説明

油入り機器の油中ガス分析装置

【課題】膜透過方式の油中ガス分析装置は、バブリング方式等の他の方式と比較して、ガス採取に時間を要してしまう問題がある。
【解決手段】ガス透過膜と溝付フランジとで形成されるガス溜め室を、所定容積の細長い形状にする。ガス採取時には、ガス透過膜を介してガス溜め室側へガスを拡散させる。ガス測定時には、ガス溜め室の端よりキャリアガスを供給し、ガス溜め室をキャリアガスにて置換し、他方の端より所定量のサンプルガスを送り出してガス測定器に供給する。ガス溜め室でサンプルガスを検量することで検量管を省略できる。また、細長い溝状にすることで、ガス透過膜に掛かるせん断応力を低減でき、ガス透過膜の厚さを薄くできる。これにより、ガス採取に要する時間を短縮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入り変圧器のように油が入っている機器の油中に溶解しているガスを分析する油中ガス分析装置に係り、特にガス透過膜を使用して油中の溶存ガスを抽出してガス分析を行う油入り機器の油中ガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油入り変圧器内での放電や過熱または経年により、絶縁油が劣化すると、絶縁油の分解により、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、アセチレン等のガス(以下、分解生成ガスと称する)が発生する。分解生成ガスの発生量や分解生成ガスの発生パターンは、変圧器内部の異常の種類により異なる。したがって、絶縁油中の分解生成ガス濃度を測定して(以下、油中ガス分析と称する)、分解生成ガスの発生量や発生パターンを調査し、過去の事例と参照することにより、異常の種類や程度を判定することが可能である。
【0003】
油中ガス分析では、変圧器より絶縁油を採取し、採取した絶縁油より分解生成ガスを採取してガス分析に供する。分解生成ガスの採取方法としては、採取した絶縁油中で気体を発泡させ、気体へ分解生成ガスを平衡抽出するバブリング方式や、絶縁油は透過しないが分解生成ガスを透過する性質を有するガス透過膜を介して、ガスが透過する側の容器(以下、ガス溜め室と称する)に分解生成ガスを採取する膜透過方式がある。
【0004】
このうち、膜透過方式に関しては、ガス透過膜に接するようにガス溜め室を設け、このガス溜め室に空気供給口と空気排出口を設けて、空気の供給によってガス溜め室に貯留されているガスを外部に送り出して、ガス分析装置で分析を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭56−162049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
膜透過方式によるガス分析では、ガス溜め室内の分解生成ガスの濃度が平衡に達した時点で、サンプルガスをガス分析に供することになる。膜透過方式は、分解生成ガスがガス溜め室内へ拡散してくるのを待つだけであるので、サンプルガス採取の操作は容易であるが、一方でバブリング方式等の他の方式と比較して、ガス採取に時間を要するという問題がある。特許文献1は、絶縁油を油入り機器から抜き取ることなく絶縁油中のガス成分を検出することを目的としており、ガス採取に要する時間を短縮することまでは考慮していない。
【0007】
本発明の目的は、膜透過方式の油中ガス分析装置において、ガス採取に要する時間を短縮できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、油入り機器の油抜き取り口にガス透過膜を設け、前記ガス透過膜に接してガス溜め室を設けて前記ガス透過膜を透過したガスが貯蔵されるようにし、前記ガス溜め室にキャリアガス供給口とキャリアガス排出口を設けて、キャリアガスの供給によって前記ガス溜め室から分析用のガスを排出するようにし、前記ガス溜め室から排出された分析用ガスをガス測定器に供給して分析を行う油入り機器の油中ガス分析装置において、前記ガス溜め室の形状を溝状にしたものである。
【0009】
本発明では、キャリアガス供給口とキャリアガス排出口の間を結ぶ溝状の通路をガス溜め室とすることが好ましい。
【0010】
また、本発明において、溝状をした前記ガス溜め室の溝の断面積は、前記キャリアガス供給口の断面積と同じか或いは小さくすることが望ましい。
【0011】
また、ガス透過膜の近傍にある油を攪拌又は加振して油に流動を与える油流動手段を備えることが望ましい。
【0012】
また、ガス溜め室の容積をガス測定器でのガス測定に必要なサンプルガスの容積と同じにすることが望ましい。ガス分析用カラムとガス検出素子から構成されるガス測定器では、ガス測定器に規定量のサンプルガスを供給する必要がある。ガス溜め室の容積をガス測定器でのガス測定に必要なサンプルガスの容積と同じにすることにより、ガス溜め室で検量することができ、別に検量管を備えることなく、規定量のサンプルガスを供給できる。
【発明の効果】
【0013】
透過膜方式の油中ガス分析装置において、ガス溜め室を溝形状にしたことにより、ガス溜め室の容積を小さくでき、また、ガス透過膜の厚さを小さくすることができる。これにより、ガス溜め室内の分解生成ガスの濃度が平衡状態に達するまでの時間を短縮でき、分解生成ガスの採取に要するまでの時間を短縮できる。本発明により、油中ガス分析装置の時間間隔を短くでき、リアルタイムでの変圧器の異常診断が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
膜透過方式の油中ガス分析装置において、ガス溜め室内の分解生成ガスの濃度が平衡状態に達する時間tは、ガス溜め室の体積をV、透過膜の厚さをd、透過膜の面積をAとして、下記の式1で表すことができる。なお、Pは透過係数、Cは定数である。
【0015】
【数1】

