説明

水素酸素発生装置およびこれを用いた燃料電池システム

【課題】水素の発生および酸素の発生が相互に関連し、簡便な方法で行え、小型化を可能とし得る水素酸素発生装置およびこれを用いた燃料電池システムを提供する。
【解決手段】水素酸素発生装置5は、超酸化カリウムで構成される酸素発生用材料15に水を反応させて水酸化カリウムおよび酸素を発生させる酸素発生容器9と、両性金属19に、酸素発生容器9で生成された水酸化カリウムの水溶液17を反応させて水素を発生させる水素発生容器11と、が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素酸素発生装置およびこれを用いた燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池は、水素等を含む燃料ガスと酸素や空気等の酸化剤とを反応させ、燃料電池スタック(燃料電池本体)にて発電を行う。特に、固体高分子形燃料電池(PEFC)は低温で発電できるので、起動性の良さが期待され、自動車等の移動体用の動力源として開発が進められている。
【0003】
燃料ガスとしての水素の供給は、高圧タンク(高圧ボンベ)に充填された気体の水素を放出するもの(たとえば、特許文献1参照)、極低温タンクに貯蔵した液体水素を気化させるもの、比較的高圧にされたタンク内の水素吸蔵合金(水素貯蔵合金)に吸蔵された水素を放出するもの(たとえば、特許文献2参照)、都市ガス等の改質原料を改質して水素得るもの(たとえば、特許文献3参照)、所定物質の化学反応により水素を得るもの(たとえば、特許文献4参照)等が提案されている。
【0004】
酸化剤としては空気を用いるのが一般的であるが、たとえば、水を電気分解して酸素を得るものが提案されている。この場合には、同時に水素も得られることになるが、電気分解に要するエネルギを考えると、損失が多く用途が限定される。
また、たとえば、水中航走体等の水中や大気圏外など空気が存在しないか少ない環境で用いられるものとして、所定物質の化学反応により酸素を得るもの(たとえば、特許文献5参照)が提案されている。
さらに、酸素を高圧タンクに貯蔵し放出させることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−93438号公報
【特許文献2】特開2002−81597号公報
【特許文献3】特開2008−303134号公報
【特許文献4】特開2009−99534号公報
【特許文献5】特開2006−96580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に示される高圧タンクに水素ガスを貯蔵するものでは、気体のままの貯蔵であり、タンク内に大量の水素ガスを充填させることが難しい。そのため、燃料電池等に必要な量の水素ガスを充填させるためには、ボンベを大型化しなければならないという問題がある。また、水素ガスを高圧タンクに充填しなければならず煩雑である。
これは、高圧タンクに酸素を貯蔵する場合も同様である。
液体水素または液体酸素を貯蔵する場合には、温度を極低温に保つ必要があり、安全上、運搬や取り扱いが難しくなるという問題がある。
特許文献2に示される水素吸蔵合金のタンクでは合金重量が重いことが問題であり、吸蔵率が高く軽くできる合金は現時点では耐久性が乏しく使用に耐えない。
【0007】
特許文献3に示される都市ガス等の改質原料を改質して水素得るものでは、改質工程が複雑であり小型化するのが難しいという問題がある。
また、改質工程に熱量が必要となるので、起動停止時の昇温、降温操作およびその際の触媒劣化防止処理等が必要になる等の問題がある。
【0008】
特許文献4に示されるものは、固体の水素化マグネシウムに水を供給し、水素化マグネシウムを加水分解させて水素ガスを得るものであり、簡単な構成で水素供給ができる可能性がある。
しかし、水素化マグネシウムの加水分解によって発生する水酸化マグネシウムは溶解度が低いのでヘドロ状となる。そのため、反応が進むに連れて水素化マグネシウムと水との混合が難しくなり、大型化が困難であるという問題がある。
【0009】
特許文献5に示されるものは、過塩素酸リチウムを加熱分解して酸素ガスを得るものである。そのため、起動時に過塩素酸リチウムを加熱する必要があるので、即応性および装置の複雑化の問題があるとともに反応性の高い過塩素酸リチウムの制御性という問題もある。
