説明

水系樹脂組成物

【課題】その乾燥塗膜が金属類、セラミックス、オレフィンなどへの密着性、接着性が優れた水系樹脂組成物、より詳しくは、オレフィン系材料との密着性、接着性に優れた水系樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体100質量部、(B)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位を3質量%以上有する樹脂0.1〜50質量部および(C)架橋剤を混合し、架橋反応させた後、該反応混合物を水系媒体に分散させることを特徴とする水系樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着または表面保護を目的に金属、セラミックス、フイルム、シート、紙、繊維又は木工品などの加工に用いられる水系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで金属材料、セラミックス、各種プラスチック類、紙・繊維・木材類には様々な接着剤、塗料が使用されている。これらは現在でも多量に溶剤系材料が使用されており環境汚染の問題が指摘されている。溶剤系から水系への移行を促進するため、より性能の優れた水系樹脂が望まれてきた。従来、水系樹脂として各種天然・合成ゴム系、アクリル系、ウレタン系、オレフィン系、スチレン系などに代表される様に、多くの水系樹脂が用途、目的に合わせ選択され使用されてきた。近年では、環境保護の観点のみならず、より多機能、高機能が水系樹脂に求められている。
そのため一般的に既存の水系樹脂材料を複数種併用して使われているが、使用する水系樹脂の持ついずれかの欠点がそのまま現われてしまい、水系樹脂の高機能化が実用段階に至っていない。一方水分散可能な架橋剤を併用し塗工後の後架橋で性能改良に腐心している。しかしながらこの方法では水系樹脂と使用可能な架橋剤の選定、使用量、架橋剤による乾燥条件、可使時間などに制限が生じ必要な膜強度、接着性、密着性などの性能向上を発現するには不十分である。特に金属シート、箔、蒸着面などの無機材料表面、さらにはオレフィン樹脂などとの接着性、密着性を得ることは極めて困難であった。
【0003】
改良検討を例示すると、プラスチックフイルム用にポリマレイン酸無水物を利用する方法(特許文献1)、顔料の分散作用も兼ねてのポリマレイン酸エステル、酢ビーマレイン酸エステルコポリマーを利用する方法(特許文献2)、金属用接着層に各種マレイン酸系樹脂を利用する方法(特許文献3)、オレフィン−不飽和カルボン酸系共重合体の水系分散体を配合して改質する方法(特許文献4、5)があり、いずれもオレフィン系ポリマーの特徴、マレイン酸系樹脂の特徴など、特性は見出されているものの、望まれている十分な性能を発揮する水系樹脂エマルションを得るに至っていない。本発明による研究者はさらに性能向上を期待できる塗膜形成能を有する、新たな水系樹脂組成物を求め検討を行ない本発明に至った。
【特許文献1】特開平6−25452号公報
【特許文献2】特表2002−521580号公報
【特許文献3】国際公開第2004/011231号パンフレット
【特許文献4】特開2002−371256号公報
【特許文献5】特開2000−7860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、その乾燥塗膜が金属類、セラミックス、オレフィンなどに密着性、接着性の優れた水系樹脂組成物を提供することにある。
【0005】
また、従来の材料では金属面との密着性は得られるがオレフィン系材料との密着性、接着性を得ることができない。特にポリプロピレンフイルム、シートなどへの十分な接着性、ヒートシール性などを得ることはできない。さらに、従来ポリプロピレン等への接着には塩素化ポリプロピレンなどの溶剤タイプが使用されているが、塩素問題及び溶剤使用の問題、熱に対する安定性の観点から使用は好ましくなく、又金属面に対しては錆びの原因ともなる。従って、本発明は従来の材料が有していた上記欠点を解決し、実用上の性能を兼ね備えた水系樹脂組成物を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体と、ポリマレイン酸、マレイン酸系共重合体、マレイン酸変性オレフィン樹脂などの不飽和カルボン酸構造を有する樹脂に(C)架橋剤を加え反応後、乳化することにより得られる水系樹脂組成物が安定性に優れ、またその乾燥被膜が、金属類、セラミックス、オレフィンなどとの密着性、接着性に優れ、さらには被塗工材料が金属の場合、防錆性にも優れた水系樹脂組成物が得られることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、(A)オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体100質量部、(B)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位を3質量%以上有する樹脂0.1〜50質量部および(C)架橋剤を混合し、架橋反応させた後、該反応混合物を水系媒体に分散させることを特徴とする水系樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法により得られるの水系樹脂組成物を含有する塗料、インク、接着剤などは、厚さ0.1〜10μmの薄い塗装皮膜でも優れた密着性、接着性を有し、また金属への防錆性も有する安定性に優れた、実用上きわめて有用なものである。