【0016】
式1によれば、ガス透過膜の厚さdおよびガス溜め室の容積Vを小さくし、ガス透過膜の面積Aを大きくすることにより、平衡到達までの時間tを小さくすることができる。
【0017】
平衡到達までの時間tを小さくするには、透過膜の厚さdを小さくすることが望ましい。しかし、ガス透過膜は油入り変圧器の排油口に取り付けられる場合が多く、取り付け位置には絶縁油により0.2MPa前後の圧力が掛かる。このため、ガス透過膜の厚さを小さくし過ぎると破損してしまう。
【0018】
外周の半径がR1+rの円盤状で、内側の半径R1−rの部分が中空である溝状ガス溜め室に対して厚さd1のガス透過膜を使用した場合、ガス透過膜に掛かる圧力をpとして、ガス透過膜の周囲に掛かるせん断応力τ1は、下記の式2で表すことができる。
【0019】
【数2】

【0020】
ガス透過膜に掛かる圧力pを0.2MPa、許容せん断応力をτとすると、溝の幅2rとガス透過膜の厚さdとの関係は、下記の式3で決定される。
【0021】
【数3】

【0022】
以上のことから、本発明では、ガス透過膜の材料の許容最大せん断応力τ〔MPa〕と、溝の幅2rとガス透過膜の厚さdとの関係が式3になるように、溝状ガス溜め室の幅を規定して、ガス透過膜の厚さを薄くすることが好ましい。
【0023】
ガス測定の精度を高めるためには、ガス溜め室に貯留されている分析用のサンプルガスをキャリアガスで希釈することなくガス測定器へ供給できることが望ましい。このために、本発明では、ガス溜め室の溝の断面積を、キャリアガス入口の断面積と同じか或いは小さくすることを提案する。これにより、ガス溜め室内のガスがキャリアガスにより希釈されるのを防ぐことができる。
【0024】
ガス測定器がガス分析用カラムとガス検出素子から構成される場合には、規定量のサンプルガスをガス測定器に供給することが要求される。ガス溜め室である溝の容積を、ガス測定器でのガス測定に必要なサンプルガスの容積と同じにすることにより、ガス溜め室にてガスの検量を行うことが可能となり、検量管を設けなくても、常に規定量のガスをガス測定器に供給できるようになる。この場合、キャリアガス供給口とキャリアガス排出口は溝状ガス溜め室の端部に設けるようにして、規定量のサンプルガスが供給できるようにすることが望ましい。従来技術に示した特許文献1は、ガスの検量を外部に取り付けた検量管で行っており、このために、検量管に接続する配管や切替え弁が必要になっている。また、これらの設備および検量管自身の容積により、ガス溜め室の容積が大きくなっている。
【0025】
本発明の油中ガス分析装置においては、油を攪拌又は加振して流動を与える油流動手段を設けることが好ましい。油中に含まれる分解生成ガスがガス溜め室側へ透過することにより、ガス透過膜近傍では油に含まれる分解生成ガスの濃度が局所的に低くなり、ガス透過の効率が低下する。油を撹拌或いは振動させて流動を与えることにより、油中の分解生成ガスの濃度を一様にすることができ、ガス透過の効率を高めることができる。これにより、平衡到達までの時間tを小さくすることができる。
【0026】
ガス透過膜の材料には、高分子有機化合物膜、高分子有機化合物多孔質膜を使用することができる。また、多孔質板、孔明き板または金網を補強材として高分子有機化合物膜や高分子有機化合物多孔質膜を一体化したものなどを使用することができる。また、ガス測定器としては、多種センサ方式、ガスクロマトグラフィー方式、音響方式などが適用可能である。本発明の応用として、油中ガス分析装置を装備した油入り機器がある。
【実施例1】
【0027】
本実施例では油入り変圧器の油中ガス分析装置について説明する。図1は、油中ガス分析装置におけるガス採取部の構造を示したものである。ガス採取部100は、溝付フランジ101、ガス透過膜102、溝状ガス溜め室103、キャリアガス供給口104、キャリアガス排出口105、弁106a、弁106bから構成される。
【0028】
排油口201は、排油弁202と共に油入り変圧器側に装備されている。排油口201および排油弁202は、本来、不要な絶縁油の排出口として使用されるが、本発明においては、ガス採取部100の取り付け部として使用する。ガス採取時には、排油弁202は開いた状態になっており、ガス透過膜102は絶縁油203に密に接している。
【0029】
溝付フランジ101は、排油口201に締結されることにより、ガス採取部100を油入り変圧器200に装備すると共に、ガス透過膜102を周囲より挟み込んで支持する。
【0030】
