説明

流体移送装置

【課題】安価かつ簡単な構成で、細管内を移送する流体の流速、流量等を検出することができ、分析・測定等のための各種流体を良好に移送できるようにする。
【解決手段】シリンジポンプ部11により移送された溶離液kとシリンジポンプ部20により移送されたサンプル液sとをインジェクションバルブ部17で混合し、この混合液をカラムへ給送する流体移送装置において、上記シリンジポンプ部20によりサンプル液sに気泡を混入させると共に、このサンプル液sを移送する管22の所定の距離離れた2箇所に、1対の電極板Ea,Ebを有する検出部24と25を設け、この検出部24,25の電極板間の静電容量の変化から2箇所の気泡の通過点を検出し、これによってサンプル液sの流速、流量等を検知する。これにより、溶離液k、サンプル液s等の給送タイミングが調整できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体移送装置、特に質量分析計、分光分析計、液体クロマトグラフィー装置等での液体移送に用いられ、管内を移送される液体の流れの状態を検出・測定するための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の血液自動分析やマイクロチップによる免疫・環境分析等の技術は、目覚しい発展を遂げており、また自然環境の悪化を背景にした飲料水の多項目に亘る分析や半導体素子の高機能化を背景にした素子基板の分析等も盛んに行われている。これらの液体の分析技術として、質量分析計、分光分析計、液体クロマトグラフィー装置等が知られており、これらの分析装置においては、流体状の試料(被検体)を吸引ノズルから吸引し、細管中を給送した後に、分析部にて所定の各種分析が行われる。
【0003】
図9には、例えば特願平5−242851号(特許文献1)の従来例の試料導入の構成が示されており、この図に基づいて試料の移送の一例を説明する。図9において、1は溶液試料が収容された試料槽、2は溶液試料を送液するペリスタルティックポンプ、3はアルゴンガス供給源、4はマスフローコントローラ、5は流路開閉弁、6はネブライザ、7はスプレーチャンバー、7aはドレイン排出口、8はプラズマトーチ、9は質量分析計である。即ち、ペリスタルティックポンプ2により一定流速で溶液試料1を吸引移送後、ネブライザ6においてアルゴンガスを利用してスプレーチャンバー7内に溶液試料1を噴霧する構造となっている。
【0004】
ところで、上記のような試料導入の構成においては、ペリスタルティックポンプ2により溶液試料を一定流速で送液できない状態が生じると、試料送液の脈動によってネブライザ6からの噴霧が脈動し、質量分析計9における測定結果が変動してしまうという問題がある。従って、試料溶液の流れを把握することができればよいが、従来装置においては、溶液試料が細管内をどのような状態で移送されているかを検知することができなかった。
【0005】
また、試料の各種分析においては、試料に対し一定の条件(流量、流速)で標準液、溶離液等の他の液体を混合する場合があるが、この場合に試料等の流量、流速が変化すると、他の液体を同一の条件で混合することができなくなり、分析・測定結果に影響を与えるという不都合がある。
【0006】
一方、このような試料等の流体の流速や流量を測定する手段は、数多く提案されているが、感熱式センサや超音波式センサ等のように、その多くは移送する流体中に検出部を露出する構成となっており、このような流体中に検出部を露出する構成を精密な分析装置に採用することは、流体に対するコンタミネーションの問題から好ましくない。また、特に移動経路が細管の場合は、流体中への検出部の設置が困難であり、たとえ設置できたとしても検出部の影響で流体の移送状態が変化してしまうという問題もある。
【0007】
そこで、流体に接触しない形で、移送管の外から流速を測ることができる光学式検出手段や静電容量検出手段を利用することが考えられる。しかし、光学式検出手段を利用する場合は、使用する光の波長を良好に透過する透明管等に限られてしまい、耐薬品性に優れたフッ素樹脂(4フッ化エチレン樹脂)やPEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)等の不透明な管中を流れる流体を計測することができない。
【0008】
