説明

水系ペースト及びその製造方法

【課題】界面活性剤や分散剤を含有させることなく、水溶性高分子粒子の存在だけで、水不溶性無機粒子が水中で均一に分散し、ゲルの発生が抑制された水系ペーストを簡便に製造する。
【解決手段】水不溶性無機粒子(特に黒鉛などの炭素材粒子)と水溶性高分子粒子(特にカルボキシメチルセルロース又はその塩の粒子)とをドライブレンドした後、水と混合して水系ペースト(特にリチウムイオン電池の負極材用ペースト)を製造する方法において、前記水不溶性無機粒子の平均粒径と前記水溶性高分子粒子の平均粒径との比率を、前者/後者=1/3〜1/0.05(特に1/2〜1/0.1)に調整する。水不溶性無機粒子の割合(重量比)は、水溶性高分子粒子に対して10倍以上であってもよく、水と水不溶性無機粒子との割合(重量比)は、前者/後者=2/1〜1/2程度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の負極材などに利用できる水系ペースト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や電気自動車の駆動源として広く普及しているリチウムイオン電池は、一般的に、リチウム複合酸化物で構成された正極材と、カーボン材料で構成された負極材とが、多孔質ポリオレフィンフィルムで構成されたセパレータを介して積層された構造を有している。このようなリチウムイオン電池は、近年の電子機器の小型化や電機自動車の普及に伴って、生産性と電池特性(充放電特性)との両立が要求されており、リチウムイオンを吸蔵・放出するための負極材についても更なる改良が求められている。
【0003】
リチウムイオン電池の負極材は、集電体である銅箔の上に、カーボン粒子(カーボンパウダー)、バインダー成分及び増粘剤を含む水系ペーストを塗布し、乾燥することにより得られる。通常、バインダー成分としては、水分散系のスチレン−ブタジエンゴム(スチレン−ブタジエンゴムラテックス)が使用され、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)が使用されるが、一般的な方法としては、カーボン粒子にCMC水溶液を少しずつ添加することにより、カーボン粒子をCMC水溶液に均一に分散させた後、スチレン−ブタジエンゴムラテックスを添加し、塗布用の水系ペーストが調製される。このような方法において、高い電池特性を実現するためには、集電体を被覆する塗布膜として、ピンホールやクレーターのない均一な塗布膜を形成することが要求される。均一な塗布膜を形成するためには、カーボン粒子に添加する前処理工程として、CMC水溶液のゲル(凝集物)を除去するためのろ過工程を設ける方法が知られているが、生産性が低下する。また、ゲルの発生を抑制するために界面活性剤を添加する方法も提案されているが、電池に混入する界面活性剤により電池特性が低下する。
【0004】
負極材の塗工液の分散工程を改良する方法として、特開2009−99441号公報(特許文献1)には、黒鉛材料からなる負極活物質、増粘剤及び結着剤を水に分散又は溶解させてスラリー状の塗工組成物を調製する練合工程において、1重量%水溶液の粘度が10〜1800mPa・sの範囲にある第一の増粘剤と、前記負極活物質とを、水の存在下で、分散させた後、1重量%水溶液の粘度が3000〜10000mPa・sの範囲にある第二の増粘剤を加えて分散させ、さらに結着剤を加える負極材の製造方法が開示されている。この文献には、水を加える前に、黒鉛材料と第一の増粘剤とを攪拌することにより、増粘剤同士の接合を防止できることが記載されている。さらに、増粘剤として、CMCが好ましいと記載されているが、その粒径は記載されていない。
【0005】
しかし、この方法では、界面活性剤は不要であるものの、粘度の異なるCMC水溶液を調製して段階的に添加する必要があり、生産性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−99441号公報(特許請求の範囲、段落[0030]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、界面活性剤や分散剤を含有させることなく、水溶性高分子粒子の存在だけで、水不溶性無機粒子が水中で均一に分散し、ゲルの発生が抑制された水系ペーストを簡便に製造する方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、水不溶性無機粒子を高濃度で含み、かつ粘性の高い水溶性高分子粒子を含んでいても、均一な薄膜の塗膜を簡便に形成できる水系ペーストの製造方法及び水系ペーストを提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、充放電特性に優れたリチウムイオン電池の負極材を簡便に製造できる水系ペーストの製造方法及び水系ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の粒径比に調整された水不溶性無機粒子と水溶性高分子粒子とをドライブレンドした後、水と混合することにより、界面活性剤や分散剤を含有させることなく、水溶性高分子粒子の存在だけで、水不溶性無機粒子が水中で均一に分散し、ゲルの発生が抑制された水系ペーストを簡便に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の水系ペーストの製造方法は、水不溶性無機粒子と水溶性高分子粒子とをドライブレンドした後、水と混合して水系ペーストを製造する方法であって、前記水不溶性無機粒子の平均粒径と前記水溶性高分子粒子の平均粒径との比率が、前者/後者=1/3〜1/0.05である。水不溶性無機粒子の平均粒径が1〜100μmであり、かつ水不溶性無機粒子の平均粒径と、水溶性高分子粒子の平均粒径との比率は、前者/後者=1/2〜1/0.1程度であってもよい。水不溶性無機粒子の割合(重量比)は、水溶性高分子粒子に対して10倍以上であってもよく、水不溶性無機粒子と水溶性高分子粒子との割合(重量比)は、前者/後者=200/1〜50/1程度である。水と水不溶性無機粒子との割合(重量比)は、前者/後者=2/1〜1/2程度である。水不溶性無機粒子は、炭素材(特に、天然又は人造黒鉛)で構成されていてもよい。水溶性高分子粒子は、カルボキシメチルセルロース又はその塩(特に、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩)で構成されていてもよい。本発明の方法において、水と混合した後、さらに水性バインダー(例えば、高分子ラテックス又はエマルジョン)を添加してもよい。本発明での方法では、界面活性剤及び/又は分散剤を実質的に添加する必要がない。前記水系ペーストは、リチウムイオン電池の負極材用ペーストであってもよい。
【0012】
本発明には、前記方法で得られた水系ペーストも含まれる。また、本発明には、前記水系ペーストを銅箔の上に塗布するリチウムイオン電池の負極材の製造方法も含まれる。さらに、本発明には、この方法により得られたリチウムイオン電池の負極材及びこの負極材を備えたリチウムイオン電池も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、特定の粒径比に調整された水不溶性無機粒子と水溶性高分子粒子とをドライブレンドした後、水と混合することにより、界面活性剤や分散剤を含んでいないにも拘わらず、水不溶性無機粒子が水中で均一に分散し、ゲルの発生が抑制された水系ペーストを簡便に製造できる。特に、水不溶性無機粒子を高濃度で含み、かつ粘性の高い水溶性高分子粒子(例えば、CMC)を含んでいても、均一な薄膜の塗膜を簡便に形成できる。この方法は、リチウムイオン電池の負極材用ペーストに適しており、充放電特性に優れたリチウムイオン電池の負極材を簡便に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水系ペーストの製造方法は、水不溶性無機粒子と水溶性高分子粒子とをドライブレンドした後、水と混合して水系ペーストを製造する方法である。
【0015】
(水不溶性無機粒子)
水不溶性無機粒子としては、例えば、炭素材(カーボン)、金属単体、金属珪酸塩(珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、アルミノ珪酸マグネシウムなど)、鉱物質(ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪成土、タルク、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレーなど)、金属炭酸塩(炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムなど)、金属酸化物(アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、二酸化チタンなど)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)、金属硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)などで構成された粒子などが挙げられる。これらの水不溶性無機粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの水不溶性無機粒子のうち、炭素材で構成された炭素(カーボン)粒子、シリカ(二酸化ケイ素)などの金属酸化物粒子、水酸化アルミニウム(アルミナ水和物)などの金属水酸化物粒子などが汎用されるが、水中での均一な分散が困難であるカーボン粒子が本発明の方法に有効である。
