説明

水晶発振器

【課題】周波数温度特性を補正して設計を容易にした水晶発振器を提供する。
【解決手段】電圧可変容量素子3を水晶振動子1に直列に接続して、電圧可変容量素子3の端子間に制御電圧Vcを印加し、水晶振動子1の端子間から見た発振回路側の直列等価容量を可変して発振周波数を可変してなる水晶発振器において、制御電圧Vcは第1抵抗Raと第2抵抗Rbによって分圧されるとともに、第1抵抗Ra又は第2抵抗Rbの少なくとも一方を温度に依存して抵抗値の変化する温度感応抵抗とし、発振周波数の周波数温度特性を補正した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水晶振動子に依存した周波数温度特性を有する水晶発振器を技術分野とし、特に周波数温度特性を規格内に補正した水晶発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
水晶発振器はセラミック等を用いた発振器に比較してQ値が格段に高く周波数安定度に優れることから、周波数や時間の基準源として各種の電子機器に内蔵される。このようなもの一つに、代表的な切断角度であって、周波数帯を概ね10〜100MHz帯としたATカットの水晶振動子を用いたものがある。
【0003】
(従来技術の一例)
第5図及び第6図は一従来例を説明する図で、第5図は水晶発振器の回路図、第6図は同周波数温度特性図である。
【0004】
水晶発振器は水晶振動子1をインダクタ成分として分圧コンデンサC(ab)と共振回路を形成し、共振回路による発振周波数を発振用増幅器2によって帰還増幅する所謂コルピッツ型とする。この例では、発振用増幅器2はトランジスタTrとしてコレクタ接地とする。そして、電圧可変容量素子(可変容量ダイオード)3を水晶振動子1に直列に接続して、電圧可変容量素子3の端子間に制御電圧Vc印加する。
【0005】
制御電圧Vcは例えば自動周波数制御電圧(AFC電圧)として、電子機器の図示しないセット基板に水晶発振器とともに搭載されたAFC回路から入力される。AFC電圧は電子機器の仕様によって異なることから、通常では第1抵抗Ra及び第2抵抗Rbによって分圧して印加される。これにより、電圧可変容量素子3の電圧に対する容量変化が直線的である部分を選択し、発振周波数の周波数変化特性を良好にする。なお、図中の符号R1、R2、R3はバイアス抵抗、Rcは高周波阻止抵抗、Ctは周波数調整コンデンサ、Vccは電源、Voutは出力である。
【0006】
このようなものでは、特に水晶振動子(ATカット)1の周波数温度特性に依存して、発振周波数も温度によって変化する。ATカットでは周波数温度特性を常温近傍(約25℃)に変曲点を有する3次曲線とする。そして、これらの中でも、微妙に異なる切断角度に応じて、規格温度範囲(-20〜70℃)の両側に極大値及び極小値を有する3次曲線「第6図(a)の曲線イ」や、極大値及び極小値を常温側に有する3次曲線「同図(b)の曲線ロ」となる。
【0007】
そして、例えば水晶振動子1の動作温度を図示しない加熱ヒータ等を有する温度制御回路によって一定にして高安定とする恒温型とする場合は、高温側に極大値を有する周波数温度特性(曲線イ)を選択する。この場合、動作温度を常温以下に設定した場合には、温度が常温以上になると温度を低下させられないので、動作温度は常温以上の極大値に設定される。また、極大値であれば、この温度を中心としての発振周波数の揺れ幅(変化量)が小さくなる。
【0008】
そして、通常の水晶発振器でも、温度が常温から低温及び高温側に変化しても発振周波数の変化幅を抑えるため、先と同様に、極大値及び極小値を有する周波数温度特性「第6図(a)の曲線ロ」が選択される。
【特許文献1】実開昭59−118307号公報
【特許文献2】実開昭61−81208号公報
【特許文献3】特開平6−85538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(従来技術の問題点)
しかしながら、上記構成の水晶発振器では、水晶発振器の周波数温度特性は水晶振動子1に依存し、水晶振動子1の周波数温度特性は特に微妙な切断角度(秒単位)に依存する。したがって、水晶振動子1(人工水晶)の切断には厳格な作業が強いられるとともに、規定の切断角度からずれた場合や他の回路素子による温度特性の影響が大きい場合等は温度に対する周波数偏差は規格外となる。これらから、水晶発振器の生産性を低下させる問題があった。
【0010】
