説明

水性樹脂分散体の製造方法

本発明は、(A)脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及び(B)モノマー(A)と共重合可能な他の重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させることを特徴とする分散樹脂の平均粒子径が500nm以下である水性樹脂分散体の製造方法を提供するものである。本発明は、また、該水性樹脂分散体を含んでなる水性樹脂組成物及び該水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物も提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、乾燥性に優れ、肉もち感のある光沢を有する塗膜を形成することが可能な水性樹脂分散体の製造方法、ならびに該水性樹脂分散体を含んでなる水性樹脂組成物及び該水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
近年、塗料、インキ、接着剤等の分野では、省資源、環境衛生、無公害、非危険物化等の観点から、有機溶剤型の組成物から水性型の組成物への転換が進められている。例えば、水性塗料組成物に使用されるビヒクルとしては、例えば、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。これらの水性塗料組成物において、アルキド樹脂は、原材料として不飽和脂肪酸を用いることにより樹脂骨格中に酸化硬化基を導入することができ、それを用いた水性塗料組成物は1液常温硬化が可能となり、また、その油性から、金属面へ塗布された場合の防食性が期待できるが、その軟質な性質が塗膜の乾燥を遅らせ一般的に耐候性に弱さが見られる。他方、アクリル樹脂は、速乾性、耐候性に優れるものの防食性に劣る。これら2種の樹脂の特性を兼備した樹脂水性系材料として、アルキド樹脂とアクリル樹脂を化学反応により結合させるグラフト樹脂などが開発され数多く提案されている。例えば、特開昭50−126723号公報、特開昭56−5863号公報及び特開昭60−221469号公報には、非共役二重結合を有する不飽和脂肪酸にα,β−エチレン性不飽和酸のグリジシルエステルを反応させて得られる脂肪酸変性モノマー及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸などの不飽和モノマーを有機溶剤中で共重合し、得られる樹脂中のカルボキシル基を塩基性物質で中和した後に水で希釈することにより、樹脂の水溶化物もしくは水分散化物を製造する方法が開示されている。しかし、該方法により製造される親水性樹脂は、溶液重合を経由するために生成重合体が有機溶剤に溶解することが必要であって、高分子量化することが一般に困難であり、また、生成重合体を水溶化もしくは水分散化するためには、カルボキシル基や水酸基等の親水性基を有するモノマー又は乳化剤を多量に使用しなければならず、その結果、生成重合体を用いて形成される塗膜は耐水性が不十分であるという問題がある。
また、特開昭59−8773号公報には、界面活性剤及び/又は高分子保護コロイドを用い、乾性油脂肪酸又は半乾性油脂肪酸とα,β−エチレン性不飽和酸グリシジルエステルとの反応により得られる脂肪酸変性モノマーを含むラジカル重合可能なモノマー混合物を乳化重合して酸化重合型水性エマルションを製造することが開示されている。
ところで、乳化重合物の生成機構は、水相にある大きなモノマー滴からモノマーが水中を拡散し、界面活性剤が作るミセル中で重合が進行し重合体粒子(重合している小粒子)が生成することからなるものである。この場合、重合に用いられるモノマーは、重合を行う条件下でモノマー滴から重合体粒子へ水中を拡散して移動し供給されなければならない。
一般に、モノマー滴と、ミセルから成長してゆく重合体粒子との間には大きな粒子径差がある。このことはモノマー滴全表面積と重合体粒子の全表面積に大きな差があることを意味し、従って、開始剤ラジカルや水中を拡散するモノマーは、表面積の大きな方、すなわち重合体粒子に侵入し、そこで重合が進行する。乳化重合法では、重合体粒子は徐々に粒子径が大きくなりながら成長する。
上記の脂肪酸変性モノマーを含むラジカル重合可能なモノマー混合物を乳化重合する場合、水への溶解性が極めて乏しい脂肪酸変性モノマーは、重合段階においてモノマー滴に取り残され、モノマー滴内で重合が進行し、脂肪酸変性モノマー単位を多く含む重合体粒子が生成し、他方、脂肪酸変性モノマー以外のモノマーは、モノマー滴からミセル内へ水中を拡散していき、そこで脂肪酸変性モノマー以外のモノマー単位を多く含む重合体粒子が生成するので、最終的に得られるエマルション中の重合体粒子には、親水性重合体粒子と疎水性重合体粒子との不均一分布が極端に生ずる可能性が大きい。従って、このような酸化重合型水性エマルションから形成される塗膜には、疎水性の重合体粒子が核となってハジキを生じたり、表面浮きして表面に粘着性が残ったり、相溶性不良から透明フィルムができず塗膜の仕上がり外観を著しく低下させる等の問題がある。
上記の如き問題を克服するための方策として、EP−A−1044993には、ビニルモノマーの重合生成物であるコポリマーと、疎水性のエステル又は部分エステルとを含む水系コポリマー及びその製造方法が提案されている。該公報には、重合時において、モノマー滴以外の第2世代粒子の形成を抑制させるべく、モノマー滴に乾性油酸とポリオールとからの疎水エステルを添加することが提案されている。該公報に記載の水系コポリマーは、揮発性の融合助剤を含まず透明な被膜を形成するが、特に塗布後初期段階において、乾燥性が遅く、実用上は塗膜に粘着性が残り、また、形成塗膜の耐候性及び耐水性が十分ではないなどの欠点がある。
【発明の開示】
本発明の主たる目的は、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及び共重合可能な他の重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を乳化重合して水性樹脂分散体を安定に製造する方法を提供することである。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、今回、脂肪酸変性重合性モノマーを含んでなるモノマー混合物を特定の平均粒子径となるように微分散し、得られるモノマー乳化物を重合することにより、好ましくはさらに該モノマー乳化物のモノマー組成として特定のものを選択することにより、重合安定性及び貯蔵安定性が共に良好で、かつ耐水性、耐候性等に優れた塗膜を形成する水性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして、本発明は、(A)脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及び(B)モノマー(A)と共重合可能な他の重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させるか、或いはミニエマルション重合させることを特徴とする分散樹脂の平均粒子径が500nm以下である水性樹脂分散体の製造方法を提供するものである。
本発明は、また、該水性樹脂分散体を含んでなる水性樹脂組成物及び該水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物を提供するものである。
上記本発明の方法によれば、多量の有機溶剤や、補助界面活性剤等を使用しなくても、脂肪酸変性モノマー単位を含む水性樹脂分散体を安定に製造することができる。また、該水性樹脂分散体を含む水性樹脂組成物及び水性塗料組成物は、貯蔵安定性、造膜性などに優れ、1液型でありながら常温でも容易に硬化させることができ、しかも、形成される硬化被膜は透明性、光沢、仕上り性(肉持ち感)に優れ、耐水性、耐久性、耐食性、耐候性等の性能にも優れているという顕著な効果を奏するものである。特に、該水性樹脂分散体を含む水性塗料組成物は、鉄等の金属面に対してなじみがよく、点錆等を抑制することができるので、金属面の保護被膜用として適している。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の方法は、(A)脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及び(B)モノマー(A)と共重合可能な他の重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物(I)を、
− 水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られるモノマー乳化物を重合させるか、又は
− ミニエマルション重合させる
ことを特徴とするものである。
本発明の方法において、上記乳化物中のモノマー混合物粒子の平均粒子径が500nmを超えると、モノマー乳化物の貯蔵時の沈降や、得られる水性樹脂分散体粒子の親水−疎水組成分布の不均一性が極端になり、それを用いて形成される塗膜の白濁などの原因となることがあるので好ましくない。
本明細書において、平均粒子径は、試料を脱イオン水にて希釈し、「SALD−3100」(商品名、島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置)を用いて、常温(20℃程度)にして測定したときの値であり、また、平均粒子径の測定は、微粒化されたモノマー乳化物又は水性樹脂分散体の製造後24時間以内に行うものとする。
また、重合時に使用する水性媒体としては、水、又は水を主体としてこれに水溶性有機溶媒などの有機溶媒を混合してなる水−有機溶媒混合溶液などを挙げることができる。
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)
