説明

永久磁石及び永久磁石の製造方法

【課題】湿式粉砕を用いた場合であっても、焼結前に磁石粒子の含有する炭素量を予め低減させることができ、焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙を生じさせることなく、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となった永久磁石及び永久磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】粗粉砕された磁石粉末を、有機溶媒中でビーズミルにより粉砕し、その後、圧粉成形した成形体を大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下において200℃〜900℃で数時間保持することにより水素中仮焼処理を行う。続いて、焼成を行うことによって永久磁石1を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石及び永久磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッドカーやハードディスクドライブ等に使用される永久磁石モータでは、小型軽量化、高出力化、高効率化が要求されている。そして、上記永久磁石モータにおいて小型軽量化、高出力化、高効率化を実現するに当たって、永久磁石モータに埋設される永久磁石について、更なる磁気特性の向上が求められている。尚、永久磁石としてはフェライト磁石、Sm−Co系磁石、Nd−Fe−B系磁石、SmFe17系磁石等があるが、特に残留磁束密度の高いNd−Fe−B系磁石が永久磁石モータ用の永久磁石として用いられる。
【0003】
ここで、永久磁石の製造方法としては、一般的に粉末焼結法が用いられる。ここで、粉末焼結法は、先ず原材料を粗粉砕し、ジェットミル(乾式粉砕)や湿式ビーズミル(湿式粉砕)により微粉砕した磁石粉末を製造する。その後、その磁石粉末を型に入れて、外部から磁場を印加しながら所望の形状にプレス成形する。そして、所望形状に成形された固形状の磁石粉末を所定温度(例えばNd−Fe−B系磁石では800℃〜1150℃)で焼結することにより製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第3298219号公報(第4頁、第5頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、永久磁石の磁気特性は、磁石の磁気特性が単磁区微粒子理論により導かれるために、焼結体の結晶粒径を微小にすれば磁気性能が基本的に向上することが知られている。そして、焼結体の結晶粒径を微小にするためには、焼結前の磁石原料の粒径も微小にする必要がある。
【0006】
ここで、磁石原料を粉砕する際に用いられる粉砕方法の一つである湿式ビーズミル粉砕は、容器の中にビーズ(メディア)を充填して回転させ、原料を溶媒に混入したスラリーを加えて、原料を摺りつぶして粉砕する方法である。そして、湿式ビーズミル粉砕を行うことによって、磁石原料を微小な粒径範囲(例えば0.1μm〜5.0μm)まで粉砕することが可能となる。
【0007】
しかしながら、上記湿式ビーズミル粉砕のような湿式粉砕では、磁石原料を混入する溶媒としてトルエン、シクロヘキサン、酢酸エチル、メタノール等の有機溶媒が用いられる。従って、粉砕後に真空乾燥等を行うことによって有機溶媒を揮発させたとしてもC含有物が磁石内に残留することとなる。そして、Ndと炭素との反応性が非常に高いため、焼結工程において高温までC含有物が残ると、カーバイドを形成する。その結果、形成されたカーバイドによって焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙が生じ、磁石全体を緻密に焼結できずに磁気性能が著しく低下する問題があった。また、空隙が生じなかった場合でも、形成されたカーバイドによって焼結後の磁石の主相内にαFeが析出し、磁石特性を大きく低下させる問題があった。
【0008】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、湿式粉砕において有機溶媒が混入された磁石粉末を、焼結前に大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼することにより、磁石粒子の含有する炭素量を予め低減させることができ、その結果、焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙を生じさせることなく、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となった永久磁石及び永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る永久磁石は、磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕して磁石粉末を得る工程と、前記磁石粉末を成形することにより成形体を形成する工程と、前記成形体を大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼して仮焼体を得る工程と、前記仮焼体を焼結する工程と、により製造されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る永久磁石は、磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕して磁石粉末を得る工程と、前記磁石粉末を大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼して仮焼体を得る工程と、前記仮焼体を成形することにより成形体を形成する工程と、前記成形体を焼結する工程と、により製造されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る永久磁石は、請求項1に記載の永久磁石において、前記成形体を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で前記成形体を所定時間保持することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に係る永久磁石は、請求項2に記載の永久磁石において、前記磁石粉末を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で前記磁石粉末を所定時間保持することを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に係る永久磁石は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の永久磁石において、焼結後に残存する炭素量が400ppm以下であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に係る永久磁石の製造方法は、磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕して磁石粉末を得る工程と、前記磁石粉末を成形することにより成形体を形成する工程と、前記成形体を大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼して仮焼体を得る工程と、前記仮焼体を焼結する工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に係る永久磁石の製造方法は、磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕して磁石粉末を得る工程と、前記磁石粉末を大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼して仮焼体を得る工程と、前記仮焼体を成形することにより成形体を形成する工程と、前記成形体を焼結する工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、請求項8に係る永久磁石は、請求項6に記載の永久磁石の製造方法において、前記成形体を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で前記成形体を所定時間保持することを特徴とする。
【0017】
更に、請求項9に係る永久磁石は、請求項7に記載の永久磁石の製造方法において、前記磁石粉末を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で前記磁石粉末を所定時間保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
前記構成を有する請求項1に記載の永久磁石によれば、永久磁石の製造工程である湿式粉砕において有機溶媒が混入された磁石粉末の成形体を、焼結前に大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼することにより、磁石粒子の含有する炭素量を予め低減させることができる。その結果、焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙を生じさせることなく、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となり、保磁力が低下することを防止できる。また、焼結後の磁石の主相内にαFeが多数析出することなく、磁石特性を大きく低下させることがない。
【0019】
また、請求項2に記載の永久磁石によれば、永久磁石の製造工程である湿式粉砕において有機溶媒が混入された磁石粉末を、焼結前に大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼することにより、磁石粒子の含有する炭素量を予め低減させることができる。その結果、焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙を生じさせることなく、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となり、保磁力が低下することを防止できる。また、焼結後の磁石の主相内にαFeが多数析出することなく、磁石特性を大きく低下させることがない。
