説明

汚泥脱水装置および汚泥脱水方法

【課題】特殊な高分子凝集剤等を用いることなく、固液分離がある程度進んだ凝集汚泥(分離汚泥)に鉄系の高比重無機凝集剤を速やかに且つ確実に注入し、より一層固液分離を促進させて、確実に脱水汚泥の低含水率化やSS回収率の向上を図り、もって遠心分離機の高い固液分離(脱水)性能を安定して発揮させることができる汚泥脱水装置を得ることにある。
【解決手段】外胴ボウル3および内胴スクリュウ4を備え、汚泥を脱水汚泥と分離液とに固液分離する遠心分離機1と、遠心分離機1に汚泥を供給する汚泥供給管14と、内胴スクリュウ4内を延伸して、外胴ボウル3のテーパ部に鉄含有率が高い高比重無機凝集剤を注入するテーパ注入管23とからなる汚泥脱水装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離機により汚泥を脱水する汚泥脱水装置および方法に関するものであり、詳しくは汚泥脱水用の凝集剤として、鉄含有率(T-Fe換算での鉄の濃度)が通常のものより高く、高比重の無機凝集剤を用いるものである。
【背景技術】
【0002】
下水などの有機性廃水やし尿などの有機性廃棄物を固液分離、生物学的処理、物理学的処理等した際に発生する汚泥を、処理・処分・有効利用するためには、効率よく脱水する必要があり、脱水汚泥の低含水率化が求められている。そこで近年、遠心分離機を用いての汚泥処理では、濃縮性能や脱水性能の向上のため、汚泥に各種凝集剤を注入・混合して脱水している。
【0003】
脱水性能の向上のため、汚泥に各種凝集剤を注入・混合して脱水することにより、脱水汚泥の低含水率化を図る方法が数多く開発されており、固液分離機の種類(遠心分離機、ベルトプレス機、スクリュープレス機など)により使用する凝集剤は異なるが、遠心分離機の場合、例えば、通常の「1液法」では高分子凝集剤溶液を、「2液法」では無機凝集剤(ポリ硫酸第二鉄溶液など)および高分子凝集剤溶液を使用し、さらに脱水性能の向上(脱水汚泥の低含水率化)を目指し、特殊な高分子凝集剤や他の薬剤を汚泥に注入・混合することもある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、比較的高価な高分子凝集剤溶液の注入量を増加させずに脱水汚泥の低含水率化を図るため、例えば無機凝集剤の注入量を増加させたり、また遠心分離機の内胴スクリュウに設けられた汚泥供給室に高分子凝集剤溶液を直接注入(高分子機内注入方式)したりして、脱水性能の向上を目指している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
なお、「2液法」における高分子機内注入方式は、予め無機凝集剤を汚泥供給管に注入(ライン注入)して汚泥と混合させ、凝集フロックが生成した汚泥(凝集汚泥)を遠心分離機へ供給し、遠心分離機内を延伸する高分子凝集剤注入管から高分子凝集剤を注入するものであり、脱水性能の向上が図れる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−47800号公報(段落〔0003〕)
【特許文献2】特開平10−500号公報(段落〔0004〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の遠心分離機による汚泥脱水処理では、次のような課題が生じていた。
(1)脱水汚泥の低含水率化やSS回収率向上のために、多種多様な凝集剤を汚泥に多く注入する必要がある場合には、薬品使用量やストック量が増大し、運転コストの上昇を招くばかりか運転管理が煩雑化する。さらに、特殊な高分子凝集剤などを使用する場合には、この傾向が顕著となる。
(2)また、「2液法」において、汚泥に無機凝集剤を注入するが、これにより薬品混合汚泥(凝集汚泥)のpHが低下したりカチオン度が上昇したりするが、この度合いが無機凝集剤の注入量の多少により異なる。これに伴い、適切な高分子凝集剤やその注入量も異なってくるため、最適な高分子凝集剤の選定や注入量の決定など作業が煩雑になる。
(3)さらに、無機凝集剤を多量に注入した場合、薬品混合汚泥(凝集汚泥)のpHが大きく低下してしまい、遠心分離機など機械装置類を腐食させる恐れがある。
(4)そこで、低pH化した薬品混合汚泥を中和させるためにアルカリ薬品(苛性ソーダ溶液)等を薬品混合汚泥に注入すると、さらに運転コストの上昇を招き、運転管理をより一層、煩雑にさせてしまう。
(5)一方、運転コストを増大させず煩雑な運転管理にならないように凝集剤等の使用量を抑えると、分離液の水質(SS回収率)が悪化したり、脱水汚泥の含水率を低減できず、取り扱いづらくなるばかりか、分離物の容積が増大してしまったりして、その後の処理処分に支障を来す(処分費用の増大でランニングコストの高騰を招く)。
(6)また、汚泥への凝集剤等の注入では、適正量を注入したとしても、汚泥と凝集剤等が速やかに且つ効率よく混合して凝集フロックを形成させないと、十分な脱水性能を得ることができないため、確実に汚泥と凝集剤等とを混合させなければならない。
【0008】
遠心分離機を用いた汚泥脱水処理では、各種凝集剤を汚泥に注入するが、遠心分離機が停休止しているとき、無機凝集剤は固まりやすく(流動がない、乾燥が進む)、運転再開時に凝集剤の注入や脱水処理に支障を来す。特に、細孔から無機凝集剤を吐出させる場合、常に細孔の目詰対策をしなければならないという課題があった。
【0009】
一方、脱水処理の終了後に遠心分離機の洗浄と一緒に配管洗浄を行うが、洗浄水は主に汚泥供給管に供給するため、無機凝集剤の注入管や遠心分離機内の汚泥供給室は十分に洗浄できず、十分な洗浄効果を得られない。高速で回転する遠心分離機はバランス調整がとても重要であり、遠心分離機内の洗浄が不十分であるとバランスを崩してしまい重大な事故を招きかねず、効率的に且つ十分に洗浄しなければならないという課題があった。
【0010】
さらに、洗浄効果を上げるために洗浄設備を複数設置すると、建設コストの上昇を招くばかりか、装置が複雑化して運転管理や保守点検が煩雑になってしまうという課題もあった。
【0011】
汚泥脱水処理において、汚泥に予め無機凝集剤が注入されていないと、また汚泥と無機凝集剤とが十分に反応できていないと、分離液の水質(SS回収率)が悪くなり、特に汚泥に高濃度に含まれるリンが除去されず分離液へ移行してリン濃度が高くなり、その結果、水質性状の悪い分離液が排水処理設備に還流して汚濁負荷を増大させるなどの課題があった。
【0012】
そこで、分離液の水質を改善(リン濃度の低減化やSS回収率の向上)するために、無機凝集剤や高分子凝集剤の注入量を増やしたり、汚泥処理量を低減させたりするが、これにより効率的で安定した汚泥処理(脱水汚泥の減量化、運転時間の短縮、運転コストの低減)に支障を来していた。
【0013】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、外胴ボウルと内胴スクリュウとの間に形成されるプールの脱水汚泥排出側へ移行中の固液分離がある程度進んだ凝集汚泥(分離汚泥)に鉄含有率が高い高比重無機凝集剤を効率的に且つ確実に反応させ、またこの無機凝集剤の注入管(テーパ注入管)に給水してこの無機凝集剤を希釈することにより、分離汚泥からより一層分離液を分離させて脱水汚泥の含水率を十分に低下させると共に、無機凝集剤を直接分離汚泥に注入できるため、無機凝集剤の凝集効果を低下させることなく即座に注入でき、遠心分離機の高い固液分離性能を高いレベルで安定して発揮させることができる汚泥脱水装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る汚泥脱水装置は、外胴ボウルおよび内胴スクリュウを備え、汚泥を脱水汚泥と分離液とに固液分離する遠心分離機と、該遠心分離機に汚泥を供給する汚泥供給管と、前記内胴スクリュウ内を延伸して、前記外胴ボウルのテーパ部に鉄含有率が高い高比重無機凝集剤を注入するテーパ注入管とからなるものである。