本発明の方法において使用される脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)は、モノマー混合物の乳化時の微粒化(又はミニエマルション化)を容易にし、また、重合段階において微粒化後のモノマー乳化物を安定化させ、他の重合性不飽和モノマー(B)の水性媒体中への拡散を抑制させるため、そして、製造される水性樹脂分散体粒子を用いて形成される塗膜の仕上がり性に肉もち感を付与し、且つ水性樹脂分散体粒子に酸化硬化基を導入するために使用されるものであり、脂肪酸由来の炭化水素鎖の末端に重合性不飽和基を有する重合性不飽和モノマーが包含される。ここで、重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などを挙げることができ、特に(メタ)アクリロイル基が好適である。
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)としては、例えば、脂肪酸(a1)をエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a2)又は水酸基含有重合性不飽和モノマー(a3)と反応させることにより得られるものを挙げることができる。
脂肪酸(a1)としては、炭化水素鎖の末端にカルボキシル基が結合した構造を有しているものが挙げられ、例えば、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸、不乾性油脂肪酸を挙げることができる。乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸は、厳密に区別できるものではないが、通常、乾性油脂肪酸はヨウ素化が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸はヨウ素化が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸である。他方、不乾性油脂肪酸は、通常、ヨウ素価が100未満である脂肪酸である。
乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸としては、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸等が挙げられ、また、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。さらに、これらの脂肪酸は、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等と併用することができる。
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)を製造するために上記脂肪酸(a1)と反応させうるエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a2)としては、1分子中に1個のエポキシ基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
上記脂肪酸(a1)とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a2)は、脂肪酸(a1)中のカルボキシル基とエポキシ基含有モノマー(a2)中のエポキシ基との当量比が0.75:1〜1.25:1、好ましくは0.8:1〜1.2:1の範囲内となるような割合で反応させることができる。
上記脂肪酸(a1)とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a2)との反応は、通常、重合禁止剤の存在下に、ゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、脂肪酸成分中のカルボキシル基とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー中のエポキシ基とが円滑に反応できる条件下で行うことができ、通常、約100〜約180℃の温度で約0.5〜約10時間加熱することにより行うのが適している。
この反応において、N,N−ジメチルアミノエタノール等の3級アミン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウム塩等のエステル化反応触媒を用いることができ、さらに、反応に対して不活性な有機溶剤を使用してもよい。
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸などのニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノンなどのキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトールなどのニトロソ化合物等のそれ自体既知のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
また、脂肪酸変性重合性モノマー(A)は、上記脂肪酸(a1)を水酸基含有重合性不飽和モノマー(a3)とエステル化反応させることによっても得ることができる。かかる水酸基含有重合性不飽和モノマー(a3)としては、1分子中に1個の水酸基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
上記脂肪酸(a1)と水酸基含有重合性不飽和モノマー(a3)は、通常、該脂肪酸(a1)中のカルボキシル基対水酸基含有モノマー(a3)中の水酸基との当量比が0.4:1〜1.25:1、好ましくは0.5:1〜1.2:1の範囲内となるような割合で反応させることができる。
上記脂肪酸(a1)と水酸基含有重合性不飽和モノマー(a3)との反応は、通常、重合禁止剤の存在下に、ゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、脂肪酸(a1)成分中のカルボキシル基と水酸基含有重合性不飽和モノマー中の水酸基とが円滑に反応できる条件下で行うことができ、通常、エステル化触媒の存在下に、約100〜約180℃の温度で約0.5〜約10時間加熱することにより行うのが適している。エステル化触媒としては、例えば、硫酸、硫酸アルミニウム、硫酸水素カリウム、アルキル置換ベンゼン、塩酸、硫酸メチル、リン酸等が挙げられ、これらの触媒は、通常、反応させる上記脂肪酸(a1)と水酸基含有重合性不飽和モノマー(a3)の合計量に基準にして、約0.001〜約2.0重量%の範囲内で使用することができる。さらに、反応に対して不活性な有機溶剤を使用することもできる。
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸などのニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノンなどのキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトールなどのニトロソ化合物等のそれ自体既知のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
その他の重合性不飽和モノマー(B)
本発明の方法において使用される他の重合性不飽和モノマー(B)は、前記脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)と共重合可能な重合性不飽和モノマーであり、分子中に少なくとも1個、好ましくは1個の重合性不飽和基、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などを含有する化合物が包含される。
そのような他の重合性不飽和モノマー(B)の具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和化合物;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基を有する重合性不飽和化合物;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和化合物;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和化合物;1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート等;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基を有する化合物;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等の含窒素重合性不飽和化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等の水酸基を有する重合性不飽和化合物;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基を有する重合性不飽和化合物;2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのヒドロキシベンゾフェノン類とグリシジル(メタ)アクリレートとの付加反応生成物、或いは2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収性官能基を有する重合性不飽和化合物;4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の紫外線安定性重合性不飽和化合物;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基を有する重合性不飽和化合物;アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテレフタレート、ジビニルベンゼン等の1分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する多ビニル化合物等が挙げられ、これらは得られる水性樹脂分散体に望まれる性能などに応じて単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
