説明

油溶性アスコルビン酸誘導体を含有した乳化組成物

【課題】 皮膚化粧料等に有用な、油溶性アスコルビン酸誘導体を配合した、皮膚透過性をより一層向上させた乳化組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明は、油溶性アスコルビン酸誘導体とともに、水溶性高分子を含有し、乳化物の体積基準平均粒子径が8〜100μmであることを特徴とする油溶性アスコルビン酸誘導体を含有する乳化組成物である。
このような平均粒子径の乳化組成物とすることによって、油溶性アスコルビン酸誘導体の大きな皮膚透過性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油溶性アスコルビン酸誘導体の皮膚への浸透性を向上させた乳化組成物に関する。さらに詳しくは、油溶性アスコルビン酸誘導体を水溶性高分子の存在下に、乳化物の粒子径をコントロールしながら乳化することによって得られる、油溶性アスコルビン酸誘導体の皮膚透過性にすぐれ、油溶性アスコルビン酸誘導体を効率よく皮膚内へ分配させる安定な乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
L−アスコルビン酸(ビタミンC)はメラニン生成抑制作用、抗酸化作用、コラーゲン合成促進作用などの化粧品原料として優れたいくつかの薬理、生理作用が知られているが、酸化分解を受けやすく、着色しやすいという欠点を持っている。そこでL−アスコルビン酸を誘導体とすることによりこれらの特性を保持しつつ、安定性を高め、脂溶性を与えて製剤的に用途を拡大することを目的として種々のエステル誘導体が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
このような油溶性アスコルビン酸誘導体である、例えば、テトライソパルミチン酸L―アスコルビルは、細胞内でアスコルビン酸へと分解されて、濃度依存的に細胞内アスコルビン酸濃度を上昇させることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。また、アスコルビン酸の生理活性作用である抗酸化作用、コラーゲン産生促進作用等を発揮することが報告されている(例えば、非特許文献2、3参照)。さらに、テトライソパルミチン酸L―アスコルビルは皮膚親和性に優れ、真皮まで到達すると報告されており(例えば、非特許文献2、3参照)、その有効性を期待してテトライソパルミチン酸L―アスコルビルを配合した製品が、現在、市販されている。例えば、L−アスコルビン酸テトラ分岐脂肪酸エステル誘導体と水溶性美白剤を含有する化粧料(例えば、特許文献1参照)、L−アスコルビン酸テトラ分岐脂肪酸エステル誘導体と抗酸化剤との組み合わせ(例えば、特許文献2参照)、テトライソパルミチン酸L−アスコルビルを配合し、安定化させた油性化粧料(例えば、特許文献3参照)等についてすでに特許出願されている。また、テトラ脂肪酸L−アスコルビルを有効成分として配合した皮膚正常化用貼布剤も出願されている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
また、油溶性アスコルビン酸誘導体を含む処方の皮膚透過性への影響についても、数多くの報告がある。例えば、ゲル基剤については水溶液のものに比較して薬物の皮膚透過を抑制するとの報告(例えば、非特許文献4、5参照)があり、レシチン乳化したものやリポソームについては内包物・粒子自身の皮膚透過が促進される/抑制されるという双方の報告があり(例えば、非特許文献6、7参照)、皮膚への貯留性も報告されている(例えば、非特許文献8参照)。近年では、レシチン配合により脂溶性物質の皮膚透過が促進され、リポソーム化により更に促進されたという報告もある(例えば、非特許文献9参照)。
しかし、テトライソパルミチン酸L―アスコルビルのような油溶性アスコルビン酸誘導体について、これを化粧品の処方に配合した場合の皮膚透過性を増加させる方法について具体的に検討した例はまだ報告されていない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−306419号公報
【特許文献2】特開2003−342159号公報
【特許文献3】特開2004−51566号公報
【特許文献4】特開2003−48832号公報
【非特許文献1】日本化粧品技術者会誌、Vol.29、1996年、p382−386
【非特許文献2】要旨集 日本皮膚科学会総会、113(5)、p844
【非特許文献3】フレグランスジャーナル、25、1997年、p71−79