【0009】
本発明の水系樹脂組成物が上記効果を有する正確なメカニズムは不明であるが、前記樹脂を水系媒体に分散する前に架橋剤と反応させることにより架橋剤が系中に高濃度で存在することとなるためいわゆる「後架橋」的に反応させるよりも架橋反応が効率的に進むと考えられる。それゆえに強固な樹脂皮膜が形成され、架橋反応が十分でないものと比較してカルボキシル基の有する接着作用が効果的に発揮されるためであると推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用する(A)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体は、オレフィン由来の構成単位を共重合体中に50質量%以上(即ちα,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位が50質量%以下)含有する重合体を指し、オレフィンと不飽和カルボン酸を公知の方法によって共重合することにより得られる共重合体である。その態様としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、不飽和カルボン酸がグラフトした共重合体などが挙げられる。オレフィンとしてはエチレン、プロピレン等を挙げることができるが、エチレンが最も好ましい。
【0011】
前記共重合体(A)の製造に使用できるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0012】
前記共重合体(A)中のカルボキシル基は、水分散性、金属表面への密着性を向上させるため、また一般的に行われる造膜時の、皮膜の性状向上のための反応基として使用される。そのため、共重合体(A)中のα,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位の比率は5〜30質量%であれば好ましく、10〜25質量%であればより好ましい。該単量体単位が少なすぎると金属表面への密着性が不十分であり、多すぎるとブロッキング性、耐水性の低下が見られ実用的でなくなる。
【0013】
また、本発明で用いるオレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体は、本発明の効果である被塗布材料への密着性、接着性を損なわない範囲でその他の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中において、その他の単量体に由来する構成単位量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、最も好ましいオレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体には、エチレン−アクリル酸共重合体が挙げられる。
【0014】
本発明で用いるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンの共重合体の重量平均分子量は1,000〜100,000であるが、分散性の点で好ましくは3,000〜70,000、より好ましくは5,000〜40,000である。
【0015】
本発明で用いる(B)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位を3質量%以上有する樹脂としては、ポリカルボン酸、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸系共重合体および不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンなどを例示することができる。ここで、ポリカルボン酸には、ポリマレイン酸(無水物も含む)、ポリアクリル酸、ポリフマル酸が挙げられる。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸系共重合体には、アクリル酸‐マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル(アルキルビニルエーテル)−無水マレイン酸共重合体、メタアクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル−メチルビニルエーテル(アルキルビニルエーテル)−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン(α―オレフィン)−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン(α―オレフィン)−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン(α―オレフィン)−アクリル酸エステル−スチレン−無水マレイン酸共重合体、インデン−無水マレイン酸共重合樹脂、スチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)、アクリル酸メタクリル酸共重合樹脂、アクリル酸スルホン酸共重合樹脂、酢ビアクリル系共重合樹脂が挙げられる。