そこで、例えば発振周波数の調整用コンデンサCtに容量値が正又は負特性の温度特性を有するコンデンサを適用することが考えられた。すなわち、コンデンサの温度特性によって周波数温度特性を常温(但し、変曲点温度の約25℃)を中心として回転させ、周波数温度特性を規格内にする。要するに、温度によって変化するコンデンサの容量によって、水晶振動子1の両端から見た直列等価容量(負荷容量)を変化させて周波数温度特性を補正する。
【0011】
例えば前第6図(a)の曲線イのように、規格温度範囲(-20〜70℃)にある周波数温度特性の極大値又は極小値が許容偏差±αppmを越えている場合(曲線a)は、負特性とした右下がりのコンデンサを適用する。これにより、温度上昇とともにコンデンサの容量値も小さくなって発振周波数が増加することから、周波数温度特性は左回転して極大値及び極小値ともに規格内となる(曲線イ′)。この場合、例えば周波数温度特性が非対称で極大値のみが規格外となる周波数温度特性でも規格を満足できる。
【0012】
また、前第6図(b)の曲線ロのように、周波数温度特性が極大値及び極小値が周波数偏差±αppm内であっても、規格温度内の両側で周波数偏差外となる場合は、正特性とした右上がりのコンデンサを適用する。これにより、温度上昇とともに発振周波数も下降することから、周波数温度特性は右回転して規格温度の両側でも周波数偏差内となる(同曲線ロ′)。この場合、同様に、高温側のみが規格外となる周波数温度特性でも規格を満足できる。
【0013】
しかしながら、これらの場合、現実的には、温度特性を有するコンデンサは品種も少なく、一般には右下がりのものが殆どである。したがって、周波数温度特性を右回転して補正することはできても、右回転して補正することは困難であった。また、いずれの場合でも、例えば負特性のコンデンサの場合は4段階(種類)としてバラツキが大きくて設計や作業を困難にする。特に、周波数偏差を例えばppb(1/10億)オーダとした恒温型の場合は、微妙な調整を困難にする問題があった。
【0014】
(発明の目的)
本発明は、周波数温度特性を補正して設計を容易にした水晶発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、特許請求の範囲(請求項1)に示したように、電圧可変容量素子を水晶振動子に直列に接続して、前記電圧可変容量素子の端子間に制御電圧Vcを印加し、前記水晶振動子の端子間から見た発振回路側の直列等価容量を可変して発振周波数を可変してなる水晶発振器において、前記制御電圧は第1抵抗と第2抵抗によって分圧されるとともに、前記第1抵抗又は前記第2抵抗の少なくとも一方を温度に依存して抵抗値の変化する温度感応抵抗とし、前記発振周波数の周波数温度特性を補正した構成とする。
【0016】
このような構成であれば、電圧可変容量素子へ印加する制御電圧は温度感応低呼応によって温度に依存して変化する電圧となる。したがって、電圧可変容量素子も温度に依存して容量が変化するので、水晶振動子の端子間から見た直列等価容量も変化する。これにより、周波数温度特性に応じてこれを相殺する制御電圧に設定すれば、周波数温度特性を規格内に補正できる。したがって、各種の水晶発振器の生産性を高められる。
【0017】
本発明の請求項2では、請求項1において、前記制御電圧は前記第1抵抗と第2抵抗とによって予め分圧される周波数自動制御電圧Vc(AFC電圧)とする。これにより、第1又は第2抵抗の少なくとも一方を温度に依存した抵抗とすればよいので、本発明の適用を容易にする。
【0018】
同請求項3では、請求項2において、前記水晶振動子の動作温度を一定にして恒温型の水晶発振器とする。これにより、発振周波数の周波数偏差を例えばppbオーダとした高安定発振器の設計を容易にする。
【0019】
同請求項4では、請求項1において、前記制御電圧は電源電圧の分圧電圧とする。これにより、一般の水晶発振器の周波数温度特性をも容易に規格内に満足できる。
【0020】
同請求項5では、請求項1において、前記温度感応抵抗は温度に対して抵抗値が直線的に変化するリニア抵抗とする。これにより、第1抵抗と第2抵抗との分圧電圧の制御を容易にして周波数温度特性を規格内に満足できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1実施形態)
第1図及び第2図は本発明の第1実施形態を説明する図で、第1図は水晶発振器の回路図、第2図(a)は抵抗の温度特性図、同図(b)は電圧可変容量素子の容量特性である。なお、前従来例と同一部分には同番号を付与してその説明は簡略又は省略する。
【0022】