【0015】
本発明に係る汚泥脱水装置は、前記テーパ注入管に給水する給水管を備えたものである。
【0016】
本発明に係る汚泥脱水方法は、外胴ボウルおよび内胴スクリュウを有する遠心分離機へ汚泥を供給し、前記内胴スクリュウ内を延伸するテーパ注入管で、前記外胴ボウルのテーパ部に鉄含有率が高い高比重無機凝集剤を注入し、汚泥を脱水汚泥と分離液とに固液分離するものである。
【0017】
本発明に係る汚泥脱水方法は、給水管で前記テーパ注入管に給水するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の汚泥脱水装置によれば、外胴ボウルおよび内胴スクリュウを備え、汚泥を脱水汚泥と分離液とに固液分離する遠心分離機と、遠心分離機に汚泥を供給する汚泥供給管と、内胴スクリュウ内を延伸して、外胴ボウルのテーパ部に鉄含有率が高い高比重の無機凝集剤(高比重無機凝集剤)を注入するテーパ注入管とから構成することにより、またテーパ注入管に給水する給水管を備えることにより、次のような幾多の優れた作用効果を奏する。
(1)テーパ注入管を用いて高比重無機凝集剤を直接汚泥供給室内に注入し、外胴ボウルのテーパ部において、脱水汚泥排出側へ移行中の固液分離がある程度進んだ凝集汚泥(分離汚泥)に、高比重無機凝集剤を速やかに且つ確実に注入することができる。
(2)分離汚泥と高比重無機凝集剤とを効率よく反応させることができ、分離汚泥からより一層分離液を分離でき、確実に脱水汚泥の低含水率化が図れる。
(3)高比重無機凝集剤を直接分離汚泥に注入できるので、高比重無機凝集剤の凝集効果を低下させることなく即座に注入でき、遠心分離機の高い固液分離性能を安定して発揮させることができる。特に、大きい遠心効果がかかる外胴ボウルのテーパ部に高比重無機凝集剤を注入するので、通常の無機凝集剤に比べ、速やかに分離汚泥に高比重無機凝集剤を混合(浸透)させることができ、より一層優れた固液分離性能を得ることができる。
(4)高比重無機凝集剤の注入量を容易に調整できるので、高比重無機凝集剤の使用量を節減することができる。このため、運転コストの低減が図れ、また複雑な運転管理を回避できる。
(5)高比重無機凝集剤を、テーパ部を掻き上げられていく分離汚泥へ適正注入するため、凝集汚泥の過度なpH低下を防止でき、遠心分離機等の腐食や劣化を抑制でき、また中和設備を設ける必要がなくなり、設備コスト、運転コスト、維持管理や修繕のコスト等を低減できる。
(6)高比重無機凝集剤を直接分離汚泥に注入するので、汚泥への無機凝集剤注入に伴うpHの低下やカチオン度の上昇を抑制でき、選定された最適な高分子凝集剤を使用し続けることができ、また高分子凝集剤の選定自体も容易になる。
(7)優れた脱水性能を得ることができるため、脱水汚泥をより一層低含水率化させて減容化でき、取扱いが容易であると共に、処理処分に要する作業や費用を軽減することができ、またSS回収率も高いので分離液の水質も良好になる。
【0019】
本発明の汚泥脱水装置では、上述したようにテーパ注入管に給水する給水管を備えたことにより、高比重無機凝集剤を効率よく確実にテーパ注入管内で希釈でき、大きい遠心効果のかかるテーパ部で、分離汚泥へ希釈により増量した高比重無機凝集剤を速やかに且つ広範囲に注入できる。これにより分離汚泥の固液分離が一層進み、脱水工程の終盤での操作(高比重無機凝集剤注入)であるにもかかわらず、分離汚泥から効率的に且つ確実に分離液が分離して、より低い含水率の脱水汚泥を得ることができ、加えて無機凝集剤を効率的に注入できるので、その使用量を抑えることもできる。
また、給水により高比重無機凝集剤を予め希釈して増量させてあるため、この高比重無機凝集剤を、凝集剤流出口を介して分離汚泥へスムーズに、満遍なく注入することができ、短時間で速やかに分離汚泥と高比重無機凝集剤とを反応させることができ、より一層効率的に且つ確実に脱水汚泥の含水率を低下させることができる。
さらに、給水により高比重無機凝集剤を希釈できるため、高濃度の高比重無機凝集剤原液を用いることができ、高比重無機凝集剤タンクや高比重無機凝集剤注入ポンプの小型化が可能であり、設備コストや設置面積の削減に有効である。
【0020】
また、遠心分離機を稼動停止する際に、テーパ注入管へ給水することにより、テーパ注入管、吐出孔、凝集剤流出口など、付着固化しやすい高比重無機凝集剤が接触する部位を確実に洗浄でき、高比重無機凝集剤による目詰まりや閉塞を防止することができ、加えて一般的に低pHの高比重無機凝集剤と接する部位を十分に洗浄できるため、腐食環境から遠心分離機を保護でき、寿命(耐用年数)を延ばすためにも有効であり、さらにバランス調整が難しい遠心分離機に複雑な洗浄設備や複数の簡素な洗浄設備を設ける必要が無く、設備コストの上昇や維持管理作業の増加を抑え、遠心分離機を適切に保守管理でき、安全性を確保することができる。
【0021】
本発明の汚泥脱水装置において、遠心分離機の汚泥供給室には、汚泥供給口、仕切板および凝集剤流出口が設けられていて、テーパ注入管を介して汚泥供給室に注入された高比重無機凝集剤が、プール(脱水汚泥排出側のテーパ部)へ流出しやすい構造とした。つまり、汚泥供給室内の汚泥供給口と凝集剤流出口との間に仕切板を設け、その仕切板の凝集剤流出口側にテーパ注入管の吐出孔を開口させたことにより、吐出孔から汚泥供給室内に注入された高比重無機凝集剤を、汚泥供給室内で拡散させずに、確実に凝集剤流出口に誘導することができる。
これにより、前記仕切板によってスムーズに凝集剤流出口に誘導され流出した高比重無機凝集剤を、分離汚泥に満遍なく注入できるので、分離汚泥と高比重無機凝集剤とを短時間で速やかに反応させることができる。
【0022】
本発明の汚泥脱水装置において、遠心分離機の外胴ボウルに2段テーパを採用することにより、分離汚泥は内胴スクリュウのスクリュウ羽根で圧搾されながら掻き上げられ、またプール容積を大きく取れるので滞留時間が増加し、大きい遠心効果を受ける2段テーパでの滞留時間(遠心効果を受ける時間)を長くとることができ、さらに2段テーパで分離汚泥に高比重無機凝集剤が注入されるので、これらの相乗効果により分離汚泥から効率的に且つ確実に分離液が分離して、より低い含水率の脱水汚泥を得ることができる。
【0023】
本発明の汚泥脱水装置では、汚泥に無機凝集剤注入管を介して予め無機凝集剤や高比重無機凝集剤(無機凝集剤等)をライン注入(前段注入)すると共に高分子凝集剤を注入した場合には、固液分離しやすい強固な凝集フロック(凝集汚泥)を生成でき、遠心分離機における初期段階で高い固液分離性能を発揮でき、処理量も適正に維持できる。また、汚泥に無機凝集剤等を前段注入し、凝集汚泥を形成させておくことにより、高比重無機凝集剤のテーパ注入との相乗効果により、凝集性能や固液分離性能がより向上し、脱水汚泥の低含水率化はもちろんのこと、処理量の増加やSS回収率の向上が図れ、さらに汚泥に含まれるリン成分を不溶性塩にして脱水汚泥と共に排除でき、排水処理施設への汚濁負荷の軽減およびリンの還流抑止も図れる。
【0024】