また、不透明な管中を移動する混相流の流速等を検出するものとして、特開2004‐333237号公報(特許文献2)に示されるものがある。この従来例は、静電容量検出手段とコンピュータ断層法(CT)を利用して計測するもので、静電容量を計測するための電極を混相流が移動する管の周囲に複数配置してセンサを構成し、このセンサを混相流の移動方向に所定距離離して2個以上配置し、その2個以上のセンサにより各センサに囲まれた空間の静電容量を計測し、その静電容量から誘電率を求め、その誘電率に基づいて各空間の断層画像を再構成し、その両空間の再構成画像を比較して相関性を評価し、相関性が高い再構成画像に基づいて混相流が上記2個以上のセンサ間を移動する移動時間を求め、その移動時間と上記2個以上のセンサの距離とによって混相流の流速を求めるものである。
【特許文献1】特開平5‐242851号公報
【特許文献2】特開2004‐333237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献2の装置においては、被検体の断層の誘電率に基づきコンピュータ断層法(CT)により断層画像を再構成するため、混相流が移動する管の周囲に配置される1個のセンサを構成する電極の数が非常に多くなり、またその配置関係も厳密なものとならざるを得ないため、質量分析計、分光分析計や液体クロマトグラフィー装置等の細管中を移動する流体に適用することは困難である。また、求めた対向電極間の誘電率を基に各空間の断層画像を再構成する演算処理や各空間の再構成画像を比較して相関性を評価する演算も複雑であり、システム構成が複雑になると共に、高性能なコンピュータが必要とされることから高価なものとなる。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高性能なコンピュータによる高度な演算処理を用いることなく、安価かつ簡単な構成で、細管内を移送する流体の流速、流量等、流れの状態を検出することができ、分析・測定等のための各種流体を良好に移送することができる流体移送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、移送(給送)手段(流体吸引・吐出手段)により流体を管内に通して移送する流体移送装置において、上記管内を移送される第1流体に、第1流体とは異なる誘電率を持ちかつ第1流体に対し不溶性となる第2流体を混入する混入手段と、上記管内を移送される第1流体及び第2流体を検出部の1対の電極板間に通過させ、この1対の電極板間の静電容量を検出する静電容量検出手段と、この静電容量検出手段の出力に基づいて第1流体の流れ状態(流速、流量等)を検知するための流体状態検知手段と、を設けたことを特徴とする。
請求項2に係る発明は、上記静電容量検出手段は、1対の電極からなる検出部を上記管の流路方向に所定距離を以って複数箇所配置したことを特徴とする。
請求項3に係る発明は、上記静電容量検出手段は、ループ状に巻いた上記管の重なる2本の管部分を、単一の上記検出部の1対の電極間に配置したことを特徴とする。
請求項4に係る発明は、上記第1流体が液体であるとき、上記第2流体を気体としたことを特徴とする。
請求項5に係る発明は、上記管は、耐薬品性の高い高分子材料からなる内径5mm以下の細管であることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、上記検出部を複数設けた場合は2箇所の検出部の第2流体の通過時間とその検出部間の距離から流体速度を演算し、上記検出部を単一とした場合は第2流体の1回目と2回目の通過時間とループ状管の距離から流体速度を演算し、又は上記流体速度と管路の断面積から流量を演算する演算手段を設けたことを特徴とする。
請求項7に係る発明は、上記複数の検出部を移送流路に沿って移動可能に構成し、各検出部間の相対離間距離を可変にしたことを特徴とする。
請求項8に係る発明は、上記複数の検出部を移動可能に保持する保持体に、各検出部間の相対離間距離、流体の流量又は流速のいずれかを確認できる指標(目盛)を付したことを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、例えば液体である第1流体に対し空気が第2流体として混入され、管内には、単一の気泡が存在する状態の液体が流れることになり、静電容量検出手段の各検出部では静電容量の変化によって気泡の通過点が検出され、この通過点の信号によって第1流体の流れの状態が把握できることになる。例えば、請求項6の演算手段では、この2箇所の検出部の気泡の通過点によって検出部間(2点間)の通過時間(T−T)が演算され、この通過時間と予め分かっている2箇所の検出部間の距離(L)から流速[流体速度V=L/(T−T)]が求められる。また、この流速と管内部の断面積から流量を求めることもでき、更には静電容量の値から管中を流れる液体の種類や混在状態も把握することが可能となる。
