説明

水晶振動子用素子、水晶振動子及び電子部品

【課題】導電性接着材を介して引き出し電極を水晶片支持部材の電極に固着するにあたり、接着材の引き出し電極からの流れを抑えることができる水晶振動子用素子を提供すること。
【解決手段】中央部の厚さが周縁部の厚さよりも大きくなるように周方向に段差が形成された水晶片と、その中央部を励振させる励振電極と、各励振電極から前記水晶片の一面側の周縁部に引き出されるように形成され、導電性接着材を介して水晶片支持部材の電極に固着される引き出し電極と、前記周縁部にて水晶片の一面側に設けられた励振電極と、前記水晶片の他面側の励振電極から前記一面側に引き出された引き出し電極との間に設けられ、前記引き出し電極に塗布された導電性接着材が前記励振電極に流れることを防ぐための前記水晶片と一体的に形成された短絡防止用凸部と、を備えるように水晶振動子素子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水晶振動子用素子、その水晶振動子用素子を含んだ水晶振動子及びその水晶振動子を含んだ電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子用素子は例えば、水晶片(水晶ブランク)と、その水晶片の表面及び裏面に各々設けられた対となる励振用の電極(励振電極)とを有し、前記励振電極に電圧を印加すると、水晶の圧電逆効果によって結晶振動が励起される特性を利用する素子である。水晶振動子素子は、例えばそれを保護するためのパッケージに収容されて水晶振動子として製造され、その水晶振動子は周波数や時間の基準源として発振器等の電子部品に広く用いられている。
【0003】
前記水晶片の表面及び裏面において周縁部領域は、中央部領域に対して低く、段差を有するように形成される場合があり、その場合当該中央部領域を励振部として、その励振部に前記励振電極が形成される場合がある。このように水晶片を構成することは、振動エネルギーを励振部に閉じ込め、良好なクリスタルインピーダンス(CI)値を得ることを目的としている。
【0004】
図21(a)、図21(b)はそのように段差が形成された水晶振動子用素子1の表面、縦断面を夫々示している。図中11は水晶片、12は励振部、13は周縁部(ベベル部)、14は励振電極である。15は引き出し電極であり、励振部12から周縁部13へと引き出され、さらに水晶片11の側面を介して裏面へと引き回されるように形成されている。図中16は水晶片11の裏面に形成された励振電極、17はその裏面から表面へと引き出されるように形成された引き出し電極であり、この水晶振動子用素子1の裏面は、表面と同様のレイアウトを有するようにこれら励振電極16、引き出し電極17が設けられている。
【0005】
このように水晶片11に段差を形成する工程及び水晶片11の外形を形成する工程は、水晶ウエハに対してフォトリソグラフィを行い、エッチングマスクを形成して、そのエッチングマスクに沿ってウエットエッチングを行うことで実施される。そして、上記の水晶振動子用素子1は前記水晶振動子として製造されるにあたり、前記パッケージのベース(基板)に前記引き出し電極15、17に夫々対応して形成された電極とその引き出し電極15,17とが導電性接着材18を介して夫々接着される。
【0006】
ところで、水晶振動子が搭載される上述の各電子部品の小型化に伴い、水晶振動子の小型化が進み、それに従って水晶振動子用素子の小型化も進んでいる。しかし、上記の水晶振動子用素子1の小型化が進むと、引き出し電極15,17と励振電極14,16との間の距離や、これら引き出し電極15,17間の距離が小さくなる。その結果として、前記ベースの電極と引き出し電極とを接着する際に図22に示すように引き出し電極15,17からその外側へと導電性接着剤18が流れこんで、励振電極14(16)と引き出し電極17(15)とに導電性接着材18が掛かったり、引き出し電極15と引き出し電極17とに導電性接着材18が掛かることによってこれらの電極間が短絡されてしまい、製造される水晶振動子が不良となってしまうおそれがある。
【0007】
導電性接着材18の塗布量を小さくすることも考えられるがそれには限界があるし、また例えば流動性の低い導電性接着材を用いることも考えられるが、組み立て後の水晶振動子の特性を確保するために、使用できる接着材の種類には制限があるので、そのような接着材の選択では対処できない恐れがある。
【0008】
