説明

活性エネルギー線重合性物質、該物質を含む硬化型液体組成物、インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニットおよびインクジェット記録装置

【課題】 水性インクジェット高速印刷に展開できうる低エネルギーの活性エネルギー線によって速やかに重合され、形成された硬化物の架橋度が高く、かつ水系で用いられた場合でも、実質的に加水分解を起こさない活性エネルギー線硬化型水性インクジェットインクを提供すること。
【解決手段】 マレイミド基を有する親水性重合性物質1とエチレン不飽和結合を有する親水性重合性物質2とを組み合わせて含有する活性エネルギー線硬化型インクジェット水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な活性エネルギー線重合性物質、該物質を含む硬化型液体組成物、インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニットおよびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性エネルギー線を含む光照射によってインク中の樹脂組成物を硬化させることで樹脂硬化膜を形成し、画像形成を行う方法において、水性の塗料やインクを使用する技術が知られている。この際に用いられている水性の塗料やインクの材料構成としては、次に挙げるような技術がしられている。例えば、活性エネルギー線硬化型の樹脂組成物として非水系のものを用い、これを水系溶媒中にエマルジョン状態にして調製したものの他、紫外線硬化型の樹脂自体や触媒自体を水性化する技術がある。
【0003】
一方、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物をインクジェット記録方法に応用する技術も公知であり、近年グラフィックアートやサイン、ディスプレイ、ラベル印刷、パッケージ印刷のほか、電子回路基板、ディスプレイパネルの作製などに応用されている。
【0004】
このようなインクジェット印刷法に活性エネルギー線硬化型のインクを用いる場合についても、樹脂組成物は非水性のものと水性のものが公知である。非水系の代表的なものとしては大きく分けて2つのタイプのインクが知られており、そのうちの一つのタイプとしてはトルエン、メチルエチルケトンなどの有機溶媒中に顔料を分散した、所謂油性インクが知られている。また、もう一つのタイプとしては溶媒を用いず、モノマー、オリゴマー、顔料分散体からなる所謂100%硬化型インク(ノンソルベントインク)が知られている。しかしながら、上記油性インクを使用する場合には、有機溶剤が大気中に揮散することから、環境への十分な配慮が必要である。上記100%硬化型インクについては、被記録媒体上で印字部分と非印字部分の凹凸が発生するために画像の光沢感を得ることが難しく、高い画質が要求される用途への展開は難しいのが現状である。
【0005】
しかしながら、活性エネルギー線硬化技術は、省エネルギー、環境汚染、環境負荷が少ない硬化技術として期待されている。さらに、活性エネルギー線硬化技術の利用は、インクジェット印刷において、画像の印刷に留まらず、印刷基材に印刷適性を付与するための前処理、印刷された基材を保護や施工のための材料を塗布する後処理などにおいても有用である。加えて、インクを水性とすることにより、上記100%硬化型インクの課題である画像の凹凸を緩和することができ、高画質化の観点からも有利となる。このような事情から水性のインクジェット記録用活性エネルギー線硬化型インクにも応用可能な親水性の樹脂或いは多官能モノマー、単官能モノマー、光重合開始剤(以下単に触媒とも呼ぶ)の開発が求められているのである。
【0006】
水性材料をインクジェット記録方式に応用するためには、高密度ノズルに対応できる、低粘度で流動特性のよい材料が必要となる。例えば、重合性物質の添加量を高くでき、乾燥時間を短縮し、インクを被記録媒体上に付与、硬化する場合に、生成したインク皮膜の物性に優れ、色材との共溶性のよい重合性材料である光重合開始剤、多官能および単官能モノマーなどが求められる。これらのうち、モノマーに関しては、重合速度、重合後の膜物性などを考慮して特に多官能モノマーとして高性能を有する材料の開発が求められている。
【0007】
親水性の活性エネルギー線硬化モノマーの第1例として、酸性基と(メタ)アクリロイル基或いはビニル基を共に分子内に有し、かつ親水性の重合性化合物であるものとしては、次に挙げるものが公知である。例えば、無水琥珀酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル、オルソ無水フタル酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル、ビニルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。
【0008】
第2例としては、水に可溶で、1分子中に2つ以上の重合性官能基を有する工業的に生産されている化合物として、ポリエチレンオキシド鎖によって親水性を付与した重合性化合物が知られている。このようなものとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0009】
また、特許文献1には、多官能の親水性重合性物質が開示されている。ここに開示されている重合性物質は、親水性を付与するために、分子中の水酸基の数を増やすことで親水性を得る手法を用いたものである。
【0010】
また、特許文献2および3では、ポリアルコールから誘導される親水性ポリエポキシドの(メタ)アクリル酸エステルなどが実用されている。これらの化合物は活性エネルギー線による重合性や硬化物の物性にも優れ、水溶液の粘度もインクジェット記録用インクに要求される水準を満たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−165441号公報
【特許文献2】特開2000−117960公報
【特許文献3】特開2002−187918公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記第1例においては、重合性の官能基の数が1分子中に1個であるため、重合速度が遅く、硬化物の架橋度が著しく低いので、親水性の活性エネルギー線硬化性材料の主要材料とはなりにくい。
【0013】
また、第2例においては、本発明者らの検討によれば、これらの群の化合物は、以下のような課題がある。すなわち、エチレンオキシド鎖の長さが短いと親水性が低くなる。一方、エチレンオキシド鎖の長さが長いと親水性は得られるものの、重合或いは硬化した時の硬化物の固体物性が、硬度や接着性などの塗料やインクに求められる性能において不足することが多くなる。
【0014】
また、特許文献1においては、本発明者らの検討によれば、これらは、確かに活性エネルギー線による重合性に優れ、硬化物の物性にも優れるが、水溶液の粘度が、インクジェット記録用インクに要求される水準に対して、やや高いという問題がある。
【0015】
また、特許文献2および3においては、(メタ)アクリル酸エステル基を有する親水性重合性化合物を含有するインクの色材として、アニオン性官能基によって水中に溶解する水性染料やアニオン性官能基によって水中に顔料が分散された水性顔料分散体を用いた場合、以下のような課題が生じる。(メタ)アクリル酸エステル基の加水分解によるアクリル酸の生成に伴って、インクのpHが酸性領域まで低下する。このことにより、インクのpHがアルカリ〜中性領域で安定に溶解した水性染料の析出や、安定に分散された水性顔料分散体が凝集を生じることがあり、インクの経時保存安定性の観点において問題がある。
【0016】
また、インクに熱エネルギーを作用させるインクジェット記録方法では、インク中の親水性重合性物質が熱エネルギーにより熱重合を起こし、ノズル内に水に不溶な重合物を生成することでインクの吐出に問題が生じることがあった。
【0017】
本発明者らは、活性エネルギー線重合性物質を用いた色材を含む水性インクにおいて、実用的な紫外線照射強度で実用的な硬化性能が得られ、吐出安定性、経時安定性に優れることを見出した。ただしこれらのインクにおいてもさらなる、インクジェット高速印刷に対応するためには低エネルギー照射でも硬化する性能が必要である。
【0018】
本発明の第1の目的は、低エネルギーの活性エネルギー線によって速やかに重合され、形成された硬化物の架橋度が高く、基材に対する接着性にも優れる活性エネルギー線硬化型水性組成物を提供することにある。
【0019】
本発明の第2の目的は、低エネルギーの活性エネルギー線によって速やかに重合され、形成された硬化物の架橋度が高く、被記録媒体に対する接着性にも優れる活性エネルギー線硬化型水性組成物であり、その粘度がインクジェット記録用に要求される低粘度の水準を満たし、かつ経時保存安定性に優れる活性エネルギー線硬化型水性インクを提供することにある。
【0020】
本発明の第3の目的は、低エネルギーの活性エネルギー線によって速やかに重合され、形成された硬化物の架橋度が高く、被記録媒体に対する接着性にも優れ、その粘度がインクジェット記録用に要求される低粘度の水準を満たし、かつ経時保存安定性に優れ、さらに記録方法が、記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該エネルギーによりインク液滴を発生させるインクジェット記録方式においても、熱エネルギーにより熱重合を起こさず、インクの吐出に影響を与えることがない吐出安定性に優れる活性エネルギー線硬化型水性インクを用いたインクジェット記録方法を提供することにある。
【0021】
本発明の第4の目的は、上記インクジェット記録用インクを用いた記録画像、インクカートリッジ、記録ユニットおよびインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、第1の実施態様として、少なくとも水、親水性重合性化合物1、親水性重合性化合物2および親水性重合開始剤を含み、かつ前記親水性重合性化合物1と親水性重合性化合物2の少なくともいずれか一方は重合性基を2つ以上有し、ここで前記親水性重合性化合物1はマレイミド基を有する重合性物質であり、および前記親水性重合性化合物2はエチレン性不飽和結合を有する親水性重合性物質である活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供する。