【0014】
上記請求項3の構成によれば、単一の検出部を通過する気泡の1回目と2回目の通過点が検出され、1回目と2回目の気泡の通過時間とループ状管の長さによって、上記と同様にして流速、流量を求めることができる。
上記請求項5の構成によれば、管の内径が細くなるので、第1流体と第2流体の界面張力が大きい場合に、管内部で第1流体と第2流体が管径方向に2層になって移動したり、一方の流体が他方の流体中に微粒子状となって混在し、移動したりすることが防止され、検知精度が高められる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の流体移送装置によれば、高性能なコンピュータによる高度な演算処理を用いることなく、一対の電極板を持つ検出部を備えるという安価かつ簡単な構成で、細管内を移送する流体の流速、流量等、流れの状態を検出することができ、分析・測定等のための各種流体を良好に移送することができる。また、内部を流れる流体の流動様式に影響を与えることなく、誘電体からなる管が不透明であっても、管の外部から流体の流速、流量、そして種類、混在状態等を検出・把握することが可能となる。
上記請求項4の構成によれば、液体に気体を混入させるので、第1流体の誘電率と第2流体の誘電率の差を大きくして検知精度を格段に向上できると共に、第1流体と第2流体の相互不溶性を確実なものにできる。また、第2流体としてアルゴンやクリプトン等の不活性気体を使用し、更に第1流体である液体に影響を与えない場合には窒素ガスや空気のような極めて安価な気体を使用することができるため、準備作業の簡素化や計測コストの低減を図ることができる。
【0016】
上記請求項5の構成によれば、第1流体と第2流体が混ざった複合移動流体中へ移送管の材料が溶出するのを防止できると共に、この管の内径を細くすることで、界面張力が大きい第1流体と第2流体が管径方向に2層となったり、一方の流体が他方の流体中に微粒子状となって混在したりすることがなく、検知精度を高めることが可能となる。また、第1流体、第2流体の多様化への対応が可能となる。
上記請求項7及び8の構成によれば、各検出部間の相対離間距離を変えることにより、検出精度を高めることができ(距離を長くすれば検出精度が高まる)、また第2流体を混入するタイミングを第1流体の移送の1単位(分析、測定のための1単位)の流量や流速に合わせることにより、流体の流れ(移送)状態が把握し易くなる等の利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1には、実施例に係る流体移送装置の構成が示されており、この実施例は高速液体クロマ卜グラフィ(HPLC)の給液部に適用したものである。図1において、11は図示しない駆動部を備えたシリンジポンプ部であり、12は吸引・吐出の切換バルブ、13はHPLC分析の際に給送される溶離液kの供給槽、14はシリンジポンプ部11の吐出圧力を計測する圧力センサ、15はドレインバルブ、16は回収槽、17はオートインジェクターを有するインジェクションバルブ部である。上記シリンジポンプ部11は、HPLC分析の際に流される溶離液kを切換バルブ12を経由して吸引した後、この溶離液kを、吐出側に切り換えた切換バルブ12とインジェクションバルブ部17を経由させて分析用カラムへ向けて圧送する。
【0018】
一方、19は第1流体としてのサンプル液sを収容する容器、20は吸引/吐出切換バルブを有しサンプル液sを所定量だけ吸引して圧送(吐き出す)シリンジポンプ部、21はシリンジポンプ部20に取り付けられ、1つ又は複数の容器19からサンプル液sを吸引するために上記シリンジ又は吸引ノズルを上下動させる上下駆動部であり、このシリンジポンプ部20と上下駆動部21はオートサンプラー等として配置される。上記シリンジポンプ部20は、容器19から吸引したサンプル液sを圧送してインジェクションバルブ部17に備えたオートインジェクターに給送する。このオートインジェクターでは、上記サンプル液sを内部に一定量蓄えた後、そこに装備された圧入手段で溶離液k中に注入・混合しており、このサンプル液sは溶離液kと共に分析用のカラムに向け圧送される。
【0019】
