説明

水系現像感光性樹脂印刷原版

【課題】水系現像感光性樹脂印刷版のデジタル版において、感光性樹脂層との密着性、赤外線でのアブレーション効率、製版現像時の赤外線感受性層の除去効率などを最適化することを課題とする。
【解決手段】少なくとも支持体(A)、感光性樹脂層(B)、赤外線により加工可能な赤外線感受性層(C)がこの順に積層されてなる水系現像感光性樹脂印刷原版であって、赤外線感受性層のバインダー成分を2種類以上用いることにより、感光性樹脂層との密着性、赤外線でのアブレーション効率、製版現像時の赤外線感受性層の除去効率などを最適化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネガフィルムを必要としないデジタル情報を有するネガティブを、赤外線レーザーを用いて直接描画する製版プロセスにおいて、赤外線によるアブレーション効率や製版効率を高めることを可能とする水系現像感光性樹脂印刷原版、その中でも特にフレキソ印刷用感光性樹脂原版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフレキソ印刷版用感光性樹脂原版は、ポリエステルフィルムなどに代表される支持体の上に、熱可塑性エラストマーおよび、少なくとも1つのモノマー、および放射線に感応する少なくとも1つの開始剤を含む感光性樹脂層を積層した構成を有するのが一般的であった。このようなフレキソ印刷版用感光性樹脂原版からフレキソ印刷版を製版する手順としては、まず紫外線に対して透明な支持体を通して感光性樹脂層全面に紫外線露光(裏露光)を実施し、同樹脂層内に薄い均一な光硬化層を形成する。次いで、この光硬化層と反対側の感光性樹脂層面に置かれたネガフィルムを通して感光性樹脂層の面に画像露光(主露光)を行い、ネガフィルムによって遮蔽された未露光部分の樹脂を現像用溶剤で洗い流して所望の画像すなわちレリーフ画像を伴った版が形成される。詳細には、塩化ビニルに代表されるシートでネガを設置した版全体を覆い、減圧することにより、ネガと感光性樹脂層の密着させる手法が一般的にとられている。このとき、感光性樹脂層とネガフィルムとの接触を滑らかにし、減圧密着効果を上げる目的で、多くの場合、スリップ層あるいは保護層と呼ばれる薄膜が感光層上に設けられている。これが一般にアナログ版と呼ばれる版である。
【0003】
一方、ネガフィルムを必要とせずに、デジタル化されたネガティブ画像情報を専用の描画機によって直接描画することが可能なフレキソ印刷用感光性樹脂構成体およびその製法に関する技術も知られている。その方法とは、感光性樹脂層上に形成された赤外線感受性層を、コンピュータで処理したデジタル情報に基づいて選択的に除去することによって、所望のネガティブを得るものである。感光性樹脂層上に画像を描画した後は、従来の製版プロセスをそのまま適用することが出来る。すなわち、既存の露光装置を用いて支持体側から裏露光を、赤外線レーザーで描画された画像側から主露光を実施し、その後現像工程にてレリーフを洗い出しし、フレキソ印刷版が得られる。
【0004】
この製版方法は、従来のネガフィルムを用いる方法と比較して時間と労力が節約出来るという長所を有している。例えば、新たな画像の印刷の必要が生じた際、ネガフィルムを新たに起こすことなく、コンピュータ上で作成した画像データ用いることにより、所望のデジタルネガを即座に描画作成することが可能であり、またデータ書き換えにより、修正することも可能である。また従来のネガティブと比較して、感光層にあらかじめ接着しているため、露光時のレリーフの寸法安定性においても有利であるため、印刷品質も向上する長所を有している。
【0005】
このようなフレキソ印刷版用感光性樹脂原版の赤外線感受性層として、特許文献1には、そのバインダーポリマーとして、感光性樹脂層の少なくとも1つの低分子物質と実質的に非相溶であるものを用いることが記載されている。しかしながら、赤外線感受性層と感光性樹脂層が実質的に非相溶性であるために、両者の接着力が不十分であり、作業者の手による取り扱いの際に版表面の屈曲や擦れなどにより、赤外感受性層の一部に欠損が生じたりする場合があるため、取り扱いには多大な慎重さを要する。
【0006】
また特許文献2には、赤外線感受性層、バリア層、感光性樹脂層がこの順に積層されてなるフレキソ印刷版が提案されているが、バリア層を有するために印刷版の製造工程が複雑になり、経済性、製品性能の面で不可が大きいといった問題がある。加えてバリア層の材質によっては、赤外線感受性層との密着性が不足し、感光性樹脂層からの剥がれが起きたり、バリア層は赤外線にて融除されないため、酸素の透過性が悪く、形成画像が太るという問題がある。
【0007】
これらの問題を解消するために特許文献3には、赤外線感受性層がこれを構成するバインダーポリマーのうち少なくとも1種類と相溶性を有する水不溶性のバインダーポリマーを有し、感光性樹脂層に接して配置されていることを特徴とする水現像フレキソ印刷用感光性樹脂構成体が開示されている。これによって、赤外感受性層の感光性樹脂層への密着力が向上し、剥がれ等が軽減される上、除去された赤外線感受性層が現像液(水系)に不溶であるため、フィルターろ過でき、版面を汚染しないとされている。しかしながら、特許文献3に記載されている赤外線感受性層のバインダーポリマーは1種類からなるため、感光性樹脂層との密着性のコントロールが難しく、赤外線感受性層に要求される諸特性、例えば、赤外線による描画効率、製版における現像工程での赤外線感受性層の除去効率などを最適化することが困難である。赤外線による描画効率が悪いことは、赤外線感受性層が融除され切らずに飛び残ることを意味し、現像工程での赤外感受性層の除去効率が悪いことは、現像時間が必要以上に長くなるため、赤外線で融除された凸レリーフ形成部分を必要以上にブラシで擦ることになるため、いずれも特に網点や独立点などの微細なレリーフの形成に影響を及ぼす。
【0008】
また、赤外線感受性層の作製方法としては、赤外感受性層の非赤外線遮光性能(一般的には紫外光の光学濃度の面内ばらつき)を管理するため、適当な溶媒を用いてバインダーポリマー溶液を調製し、そこに赤外線吸収物質等を分散させてからカバーフィルムの原反に塗工・乾燥し、その後にカバーフィルムを感光性樹脂層にラミネート若しくはプレス圧着して赤外線感受性層を転写させる方法が一般的であるが、赤外線感受性層のバインダーポリマーが1種類の場合、種類によっては、塗膜の粘着性が過剰に高くなり、塗工時のフィルム巻き取りにおいて、フィルム裏面とのブロッキング現象などの問題も起こり易い。これを防止するため、フィルム裏面に離型処理を施す方法も存在するが、製造コストが上昇する等の経済上の問題が新たに発生する。
【0009】
また、赤外線感受性層に複数種類のバインダーポリマーが使用されている例としては、前述した特許文献1、あるいは特許文献4が挙げられる。しかしながら、特許文献1に記載の赤外感受性層に使用可能なバインダーポリマーは、原則として感光性樹脂層のバインダーポリマーおよび/または低分子量成分と非相溶性であることが必要で、相溶性のある若しくは多少相溶性のあるバインダーポリマーを併用する際も、赤外線感受性層全体としては、感光性樹脂層成分と実質的に非相溶性であることが必要とされているため、赤外線感受性層と感光性樹脂層の密着力が不足することによる版材取扱い時の版表面の屈曲や擦れなどによる赤外感受性層の剥離や欠損などの不利益を被ることに変わりはない。また、特許文献4においては、赤外感受性層のバインダーポリマーにメラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が使用されているため、赤外感受性層の膜自体が熱架橋により過剰に強固になり、耐傷性は良好なものの、現像時に腰の強いブラシが必要となったり、現像時間が必要以上に長くなるため、樹脂凸版と比較して一般に硬度が低くレリーフの深いフレキソ印刷版においては、特に網点や独立点のような微細な凸レリーフがブラシによって機械的に削り取られてしまうという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−305030号公報
