説明

波長可変レーザ光源

【課題】従来技術の外部共振器レーザにおいて、モードホップを回避しつつ、高速で広帯域を波長掃引することは、発信波長および位相の2つのパラメータを同時に高速に連続的に調整する必要がある。この調整のためには、複雑な機構を必要とした。外部共振器レーザ以外の導波路型の分布帰還型(DFB)レーザなどでは、外部共振器型レーザに匹敵するような広帯域の波長可変性能は、構造などの制限により未だ実現できていない。
【解決手段】本発明は、回折格子を含む外部共振器型の波長可変光源において、半導体レーザ部と回折格子との間の光路上に、異なる制御電圧で制御される屈折率変調部および偏向部を有する点に特徴がある。波長可変帯域の設定と、モードホップフリー発振の条件とを屈折率変調部および偏向部の各制御電圧E、Eで別個に独立に行なうことができる。屈折率変調部および偏向部には、KTNなどの電気光学結晶を利用し、異なる電極材料を使用する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、単一モード光を発生してその波長を変化させることができる波長可変レーザに関する。
【0002】
光学機器を使ったイメージング技術は、カメラやプリンタ、ファクシミリなどの民生用の電子機器だけでなく、医療分野にも広がっている。生体内部の断層を非侵襲的にイメージングするために、既に、X線を使用したX線撮影や超音波を使用した診断が広く利用されている。X線を使用した方法は、被爆の問題のため使用頻度や使用部位に大幅な制限があり、また、その分解能はフィルムの等倍撮影の分解能に制限される。超音波を使用した方法は、被爆の問題がないためX線のような使用の制限は無いが、分解能は通常1cm程度に過ぎない。したがって、細胞レベルサイズでのイメージングは不可能である。
【0003】
医療現場で,ミクロンオーダーの空間分解能で生体表皮下の断層イメージを取得できる画期的な技術である光コヒーレントトモグラフィ(OCT)の分野では、対象物を高速にかつ高感度で検出するニーズが高まっている(非特許文献1)。
【0004】
OCTに用いられている周波数領域干渉計またはSwept-Source干渉計においては、高速で広帯域の走査が可能な波長走査型レーザ光源が必要となる。そこでは、狭スペクトルで広帯域の波長可変光源としては、外部共振器型が一般であった。波長を連続に変化させるためには、ポリゴンミラーなどを機械的に制御する必要があるので、波長の可変速度には限界があった。
【0005】
図3は、ポリゴンミラーを用いた従来技術の外部共振器型の波長走査型レーザ光源の構成を示す。図3を用いて、一般的な外部共振器レーザ光源の発振原理を説明する。レーザ光減100は、利得媒質101およびその両端に配置された集光レンズ102、111を備える。集光レンズ102側にはポリゴンミラー120を介して回折格子102が配置されている。集光レンズ111側には、出力結合鏡112から出力光113が得られる。利得媒質101からの入射光はポリゴンミラー120の反射面Aにおいて反射して、所定の回折格子方程式の条件を満たす入射角θ(110)で回折格子106に入射する。ポリゴンミラー120は、一定速度で方向121の向きに回転するため、ポリゴンミラー120の反射面Aにおける発振光の入射・反射角が回転と共に周期的に変化する。従って、回折格子106への入射角θによって、回転とともに発振波長λが変化する。図3の構成では、出力結合鏡112と回折格子106との間で共振器が構成される。また。回折格子とポリゴンミラーによってバンドパスフィルターを構成している。
【0006】
上述のように、一般的な外部共振器レーザにおいては、半導体等の利得媒質と外部ミラーを配置して外部共振器を構成し、この間にバンドパスフィルターを設け、特定の波長のみを発振させる。回折格子は、バンドパスフィルタとミラー性能の同時の役割を果たすものとして用いられている。回折格子への入射角度を、例えばポリゴンミラーの回転によって変化させることによって発振波長を変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開公報 WO 2006/137408 A1 明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】春名正光、応用物理学会誌「光コヒーレンストモグラフィーの進展」Vol.77, No.09, p.1085-1092 (2008)