上記モノマー(A)及びモノマー(B)の使用割合は、特に制限されるものではなく、目的とする水性樹脂分散体に望まれる性能や用途などに応じて適宜選択することができるが、一般には、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計量を基準にして、モノマー(A)は1〜90重量%、好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは10〜40重量%の範囲内、そしてモノマー(B)は10〜99重量%、好ましくは40〜95重量%、さらに好ましくは60〜90重量%の範囲内とすることができる。モノマー(A)の使用割合が1重量%未満では、得られる水性樹脂分散体を用いて形成される被膜の酸化硬化が十分に進行せず、また、被膜の肉持ち感が損なわれることがあり、他方、90重量%を越えると、得られる水性樹脂分散体を用いて形成される硬化被膜が脆くなり、耐候性が不十分になることがある。
上記他の重合性不飽和モノマー(B)としては、使用する全モノマー(B)の(共)重合体の理論ガラス転移温度が0〜100℃、好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは40〜70℃の範囲内となるように選択することが望ましい。
本発明において、ガラス転移温度(絶対温度)は、下記式により算出される値である。
1/Tg=W/T+W/T+...W/T
式中、W、W...Wは各モノマーの重量%〔=(各モノマーの配合量/モノマー全重量)×100〕であり、T、T...Tは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)である。なお、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、Polymer Hand Book(Second Edition,J.Brandrup・E.H.Immergut編)による値であり、該文献に記載されていないモノマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が5万程度になるようにして合成し、そのガラス転移温度を示差走査型熱分析により測定したときの値を使用する。
使用する全モノマー(B)の(共)重合体の理論ガラス転移温度が上記範囲内となるようにすることにより、得られる水性樹脂分散体の造膜性と、該水性樹脂分散体から形成される塗膜の耐候性、耐水性等の塗膜物性とを両立させることができる。
また、他の重合性不飽和モノマー(B)は、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b1)を、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、0.1〜5重量%、好ましくは0.5重量%以上で且つ3重量%未満の範囲内で含んでなることが望ましい。
カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等を挙げることができ、特に、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸が好適である。他の重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部としてカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b1)を使用することにより、得られる水性樹脂分散体粒子の水性媒体中における安定性や機械安定性を確保することができ、また、それを含有する水性樹脂組成物をエナメル塗料に適用した場合において、塗料の調色性を向上させることができる。
また、他の重合性不飽和モノマー(B)は、その少なくとも一部として、炭素数が4以上の直鎖状、分岐状もしくは環状で飽和又は不飽和の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b2)を、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、30〜90重量%、好ましくは35〜85重量%、さらに好ましくは45〜80重量%の範囲内で含んでなることが望ましい。
炭素数が4以上の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b2)としては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和化合物;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物等を挙げることができる。かかる炭素数が4以上の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b2)の使用により、得られる水性樹脂分散体粒子から形成される塗膜の耐水性を向上させることができる。
また、他の重合性不飽和モノマー(B)は、その少なくとも一部として、炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b3)を、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、さらに好ましくは6〜18重量%含んでなることが望ましい。
炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b3)としては、例えば、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)等を挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
他の重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部として、炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b3)を使用することにより、該他の重合性不飽和モノマー(B)を脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)と共に微粒化した後のモノマー乳化物の重合安定性を保持することができ、しかも、耐水性に優れた塗膜を形成する水性樹脂分散体を製造することができる。
本発明の方法に従い水性樹脂分散体を製造するに際して、他の重合性不飽和モノマー(B)は、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b1)、炭素数が4以上の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b2)ならびに脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)、上記モノマー(b1)及びモノマー(b2)以外の他の重合性不飽和モノマー(b7)を含んでなり、そして乳化重合すべきモノマー混合物(I)は、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、モノマー(A)を5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは10〜35重量%、モノマー(b1)を0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜4.5重量%、さらに好ましくは0.5〜3重量%、モノマー(b2)を45〜80重量%、好ましくは50〜75重量%、さらに好ましくは55〜70重量%、及び他の重合性不飽和モノマー(b7)を0〜49.9重量%、好ましくは0〜39.5重量%、さらに好ましくは0〜34.5重量%含有し、ここで炭素数が4以上の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b2)が上記炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b3)を、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、さらに好ましくは6〜18重量%の範囲内で含んでなることが望ましい。
上記の場合において、モノマー(A)の使用割合が5重量%未満では、得られる水性樹脂分散体を用いて形成される塗膜の肉もち感が不十分になり、反対に50重量%を超えると、形成される塗膜の耐候性が不十分になることがある。また、モノマー(b1)の使用割合が0.1重量%未満では、得られる水性樹脂分散体の粒子の安定性が不十分となることがあり、反対に5重量%を超えると、形成される塗膜の耐水性が低下することがある。さらに、モノマー(b2)の使用割合が45重量%未満では、形成される塗膜の耐水性が低下することがあり、他方、80重量%を超えると、得られる水性樹脂分散体粒子の貯蔵安定性が低下することがある。
上記特定割合の脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)及び他の重合性不飽和モノマー(B)を共重合させることにより、水性樹脂分散体を安定に製造することができ、しかも、透明感、肉もち感があり、耐水性等の性能に優れた塗膜を形成する水性樹脂分散体を製造することができる。
また、他の重合性不飽和モノマー(B)は、その少なくとも一部として、シクロアルキル基含有重合性不飽和モノマー(b4)を含んでなることが望ましい。シクロアルキル基含有重合性不飽和モノマー(b4)としては、1分子中に1個の炭素数が6以上のシクロアルキル基と1個の重合性不飽和結合を有する化合物が好適であり、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが好適である。
他の重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部として、シクロアルキル基含有重合性不飽和モノマー(b4)を含んでなるものを使用することにより、得られる水性樹脂分散体を用いて形成される塗膜の耐候性を向上させることができ、また、耐水性、耐汚染性等も改善することができる。耐候性向上を目的とする場合のその含有量は、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、1〜70重量%、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは25〜45重量%の範囲内が好適である。