【0016】
カーボン粒子を構成する炭素材は、膨張性黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、コークス粉、導電性カーボンブラックなどであってもよいが、負極材として使用する場合、アスペクト比の比較的小さい粒子を形成し易く、充放電特性に優れる点から、天然又は人造黒鉛(特に人造黒鉛)が好ましい。
【0017】
水不溶性無機粒子(特にカーボン粒子)の形状は、特に限定されず、無定形状、繊維状、楕円体状、球状、平板状(又は扁平状)、薄片状(又は鱗片状)、粉粒状などであってもよい。これらの形状のうち、黒鉛の場合、扁平状の粒子を複数集合又は結合した構造を有しているため、扁平又は鱗片状である場合が多い。扁平又は鱗片状の中でも、負極材として使用する場合、充放電特性の点から、比較的球形に近い形状(等方形状)が好ましい。すなわち、長径と短径との比(アスペクト比)は、例えば、1.01〜10、好ましくは1.1〜5、さらに好ましくは1.3〜3(特に1.3〜2)程度である。
【0018】
水不溶性無機粒子(特にカーボン粒子)の平均粒径(D50)は、例えば、1〜100μm、好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは10〜40μm(特に15〜30μm)程度であり、通常、10〜30μm(例えば、10〜25μm)程度である。本発明における平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定でき、その50%累積粒径を平均粒径とする。後述するように、本発明では、水不溶性無機粒子の粒径は、水溶性高分子粒子と同程度の粒径にすることが重要である。さらに、水不溶性無機粒子の粒子径の変動係数([粒子径の標準偏差/平均粒子径]×100)は、例えば、50以下(例えば、1〜50程度)、さらに好ましくは30以下(例えば、5〜30程度)である。
【0019】
水不溶性無機粒子(特にカーボン粒子)のBET比表面積(窒素ガス吸着法)は、例えば、0.3〜10m/g、好ましくは0.4〜8m/g、さらに好ましくは0.5〜5m/g(特に0.8〜3m/g)程度である。
【0020】
水不溶性無機粒子(特にカーボン粒子)の嵩密度は、例えば、0.1〜2g/cm、好ましくは0.5〜1.8g/cm、さらに好ましくは0.7〜1.6g/cm(特に0.8〜1.5g/cm)程度である。
【0021】
水不溶性無機粒子として、このような比表面積及び嵩密度を有するカーボン粒子を負極材として用いると、リチウムイオンを充分に充電できる。このような比表面積及び嵩密度を有するカーボン粒子は、多孔質人造黒鉛粒子であってもよい。
【0022】
水不溶性無機粒子がカーボン粒子(特に黒鉛粒子)である場合、結晶構造における層間距離d(002)は、例えば、0.335〜0.350nm、好ましくは0.335〜0.345nm、さらに好ましくは0.335〜0.340nm(特に0.335〜0.338nm)程度である。c軸方向の結晶子サイズLc(002)は、例えば、30nm以上(例えば、30〜300nm)、好ましくは50nm以上(例えば、50〜200nm)程度である。
【0023】
(水溶性高分子粒子)
水溶性高分子粒子としては、例えば、ビニルアルコール系重合体(例えば、ポリビニルアルコールなど)、ポリアルキルビニルエーテル、カルボキシビニルポリマー、水溶性アクリル系樹脂、水溶性スチレン系樹脂、ビニルピロリドン系樹脂(例えば、ポリビニルピロリドンなど)、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコールなど)、セルロース誘導体(例えば、セルロースエーテルなど)などの水溶性高分子で構成された粒子などが挙げられる。これらの水溶性高分子粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの水溶性高分子粒子のうち、セルロースエーテル(例えば、メチルセルロースなどのアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシアルキルメチルセルロースなど)が汎用されるが、増粘作用が大きく、水中での均一な分散が困難であるカルボキシメチル基含有セルロースエーテルが本発明の方法に有効である。