【非特許文献2】J. Miyazu, Y. Sasaki, K. Naganuma, T. Imai, S. Toyoda, T. Yanagaw, M. Sasaura, S. Yagi and K. Fujiura, “400 kHz Beam Scanning Using KTa1-xNbxO3 Crystals,” Proc. of 2010 Conf. on Lasers and Electro-Optics, CTuG5, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図3で示したように回折格子への入射角度を変化させて波長を可変にするとともに、同時に、外部共振モードもこの波長の変化率に同期することができれば、モードホップを生じること無く波長を変化させることができる。しかしながら、従来技術の外部共振器レーザにおいて、モードホップを回避しつつ、高速で広帯域を波長掃引することは、発信波長および位相の2つのパラメータを同時に高速に連続的に調整する必要がある。この調整のためには、複雑な機構を必要とした。
【0010】
また、外部共振器レーザ以外の導波路型の分布帰還型(DFB)レーザなどでは、外部共振器型レーザに匹敵するような広帯域の波長可変性能は、構造などの制限により実現できていない。
【0011】
本発明は、このような従来技術の波長可変レーザ光源の問題点に鑑みてなされたもので、電気光学素子を用いることにより、モードホップのないシングルモードで、波長を広帯域で走査する波長可変レーザ光源を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、発振波長において対応する利得を有する利得媒質と、回折格子とを少なくとも含む外部共振型波長可変レーザ光源において、前記回折格子と前記利得媒質との間の光路上に配置され、第1の制御電圧によって電気光学結晶材料の屈折率を変調する屈折率変調部と、前記回折格子と前記利得媒質との間の光路上で、前記屈折率変調部よりも前記回折格子側に配置され、第2の制御電圧によって電気光学結晶中の光路を前記第2の制御電圧の印加方向に偏向する偏向部とを備えたことを特徴とするレーザ光源である。回折格子は、リトロー配置によっても、または、端面鏡をさらに含むリットマン配置によっても良い。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1のレーザ光源であって、前記第1の制御電圧を印加する電極の第1の構成材料と、前記第2の制御電圧を印加する電極の第2の構成材料とが異なることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1のレーザ光源であって、前記1の制御電圧によって、レーザ光源のモードホップフリー発振条件を調整し、前記2の制御電圧によって、レーザ光源の発振波長帯域の幅を調整することを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1のレーザ光源であって、前記屈折率変調部の電気光学結晶と、前記偏向部の電気光学結晶が、一体のものであることを特徴とする。単一の電気光学結晶に、前記第1の電極および前記第2の電極を形成し、1つの基板上に形成できる。電気光学結晶が別個のものでも良い。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1のレーザ光源であって、前記電気光学結晶材料は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1−x Nb (0<x<1):KTN)、またはリチウムをドープした(K1−yLiTa1−xNb(0<x<1、0<y<1))であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、波長可変帯域の設定とモードホップフリー発振の条件とを、屈折率変調部および偏向部の各制御電圧E、Eで別個に独立に行なうことができる。異なる電極材料を用いた制御電極を使用し、2つの制御電圧の制御を行なうだけで、従来複雑だった波長可変レーザ光源の2つのパラメータの制御を高速に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の波長可変レーザ光源の基本構成を示す図である。
【図2】図2は、実施例1の波長可変レーザ光源の構成を示す図である。
【図3】図3は、ポリゴンミラーを用いた従来技術による外部共振器型の波長走査型レーザ光源の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、回折格子を含む外部共振器型の波長可変光源において、半導体レーザ部と回折格子との間の光路上に、異なる電極材料による制御電極を有し、それぞれ独立した制御電圧で制御される屈折率変調部および偏向部を有する点に特徴がある。波長可変帯域の設定と、モードホップフリー発振の条件とするための設定として、屈折率変調部および偏向部の各制御電圧E、Eで別個に独立に行なうことができる。屈折率変調部および偏向部には、KTNなどの電気光学結晶を利用する。
【0020】