【特許文献2】特表平10−509254号公報
【特許文献3】特開2006−163284号公報
【特許文献4】特開2004−163925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、水系現像感光性樹脂印刷版のデジタル版において、赤外線感受性層のバインダー成分を2種類以上用いることにより、感光性樹脂層との密着性、赤外線でアブレーション効率、製版現像時の赤外線感受性層の除去効率などを最適化できることを特徴とする水系現像感光性樹脂印刷原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の通りである。
1.少なくとも支持体(A)、感光性樹脂層(B)、赤外線により加工可能な赤外線感受性層(C)がこの順に積層されてなる水系現像感光性樹脂印刷原版であって、感光性樹脂層(B)が、親水性重合体(b1(i))と熱可塑性エラストマー(b1(ii))を各1種類以上含むバインダーポリマー(b1)、エチレン性不飽和化合物(b2)、および光重合開始剤(b3)を含有しており、赤外線感受性層(C)が、感光性樹脂層(B)の現像液に不溶又は可膨潤である2種類以上のバインダーポリマー(c1)、感光性樹脂層(B)に含まれるバインダーポリマーのうち少なくとも1種類および/または感光性樹脂層(B)に含まれる低分子量成分のうち少なくとも1種類と相溶性を有するバインダーポリマー(c2)、1種類以上の赤外線吸収物質(c3)ならびに非赤外線遮蔽物質(c4)を含有しており、感光性樹脂層(B)に接して赤外線感受性層(C)が配置されていることを特徴とする水系現像感光性樹脂印刷原版
2.前記(b1(i))が、カルボン酸基、アミン若しくはアミノ基、水酸基、リン酸基、スルフォン酸基、およびそれらの塩からなる親水性基から選ばれた1種類以上の基を有することを特徴とする上記1に記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
3.前記(b1(i))が水分散性ラテックスであることを特徴とする上記1または2に記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
4.前記(c1)および(c2)が同一であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
5.前記(c1)および(c2)が、熱や紫外線によって架橋されないことを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
6.前記(c3)および(c4)がカーボンブラックであることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
7.前記赤外線感受性層(C)の上に、隣接して剥離可能なカバーフィルム(D)が設けられていることを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
8.前記カバーフィルム(D)が、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらの積層体からなるフィルムであることを特徴とする上記7に記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、赤外線感受性層と感光性樹脂層の密着性を維持した上で、赤外線によるアブレーション効率、現像工程での赤外線感受性層の除去効率等が好適に調整された水系現像感光性樹脂印刷原版を提供出来る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態につき説明する。
【0015】
本発明で使用される支持体(A)としては、ポリエステルなど寸法安定なフィルムを用いるのが好ましい。印刷原版の積層体を支持する目的から、その厚さは75μm〜350μm、好ましくは100μm〜300μmであることが好ましい。また、本発明の製造プロセスとしては、後述する支持体側から感光性樹脂層(B)全面を露光する工程が含まれる場合があるため、原則として露光に用いられる紫外光等を遮蔽しないものであることが好ましい。また、この支持体は、感光性樹脂層(B)との密着を向上させるため、支持体(A)上に感光性樹脂層(B)と接する側に接着剤(a1)が塗布されたものを含む。更に、露光視認性の向上や、上述の支持体側からの露光性の制御のため、接着剤(a1)に各種染料や紫外線吸収剤等を適量添加しても良い。
【0016】
本発明で使用される感光性樹脂層(B)を構成する感光性樹脂組成物に含まれるバインダーポリマーは、親水性重合体(b1(i))と熱可塑性エラストマー(b1(ii))を各1種類以上含むバインダーポリマー(b1)、エチレン性不飽和化合物(b2)、および光重合開始剤(b3)を含有する。親水性共重合体(b1(i))は水膨潤性を有し、それらはカルボン酸基、アミンもしくはアミノ基、水酸基、リン酸基、スルフォン酸基、等の親水性基、またはそれらの塩を有するものであることが好ましい。また親水性重合体(b1(i))は水分散性ラテックスであることが好ましい。具体的にはカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス、カルボキシル化スチレンブタジエンラテックス、あるいはカルボキシル基を含有した脂肪族共役ジエン重合体、リン酸基またはカルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物の乳化重合体、スルフォン酸含有ポリウレタンなどが例として挙げられる。これら親水性共重合体(b1(i))は、単独でも2種類以上を併用しても良い。親水性共重合体(b1(i))の粒子径は、500nm以下が好ましく、特に200nm以下が好ましい。粒径が大きすぎると、水系現像性が低下するとともに、露光工程における紫外光の散乱を招き、白抜き深度の低下や網点の太りなどの画像再現性が低下する可能性や、現像時にゲル粒子が粒子の形態で脱離し、水系現像後レリーフエッジに凹凸が発生しそのために微小なレリーフの画像再現性が低下する等の問題がある。また、親水性共重合体のトルエンゲル分率は、60〜99%が好ましく、特に80〜99%が好ましい。ゲル分率がこの範囲を下回ると印刷版の強度が低下し、この範囲を超えると親水性共重合体(b1(i))と熱可塑性エラストマー(b1(ii))との混合性が著しく低下する。トルエンゲル分率とは、親水性共重合体(b1(i))の乳化重合液の濃度が約50wt%の分散液を、SUS製の板の上に適量垂らし、130℃で30分間乾燥させたものを1.0g計量し、25℃のトルエン50mlに浸漬させ、浸とう器をもちいて3時間振とうさせた後に、320SUSメッシュでろ過し、普通過分を130℃1時間乾燥させたものの重量を1gで割った重量分率(wt%)から求められる。親水性共重合体(b1(i))の量は、感光性樹脂層(B)を構成する感光性樹脂組成物100重量部に対し、20〜60重量部が好ましい。少なすぎると水系現像性が低下を招き、多すぎると、水分の吸湿性やインキの膨潤性が増加するため好ましくない。
【0017】