【0024】
カルボキシメチル基含有セルロースエーテルとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルキルカルボキシメチルセルロース(メチルカルボキシメチルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルカルボキシメチルセルロース(ヒドロキシエチルカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルカルボキシメチルセルロースなど)などが挙げられる。これらのカルボキシメチル基含有セルロースエーテルは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0025】
これらのカルボキシメチル基含有セルロースエーテルのうち、カルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましい。
【0026】
CMCの平均エーテル化度(カルボキシメチル基の平均エーテル化度)(又は平均置換度DS)は、適度な水溶性及び水中での粘性を発現でき、ペーストの塗布性が向上する範囲であればよく、例えば、0.1〜3.0程度の範囲から選択でき、特に0.3〜2.0、好ましくは0.4〜1.5、さらに好ましくは0.45〜1.0(特に0.5〜0.8)程度である。
【0027】
なお、「平均置換度」とは、セルロースを構成するグルコース単位の2,3及び6位のヒドロキシル基に対する置換度(置換割合、特に、塩を形成していてもよいカルボキシメチル基の置換度)の平均であり、最大値は3である。
【0028】
CMCは、塩を形成していてもよい。カルボキシメチルセルロース塩としては、例えば、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩など)などの一価金属塩、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)などの二価金属塩、第四級アンモニウム塩、アミン塩、置換アミン塩又はこれらの複塩などが挙げられる。CMCの場合、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩が好ましい。
【0029】
本発明では、水溶性などの点からは、CMCは塩の形態であるのが好ましいが、溶解性を制御する点から、部分又は完全酸型CMCであってもよい。酸型CMCにおいて、遊離のカルボキシル基(CMCの遊離のカルボキシル基)をAモル、塩を形成したカルボキシル基(CMCの塩を形成したカルボキシル基)をBモルとするとき、[A/(A+B)]×100(%)で表される酸型化率は、例えば、0.01〜100%の範囲から選択でき、例えば、30%以下(例えば、0.01〜30%、好ましくは0.1〜20%、さらに好ましくは1〜10%程度であってもよい。
【0030】
なお、CMCの酸型化率は、酸又はアルカリ滴定、電導度測定、赤外線吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトルなどの慣用の方法を利用して測定できる。
【0031】
CMC又はその塩の粘度は、水不溶性無機粒子が適度に分散したペーストを調製でき、均一な膜を形成できる範囲で選択でき、例えば、1重量%水溶液の粘度(25℃、ブルックフィールド粘度計LVDVII+、ローターNo.4、30rpm)が300〜20000mPa・s、好ましくは400〜10000mPa・s、さらに好ましくは500〜5000mPa・s(特に1000〜3000mPa・s)程度である。
【0032】
CMC又はその塩の平均重合度(粘度平均重合度)は、特に制限されないが、例えば、10〜1000、好ましくは50〜900、さらに好ましくは100〜800程度である。
【0033】
CMC又はその塩の1重量%水溶液のpHは、例えば、4〜9、好ましくは5〜8、さらに好ましくは5.5〜7.7(特に6〜7.5)程度である。
【0034】
水溶性高分子粒子(特にCMC粒子)の形状は、特に限定されず、無定形状、繊維状、楕円体状、球状、平板状、粉粒状などであってもよく、通常、無定形状、粉粒状などである。水への分散性、水不溶性無機粒子との接触性などの点から、等方形状が好ましく、長径と短径との比(アスペクト比)は、例えば、10以下(例えば、1〜10)、好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3(特に1〜2)程度である。
【0035】