特許文献1には、引き出し電極の周囲に凸部が設けられた音叉型水晶振動子用素子について記載されているが、平板状の水晶片で且つ中央部と周縁部とで厚さが異なるものに適用することは記載されていない。また、特許文献2には水晶片の引き出し電極が形成される部分に溝部を形成することが記載されているが、これについても平板状の水晶片で且つ中央部と周縁部とで厚さが異なるものに適用することは記載されていない。
【特許文献1】特開2003−152499(段落0038、段落0039及び図10)
【特許文献2】特開2007−96901(図2及び図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、その中央部に比べてその周縁部の厚さが小さくなるように段差が形成された水晶片と、この水晶片を励振させるための励振電極と、励振電極に電気的に接続された引き出し電極と、を備えた水晶振動子用素子において、導電性接着材を介して前記引き出し電極を水晶片支持部材の電極に固着するにあたり、接着材の引き出し電極からの流れを抑えて、前記水晶片支持部材の電極と、引き出し電極との正常な導電性を確保することができる水晶振動子用素子を提供することであり、またその水晶振動子素子を含んだ水晶振動子及び電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水晶振動子素子は、中央部の厚さが周縁部の厚さよりも大きくなるように、その一面及び他面にその周方向に段差が形成された水晶片と、
その水晶片の中央部の一面及び他面に各々設けられた当該中央部を励振させるための励振電極と、
各励振電極から前記水晶片の一面側の周縁部に引き出されるように形成され、導電性接着材を介して水晶片支持部材の電極に固着される引き出し電極と、
前記周縁部にて水晶片の一面側に設けられた励振電極と、前記水晶片の他面側の励振電極から前記一面側に引き出された引き出し電極との間に設けられ、前記引き出し電極に塗布された導電性接着材が前記励振電極に流れることを防ぐための前記水晶片と一体的に形成された短絡防止用凸部と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
前記短絡防止用凸部は、前記励振電極と引き出し電極との間に設けられる代わりに、各引き出し電極に塗布された前記導電性接着剤が互いに接触することを防ぐために前記周縁部の各引き出し電極間に設けられてもよく、例えば前記水晶片は矩形であり、引き出し電極は各々水晶片の隣り合う角部に形成され、前記短絡防止用凸部は、その角部に各引き出し電極の外形に沿って設けられる。また、前記水晶片の周縁部において、前記各引き出し電極が形成された角部と隣り合う各角部に水晶片の面内の重量分布を調整するために、当該水晶片と一体的に形成された重量調整用の凸部が設けられていてもよい。
【0012】
他の発明によれば、中央部の厚さが周縁部の厚さよりも大きくなるように、その一面及び他面にその周方向に段差が形成された水晶片と、
その水晶片の中央部の一面及び他面に各々設けられた当該中央部を励振させるための励振電極と、
各励振電極から前記水晶片の一面側の周縁部に引き出されるように形成された、導電性接着材を介して水晶片支持部材の電極に固着される引き出し電極と、
を備え、
前記引き出し電極及び励振電極はスパッタまたは蒸着により形成され、その引き出し電極の表面を荒らすために、前記一面側の周縁部における表面が当該一面側の前記中央部の表面よりも荒れていることを特徴とする。
【0013】
前記引き出し電極は水晶片の側壁を介して引き出され、その側壁に掛かる引き出し電極の表面を荒らすために、当該側壁の表面が一面側の励振電極の表面よりも荒れていてもよい。
【0014】
本発明の水晶振動子は上述の水晶振動子素子を含んだことを特徴とし、本発明の電子部品はその水晶振動子を含んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水晶片の周縁部の一面側において、その一面側に設けられた励振電極と、前記水晶片の他面側の励振電極から当該一面側に引き出された引き出し電極との間に水晶片と一体的に形成された短絡防止用凸部が設けられている。従って、前記引き出し電極に塗布された導電性接着材が前記励振電極に流れることが抑えられ、この水晶振動子素子が設置される部材の電極と、前記引き出し電極との正常な導電性が損なわれることが抑えられる。