また、過塩素酸リチウムの分解反応では、抑制されているとは言え、酸素の他に不純ガスとして燃料電池のシステム性能に影響を及ぼしたり、酸素を導く金属配管類を腐食させたりする等の不具合を生じさせる塩素ガスが発生するという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑み、水素の発生および酸素の発生が相互に関連し、簡便な方法で行え、小型化を可能とし得る水素酸素発生装置およびこれを用いた燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の第1態様は、アルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物に水を反応させてアルカリ金属の水酸化物および酸素を発生させる酸素発生部と、両性金属に、該酸素発生部で生成されたアルカリ金属の水酸化物の水溶液を反応させて水素を発生させる水素発生部と、が備えられている水素酸素発生装置である。
【0012】
本態様にかかる水素酸素発生装置では、酸素発生部において、アルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物と水とを反応させるので、アルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物は加水分解し、アルカリ金属の水酸化物および酸素ガスを発生する。
このとき、水は反応を確実に進めるためにアルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物の量に対応する理論当量より多く供給することが望ましい。余剰な水を供給した場合は、生成されるアルカリ金属の水酸化物はその余分な水に容易に溶解してアルカリ金属の水酸化物の水溶液が形成される。
このアルカリ金属の水酸化物の水溶液を水素発生部に供給する。水素発生部では、アルカリ金属の水酸化物の水溶液と両性金属とが反応し、水素が発生する。
このように、酸素発生部で形成されたアルカリ金属の水酸化物の水溶液を、水素発生部での水素発生反応に用いているので、水素の発生および酸素の発生は相互に関連して行うことができる。アルカリ金属の酸化物あるいは超酸化物の量に対応する理論当量より多く供給された水分は、水溶液を形成し、その後水素発生時の反応に直接利用される。そのため、水素の発生および酸素の発生が独立して行われるものに比べて必要な水分量を削減することができる。
【0013】
アルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物は固体であるので、酸素発生部では固体に水を供給することによって所定の反応を起こすことができ簡単な装置を構成できる。また両性金属も固体であり、水素発生部では固体にアルカリ金属の水酸化物の水溶液を供給することによって所定の反応を起こすことができるので簡単な装置を構成できる。
このように、全体でも、簡単な構成で水素酸素発生装置を形成できる。
したがって、所要の物質量の削減と、簡単な構成とによって水素酸素発生装置の小型化を図ることができる。
なお、アルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物および両性金属は、反応後に溶解性が高いことから、粉体、粒体等であってもペレット状であっても、またブロック状であっても良く、装置の形態に合わせて選定できるという利点もある。
【0014】
上記態様では、前記アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムの少なくとも1つであることが好ましい。
また、上記態様では、前記アルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物は、超酸化カリウムであることが好ましい。
【0015】
本発明の第2態様は、前記第1態様にかかる水素酸素発生装置と、前記酸素発生部で生成された酸素および前記水素発生部で生成された水素が供給されることによって発電が行われる燃料電池本体と、が備えられ、該燃料電池本体で生成される生成水が前記酸素発生部に供給される燃料電池システムである。
【0016】
本態様にかかる燃料電池システムでは、燃料電池本体における発電反応によって生成される生成水が水素酸素発生装置の酸素発生部に供給されるので、生成水は酸素発生部におけるアルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物の加水分解および水素発生部における反応に用いられる。
発電反応によって生成された生成水が、酸素発生部および水素発生部の反応に用いられるので、水の保有量を削減することができる。これにより、水素酸素発生装置の一層の小型化を図れるので、燃料電池システムの小型化を図ることができる。
