説明

水素吸蔵合金、それを用いたニッケル水素二次電池用負極、およびニッケル水素二次電池

【課題】 高容量、長寿命が実現できる水素吸蔵合金を提供する。また、本合金からなる負極、正極およびアルカリ電解液を具備したニッケル水素二次電池は高容量、長寿命を為し得る。
【解決手段】 一般式1:(R1−a)TSnαで表される金属間化合物を主相とすることを特徴とする水素吸蔵合金。R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種、D:Zr、Hf、Tiから選ばれる少なくとも1種、T:Fe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種、M:V、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種、X:Al、Ga、Zn、Sn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種、0≦a≦0.3、0.2≦x≦1.1、5≦y≦2.8、0≦z≦0.5、0≦α≦0.5、1.5≦y+z+α≦2.8(原子比)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量ニッケル水素二次電池を実現する水素吸蔵合金、およびそれを用いた負極、およびその負極を用いた高容量ニッケル水素二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、安全にかつ容易にエネルギー源としての水素を貯蔵できる合金であり、新しいエネルギー変換および貯蔵用として非常に注目されている。機能性材料としての水素吸蔵合金の応用分野は、水素の貯蔵・輸送、熱の貯蔵・輸送、熱−機械エネルギーの変換、水素の分離・精製、水素同位体の分離、水素を活物質とした電池、合成化学における触媒、など広範囲にわたって提案されている。
特に、水素を可逆的に吸蔵・放出することが可能な水素吸蔵合金を二次電池の負極材料として使用することが盛んに行われている。このニッケル水素二次電池は、様々な種類の小型化で、軽量なポータブル電子機器の電源として使用されている。ポータブル機器は高性能化、高機能化および小型化が進められており、このようなポータブル機器における長時間駆動を可能にするためには、二次電池の体積あたりの放電容量を大きくする必要がある。また、最近では体積あたりの放電容量を高くするのと併せて、軽量化すなわち重量あたりの放電容量を大きくすることが望まれている。
LaNi系希土類水素吸蔵合金は、常温常圧付近で水素と反応し、また化学的安定性が比較的高いため、現在、電池用水素吸蔵合金としての研究が広く進められ、市販されている二次電池用負極として使用されている。
しかしながら、LaNi型の希土類水素吸蔵合金を含む負極を備えた市販の2次電池の放電容量は理論容量の80%以上に達しており、これ以上の高容量化には限界がある。
ところで希土類−Ni系金属間化合物には前述したLaNi系合金以外にも多数存在している。例えば、Mat.Res.Bull.11 p.1241(1976)(非特許文献1)には希土類元素をLaNi合金よりも多く含む金属間化合物が、LaNi型の希土類系金属間化合物に比べて常温付近で多量の水素を吸蔵することが開示されている。また、Laサイトを希土類とMgの混合物にした系については、以下に示す2つの文献に知られている。1つはJ.Less−common metals 73 339(1980)(非特許文献2)にLa1−xMgNiで表される水素吸蔵合金が報告されている。しかしながら、この水素吸蔵合金は水素との安定性が高すぎて、水素を放出し難いため、二次電池の放電時に水素を完全に放出させることが困難であるという問題点有する。一方、日本金属学会第120回春季大会講演概要p.289(1997)(非特許文献3)には組成がLaMgNiで表される水素吸蔵合金が報告されているが、この系も充放電時の水素の放出が吸蔵に比べて小さいという問題点がある。
【0003】
また、特開昭63−271348号公報(特許文献1)には、一般式、Mm1−xNiCoで表される水素吸蔵合金を含む水素吸蔵電極が開示されている。一方、特開昭62−271349号公報(特許文献2)には、La1−xNiCoで表される水素吸蔵合金を含む水素吸蔵電極が開示されている。
しかしながら、これら水素吸蔵電極を備えた二次電池は放電容量が低く、かつサイクル寿命が短いという問題がある。さらには、自動車用途に使用した場合、低温での放電特性も一層の改善が必要となる。
また、国際公開WO97/03213号公報(特許文献3)および米国特許公報5840166号(特許文献4)には、組成が下記一般式(i)であらわされ、特定の逆位相境界を有する水素吸蔵合金を含む水素吸蔵電極が開示されている。この水素吸蔵合金の結晶構造はCaCu型単相からなる。
(R1−x)(Ni1−y (i)
この(i)式において、RはLa、Ce、Pr、Ndまたはこれらの混合元素を示す。LはGd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Sc、Mg、Caまたはこれらの混合元素を示す。一方、MはCo、Al、Mn、Fe、Cu、Zr、Ti、Mo、Si、V、Cr、Nb、Hf、Ta、W、B、Cまたはこれらの混合元素を示す。また、原子比x、yおよびzは0.05≦x≦0.4、0≦y≦0.5、3.0≦z<4.5である。
この水素吸蔵合金は前記一般式(i)で表される組成を有する合金の溶湯を表面に平均最大高さが30〜150μmの凹凸を有するロール上に、過冷度50〜500℃、冷却速度1000〜10000℃/秒の冷却条件で、0.1〜2mm厚さに均一に凝固させた後、熱処理を施すことにより製造される。また、この条件を外れると得られた合金は、CaCu型結晶構造の結晶粒とCeNi型結晶構造からなり、LaNi型単相が得られないことが報告されている。
しかしながら、組成が前述した(i)式で表され、特定の逆位相境界を有し、かつ結晶構造がCaCu構造である水素吸蔵合金を含む負極を備えた二次電池は、特に自動車用に必要な低温での放電容量およびサイクル寿命が低い方という問題点がある。
さらに、特開平11−29832号公報(特許文献5)には、組成が下記(ii)に示す一般式で表され、かつ空間群がP63/mmcである六方晶構造を有する水素吸蔵材が開示されている。
【0004】
(R1−x(Ni7−Y−Z−α―βMnNbαβ (ii)
