説明

油性組成物及び棒状製品

【課題】凝固点が低く、取り扱いが容易な油性組成物、及びそれを固化してなる棒状製品の提供。
【解決手段】(A)下記式(1)で表されるN−アシルアミノ酸誘導体と、(B)上記(A)成分以外の油性ゲル化剤と、(C)液状油分と、(D)ダイマー酸エステル、ダイマージオールエステル、ダイマージオールエーテル、及び脂肪酸ポリグリセリル、からなる群から選択される少なくとも1種と、を含有する油性組成物。


(式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜26の炭化水素基であり、Rは、炭素原子数7〜18の炭化水素基であり、nは、1又は2である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取扱い容易な油性組成物、及び、該油性組成物を固化してなる製剤を含む棒状製品、に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、リップクリーム等として使用される油性組成物は、製剤化工程において、高温で溶解された後に、ノズルやチューブを通して、容器に充填されて冷却される。そのような油性組成物は、例えば特許文献1〜3に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−316971号公報
【特許文献2】特開2005−298635号公報
【特許文献3】特開2005−298388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の油性組成物は、75℃以上の凝固点を有しているため、高温で固化していた。それ故、次のような不具合があった。
(1)油性組成物が、製剤化工程において、ノズルやチューブを通している間に固化し、そのために、その後の作業に不具合が生じた。
(2)油性組成物が充填される容器として、75℃以上の耐熱性が必要とされる。そのため、容器の材質に制限があった。
【0005】
そこで、比較的低い温度の凝固点、すなわち、70℃以下の凝固点、を有する油性組成物が、要望されている。
【0006】
また、そのような油性組成物を固化してなる製剤においては、高い透明性や優れた使用感が、更に要望されていた。
【0007】
本発明は、凝固点が70℃以下である油性組成物、更には、高い透明性や優れた使用感を呈する製剤を提供できる油性組成物、を提供すること、また、そのような油性組成物を固化してなる製剤を含む棒状製品、を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の油性組成物は、
(A)下記式(1)で表されるN−アシルアミノ酸誘導体と、
(B)上記(A)成分以外の油性ゲル化剤と、
(C)液状油分と、
(D)ダイマー酸エステル、ダイマージオールエステル、ダイマージオールエーテル、及び脂肪酸ポリグリセリル、からなる群から選択される少なくとも1種と、
を含有していることを特徴としている。
【0009】
【化1】

【0010】
なお、式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜26の炭化水素基であり、Rは、炭素原子数7〜18の炭化水素基であり、nは、1又は2である。
【0011】
本発明の棒状製品は、本発明の油性組成物が、筒状容器内に充填されて固化されてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の油性組成物は、凝固点が低いので、製剤化工程の途中で固化してしまうのを防止でき、それ故、容易に取り扱うことができる。
【0013】
本発明の棒状製品は、取扱い容易な製剤化工程を経て得ることができ、それ故、容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の棒状製品の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(油性組成物)
本発明の油性組成物は、下記の(A)、(B)、(C)、及び(D)の成分を含有している。
【0016】
[(A)成分について]
(A)成分は、下記式(1)で表されるN−アシルアミノ酸誘導体である。
【0017】
【化2】

【0018】
なお、式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜26の炭化水素基であり、Rは、炭素原子数7〜18の炭化水素基であり、nは、1又は2である。
【0019】