水素酸素発生装置によって水素および酸素が生成されるので、たとえば、水中航走体等の水中や大気圏外など空気が存在しないか少ない環境で燃料電池システムを用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、アルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物に水を反応させてアルカリ金属の水酸化物および酸素を発生させる酸素発生部と、両性金属に、酸素発生部で生成されたアルカリ金属の水酸化物の水溶液を反応させて水素を発生させる水素発生部と、が備えられているので、水素の発生および酸素の発生が独立して行われるものに比べて必要な物質量を削減することができ、簡単な構成で水素酸素発生装置を形成できる。これらによって水素酸素発生装置の小型化を図ることができる。
この水素酸素発生装置を用いた燃料電池システムでは、燃料電池本体における発電反応によって生成される生成水が水素酸素発生装置の酸素発生部に供給されるので、水の保有量を削減することができ、燃料電池システムの小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる燃料電池システムの要部概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態にかかる燃料電池について、図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態にかかる燃料電池の要部の概略構成を示すブロック図である。
燃料電池としては、固体高分子形燃料電池(PEFC)が好適であるが、その形式は問わない。
【0020】
燃料電池(燃料電池システム)1には、水素と酸素とによって電気化学反応(発電反応)による発電が行われる燃料電池スタック3(燃料電池本体)と、燃料電池スタック3に水素および酸素を供給する水素酸素発生装置5と、が備えられている。
燃料スタック3には、固体電解質膜の両面に酸素極および水素極が圧着された膜/電極接合体7が備えられている。
【0021】
水素極に供給された水素は、水素極でイオン化した水素イオンとされ、固体電解質膜中を酸素極側へ移動する。
一方、イオン化にて生成した電子は水素極から図示しない外部負荷を流れ、酸素極に移動することで電力を供給する。
酸素極に供給された酸素は、酸素極に移動した電子によってイオン化される。イオン化された酸素イオンと、固体電解質膜中を移動して酸素極に到達した水素イオンとが反応し、水(生成水)が生成される。
【0022】
水素酸素発生装置5には、酸素発生容器(酸素発生部)9と、水素発生容器(水素発生部)11と、水貯蔵容器13とが備えられている。
酸素発生容器9は、酸素発生用材料(アルカリ金属の過酸化物または超酸化物)15と水とを反応させて酸素を発生する。
酸素発生用材料15としては、超酸化カリウム(KO)が用いられている。超酸化カリウムは、粉末(粉体)であり、酸素発生容器9に所要量貯蔵しておくようにしても良いし、別途貯蔵し、酸素発生容器9に必要量だけ供給するようにしても良い。
酸素発生用材料15としては、いずれも粉末である過酸化リチウム(Li)、過酸化ナトリウム(Na)、過酸化カリウム(K)、超酸化ナトリウム(NaO)を用いてもよい。総重量に対する発生酸素量を考慮すると超酸化カリウムはほどほど率がよく、また物質の反応性から考えて安全性も確保できるので、好適である。
【0023】
酸素発生容器9には、水貯蔵容器13に貯蔵された水が供給されるように構成されている。
酸素発生容器9では、酸素発生用材料15と水とが混合されることによって次式に示されるように酸素発生用材料15が加水分解され、水酸化カリウム(K(OH))と酸素を生成する。
4KO+2HO→4K(OH)+3O
【0024】
このとき、水は4モルの酸素発生用材料15に対して2モルの割合で反応させれば理論上全ての酸素発生用材料15が反応することになるが、全ての酸素発生用材料15が確実に反応させるためにはこの理論当量よりも余分な量を供給することになる。
また、後述する水素発生容器11での反応で用いる水(この場合も余分な量を見込むのが好ましい。)を確保する必要がある。
以上を勘案して水貯蔵容器13から酸素発生容器9へ供給される水の量は決定される。
【0025】
このように酸素発生容器9には十分な水が供給されているので、酸素発生容器9で生成された溶解度の高い水酸化カリウムは水に溶けて水溶液17となる。
この水酸化カリウムの水溶液は、酸素発生容器9から水素発生容器11に供給されるようにされている。
生成された酸素は、燃料電池スタック3の酸素極へ供給されるようにされている。
【0026】
水素発生容器11は、両性金属19と水溶液17とを反応させて水素を発生する。
両性金属19としては、アルミニウム(Al)が用いられている。アルミニウムは、粉体とされていても良いし、ブロック状でも良い。両性金属19は水素発生容器11に所要量貯蔵しておくようにしても良いし、別途貯蔵し、水素発生容器11に必要量だけ供給するようにしても良い。
両性金属19としては、亜鉛(Zn)、すず(Sn)、鉛(Pb)を用いてもよい。