水溶性高分子粒子(特にCMC粒子)の平均粒径(D50)は、例えば、1〜100μm、好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは10〜40μm(特に15〜30μm)程度であり、負極材の場合、通常、10〜30μm(例えば、10〜25μm)程度である。本発明における平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定でき、その50%累積粒径を平均粒径とする。さらに、水溶性高分子粒子の粒子径の変動係数([粒子径の標準偏差/平均粒子径]×100)は、例えば、100以下(例えば、1〜100程度)、好ましくは3〜80、さらに好ましくは5〜60(特に10〜50程度)である。
【0036】
粒度の調整方法としては、塊状物に対して、慣用の粉砕機、例えば、サンプルミル、ハンマーミル、ターボミル、アトマイザー、カッターミル、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、ジェットミルなどを使用して粉砕してもよい。さらに、粉砕後、必要に応じて、分級してもよい。
【0037】
本発明では、水溶性高分子粒子の粒径を水不溶性無機粒子の粒径と同程度にすることにより、粘性の高い水溶性高分子粒子(特にCMC粒子)を使用しても、ゲルの発生が抑制され、粒子が均一に分散した水系ペーストを調製できる。前記水不溶性無機粒子の平均粒径と前記水溶性高分子粒子の平均粒径との比率は、例えば、前者/後者=1/3〜1/0.05、好ましくは1/2〜1/0.1、さらに好ましくは1/1.5〜1/0.5(特に1/1.2〜1/0.8)程度である。
【0038】
水不溶性無機粒子と水溶性高分子粒子との割合(重量比)は、固形分換算で、水不溶性無機粒子の割合(重量比)が水溶性高分子粒子に対して10倍以上の場合に本発明の方法が効果的であり、例えば、前者/後者=200/1〜50/1、好ましくは150/1〜70/1、さらに好ましくは120/1〜80/1(特に110/1〜90/1)程度である。本発明では、水不溶性無機粒子の割合が水溶性高分子粒子よりも高いにも拘わらず、粒径を前述の範囲に制御することにより、水不溶性無機粒子が均一に分散され、ペーストの塗布性を向上できる。
【0039】
(水系ペーストの調製工程)
本発明では、このような特定の粒径比を有する水不溶性無機粒子と水溶性高分子粒子とをドライブレンド(混合)する。本発明では、両粒子を水に添加する前にドライブレンドすることにより、両粒子の水中での分散性を向上できる。
【0040】
ドライブレンドの方法としては、特に限定されず、慣用の方法、例えば、混合機などの機械的手段を利用する方法であってもよいが、簡便性の点から、プラスチック容器(例えば、ポリエチレン製袋など)などに両粒子を充填し、振とうする方法などにより混合してもよい。混合時間は、混合方法に応じて適宜選択でき、例えば、10秒〜1時間、好ましくは30秒〜30分、さらに好ましくは1〜20分程度である。
【0041】
得られたドライブレンド物は、水と混合することにより水系ペーストを調製できる。ドライブレンド物と水との混合方法は、慣用の攪拌手段、例えば、機械的攪拌手段(攪拌棒、攪拌子など)、超音波分散機などが利用できる。
【0042】
これらの攪拌手段のうち、簡便に均一に攪拌できる点から、攪拌子として回転羽根を有するミキサー(撹拌機)が好ましい。このようなミキサーとしては、例えば、ホモミキサー、ホモディスパー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、リボンミキサー、V型ミキサーなどの慣用のミキサーなどが挙げられる。簡便に高い剪断力で撹拌が可能な点から、撹拌子として回転羽根を有する攪拌機が好ましい。攪拌機としては、例えば、ホモミキサー、ホモディスパー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、リボンミキサー、V型ミキサーなどの慣用の攪拌機などが挙げられる。回転羽根の形状は、特に限定されず、例えば、かい形、タービン形、プロペラ形などが利用できる。
【0043】
攪拌手段を用いた混合工程では、攪拌時の回転羽根の回転数は、例えば、1000〜10000rpm程度範囲から選択でき、例えば、1000〜8000rpm、好ましくは1300〜6000rpm、さらに好ましくは1500〜4000rpm程度であってもよい。攪拌時間は、例えば、10秒〜1時間、好ましくは30秒〜30分、さらに好ましくは1〜10分程度である。
【0044】
