説明

水性被覆組成物

【課題】サイディングボードなどの無機建材の1次シーラーとして有用な、1液型の水性被覆組成物を提供する。
【解決手段】(I)エポキシ樹脂(A)が内包され、且つ平均粒子径が2μm以下であるマイクロカプセルを含む水性分散体であって、該エポキシ樹脂(A)をマイクロカプセルの全重量に対して20〜80重量%含むものである水性分散体、及び(II)アミン系硬化剤を含有することを特徴とする水性被覆組成物。無機質材を成形、養生した後、水性シーラーを塗装する無機質材の製造方法において、水性シーラーとして上記水性被覆組成物を好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機建材等の1次シーラーとして有用な、1液型の水性被覆組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サイディングボードなどの建物の外壁材として、無機材料を板状に成形した後、(オートクレーブ)養生、切削加工した後、1次シーラー塗装、ついでプレヒートを行なった後、2次シーラーの塗装、乾燥を行うことによりシーラー板が製造され、さらに上記シーラー塗装後に、上塗り塗装、乾燥を行うことにより上塗り塗装板が製造されている。
【0003】
上記した1次シーラーとしては、有機溶剤系シーラーが多く使用されてきたが、公害、安全衛生面から水性シーラーに置き換わってきている。このような水性シーラーとしては、アクリルエマルション系シーラー、エポキシエマルション系シーラーが主に使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2など)。アクリルエマルション系シーラーでは有機溶剤系シーラーにくらべ耐透水性などのバリア性や耐凍害性が劣り、エポキシエマルション系シーラーでは2液型であるために可使時間が短く、取扱いが煩雑であり、また塗装機周辺に付着した塗料が硬化して拭き取れなくなるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−290539号公報
【特許文献2】特開2001−239517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、無機建材等の1次シーラーとして有用な、1液型の水性被覆組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(I)エポキシ樹脂(A)が内包され、且つ平均粒子径が2μm以下であるマイクロカプセルを含む水性分散体であって、該エポキシ樹脂(A)をマイクロカプセルの全重量に対して20〜80重量%含むものである水性分散体、及び(II)アミン系硬化剤を含有することを特徴とする水性被覆組成物、無機質材を成形、養生した後、水性シーラー、さらには上塗り塗料を塗装する無機質材の製造方法において、該水性シーラーとして前記水性被覆組成物を用いることを特徴とする無機質材の製造方法、及び該方法により製造される塗装物品に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性被覆組成物は、1液型として安定に貯蔵することができ、これを水性シーラーとして無機質材表面に塗装すると、プレヒートもしくは乾燥工程の加熱に応答あるいは無機質板のpHに応答する等してマイクロカプセル壁膜から、内包されていたエポキシ樹脂が放出され、これとアミン系硬化剤が架橋して、密着性、耐透水性、耐凍害性等に優れた塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において水性分散体(I)は、エポキシ樹脂(A)を内包し、且つ平均粒子径が2μm以下、好ましくは0.05〜1.8μmであるマイクロカプセルを含むものである。
【0009】
上記エポキシ樹脂(A)は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するものであり、通常、エポキシ当量が約150〜5000、好ましくは約160〜1000であることが望ましい。またエポキシ樹脂(A)は、該エポキシ樹脂(A)としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、上記エポキシ樹脂を二塩基酸等で変性したエポキシエステル樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、エポキシ基含有アクリル樹脂等が挙げられ、これらのうち特にビスフェノ−ル型エポキシ樹脂であることが可撓性及び密着性等の点から好適である。
【0010】
上記ビスフェノ−ル型エポキシ樹脂としては、特にビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂などが好適に使用できる。
【0011】
上記エポキシ樹脂(A)は、また、上記例示のエポキシ樹脂がアクリル変性されたものであっても良い。アクリル変性は、例えば上記例示のエポキシ樹脂とカルボキシル基含有アクリル樹脂とを反応させる、該エポキシ樹脂と酸無水基含有アクリル樹脂とを反応させる、該エポキシ樹脂に重合性不飽和モノマーをグラフト重合又は共重合させるなどの方法によって行うことができる。