不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンには、マレイン酸変性ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリエチレンが挙げられる。これらの中でも、本発明の目的である被塗工材料への密着性、接着性に優れる点でマレイン酸構造を有する樹脂が好ましい。これらの(共)重合体中には本発明の効果である被塗工材料への密着性、接着性を損なわない範囲でその他の単量体に由来する構成単位、例えばメタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等モノカルボン酸類、フマル酸、イタコン酸等の ジカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよい。本発明で用いるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位を3質量%以上有する樹脂の重量平均分子量は500〜100万であれば好ましい。
【0016】
本発明における樹脂の配合比は、(A)オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体100質量部に対し(B)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位を3質量%以上有する共重合体を0.1〜50質量部使用出来るが、好ましくは0.5質量部〜30質量部である。(B)の使用量が50質量部を超えると耐水性が悪化してしまう。
【0017】
本発明の水系樹脂組成物の製造方法は、前記(A)、(B)および(C)架橋剤を混合し、架橋反応させた後、該反応混合物を水系媒体に分散させることを特徴とする。すなわち、一般には前段階として水系樹脂分散体を得た後に、いわゆる「後架橋」的に架橋剤を添加することが行われているが、本発明は樹脂成分を水系媒体に分散させる前に該樹脂成分に架橋剤を添加し、架橋反応させることを特徴とする。これにより、前述のとおり架橋反応が効率的に進むものと考えられる。
【0018】
(C)架橋剤として具体的にはエポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、カルボジイミド基、ブロックイソシアネート基およびアジリジニル基からなる群より選ばれる1種または2種以上を有する化合物、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤類を使用することができ、これらは各種市販されている。架橋剤の使用量は得られる塗膜の引っ張り強度や耐薬品性などを向上できる点で系中のカルボキシル基に対し好ましくは0.001〜0.5当量、さらに好ましくは0.01〜0.3当量である。架橋剤の使用量が多すぎると乳化が不十分となり実用的できない。
【0019】
得られる水系樹脂組成物の接着性向上を図るため架橋反応を行い、乳化し樹脂エマルションとした後、さらに架橋剤としてシランカップリング剤などカップリング剤類を加えることも有効である。例示すると、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられるが、中でもグリシジル基を有するシランカップリング剤が密着性、接着性、耐食性、耐アルカリ性、耐溶剤性などに効果があり、使用量は乳化前後で合計して系中のカルボキシル基の0.5当量以下使用することが出来る。
【0020】
さらに乳化後に加える架橋剤としてカルボジイミド類、アジリジン類、オキサゾリン類、ブロックイソシアネート類などを使用し、必要な性能を得ることも出来る。使用量はカップリング剤と同様に乳化前後で合計して系中のカルボキシル基の0.5当量以下使用することが出来る。
【0021】
(A)オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体と(B)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位を3質量%以上有する樹脂を水系媒体に分散または溶解させるためには、必要に応じて系中に残存しているカルボン酸を部分または完全中和することが好ましい。中和剤としては例えば、アンモニア水、1級アミン、2級アミン、3級アミン、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物等の強塩基などがあるが、塗膜の耐水性を向上させるために、乾燥時に揮発するトリエチルアミン、ジエタノールアミンが望ましい。ただし、アミンは水分散性の向上効果が小さいため、前記強塩基とアミンとの組合せを用いることが好ましい。中和剤の使用量は特に限定されないが、後述の界面活性作用を有する化合物の使用量を低減し、また水系分散体の粘度をハンドリング性の点で好適な範囲とするため、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体とα,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位を3質量%以上有する樹脂中の全カルボキシル基に対し0.4〜0.9当量が好ましく、0.4〜0.8当量がより好ましい。前記強塩基とアミンとを組み合わせて用いる場合、前記(共)重合体中の全カルボキシル基に対し、前記強塩基を好ましくは0.01〜0.3当量、アミンを好ましくは0.2〜0.8当量である。