また、R及びRの炭化水素基は、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせ、の内のいずれであってもよい。R及びRの炭化水素基としては、不飽和結合を含む炭化水素基を用いてもよいが、アルキル基を用いることが好ましい。R及びRの炭化水素基としては、炭素原子数1〜10の炭化水素基が好ましく、炭素原子数2〜6の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基がより好ましく、炭素原子数3〜5の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基が更に好ましく、n−ブチル基が最も好ましい。
【0020】
の炭化水素基としては、不飽和結合を含む炭化水素基を用いてもよいが、飽和炭化水素基を用いることが好ましい。製造のしやすさの観点から、Rの炭化水素基としては、炭素原子数7〜15の炭化水素基が好ましくは、炭素原子数7〜12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましい。
【0021】
nは、2が好ましい。したがって、(A)成分としては、N−アシルグルタミン酸誘導体が好ましい。
【0022】
(A)成分としては、具体的には、N−オクタノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−デカノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−ミリストイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−パルミトイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドなどを用いることができ、これらの中でも、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−ラウロイル−L―グルタミン酸ジブチルアミドを用いるのが好ましく、十分な透明性を確保する観点から、特にこの両者を併用するのが好ましい。
【0023】
本発明の油性組成物において、(A)成分の含有量は、通常は0.1〜25重量%、好ましくは0.5〜15重量%、より好ましくは1〜10重量%である。また、(A)成分の含有量が0.1重量%未満の場合、ゲル強度が不十分になる場合があり、(A)成分の含有量が25重量%を超えた場合、十分な透明性を確保できない場合がある。
【0024】
[(B)成分について]
(B)成分は、上記(A)成分以外の油性ゲル化剤である。
【0025】
(B)成分としては、具体的には、ポリアミド樹脂、デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸エステル、粘土鉱物、金属セッケン、デンプン脂肪酸エステル、ソルビトールのベンジリデン誘導体、ケイ酸類、12−ヒドロキシステアリン酸、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどを用いることができ、これらの中でも、ポリアミド樹脂、デキストリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく用いられ、十分な透明性を確保する観点から、ポリアミド樹脂が特に好ましく用いられる。
【0026】
より具体的には、次のとおりである。
【0027】
[1]ポリアミド樹脂
[1-1]下記の式(2)で表されるアミド末端ポリアミド樹脂を用いるのが好ましい。
【0028】
【化3】

【0029】
具体的には、商品名「ハイマレートPAM」(高級アルコール工業社製)を用いることができ、これは、(ダイマージリノール酸ビスジオクタデシルアミド/エチレンジアミン)コポリマーであり、式(2)において、Rが、相互に同一又は異なる、直鎖状又は分枝鎖状の、炭素原子数8〜22のアルキル基であり、Rが、ダイマー酸残基又は二塩基酸残基であり、nが、2〜4である。
【0030】
また、商品名「シルバクリアA200V」(アリゾナ ケミカル社製)又は商品名「シルバクリアA2614V」(アリゾナ ケミカル社製)を用いることができ、これは、式(2)において、Rが、炭素原子数14〜18のアルキルアミン基残基であり、Rが、ダイマージリノール酸残基であり、nが、2〜4である。
【0031】
[1-2]下記式(3)で表されるエステル末端ポリアミド樹脂を用いるのが好ましい。
【0032】
【化4】

【0033】
具体的には、商品名「ユニクリア100VG」(アリゾナ ケミカル社製)を用いることができ、これは、式(3)において、Rが、ステアリルアルコール残基であり、Rが、ダイマージリノール酸残基であり、nが、3又は4である。
【0034】
[1-3]他のポリアミド樹脂として、例えば、商品名「バーサミド930」(コグニス社製)を用いることができる。
【0035】
なお、特に、(B)成分としては、アミド末端ポリアミド樹脂が好ましく、十分な透明性を確保する観点から、式(2)で表されるポリアミド樹脂(例えば、商品名「ハイマレートPAM」(高級アルコール工業社製))を用いるのがより好ましい。