ガス透過膜102は、絶縁油203を油入り変圧器または油入り変圧器の外側容器内に封止すると共に、分解生成ガスを溝状ガス溜め室103側に透過させる。ガス透過膜102の材質として、厚さ0.1mmの四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合物膜を使用した。ガス透過膜102に好適な材料としては、四フッ化共重合物膜やポリエチレン、フッ素ゴム等の有機高分子化合物膜、多孔質の有機高分子化合物膜、多孔質板に有機高分子化合物をコーティングしたもの、孔明き板や金網等の補強材と有機高分子化合物膜を組み合わせたものなどがある。
【0031】
溝状ガス溜め室103は、溝付フランジ101に形成した溝状の窪みと、ガス透過膜102により形成された空間であり、サンプルガスの採取と貯留を行う。また、溝状ガス溜め室103は、サンプルガス供給時にはキャリアガスの流路となる。
【0032】
キャリアガス供給口104は、溝状ガス溜め室103の一端に通じており、溝状ガス溜め室103にキャリアガスを流入させる入口である。
【0033】
溝状ガス溜め室103におけるキャリアガスの流線方向に垂直な断面の面積は、キャリアガス供給口104におけるキャリアガスの流線方向に垂直な断面の面積よりも小さくする。
【0034】
キャリアガス排出口105は、溝状ガス溜め室103の他端に通じており、採取および貯留したサンプルガスや、キャリアガス供給口104より流入したキャリアガスの出口である。
【0035】
弁106aおよび弁106bは、サンプルガス採取時と貯留時には閉じ、ガス溜め室をキャリアガスにより置換する時には開く。
【0036】
パッキン107は、溝付フランジ101とガス透過膜102との締結部および排油口201とガス透過膜102との締結部に挿入され、絶縁油を油入り変圧器又はその外側容器内に封止するのに寄与する。
【0037】
図2は、油中ガス分析装置における溝付フランジの構造を示したものである。ここでは、溝状ガス溜め室103を直線的な溝形状にしている。キャリアガス供給時にキャリアガスの流れが乱れないようにする、或いはサンプルガスとキャリアガスが混合しないようにするために、溝状ガス溜め室103のキャリアガスの流線方向に垂直な断面の断面積は、キャリアガス供給口の断面積と同じか或いはそれよりも小さくすることが望ましい。
【0038】
図3は、本発明による油中ガス分析装置の構成を示したものである。油入り変圧器200の排油口に取り付けられたガス採取部100のキャリアガス供給口は、配管501を介してキャリアガス供給部300に通じている。また、ガス採取部100のキャリアガス排出口は配管502を介してガス測定部400に通じている。配管501と配管502は配管503と接続されており、弁106cを開くとキャリアガスがガス測定部400へ直接供給されるようになっている。キャリアガス供給部300からのキャリアガスは、ガス測定部400またはガス採取部100へ供給される。
【0039】
ガス測定部400では、サンプルガスに含まれるガスの種類や濃度を測定する。ガス測定部400での測定は、ガスクロマトグラフィー方式が好適である。ガスクロマトグラフィー方式によるガス測定部は、ガス分析用のガスクロマトカラムとガス検出素子とから構成される。ガスクロマトカラムは筒状で、サンプルガスがガスクロマトカラムの内部を通過する際にガスを一旦、吸着し、放出する。この吸着と放出のタイミングはガスの種類により異なり、サンプルガスはガス成分毎に分離される。ガス検出素子は成分毎に分離された分解生成ガスを検出する。ガス検出素子としては半導体式ガスセンサが好適であるが、固体電解質センサや電気化学式センサ等でも良い。
【0040】
また、ガス測定部400として、ガスの種類により反応特性の異なるセンサを数種類使用しても良い。この場合、ガス反応特性の差異からガスの種類や濃度を求める。
【0041】
図4は油中ガス分析の手順を示す図である。油中ガス分析の操作としては、サンプルガス採取の準備、サンプルガスの採取と貯留、測定の準備、サンプルガス供給、サンプルガス測定がある。
【0042】
まず、サンプルガス採取の準備として、溝状ガス溜め室103をキャリアガスにて置換する。弁106cを閉じ、弁106aおよび106bを開いた状態にして、キャリアガス供給部300よりキャリアガスを供給する。
【0043】
次にサンプルガスの採取と貯留を行う。溝状ガス溜め室103内がキャリアガスにて置換されたならば、弁106a,106bを閉じた状態にする。絶縁油に溶解した分解生成ガスがガス透過膜102を透過して溝状ガス溜め室103へ拡散する。溝状ガス溜め室103のガス濃度と絶縁油中の分解生成ガスの濃度とが平衡に達するまで待つ。
【0044】
ガス濃度が平衡に達するまでの時間は、測定試験を実施し事前に把握しておく。また、式1にて定数Cが既知であれば、式1から平衡に達する時間を推定しても良い。
【0045】
続いて測定の準備を行う。弁106aおよび106bを閉じたままにし、弁106cを開く。
【0046】