水と水不溶性無機粒子との割合(重量比)は、前者/後者=5/1〜1/3程度の範囲から選択できるが、例えば、2/1〜1/2、好ましくは1.5/1〜1/1.5、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2程度である。本発明では、このように、水中での水不溶性無機粒子の割合が高濃度であるにも拘わらず、水溶性高分子粒子が水不溶性無機粒子と同程度の粒径を有するため、水溶性高分子粒子が均一に分散し、水溶性高分子粒子同士の接合によるゲルの発生を抑制できる。
【0045】
(水性バインダー)
得られた水系ペーストには、さらに水性バインダーを添加してもよい。水性バインダーは、特に限定されず、水溶性ポリマーの水溶液であってもよいが、通常、水分散性ポリマーがラテックス又はエマルジョンの形態で使用される。エマルジョン形態の水性バインダーとしては、例えば、アクリル系樹脂エマルジョン、スチレン系樹脂エマルジョン、酢酸ビニル系重合体エマルジョン、ウレタン系樹脂エマルジョンなどであってもよいが、水系ペーストを電池の負極材として使用する場合、粘弾特性の点から、水分散性の合成ゴムラテックス又はエマルジョンが好ましい。
【0046】
水分散性の合成ゴムラテックス(エマルジョン)としては、例えば、ポリブタジエンゴムラテックス、スチレン−ブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエンゴムラテックス、(メタ)アクリル酸エステル−ブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックスなどが挙げられる。こられの合成ゴムラテックスとしては、市販の水性合成ゴムラテックス又はエマルジョンを使用できる。これらの合成ゴムラテックスのうち、リチウムイオン電池の負極材としては、電解液に対する耐性の点から、スチレン−ブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)が好ましい。
【0047】
水不溶性無機粒子と水性バインダーとの割合(重量比)は、固形分換算で、例えば、前者/後者=200/1〜50/1、好ましくは150/1〜70/1、さらに好ましくは120/1〜80/1(特に110/1〜90/1)程度である。
【0048】
添加された水性バインダーは、通常、攪拌されることにより、ペースト中に均一に分散される。攪拌手段としては、前述のドライブレンド物と水との攪拌方法と同様の攪拌手段を利用でき、通常、ドライブレンド物と水との攪拌工程に連続して行われる。
【0049】
水性バインダーの攪拌時の回転羽根の回転数は、例えば、100〜3000rpm、好ましくは150〜1000rpm、さらに好ましくは200〜800rpm(特に200〜500rpm)程度であってもよい。攪拌時間は、例えば、10秒〜1時間、好ましくは1〜30分、さらに好ましくは3〜20分程度である。
【0050】
このようにして得られた水系ペーストは、ゲルが発生することなく、水不溶性無機粒子が均一に分散しており、粘度(25℃、ブルックフィールド粘度計LVDVII+、ローターNo.4、30rpm)は、例えば、2000〜20000mPa・s、好ましくは2500〜18000mPa・s、さらに好ましくは3000〜15000mPa・s(特に50000〜13000mPa・s)程度である。
【0051】
水系ペーストは、慣用の添加剤、例えば、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、難燃剤、粘着付与剤、増粘剤、耐熱安定剤、フィラーなどを含んでもよいが、水系ペーストが電池の負極材(特にリチウムイオン電池の負極材)に使用される場合、添加剤を実質的に含有しないのが好ましい。特に、本発明では、界面活性剤及び/又は分散剤を実質的に含有しなくても、水不溶性無機粒子が均一に分散したペーストが調製できることを特徴としている。
【0052】
(リチウムイオン電池及びその負極材)
本発明の水系ペーストは、リチウムイオン電池の負極材用ペーストに適している。リチウムイオン電池の負極材のペーストとして使用される場合、集電体の上に本発明の水系ペーストを塗布した後、乾燥することにより、負極材を製造できる。水系ペーストの塗布は、集電体の一方の面でもよく、両面であってもよい。集電体としては、銅、アルミニウム、金、銀などの導電体で構成された金属箔を利用できる。
【0053】
水系ペーストの塗布量は、用途に応じて選択できるが、負極材として利用する場合、例えば、20〜350g/m、30〜300g/m、さらに好ましくは50〜250g/m程度であり、塗布膜の厚み(乾燥厚み)は、例えば、10〜500μm、好ましくは20〜200μm、さらに好ましくは30〜200μm程度である。本発明では、このような薄膜であっても、均一な塗布膜を形成できる。