【非特許文献6】Life Science 26、1980年、p1473-1477
【非特許文献7】J. Control Release、Vol.18、1991年、p55−58
【非特許文献8】日本化粧品技術者会誌、Vol.27、1993年、p216-226
【非特許文献9】第50回SCCJ研究討論会要旨集、2002年6月、p13-16
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような油溶性アスコルビン酸誘導体を化粧料に配合するに際して、その皮膚透過性をより一層向上させた油溶性アスコルビン酸誘導体の乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、意外にも油溶性アスコルビン酸誘導体を水溶性高分子の存在下で乳化し、しかも乳化物の平均粒子径を比較的大きなある一定の範囲の粒子径に保つこと、具体的には、乳化物の平均粒子径を8μm以上100μm以下になるように制御しながら乳化することによって、油溶性アスコルビン酸誘導体の皮膚への透過性が増大することを見出し本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)油溶性アスコルビン酸誘導体とともに、水溶性高分子を含有し、乳化物の体積基準平均粒子径が8〜100μmであることを特徴とする油溶性アスコルビン酸誘導体を含有する乳化組成物。
(2)水溶性高分子が、ビニル系水溶性高分子であることを特徴とする、前記(1)に記載の油溶性アスコルビン酸誘導体を含有する乳化組成物。
(3)ビニル系水溶性高分子が、ポリアクリル酸塩、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルアクリル酸アクリルジメチルタウリンNa共重合体、ポリアクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸アミド、ポリビニルアルコールからなる群から選ばれる1種または2種以上の水溶性高分子であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の油溶性アスコルビン酸誘導体を含有する乳化組成物。
(4)油溶性アスコルビン酸誘導体がテトライソパルミチン酸L−アスコルビル、パルミチン酸L−アスコルビル、ステアリン酸L−アスコルビル、ジパルミチン酸L−アスコルビルのいずれかであることを特徴とする、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の油溶性アスコルビン酸誘導体を含有する乳化組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の特定の範囲の乳化粒子径を有する油溶性アスコルビン酸誘導体を含有する乳化組成物では、油溶性アスコルビン酸誘導体が皮膚内に効率よく浸透し、皮膚の表皮層または真皮層の部分に効率よく分配される。油溶性アスコルビン酸誘導体は皮膚内に分配された後分解してアスコルビン酸(ビタミンC)に変換されるため、効率よく皮膚内に分配されることによって、これらがメラノサイトに作用しやすくなり、シミ・そばかすや色素沈着に対する効果が一層向上することが期待できる。また、化粧品成分や医薬部外品と組み合わせて使用することによって、これらの成分との相乗作用や相乗効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
一般的に油性成分を乳化した場合、乳化の程度を強くして乳化粒子の粒子径を小さくするほど、油性成分の皮膚への透過性も上昇すると考えられる。ところが、意外にも油性成分が油溶性アスコルビン酸誘導体の場合には、水溶性高分子、更に必要に応じてレシチンなどのその他の乳化剤を加えて、これらの存在下で、乳化条件をコントロールして平均粒子径を8〜100μmとすることによって皮膚からの油溶性アスコルビン酸誘導体の浸透性が増加し、更に乳化条件を強くしてこれよりも平均粒子径を小さくした乳化物よりも皮膚への浸透性が優れるということを見出したことに基づくものである。
【0011】
本発明で使用することのできる油溶性アスコルビン酸誘導体としては、ジパルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビル、テトライソパルミチン酸L−アスコルビル等が挙げられる。より好ましくは、テトライソパルミチン酸L−アスコルビルである。これらは単独で用いても良く、また2種以上用いても良い。
【0012】