【0022】
また、樹脂粒子の平均粒子径を細かくし、さらに被塗布材料濡れ性向上のために飽和または不飽和脂肪酸(塩)、またはそれらの誘導体またはカルボキシル基を含有する高分子界面活性剤からなる群から選ばれる界面活性作用を有する化合物の1種又は2種以上を使用し、共重合体(A)と重合体(B)を乳化することが出来る。これにより、機械安定性が向上しロールコーター法だけではなくスプレー塗装などエマルションの安定性が必要とされる各種塗工法も利用可能となる。飽和脂肪酸としてはプロピオン酸、酪酸、纈草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ぺラルゴン酸、カプリン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミスチリン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキン酸、ヘンアイコサン酸、ベーヘン酸、トリコサン酸、リグノセリン酸、ペンタコサン酸、モンタン酸、ノナコサン酸、メリシン酸、ヘントリアコンタン酸、ドトリアコンタン酸、テトラコリアコンタン酸、セロプラスチン酸、ヘキサトリアコンタン酸、オクタトリアコンタン酸、ヘキサテトラコンタン酸や、牛脂脂肪酸、大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸等の天然脂肪酸が挙げられる。不飽和脂肪酸ではオブツシル酸、カプロレン酸、10−ウンデシレン酸、ラウロレン酸、フィゼテル酸、ミリストレン酸、パルミトレン酸、ペトロセリン酸、ペトロセライジン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレン酸、セトレン酸、エルシン酸、ブラシン酸、セラコレン酸、チメン酸、ルメクエン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレライジン酸、ヒラゴン酸、α-エレオステアリン酸、β-オレオステアリン酸、プニシン酸、リノレン酸、エライドリノレン酸、シュードエレオステアリン酸、モロクチン酸、α-パリナリン酸、β-パリナリン酸、アラキドン酸、クルパノドン酸、ニシン酸、リシノレン酸、リカン酸などがあり、カルボキシル基を含有する高分子界面活性剤はα-オレフィン-マレイン酸共重合体などがあるが、これらのカルボキシル基を中和し界面活性剤としての機能を持たせ、塗膜を形成する際に中和剤が揮発するようにし耐食性を劣化させないことが望ましい。したがって、使用する脂肪酸、また高分子界面活性剤はなるべく分子量の高く、耐水性のあるものが好ましい。しかしながら分子量があまり高すぎると界面活性機能が発現しなくなる。
【0023】
またバリアー性向上、ブロッキング性防止のために、本発明の樹脂エマルションに、本発明により得られる効果を損なわない範囲でワックス類を添加することができる。使用できるワックス類には大きく分けて、天然ワックス、合成ワックスの2種類がある。天然ワックスとしては例えば、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、モンタン系ワックス及びそれらの誘導体、鉱油系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスなど、及びこれらにカルボキシル基を付与した誘導体を使用できる。合成ワックスとしてはポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどの酸化物、これらにカルボキシル基を付与した誘導体などの変性ワックスも含まれる。また、エチレンとプロピレンの共重合系ワックス、エチレン系共重合体の酸化ワックスが挙げられる。更にマレイン酸を付加したワックス、脂肪酸エステル系なども例示できる。これらのエマルションは必要に応じ単独または配合施用される。また他の水系樹脂、水系材料など必要に応じ配合することが出来る。
【0024】
塗布時の発泡防止のための消泡剤の添加も可能で、塗布後の皮膜にハジキの出ないものであれば市販されている一般的な消泡剤の使用が可能である。
【0025】
さらに、処理剤塗布時の界面張力を低下させ、塗工面の濡れ性を上げる目的に有機溶剤を配合することもできる。好ましい有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール類、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコールのエチルエーテルもしくはブチルエーテル、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず使用でき、2種類以上混合しても良い。また目的に応じ分解抑制剤、可塑剤、界面活性剤、粘度調整剤、無機質材料、酸化防止剤、レべリング剤、増粘剤、防腐剤、着色剤、芳香剤の添加、濡れ性の改良又揮発性の改良を目的とした溶剤類、さらには必要に応じて他の水系樹脂材料など配合することもできる。
【0026】