キャリアガス供給部300からガス測定部400へキャリアガスを供給し、ガスクロマトカラムの状態やガス検出素子の出力を安定させる。
【0047】
さらに続いて、サンプルガス供給を行う。弁106cを閉じ、弁106aおよび弁106bを開いた状態にし、キャリアガスをキャリアガス供給部300から、ガス採取部100を経由して、ガス測定部400に供給する。
【0048】
溝状ガス溜め室103内をキャリアガスにて置換することにより、溝状ガス溜め室103内にあったサンプルガスをガス測定器400に供給し、ガス測定部400でガスの種類や濃度を測定する。
【実施例2】
【0049】
本実施例では、溝状ガス溜め室103にてサンプルガスの採取・貯留および検量、供給を行った場合について、図2、図3および図4を併用して説明する。溝状ガス溜め室103にてサンプルガスを検量することにより、別に検量管を備える必要が無くなり、検量管自体や検量管に至るまでの配管の容積を節約できる。その結果、式1におけるガス溜め室の体積Vを小さくし、平衡到達までの時間tを短縮できる。
【0050】
図3において、ガス測定部400として、ガス分析用カラム等によりガスを分離し、ガス検出素子によりガスを検出する場合、ガス測定には規定量のサンプルガスを供給する必要がある。
【0051】
図2において、キャリアガス供給口104は半径rの円筒形状である。また、溝状ガス溜め室103は、長さL、幅2r、溝の深さhの直方体形状で、さらに両端が半径r、深さhの半円柱形状である。よって、溝状ガス溜め室103の容積は、2rLh+πr2hである。
【0052】
溝状ガス溜め室103の容積は供給したサンプルガスの容積となる。そこで、溝状ガス溜め室103の容積を測定に必要なサンプルガスの容積と同等とした。
【0053】
なお、ガス測定部400は1000mm3のサンプルガスを必要とした。そこで、溝状ガス溜め室103は、長さL=96mm、幅2r=5mm、溝の深さh=2mmとし、ガス測定部400へ約1000mm3のサンプルガスを供給するようにした。
【0054】
なお、溝状ガス溜め室103におけるキャリアガスの流線方向に垂直な断面積2rhは10mm2であり、キャリアガス供給口104の断面積πr2の19.6mm2よりも小さい。
【0055】
油中ガス分析の手順として、図4に従い、まず、ガス採取の準備として、溝状ガス溜め室103をキャリアガスにて置換した。弁106cを閉じ、弁106aと弁106bを開いた状態にして、キャリアガス供給部300よりキャリアガスを供給した。
【0056】
次に、サンプルガスの採取と貯留を行った。溝状ガス溜め室103内がキャリアガスにて置換されたら、弁106aと弁106bを閉じた状態にして保持する。絶縁油中に溶解した分解生成ガスが、ガス透過膜102を透過して溝状ガス溜め室103へ拡散する。溝状ガス溜め室103のガス濃度が平衡に達するまで待った。
【0057】
ガス濃度が平衡に達するまでの時間は、事前に測定試験を実施して求め、70〔h〕とした。
【0058】
本発明によらない、検量管を別に備えた場合には、ガス濃度が平衡に達するまでの時間は138〔h〕であった。
【0059】
よって、本発明により、ガス採取に要する時間を約2分の1に短縮できた。
【0060】
続いて、ガス濃度が平衡に達してから、測定の準備を行った。弁106aと弁106bを閉じたままにし、弁106cを開いた。
【0061】
キャリアガス供給部300からガス測定部400へキャリアガスを供給し、ガス分析用カラムの状態やガス検出素子の出力を安定させた。
【0062】
さらに続いて、サンプルガス供給を行った。弁106cを閉じ、弁106aと弁106bを開いた状態にし、キャリアガスをキャリアガス供給部300から、ガス採取部100を経由して、ガス測定部400に供給した。
【0063】
溝状ガス溜め室103内をキャリアガスにて置換することにより、溝状ガス溜め室103内にあったサンプルガスをガス測定器400に供給した。
【実施例3】
【0064】
本実施例では、溝状ガス溜め室103の幅を調節してガス透過膜の厚さを小さくする場合について説明する。図5は、ガス溜め室の形状が円弧状である溝付フランジの構造を示したものである。本発明の例として、溝状ガス溜め室103が外径R1+r、内径R1−r、高さhの円筒状であり、厚さd1のガス透過膜102を使用した場合と、従来法の例としてガス溜め室が半径R2、高さhの円柱状で、厚さd2のガス透過膜102を使用した場合とを比較する。
【0065】
本発明による場合、ガス透過膜102の周囲に掛かるせん断応力が均一であると仮定して、ガス透過膜102の周囲に掛かるせん断応力τ1は、既に述べたように式2により求められる。
【0066】
許容せん断応力をτとすると、ガス透過膜102の厚さd1は式4で決定される。
【0067】
【数4】