更に、粉末状の磁石粒子に対して仮焼を行うので、成形後の磁石粒子に対して仮焼を行う場合と比較して、有機化合物の熱分解を磁石粒子全体に対してより容易に行うことができる。即ち、仮焼体中の炭素量をより確実に低減させることが可能となる。
【0020】
また、請求項3に記載の永久磁石によれば、成形体を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で成形体を所定時間保持することにより行うので、有機金属化合物を確実に熱分解させて含有する炭素を必要量以上焼失させることができる。
【0021】
また、請求項4に記載の永久磁石によれば、磁石粉末を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で磁石粉末を所定時間保持することにより行うので、有機金属化合物を確実に熱分解させて含有する炭素を必要量以上焼失させることができる。
【0022】
また、請求項5に記載の永久磁石によれば、焼結後に残存する炭素量が400ppm以下であるので、磁石の主相と粒界相との間に空隙が生じることなく、また、磁石全体を緻密に焼結した状態とすることが可能となり、残留磁束密度が低下することを防止できる。また、焼結後の磁石の主相内にαFeが多数析出することなく、磁石特性を大きく低下させることがない。
【0023】
また、請求項6に記載の永久磁石の製造方法によれば、湿式粉砕において有機溶媒が混入された磁石粉末の成形体を、焼結前に大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼することにより、磁石粒子の含有する炭素量を予め低減させることができる。その結果、焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙を生じさせることなく、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となり、保磁力が低下することを防止できる。また、焼結後の磁石の主相内にαFeが多数析出することなく、磁石特性を大きく低下させることがない。
【0024】
また、請求項7に記載の永久磁石の製造方法によれば、湿式粉砕において有機溶媒が混入された磁石粉末を、焼結前に大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼することにより、磁石粒子の含有する炭素量を予め低減させることができる。その結果、焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙を生じさせることなく、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となり、保磁力が低下することを防止できる。また、焼結後の磁石の主相内にαFeが多数析出することなく、磁石特性を大きく低下させることがない。
更に、粉末状の磁石粒子に対して仮焼を行うので、成形後の磁石粒子に対して仮焼を行う場合と比較して、有機化合物の熱分解を磁石粒子全体に対してより容易に行うことができる。即ち、仮焼体中の炭素量をより確実に低減させることが可能となる。
【0025】
また、請求項8に記載の永久磁石の製造方法によれば、成形体を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で成形体を所定時間保持することにより行うので、有機金属化合物を確実に熱分解させて含有する炭素を必要量以上焼失させることができる。
【0026】
更に、請求項9に記載の永久磁石の製造方法によれば、磁石粉末を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で磁石粉末を所定時間保持することにより行うので、有機金属化合物を確実に熱分解させて含有する炭素を必要量以上焼失させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る永久磁石を示した全体図である。
【図2】本発明に係る永久磁石の粒界付近を拡大して示した模式図である。
【図3】本発明に係る永久磁石の第1の製造方法における製造工程を示した説明図である。
【図4】本発明に係る永久磁石の第2の製造方法における製造工程を示した説明図である。
【図5】水素中仮焼処理を行った場合と行わなかった場合の酸素量の変化を示した図である。
【図6】実施例と比較例の永久磁石の永久磁石中の残存炭素量を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る永久磁石及び永久磁石の製造方法について具体化した実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0029】
[永久磁石の構成]
先ず、本発明に係る永久磁石1の構成について説明する。図1は本発明に係る永久磁石1を示した全体図である。尚、図1に示す永久磁石1は円柱形状を備えるが、永久磁石1の形状は成形に用いるキャビティの形状によって変化する。
本発明に係る永久磁石1としては例えばNd−Fe−B系磁石を用いる。また、図2に示すように、永久磁石1は磁化作用に寄与する磁性相である主相11と、非磁性で希土類元素の濃縮した低融点のNdリッチ相12とが共存する合金である。図2は永久磁石1を構成するNd磁石粒子を拡大して示した図である。