本発明の汚泥脱水装置では、高比重無機凝集剤タンクに鉄系の無機凝集剤成分(個体、粉体、液体)を供給するフィーダおよび撹拌機を設けた場合には、高比重無機凝集剤を調達しなくても、汎用性の高い通常の無機凝集剤を用いて高比重無機凝集剤を調製・生成することができる。
【0025】
本発明の汚泥脱水装置では、分離液の酸化還元電位を測定するORP(酸化還元電位)計および制御器を設けた場合には、分離液のORP値(高比重無機凝集剤等の注入量や遠心分離機の運転が適正なときは分離液の水質が良好でプラスの値を示し、逆に適正でないときは水質が悪化しマイナスを示す傾向にある)に基づき、汚泥供給ポンプや高比重無機凝集剤注入ポンプなどの機器類や遠心分離機の回転駆動機類を制御器で制御(含インバータ制御)することができ、適正な汚泥の供給、凝集剤の注入、遠心分離機の運転等が可能となり、安定して効率的な汚泥脱水処理(脱水汚泥の低含水率化や高いSS回収率)を行うことができる。
【0026】
本発明の汚泥脱水装置では、遠心分離機を用いて汚泥を脱水する場合に、高比重無機凝集剤の他に高分子凝集剤を汚泥に注入することが望ましい。高分子凝集剤の併用により、汚泥の固形成分を確実に凝集させ、より分離性の高い強固な凝集フロック(凝集汚泥)を作ることができ、効率よく確実に固液分離することができる。高分子凝集剤としては、両性高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤を用いる。
【0027】
また、汚泥に無機凝集剤等を前段注入して微細な凝集フロックを生成させた後、両性高分子凝集剤を注入することにより、更に凝集させて大きく強固な汚泥フロックを生成させることができ、単独で比較的強固な汚泥フロックを生成できるカチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤を用いてもよく、例えば汚泥に無機凝集剤を少なく前段注入した場合にはカチオン系高分子凝集剤を、多く注入した場合にはアニオン系高分子凝集剤を使用することにより、強固な汚泥フロックを生成させることができる。またノニオン系高分子凝集剤は上水汚泥等を脱水処理する場合に有効である。
【0028】
本発明の汚泥脱水方法によれば、外胴ボウルおよび内胴スクリュウを有する遠心分離機へ汚泥を供給し、前記内胴スクリュウ内を延伸するテーパ注入管で、前記外胴ボウルのテーパ部に鉄含有率が高い高比重無機凝集剤を注入し、汚泥を脱水汚泥と分離液とに固液分離することにより、また給水管でテーパ注入管に給水することにより、上述したとおり、本発明の汚泥脱水装置が奏する幾多の優れた作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
<実施の形態1>
図1は本発明の実施の形態1による汚泥脱水装置内の概略的な動作説明図である。
本発明に係る汚泥脱水装置は、汚泥を脱水汚泥と分離液とに固液分離する遠心分離機1と、この遠心分離機1内に、汚泥供給タンク11内の汚泥を供給する汚泥供給管14と、前記遠心分離機1の内胴スクリュウ内を延伸して、外胴ボウルのテーパ部に、高比重無機凝集剤タンク13内の高比重無機凝集剤を注入するテーパ注入管23とを備えた基本構造となっている。
【0030】
本発明に用いられる高比重無機凝集剤は、高い鉄含有率で、高比重の無機凝集剤の水溶液である。この高比重無機凝集剤としては、その比重が1.45〜1.75で、かつ、鉄含有率(T-Fe(トータルFe)換算での鉄の濃度)が12.0%〜16.0%のものが好適であり、成分としてはポリ硫酸第二鉄(〔Fe2(OH)n(SO4)3-n/2〕m)がとくに有効であるが、鉄系の高比重無機凝集剤で上記性状であり、ポリ硫酸第二鉄と同等の効果が得られるものであれば、これに限るものではない。このような比重および鉄含有率の高比重無機凝集剤は、通常の無機凝集剤に比べ、遠心分離機1の遠心効果により汚泥に効率よく混合(浸透)させることができる。
【0031】
次に動作について説明する。
遠心分離機1の運転状態においては、汚泥供給タンク11の汚泥が汚泥供給管14を介して遠心分離機1の汚泥供給室内に供給される。その汚泥供給時には、高比重無機凝集剤タンク13の高比重無機凝集剤が高比重無機凝集剤注入ポンプ24によりテーパ注入管23を介して遠心分離機1の汚泥供給室内に注入される。
【0032】
高比重無機凝集剤は、内胴スクリュウの凝集剤流出口からプールへ流れ出し、スクリュウ羽根により外胴ボウルのテーパ部を掻き上げられ脱水汚泥排出側へ移行中の固液分離がある程度進んだ凝集汚泥(分離汚泥)に注入される。
【0033】
分離汚泥と高比重無機凝集剤とが速やかに混合・反応して、効率よく安定して分離汚泥の固液分離(分離液の分離)が促進され、従来に比べ低い含水率の脱水汚泥を得ることができる。
【0034】
この際、テーパ注入管23を用いることにより、高比重無機凝集剤を遠心分離機1の汚泥供給室内に注入し、外胴ボウルのテーパ部において、分離汚泥に速やかに且つ確実に注入することができる。
【0035】
実施例1.
表1は、鉄含有率が高い高比重の無機凝集剤(鉄系の高比重無機凝集剤)の物性について、他の無機凝集剤(4種類)と比較したものである。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から理解されるように、鉄系の高比重無機凝集剤は、比重が1.45以上と高く、鉄含有率(T-Fe換算での鉄の濃度)も12.0%以上と高い値である。
【0038】
後述する脱水性能の比較実験では、鉄系の高比重無機凝集剤として、比重が1.50〜1.60、鉄含有率(T-Fe換算での鉄の濃度)が12.5%〜14.5%のポリ硫酸第二鉄(〔Fe2(OH)n(SO4)3-n/2〕m)を使用した。
【0039】
<実施の形態2>
図2は本発明の実施の形態2による汚泥脱水装置を示す断面図である。図1の汚泥脱水装置内の概略に基づき、遠心分離機を用いた具体的な構成(実施の形態)を示すものである。
【0040】
本発明に係る汚泥脱水装置は、高比重無機凝集剤と高分子凝集剤とを併用する構造とした点、テーパ注入管23に複数の吐出孔23a,23b、汚泥供給室7に吐出孔23a,23bに対応する複数の仕切板8a,8bおよび凝集剤流出口7b,7cを設けた点で、前記実施の形態1と異なる。なお、吐出孔、仕切板および凝集剤流出口は、それぞれが一つまたは二つ以上でよく、またそれぞれが同数でも異なっていてもよく、それぞれ設ける数はとくに限定されるものではない。
【0041】
具体的には、実施の形態2による汚泥脱水装置は、汚泥を脱水汚泥と分離液とに固液分離する遠心分離機1と、該遠心分離機1に汚泥を供給する汚泥供給管14と、内胴スクリュウ4内を延伸して、外胴ボウル3のテーパ部に高比重無機凝集剤を注入するテーパ注入管23と、前記汚泥供給管14へ高分子凝集剤タンク12内の高分子凝集剤を注入(ライン注入)する高分子凝集剤注入管16とを備えた基本構造となっている。
【0042】
遠心分離機1は、一端側に分離液排出口2aが、他端側に脱水汚泥排出口2bが設けられたケーシング2と、このケーシング2内に回転可能に配設された外胴ボウル3と、この外胴ボウル3内に回転可能に配設された内胴スクリュウ4と、外胴ボウル3および内胴スクリュウ4を回転駆動する回転駆動機5と、外胴ボウル3と内胴スクリュウ4とに回転差を与えるバックドライブモータ6とを備え、外胴ボウル3と内胴スクリュウ4との間にプール(濃縮・脱水ゾーン)10が形成される構造となっている。
【0043】