図1は、本発明の波長可変レーザ光源の基本構成を示す図である。本発明の波長可変レーザ光源1は、半導体レーザ部2および回折格子5から構成され、半導体レーザ部2および回折格子5との間で共振器が構成される。半導体レーザ部2は、図3で説明したように、利得媒質や前後の集光レンズ、出力結合鏡(反射ミラー)などを含んでおり、図1では省略して1つのブロックとして表現している。利得媒質は、発振波長において対応する利得を有している。回折格子5は、後述するように半導体レーザ部2との関係で、リトロー構成で配置されている。本発明の波長可変レーザ光源1は、さらに、半導体レーザ部2と回折格子5との間の光路上に、屈折率変調部3および偏向部4をさらに備えている。
【0021】
屈折率変調部3および偏向部4は、いずれも、特許文献1に開示されている電気光学結晶を用いる。特許文献1に記載されているように、この電気光学効果結晶では、電圧印加による電界に伴って、結晶に電荷の注入が行なわれる。その結果、結晶内に、その注入電荷の形成する空間電荷分布、または、注入電荷がさらに電気光学結晶中に捕捉されて生成されるトラップ電荷分布が生じる。そして、この電荷分布による非一様な電界分布が屈折率の勾配を惹起し、この勾配に直交する光線の進路を屈曲させる現象が生じる。
【0022】
この現象の発生には、屈折率変化か電界の二乗に比例して生じる2次の電気光学効果が必要である。さらに、この効果を示す結晶が、大きい誘電率および小さい移動度を有して初めて、現実的な値の印加電圧や電流に伴って、この偏向現象が発現する。この種の結晶の代表的な例として、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1−x Nb (0<x<1):KTN)や、さらにリチウムをドープした(K1−yLiTa1−xNb(0<x<1、0<y<1))が知られている。
【0023】
特許文献1に詳細が開示されているように、KTN結晶などの上下に形成する電極の材料によって、発現する電気光学効果の種類が異なっている。従って、適切な電極材料を用いることにより、KTN結晶に同様に電圧を印加しても、電極材料に対応した異なる効果が得られる。
【0024】
屈折率変調部3は、電気光学結晶の上下に電極6a、6bを有しており、特定の電極材料を使用して、この電極間に制御電圧Eを印加することで、屈折率を変化させることができる。一方、偏向部4は、電気光学結晶の上下に電極7a、7bを有しており、異なる特定の電極材料を使用してこの電極間に制御電圧Eを印加することで、電界印加方向に光路を偏向することができる。屈折率変調部3および偏向部4は、密着させて配置することもできる。また、屈折率変調部3および偏向部4を、1つの電気光学結晶によって同一の基板上に形成することもできる。
【0025】
次に、図1の本発明の波長可変レーザ光源において、屈折率変調部3と偏向部4にそれぞれ制御電圧をした場合に、どのように発振波長が変化するのかについて検討する。さらに、モードホップフリー発振が可能となる条件について検討する。
【0026】
回折格子に対する光ビームの入射角をθ、反射角をδ、Λを回折格子のピッチとすると、次式で表される条件のとき回折が生じる。
【0027】
Λ(sinθ+sinδ)=mλ (m=0,±1, ±2・・) 式(1)
ここで、mは回折次数、Λは単位長さあたりの格子線数の逆数を示す。回折格子の配置方法としては、良く知られているものにリトロー配置およびリットマン配置がある。リットマン配置では、式(1)において、θとδとは異なる値を持つ。一方、図1に示したようなリトロー配置では、θ=δとなるように回折格子を配置する。
【0028】
具体的には、図1のリトロー配置による構成の場合では、−1次の回折光と入射角とが同一の光路を辿る。すなわち、入射光と反射光の光路が等しくなる。よって、θ=δとなるので、回折方程式の式(1)は、次のようになる。
2Λsinθ=λ 式(2)
回折格子への入射角θは、θから偏向部4によって生じる偏向角αおよび出射角βを考慮して、θ+βmaxまで変化する。
ここで、回折格子5で回折される波長λは、次式で表される。
λ=2Λsin(θ+β) 式(3)
次に、光路長で決まる外部共振器モードの波長λは次式で表される。
λ=λ・x/x 式(4)
式(4)において、xは屈折率変調部3および偏向部4に電圧を印加する前の、発振器全体の光路長である。すなわち、xは、半導体レーザ部2の端部にある図1には示していない反射ミラー面から回折格子5の反射面までの光路長である。xは、屈折率変調部3および偏向部4にそれぞれ制御電圧を印加した後の発振器全体の光路長である。λは、β=0すなわち偏向部4により偏向しないときに、リトロー配置によってきまる選択波長である。
【0029】
偏向しないときの全光路長xは制御電圧を印加する前の屈折率変調部3および偏向部4の屈折率がそれぞれnに等しいとして、下式で与えられる。