【0030】
ここで、主相11は化学量論組成であるNdFe14B金属間化合物相(Feは部分的にCoで置換しても良い)が高い体積割合を占めた状態となる。一方、Ndリッチ相12は同じく化学量論組成であるNdFe14B(Feは部分的にCoで置換しても良い)よりNdの組成比率が多い金属間化合物相(例えば、Nd2.0〜3.0Fe14B金属間化合物相)からなる。また、Ndリッチ相12には磁気特性向上の為、Dy、Tb、Co、Cu、Al、Si等の他元素を少量含んでも良い。
【0031】
そして、永久磁石1において、Ndリッチ相12は、以下のような役割を担っている。
(1)融点が低く(約600℃)、焼結時に液相となり、磁石の高密度化、即ち磁化の向上に寄与する。(2)粒界の凹凸を無くし、逆磁区のニュークリエーションサイトを減少させ保磁力を高める。(3)主相を磁気的に絶縁し保磁力を増加する。
従って、焼結後の永久磁石1中におけるNdリッチ相12の分散状態が悪いと、局部的な焼結不良、磁性の低下をまねくため、焼結後の永久磁石1中にはNdリッチ相12が均一に分散していることが重要となる。
【0032】
また、Nd−Fe−B系磁石の製造において生じる問題として、焼結された合金中にαFeが生成することが挙げられる。原因としては、化学量論組成に基づく含有量からなる磁石原料合金を用いて永久磁石を製造した場合に、製造過程で希土類元素が酸素や炭素と結び付き、化学量論組成に対して希土類元素が不足する状態となることが挙げられる。ここで、αFeは、変形能を有し、粉砕されずに粉砕機中に残存するため、合金を粉砕する際の粉砕効率を低下させるだけでなく、粉砕前後での組成変動、粒度分布にも影響を及ぼす。さらに、αFeが、焼結後も磁石中に残存すれば、磁石の磁気特性の低下をもたらす。
【0033】
そして、上述した永久磁石1におけるNdを含む全希土類元素の含有量は、上記化学量論組成に基づく含有量(26.7wt%)よりも0.1wt%〜10.0wt%、より好ましくは0.1wt%〜5.0wt%多い範囲内であることが望ましい。具体的には、各成分の含有量はNd:25〜37wt%、B:0.8〜2wt%、Fe(電解鉄):60〜75wt%とする。永久磁石1中の希土類元素の含有量を上記範囲とすることによって、焼結後の永久磁石1中にNdリッチ相12を均一に分散することが可能となる。また、製造過程で希土類元素が酸素や炭素と結び付いたとしても、化学量論組成に対して希土類元素が不足することなく、焼結後の永久磁石1中にαFeが生成されることを抑制することが可能となる。
【0034】
尚、永久磁石1中の希土類元素の含有量が上記範囲よりも少ない場合には、Ndリッチ相12が形成され難くなる。また、αFeの生成を十分に抑制することができない。一方、永久磁石1中の希土類元素の組成が上記範囲より多い場合には、保磁力の増加が鈍化し、かつ残留磁束密度が低下してしまい、実用的ではない。
【0035】
また、本発明では磁石原料を微小粒径の磁石粉末へと粉砕する際に、有機溶媒に投入された磁石原料を有機溶媒中で粉砕する所謂湿式粉砕を行う。しかし、磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕すると、後に真空乾燥等を行うことによって有機溶媒を揮発させたとしても有機溶媒等の有機化合物が磁石内に残留することとなる。そして、Ndと炭素との反応性が非常に高いため、焼結工程において高温までC含有物が残ると、カーバイドを形成する。その結果、形成されたカーバイドによって焼結後の磁石の主相と粒界相(Ndリッチ相)との間に空隙が生じ、磁石全体を緻密に焼結できずに磁気性能が著しく低下する問題がある。しかしながら、本発明では焼結前に後述の水素仮焼処理を行うことによって、磁石粒子の含有する炭素量を予め低減させることができる。
【0036】
また、主相11の結晶粒径は0.1μm〜5.0μmとすることが望ましい。尚、主相11とNdリッチ相12の構成は、例えばSEMやTEMや3次元アトムプローブ法により確認することができる。
【0037】
また、Ndリッチ相12にDy又はTbを含めれば、DyやTbが粒界の逆磁区の生成を抑制することで、保磁力の向上が可能となる。
【0038】
[永久磁石の製造方法1]
次に、本発明に係る永久磁石1の第1の製造方法について図3を用いて説明する。図3は本発明に係る永久磁石1の第1の製造方法における製造工程を示した説明図である。
【0039】
先ず、所定分率のNd−Fe−B(例えばNd:32.7wt%、Fe(電解鉄):65.96wt%、B:1.34wt%)からなる、インゴットを製造する。その後、インゴットをスタンプミルやクラッシャー等によって200μm程度の大きさに粗粉砕する。若しくは、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製し、水素解砕法で粗粉化する。それによって、粗粉砕磁石粉末31を得る。
【0040】
次いで、粗粉砕磁石粉末31をビーズミルによる湿式法で所定範囲の粒径(例えば0.1μm〜5.0μm)に微粉砕するとともに溶媒中に磁石粉末を分散させ、スラリー42を作製する。尚、湿式粉砕は磁石粉末0.5kgに対してトルエン4kgを溶媒として用いる。
尚、詳細な分散条件は以下の通りである。