また、他の発明によれば、前記水晶片の一面側の前記周縁部における表面が一面側の前記中央部の表面よりもその荒く形成され、そして水晶片の表面に引き出し電極及び励振電極をスパッタまたは蒸着により形成している。従って水晶片の荒さが引き出し電極の表面に転写され、引き出し電極の表面の荒れを大きくすることができる。結果として、接着材が引き出し電極から励振電極に流れ出したり、引き出し電極間で導電性接着材による短絡が起きることが抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1の実施の形態)
先ず後述の製造方法により製造される第1の実施の形態に係る水晶振動子用素子2の構成について説明する。図1(a)、(b)は後述の製造方法により製造される水晶振動子用素子2の表面、裏面を夫々示しており、これらの図に示すように水晶振動子用素子2の表面、裏面は互いに同様のレイアウトを備えるように構成されている。水晶振動子用素子2は例えばATカットされた矩形状の水晶片21により構成されており、水晶片21の一辺の長さは例えば0.3mm〜3.0mmである。
【0017】
水晶片21の表面及び裏面には周方向に夫々段差2C、2Dが形成されており、その段差2C,2Dによりその周縁部(ベベル部)2Bに対して矩形状に厚さが大きい中央部が形成されている。つまり、水晶片21は中央部に対して周縁部が薄くなるような加工、いわゆるベベル加工が施されている。前記水晶片21の中央部の表面、裏面には前記中央部を励振させるための例えば矩形状の励振電極22,23が夫々形成されており、この中央部は励振部2Aとして構成されている。
【0018】
このように周縁部2Bの高さが励振部2Aの高さよりも低くなるように構成することで、背景技術の欄でも説明したように振動エネルギーを励振部2Aに閉じ込め、良好な特性(CI値)を得ることを目的としている。励振部2Aの厚さは所望の共振周波数に応じて決定される。
【0019】
図中24,25は引き出し電極であり、水晶片21の表面及び裏面において励振電極22,23と夫々一体的に形成されている。引き出し電極24(25)は励振電極22(23)から夫々当該水晶片21の外方に展伸され、水晶片21の側面を介して水晶片22の裏面(表面)に跨るように形成されている。また、引き出し電極24(25)は引き出された方向に対して直交する方向に拡幅され、水晶片21の表面及び裏面において、当該水晶片21の角部に掛かるように形成されている。
【0020】
そして、水晶片21の周縁部2Bの表面及び裏面においては、夫々拡幅された引き出し電極24,25の周囲にその外形に沿って水晶片21と一体的に凸部26,27,28,29が形成されている。一体的に形成とは、水晶片同士を貼り合わせて形成されたものではなく、一つの水晶片から削り出されて形成されていることをいう。これらの凸部26〜29は導電性接着剤による電極間の短絡を防止する役割を果たす。図1(c)は図1(a)、(b)におけるA−A’矢視断面図であり、また図2は水晶振動子用素子2を引き出し電極24、25側から向かって見た図である。これらの図に示すように凸部26〜29の頂部の高さ位置は周縁部2Bに形成された引き出し電極24、25表面の高さ位置よりも高く、励振部2Aの水晶片21と同じ高さに形成されている。
【0021】
続いてATカットされた水晶により構成される基板であるウエハWから、上述の水晶振動子用素子2を形成する工程について説明する。図3はウエハWの表面を示しており、図中点線で囲まれる領域は水晶振動子用素子2が形成される素子形成領域31〜34を示している。各素子形成領域はウエハWの結晶軸であるX軸及びZ’軸に並行する線分により囲まれる矩形領域として設定される。また、実際は水晶振動子用素子2が形成される領域は31〜34の4つだけではなく、図中鎖線で囲まれるデバイス形成領域35全体に亘り各々間隔をおいて設定されており、後述する各処理はこのデバイス形成領域35全体に対して行われる。
【0022】
続いて前記ウエハWから水晶振動子用素子2が形成される工程について図4〜図6を用いて説明する。図4〜図6は、ウエハWに各処理が行われることにより図3中矢印B−B’で示される、水晶振動子用素子形成領域31の縦断面が変化する様子を示しており、デバイス形成領域35内の他の素子形成領域についてもこの素子形成領域31と同様に処理が行われてその縦断面が変化する。図4〜図6中左側、右側が夫々図3で示す+X側、−X側を示している。
【0023】