本発明で使用される感光性樹脂層(B)中の熱可塑性エラストマー(b1(ii))には、疎水性のポリマーが挙げられる。疎水性ポリマーとしては、例えば、共役ジエン系炭化水素を重合して得られる重合体、または共役ジエン系炭化水素と、モノオレフィン系不飽和炭化水素を重合して得られる共重合体が挙げられる。具体的には、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、クロロプレン重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレンクロロプレン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン−スチレン共重合体、イソブテン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体等が挙げられる。これらの疎水性ポリマーは単独でも2種類以上を併用しても良い。熱可塑性エラストマー(b1(ii))の量は感光性樹脂層(B)を構成する感光性樹脂組成物100重量部に対して10〜40重量部が好ましい。少なすぎるとインキの膨潤率が増加を招き、多すぎると水系現像性を低下させるため好ましくない。
【0018】
本発明で使用される感光性樹脂組成物には、エチレン性不飽和化合物(b2)がある割合で添加される。エチレン性不飽和化合物とは、ラジカル重合により架橋可能な物質である。この添加量は、好ましくは感光性樹脂組成物100質量部中5質量%以上50質量部以下、より好ましくは、10質量%以上、40質量%以下である。エチレン性不飽和化合物に特に制限は無く、例えば、エチレン性不飽和酸とアルコール類のエステル化合物などがあり、例えば、文献「光硬化技術データブック(テクノネット社発行)」等に記載された化合物が利用できる。
【0019】
具体的にはヘキシル(メタ)アクリレート、ノナン(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2エチル、2ブチルプロパンジオール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ECH変性アリルアクリレート、ベンジルアクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐、環状の単官能モノマー、又はヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル、2−エチルプロパンジ(メタ)アクリレート、2−フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ECH変性フタル酸ジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ECH変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンベンゾエート(メタ)アクリレート、EO(PO)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐、環状の多官能モノマーなどが挙げられる。また、ジオクチルフマレート等のアルコールとフマル酸のエステル、又はラウリルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどN置換マレイミド誘導体なども挙げることができる。これらは単独で用いても、2つ以上を併用しても良い。
【0020】
本発明で使用される光重合開始剤(b3)の量は、感光性樹脂層(B)を構成する感光性樹脂組成物100重量部に対して0.3質量%以上、10質量%以下で用いられ、より好ましくは1質量%以上、5質量%以下である。光重合開始剤の例としては、文献「光硬化技術データブック(テクノネット社発行)」、「紫外線効果システム(総合技術センター発行)」等に記載されたものが使用できる。具体的には、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、α−メチロールベンゾイン、α−メチロールベンゾインメチルエーテル、ベンジルメチルケタール、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、ベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、ビスアシルフォスフィンオキサイド、α−メトキシベンゾインメチルエーテル、2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メチル−1[4−メチルチオ]フェニル、2−モルフォリノプロパン−1−オン、チオキサントン、ベンジル、アンスラキノン等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上を併用しても良い。
【0021】
感光性樹脂層(B)を構成する感光性樹脂組成物には、バインダーポリマー、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤以外に、必要に応じて重合禁止剤、可塑剤、染料、紫外線吸収剤、耐オゾン剤、界面活性剤等の添加剤を適宜配合することができる。可塑剤としては、液状1,2(又は1,4)−ポリブタジエン、1,2(又は1,4)−ポリイソプレン、又はこれらの末端変性品、ナフテン油、パラフィン油等の炭化水素油等が挙げられる。この中でもポリブタジエン、ポリイソプレンは樹脂硬度、物性の調整等の目的で好適である。重合禁止剤としては、ハイドロキノン、P−メトキシフェノール、2,4−ジーt−ブチルクレゾール、カテコール、t−ブチルカテコール等のフェノール類、又はヒンダードアミン類、硫黄系抗酸化剤、リン系抗酸化剤等が挙げられる。また、界面活性剤としては現像効率の向上等を目的として、画像特性その他の性能を低下させない範囲において、脂肪酸塩などのアニオン系、カチオン系、両性、ノニオン系の各種界面活性剤を使用することができる。具体的にはラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムなどのラウリル硫酸系化合物、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのドデシルベンゼンスルホン酸系化合物、例えば、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンラウリル硫酸系化合物、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸系化合物、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウムなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸系化合物、例えば、スルホコハク酸系化合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキルフェノールエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどが挙げられる。その他の成分として、相溶性、柔軟性を高めるための相溶化剤として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール類を添加しても良く、熱安定性を確保するために、従来公知の重合禁止剤を添加することができる。好ましい重合禁止剤としては、フェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類、ニトロソ系化合物等が挙げられる。また、必要に応じて香料、酸化防止剤、酸素補足剤等も添加することができる。
【0022】
