説明

水性分散液及びその製造方法並びに積層体

【課題】耐熱性に優れた塗膜を形成でき、保存安定性に優れた水性分散液、該水性分散液を簡単な方法で製造できる水性分散液の製造方法、並びに耐熱性に優れた積層体を提供する。
【解決手段】加水分解性の基を有しない、分子量が500以であるヒンダードフェノール型酸化防止剤が、有機溶剤に溶解された酸化防止剤溶液を調製する工程と、前記酸化防止剤溶液と水性媒体にポリオレフィン系樹脂が分散された水性分散液とを混合する工程と、を有する水性分散液の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性分散液及びその製造方法並びに積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水性媒体中にポリオレフィン系樹脂が分散された水性分散液が知られており、各種塗料、各種コーティング液、樹脂フィルムの原料など、様々な用途に用いられている。
【0003】
一方、従来より酸化防止剤について種々の検討が行われている。
例えば、塩化ビニル系樹脂の酸化防止等を目的とし、酸化防止剤乳化液を塩化ビニル重合系に添加する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、酸化防止剤の自動装入が可能で、熱安定性の向上した塩化ビニル樹脂が得られる塩化ビニル類の乳化重合方法に関する技術として、塩化ビニル類の重合時に粉末状の酸化防止剤を乳化剤および/または懸濁剤により水に微細な粉末状で分散した乳濁液を添加し、生成する塩化ビニル樹脂中に均一に酸化防止剤を分散させる技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
さらには、革および擬革の光および/または熱の影響に対する耐性を向上させる方法として、乳化剤または分散剤と、(a)非水溶性立体障害アミン、(b)非水溶性紫外線吸収剤および/または(c)非水溶性酸化防止剤および(d)所望により、その他の添加剤とを含有する水性エマルジョンまたは分散物を用いて基質(革および擬革)を処理する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−310809号公報
【特許文献2】特開平6−25310号公報
【特許文献3】特開平7−252500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のポリオレフィン系水性分散液を用いて形成された塗膜は、高温(例えば、200℃以上)に曝された場合に黄変が見られる等、耐熱性に問題があった。
塗膜の耐熱性を向上させる方法としては、予め酸化防止剤を練りこんだポリオレフィン樹脂を用いてポリオレフィン系水性分散液を製造する方法や、ポリオレフィン系分散物に酸化防止剤の粉末を直接ブレンドしてポリオレフィン系水性分散液を製造する方法が考えられるが、これらの方法では、ポリオレフィン系水性分散液中における酸化防止剤の分散性が低下する傾向がある。
また、上記特許文献1〜3には酸化防止剤を含む乳化液が記載されてはいるものの、加水分解性の基を有しない、分子量が500以上であるヒンダードフェノール型酸化防止剤を積極的に選択することは記載されていない。従って、これらの乳化液を含むポリオレフィン系水性分散液では、分散液中で酸化防止剤が分解する場合があり、保存安定性が低下する場合がある。
以上により、従来は、酸化防止剤を含有するポリオレフィン系水性分散液を用いて塗膜を形成しても塗膜の耐熱性向上効果が十分に得られない場合があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、耐熱性に優れた塗膜を形成でき、保存安定性に優れた水性分散液を提供すること、該水性分散液を簡単な方法で製造できる水性分散液の製造方法を提供すること、並びに耐熱性に優れた積層体を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定の酸化防止剤を有機溶剤に溶解させた溶液と、ポリオレフィン系樹脂が分散された分散物と、を混合して得られた水性分散液は、保存安定性に優れ、かつ、塗膜としたときの耐熱性を顕著に向上できるとの知見を得、この知見に基づき本発明を完成した。
即ち、前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
【0008】
<1> 加水分解性の基を有しない、分子量が500以上であるヒンダードフェノール型酸化防止剤を、有機溶剤に溶解させて酸化防止剤溶液を調製する工程と、前記酸化防止剤溶液と水性媒体にポリオレフィン系樹脂が分散されたポリオレフィン系分散物とを混合する工程と、を有する水性分散液の製造方法である。
【0009】
<2> 前記有機溶剤が、前記ヒンダードフェノール型酸化防止剤を25℃で0.1質量%以上溶解し、かつ30℃〜250℃の沸点を有する<1>に記載の水性分散液の製造方法である。
【0010】
<3> 前記有機溶剤が、構造中に窒素および酸素の少なくとも一方を有する化合物、ならびに芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種を含む<1>または<2>に記載の水性分散液の製造方法である。
【0011】
<4> 前記有機溶剤が、N−メチルピロリドンおよびアセトンの少なくとも一方を含む<1>〜<3>のいずれか1つに記載の水性分散液の製造方法である。
【0012】
<5> 前記ヒンダードフェノール型酸化防止剤が、下記一般式(I)で表される化合物である<1>〜<4>のいずれか1つに記載の水性分散液の製造方法。
【化1】


〔一般式(I)中、R及びRのうち一方は、炭素数3〜10の分岐状アルキル基を表し、R及びRのうち他方は、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状アルキル基、又は炭素数3〜10の分岐状アルキル基を表す。
一般式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状アルキル基、又は炭素数3〜10の分岐状アルキル基を表す。〕
一般式(I)中、Lは単結合、又は加水分解性の基を有しない2価の連結基を表し、Aはn価の連結基を表し、nは2又は3を表す。
一般式(I)中に、複数ずつ存在する、L、R、R、R、及びRは、それぞれ、同一であっても互いに異なっていてもよい。〕
【0013】