ただし、前記(ii)において、Rは希土類元素またはミッシュメタル(Mm)、AはMg、Ti、Zr、Th、Hf、SiおよびCaより選択された少なくとも1種、CはGa、Ge、In、Sn、Sb、Tl、PbおよびBiより選択された少なくとも1種を示す。
また、X、Y、Z、α、βおよびnは、0<X≦0.3、0.3≦Y≦1.5、0<Z≦0.3、0≦α≦1、0≦β≦1、0.9≦n≦1.1を示す。
この(ii)で表される組成を有する水素吸蔵合金においては、RとAの原子比の合計を1とした際のMnの原子比が、0.135以上、0.825以下である。
しかしながら、この水素吸蔵合金は水素吸蔵、放出反応の可能性に劣るため、水素吸蔵放出量が少ないという問題点がある。また、この水素吸蔵合金を含む負極を備えた電池は水素吸蔵放出反応の可逆性に劣り、その上作動電圧が低くなるため、放電容量が低くなる。
ところで、特開平10−1731号公報(特許文献6)の特許請求の範囲には、A19で表される組成を有する金属間化合物の相を含む水素吸蔵合金が開示されている。ただし、前記AはLa、Ce、Pr、Sm、Nd、Mm、Y、Gd、Ca、Mg、Ti、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、前記TはB、Bi、Al、Si、Cr、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、SnおよびSbからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素である。
この公開公報には、A19の組成を有する金属間化合物の相を含む水素吸蔵合金の作製方法として、以下に説明する方法が開示されている。まず、ATの組成を有する金属間化合物の相を含む合金と、ATの組成を有する金属間化合物の相を有する金属間化合物の相を含む合金を混合してメカニカルアロイングすることにより、ATとATのほかに、A19の組成を有する金属間化合物の相を形成する。ついで、得られた合金と、ATの組成を有する金属間化合物の相を含む合金とを混合する、もしくはメカニカルアロイングすることにより、A19相とAT相とを含む水素吸蔵合金を得る。この水素吸蔵合金では、前記公開公報の図1に示すように、結晶粒全体がA19で表される組成を有する領域から構成されている。
さらに、国際公開WO01/048841号公報(特許文献7)には下記の(iii)で表される水素吸蔵合金が示されている。
1−a−bMgNi1z−x−y−αM1M2Mnα (iii)
ただし、Rは希土類元素(前記希土類元素にはYが含まれる)から選ばれる少なくとも1種の元素、TはCa、Ti、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも1種の元素、M1はFe、Coから選ばれる少なくとも1種の元素、M2はAl、Ga、Zn、Sn、Cu、Si、B、Nb、W、Mo、V、Cr、Ta、Li、PおよびSから選ばれる少なくとも1種の元素であり、原子比a、b、x、y、αおよびZは0.15≦a≦0.37、0≦b≦0.3、0≦x≦1.3、0≦y≦0.5、0≦α≦0.135、2.5≦z≦4.2をそれぞれ示す。
【0005】
しかしながら、本発明の中でハイブリッド自動車用としてさらに最適な水素吸蔵合金を開発する必要があった。
また、特開平11−323469号公報(特許文献8)には下記(iV)で表される水素吸蔵合金が開示されている。すなわち、
(Mg1−a−bR1M1)Ni (iV)
ただし、R1はYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、M1はMgよりも電気陰性度のおおきな元素(ただし、前記R1の元素、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、ZnおよびNiを除く)から選ばれる少なくとも1種の元素、a、b、およびzはそれぞれ0.1≦a≦0.8、0<b≦0.9、1−a−b>0、3≦z≦3.8として規定される。
しかしながら、この水素吸蔵合金においても、ハイブリッド自動車用の水素吸蔵合金としての最適化がなされておらず、本用途への水素吸蔵合金の最適化が必要であった。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−271348号公報
【特許文献2】特開昭62−271349号公報
【特許文献3】国際公開WO97/03213号公報
【特許文献4】米国特許公報5840166号
【特許文献5】特開平11−29832号公報
【特許文献6】特開平10−1731号公報
【特許文献7】国際公開WO01/048841号公報
【特許文献8】特開平11−323469号公報
【非特許文献1】Mat.Res.Bull.11 p.1241(1976)
【非特許文献2】J.Less−common metals 73 339(1980)
【非特許文献3】日本金属学会第120回春季大会講演概要p.289(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、LaNi型の組成に比べてLaサイトが多量に含まれているタイプに属する組成を有する水素吸蔵合金における水素との安定性が高すぎて水素を放出し難いという問題点およびアルカリ電解液により腐食酸化を受けやすいという問題点が改善され、水素吸蔵、放出量が高い水素吸蔵合金を提供するものであり、特にハイブリッド自動車に適したレート特性、低温特性に優れた高容量、長寿命水素吸蔵合金を提供するものである。
また、本発明は、高容量でかつサイクル寿命と、−30℃付近までの低温における放電容量の双方が向上された水素吸蔵合金、これを用いた負極、およびニッケル水素二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる第一の発明の水素吸蔵合金は、一般式1
(R1−a)TSnα
R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種
D:Zr、Hf、Tiから選ばれる少なくとも1種
T:Fe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種
M:V、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種
X:Al、Ga、Zn、Sn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種
0≦a≦0.3
0.2≦x≦1.1