先ず図4(a)、(b)に示すようにウエハWの各素子形成領域の水晶層20の表面をエッチングして凹部40を形成し、各素子形成領域における水晶層20の厚さが前記励振部2Aの厚さになるように調整する。図7(a)はこの凹部40が形成された素子形成領域31〜34の表面を示している。凹部40形成後、ウエハWの表面、裏面に例えばスパッタにより下層側がCr(クロム)、上層側がAu(金)からなる積層膜である金属膜41,42が夫々成膜され、続いて金属膜41,42上に夫々レジスト膜43,44が成膜される(図4(c))。図示の便宜上、金属膜41,42及びこの金属膜41,42と同様に形成される積層膜である各金属膜は一層の膜として示す。
【0024】
レジスト膜43,44形成後、素子形成領域内に形成される励振部2A及び各凸部26〜29の形状に沿ってこれらレジスト膜43,44が露光された後、現像されて、当該レジスト膜43、44にマスクパターン45、46が形成される(図4(d))。図7(b)はこのマスクパターン45が形成された素子形成領域31〜34の表面を示している。この図では便宜上、残留したレジスト膜43について斜線を付して示しており、当該斜線部分は断面を示すものではない。なお、後述する図8、図9、図12(b)、図18及び図19の各図についてもウエハWの表面に形成されたレジスト膜について、図を見やすくするために斜線を付して示しており、これらの斜線部分は断面を示すものではない。この図7(b)に示すように前記励振部2A及び凸部26、27の形状に対応するようにレジスト膜43が残留している。また、各素子形成領域の裏面側でもこの表面側と同様のレイアウトをなすように、つまり、励振部2A及び凸部28、29の形状に対応するようにレジスト膜44が残留している。
【0025】
続いてレジスト膜43、44をマスクとして金属膜41,42をエッチングし(図4(e))、水晶層20の表面及び裏面を金属膜41,42をマスクとしてフッ酸を含んだエッチング液を用いてウエットエッチングして、前記励振部2A、周縁部2Bをなす段差2C,2D及び凸部26〜29が形成され(図4(f))、然る後、レジスト膜43,44及び金属膜41,42が除去される(図5(a))。図8(a)はこのように金属膜41,42が除去されたウエハWの表面を示しており、このときウエハWの裏面も表面と同様のレイアウトを有するように構成される。
【0026】
その後、水晶層20の表面、裏面に金属膜51,52が夫々形成され、さらに金属膜51,52上に夫々レジスト膜53、54が形成される(図5(b))。レジスト膜53、54は各素子形成領域内において水晶片21の外形に沿って露光された後、現像され、レジスト膜53,54にこれら素子形成領域の周に沿ったマスクパターン55,56が形成される(図5(c))。図8(b)はそのマスクパターン55が形成された素子形成領域31〜34の表面を示している。ウエハWの裏面においてもこのマスクパターン55と同様のレイアウトでマスクパターン56が形成されている。このとき後述の貫通溝が形成されたときに水晶片21をウエハWに接続して保持する接続部60を形成するために各素子形成領域の周の一部にはレジスト膜53,54が残留している。
【0027】
その後、レジスト膜53,54をマスクとして金属膜51,52をエッチングし、さらに金属膜51,52をマスクとして水晶層20をエッチングして(図5(d))、水晶層20に貫通溝57を形成し、水晶振動子用素子2を構成する水晶片21の外形を形成する(図5(e))。
【0028】
続いて、レジスト膜53,54及び金属膜51,52を除去し(図6(a))、貫通溝57の側壁にまたがるように水晶層20の表面及び裏面に励振電極22、23及び引き出し電極24、25を形成するためのCr及びAuからなる積層膜である金属膜61,62を形成した後、この金属膜61、62を被覆するようにレジスト膜63,64を形成する(図6(b))。然る後、所定のパターンに沿ってレジスト膜63,64を露光し、現像して、各電極の形状に応じたマスクパターン65,66を形成する(図6(c))。図9は図8(b)と同様に素子形成領域31〜34の表面において現像後に残留したレジスト膜63を斜線で示しており、ウエハWの裏面にはこのマスクパターン65と同様のレイアウトをなすマスクパターン66が形成されている。
【0029】
マスクパターン65、66に沿って金属膜61,62をエッチングして水晶片21に電極22〜25を形成し(図6(d))、レジスト膜63,64を除去した後(図6(e))、前記接続部60から水晶片21を折りとり、水晶振動子用素子2を製造する(図6(f))。
【0030】