<6> 前記ヒンダードフェノール型酸化防止剤が、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾールおよび1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H、5H)−トリオンの少なくとも一方を含む<1>〜<5>のいずれか1つに記載の水性分散液の製造方法である。
【0014】
<7> 前記ヒンダードフェノール型酸化防止剤の添加量が、水性分散液中の樹脂全体に対して500質量ppm以上3質量%以下である<1>〜<6>のいずれか1つに記載の水性分散液の製造方法である。
【0015】
<8> <1>〜<7>のいずれか1つに記載の水性分散液の製造方法を用いて製造された水性分散液である。
【0016】
<9> 基材と、<8>に記載の水性分散液を用いて形成された膜と、を有する積層体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐熱性に優れた塗膜を形成でき、保存安定性に優れた水性分散液を提供すること、該水性分散液を簡単な方法で製造できる水性分散液の製造方法を提供すること、並びに耐熱性に優れた積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の水性分散液及びその製造方法、並びにこれを用いた積層体について詳細に説明する。
【0019】
<水性分散液及びその製造方法>
本発明の水性分散液の製造方法は、加水分解性の基を有しない、分子量が500以上であるヒンダードフェノール型酸化防止剤が、有機溶剤に溶解された酸化防止剤溶液を調製する工程(以下、「酸化防止剤溶液調製工程」ともいう)と、前記酸化防止剤溶液と水性媒体にポリオレフィン系樹脂が分散された分散物(以下、「ポリオレフィン系分散物」ともいう)とを混合する工程(以下、「混合工程」ともいう)と、を有する構成としたものである。
また、本発明の水性分散液は、上記本発明の水性分散液の製造方法によって製造されたものである。
【0020】
本発明では、加水分解性の基を有しない、分子量が500以上であるヒンダードフェノール型酸化防止剤(以下、「特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤」ともいう。)を用いる。これにより、ポリオレフィン系水性分散液を塗膜としたときの耐熱性を向上できる。更に、水性媒体中における酸化防止剤の分解を抑制することができるので、製造される水性分散液の保存安定性を向上できる。
また、本発明では、前記特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤を有機溶剤に溶解させて酸化防止剤溶液を調製し、得られた酸化防止剤溶液をポリオレフィン系分散物と混合する。これにより、予め前記特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤を練りこんだポリオレフィン樹脂を用いてポリオレフィン系水性分散液を製造する方法や、ポリオレフィン系分散物に前記特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤の粉末を直接ブレンドしてポリオレフィン系水性分散液を製造する方法と比較して、水性分散液中における前記特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤の分散性を向上できる。更に、前記特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤を樹脂に練りこむ必要がないため、工程を簡略化できる。更に市販のポリオレフィン系水性分散液にも適用が可能である。
以上により、本発明の水性分散液の製造方法によれば、前記特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤が均一性良く分散されたポリオレフィン系水性分散液を得ることができるので、ポリオレフィン系水性分散液を塗膜としたときの耐熱性を顕著に向上させることができる。特に、高温(例えば、200℃以上)に曝された場合における塗膜の黄変を抑制できる。
以下、各工程について説明する。
【0021】
(酸化防止剤溶液調製工程)
本発明における酸化防止剤溶液調製工程では、加水分解性の基を有しない、分子量が500以上であるヒンダードフェノール型酸化防止剤(特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤)を、有機溶剤に溶解させて酸化防止剤溶液を調製する。
【0022】
−加水分解性の基を有しない、分子量が500以上であるヒンダードフェノール型酸化防止剤−
ここで、加水分解性の基とは、エステル基、アミド基、エーテル基等を指す。
本工程において、特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤に代えて、加水分解性の基を有するヒンダードフェノール型酸化防止剤を用いた場合、製造される水性分散液の保存安定性が悪化し、塗膜としたときの耐熱性が悪化する。
【0023】
特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤は、融点が高く、通常では分散性が悪い。
このため、予め特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤を練りこんだポリオレフィン樹脂を用いてポリオレフィン系水性分散液を製造する方法や、ポリオレフィン系水性分散液に特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤の粉末を直接ブレンドしてポリオレフィン系水性分散液を製造する方法に用いた場合には、特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤の分散性が悪くなり、ひいては得られる塗膜の耐熱性も悪化する。
【0024】
特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤の分子量は、500以上である。
前記分子量が500以上であれば、塗膜が高温に晒されても酸化防止剤の揮散性が低いので塗膜の耐熱性がより向上する。
前記分子量の下限は、600であることがより好ましく、700であることが特に好ましい。