【0012】
上記エポキシ樹脂(A)は、水性分散体(I)において、マイクロカプセルの全重量に対して20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%含まれる。この範囲を外れると、組成物の貯蔵安定性が低下し、また形成膜の耐凍害性、密着性等が低下するので好ましくない。
【0013】
上記エポキシ樹脂(A)を内包するマイクロカプセルは、特に制限なく従来公知の手法によってエポキシ樹脂(A)をマイクロカプセル中に封入することによって得ることができ、通常、エポキシ樹脂(A)が液状の場合にはそのまま、エポキシ樹脂(A)が固形の場合には有機溶剤中にエポキシ樹脂(A)を溶解させ(油相)、これを水溶性高分子の水溶液中(水相)に加えて乳化分散させるものである。このとき、壁膜となるモノマーあるいは(プレ)ポリマーを有機溶剤相側か水相側の何れかに添加しておくことにより、有機溶剤相と水相との界面に高分子の壁膜を形成させ、マイクロカプセル化するものである。壁膜とし得る高分子としては、例えばゼラチン、アルギン酸塩、セルロース類、ポリウレア、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリアミド(ナイロン)などが例示できる。これらのうち本発明では、マイクロカプセルが加熱又はpHの変化によりエポキシ樹脂(A)を放出し得る高分子からなる壁膜を有するものであることが、本発明組成物による形成膜の成膜性の点から好適である。
【0014】
熱応答性を示す壁膜を形成し得る高分子としては、特にポリウレタン及び/又はポリウレア樹脂が、そのガラス転移温度が室温〜200℃程度の範囲内にあるため、好適に使用できる。本発明では、特にガラス転移温度が70〜120℃の範囲内であるポリウレタン及び/又はポリウレア樹脂が、成膜性の点から好適である。ここでガラス転移温度は、示差走査型熱分析により測定したときの値である。
【0015】
上記ポリウレタン及び/又はポリウレア樹脂を壁膜とするマイクロカプセルは、通常、エポキシ樹脂(A)が液状の場合にはそのものを、エポキシ樹脂(A)が固形の場合には有機溶剤中に溶解したものを、ポリイソシアネート化合物等を混合し、次いで乳化剤の存在下、水性媒体中に乳化分散した後、必要に応じてポリオールやポリアミン等を添加し混合した後、重合促進触媒を添加、及び/又は液温を上昇させることによって、ポリイソシアネート化合物を水やポリオール、ポリアミン等の活性水素基を有する化合物と重合させて壁膜を形成することができる。上記有機溶剤は必要に応じて留去することができる。
【0016】
上記エポキシ樹脂(A)を溶解する有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ミネラルスピリット、n−ヘキサン、n−オクタン、2,2,2−トリメチルペンタン、イソオクタン、n−ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンのような脂肪族炭化水素類等が挙げられ、これらは単独であるいは併用して使用できる。該有機溶剤の使用量は、エポキシ樹脂(A)の固形分100重量部に対して10〜200重量部、好ましくは20〜180重量部の範囲内が適当である。
【0017】
上記乳化剤としては、例えばポリビニルアルコール、スルホン酸基変性ポリビニルアルコールなどの変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、スチレン−無水マレイン酸共重合体塩、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体塩及びこれらの誘導体等の水溶性高分子;ノニオン性、アニオン性、カチオン性の各種界面活性剤などが使用できる。該乳化剤の使用量は、エポキシ樹脂(A)の固形分100重量部に対して5〜40重量部、好ましくは7〜20重量部の範囲内が適当である。
【0018】
上記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート類;これらの脂肪族ポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(もしくは−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(もしくは1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート類;これらの脂環族ジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4´−トルイジンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルエーテルジイソシアネート、(m−もしくはp−)フェニレンジイソシアネート、4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、3,3´−ジメチル−4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4−フェニルイソシアネート)などの芳香族ジイソシアネート化合物;これらの芳香族ジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;水添MDI及び水添MDIの誘導体;トリフェニルメタン−4,4´,4´´−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4´−ジメチルジフェニルメタン−2,2´,5,5´−テトライソシアネートなどの1分子中に3個以上のイソシアネ−ト基を有するポリイソシアネート類;これらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物;これらのウレタン化付加物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物等を挙げることができる。
【0019】
上記ポリイソシアネート化合物の使用量は、エポキシ樹脂(A)の固形分100重量部に対して10〜150重量部、好ましくは20〜130重量部の範囲内が適当である。
【0020】
上記ポリオールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジヒドロキシシクロヘキサン、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、グリセリン、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールなどが挙げられ、上記ポリアミンとしては、例えばトリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2−ヒドロキシトリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、テトラエチレンペンタミン、エポキシ化合物のアミン付加物等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上混合して使用することができる。
【0021】
上記ポリオールやポリアミン等の活性水素基を有する化合物を添加する場合、その使用量は、上記ポリイソシアネート化合物100重量部に対して5〜50重量部、好ましくは7〜30重量部の範囲内が適当である。
【0022】
一方、pH応答性を示す壁膜を形成し得る高分子としては、無機質材のセメント成分からアルカリが発生する点から、酸性環境下ではエポキシ樹脂(A)の放出を抑え、中性・アルカリ性環境下では放出させることができるものが望ましく、アニオン性基含有樹脂、特にカルボキシル基含有樹脂が好適である。
【0023】
上記カルボキシル基含有樹脂を壁膜とするマイクロカプセルは、通常、エポキシ樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂、必要に応じて硬化剤などを有機溶剤中に溶解した有機溶剤溶液に水を投入することによって、あるいは水中に該有機溶剤溶液を投入することによって、自己分散(転相乳化)させて壁膜を形成することができる。上記有機溶剤は必要に応じて留去することができる。
【0024】
本発明において水性分散体(I)は、上記のようにして得られるマイクロカプセルを含むものであり、マイクロカプセルの平均粒子径は、2μm以下、好ましくは0.05〜1.8μmである。2μmを超えると基材への浸透性に劣り、密着性や耐凍害性などが低下するので望ましくない。
【0025】
ここでマイクロカプセルの平均粒子径は、動的光散乱法による平均粒子径であり、Coulter社製「COULTERモデルN4SD」、サブミクロン粒子分析装置を用いて測定することができる。平均粒子径を2μm以下にするために、必要に応じて乳化工程で、高エネルギーせん断能力を有する分散機を用いることができる。その際に使用しうる該分散機としては、例えば、高圧乳化装置、超音波乳化機、高圧コロイドミル、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの分散機は、通常、10〜1000MPa、好ましくは50〜300MPa程度の高圧下で操作することができる。
【0026】
本発明において水分散体(I)は、組成物中の全樹脂固形分中に10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%の範囲で含まれることが、形成膜の密着性や耐凍害性など点から望ましい。
【0027】
本発明においてアミン系硬化剤(II)としては、従来公知のエポキシ樹脂用硬化剤を特に制限なく使用することができ、具体的には、メタキシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノシクロヘキシルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン、ポリオキシプロピレンポリアミン等のポリアミン類;該ポリアミンのエポキシ樹脂アダクト物、ケチミン化物、ポリアミドアミン類、ポリアミド樹脂等を例示することができる。これらは1種又は2種以上混合して使用することができる。
【0028】