これら(A)オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体及び(B)ポリマレイン酸、マレイン酸系共重合体、マレイン酸付加オレフィン樹脂などマレイン酸構造を有する樹脂、ポリフマル酸、フマル酸共重合体、ポリアクリル酸、アクリル酸系重合体などの樹脂と、(C)架橋剤としてエポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、カルボジイミド基、ブロックイソシアネート基、アジリジニル基を有する化合物および/または、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤などの架橋剤を使用しての反応と、その後の乳化方法は特に限定しないが高粘度での反応及び乳化を行うことが可能な装置を用いればよい。高粘度の反応及び乳化装置としては公知の手段としてニーダー、バンバリーミキサー、単軸、多軸スクリュ押出機などが挙げられる。さらには通常使用される乳化法などを必要に応じて併用すればよい。
【実施例】
【0027】
以下実施例により本発明を説明する。ただし本発明は、これらの実施例及び比較例によって何ら制限されるものではない。
【0028】
製造例1 水系樹脂組成物E−1の製造
エチレン・アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製「プリマコール5990I」)95質量部、ポリマレイン酸(日本油脂社製「ノンポールPMA−50W」乾燥後使用)5質量部を混合し、ニ軸混練押出機(東芝機械社「TEM−26SS」L/D=65)のホッパーより供給し、押出機の樹脂溶融ゾーンに設けた供給口より架橋剤としてポリカルボジイミド水溶液(日清紡社製「カルボジライトV−04」)、次いで界面活性剤、アルカリ水溶液を、段階的にプランジャーポンプを用いて注入した。押出機のバレル温度はアルカリ水溶液を注入する前までは170℃、その後、90℃に設定し回転数300rpmで、連続的に押し出した。その後、押し出された混合物をオートクレーブ中に仕込み固形分が40%になるように水を加え150℃、10分間、回転数500rpmで撹拌し水系樹脂組成物E−1を得た。
【0029】
製造例2〜製造例5 水系樹脂組成物E−2〜E−5の製造
表1に示した仕込み量で製造例1と同様の方法で水系樹脂組成物E−2〜E−5を得た。固体物質はホッパーより投入し、液状物質はプランジャーポンプを用いて注入した。
【0030】
比較例1 水系樹脂組成物 比−1の製造
エチレン・アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製「プリマコール5990I」)95質量部、ポリマレイン酸(日本油脂社製「ノンポールPMA−50W」乾燥後使用)5質量部を混合し、ニ軸混練押出機(東芝機械社「TEM−26SS」L/D=65)のホッパーより供給し、押出機の樹脂溶融ゾーンに設けた供給口より界面活性剤、アルカリ水溶液を、段階的にプランジャーポンプを用いて注入した。押出機のバレル温度はアルカリ水溶液を注入する前までは170℃、その後、90℃に設定し回転数300rpmで、連続的に押し出した。その後、押し出された混合物をオートクレーブ中に仕込み固形分が40%になるように水を加え150℃、10分間、回転数500rpmで撹拌し40℃まで冷却した。得られた水系樹脂組成物に架橋剤としてポリカルボジイミド水溶液(日清紡社製「カルボジライトV−04」)を加え25℃、30分間撹拌し水系樹脂組成物比−1を得た。
【0031】
比較例2 水系樹脂組成物比−2の製造
1Lのオートクレーブにエチレン−アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製「プリマコール5990I」)100質量部、界面活性剤、アルカリ水溶液を表1に示すとおり秤取り固形分が40%になるように水を加え、160℃に加熱した後1時間撹拌し水系樹脂組成物比−2を得た。
【0032】
比較例3〜5
表1に示した仕込み量で比較例2と同様な手法を用いて比較例サンプル比−3〜5を得た。
【0033】
表1:樹脂は樹脂使用量の合計を100とした質量部数、架橋剤、アミン、アルカリは系中のカルボキシル基に対する当量、活性剤は樹脂100に対する使用部数で表記した。
【表1】

【0034】
表中の説明
(A)オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体
A−1:エチレン−アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製「プリマコール5990I」)
A−2:エチレン−アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製「プリマコール5980」)
(B)マレイン酸構造を有する樹脂
B−1:ポリマレイン酸(日本油脂社製「ノンポールPMA−50W」乾燥後使用)
B−2:α-オレフィン無水マレイン酸共重合体(三菱化学株式会社製「ダイヤカルナ30」)
B−3:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカル「エポレンE−43))
(C)架橋剤
C−1:エポキシ基含有架橋剤(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1001」)
C−2:ポリカルボジイミド(日清紡社製「カルボジライトV−04))