前記分子量の上限には特に制限はないが、相容性や分散性をより向上させる観点や、入手がより容易であるという観点等から、前記分子量の上限は1000であることが好ましく、900であることがより好ましい。
【0025】
特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤としては、公知のヒンダードフェノール型酸化防止剤から加水分解性の基を有さず、かつ、分子量が500以上であるものを選択して用いることができる。
また、特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤としては、例えば、立体障害の高いアルキル基を有するフェノール骨格を有し、加水分解性の基を有さず、分子量が500以上である化合物を用いることができる。
特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤として、具体的には、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0026】
【化2】

【0027】
一般式(I)中、R及びRのうち一方は、炭素数3〜10の分岐状アルキル基を表し、R及びRのうち他方は、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状アルキル基、又は炭素数3〜10の分岐状アルキル基を表す。
一般式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状アルキル基、又は炭素数3〜10の分岐状アルキル基を表す。
Lは単結合、又は加水分解性の基を有しない2価の連結基を表し、Aはn価の連結基を表し、nは2又は3を表す。
一般式(I)中に、複数ずつ存在する、L、R、R、R、及びRは、それぞれ、同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0028】
前記炭素数1〜10の直鎖状アルキル基としては、入手容易性の観点等からは、炭素数1〜6の直鎖状アルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。
前記炭素数3〜10の分岐状アルキル基としては、入手容易性の観点等からは、炭素数3〜6の分岐状アルキル基が好ましく、i−プロピル基、t−ブチル基、i−ブチル基、又はs−ブチル基がより好ましい。
【0029】
また、前記一般式(I)において、前記R及び前記Rが、いずれも炭素数3〜10の分岐状アルキル基であることが好ましい。
また、前記一般式(I)において、前記R及び前記Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の直鎖状アルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜6の直鎖状アルキル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが更に好ましく、水素原子であることが最も好ましい。
【0030】
また、前記Lとしては、加水分解性の官能基でなければ特に縛られることはないが、入手容易性の観点等から、メチレン基又はエチレン基が好ましい。
【0031】
前記Aで表されるn価の連結基(nは2又は3)としては、加水分解性の基を有しない芳香族化合物又は加水分解性の基を有しない複素環化合物から、水素原子を2個又は3個除いた残基であることが好ましい。
前記Aとして、より好ましくは、下記式(II−1)又は下記式(II−2)で表される基である。
【0032】
【化3】



【0033】
式(II−1)及び式(II−2)中、「*」は、一般式(I)中のLとの結合位置(Lが単結合である場合には、ベンゼン環中の炭素原子との結合位置)を表す。
式(II−1)中、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。
該R11、該R12及び該R13としては、入手容易性の観点等から、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0034】
以下、特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤の具体例(例示化合物)について説明するが、本発明は以下の具体例によって限定されることはない。
【0035】
【化4】

【0036】
例示化合物(1)は、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(分子量775)であり、チバ・ジャパン(株)製「IRGANOX1330」として市販されている。
例示化合物(2)は、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H、5H)−トリオン(分子量784)であり、チバ・ジャパン(株)製「IRGANOX3114」として市販されている。
【0037】
特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明における前記特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤の添加量は、塗膜としたときの耐熱性をより向上させる観点より、本発明の水性分散液中に含まれる樹脂全体(ポリオレフィン系樹脂を含む全樹脂成分)に対し、500質量ppm以上3質量%以下であることが好ましく、1000質量ppm以上2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
−有機溶媒−
本工程における有機溶剤としては、前記特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤を溶解する有機溶媒であれば特に限定は無いが、本発明による効果をより効果的に得る観点から、25℃で前記ヒンダードフェノール型酸化防止剤を0.1質量%以上溶解する有機溶媒が好ましい。
また、前記有機溶剤は、本発明の水性分散液を用いて形成された塗膜中に残留する量をより少なくする観点からは、30℃〜250℃の沸点を有する有機溶媒であることが好ましい。
【0039】
また、本工程における有機溶剤としては、例えば、窒素および酸素の少なくとも一方を有する化合物、ならびに芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