水晶発振器は前述したようにATカットの水晶振動子1をインダクタ成分として分圧コンデンサC(ab)と共振回路を形成し、コレクタ接地の発振器用増幅器(トランジスタTr)によって帰還増幅したコルピッツ型とする。この例では、図示しない温度制御回路によって、特に水晶振動子1の動作温度を80℃として一定にする恒温型とし、AFC電圧とした制御電圧Vcの印加される入力端を有する水晶発振器とする。
【0023】
制御電圧(AFC電圧)の入力端とアース電位間には、前述同様に、これを分圧する第1抵抗Raと第2抵抗Rbとが接続する。第1抵抗Raは入力端に接続し、第2抵抗Rbはアース電位(基準電位)に接続する。そして、第1抵抗Raと第2抵抗Rbとの直列接続点から電圧可変容量素子3のカソードに逆方向電圧とした分圧電圧が印加される。
【0024】
そして、この実施形態では、第1抵抗Raは温度に対して従来同様の一定な抵抗値とし「第2図(a)の曲線p」、第2抵抗Rbは温度に依存して抵抗値が変化する温度感応抵抗Rb(t)とする。ここでは、温度感応抵抗Rb(t)はリニア抵抗として、温度上昇とともに抵抗値が直線的に増加する即ち正特性とする「第2図(a)の曲線q」。
【0025】
このようものでは、第1抵抗Raと第2抵抗Rbによって分圧される制御電圧Vc(分圧電圧)は、第2抵抗Rbをリニア抵抗Rb(t)とすることから、直列接続点での分圧電圧も温度に依存して変化する。そして、第2抵抗Rbのリニア抵抗Rb(t)が正特性であってアース電位側であることから、入力端に印加された制御電圧Vc(AFC電圧)は、温度の上昇とともにリニア抵抗Rb(t)による電圧降下が大きくなる。したがって、直列接続点での分圧電圧は温度とともに上昇する、温度に対して正特性となる。
【0026】
そして、電圧可変容量素子3の印加電圧に対する容量特性「第2図(b)」は、印加電圧が大きくなるほど容量値は小さくなる(逆に言えば、印加電圧が小さくなるほど、容量は大きくなる)。したがって、温度に対して正特性となる分圧電圧の印加される電圧可変容量素子3の容量値は、温度の上昇とともに小さくなる即ち温度に対して負特性となる。
【0027】
これにより、温度が上昇した場合は、電圧可変容量素子3の容量値が小さくなって、水晶振動子1から見た発振回路の直列等価容量は減少することから、発振周波数は上昇する。したがって、水晶振動子1及びこれに依存した発振周波数の周波数温度特性は、電圧可変容量素子3の容量増加によって、常温(但し、変曲点温度の約25℃)を中心として左回転する。
【0028】
これらのことから、規格内温度内(例えば-20〜70℃)での極大値及び極小値が周波数偏差±αを越えた周波数温度特性「前第 図(a)の曲線イ」であっても、これを規格内にを補正できる「同曲線イ′」。そして、リニア抵抗Rb(t)は温度とともに直線的に変化するので、各温度での変化率も均一となって周波数温度特性を高精度に補正できて設計を容易にする。この場合、特に、周波数安定度をppb(1/10億)オーダとして高安定とする恒温型の場合には、その効果が顕著になる。
【0029】
(第2実施形態)
第3図は本実施例の第2実施形態を説明する水晶発振器の回路図である。なお、第1実施形態と同一部分の説明は省略又は簡略する。
【0030】
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、水晶発振器は図示しない温度制御回路によって水晶振動子1の動作温度を一定にする恒温型とし、第1抵抗Raと第2抵抗Rbによって分圧される制御電圧Vc(AFC電圧)が印加される入力端を有する。そして、ここでは、第1実施形態とは逆に、入力端側の第1抵抗Raを抵抗値が温度上昇ととともに直線的に増加する正特性のリニア抵抗Ra(t)とし、アース側の第2抵抗Rbを温度に対して一定とする。
【0031】
このようなものでは、第1抵抗Raをリニア抵抗Ra(t)とするので、温度上昇ととともにリニア抵抗Ra(t)による電圧降下が大きくなる。したがって、第2抵抗Rbとの直列接続点での分圧電圧は温度上昇とともに小さくなって、温度に対して負特性の電圧になる。そして、温度に対して電圧値が小さくなる分圧電圧(負特性)の印加される電圧可変容量素子3は、温度上昇とともに容量値が大きくなって、温度に対して正特性の容量値となる。
【0032】
これにより、水晶振動子1の端子間から見た発振回路の直列容量は温度上昇とともに大きくなって、発振周波数は低下する。したがって、第2実施形態では、第1抵抗Raのリニア抵抗Ra(t)と第2抵抗Rbとによる分圧電圧によって、発振周波数は温度に対して低下する負特性になる。このことから、水晶振動子1に依存した発振周波数の周波数温度特性は変曲点を中心として右回転する。
【0033】