前記外胴ボウル3は、分離液排出側が円筒形状の直胴部3aとなっており、脱水汚泥排出側がテーパ部(狭径部)となっており、2段テーパ3b,3cとして形成している。この2段テーパ3b,3cは、下方の2段テーパ3bが急傾斜となり、上方の2段テーパ3cが緩傾斜となるように製作されている。
【0044】
このような2段テーパ3b,3cによって、スクリュウ羽根4cによる凝集汚泥への圧搾効果が得られると共に、とくに2段テーパ3bを急傾斜とすることによりプール10の容積が大きくなり、遠心分離機1の機長を抑えつつ、大きい遠心効果を受ける2段テーパ3bでの滞留時間(遠心効果を受ける時間)を長くとることができ、分離汚泥の固液分離に有効である。なお、外胴ボウル3の脱水汚泥排出側に形成されたテーパ部が後述する1段テーパ3d(図5参照)であっても高い固液分離(濃縮・脱水)性能を得ることができる。
【0045】
前記内胴スクリュウ4は、分離液排出側に形成された円筒形状の直胴部4aと、脱水汚泥排出側に形成された内胴テーパ4bと、直胴部4aと内胴テーパ4bの外周に一体形成されたスクリュウ羽根4cを備える。
【0046】
内胴スクリュウ4の内部には、直胴部4aおよび内胴テーパ4bに跨る汚泥供給室7が形成され、該汚泥供給室7には、汚泥供給口7aと凝集剤流出口7b,7cと仕切板8a,8bが設けられている。
【0047】
汚泥供給室7は、汚泥供給口7aを介して前記外胴ボウル3と連通しており、前記凝集剤流出口7b,7cは前記内胴テーパ4bに設けられ、該内胴テーパ4bの内周面には、前記凝集剤流出口7b,7cの近傍の汚泥供給口7a方向に、それぞれ仕切板8a,8bが設けられている。
【0048】
仕切板8a,8bは、通常汚泥供給室7内部にドーナッツ状の形状で設置されており、後述する汚泥供給管14とのクリアランス(間隔)は通常10mm以下に設定される。なお、仕切板8a,8bは、間断のないドーナッツ状のものでも、複数の部材を間隔も持ってドーナッツ状に配列したものでもかまわない。
【0049】
仕切板8a,8bを設置することにより、汚泥供給室7内に後述するテーパ注入管23の吐出孔23a,23bから注入された高比重無機凝集剤が、汚泥供給室7内で拡散することを抑制・防止し、スムーズに凝集剤流出口7b,7cから外胴ボウル3のテーパ部に流出させることができる。
【0050】
前述のように構成された遠心分離機1へは、汚泥供給タンク11から汚泥供給管14を介して、内胴スクリュウ4の汚泥供給室7内に汚泥が供給されるようになっており、この汚泥供給管14には汚泥供給ポンプ15が配設されている。なお、汚泥供給ポンプ15を用いずに流下方式を採用することもできる。
【0051】
高分子凝集剤タンク12は、高分子凝集剤溶液を貯留しており、高分子凝集剤注入管16により汚泥供給管14に接続された構造となっている。高分子凝集剤注入管16には、高分子凝集剤注入ポンプ17、流量計18、開閉弁19のそれぞれが配設されている。
【0052】
実施の形態2の汚泥脱水装置では、高分子凝集剤注入管16を汚泥供給管14に接続して、予め汚泥に高分子凝集剤を供給できるように構成している。つまり、高分子凝集剤の種類によっては汚泥との反応(接触)時間を長くとる必要があるため、高分子凝集剤を汚泥供給管14に注入するライン注入方式を採用して、予め汚泥と高分子凝集剤とが十分に混合して反応できるようにしている。
【0053】
また、遠心分離機1へは、高比重無機凝集剤タンク13からテーパ注入管23を介して、内胴スクリュウ4の汚泥供給室7内に高比重無機凝集剤が注入されるようになっており、このテーパ注入管23の先端付近には、凝集剤流出口7b,7cに対応する位置で開口する吐出孔23a,23bが設けられている。
【0054】
高比重無機凝集剤を注入するテーパ注入管23は、通常パイプ形状で汚泥供給管14の内部を該汚泥供給管14と共に延伸し、汚泥供給室7内で開口する前記吐出孔23a,23bから汚泥供給室7内の凝集剤流出口7b,7cを介して外胴ボウル3のテーパ部へ高比重無機凝集剤を流出させる構造となっている。また、前記汚泥供給管14の先端は、汚泥供給室7内で開口する汚泥供給管開口14aが形成されている。なお、テーパ注入管23には、高比重無機凝集剤注入ポンプ24と流量計25が配設されている。
【0055】
次に動作について説明する。
遠心分離機1の運転状態においては、汚泥供給タンク11の汚泥が汚泥供給ポンプ15により汚泥供給管14を介して遠心分離機1の汚泥供給室7に供給されると共に、高分子凝集剤が高分子凝集剤注入ポンプ17により汚泥供給管14内の汚泥に供給される。
【0056】
高分子凝集剤が混合された汚泥(凝集汚泥)は、汚泥供給口7aからプール10に流出し、強い遠心力を受けて固液分離が進む。そして、高比重無機凝集剤が高比重無機凝集剤注入ポンプ24によりテーパ注入管23の吐出孔23a,23bから汚泥供給室7の凝集剤流出口7b,7cを介して外胴ボウル3のテーパ部に注入(テーパ注入)される。
【0057】
汚泥供給室7の凝集剤流出口7b,7cを介して外胴ボウル3のテーパ部に注入(テーパ注入)された高比重無機凝集剤は、スクリュウ羽根4cにより外胴ボウル3のテーパ部を掻き上げられ脱水汚泥排出側(遠心分離機1の脱水汚泥排出口2b側)へ移行中の固液分離がある程度進んだ凝集汚泥(分離汚泥)に注入される。
【0058】
前記分離汚泥と高比重無機凝集剤とが速やかに混合・反応して、効率よく安定して分離汚泥の固液分離(分離液の分離・低含水率化)が促進され、従来に比べ2〜10ポイント程度低い含水率の脱水汚泥を得ることができる。
【0059】
以上説明した実施の形態2によれば、分離汚泥に高比重凝集剤が速やかに且つ確実に注入(テーパ注入)されるので、大きい遠心効果を受けるテーパ部で高比重無機凝集剤が分離汚泥と素早く反応し、より一層効率よく安定して分離汚泥の固液分離(分離液の分離・低含水率化)が促進されるという効果がある。
【0060】
実施の形態2による汚泥脱水装置では、遠心分離機1を用いて汚泥を脱水する場合に、高比重無機凝集剤の他に高分子凝集剤を汚泥に注入するように構成しているので、この高分子凝集剤の併用により、汚泥の固形成分を確実に凝集させ、より分離性の高い強固な凝集フロック(凝集汚泥)を作ることができ、効率よく確実に固液分離することができる。
【0061】
実施の形態2による汚泥脱水装置において、遠心分離機1の外胴ボウル3に2段テーパを採用することにより、高比重無機凝集剤が注入された分離汚泥は内胴スクリュウ4のスクリュウ羽根4cで圧搾されながら掻き上げられ、また下方の2段テーパ3bを急傾斜とすることによりプール容積を大きく取れるので、また大きい遠心効果を受ける2段テーパでの分離汚泥の滞留時間(遠心効果を受ける時間)を長くとることができ、分離汚泥から効率的に且つ確実に分離液が分離して、より低い含水率の脱水汚泥を得ることができる。
【0062】
実施の形態2による汚泥脱水装置において、遠心分離機1の汚泥供給室7には、仕切板8a,8bおよび凝集剤流出口7b,7cが設けられていて、テーパ注入管23を介して汚泥供給室7に注入された高比重無機凝集剤が、外胴ボウル3のテーパ部に流出しやすい構造としている。
【0063】
これにより、テーパ注入管23の吐出孔23a、23bから汚泥供給室7内に注入された高比重無機凝集剤を、汚泥供給室7内で拡散させずに、確実に凝集剤流出口7b,7cに誘導することができ、そしてスムーズに凝集剤流出口7b,7cに誘導され流出した高比重無機凝集剤を、分離汚泥に満遍なく注入でき、短時間で速やかに反応させることができる。
【0064】
実施例2.