=x+n+n+x 式(5)
ここで、Xは、半導体レーザ部2のミラー面から屈折率変調部2の入射面までの距離を、xは屈折率変調部3の屈折率変調がないときの光路長を、xは偏向部4の偏向がないときの光路長をそれぞれ示す。
【0030】
次に、電圧を印加した場合の全光路長xについて説明する。まず、偏向部4の出射面から回折格子5の反射面までの距離x’を求める。屈折率変調部3および偏向部4にそれぞれ制御電圧E、Eを印加して偏向したときの、図1に示した偏向角α、出射角β、および、偏向がないときの回折格子への入射角θと、屈折率変調部の屈折率nと偏向器部屈折率nを用いて、x’は次式で与えられる。
【0031】
【数1】

【0032】
また、スネルの法則から、偏向角αと出射角βとの間にはsinβ=n2sinαの関係があるので、次式が得られる。
【0033】
【数2】

【0034】
よって、式(6)のx’は式(7)のαを使って、次式で表される。
【0035】
【数3】

【0036】
制御電圧E、Eを印加した時の屈折率変調部3および偏向部4の各屈折率は、それぞれ、次式で与えられる。
=n―0.5n11εεr 式(9)
=n―0.5n11εεr 式(10)
式(9)、式(10)では、屈折率変調部3および偏向部4にはそれぞれ別々の電界E、Eを印加し、半導体レーザの偏向方向が屈折率変調部3および偏向部4の電界の印加方向に一致しているとして、KTNを電気光学結晶の材料として用いた場合を示している。
【0037】
また、偏向角αは、偏向部4の電気光学結晶の厚みをdとすると、空間EOモードの場合には、特許文献1に記載されているように次式で表される。
【0038】
【数4】

【0039】
また、トラップ制御EOモードの場合には、偏向角αは、非特許文献2に記載されているように次式で表される。
【0040】
【数5】

【0041】
ここで、Nはトラップ密度である。いずれのモードの場合でも、偏向角αを電界Eを用いて制御することが可能である。
従って、制御電圧を印加した後の全光路長xは、上述の各式を用いて下の式(13)で与えられる。
【0042】
【数6】

【0043】
式(13)からわかるように、全光路長xにおいて、屈折率変調部3の光路長である第2項はEのみで決定され、第3項および第4項はEのみで決定される。
【0044】
図1に示したリトロー配置の回折格子を含む発振器において、式(3)および式(4)から決まる選択周波数は、それぞれ下の式で表現することができる。
=c/λ 式(14)
=c/λ 式(15)
式(14)および式(15)で表される2つの周波数の絶対値の差が外部モード周波数の周期c/2xの半分未満となれば、モードホップフリーの発振を実現できる。すなわち下記の不等式の関係を満足すれば、モードホップフリーの発振が可能となる。
|f−f|<c/4x 式(16)
ここで、所望の波長可変帯域を確保するために偏向部4の制御電圧Eを印加し、さらに、式(16)の関係式を満たすように屈折率変調部3の制御電圧Eを印加して、屈折率を調整ことによって、モードホップフリーな波長可変光源が実現できる。従って、波長可変帯域の設定と、モードホップフリー発振の条件とを、各制御電圧E、Eで別個に独立に行なうことができる。
【0045】
図1に示した本発明の波長可変レーザ光源によれば、異なる電極材料の電極を備えた屈折率変調部3および偏向部4に印加する制御電圧E、Eをそれぞれ別個に制御するだけで、電気光学素子を利用して波長可変範囲およびモードホップフリー条件を調整できる。したがって、電気光学素子の特徴を生かした高速な波長掃引が可能であると同時に、モードホップフリー条件の調整を電圧の制御だけで行うことができる。特に、KTN結晶を用いた偏向器の場合は、10°以上の広い偏向角をもって偏向することができるので広帯域な波長掃引が可能な波長可変光源を実現することができる。
【実施例1】
【0046】
図2は、本発明の波長可変レーザ光源の実施例の構成を示す。図1に示した基本構成と同様であり、さらに、発振光を取り出す集光レンズ8が備えられている。屈折率変調部3および偏向部4は、40℃にて比誘電率が20,000になるようなKTN結晶またはKLTN結晶を用いた。図2においては省略しているが、結晶はペルチェ素子などを用いて温度コントロールした。4mm(幅)×8mm(長さ)×1mm(厚み)のサイズの結晶を用い、同一基板上に、屈折率変調部3には白金電極を光偏向部4にはチタン電極を使用して、それぞれ、白金電極およびチタン電極によって結晶を挟んで上下に作製した。さらに、チタン電極と白金電極は、4mm(幅)×4mm(長さ)とし、図2には明示されていないが、チタン電極および白金電極間がショートしないように0.1mm以下のギャップを形成した。なお、結晶サイズは本実施例のものに限定されない。
【0047】
