説明

油吸着材およびその製造方法

【課題】水面上に流出した油や、地上での運送中もしくは貯蔵中に流出した油、あるいは作業現場などで漏出した油を速やかに吸着する、優れた油吸着能を有し、しかも環境に優しく、かつコストの安い油吸着材を提供する。
【解決手段】炭素質材料を1000〜1500℃でか焼することにより得られる油吸着用炭素材料、表面の一部または全部が撥水剤でコーティングされた植物繊維、および油吸着用炭素材料と植物繊維間に分散接着する化学繊維からなり、植物繊維に対する油吸着用炭素材料の質量比率が0.3〜0.6であり、油吸着用炭素材料と植物繊維の和に対する化学繊維の質量比率が0.4以下である油吸着材により上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油吸着材およびその製造方法に関する。より詳細には、優れた油吸着能を有し、水面上に流出した油や、地上での運送中もしくは貯蔵中に流出した油、あるいは作業現場などで漏出した油を速やかに吸着し、しかも環境に優しく、かつコストの安い油吸着材、およびその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オイルタンカーの遭難事故、工場、船舶からの含油廃水や油流出事故などに対して、海洋や港湾、河川などを油汚染から守るために、水面上に浮遊する油を回収除去する目的で、あるいは地上での運送中や貯蔵中に流出したり、作業場などで漏出した油を回収除去する目的で、油吸着材が使用されている。しかしながら、現状の油吸着材は、化学繊維から製造されたものが多く、使用後の廃棄時に焼却処理される場合、ダイオキシン等の有害ガスの発生が考えられ、環境汚染の要因となっている。これらの対応として、ピーナッツ、コーヒー豆等の植物性繊維を粉砕し、しかるのち、パラフィンワックス等をコーティングしたもの(特許文献1参照)、ポリオレフィン系樹脂からなる基材とスターチ類および活性炭を混合し、所定の形状に押し出したのち加熱処理したもの(特許文献2参照)等が提案されている。しかしながら、これらの発明は環境汚染の面では改善されたが、油吸着量、およびコストの面から更に改善が望まれていた。
【特許文献1】特開2004−167481号公報
【特許文献2】特開2000−51691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような実状に鑑み成されたものであり、油吸着能に優れ、しかも環境に優しく、かつコストの安い油吸着材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、炭素質材料を1000〜1500℃でか焼することにより得られる油吸着用炭素材料、表面の一部または全部が撥水剤でコーティングされた植物繊維、および油吸着用炭素材料と植物繊維間に分散接着する化学繊維からなり、植物繊維に対する油吸着用炭素材料の質量比率が0.3〜0.6であり、油吸着用炭素材料と植物繊維の和に対する化学繊維の質量比率が0.4以下であることを特徴とする油吸着材に関する。
【0005】
また、本発明は、油吸着用炭素材料の粒径が3mm以下であることを特徴とする前記記載の油吸着材に関する。
【0006】
さらに、本発明は、紙質材を粉砕して所定サイズの植物繊維を得るための粉砕工程、得られた植物繊維の表面に撥水層を形成させる撥水剤コーティング工程、撥水剤でコーティングされた植物繊維、炭素質材料を1000〜1500℃でか焼することにより得られる油吸着用炭素材料および化学繊維を所定の割合で混合分散させる工程、および得られた混合分散物を加熱およびプレス成形する工程を包含する油吸着材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の油吸着材は、環境に優しく、かつ油吸着能に優れる。従って、本発明の油吸着材は環境汚染防止にきわめて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳述する。
本発明に用いられる油吸着用炭素材料は、炭素質材料を1000〜1500℃でか焼することにより得られる。
原料として用いられる炭素質材料は特に制限されるものではないが、か焼により得られる油吸着用炭素材料に、水を脱着しやすく且つ油分を吸着しやすいという表面特性を付与する観点から、コークスや黒鉛(膨張黒鉛を含む)などの非多孔性材料を用いることが好ましく、特にコークスが好ましい。
【0009】