前記「窒素および酸素の少なくとも一方を有する化合物」のうち、含窒素系の有機溶媒としては、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、複素環化合物等が挙げられる。
前記「窒素および酸素の少なくとも一方を有する化合物」のうち、含酸素系の有機溶媒としては、アセトン、酢酸エチル、酢酸メチル、エーテル、テトラヒドロフラン、アルコール等が挙げられる。
前記芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、フェノール等が挙げられる。
上記のうち、本工程における有機溶剤としては、N−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸メチル、トルエンがより好ましく、N−メチルピロリドン、アセトンが特に好ましく、N−メチルピロリドンが最も好ましい。
【0040】
本工程における有機溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、本工程で調製される酸化防止剤溶液には、必要に応じ、公知の添加剤(例えば、後述するその他の添加剤)を添加してもよい。
【0041】
(混合工程)
本発明における混合工程では、前記酸化防止剤溶液とポリオレフィン系分散物とを、(必要に応じ攪拌しながら)混合する。
混合の条件には特に限定はない。混合時間は、温度やその他の混合の条件によっても異なるが、通常10分〜120分程度である。
また、混合と同時または混合の後に、必要に応じ、後述するような分散処理を行ってもよい。
【0042】
−ポリオレフィン系分散物−
前記ポリオレフィン系分散物は、水性媒体にポリオレフィン系樹脂が分散された分散物である。この分散物は実質的には水性分散液であるが、本発明により製造される「水性分散液」との区別を明確にするために、本明細書中では「ポリオレフィン系分散物」と称する。
本発明において、ポリオレフィン系分散物としては、市販品など予め準備されたものを用いてもよいし、本発明の水性分散液の製造ごとにポリオレフィン系分散物を調製し、調製されたポリオレフィン系分散物を用いてもよい。
【0043】
ポリオレフィン系分散物を調製する方法には特に限定はなく、例えば、水性媒体中で、剪断力を与えながら攪拌し、水性媒体中にポリオレフィン系樹脂を分散させる公知の分散処理を用いることができる。
分散処理は、攪拌機付きのオートクレーブ等、煎断力を与えることができる反応装置を用いて行うことができる。
このとき、被分散物の温度を90℃以上に上げて分散処理するのが好ましい。また、分散速度を向上させ生産性を高めるために、例えば130℃〜160℃といった高い温度での分散処理や高速の攪拌速度のような高剪断力での分散処理も可能である。
【0044】
−ポリオレフィン系樹脂−
前記ポリオレフィン系樹脂としては、少なくとも1種のオレフィン(モノマー)を重合させて得られた樹脂であれば特に限定はない。
即ち、前記ポリオレフィン系樹脂としては、1種のオレフィンの単独重合体、2種以上のオレフィンの共重合体、1種以上のオレフィンと1種以上の他のモノマーとの共重合体、のいずれであってもよい。
前記ポリオレフィン系樹脂は、シングルサイト触媒やマルチサイト触媒の存在下でモノマーを重合させる方法など、公知の方法により製造できる。
【0045】
前記ポリオレフィン系樹脂の製造に用いられるオレフィン(モノマー)としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられる。
前記他のモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、アクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル類などが挙げられる。
本明細書中では、アクリル酸とメタクリル酸とを総称し、「(メタ)アクリル酸」ということがある。
【0046】
前記ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体(例えば、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体)、エチレン・(メタ)アクリル酸系共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル系共重合体等が挙げられる。
上記の中でも、水性媒体中での分散性の観点からは、エチレン・(メタ)アクリル酸系共重合体が好ましい。エチレン・(メタ)アクリル酸系共重合体は、中和剤を用いるのみで界面活性剤などの分散助剤を使用せずに水性媒体中に分散できる。
【0047】
−−E(M)AA共重合体−−
前記エチレン・(メタ)アクリル酸系共重合体は、エチレンに由来する構成単位と(メタ)アクリル酸に由来する構成単位とを少なくとも含むエチレン・(メタ)アクリル酸系共重合体(以下、「E(M)AA共重合体」ともいう)である。前記E(M)AA共重合体はランダム共重合体であることが好ましい。
【0048】
前記E(M)AA共重合体は、(メタ)アクリル酸由来の構成単位の存在が必須である。構成単位の存在が必須であるということは、(メタ)アクリル酸を積極的に含有することを示す。
前記E(M)AA共重合体においては、E(M)AA共重合体の全質量に対し、8質量%以上の(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含むことが好ましい。以下、8質量%以上の(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む本発明におけるE(M)AA共重合体を「特定E(M)AA共重合体」とも称する。
【0049】
また、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の含有量は、工業的な入手のしやすさから、特定E(M)AA共重合体の全質量に対し、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
特定E(M)AA共重合体は、エチレン由来の構成単位と(メタ)アクリル酸由来の構成単位とで構成される2元共重合体のほか、これらの構成単位に加えて、他の単量体に由来の構成単位をさらに有する3元以上の共重合体に構成されてもよい。
【0051】
前記他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などを例示することができる。
【0052】