1. 5≦y≦2.8
0≦z≦0.5
0≦α≦0.5
1.5≦y+z+α≦2.8 (原子比)
で表される金属間化合物を主相とするものである。
また、本発明の第二の水素吸蔵合金は、一般式2
(R1−b)TSnα
R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種
A:Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種
T:Fe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種
M:V、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種
X:Al、Ga、Zn、Sn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種
0<b≦0.5
0.2≦x≦1.1
1. 5≦y≦2.8
0≦z≦0.5
0≦α≦0.5
1.5≦y+z≦2.8 (原子比)
で表される金属間化合物を主相とすることを特徴とする水素吸蔵合金である。また、本発明の第三の水素吸蔵合金は、一般式3
(R1−a)TSnα
R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種
A:Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種
D:Zr、Hf、Tiから選ばれる少なくとも1種
T:Fe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種
M:V、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種
X:Al、Ga、Zn、Sn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種
0<a≦0.3
0<b≦0.5
0.2≦x≦1.1
1. 5≦y≦2.8
0≦z≦0.5
0≦α≦0.5
1.5≦y+z≦2.8 (原子比)
で表される金属間化合物を主相とすることを特徴とする水素吸蔵合金である。
本発明の水素吸蔵合金は、X線回折の主回折線が面間隔で2.7〜2.95Å(オングストローム)であることが好ましい。
これらの水素吸蔵合金は主相をR、T、Snが必須とし、斜方晶構造からなることを特徴とするものである。特に、空間群で表すとCmmmあるいはCmcmであることが望ましい。
また、本発明の主相の結晶構造はRSn型、あるいはRSi型からなる金属間化合物であることが好ましい。これらの2相を主体とする構成でもよい。さらに、本発明の水素吸蔵合金は平均結晶粒径が10nm〜10μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水素吸蔵合金を負極に用いると、高容量、長寿命が実現でき、さらに本合金からなる負極、正極およびアルカリ電解液を具備したニッケル水素二次電池は高容量、長寿命で、かつ低温特性、高率放電にも優れた特性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にかかる水素吸蔵合金、これを用いた負極、およびニッケル水素二次電池について説明する。
第一の発明の水素吸蔵合金は、一般式1
(R1−a)TSnα
R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種
D:Zr、Hf、Tiから選ばれる少なくとも1種
T:Fe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種
M:V、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種
X:Al、Ga、Zn、Sn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種
0≦a≦0.3
0.2≦x≦1.1
1. 5≦y≦2.8
0≦z≦0.5
0≦α≦0.5
1.5≦y+z+α≦2.8 (原子比)
で表される金属間化合物を主相とする。
【0011】
ここで、Rは希土類元素から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Yである。Rは水素吸蔵能力を決める元素である。
DはTi、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種であり、本発明の最も好ましい結晶構造である、斜方晶構造の安定化に有効な元素であると同時に、充放電サイクル寿命特性の向上に有効な元素である。その量aは0.3以下であり、0.3を超えると容量が低下してしまう。好ましくは0.25以下である。また、好ましい元素はTi、Zrである。
TはFe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種である。Tは水素吸蔵合金における水素の放出、電解液中での化学反応の活性化に有効な元素であり、その量xはRに対する原子比で0.2≦x≦1.1である。0.2未満の場合、吸蔵した水素の放出が困難であり、一方、1を超えると容量が低下する。好ましくは、0.25≦x≦1.05、さらに好ましくは0.3≦x≦1である。いずれの元素も好ましいが、主たる元素としてはNi、Cu、Feが好ましく、特にNiが好ましい。
SnもTと同様に水素吸蔵合金における水素の放出、電解液中での化学反応の活性化に有効な元素であり。その量yは1.5≦y≦2.8である。yは、Rに対する原子比で1.5未満の場合、吸蔵した水素の放出が困難となり、一方、2.8を超えると容量が低下してしまう。好ましくは、1.6≦y≦2.7である。
【0012】
MはV、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種であり、これもサイクル寿命の向上に有効な元素である。その量zは0.5以下であり、この量を超えると容量低下する。好ましくは0.3以下である。好ましい元素は、Nb、Moである。
XはAl、Ga、Zn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種であり、サイクル寿命特性の向上に有効な元素である。その量は0.5以下であり、その量を超えると容量が低下する。好ましくは0.3以下である。また、好ましい元素はAl、Siである。なお、y+z+αの総量は1.5≦y+z+α≦2.8の範囲であり、好ましくは1.6≦y+z+α≦2.7である。
また、本発明の第二の水素吸蔵合金は、一般式2
(R1−b)TSnα
R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種
A:Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種
T:Fe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種
M:V、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種
X:Al、Ga、Zn、Sn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種
0<b≦0.5
0.2≦x≦1.1
1. 5≦y≦2.8
0≦z≦0.5
0≦α≦0.5
1.5≦y+z≦2.8 (原子比)
で表される金属間化合物を主相とすることを特徴とする水素吸蔵合金である。AはMg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種であり、Rと同様に水素吸蔵能をもたらす。A元素もR元素のサイトを置き換えることができ、好ましい結晶構造が得られる。特に、密度が低下してしまうため、単位重量あたりの水素吸蔵量が増え、結果として高容量化が実現できる。その量bは0≦z≦0.5である。bが0.5を超えると好ましい結晶構造の維持が困難であり、容量、寿命とも低下してしまう。好ましい範囲は0.05≦b≦0.4である。好ましい元素は、MgとCaである。なお、a+bの好ましい範囲は、0<a+b≦0.5であり、さらに好ましくは0.05≦a+b≦0.4である。
その他の元素の範囲とその理由は、第一の発明の水素吸蔵合金と同様である。
【0013】
本発明の第三の水素吸蔵合金は、一般式3
(R1−a)TSnα
R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種
A:Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種
D:Zr、Hf、Tiから選ばれる少なくとも1種
T:Fe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種
M:V、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種
X:Al、Ga、Zn、Sn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種
0<a≦0.3
0<b≦0.5
0.2≦x≦1.1
1.5≦y≦2.8
0≦z≦0.5
0≦α≦0.5
1.5≦y+z≦2.8 (原子比)
で表される。
本発明の合金元素の範囲と種類は第一、第二の同じであるが、特にAとDの合計量a+bの好ましい範囲は、0<a+b≦0.5であり、さらに好ましくは0.05≦a+b≦0.4である。
本発明にかかる水素吸蔵合金にはN、O、Fなどの元素が不純物として本願発明合金の特性を阻害しない範囲で含まれていてもよい。なお、これらの不純物は各々1wt%以下の範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明の水素吸蔵合金は、面間隔dで2.7〜2.95Åの間に主回折ピーク(最も回折強度の大きな回折線)が存在することが望ましい。2番目に回折強度の高いピークについては組成に応じて、面間隔で2.45〜2.55Åの間か、あるいは主回折ピークの高角度側の2.7〜2.95Åに存在することが望ましい。また、低角側にピークがあらわれ、具体的には2θで約10°と約20°それぞれにピークが検出されることが望ましく、このピークがあらわれる場合は容量面で好ましい。面間隔dが上記範囲に入るときに、好ましい結晶構造である斜方晶が生成され、その空間群としてはCmmm、Cmcmが好ましい。
具体的な組成として、LaMn0.33Sn、LaFe0.33Sn、LaCo0.5Sn、LaNi0.67Sn、LaNi0.67Sn2.2、CeFe0.33Sn、CeNiSn、CeCu0.6Sn1.8、PrMn0.33Sn、PrCo0.5Sn、PrNiSn、PrCuSn、NdCo0.33Sn、NdNi0.5Sn、NdCu0.6Sn1.8、(Ca0.7La0.3)Ni0.57Sn1.86が挙げられる。ここで、M元素を省いている場合が多いが、Rに対する置換は可能である。
本発明の結晶相の平均結晶粒径は100nm以上、10μm(10000nm)以下の範囲であることが望ましい。これは以下に説明する理由によるものである。平均結晶粒径を100nm未満にすると、放電容量の立ち上がりが大幅に遅れる恐れがある。また、結晶粒が細かい場合、材料の機械的強度が増すため、充放電による格子膨張、収縮に伴う微粉化劣化が抑制され、寿命向上に結びつくと考えられる。一方、結晶粒径の大きい方は、負極作製のために必要な合金粉末の大きさに粉砕したときの平均粉末粒径、すなわち10μm程度でもよい。
【0015】
本発明の水素吸蔵合金の製造方法としては、例えば、高周波溶解法、アーク溶解法、焼結法、超急冷法、ストリップキャスト法、アトマイズ法、めっき法、CVD法、スパッタ法、圧延法などが挙げられる。特に好ましくは、超急冷法、ストリップキャスト法、高周波溶解法、アトマイズ法、遠心噴霧法が挙げられる。
これらの方法はいずれも予め量りとった各素材を、 不活性雰囲気中において、るつぼ内で溶解し、その後の冷却過程をそれぞれ変えたものである。すなわち、超急冷法は高速回転する冷却体上に合金溶湯を射出し、板厚10〜100μmのフレーク状試料を得る。ストリップキャスト法では、冷却体への単位時間あたりの溶湯供給量を超急冷法に比べて増やして、板厚100〜500μmのフレーク状試料を得る。条件によっては超急冷法で100μmまでの板厚のものも得ることができる。また、ストリップキャスト法では、鋳造する際に回転する冷却板上に溶湯を流し込めばよく、溶湯供給量と冷却板の移動速度で材料板厚を制御し、その結果、冷却速度を制御できる。得られたこれらの試料は、熱処理により組織、組成の均質化が実現でき、特にこれは鋳造した試料で顕著であり、ストリップキャスト法、あるいは超急冷法で得た試料は熱処理を行わなくてもよい。また、特にストリップキャスト法で得られた試料では柱状晶組織が得られやすく、寿命の観点からこの組織は好ましい。
【0016】