特許文献1に記載されているように、白金電極をKTN結晶の上下電極として用いた部分では光は偏向されず屈折率が変調され、一方、チタン電極をKTN結晶の上下電極として用いた部分では光が偏向される。すなわち、同一結晶で電極の選択によって機能の異なる動作を行わせることができる。なお図2では、偏向部4内を進む光路としては1つパスを含む構成としているが、特許文献1に記載されているように、偏向部4のx軸方向について結晶端面に反射ミラーを具備して、3パスなどの多パス構成とすることもできる。これにより、光偏向部の結晶に対して同一範囲の電圧を加えても、波長可変範囲をより広帯域とすることも可能である。この場合、屈折率変調部3および偏向部4は、一体ではなく分離した結晶を用いる。
【0048】
ここで、偏向部4の制御電圧として、振幅±300V、繰り返し周波数200kHzの高速信号を印加し、光を偏向した。光が偏向部4により偏向されると、回折格子5に入射する角度が変化して、回折波長が変化する。これに伴い発振波長も変化し、50nm以上の帯域で発振波長が可変されることが確かめられた。さらに、式(16)の関係式をみたすように白金電極に上述の高速信号と同期した信号を与え、光波長可変光源として、モードホップフリーで動作することを確認した。
【0049】
図1に示した構成は、リトロー配置に基づいた波長可変レーザ光源だったが、本発明は、リットマン配置された波長可変レーザ光源にも適用可能である。図1の構成と比較すれば、波長フィルタとしてリットマン配置された回折格子と端面鏡を備える点が異なるだけで、利得媒質と回折格子との間に、屈折率変調部と偏向部を備えれば、本発明の効果を発揮できる。電気光学素子を利用して、異なる電極材料の電極を備えた屈折率変調部および偏向部に印加する制御電圧E、Eをそれぞれ別個に制御するだけで、波長可変範囲およびモードホップフリー条件を調整できる。
【0050】
以上、詳細に述べたように、波長可変帯域の設定とモードホップフリー発振の条件とを、屈折率変調部および偏向部の各制御電圧E、Eで別個に独立に行なうことができる。異なる電極材料を用いた制御電極を使用し、2つの制御電圧の制御を行なうだけで、従来複雑だった波長可変レーザ光源の2つのパラメータの制御を高速に行なうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、波長を変化させることができる波長可変レーザに関する利用することができる。特に、光コヒーレントトモグラフィ(OCT)の分野に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 波長可変レーザ光源
2 半導体レーザ部
3 屈折率変調部
4 偏向部
5、106 回折格子
6a、6b、7a、8b 制御電極
101 利得媒質
102、111 集光レンズ
112 出力結合鏡
120 ポリゴンミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振波長において対応する利得を有する利得媒質と、回折格子とを少なくとも含む外部共振型波長可変レーザ光源において、
前記回折格子と前記利得媒質との間の光路上に配置され、第1の制御電圧によって電気光学結晶材料の屈折率を変調する屈折率変調部と、
前記回折格子と前記利得媒質との間の光路上で、前記屈折率変調部よりも前記回折格子側に配置され、第2の制御電圧によって電気光学結晶中の光路を前記第2の制御電圧の印加方向に偏向する偏向部と
を備えたことを特徴とするレーザ光源。
【請求項2】
前記第1の制御電圧を印加する電極の第1の構成材料と、前記第2の制御電圧を印加する電極の第2の構成材料とが異なることを特徴とする請求項1に記載のレーザ光源。
【請求項3】
前記1の制御電圧によって、レーザ光源のモードホップフリー発振条件を調整し、前記2の制御電圧によって、レーザ光源の発振波長帯域の幅を調整することを特徴とする請求項1に記載のレーザ光源。
【請求項4】
前記屈折率変調部の電気光学結晶と、前記偏向部の電気光学結晶が、一体のものであることを特徴とする請求項1に記載のレーザ光源。
【請求項5】
前記電気光学結晶材料は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1−x Nb (0<x<1):KTN)、またはリチウムをドープした(K1−yLiTa1−xNb(0<x<1、0<y<1))であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−150408(P2012−150408A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10947(P2011−10947)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】