上記実施の形態2による汚泥脱水装置について、表1に示した5種類の無機凝集剤と高分子凝集剤とを併用して、前記5種類の無機凝集剤の脱水性能を調べる比較実験を行った。表2には、遠心分離機の運転条件、凝集剤の注入率および実験結果を示した。
【0065】
【表2】

【0066】
この比較実験では下水処理場の消化汚泥(汚泥濃度:1.52〜1.70%)を用いて、高分子凝集剤(ライン注入)と異なる種類の無機凝集剤(5種:通常の鉄系、低比重の鉄系、高比重の鉄系、塩化アルミニウム系および硫酸アルミニウム系の無機凝集剤のテーパ注入)を併用した場合の脱水性能を調べた。
【0067】
遠心分離機の運転条件は、ほぼ一定(遠心効果:2000G、差速:1.2〜2.0min-1、高分子凝集剤の注入率:1.41〜1.58%TS)とした。
【0068】
表2から理解されるように、高比重の鉄系無機凝集剤(ポリ硫酸第二鉄)をテーパ注入することにより、分離液のSS濃度が安定して低い値を示しており、つまり十分に固形物を回収できた(固形物回収率:99.7%以上)。さらに、消費電力も1.12〜1.16kWh/m3であり、他の無機凝集剤と同等以上の省エネルギー効果および温室効果ガスの排出低減効果が得られた。
【0069】
特に、脱水性能で重要な脱水汚泥の含水率については、表2のデータに基づき図7に実験結果を示した。なお、図7(無機凝集剤注入率に対する脱水汚泥含水率の比較図)において、通常の鉄系無機凝集剤の結果を■(黒四角)で、本発明にかかる高比重の鉄系無機凝集剤の結果を●(黒丸)で、低比重の鉄系無機凝集剤の結果を▲(黒三角)で、ポリ塩化アルミニウム系(PAC)無機凝集剤の結果を○(白丸)で、ポリ硫酸アルミニウム系(硫酸バンド)無機凝集剤の結果を△(白三角)で示した。
【0070】
図7から理解されるように、高比重の鉄系無機凝集剤をテーパ注入した場合には、脱水汚泥の含水率は、他の無機凝集剤に比べて明らかに低い値を示しており、通常の運転条件である無機凝集剤の注入率(35%/TS)では、脱水汚泥の含水率が66%台を示しており、昨今の目標である含水率70%以下を容易に達成することができ、とても優れた脱水性能を得ることができた。
【0071】
さらに、通常の運転条件より高い無機凝集剤の注入率(47.5%/TS)にした場合には、脱水汚泥の含水率はなんと61%台にすることができ、他の凝集剤や他の汚泥処理機器の追随を許さない非常に優れた脱水性能を発揮させることができた。
【0072】
このように、高比重の鉄系無機凝集剤をテーパ注入して遠心分離することにより、効率よく安定して脱水汚泥の含水率を低減化することができるので、汚泥の減量化に大変有効であると共に、その後の脱水汚泥の処理処分も容易になり、SS回収率や消費電力の良好な結果と合わせ、非常に高効率・省エネルギーであり、温室効果ガスの削減に十分寄与することができる。
【0073】
<実施の形態3>
図3は本発明の実施の形態3による汚泥脱水装置を示す断面図である。図2と同一構成要素には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0074】
実施の形態3による汚泥脱水装置は、汚泥供給室7内で開口する高分子凝集剤吐出口16aが設けられた高分子凝集剤注入管16を汚泥供給管14内に延伸させた点、複数の吐出孔23a,23b,23cとそれらに対応する複数の仕切板8a,8b,8cおよび凝集剤流出口7b,7c,7dを設けた点、テーパ注入管23に給水する給水管26を設けた点、この給水管26に定量給水できるように自動開閉弁27や給水ポンプ28を設けた点で、前記実施の形態2と大きく異なる。なお、自動開閉弁27に代えて、水量を手動的に調節できる開閉弁を設けてもよい。また、テーパ注入管にも、給水管が接続する箇所と高比重無機凝集剤注入ポンプ24との間に開閉弁30(自動手動を問わず)を備えておくことが望ましい。
【0075】
給水管26が接続されたテーパ注入管23は、汚泥供給管14内に延伸して、吐出孔23a,23b,23cが前述のように内胴テーパ4bに設けられた凝集剤流出口7b,7c,7dに対応する位置で開口している。前記給水管26によってテーパ注入管23に給水する目的は、主に遠心分離機1を運転している際の高比重無機凝集剤の希釈および遠心分離機1を停止させる際の洗浄である。
【0076】
遠心分離機1による汚泥脱水処理において、遠心分離機1へ高比重無機凝集剤の注入する場合、テーパ注入管23を用いて外胴ボウル3のテーパ部に高比重無機凝集剤を注入するが、テーパ注入管23による無機凝集剤注入率を例えば500ppmとすると、供給する汚泥1m3に対して500mlとわずかな量しか注入されない。こうした場合、注入された高比重無機凝集剤が速やかに分離汚泥に行き渡り(浸透し)、効率よく混合することは難しい。つまり局所的な高比重無機凝集剤の注入となり、十分に分離汚泥を固液分離することができなくなり、汚泥脱水処理に支障を来たしかねない。
【0077】
そこで、テーパ注入管23に給水管26を接続して給水し、注入される高比重無機凝集剤を希釈(通常2〜10倍希釈)して増量させることにより、外胴ボウル3のテーパ部を掻き上げられていく分離汚泥に高比重無機凝集剤が速やかに満遍なく行き渡って混合し、良好な脱水性能が得られ、十分に効率よく分離汚泥を脱水することができる。
【0078】
なお、テーパ注入管23は、通常パイプ形状で汚泥供給管14の内部を延伸し、汚泥供給室7内で開口する吐出孔23a,23b,23cから汚泥供給室7内の凝集剤流出口7b,7c,7dを介して外胴ボウル3のテーパ部へ、給水により希釈された高比重無機凝集剤(以下「希釈液」という)を注入する構造となっている。
【0079】
また、汚泥供給管14内に、高分子凝集剤注入管16とテーパ注入管23を内蔵させ延伸させる配管構造でもよいが、2重管を採用して、内管を汚泥供給管14とし、外管(ドーナッツ状)を仕切りで分割して、一方を高分子凝集剤注入管16(半円状)とし、他方をテーパ注入管23(半円状)とする配管構造でもよい。これにより、汚泥供給管14内部に異物(注入管)が存在せず、また単純な配管構造となるため、遠心分離機1内や管内が洗浄しやすく閉塞等の問題も防止できる。
【0080】
なお、汚泥供給管14と高分子凝集剤注入管16とテーパ注入管23の配管構造は、これに限るものではなく、汚泥と区分けして各凝集剤を安全に且つ適切に供給・注入できれば他の構造でも差し支えない。さらに、汚泥供給室7内で高分子凝集剤を広範(放射状)に供給したい場合には、前記2重管構造として、高分子凝集剤注入管16(半円状)の先端を封じて、管先端付近の周囲に複数の高分子凝集剤吐出口16aを設けてもよく、これにより高分子凝集剤を多方向に供給することができる。
【0081】
次に動作について説明する。
遠心分離機1の運転状態において、汚泥供給タンク11の汚泥が汚泥供給ポンプ15により汚泥供給管14を介して汚泥供給室7に供給されると共に、該汚泥供給室7には高分子凝集剤注入管16の高分子凝集剤吐出口16aから高分子凝集剤が注入(機内注入)される。
【0082】
汚泥供給室7内で高分子凝集剤と混合した汚泥(凝集汚泥)は、汚泥供給口7aからプール10に流出し、大きい遠心効果を受けて固液分離が進む。その後、希釈液がテーパ注入管23の吐出孔23a,23b,23cから汚泥供給室7(内胴テーパ4b付近)に注入される。注入された希釈液は、内胴スクリュウ4の凝集剤流出口7b,7c,7dから外胴ボウル3のテーパ部へ流出し、分離汚泥に注入される。これにより、分離汚泥と希釈液とが速やかに混合・反応して、効率よく安定して分離汚泥の固液分離(分離液の分離・低含水率化)が促進され、従来に比べ2〜10ポイント程度低い含水率の脱水汚泥を得ることができる。
【0083】
このように、前記テーパ注入管23内を流れる高比重無機凝集剤は、給水管26からの給水により希釈されて増量し、(希釈液は)前記凝集剤流出口7b,7c,7dから速やかに且つ広範囲に分離汚泥に注入されるため、分離汚泥と高比重無機凝集剤とが効率よく接触して反応し、高比重無機凝集剤の無駄を省いた効率的な脱水処理が可能となる。また、遠心分離機1の運転中に前記給水を常時行うことで、高比重無機凝集剤の付着固化を抑制でき、目詰りによる閉塞の防止や装置の長寿命化に貢献できる。
【0084】
一方、遠心分離機の洗浄では、主に遠心分離機1が稼動(脱水処理)を停止する際に、汚泥供給管14に洗浄水を供給し、汚泥供給管14と共に遠心分離機1内の汚泥供給室7やプール10等を洗浄する。
【0085】