【0068】
これに対し、従来法による場合では、ガス透過膜102の周囲に掛かるせん断応力τ2は、式5で決定される。
【0069】
【数5】

【0070】
許容せん断応力をτとすると、ガス透過膜102の厚さd2は式6で決定される。
【0071】
【数6】

【0072】
膜の厚さの比d1/d2は、式7のとおりとなり、R1によらず、rとR2により決定される。
【0073】
【数7】

【0074】
また、V=A・hであるから、式1は、以下の式8で表すことができる。
【0075】
【数8】

【0076】
本発明による平衡到達までの時間t1は、式9のとおりとなる。
【0077】
【数9】

【0078】
また、従来法による平衡到達までの時間t2は、式10のとおりとなる。
【0079】
【数10】

【0080】
よって、平衡到達までの時間の比t1/t2は、式7、式9、式10により、式11のとおりとなり、rとR2により決定される。
【0081】
【数11】

【0082】
本発明と従来法とでガス透過膜102の面積を同じにした場合、例えばR1を50mm、rを2mm、R2を20mmとした場合であっても、本発明による平衡到達までの時間t1は従来法による平衡到達までの時間t2の5分の1にすることができる。
【0083】
図6は、溝状ガス溜め室の形状がジグザグ状である場合の溝付フランジの構造を示す図である。
【0084】
図7は、溝状ガス溜め室の形状が渦巻状である場合の溝付フランジの構造を示す図である。
【0085】
図5に示した溝状ガス溜め室の形状が円弧状である溝付フランジに代えて、ジグザグ状或いは渦巻状の溝付フランジを使用しても良い。
【実施例4】
【0086】
本実施例では、油流動手段を備えてガス透過膜102近傍の絶縁油を流動させる場合について説明する。絶縁油を流動させることにより、ガス透過膜102近傍における分解生成ガスの濃度の低下を抑えることができる。
【0087】
図8は、油流動手段を備えた場合の本発明による油中ガス分析装置の構成を示す図である。図8において、ガス採取部100は油流動手段として攪拌機601を備えている。攪拌機601にはプロペラ状の羽根が付いており、回転させることによりガス透過膜102近傍の油を流動させる。サンプルガスの採取と貯留の操作の際に、油を流動させる。また、油流動手段として、攪拌機601の代わりに超音波発振器602を使用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明による油中ガス分析装置のガス採取部の構造を示す図。
【図2】本発明による溝付フランジの構造を示す図。
【図3】本発明による油中ガス分析装置の構成を示す図。
【図4】油中ガス分析の手順を示す図。
【図5】本発明による溝状ガス溜め室の形状が円弧状である溝付フランジを示す図。
【図6】本発明による溝状ガス溜め室の形状がジグザグ状である場合の溝付フランジの構造を示す図。
【図7】本発明による溝状ガス溜め室の形状が渦巻状である場合の溝付フランジの構造を示す図。
【図8】油流動手段を備えた油中ガス分析装置の構成を示す図。
【符号の説明】
【0089】
1…油中ガス分析装置、100…ガス採取部、101…溝付フランジ、101、102…ガス透過膜、103…溝状ガス溜め室、104…キャリアガス供給口、105…キャリアガス排出口、106a,106b,106c…弁、107…パッキン、200…油入り変圧器、201…排油口、202…排油弁、203…絶縁油、300…キャリアガス供給部、400…ガス測定部、501…配管、502…配管、503…配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油入り機器内の油中に溶存しているガスを分析する装置であって、前記油入り機器の油抜き取り口にガス透過膜を設け、前記ガス透過膜に接してガス溜め室を設けて前記ガス透過膜を透過したガスが貯蔵されるようにし、前記ガス溜め室に貯蔵された前記ガスを外部に送り出すためのキャリアガス供給口とキャリアガス排出口を前記ガス溜め室に設け、前記キャリアガスの供給によって送り出された前記ガスを分析するためのガス測定器を備えた油中ガス分析装置において、前記ガス溜め室の形状を溝状にしたことを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項2】