そして、実施例では、上記サンプル液sの流量等、流れの状態を検知するために、上記シリンジポンプ部20からインジェクションバルブ部17(に備えたオートインジェクター)までの間の管(又は管状体)22において、その流路方向に沿った2箇所に検出部24,25を設けると共に、これらの検出部24,25からの出力信号に基づいて静電容量を検出すると共にサンプル液sの流れの状態を検出・演算する検出・演算処理部26を設けている。即ち、上記管22としては、給送するサンプル液中への管22の材料の溶出を防止しかつHPLC分析の精度を上げる目的で、フッ素樹脂(4フッ化エチレン樹脂)或いはPEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)等の耐薬品性に優れた高分子材料で形成された管が用いられ、またサンプル液sの流速等を精度よく検知するために、内径が0.13mmとなる細管が使用される。
【0020】
図2には、図1の管22と2つの検出部24,25を拡大したものが示されており、シリンジポンプ部20とインジェクションバルブ部17のオートインジェクターを結び、サンプル液sを移送する管22には、例えば流路方向へ距離40cm離して、2組の検出部24,25が配置される。この検出部24,25は、それぞれ一対の電極板Ea,Ebを備え、これらの一対の電極板Ea,Ebで管22を挟持する構成となっており、それぞれの一対の電極板間の静電容量が検出される。
【0021】
この2組の検出部24,25に対しては、上記図1の検出・演算処理部26から静電容量検出用の電源を供給しており、これによって検出・演算処理部26は電極板Ea,Eb間の静電容量を検出すると共に、その検出データに基づいて流体速度等の流体の状態を判断する結果を得る。この検出・演算処理部26は、制御部28によって制御される。
【0022】
また、上記制御部28は上述した上下駆動部21を駆動制御することにより、図1に示されるように、シリンジポンプ部20のシリンジを上下動させてサンプル液sを吸引する際に、第2流体としての空気を吸引し、この空気をサンプル液sに混入する制御を行う。即ち、シリンジポンプ部20でサンプル液sを移送する際に、制御部28から上下駆動部21に信号を送り、容器19内のサンプル液s中に浸漬したシリンジポンプ部20のシリンジ吸引ノズルを一定時間だけ空気中に引き上げ、この状態で空気を吸引し、シリンジポンプ部20のシリンジ上部に気泡を生じさせる。その後、サンプル液sを所定量吸引し、シリンジポンプ部20の切換バルブを吐出側へ切り換えてシリンジ中に蓄積されたサンプル液sと空気を吐き出すことにより、図2のように管22中を移動するサンプル液s中に単一の気泡gを混入させる。この結果、誘電率の異なる2つの流体からなる複合移動流体が形成されるが、この気泡gの空気量は、図2に示されるように、シリンジポンプ部20による圧送下で管22の内壁に周接する球状気泡gを最小の量とし、これ以上の空気量とする。
【0023】
更に、実施例の管22は、0.13mmとしているが、上記気泡gを良好に形成するための管22として、5mm程度の内径のものを選択すればよい。即ち、液体と気体からなる複合移動流体においては、気体と液体の界面に表面張力が働き、内径が5mm程度までの細管においては、界面の曲率半径も小さくなるため表面張力の影響が液体にかかる重力等の影響に比べて非常に顕著となり、細管中の気泡gは安定したスラグ流の流動様式をとることができる。
【0024】
このようにして、管22内を給送されるサンプル液sと気泡gは、移送方向2箇所の検出部24,25を通過することにより、それぞれの検出部24.25に配置された一対の電極板Ea、Ebによってサンプル液sと気泡gの通過時の静電容量が検出される。即ち、一対の電極板間の静電容量は、誘電体である管22の誘電率及びその中を移動するサンプル液sと気泡gの誘電率、一対の電極板Ea,Ebの対向面積並びに電極板間距離との関係で決定されるので、実施例のように検出部24,25と管22の関係を固定した場合には、検出部24,25で検出される静電容量の変化は、管22の内部を移動するサンプル液s及び気泡gの誘電率の変化に応じたものとなる。
【0025】