しかしながら、このような洗浄は、遠心分離機1内や汚泥供給管14内に残存する汚泥の排除(汚泥の清掃)が主目的であり、凝集剤注入系統の洗浄(付着固化しやすい高比重無機凝集剤の洗い流し)がなかなか行えない。特に、テーパ注入管23の吐出孔23a,23b,23cや内胴テーパ4bに設けられた凝集剤流出口7b,7c,7dは、汚泥供給室7内に設けられた仕切板8a,8b,8cにより仕切られていることもあり、通常の洗浄では付着した汚泥の清掃や高比重無機凝集剤の洗い流しを十分に行えない。
【0086】
そこで、安定した汚泥脱水処理および機械装置類の保守管理のために、テーパ注入管23に給水し、凝集剤注入系統(主にテーパ注入管、吐出孔、凝集剤流出口)等を確実に且つ十分に洗浄することができる。
【0087】
このように実施の形態3では、テーパ注入される高比重無機凝集剤は、予めテーパ注入管23へ給水管26から給水することにより希釈されて増量し、この希釈液がテーパ注入管23に設けられた複数の吐出孔23a,23b,23cから吐出し、内胴テーパ4bに設けられた7b,7c,7dから外胴ボウル3のテーパ部に流出するので、分離汚泥に対して速やかに且つ広範囲に希釈液を注入することができるという効果がある。
【0088】
これにより分離汚泥の固液分離が一層進み、脱水工程の終盤での操作(希釈液のテーパ注入)であるにもかかわらず、分離汚泥から効率的に且つ確実に分離液が分離して、より低い含水率の脱水汚泥を得ることができ、加えて高比重無機凝集剤を効率的に注入できるので使用量を抑えることもできる。
【0089】
実施の形態3によれば、遠心分離機1を稼動停止する際に、テーパ注入管23へ給水することにより、テーパ注入管、吐出孔、凝集剤流出口など、付着固化しやすい高比重無機凝集剤が接触する部位を確実に洗浄でき、高比重無機凝集剤による目詰まりや閉塞を防止することができ、加えて一般的に低pHの高比重無機凝集剤と接する部位を十分に洗浄できるため、腐食環境から遠心分離機を保護でき、寿命(耐用年数)を延ばすためにも有効であり、さらにバランス調整が難しい遠心分離機に複雑な洗浄設備や複数の簡素な洗浄設備を設ける必要が無く、設備コストの上昇や維持管理作業の増加を抑え、遠心分離機を適切に保守管理でき、安全性を確保することができる。
【0090】
なお、通常外胴ボウル3のテーパ部を掻き上げられていく分離汚泥に高比重無機凝集剤(希釈液)を注入するが、汚泥性状や処理状況によっては、直胴部3a寄りに高比重無機凝集剤(希釈液)を注入してもよく、これによりプール10内の凝集汚泥の固液分離や分離液の水質を向上させることができる。
【0091】
<実施の形態4>
図4は本発明の実施の形態4による汚泥脱水装置を示す断面であり、図3と同一の構成要素には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0092】
実施の形態4の汚泥脱水装置は、前記実施の形態3と同様に、希釈液をテーパ注入している点で共通しているが、汚泥供給管14に、無機凝集剤を注入(前段注入)するように構成した点で、前記実施の形態3と異なる。
【0093】
実施の形態4では、高比重無機凝集剤タンク13とは別に無機凝集剤タンク13Aを備え、この無機凝集剤タンク13Aから伸びる無機凝集剤注入管20を汚泥供給管14(汚泥供給ポンプ15の前後)に接続し、無機凝集剤注入管20には無機凝集剤注入ポンプ21と流量計22が設けられている。これらの各要素は、汚泥供給管14内の汚泥に無機凝集剤を前段注入(ライン注入)する手段を構成している。
【0094】
ここで、前段注入(ライン注入)について説明すると、汚泥に予め無機凝集剤が供給されていない場合、また汚泥と注入した無機凝集剤とが十分に反応できない場合、分離液の清澄性(SS回収率)が悪くなったり、汚泥に含まれるリンが除去されず分離液へ移行してリン濃度が高くなったりするなど、分離液の水質が悪化することがある。
【0095】
そこで、実施の形態4では、上述したように、遠心分離機1内に供給される前の汚泥に予め無機凝集剤を注入する前段注入方式により、汚泥供給管14内で汚泥と無機凝集剤とを混合させ、汚泥供給管14内では汚泥と無機凝集剤とが十分に接触できる時間を確保して反応させられるので、汚泥が遠心分離機1内に供給される前の段階で、無機凝集剤による凝集作用により、固液分離しやすい強固な凝集フロック(凝集汚泥)を形成することができ、さらに汚泥に含まれるリンが無機凝集剤と反応して不溶性塩になり、脱水汚泥に取り込まれて排出されるため、分離液のリン濃度を十分に低減させることができる。
【0096】
この実施の形態4による汚泥脱水装置では、無機凝集剤を前段注入(ライン注入)し、高比重無機凝集剤をテーパ注入しているが、高比重無機凝集剤を汚泥に前段注入してもよい。この場合、無機凝集剤タンク13Aを設けずに、高比重無機凝集剤タンク13から汚泥供給管14に延伸する注入管(図示せず)を配設して、汚泥供給管14に高比重無機凝集剤を注入するか、無機凝集剤タンク13Aに高比重無機凝集剤を貯留し、無機凝集剤注入管20を介して高比重無機凝集剤を汚泥供給管14に注入するようにしてもよい。
【0097】
実施の形態4において、前段注入される無機凝集剤や高比重無機凝集剤(無機凝集剤等)は、その種類により異なる特徴を活かし、汚泥性状や運転処理条件等に合わせ、併用された場合に汚泥の脱水状態に与える影響等を考慮して選択されることが望ましい。
【0098】
無機凝集剤としては、例えば、ポリ硫酸第二鉄、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸アルミニウムなどが知られている。ポリ硫酸第二鉄は比較的比重が大きく遠心分離機による汚泥脱水処理等に有効であるが、pHが低く緩衝能も大きいため、凝集汚泥のpHを低下させやすい。遠心分離技術(装置面や凝集性能面など)から考慮すると、遠心分離機1本体、凝集汚泥、脱水汚泥、分離液のいずれも、pHは中性付近が望ましい。この点からすると、ポリ塩化アルミニウムはポリ硫酸第二鉄に比べて比重が小さく、脱水性能(低含水率化)はポリ硫酸第二鉄にやや劣るが、pHの緩衝能が小さく凝集汚泥のpHを低下させにくいため、pH低下抑制には有効である。ポリ硫酸アルミニウムは、ポリ塩化アルミニウムに比べて比重がやや大きい。
【0099】
これらの無機凝集剤を用いることにより、汚泥の固形成分を確実に凝集させ、分離性の高い凝集フロック(凝集汚泥)を作ることができると共に、汚泥に含まれるリン成分と反応して不溶性塩にして除去することができる。
【0100】
つまり、無機凝集剤の脱水に与える影響としては、例えばpHが低いポリ硫酸第二鉄を用いた場合、脱水汚泥含水率の低下には効力を発揮するが、汚泥のpHも低いと、pH低下を抑える必要があり、注入量(率)を抑制しなければならない。一方、ポリ塩化アルミニウムを用いた場合、凝集汚泥のpHはそれほど低下せず、適切に注入できるが、脱水汚泥の含水率はポリ硫酸第二鉄を用いた場合に比べ低下しない。
【0101】
無機凝集剤等を前段注入する場合、例えば汚泥のpHが低いときは、ポリ塩化アルミニウムを用いて汚泥のpH低下を抑制しつつ、凝集効果やリン除去等の処理性能を確保し、テーパ注入する高比重無機凝集剤として高比重のポリ硫酸第二鉄を用いて、脱水汚泥の含水率を一層低下させ、以って安定して効率的な汚泥の脱水処理を可能とする。
【0102】
実施の形態4による汚泥脱水装置では、無機凝集剤の持つそれぞれの特徴を活かし、汚泥性状や運転処理条件等に合わせて選択された無機凝集剤等を前段注入することにより、優れた脱水性能、脱水汚泥の低含水率化、分離液の良質化を得ることができる。
【0103】
次に動作について説明する。
遠心分離機1の運転状態においては、汚泥供給タンク11の汚泥が汚泥供給ポンプ15により汚泥供給管14を介して汚泥供給室7に供給され、無機凝集剤タンク13Aの無機凝集剤等が無機凝集剤注入ポンプ21により無機凝集剤注入管20を介して汚泥供給管14に前段注入される。前段注入された無機凝集剤等は、汚泥供給管14内で汚泥と混合し、さらに高分子凝集剤注入管16の高分子凝集剤吐出口16aから注入(機内注入)された高分子凝集剤と汚泥供給室7で混合する。これにより、汚泥供給室7内で高分子凝集剤と混合した汚泥(凝集汚泥)は、汚泥供給口7aからプール10に流出し、大きい遠心効果を受けて固液分離が進む。
【0104】
その後、給水管26からの給水によりテーパ注入管23内で希釈されて増量した高比重無機凝集剤(希釈液)が、テーパ注入管23の吐出孔23a,23bから汚泥供給室7(内胴テーパ4b付近)に注入され、凝集剤流出口7b,7cから外胴ボウル3のテーパ部へ流出し、外胴ボウル3のテーパ部を掻き上げられていく分離汚泥に注入される。そして速やかに分離汚泥と希釈液とが混合・反応して、効率よく安定して分離汚泥の固液分離(分離液の分離・低含水率化)が促進される。
【0105】