本発明における赤外線感受性層(C)は、感光性樹脂層(B)に接して赤外線感受性層(C)が配置されており、感光性樹脂層(B)の現像液に不溶又は可膨潤である2種類以上のバインダーポリマー(c1)、感光性樹脂層(B)に含まれるバインダーポリマーのうち少なくとも1種類および/または感光性樹脂層(B)に含まれる低分子量成分のうち少なくとも1種類と相溶性を有するバインダーポリマー(c2)、1種類以上の赤外線吸収物質(c3)ならびに非赤外線遮蔽物質(c4)を含有する。非赤外線とは赤外線以外の光線、例えば紫外光線などを意味する。また赤外線吸収物質(c3)と非赤外線遮光物質(c4)は同一であっても異なっても良く、両者を兼ねる物質の一つとしてカーボンブラックが好適に用いられる。また、赤外線感受性層(C)を構成するバインダーポリマー(c1)は、吸湿等による溶解や強度低下を防止するため、水不溶性であることが好ましい。また感光性樹脂層(B)の密着性を確保するため、バインダーポリマー(c2)は感光性樹脂層(B)中のバインダーポリマーのうち少なくとも1種類および/または感光性樹脂層(B)に含まれる低分子量成分のうち少なくとも1種類と相溶性を有するものであり、好ましくは、赤外線感受性層(C)のバインダーポリマー(c2)と感光性樹脂層(B)のバインダーポリマー(b1)とが同一または極めて類似した構造を有するものであることが好ましい。またバインダーポリマー(c1)およびバインダーポリマー(c2)は、赤外線レーザーでのアブレーション効率、製版現像時の赤外線感受性層の除去効率を向上させるため、熱や紫外線によって架橋されないことが好ましい。またバインダーポリマー(c1)とバインダーポリマー(c2)は同一であっても異なっていてもよい。バインダーポリマー(c1)およびバインダーポリマー(c2)としては、赤外線感受性層(C)をある種の溶剤に溶解させた塗液をカバーフィルム(D)に塗布した後、これを感光性樹脂層(B)と貼り合わせる工程手順を取る場合、バインダーポリマーの溶剤可溶性が必要とされるため、感光性樹脂層(B)の熱可塑性エラストマー(b1(ii))と同一若しくはこれらと極めて似た構造のものを選定するのが好ましい。極めて似た構造とはポリマー中に同一骨格を有するポリマーを指し、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の場合、スチレンーイソプレン−スチレンブロック共重合体や水添スチレン−ブタジエン共重合体が極めて似た構造を有するポリマーとなる。ただし印刷原版の作製方法は上記のみに限らず、したがって、選定されるバインダーもこれらに限られるものでは無い。
【0023】
ただし、バインダーポリマー(c1)とバインダーポリマー(c2)が同一で赤外線感受性層(C)のバインダーポリマーが1種類となる場合は、赤外線感受性層(C)と感光性樹脂層(B)との密着性のコントロールが困難になり、印刷用原版の製版時にカバーフィルム(D)を剥離する際の困難を招いたり、赤外感受性層(C)の赤外線レーザー描画性(融除性)や現像ブラシでの除去性が低下する不利益を被ったり、前述したカバーフィルム作製工程において、赤外線感受性層の塗膜とカバーフィルム原反の裏面とのブロッキング現象を招きやすいという種々の問題が発生するため、これらを好適に調整するため、バインダーポリマー(c1)とバインダーポリマー(c2)は異なっている、またはバインダーポリマー(c1)とバインダーポリマー(c2)以外のバインダーポリマーを含有していることが好ましい。バインダーポリマー(c1)とバインダーポリマー(c2)以外のバインダーポリマーには、上述した赤外線感受性層に要求される諸特性の維持・向上を妨げない範囲で任意のものを選定でき、バインダーポリマー(c1)、(c2)に対して適量配合することが可能であり、赤外感受性層(C)を構成するバインダーポリマー総量に対して、5〜95重量%、更に好ましくは10〜90重量%添加するのが好ましい。これらの目的を満足するバインダーポリマーの一例としては、熱分解温度が190〜250℃と比較的低いアクリル樹脂等が挙げられる。
【0024】
また、赤外線感受性層(C)の構成物質としては、上述したバインダーポリマーや赤外線吸収物質(c3)、非赤外線遮蔽物質(c4)に加えて、赤外線感受性層(C)を溶解させた塗液をカバーフィルム(D)に塗布する工程を選択する場合の塗布性向上を目的として、各種界面活性剤や、カバーフィルム(D)との剥離性改良を目的として、アルキル系化合物やシリコン化合物等の離型剤を添加剤として用いても構わない。
【0025】
赤外吸収物質(c3)としては、赤外光を吸収して熱に変換し得る物質であれば、特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、シアニンブラック等の黒色顔料、フタロシアニン、ナフタロシアニン系の緑色顔料、ローダミン色素、名太きノン系色素、ポリメチン染料、ジイモニウム塩、アゾイモニウム系色素、カルコゲン系色素、カーボングラファイト、鉄粉、ジアミン系金属錯体、ジチオール系金属錯体、フェノールチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、アリールアルミニウム金属塩類、結晶水含有無機化合物、硫酸銅、酸化コバルト、酸化タングステン等の金属酸化物、これらの金属の水酸化物、硫酸塩、更にビスマス、スズ、テルル、鉄、アルミの金属粉などが挙げられる。これらの赤外線吸収材料は使用するレーザー光線で除去可能な感度を有する範囲で添加されることが好ましく、赤外線感受性層(C)の全組成物に対して0.1〜75重量%の添加が好ましい。添加量が0.1重量%以上であれば、必要な光学濃度が得られ、75重量%以下であれば、多の成分が不足して赤外線感受性層(C)に傷が付きやすいという問題を回避することができる。
【0026】
非赤外線の遮光物質(c4)としては、紫外光線を反射又は吸収可能な物質を使用でき、紫外線吸収剤やカーボンブラック、カーボングラファイトなどが好適な例である。その添加量としては、一般的に赤外感受性層(C)としての光学濃度が2.0以上になることが好ましく、より好ましくは2.5以上である。光学濃度は、オルソクロマチックフィルターを用いて、マクベス透過濃度計「TR−927」(コスモルゲンインスツルメンツ社製)を用いることで測定することができる。なお、カーボンブラックのように赤外線吸収と非赤外線遮蔽を兼ね備えたものはその材料として好ましい。これは先のバインダーポリマーから分離しない特徴を有し、その点からも好ましい。
【0027】
本発明の赤外線感受性層(C)の上には、隣接してカバーフィルム(D)が設置されることが好ましい。カバーフィルムの種類としては、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルフィルムが一般的であるが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらの積層体からなるフィルムであることが好ましい。また赤外線感受性層(C)との剥離性を改良するために、アルキル系化合物やシリコン系化合物等の離型剤を添加剤として塗布することが好ましい。また、印刷原版のトータルコスト改善等の目的から、ポリエステルフィルムとしてポリエチレンやポリプロピレン等の素材を使用することがより好ましい。ただし、これらの素材は、赤外感受性層(C)用の組成物溶液をカバーフィルム(D)原反に塗布・乾燥する工程を選択する場合、例えばポリエチレンテレフタレートより熱変形温度が低いため、皺や熱収縮等を抑制するため、溶剤種類、乾燥温度などを好適にコントロールすることが好ましい。
【0028】
本発明の水系現像感光性樹脂印刷原版の製版後の厚さは、0.5mmから10mmであることが好ましい。
【0029】
本発明における水系現像感光性樹脂印刷原版の製造方法の例を以下に説明する。
【0030】
まず赤外線感受性層(C)用の溶液を、カバーフィルム(D)にバーコーター等を用いて塗布し、その後溶媒を除去して赤外線感受性層付きカバーフィルムを作製する。次にプレス機等を使用して、感光性樹脂層(B)用組成物を支持体(A)と上記赤外線感受性層付きカバーフィルムで挟み込む。なお赤外線感受性層付きカバーフィルムは赤外線感受性層側で挟み込む。この際金型等を用いて加圧保持することが好ましい。これにより感光性印刷原版を作製することができる。