【0036】
[2]デキストリン脂肪酸エステル
具体的には、イソステアリン酸デキストリン、イソパルミチン酸デキストリン、オクタン酸デキストリン、オレイン酸デキストリン、ステアリン酸デキストリン、パルミチン酸/2-エチルヘキサン酸デキストリン、パルミチン酸/ステアリン酸デキストリン、パルミチン酸デキストリン、ベヘニン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、ヤシ油脂肪酸デキストリン、ラウリン酸デキストリンなどを用いることができる。
【0037】
[3]ショ糖脂肪酸エステル
具体的には、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステルなどを用いることができる。
【0038】
[4]脂肪酸エステル
具体的には、イヌリン脂肪酸エステル、ベヘン酸グリセリルなどを用いることができる。
【0039】
[5]粘土鉱物
具体的には、ジオクタデシルジメチルアンモニウム塩変性モンモリロナイト、ジヘキサデシルジメチルアンモニウム塩変性モンモリロナイト、ジメチルジオクタデシルアンモニウムモンモリナイトクレー、ジメチルジステアリルヘクトライト、ジメチルベンジルドデシルアンモニウムモンモリロナイトクレー、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムヘクトライトなどを用いることができる。
【0040】
[6]金属セッケン
具体的には、ミリスチン酸亜鉛、イソステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどを用いることができる。
【0041】
[7]デンプン脂肪酸エステル
具体的には、デンプンパルミチン酸エステルなどを用いることができる。
【0042】
[8]ソルビトールのベンジリデン誘導体
具体的には、モノベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトールなどを用いることができる。
【0043】
[9]その他
具体的には、無水ケイ酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、デカ(ベヘン酸/カプリン酸)ポリグリセリル)などを用いることができる。
【0044】
本発明の油性組成物において、(B)成分の含有量は、通常は0.01〜40重量%、好ましくは0.05〜30重量%、より好ましくは0.1〜25重量%である。(B)成分の含有量が0.01重量%未満の場合、ゲル強度が不十分となったりパック感が弱くなる場合があり、(B)成分の含有量が40重量%を超えた場合、十分な透明性を確保できなかったり、のびが悪くなる場合がある。
【0045】
本発明の油性組成物における(A)成分と(B)成分との配合比に関しては、(A)成分1重量部に対して、(B)成分は、通常は0.0004〜400重量部、好ましくは0.0033〜60重量部、より好ましくは0.0067〜50重量部である。上記範囲を超えた場合、凝固点が高くなる傾向があり、また、製剤とした場合の使用感も悪くなる傾向がある。
【0046】
[(C)成分について]
(C)成分は、液状油分である。
【0047】
液状油分としては、25℃で液状を呈する油分を用いるのが好ましく、具体的には、本技術分野で通常使用されている、高級アルコール、アミノ酸誘導体、炭化水素、動植物由来の油脂、硬化油、脂肪酸、エステル油、ラノリン・ラノリン誘導体、低級アルコール、多価アルコール、フッ素油、シリコーン油などを用いることができ、これらの中でも、高級アルコール、炭化水素、動植物由来の油脂、エステル油、ラノリン・ラノリン誘導体、シリコーン油を好ましく用いることができる。
【0048】
より具体的には、次のとおりである。
【0049】
[1]高級アルコール
具体的には、2−オクチルドデカノール、2−デシルテトラデカノール、イソステアリルアルコール、2−ヘキシルデカノール、オレイルアルコールなどを用いることができる。
【0050】
[2]炭化水素
具体的には、軽質流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、流動パラフィン、ポリブテン、スクワラン、α−オレフィンオリゴマー、イソヘキサデカン、イソドデカン、ポリイソブテン、流動イソパラフィンなどを用いることができる。
【0051】
[3]エステル油
具体的には、リンゴ酸ジイソステアリル、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリット、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、テトライソステアリン酸ペンタエリトリット、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、水添ロジン酸ペンタエリトリット、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸イソノニル、2−エチルヘキサン酸セチルなどを用いることができる。