本発明においては、油溶性アスコルビン酸誘導体の乳化に際して水溶性高分子を存在させることが必要である。一般的に、高分子化合物とは分子量が1万以上でその主鎖が主として共有結合によりできている化合物とされ、分子量が1000〜1万のものをオリゴマーとよぶことがあり、また、水溶性高分子は水に溶ける高分子のことをいう。本発明においては、水溶性高分子はかかる意味の水溶性高分子であればよく、水溶性のオリゴマーであっても実質的に乳化系の粘度を増大させ、乳化を安定させることができる場合には本発明の水溶性高分子に含める。
本発明で使用することのできる水溶性高分子は、好ましくビニル系水溶性高分子である。さらに具体的には、このようなビニル系水溶性高分子として、ポリアクリル酸塩、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルアクリル酸アクリルジメチルタウリンNa共重合体、ポリアクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸アミド、ポリビニルアルコール等が用いられる。
これらの水溶性高分子は、比較的大きな乳化粒子径を持った乳化組成物を安定化させるために好ましいものである。
【0013】
ビニル系水溶性高分子以外にも、カラギーナン、トラガカントガム、クインスシード、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、カルボキシメチルデキストランナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、ガラクタン、ペクチン、寒天、デキストラン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、変性バレイショデンプン、カルボキシメチルキトサンサクシナミド、コラーゲン、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等の天然または合成のその他の水溶性高分子を比較的粒径の大きい乳化系を安定化させるために利用できる。
【0014】
本発明の乳化組成物における油溶性アスコルビン酸誘導体の配合量は、乳化組成物中の0.1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%である。0.1質量%未満では、真皮に浸透する油溶性アスコルビン酸誘導体は微量となり、十分な効果が得られ難く、30質量%を超える量では、多量に配合することによりべたつき感が生じ、使用感が悪くなる。
【0015】
本発明の乳化組成物における水溶性高分子の配合量は、0.05〜5.0質量%、好ましくは0.1〜2.0質量%である。0.05質量%未満では、乳化安定性が不十分であり、5.0質量%を超えるとべたつきが強く、塗布時の伸びが悪くなる。
【0016】
本発明の乳化組成物は、上記の水溶性高分子のほかに、必要に応じてレシチン、水添レシチン、リゾレシチン、水添リゾレシチン、水酸化レシチン等のレシチン系乳化剤を配合してもよい。
また、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のその他の乳化剤を配合することもできる。
【0017】
本発明の乳化組成物は、以上のような組成物を一定の条件と方法によって乳化し、体積基準の平均粒子径を8〜100μmとすることが必要である。乳化物の体積基準の平均粒子径が8μm未満では、かえって油溶性アスコルビン酸誘導体の皮膚内への浸透速度が低くなり、皮膚内への分配量が少なくなる。乳化物の体積基準の平均粒子径が100μmを超えると、乳化組成物を安定化することが困難になる。
【0018】
乳化成分として水溶性高分子を使用して組成物を乳化する場合には、油相成分である油溶性アスコルビン酸誘導体に水溶性高分子を分散させた後、更に必要に応じてレシチン系乳化剤を加え、これに水に溶解した各種水相成分を混合し、プロペラ攪拌等によって緩やかに攪拌して比較的粒子径の大きい均一な乳化物を得ることができる。もしくは、水に水溶性高分子、各種水相成分を溶解し、これに油相成分である油溶性アスコルビン酸誘導体、油剤、更に必要に応じてレシチン系乳化剤を混和したものを添加し、プロペラ攪拌等によって緩やかに攪拌して比較的粒子径の大きい均一な乳化物を得ることができる。本発明ではこれを「高分子乳化」または「高分子乳化・レシチン添加」という。
【0019】