【0031】
また本発明における水系現像感光性樹脂印刷原版は、下記する工程を経て樹脂印刷版を製造することができる。
【0032】
樹脂印刷版の製造は、上述の水系現像感光性樹脂印刷原版を用い、(1)支持体側から紫外光を用いて全面露光する工程(以下、裏露光工程と称す)、(2)赤外レーザーで赤外線感受性層(C)に像様照射することによって画像マスク(C´)を形成する工程(以下、描画工程と称す)、(3)形成された画像マスク(C´)側から紫外光を用いて露光し、感光性樹脂層(B)に潜像を形成する工程(以下、主露光工程と呼ぶ)、(4)水を主成分とする液により現像処理し、画像マスク(C´)および紫外光未露光部の感光性樹脂層(B)を除去する工程(以下、現像工程と称す)、(5)現像処理されたレリーフ像側から紫外露光を用いて全面露光する工程(以下、後露光工程と称す)、(6)200〜300nmの波長を持つ紫外光(以下、UVCと称す)を用いてレリーフ像側から全面露光する工程(以下、デタック工程と称す)を経ることが好ましい。工程(2)においては、露光時に赤外線感受性層(C)に傷が発生するのを防止するため、カバーフィルム(D)で保護した状態で実施し、工程(3)の直前にこれを剥離することが好ましい。また、工程(1)、(5)、(6)は、使用用途等によっては省略できる場合もある。
【0033】
(1)裏露光工程とは、紫外光を、好ましくは300〜400nmの波長の紫外光(以下、UVAと称す)を支持体側から全面に露光し、感光性樹脂層(B)を支持体側から見た所定の深度まで全面硬化させ、いわゆるフロアを形成する工程のことである。このフロアの厚さは、印刷用途等によって任意に調整されるが、一般的な目安としては感光性樹脂層(B)の厚さの1/2程度が好ましい。
【0034】
(2)描画工程では、赤外線レーザーを画像データに基づきON/OFFさせて、赤外線感受性層(C)に対して走査照射する工程のことである。赤外線感受性層(C)は、赤外線レーザーが照射されると赤外線吸収物質の作用で熱が発生し、その熱の作用で熱分解性化合物が分解して赤外線感受性層(C)が除去、すなわちレーザー融除される。レーザー融除された部分は、光学濃度が大きく低下し、紫外光に対して実質的に透明になる。画像データに基づき、赤外線感受性層(C)を選択的にレーザー融除することによって、感光性樹脂層(B)に潜像を形成し得る画像マスク(C´)が得られる。
【0035】
赤外線レーザー照射には、発振波長が750〜3000nmの範囲にあるものが用いられる。このようなレーザーとしては、例えば、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ペロブスカイトレーザー、Nd−YAGレーザーやエメラルドガラスレーザーなどの固体レーザー、InGaAsP、InGaAsやGaAsAlなどの半導体レーザー、ローダミン色素のような色素レーザーなどが挙げられる。またこれらの光源をファイバーにより増幅させるファイバーレーザーも用いることが出来る。なかでも、半導体レーザーは近年の技術的進歩により、小型化し、経済的にも他のレーザー光源よりも有利であるため好ましい。また、Nd−YAGレーザーも高出力であり、歯科用や医療用に多く利用されており、経済的にも安価であるため好ましい。
【0036】
(3)主露光工程とは、上記の方法でレーザー照射された感光性樹脂印刷原版に、紫外光、好ましくはUVAを、レーザーにより画像が形成された画像マスク(C´)を通して全面に露光し、画像マスク(C´)におけるレーザー融除部の下部の感光性樹脂層(B)を選択的に光硬化する工程である。
【0037】
露光の際、感光性樹脂印刷版材のサイド面からも紫外光が入り込むので、紫外光が透過しないカバーでサイド面を覆うようにしておくのが良い。UVAを露光できる光源として、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯、ケミカル灯などが使用できる。紫外光で露光された部分の感光性樹脂層(A)は、光硬化によって、現像液により溶出分散できない物質に変化する。
【0038】
(4)現像工程は、例えば感光性樹脂層(B)を溶解分散可能な水を主成分とする現像液を持つブラシ式洗い出し機やスプレー式洗い出し機を用いて現像することで達成される。この工程を経て、紫外光で露光された部分が残存し、凹凸状のレリーフ像を有する印刷原版が得られる。
【0039】
水を主成分とする現像液には、水道水、蒸留水、水のいずれかを主成分とし、炭素数1〜6のアルコールを含有しても良い。ここで、主成分とは、70重量%以上であることを言う。また、これらの液に感光性樹脂層(B)、支持体(A)の接着層成分、赤外線感受性層(C)の成分が混入したものも使用できる。
【0040】
現像液の温度は20℃から70℃が好ましい。20℃以上であれば、現像液の温度管理が容易であるし、70℃以下であれば、現像液による作業者の火傷を防止することができる。
【0041】
(5)後露光工程とは、工程(1)、(3)によって光硬化された感光性樹脂層(B)に対して紫外光を、好ましくはUVAを照射し、感光性樹脂層(B)を完全に光硬化させ、印刷に堪え得るレリーフ強度を確保する工程である。
【0042】
(6)デタック工程は、(4)あるいは(5)まで終了した刷版のレリーフ像側からUVCを全面に露光することにより、刷版の表面張力を高め、インキ着肉性を上げるために行われる。
【0043】
本発明の感光性樹脂組成物は、フレキソ印刷用に用いることが最も適しているが、樹脂凸版印刷用、平版印刷用、凹版印刷用、孔版印刷用、フォトレジストとして使用することも可能である。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を以て本発明について詳細に述べる。
【0045】
<各種評価方法>
(i)カバーフィルム(D)剥離力
印刷原版を幅5cm×長さ25cmのサイズに裁断し、テンシロン万能型引張試験機((株)東洋ボールドウィン製UTM−4−100)に支持体側を固定装着した。この印刷原版のカバーフィルム(D)を長さ方向に200mm/minの速度で剥離し、その剥離力を測定した。カバーフィルム剥離力は、各成分の物質移動の有無・程度を考慮し、印刷原版作製後23℃で10日放置したもので測定した。作業者としての取扱いの観点から、15〜80mN/cmを好適な剥離力であると定義した。15mN/cm以下では密着性不足により、印刷原版裁断などの際に、カバーフィルム(D)が赤外線感受性層から剥離し易い。また、80mN/cm以上では、サイズの大きいフレキソ版を作製する際にカバーフィルム(D)を手際よく剥離するのが困難となる。
【0046】
(ii)PETフィルム粘着力(赤外線感受性層と感光性樹脂層の相溶性の定量評価)
特許文献1中の記載にあるように、赤外線感受性層(C)と感光性樹脂層(B)とが実質的に相溶性であるということは、感光性樹脂層(B)中の低分子量成分が赤外線感受性層(C)に物質移動するため、赤外線感受性層(C)表面にタック感が発生することを意味する。本発明ではこのタックを定量化し、両層の相溶性の判定指標とした(特許文献1中の判定方法は、拇指によるタック感の有無による判定)。測定方法を以下に記述する。
【0047】
印刷原版をプレス作製し特許文献1中の記載にあるように、室温で16時間放置した後、印刷原版から、まずカバーフィルム(D)を剥離し、赤外線感受性層(C)を最表層とした。次に、表面に処理を施していないプレーンタイプの厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを赤外線感受性層(C)に改めてラミネートし、更に1時間放置した。この積層体を幅5cm×長さ25cmにカットした後、支持体側をテンシロン万能型引張試験機((株)東洋ボールドウィン製UTM−4−100)に固定装着し、上述のポリエチレンテレフタレートフィルムを長さ方向に200mm/minの速度で剥離し、その際の剥離力を測定した。