前記他の単量体は、特定E(M)AA共重合体の全質量に対して、例えば20質量%以下の割合で含有することが可能である。
【0053】
特定E(M)AA共重合体のメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある。)としては、10〜1000g/10分の範囲が好ましい。更には、MFRは、20〜600g/10分の範囲がより好ましい。なお、MFRは、JIS K7210−1999に準拠し、190℃、荷重2160gにて測定される値である。以下、同様である。
【0054】
特定E(M)AA共重合体は、高温、高圧下でのラジカル共重合により得ることができる。市場においては、商品名ニュクレル(三井・デュポンポリケミカル社)、商品名プリマコール(ダウ・ケミカル日本社)として入手が可能である。
【0055】
特定E(M)AA共重合体の分散物を製造する方法としては、特定E(M)AA共重合体のカルボキシル基の一部又は全部を、アミン化合物(アンモニア、アルキルアミン類、アルカノールアミン類、等)、及び、アルカリ金属水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、等)から選択される少なくとも1種で中和し、共重合体を水に分散させることにより分散物とする方法が知られている。
【0056】
特定E(M)AA共重合体のカルボキシル基の一部又は全部を、アミン化合物(アンモニア、アルキルアミン類、アルカノールアミン類等)、及び、アルカリ金属水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)から選択される少なくとも1種で中和する場合、アミン化合物(アンモニア、アルキルアミン類、アルカノールアミン類等)、及び、アルカリ金属水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)から選択される少なくとも1種の合計による中和度は、粘度上昇を抑える点で、特定E(M)AA共重合体の酸基、特にはカルボキシル基のモル数に対して、40モル%以上が好ましく、40モル%〜300モル%の範囲とすることがより好ましい。
なお、中和度とは、E(M)AA共重合体の酸基のモル数に対する塩基化合物(アミン化合物(アンモニア、アルキルアミン類、アルカノールアミン類等)、及び、アルカリ金属水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)から選択される少なくとも1種)の配合比率(モル%)をいう。
【0057】
−その他の成分−
前記ポリオレフィン系分散物は、水等の水性媒体中に前記ポリオレフィン系樹脂が分散されている限りにおいて特に限定はないが、必要に応じ、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、ポリオレフィン系樹脂を分散させるための分散剤や、1価のアルコール類が挙げられる。
【0058】
また、前記ポリオレフィン系分散物は、その他の公知の添加剤を含有してもよい。
その他の添加剤としては、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール;水溶性エポキシ化合物;メタノール、エタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート等のエステル類;並びに、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料、染料、抗菌剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防錆剤、接着剤、架橋剤、筆記性改良剤、無機充填剤、発泡剤などを例示することができる。
【0059】
(その他の工程)
本発明の水性分散液の製造方法は、必要に応じ、上述の酸化防止剤溶液調製工程および混合工程以外のその他の工程を有していてもよい。
その他の工程としては、混合工程後に更に分散処理を行う工程、公知の添加剤(例えば、前述のその他の添加剤)を添加する工程、本発明の水性分散液以外の他の分散物や他の溶液と混合する工程等が挙げられる。
【0060】
前記他の分散物としては、特定ヒンダードフェノール型酸化防止剤を含有しない樹脂分散物を用いることができる。
前記他の分散物としては、例えば、pHが7以上のもの、あるいはアンモニア水等でpHを7以上にしたものであって、本発明の水性分散液と混合したときにゲル化しないものを選択することが望ましい。また、他の分散物は、平均分散粒子径が1nm〜10,000nm、好ましくは5nm〜5,000nmであって、固形分濃度が2質量%〜60質量%、特に5質量%〜50質量%のものを選択することが望ましい。
【0061】
他の分散物の例としては、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、水溶性アクリル樹脂、アクリルアミド樹脂、メタクリルアミド樹脂、アクリルニトリル樹脂、メタクリロニトリル樹脂、スチレン・アクリル酸共重合体、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、ハイインパクトポリスチレン樹脂、ブタジエン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、ポリエチレン樹脂、酸化ポリエチレン樹脂、プロピレン・エチレン共重合体、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、無水マレイン酸グラフトポリエチレン等の無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体)、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂等の水性分散体が挙げられる。
これらは、1種単独で用いるのみならず、2種以上を併用してもよい。
【0062】
さらに、配合には、他の分散物を2種類以上用いてもよい。本発明の水性分散液と他の分散物とを配合した混合分散物の調製は、配合する複数種を室温で撹拌しながら混合することによって得ることができる。この混合分散物も、本発明の水性分散液と同様の方法で使用することができる。また、混合分散物の調製にあたっては予め、本発明の水性分散液のベースレジン〔E(M)AA共重合体〕と、配合しようとする他の分散物中に含まれるベースレジンとをメルトブレンド又はドライブレンドし、その後水中に分散させるようにしてもよい。本発明は、このような製法によって制限されるものではない。
