメラ32、清掃手段21、渦流センサー22、超音波センサー23、及びケーブル31を取付ける。なお、信号処理装置45には、厚み測定装置10が測定しようとする水圧鉄管11の形状を予め入力しておく。
【0026】
そして、厚み測定装置10を、測定する水圧鉄管11の上流側の底面(水圧鉄管11の底位置を基準として、例えば±30度の範囲内)に配置した後、ロータリエンコーダ18が水圧鉄管11の内面12に接触していることを確認する。そして、制御装置43により、前方用照明29、後方用照明30、及びセンサー用照明を点灯させ、前方観察用カメラ27、後方観察用カメラ28、及びセンサー観察用カメラ32の撮像状態を、カメラモニター44により確認する。なお、前方観察用カメラ27については、制御装置43によってその撮像位置を調整すると共に、前方用照明29の位置も調整する。
【0027】
以上に示す作業を順次行い、厚み測定装置10の測定準備が整った後、制御装置43によって駆動モータ15を駆動し、水圧鉄管11の内面12に車輪13を吸着させながら、水圧鉄管11の下流側へ向けて走行(例えば、10m/分以下程度)させる。このとき、ケーブル31の巻取機42からの送出し速度も、台車14の走行速度と略同程度にする。そして、清掃手段21を作動させて水圧鉄管11の内面12を洗浄しながら、渦流センサー22と超音波センサー23を使用して、信号処理装置45によって連続的に洗浄された水圧鉄管11の厚みを求める。なお、この測定位置は、ロータリエンコーダ18により得られる。また、厚み測定装置10の進行方向は、角度センサーの信号によって信号処理装置45のディスプレイ上で確認できる。
このようにして、水圧鉄管11の厚みを連続的に測定する際に、厚み測定装置10の進行方向が予め設定した位置よりもずれた場合、制御装置43によって各駆動モータ15の出力を個別に調整し、車輪13の回転数を調整して、厚み測定装置10の進行方向を正しい位置に修正する。
【0028】
この方法としては、例えば、厚み測定装置10が設定方向よりも左側へ移動している場合、右側の車輪13よりも左側の車輪13の回転数を速くする。また、厚み測定装置10が設定方向よりも右側へ移動している場合、左側の車輪13よりも右側の車輪13の回転数を速くする。
これにより、厚み測定装置10の進行方向を、正しい位置に修正できる。
このようにして、水圧鉄管11の厚み測定が終了した後、制御装置43により厚み測定装置11の車輪13を逆回転させると共に、巻取機42でケーブル31を巻取り、後方観察用カメラ28で後退状態及びケーブル31の状況(例えば、弛みの発生)を確認しながら、元の位置まで自走させる。
【0029】
なお、厚み測定装置10の移動中に、台車14及び計装部19のいずれか一方又は双方の故障の際には、クラッチ機構17により、車輪13と駆動モータ15との接続状態を解除する。
例えば、前方観察用カメラ27が故障の際、計装部19への送電が正常に実施できれば、発電機48を用いてクラッチ機構17の動作を行う直流モータを作動させ、車輪13と駆動モータ15との接続状態を解除する。また、この送電ができない場合は、計装部19に積載したバッテリー(内部電池)を用いて直流モータを作動させ、車輪13と駆動モータ15との接続状態を解除する。このとき、直流モータは、所定の時間(例えば、1時間程度)経過した後に作動させることで、車輪13と駆動モータ15との接続状態の解除が、突然発生しないようにする。
このように、車輪13と駆動モータ15との接続状態を解除した後、巻取機42によってケーブル31を巻取り回収することで、台車13を元の位置まで戻す。
【0030】
元の位置に戻った厚み測定装置10の計装部19から、前方観察用カメラ27、後方観察用カメラ28、センサー観察用カメラ32、清掃手段21、渦流センサー22、超音波センサー23、及びケーブル31を取外し、台車13から計装部19を分離した後、これらを水圧鉄管11内から取り出す。
このように、本発明の厚み測定装置10は、長さが長い水圧鉄管11の厚み測定に適しており、その厚み測定を経済的かつ安全に行うことできる。
【0031】
以上、本発明を、一実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の水圧鉄管の厚み測定装置及びその厚み測定方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態おいては、上流側から下流側へかけて垂直に配置された水圧鉄管の厚みを、厚み測定装置を使用して測定したが、上流側から下流側へかけて下方へ傾斜した水圧鉄管の厚みを測定することも可能である。
そして、前記実施の形態においては、ケーブルの周囲に連続的に螺旋状の突出部を設けた場合について説明したが、例えば、ケーブルの長手方向に渡って断続的に螺旋状の突出部を設けたり、断面円形又は断面楕円形の小さな突出部(例えば、5mm以下程度)をケーブルの周囲に多数設けたりすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態に係る水圧鉄管の厚み測定装置の側面図である。