また、他の重合性不飽和モノマー(B)は、その少なくとも一部として、芳香族ビニルモノマー(b5)を含んでなることが望ましい。芳香族ビニルモノマー(b5)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。かかる芳香族ビニルモノマー(b5)の使用により、全モノマーの共重合性を高めることができ、そして耐水性など形成塗膜の物性を向上させることができる。
該芳香族ビニルモノマー(b5)は、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、さらに好ましくは12〜35重量%の範囲内で使用するのが好適である。
本発明の方法に従い水性樹脂分散体を製造するに際して、他の重合性不飽和モノマー(B)は、シクロアルキル基含有重合性不飽和モノマー(b4)、芳香族ビニルモノマー(b5)ならびにモノマー(A)、モノマー(b4)及びモノマー(b5)以外の重合性不飽和モノマー(b8)を含んでなり、そして乳化重合すべきモノマー混合物(I)は、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、モノマー(A)を5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは10〜35重量%、モノマー(b4)を1〜70重量%、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは25〜45重量%、モノマー(b5)を1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、さらに好ましくは12〜35重量%、及び他の重合性不飽和モノマー(b8)を0〜93重量%、好ましくは0〜75重量%、さらに好ましくは0〜47重量%含有することが望ましい。
この場合において、モノマー(A)の使用割合が5重量%未満では、得られる水性樹脂分散体を用いて形成される塗膜の肉もち感が不十分になり、反対に50重量%を超えると、形成される塗膜の耐候性が低下することがあり、また、モノマー(b4)の使用割合が1重量%未満では、形成される塗膜の耐候性が不十分であり、反対に70重量%を超えると、重合安定性が不十分となることがある。さらに、モノマー(b5)の使用割合が1重量%未満では、形成される塗膜の耐水性が低下することがあり、他方、50重量%を超えると、形成塗膜の耐候性が不十分となることがある。
上記特定割合の脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)及び他の重合性不飽和モノマー(B)を共重合させることにより、透明感、肉もち感があり、しかも特に耐水性、耐候性等に優れた塗膜を形成しうる水性樹脂分散体を製造することができる。
また、本発明の水性樹脂分散体を製造するに際して、他の重合性不飽和モノマー(B)は、その少なくとも一部として、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b6)を含んでなることが望ましい。
カルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b6)としては、1分子中に1個のカルボニル基と1個の重合性不飽和結合を有する化合物が包含され、具体的には例えば、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、特にダイアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。
他の重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部として、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b6)を含んでなるものを使用し且つ得られる水性樹脂分散体に後述のヒドラジン誘導体を配合せしめることにより、脂肪酸(aI)成分による酸化硬化に加えてモノマー(b6)由来のカルボニル基とヒドラジン誘導体との補助架橋を進行させることができ、塗膜の乾燥性をより一層向上させることができ、耐候性、耐水性等の物性にも優れた塗膜を形成する塗料組成物を調製することができる。
かかるカルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b6)は、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、0.5〜35重量%、好ましくは2〜20重量%の範囲内で使用するのが適している。
また、他の重合性不飽和モノマー(B)がカルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b6)を含んでなる場合において、脂肪酸(a1)の種類は特に制限されるものではないが、半乾性油脂肪酸及び/又は不乾性油脂肪酸からなることもできる。半乾性油脂肪酸及び/又は不乾性油脂肪酸は、一般に酸化硬化性が低い脂肪酸であり、前記例示のものを使用することができる。
半乾性油脂肪酸及び/又は不乾性油脂肪酸ならびにカルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b6)の使用割合は、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、半乾性油脂肪酸及び/又は不乾性油脂肪酸は5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%の範囲内、そしてカルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b6)は0.5〜35重量%、好ましくは2〜20重量%の範囲内とすることができる。半乾性油脂肪酸及び/又は不乾性油脂肪酸が5重量%未満では、得られる水性樹脂分散体から形成される塗膜の肉もち感が低下することがあり、反対に50重量%を超えると、形成される塗膜の耐水性が不十分になることがある。また、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b6)が0.5重量%未満では、形成される塗膜の耐水性、耐候性が不十分であり、他方、35重量%を超えると、形成される塗膜が脆くなることがある。
モノマー(B)の少なくとも一部としてカルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b6)を使用することによって、後述のヒドラジン誘導体を併用することにより、カルボニル基とヒドラジン誘導体との間の架橋が進行するので、脂肪酸(a1)成分として半乾性油脂肪酸及び/又は不乾性油脂肪酸を使用した場合においても、肉もち感等を有し、耐候性、耐水性等に優れ、鉄基材への馴染みのよい塗膜を形成する水性樹脂分散体を製造することができる。
また、他の重合性不飽和モノマー(B)は、重合段階における微粒化されたモノマー乳化物又は貯蔵段階における水性樹脂分散体の粒子の安定性を確保するために、水酸基含有(メタ)アクリレートを含んでなることもできる。水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、前記で例示したものが挙げられ、その使用割合は、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計量を基準にして、1〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは1〜10重量%の範囲内とすることができる。
本発明において、モノマー混合物(I)は、以上に述べた脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)及びモノマー(A)と共重合可能な他の重合性不飽和モノマー(B)を必須成分として含むものであるが、モノマー混合物(I)は、さらに、実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物を含有することもできる。
モノマー混合物(I)として、上記の実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物を含有するものを使用することにより、該化合物を内包する水性樹脂分散体粒子を製造することができる。
実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物としては、例えば、紫外線吸収剤、紫外線安定剤及び金属ドライヤー等の塗料用添加剤;アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂等の樹脂;顔料、染料等の着色剤を挙げることができ、これらは単独で又は適宜選択して2種以上組み合わせて使用することができるが、特に、紫外線吸収剤、紫外線安定剤及び金属ドライヤーから選ばれる少なくとも1種が好適である。
上記紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、4−t−ブチルフェニルサリシレートなどのサリチル酸誘導体;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2′−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノントリヒドレート、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、ナトリウム2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジベンゾイルレゾルシノール、4,6−ジベンゾイルレゾルシノール、ヒドロキシドデシルベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物;2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系化合物、その他シュウ酸アニリド、シアノアクリレートなどの化合物、上記例示の紫外線吸収モノマーを共重合成分とするアクリル共重合体などが挙げられる。