これらのことから、第2実施形態では、規格温度範囲(-20〜70℃)の両側で周波数偏差±αを越える周波数温度特性「第6図(b)の曲線ロ」を規格内に満足できる(同図の曲線ロ′)。そして、温度に対して直線的に抵抗値の変化するリニア抵抗Rb(t)とするので、各温度における周波数温度特性の変化率を均一にすることから、設計を容易にする。したがって、高安定とする恒温型とする場合には最適になる。
【0034】
(第3実施形態)
第4図は本実施例の第3実施形態を説明する水晶発振器の回路図である。なお、前実施形態と同一部分の説明は省略又は簡略する。
【0035】
第3実施形態では、通常の水晶発振器として、制御電圧Vcに代えて電源電圧Vccを第1抵抗及び第2抵抗によって分圧し、これによる分圧電圧を電圧可変容量素子3のカソードに印加する。なお、電源電圧Vccは例えば定電圧として印加する。そして、例えば第1抵抗を温度に対して一定とし、第2抵抗Rbをリニア抵抗Rb(t)とする「第4図(a)」。あるいは、第1抵抗Raをリニア抵抗Ra(t)とし、第2抵抗を温度に対して一定とする。
【0036】
これらの場合でも、第1及び第2実施形態と同様に、電圧可変容量素子3に印加される分圧電圧が温度に対して正特性又は負特性となるので、電圧可変容量素子3の容量は温度に対して負特性又は正特性となる。したがって、水晶振動子1に依存した周波数温度特性を常温を基準として左回転又は右回転することによって、規格内に補正できる。
【0037】
(他の事項)
上記実施形態では温度感応抵抗はリニア抵抗としたが、サーミスタやポジスタ等であっても適用できる。但し、サーミスタやポジスタは温度に対する抵抗値が指数関数的に変化するとともに抵抗値の変化も大きい即ち感度が高いことから、周波数温度特性の補正にバラツキを生じる。したがって、これらよりも直線性を有して温度に対する抵抗変化が小さいリニア抵抗の方が適する。
【0038】
また、水晶振動子はATカットとしたが、これに限らず、SCカットやITカット等出会っても適用でる。そして、水晶発振器は発振用増幅器2はトランジスタTrとしたが、例えばインバータとしてもよい。この場合、分圧コンデンサC(ab)の一方又は両方を電圧可変容量素子として兼用してもよい。また、コルピッツ型に限らず、水晶振動子の直列共振点を動作点(発振周波数)とする正帰還型とした場合でも適用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態を説明する水晶発振器の回路図である。
【図2】本発明の第1実施形態を説明する図で、同図(a)抵抗の温度特性図、同図(b)は電圧可変容量素子の容量特性である。
【図3】本発明の第2実施形態を説明する水晶発振器の回路図である。
【図4】本発明の第3実施形態を説明する図で、同図(ab)ともに水晶発振器の回路図である。
【図5】従来例を説明する水晶発振器の回路図である。
【図6】従来例を説明する図で、同図(ab)ともに水晶発振器(水晶振動子)の同周波数温度特性図である。
【符号の説明】
【0040】
1 水晶振動子、2 発振用増幅器、3 電圧可変容量素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧可変容量素子を水晶振動子に直列に接続して、前記電圧可変容量素子の端子間に制御電圧を印加し、前記水晶振動子の端子間から見た発振回路側の直列等価容量を可変して発振周波数を可変してなる水晶発振器において、前記制御電圧は第1抵抗と第2抵抗によって分圧されるとともに、前記第1抵抗又は前記第2抵抗の少なくとも一方を温度に依存して抵抗値の変化する温度感応抵抗とし、前記発振周波数の周波数温度特性を補正したことを特徴とする水晶発振器。
【請求項2】
請求項1において、前記制御電圧は前記第1抵抗と第2抵抗とによって予め分圧される周波数自動制御電圧(AFC電圧)である請求項1の水晶発振器。
【請求項3】
請求項2において、前記水晶振動子の動作温度を一定にして恒温型とした水晶発振器。
【請求項4】
請求項1において、前記制御電圧は電源電圧の分圧電圧である水晶発振器。
【請求項5】
請求項1において、前記温度感応抵抗は温度に対して抵抗値が直線的に変化するリニア抵抗である水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−103881(P2010−103881A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275169(P2008−275169)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】