【0052】
[4]ラノリン・ラノリン誘導体
具体的には、液状ラノリンなどを用いることができる。
【0053】
[5]シリコーン油
具体的には、メチルフェニルポリシロキサンなどを用いることができる。
【0054】
[6]動植物由来の油脂
具体的には、マカデミアナッツ油、アボカド油、ローズヒップ油、オリーブ油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ホホバ油、メドウフォーム油などを用いることができる。
【0055】
本発明の油性組成物において、透明性及び使用感の観点から、(C)成分の含有量は、通常は40〜95重量%、好ましくは50〜90重量%、より好ましくは60〜90重量%である。
【0056】
[(D)成分について]
(D)成分は、ダイマー酸エステル、ダイマージオールエステル、ダイマージオールエーテル、及び脂肪酸ポリグリセリル、からなる群から選択される少なくとも1種である。これらの中でも、ダイマー酸エステル、ダイマージオールエステル、ダイマージオールエーテルを好ましく用いることができ、特にダイマー酸エステルを好ましく用いることができる。
【0057】
より具体的には、次のとおりである。
【0058】
[1]ダイマー酸エステル
具体的には、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)、ダイマー酸ジイソプロピル、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル、ダイマージリノール酸水添ヒマシ油、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(フィトステリル/ベヘニル/イソステアリル)、ダイマージリノール酸ジ(イソステアリル/フィトステリル)などを用いることができる。
【0059】
[2]ダイマージオールエステル
具体的には、ダイマージリノレイル水添ロジン縮合物、ジイソステアリン酸ダイマージリノレイルなどを用いることができる。
【0060】
[3]ダイマージオールエーテル
具体的には、ヒドロキシアルキル(C12−14)ヒドロキシダイマージリノレイルエーテルなどを用いることができる。
【0061】
[4]脂肪酸ポリグリセリル(上記(B)成分として用いられる脂肪酸ポリグリセリルを除く)
具体的には、イソステアリン酸ポリグリセリル、ペンタオレイン酸ポリグリセリルなどを用いることができる。
【0062】
本発明の油性組成物において、凝固点を十分に下げる観点から、(D)成分の含有量は、通常は0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜50重量%、より好ましくは0.5〜40重量%である。
【0063】
なお、本発明の油性組成物は、上記の(A)、(B)、(C)、及び(D)の成分に加えて、固形又は半固形油分、用途に応じた有効成分、及び添加成分を、任意に含有してもよい。
【0064】
[固形又は半固形油分について]
固形又は半固形油分としては、25℃で固形又は半固形(液状ではない)を呈する油分を用いるのが好ましく、具体的には、本技術分野で通常使用されている、高級アルコール、アミノ酸誘導体、炭化水素、動植物由来の油脂、硬化油、脂肪酸、エステル油、ラノリン・ラノリン誘導体、フッ素油、シリコーン油、ワックス・ロウ類、硬化油、脂肪酸などを用いることができ、これらの中でも、アミノ酸誘導体、炭化水素、ラノリン・ラノリン誘導体、ワックス・ロウ類を好ましく用いることができる。
【0065】
より具体的には、次のとおりである。
【0066】
[1]アミノ酸誘導体
具体的には、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・2−オクチルドデシル)などを用いることができる。
【0067】
[2]炭化水素
具体的には、ワセリンなどを用いることができる。
【0068】
[3]ラノリン・ラノリン誘導体
具体的には、ラノリンなどを用いることができる。
【0069】
[4]ワックス・ロウ類
具体的には、キャンデリラロウ樹脂などを用いることができる。
【0070】
但し、十分な透明性を確保する観点から、本発明の油性組成物は、固形油分を実質的に含有しないことが好ましい。
【0071】
[有効成分について]
具体的には、次のとおりである。
【0072】
[1]抗炎症成分:グリチルレチン酸ステアリル、サリチル酸、アラントインなど。
[2]ビタミン成分:トコフェロール酢酸エステル、ビタミンA油など。