本発明に係る負極材料は、球状粉であると良い。これにより、負極材料の比表面積を小さくすることができるため、負極材料の酸素含有量を少なくすることができ、高い初期効率を得ることができる。また、スラリーの塗工性を良好にすることができる。さらに粉砕工程を不要にして負極材料の製法を簡素化することも可能である。球状粉を得るには、アトマイズ法、遠心噴霧法などがある。
ガスアトマイズ法は所定の組成になるように調製した原料をるつぼに入れ、真空中あるいは不活性雰囲気中(例えば、Arガス、Heガス、窒素ガス)で高周波誘導加熱炉により溶解させ、給湯管を通して合金溶湯をアトマイズタンク内に滴下する。給湯管の近傍にガスアトマイズノズルが配置され、アトマイズ用ガスがノズルの孔またはスリットから、 滴下中の溶湯に向けて噴出される。溶湯は噴出ガスのエネルギーにより飛散、凝固し、粉末化される。このタンク内は不活性雰囲気になっており、生成したアトマイズ粉末の酸化が防止される。生成した粉末状の合金はアトマイズタンクの下部より粉末収納装置に導かれ、収納される。
ガスアトマイズにより得られる合金形状は球状のものから扁平状のものまで、条件を変えることによってできるが、本発明の場合は可能な限り球状であることが好ましい。ガスアトマイズ法で生成した粉末の粒径は、滴下中の溶湯に与える噴出ガスのエネルギーが大きくなるほど一般に小さくなる。噴出ガスのエネルギーは例えばガスの圧力や、ノズルの孔またはスリットの大きさや配置によって調節できる。また、噴出ガスのエネルギーが一定であれば、単位時間当りの溶湯の滴下量が少ないほど、粉末の径は小さくなる。溶湯の滴下量は、給湯管の内径や給湯管内の溶湯に加える圧力により調節できる。ガスアトマイズ法は急冷と粉砕を同時に行うことが特徴である。
一方、遠心噴霧法は高速回転するディスク上に所定の組成に調整し溶融した合金を不活性雰囲気(例えば、Arガス、Heガス、窒素ガス)中で滴下し、遠心力でディスクから微細分散させて飛散させ、表面張力によって球状粉を形成する方法である。この場合は、合金溶湯とディスクの濡れ性が良いと飛散し難くなるため、溶湯に対して比較的濡れ性が低いセラミックスや金属材料を用いると良い。また、不活性雰囲気は熱伝導の観点からHeガスが好ましいが、Arガスを用いることも可能である。球状粉の径は溶湯の滴下量、ディスクの回転数、溶湯温度などによって制御できる。
得られた球状粉の粒径は10〜200μmが好ましく、特に10〜60μmが負極材として好ましい。粒径が大きいものについてはさらに粉砕することができる。この粉砕は不活性雰囲気中で行うことが好ましい。また、電極作製時に塗布した後にプレスで球状粉を砕いても良い。
【0017】
ここで、球状粉とはその粉の短径に対する長径の比が5以下であるものが、球状粉の重量で50%以上あるものを言う。
アトマイズ粉は一般に熱処理なしに使用することができるが、急冷時に生じた内部歪を緩和する目的で、熱処理することも可能である。その場合は不活性雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理温度は固相線温度よりも50℃以上低い温度で行うことが好ましい。さらに好ましくは100℃以下である。
構成元素以外の不可避不純物は1000ppm以下含有していても良い。不可避不純物としては酸素、炭素などが挙げられる。また、粉砕後の酸素量は吸着分を含めて3000ppm以下が好ましい。
また、通常の鋳造法で得られた合金の場合、熱処理を行うと鋳造状態に比べて優れた電極特性が得られやすい。
本発明の水素吸蔵合金は、その特性をより発揮させるために、表面処理を行っても良い。
その方法は、酸処理、アルカリ処理などいずれの方法でもよく、粉末表面近傍のNi濃度を相対的に高くすることが好ましい。酸は塩酸、硝酸、シュウ酸を用いるのが好ましく、アルカリ処理の場合は電解液のKOH水溶液で良いが、NaOH水溶液を用いてもよい。この場合、水溶液の濃度は30〜80重量%の水酸化アルカリを含むことが好ましく、また処理温度は室温以上での処理がよく、処理時間を短くするには40℃以上、さらに好ましくは60℃以上沸点までが好ましい。
この場合、工程としては水素吸蔵合金粉末をアルカリ水溶液中に浸漬する工程であり、場合によっては表面処理された粉末を水洗する工程からなる。
表面処理に用いる水素吸蔵合金の平均粒径は、5〜50μmが好ましい。5μm未満では表面処理により水素吸蔵部が減少し、結果として水素吸蔵量が低下する。一方、50μmを超えると、表面処理により生じる比表面積が小さく、高率放電、温度特性の向上が不十分となる。
また、アンモニア添加による表面処理と同時、または時間を遅らせて金属塩を添加してもよい。使用可能な金属は特に限定されないが、Mg、Ca、Srなどのアルカリ土類金属、Ni、Co、Cuなどの遷移金属、Yを含む希土類金属があり、その塩には塩化物、硫酸塩、硝酸塩およびアンモニウム塩などがある。使用する金属塩の量は、最終的に水素吸蔵合金表面に酸化物がおよび/または水酸化物が生成する量と関連するため、他の条件などにも依存性も考慮して設定する。
【0018】
これらの金属塩を使用する前記水素吸蔵合金の表面処理は、例えばアンモニアが残存する水素吸蔵合金粉末を投入し、加熱撹拌して懸濁状態で反応を進行させる。さらにpHが酸性または中性である場合には、水酸化アルカリなどを添加して液性をアルカリ性にする。これらの操作における温度は特に限定されず、室温から100℃の任意の液温で行えばよく、望ましい液温は40〜80℃である。
これらの操作により、水素吸蔵合金粉末表面に金属酸化物や金属水酸化物が析出するため、水素吸蔵合金の寿命が延び、所望特性を有する水素吸蔵合金が提供できることになる。
本発明の水素吸蔵合金への表面処理は、公知の初期充放電での電極活性化、自己放電特性、高率放電特性およびサイクル寿命への効果以外に、自動車に用いられる電池に必要な温度特性も実現する。
次に、電池の製造方法について述べる。
1)負極
この負極は、例えば前述した水素吸蔵合金の粉末に導電材を添加し、高分子結着剤および水とともに混錬してペーストを調整し、前記ペーストを導電材基板に充填し、乾燥した後、成形することにより作製される。

前記水素吸蔵合金が担持される導電性基板としては、例えばパンチドメタル、エキスパンデッドメタル、ニッケルネットなどの二次元基板や、フェルト状金属多孔体、スポンジ状金属基板などの三次元基板をあげることができる。