コークスとしては特に制限されず、例えば、常圧残油、減圧残油、タールサンド、ビチューメン、シェールオイル、流動接触分解装置残油などの重質油、コールタール、コールタールピッチなどを原料として得られる石炭系又は石油系コークス、あるいは木材、おがくず、やしからなどを原料として得られる木炭系コークスが挙げられる。これらの原料は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、コークスを製造する際のコーキングプロセスとしては特に制限されず、フルードコーキングプロセス、フレキシコーキングプロセス、ディレードコーキングプロセスなどが適用可能である。コーキングプロセスにおける熱処理温度は、通常400〜600℃である。本発明においては、ディレードコーキングプロセスを経て得られるニードルコークスが好ましく用いられる。
【0010】
炭素質材料をか焼する装置としては、例えば、ロータリーキルン等の横型か焼装置、あるいはリードハンマー炉やロータリーハース(回転炉床式カルサイナー)等の縦型か焼装置などを用いて実施することができる。
か焼を行う際の処理温度は、1000〜1500℃の範囲であることが必要であり、好ましくは1200〜1450℃、より好ましくは1300〜1400℃である。処理温度が1000℃未満であると、得られる油吸着用炭素材料の表面に十分な疎水性を付与することができない。他方、処理温度が1500℃を超えると、得られる油吸着用炭素材料の表面において水を脱着しやすく且つ油分を吸着しやすい親水性−疎水性バランスを達成することが困難となる。また、か焼を行う際の処理時間は、好ましくは1分〜5時間であり、より好ましくは5分〜3時間の範囲である。
【0011】
か焼を行う際の雰囲気は、炭素質材料の表面からの極性基の除去が可能であれば特に制限されないが、窒素などの不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0012】
か焼温度まで昇温する際の昇温速度は、好ましくは100〜1000℃/hの範囲であり、より好ましくは200〜800℃/hの範囲である。
また、か焼処理後に、か焼コークスを冷却する際には、か焼コークスの酸化防止及び極性基の生成の抑制の観点から、か焼装置(キルンなど)の出口付近の温度を500℃以下とすることが好ましく、300℃以下とすることがより好ましい。また、冷却方法は特に制限されず、放置による自然冷却等を行ってもよいが、処理効率向上の観点から、水冷による強制冷却を行うことが好ましい。
【0013】
例えば、石炭系、石油系又は木炭系コークスを1000〜1500℃でか焼する場合、得られるか焼コークス(カルサインド コークス)のBET表面積は20m/g以下であり、好ましくは1〜10m/gである。このように、本発明にかかるか焼コークスは、従来の活性炭や活性コークスの表面積が、通常1000m/g程度であるのに比較して表面積がきわめて小さいものである。ところが、本発明者らの検討によれば、かかるか焼コークスからなる炭素材料は、含油排水中の油分に対して、従来の活性炭や活性コークスよりも高い吸着能を示す。このような対比からも、本発明の油吸着用炭素材料の吸着能が、か焼により改質された表面の特性に起因するものであることが示唆される。
【0014】
本発明において用いられる油吸着用炭素材料の粒径は3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。これは製品吸着材マットの厚さが粒径が5mm〜10mmであるため、油吸着用炭素材料の粒径が大きいと吸着マットの凹凸が目立ち、操作性も悪くなるためである。
【0015】
本発明において用いられる植物繊維は、紙質材を粉砕することにより得られる。具体的には、紙管や古紙等の廃紙製品、おがくず、木材チップ、ヤシガラ、もみがら等を切断したり、粉砕したりして繊維に分解して綿状にしたもの等を挙げることができる。
粉砕方法としては、公知の手段を使用することができる。使用済みの紙管や古紙等の紙質材をシュレッダーを用いて綿状に粉砕して、これを篩いにより分級調整して所定のサイズ、例えばその平均繊維長が3〜10mmの植物繊維を得ることが行われる。
【0016】
次に、植物繊維の表面に撥水層を形成させるため、植物繊維に撥水剤を作用させて植物繊維の表面の一部または全部を撥水剤でコーティングする。
本発明に用いられる撥水剤としては、パラフィンワックス、石油樹脂、アスファルト、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができる。中でもパラフィンワックス、とくにアニオン系のパラフィンワックスはその撥水性と価格面から望ましい。その融点が65〜75℃のアニオン系パラフィンワックスをエマルジョン化したものが好ましく用いられる。撥水剤の融点が65℃より低くなると、水中における撥水コーティングの耐久性が不足する傾向が現れ、逆に75℃より高くなると植物繊維表面への被覆性が悪くなって油吸着性のばらつきなどのおそれが生じるので好ましくない。