続いて製造された水晶振動子用素子2を例えば角形のパッケージ7に搭載し、水晶振動子7Aを製造する手順について図10を参照しながら説明する。図中71は水晶片支持部材であるパッケージ7の基板をなすベースであり、ベース71と当該ベース71の周縁部に沿って設けられた側壁部72とにより水晶振動子用素子2を収容する空間73が構成される。図11(a)に示すようにベース71表面には、水晶振動子用素子2の引き出し電極24、25に接続される電極74、75が設けられている。電極74,75はベース71の下面に設けられた電極76,77に当該ベース71に形成された導電路を介して夫々電気的に接続されており、電極76,77はこの水晶振動子用素子2が搭載されて組み立てられる水晶発振器などの電子部品に電気的に接続される。図中78は電極76,77の高さに応じて形成された高さ調節部材である。
【0031】
電極74,75に導電性接着材70が塗布され、図10(b)及び図11(b)に示すように水晶振動子用素子2の裏面側に設けられた引き出し電極24,25が接着され、水晶振動子用素子2がベース71に固着される。図11(c)はこのようにベース71に固着されたときの水晶振動子用素子2の裏面を示しており、この図に示すように凸部28,29により接着材70の流れは規制され、引き出し電極24,25間及び引き出し電極24と励振電極23との間に夫々接着剤70が流れ出してこれらの電極間で短絡することが抑えられる。このように水晶振動子用素子2がパッケージ7に収容されると、側壁部72の上部に蓋部79が設けられて収容空間73が密閉され、水晶振動子7Aが製造される(図10(c))。なお、水晶振動子用素子2の裏面側の引き出し電極に代わって、表面側の引き出し電極24,25を接着材70を介して電極74,75に接続する際は、裏面側の引き出し電極を電極74,75に固着する場合と同様に、凸部26、27が接着材70の広がりを規制し、電極間の短絡を防止する。
【0032】
この水晶振動子用素子2によれば、その特性を向上させるために周縁部の高さが中央部である励振部の高さよりも低くなるようにウエットエッチングを行う際に引き出し電極24,25の周囲に沿った凸部26〜29を形成している。そして引き出し電極24、25をパッケージ7の電極74,75に導電性接着材70を介して接着する際に、凸部26〜29により接着材70の広がりが規制されるので、接着材70により電極同士が短絡されることが抑えられ、従って水晶振動子用素子2とパッケージ7の電極74,75との正常な電気的接続が確保される。また前記段差2C,2Dと同時に凸部26〜29を形成しているので、このような段差と接着材の短絡防止用の部材とを夫々個別に形成する場合に比べて製造工程の手間を簡素化することができる。
【0033】
続いて第1の実施形態の水晶振動子用素子の変形例を示す。図12(a)、(b)は水晶振動子用素子3の表面、裏面を夫々示しており、図12(c)、(d)は図12(a)及び(b)のC−C’矢視断面、D−D’矢視断面を夫々示している。この水晶振動子用素子3は、その周縁部2Bにおいて引き出し電極24,25が形成されていない2つの角部の表面及び裏面に、水晶片21と一体的に凸部である重量調整部2Eが形成されている。各重量調整部2Eは、水晶片21の面内における重量分布を制御して発振を安定させるために形成されており、上記の実施形態では水晶片21の2つの角部に凸部26〜29が設けられ、これらの凸部26〜29の重量のために水晶片21の面内の重量分布が偏り、振動が影響されることを抑えるために、この重量調整部2Eを設けることが有効である。
【0034】
水晶片21に重量調整部2Eを形成する場合の製造方法について説明すると、第1の実施形態において、レジスト膜43,44をこの重量調整部2Eの形状に応じて露光して、マスクパターンを形成する。具体的に図4(d)、図7(b)に示す代わりに夫々図12(a)、図12(b)に示すようにマスクパターン45、46を形成し、そして金属膜42,43、さらに水晶層20をエッチングして凸部26〜29を形成すると共にこの重量調整部2Eを形成し、その後は第1の実施形態と同様に一連の処理を行う。なお、重量調整部2Eは水晶片21の表面、裏面のいずれか一方のみに形成されていてもよい。
【0035】
以上説明した実施形態では、水晶片21の表面及び裏面に凸部27〜29が設けられているが、水晶片21において、導電性接着材70により固着される側の面のみにこれらの短絡防止用の凸部が設けられていてもよい。また凸部27〜29の形状としては上記の例に限られず、例えば各引き出し電極24,25から離れて形成されていてもよい。