[3]保湿成分:ヒアルロン酸ナトリウム、ハチミツ、ローヤルゼリーエキス、ホエイ、水溶性コラーゲン、セラミドなど。
[4]紫外線吸収成分:パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルなど。
[5]鎮痛成分:メントール、カンフル、サリチル酸、ユーカリ油、サリチル酸メチルなど。
[6]抗菌成分:1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールなど。
[7]抗ウイルス成分
【0073】
[添加成分について]
具体的には、着色剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、滑沢剤、pH調整剤、矯味剤(甘味剤を含む)、矯臭剤(香料を含む)などを用いることができる。
【0074】
[油性組成物の凝固点について]
製剤化工程における不具合の解消、及び、容器の耐熱性から生じる容器の材質の制限の解消、の観点から、本発明の油性組成物の凝固点は、通常は70℃以下、好ましくは68℃以下、特に好ましくは65℃以下である。なお、凝固点の下限値は、棒状製品として使用する観点から、通常は40℃以上、好ましくは45℃以上、特に好ましくは50℃以上である。
【0075】
[油性組成物の硬度について]
本発明の油性組成物が固化した後の硬度は、通常は10〜100(g/0.5×0.5×3.14mm)、好ましくは15〜90(g/0.5×0.5×3.14mm)、より好ましくは25〜85(g/0.5×0.5×3.14mm)である。
【0076】
本発明における硬度とは、レオメーター(商品名「NRM-2002J」、不動工業株式会社製)を用いて、直径1mmの円柱状のアダプター(アダプターNo.6)を、筒状容器の軸中心と内周面との中間点の位置に、20mm/分の速度で、進入させ、進入から30秒間の最大値を、意味する(単位g/0.5×0.5×3.14mm)。
【0077】
(棒状製品)
本発明の棒状製品は、本発明の油性組成物が、筒状容器内に充填されて固化されてなるものである。
【0078】
図1は、本発明の棒状製品の断面図である。この棒状製品100は、一般に、棒状製剤2と繰り出し容器3とを備えている。繰り出し容器3は、棒状製剤2を収容するための筒状容器40と、容器40内に収容された棒状製剤2を容器40から繰り出すための繰り出し機構50と、容器40を塞ぐキャップ60と、を備えている。キャップ60は、容器40に対して着脱可能である。
【0079】
容器40は、横断面円形状を有している。棒状製剤2は、容器40内に摺接可能に嵌合している。
【0080】
繰り出し機構50は、バケット51及び回転軸52を備えている。バケット51は、棒状製剤2が充填される凹部511を有している。回転軸52は、底部に露出しているダイヤル521と、容器40内にダイヤル521から真っ直ぐに延びた中軸522と、を有している。中軸522は、表面に多数の溝523を有している。バケット51は、中軸522の溝523に螺合しており、中軸522が回転すると、中軸522に沿って上下動するようになっている。したがって、繰り出し機構50によれば、ダイヤル521が回転されることによって、中軸522が回転し、それに伴って、バケット51が棒状製剤2を伴って容器40内を上下動し、それにより、棒状製剤2が繰り出される。
【0081】
棒状製品100は、容器40内の棒状製剤2を、繰り出し機構50によって容器40から繰り出しながら使用に供されるようになっている。ここで、「繰り出す」とは、棒状製剤2を容器40に対して「出し入れする」ことを意味する。
【0082】
上述した棒状製品100は、次の工程(1)、(2)をこの順に経て製造される。
(1)本発明の油性組成物を調製する工程。
(2)上記油性組成物を、加熱して溶解し、容器40内に充填し、冷却して棒状に固化させる、成形工程。
【0083】
ところで、バケット51は、内周面に、螺旋状に延びたリブ512を有している。図では、リブ512は、4条に形成されている。成形された棒状製剤2は、リブ512によって、バケット51から抜けにくくなっている。したがって、棒状製剤2は、容器40から安定して繰り出される。なお、リブ512は、バケット51の内周面の全部ではなく上部のみに形成されている。仮に、リブ512がバケット51の内周面の全部に形成されている場合には、バケット51内の棒状製剤2が脆弱になってしまう。しかしながら、棒状製品100では、リブ512がバケット51の内周面の上部のみに形成されているので、バケット51内の棒状製剤2が脆弱になるのを抑制できる。なお、形成されるリブの条数は、特に限定されない。
【0084】
上述した棒状製品100の製造方法によれば、容器40内に棒状製剤2が直接に形成されるので、棒状製品100の生産性を向上できる。
【0085】