乳化成分としてレシチン系の乳化剤を使用する場合は、レシチン系乳化剤とその他の油相成分の混合物に油溶性アスコルビン酸誘導体を滴下して加えてレシチンゲルを形成させ、これに水に溶解した水溶性高分子とその他の各種水相成分を混合し、ホモミキサーのような高せん断力で混合するタイプの高せん断攪拌によって乳化物を得ることができる。この場合、油溶性アスコルビン酸誘導体の滴下を例えば5分間以上のように時間をかけてゆっくり滴下するとレシチンゲルが形成され乳化物の粒子径が小さくなるが、例えば1分間以内のように短時間で滴下を行なうとレシチンゲルが形成されず比較的大きい粒子径の乳化物を得ることができる。そして、この場合にはレシチンの乳化物が水溶性高分子によって安定化される。本発明ではこれを「レシチン乳化・ゲル化」という。
【0020】
また、レシチン系乳化剤を使用して油相と水相を乳化させた後、水溶性高分子を加えて更に乳化して乳化物を得ることもできる。レシチン系乳化剤と他の油相成分の混合物に油溶性アスコルビン酸誘導体を滴下してレシチンゲルを形成させ、これに水に溶解した各種水相成分を混合し、高せん断攪拌によって乳化物とし、これに更に水溶性高分子を加えて攪拌して安定で均一な乳化物を得ることができる。この場合、油溶性アスコルビン酸誘導体を短時間で滴下することによって比較的大きい粒子径の乳化物を得ることができる。本発明ではこれを「複合乳化」という。
本発明においては、このような乳化方法をとることによって、体積基準の平均粒子径が8〜100μm、好ましくは20〜70μmの本発明の乳化組成物が得られる。
【0021】
本発明において乳化物の粒子径は、以下の方法によって測定した体積基準平均粒子径である。即ち、体積基準平均粒子径は、Mie理論に基づくレーザー回折・散乱法によって求められる平均粒子径であり、粒子にレーザー光などの光を照射し、そこからの散乱光の角度分布から次の式によって求められる。
=Σ(νd)/Σν
ここで、dは体積基準平均粒子径、dは粒子径、νは粒子径dに存在する粒子の体積基準存在比率(%)を表す。具体的には、市販されているレーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、シスメックス社製、マスターサイザー2000など)を利用して測定することができる。
【0022】
本発明の乳化組成物は、皮膚に塗付して使用することを目的として、それぞれの薬効成分や活性成分を乳化組成物中に配合して、皮膚化粧料、皮膚外用剤、老化防止剤などとする。皮膚化粧料、皮膚外溶剤、老化防止剤などの場合には、その用途、使用目的、剤形などに応じて、植物油のような油脂類、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、防腐剤、糖類、金属イオン封鎖剤、粉体成分、紫外線吸収剤、紫外線遮断剤、ヒアルロン酸のような保湿剤、香料、pH調整剤等を含有させることができる。ビタミン類、皮膚賦活剤、血行促進剤、常在菌コントロール剤、活性酸素消去剤、抗炎症剤、美白剤、殺菌剤等の他の薬効成分、生理活性成分を含有させることもできる。
【0023】
油脂類としては、例えば、ツバキ油、月見草油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、ホホバ油、胚芽油、小麦胚芽油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン等の液体油脂、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、モクロウクロウ核油、硬化油、硬化ヒマシ油等の固体油脂、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、ヌカロウ、ラノリン、酢酸ラノリン、液状ラノリン、サトウキビロウ等のロウ類、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等があげられる。
【0024】
高級脂肪酸として、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等があげられる。
【0025】
高級アルコールとして、例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、オクチルドデカノール等の分枝鎖アルコール等があげられる。
シリコーンとして、例えば、鎖状ポリシロキサンのジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンのデカメチルポリシロキサン等があげられる。
【0026】
アニオン界面活性剤として、例えば、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、POEラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、N−アシルサルコシン酸、スルホコハク酸塩、N−アシルアミノ酸塩等があげられる。