【0054】
水系ペーストの塗布方法は、特に限定されず、慣用の方法、例えば、、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ディップ・スクイズコーター、ダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、シルクスクリーンコーター法などが挙げられる。乾燥方法としては、特に限定されず、自然乾燥の他、熱風、遠赤外線、マイクロ波などを利用してもよい。
【0055】
本発明のリチウムイオン電池の構造は、前記負極材を備えている限り、慣用の構造が援用でき、例えば、この負極材と、慣用の正極材、セパレータ及び電解液とで構成できる。例えば、正極材は、アルミニウム、銅、金、銀などの金属箔で構成された集電体と、リチウム複合酸化物(LiCoO、LiMn、LiNiOなど)で構成された正極活物質とで形成されていてもよい。セパレータは、多孔質ポリプロピレン製不織布、多孔質ポリエチレン製不織布などのポリオレフィン系の多孔質膜、炭素質セパレータなどで構成されていてもよい。電解液は、電解質(LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiCl、LiIなどのリチウム塩を、有機溶媒(プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネートなど)に溶解した非水電解液などであってもよい。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の例において、「部」又は「%」は、特にことわりのない限り、重量基準であり、実施例及び比較例で得られたペーストを用いて、下記の物性試験を行った。
【0057】
[ペーストの粘度]
ブルックフィールド粘度計LVDVII+を用いて、ローターNo.4を使用し、30rpmの回転数で、25℃における粘度(mPa・s)を測定した。
【0058】
[塗布面外観]
電解銅箔(古河電気工業(株)製、NC−WS、厚み10μm)の上に、アプリケータを用いて10ミル(2.54mm)の厚みで、ペーストを塗布した。次いで、60℃で3分間乾燥させ、塗布面の50mm四方に目視で確認できる凹凸の個数を欠点数としてカウントした。
【0059】
[塗膜の強度]
塗布面外観で使用した塗布サンプルを、23℃、50%RHの恒温恒湿室で24時間放置した。JIS K 6854−1に準じて90°剥離で塗膜の密着強度を測定した。
【0060】
実施例1
CMC1[CMCのNa塩、ダイセル化学工業(株)製、「1190」、平均エーテル化度DS:0.65、1%粘度:1676mPa・s、80メッシュパス(粒度0.1〜177μm)]をボールミル(中央化工機(株)製、小型振動ミル)を用いて粉砕し、400メッシュで分級(0.1〜37μm)した。なお、各メッシュの目開きは、以下の通りである。
【0061】
80メッシュ :目開き177μm
140メッシュ:目開き106μm
400メッシュ:目開き37μm。
【0062】
このCMC粒子1.0g及びカーボン粒子1(日立化成(株)製、「MAG−D」、平均粒径D50約21.3μm)98gを、ポリエチレン製袋に充填し、空気を含ませて袋の口を閉じ、5分間振とうしてドライブレンドした。次いで、水100gを充填したポリプロピレン製容器を、ホモディスパー(特殊機化工業(株)製、モデルL)を用いて3000rpmで水流を発生させた後、得られたドライブレンド物を全量ポリプロピレン製容器に投入した。3000rpmの回転数を維持したまま5分間攪拌を続け、カーボンペーストを得た。得られたカーボンペーストの評価結果を表1に示す。
【0063】
実施例2
CMC粒子を140メッシュで分級(0.1〜106μm)する以外は実施例1と同様にして、カーボンペーストを調製し、評価した結果を表1に示す。
【0064】
実施例3
CMCとして、CMC2(CMCのNa塩、ダイセル化学工業(株)製、「2200」、1%粘度:2190mPa・s)を400メッシュで分級(0.1〜106μm)して使用する以外は実施例1と同様にして、カーボンペーストを調製し、評価した結果を表1に示す。
【0065】
実施例4
CMCとして、CMC3(CMCのアンモニウム塩、ダイセル化学工業(株)製、「DN−400H」、1%粘度:448mPa・s)を400メッシュで分級(0.1〜106μm)して使用する以外は実施例1と同様にして、カーボンペーストを調製し、評価した結果を表1に示す。