紫外線安定剤としては、例えば、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ビス−(2,2′,6,6′−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバテート、4−ベンゾイルオキシ−2,2′,6,6′−テトラメチルピペリジン、上記例示の紫外線安定性モノマーを共重合成分とするアクリル共重合体等が挙げられる。
上記紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤は、単独で使用してもよいし、適宜選択して組み合わせて使用することもできる。上記紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤は、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、紫外線吸収剤は0.1〜5.0重量%、特に0.2〜0.7重量%の範囲内、そして紫外線安定剤は0.1〜5.0重量%、特に0.2〜3.0重量%の範囲内で使用するのが好適である。
本発明において、モノマー混合物(I)に紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤を含有させると、得られる水性樹脂分散体粒子の少なくとも一部が該紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤を内包し、その結果、該水性樹脂分散体を用いて形成される被膜に均一に該紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤が分散されるようになるとともに、被膜形成後、雨水等により溶出されることがなく、その効果を長期にわたり安定に発揮するようになる。
また、金属ドライヤーとしては、例えば、アルミニウム、カルシウム、セリウム、コバルト、鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と酸との塩が挙げられ、該酸としては、例えば、カプリン酸、カプリル酸、イソデカン酸、リノレン酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、オクテン酸、オレイン酸、パルミチン酸、樹脂酸、リシノール酸、大豆油脂肪酸、ステアリン酸、トール油脂肪酸等が挙げられる。
本発明において、金属ドライヤーが重合を行う前のモノマー混合物(I)に含まれると、得られる水性樹脂分散体から形成される硬化被膜の酸化硬化性を向上させることができる。これは、水性樹脂分散体粒子の少なくとも一部に金属ドライヤーが内包され、該内包粒子が成膜されると金属ドライヤーが内包粒子内で効果的に酸化硬化型重合性不飽和基に作用することができるためであると考えられる。該金属ドライヤーの使用量は、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、0.5〜10重量%、特に1〜7重量%の範囲内が好適である。
上記モノマー混合物(I)は、水性媒体に微分散するに際して、必要に応じて、乳化剤を併用してもよい。該乳化剤としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤が好適であり、該アニオン性乳化剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸などのナトリウム塩やアンモニウム塩が挙げられ、また、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。
また、1分子中にアニオン性基とポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレン基含有アニオン性乳化剤や、1分子中に該アニオン性基と重合性不飽和基とを有する反応性アニオン性乳化剤を使用してもよい。
該乳化剤は使用される全モノマーの合計量を基準にして0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜12重量%の範囲内で使用することができる。
また、モノマー混合物(I)は、得られる水性樹脂分散体の分子量を調整する目的で、連鎖移動剤を含んでいてもよい。該連鎖移動剤としては、メルカプト基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、2−メチル−5−tert−ブチルチオフェノール、メルカプトエタノール、チオグリセロール、メルカプト酢酸(チオグリコール酸)、メルカプトプロピオネート、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート等が挙げられる。該連鎖移動剤の使用量は、一般に、全モノマーの合計量を基準にして、0.05〜10重量%、特に0.1〜5重量%の範囲内が好適である。
さらに、モノマー混合物(I)には、必要に応じて、ヘキサデカン等の長鎖飽和炭化水素系溶剤、ヘキサデカノール等の長鎖アルコール系溶剤等の有機溶剤等を配合してもよい。
本発明に従えば、以上に述べたモノマー混合物(I)は水性媒体中に微分散させることによりモノマー乳化物が形成せしめられる。
上記モノマー混合物(I)の水性媒体中における濃度は、形成されるモノマー乳化物の微粒化適性、重合段階における安定性、水性塗料に適用したときの実用性などの観点から、一般に、10〜70重量%、好ましくは20〜60重量%の範囲内が好適である。
モノマー混合物(I)の水性媒体中への微分散は、通常、高エネルギーせん断能力を有する分散機を用いて行うことができる。その際に使用しうる該分散機としては、例えば、高圧乳化装置、超音波乳化機、高圧コロイドミル、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの分散機は、通常、10〜1000MPa、好ましくは50〜300MPa程度の高圧下で操作することができる。また、該機械にて分散を行う前に、該モノマー混合物をあらかじめディスパー等で予備乳化してもよい。
モノマー混合物(I)を上記手法により水性媒体中に微分散させることにより得られるモノマー乳化物中の分散粒子の平均粒子径は、形成塗膜の透明性、耐水性等の点から、500nm以下、好ましくは80〜400nm、さらに好ましくは100〜300nmの範囲内が適している。
かくして得られるモノマー乳化物の重合は、例えば、ミニエマルション重合法に従い、微分散後のモノマー乳化物を撹拌機を備えた反応器に全量仕込み、重合開始剤を添加し、攪拌しながら加熱することにより行うことができる。
上記重合開始剤としては、油溶性、水溶性のいずれのタイプのものであってもよく、油溶性の重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキシド、ステアロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられ、また、水溶性の開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルパーオキシアセテート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビス(2−メチルプロピオンニトリル)、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、4、4’−アゾビス(4−シアノブタン酸)、ジメチルアゾビス(2−メチルプロピオネート)、アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]−プロピオンアミド}等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。また、上記重合開始剤に、必要に応じて、糖、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、鉄錯体等の還元剤を併用し、レドックス重合系としてもよい。
上記重合開始剤の使用量は、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、0.1〜5重量%、特に0.2〜3重量%の範囲内が好ましい。該重合開始剤の添加方法は、特に制限されるものではなく、その種類や量などに応じて適宜選択することができる。例えば、予めモノマー混合物(I)又は水性媒体に含ませてもよく、或いは重合時に一括して添加してもよく又は滴下してもよい。
本発明においては、得られる水性樹脂分散体の粒子の機械的安定性を向上させるために、該水性樹脂分散体が酸性基を有する場合には、これを中和剤により中和することが望ましい。該中和剤としては、酸性基を中和できるものであれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル−2−アミノ−1−プロパノール、トリエチルアミン、アンモニア水などが挙げられ、これらの中和剤は、中和後の水性樹脂分散体のpHが6.5〜9.0程度となるような量で用いることが望ましい。
以上に述べた本発明の方法によれば、分散樹脂の平均粒子径が500nm以下、特に好ましくは100〜300nmの範囲内にある水性樹脂分散体を製造することができる。水性樹脂分散体中の分散樹脂の平均粒子径は、重合前のモノマー乳化物中の分散粒子の平均粒子径に依存する。本発明に従う水性樹脂分散体の製造方法において、重合前のモノマー乳化物中の分散粒子の平均粒子径を上記範囲とすることにより、モノマー乳化物中の分散粒子の平均粒子径に対する水性樹脂分散体中の分散樹脂の平均粒子径の変化率を、一般に、50〜150%、特に60%以上且つ100%未満、さらに特に70〜99%範囲内とすることができる。なお、モノマー乳化物中の分散粒子の平均粒子径に対する水性樹脂分散体中の分散樹脂の平均粒子径の変化率は、下記式に基づいて算出することができる。

平均粒子径の変化率が上記範囲内であれば、安定に乳化重合を行うことができ、最終的に得られる水性樹脂分散体中の分散樹脂の平均粒子径を上述の範囲内(500nm以下、特に80〜400nm、さらに特に100〜300nm)とすることができ、透明性を有する硬化被膜を形成せしめることが可能となる。