・分散装置:ビーズミル
・分散メディア:ジルコニアビーズ
【0041】
また、粉砕に用いる溶媒は有機溶媒であるが、溶媒の種類に特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できる。尚、好ましくは、溶媒中に酸素原子を含まない炭化水素系溶媒が用いられる。
【0042】
その後、生成したスラリー42を成形前に真空乾燥などで事前に乾燥させ、乾燥した磁石粉末43を取り出す。その後、乾燥した磁石粉末を成形装置50により所定形状に圧粉成形する。尚、圧粉成形には、上記の乾燥した微粉末をキャビティに充填する乾式法と、スラリー42を乾燥させずにキャビティに充填する湿式法があるが、本発明では乾式法を用いる場合を例示する。また、有機溶媒は成形後の焼成段階で揮発させることも可能である。
【0043】
図3に示すように、成形装置50は、円筒状のモールド51と、モールド51に対して上下方向に摺動する下パンチ52と、同じくモールド51に対して上下方向に摺動する上パンチ53とを有し、これらに囲まれた空間がキャビティ54を構成する。
また、成形装置50には一対の磁界発生コイル55、56がキャビティ54の上下位置に配置されており、磁力線をキャビティ54に充填された磁石粉末43に印加する。印加させる磁場は例えば1MA/mとする。
【0044】
そして、圧粉成形を行う際には、先ず乾燥した磁石粉末43をキャビティ54に充填する。その後、下パンチ52及び上パンチ53を駆動し、キャビティ54に充填された磁石粉末43に対して矢印61方向に圧力を加え、成形する。また、加圧と同時にキャビティ54に充填された磁石粉末43に対して、加圧方向と平行な矢印62方向に磁界発生コイル55、56によってパルス磁場を印加する。それによって、所望の方向に磁場を配向させる。尚、磁場を配向させる方向は、磁石粉末43から成形される永久磁石1に求められる磁場方向を考慮して決定する必要がある。
また、湿式法を用いる場合には、キャビティ54に磁場を印加しながらスラリーを注入し、注入途中又は注入終了後に、当初の磁場より強い磁場を印加して湿式成形しても良い。また、加圧方向に対して印加方向が垂直となるように磁界発生コイル55、56を配置しても良い。
【0045】
また、上記圧粉成形ではなくグリーンシート成形により成形体を成形しても良い。尚、グリーンシート成形により成形体を成形する方法としては例えば以下のような方法がある。第1の方法としては、粉砕された磁石粉末と有機溶媒とバインダー樹脂とを混合してスラリーを生成し、生成したスラリーをドクターブレード方式やダイ方式やコンマ塗工方式等の各種塗工方式によって基材上に所定厚みで塗工することによりグリーンシートに成形する方法である。また、第2の方法としては、磁石粉末とバインダー樹脂とを混合した粉体混合物をホットメルト塗工により基材上に塗工することによりグリーンシートに成形する方法である。また、第1の方法でグリーンシートを成形する場合には、塗工したスラリーが乾燥する前に磁場を印加することによって磁場配向を行う。一方、第2の方法でグリーンシートを成形する場合には、一旦成形されたグリーンシートを加熱した状態で磁場を印加することによって磁場配向を行う。
【0046】
次に、圧粉成形等により成形された成形体71を大気圧より高い圧力(例えば、0.5MPaや1.0MPa)に加圧した水素雰囲気下において200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜900℃(例えば600℃)で数時間(例えば5時間)保持することにより水素中仮焼処理を行う。仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。この水素中仮焼処理では、残存する有機化合物を熱分解させて、仮焼体中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われる。また、水素中仮焼処理は、仮焼体中の炭素量が1000ppm以下、より好ましくは400ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理で永久磁石1全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。
【0047】
ここで、上述した水素中仮焼処理によって仮焼された成形体71には、NdHが存在し、酸素と結び付きやすくなる問題があるが、第1の製造方法では、成形体71は水素仮焼後に外気と触れさせることなく後述の焼成に移るため、脱水素工程は不要となる。焼成中に成形体中の水素は抜けることとなる。また、上述した水素中仮焼処理を行う際の加圧条件は大気圧より高い圧力であれば良いが、15MPa以下とすることが望ましい。
【0048】
続いて、水素中仮焼処理によって仮焼された成形体71を焼結する焼結処理を行う。尚、成形体71の焼結方法としては、一般的な真空焼結以外に成形体71を加圧した状態で焼結する加圧焼結等も用いることが可能である。例えば、真空焼結で焼結を行う場合には、所定の昇温速度で800℃〜1080℃程度まで昇温し、2時間程度保持する。この間は真空焼成となるが真空度としては5Pa以下、好ましくは10−2Pa以下とすることが好ましい。その後冷却し、再び600℃〜1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