このように実施の形態4による汚泥脱水装置では、汚泥供給管14内の汚泥に無機凝集剤等を前段注入でき、その後に供給される高分子凝集剤との相乗効果により、大きく強固な凝集フロックを生成でき、遠心分離機1での固液分離性能を一層高め、また分離液の清澄性が増したり(SS回収率の向上)、分離液からリン(富栄養化物質)が除去できたりするなど脱水分離液の水質が向上し、さらにテーパ注入管23から希釈液をすることで、飛躍的に脱水汚泥の含水率を低下させることができる。
【0106】
以上説明した実施の形態4によれば、汚泥に無機凝集剤注入管20を介して予め無機凝集剤等を注入(前段注入)することにより、固液分離しやすい強固な凝集フロック(凝集汚泥)を生成でき、遠心分離機1における初期段階で高い固液分離性能を発揮でき、処理量も適正に維持できる。
【0107】
また、汚泥に無機凝集剤等を前段注入し、凝集フロック(凝集汚泥)を形成させておくことにより、希釈液のテーパ注入との相乗効果により、凝集性能や固液分離性能がより向上し、脱水汚泥の低含水率化はもちろんのこと、処理量の増加やSS回収率の向上が図れ、さらに汚泥に含まれるリン成分を不溶性塩にして脱水汚泥と共に排除でき、排水処理施設への汚濁負荷の軽減およびリンの還流抑止も図れる。
【0108】
実施の形態4では、汚泥に無機凝集剤等を前段注入して微細な凝集フロックを生成させた後、高分子凝集剤(例えば両性高分子凝集剤)を注入することにより、更に凝集させて大きく強固な汚泥フロックを生成させることができる。
【0109】
<実施の形態5>
図5は本発明の実施の形態5による汚泥脱水装置を示す断面であり、図2と同一の構成要素には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0110】
この実施の形態5の汚泥脱水装置は、高比重無機凝集剤タンク13にフィーダ31と撹拌機32を配設した点、外胴ボウル3の脱水汚泥排出側に形成されたテーパ部を1段テーパ3dとした点、吐出孔23aとそれに対応する仕切板8および凝集剤流出口7bを設けた点で、前記実施の形態2と異なる。
【0111】
フィーダ31は、高比重無機凝集剤タンク13に無機凝集剤成分(固体、粉体、液体)を供給するものであり、撹拌機32は、供給された無機凝集剤成分を撹拌・溶解するものである。
【0112】
実施の形態5によれば、フィーダ31と撹拌機32を設けたことにより、高比重無機凝集剤を調達しなくても、汎用性の高い通常の無機凝集剤を用いて高比重無機凝集剤を調製・生成することができ、また任意に比重や濃度(鉄含有率など)を変えることができる。
【0113】
この実施の形態5では、外胴ボウル3の脱水汚泥排出側に形成されたテーパ部を1段テーパ3dとしている。この場合、1段テーパ3dであっても、外胴ボウル3のテーパ部を掻き上げられていく分離汚泥と高比重無機凝集剤との接触時間を十分に確保できるので、高い固液分離(濃縮・脱水)性能を得ることができる。なお、外胴ボウル3のテーパ部としては、処理対象の汚泥や処理量などにより、1段テーパ3dと図2に示した2段テーパ3b,3cを適宜選択して採用すればよい。
【0114】
実施の形態5では、吐出孔23aとそれに対応する仕切板8および凝集剤流出口7bを設けている。この場合には、テーパ注入される高比重無機凝集剤がテーパ注入管23に設けられた吐出孔23aから吐出し、内胴テーパ4bに設けられた凝集剤流出口7bから外胴ボウル3のテーパ部へ流出する。これにより、テーパ部を掻き上げられていく分離汚泥に対して効率よく高比重無機凝集剤を注入することができ、遠心効果を利用して、分離汚泥に高比重無機凝集剤を十分に混合(浸透)させることができるので、より一層優れた固液分離性能を得ることができる。
【0115】
<実施の形態6>
図6は本発明の実施の形態6による汚泥脱水装置を示す断面であり、図2と同一の構成要素には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0116】
この実施の形態6の汚泥脱水装置は、制御器35と分離液の酸化還元電位(ORP)を測定するORP計34を設けた点、吐出孔23aとそれに対応する仕切板8および凝集剤流出口7bを設けた点で、前記実施の形態2と異なる。
【0117】
詳述すると、この実施の形態6では、ORP計34により測定された分離液のORP値に基づいて分離液の水質の悪化を検知でき、悪化を検知した場合には遠心分離機1の処理状況(運転状態)が悪いと判断でき、遠心分離機1の処理状況(運転状態)の改善のため、制御器35により、汚泥の供給量、凝集剤の注入量、遠心分離機1の運転を制御するように構成されている。
【0118】
ORP計34は、分離液排出口2aから排出される分離液のORPを測定するための測定電極36を備えている。ORP計34と制御器35は電気的に接続されており、ORP計34により測定された分離液のORP値が制御器35に送られるように構成されている。
【0119】
制御器35は、汚泥供給ポンプ15、高分子凝集剤注入ポンプ17、高比重無機凝集剤注入ポンプ24、回転駆動機5およびバックドライブモータ6にそれぞれ電気的に接続されており、ORP計34からのORP値に基づいて、汚泥供給管14からの汚泥の供給量、高分子凝集剤注入管16からの高分子凝集剤の注入量、テーパ注入管23からの高比重無機凝集剤の注入量、回転駆動機5の駆動、バックドライブモータ6の駆動(差速)を適切に制御するように構成されている。なお、この制御器35は、機器類を直接制御してもよく、またインバータ制御としてもよい。
【0120】
ここで、酸化還元電位(ORP)について説明する。
ORPは、水中の酸化還元状態を表す数値(単位:mV)である。酸化状態ではプラスの値になり、還元状態ではマイナスの値になる。
【0121】
水中に存在する酸化性物質には溶存酸素や3価の鉄イオンなどがあり、一方、水中に存在する還元性物質には2価の鉄イオン、硫化物、有機物などがあり、水中のORPはこれら物質の量のバランスによりプラス数値になったり、マイナス数値になったりする。
【0122】
遠心分離機1から流出する分離液のORP値がマイナスの数値である場合には、分離液中に還元性物質が酸化性物質より多く含まれていること(還元状態)を表し、つまり分離液の水質が悪化(有機物であるSSの濃度が上昇)していることを意味している。
【0123】
逆に、分離液のORP値がプラスの数値である場合には、分離液中に酸化性物質が還元性物質より多く含まれていること(酸化状態)を表し、つまり分離液中に還元性物質であるSSが少なく、分離液の水質が良好である(有機物であるSSの濃度が低下している=SS回収率が良い)ことを意味している。
【0124】
この作用に基づき、ORP値がマイナス側にあるときは分離液の水質が悪く、遠心分離機1の処理状況(運転状態)が適正でない判断でき、逆に、ORP値がプラス側にあるときは分離液の水質が良好であり、遠心分離機1の処理状況(運転状態)が適正である判断できるわけである。
【0125】
ORPの測定は、酸化還元物質を含む溶液に、不活性な金属電極である測定電極36(予め酸化還元電位の決まった参照電極であり、例えば、標準水素電極や銀−塩化銀電極などがある)を入れることにより生じる電位差を基に、その溶液のORPを決定する一般的なORP計を用いるが、これに限るものではなく、安定して確実に分離液のORP値を測定できるORP計であれば使用してもよい。
【0126】
次に動作について説明する。
遠心分離機1の運転状態においては、汚泥供給タンク11の汚泥が汚泥供給ポンプ15により汚泥供給管14を介して汚泥供給室7に供給され、高分子凝集剤が高分子凝集剤注入管16を介して汚泥供給管14に注入(ライン注入)されて、生成した凝集汚泥が汚泥供給室7の汚泥供給口7aからプール10に流出し、大きい遠心効果を受けて固液分離が進む。そして、外胴ボウル3のテーパ部を掻き上げられていく分離汚泥に、テーパ注入管23を介して高比重無機凝集剤が注入されて、さらに固液分離が進み、脱水汚泥は脱水汚泥排出口2bから排出されると共に、分離液は分離液排出口2aから排出される。
【0127】
ORP計34により分離液のORPが測定され、そのORP値は制御器35に送られる。ORP値がプラス側にあれば(ただし凝集剤等が過剰に注入され脱水汚泥の含水率があまり低下せず、ORP値がとても高い状態は除く:例えば+80mV以上)、分離液の水質が良好であり、汚泥の固液分離(汚泥脱水処理)が効率よく良好に行われていると判断される。
【0128】
このように汚泥の固液分離が良好に行われ、脱水汚泥の含水率が低く、SS回収率が高い(=分離液SS濃度が低い)場合には、汚泥供給ポンプ15、高分子凝集剤注入ポンプ17、高比重無機凝集剤注入ポンプ24、回転駆動機5やバックドライブモータ6の駆動はその状態を維持するよう制御器35により制御される。
【0129】