カチオン界面活性剤として、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等があげられる。
【0027】
両性界面活性剤として、例えば、アルキルベタイン、アミドベタイン等のベタイン系界面活性剤等があげられる。
非イオン界面活性剤として、例えば、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル類、硬化ヒマシ油誘導体があげられる。
防腐剤として、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン等をあげることができる。
金属イオン封鎖剤として、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エデト酸、エデト酸ナトリウム塩等のエデト酸塩をあげることができる。
【0028】
べたつきを抑えたり、色を付けたりするために、粉末成分として、例えば、タルク、カオリン、雲母、シリカ、ゼオライト、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、セルロース粉末、無機白色顔料、無機赤色系顔料、酸化チタンコーテッドマイカ、酸化チタンコーテッドタルク、着色酸化チタンコーテッドマイカ等のパール顔料、赤色201号、赤色202号等のタール色素をあげることができる。
【0029】
紫外線吸収剤として、例えば、パラアミノ安息香酸、サリチル酸フェニル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン等をあげることができる。
紫外線遮断剤として、例えば、酸化チタン、タルク、カルミン、ベントナイト、カオリン、酸化亜鉛等をあげることができる。
【0030】
保湿剤として、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、キシリトール、マルチトール、マルトース、ソルビトール、ブドウ糖、果糖、ショ糖、乳糖、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸、シクロデキストリン等があげられる。
【0031】
薬効成分として、例えば、ビタミンA油、レチノール等のビタミンA類、リボフラビン等のビタミンB2類、ピリドキシン塩酸塩等のB6類、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−グルコシド等の水溶性アスコルビン酸類、パントテン酸カルシウム等のパントテン酸類、ビタミンD2、コレカルシフェロール等のビタミンD類、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸DL−α−トコフェロール等のビタミンE類等のビタミン類をあげることができる。
【0032】
そのほかに、プラセンタエキス、グルタチオン、ユキノシタ抽出物等の美白剤、ローヤルゼリー、ぶなの木エキス等の皮膚賦活剤、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、カフェイン、タンニン酸、γ−オリザノール等の血行促進剤、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸誘導体、アズレン等の消炎剤、アルギニン、セリン、ロイシン、トリプトファン等のアミノ酸類、常在菌コントロール剤のマルトースショ糖縮合物、塩化リゾチーム等をあげることができる。
【0033】
さらに、相乗効果を得るために、カミツレエキス、パセリエキス、ワイン酵母エキス、グレープフルーツエキス、スイカズラエキス、コメエキス、ブドウエキス、ホップエキス、コメヌカエキス、ビワエキス、オウバクエキス、ヨクイニンエキス、センブリエキス、メリロートエキス、バーチエキス、カンゾウエキス、シャクヤクエキス、サボンソウエキス、ヘチマエキス、トウガラシエキス、レモンエキス、ゲンチアナエキス、シソエキス、アロエエキス、ローズマリーエキス、セージエキス、タイムエキス、茶エキス、海藻エキス、キューカンバーエキス、チョウジエキス、マロニエエキス、ハマメリスエキス、クワエキス等の各種抽出物をあげることができる。
【0034】