本発明の棒状製品に使用される筒状容器、繰り出し機構(バケット及び回転軸)、及びキャップは、一般的には、ABS、AS、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等の、硬質の合成樹脂で、構成されるが、75℃以上の耐熱性を有する硬質の合成樹脂を用いるのが好ましい。このような75℃以上の耐熱性を有する硬質の合成樹脂としては、具体的には、ABS、AS、ポリプロピレン等を用いることができる。
【0086】
特に、本発明の油性組成物が優れた透明性を有する場合には、筒状容器としては、透明性の高いABS樹脂(例えば、全光線透過率(JIS K 7361/2mmt)が90%以上)からなるものが好ましい。繰り出し機構としては、バケットとしてはポリプロピレン、回転軸としてはポリプロピレンや透明性の高いABS樹脂からなるものが好ましい。キャップとしては、ポリプロピレンからなるものが好ましい。
【実施例】
【0087】
本発明の実施例1〜6の油性組成物と、比較例1〜3の油性組成物と、を調製した。それらの油性組成物が含有している成分は、表1に示すとおりである。すなわち、実施例1〜6の油性組成物は、上述した(A)、(B)、(C)、及び(D)の成分を全て含有しているが、比較例1〜3の油性組成物は、(D)成分の代わりに、「水添ポリイソブテン」又は「ポリブテン」を含有している。
【0088】
【表1】

【0089】
なお、表1において、各成分の配合割合を示す数値の単位は、重量部である。
【0090】
実施例1〜6及び比較例1〜3の油性組成物を、加熱して溶解した後に、筒状容器内に充填して冷却し、それにより、棒状製剤を得た。そして、その棒状製剤を用いて、各種の物性及び使用感を測定した。
【0091】
[物性について]
(1)凝固点
棒状製剤5gを、細かく砕いて、20mlのネジ口瓶に入れた。次に、ステンレス製のバットに、シリコーン油を適量入れ、そのバットを、ホットプレート(商品名「ECHOTPLATE EC-1200N」、ASONE社製)に乗せて加熱し、そのバット内に、上記製剤の入ったネジ口瓶を入れ、上記製剤を、完全に溶解させた後、そのままの状態で室温に放置した。そして、ミクロスパーテルによって製剤が固まったのを確認した時の温度を、凝固点とした。温度計としては、商品名「CUSTOM CT-450WR」(CUSTOM社製)を用いた。
【0092】
(2)融点
棒状製剤5gを、細かく砕いて、20mlのネジ口瓶に入れた。次に、ステンレス製のバットにシリコーン油を適量入れ、そのバットを、ホットプレート(商品名「ECHOTPLATE EC-1200N」、ASONE社製)に乗せて加熱し、そのバット内に、上記製剤の入ったネジ口瓶を入れ、上記製剤の様子を目視で観察し、上記製剤が溶け始めた温度を融点とした。温度計としては、商品名「CUSTOM CT-450WR」(CUSTOM社製)を用いた。
【0093】
(3)硬度
油性組成物を充填する上記筒状容器として、直径約13mm及び高さ約60mmの円筒型容器を用いた。また、充填後の冷却として、25℃で12時間以上、恒温化した。得られた棒状製剤の上部10mmを切り取り、残りの棒状製剤を、上記筒状容器内に下降させた。これを、測定用試料として用いた。そして、レオメーター(商品名「NRM-2002J」、不動工業株式会社製)を用いて、硬度を測定した。すなわち、直径1mmの円柱状のアダプター(アダプターNo.6)を、上記筒状容器の軸中心と内周面との中間点の位置に、20mm/分の速度で、進入させ、進入から30秒間の最大値を、硬度とした(単位g/0.5×0.5×3.14mm)。
【0094】
[透明性について]
油性組成物を充填する上記筒状容器として、光路長10mmのセル(セル寸法10×10×45mm、二面透過タイプ、ポリスチレン製)を用いた。冷却固化して得られた棒状製剤を、25℃で1時間放置し、それを測定用試料として用いた。そして、分光光度計(商品名「UV-2450」、株式会社島津製作所製)を用いて、上記セル内の上記製剤に対する600nmの透過率を測定した。表1においては、85以上を「◎」、75以上85未満を「○」、50以上75未満を「△」、50未満を「×」で示した。
【0095】
[使用感について]
(1)「パック感」
上記透明性の評価で「◎」又は「○」であった実施例1、2、5と、比較例1〜3と、についてのみ、評価した。10人のモニターに、5段階で評価してもらった。「すごくある」を5点、「ある」を4点、「普通」を3点、「ない」を2点、「全然ない」を1点として、合計点を求めた。表2は、その結果を示す。
【0096】
【表2】

【0097】
(2)「のび」