【0023】
上記活性エネルギー線硬化型水性組成物は、さらに活性エネルギー線によってラジカルを生成する重合開始剤を含有すること;およびさらに水を含有することが好ましい。上記重合開始剤は水溶性重合開始剤であることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、第2の実施態様として、前記本発明の活性エネルギー線重合性物質と色材とを少なくとも含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型インクを提供する。該インクはインクジェット記録用インク(以下単に「インク」という場合がある)として好適である。
【0025】
また、本発明は、第3の実施態様として、上記本発明のインクを被記録媒体上に吐出する工程、および該インクが付与された被記録媒体に活性エネルギー線を照射して該インクを硬化させる工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。該インクジェット記録方法は、インクに熱エネルギーを作用させることにより、該インクを被記録媒体上に付与する方法であることが好ましい。
【0026】
また、本発明は、第4の実施態様として、前記本発明の記録方法により形成されたことを特徴とする記録画像;前記本発明のインクを収容しているインク収容部を具備していることを特徴とするインクカートリッジ;前記本発明のインクを収容しているインク収容部と該インクを吐出するための記録ヘッドを具備していることを特徴とする記録ユニット;および前記本発明のインクを被記録媒体上に付与する手段、および該被記録媒体上に付与されたインクに対して活性エネルギー線を照射する手段を具備していることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。該装置においては、上記活性エネルギー線を照射する手段が、波長450nm以下の光源を有する紫外線照射ランプであり、その紫外部の照射強度が、500〜5,000mW/cmの範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明にかかる第1の実施態様によれば、低エネルギーの活性エネルギー線によって速やかに重合され、形成された硬化物の架橋度が高く、基材に対する接着性にも優れる活性エネルギー線硬化型の水性組成物を提供することができる。
【0028】
本発明にかかる第2の実施態様によれば、低エネルギーの活性エネルギー線によって速やかに重合され、形成された硬化物の架橋度が高く、被記録媒体に対する接着性、低粘度、経時安定性にも優れる親水性の活性エネルギー線硬化型インクを提供することができる。
【0029】
本発明にかかる第3の実施態様によれば、インクに熱エネルギーを作用させることによりインク液滴を発生させるインクジェット記録方式においても、インクの吐出に影響を与えることがない吐出安定性に優れたインクを用いたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0030】
さらに、本発明にかかる第4の実施態様によれば、該記録方法により形成された記録画像、該インクを有するインクカートリッジ、記録ユニットとインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に用いられる好適なプリンタ正面の概略を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、前記した目的に鑑み、様々な検討を重ねた過程において、少なくとも、水と、前記マレイミド基を有する親水性重合性化合物1で示される重合性物質とエチレン製不飽和結合を有する親水性化合物2で示される重合性物質とを含有する活性エネルギー線硬化型水性インクを調製し、この活性エネルギー線硬化型水性インクの評価を行った。その結果、このような構成を有する活性エネルギー線硬化型インクは、低エネルギーの活性エネルギー線照射においても硬化物の架橋度や接着性といった硬化性能に優れ、さらにはインクジェット記録用に要求される低粘度の水準を満たし、かつインクの経時保存安定性、吐出安定性に優れることを見出した。そして、本発明を為すに至った。
【0033】
このように硬化性能のみならずインクの経時保存安定性や吐出安定性に優れた結果が得られる理由は明らかでないが、以下のように考えられる。
【0034】
インクの硬化性能に関して、本発明の水性組成物および水性インクの硬化性能が格段に改善されるメカニズムは次のように推定している。本発明の親水性重合性化合物1はマレイミド基をもつ。マレイミド基は単独では従来のアクリル基に比しラジカル重合反応性は小さいもののUV照射により励起されマレイミド環からラジカルが発生し、これが開始種となり、もともと含有している光重合開始剤に加え機能し、特に本発明の親水性重合性化合物2に働きかけることにより対し、重合しやすくなると考えている。また本発明でもう一方の親水性重合性化合物2が電子供与基を持つ場合、マレイミド基は電子吸引基であるため、該電子供与基と弱い電荷移動錯体を形成し、これにUV照射することによりラジカルが発生、これが光重合開始剤として働き、もともと含有している光重合開始剤に加え機能し、親水性化合物1と親水性化合物2を共重合させるためと考えている。
【0035】
また、マレイミド環をもつ化合物は酸素阻害を受けにくいことが最近解ってきており優れた、前述の優れた反応性に加え重合反応の酸素阻害を受けにくいことが本発明の水性組成物およびインクジェット用水性インクの硬化性に寄与していると推察している
インクの経時保存安定性に関して、本発明の親水性重合性化合物1および親水性重合性化合物2は、水溶液中で従来のアクリルエステル構造を有する親水性重合性物質に比べて加水分解の影響を受けにくく、生成する酸の量が極めて少ない。そのため、インクの酸性領域までのpH低下が抑制され、アニオン性官能基によって水中に溶解している水性染料やアニオン性官能基によって水中に顔料が分散されている水性顔料分散体が安定して溶解または分散することができる。この結果、インクの経時保存安定性に優れるものと推定される。
【0036】
また、インクの吐出安定性に関して、前記一般式(I)で示される親水性重合性物質は、従来のアクリルエステル構造を有する親水性重合性物質に比べて熱重合に対する耐性を持つ、或いは加水分解により生じる酸の生成量が極めて少ない。これらのいずれかにより、硬化性組成物の熱重合が抑えられる結果、吐出安定性に優れるものと考えられる。
【0037】
以下に本発明にかかる活性エネルギー線重合性物質の主たる応用例である水性インクジェット印刷における作用・効果について説明する。なお、本発明に用いられる活性エネルギー線としては、紫外線や電子線などを用いることができるが、以降、特に好適に用いられる紫外線によってラジカル重合し、硬化する紫外線硬化型インクを代表例に挙げて説明を進める。但し本発明において硬化に用いる活性エネルギー線は、紫外線に限定されるものではない。
【0038】
水性インクジェット記録方法に用いる画像記録用の水性インクとして、本発明にかかる活性エネルギー線硬化型インクを用いる主な目的は、例えば、下記に挙げる点にある。
1)インクの乾燥性を上げて、印刷速度の向上への対応を可能とする。2)親水性重合性物質を色材のバインダーとして作用させ、耐擦過性に優れた画像を多様な被記録媒体に対して形成することを実現できるようにする。3)顔料粒子からの光散乱を低減し、透明なインク層の形成を可能とする。4)その結果、プロセスカラーの色再現範囲を拡げ、濃度が高く、彩度、明度にも優れた画像形成能をインクに与える。5)さらに、活性な光、空気中のガス成分、水分などから色材を保護することを可能とする。
【0039】
本発明のインクは、とりわけ、普通紙のような、インク吸収性はあるが、顔料の色彩の向上や耐擦過性をよくすることが難しい被記録媒体において、それらを改善させる顕著な効果を発揮することが期待される。このような効果は普通紙だけに限定されず、例えば、オフセット印刷用紙、フォーム紙、段ボール紙などの水性インクの吸収性のより小さい被記録媒体に対しても普通紙におけると同様な効果を発揮する。さらに、本発明のインクは、非吸収性の印刷基材に対する水性インクによる印刷をも可能とする。
【0040】
活性エネルギー線による硬化法は、強制乾燥法の一つであると考えられ、紙などの被記録媒体上に付与されたインクが、被記録媒体中に浸透しきる前の自由表面を形成している時間内に、その状態を凍結する方法であるといえる。本発明のインクは、水などの溶媒成分の浸透、蒸発は、固体化したインク層から徐々に進行することになるが、上記したように、見かけの乾燥は素早く起こる。したがって、被記録媒体の搬送、積載などが可能という意味での定着時間は短くなったとして扱うことができる。しかしながら、水系溶媒を用いている以上、有機溶媒を用いたインクよりも、真の乾燥が遅くなるのはやむを得ない。そこで、本発明のインクを用いる場合に、用途によっては、最終の強制熱乾燥機を備えることも可能である。
【0041】
本発明のインクのように、水分が存在している中で、活性エネルギー線によってラジカル重合する親水性重合性物質の硬化がいかにして進行するかは、純粋に、ラジカル反応速度の問題として重要である。本発明者らの検討によれば、色材が存在しない無色のインクでは、水の中での重合が、無溶媒系の場合と比べて特別に反応が遅いということは観察されていない。勿論、重合したものが水分を含んでいるので、固体物性としては、無溶媒系の場合のものとは異なる。
【0042】
次に上記したような優れた作用・効果を有する本発明の活性エネルギー線硬化型インクの各構成材料について説明する。
(親水性重合性物質)
本発明のインクに用いられる重合性物質は親水性のものである。本発明で言う重合性物質が親水性であるということは、その重合性物質が、以下の状態であることを意味する。
(1)水と混和し得る有機溶剤に可溶であり、該有機溶剤溶液が水溶性である(2)重合性物質自体は非水溶性であっても水に乳化可能な形態に処理が施されている(3)水溶性である
本発明のインクに用いる活性エネルギー線重合性物質のひとつは、マレイミド基を有する親水性重合性化合物1である。親水性重合性化合物1は下記一般式(I)で示される部位を1個以上有することが好ましい。
【0043】
【化1】