【0036】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の水晶振動子用素子8について説明する。図14(a)、(b)は水晶振動子用素子8の表面、裏面を夫々示しており、図14(c)は水晶振動子用素子8のE−E’矢視断面を示している。水晶振動子用素子8において水晶振動子用素子2に対応する各部には、水晶振動子用素子2に用いた符号と同じ符号を付して示している。水晶振動子用素子8における水晶振動子用素子2との差異点を説明すると、その周縁部2Bに凸部26〜29が設けられておらず、また図14(c)に示すように励振部2Aの表面に比べて周縁部2Bの表面及び水晶片21の側壁の表面の荒れが大きくなっている。そして、この周縁部2B及び側壁の各表面の荒れに対応して、励振部2Aに形成された励振電極22,23の表面に比べて引き出し電極24,25の表面の荒れが大きくなっている。励振部2Aの表面の荒さは例えばRa0.1μm〜20μmであり、周縁部2Bの表面の荒さはそれよりも大きく、例えばRa20μm以上である。
【0037】
続いて図3のウエハWから水晶振動子用素子8が形成される工程について図15〜図17を用いて説明する。図15〜図17は、図4〜図6と同様にウエハWに各処理が行われることにより図1中矢印B−B’で示される、素子形成領域31の縦断面が変化する様子を示しており、他の素子形成領域についてもこの形成領域31と同様に処理が行われてその縦断面が変化する。
【0038】
先ず第1の実施形態と同様にウエハWの各素子形成領域の水晶層20の表面を第1のエッチング液により、ウエットエッチングして凹部40を形成し、各素子形成領域における水晶層20を前記励振部2Aの厚さに調整する(図15(a)、(b))。この第1のエッチング液としてはエッチングされた水晶層20の表面の荒れが抑えられるように例えば50℃以上のフッ酸を含む溶液が用いられる。凹部40形成後、ウエハWの表面、裏面に例えばスパッタによりCr(クロム)及びAu(金)からなる金属膜81,82が夫々成膜され、続いて金属膜81,82上に夫々レジスト膜83,84が成膜される(図15(c))。なお、第1の実施形態の各エッチング処理で用いたエッチング液としては例えばこの第1のエッチング液が用いられる。
【0039】
然る後、所定のパターンに沿ってレジスト膜83,84が露光された後、現像されて、これらレジスト膜83、84にマスクパターン85、86が形成される(図15(d))。図18(a)はこのマスクパターン85が形成された素子形成領域31〜34の表面を示しており、また、各素子形成領域の裏面側もこの表面側と同様のレイアウトをなすように、つまり励振部2Aの形状に対応するようにレジスト膜84が残留している。
【0040】
続いてレジスト膜83、84をマスクとして金属膜81,82をエッチングし(図15(e))、さらに水晶層20の表面及び裏面を、金属膜81,82をマスクとしてフッ酸を含んだ第2のエッチング液によりウエットエッチングする。この第2のエッチング液としては、エッチングされた水晶層20の表面が、マスクされた水晶層20の表面よりも荒れるように、例えば25℃以下のフッ酸を含む溶液を用いる。この例では第1のエッチング液と第2のエッチング液とは温度が異なる他は同じ組成を有する。このウエットエッチングによって水晶片21に励振部2A及び周縁部2Bを形成され、周縁部2Bの表面が励振部2Aの表面よりも荒れが大きくなる(図16(a))。
【0041】
然る後、レジスト膜83,84及び金属膜81,82が除去され(図16(b))。然る後、水晶層20の表面、裏面にスパッタあるいは蒸着によって金属膜91,92が夫々形成される。これら金属膜91,92において前記周縁部2Bに掛かる部分は励振部2Aに掛かる部分に比べて周縁部2Bの表面の荒れの影響を受けることにより、その表面の荒れが大きくなるように形成される。さらに金属膜91,92上に夫々レジスト膜93,94が形成され(図16(c))、レジスト膜93、94は各素子形成領域内において水晶片21の外形に沿って露光された後、現像され、レジスト膜93,94にこれら素子形成領域の周に沿ったマスクパターン95,96が形成される(図16(d))。図18(b)はそのマスクパターン95が形成されたときの素子形成領域31〜34の表面を示しており、また素子形成領域31〜34の裏面はマスクパターン95と同様のレイアウトを有するマスクパターン96が形成されている。
【0042】
その後、レジスト膜93,94をマスクとして金属膜91,92をエッチングし(図16(e))、さらに金属膜91,92をマスクとして水晶層20を例えば前記第2のエッチング液でエッチングして水晶層20に貫通溝97を形成し、水晶振動子用素子2を構成する水晶片21の外形を形成する(図17(a))。第2のエッチング液を用いることで、この貫通孔97の側壁、つまり水晶片21の側壁は周縁部2Bの表面と同様に励振部2Aの表面に比べて荒れが大きく形成される。