また乳化性、作業性を容易にするために、前記エポキシ樹脂(A)と同様のエポキシ樹脂に活性水素を有するアミン化合物を実質的にエポキシ基が検出されなくなる程度まで反応させてなるアミン付加変性エポキシ樹脂を分散安定樹脂として、上記ポリアミン類等の中の疎水性のものを水性媒体中に分散してなるものも、アミン系硬化剤(II)として用いてもよい。
【0029】
該活性水素を有するアミン化合物としては、例えばジエチルアミン、ジエタノールアミン等の第2級モノアミン;ジエチレントリアミン、エチルエミノエチルエミン、モノエタノールアミンなどの第1級アミノ基をケチミンで変性した化合物などが挙げられる。
【0030】
本発明において、前記水性分散体(I)とアミン系硬化剤(II)の使用比は、通常、該アミン中の活性水素とエポキシ樹脂(A)中のエポキシ基のモル比が10/90〜70/30、好ましくは20/80〜60/40の範囲内となるように選択される。
【0031】
本発明の水性被覆組成物には、更に必要に応じて着色顔料、体質顔料、防食顔料等の顔料類;硬化触媒、界面活性剤、消泡剤、顔料分散剤、沈降防止剤、増粘剤、有機溶剤、造膜助剤、塗面調整剤、可塑剤、防腐剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の塗料用添加剤、さらに前記(I)以外の水溶性樹脂やコロイダルディスパージョン等を配合することができる。
【0032】
本発明では、上記の通り得られる水性被覆組成物を、各種基材面に塗装することができる。基材としては、特に制限なく、金属、無機材、プラスチック、木材など各種のものが挙げられる。その塗装方法としては、特に制限なく、スプレ−塗装、ロ−ラ−塗装、刷毛塗装、浸漬塗装、フローコーター(カーテンフローコーターなど)など従来公知の方法が採用できる。
【0033】
特に本発明方法は、無機質材を成形、養生した後、水性シーラーを塗装する無機質材の製造方法において、該水性シ−ラーとして上記本発明の水性被覆組成物を用いるものであることが好適である。
【0034】
上記無機質材は、セメントを主成分とし、これにパルプやロックウールなどの補強繊維、珪砂などの珪酸質材料、さらには無機質充填剤を配合した組成物を、抄造法あるいはプレス成形などの手段により成形して水硬化させてなる無機 質硬化材(例えば、珪酸カルシウム板、石綿セメント板、木片セメント板、パルプセメント板、軽量気泡コンクリート板)などである。
【0035】
上記無機質材の養生としては、オートクレーブ養生を行う場合と行わない場合があるが、オートクレーブ養生を行わない場合は、1次養生後に塗装し、オートクレーブ養生を行う場合にはオートクレーブ養生の後に塗装するのが望ましい。オートクレーブ養生は、特に制限なしに窯業系基材で採用されている条件で行うことができる。オートクレーブ養生を行う場合には、通常、オートクレーブ養生時のエフロ発生を抑制するためにオートクレーブ前シーラーが塗装されるので、オートクレーブ養生後、オートクレーブ前シーラー皮膜上に上記水性被覆組成物が塗装されることになる。オートクレーブ前シーラーは従来公知のものが使用できる。
【0036】
本発明では、上記水性被覆組成物を塗装時における塗料固形分1〜50重量%、好ましくは3〜45重量%の濃度で使用するのが適当である。該塗装固形分が1重量%未満では、塗装膜厚を確保するために塗装回数が多くなって塗装作業性が悪くなり、一方50重量%を超えると基材に対する浸透性が劣り基材(オートクレーブ前シーラーが塗布されている場合にはオートクレーブ前シーラー皮膜)との付着性が悪くなるので好ましくない。
【0037】
本発明方法では、上記水性被覆組成物の塗布量(固形分換算)を1〜100g/m2、好ましくは5〜20g/m2の範囲内とするのが、耐透水性、耐透湿性、耐ブロッキング性等の点から適当である。
【0038】
上記水性被覆組成物の塗装方法には、特に制限なく、スプレ−塗装、ロ−ラ−塗装、刷毛塗装、浸漬塗装、フローコーター(カーテンフローコーターなど)など従来公知の方法が採用でき、赤外線乾燥炉、熱風乾燥炉、ジェットヒーターなどで雰囲気温度50〜200℃、好ましくは70〜150℃で10秒〜30分間、好ましくは20秒〜20分間、さらに好ましくは30秒〜10分間程度乾燥させるのがよい。
【0039】
上記のように本発明方法では、無機質材を成形、養生した後、水性シーラーとして上記水性被覆組成物を塗装してシーラー塗装無機質材とすることができる。
【0040】
本発明方法において特に好適には、上記水性被覆組成物を1次シーラーとして塗装後、30〜200℃、好ましくは40〜160℃で10秒〜3分間プレヒートを行ない、次いで上塗り塗料塗装を行なった後、50〜200℃、好ましくは70〜150℃で10秒〜30分間、好ましくは20秒〜20分間、さらに好ましくは30秒〜10分間程度乾燥して上塗り塗装無機質材とすることができる。また上記プレヒート後に、必要に応じて2次シーラーを塗装し50〜200℃、好ましくは70〜150℃で10秒〜30分間、好ましくは20秒〜20分間、さらに好ましくは30秒〜10分間程度乾燥し、さらに上塗り塗料塗装を行ない、50〜200℃、好ましくは70〜150℃で10秒〜30分間、好ましくは20秒〜20分間、さらに好ましくは30秒〜10分間程度乾燥して上塗り塗装無機質材とすることもできる。
【0041】