本発明の乳化組成物は、ローション状、乳液状、クリーム状等の種々の剤型とすることができる。これらを身体に塗布、また、不織布等に塗布して貼付、噴霧等により適用することができる。また、化粧料としては、乳液、クリーム、パック等の皮膚化粧料、メイクアップクリーム、乳液状又はクリーム状あるいは軟膏型のファンデーション、アイカラー、チークカラーといったメイクアップ化粧料、ハンドクリーム、レッグクリーム、ボディミルク等の身体用化粧料等とすることができる。
次に、本発明を実施例によって更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0035】
(1)サンプルの調製
本実施例において使用した油溶性アスコルビン酸誘導体(VC−IP)を含む乳化組成物の配合組成を表1に示す。これらの各配合物を以下に記載した方法で乳化して、乳化組成物とした。
【0036】
(i)レシチン乳化・ゲル化
本発明品1および比較品1の乳化物は以下のようにして調製した。即ち、300gのビーカーに、表1に示す油相成分である成分《4》、《5》、《6》を80℃で加温溶解し、この油相に
200rpmのプロペラ攪拌により緩やかに攪拌しながら成分《1》を滴下し、ゲルを形成させた。この際、本発明品1では成分《1》の滴下を1分間以内に行い、比較品1では成分《1》の滴下を約5分間かけて行った。他方、水相成分である成分《3》、《7》、《8》を成分《11》に加温溶解し、これらの両者を室温に冷却後、500gのビーカー中で羽根径25mmのホモミキサー(特殊機化工業株式会社製、T.K.ホモミクサー)を用いて、3000rpmにて約5分間攪拌した。次いで、成分《9》、《10》を予め精製水(成分《11》)に溶解しておいたものを加えて、プロペラ攪拌によって緩やかに攪拌して均一な乳化物を得た。
比較品1の場合のように油相への成分《1》の滴下を時間をかけてゆっくり行なうとレシチンゲルが十分に形成され乳化物の粒子径が小さくなるが、本発明品1の場合のように、油相への成分《1》の滴下を短時間で行なうとレシチンゲルが十分に形成されず乳化物の粒子径が大きくなる。
【0037】
(ii)高分子乳化、高分子乳化・レシチン添加
本発明品2および4の乳化物は以下のようにして調製した。即ち、300gのビーカーに、本発明品2の場合は表1に示す成分《1》と《2》を混合し、本発明品4の場合は更に成分《4》を混合し、他方、水相成分である成分《5》〜《8》を精製水に80℃にて加温溶解し、これらの両者を室温に冷却後500gのビーカー中で混合し、その後、成分《9》を予め精製水(成分《11》)に溶解しておいたものを加えて、プロペラ攪拌によって緩やかに約5分間攪拌して均一な乳化物を得た。この場合には水溶性高分子(成分《2》)による乳化であり、比較的大きな粒子径の乳化物が得られる。
【0038】
(iii)複合乳化、複合乳化・小粒径化
本発明品3、比較品2および3の乳化物は以下のようにして調製した。即ち、300gのビーカーに、表1に示す油相成分である成分《4》、《5》、《6》を80℃で加温溶解し、この油相に200rpmのプロペラ攪拌により緩やかに攪拌しながら成分《1》を滴下し、ゲルを調製した。この際、本発明品3では成分《1》の滴下を1分間以内に行い、比較品2および3では成分《1》の滴下を約5分間かけて行った。
他方、水相成分である成分《7》、《8》を成分《11》に80℃にて加温溶解し、これらの両者を室温に冷却後、500gのビーカー中で羽根径25mmのホモミキサー(特殊機化工業株式会社製、T.K.ホモミクサー)を用いて、3000rpmにて約5分間攪拌した。本発明品3の場合には、引き続き、成分《9》を予め精製水(成分《11》)に溶解しておいたものを加え、更に成分《2》の水溶性高分子を加えて、プロペラ攪拌によって緩やかに攪拌して均一な乳化物を得た。
【0039】
また、比較品2および3の場合には、ホモミキサーによる攪拌の終了後、引き続きこの混合物をマイクロフルイダイザー(Microfruidics Corporation、型式M110E/H)を用いて更に小粒径化の処理を行ない、次いで、成分《9》を予め精製水(成分《11》)に溶解しておいたものを加え、更に成分《2》の水溶性高分子を加えて、プロペラ攪拌によって緩やかに攪拌して均一な乳化物を得た。
この場合はレシチンゲルによって得た乳化物に更に水溶性高分子によって乳化を安定化させている。比較品2,3ではマイクロフルイダイザーによって乳化粒子径を更に小さくして安定化させている。
【0040】
【表1】

【0041】
(2)乳化組成物の平均粒子径の測定
上記のようにして調製した表1に示す本発明品1〜4および比較品1〜3の各サンプルの乳化物の体積基準平均粒子径を、市販のレーザー回折式粒度分布測定装置(シスメックス社製、マスターサイザー2000)を用いて測定した。