【0048】
特許文献1の実施例に倣い、バインダーポリマーをポリアミド樹脂とした場合の剥離力を、赤外感受性層(C)と感光性樹脂層(B)が実質的に非相溶性である場合の剥離力とし、各サンプルをこれと比較して相溶性の判定指標とした。赤外線感受性層(C)のバインダーポリマーをポリアミド樹脂(東レ(株)製Wナイロン)としてこれとカーボンブラック(三菱化学(株)製MA100 粒子径24nm)とともにn−プロパノール/水(重量比1:1)の混合液に溶解して溶液を作製し、これを用いて後述の実施例1と印刷原版を作製した場合、印刷原版作製後16時間時点での赤外線感受性層(C)表面の拇指によるタック感は殆ど無く、その剥離力は、僅か2mN/cmであった。このレベルの剥離力を非相溶性である場合の剥離力の目安とした。
【0049】
また、この赤外感受性層(C)の溶液に模式的に感光性樹脂層(B)中の主低分子量成分であるメチルメタクリレートを混合して塗膜表面のタック性を付与する実験を行ったところ、拇指によってタックが僅かに感じら始めた際の剥離力は4mN/cmであり、これを、相溶性を有する場合の最低剥離力と定義した。
【0050】
なお、(i)に記載の純粋なカバーフィルム剥離力と区別するため、本剥離力をPETフィルム粘着力と称した。
【0051】
(iii)赤外線感受性層(C)とカバーフィルム(D)の密着性
印刷原版からカバーフィルムを剥離し、原版を屈曲させた際に、赤外線感受性層(C)と感光性樹脂層(B)とに剥離が生じる不具合の有無を以て、赤外感受性層(C)の密着性が不足していないかの確認とした。
【0052】
(iv)カバーフィルム(D)のシワ・熱収縮
カバーフィルムへの赤外感受性層(C)溶液を塗布した後の塗膜・カバーフィルム原反を確認し、シワ・熱収縮の良否を以下の基準で判定した(シワ・熱収縮1)。また、感光層(B)との貼り合わせの際も同様に判定した(シワ・熱収縮2)。
なし:シワ・熱収縮がみられなかった。
あり:シワ・熱収縮がみられ、支障が生じるレベルであった。
【0053】
(v)赤外線感受性層(C)のブロッキング評価
カバーフィルム(D)原反に赤外線感受性層(C)用溶液を塗布した際のブロッキング現象を確認するため、後述の各実施例、比較例に用いたカバーフィルム上に赤外線感受性層(C)を塗布形成したものを2枚同じ向きに重ね、10kgf/mの荷重を3分間かけた後、重ねた2枚を剥がし、カバーフィルムの裏面に赤外感受性層(C)が持っていかれて塗布面から剥がれていないかを確認した。
【0054】
(vi)赤外線感受性層(C)の描画性(描画工程(2))
赤外線感受性層(C)への描画性は、赤外線に発光領域を有するファイバーレーザーを備えた外面ドラム型プレートセッター“CDI SPARK 2530”(エスコ・グラフィックス(株)製)に、支持体側がドラムに接するように装着し、レーザー出力5.0W、ビーム本数8本、ドラム回転数350rpmの条件で、下記のテストパターンを描画し、融除されるべき部分の赤外線感受性層(C)の飛び残りの有無をルーペで確認した。
【0055】
(テストパターン)
解像度175LPI、2540DPIのテストパターン(ベタ部、1%〜99%網点、10μm幅、20μm幅および40μm幅の凸細線、100μm幅、300μm幅および500μm幅の白抜き部分、φ100μm、・・・、φ300μmまでの独立点)
(vii)赤外線感受性層(C)の現像除去性(時間/独立点の消失具合)
上述の工程(1)(裏露光工程)工程(2)(描画工程)、工程(3)(主露光工程)、工程(4)(現像工程)の終了した版をバッチ式製版機“GPP500”(東レ(株)製)のブラシ式現像ユニットを用いて、画像マスク(C´)と感光性樹脂層(B)の紫外光未露光部分の現像を行った。現像液としては、高密度粉石鹸(ニッサン石鹸(株)製)を0.2重量%含有する50℃の水道水を用い、現像時間は7分に設定した。現像ブラシとしては、ブラシ長16mmのPBT(ポリブチレンテレフタレート)を集積した現像ブラシを用いた。赤外線感受性層(C)の除去性評価方法としては、まずブラッシングを開始してからの赤外線感受性層(C)が除去されるまで時間を計測した。次にレリーフ深度が約0.55mmになるまで現像を実施し、その際のレリーフ像、特に独立点の消失具合を観察し、以下の基準で評価した。
問題なし:まったく消失していなかった。
低い:わずかに消失がみられた。
高い:消失がみられ、支障が生じるレベルであった。
【0056】
(viii)再現独立点(φμm)
上記(vii)の測定において、独立点がどのサイズまで再現しているか目視にて確認し、再現独立点(φμm)とした。
【0057】
(ix)レリーフ深度(mm)
製版された刷版の主露光が施された画像部の厚さと主露光が施されていない非画像部の厚さの差をマイクロメータで計測した。
【0058】
〔支持体(A)の作製〕
“バイロン31SS”(不飽和ポリエステル樹脂のトルエン溶液、東洋紡績(株)製)260重量部および“PS−8A”(ベンゾインエチルエーテル、和光純薬工業(株)製)2重量部の混合物を70℃で2時間加熱後30℃に冷却し、エチレングリコールグリシジルエーテルジメタクリレート7重量部を加えて2時間混合した。更に、“コロネート3015E”(多価イソシアネート樹脂の酢酸エチル溶液、日本ポリウレタン工業(株)製)25重量部および“EC−1368”(工業用接着剤、住友スリーエム(株)製)14重量部を添加し、接着剤組成物を得た。この接着性組成物を厚さ125μmの“ルミラーS10”(ポリエステルフィルム、東レ(株)製)上に、乾燥後厚が40μmとなるようにバーコーターで塗布し、180℃のオーブンに3分間入れて溶媒を除去し、接着剤塗布基板1を得た。
【0059】
〔親水性共重合体(b1)の合成〕
(合成例1)
原料として水100重量部、ドデシルベンゼンスルホン産ナトリウム0.2重量部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル3重量部、過硫酸カリ0.3重量部、t−ドデシルメルカプタン0.2重量部、メチルメタクリレート24重量部、アクリル酸1重量部、ブタジエン75重量部を50℃で20時間反応させ、数平均粒子径180nm、固形分濃度50.5%、トルエンでのゲル分率98%の水分散ラテックスゴムを得た。
【0060】
(合成例2)
原料として、水65重量部、不均化ロジン酸カリウム1.3重量部、オレイン酸カリウム1.7重量部、アルキルスルホン酸ナトリウム1.5重量部、t−ドデシルメルカプタン0.05重量部、パラメンタンヒドロペルオキシド0.1重量部、硫酸鉄0.003重量部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.006重量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.005重量部、硫酸カリウム1.3重量部、ブタジエン100重量部を使用し、重合温度5℃の低温重合により反応させた。重合転換率は約60%であった。数平均粒子径350nm、トルエンでのゲル分率90%、固形分濃度55%の水分散ラテックスゴムを得た。
【0061】
〔感光性樹脂層(B)用組成物の作製〕
(製造例1)