【0049】
一方、加圧焼結としては、例えば、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧(HIP)焼結、超高圧合成焼結、ガス加圧焼結、放電プラズマ(SPS)焼結等がある。但し、焼結時の磁石粒子の粒成長を抑制するとともに焼結後の磁石に生じる反りを抑える為に、一軸方向に加圧する一軸加圧焼結であって且つ通電焼結により焼結するSPS焼結を用いることが好ましい。尚、SPS焼結で焼結を行う場合には、加圧値を30MPaとし、数Pa以下の真空雰囲気で940℃まで10℃/分で上昇させ、その後5分保持することが好ましい。その後冷却し、再び600℃〜1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
【0050】
[永久磁石の製造方法2]
次に、本発明に係る永久磁石1の他の製造方法である第2の製造方法について図4を用いて説明する。図4は本発明に係る永久磁石1の第2の製造方法における製造工程を示した説明図である。
【0051】
尚、スラリー42を生成するまでの工程は、図3を用いて既に説明した第1の製造方法における製造工程と同様であるので説明は省略する。
【0052】
先ず、生成したスラリー42を成形前に真空乾燥などで事前に乾燥させ、乾燥した磁石粉末43を取り出す。その後、乾燥した磁石粉末43を大気圧より高い圧力(例えば、0.5MPaや1.0MPa)に加圧した水素雰囲気下において200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜900℃(例えば600℃)で数時間(例えば5時間)保持することにより水素中仮焼処理を行う。仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。この水素中仮焼処理では、残存する有機化合物を熱分解させて、仮焼体中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われる。また、水素中仮焼処理は、仮焼体中の炭素量が1000ppm以下、より好ましくは400ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理で永久磁石1全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。
【0053】
次に、水素中仮焼処理によって仮焼された粉末状の仮焼体82を真空雰囲気で200℃〜600℃、より好ましくは400℃〜600℃で1〜3時間保持することにより脱水素処理を行う。尚、真空度としては0.1Torr以下とすることが好ましい。
【0054】
ここで、上述した水素中仮焼処理によって仮焼された仮焼体82には、NdHが存在し、酸素と結び付きやすくなる問題がある。
図5は水素中仮焼処理をしたNd磁石粉末と水素中仮焼処理をしていないNd磁石粉末とを、酸素濃度7ppm及び酸素濃度66ppmの雰囲気にそれぞれ暴露した際に、暴露時間に対する磁石粉末内の酸素量を示した図である。図5に示すように水素中仮焼処理した磁石粉末は、高酸素濃度66ppm雰囲気におかれると、約1000secで磁石粉末内の酸素量が0.4%から0.8%まで上昇する。また、低酸素濃度7ppm雰囲気におかれても、約5000secで磁石粉末内の酸素量が0.4%から同じく0.8%まで上昇する。そして、Ndが酸素と結び付くと、残留磁束密度や保磁力の低下の原因となる。
そこで、上記脱水素処理では、水素中仮焼処理によって生成された仮焼体82中のNdH(活性度大)を、NdH(活性度大)→NdH(活性度小)へと段階的に変化させることによって、水素仮焼中処理により活性化された仮焼体82の活性度を低下させる。それによって、水素中仮焼処理によって仮焼された仮焼体82をその後に大気中へと移動させた場合であっても、Ndが酸素と結び付くことを防止し、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。
【0055】
その後、脱水素処理が行われた粉末状の仮焼体82を成形装置50により所定形状に圧粉成形する。成形装置50の詳細については図3を用いて既に説明した第1の製造方法における製造工程と同様であるので説明は省略する。
【0056】
その後、成形された仮焼体82を焼結する焼結処理を行う。尚、焼結処理は、上述した第1の製造方法と同様に、真空焼結や加圧焼結等により行う。焼結条件の詳細については既に説明した第1の製造方法における製造工程と同様であるので説明は省略する。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
【0057】
尚、上述した第2の製造方法では、粉末状の磁石粒子に対して水素中仮焼処理を行うので、成形後の磁石粒子に対して水素中仮焼処理を行う前記第1の製造方法と比較して、残存する有機化合物の熱分解を磁石粒子全体に対してより容易に行うことができる利点がある。即ち、前記第1の製造方法と比較して仮焼体中の炭素量をより確実に低減させることが可能となる。