【0044】
(ここでAは置換基を有していてもよいエチレンオキシド鎖、置換基を有していてもよいのプロピレンオキシド鎖及び分岐していてもよい置換または未置換のアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種または2種以上の組み合わせを示す。)
本発明のインクにさらに用いる活性エネルギー線重合性物質の少なくともひとつはエチレン性不飽和結合を有する親水性重合性化合物2である。親水性重合性化合物2は下記一般式(II)で示される部位を1個以上有することが好ましい。
【0045】
【化2】

【0046】
(ここでAは置換基を有していてもよいエチレンオキシド鎖、置換基を有していてもよいのプロピレンオキシド鎖及び分岐していてもよい置換または未置換のアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種または2種以上の組み合わせを示す。Bは下記一般式(III−1)もしくは一般式(III−2)で表される部位を示す。)
【0047】
【化3】

【0048】
(ここでXはカルボニル基と該カルボニル基に隣接した不飽和炭素結合からなる部位を有する環状連結基を示す。)
【0049】
【化4】

【0050】
(ここでYは水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を示す。Dは下記の群から選ばれる何れか一つを示す。)
【0051】
【化5】

【0052】
(R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を示す。)
さらに、前記親水性重合性化合物2が下記一般式(IV)で示される部位を1個以上有する化合物であることが好ましい。
【0053】
【化6】

【0054】
(ここでAは置換基を有していてもよいエチレンオキシド鎖、置換基を有していてもよいのプロピレンオキシド鎖及び分岐していてもよい置換または未置換のアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種または2種以上の組み合わせを示す。Dは電子供与性基を示し、Yは水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を示す。)
本発明において使用する活性エネルギー線重合性物質の重合官能基の数は、インクの硬化性能と低粘度化の観点から、2〜6の範囲であることが好ましく、より好ましくは3〜4の範囲である。親水性重合性物質中の重合官能基の数が多いほど硬化性能は向上するが、官能基数の増加にともないインクの粘度上昇がみられ、インクジェット記録方式の高密度ノズルに対応する流動特性のよい活性エネルギー線硬化型インクが得られにくくなる。また、活性エネルギー線重合性物質の重合官能基が1であると、重合速度が遅く、硬化物の架橋度が著しく低いので、本発明の活性エネルギー線硬化型水性インクの材料には適さない。本発明において使用する親水性重合性物質は重合官能基が1の単官能モノマーであってもよいが、この場合、さらに重合性官能基が2以上の活性エネルギー線重合性物質を含有させる必要がある。
【0055】
本発明の活性エネルギー線重合性物質は、前記一般式(I)、(II)、(IV)中のA、A、Aの各々の基に含まれるエチレンオキシド鎖/プロピレンオキシド鎖や水酸基によって親水性が付与される。A、A、A各々の基に含まれるエチレンオキシド鎖またはプロピレンオキシド鎖の数は0〜5の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜3の範囲である。また、A、A、Aにおけるエチレンオキサイドユニットの数及びプロピレンオキサイドユニットの数の合計が1〜6であることが好ましい。なお、本発明におけるエチレンオキサイドユニット及びプロピレンオキサイドユニットとは、具体的には下記の構造式で示されるユニットである。活性エネルギー線重合性物質中のエチレンオキシド鎖またはプロピレンオキシド鎖が短いと親水性が低くなる。一方、エチレンオキシド鎖またはプロピレンオキシド鎖が長いと、親水性は得られるものの、重合或いは硬化した時の固体物性が、硬度や接着性などの性能において不足することがある。
【0056】
【化7】

【0057】
本発明において、親水性重合性化合物1、親水性化合物2は各々独立にポリオール残基を有していることが好ましい。ポリオール残基とは、ポリオールから2以上の水酸基を除いたものである。好ましいポリオールは、以下のものが挙げられる。
【0058】
具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,5−へキサンジオール、1,6−へキサンジオール、2,5−へキサンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−へキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、チオジグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールやその縮合体などが挙げられる。
【0059】
その他のポリオールとしては、以下のものが挙げられる。
【0060】
具体的には、例えば、低分子ポリビニルアルコールやトリオース、テトロース(エリトリトール、トレイトール)、ペントース(リビトール、アラビニトール、キシリトール)、ヘキソース(アリトール、アルトリトール、グルシトール、マンニトール、イジトール、ガラクチトール、イノシトール)、ヘプトース、オクトース、ノノース、デコースなどの単糖類やそのデオキシ糖、アルドン酸、アルダル酸誘導体などが挙げられる。勿論、本発明で使用されるポリオールは、これらに限定されるものではない。
【0061】
これらのポリオールの中で特に好ましいものとしては、以下のものが挙げられる。具体的には、例えば、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−へキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトールが挙げられる。
【0062】
前記、親水性重合性化合物1および親水性重合性化合物2の特に好ましい具体例としては、例えば、以下に示す構造の活性エネルギー線重合性物質が挙げられるが、本発明で使用する活性エネルギー線重合性物質は、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、親水性であり、重合性を有し、かつ重合速度が速く、しかも、それ自身低粘度であると共に、水溶液とした場合の粘度は、従来から知られている化合物と比較して格段に低粘度となる。
【0063】
また、本発明においては、本明細書に開示する2種類以上の活性エネルギー線重合性物質を組み合わせて使用することができる。例えば、親水性重合性化合物2において後述の例示化合物II−11とII−12に関連して説明すると、これらの化合物についてはラジカル重合性を有する末端基としてN−ビニルアミド結合が例示されている。本発明において、活性エネルギー線硬化型インクを作成する際には種々の観点を考慮したインク設計が求められることがある。例えば、インク粘度と重合した膜強度の問題があり、これに対しては、例えば、例示化合物1と2の混合でそのようなバランスを取れることが可能である。場合によっては例示化合物1においてN−ビニルアミド結合が1つ導入されている単官能モノマーをインク中に併用してもよい。或いは別の末端基を有する化合物、例えば、反応性末端基をビニルスルホンとしたモノマーを組み合わせてもよい。
【0064】
以上のように本発明で組み合わせることのできる多官能モノマー或いは場合によっては単官能モノマーは、本発明で開示される範囲の化合物であれば特に制限はない。また、従来公知の親水性モノマー或いは水分散性のモノマーを本発明の範囲内で本発明の重合性物質と組み合わせても特に問題はない。
【0065】
親水性重合性化合物1の具体例
【0066】
【化8】