まず、合成例1に記載の親水性共重合体を33.6重量部(固形分で17重量部)と合成例2に記載の親水性共重合体14.5重量部(固形分で8重量部)、エチレン性不飽和化合物であるフェノキシポリエチレングリコールアクリレート17重量部とグリセリンポリエーテルポリオールと無水コハク酸と2−ヒドロキシエチルアクリレートの重縮合物16重量部を予め混合して、120℃に加熱した乾燥機で2時間水分を蒸発させて得られたものを(b1−1)成分とした。一方、(b2)成分として、ポリブタジエンゴム(日本ゼオン(株)製Nipol1220L)12重量部と部分架橋ニトリルゴム(日本ゼオン(株)製NipolDN214)36重量部とカルボキシル化ニトリルゴム(日本ゼオン(株)製Nipol1072)4重量部を140℃に加熱した200mlの容量を持つラボニーダーミル((株)トーシン社製)で10分間混練した。この後、(b1−1)成分をラボニーダーミル中に投入し、更に10分間混練した。その後、光重合開始剤としてベンジルメチルケタールを1重量部、可塑剤としてジオクチルフタレート2重量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1重量部を投入して、更に10分間混練し、感光性樹脂層(B)用組成物1を得た。
【0062】
(製造例2)
まず、合成例1に記載の親水性共重合体54.5重量部(固形分で27.5重量部、エチレン性不飽和化合物としてポリブタジエンアクリレート(大阪有機化学工業(株)BAC−45)20重量部、ノナンジオールジメタクリレート6重量部、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート(日本油脂(株)製ブレンマーPAE−100)5重量部を予め混合して、120℃に加熱した乾燥機で2時間水分を蒸発させて得られたものを(b1−2)成分とした。一方、(b2)成分として、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(JSR(株)製5229N)15重量部、1,2−ポリブタジエン(JSR(株)製RB−810)22.5重量部を150℃に加熱した製造例1と同様のラボニーダーミルで10分間混練した。この後、(b1−2)成分をラボニーダーミル中に投入し、更に10分間混練した。光重合開始剤としてベンジルメチルケタールを1重量部、可塑剤としてジオクチルフタレート2重量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1重量部を投入して、更に10分間混練し、感光性樹脂層(B)用組成物2を得た。
【0063】
〔赤外線感受性層(C)用溶液の調製〕
(調製例1)
バインダーポリマーにアクリル樹脂(共栄社化学(株)製フローレンALX920M)50重量部、カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA100 粒子径24nm)50重量部をニーダーで混練し、メチルイソブチルケトン(沸点116℃)に溶解・分散させて、固形分濃度19.2重量%の均一な溶液1を調製した。
【0064】
(調製例2)
バインダーポリマーにニトリルゴム(日本ゼオン(株)製1042)60重量部、カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA100 粒子径24nm)40重量部をニーダーで混練し、メチルイソブチルケトンに溶解・分散させて、固形分濃度15重量%の均一な溶液2を作製した。
【0065】
(調製例3)
バインダーポリマーとしてスチレンーブタジエン−スチレンブロック共重合体(JSR(株)製TR2001)63重量部を、カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA100 粒子径24nm)37重量部とニーダーで混練し、メチルイソブチルケトンに溶解・分散させて、固形分濃度重量19%の均一な溶液3を作製した。
【0066】
(調製例4)
バインダーポリマーとしてスチレンーイソプレン−スチレンブロック共重合体(JSR(株)製TR5200)63重量部を、カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA100 粒子径24nm)37重量部とニーダーで混練し、メチルイソブチルケトンに溶解・分散させて、固形分濃度重量19%の均一な溶液4を作製した。
【0067】
(調製例5)
バインダーポリマーとしてポリビニルアルコール(日本合成化学(株)C−500 ケン化度95%)50重量部を、カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA100 粒子径24nm)と500mLフラスコに入れ、水/n−プロパノール(=50重量部/50重量部)からなる溶液を投入し、80℃で温調しながら攪拌混合し、固形分濃度重量20%の均一な溶液5を作製した。
【0068】
(調製例6)
バインダーポリマーとしてエポキシ樹脂(旭チバ(株)製アラルダイト6071)30重量部、メラミン樹脂(三井化学(株)製ユーバン2061)20重量部、硬化触媒としてリン酸エステルモノマー(共栄社化学(株)製ライトエステルP−1)0.5重量部を、カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA100 粒子径24nm)20重量部とニーダーで混練し、メチルイソブチルケトンに溶解・分散させて、固形分濃度重量20%の均一な溶液6を作製した。
【0069】
(調製例7)
調製例1に記載の溶液1および調製例2に記載の溶液2を各50重量部ずつ混合し、均一な溶液7を作製した。
【0070】
(調製例8)
調製例1に記載の溶液1を65重量部、調製例2に記載の溶液2を35重量部混合し、均一な溶液8を作製した。
【0071】
(調製例9)
調製例1に記載の溶液1を35重量部、調製例2に記載の溶液2を65重量部混合し、均一な溶液9を作製した。
【0072】
(調製例10)
調製例1に記載の溶液1を60重量部、調整例3に記載の溶液3を40重量部混合し、均一な溶液10を作製した。
【0073】
(調製例11)
調製例1に記載の溶液1を60重量部、調整例4に記載の溶液4を40重量部混合し、均一な溶液11を作製した。
【0074】
(調製例12)
調製例1に記載の溶液1および調製例6に記載の溶液6を各50重量部ずつ混合し、均一な溶液12を作製した。
【0075】
(実施例1)
調製例7に記載の溶液をアルキル樹脂系化合物で離型処理を施した厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(パナック(株)製TP−05)に、バーコーターを用いて塗布し、120℃オーブンに45秒入れ溶媒除去し、赤外線感受性層付きカバーフィルムを作製した。オルソクロマチックフィルター(透過モード)で測定した乾燥後塗膜の光学濃度は2.9であり、PETフィルムに対する塗膜のブロッキングの発生も無かった。
【0076】
次に100℃に保持したプレス機を使用して、製造例1に記載の感光性樹脂層(B)用組成物1を接着剤塗布基板1と上記赤外線感受性層付きカバーフィルムで挟み込んだ。なお接着剤塗布基板1は接着剤塗布側、赤外線感受性層付きカバーフィルムは赤外線感受性層側で挟み込んだ。この際、接着剤塗布基板1と感光性樹脂層(B)の厚さの和が1.14mmに成型可能な金型を用い、2分間加圧保持することにより、感光性印刷原版を作製した。次にカバーフィルム(D)を剥離し、高輝度ケミカル灯“TLK−40W 10R”(Phillips社製)を具備した上述のバッチ式製版機“GPP500”(東レ(株)製)を用い、印刷原版の支持体(A)側から、UVAの積算光量約350mJ/cm相当の全面露光を行った(裏露光)。次に上述のバッチ式製版機“GPP500”を用い、描画工程(3)を経た描画版をマスク画像(C´)側からUVA積算光量10000mJ/cm相当の主露光を施し、(vii)に記載の方法で7分間現像した。その後、GPP500を用いて10分間後露光を実施した後、日本電子精機(株)製露光機“JemFlex JES−A2SGL”を用いて10分間デタック処理を施し、画像マスク(C´)に対してネガの潜像を形成した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