【0027】
水素発生容器11では、両性金属19と水溶液17とが混合されることによって次式に示されるように反応し、テトラヒドロキソアルミン酸カリウム(K[Al(OH)])と水素を生成する。
4Al+4K(OH)+12HO→4K[Al(OH)]+6H
テトラヒドロキソアルミン酸カリウムは、溶解度が高いので、十分な水が存在すれば完全な液体とすることができる。このためヘドロ状となってアルミニウムの周囲を覆うことがなくなるので、水酸化カリウムとアルミニウムとが混合されるのを妨げる可能性を低くすることができる。
【0028】
生成された水素は、燃料電池スタック3の水素極へ供給されるようにされている。
燃料電池スタック3における電気化学反応によって生成された水は、水貯蔵容器13に供給されるように構成されている。
したがって、燃料電池スタック3からの水は、水貯蔵容器13から酸素発生容器9に供給されることになるので、この水は超酸化カリウムの加水分解および水素発生容器11における反応に用いられる。
また、図1に示されるように燃料電池スタック3で生成する水を一時的に貯める水貯蔵容器13とは別に初期に水を保有する水貯蔵容器14を用意してもよい。
【0029】
このように、酸素発生容器9で生成された水酸化カリウムを、水素発生容器11での水素発生反応に用いているので、水素の発生および酸素の発生は相互に関連して行うことができる。そのため、水素の発生および酸素の発生が独立して行われるものに比べて必要な物質量を削減することができる。
超酸化カリウム等の酸素発生用材料15は固体であるので、酸素発生容器9では固体に水を供給することによって所定の反応を起こすことができる。両性金属19は固体であるので、水素発生容器11では固体に水酸化カリウムの水溶液を供給することによって所定の反応を起こすことができる。
【0030】
このように、酸素および水素が順次生成されるので、簡単な構成で水素酸素発生装置5を形成できる。
したがって、所要の物質量の削減と、簡単な構成とによって水素酸素発生装置5の小型化を図ることができる。
【0031】
燃料電池スタック3において発電反応によって生成された水が、酸素発生容器9および水素発生容器11の反応に用いられるので、水の保有量を削減することができる。
これにより、水素酸素発生装置5の一層の小型化を図れるので、燃料電池1の小型化を図ることができる。
水素酸素発生装置5によって必要な水素および酸素が供給されるので、たとえば、水中航走体等の水中や大気圏外など空気が存在しないか少ない環境で燃料電池1を用いることができる。
【0032】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形を行ってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 燃料電池
3 燃料電池スタック
5 水素酸素発生装置
9 酸素発生容器
11 水素発生容器
13 水貯蔵容器
14 水貯蔵容器
15 酸素発生用材料
17 水溶液
19 両性金属


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物に水を反応させてアルカリ金属の水酸化物および酸素を発生させる酸素発生部と、
両性金属に、該酸素発生部で生成されたアルカリ金属の水酸化物の水溶液を反応させて水素を発生させる水素発生部と、
が備えられていることを特徴とする水素酸素発生装置。
【請求項2】
前記アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムの少なくとも1つであることを特徴する請求項1に記載の水素酸素発生装置。
【請求項3】
前記アルカリ金属の過酸化物あるいは超酸化物は、超酸化カリウムであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水素酸素発生装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水素酸素発生装置と、
前記酸素発生部で生成された酸素および前記水素発生部で生成された水素が供給されることによって発電が行われる燃料電池本体と、が備えられ、
該燃料電池本体で生成される生成水が前記酸素発生部に供給されることを特徴とする燃料電池システム。


【図1】
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【公開番号】特開2011−11965(P2011−11965A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159835(P2009−159835)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】