【0066】
比較例1
CMC粒子を140メッシュで分級し、140メッシュパスを除去(105〜177μm)する以外は実施例1と同様にして、カーボンペーストを調製し、評価した結果を表1に示す。
【0067】
比較例2
CMC1の80メッシュパス(0.1〜177μm)を使用する以外は実施例1と同様にして、カーボンペーストを調製し、評価した結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1の結果から明らかなように、本発明の水系ペーストは、欠点数が少なく、密着強度も高い。
【0070】
実施例5
実施例1で得られたカーボンペーストにさらにSBRラテックス(JSR(株)製、「TRD−2001」、固形分48.5%)2gを添加し、300rpmで5分間攪拌した。このペーストを用いて、銅箔にアプリケータを用いて、10ミルで塗布・乾燥し、リチウムイオン電池用負極材を作製した。得られた負極材には、均一な塗膜が形成されていた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の方法で得られた水系ペーストは、水不溶性無機粒子で構成された塗膜として、各種の分野で利用でき、なかでも、電子機器(例えば、携帯電話などのポータブル機器など)、自動車(電気自動車又はハイブリッド車など)、電力貯蔵用の電池(特に、リチウムイオン電池の負極材)に有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性無機粒子と水溶性高分子粒子とをドライブレンドした後、水と混合して水系ペーストを製造する方法であって、前記水不溶性無機粒子の平均粒径と前記水溶性高分子粒子の平均粒径との比率が、前者/後者=1/3〜1/0.05である方法。
【請求項2】
水不溶性無機粒子の平均粒径と水溶性高分子粒子の平均粒径との比率が、前者/後者=1/2〜1/0.1である請求項1記載の方法。
【請求項3】
水不溶性無機粒子の割合(重量比)が、水溶性高分子粒子に対して10倍以上である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
水不溶性無機粒子の平均粒径が1〜100μmであり、かつ水不溶性無機粒子と水溶性高分子粒子との割合(重量比)が、前者/後者=200/1〜50/1である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
水と水不溶性無機粒子との割合(重量比)が、前者/後者=2/1〜1/2である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
水不溶性無機粒子が炭素材で構成されている請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
炭素材が天然又は人造黒鉛である請求項6記載の方法。
【請求項8】
水溶性高分子粒子がカルボキシメチルセルロース又はその塩で構成されている請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
カルボキシメチルセルロース又はその塩がカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩である請求項8記載の方法。
【請求項10】
水と混合した後、さらに水性バインダーを添加する請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
界面活性剤及び/又は分散剤を実質的に添加しない請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
水系ペーストがリチウムイオン電池の負極材用ペーストである請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の方法で得られた水系ペースト。
【請求項14】
請求項13記載の水系ペーストを銅箔の上に塗布するリチウムイオン電池の負極材の製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法により得られたリチウムイオン電池の負極材。
【請求項16】
請求項15記載の負極材を備えたリチウムイオン電池。

【公開番号】特開2011−63673(P2011−63673A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214067(P2009−214067)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】