本発明の方法に従って製造される水性樹脂分散体は、一般に、10000〜300000、特に30000〜200000の範囲内の重量平均分子量を有することが望ましい。本明細書において、重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算したときの値である。ゲルパーミュエーションクロマトグラフィに用いるカラムとしては、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)を挙げることができる。
また、上記水性樹脂分散体は、一般に、0.5〜45%、好ましくは3〜30%、さらに好ましくは10〜25%の範囲内の油長を有するのが好適である。油長が0.5%未満では、被膜の酸化硬化性が不十分であり、他方、45%を超えると、乾燥経時で被膜が硬く脆くなり、形成される塗膜の耐候性、耐アルカリ性等の性能に劣ることがある。本明細書において、油長は水性樹脂分散体固形分に含まれる脂肪酸の重量百分率である。
水性樹脂組成物
本発明により提供される水性樹脂組成物は以上に述べた如くして得られる水性樹脂分散体を含んでなるものである。
上記水性樹脂組成物は、ヒドラジン誘導体をさらに含んでなることができる。該ヒドラジン誘導体としては、具体的には例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の2〜18個の炭素原子を有する飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどのモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジドまたはイソフタル酸ジヒドラジド;ピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジドまたはテトラヒドラジド;ニトリロトリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド;カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジンまたはヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させることにより得られるポリヒドラジド;炭酸ジヒドラジド等のヒドラジド基含有化合物;ビスセミカルバジド;ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート又はそれから誘導されるポリイソシアネート化合物にN,N−ジメチルヒドラジン等のN,N−置換ヒドラジンや上記例示のヒドラジドを過剰に反応させて得られる多官能セミカルバジド、該ポリイソシアネート化合物とポリエーテルとポリオール類やポリエチレングリコールモノアルキルエーテル類等の親水性基を含む活性水素化合物との反応物中のイソシアネート基に上記例示のジヒドラジドを過剰に反応させて得られる水系多官能セミカルバジド;該多官能セミカルバジドと水系多官能セミカルバジドとの混合物等のセミカルバジド基を有する化合物;ビスアセチルジヒドラゾン等のヒドラゾン基を有する化合物等が挙げられる。
水性樹脂組成物が上記ヒドラジン誘導体を含有することにより、それから形成される塗膜は空気中の有害物質、例えばホルムアルデヒドを吸着するので、これらの有害物質の除去のために有用であり、また、水性樹脂分散体がカルボニル基を有する場合には、補助架橋のための架橋剤として作用することができる。
上記ヒドラジン誘導体の配合量は、水性樹脂分散体の樹脂固形分に対して、一般に、0.01〜10重量%、特に0.1〜8重量%の範囲内が望ましい。
上記水性樹脂組成物は、必要に応じて、湿潤剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、有機溶剤、増粘剤、防腐剤、防かび剤、pH調整剤、硬化触媒、表面調整剤などの添加剤を適宜選択し組合わせて含有することができる。また、前記で説明したごとき金属ドライヤー、紫外線吸収剤、紫外線安定剤を該水性樹脂組成物に含ませることもできる。
本発明により提供される水性樹脂組成物は、常温でも硬化が可能であり、形成される硬化被膜は透明性を有し、具体的には、該硬化被膜の透過ヘイズ値を例えば5以下とすることができる。ここで透過ヘイズ値は、あらかじめ「COH−300A」(商品名、日本電色工業(株)社製の色差・濁度測定機)にて透過ヘイズ値を測定した透明シート上に、乾燥膜厚が20μmとなるように試料を塗布し1週間20℃で養生したものを試験体とし、この試験体の透過ヘイズ値を「COH−300A」(日本電色工業(株)社製の色差・濁度測定機)にて測定し、透明シートの透過ヘイズ値を差し引いた値である。
かくして、上記水性樹脂組成物は、建築用、自動車外板用、自動車部品用等の塗料用途や印刷インキ等の被覆材、塗料用添加剤、不織布用等の接合剤、接着剤、充填剤、成形材料、レジスト等の種々の用途に使用することができる。
水性塗料組成物
本発明はまた、上記の水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物を提供するものである。
上記水性塗料組成物は、クリヤー塗料として又はエナメル塗料として使用することができる。
エナメル塗料として使用する場合には、顔料分として、塗料分野で既知の着色顔料,光輝性顔料、体質顔料、防錆顔料等を配合することができる。
例えば、チタン白を含有する水性塗料組成物の場合、形成塗膜の肉もち感を保持し且つ光沢ある仕上がり外観とするためには、一般に、チタン白を5〜25%、好ましくは7〜22%の範囲内の体積顔料濃度(PVC)で含有することが望ましい。上記チタン白としては、耐候性の点からルチル型であることが好ましい。ここで「顔料体積濃度」は、塗料中の全樹脂分と全顔料との合計固形分に占めるその顔料分の体積割合である。本明細書において、顔料の体積を算出する際のもとになる顔料の比重は「塗料原料便覧第6版」(社団法人日本塗料工業会)によるものであり、また、樹脂固形分の比重は1と近似するものとする。
上記水性塗料組成物は、上記成分の他に、水溶性もしくはエマルション型のアクリル樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の改質用樹脂、顔料分散剤、界面活性剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、pH調整剤、フラッシュラスト抑止剤、アルデヒド捕捉剤、層状粘度鉱物、粉状もしくは微粒子状の活性炭、光触媒酸価チタン、ポリアルキレングリコール変性アルキルシリケート等の低汚染化剤等の添加剤を単独でもしくは2種以上組み合わせて含有することができる。
上記水性塗料組成物は、新しい基材面や旧塗膜面に適用することができ、該基材としては、特に制限されるものではなく、例えば、コンクリート、モルタル、スレート板、PC板、ALC板、セメント珪酸カルシウム板、コンクリートブロック、木材、石材等の無機基材;プラスチック等の有機基材;鉄、アルミニウム等の金属などが挙げられ、また、旧塗膜としては、これら基材上に設けられたアクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系、アルキド樹脂などの塗膜が挙げられる。これらの被塗面には、水性又は溶剤型の下塗り材を塗布してもよく、必要に応じて、該下塗り材を塗布した後、上記水性塗料組成物を上塗り材として塗布することができる。また、本発明の水性塗料組成物を下塗り材として塗布した後、既知の水性上塗り材を塗布することも可能である。
本発明の水性塗料組成物は、水性樹脂分散体の脂肪酸成分の鉄への馴染みがよいことから、鉄基材又は鉄基材上の塗装面の保護被膜用として適しており、1回又は複数回塗装するだけで長期的に外観を維持することができる。
本発明の水性塗料組成物を鉄基材等の金属面に適用する場合、該水性塗料組成物は、リン酸系顔料をPVCで1〜10%、好ましくは2〜8%の範囲内で含有することが望ましい。
リン酸系顔料は、防食性及び光沢の観点から、高分子界面活性剤の存在下で容易に分散可能なものであることが望ましい。該リン酸系顔料の具体例としては、例えば、リン酸亜鉛、リン・ケイ酸亜鉛、りん酸アルミニウム亜鉛、りん酸カルシウム亜鉛、リン酸カルシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸カルシウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸カルシウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウムなどが挙げられる。
また、本発明の水性塗料組成物は、さらに、亜硝酸塩、フィチン酸塩、タンニン酸塩、及びポリアミン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を含むことができる。亜硝酸塩としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸アンモニウムなどが挙げられ、フィチン酸塩としては、例えば、フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウムなどが挙げられ、タンニン酸塩としては、例えば、タンニン酸ナトリウム、タンニン酸カリウム等が挙げられ、ポリアミン化合物としては、例えば、はN−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPMP)、及びこれらのアルカリ金属塩、モノアルキルアミンやポリアミン、第四級アンモニウムイオンなどをトリポリリン酸二水素アルミニウムなどの層状りん酸塩にインターカレートしてなる層間化合物等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
これら塩基性化合物の添加により、水性塗料組成物を金属面に直接塗布した場合に該金属面の錆が塗膜表面にブリードして点錆などを発生させるのを防止することが可能である。上記塩基性化合物の添加量は、水性塗料組成物の重量を基準にして、0.02〜2重量%、好ましくは0.05〜1重量%の範囲内が適当である。