【0067】
上記マレイミド基が末端に入る位置については、上記グリセリン残基の炭素を上から1、2、3した場合、例示化合物I−3では1と3の炭素の末端が示されているが、1と2(2と3)の炭素であってもよい。このような置換基異性体が例示化合物の範疇に入ることに関しては、置換基の数に関わりなく、以下全ての例示化合物についてあてはまる。
【0068】
【化9】

【0069】
【化10】

【0070】
【化11】

【0071】
親水性重合性化合物2の具体例
【0072】
【化12】

【0073】
【化13】

【0074】
【化14】

【0075】
【化15】

【0076】
【化16】

【0077】
【化17】

【0078】
【化18】

【0079】
具体例で提示した親水性重合性化合物2の中では、特に例示化合物II−11、II−12、II−15、II−16、II−19、II−21が好ましく、さらには例示化合物II−11、II−12、II−19、II−21が好ましい。
【0080】
本発明の前記一般式(I)で示される活性エネルギー線重合性物質は、以下に示すような方法により製造される。
<合成方法>
ビニルスルホン結合を有する化合物の合成法は、例えば、特公昭44−29622号公報、同47−24259号公報、同47−25373号公報、特開昭49−24435号公報、同53−41221号公報、同59−18944号公報、特開平11−231488号公報などに記載されている。また、ビニルケトン結合を有する化合物の合成法は、例えば、特公平1−2095号公報、特開平2−110114号公報、同7−291886号公報、特開2004−189715公報などに記載されている。
【0081】
ビニルエーテル結合を有する化合物の合成法は、例えば、J. of American Chemical Society,2828 79(5)(1957)、同2833 79(5)(1957)、Tetrahedorn 233,28(1978)などに記載されている。また、ビニルアミド結合を有する化合物は、例えば、特開平8−81428号公報および特開2002−167369号公報などに記載されている。N−ビニルピロリドン結合を有する化合物は、例えば、特開平6−145410号公報および特許第2939433号公報などに記載されている。本発明の重合性物質は上記文献を参照して合成することができる。
(親水性重合開始剤)
本発明に用いられる重合開始剤は親水性のものである。本発明でいう化合物が親水性であるということは、その化合物が、以下の状態であることを意味する。(1)水と混和し得る有機溶剤に可溶であり、該有機溶剤溶液が水溶性である(2)化合物自体は非水溶性であっても水に乳化可能な形態に処理が施されている(3)水溶性である
本発明に用いられる親水性重合開始剤は、活性エネルギー線によってラジカルを生成する化合物であればいずれのものでもよいが、下記一般式(2)、(4)〜(7)からなる群より選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【0082】
【化19】

【0083】
上記式中のRはアルキル基またはフェニル基を示し、Rはアルキルオキシ基またはフェニル基を示し、Rは下記一般式(3)を示す。
【0084】
【化20】

【0085】
上記式中のRは、−[CHx2−(xは0または1)またはフェニレン基を示し、m2は0〜10の整数を示し、n2は0または1を示し、Rは水素原子、スルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基またはこれらの塩を示す。
【0086】
【化21】

【0087】
上記式中のm3は1以上の整数を示し、n3は0以上の整数を示し、m3+n3は1〜8の整数を示す。
【0088】
【化22】

【0089】
上記式中のR10およびR11は各々独立に、水素原子またはアルキル基を示し、m4は5〜10の整数を示す。
【0090】
【化23】

【0091】
上記式中のR10およびR11は各々独立に、水素原子またはアルキル基を示し、R12は、−(CH−(xは0または1)、−O−(CH−(yは1または2)またはフェニレン基を示し、Mは水素原子またはアルカリ金属を示す。
【0092】
【化24】

【0093】
上記式中のR10およびR11は各々独立に、水素原子またはアルキル基を示し、Mは水素原子もしくはアルカリ金属を示す。
【0094】
これらの中では、一般式(2)、(4)および(5)で示される化合物であることが好ましく、特には一般式(2)および(4)で示される化合物であることが好ましい。
【0095】
また、前記一般式(2)におけるRのアルキル基およびフェニル基は置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、以下のものが挙げられる。
【0096】
具体的には、例えば、ハロゲン、炭素数1〜5の低級アルキル基、炭素数1〜5の低級アルキルオキシ基、上記一般式(3)で示される基、スルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびスルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基の塩(−SOM、−COM、−OM)が挙げられる。特に好ましいRは、炭素数1〜5の低級アルキル基を置換基として有するフェニル基である。
【0097】
また、Mは、各々独立に、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはHNRで表されるアンモニウム(R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5の低級アルキル基、炭素数1〜5のモノヒドロキシル置換低級アルキル基またはフェニル基を示す。)である。
【0098】
また、前記一般式(3)におけるRのフェニレン基は置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、以下のものが挙げられる。
【0099】
具体的には、例えば、ハロゲン、炭素数1〜5の低級アルキル基、炭素数1〜5の低級アルキルオキシ基、スルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびスルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基の塩(−SOM、−COM、−OM)が挙げられる。
【0100】
また、Mは、各々独立に、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはHNRで表されるアンモニウム(R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5の低級アルキル基、炭素数1〜5のモノヒドロキシル置換低級アルキル基またはフェニル基を示す。)である。
【0101】
前記一般式(3)におけるRの塩としては、−SOM、−COMおよびOMが挙げられる。かかるMは、各々独立に、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはHNRで表されるアンモニウム(R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5の低級アルキル基、炭素数1〜5のモノヒドロキシル置換低級アルキル基またはフェニル基を示す。)である。
【0102】
前記一般式(2)におけるR3のアルキルオキシ基およびフェニル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、ハロゲン、炭素数1〜5の低級アルキル基、炭素数1〜5の低級アルキルオキシ基が挙げられる。特に好ましいRは、アルキルオキシ基であり、中でも−OCおよびOC(CHである。
【0103】
前記一般式(5)〜(7)におけるR10およびR11のアルキル基は置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、以下のものが挙げられる。
【0104】
具体的には、例えば、ハロゲン、スルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびスルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基の塩(−SOM、−COM、−OM)が挙げられる。
【0105】
また、Mは、各々独立に、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはHNRで表されるアンモニウム(R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5の低級アルキル基、炭素数1〜5のモノヒドロキシル置換低級アルキル基またはフェニル基を示す。)である。
【0106】
これらの親水性重合開始剤の特に好ましい具体例としては、例えば、以下に示す構造の親水性重合性物質が挙げられるが、本発明で使用する親水性重合開始剤は、これらに限定されるものではない。
【0107】
【化25】

