説明

水質浄化兼水産資源飼育システム及び浮遊体

【課題】高い耐久性と水処理能力を有し、長期間使用可能で安価な水質浄化システムを提供する。
【解決手段】本発明の水質浄化兼水産資源飼育システムは、中央開口部を有する環状体と、前記環状体の周囲に前記環状体と一体に形成された発泡体と、前記環状体下部に垂下されるように前記中央開口部に取り付けられた籠状メッシュ材と、前記中央開口部に取り付けられた円筒管と、前記円筒管内に設けられた水流発生手段を備え、前記環状体及び前記発泡体を貫く穴が設けられている浮遊体が富栄養化された水域に配置され、前記円筒管の上端部が喫水線より下に位置し、前記穴は喫水線と同じ位置に設けられており、貝類が前記籠状メッシュ材に収容されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、富栄養化された汽水域又は淡水域での水質浄化と水産資源飼育を同時に可能とする水質浄化兼水産資源飼育システムに関する。
【背景技術】
【0002】
大量の植物プランクトンが、生活排水の流入等の原因により富栄養化された汽水域又は淡水域で発生し、当該水域の透明度の低下及び生態系の変化が大きな社会問題となっている。そこで、富栄養化された水域の水質浄化システムが検討されてきた。富栄養化された水が、木炭が収容された容器の底部に配置された水中ポンプでポンプアップされ、富栄養化された水が木炭を含む濾過層で濾過される水質浄化システムが検討された(例えば、特許文献1参照)。当該水質浄化システムは、大きな動力源を必要とし、ポンプアップ時に水底に堆積しているヘドロを舞い上げてしまう。
【0003】
貝殻培地を収容するネットがイカダに吊り下げられ、クワイ、エンサイ等の有用水生植物が前記貝殻培地に植栽され、チッ素、リン及びその他の栄養塩が前記有用水生植物の生育に伴って吸収される水質浄化システムが検討された(例えば、特許文献2参照)。当該水質浄化システムによる水質浄化は、有用水生植物が生育できる季節に限定される。更に、当該水質浄化システムに使用される木製イカダは腐食しやすく、当該水質浄化システムは長期間使用され難い。
【0004】
植物が植えられた廃タイヤを備える植生浮島による修景及び水質浄化も検討された(例えば、特許文献3参照)。当該植生浮島による水質浄化は、有用水生植物が生育できる季節に限定される。更に、近年、植物が利用される水質浄化システムの水処理能力よりも大きな水処理能力を有する水質浄化システムが求められるようになってきた。
そこで、高い耐久性と水処理能力を有し、長期間使用可能で安価な水質浄化システムが検討されてきたが、有効な手段は見出されていなかった。
【特許文献1】特開2005−7358号公報
【特許文献2】特開2000−37144号公報
【特許文献3】特開2003−88259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高い耐久性と水処理能力を有し、長期間使用可能で安価な水質浄化システムの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者は、上記課題を解決するために、富栄養化された汽水域又は淡水域の水質浄化に貝類が有用であることを見出し、貝類の生存及び増殖に不可欠な酸素の濃度等の生育環境が確保される構造を有する水質浄化システムを検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本第1発明は、中央開口部を有する環状体と、前記環状体の周囲に前記環状体と一体に形成された発泡体と、前記環状体下部に垂下されるように前記中央開口部に取り付けられた籠状メッシュ材と、前記中央開口部に取り付けられた円筒管と、前記円筒管内に設けられた水流発生手段を備え、前記環状体及び前記発泡体を貫く穴が設けられている浮遊体が富栄養化された水域に配置され、前記円筒管の上端部が喫水線より下に位置し、前記穴は喫水線と同じ位置に設けられており、貝類が前記籠状メッシュ材に収容されている水質浄化兼水産資源飼育システムである。
【0008】
前記水流発生手段の動力源は、風車又は太陽電池を電源とするモーターであり得る。前記環状体は廃タイヤであり得る。更に、連結手段が前記浮遊体の外周に設けられ、2以上の浮遊体が連結され得る。
【0009】
本第2発明は、中央開口部を有する環状体と、前記環状体の周囲に前記環状体と一体に形成された発泡体と、前記環状体下部に垂下されるように前記中央開口部に取り付けられた籠状メッシュ材と、前記中央開口部に取り付けられた円筒管と、前記円筒管内に設けられた水流発生手段を備え、前記環状体及び前記発泡体を貫く穴が設けられている浮遊体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水質浄化兼水産資源飼育システムは、溶存酸素量が多く、餌となるプランクトンも多い水面付近での貝類の飼育を可能とし、貝類の濾過食性により低環境負荷で水質を浄化し得る。更に、水が、本発明の水質浄化兼水産資源飼育システムを構成する浮遊体が備える水流発生手段、及び、風、ボート等により発生する波により、前記浮遊体が備える環状体及び発泡体を貫く穴から出入りし、貝類は水流に晒される。その結果、酸素及びプランクトンが貝類に供給され、貝類の生育が更に促進される。水の透明度が、貝類の濾過食性により高くなると、太陽光が水底まで届くようになり、堆積した泥中の有機物のバクテリアによる分解が促進される。