一方、第1の製造方法では、成形体71は水素仮焼後に外気と触れさせることなく焼成に移るため、脱水素工程は不要となる。従って、前記第2の製造方法と比較して製造工程を簡略化することが可能となる。但し、前記第2の製造方法においても、水素仮焼後に外気と触れさせることがなく焼成を行う場合には、脱水素工程は不要となる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の実施例について比較例と比較しつつ説明する。
(実施例1)
実施例1のネオジム磁石粉末の合金組成は、化学量論組成に基づく分率(Nd:26.7wt%、Fe(電解鉄):72.3wt%、B:1.0wt%)よりもNdの比率を高くし、例えばwt%でNd/Fe/B=32.7/65.96/1.34とする。また、湿式粉砕を行う際の有機溶媒としてトルエンを用いた。また、仮焼処理は、成形前の磁石粉末を大気圧(尚、本実施例では特に製造時の大気圧が標準大気圧(約0.1MPa)であると仮定する)より高い0.5MPaに加圧した水素雰囲気下において600℃で5時間保持することにより行った。そして、仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。また、成形された仮焼体の焼結は真空焼結により行った。尚、他の工程は上述した[永久磁石の製造方法2]と同様の工程とする。
【0059】
(比較例1)
湿式粉砕を行う際の有機溶媒としてトルエンを用いた。また、水素中仮焼処理を大気圧(0.1MPa)の水素雰囲気下で行った。そして、成形された磁石粉末を真空焼結により焼結した。他の条件は実施例1と同様である。
【0060】
(比較例2)
湿式粉砕を行う際の有機溶媒としてトルエンを用いた。また、湿式粉砕後の磁石粉末に対して水素中仮焼処理を行わずに成形した。そして、成形された磁石粉末を真空焼結により焼結した。他の条件は実施例1と同様である。
【0061】
(実施例と比較例の残炭素量の比較検討)
図6は実施例1と比較例1、2の永久磁石の永久磁石中の残存炭素量[ppm]をそれぞれ示した図である。
図6に示すように、実施例1と比較例1、2とを比較すると、水素中仮焼処理を行った場合は、水素中仮焼処理を行わない場合と比較して、磁石粒子中の炭素量を大きく低減させることができることが分かる。特に、実施例1では、磁石粒子中に残存する炭素量を400ppm以下とすることができる。即ち、水素中仮焼処理によって有機化合物を熱分解させて、仮焼体中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンを行うことが可能となることが分かる。その結果として、磁石全体の緻密焼結や保磁力の低下を防止することが可能となる。
また、実施例1と比較例1とを比較すると、同一の有機溶媒を用いているにもかかわらず、水素中仮焼処理を大気圧より高い加圧雰囲気下で行った場合は、大気圧下で行った場合と比較して、磁石粒子中の炭素量を更に低減させることができることが分かる。即ち、水素中仮焼処理を行うことによって、有機化合物を熱分解させて、仮焼体中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンを行うことが可能となるとともに、その水素中仮焼処理を大気圧より高い加圧雰囲気下で行うことにより、水素中仮焼処理において脱カーボンをより容易に行うことが可能となることが分かる。その結果として、磁石全体の緻密焼結や保磁力の低下を防止することが可能となる。
【0062】
尚、上記実施例1及び比較例1、2は、[永久磁石の製造方法2]の工程で製造された永久磁石を用いたが、[永久磁石の製造方法1]の工程で製造された永久磁石を用いた場合でも同様の結果を得られる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1の製造方法では、粗粉砕された磁石粉末を、溶媒中でビーズミルにより粉砕し、その後、圧粉成形した成形体を大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下において200℃〜900℃で数時間保持することにより水素中仮焼処理を行う。続いて、800℃〜1180℃で焼成を行うことによって永久磁石1を製造する。それにより、磁石原料を有機溶媒を用いて湿式粉砕した場合であっても、焼結前に残存する有機化合物を熱分解させて磁石粒子中に含有する炭素を予め焼失(炭素量を低減)させることができ、焼結工程でカーバイドがほとんど形成されることがない。その結果、焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙を生じさせることなく、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となり、保磁力が低下することを防止できる。また、焼結後の磁石の主相内にαFeが多数析出することなく、磁石特性を大きく低下させることがない。
更に、成形体や磁石粉末を仮焼する工程は、特に200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜900℃の温度範囲で成形体を所定時間保持することにより行うので、磁石粒子中に含有する炭素を必要量以上焼失させることができる。