【0043】
続いて、レジスト膜93,94及び金属膜91,92を除去し(図17(b))、貫通溝57の側壁にまたがるように水晶層20の表面及び裏面に励振電極22、23及び引き出し電極24、25を形成するための例えばCr及びAuからなる積層膜である金属膜101,102をスパッタあるいは蒸着により形成する。これら金属膜101,102において水晶片21の側壁及び前記周縁部2Bに掛かる部分は励振部2Aに掛かる部分に比べて水晶片21の表面の荒れに対応して、その表面の荒れが大きくなるように形成される。
【0044】
続いて、この金属膜101、102を被覆するようにレジスト膜103,104を形成する(図17(c))。然る後、所定のパターンに沿ってレジスト膜103,104を露光、現像して、各電極の形状に応じたマスクパターン105,106を形成する(図17(d))。図19は水晶振動子用素子形成領域31〜34の表面のマスクパターン105を示しており、形成領域の裏面にはこのマスクパターン105と同様のレイアウトをなすマスクパターン106が形成されている。
【0045】
マスクパターン105、106に沿って金属膜101,102をエッチングして水晶片21に電極22〜25を形成し(図17(e))、レジスト膜103,104を除去した後(図17(f))、水晶片21とウエハWとを接続する接続部60から水晶片21を折りとり、水晶振動子用素子8を製造する。
【0046】
製造された水晶振動子用素子8は、水晶振動子用素子2と同様に引き出し電極24,25が導電性接着剤70を介してパッケージ7の電極74,75に夫々固着されて、水晶振動子7Aが形成される。図20に示すように引き出し電極24,25の表面の荒れが大きいので荒れが少ない場合に比べて導電性接着材70との接触面積が大きくなり、これら電極74,75と引き出し電極24,25との間の電気的抵抗が大きくなることが抑えられる。
【0047】
この第2の実施形態の水晶振動子用素子8によれば、励振電極22,23に対して引き出し電極24,25の荒れが大きく形成されているので、これら引き出し電極24,25に夫々塗布された導電性接着材70が各電極の外側の領域へと流れ出すことが抑えられる。従って、導電性接着材70により引き出し電極24,25同士が短絡されることが抑えられる。
【0048】
ところで上記のように水晶振動子用素子が小型化すると、それに応じて引き出し電極24,25が小さくなり、この引き出し電極24,25と導電性接着材70との接触面積も小さくなる傾向にある。そのように接触面積が小さくなると、ベースの電極から各引き出し電極に至るまでの電気抵抗が上昇し、その結果として水晶振動子用素子としての特性(CI値)が劣化してしまう恐れがあるが、このように引き出し電極24,25の荒れが大きいと、荒れが少ない場合に比べて導電性接着材との接触面積が大きくなる。その結果として前記引き出し電極24,25とパッケージ7の電極74,75との正常な導電性が確保され、電気抵抗の上昇が抑えられる。それによって水晶振動子素子の特性の劣化が抑えられるという効果もある。
【0049】
上記の第2の実施形態では水晶片21の側壁も周縁部2Bと同様に荒れが大きくなるようにエッチングして形成しているので、図20に示すように引き出し電極24、25の当該側壁を引き回されている部分も荒れが大きく形成されているので、水晶振動子用素子8の裏面から側面に回り込んだ導電性接着材70に対しても接触面積を大きくとることができるので好ましい。上記の製造工程において、貫通溝97は、水晶片21に段差2C,2Dを形成する前に形成してもよく、また、ウエハWを予め励振部2Aの厚さに切断しておき、段差を形成することで、図4(a)(b)及び図15(a)(b)に示した第1のエッチング液による水晶層20の厚さの調整は行わなくてもよい。
【0050】
上記の例では第1のエッチング液と第2のエッチング液とで互いに温度の違うフッ酸を含む溶液を用いて、水晶の表面の荒れを制御しているが、温度が異なる代わりに互いに異なる組成を有するエッチング液を用いることにより、励振部2Aの表面の荒れと周縁部2Bの表面の荒れとが異なるように制御してもよい。また、この第2の実施形態を第1の実施の形態に適用し、第1の実施形態の製造工程において、第2のエッチング液を用いてマスクパターン45,46に沿ってエッチングを行って水晶片21に段差を形成するにあたり、周縁部2Bの表面が荒れるようにしてもよく、また貫通溝57を形成する際に第2のエッチング液を用いて水晶片21の側壁が荒れるようにしてもよい。