本発明の水性塗料組成物は、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、ハケ塗装、ローラー塗装、リシンガン、万能ガン等の方法で塗布することができ、また、乾燥方法としては、加熱乾燥、強制乾燥、常温乾燥のいずれであってもよい。本明細書では、40℃未満の乾燥条件を常温乾燥とし、40℃以上で且つ80℃未満の乾燥条件を強制乾燥とし、80℃以上の乾燥条件を加熱乾燥とする。本発明の水性塗料組成物の塗布量としては、例えば、50〜300g/mの範囲内とすることができる。
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、「部」及び「%」は「重量部」及び「重量%」である。
脂肪酸変性モノマーの製造
製造例1
反応容器に下記の成分を入れ、攪拌しながら反応温度140℃で反応させ、脂肪酸変性モノマー(a−1)を得た。エポキシ基とカルボキシル基の反応は残存カルボキシル基の量を測定することによりモニターした。反応が完了するまで約5時間を要した。
サフラワー油脂肪酸 280部
グリシジルメタクリレート 142部。
製造例2
反応させる成分を下記のものに変更する以外は製造例1と同様にして、脂肪酸変性モノマー(a−2)を得た。
亜麻仁油脂肪酸 280部
グリシジルメタクリレート 142部。
製造例3
反応させる成分を下記のものに変更する以外は製造例1と同様にして、脂肪酸変性モノマー(a−3)を得た。
ヤシ油脂肪酸 210部
グリシジルメタクリレート 142部。
製造例4
下記の成分を反応容器に入れ、攪拌しながら120℃に昇温させた。
サフラワー油脂肪酸 2240部
ハイドロキノン 1.8部
メチル硫酸 2.6部
トルエン 144部
続いて、下記に示す成分の混合物を上記反応容器に2時間かけて滴下した。
ヒドロキシエチルメタクリレート 1300部
ハイドロキノン 2.6部
メチル硫酸 5.6部
トルエン 234部
滴下終了後150℃まで昇温し、縮合水を除去しながら、酸価が8.7以下になるまで約5時間反応させた。その後、加熱残分が95%以上になるまでトルエンを減圧除去し、脂肪酸変性モノマー(a−4)を製造した。
水性樹脂分散体の製造
【実施例1】
ガラスビーカーに下記成分を入れ、ディスパーにて2000rpmで15分間攪拌し、予備乳化液を製造した後、この予備乳化液を、高圧エネルギーを加えて流体同士を衝突させる高圧乳化装置にて100MPaで高圧処理することにより、分散粒子の平均粒子径が190nmのモノマー乳化物を得た。
モノマー乳化物組成
脂肪酸変性モノマー(a−1) 30部
n−ブチルメタクリレート 25部
i−ブチルメタクリレート 27部
2−エチルヘキシルメタクリレート 17部
メタクリル酸 1部
「Newcol707SF」(注1) 10部
脱イオン水 85部
次いで上記モノマー乳化物をフラスコへ移し、脱イオン水にて固形分濃度が45%となるように希釈した。その後85℃まで昇温させ、「VA−086」(注2)2gを脱イオン水64.7gに溶解させた開始剤水溶液をフラスコに投入し、該温度を保持しながら3時間攪拌した。その後、「VA−086」(注2)0.5gを脱イオン水16.2gに溶解させた開始剤水溶液をフラスコに添加し、該温度を保持しながら1時間攪拌した後40℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールでpHを8.0に調整し、固形分濃度40%、分散樹脂の平均粒子径が185nmの水性樹脂分散体(I−1)を得た。
(注1)「Newcol707SF」:商品名、日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性乳化剤、有効成分30%、
(注2)「VA−086」:商品名、和光純薬社製、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]。
実施例2〜14及び比較例1
モノマー乳化物の配合組成を表1に記載のとおりに変更する以外は上記実施例1と同様にして、水性樹脂分散体(I−2)〜(I−14)及び(I−15)を得た。

比較例2
表1に記載の配合にて各モノマー、乳化剤、脱イオン水をガラスビーカーに仕込み、ディスパーにて2000rpmで15分間攪拌し、モノマー乳化物を製造した。該モノマー乳化物の分散粒子の平均粒子径は8100nmであった。このモノマー乳化物に「VA−086」(注2)を2g加え溶解するまで攪拌した。別途、フラスコに「Newcol707SF」(注1)0.08g及び脱イオン水50gを仕込み、85℃まで昇温した。フラスコ内の温度を保持しつつ攪拌しながら、前述のモノマー乳化物及び「VA−086」0.5gを脱イオン水10gに溶解させた水溶液をフラスコに4時間かけて滴下した。滴下終了後1時間熟成し、「VA−086」(注2)0.25gを脱イオン水3.0gに溶解させた開始剤水溶液をフラスコに添加して、1時間さらに熟成し、水性樹脂分散体(I−16)を得た。この水性樹脂分散体は、ろ過残渣が非常に多かった。ろ過残渣を除いてサンプリングし、希釈した試料中の分散樹脂の平均粒子径は150nmであった。
比較例3
フラスコにトルエンを70部仕込み、100℃に昇温した。別の容器で調製した下記組成のモノマー混合物をフラスコに該温度を保持し攪拌しながら4時間かけて滴下した。滴下終了後1時間熟成し、さらにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート5.0gをトルエン1.0gに溶解させた開始剤溶液を1時間かけて滴下し、さらに1時間熟成した。その後40℃に冷却し、脂肪酸変性アクリル樹脂を得た、該脂肪酸変性アクリル樹脂100gに対して「Newcol707SF」を5g添加し攪拌し、固形分が33%となるまで脱イオン水で希釈した。上記混合物を強制攪拌し、水分散した後、加熱、減圧してトルエンを除去し、自己乳化タイプの水性樹脂分散体(I−17)を得た。
モノマー混合物組成
脂肪酸変性モノマー(a−1) 30部
n−ブチルメタクリレート 25部
i−ブチルメタクリレート 27部
2−エチルヘキシルメタクリレート 15部
メタクリル酸 3部
トルエン 15部
t−ブチルパーオキシ2エチルヘキサノエート 1.2部。
【実施例15】
ガラスビーカーに下記の成分を入れ、ディスパーにて2000rpmで15分間攪拌し、予備乳化液を製造した後、この予備乳化液を、高圧エネルギーを加えて流体同士を衝突させる高圧乳化装置にて100MPaで高圧処理することにより、分散粒子の平均粒子径が190nmのモノマー乳化物を得た。
モノマー乳化物組成
脂肪酸変性モノマー(a−2) 30.15部
スチレン 15部
ヒドロキシエチルメタクリレート 4.5部
iブチルメタクリレート 20.35部
t−ブチルメタクリレート 20部
2−エチルヘキシルアクリレート 8部
メタクリル酸 2部
「Newcol707SF」(注1) 10部
脱イオン水 85部
次いで、上記モノマー乳化物をフラスコへ移し、脱イオン水にて固形分濃度が45%となるように希釈した。その後85℃まで昇温させ過硫酸アンモニウム1.0部を脱イオン水15部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコへ投入し、該温度を保持しながら3時間攪拌した。その後過硫酸アンモニウム0.3部を脱イオン水2.7部へ溶解させた開始剤水溶液をフラスコに添加し、該温度を保持しながら1時間攪拌した後40℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールでpHを8.0に調整し、固形分濃度40%、分散樹脂の平均粒子径が165nmの水性樹脂分散体(I−18)を得た。
【実施例16〜33】
上記実施例15において、配合組成を下記表2及び表3に記載のとおり変更する以外は、実施例15と同様にして、水性樹脂分散体(I−19)〜(I−36)を製造した。
比較例4
実施例1において、得られた予備乳化液を、高せん断能力を有する分散機を用いて10000rpmで5分間攪拌して、分散粒子の平均粒子径が520nmのモノマー乳化物を得る以外は、実施例1と同様の配合組成、手順にして、分散樹脂の平均粒子径が630nmの水性樹脂分散体(I−37)を製造した。


水性樹脂組成物の製造
実施例34〜66及び比較例5〜8
下記表4に記載の配合組成により、水性樹脂組成物を得た。各水性樹脂組成物について貯蔵安定性と透明度を下記の基準にて評価した。結果を表4にあわせて示す。

(*1)透明度
透過ヘイズ値を測定することにより評価した。あらかじめ「COH−300A」(商品名、日本電色工業(株)社製の色差・濁度測定機)にて透過ヘイズ値を測定したOHPシートに、乾燥膜厚が20μmとなるように各水性樹脂組成物を塗布し、1週間20℃で養生したものを試験体とし、この試験体の透過ヘイズ値を「COH−300A」(商品名、日本電色工業(株)社製の色差・濁度測定機)にて測定し、OHPシートの透過ヘイズ値を差し引いた値を透明度とした。値が低いほど透明度が良好であることを示す。
(*2)貯蔵安定性
各水性樹脂組成物を容量が1Lの内面コート缶に1kg入れ、窒素封入した後、40℃で30日間貯蔵した。その後、室温に戻し、容器の中での状態を目視にて観察し、次の基準で評価した。
○:初期の状態のままであり、変化がない。
○△:ソフトケーキングやニス浮きが見られるが攪拌により初期状態に戻る。
×:増粘する
水性塗料組成物の製造
実施例67〜100及び比較例9〜12
容器に表5に記載の組成(A)に示される各成分を順次仕込み、ディスパーで30分間均一になるまで攪拌を続け、各顔料ペーストを得た。その後、該各顔料ペーストに各水性樹脂分散体(I−1)〜(I−37)を仕込み、表5に記載の組成(B)に示される各成分を順次添加し、各水性塗料組成物を得た。ついで各水性塗料組成物を下記基準にて評価した。結果を表5に各水性塗料組成物の性状値と共に示す。



(*3)硬化性
各水性塗料組成物を離型紙に膜厚が20μになるように塗布し、1週間乾燥させた後、遊離塗膜を20℃のアセトン溶剤に入れ、24時間抽出した後の塗膜の残存率(%)を調べた。値が高い程硬化性が良好であることを示す。
(*4)肉持ち感
各水性塗料組成物を6ミルドクターブレードを用いてガラス板に塗装し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で乾燥させて各試験塗板を得た。1日後に塗膜外観を目視にて評価した。
◎:肉持感が特に優れる、