図3には、検出部24,25を用いて検出した静電容量の変化が示されており、所定距離離れた2箇所の検出部24,25からは、この図3のように、時間T(検出部24での変化)と時間T(検出部25での変化)に、気泡gに起因する静電容量の変化の信号101,102が現れるので、この信号101,102を利用してサンプル液sの流れの状態を把握することができる。即ち、微分回路を使った立ち上がり検出やピーク検出手法等を利用して、信号101,102が現れる時間T,Tを検出し、例えば流速Vを求める場合は、気泡gが時間差T−Tにおいて検出部24,25の2点間の距離Lを移動するので、V=L/(T−T)の演算が行われる。また、流量Mを求める場合は、管22の内径をDとするとその断面積Saに流速Vを乗じたものとなるので、M=Sa×V=π・D・L/4(T−T)の演算処理が行われることになる。
【0026】
また、上記の流量、流速を演算することなく、流れの状態を把握することもできる。図3において、流体移送が設定通りであれば、Tの時間(タイミング)で信号102が出現するが、点線のように、Tよりも手前のTに信号102a(検出部25)が検出された場合は、設定の流速よりも速くなっていることが検知・把握できる。従って、この場合は、信号102と信号102aの時間差に対応して例えば検出流体の速度を低下させる等の調整を行えばよいことになる。
【0027】
更に、図3において、気泡gによる静電容量の変化のピークを基準としてサンプル液sでの静電容量を考えると、サンプル液sの種類が変わり誘電率が変化した場合、気泡gによる静電容量の変化のピークは変化せずに、サンプル液sによる静電容量、即ち図3のバックグラウンドレベルBのみがCa,Cb,Ccのように変化する。従って、誘電率の異なる複数のサンプル液sを順次給送する場合に、事前にサンプル液sの種類毎の静電容量リスト(Ca〜Cz)を作成しておけば、管22の内部を移送されるサンプル液sの種類を判別することができる。このことは、シリンジポンプ部20がオートサンプラーとして複数容器19中のサンプル液sを順次給送する場合に、複数容器の配列ミスを発見できることになるので、誤った分析結果を出すことを防止できる。
【0028】
図4(A),(B)には、上記2組の検出部24,25を移動可能にすると共に移動のための目盛を付した静電容量検出手段の第2例が示されており、この第2例では、管22に沿うように近接配置され、距離目盛[0,5,10…(cm)]を付した円柱状支持棒(体)30と、この支持棒30上を移動する移動(ブロック)体31を設けている。この移動体31は、図4(B)のように、検出部24,25を構成する1対の電極板Ea,Ebと、割溝31A及び上記支持棒30を案内する摺動孔31Bが設けられており、支持棒30上の任意の位置で固定ネジ32によって固定できるようになっている。
【0029】
この図4の構成によれば、管22の流路に沿って移動体31が支持棒30上を摺動可能となるので、例えば一方の検出部24の移動体31を支持棒30の0cmの基準位置に配置し、他方の検出部25の移動体31を支持棒30の30cmの位置に配置するというようにして、検出部24と25の離間距離を任意に配置することができる。この検出部24,25の離間距離は、それが長い程、検出精度が高まることになるので、分析目的等に応じて検出精度を任意に設定することが可能となる。
【0030】
また、図4においては、距離目盛の代わりに、流体の流量[0,5,10,15,20…(ml)]、又は流速[0,5,10,15,20…(ml/秒)]のいずれかの目盛(指標)を支持棒30に付してもよい。即ち、気泡(第2流体)gを混入するタイミングをサンプル液(第1流体)sの移送の1単位(分析、測定のための1単位)の流量(移送量)や流速(移送速度)に合せることにより、速度や流量を検出することなく、画面上でサンプル液sの流れの状態を把握したり、静電容量の変化の検出信号に基づいてサンプル液の流量、流速或いはこのサンプル液に混合する他の液体の流量、流速、混合のタイミング等を制御したりすることが可能になる。
【0031】
図5には、分析装置等の表示部における静電容量検出信号の他の表示状態が示されており、表示部には、例えば横軸に、検出部24,25の位置に対応させて上記支持棒30の流量(又は流速)目盛に合せた、v,v,v…の流量(又は流速、以下同様とする)、縦軸に静電容量値(変化)を表示する。ここで、例えばサンプル液sの移送の1単位の流量がvの設定で、検出部24と25の間隔を図4のように目盛0と目盛vに合せた場合を考えると、設定通りに動作しているときは、静電容量変化の信号201(検出部24)と202(検出部25)は時刻tに同時に現れるが、例えば信号201が現れたとき信号202が鎖線のように現れず、時刻tより少し遅れた時刻tに現れた場合は、流量が設定よりも少ない状態になっていることが把握される。従って、この場合は、混合する溶離液kの流量を低下させるか、又はサンプル液aの流量を高めて設定通りにするように調整し、サンプル液aに対する溶離液kの混合状態を一定の条件に維持することができる。