【0051】
上記の各実施形態としては、水晶片21としては振動特性及び温度特性に優れることから上記のようにATカットされたものが好ましく用いられるが、本発明で用いられる水晶はATカットに限られるものではない。また水晶片21の形状として矩形に限られず、円形であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る水晶振動子用素子の構成図である。
【図2】前記水晶振動子用素子の側面図である。
【図3】前記水晶振動子用素子が形成されるウエハWの表面図である。
【図4】前記ウエハから水晶振動子用素子を製造する工程図である。
【図5】前記ウエハから水晶振動子用素子を製造する工程図である。
【図6】前記ウエハから水晶振動子用素子を製造する工程図である。
【図7】前記ウエハに設けられた水晶振動子用素子形成領域の表面図である。
【図8】前記ウエハに設けられた水晶振動子用素子形成領域の表面図である。
【図9】前記ウエハに設けられた水晶振動子用素子形成領域の表面図である。
【図10】水晶振動子用素子をパッケージに搭載して水晶振動子用素子を製造する工程図である。
【図11】前記パッケージにおける導電性接着材の様子を示した説明図である。
【図12】第1の水晶振動子用素子の変形例を示した構成図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る水晶振動子用素子の構成図である。
【図14】前記ウエハから水晶振動子用素子を製造する工程図である。
【図15】前記ウエハから水晶振動子用素子を製造する工程図である。
【図16】前記ウエハから水晶振動子用素子を製造する工程図である。
【図17】前記ウエハに設けられた水晶振動子用素子形成領域の表面図である。
【図18】前記ウエハに設けられた水晶振動子用素子形成領域の表面図である。
【図19】前記水晶振動子用素子を搭載するパッケージの縦断側面図である。
【図20】従来の水晶振動子用素子の構成図である。
【図21】前記水晶振動子用素子の電極を短絡する導電性接着剤を示した説明図である。
【符号の説明】
【0053】
W ウエハ
2A 励振部
2B 周縁部
2,8 水晶振動子用素子
21 水晶片
22,23 励振電極
24,25 引き出し電極
26〜29 凸部
31〜34 水晶振動子用素子形成領域
7 パッケージ
70 導電性接着材
71 ベース
74〜77 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部の厚さが周縁部の厚さよりも大きくなるように、その一面及び他面にその周方向に段差が形成された水晶片と、
その水晶片の中央部の一面及び他面に各々設けられた当該中央部を励振させるための励振電極と、
各励振電極から前記水晶片の一面側の周縁部に引き出されるように形成された、導電性接着材を介して水晶片支持部材の電極に固着される引き出し電極と、
を備え、
前記引き出し電極及び励振電極はスパッタまたは蒸着により形成され、その引き出し電極の表面を荒らすために、前記一面側の周縁部における表面が当該一面側の前記中央部の表面よりも荒れていることを特徴とする水晶振動子素子。
【請求項2】
前記引き出し電極は水晶片の側壁を介して引き出され、その側壁に掛かる引き出し電極の表面を荒らすために、当該側壁の表面が一面側の励振電極の表面よりも荒れていることを特徴とする請求項1記載の水晶振動子素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水晶振動子素子を含んだことを特徴とする水晶振動子。
【請求項4】
請求項3記載の水晶振動子を含んだことを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−85298(P2013−85298A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−17314(P2013−17314)
【出願日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【分割の表示】特願2008−198556(P2008−198556)の分割
【原出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】