【0017】
植物繊維に対する撥水剤の構成比率は質量比で、0.05〜0.10であることが好ましく、より好ましくは0.06〜0.08である。植物繊維に対する撥水剤の構成比率が0.05より少なくなると撥水効果が十分に得られず、一方0.10を超えると逆に油吸着性が減少する傾向が現れるので好ましくない。
【0018】
本発明においては、前述の本発明にかかる油吸着用炭素材料、撥水剤でコーティングされた植物繊維、および接着用の化学繊維を攪拌気流中あるいはスクリュー攪拌機中で分散混合させ、油吸着用炭素材料と植物繊維間に化学繊維が分散接着した交絡組織を形成させる。
植物繊維に対する油吸着用炭素材料の質量比率は、0.3〜0.6の範囲であることが必要であり、好ましくは0.4〜0.5である。また、油吸着用炭素材料と撥水剤でコーティングされた植物繊維との和に対する化学繊維の質量比率は0.4以下であることが必要である。
【0019】
本発明において用いられる化学繊維としては、油吸着材として適用されるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル等を挙げることができる。
【0020】
上記で得られた分散混合物は、次いで加熱プレス成形処理が施される。例えば、箱状または円筒状に形成された充填型枠の上部開口に前記分散混合物を供給し、底部に沈降堆積した分散混合積層物をその積層方向に加熱しながらプレス成形する。このときのプレス成形圧力、プレス成形温度、プレス成形時間は、とくに限定されず、前記材料の種類、および混合割合により適宜選択される。
加熱プレス成形により、ボード状またはバルク状に形成された本発明の油吸着材が得られる。
【0021】
ボード状等に形成された油吸着材は、その用途に応じて裁断機等により裁断、加工され、1)マット状、2)油水分離槽の濾過材として多用されるリボン状、3)複雑な箇所にフィット可能なチューブ状、4)水面流出油回収に使用されるオイルフェンス状等、種々の形態のものとして用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
[参考例]
不活性ガス雰囲気中、ニードルコークス(S−JAカルサインド粉コークス)を、昇温速度約180〜240℃/hで1300℃まで昇温し、1300℃で4時間か焼した。その後、水冷による強制冷却を行い、か焼炉の出口温度を120℃に保持し、BET表面積3m/gのか焼コークスを得た。
【0024】
このようにして得られたか焼コークスを、実施例の吸着剤として、以下の試験に供した。
油吸着用炭素材料として上記で得られたか焼コークス、植物繊維として廃棄物である紙管を粉砕したもの、および接着用化学繊維としてポリエステルファイバー(品名テピルス:帝人ファイバー(株)製)を使用し、表1に示す試験片を作成した。
各試験片を、灯油、およびA重油に浸漬し、油吸着能を評価した。
【0025】
なお、油吸着能(油保持量:g/cm)の評価はつぎのようにして行った。
試験片(10cm角、厚さ10mm)を灯油、または重油に5分間浸漬したのち、試験片マットの4隅の一つを掴んで菱形にして5分間吊るした。試験片への残存油量を求め、容積当たりの油保持量を算出した。
【0026】
【表1】

【0027】
[実施例1]
試験片A(か焼コークスの粒径が1mm、植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.42、およびか焼コークス量と植物繊維量の和に対する接着用化学繊維量の比率が0.25)を灯油に浸漬したところ、油保持量は0.67g/cmと、優れた油吸着能を示した。
【0028】
[実施例2]
試験片B(か焼コークスの粒径が2mm、植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.42、およびか焼コークス量と植物繊維量の和に対する接着用化学繊維量の比率が0.25)を灯油に浸漬したところ、油保持量は0.62g/cmと、優れた油吸着能を示した。
【0029】
[比較例1]
試験片C(か焼コークスの粒径が2mm、植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.69、およびか焼コークス量と植物繊維量の和に対する接着用化学繊維量の比率が0.21)を灯油に浸漬したところ、油保持量は0.53g/cmと、実施例1、2に比較して油吸着能は劣っていた。植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.69と、大きすぎることによると考えられる。