得られたそれぞれの乳化組成物の体積基準平均粒子径を粘度、pHとともに表2に示す。また、そのうちの代表的な本発明品3、4および比較品2の乳化物の粒度分布のグラフを図1に示す。
【0042】
(3)皮膚透過性試験
下記の条件で、Franz型拡散セルを用いて試験を行った。
本発明品1〜4および比較品1〜3の各サンプルを、Franz型拡散セルの上部に充填し、透過膜で挟んで下部にレセプターの溶液を充填して35℃に調整した水浴中に浸し、各サンプル中の透過膜を拡散する油溶性アスコルビン酸誘導体の拡散量を求めた。即ち、試験開始した後2時間経過したもの、および24時間経過したものの透過膜(皮膚)について、アスコルビン酸及びテトライソパルミチン酸L−アスコルビルをそれぞれ抽出し、HPLCにて測定した。水浴に浸している間、Franz型拡散セル内は、攪拌子で攪拌を行った。これらの測定結果を表2に示す。
【0043】
なお、供試サンプルとして、テトライソパルミチン酸L−アスコルビルを含有する本発明品1〜4および比較品1〜3の各サンプルをそれぞれ100μL使用した。透過膜はユカタンミニブタ皮膚を用い、透過部分の有効面積は0.95cmであった。
レセプターは、pH7.4のリン酸塩緩衝液(phosphate buffered saline)の4mLを使用した。即ち、KCl:0.2g/L、KHPO:0.2g/L、NaCl:8.0g/L、NaHPO:1.15g/L、Dithioreitol:0.5g/L、Kanamycin:0.5g/Lのリン酸塩緩衝液である。
【0044】
【表2】

【0045】
まず、テトライソパルミチン酸L−アスコルビル(VC−IP)を、乳化剤として水添レシチンを用い、水溶性高分子としてカルボキシビニルポリマーを用いて、レシチン乳化によって乳化物を調製した場合では、本発明品1と比較品1に示すように、本発明品1では1分という短時間で滴下を行ない、47.4μmの平均粒子径の乳化物が得られ、皮膚中のVC−IP濃度が2時間後で1741nmol/mg、24時間後で2098nmol/mgであったが、比較品1では、3.59μmの平均粒子径の乳化物が得られ、皮膚中のVC−IP濃度が2時間後で705nmol/mg、24時間後で908nmol/mgとなっており、本発明品1の乳化物の平均粒子径がかなり大きいものであるにもかかわらず、比較品に比べて大きな皮膚中のVC−IP濃度を示すことがわかる。
【0046】
また、本発明品2、本発明品4に示すように、水溶性高分子としてSimulgel NSを用いて乳化物を調製したものは、その平均粒子径が40.41μmおよび66.08μmとなり、皮膚中のVC−IP濃度も1100〜2000nmol/mgと大きな値を示した。
【0047】
更に、本発明品3に示すように、水添レシチンで乳化したのち更に水溶性高分子で乳化した複合乳化によるものはその平均粒子径が8.03μmとなり、皮膚中のVC−IP濃度が2時間後で1193nmol/mg、24時間後で1512nmol/mgであったが、この乳化物を小粒径化処理を行った場合には、その平均粒子径が0.21μmとなり、乳化物の粒子径が非常に小さい乳化物となったのもかかわらず、皮膚中のVC−IP濃度が2時間後で406nmol/mg、24時間後で731nmol/mgとなった。
従って、本発明の油溶性アスコルビン酸誘導体を含む乳化組成物では、その体積平均粒子径を8μm以上、100μm程度までの比較的大きな粒子径とすることによって、皮膚透過性の優れた油溶性アスコルビン酸誘導体の乳化物が得られることがわかった。
【実施例2】
【0048】
下記の処方によりローションを製造した。単位は質量%である。
成分名 配合量(%)
(1)グリセリン 9.5
(2)1,3−ブチレングリコール 4.5
(3)ブドウ糖 1.5
(4)エタノール 5.0
(5)カルボキシビニルポリマー 0.20
(6)グリチルリチン酸ステアリル 0.1
(7)ヒアルロン酸ナトリウム 0.0005
(8)ポリソルベート 60 0.1
(9)VC−IP 2.0
(10)L−アルギニン 0.2
(11)精製水 残余
【0049】
室温下で精製水(11)に、(1)〜(3)、(5)、(7)を溶解し80℃に加温し、そこへ(6)、(9)を混合して80℃に加温したものを滴下しながらプロペラで緩やかに攪拌した。精製水(11)に(10)を溶解したものを添加混合し、冷却後(4)を添加混合して、均一に溶解したローションを得た。実施例1と同様の方法によりこの乳化物の体積平均粒子径は測定してところ、40μmであった。
【実施例3】
【0050】
下記の処方によりクリームを製造した。単位は質量%である。
成分名 配合量(%)
(1)ステアリルアルコール 6.0