【0108】
本発明において親水性重合開始剤としてチオキサントン系親水性重合開始剤などを用いる場合は、水素供与剤を添加することが好ましい。本発明で用いることのできる水素供与剤としては、例えば、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0109】
また、本発明においては、2種類以上の親水性重合開始剤を組み合わせて使用することができる。2種類以上の親水性重合開始剤を添加することで、1種類の親水性重合開始剤では有効に利用できない波長の光を利用して、さらなるラジカルの発生を期待できる。また、上記したような親水性重合開始剤は、活性エネルギー線として電子線を用いてインクを硬化する電子線硬化法を採用する場合には必ずしも必要ではない。
(水性顔料分散体)
本発明にかかる活性エネルギー線硬化型インクは、色材である顔料を含有させることで、活性エネルギー線などの照射によって硬化する着色された活性エネルギー線硬化型インク、或いは活性エネルギー線硬化型塗料として利用することができる。この際、色材として顔料を水性媒体中に均一に分散させた水性顔料分散体を使用することが好ましい。水性顔料分散体としては、特にアニオン性官能基によって水中に顔料が安定に分散されている水性顔料分散体を使用することが好ましい。例えば、ノニオン系或いはアニオン系において安定な、水性グラビアインク、水性の筆記具用の顔料分散液や、従来公知のインクジェット記録用インク用の顔料分散体などを、そのまま応用することが可能である。
【0110】
アニオン性解離基を持ち、アルカリ可溶性の親水性高分子を用いて分散された顔料分散体としては、例えば、特開平5−247392号公報、特開平8−143802号公報に開示されている。また、アニオン性解離基を持つ界面活性剤によって分散された顔料分散体としては、特開平8−209048号公報に開示されている。また、高分子によってカプセル化されその表面にアニオン性解離基を付与することによって分散された顔料分散体としては、以下の公報に開示がある。例えば、特開平10−140065号公報、特開平9−316353号公報、特開平9−151342号公報、特開平9−104834号公報、特開平9−031360号公報に開示されている。さらに、顔料表面に化学反応によってアニオン性解離基を結合することで顔料を分散させた顔料分散体としては、米国特許第5,837,045号明細書および米国特許第5,851,280号明細書に開示されるような分散体がある。本発明のインクにおいては、上記した種々の顔料分散体をいずれもインクの色材として使用することが可能である。
【0111】
本発明にかかる活性エネルギー線硬化型インクは、上記したような顔料に限らず、色材として染料を用い、水溶性染料を溶解状態で含有する態様のインクとすることも、活性エネルギー線照射による退色が実用上問題にならない範囲であれば可能である。また、分散染料、油溶性染料などを分散状態で含有させた色材分散体も、上記した顔料分散体と同様に適用可能である。これらは、用途に従って適宜に選択される。
【0112】
本発明にかかるインクの色材として顔料を使用する場合には、顔料が、その媒体中に微粒子状態で分散されている顔料分散体を用いることが必要である。特に、インクに好適に使用することのできる顔料分散体としては、以下の基本的な要素を備えていることが必要である。具体的には、顔料が水性媒体に分散され、分散体としての粒度分布が平均粒子径で25nm〜350nmの範囲にあり、最終インクの粘度が吐出に影響を与えない範囲に調節可能であることが必要となる。またさらに、インクを活性エネルギー線硬化性とするために必須な、前述した本発明の水性活性エネルギー線硬化重合物質との相溶性が満足されることが必要となる。以下に、本発明において好適な顔料分散体に使用し得る各構成材料について説明する。
<顔料>
カラーインクに使用されるプロセスカラーとしての色相を有する有機顔料としては、下記に挙げるものを適宜に使用することができる。カラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、以下のものが挙げられる。
【0113】
C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、55、74、83、86、93、97、98、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185
C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71
C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、202、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272
C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50
C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64
C.I.ピグメントグリーン7、36
C.I.ピグメントブラウン23、25、26
<インク中の顔料の粒子径>
顔料粒子の平均粒子径は、25nm〜350nm程度の範囲、好ましくは70nm〜200nmの範囲である。この範囲は印刷物の用途にも依存するが、可視光線の波長よりも十分に小さいので、光散乱が少なければ十分に透明と言える印刷物が与えられる。
<染料>
例えば、本発明にかかる活性エネルギー線硬化型インクの場合、当該インクを被記録媒体(記録紙など)に付着させた後、活性エネルギー線によって当該インク中の活性エネルギー線硬化型重合物質を重合させて硬化させることが好ましい。前記したように、色材として染料を用いた場合は、上記の顔料を用いた場合と異なり、活性エネルギー線照射による退色が少ない状態で使用することは困難であり、多少は退色を伴う。この理由から、インクの色材として染料を適用する場合には、金属イオンで錯体を形成している、所謂、アゾ含金染料を用いることが光による退色が少ないので好ましい。しかし、退色の水準を問題にしなければ、一般の親水性染料であっても、少なくともインクとしては成り立つ。
【0114】
これを前提に、プロセスカラーの色彩を有するという意味で適用可能な染料種は、以下のような化合物である。カラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、以下のものが挙げられる。
【0115】
C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、49、61、71
C.Iダイレクトイエロー12、24、26、44、86、87、98、100、130、132、142
C.Iアシッドレッド1、6、8、32、35、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、254、256、289、315、317
C.Iダイレクトレッド1、4、13、17、23、28、31、62、79、81、83、89、227、240、242、243
C.Iアシッドブルー9、22、40、59、93、102、104、113、117、120、167、229、234、254
C.Iダイレクトブルー6、22、25、71、78、86、90、106、199
染料のインク中の好ましい含有量は、インク全質量を基準として、0.1質量%〜10質量%である。染料の含有量が低い場合には、例えば、所謂、濃度変調インクの淡色インクに好適に適用される。
<クリアインクとする場合の処方>
本発明にかかる活性エネルギー線硬化型インクは、上記したような色材を含有させることなく、透明なインクの形態とすることで、クリアインクとすることができる。特に、インクジェット記録特性を有するように調製すれば、活性エネルギー線硬化型のインクジェット記録用のクリアインクが得られる。かかるインクを用いれば、色材を含有していないので、クリアな皮膜を得ることができる。色材を含有しないクリアインクの用途としては、以下のものが挙げられる。例えば、画像印刷への適性を被記録媒体に付与するためのアンダーコート用としたり、或いは通常のインクで形成した画像の表面保護、さらなる装飾や光沢付与などを目的としたオーバーコート用としての用途などが挙げられる。クリアインクには、酸化防止や退色防止などの用途に応じて、着色を目的としない無色の顔料や微粒子などを分散して含有させることもできる。これらを添加することによって、アンダーコート、オーバーコートのいずれにおいても、印刷物の画質、堅牢性、施工性(ハンドリング性)などの諸特性を向上させることができる。
【0116】
そのようなクリアなインクに適用する場合、活性エネルギー線重合性物質の含有量がインク全質量を基準として、10質量%〜70質量%であることが好ましい。また、親水性重合開始剤(例えば、活性エネルギー線重合触媒)を、上記重合性物質100質量部に対して1〜10質量部含有され、同時に、インク100質量部に対して親水性重合開始剤が最低0.5質量部含有されているように調製することが好ましい。
<反応性の希釈剤成分>
上記に示したように、本発明にかかる活性エネルギー線硬化型インクをクリアインクに利用する場合には、重合反応性の低粘度モノマーを溶媒として含有させることができる。通常の溶媒ではなく、こうした物質を用いる利点は、これらの物質は、活性エネルギー線で硬化させた反応後の固体中に可塑剤として残留することがないので、固体物性への影響が低減されることにある。このような目的で選択される反応性の希釈剤成分としては、以下のものが挙げられる。
具体的には、例えば、上記に列挙した例で使用したアクリロイルモルホリンや、その他、N−ビニルビロリドン、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、単糖類のモノアクリレート、オリゴエチレンオキシドのモノアクリル酸エステル、および2塩基酸のモノアクリル酸エステルなどの化合物が挙げられる。
<溶媒成分>
さらに、本発明にかかる活性エネルギー線硬化型インクをクリアインクに利用する場合には、特に、従来から水性インクジェット記録用インクに使用されているような、保湿性を与える溶剤を使用しないことが好ましい。それは、クリアインクの場合には、顔料などの固体の成分が含有されていないので、増粘は少なく、かつ仮に若干の増粘があっても容易に回復することができるからである。勿論、後述するような、より保湿性の高い溶媒類を必要最低限度に添加することはできる。これらは、従来水性インクジェットに汎用されている多数の化合物から選ぶことができる。
【0117】
本発明にかかる活性エネルギー線硬化型インクを色材を含むインクとして利用する場合には、インク中に溶媒成分を添加することもできる。溶媒成分は、インクに不揮発性を与え、粘度を低下させ、かつ印刷基材への濡れ性を与えるためなどの目的で添加される。非吸収性基材への印刷の場合には、溶媒成分をインクに含ませずに、水だけを含有させて、重合性物質成分の全てが硬化して固体化するように構成することが好ましい。
【0118】