上記の上塗り塗料としては、特に制限なく従来公知の水性 、有機溶剤型、無溶剤型などの上塗り塗料を使用でき、例えばアクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、塩化ビニル樹脂系、繊維素樹脂系、シリコーン樹脂系、ポリエステル樹脂系、アルキド樹脂系、フッ素樹脂系及びこれらの2種以上の変性樹脂やブレンド樹脂などをバインダー成分とするものが挙げられる。また上塗り塗料はラッカータイプもしくは架橋タイプのいずれにおいても使用することができる。さらに上塗り塗料としては上記樹脂系の塗料を顔料を含むエナメル塗料、顔料を含まないクリヤー塗料のいずれであってもよい。
【0042】
上塗り塗料の塗布量(固形分換算)は、10〜100g/m2、好ましくは20〜70g/m2の範囲内とするのが適当である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」及び「%」は、別記しない限り「重量部」及び「重量%」を示す。
【0044】
マイクロカプセル水性分散体の製造
製造例1
スルホン酸基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、「ゴーセランL−3266」)3gを水27gに溶解し、その中へ液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、「エピコート828」)10gとヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット型プレポリマー(住友バイエルウレタン株式会社製、「スミジュールN−3200」)5gを添加し混合した混合液を、高圧ホモジナイザーで乳化分散した。その後、水4gおよびトリエチレンテトラミン0.5gを加え室温で3時間攪拌し、エポキシ樹脂内包マイクロカプセル水分散体(I−1)を得た。この水分散体の平均粒子径は約1μmであった。
【0045】
製造例2
製造例1において、乳化時に高圧ホモジナイザーの代わりにディスパーを用いた以外は製造例1と同様にしてエポキシ樹脂内包マイクロカプセル水分散体(I−2)を得た。この水分散体の平均粒子径は約3μmであった。
【0046】
製造例3
製造例1において、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、「エピコート828」)の代わりに、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、「デナコールEX−411」)を使用した以外は製造例1と同様にしてエポキシ樹脂内包マイクロカプセル水分散体(I−3)を得た。この水分散体の平均粒子径は約0.8μmであった。
【0047】
製造例4
スルホン酸基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、「ゴーセランL−3266」)3gを水27gに溶解し、その中へメチルエチルケトン10gにビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、「エピコート1001」)10gを溶解させてなる樹脂溶液20gとヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット型プレポリマー(住友バイエルウレタン株式会社製、スミジュールN−3200)5gを添加し混合した混合液を、高圧ホモジナイザーで乳化分散した。その後、水4gおよびトリエチレンテトラミン0.5gを加え室温で3時間攪拌し、次いで80℃で3時間攪拌してメチルエチルケトンを揮発除去し、エポキシ樹脂内包マイクロカプセル水分散体(I−4)を得た。この水分散体の平均粒子径は約0.9μmであった。
【0048】
製造例5
スルホン酸基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、「ゴーセランL−3266」)3gを水27gに溶解し、その中へ液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、「エピコート828」)2gとヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット型プレポリマー(住友バイエルウレタン株式会社製、「スミジュールN−3200」)13gを添加し、高圧ホモジナイザーで乳化分散した。その後、水4gおよびトリエチレンテトラミン0.5gを加え室温で3時間攪拌し、エポキシ樹脂内包マイクロカプセル水分散体(I−5)を得た。この水分散体の平均粒子径は1μmであった。
【0049】
製造例6
スルホン酸基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、「ゴーセランL−3266」)3gを水27gに溶解し、その中へ液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、「エピコート828」)15gとヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット型プレポリマー(住友バイエルウレタン株式会社製、「スミジュールN−3200」)0.2gを添加し、高圧ホモジナイザーで乳化分散した。その後、水4gおよびトリエチレンテトラミン0.5gを加え室温で3時間攪拌し、エポキシ樹脂内包マイクロカプセル水分散体(I−6)を得た。この水分散体の平均粒子径は1μmであった。