その結果、焼結後に磁石に残存する炭素量が400ppm以下となるので、磁石の主相と粒界相との間に空隙が生じることなく、また、磁石全体を緻密に焼結した状態とすることが可能となり、残留磁束密度が低下することを防止できる。
また、特に第2の製造方法では、粉末状の磁石粒子に対して仮焼を行うので、成形後の磁石粒子に対して仮焼を行う場合と比較して、残存する有機化合物の熱分解を磁石粒子全体に対してより容易に行うことができる。即ち、仮焼体中の炭素量をより確実に低減させることが可能となる。また、仮焼処理後に脱水素処理を行うことによって、仮焼処理により活性化された仮焼体の活性度を低下させることができる。それにより、その後に磁石粒子が酸素と結び付くことを防止し、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。
【0064】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
また、磁石粉末の粉砕条件、混練条件、仮焼条件、脱水素条件、焼結条件などは上記実施例に記載した条件に限られるものではない。例えば、上記実施例では仮焼処理を0.5MPaに加圧した水素雰囲気下で行っているが、大気圧より高い加圧雰囲気下であれば他の圧力値に設定しても良い。また、実施例では真空焼結により焼結を行っているが、SPS焼結等の加圧焼結により焼結しても良い。
また、脱水素工程については省略しても良い。
【0065】
尚、上記実施例では、磁石粉末を湿式粉砕する手段として湿式ビーズミルを用いているが、他の湿式粉砕方式を用いても良い。例えば、ナノマイザー等を用いても良い。
【符号の説明】
【0066】
1 永久磁石
11 主相
12 Ndリッチ相
42 スラリー
43 磁石粉末
71 成形体
82 仮焼体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕して磁石粉末を得る工程と、
前記磁石粉末を成形することにより成形体を形成する工程と、
前記成形体を大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼して仮焼体を得る工程と、
前記仮焼体を焼結する工程と、
により製造されることを特徴とする永久磁石。
【請求項2】
磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕して磁石粉末を得る工程と、
前記磁石粉末を大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼して仮焼体を得る工程と、
前記仮焼体を成形することにより成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼結する工程と、
により製造されることを特徴とする永久磁石。
【請求項3】
前記成形体を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で前記成形体を所定時間保持することを特徴とする請求項1に記載の永久磁石。
【請求項4】
前記磁石粉末を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で前記磁石粉末を所定時間保持することを特徴とする請求項2に記載の永久磁石。
【請求項5】
焼結後に残存する炭素量が400ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の永久磁石。
【請求項6】
磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕して磁石粉末を得る工程と、
前記磁石粉末を成形することにより成形体を形成する工程と、
前記成形体を大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼して仮焼体を得る工程と、
前記仮焼体を焼結する工程と、
を有することを特徴とする永久磁石の製造方法。
【請求項7】
磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕して磁石粉末を得る工程と、
前記磁石粉末を大気圧より高い圧力に加圧した水素雰囲気下で仮焼して仮焼体を得る工程と、
前記仮焼体を成形することにより成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼結する工程と、
を有することを特徴とする永久磁石の製造方法。
【請求項8】
前記成形体を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で前記成形体を所定時間保持することを特徴とする請求項6に記載の永久磁石の製造方法。
【請求項9】
前記磁石粉末を仮焼する工程は、200℃〜900℃の温度範囲で前記磁石粉末を所定時間保持することを特徴とする請求項7に記載の永久磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−80740(P2013−80740A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218601(P2011−218601)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】