溶媒成分をインク中に10質量%以上添加させたような場合には、最終的に得られるインク皮膜の強度という意味において、画像を形成する被印刷体(被記録媒体)に一定の吸収性があることが必要となる。すなわち、水性グラビアインクによる印刷の場合には、一定の濡れと浸透性を付与した被記録媒体を用い、かつ強制乾燥が行われている。本発明にかかるインクにおいても、溶媒成分をインク中に例えば10質量%以上添加する場合には、被記録媒体に水性インクの受容性を付与する前処理を施し、かつインクを活性エネルギー線硬化させた後に、自然或いは強制の乾燥処置を施すことが好ましい。本発明で開示する各種の親水性重合性物質は、それ自身で一定の保湿性(水の蒸発抑制、水の吸湿)を有するため、溶媒を除いたインクの構成も可能である。この場合には、実用レベルでの、プリントの信頼性確保のために、キャッピング、印字開始時のインクの吸引、空吐出などの対策を用いてもよい。
【0119】
以下に、本発明のインクに用いることのできる比較的容易に蒸発乾燥する親水性有機溶媒を列挙する。本発明のインクにおいては、以下に挙げる有機溶媒の中から、任意に選択した溶媒を添加させることができる。具体的には、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、そして1価アルコール類などが挙げられる。
<色材含有インクにおける材料構成>
本発明にかかる活性エネルギー線硬化型インクを色材を含有するインクに利用する場合には、含有させた色材の吸収特性に合わせて、インク中における触媒と活性エネルギー線重合性物質の濃度を調節することが好ましい。配合量としては、水或いは溶剤の含有量を、インク全質量を基準として、40質量%〜90質量%とすることが好ましく、特には60質量%〜75質量%とすることが好ましい。さらに、インク中における活性エネルギー線重合性物質の含有量は、インク全質量を基準として、1質量%〜35質量%であることが好ましく、特には10質量%〜25質量%とすることが好ましい。重合触媒は、活性エネルギー線重合性物質の含有量にも依存するが、概ね、インク全質量を基準として、0.1質量%〜7質量%とすることが好ましく、特には0.3質量%〜5質量%とすることが好ましい。
【0120】
インクの色材として顔料が使用される場合には、インク中における純顔料分の濃度は、概ね、インク全質量を基準として、0.3質量%〜10質量%とすることが好ましい。顔料の着色力は顔料粒子の分散状態も依存するが、純顔料分の濃度が約0.3質量%〜1質量%であると、淡色のインクとして利用される範囲となる。また、それ以上であると、一般のカラー着色用に用いられる濃度を与える。顔料分散体の濃度は、印刷装置が要求する粘度、流動特性にも依存する。
【0121】
インクの粘度については、オンデマンドインクジェット装置の場合には、粘度が広い範囲で非線形性がなく、15mPa・sが上限である。インクドットが、微細な高密度高駆動周波数ノズルの場合には、その上限は、10mPa・sとなる。
【0122】
また、表面張力については、本発明にかかるインクを普通紙に印字することを鑑み、35mN/m(dyne/cm)以上であることが好ましい。普通紙への印字においてカラー間のブリード現象を十分に抑制するためには、通常のインクジェット記録用インクにおいては、表面張力を30mN/m程度の低い値に調整して、インク滴を短時間の内に被記録媒体中に浸透させる必要がある。しかしながら、この場合には画像濃度の低下を伴う。
【0123】
これに対し本発明にかかる活性エネルギー線硬化型インクでは、活性エネルギー照射時にできるだけインク滴が被記録媒体表面に滞留しているように、表面張力が高い方が好ましい。被記録媒体表層においてインク滴は効果的に硬化され、ブリードを十分に抑制可能であり、また、同時に高い画像濃度が得られる。この画像濃度の確保のためには、一方で、活性エネルギー照射時にある程度インク滴が被記録媒体に対して濡れている必要もあるので、表面張力の上限としては50mN/m程度であることがより好ましい。
<プリンタシステム>
本発明のインクは、インクジェット吐出方式のヘッドに用いられ、また、そのインクが収納されているインク収納容器としても、或いはその充填用のインクとしても有効である。特に、本発明は、インクジェット記録方式の中でもバブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらすものである。
【0124】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は所謂オンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能である。オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置された電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加する。これにより、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰させて、結果的にこの駆動信号に一対一対応し、インク内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、さらに優れた記録を行うことができる。
【0125】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路または直角液流路)が有効である。この他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成も有効である。或いは特許第2962880号公報、特許第3246949号公報、さらには特開平11−188870号公報に記載されている大気連通方式の吐出方式にも本発明は有効である。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通する吐出孔を電気熱変換体の吐出部とする構成(特開昭59−123670号公報など)に対しても、本発明は有効である。さらに、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドに対しても、上述した効果を一層有効に発揮することができる。具体的には、上述した明細書に開示されているような複数の記録ヘッドの組み合わせによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された一個の記録ヘッドとしての構成とすることができる。
【0126】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或いは記録ヘッド自体に一体的に設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドに対しても、本発明は有効である。また、本発明は、適用される記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段などを付加することは本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャピング手段、クリーニング手段、加圧或は吸引手段、電気熱変換体或はこれとは別の加熱素子或はこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードである。
【0127】
また、本発明の記録装置を、図1のプリンタ正面の概略図を用いて具体的に示す。かかる記録装置は、活性エネルギー線硬化型水性インクを収容するインクタンク部1、記録を行うヘッド部2、硬化のための紫外線照射を行うランプ部3、ヘッド部およびランプ部を駆動させる駆動部4、被記録媒体を搬送する排紙部5を備えている。上記ヘッド部2は、ヘッドを多数並べたマルチヘッドを用いている。なお、これら以外に不図示のワイピング部、キャッピング部、給紙部、駆動モーター部を備えている。
【0128】
図1において、ヘッド部2は活性エネルギー線硬化型水性インクの吐出のためのノズル部が各色につき左右対称に配置されている。そして、ヘッド部2とランプ部3は一体となって左右に走査され、活性エネルギー線硬化型水性インクを被記録媒体に付与した後、即座に活性エネルギー照射が為される(活性エネルギーとして好ましく用いられる紫外線ランプの詳細については後述する)。そのため、この記録装置を用いると、普通紙記録におけるインク滴の滲みやカラー間のブリードの抑制などが可能で、高品位、高精彩な画像形成を実現することのできるインクジェット記録方法が得られる。
【0129】
また、インクタンク部1はここではブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色が配置されているがより高精細な画像を記録するためにライトシアン(LC)やライトマゼンタ(LM)の6色を配置してもよい。また、ブラックの反応性が他の色に比べて劣るのでシアン、マゼンタ、イエローを組み合わせたプロセスブラックを形成する3色の配置でもよい。本発明においてタンクは光を遮光できるものを用いる。
【0130】
なお、本発明においては、上記した記録システムの他にもランプが排紙部前面に配されたものや、給紙・排紙が回転ドラムに巻きつけられて行われるもの、乾燥部を別途設けたものなど適宜選ぶことができる。
<紫外線照射ランプ>
以下、本発明で特に好適な活性エネルギー線硬化型インクの硬化に使用する紫外線照射ランプについて説明する。紫外線照射ランプは、水銀の蒸気圧が点灯中で1〜10Paであるような、所謂、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、蛍光体が塗布された水銀灯などが好ましい。これらの水銀ランプの紫外線領域発光スペクトルは、450nm以下、特には184nm〜450nmの範囲であり、黒色或いは着色されたインク中の重合性の物質を効率的に反応させるのに適している。また、電源をプリンタに搭載する上でも、小型の電源を使用できるので、その意味でも適している。水銀ランプには、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンフラッシュランプ、デイープUVランプ、マイクロ波を用い外部から無電極で水銀灯を励起するランプ、UVレーザーなどが実用されている。これらの水銀ランプは、発光波長領域としては上記範囲を含むので、電源サイズ、入力強度、ランプ形状などが許されれば、基本的には適用可能である。光源は、用いる触媒の感度にも合わせて選択する。
【0131】
必要な紫外線強度は、500〜5,000mW/cmの程度が重合速度の意味から望ましい。照射強度が不足していると本発明の硬化が十分に得られない。また、照射強度が強すぎると、印刷基材がダメージを受けたり、色材の退色を生じたりすることがある。
【0132】
以下実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。
【0133】
<実施例1〜5および比較例1,2>
表1および表2に示す成分を混合し、十分攪拌して、1.2ミクロンフィルターにて加圧濾過を行い、実施例1〜5および実施例1、2の液体組成物を調製した。なお、特に指定のない限り各液体組成物中の成分の量は「質量部」を意味する。
【0134】
【表1】