【0011】
前記水流発生手段の動力源が風車又は太陽電池を電源とするモーターである水質浄化兼水産資源飼育システムは、外部電源なしで水流を発生させ、メンテナンスを容易にさせ得る。
前記環状体が廃タイヤである水質浄化兼水産資源飼育システムは、安価で高い耐久性を有し、長期間使用可能なシステムとなり得る。
連結手段が前記浮遊体の外周に設けられ、複数の浮遊体が連結されている水質浄化兼水産資源飼育システムは、連結される浮遊体の数を容易に調節できるシステムとなり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の水質浄化兼水産資源飼育システムの実施形態が説明される。図1は、本発明の水質浄化兼水産資源飼育システムが備える浮遊体の1実施形態の断面図である。樹脂製の側板11が環状体10の周囲に配置され、浮遊体1に浮力を与える発泡体12が環状体10及び側板11と一体に形成されている。
【0013】
発泡体12の形成方法は、特定の方法に限定されない。当該形成方法の具体例は、予備発泡ビーズが環状体10と側板11の間に充填された後、加熱及び発泡されるビーズ発泡法、環状体10、予め成形された発泡体12及び側板11が接着剤、熱融着等の接着手段により接着される方法である。発泡体12を構成する材料は樹脂又はゴムである。当該樹脂の具体例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレートである。
【0014】
環状体10を構成する材料は特定の材料に限定されない。当該材料の具体例は、廃タイヤ、ゴム、樹脂、木である。環状体10は好ましくは廃タイヤで構成される。廃タイヤは、トレッドパターンの摩耗により乗用に不適とされて廃棄され、原形利用が意図されるタイヤである。
【0015】
側板11を構成する材料は特定の材料に限定されない。当該材料の具体例は、ポリエステル、ポリエチレン等の樹脂、耐水及び耐腐食加工された段ボール、樹脂が含浸された不織布である。発泡体12がビーズ発泡法により形成される場合、側板11は、型枠として機能する。
【0016】
籠状メッシュ材13が環状体10の下部に垂下されるように環状体10の中央開口部に取り付けられる。籠状メッシュ材13を構成する材料は特に限定されない。当該材料の具体例は、ポリエチレン等の樹脂製のメッシュが張設された樹脂製又は金属製フレーム、樹脂製メッシュ、金属製メッシュである。籠状メッシュ材13の深さは、収容される貝類2の生育に適した溶存酸素量が確保される水面からの深さにより適宜決定される。籠状メッシュ材13の目開きは、収容される貝類2が抜け落ちない大きさとなるよう適宜設定される。
【0017】
貝類2は、汽水域又は淡水域で生息可能な貝類であり、特定の貝類に限定されない。貝類2の具体例は、汽水域に生息し淡水域でも生息可能なヤマトシジミ、琵琶湖の淡水域に生息するセタシシジミ、日本各地の淡水域に生息するマシジミである。これらのシジミは、植物プランクトン等の懸濁物を水と共に吸い込み、濾過して水をはき出す濾過食性を有する。1トンのシジミの濾過食能力は4800m3/日である。落合/中野下水処理場から日本橋川に流れ込む排水量は26万m3/日であるから、54トンのシジミが当該排水の水質を浄化できる。
【0018】
貝類2は、汽水域又は淡水域の底面の砂及び/又は泥の中にもぐって生息している。貝類2の排泄物が蓄積されると貝類2の生息環境が悪化する。特に、貝類2の活動が活発になる夏期の生息環境が水温の上昇と相俟って顕著に悪化する。水中の溶存酸素量が貝類2の生息に重要な要素である。例えば、1.5mg/Lの溶存酸素量がシジミの生息に必要である。汽水域及び淡水域の水面付近の溶存酸素量は、底面の溶存酸素量より多く、溶存酸素量の観点から、汽水域又は淡水域の水面付近の環境が貝類2の生育にとって好適であると判明した。
【0019】
図2は、連結された2つの浮遊体を上から見た概略図である。2つの浮遊体1が、側板11に取り付けられた連結具14により連結されている。本発明の水質浄化兼水産資源飼育システムが備える浮遊体1の数は適宜調節される。従って、本発明の水質浄化兼水産資源飼育システムは1個の浮遊体を備え得るし、2個以上の浮遊体を備え得る。
【0020】
籠状メッシュ材13に収容された貝類2は、溶存酸素量が多い水面付近に常時保持される。穴18が環状体10及び発泡体12に穿孔されている。穴18は喫水線と同じ位置に設けられている。穴18の数は、適宜設定される。水が、本発明の水質浄化兼水産資源飼育システムの風による移動、ボートが発生させた波等により、穴18から出入りし、貝類2は水流に晒される。その結果、酸素及びプランクトンが貝類に供給され、貝類の生育が促進される。
【0021】
円筒管15が環状体10の中央開口部に取り付けられている。円筒管15の上端部は喫水線より下に位置し、円筒管15の下端部は籠状メッシュ材13の下部より下に位置している。水流発生手段17が円筒管15の内部に設けられており、円筒管15内を上向き又は下向きに移動する水流が水流発生手段17により起こされる。水流発生手段17は特定の手段に限定されない。水流発生手段17の具体例はスクリュー、ドリルである。水流発生手段17の動力源は、特定の動力源に限定されない。当該動力源の具体例は、風車、太陽電池を電源とするモーターである。図1では、水流発生手段17の動力源は風車16である。図3は、水流発生手段17の動力源として太陽電池を電源とするモーターを備える浮遊体の1実施形態の断面概略図である。水流発生手段17により起こされる円筒管15内の上向き又は下向きに移動する水流は、水を穴18から出入りさせ、貝類2を水流に晒す。水流発生手段17の動力源として風車又は太陽電池を電源とするモーターを備える水質浄化兼水産資源飼育システムは、外部電源なしで水流を発生させ、当該システムのメンテナンスを容易にさせ得る。