赤外線感受性層(C)に調製例8の溶液8を用いた以外は実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例3)
赤外線感受性層(C)に調製例9に記載の溶液9を用いた以外は実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例4)
赤外線感受性層(C)に調製例10に記載の溶液10を、感光性樹脂層(B)に製造例2の感光性樹脂層(B)用組成物2を用いた以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例5)
赤外線感受性層(C)に調製例11に記載の溶液11を感光性樹脂層(B)に製造例2の感光性樹脂層(B)用組成物2を用いた以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0081】
(比較例1)
赤外線感受性層(C)に調製例2に記載の溶液2を用いた以外は実施例1と同様としたが、赤外感受性層(C)の除去に180秒かかり、現像時間7分の時点でレリーフ深度が浅かったため、約0.55mmの深さにすべく、現像時間を更に150秒延長し、合計9分30秒現像した。結果を表2に示す。
【0082】
(比較例2)
赤外線感受性層(C)に調製例3に記載の溶液3を、感光性樹脂層(B)に製造例2の感光性樹脂層(B)用組成物2を用いた以外は、実施例1と同様としたが、赤外感受性層(C)の除去に160秒かかり、現像時間7分の時点でレリーフ深度が浅かったため、約0.55mmの深さにすべく、現像時間を更に120秒延長し、合計9分現像した。結果を表2に示す。
【0083】
(比較例3)
赤外線感受性層(C)に調製例4に記載の溶液4を、感光性樹脂層(B)に製造例2の感光性樹脂層(B)用組成物2を用いた以外は、実施例1と同様としたが、赤外感受性層(C)の除去に180秒かかり、現像時間7分の時点でレリーフ深度が浅かったため、約0.55mmの深さにすべく、現像時間を更に150秒延長し、合計9分30秒現像した。結果を表2に示す。
【0084】
(比較例4)
赤外線感受性層(C)に調製例5に記載の溶液5を用いた以外は実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
【0085】
(比較例5)
赤外線感受性層(C)に調製例1の溶液1を用いた以外は実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
【0086】
(比較例6)
赤外線感受性層(C)に調製例12に記載の溶液12を用いた以外は実施例1と同様としたが、赤外感受性層(C)の除去に130秒かかり、現像時間7分の時点でレリーフ深度が浅かったため、約0.55mmの深さにすべく、現像時間を更に120秒延長し、合計9分現像した。結果を表2に示す。
【0087】
表1、2より実施例1〜5はいずれも優れた性質を示すのに対し、比較例1〜6は赤外線感受性層(C)の現像除去性等が劣るため、不十分な性質を示すことがわかる。
【0088】
なお表1、2中に記載の略語記号は以下のとおりである。
NBR : ニトリルゴム
BR : ブタジエンゴム
PB : 1,2−ポリブタジエン
SBS : スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体
SIS : スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体
PVA : ポリビニルアルコール
アクリル: アクリル樹脂
メラミン: メラミン樹脂
エポキシ: エポキシ樹脂
MIBK: メチルイソブチルケトン
MEK : メチルエチルケトン
PET : ポリエチレンテレフタレート
OPP : 2軸延伸ポリプロピレン
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0091】
ネガフィルムを用いることなく、デジタル情報となった画像を赤外線レーザーを用いて直接描画する製版プロセスにおいて、赤外線感受性層のバインダーポリマーを複数用いることによって、版の描画効率や現像時の除去性が向上し、高い生産性や刷版性能が得られるとともに、感光性樹脂層との密着力やカバーフィルム剥離力が好適に調整され、製版作業者の版取扱いも容易となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも支持体(A)、感光性樹脂層(B)、赤外線により加工可能な赤外線感受性層(C)がこの順に積層されてなる水系現像感光性樹脂印刷原版であって、感光性樹脂層(B)が、親水性重合体(b1(i))と熱可塑性エラストマー(b1(ii))を各1種類以上含むバインダーポリマー(b1)、エチレン性不飽和化合物(b2)、および光重合開始剤(b3)を含有しており、赤外線感受性層(C)が、感光性樹脂層(B)の現像液に不溶又は可膨潤である2種類以上のバインダーポリマー(c1)、感光性樹脂層(B)に含まれるバインダーポリマーのうち少なくとも1種類および/または感光性樹脂層(B)に含まれる低分子量成分のうち少なくとも1種類と相溶性を有するバインダーポリマー(c2)、1種類以上の赤外線吸収物質(c3)ならびに非赤外線遮蔽物質(c4)を含有しており、感光性樹脂層(B)に接して赤外線感受性層(C)が配置されていることを特徴とする水系現像感光性樹脂印刷原版
【請求項2】
前記(b1(i))が、カルボン酸基、アミン若しくはアミノ基、水酸基、リン酸基、スルフォン酸基、およびそれらの塩からなる親水性基から選ばれた1種類以上の基を有することを特徴とする請求項1に記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
【請求項3】
前記(b1(i))が水分散性ラテックスであることを特徴とする請求項1または2に記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
【請求項4】
前記(c1)および(c2)が同一であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
【請求項5】
前記(c1)および(c2)が、熱や紫外線によって架橋されないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
【請求項6】
前記(c3)および(c4)がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
【請求項7】
前記赤外線感受性層(C)の上に、隣接して剥離可能なカバーフィルム(D)が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
【請求項8】
前記カバーフィルム(D)が、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらの積層体からなるフィルムであることを特徴とする請求項7に記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。
【請求項9】
前記カバーフィルム(D)の表面に、アルキル系化合物および/またはシリコン化合物を塗布したことを特徴とする請求項7または8に記載の水系現像感光性樹脂印刷原版。

【公開番号】特開2010−237583(P2010−237583A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87598(P2009−87598)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】