【0135】
<水性組成物の成膜性評価>
表1に示した水性組成物を使用して、下記のように成膜性を評価した。市販のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムにバーコーターを用いて、実施例1から12の液体組成物を5g/mとなるようにコーティングした。このように塗工したPETフィルムをUV照射装置にかけた。用いたUVランプとしては、FUSION UV Systems Inc.社製 UV硬化性評価装置 モデルLH6Bを使用した。照射強度は次の3つの条件で検討した。A:1500mW/cm ,条件B:1000mW/cm、条件B:500mW/cm、搬送速度は 0.4m/秒であった。このように形成した膜の鉛筆硬度を市販の鉛筆硬度試験機にて測定した。測定結果を表2に纏めた。鉛筆硬度測定はJISに準拠している。
【0136】
【表2】

【0137】
表2に示すように本発明の水性組成物を用いると、硬化性は低照射条件でも変わらず実用上問題ない鉛筆硬度が得られた。
【0138】
<実施例6〜10および比較例3、4>
シアンの顔料分散体を以下のように作製した。顔料としてピグメントブルー15:3を用い、分散剤としてはスチレン/アクリル酸/エチルアクリレートのランダムポリマー(平均分子量:3,500、酸価:150)を用いた。これらをビーズミルにて分散し、最終的に固形分10質量%で顔料とバインダー比であるP/B=3:1であるシアン顔料分散体を得た。顔料の平均粒子径は120nmであった。顔料の平均粒子径はレーザー光散乱型の粒子径測定装置を用いて行った。
【0139】
次に、表3に示す組成の化合物を混合し十分攪拌した後、ポアサイズ0.50μmのフィルタを用いて加圧濾過を行い、実施例6から10および比較例3、4に使用するインクを調製した。なお、インクのpHは最終的に8.5となるように、0.2規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整した。
【0140】
上記のように調製したインクの評価は下記の要領で行った。
〔評価プリンタ〕
記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型インクジェット記録装置Pixus550i(キヤノン(株)製)を、図1に示したものと同様の構成を有するように改造した。具体的には、記録ヘッド部に隣接するマイクロ波を用いて外部から無電極で水銀灯を励起するUVランプを搭載した。このプリンタを用いて下記(1)から(3)に記載する評価方法および評価基準に従って評価した。また、UVランプはDバルブを用いた。照射位置での強度は1500mW/cmであった。照射条件は積算照射エネルギーを次の3条件で行った。評価結果を表4に示す。(「PIXUS」は登録商標)
D:800mJ/cm
E:400mJ/cm
F:100mJ/cm
(1)インク硬化性能
実施例6〜実施例10および比較例3、4のそれぞれのシアンインクおよび上記プリンタを用いて、PETフィルムに100%ベタ印字を行った。なお、本発明600×600dpiで形成される画像の1画素に約5plのドットで全てを埋め尽くす印字を100%ベタという。
【0141】
このように形成した膜の鉛筆硬度を実施例1〜5、比較例1と同様な方法で市販の鉛筆硬度試験機にて測定した。
(2)吐出安定性
前記したプリンタに所定のインクを充填して、PPC用紙(キヤノン製)に横罫線を連続印字して、その線の太さ、ドットの着弾位置について、目視にて評価した。
【0142】
A:線の戦の太さに変化がなく、ヨレもほとんどない
B:多少の太りがあるが実用上問題ないレベルである。
【0143】
C:線の細りがあり、ヨレも多少見られる
(3)インク保存安定性
テフロン(登録商標)容器に所定のインクを入れ、密封したものを準備した。これを、暗所60℃のオーブン中で1ヶ月保存した。保存前後の顔料の平均粒子径を比較して下記基準で評価した。
【0144】
A:平均粒子径の変化が保存前後で±10%以内
B:平均粒子径の変化が保存前後で±15%以内
C:平均粒子径の変化が保存前後で15%を超える
【0145】
【表3】

【0146】
【表4】

【0147】
表4に示すように本発明のインクを用いると、硬化性は低照射条件でも変わらず実用上問題ない鉛筆硬度が得られた。また本発明のインクは吐出安定性、経時安定性に優れていた。
【0148】
<実施例11、12、13比較例5、6、7>
実施例11、比較例5: イエローインクの評価
実施例12、比較例6: マゼンタインクの評価
実施例13、比較例7: レッド印字部の評価
次に実施例6から10に用いたシアン分散体を作製するのと同様にイエロー、マゼンタの分散体を作製した。
【0149】
(イエロー分散体の作製)
顔料としてピグメントイエロー13を用いた以外は、シアン分散体を作製するのと同様にして固形分10質量%、P/B=3/1、平均粒子径130nmのイエロー分散体を作製した。
【0150】
(マゼンタ分散体の作製)
顔料としてピグメントレッド122を用いた以外は、シアン分散体を作製するのと同様にして固形分10質量%、P/B=3/1、平均粒子径125nmのマゼンタ顔料分散体を作製した。
【0151】
次に実施例9のシアン分散体を上記で作製したイエロー分散体に代えた以外は同様にして実施例11のイエローインクを作製した。次に実施例9のシアン分散体を上記で作製したマゼンタ分散体に代えた以外は同様にして実施例12のマゼンタインクを作製した。
【0152】
また比較例として比較例3の組成を用い、実施例11、実施例12と同様にイエロー分散体、シアン分散体を用いて比較例5のイエローインク、比較例6のマゼンタインクを作成した。
【0153】
上記で作製したイエロー、マゼンタインクに加えて、実施例9で使用したシアンインクを合わせて実施例11〜13に用いるインクセットとした。このインクセットを用いて実施例9で使用したのと同じプリンタを用い、PETフィルムおよび三菱製紙製オフセット印刷用紙OK金藤にイエロー、マゼンタの100%ベタ印字およびイエロー100%ベタ、マゼンタ100%ベタで形成される実施例13および比較例7の2次色レッドを印字した。なお、本発明においては、600×600dpiで形成される画像の1画素に約5plのドットで全てを埋め尽くす印字を100%ベタという。またUV照射は実施例9の条件Eと同様な方法で行った。このように形成した画像のイエロー、マゼンタ、レッド部分についてPETフィルム印字物については実施例9と同様な方法で鉛筆硬度試験を行った。上述のオフセット印刷用紙については次に示す定着性試験を行った。さらに、このように作製したイエローインクおよびマゼンタインクを用いて次に示す耐マーカー性試験を行った。またこのように作製したイエローインクおよびマゼンタインクを用いての吐出安定性試験、インク保存安定性試験を行った。この結果を表7に載せた。
【0154】
・定着性試験
印字10秒後に上記にサンプルについて、印字した被記録媒体にシルボン紙を載せ、記録面に40g/cmの荷重を載せた状態でシルボン紙を引っ張った。被記録媒体の非印字部(白地部)およびシルボン紙に印字部の擦れによって、汚れが生じるか否かを目視にて観察し、下記の基準で評価した。
【0155】
A:擦れによる部分が見られない
B:ほとんど擦れによる汚れ部分がない
C:擦れによる汚れ部分が目立つ
・耐マーカー性
実施例11、12及び比較例5、6のそれぞれのイエローインク、マゼンタインクおよび上記プリンタを用いて、キヤノン製PPC用紙に12ポイントの文字の印字を行った。印字1分後に上記サンプルについて、パイロット社製蛍光ペンスポットライターイエローを用いて、文字部を通常の筆圧で1度マークし、文字の乱れの有無を目視で観察し、下記の基準で評価した。
【0156】
A:マーカーによる文字の乱れが生じない
B:マーカーによる文字の乱れがわずかに生じる
C:マーカーによる文字の乱れが著しく生じる
【0157】
【表5】