しかし、ORP値がマイナス側にあれば、分離液の水質が悪化しており、汚泥の固液分離(汚泥脱水処理)が適正に行われていないと判断される。このような状況では、脱水汚泥の含水率が低くならず、SS回収率が低い(=分離液SS濃度が高い)ので、汚泥の固液分離(汚泥脱水処理)が効率よく良好に行われるよう、制御器35は、汚泥供給ポンプ15、高分子凝集剤注入ポンプ17、高比重無機凝集剤注入ポンプ24、回転駆動機5やバックドライブモータ6の駆動を制御し、遠心分離機1の運転状態を適正にする。
【0130】
とくに、高分子凝集剤注入ポンプ17を制御することにより、汚泥の固液分離性能は速やかに変化し、汚泥の固液分離(汚泥脱水処理)が改善される。例えば、ORP値がマイナス側(−40mV〜−10mV)にある場合には、制御器35は、高分子凝集剤注入ポンプ17の駆動を促進させ、高分子凝集剤のライン注入量を増加させる。また、高比重無機凝集剤注入ポンポ24の駆動を促進させ、高比重無機凝集剤のテーパ注入量を増加させる制御も即効性が得られる。
【0131】
このような制御により、汚泥処理(固液分離)を適正に行うことができ、分離液のORP値を測定して、このORP値に基づき遠心分離機1の運転要素を制御することは、汚泥処理(固液分離)の状態(分離状況、運転状態)を判定・把握する上で簡便且つ有効な手段であると共に、効率的で安定した遠心分離機1の運転に資するものである。
【0132】
遠心分離機1から流出する分離液のORP値は、概ね±100mVの範囲である。SS回収率が高く、分離液のSS濃度が低い場合には、分離液のORP値は、概ね−5 mV〜+40 mVであり、SS回収率が低く、分離液のSS濃度が高い場合には、分離液のORP値は、概ね−70 mV〜±0 mVである。
【0133】
なお、ORP値は、汚泥や分離液の性状、ORP計の特性、環境、測定条件などにより、一定でなく変動する。そのため、ORP値に基づき遠心分離機1の運転諸要素を制御する場合には、予めORP値の好適制御範囲を設定する必要がある(マイナスだから不良、プラスだから良とは断定できない)。
【0134】
また、ORP値がプラス(例えば+65mV)で、SS回収率が良好であっても、必要以上に高分子凝集剤等が注入されている過剰注入状態だったり、外胴ボウルと内胴スクリュウの回転差(差速)が必要以上に大きかったりすると、脱水汚泥の含水率が高くなってしまい、遠心分離機1が適正な運転状態となっていない場合もあり、ORP値には上限から下限にわたる好適制御範囲が存在するため、上記同様に予め設定する必要がある。
【0135】
実施の形態6による汚泥脱水装置において、ORP計34により測定された分離液のORP値がマイナス側(例えば−20mV)であった場合、分離液のORP値に基づき、制御器35により、高分子凝集剤注入ポンプ17や高比重無機凝集剤注入ポンプ24の駆動を制御し、また必要に応じて汚泥供給ポンプ15の駆動も制御して、各種凝集剤の注入量を増加させたり、汚泥の供給量を低減したりして、安定して効率的な汚泥脱水処理(脱水汚泥の低含水率化や高いSS回収率)を行うことができる。また、上記各種ポンプ制御の他に、遠心分離機1の回転数(回転駆動機5)や外胴ボウルと内胴スクリュウの回転差(バックドライブモータ6)を制御してもよい。
【0136】
各種凝集剤ポンプの制御が有効であるが、差速(同じ方向に回転する外胴ボウル3と内胴スクリュウ4との回転数の差で、バックドライブモータ6で内胴スクリュウ4の回転を調整する)の制御も有効であり、ORP値が低い(例えば−15mVで、分離液のSS濃度が高い)ときは、差速を大きくしてSS回収率の向上を図り、ORP値が高い(例えば+50mVで、分離液のSS濃度が低いが脱水汚泥の含水率が低くない)ときは、差速を小さくして汚泥含水率の低減を図るなど、容易に運転制御でき、高い固液分離性能を発揮(維持)できる。
【0137】
実施の形態6では、前記実施の形態5と同様に、吐出孔23aとそれに対応する仕切板8および凝集剤流出口7bを設けている。この場合、テーパ注入される高比重無機凝集剤がテーパ注入管23に設けられた吐出孔23aから吐出し、内胴テーパ4bに設けられた凝集剤流出口7bから外胴ボウル3のテーパ部へ流出する。これにより、テーパ部を掻き上げられていく分離汚泥に対して効率よく高比重無機凝集剤を注入することができ、遠心効果を利用して、分離汚泥に高比重無機凝集剤を十分に混合(浸透)させることができるので、より一層優れた固液分離性能を得ることができる。
【0138】
実施例3.
遠心分離機1による汚泥脱水運転において、分離液のORP値が−25 mVのときに、制御器35により高分子凝集剤注入ポンプ17を制御して高分子凝集剤の注入量を10%程度増加させた(1.0%/対汚泥SS→1.1%/対汚泥SS)。
これにより、ORP値は+10mVとなり、脱水汚泥の含水率は75%から72%に3ポイント低下すると共に、SS回収率は92%から97%に5ポイントも改善し、脱水性能が明らかに改善(含水率および分離液SS濃度の低下)された。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の実施の形態1による汚泥脱水装置内の概略的な動作説明図である。
【図2】本発明の実施の形態2による汚泥脱水装置を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態3による汚泥脱水装置を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態4による汚泥脱水装置を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態5による汚泥脱水装置を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態6による汚泥脱水装置を示す断面図である。
【図7】5種類の無機凝集剤を用いての消化汚泥の脱水性能比較実験結果を示す図であって、無機凝集剤注入率(%/TS)に対する脱水汚泥含水率(%)の比較図である。
【符号の説明】
【0140】
1 遠心分離機
2 ケーシング
2a 分離液排出口
2b 脱水汚泥排出口
3 外胴ボウル
3a 直胴部
3b,3c 2段テーパ
3d 1段テーパ
4 内胴スクリュウ
4a 直胴部
4b 内胴テーパ
4c スクリュウ羽根
5 回転駆動機
6 バックドライブモータ
7 汚泥供給室
7a 汚泥供給口
7b,7c,7d 凝集剤流出口
8,8a,8b,8c 仕切板
10 プール
11 汚泥供給タンク
12 高分子凝集剤タンク
13 高比重無機凝集剤タンク
13A 無機凝集剤タンク
14 汚泥供給管
14a 汚泥供給管開口
15 汚泥供給ポンプ
16 高分子凝集剤注入管
16a 高分子凝集剤吐出口
17 高分子凝集剤注入ポンプ
18 流量計
19 開閉弁
20 無機凝集剤注入管
21 無機凝集剤注入ポンプ
22 流量計
23 テーパ注入管
23a,23b,23c 吐出孔
24 高比重無機凝集剤注入ポンプ
25 流量計
26 給水管
27 自動開閉弁
28 給水ポンプ
30 開閉弁
31 フィーダ
32 撹拌機
34 ORP計
35 制御器
36 測定電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外胴ボウルおよび内胴スクリュウを備え、
汚泥を脱水汚泥と分離液とに固液分離する遠心分離機と、
該遠心分離機に汚泥を供給する汚泥供給管と、
前記内胴スクリュウ内を延伸して、前記外胴ボウルのテーパ部に
鉄含有率が高い高比重無機凝集剤を注入するテーパ注入管と
からなることを特徴とする汚泥脱水装置。
【請求項2】
前記テーパ注入管に給水する給水管を備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の汚泥脱水装置。
【請求項3】
外胴ボウルおよび内胴スクリュウを有する遠心分離機へ汚泥を供給し、
前記内胴スクリュウ内を延伸するテーパ注入管で、
前記外胴ボウルのテーパ部に鉄含有率が高い高比重無機凝集剤を注入し、
汚泥を脱水汚泥と分離液とに固液分離する
ことを特徴とする汚泥脱水方法。
【請求項4】
給水管で前記テーパ注入管に給水する
ことを特徴とする請求項3に記載の汚泥脱水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−115800(P2012−115800A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270021(P2010−270021)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(391022418)株式会社西原環境 (21)
【Fターム(参考)】