アクリル板表面の10cm(5cm×2cm)の領域に、上記製剤を、20mg塗布した。そして、静動摩擦測定機であるトライボマスター(商品名「TL201S」、株式会社トリニティーラボ製)を用いて、上記製剤に関する動摩擦係数を測定した。すなわち、摩擦感テスターを、100gの荷重を加えた状態で2.0mm/秒の速度で移動させ、これにより、動摩擦係数を測定した。なお、測定データは、Condition catcher Model(商品名「MPL-10A-128」、株式会社九州共販製)を用いて、コンピュータへ転送し、コンピュータでは、動摩擦係数の平均値を求めた。なお、動摩擦係数の平均値は、上記製剤の「すべり性」を示しており、この「すべり性」と「のび」とは、相関関係にあるので、動摩擦係数の平均値に基づいて、「のび」を評価できる。動摩擦係数の平均値が小さい方が、「すべり性」は良い。表1においては、1.00未満を「◎」、1.00以上1.10未満を「○」、1.10以上1.20未満を「△」、1.20以上を「×」で示した。
【0098】
[考察]
(1)実施例1〜6の油性組成物は、いずれも、70℃以下の凝固点を有している。これは、(A)、(B)、(C)、及び(D)の全ての成分を含有しているからである、と考えられる。したがって、本発明の油性組成物によれば、製剤化工程の途中で固化することによる不具合の発生を、防止できる。また、本発明の棒状製品によれば、油性組成物を凝固させる製剤化工程において、耐熱性の低い材質の筒状容器を使用できるので、筒状容器の材質の選択の自由度を向上できる。
【0099】
(2)実施例1、2、5の油性組成物を固化してなる製剤は、透明性が優れている。これは、2種類の(A)成分を含有しており、且つ、(B)成分としてポリアミド樹脂を含有しているからである、と考えられる。したがって、本発明の油性組成物は、固化して製剤として使用する場合において、透明であることの利点を十分に発揮できる。また、透明性の優れた本発明の油性組成物の製剤を、ABS樹脂からなる透明な筒状容器内に形成した場合の、本発明の棒状製品によれば、製品全てが透明性を呈するので、外観的に極めて高い製品価値を発揮できる。
【0100】
(3)実施例1、3、4、5の油性組成物を固化してなる製剤は、「のび」という使用感が優れている。これは、(D)成分として「ダイマー酸エステル」を用いているからである、と考えられる。したがって、本発明の油性組成物は、固化して製剤として使用する場合において、満足できる使用感を提供することができる。また、本発明の棒状製品によれば、満足できる使用感を提供することができる。
【0101】
なお、本発明の棒状製剤の具体例を表3に示す。具体例としては、2つの「口紅」、「スティック状リップグロス」、「透明リップクリーム」を示した。
【0102】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の油性組成物は、容易に取り扱うことができるので、産業上の利用価値が大である。
【符号の説明】
【0104】
100 棒状製品 2 棒状製剤 40 筒状容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表されるN−アシルアミノ酸誘導体と、
(B)上記(A)成分以外の油性ゲル化剤と、
(C)液状油分と、
(D)ダイマー酸エステル、ダイマージオールエステル、ダイマージオールエーテル、及び脂肪酸ポリグリセリル、からなる群から選択される少なくとも1種と、
を含有していることを特徴とする油性組成物。
【化5】

(式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜26の炭化水素基であり、Rは、炭素原子数7〜18の炭化水素基であり、nは、1又は2である)
【請求項2】
70℃以下の凝固点を有している、
請求項1記載の油性組成物。
【請求項3】
68℃以下の凝固点を有している、
請求項1記載の油性組成物。
【請求項4】
(A)成分として、2種類のN−アシルグルタミン酸ジアルキルアミドを含有しており、
(B)成分として、ポリアミド樹脂を含有している、
請求項1記載の油性組成物。
【請求項5】
(D)成分として、ダイマー酸エステルを含有している、
請求項4記載の油性組成物。
【請求項6】
口唇用である、
請求項1記載の油性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つに記載の油性組成物が、筒状容器内に充填されて固化されてなることを特徴とする棒状製品。
【請求項8】
筒状容器が、ABS樹脂からなっている、
請求項7記載の棒状製品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−260824(P2010−260824A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113671(P2009−113671)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【出願人】(397030400)株式会社アンズコーポレーション (11)
【Fターム(参考)】