C−3:シランカップリング剤(GE東芝シリコーン社製「TSL8350」)
アルカリ
アミン:ジエタノールアミン50%水溶液
NaOH:48%NaOH水溶液
活性剤:トール油脂肪酸
【0035】
(1)密着性、防錆性テスト用試験板の作製
株式会社エンジニアリングテストサービス社製ノンクロム処理鋼板(0.6×70×150mm)、を使用。脱脂処理はキシレン、トルエン、アセトンの混合溶液(混合比2:2:1)を使用して脱脂した。
各サンプルをバーコーターにて上記試験板に1μmの厚さで塗布し、105℃に保たれた乾燥機で2分間乾燥させ、その後一日室温にて静置し試験板とした。
(2)樹脂物性用試験片の作成
PETフイルム上にバーコーターで10μmの厚みで3回塗工した。感想は105℃にて各2分乾燥させ、その後一日室温にて静置した。
(3)接着性(剥離強度)用試験片の作成
株式会社エンジニアリングテストサービス社製アルミ及び市販のコロナ処理PPフイルムを使用しアセトンを含侵布で脱脂しバーコーターで10μmの厚みで塗布し80℃にて3分乾燥させ、その後一日室温にて静置した。
【0036】
(性能評価)
密着性
密着試験はサンプル作製の翌日に測定した。
1mm角の碁盤目を切り、セロハンテープ剥離で測定した。
評価基準:
◎ 剥離なし90%以上、
○ 50%以上90%未満
× 50%未満
【0037】
塗膜物性測定
引張り強度試験機で10cm/minの速度で破断強度を測定した。数値は50g単位に四捨五入した。
【0038】
接着性(剥離強度)
引張り強度試験機で布をあてヒートシール後10cm/minの速度、180度方向で剥離強度を測定した。
数値は50g単位に四捨五入した。
【0039】
防錆性
コロイダルシリカを20質量部添加した状態でJIS−Z−2371による塩水噴霧試験を48時間行った。
試験機器:アスコット社製S120t型
評価基準:
◎ 白錆発生率が全面積の3%未満
○ 白錆発生率が全面積の3%以上60%未満
× 白錆発生率が全面積の60%以上
【0040】
【表2】

【0041】
本発明の製造方法により得られる水系樹脂組成物はオレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体と、ポリマレイン酸、マレイン酸系共重合体、マレイン酸付加オレフィン樹脂なα,β−エチレン性不飽和カルボン酸構造を有する樹脂を、架橋剤を加え反応させた後、水系媒体に分散させることにより被塗工材料との密着性、接着性に優れ、さらには被塗工材料が金属の場合、防錆性にも優れた水系樹脂組成物を得ることが可能となった。本発明により得られる水系樹脂の皮膜は金属、フィルム、紙などの接着、表面保護に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体100質量部、(B)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位を3質量%以上有する樹脂0.1〜50質量部および(C)架橋剤を混合し、架橋反応させた後、該反応混合物を水系媒体に分散させることを特徴とする水系樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記(B)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位を3質量%以上有する樹脂がポリマレイン酸、マレイン酸系共重合体、マレイン酸変性ポリオレフィンからなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項1に記載の水系樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
(C)架橋剤としてエポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、カルボジイミド基およびアジリジニル基からなる群より選ばれる1種または2種以上を有する化合物及び/またはシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の水系樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記(C)架橋剤を、共重合体(A)および樹脂(B)のカルボキシル基に対して0.001当量〜0.5当量使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水系樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られる水系樹脂組成物を含む塗料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られる水系樹脂組成物を含む接着剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られる水系樹脂組成物を含むインキ。


【公開番号】特開2007−238730(P2007−238730A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61920(P2006−61920)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】