前記負極には、さらに結着剤を含有させることができる。前記結着剤としては例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリテトラフルオロエチレンなどを挙げることができる。また、前記負極には導電材を含有させてもよい。前記導電材としては、例えばカーボンブラックなどを挙げることができる。また、ペースト中にY、Er、Yb、Smなどの希土類金属酸化物、Mn、LiMn、Nb、SnOなどの酸化物を添加してもよい。負極中に前記酸化物を含有することによって、高温でのサイクル寿命を改善することが可能になる。また、添加する酸化物の種類は1種類もしくは2種類以上にすることができる。酸化物の添加量は前記水素吸蔵合金に対して0.2〜5wt%の範囲にすることが好ましい。より好ましい範囲は0.4〜2wt%である。
【0019】
2)正極
この正極は、アルカリ電解液中で安定して充放電が可能であれば良く、例えば活物質である水酸化ニッケル粉末に導電材料を添加し、結着剤および水とともに混錬してペーストを調製し、前記ペーストを導電性基板に充填し、乾燥した後、成形することにより作製される。
前記水酸化ニッケル粉末は、亜鉛酸化物、コバルト酸化物、亜鉛水酸化物およびコバルト水酸化物の群から選択される少なくとも一つの化合物と、水酸化ニッケルとの混合物を保持していることが好ましい。このような水酸化ニッケル粉末を含む正極と、前記負極とを備えたニッケル水素二次電池は充放電容量および低温放電特性を著しく向上することができる。
前記導電材料としては、例えばコバルト酸化物、コバルト水酸化物、金属コバルト、金属ニッケル、炭素などを挙げることができる。
前記結着剤としては例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコールなどを挙げることができる。
前記導電性基板としては、例えばニッケル、ステンレスまたはニッケルメッキが施された金属から形成された網状、スポンジ状、繊維状、もしくはフェルト状の金属多孔体を挙げることができる。
3)セパレータ
このセパレータとしては例えばポリプロピレン不織布、ナイロン不織布、ポリプロピレン繊維とナイロン繊維を混織した不織布のような高分子不織布などを挙げることができる。特に、表面が親水化処理されたポリプロピレン不織布はセパレータとして好適である。
4)アルカリ電解液
このアルカリ電解液としてはたとえば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、NaOHとLiOH混合液、KOHとLiOH混合液、KOH、LiOHとNaOHの混合液などを用いることが出来る。
本発明にかかるニッケル水素二次電池は、たとえば以下に説明する方法で製造される。まず、正極および負極の間にセパレータを介在させて電極群を作製した後、この電極群を容器内に収納したのち、前記容器にアルカリ電解液を注入した後、封口処理を行う。ついで、室温以上の温度に保持した後に初充電を施すか、あるいは初充電を施した後に室温以上の温度に保持することにより、前記二次電池を製造することができる。また、前記負極の水素吸蔵合金粉末の平均粒径は15〜50μmの範囲にすることが好ましい。平均粒径が10μm未満では、サイクル寿命が短くなり、一方50μmを超えると低温特性が低下する傾向にある。また、導電性基板にペーストを均一に塗布できなくなる可能性があり、電池特性がばらついてしまう。
【0020】
本発明にかかるニッケル水素二次電池の一例である円筒形ニッケル水素二次電池を図1に示す。図1に示すように、水素吸蔵合金を含む負極11とニッケル酸化物を含む正極12との間に電気絶縁性を有するセパレータ13を介装して密閉容器14内に収容し、この密閉容器14内にアルカリ電解液を充填して構成される。
すなわち、水素吸蔵合金を含む水素吸蔵合金電極(負極)11は、非焼結式ニッケル電極(正極)12との間にセパレータ13を介在して渦巻状に捲回され、有底円筒状の容器14内に収納されている。アルカリ電解液は、前記容器14内に収容されている。中央に穴15を有する円形の封口板16は、前記容器14の上部開口部に配置されている。リング状の絶縁性ガスケット17は、前記封口板16の周縁と前記容器14の上部開口部内面との間に配置され、前記上部開口部を内側に縮径するカシメ加工により前記容器14に前記封口板16を前記ガスケット17を介して気密に固定している。正極リード18は、一端が前記正極12に接続され、他端が前記封口板16の下面に接続されている。帽子形状をなす正極端子19は、前記封口板16上に前記穴15を覆うように取り付けられている。ゴム製の安全弁20は、前記封口板16と前記正極端子19で囲まれた空間内に前記穴15を塞ぐように配置されている。絶縁チューブ21は、前記正極端子19および前記容器14の上端に載置される鍔紙22を固定するように前記容器14の上端付近に取り付けられている。
本発明にかかるニッケル水素二次電池は、前述した図1に示すような円筒形ニッケル水素二次電池のほかに、正極と負極とをセパレータを介して交互に積層した構造の電極群とアルカリ電解液とが有底矩形筒状の容器内に収納された構造の角型ニッケル水素二次電池に同様に適用することができる。
このような電池によれば、高い放電容量を維持しつつ、−30℃付近の低温特性とサイクル寿命の双方を満足することが出来る。
本発明にかかるハイブリッド自動車、および電気自動車について説明する。
本発明にかかるハイブリッド自動車は外燃機関もしくは内燃機関と、例えばモータからなる電気駆動手段と前記電気駆動手段用の電源とを具備する。前記電源は、本発明にかかるニッケル水素二次電池を具備する。
ここでいうハイブリッド自動車には、外燃機関もしくは内燃機関が発電機を駆動し、発電した電力と前記二次電池からの電力により電気駆動手段が車輪を駆動するものと、外燃機関もしくは内燃機関ならびに電気駆動手段の双方の駆動力を使い分けて車輪を駆動するものとが包含される。
本発明にかかる電気自動車は駆動電源として本発明にかかるニッケル水素二次電池を具備する。
このような本発明にかかるハイブリッド自動車および電気自動車によれば、燃費などの走行性能を高くすることが出来る。
【0021】
(実施例1〜120および比較例1〜15)
負極活物質は表1に示す組成比率で所定量の元素を混合し、以下の(A)〜(E)に説明する方法で作製したものを使用した。
(A)単ロール法
下記表1に示す組成比率で混合した元素を高周波溶解で溶融後、高速回転する冷却ロール上(10m/s)に射出し、板厚20〜100μmのフレークを作製することにより負極材料を得た。
(B)ストリップキャスト法