【0022】
貝類2の排泄物は、籠状メッシュ材13から水底に落下し、籠状メッシュ材13に残留しないので、排泄物の滞留による貝類2の生育環境の悪化が防止される。当該排泄物は、魚等の水生動物の餌となり得る。
【0023】
水生植物が、環状体10の中央開口部に植生され得る。水生植物の具体例は、タヌキモ、トチカガミ等の浮葉植物;クワイ;クレソンである。貝類2の生育スペースの確保の観点から、好ましい水生植物は浮葉植物である。環状体10の中央開口部に植生された水生植物は日陰を作り、魚等の水生動物が集まる環境を形成する。シジミは強い直射日光を嫌うので、貝類2がシジミである場合、水生植物の植生による日陰の形成は、シジミにとって好適な生育環境を整える。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0025】
実施例1
約100gのシジミが、太陽電池を電源とするモーターにより駆動されるスクリューを円筒管内に備えた3つ浮遊体のそれぞれの籠状メッシュ材に収容され、5月下旬から3ヶ月間飼育された。3つの浮遊体は、平均水深約1.2m、面積約1000m2の池に浮かべられていた。結果が表1に示されている。
【0026】
比較例1
約100gのシジミが、スクリューを備えない4つ浮遊体のそれぞれの籠状メッシュ材に収容され、実施例1の3つの浮遊体と同時期に同じ池で飼育された。結果が表1に示されている。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例1の3つの浮遊体の籠状メッシュ材に収容されたシジミの増加量の平均値は、比較例1の4つの浮遊体の籠状メッシュ材に収容されたシジミの増加量の平均値よりかなり大きかった。従って、円筒管内に設けられたスクリューにより発生する水流に晒されたシジミの生育は、水流に晒されないシジミの生育よりも良好であると判明した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の水質浄化兼水産資源飼育システムは、富栄養化された水域に配置され、当該水域の水質浄化と、貝類等の水産資源の飼育に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】浮遊体の1実施形態の断面概略図
【図2】連結された2つの浮遊体を上から見た概略図
【図3】浮遊体の別の実施形態の断面概略図
【符号の説明】
【0031】
1…浮遊体、2…貝類、10…環状体、11…側板、12…発泡体、13…籠状メッシュ体、14…連結具、15…円筒管、16…風車、17…水流発生手段、18…穴、19…モーター、20…太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央開口部を有する環状体と、
前記環状体の周囲に前記環状体と一体に形成された発泡体と、
前記環状体下部に垂下されるように前記中央開口部に取り付けられた籠状メッシュ材と、
前記中央開口部に取り付けられた円筒管と、
前記円筒管内に設けられた水流発生手段を備え、
前記環状体及び前記発泡体を貫く穴が設けられている浮遊体が富栄養化された水域に配置され、
前記円筒管の上端部が喫水線より下に位置し、
前記穴は喫水線と同じ位置に設けられており、
貝類が前記籠状メッシュ材に収容されている水質浄化兼水産資源飼育システム。
【請求項2】
前記水流発生手段の動力源が風車である、請求項1に記載された水質浄化兼水産資源飼育システム。
【請求項3】
前記水流発生手段の動力源が太陽電池を電源とするモーターである、請求項1に記載された水質浄化兼水産資源飼育システム。
【請求項4】
前記環状体が廃タイヤである、請求項1〜3のいずれか1項に記載された水質浄化兼水産資源飼育システム。
【請求項5】
連結手段が前記浮遊体の外周に設けられ、2以上の浮遊体が連結されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載された水質浄化兼水産資源飼育システム。
【請求項6】
中央開口部を有する環状体と
前記環状体の周囲に前記環状体と一体に形成された発泡体と、
前記環状体下部に垂下されるように前記中央開口部に取り付けられた籠状メッシュ材と、
前記中央開口部に取り付けられた円筒管と、
前記円筒管内に設けられた水流発生手段を備え、
前記環状体及び前記発泡体を貫く穴が設けられている浮遊体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−273440(P2009−273440A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130306(P2008−130306)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】