【0063】
以上、本発明の水性分散液及びその製造方法について説明した。
本発明の水性分散液中の、ポリオレフィン系樹脂の濃度(固形分濃度[質量基準])は、水性分散液全質量に対し、30質量%以下であることが好ましい。固形分濃度が30質量%以下であることにより、良好な水性分散液を得ることが可能であり、例えば鋼材の防錆塗料として使用する際にも塗布膜の均一性の優れた防錆塗料と成りやすい。中でも、好ましい固形分濃度は、5質量%〜30質量%であり、より好ましくは15質量%〜25質量%である。
【0064】
また、本発明の水性分散液の粘度(25℃)は、塗布性、取扱い性など目的とする範囲によって適宜調整されるが、100mPa・s〜20,000mPa・sの範囲が好ましく、より好ましくは100mPa・s〜2,000mPa・sの範囲である。
水性分散液の粘度は、ブルックフィールド粘度計(Brookfield社製)を用い、水性分散液を25℃に調整して測定される。
【0065】
本発明の水性分散液は、耐熱性に優れた塗膜を形成できるため、例えば、防錆塗料(または防錆塗料の原料)、ヒートシール性の積層体の作製用途、等、種々の用途に幅広く用いることができる。
【0066】
<積層体>
本発明の積層体は、基材と、前述の本発明の水性分散液を用いて形成された膜と、を有する積層体である。
本発明の水性分散液(あるいはこれと他の水性分散液との混合分散物)は、任意の基材に塗布等して設けることにより膜形成を行なうことができ、基材と本発明の水性分散液を用いてなる膜とを有する積層体を形成することができる。
本発明の積層体は、例えば、本発明の水性分散液、あるいはこれと他の水性分散液との混合分散物を基材の上に塗布し、乾燥させることにより作製することができる。
【0067】
基材上に本発明の水性分散液からなる塗膜を形成する方法としては、公知の方法、例えば、ロール塗布、バー塗布、エアナイフ塗布、リバースロール塗布、ドクター塗布、刷毛塗り、スプレー塗布などのコーティング法や、スクリーン印刷、グラビア印刷、彫刻ロール印刷、フレキソ印刷などの印刷法、基材を本発明の水性分散液に浸漬する方法などを適用できる。
【0068】
また、塗布等して基材上に水性分散液からなる塗膜を形成した後は、大気中で自然乾燥するほかに強制的に加熱乾燥することにより水分を蒸発させてもよく、これによりさらに均一な膜が得られる。加熱乾燥は、80℃〜200℃程度の温度で加熱乾燥して水、アルカノールアミン等の揮発性成分を蒸発させることによって、所望厚みの塗膜が形成された積層体を得ることができる。
【0069】
塗布等して形成した後に乾燥して得た膜の厚みは、任意であるが、通常は1μm〜20μmであり、好ましくは1μm〜10μm以下である。厚みが前記範囲内であると、例えば包装材料における減容化が可能であり、また、低温ヒートシール性を得ることができる。更に、防錆膜を形成することができる。
形成された膜には、耐水性、耐久性等を高める目的で、電子線照射による架橋処理を施してもよい。
【0070】
本発明の水性分散液は、防錆塗料あるいは防錆塗料の原料として利用できる。また、本発明の水性分散液は、これを基材に塗布して乾燥させることによって得られるヒートシール性の積層体の作製用途に利用することができる。
【0071】
基材の形態としては、フィルム、シート、容器等の成形体のいずれでもよい。
また、基材の材質としては、ポリオレフィン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体又はそのアイオノマー、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体又はそのアイオノマー等のエチレン・極性モノマー共重合体などのオレフィン系重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS系樹脂、スチレン・ブタジエンブロック共重合体等のスチレン系重合体、ポリビニルアルコールやエチレン・ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール重合体、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド、これらの任意のブレンド材、金属(鉄、銅、アルミニウム、ステンレス等)、木材、紙、繊維製品(ナイロン、ポリエステル、アクリル、ウレタン、レーヨン等)、皮革(天然又は合成皮革)などを例示することができる。
【0072】
基材として使用可能な前記ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテンなどの単独重合体あるいはこれらオレフィン同士の共重合体が挙げられる。具体的には、各種ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンなどである。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン(エチレン・α−オレフィン共重合体)などがある。直鎖低密度ポリエチレンにおけるα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることができる。直鎖低密度ポリエチレンとしては、いずれの触媒系で製造されたものでもよく、例えばシングルサイト触媒やマルチサイト触媒の存在下で共重合したものを使用することができる。
【0073】
基材として使用可能な前記ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどを挙げることができる。
また、基材として使用可能な前記ポリアミドとしては、例えば、ジカルボン酸とジアミンとの重縮合、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合、あるいは前記ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合などにより得られるものが挙げられ、例えば一般にナイロン4、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610、MXナイロンなどとして市販されているものを用いることができる。ポリアミドとしては、ナイロン6やナイロン66が特に好適である。
【0074】