【0030】
[比較例2]
試験片D(か焼コークスの粒径が0.35mm、植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.14、およびか焼コークス量と植物繊維量の和に対する接着用化学繊維量の比率が0.32)を灯油に浸漬したところ、油保持量は0.54g/cmと、実施例1、2に比較して油吸着能は劣っていた。植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.14と、少なすぎたことによると考えられる。
【0031】
[比較例3]
市販のポリプロピレン製の油吸着材を灯油に浸漬したところ、油保持量は0.30g/cmと、実施例1、2に比較して油吸着能は劣っていた。
【0032】
[実施例3]
試験片A(か焼コークスの粒径が1mm、植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.42、およびか焼コークス量と植物繊維量の和に対する接着用化学繊維量の比率が0.25)をA重油に浸漬したところ、油保持量は0.77g/cmと、優れた油吸着能を示した。
【0033】
[実施例4]
試験片B(か焼コークスの粒径が2mm、植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.42、およびか焼コークス量と植物繊維量の和に対する接着用化学繊維量の比率が0.25)をA重油に浸漬したところ、油保持量は0.65g/cmと、優れた油吸着能を示した。
【0034】
[比較例4]
試験片C(か焼コークスの粒径が2mm、植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.69、およびか焼コークス量と植物繊維量の和に対する接着用化学繊維量の比率が0.21)をA重油に浸漬したところ、油保持量は0.65g/cmであった。試験片Cは、試験片Bに比較して、A重油吸着能は同等であったが、灯油吸着能は劣っていた。
【0035】
[比較例5]
試験片D(か焼コークスの粒径が0.35mm、植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.14、およびか焼コークス量と植物繊維量の和に対する接着用化学繊維量の比率が0.32)をA重油に浸漬したところ、油保持量は0.57g/cmと、実施例3,4に比較して油吸着能は劣っていた。植物繊維量に対するか焼コークス量の比率が0.14と、少なすぎたことによると考えられる。
【0036】
[比較例6]
試験片E(か焼コークスを使用しない場合)をA重油に浸漬したところ、油保持量は0.57g/cmと、実施例3,4に比較して油吸着能は劣っていた。
【0037】
[比較例7]
市販のポリプロピレン製の油吸着材を灯油に浸漬したところ、油保持量は0.38g/cmと、実施例3,4に比較して油吸着能は劣っていた。
【0038】
実施例および比較例の結果を表2にまとめた。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質材料を1000〜1500℃でか焼することにより得られる油吸着用炭素材料、表面の一部または全部が撥水剤でコーティングされた植物繊維、および油吸着用炭素材料と植物繊維間に分散接着する化学繊維からなり、植物繊維に対する油吸着用炭素材料の質量比率が0.3〜0.6であり、油吸着用炭素材料と植物繊維の和に対する化学繊維の質量比率が0.4以下であることを特徴とする油吸着材。
【請求項2】
油吸着用炭素材料の粒径が3mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の油吸着材。
【請求項3】
紙質材を粉砕して所定サイズの植物繊維を得るための粉砕工程、得られた植物繊維の表面に撥水層を形成させる撥水剤コーティング工程、撥水剤でコーティングされた植物繊維、炭素質材料を1000〜1500℃でか焼することにより得られる油吸着用炭素材料および化学繊維を所定の割合で混合分散させる工程、および得られた混合分散物を加熱およびプレス成形する工程を包含する油吸着材の製造方法。

【公開番号】特開2007−216184(P2007−216184A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42069(P2006−42069)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000231707)新日本石油精製株式会社 (33)
【出願人】(505190105)村上商事株式会社 (6)
【Fターム(参考)】