【0032】
なお、図4の上記検出部24,25は、管22を電極Ea,Ebにて挟持する形で直接移動可能に取り付けられるようにすることができ、この場合は、上記支持棒30に代えて目盛を付した可撓性のあるテープ状又は紐状の指標部材を取り付けてもよく、また管22に支持棒の役目をさせ、この管22自体の外周に指標(目盛)を付すことにより、コンパクトな装置としてもよい。
【0033】
図6には、2組の検出部24,25を移動可能にすると共に移動のための目盛を付した静電容量検出手段の第3例が示されており、この第3例は、目盛34を付した可撓性のあるシース(合成樹脂製)35を、管22の外周に配置し、このシース35を電極Ea,Ebで挟むような構成としたものである。即ち、検出部24,25で管22を直接挟み込むのではなく、管状体であるシース35を電極間に挟み込んでおき、その内部に管22を挿入する。
【0034】
図7(A),(B)には、単一の検出部で構成した静電容量検出手段の第4例が示されており、この第4例では、管22をループ状(環状)に巻き、その管22の重なる部分を1個の検出部37に配置する。即ち、図7(B)のように、検出部37の一対の電極Ea,Ebの間に、ループ状にした管22の重なる2本を縦に並べて通し、この管22の上下にその外径と略同一の厚みのスペーサー38を配置した上で、4本の固定ネジ39を電極板Ea,Ebの四隅に取り付けることにより、この電極板Ea,Eb間に2本の管22とスペーサー38を固定する。そして、この管22のループの長さは、上述した2個の検出部24,25間の長さに設定される。この管22のループの長さを設定、確認するために、上記の管22に対しては、その外周に直接、図4で説明した距離目盛を付してもよいし、また図6のような目盛34を付した合成樹脂製の可撓性シース35を管22の外周に取り付けるようにしてもよい。
【0035】
また、図7(C)の検出部40のように、一対の電極板Ea,Ebの間に、重なる2本の管22を横に並べて通し、その上下に2本の管22の外径と略同一の厚みのスペーサー41を配置し、4本の固定ネジ42を取り付ける構成にすることもできる。しかし、静電容量の検出においては、電極板間の距離に逆比例して感度が下がることから、図7のように管22を縦に配置した方が検出精度は高くなる。
【0036】
図8(A),(B)には、上記第4例における検出部の他の構成例が示されており、この検出部44のように、縦方向に並べた2本の管22の外形(外側面)に合せた形状を持つ板状部材である2枚の管固定具45を電極Ea,Ebの管路方向の両端に配置し、かつ軸46にて回動可能に支持部に取り付け、この管固定具45で2本の管22を挟み込んで固定する構成とすることもできる。この検出部44によれば、スペーサーが不要であり、電極板Ec,Ed間には2本の管22のみとなるため、静電容量を検出する際の移送液体のベースレベルと気泡gのピークレベルのS/N比を向上させることができる。
【0037】
このような第4の構成例によれば、検出部37,40,44を1個とすることができ、簡素化を図った安価な流れ検出のシステムが得られる利点がある。
【0038】
更に、図1で説明したサンプル液sへの気泡gの混入は、シリンジポンプ部20と上下駆動部21を有するオートサンプラーの吸引部の昇降動作に同期することができる。即ち、オートサンプラーは、所定量のサンプル液sを予め設定された順序で複数の容器19から移送(吸引・圧送)しており、このオートサンプラーで次のサンプル液sの移送に移る際で、吸引ノズルを上げたときに空気を吸い込むようにして気泡gを混入させる。これによれば、第1流体であるサンプル液sの1単位の移送の途中で第2流体である気泡gを混入する必要もなく、気泡gの混入が効率よく行われる。
【0039】
上記実施例では、本発明を高速液体クロマ卜グラフィ(HPLC)の給液部に適用したものを説明したが、本発明は質量分析装置や分光分析装置等の分析装置で、サンプル液に標準溶液を混合して移送する場合の給液部等、各種液体を移送するためのその他の装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例に係り、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置の給液部に適用した流体移送装置の構成を示す図である。