前記ヒートシール性の積層体では、包装材料としての利用あるいは防錆塗料などの金属防錆用の材料としての利用の観点からは、前記基材として、フィルム基材又は金属基材が好ましい。フィルム基材としては、例えば厚みが10〜300μm程度のものが好適であり、特に減容化目的の場合には10〜100μm程度の厚みのフィルムが好ましい。具体的には、機能性、例えばガスバリアー性、防湿性、耐熱性、透明性、強靱性、耐磨耗性等に優れたもの等が好ましい。例えば、極性材料あるいは非極性材料の延伸又は無延伸フィルムが挙げられる。フィルム基材は、単層構造のほか、2層構造以上からなる積層フィルムであってもよい。この積層フィルムは、中間層に接着層を有するものであってもよい。具体的な例として、ポリエステル、ポリアミド、エチレン・ビニルアルコール共重合体などの無延伸フィルム、1軸延伸フィルム又は2軸延伸フィルム、ポリプロピレンの2軸延伸フィルムや高密度ポリエチレンの1軸延伸フィルムなどのポリオレフィン延伸フィルム、ポリ−4−メチルペンテン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン無延伸フィルム、前記各フィルムのアルミ蒸着、シリカ蒸着、又はアルミナ蒸着などの金属又は無機酸化物蒸着フィルム、アルミニウム箔、紙、天然繊維、半合成繊維又は天然繊維により構成される織布又は不織布、天然皮革又は合成皮革などを挙げることができる。
【0075】
また、防錆塗料あるいは防錆塗料の原料として利用した場合、防錆性の金属基材が得られる。この場合、金属基材を構成する金属材料は厚みが例えば500μm〜5,000μm、特に1,000μm〜2,000μmの板状物が好適である。なお、この範囲から外れる厚みのものも使用できる。
【0076】
前記金属又は無機酸化物蒸着フィルムとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどの延伸又は無延伸のフィルムに、アルミニウム等の金属、シリカ、アルミナ、マグネシア、酸化チタン等の無機酸化物を真空蒸着、化学メッキ、スパッタリングなどにより蒸着したものである。蒸着厚みは、例えば、50オングストローム〜2,000オングストローム程度のものが好適である。
【0077】
フィルム基材が積層フィルムである場合、前記例示のフィルムを少なくとも1層含む積層フィルムが好ましい。また、積層フィルムが接着層を含む場合には、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンなどを接着層として使用することができる。
【0078】
基材には、接着性等を改良する目的で、コロナ処理を施していてもよく、予めプライマー処理を施しておいてもよい。特に樹脂フィルムを基材とする場合は、プライマー処理を施すことが好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、「エチレン含量」はエチレン由来の繰り返し構成単位の共重合比率を示し、「(メタ)アクリル酸含量」は(メタ)アクリル酸由来の繰り返し構成単位の共重合比率を示す。また、MFRは、JIS K7210−1999に準拠し、190℃、荷重2160gにて測定したメルフローレート値である。
以下の実施例において、「室温」は25℃を指す。
【0080】
〔実施例1〕
<ポリオレフィン系分散物の調製>
300mlオートクレーブに、エチレン・アクリル酸共重合体(エチレン含量:80質量%、アクリル酸含量:20質量%、MFR=300g/10分)(以下、「EAA」ともいう)80gと、イオン交換水214gと、アンモニア濃度10質量%のアンモニア水溶液29gと、を加え、温度150℃、攪拌速度800rpmで1時間攪拌した。このとき、アンモニア中和度(エチレン・アクリル酸共重合体のカルボキシル基のモル数に対するアンモニアの比率)は75モル%であった。その後、水道水で1〜3℃/分の降温速度で徐冷し、ポリオレフィン系分散物を得た。得られたポリオレフィン系分散物の固形分濃度(EAA共重合体;以下同じ)は、25質量%であった。
【0081】
<酸化防止剤溶液の調製>
有機溶剤としてN−メチルピロリドン(以下、「NMP」ともいう)5mLに、特定ヒンダードフェノール系酸化防止剤としての前記例示化合物(1)0.1gを加え、室温で10分間溶解させて酸化防止剤溶液を調製した。
NMPは、例示化合物(1)を、25℃で5質量%以上溶解した。
【0082】
<混合工程>
上記ポリオレフィン系分散物200mLと、上記酸化防止剤溶液5mLと、を室温で10分間攪拌混合させた。
以上により、水性分散液を得た。
得られた水性分散液において、樹脂(EAA)に対する特定ヒンダードフェノール系酸化防止剤(例示化合物(1))の添加量は、表1に示すように0.2質量%であった。
【0083】
<積層体の作製>
上記で得られた水性分散液を用い、これを100μm厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(基材)の上に塗布し、乾燥させて乾燥膜厚10μmの塗膜を形成して、積層フィルムを得た。
また、上記で得られた水性分散液を用い、JIS G3141で規定される0.5mm鋼板(基材)上に塗布し、乾燥させて、乾燥膜厚10μmの塗膜を形成し、被覆鋼板を得た。
【0084】
<評価>
続いて、得られた水性分散液、積層フィルム(又は被覆鋼板)に対して下記の評価を行なった。評価結果を下記表1に示す。
【0085】
[1]分散性
得られた水性分散液を目視で観察し、下記評価基準に従って分散性を評価した。
−評価基準−
○:均一に分散している。
×:分離している。
【0086】
[2]保存安定性
得られた水性分散液を1週間、23℃の大気中に放置し、下記の評価基準にしたがって評価した。
−評価基準−
A:酸化防止剤の沈降や分解、水性分散液の変色が認められず、保存安定性が良好であった。
B:酸化防止剤の少量沈降が認められたが再攪拌で分散が可能であり、かつ、酸化防止剤の分解及び水性分散液の変色は認められず、保存安定性が実用上の許容範囲内であった。
C:酸化防止剤の沈降や分解、水性分散液の変色が認められ、保存安定性が悪く、実用上の許容範囲を超えていた。
【0087】
[3]塗膜の耐熱性
得られた積層フィルム(又は被覆鋼板)について、220℃のオーブンで20分間エージング試験を行い、下記評価基準に従って塗膜の耐熱性を評価した。
−評価基準−
A:塗膜の割れや着色がほとんどなく、塗膜の耐熱性が良好であった。
B:塗膜の着色が少しあるが割れはなく、塗膜の耐熱性が実用上の許容範囲内であった。