下記表1〜2に示す組成比率で混合した元素を高周波溶解にて溶融後、ゆっくり移動する冷却ロール上(1m/s)に溶湯を流し込み、板厚100〜500μmのフレークを作製することにより負極材料を得た。
(C)高周波溶解法
下記表1に示す組成比率で混合した元素を高周波溶解にて溶融後、水冷円盤鋳型上に厚さ約10mmで鋳造することにより合金インゴットを得た。得られた合金インゴットを600℃、20時間不活性雰囲気中で熱処理することにより負極材料を得た。
(D)ガスアトマイズ法
下記表1に示す組成比率で混合した元素を高周波溶解で溶融後、ノズルを通してガスアトマイズチャンバー内に滴下し、これに対して高圧Arガスを当てて、飛散冷却させ、球状粉を得た。
(E)遠心噴霧法
各組成比率で混合した元素を高周波溶解にて溶融後、ノズルを通してHe雰囲気中で高速回転するセラミックスからなるディスクに滴下することにより、ディスクから飛散させ、球状粉を得た。
いずれの実施例とも、X線回折法の結果からほぼ単相である結晶質合金であることを確認した。また、X線回折パターンにおける主回折線の面間隔dが2.75〜2.90Åの範囲にあること、さらに結晶構造の解析からいずれも主相は斜方晶構造であることを確認した。これらの実施例はいずれも組成により主相はRSn型、あるいはRSi型の結晶構造であることを確認した。
なお、アトマイズ法で作製した試料以外は、粗粉砕後ハンマーミルで微粉砕後して平均粒径35μmとした。
【0022】
この合金粉末100重量部に対して、市販のカルボニル法で調整されたニッケル粉末を0.5重量%とケッチェンブラック粉末を0.5重量部とを添加して混合した。この混合粉末100重量部に対して、ポリテトラフルオロエチレン1重量部、ポリアクリル酸ナトリウム0.2重量部、カルボキシルメチルセルロース0.2重量部、および水50重量部を加えて撹拌し、ペーストを調整した。表面にニッケルめっきが施された鉄製穿孔薄板に得られたペーストを塗布し、乾燥することにより塗工板を得た。得られた塗工板にロールプレスを施すことにより、厚さ調整を行った後、所望の寸法に裁断し、水素吸蔵合金を含む負極を作製した。
一方、セパレータとしてアクリル酸がグラフト共重合されたポリオレフィン系不織布を用意した。
この負極と公知技術によって作製されたペースト式ニッケル正極とを、その間に前記セパレータを介在させながら渦巻き状に捲回することにより電極群を作製した。
得られた電極群と7molのKOH、0.5molのNaOHおよび0.5molのLiOHを含むアルカリ電解液2.5mlとを有底円筒状容器内に収納し、封口することにより、前述した図1に示す構造を有する単3サイズの円筒形ニッケル水素二次電池を組み立てた。
一方、比較例として以下に示す各材料を作製し、実施例と同様の方法で単3サイズの円筒型ニッケル水素二次電池を組み立てた。
一方、比較例1〜15について、下記に示すそれぞれの手法で材料を作製し、評価用に供した。
比較例1は、高周波誘導加熱炉を用いてAR雰囲気中で溶解した後、単ロール鋳造装置を用いて、厚さ0.3〜0.4mmの帯状合金を作製し、得られた合金を850℃、4時間熱処理することにより、評価用試料に供した。
比較例2は高周波溶解した溶湯を冷却板上に鋳込んだ後、890℃で12時間Ar雰囲気中にて熱処理し、評価用試料に供した。
比較例3は、まずLaNiとLaNiを100gずつ混合し、鋼球の入った遊星型ボールミルの中で、室温、アルゴン雰囲気中で10時間メカニカルアロイング処理を行った後、この合金10gとLaNi合金100gを同様の条件でメカニカルアロイングし、LaNi、LaNi、LaNi19、LaNi相からなる試料を作製した。
比較例4はアーク溶解炉で表に示した組成の合金をAr雰囲気中で作製した後、900℃で12時間熱処理を行い、測定用試料とした。
比較例5は高周波誘導加熱炉を用いてAr雰囲気中で溶解したのち、900℃で10時間熱処理を行った。
【0023】
比較例6〜15は高周波誘導加熱炉を用いてAR雰囲気中で溶解したのち、単ロール法でロール周速1m/gの条件で、板厚200〜500μmのフレーク状試料を得た。これらの試料についてそれぞれ700℃で10時間熱処理を行った。
いずれの比較例の材料とも実施例と同様に、粗粉砕後ハンマーミルにより、平均粒径20μmになるようにした。
得られた実施例1〜96および比較例1〜15の二次電池について、室温で36時間放置した。引き続き、150mAで15時間充電後、150mAの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電する充放電サイクルを2回行った。サイクル試験は45℃の環境下で1CmAの電流で充電し、充電時の最大電圧から4mV低下したときに充電を終了する−ΔV法を用いて充電を行った。その後、1CmAの電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電した。このような充放電の繰り返しを行い、放電容量が初期の70%になるまでのサイクル数を測定した。
また、低温特性については、上記条件で室温にて測定した値と−30℃にて同一条件で測定した値の比で示している。さらに、高率放電特性は2Cと0.5Cで評価した特性の比である。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
表1〜4から明らかな通り、本発明の水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池は優れた特性を持ち合わせており、ハイブリッド自動車用に適した電池であることがわかる。
(実施例97〜112)
実施例1と同様にして、実施例97〜112の水素吸蔵合金を作製した。平均粒径を25μmとして粉砕した後に、実施例97〜100は50重量%のKOH水溶液を60℃として、この中に水素吸蔵合金粉末を浸漬させて表面処理を行った。実施例101〜104は60重量%のNaOH水溶液を70℃として、この中に水素吸蔵合金粉末を浸漬させて表面処理を行った。実施例105〜108は塩酸を用いてpHを2に設定し、40℃水溶液中で、水素吸蔵合金粉末を浸漬させて表面処理を行った。実施例109〜112は硝酸を用いてpHを2に設定し、60℃とした水溶液中で、水素吸蔵合金粉末を浸漬させて表面処理を行った。
得られた水素吸蔵合金粉末を用い、実施例1と同様にして負極を作製した。こののち、正極、セパレータとともに電池を作製し、評価に供した。