【図2】図1の流体移送装置の移送管に静電容量検出手段の検出部を取り付けた部分の拡大図である。
【図3】実施例の静電容量検出手段の2組の検出部を用いて得られた静電容量の変化の信号を示す図である。
【図4】実施例における2組の検出部を移動可能にすると共にその移動のための目盛を付した静電容量検出手段の第2例の構成を示し、図(A)は正面図、図(B)は側面図である。
【図5】図4の静電容量検出手段の第2例を用いたときの表示部における流量と静電容量の変化の信号との関係を示す図である。
【図6】実施例における2組の検出部を移動可能にすると共にその移動のための目盛を付した静電容量検出手段の第3例の構成例を示し、図(A)は正面図、図(B)は側面図である。
【図7】実施例において1組の検出部を設ける静電容量検出手段の第4例の構成を示し、図(A)は正面図、図(B)は拡大側面図、図(C)は他の構成例の拡大側面図である。
【図8】図7の静電容量検出手段の第4例を用いる場合の検出部の他の構成例を示す拡大側面図である。
【図9】従来装置の試料導入のための構成を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
11,20…シリンジポンプ部、 12…切換バルブ、
17…インジェクションバルブ部、 22…管、
24,25,37,40,44…検出部(静電容量検出手段)、
21…上下駆動部、 26…検出・演算処理部、
28…制御部、 Ea,Eb…電極板、
k…溶離液、 s…サンプル液、
g…気泡(空気)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移送手段により流体を管内に通して移送する流体移送装置において、
上記管内を移送される第1流体に、第1流体とは異なる誘電率を持ちかつ第1流体に対し不溶性となる第2流体を混入する混入手段と、
上記管内を移送される第1流体及び第2流体を検出部の1対の電極板間に通過させ、この1対の電極板間の静電容量を検出する静電容量検出手段と、
この静電容量検出手段の出力に基づいて第1流体の流れ状態を検知するための流体状態検知手段と、を設けたことを特徴とする流体移送装置。
【請求項2】
上記静電容量検出手段は、1対の電極からなる検出部を上記管の流路方向に所定距離を以って複数箇所配置したことを特徴とする請求項1記載の流体移送装置。
【請求項3】
上記静電容量検出手段は、ループ状に巻いた上記管の重なる2本の管部分を、単一の上記検出部の1対の電極間に配置したことを特徴とする請求項1記載の流体移送装置。
【請求項4】
上記第1流体が液体であるとき、上記第2流体を気体としたことを特徴とする請求項1乃至3記載の流体移送装置。
【請求項5】
上記管は、耐薬品性の高い高分子材料からなる内径5mm以下の細管であることを特徴とする請求項1乃至4記載の流体移送装置。
【請求項6】
上記流体状態検知手段として、上記検出部を複数設けた場合は2箇所の検出部の第2流体の通過時間とその検出部間の距離から流体速度を演算し、上記検出部を単一とした場合は第2流体の1回目と2回目の通過時間とループ状管の距離から流体速度を演算し、又は上記流体速度と管路の断面積から流量を演算する演算手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至5記載の流体移送装置。
【請求項7】
上記複数の検出部を移送流路に沿って移動可能に構成し、各検出部間の相対離間距離を可変にしたことを特徴とする請求項1乃至6記載の流体移送装置。
【請求項8】
上記複数の検出部を移動可能に保持する保持体に、各検出部間の相対離間距離、流体の流量又は流速のいずれかを確認できる指標を付したことを特徴とする請求項1乃至7記載の流体移送装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−64759(P2007−64759A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249904(P2005−249904)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(592204347)ホーユーテック株式会社 (4)
【出願人】(505322131)株式会社 イアス (10)
【Fターム(参考)】