○:肉持ち感に優れる、
△:肉持ち感に乏しい。
(*5)光沢
上記(*4)と同様にして得た試験塗板の60度グロスを測定した。値が大きい程光沢が良好であることを示す。
(*6)耐水性
JIS K 5410に規定する鋼板(150×70×0.8mm)をキシレンにて脱脂し、その上に、各水性塗料組成物を上水で約70KUに希釈して刷毛にて塗布量が150g/mとなるようにして塗装し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で1週間乾燥させて各試験塗板を得た。各試験塗板を、JIS K 5400の8.19に準じて耐水性試験(96時間浸漬)に供した。試験後の各塗面を下記基準で評価した。
◎:割れ、はがれがなく、また光沢保持率が70%以上である、
○:割れ、はがれがなく、また光沢保持率が60%以上である、
△:上記の内、1つでも該当しないものがある。
(*7)防食性
素材としてJIS K 5410に規定する鋼板(150×70×0.8mm)をキシレンにて脱脂したものを使用し、これに各水性塗料組成物を上水で約70KUに希釈し、刷毛にて塗付量100g/mとなるようにして塗装した。
さらに乾燥1日後に2回目の塗装を1回目と同様に行ない、気温20℃、相対湿度60%の条件下で7日乾燥させて各試験塗板を作成した。各試験塗板をJIS K 5621に規定されている耐複合サイクル防食性試験に36サイクル供して、その塗膜面を下記基準で評価した。
○:塗膜にさびが認められない、
△:塗膜に一部さびが認められる、
×:塗膜の全面にさびが認められる。
(*8)促進耐候性
防食性試験用と同様に作成した各試験塗板を、JIS K 5400の9.8.1(サンシャインカーボンアーク灯式)の促進耐候性試験に準じて、1000時間照射した後、各塗板面をJIS K 5400の9.6白亜化度によって評価した。点数が低いほど白亜化が進んでいることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及び(B)モノマー(A)と共重合可能な他の重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させることを特徴とする分散樹脂の平均粒子径が500nm以下である水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項2】
(A)脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及び(B)モノマー(A)と共重合可能な他の重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物(I)をミニエマルション重合させることを特徴とする分散樹脂の平均粒子径が500nm以下である水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項3】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)が、脂肪酸(a1)と、エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a2)又は水酸基含有重合性不飽和モノマー(a3)との反応生成物である請求の範囲第1又は2項に記載の方法。
【請求項4】
他の重合性不飽和モノマー(B)が使用するすべての他の重合性不飽和モノマー(B)の(共)重合体の理論ガラス転移温度が0〜100℃の範囲内となるように選択される請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
他の重合性不飽和モノマー(B)が、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b1)を、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)及び他の重合性不飽和モノマー(B)の合計重量に基づいて0.1〜5重量%の範囲内で含んでなる請求の範囲第1〜4項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
他の重合性不飽和モノマー(B)が、炭素数6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b3)を、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)及び他の重合性不飽和モノマー(B)の合計重量に基づいて1〜30重量%の範囲内で含んでなる請求の範囲第1〜5項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
他の重合性不飽和モノマー(B)が、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b1)、炭素数4以上の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b2)、ならびに脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A)、上記モノマー(b1)及びモノマー(b2)以外の他の重合性不飽和モノマー(b7)を含んでなり、そしてモノマー混合物(I)が、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量に基づいて、モノマー(A)を5〜50重量%、モノマー(b1)を0.1〜5重量%、モノマー(b2)を45〜80重量%及び他の重合性不飽和モノマー(b7)を0〜49.9重量%含有し、ここで炭素数4以上の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(b2)が、炭素数6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b3)を、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量に基づいて、1〜30重量%の範囲内で含んでなる請求の範囲第1又は2項に記載の方法。
【請求項8】
他の重合性不飽和モノマー(B)が、シクロアルキル基含有重合性不飽和モノマー(b4)を含んでなる請求の範囲第1〜7項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
他の重合性不飽和モノマー(B)が、シクロアルキル基含有重合性不飽和モノマー(b4)、芳香族ビニルモノマー(b5)ならびにモノマー(A)、モノマー(b4)及びモノマー(b5)以外の他の重合性不飽和モノマー(b8)を含んでなり、そしてモノマー混合物(I)が、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量に基づいて、モノマー(A)を5〜50重量%、モノマー(b4)を1〜70重量%、モノマー(b5)を1〜50重量%及び他の重合性不飽和モノマー(b8)を0〜93重量%含有する請求の範囲第1又は2項に記載の方法。
【請求項10】
他の重合性不飽和モノマー(B)が、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b6)を含んでなる請求の範囲第1〜9項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
脂肪酸(a1)が、半乾性油脂肪酸及び不乾性油脂肪酸から選ばれる請求の範囲第3項に記載の方法。
【請求項12】
モノマー混合物(I)が、重合性不飽和基を実質的に含有しない化合物をさらに含む請求の範囲第1〜11項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
重合性不飽和基を実質的に含有しない化合物が、紫外線吸収剤、紫外線安定剤及び金属ドライヤーから選ばれる少なくとも1種である請求の範囲第12項に記載の方法。
【請求項14】
請求の範囲第1〜13項のいずれか1項に記載の方法により製造される水性樹脂分散体。
【請求項15】
請求の範囲第14項に記載の水性樹脂分散体を含んでなる水性樹脂組成物。
【請求項16】
ヒドラジン誘導体をさらに含んでなる請求の範囲第15項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項17】
形成される硬化被膜の透過ヘイズ値が5以下である請求の範囲第15又は16項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項18】
請求の範囲第15又は16項に記載の水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物。
【請求項19】
チタン白を5〜25%の範囲内の顔料体積濃度でさらに含んでなる請求の範囲第18項に記載の水性塗料組成物。
【請求項20】
リン酸系顔料を1〜10%の範囲内の顔料体積濃度でさらに含んでなる請求の範囲第18又は19項に記載の水性塗料組成物。
【請求項21】
亜硝酸塩、フィチン酸塩、タンニン酸塩及びポリアミン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに含んでなる請求の範囲第18〜20項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項22】
被塗面に、請求の範囲第18〜21項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項23】
被塗面が、鉄基体又は鉄基体上の塗装面である請求の範囲第22項に記載の塗膜形成方法。
【請求項24】
請求の範囲第22又は23項に記載の方法により形成される塗装物品。

【国際公開番号】WO2004/074327
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502729(P2005−502729)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001781
【国際出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】