(2)ステアリン酸 2.0
(3)スクワラン 9.0
(4)オクチルドデカノール 10.0
(5)VC−IP 5.0
(6)1,3−ブチレングリコール 8.0
(7)ポリエチレングリコール1500 4.0
(8)アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体 0.4
(9)ソウハクヒエキス 0.1
(10)精製水 残余
【0051】
上記(1)〜(5)成分を80℃に加熱溶解し油相とする。成分(6)〜(9)、(10)を溶解し80℃に加熱し水相とする。水相に油相を徐々に加え、プロペラで攪拌しながら緩やかに乳化し、
40℃まで冷却し、成分(9)を加えた後、さらに30℃まで攪拌冷却してクリームを得た。実施例1と同様の方法によりこの乳化物の体積平均粒子径は測定してところ、20μmであった。
【実施例4】
【0052】
下記の処方によりローションを製造した。単位は質量%である。
成分名 配合量(%)
(1)グリセリン 8.0
(2)1,3−ブチレングリコール 5.0
(3)水添レシチン 0.4
(4) VC−IP 4.0
(8)カルボキシビニルポリマー 0.20
(9)ヒアルロン酸ナトリウム 0.0005
(10)L−アルギニン 0.2
(11)精製水 残余
【0053】
油相成分(1)〜(3)を80℃で加温溶解し、成分(4)を速やかに滴下混合した。水相成分として(8)、(9)を成分(11)に溶解して80℃に加温した。油相に水相を混合し、プロペラで攪拌した。その後、成分(11)の一部に溶解した成分(10)を添加混合し、冷却した。実施例1と同様の方法によりこの乳化物の体積平均粒子径は測定してところ、30μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の乳化組成物とすることによって、テトライソパルミチン酸L−アスコルビル等の油溶性アスコルビン酸誘導体を配合し、しかも皮膚透過性の優れた乳化組成物とすることができる。従って、本発明の乳化組成物は、ローション状、乳液状、クリーム状等の種々の剤型として、皮膚からの油溶性アスコルビン酸誘導体吸収性の優れた種々の乳液、クリーム、パック等の皮膚化粧料、身体用化粧料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は実施例1の乳化物のうち本発明品3,4および比較品2の体積基準粒子径の分布を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油溶性アスコルビン酸誘導体とともに、水溶性高分子を含有し、乳化物の体積基準平均粒子径が8〜100μmであることを特徴とする油溶性アスコルビン酸誘導体を含有する乳化組成物。
【請求項2】
水溶性高分子が、ビニル系水溶性高分子であることを特徴とする、請求項1に記載の油溶性アスコルビン酸誘導体を含有する乳化組成物。
【請求項3】
ビニル系水溶性高分子が、ポリアクリル酸塩、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルアクリル酸アクリルジメチルタウリンNa共重合体、ポリアクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸アミド、ポリビニルアルコールからなる群から選ばれる1種または2種以上の水溶性高分子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の油溶性アスコルビン酸誘導体を含有する乳化組成物。
【請求項4】
油溶性アスコルビン酸誘導体がテトライソパルミチン酸L−アスコルビル、パルミチン酸L−アスコルビル、ステアリン酸L−アスコルビル、ジパルミチン酸L−アスコルビルのいずれかであることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の油溶性アスコルビン酸誘導体を含有する乳化組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2006−8620(P2006−8620A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189999(P2004−189999)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月30日 社団法人日本薬学会主催の「日本薬学会第124年会」において文書をもって発表
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】