得られた実施例97〜112の二次電池について、室温で36時間放置した。引き続き、150mAで15時間充電後、150mAの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電する充放電サイクルを2回行った。この後、45℃の環境下で充放電サイクルを繰り返し、放電容量が1サイクル目の放電容量の80%以下に達するまでのサイクル数を測定し、前記サイクル数および1サイクル目の放電容量を表5に示す。なお、充放電サイクルの充電過程充電電流を1500mAにし、充電時の最大電圧から10mV低下したときに充電を終了する−ΔV法を用いて行った。一方、放電過程は3000mAの電流で電池電圧が1.0Vになるまで行った。
評価の数値化としては、初期容量、充放電サイクル寿命回数、低温特性である。
表1から明らかなとおり、特に寿命特性に優れていることが確認できる。本発明の水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池は優れた特性を持ち合わせており、通常の単2、3、4などの市販電池のみならず、ハイブリッド自動車用、および電気自動車用に適した電池であることがわかる。
【0029】
(実施例113〜120)
実施例1と同様にして、実施例113〜120の水素吸蔵合金を作製した。平均粒径を25μmとして粉砕した後に、負極を作製する際に希土類酸化物を1重量%混合させた。ここで、用いた希土類酸化物は順番にY、La、CeO、Prである。
評価用電池の作製および評価は上記実施例に準じる。評価結果を表5に示すが、本実施例は特に温度特性、高率放電特性に優れていることが確認できる。
【0030】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るニッケル水素二次電池の一実施形態を部分的に破断して示す斜視図。
【符号の説明】
【0032】
11 水素吸蔵合金電極(負極)
12 非焼結式ニッケル電極(正極)
13 セパレータ
14 容器
15 穴
16 封口板
17 絶縁性ガスケット
18 正極リード
19 正極端子
20 安全弁
21 絶縁チューブ
22 鍔紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1:(R1−a)TSnα
R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種
D:Zr、Hf、Tiから選ばれる少なくとも1種
T:Fe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種
M:V、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種
X:Al、Ga、Zn、Sn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種
0≦a≦0.3
0.2≦x≦1.1
1. 5≦y≦2.8
0≦z≦0.5
0≦α≦0.5
1.5≦y+z+α≦2.8(原子比)
で表される金属間化合物を主相とすることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
一般式2:(R1−b)TSnα
R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種
A:Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種
T:Fe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種
M:V、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種
X:Al、Ga、Zn、Sn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種
0<b≦0.5
0.2≦x≦1.1
1. 5≦y≦2.8
0≦z≦0.5
0≦α≦0.5
1.5≦y+z≦2.8 (原子比)
で表される金属間化合物を主相とすることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項3】
一般式3:(R1−a)TSnα
R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種
A:Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種
D:Zr、Hf、Tiから選ばれる少なくとも1種
T:Fe、Co、Mn、Cu、Crから選ばれる少なくとも1種
M:V、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種
X:Al、Ga、Zn、Sn、Si、B、C、Pから選ばれる少なくとも1種
0<a≦0.3
0<b≦0.5
0.2≦x≦1.1
1. 5≦y≦2.8
0≦z≦0.5
0≦α≦0.5
1.5≦y+z≦2.8 (原子比)
で表される金属間化合物を主相とすることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項4】
主相はR、T、Snを必須とし、斜方晶構造からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
X線回折の主回折線が面間隔で2.7〜2.95Å(オングストローム)であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項6】
主相はRSn型、あるいはRSi型からなる金属間化合物であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項7】
平均結晶粒径が10nm〜10μmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金を含むことを特徴とするニッケル水素二次電池用負極。
【請求項9】
請求項8記載の負極と、正極と、電解液とを具備することを特徴とするニッケル水素二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−71635(P2008−71635A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249553(P2006−249553)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】