請求項1において、前記キャリアガス供給口と前記キャリアガス排出口の間を結ぶ溝状の通路が前記ガス溜め室となっていることを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項3】
請求項1において、溝状をした前記ガス溜め室の溝の断面積が前記キャリアガス供給口の断面積と同じか或いは小さいことを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項4】
請求項1において、前記ガス溜め室の容積を前記ガス測定器でのガス測定に必要なサンプルガスの容積と同じにしたことを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項5】
請求項4において、前記ガス測定器がガス分析用カラムとガス検出素子から構成されていることを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項6】
請求項1において、前記ガス透過膜の近傍の油を攪拌又は加振して流動を与える油流動手段を備えたことを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項7】
請求項1において、前記ガス溜め室に設けられた前記キャリアガス排出口と前記ガス測定器とを連通する配管を設けて、前記キャリアガス排出口から送り出されたサンプルガスが前記ガス測定器に供給されるようにしたことを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項8】
請求項7において、前記ガス溜め室の溝の形状が直線状、円弧状、ジグザグ状或いは渦巻状のいずれかであり、溝の一方の端部に前記キャリアガス供給口を有し、他方の端部に前記キャリアガス排出口を有することを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項9】
請求項1において、前記ガス透過膜の材料の許容最大せん断応力τ〔MPa〕と、溝の幅2rと前記透過膜の厚さdとの関係がr≦5τ・dであることを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項10】
請求項1において、前記ガス透過膜が、高分子有機化合物膜、高分子有機化合物多孔質膜、多孔質板、或いは孔明き板と高分子有機化合物膜とを一体化したものであることを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項11】
請求項1において、前記ガス測定器が、多種センサ方式、ガスクロマトグラフィー方式、或いは音響方式のガス測定器であることを特徴とする油入り機器の油中ガス分析装置。
【請求項12】
請求項1記載の油中ガス分析装置を装備した油入り機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−180524(P2008−180524A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12438(P2007−12438)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(503020574)株式会社日本AEパワーシステムズ (56)
【Fターム(参考)】