【0050】
水性被覆組成物の作成
実施例1
製造例1で得られた水分散体(I−1)の100gに、変性ポリアミドアミン系硬化剤(ジャパンエポキシレジン株式会社製、「エピキュア3255」、固形分50%)40g及び水60gを添加し、攪拌混合して、固形分20%の1液型の水性被覆組成物を得た。
【0051】
実施例2、3及び比較例1〜3
実施例1において、使用する水分散体を表1の通りとする以外は実施例1と同様にして各1液型の水性被覆組成物を得た。
【0052】
比較例4
エポキシ樹脂エマルション(日本エヌエスシー社製、「エポルジョンEA−7」、固形分62%)20部とアミン系硬化剤(日本エヌエスシー社製、「エポルジョンEB−3」、固形分40%)20部及び水60部を、塗装直前に攪拌混合して、固形分20%の水性被覆組成物を得た。
【0053】
比較例5
アクリルエマルション(日本NSC社製、「ヨドゾールAD113」、固形分50%)40部に、「TEXANOL」(注1)3部、水57部を攪拌混合して固形分20%の水性被覆組成物を得た。
(注1)「TEXANOL」:商品名、イーストマンケミカル社製、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、造膜助剤
性能試験
上記で得られた各水性被覆組成物について貯蔵安定性を下記方法で評価した。また各水性被覆組成物を無機質板に各々50g/m塗布した後、無機質材の表面温度が50℃になるまでプレヒートし、アクリルエマルション系上塗り塗料(関西ペイント株式会社製、「IMコート5111」、固形分50%)を100g/m塗布し、160℃のジェットヒーターで1分間乾燥して各塗装板を作成した。各塗装板について、下記方法で耐凍害性及び上塗り密着性を評価した。尚、無機質板は、ポルトランドセメント60部、けい砂50部、パルプ繊維5部、セピオライト3部、カーボンブラック1部、水120部からなる組成物を抄造法で板状にし、次いでプレス成形、オートクレーブ養生して作成した。
【0054】
(*1)貯蔵安定性:各水性被覆組成物を40℃で1ヶ月貯蔵した前後の塗料状態を評価した。変化のないものを○、沈降が見られるが攪拌により容易にもとの状態に戻るものを△、ゲル化するものを×とした。
【0055】
(*2)耐凍害性:各塗装板を、JIS A1435 に準じて気中凍結水中融解法で試験に供した。50サイクル試験後、塗膜面に4mm幅で5マス×5マスにカッターナイフで切り込みを入れ、粘着テープを貼り付けてから該テープを剥がす剥離試験を行った。剥離の全くないものを◎、カッターナイフの切り込みにそって僅かな線状の剥離があるものを○、剥離が25マス中5マス以下のものを△、剥離が25マス中6マス以上のものを×とした。
【0056】
(*3)上塗り密着性:各塗装板を40℃の水に1週間浸漬した後、塗膜面に4mm幅で5マス×5マスにカッターナイフで切り込みを入れ、粘着テープを貼り付けてから該テープを瞬時に剥がす剥離試験を行った。剥離の全くないものを◎、カッターナイフの切り込みにそって僅かな線状の剥離があるものを○、剥離が25マス中5マス以下のものを△、剥離が25マス中6マス以上のものを×とした。
【0057】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)エポキシ樹脂(A)が内包され、且つ平均粒子径が2μm以下であるマイクロカプセルを含む水性分散体であって、該エポキシ樹脂(A)をマイクロカプセルの全重量に対して20〜80重量%含むものである水性分散体、及び(II)アミン系硬化剤を含有することを特徴とする水性被覆組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂(A)が、ビスフェノ−ル型エポキシ樹脂である請求項1記載の水性被覆組成物。
【請求項3】
マイクロカプセルが、加熱又はpHの変化によりエポキシ樹脂(A)を放出しうる高分子からなる壁膜を有する請求項1記載の水性被覆組成物。
【請求項4】
マイクロカプセルが、ポリウレタン及び/又はポリウレア樹脂からなる壁膜を有する請求項4記載の水性被覆組成物。
【請求項5】
基材面に、請求項1ないし4のいずれか1項記載の水性被覆組成物を塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項6】
無機質材を成形、養生した後、水性シーラーを塗装する無機質材の製造方法において、該水性シーラーとして請求項1ないし4のいずれか1項記載の水性被覆組成物を用いることを特徴とする無機質材の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の方法により製造される塗装物品。


【公開番号】特開2006−83344(P2006−83344A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271705(P2004−271705)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】