C:塗膜の割れや着色が酷く、塗膜の耐熱性が悪く、実用上の許容範囲を超えていた。
【0088】
〔実施例2〜10〕
実施例1において、ポリオレフィン系樹脂の種類、酸化防止剤の種類及び量、有機溶剤の種類を下記表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、水性分散液及び積層体を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
【0089】
NMPは、例示化合物(2)を、25℃で5質量%以上溶解した。
アセトンは、例示化合物(1)を、25℃で5質量%以上溶解した。
アセトンは、例示化合物(2)を、25℃で5質量%以上溶解した。
【0090】
実施例9、10において、ポリオレフィン系分散物としては、下記のポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)樹脂分散物を用いた。
−ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)樹脂分散物−
・ポリエチレン(PE)樹脂分散物:三井化学株式会社製ケミパールW400
・ポリプロピレン(PP)樹脂分散物:三井化学株式会社製ケミパールWP100
【0091】
〔比較例1〕
実施例1において、酸化防止剤溶液を調製せず、ポリオレフィン系分散物を水性分散液として用い、実施例1と同様にして積層体を作製し、前記水性分散液及び前記積層体について実施例1と同様の評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
【0092】
〔比較例2〕
実施例1において例示化合物(1)の代わりに、分子量が220であるBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を用いて酸化防止剤溶液を調製したこと以外は実施例1と同様にして水性分散液を調製した。得られた水性分散液を用い実施例1と同様にして積層体を作製し、前記水性分散液及び前記積層体について実施例1と同様の評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
【0093】
〔比較例3〕
実施例1において、酸化防止剤溶液を調製せず、例示化合物(1)を直接ポリオレフィン系分散物に添加して水性分散液とした。得られた水性分散液を用い実施例1と同様にして積層体を作製し、前記水性分散液及び前記積層体について実施例1と同様の評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示すように、実施例では、保存安定性および形成された塗膜の耐熱性に優れていた。
これに対し、比較例では、保存安定性および形成された塗膜の耐熱性の少なくとも1つが悪化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性の基を有しない、分子量が500以上であるヒンダードフェノール型酸化防止剤を、有機溶剤に溶解させて酸化防止剤溶液を調製する工程と、
前記酸化防止剤溶液と、水性媒体にポリオレフィン系樹脂が分散されたポリオレフィン系分散物と、を混合する工程と、
を有する水性分散液の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶剤が、前記ヒンダードフェノール型酸化防止剤を25℃で0.1質量%以上溶解し、かつ30℃〜250℃の沸点を有する請求項1に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が、構造中に窒素および酸素の少なくとも一方を有する化合物、ならびに芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1または請求項2に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤が、N−メチルピロリドンおよびアセトンの少なくとも一方である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項5】
前記ヒンダードフェノール型酸化防止剤が、下記一般式(I)で表される化合物である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水性分散液の製造方法。
【化1】


〔一般式(I)中、R及びRのうち一方は、炭素数3〜10の分岐状アルキル基を表し、R及びRのうち他方は、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状アルキル基、又は炭素数3〜10の分岐状アルキル基を表す。
一般式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状アルキル基、又は炭素数3〜10の分岐状アルキル基を表す。
一般式(I)中、Lは単結合、又は加水分解性の基を有しない2価の連結基を表し、Aはn価の連結基を表し、nは2又は3を表す。
一般式(I)中に、複数ずつ存在する、L、R、R、R、及びRは、それぞれ、同一であっても互いに異なっていてもよい。〕
【請求項6】
前記ヒンダードフェノール型酸化防止剤が、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾールおよび1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H、5H)−トリオンの少なくとも一方である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項7】
前記ヒンダードフェノール型酸化防止剤の添加量が、水性分散液中の樹脂全体に対して、500質量ppm以上3質量%以下である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の水性分散液の製造方法を用いて製造された水性分散液。
【請求項9】
基材と、請求項8に記載の水性分散液を用いて形成された膜と、を有する積層体。

【公開番号】特開2012−62414(P2012−62414A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208465(P2010−208465)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】