【図2】同水圧鉄管の厚み測定装置の正面図である。
【図3】同水圧鉄管の厚み測定装置の背面図である。
【図4】同水圧鉄管の厚み測定装置のクラッチ機構の説明図である。
【図5】(A)、(B)はそれぞれ同水圧鉄管の厚み測定装置のケーブルの断面図、側面図である。
【図6】同水圧鉄管の厚み測定装置の使用状態を示す説明図である。
【図7】同水圧鉄管の厚み測定装置の装置構成の説明図である。
【図8】水力発電設備の説明図である。
【符号の説明】
【0033】
10:水圧鉄管の厚み測定装置、11:水圧鉄管、12:内面、13:車輪、14:台車、15:駆動モータ、16:駆動軸、17:クラッチ機構、18:ロータリエンコーダ(走行距離計)、19:計装部、20:ケーシング、21:清掃手段、22:渦流センサー、23:超音波センサー、24:洗浄ブラシ、25:給水パイプ、26:噴出口、27:前方観察用カメラ、28:後方観察用カメラ、29:前方用照明、30:後方用照明、31:ケーブル、32:センサー観察用カメラ、33:接続コネクタ、34:ステンレスワイヤー、35:水チューブ、36:光ファイバー(光ケーブル部)、37:電源線、38:通信線、39:制御線、40:芯線、41:突出部、42:巻取機(巻取手段)、43:制御装置、44:カメラモニター、45:信号処理装置、46:ポンプ、47:水タンク、48:発電機、49:AD変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水力発電所で使用する水圧鉄管の内面に吸着しながら自走する複数の車輪及び走行距離計を備えた台車と、
該台車に搭載され、前記水圧鉄管の内面に形成された塗膜厚みの測定に使用する渦流センサー、及び該塗膜厚みを含む前記水圧鉄管の総厚みの測定に使用する超音波センサーを備える計装部とを有し、前記水圧鉄管の厚みを非破壊で測定する装置において、
前記計装部は前記台車と分離可能な構成となっており、しかも該計装部には更に、
前記台車の前方、後方、及び前記各センサーの測定状況をそれぞれ撮像する複数台のカメラと、
前記総厚み及び前記塗膜厚みの測定を行う前に、前記水圧鉄管の内面を洗浄する清掃手段と、
前記台車の走行の際に該台車の前後左右の傾きを検知する角度センサーとを有し、
また、前記水圧鉄管外から前記計装部への送電、及び前記水圧鉄管外と前記計装部の信号通信を行うためのケーブルと、
前記ケーブルの送出し及び巻取りを行うための巻取手段が設けられていることを特徴とする水圧鉄管の厚み測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の水圧鉄管の厚み測定装置において、前記台車には、該台車の前記車輪と該台車に設けられた駆動モータとの接続及び解除を行うクラッチ機構が設けられ、前記台車及び前記計装部のいずれか一方又は双方の故障の際には、前記クラッチ機構により、前記車輪と前記駆動モータとの接続状態を解除することを特徴とする水圧鉄管の厚み測定装置。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の水圧鉄管の厚み測定装置において、前記ケーブルは、その外周に突出部が設けられた100m以上の長さを有するものであり、使用にあっては、前記ケーブルが前記突出部を介して前記水圧鉄管の内面に沿って移動することを特徴とする水圧鉄管の厚み測定装置。
【請求項4】
請求項3記載の水圧鉄管の厚み測定装置において、前記ケーブルは、前記水圧鉄管外と前記計装部の信号通信を行うための光ケーブル部を有し、前記信号をデジタル信号に変換して伝送することを特徴とする水圧鉄管の厚み測定装置。
【請求項5】
水力発電所で使用する水圧鉄管の内面に形成された塗膜厚みの測定に使用する渦流センサーと、該塗膜厚みを含む前記水圧鉄管の総厚みの測定に使用する超音波センサーとを有し、前記水圧鉄管の内面に吸着しながら自走する厚み測定装置を使用して、前記水圧鉄管の厚みを測定する方法において、
前記水圧鉄管は、上流側から下流側へかけて下方へ傾斜又は垂直に配置されており、前記厚み測定装置を前記水圧鉄管の上流側に配置した後、該厚み測定装置を下流側へ向けて走行させることを特徴とする水圧鉄管の厚み測定方法。
【請求項6】
請求項5記載の水圧鉄管の厚み測定方法において、前記水圧鉄管の長さが100m以上であることを特徴とする水圧鉄管の厚み測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−108014(P2007−108014A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−299182(P2005−299182)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000220642)東京電設サービス株式会社 (21)
【出願人】(591053856)新日本非破壊検査株式会社 (29)
【Fターム(参考)】