【0158】
表5に示すように本発明のインクを用いると、硬化性は実用上問題ない鉛筆硬度、定着性、耐マーカー性が得られた。また本発明のインクは吐出安定性、経時安定性に優れていた。
【0159】
以上、本発明によれば、低エネルギーUV照射条件下においても、硬化性が良好であり、かつ顔料などの色材を含むインクを作製した場合でも、実用的な硬化性能があり、かつ定着性、耐マーカー性に優れ、吐出安定性、経時安定性に優れるインクの提供が可能である。また、上記実施例は本発明の基本的構成を示すために挙げた例であり、例えば、色材として染料を使用したときであっても同様な性能のインクを提供できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0160】
1 本発明の水性活性エネルギー線硬化型インクを収容するインクタンク部
2 インクタンクが付属し記録を実際に行うヘッド部
3 硬化のための紫外線照射を行うランプ部
4 ヘッド部およびランプ部を駆動させる駆動部
5 記録される被記録媒体を搬送する排紙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、親水性重合性化合物1、親水性重合性化合物2および親水性重合開始剤を含み、かつ前記親水性重合性化合物1と親水性重合性化合物2の少なくともいずれか一方は重合性基を2つ以上有し、ここで前記親水性重合性化合物1はマレイミド基を有する重合性物質であり、および前記親水性重合性化合物2はエチレン性不飽和結合を有する親水性重合性物質であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型水性組成物。
【請求項2】
前記親水性重合性化合物1が下記一般式(I)で示される部位を1個以上有することを特徴とする請求項1記載の活性エネルギー線硬化型水性組成物。
【化1】


(ここでAは置換基を有していてもよいエチレンオキシド鎖、置換基を有していてもよいのプロピレンオキシド鎖及び分岐していてもよい置換または未置換のアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種または2種以上の組み合わせを示す。)
【請求項3】
前記親水性重合性化合物2が下記一般式(II)で示される部位を1個以上有することを特徴とする請求項1、2記載の活性エネルギー線硬化型水性組成物。
【化2】


(ここでAは置換基を有していてもよいエチレンオキシド鎖、置換基を有していてもよいのプロピレンオキシド鎖及び分岐していてもよい置換または未置換のアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種または2種以上の組み合わせを示す。Bは下記一般式(III−1)もしくは一般式(III−2)で表される部位を示す。)
【化3】


(ここでXはカルボニル基と該カルボニル基に隣接した不飽和炭素結合からなる部位を有する環状連結基を示す。)
【化4】


(ここでYは水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を示す。Dは下記の群から選ばれる何れか一つを示す。)
【化5】


(R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を示す)
【請求項4】
前記親水性重合性化合物2が下記一般式(IV)で示される部位を1個以上有することを特徴とする請求項1、2記載の活性エネルギー線硬化型水性組成物。
【化6】


(ここでAは置換基を有していてもよいエチレンオキシド鎖、置換基を有していてもよいのプロピレンオキシド鎖及び分岐していてもよい置換または未置換のアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種または2種以上の組み合わせを示す。Dは電子供与性基を示し、Yは水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を示す。)
【請求項5】
前記親水性重合開始剤の少なくとも1種がアシルフォスフィンオキシド化合物である請求項1から4記載の活性エネルギー線硬化型水性組成物。
【請求項6】
前記アシルフォスフィンオキシド化合物が下記一般式(V)で示される化合物を1種以上含有する請求項5に記載の活性エネルギー線硬化型水性組成物。
【化7】


(ここでRは低級アルキル基、フェニル基(該フェニル基は未置換あるいは、ハロゲン、低級アルキル基、低級アルキルオキシ基、スルホン基、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびそれらの塩;−SO−M+、−CO−M+、−O−M+、下記原子団(E)から選ばれる任意の置換基により1〜4回置換されている)を示す。R7は低級アルキルオキシ基またはフェニル基(該フェニル基は未置換あるいはハロゲン、低級アルキル基、低級アルキルオキシ基から選ばれる任意の置換基により1〜4回置換されている)、Rは前記原子団(E)で示される原子団を示す。)
【化8】


(原子団E中、Rは−[CHX2−(Xは0または1)、または置換もしくは未置換のフェニレン基を表す。R10は水素原子、またはスルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびそれらの塩;−SO、−CO、−Oを表す。m2は0〜10の整数、n2は0もしくは1を表す。また前記M+はそれぞれ独立に水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの当量、またはHNR111213で示されるアンモニウムイオンを示す。該アンモニウムイオン中、R11、R12、R13はそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、モノヒドロキシル置換低級アルキル基もしくはフェニル基を示す。)
【請求項7】
請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型水性組成物と色材とを少なくとも含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型インク。
【請求項8】
インクジェット記録用である請求項1から6に記載の活性エネルギー線硬化型水性組成物。
【請求項9】
インクジェット記録用インクである請求項7に記載の活性エネルギー線硬化型インク。
【請求項10】
請求項8記載の活性エネルギー線硬化方水性組成物および請求項9記載のインクジェット記録用インクを被記録媒体上に吐出する工程、および該水性組成物もしくは該インクが付与された被記録媒体に活性エネルギー線を照射して該水性組成物もしくは該インクを硬化させる工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記水性組成物もしくは前記インクに熱エネルギーを作用させることにより、該インクを被記録媒体上に付与する請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載のインクジェット記録方法により形成されたことを特徴とする記録画像。
【請求項13】
請求項8に記載のインクジェット記録用水性組成物もしくは請求項9に記載のインクジェット記録用インクを収容しているインク収容部を具備していることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項14】
請求項8に記載のインクジェット記録用水性組成物もしくは請求項9に記載のインクジェット記録用インクを収容しているインク収容部と該水性組成物もしくは該インクを吐出するための記録ヘッドを具備していることを特徴とする記録ユニット。
【請求項15】
請求項8に記載のインクジェット記録用水性組成物もしくは請求項9に記載のインクジェット記録用インクを被記録媒体上に付与する手段、および該被記録媒体上に付与されたインクに対して活性エネルギー線を照射する手段を具備していることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項16】
前記活性エネルギー線を照射する手段が、波長450nm以下の光源を有する紫外線照射ランプであり、その紫外部の照射強度が、500〜5,000mW/cmの範囲である請求項15に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−280751(P2010−280751A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133022(P2009−133022)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】